避難行動予測システムおよび避難行動予測方法
【課題】 災害発生時に街区レベルでの複数建物間の避難行動を予測して表現できる構成の避難行動予測システムおよび避難行動予測方法の実現を図る。
【解決手段】データ入力部7は、「津波シナリオ・データ」2、「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6を入力する。制御部10は、「時間データ格納部」11、「津波データ格納部」12、「空間データ格納部」13、「人間データ格納部」14、「避難者行動位置算出部」15、「画像表示部」16から構成されている。「避難者行動位置算出部」15は、前記「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6から、ある避難者の次の時間ステップ後の位置を算出し、データ出力部17に出力データ18、データファイル19を出力する。
【解決手段】データ入力部7は、「津波シナリオ・データ」2、「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6を入力する。制御部10は、「時間データ格納部」11、「津波データ格納部」12、「空間データ格納部」13、「人間データ格納部」14、「避難者行動位置算出部」15、「画像表示部」16から構成されている。「避難者行動位置算出部」15は、前記「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6から、ある避難者の次の時間ステップ後の位置を算出し、データ出力部17に出力データ18、データファイル19を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害発生時に街区レベルでの複数建物間の避難行動を予測する
避難行動予測システムおよび避難行動予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸地域に立地する企業等では、地震後に津波が発生すると、津波が襲来するまでの時間が早いため、短い時間内に如何に効果的に安全な場所まで避難を行うかが重要となる。自治体を中心とした広域な地域レベルでの避難は、津波襲来までの時間が短いため、避難安全上あまり効果は高くなく、街区レベルでの建物を利用した避難が有効となる場合が多いと予想される。
【0003】
津波発生時に安全に避難を行うかどうか検討を行う上で、津波発生時の避難行動を予測することは,有効な手段のひとつである。このような津波に対する避難行動の予測手法は、例えば非特許文献1で提案されている。非特許文献1で提案されている手法は、自治体レベルの広域な地域レベルの避難行動を主な対象としている。
【0004】
【非特許文献1】藤岡正樹、石橋健一、梶秀樹、塚越功、「津波避難対策のマルチエージェントモデルによる評価」日本建築学会計画系論文集、第562号,pp.231-236,2002.12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された従来の避難行動予測手法では、避難行動の予測を行う場合、地域内の道路網をモデル化して、避難者が避難の目的地まで道路を移動することに主眼が置かれている。対象地域内の個々の建物の形態や配置、避難者数の分布等の詳細な条件は考慮されていない。このため、建物内の行動を含めた街区レベルでの詳細な検討は行うことができない、という問題があった。
【0006】
津波発生時の街区レベルでの避難行動では、例えば、ひとつの敷地内で複数の建物から構成される沿岸地域の工場などでは、複数の建物から敷地内の特定の高層建物を目標として避難を行うこと等が予想される。このように、一旦屋外に避難した後で、街路を経由して別の特定の建物に対する避難行動を予測することは困難であった。
【0007】
避難行動予測手法を用いて、津波に対する安全性の評価を行う場合には、津波が遡上する範囲や水深の時刻歴の変化を予測し、その計算結果を避難行動予測の結果と比較して、被害者の発生の有無を検討することになる。例えば非特許文献1に記載されている従来の予測手法では、対象とする地点の海抜に応じて、津波が遡上する範囲や水深の時刻歴の変化を予測している。街区レベルでの避難行動を予測する場合、避難者が津波襲来時にいる階高と津波の遡上高さによって、在館者が津波の影響を直接受けるかどうかが異なる。
【0008】
従来の津波に対する避難行動予測手法では、地盤面の高低差は考慮されている反面、建物の高さの違いは考慮されていないため、建物の階数の違いが避難安全性に与える影響は考慮できなかった。このため、津波襲来時の避難場所を確保する対策として、緊急避難用の津波避難ビルを敷地内に設置する場合に、避難行動予測手法を用いてその効果を評価するのは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであって、災害発生時に街区レベルでの複数建物間の避難行動を予測する、避難行動予測システムおよび避難行動予測方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の避難行動予測システムは、震源位置などの津波シナリオ・データ、前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データ、および空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データ、空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データ、特定化された避難者個人のパラメータである人間データ、の各データを入力する入力手段と、前記入力手段で入力された各データを格納・演算・更新する記憶手段と、前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する制御手段と、前記制御手段で算出された避難者の位置に関する情報を出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記最終避難場所は、当該建物の任意の場所に設定したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記最終避難場所を複数個所に設定し、前記各建物内に存在している前記避難者を、前記複数の最終避難場所に分散して避難させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記津波データによる津波遡上高さの解析結果と、前記各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記空間データは、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の避難行動を予測することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記最終避難場所を前記避難者が避難する長期移動目標に設定し、前記避難者が存在している前記各建物には、それぞれ短期移動目標が設定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第1の実施形態にかかる避難行動予測方法は、ある空間に存在する避難者の避難行動予測方法であって、
(1)前記空間に関連する空間データを読み込む段階と、
(2)前記空間に関連する津波データを読み込む段階と、
(3)前記空間に関連する前記避難者である人間データを読み込む段階と、
(4)前記避難者の移動に伴い位置座標を更新する段階と、
(5)前記移動後の位置座標に対応する前記人間データを更新する段階と、
(6)前記移動後の位置座標に対応する前記空間データを更新する段階と、
(7)時間ステップを更新する段階と、
からなることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の実施形態にかかる避難行動予測方法は、震源位置などの津波シナリオ・データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データを入力する段階と、
空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データを入力する段階と、
特定化された避難者個人のパラメータである人間データを入力する段階と、
前記時間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記津波データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記空間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記人間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する段階と、
前記算出された避難者の位置に関する情報を出力する段階と、
からなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第2の実施形態にかかる避難行動予測方法は、前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と前記最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されており、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第2の実施形態にかかる避難行動予測方法は、前記津波データは、津波遡上高さの解析結果を含み、前記空間データに含まれる各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定して、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、次のような特有の効果が得られる。(1)対象とする建物の立地や施設配置、及び従業員の施設内の配置の建物固有の条件に応じた避難計画を検討することができる。(2)防波堤や避難施設等の建物や街区単位でのハード面の防災対策が、津波に対する避難安全性に与える効果を比較・検討することができる。(3)最終避難場所の設定や避難誘導計画等のソフト面の対防災対策が、津波に対する避難安全性に与える効果を比較、検討することができる。(4)街区レベルでの建物内の室と建物間をつなぐ街路を個別にモデル化することで、津波に伴う複数建物の間の避難行動を予測することができる。(5)津波遡上高さの解析結果と建物各階の高さとの関係に基づき、津波遡上の影響を受ける階を特定して、各階毎の被害者の発生状況を予測することができる。(6)什器などの障害物の耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に什器転倒で利用できなくなる避難経路を特定して、避難行動の予測結果に反映できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
最初に、本発明の前提技術である、避難シミュレーションモデルの例について説明する。避難シミュレーションモデルは、空間、人間、津波伝播・遡上の3つの要素の相互作用問題を取り扱う。このため、避難シミュレーションモデルでは、これらの3つの要素が要素間の関係を考慮して適切に表現され、各要素が避難行動に与える影響を評価できることが重要となる。この避難シミュレーションモデルは、本発明においては、オブジェクト指向型の計算方法に基づいて構築されている。
【0023】
最初に、オブジェクト指向による3要素のモデル化について説明する。オブジェクト指向は、コンピュータを利用して、問題解決を行なうシステム(あるいはモデル)を構築する際の1つの方法論である。オブジェクト指向では、取り扱う問題を解決するためのいくつかのオブジェクトを見い出して、オブジェクト間の関係をネットワーク構造として捉え、問題解決を行なう。
【0024】
オブジェクト指向における基本単位であるオブジェクトは、自分の状態を示すデータと自分の振る舞い方に関する仕様(method)で定義される。そして、問題解決過程では、オブジェクト間でメッセージを送信(message sending)し、自分に送られてきたメッセージに対応する仕様を起動して、自分の状態を変化させたり、送り先の必要とするデータを提供したりすることが行なわれる。
【0025】
空間のモデル化に関しては、部屋(工場)を基本単位として、人間が空間内を自由に動けることを前提としたモデル化を行なった。津波伝播・遡上に関しては、津波伝播・遡上シミュレーションモデルの結果を避難シミュレーションの入力条件として取り扱えるように、モデル化した。
【0026】
オブジェクト指向に基づいて避難シミュレーションモデルを開発する理由は、空間、人間、津波伝播・遡上の3要素の関係を適切に考慮して、それぞれ独立のオブジェクトとして捉えてモデル化できることにある。このことによって、各モデル単位で段階を追って開発を進めることが可能になり、アルゴリズムを重要視したモデルの開発形態と比較して、その開発段階で利点を生む。また、モデルの修正・改良もオブジェクト単位に行なえ、モデル全体としての拡張性を高めることができる。
【0027】
