説明

還元型補酵素Q10を安定化するための方法

【課題】食品、栄養機能食品、特定保健用食品、栄養補助剤、栄養剤、動物薬、飲料、飼料、化粧品、医薬品、治療薬、予防薬等として有用な還元型補酵素Q10を安定化するための方法並びに組成物を提供すること。
【解決手段】還元型補酵素Q10と油脂との混合物に、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドと、アスコルビン酸類を共存させた組成物とすることにより、空気中で容易に酸化される還元型補酵素Q10を安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型補酵素Q10の安定化方法に関する。還元型補酵素Q10は、酸化型補酵素Q10と比較して高い経口吸収性を示し、優れた、食品、栄養機能食品、特定保健用食品、栄養補助剤、栄養剤、動物薬、飲料、飼料、化粧品、医薬品、治療薬、予防薬等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
還元型補酵素Q10は、例えば、合成、発酵、天然物からの抽出等の従来公知の方法により補酵素Q10を得た後、クロマトグラフィーにより流出液中の還元型補酵素Q10区分を濃縮する方法等により得られることが知られている(特許文献1)。この場合には、上記還元型補酵素Q10中に含まれる酸化型補酵素Q10を、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(次亜硫酸ナトリウム)等の一般的な還元剤を用いて還元した後、クロマトグラフィーによる濃縮を行っても良いこと、また、還元型補酵素Q10は、既存の高純度補酵素Q10に上記還元剤を作用させる方法によっても得られることが、該特許公報中に記載されている。
【0003】
しかしながら、このようにして得られる還元型補酵素Q10は、必ずしも純度が高い状態では取得できず、例えば、酸化型補酵素Q10をはじめとする不純物を含有する低純度結晶や油状物、半固体状として得られやすい。
【0004】
本発明者らは、鋭意検討の結果、高品質の還元型補酵素Q10を得るための製法を確立し、特許出願した(例えば、特許文献2〜4)。
【0005】
しかしながら、還元型補酵素Q10は、分子酸素によって酸化型補酵素Q10に酸化されやすく、上記特許出願のような方法により高品質の還元型補酵素Q10を製造した場合でも、還元型補酵素Q10を食品、栄養機能食品、特定保健用食品、栄養補助剤、栄養剤、動物薬、飲料、飼料、化粧品、医薬品、治療薬、予防薬等、あるいはそれらの素材や組成物に加工する際、及び/又は、加工後保存する際、還元型補酵素Q10の安定化が重要な課題として残されている。上記の加工や保存に際して、完全な酸素の除去あるいは遮断は極めて難しく、特に加工時の加温や長期にわたる保存において、残存するあるいは混入する酸素が大きな悪影響を及ぼす。上記酸化は、酸化型補酵素Q10の副生といった品質面の問題に直結する。
【0006】
このように還元型補酵素Q10を安定化する(酸化から防護する)ことは非常に重要な課題であるが、現在まで還元型補酵素Q10が市販されていないために、還元型補酵素Q10を安定に保持するための方法及び組成物に関する研究はほとんどなされていない。わずかに、還元剤を共存させた組成物並びにその製造法について記述した例(特許文献5)や、還元型補酵素Q10と、油脂及び/又はポリオールからなる安定化組成物の例(特許文献6)等が報告されている。
【0007】
この特許文献5には、
1)還元型補酵素Q10、還元型補酵素Q10が酸化型補酵素Q10に酸化されるのを抑制するために有効な量の還元剤、及び、上記還元型補酵素Q10と上記還元剤を溶解するために有効な量の界面活性剤又は植物油又はこれらの混合物、そして必要に応じて溶媒からなる組成物、
2)上記組成物をゼラチンカプセル又はタブレットに製剤化した経口投与のための組成物、更に、
3)酸化型補酵素Q10並びに還元剤を用いてin situで還元型補酵素Q10を含有する上記組成物を調製する方法
が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献5には、製法あるいは組成物については記載されているものの、組成物中に含まれる還元型補酵素Q10の品質(例えば、還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10の重量比等)については触れられておらず、また、還元型補酵素Q10が安定化されるとの記載はあるものの、安定化効果等に関する詳細な記述や、実施例がなく、どの程度の安定化が見込めるかは明らかでない。また、上記の組成物やその調製方法は、組成物に複数の役割(すなわち、第一に酸化型補酵素Q10を還元型補酵素Q10に還元する反応の場としての役割、第二に還元型補酵素Q10を安定に保持する役割)を持たせるため、非常に複雑・煩雑なものとなっている。さらに、上記組成物やその調製方法においては、反応混合物がそのまま用いられているために必ずしも安全であるとは言い難い。また、上記特許文献5で、具体的に開示されている界面活性剤は、Span80とTween80であるが、Tween80等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは食品衛生法上、日本では使用できない。
【0009】
一方、特許文献6には、還元型補酵素Q10が、油脂やポリオールの存在下で安定化されること、またポリグリセリン脂肪酸エステル、具体的には重合度2のポリグリセリン脂肪酸エステルが、これら油脂やポリオールの安定化作用を阻害しない界面活性剤であることが記載されている。
【特許文献1】特開平10−109933号公報
【特許文献2】WO03/06408号公報
【特許文献3】WO03/06409号公報
【特許文献4】WO03/32967号公報
【特許文献5】WO01/52822号公報
【特許文献6】WO03/062182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したような従来の還元型補酵素Q10の安定化効果について、発明者らが予備的に検討したところ、特許文献5に具体的開示のある還元型補酵素Q10を含有する組成物の安定性は必ずしも十分でないことがわかった。また、特許文献6の実施例で使用されたジグリセリン脂肪酸エステルは、安定化を阻害しないものの、還元型補酵素Q10を含有する組成物として、現在、ニーズによってはさらなる安定化が望まれることもある。
