説明

還元型グルタチオンの製法

【課題】食品、医薬品、化粧品等に使用される還元型グルタチオンを簡便で工業的に有利に製造できる、特殊な設備を必要とすることなく、水溶液中でも収率よく反応が進行し、目的物の単離・精製が容易な、酸化型グルタチオンの還元方法を提供する。
【解決手段】酸化型グルタチオンを、貴金属及び銅化合物、好ましくは亜酸化銅、存在下、還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化型グルタチオンを還元する還元型グルタチオンの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元型グルタチオンの製造方法として、従来より、酸化型グルタチオンを還元する方法が行われている。一般に、ジスルフィド結合を還元してチオール基とする反応は種々知られており、代表的なものとして、メルカプトエタノールなどのチオール性還元剤を用いる方法、電解還元する方法、ナトリウムボロハイドライドなどの還元剤を用いる方法、グルタチオンレダクターゼなどの酵素を用いる方法、等が知られている。
酸化型グルタチオンの還元についても、これらの方法について、ペプチドである特性、光学活性等、を考慮した適用が検討され、例えば、メルカプト低級アルコール及び二価の水溶性鉛塩を反応させる方法、液体アンモニア中でナトリウムと反応させる方法、亜鉛などの金属と鉱酸による方法、硫化ナトリウム、シアン化ナトリウム、ヨウ化ホスホニウムあるいは水素化ホウ素アルカリ金属塩などによる方法、接触還元方法、電解還元方法、水素貯蔵合金による還元方法(特許文献1、非特許文献1)、などが報告されている。
【0003】
しかしながら、これら方法を食品や医薬品に応用する場合は、反応装置に多額に費用を要したり、水溶液中での反応が十分に進行しなかったり、反応中に生成する副生物の除去が困難であったりする、という問題点を有していた。更に、還元反応終了後、目的物の単離・精製には、一般に、反応物に亜酸化銅を作用させて還元型グルタチオンを銅塩としなければならない、という問題点もあり、更にすぐれた方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特公昭40−16529号公報、同46−33938号公報、同46−33939号公報、同47−8053号公報、同57−16196号公報、特開平4−154730号公報
【非特許文献1】J.Biol.Chem. 1946 116 469、Biochem.J. 1921 15 292、Biochem.J. 1935 29 1622、Biochem.Z. 1931 230 353、J.Org.Chem. 1957 22 805
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特殊な設備を必要とすることなく、水溶液中でも収率よく反応が進行し、目的物の単離・精製が容易な、簡便で工業的に有利な酸化型グルタチオンの還元方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく研究の結果、貴金属及び銅化合物を用いることで課題を解決できることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち本発明は、
(1)酸化型グルタチオンを、貴金属及び銅化合物存在下、ジスルフィド結合を還元することを特徴とする、還元型グルタチオンの製法、
(2)銅化合物が亜酸化銅である、上記(1)記載の還元型グルタチオンの製法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、特殊な設備等を使用することなく、副生物がほとんどなく、好収率で、簡便で、工業的に有利な製法である。
また、銅化合物として亜酸化銅を用いることにより、反応後、還元型グルタチオンは銅塩としてそのまま分離・精製できるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の出発物質である酸化型グルタチオンは、その由来は特に限定されず、また、精製品でも粗精製品でも用いることが出来る。更に、本反応は水溶液中で好適に進行するため、酸化型グルタチオンを含む水溶液もそのまま用いることができる。
【0008】
還元は、貴金属及び銅化合物存在下実施される。
用いられる貴金属は、金、銀、及び白金属の金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)であり、これら金属は、粉末、炭素等の支持体に担持させたもの、あるいは塩化物、硝酸化合物等の化合物、として用いられ、中でも、パラジウム、ルテニウム、白金を炭素等の支持体に担持させたものが特に好適である。
これら貴金属は、酸化型グルタチオンに対して、0.01〜1重量%(貴金属として)程度使用することが好ましい。
【0009】
用いられる銅化合物としては、亜酸化銅、硫酸銅等を例示することができるが、一価の銅が好ましく、中でも亜酸化銅が、反応終了後、目的物を銅塩としてただちに分離・精製できるため特に好ましい。
銅化合物は、酸化型グルタチオンに対して、0.5〜10倍モル程度、好ましくは当モルから5倍モル程度使用することが好ましい。これ未満であると反応が十分に進行せず、また、これを越えて用いても収率の向上には寄与しない。
【0010】
反応は、酸化型グルタチオン、貴金属及び銅化合物を、溶媒存在下、撹拌することにより実施される。
用いられる溶媒としては、反応を阻害しないものであれば制限はないが、特に水が好ましい。
反応温度は室温から若干高められた温度、具体的には10〜50℃程度、反応時間は反応条件にもよるが、反応は直ちに進行するため、30分から数時間程度で十分である。反応時間が長くなる場合、副生物の生成は認められないものの、生成した還元型グルタチオンが酸化され、酸化型グルタチオンに変換される場合があり、好ましくない。
【0011】
反応終了後、目的物の単離は、公知の方法、例えば、沈殿物を濾取し、水に分散させた後、硫化水素を導入し銅を分離することにより、容易に単離・精製することができる。
なお、貴金属は、常法により反応液から回収することができる。
【実施例】
【0012】
以下実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
実施例1
水40mlに酸化型グルタチオン1.36gを溶解し、ルテニウム−炭素(ルテニウム5%)0.268gを加え、43℃に加温した。これに、撹拌下、亜酸化銅0.66gを加えると白い沈殿が析出し始め、引き続き30分間反応した。反応液の上澄液について、酸化型グルタチオンの残存量を高速液体クロマトグラフィーで分析を行ったところ30%であった。(転換率70%)。
反応終了後、生成した白色の沈殿物を遠心分離で取得、これを水に分散し硫化水素を吹き込み、沈殿を濾去、上澄液を濃縮したのちエタノールを添加することにより、還元型グルタチオン得た。
融点:180.2℃ 旋光度:[α]=−15.71°(C=4、HO)
本化合物は、標品との赤外線吸収スペクトルの比較により、その構造を同定した。
【0013】
比較例1
実施例1において、亜酸化銅を加えることなく、他は実施例1と同様に反応を実施した。
30分間反応したが白色の沈殿物は生成せず、また、反応液について高速液体クロマトグラフィーで分析を行ったところ、酸化型グルタチオンから還元型グルタチオンへの変換は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
以上説明してきたように、本発明は、特殊な設備を必要とすることなく、水溶液中でも収率よく反応が進行し、目的物の単離・精製も容易な、簡便で工業的に有利な酸化型グルタチオンの還元方法であり、食品、医薬品、化粧品等に使用される還元型グルタチオンを有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化型グルタチオンを、貴金属及び銅化合物存在下、ジスルフィド結合を還元することを特徴とする、還元型グルタチオンの製法。
【請求項2】
銅化合物が亜酸化銅である、請求項1記載の還元型グルタチオンの製法。

【公開番号】特開2007−277109(P2007−277109A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102101(P2006−102101)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】