次に、オブジェクト指向による人間個人のモデル化について説明する。本モデルでは、人間個人を避難行動上の特性として重要と考えられる歩行速度、避難行動開始時間および避難行動上の占有面積等をデータとして有するオブジェクトとし、それらのデータを個別に設定できるようにした。
【0028】
この人間オブジェクトは、避難行動に対する基本的な振る舞い方は同じでも、自分に定義されているデータと、他のオブジェクトから提供されたデータに基づいて独立に振る舞うことが可能である。具体的には、人間オブジェクトが津波伝播・遡上の影響等による状況変化の内容を空間から得られるようにし、その状況に応じて独立に避難経路を選択させることを可能にした。人間オブジェクトの避難方向の決定は、当初、周辺の状況に関するデータを入手して避難上の移動目標を決定し、その移動目標からは引力を、障害物からは斥力を受け、それらの力のベクトルを合成して決定することにした。
【0029】
本発明のモデルの特徴、および概要の基礎となる概念について、図19の説明図により説明する。本避難シミュレーションモデル30は、基本的には図19の説明図で示すように、大きく3つのモデルから構成されている。空間モデル31は建築物(実施形態では工場)内部の人間の移動できる空間のモデル化を担っており、人間モデル32は避難行動を行なう人間のモデル化を担っている。
【0030】
この2つのモデルは、本モデルの根幹を成すモデルであり、シミュレータ35が両モデルを管理している。津波伝播・遡上シュミレーションモデル33で設定される津波モデル34は、津波到達後の建物内の津波伝播・遡上条件をシミュレータにより空間モデル31に人力する役割を担っている。なお、ここで示した各モデルは、基本的に複数のオブジェクトから構成されている。
【0031】
空間モデル31は、人間が移動できる空間のモデル化を取り扱っている。このモデルでは、建築物は複数の階層の集合体、階層は複数の部屋の集合体として定義した。ここで、階層と階層の連結情報は階段等に、部屋と部屋の連結情報はドア(扉)に管理させる。なお、後述するように、本発明の実施形態は、敷地内に多数の工場などを有する施設を対象としている。このため、各工場をつなぐ街路で街区を構成するものとして、空間モデルを取り扱う。
【0032】
モデルの最小単位である部屋をモデル化した部屋オブジェクトは、避難軌跡を現実に近い形で捉えることを目的として、図4の説明図に示すように複数の壁に囲まれた幾何学上の意味での閉空間として定義した。すなわち、図4において、部屋40、廊下41、42からなる空間は、モデル化すると、部屋40は4つの線分(壁)43a〜43dで囲まれる。廊下41、42は、ドア44a〜44d、と壁43a〜43dで区画されている。
【0033】
人間オブジェクトは、部屋オブジェクトから壁の情報の他に、避難上で移動目標となる出口、ドアおよび誘導表示の情報と、避難に対して障害になる、その部屋にいる他の人間や什器などの障害物の情報が取り出せる。そして、人間オブジェクトはそれらの情報に基づいて、部屋内を比較的自由に動くことができる。
【0034】
次に、人間モデル32について説明する。本避難シミュレーションモデルでは、建築物内にいる人間の避難行動上の特性の違いの観点から、自力避難が可能な人間(自力避難者クラス)、自力避難が不可能な人間(要介助者クラス)、および施設管理者や消防隊を対象とした、自力避難が不可能な人間を介助(あるいは救助)する人間(介助者クラス)の3つのタイプの人間を定義した。ここで、クラス(class)とはオブジェクトの「型」定義に相当する。
【0035】
次に、前記移動目標の決定に関して説明する。自力避難者および介助者クラスのオブジェクトは、あらかじめ設定されている長期移動目標を満足するために、短期移動目標を選択しながら避難行動を行なう。長期移動目標、および短期移動目標それぞれの移動目標の意味は、(a)長期移動目標は、最終的に避難(移動)したい場所である。(b)短期移動目標は、長期移動目標を満足するために当面到達(通過)したい場所である。つまり、短期移動目標を選択しながら、到達した場所が長期移動月標と一致するまで避難行動が行なわれる。
【0036】
避難者オブジェクトの長期移動目標としては、「避難場所」が設定されている。そして、短期移動目標としてはドアが選択される。本モデルでは、人間に避難行動をとらせる上での全体的な避難シナリオに基づいて、当該建築物(工場)とは異なる他の建物(事務棟)内の部屋等の任意の場所を最終的な避難場所として設定し、そこを「避難場所」と表し、「避難場所」に通じるドアを「出口」と表す。
【0037】
図5は、自力避難者の短期移動目標の選択ルールを示す説明図である。部屋40aには自力避難者50a、部屋40bには自力避難者50b、廊下41には自力避難者50cが存在しているものとする。(1)自分のいる空間に出口がある場合は、出口の中で自分から最も近い距離にある出口を選択する。この例では、自力避難者50cは出口46を選択する。
【0038】
(2)自分のいる空間に誘導灯がある場合は、誘導灯の中で自分から最も近い距離にある誘導灯の示す方向にあるドアを選択する。この例では、自力避難者50aは、誘導灯45の示す方向にあるドア44gを選択する。(3)その他の場合には、自分のいる部屋にあるドアの中で、自分から最も近い距離にあるドアを選択する。この例では、自力避難者50bは、自分のいる部屋40bにあるドアの中で自分から最も近い距離にあるドア44hを選択する。なお、これらのルールを適用する優先順位は、前記(1)〜(3)の順である。
【0039】
次に、避難者の移動方向および移動位置の決定に関して図6により説明する。図6は、避難者50eの移動方向および位置決定の概念図である。自力避難者および介助者オブジェクトにおいて、短期移動目標が決定された後の移動方向は、図6に示すように、人間に心理的に作用することを想定した複数の力のベクトルを仮定し、それらのベクトルを合成する形で決定している。Rは単位ステップあたりの歩行速度で到達する範囲を示しており、Rxは、次のステップでの移動位置の起点を示している。
【0040】
人間に作用する力としては、移動目標(ドアや誘導灯)からは引力を、避難行動上の障害物(壁、他の人間および什器)からは斥力を仮定した。図6の例では、避難者50eに対してドア44からは引力F(r4)が作用する。また、壁からは斥力F(r1)、F(r2)が作用し、他の避難者50fからは斥力F(r3)が作用する。これらの力は、一般的に各対象物からの距離に反比例してその大きさが決定される。また、移動してきた方向に対する一定の大きさの慣性力を考慮した。慣性力を考慮した理由は、人間の動きを現実に近い滑らかな動きとして捉えることを考えたからである。
【0041】
そして、これらの力のベクトルを合成したベクトルΣFの方向と、あらかじめ各オブジェクトに設定されている歩行速度に基づいて、そのシミュレーションステップにおける次の移動位置の起点Rxを決定している。この時に、斥力に比べ引力を比較的大きな値となるように設定しているため、引力と斥力が釣り合ってしまう状況はほとんど起こらないが、釣り合ってしまった場合は移動しないことを仮定している。
【0042】
図7は、本発明の実施形態を示す説明図であり、図7(a)は、群集密度を考慮した避難者の歩行速度の例を示す説明図である。不特定多数の人々の避難行動では、歩行空間の群集密度が歩行速度に影響を及ぼすことが考えられる。本モデルでは、水平歩行速度は群集密度に反比例させた。
【0043】
群集密度の算定では、対象とする避難者個人50gの周囲の密度が影響すると考え、図7(a)に示すように各避難者の進行方向に対して、半径3mの半円中に存在する他の避難者(50jのように黒丸で示す)は歩行速度に影響を及ぼすものとして考慮した。半径3mの半円外の避難者(50hのように白丸で示す)は、歩行速度への影響を考慮されない。
【0044】
図7(b)は階段での歩行速度の説明図である。階段での歩行速度は、空間のモデル化との関係を考慮して、階段での水平分歩行速度で代表させた。水平歩行速度に対する低減係数として、実測値を参考に0.8を採用した。図7(b)において、実線が水平歩行速度(上限を1.0m/secとする)、破線が階段室内水平分歩行速度である。
【0045】
図1は、本発明の実施形態である避難行動予測システムの例を示すブロック図である。図1において、避難行動予測システム1は、データ入力部7、制御部10、データ出力部17で構成される。データ入力部7は、「津波シナリオ・データ」2、「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6をそれぞれ入力する。「津波シナリオ・データ」2は、震源位置、地震規模などのデータを入力する。
【0046】
「時間データ」3は、前記「津波シナリオ・データ」2に基づいて、津波発生時間、最大計算時間、時刻ステップ間隔、誘導表示作動時間(誘導表示ID、時間)などを設定する。「津波データ」4は、前記「津波シナリオ・データ」2に基づいて、津波伝播・遡上予測手法(外部プログラム)Xを利用することで計算される。そのデータの内容は、津波伝播時間、避難限界時間(室別)、津波水深(時刻歴・地点別)、流速(時刻歴・地点別)などである。
【0047】
「空間データ」5は、空間とそれに付随する設備や開口部の寸法、位置関係、属性、状態などに関するパラメータである。具体的には、階数、階高、室ID、室の空間属性(種類)、室の階数、室の座標(3次元)、開口部の数(数、ID)、扉の数(数、ID)、障害物の数(数、ID)、誘導表示の数(数、ID)、開口部ID、開口部のある室ID、開口部の座標(3次元)、扉ID、空間の接続関係、障害物ID、障害物の座標(3次元)、障害物のある室ID、誘導表示ID、誘導表示のある室ID、誘導表示の種類などである。
【0048】
「人間データ」6には、避難者1人1人を特定化したパラメータを設定する。具体的には、避難者ID、避難者のタイプ(種類)、歩行速度基本値、初期配置される室(室ID)、長期移動目標(室ID)などに関するデータを入力する。
【0049】
制御部10は、「時間データ格納部」11、「津波データ格納部」12、「空間データ格納部」13、「人間データ格納部」16、「避難者行動位置算出部」15、「画像表示部」16から構成されている。「時間データ格納部」11は、前記「時間データ」3で入力された、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータを格納・更新する。
【0050】
「津波データ格納部」12は、前記「津波データ」4で入力された、避難行動の障害に関するパラメータを格納・更新する。「津波データ格納部」12では、街区内の各地点での浸水深さと流れの速さの時間推移をデータとして保管し、各地点で津波の遡上が避難行動に与える影響をモデル化する。「避難者行動位置算出部」15にこれらのデータを送ることで、津波の伝播・遡上が避難行動に与える影響を街区内の各地点毎に評価することができる。
【0051】
建物各階での津波遡上の影響の有無は、津波の遡上高さと空間モデルで設定した室毎の高さとの関係に基づき評価する。津波の遡上が避難行動に与える影響は、浸水深さと流れの速さに基づき複数の基準で任意に設定可能で、かつ避難者の行動属性に応じて基準を変更することもできる。
【0052】
「津波データ」4は,「データ入力部」7において別途算出した「津波伝播・遡上予測手法」の出力、すなわち、各地点での浸水深さと流れの速さの時刻歴データを用いる。「津波伝播・遡上予測手法」はこれまでに提案されている手法、例えば内閣府の中央防災会議で検討された計算モデル等を用いればよい。但し、本発明に於ける避難行動予測は,街区レベルでの詳細な避難行動を対象としているため、対象とする敷地内の建物の配置状況を再現する必要がある。このため、地震の震源付近から評価の対象とする街区までの空間をメッシュで分割する。空間のモデル化を行う際には、評価の対象とする街区の周辺では、空間のメッシュ分割を細分化することにより、街区内での建物の配置状況を再現した津波伝播の予測を可能とする。
【0053】
「空間データ格納部」13は、空間保有データ格納部13a、誘導表示保有データ格納部13b、障害物保有データ格納部13c、扉保有データ格納部13dを有している。「空間データ格納部」13には、前記「空間データ」5で入力された、空間とそれに付随する設備や開口部の寸法、位置関係、属性、状態などに関するパラメータを格納・更新する。
【0054】
「空間データ格納部」は、避難行動予測に用いる空間条件を設定するもので、空間構成を線分(壁)で囲まれた室とそれらをつなぐ扉とでモデル化する。階が異なる室は、複数階をつなぐ階段室により連結し、室毎の地上からの高さを情報として与える。本発明において、複数建物間の空間的なつながりは、評価の対象とする街区内の建物と建物の間を連絡する屋外通路を、建物内の室と同じ方法を用いて、仮想的な室としてモデル化する。このようにして、各工場をつなぐ街路で街区を設定することにより、避難予測の範囲を拡張してモデル化する。
【0055】
「空間データ格納部」では、家具や什器などの避難上の障害物の占める領域を設定する。避難者は、空間内の家具や什器などの障害物を回避して、各室の出口へ避難を行う。津波に対する避難では、地震の発生により家具や什器が転倒し、避難に利用できなくなる場合が想定されることから、データ入力部において、家具や什器の転倒で利用できなくなる避難経路をデータとして与える。