【0011】
本発明は、上記に鑑み、還元型補酵素Q10を含有する食品、栄養機能食品、特定保健用食品、栄養補助剤、栄養剤、動物薬、飲料、飼料、化粧品、医薬品、治療薬、予防薬等、あるいはそれらの素材や組成物に加工するに際して、及び/又は、加工後保存するに際して、還元型補酵素Q10を酸化から防護して安定に長期間保持するための簡便且つ好適な方法、並びに組成物や経口投与形態を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、還元型補酵素Q10を安定化させるのに際し、油脂中において、アスコルビン酸類と、特定の界面活性剤を使用することにより、還元型補酵素Q10は分子酸素による酸化から驚くほど好適に防護され、還元型補酵素Q10を長期間安定に保存できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、還元型補酵素Q10と油脂との混合物に、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドと、アスコルビン酸類を共存させることを特徴とする還元型補酵素Q10の安定化方法に関する。
また、本発明は、還元型補酵素Q10、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリド、並びにアスコルビン酸類を含有してなる、還元型補酵素Q10の安定な組成物に関する。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、補酵素Q10とのみ記載した場合は、酸化型、還元型を問わず、両者が混在する場合には混合物全体を表すものである。
【0015】
本発明の安定化方法においては、還元型補酵素Q10と油脂との混合物に、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドと、アスコルビン酸類を共存させることにより、還元型補酵素Q10を安定化させる。
また、本発明は、還元型補酵素Q10、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリド、並びに、アスコルビン酸類を含有してなる、還元型補酵素Q10の安定な組成物でもある。
【0016】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンの重合度が3以上であれば、脂肪酸残基の数や種類にかかわらず使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0017】
【化1】

【0018】
ここで、一般的には、nは0以上の整数であり、(n+1)はグリセリンの重合度を表す。すなわち、本発明において使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルの場合、nは2以上の整数となる。Rはそれぞれ独立して脂肪酸残基(但し、縮合リシノレイン酸脂肪酸残基である場合を除く)又は水素原子を表す。但し、すべてのRが水素原子であることはない。
【0019】
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの重合度の上限は特に制限されないが、好ましくは22以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。つまり、ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの重合度は、好ましくは3〜22、より好ましくは3〜15、さらに好ましくは3〜10、特に好ましくは4〜10である。
【0020】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸残基(上記一般式(1)におけるRが水素原子以外の場合)としては、飽和、不飽和を問わず各種脂肪酸残基が使用でき、特に制限されないが、特に脂肪酸残基の炭素数が8〜18のものが好ましく用いられる。このような脂肪酸残基としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の脂肪酸残基を挙げることができる。尚、脂肪酸残基が2つ以上存在する場合、それぞれの脂肪酸残基は同一であっても良く、異なっていても良いが、入手の容易性等の観点からは同一であるものが好ましい。
【0021】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸残基の数(上記一般式(1)におけるRが脂肪酸残基である場合の数)は、グリセリンの重合度等により異なるので特に制限されない。上限は、ポリグリセリン骨格に存在するヒドロキシル基の数(すなわちグリセリンの重合度+2)である。好ましくは脂肪酸残基の数/(グリセリンの重合度+2)が0.7以下、より好ましくは脂肪酸残基の数/(グリセリンの重合度+2)が0.5以下、さらに好ましくは脂肪酸残基の数/(グリセリンの重合度+2)が0.3以下となるようなポリグリセリン脂肪酸エステルであり、最も好ましくは、脂肪酸残基の数が1のポリグリセリンモノ脂肪酸エステルである。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル中の脂肪酸残基の数の範囲は1〜5であることが特に好ましい。
【0022】