【0056】
「空間データ格納部」では、複数建物間の避難を可能とするため、複数建物内での最終避難場所となる建物の特定の室を設定する。最終避難場所の建物内の特定の室は、空間データを設定した室の中から任意に設定可能で、複数箇所設定することもできる。津波避難に対する最終避難場所の建物内の特定の室は、津波の遡上の影響を考慮して、津波の影響が及びにくい建物の高層階に設定することが有効である。最終避難場所の建物内の特定の室には、複数の建物から避難者の避難が集中するため、避難者数が多くなることが予想される。このため、最終避難場所の建物内の特定の室に滞留可能な人数を設定しておく必要があるが、この値は、単位床面積当たりの在室者数の上限値をデータとして与えることで、間接的に設定することができる。
【0057】
「人間データ格納部」16は、避難者保有データ格納部16aを有している。「人間データ格納部」16には、前記「人間データ」6で入力された避難者1人1人を特定化し、歩行速度や移動目標、動作の状態などに関するパラメータを格納・更新する。「人間データ格納部」16では、避難行動上の属性として、避難者個人に対して歩行速度や避難者の専有面積、移動目標選択の際の優先順位を予め設定する。
【0058】
移動目標は、避難行動の時刻歴の変化に応じて、現在いる空間内での短期的な移動目標(例えば、図5に示すように、出口扉、誘導灯など)とともに、街区レベルでの最終的な避難場所(ある特定の建物の特定の室など)を示す長期的な移動目標を設定する。長期的な移動目標は,対象となる街区内で1カ所のみとしてもよいが、同時に複数個所に設定しても良い。複数個所に設定する場合には、避難者がいずれの移動目標を選択するかについてのルールを予め決めておく(例えば、避難者の位置から近い方の目標を優先するなど)。
【0059】
図1に示された、「時間データ格納部」11、「津波データ格納部」12、「空間データ格納部」13、「人間データ格納部」14は、制御部10の記憶手段として機能している。
【0060】
「避難者行動位置算出部」15は、前記「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6から、ある避難者の、次の時間ステップ後の位置を算出する部分である。「避難者行動位置算出部」15は、平面部分位置算出15aと、階段内位置算出15bの機能を有している。避難者の位置は、図6に示すように、避難者個人の現在の位置と、壁や移動目標となる出口との距離、周りの他の避難者との距離、および計算上の時間ステップ当たりの移動距離に基づき算出される。
【0061】
「避難者行動位置算出部」15で算出された避難者の位置に関する情報は、他の避難者データと時刻歴に累積されて、避難完了時間や避難完了者数の累積、ある空間の滞在人数の推移としてデータファイル19に書き出される。同時に、「避難者行動位置算出部」15で算出された前記情報は、「空間データ」や「津波データ」などと共に、「画像表示部」16に送られ、避難者の時刻歴の移動状況や、避難行動の動線の軌跡、すなわち、特定避難者の避難行動の軌跡を視覚で確認することができる。
【0062】
17は、データ出力部で、データファイル18、データファイル19を出力する。データファイル18には、避難者移動状況(時刻歴・室別)、特定避難者の避難行動の軌跡などが書き込まれる。また、データファイル19には、前記のように避難完了時間(避難者別)、避難完了者数の累積(時刻歴)、滞在人数(時刻歴・空間別)、通過人数{時刻歴・扉(階段)別}などが書き込まれる。図1に示した避難行動予測システムは、津波発生時に室の属性に応じて避難者の行動を変化させることができる。なお、図1の構成は、本発明の第2の避難行動予測方法にも対応するものである。
【0063】
図2は、本発明の実施形態を示す説明図である。図2により、図1で説明した各データ格納部で取り扱うデータ項目を図と対応させて説明する。この例では、居室40、廊下42、扉44k、44n、44m、階段48の空間における避難者の移動を対象としている。
【0064】
(a)空間保有データ21
(1)「室ID」、「室の階数」、「空間構成座標」、「開口部の数」、「扉の数」、「障害物の数」、「誘導表示の数」は、データ入力部7から与えられる項目である。(2)「室の空間属性」は、データ入力部7から与えられ、計算実行の途中で誘導表示保有データ22に基づいて更新されていく項目である。(3)「津波の状態」は、津波データから与えられる項目である。(4)「滞在人数」は、当該室の在館者数に基づいて算出される項目である。(5)「避難不能者数」は、当該室の在館者のうち、津波の影響によって避難できなくなった人数を格納するものである。
【0065】
(b)誘導表示保有データ22
(1)「誘導表示ID」、「誘導表示のある室ID」、「位置座標(3次元)」、「誘導表示の種類」、「誘導表示の内容」は、データ入力部から与えられる項目である。(2)「誘導表示の状態」、「誘導表示の内容」は、時間データから決定される項目である。
【0066】
(c)避難者保有データ23
(1)「避難者ID」、「避難者のタイプ」、「長期移動目標」は、図1のデータ入力部7から与えられる。(2)「滞在している室」、「室滞在時間」は、空間保有データ21や時間データ3に基づいて算出・決定される項目である。(3)「動作」は、避難者の動作の状態を示す項目で、空間保有データ21や誘導表示保有データ22のデータに基づいて決定される項目である。(4)「短期移動目標」は、当該空間における移動目標を示す項目であり、空間保有データ21や誘導表示保有データ22に基づいて決定される項目である。(5)「過去に通過した室」、「過去に通過した扉」は、避難開始から現在までの間に通過した室や扉の履歴として格納される。(6)「位置座標(3次元)」は、避難者行動位置算出部15で算出される項目である。(7)「歩行速度」は、人間データ6の「避難者のタイプ」や空間保有データ21、当該空間の他の避難者保有データに基づいて算出される項目である。
【0067】
図3は、避難者行動位置算出の手順を示すフローチャートである。次に、このフローチャートについて説明する。S11:避難者単位の避難行動位置算出処理を開始する。S12:当該避難者が現在いる空間に関連するデータのみについて、空間データの読み込みを行う。S13:当該避難者が現在いる空間に関連するデータのみについて、津波データの読み込みを行う。S14:当該避難者以外の避難者保有データ(人間データ)を読み込む。この場合も、該当の避難者が現在いる空間に関連するデータのみについて処理する。S15:位置座標を更新する。S16:人間データを更新する。S17:空間データを更新する。S18:1ステップ加算して時間ステップを更新する。S19:リターンする。図3は、本発明の第1の実施形態にかかる避難行動予測方法に対応する。
【0068】
図8〜図18は、本発明の実施形態を示す図である。図8は、本発明の避難行動予測の対象とする一例を示す説明図である。図8は、対象施設30の工場全体の敷地を示しており、30aは対象施設30の海岸寄り境界線、35〜37は津波伝播の状況を示している。図8(1)は、地震発生後15分経過の津波の状況35、図8(2)は、地震発生後19分経過の津波の状況36、図8(3)は、地震発生後20分経過の津波の状況37、をそれぞれ示している。
【0069】
図9〜図12は、津波に対する具体的な避難シミュレーションの適用例(ケース1〜ケース4)を示す説明図である。図9〜図12は、図13、図16の工場配置に対応している。この対象施設30には、工場A〜F、倉庫G、守衛棟H、津波からの第1の最終避難場所(従前より規定の最終避難場所として従業員に周知されている)が設定されている事務所棟31が設置されている。最終避難場所は、事務所棟31の任意の場所に設定される。また、工場D(図示番号32)は、図16で示されているように、第2の最終避難場所(津波対策として特別に設定され、従業員に新たに連絡されている最終避難場所)が設定されている。最終避難場所は、工場D(図示番号32)の任意の場所に設定される。工場Dを第2の最終避難場所32として設定する場合には、工場Dに屋外避難階段を増設する。
【0070】
各工場A〜F、倉庫G、守衛棟Hと事務所棟31間には、図示縦方向の街路33a〜33gと、横方向の街路34a〜34fが連絡通路として設けられている。各街路で囲まれた工場などの施設で街区を構成している。そして、各工場をつなぐ街路で街区を構成して、避難予測のモデルを拡張して、街区レベルで避難予測を行なっている。
【0071】
本発明の実施形態において、避難シミュレーションの適用対象である施設は、例えば、湾岸地域に立地している複数の建物(工場、倉庫、事務所棟など)を有する生産施設である。敷地面積は120、000m2(400m×300m)、延べ床面積66、000m2、対象人数(従業員数)600名である。この従業員600名を、地震発生時に津波対策として最終避難場所である建物に避難させるものとする。
【0072】
工場Aは、1階建(高さ10m)、従業員の人数は30人である。工場Bは、2階建(高さ15m)、従業員の人数は1階に25人、2階に25人、合計50人である。工場Cは、2階建(高さ10m)、従業員の人数は1階に100人、2階に50人、合計150人である。工場Dは、3階建(高さ20m)、従業員の人数は1階に20人、2階と3階に40人、合計60人である。工場Eは、2階建(高さ20m)、従業員の人数は1階に25人、2階に25人、合計50人である。工場Fは、2階建(高さ10m)、従業員の人数は1階に50人、2階に70人、合計120人である。事務所棟31は、4階建(高さ20m)、従業員の人数は1階に40人、2階〜4階に120人、合計160人である。守衛棟Hは、1階建(高さ5m)、従業員の人数は10人である。倉庫Gは、2階建(高さ15m)、であるが常駐の従業員は存在しないものとする。
【0073】
本発明の実施形態においては、次のようなケースを設定して検討した。(イ)特別な対策をとらず、前記事務所棟31の3階1個所のみが最終避難場所として設定されている。避難場所の設定は図13が対応する。この際に、地震発生から10分経過後に避難を開始した場合をケース1(図9)、地震発生から5分経過後に避難を開始した場合をケース2(図10)とする。また、避難完了人数/死亡者数、の特性図は、ケース1が図14と対応し、ケース2が図15と対応する。
【0074】
(ロ)津波避難対策として、前記工場Dの3階を最終避難場所として追加し、事務所棟31の最終避難場所と合わせて2個所の最終避難場所が設定されている。最終避難場所の設定は図16が対応する。この際に、地震発生から10分経過後に避難を開始した場合をケース3(図11)、地震発生から5分経過後に避難を開始した場合をケース4(図12)とする。また、避難完了人数/死亡者数、の特性図は、ケース3が図17と対応し、ケース4が図18と対応する。
【0075】
(a)ケース1
図9は、最終避難場所が1個所(事務所棟31の3階の一室)、10分後に避難を開始した場合の例を示している。各街路や事務所棟31に点在している黒点は、避難者を示している。図9(1)は、地震発生から15分経過後、図9(2)は、地震発生から19分経過後、図9(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。
【0076】
ケース1の例について、図14の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照すると、地震発生から15分経過(避難開始から5分経過)の時点で、200人以上の従業員が避難を終了している。地震発生から19分経過(避難開始から9分経過)の前後の時点で、津波による死亡者が出始めて、地震発生から20分経過(避難開始から10分経過)の時点では、死亡者は174名に達している。なお、地震発生から20分経過の時点では、全従業員の2/3強に相当する426名の従業員が避難を終了している。
【0077】
(b)ケース2
図10は、最終避難場所が1個所(事務所棟31の3階の一室)、5分後に避難を開始した場合の例を示している。図10(1)は、地震発生から15分経過後、図10(2)は、地震発生から19分経過後、図10(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。次に、ケース2の例について、図15の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照する。
【0078】
地震発生から10分経過(避難開始から5分経過)の時点で、200人以上の従業員が避難を終了している。地震発生から15分経過(避難開始から10分経過)の時点で、400人以上の従業員が避難を終了している。地震発生から19分経過(避難開始から14分経過)の前後の時点で、津波による死亡者が出始めて、地震発生から20分経過(避難開始から15分経過)の時点では、死亡者は25名である。なお、地震発生から20分経過の時点では、全従業員のほぼ全員に相当する575名の従業員が避難を終了している。
【0079】
ケース1、ケース2の例では、最終避難場所が設定されている建物は事務所棟31の1個所であるため、図13の矢印で示されているように、従業員は各工場から一斉に街路に出て、事務所棟31の方向に移動する。このため、街路には従業員であふれて、図6、図7で説明したように各従業員の移動が困難となることが予測される。特に、事務所棟31に通じる横方向の街路34a、事務所棟31の入り口の街路33hは混雑する。
【0080】
図14、図15を対比すると、地震発生後の避難開始時間を早めれば、地震発生後の同一時間経過後に、予め設定されている最終避難場所が設定されている建物への従業員の避難者数が増大し、死亡者数も減少する。すなわち、最終避難場所が設定されている建物が1個所であっても、地震発生後の初動避難活動で、ある程度の人的損害の発生を抑制することが可能となる。しかしながら、前記のように、一度に大勢の従業員が1個所の最終避難場所へ避難するので、街路に占める従業員の密度が増大して移動が困難となる。このため、最終避難場所が設定されている建物へ移動するために時間を要することになるという問題がある。
【0081】
ケース、3、ケース4は、このような問題を解決するために、津波対策として特別に最終避難場所を工場Dの任意の場所にも設定して、最終避難場所を2個所に設定するものである。このようにして、ケース3、ケース4においては、地震発生後の街路や、最終避難場所が設定されている建物への従業員の移動方向を2方向に分散させて、混雑を緩和している。
【0082】
(a)ケース3
図11は、最終避難場所(事務所棟31の3階の一室と工場Dの3階の一室)が設定されている建物が2個所、10分後に避難を開始した場合の例を示している。各街路や事務所棟31、工場D(32)に点在している黒点は、避難者を示している。図11(1)は、地震発生から15分経過後、図11(2)は、地震発生から19分経過後、図11(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。
【0083】
ケース3の例について、図17の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照すると、地震発生から15分経過(避難開始から5分経過)の時点で、400人以上の従業員が避難を終了している。事務所棟31、工場Dには、ほぼ等しい200人程度の従業員が分散して避難している。地震発生から19分経過(避難開始から9分経過)の前後の時点で、津波による死亡者が出始めて、地震発生から20分経過(避難開始から10分経過)の時点では、死亡者は3名となっている。地震発生から20分経過後では、事務所棟31には220人程度、工場Dには、380人程度の従業員が避難している。なお、地震発生から18分経過の時点では、ほぼ全従業員が避難を終了している。
【0084】
(b)ケース4
図12は、最終避難場所が2個所(事務所棟31の3階の一室と工場Dの3階の一室)、5分後に避難を開始した場合の例を示している。図12(1)は、地震発生から15分経過後、図12(2)は、地震発生から19分経過後、図12(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。次に、ケース4の例について、図18の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照する。
【0085】
地震発生から10分経過(避難開始から5分経過)の時点で、400人以上の従業員が避難を終了している。事務所棟31、工場D内の最終避難場所には、ほぼ等しい200人程度の従業員が分散して避難している。地震発生から18分経過(避難開始から13分経過)の時点で、ほぼ全従業員が避難を終了している。この例では、津波による死亡者はいなかった。事務所棟31には220人程度、工場Dには、380人程度の従業員が避難している。
【0086】
このように、最終避難場所が設定されている建物を事務所棟31と工場Dの2個所設定したケース3、ケース4の例では、最終避難場所が設定されている建物を事務所棟31の1個所だけのケース1、ケース2の場合よりも死亡者数が減少している。図16の矢印で示されているように、従業員の街路における移動方向は、事務所棟31と工場D(32)に分散される。このため、図13のように最終避難場所を事務所棟31の1個所にのみ設定した場合よりも街路における混雑が緩和されて、従業員の移動が迅速に行なわれる。
【0087】
なお、従業員が第1の最終避難場所、または第2の最終避難場所のいずれに避難するかは、前記のように最終避難場所への移動距離や、収容人数などを考慮して予め工場単位で決めておくことができる。この場合に、工場内で2つのグループに分けて、異なる最終避難場所へ避難させることもできる。例えば、図16に示されているように、工場Eの従業員は、自分の職場に近い出口(扉)が、第1の最終避難場所、または第2の最終避難場所のいずれであるかにより、その避難先が決められる。
【0088】
図13、図16のように1個所、または2個所の避難場所が設定されている建物に、大勢の従業員を短時間に避難させる場合には、前記したように、工場の出口の扉のような短期的な移動目標の設定と、最終避難場所への長期的な移動目標の設定が混雑緩和に有効である。
【0089】
以上説明したように本発明においては、次の3つの特徴を有するものである。(1)空間データに「空間属性」パラメータを与え、モデル上の避難者は、このパラメータを取り入れて、避難行動を決定することができる。(2)空間属性が「一時待機場所」になっている場合には、その空間で一時待機し、新たな誘導表示があたえられた場合、または、一定時間経過後に移動を再開するような行動を表現できる。(3)避難誘導対策(非常放送等)の実施の有無に関する情報を、空間データに「誘導表示」パラメータとして与え、モデル上の避難者は、このパラメータを取り入れて、避難行動を決定することができる。
【0090】
本発明の避難行動予測手法を用いることによって、(1)ある施設で地震が発生した場合の避難安全性を、視覚的、定量的に確認することが可能となる。(2)非常放送や誘導標識などの避難誘導対策の有効性も検証することが可能である。(3)一時待機スペースの活用や、配置計画等にも活用できる。(4)階避難だけでなく、全館避難の状況も再現することができる。
【0091】
上記の説明は、湾岸に立地する生産施設を含む街区を対象としている。しかしながら、本発明の避難行動予測システムおよび避難行動予測方法は、このような生産施設を含む街区には限定されず、湾岸地帯に複数の建物が建設されている街区における避難行動予測に対して適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、災害発生時に空間の属性に応じて避難者の行動を変化させる構成の避難行動予測システムおよび避難行動予測方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態を示すフローチャートである。
【図4】空間のモデル化の概念図である。
【図5】自力避難者の短期移動目標の選択ルールを示す説明図である。
【図6】避難者の移動方向および位置決定に関する概念図である。
【図7】群集密度を考慮した歩行速度を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図14】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図15】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図16】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図17】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図18】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図19】シミュレーションモデルの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0094】
1・・・避難行動予測システム、2・・・津波シナリオ・データ、3・・・時間データ、4・・・津波データ、5・・・空間データ、6・・・人間データ、7・・・データ入力部、10・・・制御部、11・・・時間データ格納部、12・・・津波データ格納部、13・・・空間データ格納部、14・・・人間データ格納部、15・・・避難者行動位置算出部、16・・・画像表示部、17・・・データ出力部、18、19・・・出力データファイル、30・・・対象施設、31・・・事務所棟(第1の最終避難場所が設定されている建物)、32・・・第2の最終避難場所が設定されている建物(工場D)、40・・・部屋、41,42・・・廊下、43・・・壁、44・・・ドア、45・・・誘導灯、46・・・出口、47・・・付室、48・・・階段室、49・・・階段、50・・・避難者、A〜F・・・工場、G・・・倉庫、H・・・守衛棟。
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害発生時に街区レベルでの複数建物間の避難行動を予測する
避難行動予測システムおよび避難行動予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸地域に立地する企業等では、地震後に津波が発生すると、津波が襲来するまでの時間が早いため、短い時間内に如何に効果的に安全な場所まで避難を行うかが重要となる。自治体を中心とした広域な地域レベルでの避難は、津波襲来までの時間が短いため、避難安全上あまり効果は高くなく、街区レベルでの建物を利用した避難が有効となる場合が多いと予想される。
【0003】
津波発生時に安全に避難を行うかどうか検討を行う上で、津波発生時の避難行動を予測することは,有効な手段のひとつである。このような津波に対する避難行動の予測手法は、例えば非特許文献1で提案されている。非特許文献1で提案されている手法は、自治体レベルの広域な地域レベルの避難行動を主な対象としている。
【0004】
【非特許文献1】藤岡正樹、石橋健一、梶秀樹、塚越功、「津波避難対策のマルチエージェントモデルによる評価」日本建築学会計画系論文集、第562号,pp.231-236,2002.12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された従来の避難行動予測手法では、避難行動の予測を行う場合、地域内の道路網をモデル化して、避難者が避難の目的地まで道路を移動することに主眼が置かれている。対象地域内の個々の建物の形態や配置、避難者数の分布等の詳細な条件は考慮されていない。このため、建物内の行動を含めた街区レベルでの詳細な検討は行うことができない、という問題があった。
【0006】
津波発生時の街区レベルでの避難行動では、例えば、ひとつの敷地内で複数の建物から構成される沿岸地域の工場などでは、複数の建物から敷地内の特定の高層建物を目標として避難を行うこと等が予想される。このように、一旦屋外に避難した後で、街路を経由して別の特定の建物に対する避難行動を予測することは困難であった。
【0007】
避難行動予測手法を用いて、津波に対する安全性の評価を行う場合には、津波が遡上する範囲や水深の時刻歴の変化を予測し、その計算結果を避難行動予測の結果と比較して、被害者の発生の有無を検討することになる。例えば非特許文献1に記載されている従来の予測手法では、対象とする地点の海抜に応じて、津波が遡上する範囲や水深の時刻歴の変化を予測している。街区レベルでの避難行動を予測する場合、避難者が津波襲来時にいる階高と津波の遡上高さによって、在館者が津波の影響を直接受けるかどうかが異なる。
【0008】
従来の津波に対する避難行動予測手法では、地盤面の高低差は考慮されている反面、建物の高さの違いは考慮されていないため、建物の階数の違いが避難安全性に与える影響は考慮できなかった。このため、津波襲来時の避難場所を確保する対策として、緊急避難用の津波避難ビルを敷地内に設置する場合に、避難行動予測手法を用いてその効果を評価するのは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであって、災害発生時に街区レベルでの複数建物間の避難行動を予測する、避難行動予測システムおよび避難行動予測方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の避難行動予測システムは、震源位置などの津波シナリオ・データ、前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データ、および空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データ、空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データ、特定化された避難者個人のパラメータである人間データ、の各データを入力する入力手段と、前記入力手段で入力された各データを格納・演算・更新する記憶手段と、前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する制御手段と、前記制御手段で算出された避難者の位置に関する情報を出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記最終避難場所は、当該建物の任意の場所に設定したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記最終避難場所を複数個所に設定し、前記各建物内に存在している前記避難者を、前記複数の最終避難場所に分散して避難させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記津波データによる津波遡上高さの解析結果と、前記各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記空間データは、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の避難行動を予測することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の避難行動予測システムは、前記最終避難場所を前記避難者が避難する長期移動目標に設定し、前記避難者が存在している前記各建物には、それぞれ短期移動目標が設定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第1の実施形態にかかる避難行動予測方法は、ある空間に存在する避難者の避難行動予測方法であって、