本発明において使用できるポリグリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、トリグリセリンジ脂肪酸エステル、トリグリセリントリ脂肪酸エステル、トリグリセリンテトラ脂肪酸エステル、トリグリセリンペンタ脂肪酸エステル、テトラグリセリンモノ脂肪酸エステル、テトラグリセリンジ脂肪酸エステル、テトラグリセリントリ脂肪酸エステル、テトラグリセリンテトラ脂肪酸エステル、テトラグリセリンペンタ脂肪酸エステル、テトラグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンジ脂肪酸エステル、ペンタグリセリントリ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンテトラ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンペンタ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンヘプタ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンジ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリントリ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンテトラ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンペンタ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンヘプタ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンオクタ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンジ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリントリ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンテトラ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンペンタ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンへプタ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンオクタ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンノナ脂肪酸エステル、オクタグリセリンモノ脂肪酸エステル、オクタグリセリンジ脂肪酸エステル、オクタグリセリントリ脂肪酸エステル、オクタグリセリンテトラ脂肪酸エステル、オクタグリセリンペンタ脂肪酸エステル、オクタグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、オクタグリセリンヘプタ脂肪酸エステル、オクタグリセリンオクタ脂肪酸エステル、オクタグリセリンノナ脂肪酸エステル、オクタグリセリンデカ脂肪酸エステル、ノナグリセリンモノ脂肪酸エステル、ノナグリセリンジ脂肪酸エステル、ノナグリセリントリ脂肪酸エステル、ノナグリセリンテトラ脂肪酸エステル、ノナグリセリンペンタ脂肪酸エステル、ノナグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、ノナグリセリンヘプタ脂肪酸エステル、ノナグリセリンオクタ脂肪酸エステル、ノナグリセリンノナ脂肪酸エステル、ノナグリセリンデカ脂肪酸エステル、ノナグリセリンウンデカ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンジ脂肪酸エステル、デカグリセリントリ脂肪酸エステル、デカグリセリンテトラ脂肪酸エステル、デカグリセリンペンタ脂肪酸エステル、デカグリセリンヘキサ脂肪酸エステル、デカグリセリンヘプタ脂肪酸エステル、デカグリセリンオクタ脂肪酸エステル、デカグリセリンノナ脂肪酸エステル、デカグリセリンデカ脂肪酸エステル、デカグリセリンウンデカ脂肪酸エステル、デカグリセリンドデカ脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0023】
好ましくは、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、トリグリセリンジ脂肪酸エステル、テトラグリセリンモノ脂肪酸エステル、テトラグリセリンジ脂肪酸エステル、テトラグリセリントリ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンジ脂肪酸エステル、ペンタグリセリントリ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンジ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリントリ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンテトラ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンジ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリントリ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンテトラ脂肪酸エステル、オクタグリセリンモノ脂肪酸エステル、オクタグリセリンジ脂肪酸エステル、オクタグリセリントリ脂肪酸エステル、オクタグリセリンテトラ脂肪酸エステル、オクタグリセリンペンタ脂肪酸エステル、ノナグリセリンモノ脂肪酸エステル、ノナグリセリンジ脂肪酸エステル、ノナグリセリントリ脂肪酸エステル、ノナグリセリンテトラ脂肪酸エステル、ノナグリセリンペンタ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンジ脂肪酸エステル、デカグリセリントリ脂肪酸エステル、デカグリセリンテトラ脂肪酸エステル、デカグリセリンペンタ脂肪酸エステル、デカグリセリンヘキサ脂肪酸エステル等である。特に好ましくは、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、テトラグリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンジ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンジ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンジ脂肪酸エステル、オクタグリセリンモノ脂肪酸エステル、オクタグリセリンジ脂肪酸エステル、オクタグリセリントリ脂肪酸エステル、ノナグリセリンモノ脂肪酸エステル、ノナグリセリンジ脂肪酸エステル、ノナグリセリントリ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンジ脂肪酸エステル、デカグリセリントリ脂肪酸エステル等である。最も好ましくは、トリグリセリンモノ脂肪酸エステル、テトラグリセリンモノ脂肪酸エステル、ペンタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘキサグリセリンモノ脂肪酸エステル、ヘプタグリセリンモノ脂肪酸エステル、オクタグリセリンモノ脂肪酸エステル、ノナグリセリンモノ脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル等である。