(1)前記空間に関連する空間データを読み込む段階と、
(2)前記空間に関連する津波データを読み込む段階と、
(3)前記空間に関連する前記避難者である人間データを読み込む段階と、
(4)前記避難者の移動に伴い位置座標を更新する段階と、
(5)前記移動後の位置座標に対応する前記人間データを更新する段階と、
(6)前記移動後の位置座標に対応する前記空間データを更新する段階と、
(7)時間ステップを更新する段階と、
からなることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の実施形態にかかる避難行動予測方法は、震源位置などの津波シナリオ・データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データを入力する段階と、
空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データを入力する段階と、
特定化された避難者個人のパラメータである人間データを入力する段階と、
前記時間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記津波データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記空間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記人間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する段階と、
前記算出された避難者の位置に関する情報を出力する段階と、
からなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第2の実施形態にかかる避難行動予測方法は、前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と前記最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されており、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第2の実施形態にかかる避難行動予測方法は、前記津波データは、津波遡上高さの解析結果を含み、前記空間データに含まれる各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定して、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、次のような特有の効果が得られる。(1)対象とする建物の立地や施設配置、及び従業員の施設内の配置の建物固有の条件に応じた避難計画を検討することができる。(2)防波堤や避難施設等の建物や街区単位でのハード面の防災対策が、津波に対する避難安全性に与える効果を比較・検討することができる。(3)最終避難場所の設定や避難誘導計画等のソフト面の対防災対策が、津波に対する避難安全性に与える効果を比較、検討することができる。(4)街区レベルでの建物内の室と建物間をつなぐ街路を個別にモデル化することで、津波に伴う複数建物の間の避難行動を予測することができる。(5)津波遡上高さの解析結果と建物各階の高さとの関係に基づき、津波遡上の影響を受ける階を特定して、各階毎の被害者の発生状況を予測することができる。(6)什器などの障害物の耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に什器転倒で利用できなくなる避難経路を特定して、避難行動の予測結果に反映できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
最初に、本発明の前提技術である、避難シミュレーションモデルの例について説明する。避難シミュレーションモデルは、空間、人間、津波伝播・遡上の3つの要素の相互作用問題を取り扱う。このため、避難シミュレーションモデルでは、これらの3つの要素が要素間の関係を考慮して適切に表現され、各要素が避難行動に与える影響を評価できることが重要となる。この避難シミュレーションモデルは、本発明においては、オブジェクト指向型の計算方法に基づいて構築されている。
【0023】
最初に、オブジェクト指向による3要素のモデル化について説明する。オブジェクト指向は、コンピュータを利用して、問題解決を行なうシステム(あるいはモデル)を構築する際の1つの方法論である。オブジェクト指向では、取り扱う問題を解決するためのいくつかのオブジェクトを見い出して、オブジェクト間の関係をネットワーク構造として捉え、問題解決を行なう。
【0024】
オブジェクト指向における基本単位であるオブジェクトは、自分の状態を示すデータと自分の振る舞い方に関する仕様(method)で定義される。そして、問題解決過程では、オブジェクト間でメッセージを送信(message sending)し、自分に送られてきたメッセージに対応する仕様を起動して、自分の状態を変化させたり、送り先の必要とするデータを提供したりすることが行なわれる。
【0025】
空間のモデル化に関しては、部屋(工場)を基本単位として、人間が空間内を自由に動けることを前提としたモデル化を行なった。津波伝播・遡上に関しては、津波伝播・遡上シミュレーションモデルの結果を避難シミュレーションの入力条件として取り扱えるように、モデル化した。
【0026】
オブジェクト指向に基づいて避難シミュレーションモデルを開発する理由は、空間、人間、津波伝播・遡上の3要素の関係を適切に考慮して、それぞれ独立のオブジェクトとして捉えてモデル化できることにある。このことによって、各モデル単位で段階を追って開発を進めることが可能になり、アルゴリズムを重要視したモデルの開発形態と比較して、その開発段階で利点を生む。また、モデルの修正・改良もオブジェクト単位に行なえ、モデル全体としての拡張性を高めることができる。
【0027】
次に、オブジェクト指向による人間個人のモデル化について説明する。本モデルでは、人間個人を避難行動上の特性として重要と考えられる歩行速度、避難行動開始時間および避難行動上の占有面積等をデータとして有するオブジェクトとし、それらのデータを個別に設定できるようにした。
【0028】
この人間オブジェクトは、避難行動に対する基本的な振る舞い方は同じでも、自分に定義されているデータと、他のオブジェクトから提供されたデータに基づいて独立に振る舞うことが可能である。具体的には、人間オブジェクトが津波伝播・遡上の影響等による状況変化の内容を空間から得られるようにし、その状況に応じて独立に避難経路を選択させることを可能にした。人間オブジェクトの避難方向の決定は、当初、周辺の状況に関するデータを入手して避難上の移動目標を決定し、その移動目標からは引力を、障害物からは斥力を受け、それらの力のベクトルを合成して決定することにした。
【0029】
本発明のモデルの特徴、および概要の基礎となる概念について、図19の説明図により説明する。本避難シミュレーションモデル30は、基本的には図19の説明図で示すように、大きく3つのモデルから構成されている。空間モデル31は建築物(実施形態では工場)内部の人間の移動できる空間のモデル化を担っており、人間モデル32は避難行動を行なう人間のモデル化を担っている。
【0030】
この2つのモデルは、本モデルの根幹を成すモデルであり、シミュレータ35が両モデルを管理している。津波伝播・遡上シュミレーションモデル33で設定される津波モデル34は、津波到達後の建物内の津波伝播・遡上条件をシミュレータにより空間モデル31に人力する役割を担っている。なお、ここで示した各モデルは、基本的に複数のオブジェクトから構成されている。
【0031】
空間モデル31は、人間が移動できる空間のモデル化を取り扱っている。このモデルでは、建築物は複数の階層の集合体、階層は複数の部屋の集合体として定義した。ここで、階層と階層の連結情報は階段等に、部屋と部屋の連結情報はドア(扉)に管理させる。なお、後述するように、本発明の実施形態は、敷地内に多数の工場などを有する施設を対象としている。このため、各工場をつなぐ街路で街区を構成するものとして、空間モデルを取り扱う。
【0032】
モデルの最小単位である部屋をモデル化した部屋オブジェクトは、避難軌跡を現実に近い形で捉えることを目的として、図4の説明図に示すように複数の壁に囲まれた幾何学上の意味での閉空間として定義した。すなわち、図4において、部屋40、廊下41、42からなる空間は、モデル化すると、部屋40は4つの線分(壁)43a〜43dで囲まれる。廊下41、42は、ドア44a〜44d、と壁43a〜43dで区画されている。
【0033】
人間オブジェクトは、部屋オブジェクトから壁の情報の他に、避難上で移動目標となる出口、ドアおよび誘導表示の情報と、避難に対して障害になる、その部屋にいる他の人間や什器などの障害物の情報が取り出せる。そして、人間オブジェクトはそれらの情報に基づいて、部屋内を比較的自由に動くことができる。
【0034】
次に、人間モデル32について説明する。本避難シミュレーションモデルでは、建築物内にいる人間の避難行動上の特性の違いの観点から、自力避難が可能な人間(自力避難者クラス)、自力避難が不可能な人間(要介助者クラス)、および施設管理者や消防隊を対象とした、自力避難が不可能な人間を介助(あるいは救助)する人間(介助者クラス)の3つのタイプの人間を定義した。ここで、クラス(class)とはオブジェクトの「型」定義に相当する。
【0035】
次に、前記移動目標の決定に関して説明する。自力避難者および介助者クラスのオブジェクトは、あらかじめ設定されている長期移動目標を満足するために、短期移動目標を選択しながら避難行動を行なう。長期移動目標、および短期移動目標それぞれの移動目標の意味は、(a)長期移動目標は、最終的に避難(移動)したい場所である。(b)短期移動目標は、長期移動目標を満足するために当面到達(通過)したい場所である。つまり、短期移動目標を選択しながら、到達した場所が長期移動月標と一致するまで避難行動が行なわれる。
【0036】
避難者オブジェクトの長期移動目標としては、「避難場所」が設定されている。そして、短期移動目標としてはドアが選択される。本モデルでは、人間に避難行動をとらせる上での全体的な避難シナリオに基づいて、当該建築物(工場)とは異なる他の建物(事務棟)内の部屋等の任意の場所を最終的な避難場所として設定し、そこを「避難場所」と表し、「避難場所」に通じるドアを「出口」と表す。
【0037】
図5は、自力避難者の短期移動目標の選択ルールを示す説明図である。部屋40aには自力避難者50a、部屋40bには自力避難者50b、廊下41には自力避難者50cが存在しているものとする。(1)自分のいる空間に出口がある場合は、出口の中で自分から最も近い距離にある出口を選択する。この例では、自力避難者50cは出口46を選択する。
【0038】
(2)自分のいる空間に誘導灯がある場合は、誘導灯の中で自分から最も近い距離にある誘導灯の示す方向にあるドアを選択する。この例では、自力避難者50aは、誘導灯45の示す方向にあるドア44gを選択する。(3)その他の場合には、自分のいる部屋にあるドアの中で、自分から最も近い距離にあるドアを選択する。この例では、自力避難者50bは、自分のいる部屋40bにあるドアの中で自分から最も近い距離にあるドア44hを選択する。なお、これらのルールを適用する優先順位は、前記(1)〜(3)の順である。
【0039】
次に、避難者の移動方向および移動位置の決定に関して図6により説明する。図6は、避難者50eの移動方向および位置決定の概念図である。自力避難者および介助者オブジェクトにおいて、短期移動目標が決定された後の移動方向は、図6に示すように、人間に心理的に作用することを想定した複数の力のベクトルを仮定し、それらのベクトルを合成する形で決定している。Rは単位ステップあたりの歩行速度で到達する範囲を示しており、Rxは、次のステップでの移動位置の起点を示している。
【0040】
人間に作用する力としては、移動目標(ドアや誘導灯)からは引力を、避難行動上の障害物(壁、他の人間および什器)からは斥力を仮定した。図6の例では、避難者50eに対してドア44からは引力F(r4)が作用する。また、壁からは斥力F(r1)、F(r2)が作用し、他の避難者50fからは斥力F(r3)が作用する。これらの力は、一般的に各対象物からの距離に反比例してその大きさが決定される。また、移動してきた方向に対する一定の大きさの慣性力を考慮した。慣性力を考慮した理由は、人間の動きを現実に近い滑らかな動きとして捉えることを考えたからである。
【0041】
そして、これらの力のベクトルを合成したベクトルΣFの方向と、あらかじめ各オブジェクトに設定されている歩行速度に基づいて、そのシミュレーションステップにおける次の移動位置の起点Rxを決定している。この時に、斥力に比べ引力を比較的大きな値となるように設定しているため、引力と斥力が釣り合ってしまう状況はほとんど起こらないが、釣り合ってしまった場合は移動しないことを仮定している。
【0042】
図7は、本発明の実施形態を示す説明図であり、図7(a)は、群集密度を考慮した避難者の歩行速度の例を示す説明図である。不特定多数の人々の避難行動では、歩行空間の群集密度が歩行速度に影響を及ぼすことが考えられる。本モデルでは、水平歩行速度は群集密度に反比例させた。
【0043】
群集密度の算定では、対象とする避難者個人50gの周囲の密度が影響すると考え、図7(a)に示すように各避難者の進行方向に対して、半径3mの半円中に存在する他の避難者(50jのように黒丸で示す)は歩行速度に影響を及ぼすものとして考慮した。半径3mの半円外の避難者(50hのように白丸で示す)は、歩行速度への影響を考慮されない。
【0044】
図7(b)は階段での歩行速度の説明図である。階段での歩行速度は、空間のモデル化との関係を考慮して、階段での水平分歩行速度で代表させた。水平歩行速度に対する低減係数として、実測値を参考に0.8を採用した。図7(b)において、実線が水平歩行速度(上限を1.0m/secとする)、破線が階段室内水平分歩行速度である。
【0045】
図1は、本発明の実施形態である避難行動予測システムの例を示すブロック図である。図1において、避難行動予測システム1は、データ入力部7、制御部10、データ出力部17で構成される。データ入力部7は、「津波シナリオ・データ」2、「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6をそれぞれ入力する。「津波シナリオ・データ」2は、震源位置、地震規模などのデータを入力する。
【0046】
「時間データ」3は、前記「津波シナリオ・データ」2に基づいて、津波発生時間、最大計算時間、時刻ステップ間隔、誘導表示作動時間(誘導表示ID、時間)などを設定する。「津波データ」4は、前記「津波シナリオ・データ」2に基づいて、津波伝播・遡上予測手法(外部プログラム)Xを利用することで計算される。そのデータの内容は、津波伝播時間、避難限界時間(室別)、津波水深(時刻歴・地点別)、流速(時刻歴・地点別)などである。
【0047】
「空間データ」5は、空間とそれに付随する設備や開口部の寸法、位置関係、属性、状態などに関するパラメータである。具体的には、階数、階高、室ID、室の空間属性(種類)、室の階数、室の座標(3次元)、開口部の数(数、ID)、扉の数(数、ID)、障害物の数(数、ID)、誘導表示の数(数、ID)、開口部ID、開口部のある室ID、開口部の座標(3次元)、扉ID、空間の接続関係、障害物ID、障害物の座標(3次元)、障害物のある室ID、誘導表示ID、誘導表示のある室ID、誘導表示の種類などである。
【0048】
「人間データ」6には、避難者1人1人を特定化したパラメータを設定する。具体的には、避難者ID、避難者のタイプ(種類)、歩行速度基本値、初期配置される室(室ID)、長期移動目標(室ID)などに関するデータを入力する。
【0049】
制御部10は、「時間データ格納部」11、「津波データ格納部」12、「空間データ格納部」13、「人間データ格納部」16、「避難者行動位置算出部」15、「画像表示部」16から構成されている。「時間データ格納部」11は、前記「時間データ」3で入力された、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータを格納・更新する。
【0050】
「津波データ格納部」12は、前記「津波データ」4で入力された、避難行動の障害に関するパラメータを格納・更新する。「津波データ格納部」12では、街区内の各地点での浸水深さと流れの速さの時間推移をデータとして保管し、各地点で津波の遡上が避難行動に与える影響をモデル化する。「避難者行動位置算出部」15にこれらのデータを送ることで、津波の伝播・遡上が避難行動に与える影響を街区内の各地点毎に評価することができる。
【0051】
建物各階での津波遡上の影響の有無は、津波の遡上高さと空間モデルで設定した室毎の高さとの関係に基づき評価する。津波の遡上が避難行動に与える影響は、浸水深さと流れの速さに基づき複数の基準で任意に設定可能で、かつ避難者の行動属性に応じて基準を変更することもできる。
【0052】
「津波データ」4は,「データ入力部」7において別途算出した「津波伝播・遡上予測手法」の出力、すなわち、各地点での浸水深さと流れの速さの時刻歴データを用いる。「津波伝播・遡上予測手法」はこれまでに提案されている手法、例えば内閣府の中央防災会議で検討された計算モデル等を用いればよい。但し、本発明に於ける避難行動予測は,街区レベルでの詳細な避難行動を対象としているため、対象とする敷地内の建物の配置状況を再現する必要がある。このため、地震の震源付近から評価の対象とする街区までの空間をメッシュで分割する。空間のモデル化を行う際には、評価の対象とする街区の周辺では、空間のメッシュ分割を細分化することにより、街区内での建物の配置状況を再現した津波伝播の予測を可能とする。
【0053】
「空間データ格納部」13は、空間保有データ格納部13a、誘導表示保有データ格納部13b、障害物保有データ格納部13c、扉保有データ格納部13dを有している。「空間データ格納部」13には、前記「空間データ」5で入力された、空間とそれに付随する設備や開口部の寸法、位置関係、属性、状態などに関するパラメータを格納・更新する。
【0054】
「空間データ格納部」は、避難行動予測に用いる空間条件を設定するもので、空間構成を線分(壁)で囲まれた室とそれらをつなぐ扉とでモデル化する。階が異なる室は、複数階をつなぐ階段室により連結し、室毎の地上からの高さを情報として与える。本発明において、複数建物間の空間的なつながりは、評価の対象とする街区内の建物と建物の間を連絡する屋外通路を、建物内の室と同じ方法を用いて、仮想的な室としてモデル化する。このようにして、各工場をつなぐ街路で街区を設定することにより、避難予測の範囲を拡張してモデル化する。
【0055】
「空間データ格納部」では、家具や什器などの避難上の障害物の占める領域を設定する。避難者は、空間内の家具や什器などの障害物を回避して、各室の出口へ避難を行う。津波に対する避難では、地震の発生により家具や什器が転倒し、避難に利用できなくなる場合が想定されることから、データ入力部において、家具や什器の転倒で利用できなくなる避難経路をデータとして与える。
【0056】
「空間データ格納部」では、複数建物間の避難を可能とするため、複数建物内での最終避難場所となる建物の特定の室を設定する。最終避難場所の建物内の特定の室は、空間データを設定した室の中から任意に設定可能で、複数箇所設定することもできる。津波避難に対する最終避難場所の建物内の特定の室は、津波の遡上の影響を考慮して、津波の影響が及びにくい建物の高層階に設定することが有効である。最終避難場所の建物内の特定の室には、複数の建物から避難者の避難が集中するため、避難者数が多くなることが予想される。このため、最終避難場所の建物内の特定の室に滞留可能な人数を設定しておく必要があるが、この値は、単位床面積当たりの在室者数の上限値をデータとして与えることで、間接的に設定することができる。
【0057】
「人間データ格納部」16は、避難者保有データ格納部16aを有している。「人間データ格納部」16には、前記「人間データ」6で入力された避難者1人1人を特定化し、歩行速度や移動目標、動作の状態などに関するパラメータを格納・更新する。「人間データ格納部」16では、避難行動上の属性として、避難者個人に対して歩行速度や避難者の専有面積、移動目標選択の際の優先順位を予め設定する。
【0058】
移動目標は、避難行動の時刻歴の変化に応じて、現在いる空間内での短期的な移動目標(例えば、図5に示すように、出口扉、誘導灯など)とともに、街区レベルでの最終的な避難場所(ある特定の建物の特定の室など)を示す長期的な移動目標を設定する。長期的な移動目標は,対象となる街区内で1カ所のみとしてもよいが、同時に複数個所に設定しても良い。複数個所に設定する場合には、避難者がいずれの移動目標を選択するかについてのルールを予め決めておく(例えば、避難者の位置から近い方の目標を優先するなど)。
【0059】
図1に示された、「時間データ格納部」11、「津波データ格納部」12、「空間データ格納部」13、「人間データ格納部」14は、制御部10の記憶手段として機能している。
【0060】
「避難者行動位置算出部」15は、前記「時間データ」3、「津波データ」4、「空間データ」5、「人間データ」6から、ある避難者の、次の時間ステップ後の位置を算出する部分である。「避難者行動位置算出部」15は、平面部分位置算出15aと、階段内位置算出15bの機能を有している。避難者の位置は、図6に示すように、避難者個人の現在の位置と、壁や移動目標となる出口との距離、周りの他の避難者との距離、および計算上の時間ステップ当たりの移動距離に基づき算出される。
【0061】
「避難者行動位置算出部」15で算出された避難者の位置に関する情報は、他の避難者データと時刻歴に累積されて、避難完了時間や避難完了者数の累積、ある空間の滞在人数の推移としてデータファイル19に書き出される。同時に、「避難者行動位置算出部」15で算出された前記情報は、「空間データ」や「津波データ」などと共に、「画像表示部」16に送られ、避難者の時刻歴の移動状況や、避難行動の動線の軌跡、すなわち、特定避難者の避難行動の軌跡を視覚で確認することができる。
【0062】
17は、データ出力部で、データファイル18、データファイル19を出力する。データファイル18には、避難者移動状況(時刻歴・室別)、特定避難者の避難行動の軌跡などが書き込まれる。また、データファイル19には、前記のように避難完了時間(避難者別)、避難完了者数の累積(時刻歴)、滞在人数(時刻歴・空間別)、通過人数{時刻歴・扉(階段)別}などが書き込まれる。図1に示した避難行動予測システムは、津波発生時に室の属性に応じて避難者の行動を変化させることができる。なお、図1の構成は、本発明の第2の避難行動予測方法にも対応するものである。
【0063】
図2は、本発明の実施形態を示す説明図である。図2により、図1で説明した各データ格納部で取り扱うデータ項目を図と対応させて説明する。この例では、居室40、廊下42、扉44k、44n、44m、階段48の空間における避難者の移動を対象としている。
【0064】
(a)空間保有データ21
(1)「室ID」、「室の階数」、「空間構成座標」、「開口部の数」、「扉の数」、「障害物の数」、「誘導表示の数」は、データ入力部7から与えられる項目である。(2)「室の空間属性」は、データ入力部7から与えられ、計算実行の途中で誘導表示保有データ22に基づいて更新されていく項目である。(3)「津波の状態」は、津波データから与えられる項目である。(4)「滞在人数」は、当該室の在館者数に基づいて算出される項目である。(5)「避難不能者数」は、当該室の在館者のうち、津波の影響によって避難できなくなった人数を格納するものである。
【0065】
(b)誘導表示保有データ22
(1)「誘導表示ID」、「誘導表示のある室ID」、「位置座標(3次元)」、「誘導表示の種類」、「誘導表示の内容」は、データ入力部から与えられる項目である。(2)「誘導表示の状態」、「誘導表示の内容」は、時間データから決定される項目である。
【0066】
(c)避難者保有データ23
(1)「避難者ID」、「避難者のタイプ」、「長期移動目標」は、図1のデータ入力部7から与えられる。(2)「滞在している室」、「室滞在時間」は、空間保有データ21や時間データ3に基づいて算出・決定される項目である。(3)「動作」は、避難者の動作の状態を示す項目で、空間保有データ21や誘導表示保有データ22のデータに基づいて決定される項目である。(4)「短期移動目標」は、当該空間における移動目標を示す項目であり、空間保有データ21や誘導表示保有データ22に基づいて決定される項目である。(5)「過去に通過した室」、「過去に通過した扉」は、避難開始から現在までの間に通過した室や扉の履歴として格納される。(6)「位置座標(3次元)」は、避難者行動位置算出部15で算出される項目である。(7)「歩行速度」は、人間データ6の「避難者のタイプ」や空間保有データ21、当該空間の他の避難者保有データに基づいて算出される項目である。
【0067】
図3は、避難者行動位置算出の手順を示すフローチャートである。次に、このフローチャートについて説明する。S11:避難者単位の避難行動位置算出処理を開始する。S12:当該避難者が現在いる空間に関連するデータのみについて、空間データの読み込みを行う。S13:当該避難者が現在いる空間に関連するデータのみについて、津波データの読み込みを行う。S14:当該避難者以外の避難者保有データ(人間データ)を読み込む。この場合も、該当の避難者が現在いる空間に関連するデータのみについて処理する。S15:位置座標を更新する。S16:人間データを更新する。S17:空間データを更新する。S18:1ステップ加算して時間ステップを更新する。S19:リターンする。図3は、本発明の第1の実施形態にかかる避難行動予測方法に対応する。
【0068】
図8〜図18は、本発明の実施形態を示す図である。図8は、本発明の避難行動予測の対象とする一例を示す説明図である。図8は、対象施設30の工場全体の敷地を示しており、30aは対象施設30の海岸寄り境界線、35〜37は津波伝播の状況を示している。図8(1)は、地震発生後15分経過の津波の状況35、図8(2)は、地震発生後19分経過の津波の状況36、図8(3)は、地震発生後20分経過の津波の状況37、をそれぞれ示している。
【0069】
図9〜図12は、津波に対する具体的な避難シミュレーションの適用例(ケース1〜ケース4)を示す説明図である。図9〜図12は、図13、図16の工場配置に対応している。この対象施設30には、工場A〜F、倉庫G、守衛棟H、津波からの第1の最終避難場所(従前より規定の最終避難場所として従業員に周知されている)が設定されている事務所棟31が設置されている。最終避難場所は、事務所棟31の任意の場所に設定される。また、工場D(図示番号32)は、図16で示されているように、第2の最終避難場所(津波対策として特別に設定され、従業員に新たに連絡されている最終避難場所)が設定されている。最終避難場所は、工場D(図示番号32)の任意の場所に設定される。工場Dを第2の最終避難場所32として設定する場合には、工場Dに屋外避難階段を増設する。
【0070】
各工場A〜F、倉庫G、守衛棟Hと事務所棟31間には、図示縦方向の街路33a〜33gと、横方向の街路34a〜34fが連絡通路として設けられている。各街路で囲まれた工場などの施設で街区を構成している。そして、各工場をつなぐ街路で街区を構成して、避難予測のモデルを拡張して、街区レベルで避難予測を行なっている。
【0071】
本発明の実施形態において、避難シミュレーションの適用対象である施設は、例えば、湾岸地域に立地している複数の建物(工場、倉庫、事務所棟など)を有する生産施設である。敷地面積は120、000m2(400m×300m)、延べ床面積66、000m2、対象人数(従業員数)600名である。この従業員600名を、地震発生時に津波対策として最終避難場所である建物に避難させるものとする。
【0072】
工場Aは、1階建(高さ10m)、従業員の人数は30人である。工場Bは、2階建(高さ15m)、従業員の人数は1階に25人、2階に25人、合計50人である。工場Cは、2階建(高さ10m)、従業員の人数は1階に100人、2階に50人、合計150人である。工場Dは、3階建(高さ20m)、従業員の人数は1階に20人、2階と3階に40人、合計60人である。工場Eは、2階建(高さ20m)、従業員の人数は1階に25人、2階に25人、合計50人である。工場Fは、2階建(高さ10m)、従業員の人数は1階に50人、2階に70人、合計120人である。事務所棟31は、4階建(高さ20m)、従業員の人数は1階に40人、2階〜4階に120人、合計160人である。守衛棟Hは、1階建(高さ5m)、従業員の人数は10人である。倉庫Gは、2階建(高さ15m)、であるが常駐の従業員は存在しないものとする。
【0073】
本発明の実施形態においては、次のようなケースを設定して検討した。(イ)特別な対策をとらず、前記事務所棟31の3階1個所のみが最終避難場所として設定されている。避難場所の設定は図13が対応する。この際に、地震発生から10分経過後に避難を開始した場合をケース1(図9)、地震発生から5分経過後に避難を開始した場合をケース2(図10)とする。また、避難完了人数/死亡者数、の特性図は、ケース1が図14と対応し、ケース2が図15と対応する。
【0074】
(ロ)津波避難対策として、前記工場Dの3階を最終避難場所として追加し、事務所棟31の最終避難場所と合わせて2個所の最終避難場所が設定されている。最終避難場所の設定は図16が対応する。この際に、地震発生から10分経過後に避難を開始した場合をケース3(図11)、地震発生から5分経過後に避難を開始した場合をケース4(図12)とする。また、避難完了人数/死亡者数、の特性図は、ケース3が図17と対応し、ケース4が図18と対応する。
【0075】
(a)ケース1
図9は、最終避難場所が1個所(事務所棟31の3階の一室)、10分後に避難を開始した場合の例を示している。各街路や事務所棟31に点在している黒点は、避難者を示している。図9(1)は、地震発生から15分経過後、図9(2)は、地震発生から19分経過後、図9(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。
【0076】
ケース1の例について、図14の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照すると、地震発生から15分経過(避難開始から5分経過)の時点で、200人以上の従業員が避難を終了している。地震発生から19分経過(避難開始から9分経過)の前後の時点で、津波による死亡者が出始めて、地震発生から20分経過(避難開始から10分経過)の時点では、死亡者は174名に達している。なお、地震発生から20分経過の時点では、全従業員の2/3強に相当する426名の従業員が避難を終了している。
【0077】
(b)ケース2
図10は、最終避難場所が1個所(事務所棟31の3階の一室)、5分後に避難を開始した場合の例を示している。図10(1)は、地震発生から15分経過後、図10(2)は、地震発生から19分経過後、図10(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。次に、ケース2の例について、図15の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照する。
【0078】
地震発生から10分経過(避難開始から5分経過)の時点で、200人以上の従業員が避難を終了している。地震発生から15分経過(避難開始から10分経過)の時点で、400人以上の従業員が避難を終了している。地震発生から19分経過(避難開始から14分経過)の前後の時点で、津波による死亡者が出始めて、地震発生から20分経過(避難開始から15分経過)の時点では、死亡者は25名である。なお、地震発生から20分経過の時点では、全従業員のほぼ全員に相当する575名の従業員が避難を終了している。
【0079】
ケース1、ケース2の例では、最終避難場所が設定されている建物は事務所棟31の1個所であるため、図13の矢印で示されているように、従業員は各工場から一斉に街路に出て、事務所棟31の方向に移動する。このため、街路には従業員であふれて、図6、図7で説明したように各従業員の移動が困難となることが予測される。特に、事務所棟31に通じる横方向の街路34a、事務所棟31の入り口の街路33hは混雑する。
【0080】
図14、図15を対比すると、地震発生後の避難開始時間を早めれば、地震発生後の同一時間経過後に、予め設定されている最終避難場所が設定されている建物への従業員の避難者数が増大し、死亡者数も減少する。すなわち、最終避難場所が設定されている建物が1個所であっても、地震発生後の初動避難活動で、ある程度の人的損害の発生を抑制することが可能となる。しかしながら、前記のように、一度に大勢の従業員が1個所の最終避難場所へ避難するので、街路に占める従業員の密度が増大して移動が困難となる。このため、最終避難場所が設定されている建物へ移動するために時間を要することになるという問題がある。
【0081】
ケース、3、ケース4は、このような問題を解決するために、津波対策として特別に最終避難場所を工場Dの任意の場所にも設定して、最終避難場所を2個所に設定するものである。このようにして、ケース3、ケース4においては、地震発生後の街路や、最終避難場所が設定されている建物への従業員の移動方向を2方向に分散させて、混雑を緩和している。
【0082】
(a)ケース3
図11は、最終避難場所(事務所棟31の3階の一室と工場Dの3階の一室)が設定されている建物が2個所、10分後に避難を開始した場合の例を示している。各街路や事務所棟31、工場D(32)に点在している黒点は、避難者を示している。図11(1)は、地震発生から15分経過後、図11(2)は、地震発生から19分経過後、図11(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。
【0083】
ケース3の例について、図17の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照すると、地震発生から15分経過(避難開始から5分経過)の時点で、400人以上の従業員が避難を終了している。事務所棟31、工場Dには、ほぼ等しい200人程度の従業員が分散して避難している。地震発生から19分経過(避難開始から9分経過)の前後の時点で、津波による死亡者が出始めて、地震発生から20分経過(避難開始から10分経過)の時点では、死亡者は3名となっている。地震発生から20分経過後では、事務所棟31には220人程度、工場Dには、380人程度の従業員が避難している。なお、地震発生から18分経過の時点では、ほぼ全従業員が避難を終了している。
【0084】
(b)ケース4
図12は、最終避難場所が2個所(事務所棟31の3階の一室と工場Dの3階の一室)、5分後に避難を開始した場合の例を示している。図12(1)は、地震発生から15分経過後、図12(2)は、地震発生から19分経過後、図12(3)は、地震発生から20分経過後、の状況を示している。次に、ケース4の例について、図18の避難完了人数/死亡者数、の特性図を参照する。
【0085】
地震発生から10分経過(避難開始から5分経過)の時点で、400人以上の従業員が避難を終了している。事務所棟31、工場D内の最終避難場所には、ほぼ等しい200人程度の従業員が分散して避難している。地震発生から18分経過(避難開始から13分経過)の時点で、ほぼ全従業員が避難を終了している。この例では、津波による死亡者はいなかった。事務所棟31には220人程度、工場Dには、380人程度の従業員が避難している。
【0086】
このように、最終避難場所が設定されている建物を事務所棟31と工場Dの2個所設定したケース3、ケース4の例では、最終避難場所が設定されている建物を事務所棟31の1個所だけのケース1、ケース2の場合よりも死亡者数が減少している。図16の矢印で示されているように、従業員の街路における移動方向は、事務所棟31と工場D(32)に分散される。このため、図13のように最終避難場所を事務所棟31の1個所にのみ設定した場合よりも街路における混雑が緩和されて、従業員の移動が迅速に行なわれる。
【0087】
なお、従業員が第1の最終避難場所、または第2の最終避難場所のいずれに避難するかは、前記のように最終避難場所への移動距離や、収容人数などを考慮して予め工場単位で決めておくことができる。この場合に、工場内で2つのグループに分けて、異なる最終避難場所へ避難させることもできる。例えば、図16に示されているように、工場Eの従業員は、自分の職場に近い出口(扉)が、第1の最終避難場所、または第2の最終避難場所のいずれであるかにより、その避難先が決められる。
【0088】
図13、図16のように1個所、または2個所の避難場所が設定されている建物に、大勢の従業員を短時間に避難させる場合には、前記したように、工場の出口の扉のような短期的な移動目標の設定と、最終避難場所への長期的な移動目標の設定が混雑緩和に有効である。
【0089】
以上説明したように本発明においては、次の3つの特徴を有するものである。(1)空間データに「空間属性」パラメータを与え、モデル上の避難者は、このパラメータを取り入れて、避難行動を決定することができる。(2)空間属性が「一時待機場所」になっている場合には、その空間で一時待機し、新たな誘導表示があたえられた場合、または、一定時間経過後に移動を再開するような行動を表現できる。(3)避難誘導対策(非常放送等)の実施の有無に関する情報を、空間データに「誘導表示」パラメータとして与え、モデル上の避難者は、このパラメータを取り入れて、避難行動を決定することができる。
【0090】
本発明の避難行動予測手法を用いることによって、(1)ある施設で地震が発生した場合の避難安全性を、視覚的、定量的に確認することが可能となる。(2)非常放送や誘導標識などの避難誘導対策の有効性も検証することが可能である。(3)一時待機スペースの活用や、配置計画等にも活用できる。(4)階避難だけでなく、全館避難の状況も再現することができる。
【0091】
上記の説明は、湾岸に立地する生産施設を含む街区を対象としている。しかしながら、本発明の避難行動予測システムおよび避難行動予測方法は、このような生産施設を含む街区には限定されず、湾岸地帯に複数の建物が建設されている街区における避難行動予測に対して適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、災害発生時に空間の属性に応じて避難者の行動を変化させる構成の避難行動予測システムおよび避難行動予測方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態を示すフローチャートである。
【図4】空間のモデル化の概念図である。
【図5】自力避難者の短期移動目標の選択ルールを示す説明図である。
【図6】避難者の移動方向および位置決定に関する概念図である。
【図7】群集密度を考慮した歩行速度を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図10】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図11】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図14】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図15】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図16】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図17】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図18】本発明の実施形態を示す特性図である。
【図19】シミュレーションモデルの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0094】
1・・・避難行動予測システム、2・・・津波シナリオ・データ、3・・・時間データ、4・・・津波データ、5・・・空間データ、6・・・人間データ、7・・・データ入力部、10・・・制御部、11・・・時間データ格納部、12・・・津波データ格納部、13・・・空間データ格納部、14・・・人間データ格納部、15・・・避難者行動位置算出部、16・・・画像表示部、17・・・データ出力部、18、19・・・出力データファイル、30・・・対象施設、31・・・事務所棟(第1の最終避難場所が設定されている建物)、32・・・第2の最終避難場所が設定されている建物(工場D)、40・・・部屋、41,42・・・廊下、43・・・壁、44・・・ドア、45・・・誘導灯、46・・・出口、47・・・付室、48・・・階段室、49・・・階段、50・・・避難者、A〜F・・・工場、G・・・倉庫、H・・・守衛棟。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
震源位置などの津波シナリオ・データ、前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データ、および空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データ、空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データ、特定化された避難者個人のパラメータである人間データ、の各データを入力する入力手段と、
前記入力手段で入力された各データを格納・演算・更新する記憶手段と、
前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する制御手段と、
前記制御手段で算出された避難者の位置に関する情報を出力する出力手段と、を備えたこ とを特徴とする、避難行動予測システム。
【請求項2】
前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されることを特徴とする、請求項1に記載の避難行動予測システム。
【請求項3】
前記最終避難場所は、当該建物の任意の場所に設定したことを特徴とする、請求項2に記載の避難行動予測システム。
【請求項4】
前記最終避難場所を複数個所に設定し、前記施設内の各建物内に存在している前記避難者を、前記複数の最終避難場所に分散して避難させることを特徴とする、請求項3に記載の避難行動予測システム。
【請求項5】
前記津波データによる津波遡上高さの解析結果と、前記各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の避難行動予測システム。
【請求項6】
前記空間データは、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の避難行動を予測することを特徴とする、請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の避難行動予測システム。
【請求項7】
前記最終避難場所を前記避難者が避難する長期移動目標に設定し、前記避難者が存在している前記各建物には、それぞれ短期移動目標が設定されていることを特徴とする、請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の避難行動予測システム。
【請求項8】
ある空間に存在する避難者の避難行動予測方法であって、
(1)前記空間に関連する空間データを読み込む段階と、
(2)前記空間に関連する津波データを読み込む段階と、
(3)前記空間に関連する前記避難者である人間データを読み込む段階と、
(4)前記避難者の移動に伴い位置座標を更新する段階と、
(5)前記移動後の位置座標に対応する前記人間データを更新する段階と、
(6)前記移動後の位置座標に対応する前記空間データを更新する段階と、
(7)時間ステップを更新する段階と、
からなることを特徴とする、避難行動予測方法。
【請求項9】
震源位置などの津波シナリオ・データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データを入力する段階と、
空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データを入力する段階と、
特定化された避難者個人のパラメータである人間データを入力する段階と、
前記時間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記津波データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記空間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記人間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する段階と、
前記算出された避難者の位置に関する情報を出力する段階と、
からなることを特徴とする、避難行動予測方法。
【請求項10】
前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されており、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする、請求項9に記載の避難行動予測方法。
【請求項11】
前記津波データは、津波遡上高さの解析結果を含み、前記空間データに含まれる各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定して、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の避難行動予測方法。
【請求項1】
震源位置などの津波シナリオ・データ、前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データ、および空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データ、空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データ、特定化された避難者個人のパラメータである人間データ、の各データを入力する入力手段と、
前記入力手段で入力された各データを格納・演算・更新する記憶手段と、
前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する制御手段と、
前記制御手段で算出された避難者の位置に関する情報を出力する出力手段と、を備えたこ とを特徴とする、避難行動予測システム。
【請求項2】
前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されることを特徴とする、請求項1に記載の避難行動予測システム。
【請求項3】
前記最終避難場所は、当該建物の任意の場所に設定したことを特徴とする、請求項2に記載の避難行動予測システム。
【請求項4】
前記最終避難場所を複数個所に設定し、前記施設内の各建物内に存在している前記避難者を、前記複数の最終避難場所に分散して避難させることを特徴とする、請求項3に記載の避難行動予測システム。
【請求項5】
前記津波データによる津波遡上高さの解析結果と、前記各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の避難行動予測システム。
【請求項6】
前記空間データは、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の避難行動を予測することを特徴とする、請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の避難行動予測システム。
【請求項7】
前記最終避難場所を前記避難者が避難する長期移動目標に設定し、前記避難者が存在している前記各建物には、それぞれ短期移動目標が設定されていることを特徴とする、請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の避難行動予測システム。
【請求項8】
ある空間に存在する避難者の避難行動予測方法であって、
(1)前記空間に関連する空間データを読み込む段階と、
(2)前記空間に関連する津波データを読み込む段階と、
(3)前記空間に関連する前記避難者である人間データを読み込む段階と、
(4)前記避難者の移動に伴い位置座標を更新する段階と、
(5)前記移動後の位置座標に対応する前記人間データを更新する段階と、
(6)前記移動後の位置座標に対応する前記空間データを更新する段階と、
(7)時間ステップを更新する段階と、
からなることを特徴とする、避難行動予測方法。
【請求項9】
震源位置などの津波シナリオ・データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、避難行動を予測するために必要な時間に関するパラメータである時間データを入力する段階と、
前記津波シナリオ・データに基づき形成される、空間内の津波伝播・遡上に関するパラメータである津波データを入力する段階と、
空間とそれに付随する設備などに関するパラメータである空間データを入力する段階と、
特定化された避難者個人のパラメータである人間データを入力する段階と、
前記時間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記津波データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記空間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記人間データを記憶手段に格納・更新する段階と、
前記記憶手段に格納された各データに基づき、避難者の次の時間ステップ後における位置に関する情報を算出する段階と、
前記算出された避難者の位置に関する情報を出力する段階と、
からなることを特徴とする、避難行動予測方法。
【請求項10】
前記空間データは、施設内に複数の建物を有し、各建物と最終避難場所が定められている建物を街路で連絡した街区のモデルで設定されており、前記各建物内に存在している障害物の位置、数量のようなデータを含み、前記各障害物の地震発生時における耐震性の評価結果に基づき、地震の規模毎に前記障害物の転倒で利用できなくなる避難経路を特定し、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする、請求項9に記載の避難行動予測方法。
【請求項11】
前記津波データは、津波遡上高さの解析結果を含み、前記空間データに含まれる各建物の各階の高さとの関係に基づき、前記各建物の津波遡上の影響を受ける階を特定して、前記避難者の位置に関する情報を算出することを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の避難行動予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−206803(P2007−206803A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22443(P2006−22443)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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