【0024】
また、本発明において、縮合リシノレイン酸ポリグリセリドは、グリセリンの重合度等にかかわらず使用できる。縮合リシノレイン酸ポリグリセリドは、下記一般式(2)で示される化合物である。
【0025】
【化2】

【0026】
(上記式中、nは0以上の整数であり、(n+1)はグリセリンの重合度を表す。
はそれぞれ独立して下記式(3)で表される縮合リシノレイン酸(式中、mは0〜18の整数を表す)の脂肪酸残基又は水素原子を表す。但し、すべてのRが水素原子であることはない。
【0027】
【化3】

【0028】
本発明において、縮合リシノレイン酸ポリグリセリドのグリセリンの重合度(上記一般式(2)における(n+1))は、特に制限されないが、例えば、重合度1〜10のものを挙げることができる。グリセリンの重合度は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上である。上限は特に制限されないが、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。
【0029】
このような縮合リシノレイン酸ポリグリセリドとしては、例えば、縮合リシノレイン酸モノグリセリド、縮合リシノレイン酸ジグリセリド、縮合リシノレイン酸トリグリセリド、縮合リシノレイン酸テトラグリセリド、縮合リシノレイン酸ペンタグリセリド、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリド、縮合リシノレイン酸ヘプタグリセリド、縮合リシノレイン酸オクタグリセリド、縮合リシノレイン酸ノナグリセリド、縮合リシノレイン酸デカグリセリド等を挙げることができる。好ましくは、縮合リシノレイン酸テトラグリセリド、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリド等である。
【0030】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステル及び縮合リシノレイン酸ポリグリセリドは、どちらかの成分を単独で使用しても良いが、言うまでもなく、両者を併用して使用しても良い。
また、上記いずれの場合においても、ポリグリセリン脂肪酸エステル自体は、1種でも2種以上でも使用することができる。同様に、縮合リシノレイン酸ポリグリセリド自体は、1種でも2種以上でも使用することができる。
【0031】
本発明で使用する油脂としては特に制限されないが、動植物からの天然油脂であってもよく、合成油脂や加工油脂であってもよい。植物油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、菜種油、米油、オリーブ油、落花生油、コーン油、小麦胚芽油、大豆油、エゴマ油、綿実油、ヒマワリ種子油、カポック油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ゴマ油、サフラワー油等を挙げることができ、動物油脂としては、例えば、豚脂、乳脂、魚油、牛脂等を挙げることができ、更に、これらを分別、水素添加、エステル交換等により加工した油脂(例えば、硬化油)も挙げることができる。言うまでもなく、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、脂肪酸の部分グリセリド、リン脂質等も使用しうる。これら油脂は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0032】
中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、脂肪酸の炭素数が各々6〜12、好ましくは8〜12のトリグリセリド等を挙げることができる。また、脂肪酸の部分グリセリドとしては、例えば、脂肪酸の炭素数が各々6〜18、好ましくは6〜12のモノグリセリドやジグリセリド等を挙げることができる。さらに、リン脂質としては、例えばレシチン等を挙げることができる。
【0033】
上記油脂のうち、取り扱い易さ、臭気等の面から植物油脂、合成油脂や加工油脂が好ましい。これらは油脂の価格、還元型補酵素Q10の安定性や、補酵素Q10の溶解性等を考慮して選定するのが好ましい。例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油、菜種油、米油、オリーブ油、大豆油、綿実油、サフラワー油、MCT等が好ましく、米油、大豆油、菜種油、MCT等が特に好ましい。尚、補酵素Q10の溶解性の観点からは、MCTを特に好適に使用することができる。
【0034】
上記油脂とポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドの重量割合は特に制限されないが、油脂とポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドの合計量(100重量%)に対する油脂の重量割合として、下限は、好ましくは約20重量%以上、より好ましくは約30重量%以上、さらに好ましくは約40重量%以上、特に好ましくは約50重量%以上であり、上限は、好ましくは約95重量%以下、より好ましくは約90重量%以下、さらに好ましくは約80重量%以下である。つまり、好ましくは約20〜95重量%、より好ましくは約30〜90重量%、さらに好ましくは約40〜80重量%、特に好ましくは約50〜80重量%の範囲で好適に実施できる。
【0035】
本発明において、還元型補酵素Q10は、還元型補酵素Q10単独でも良く、又、酸化型補酵素Q10との混合物であっても良い。上記混合物の場合、還元型補酵素Q10の補酵素Q10の総量(すなわち、還元型補酵素Q10及び酸化型補酵素Q10の合計量)に占める割合は、特に制限されないが、例えば20重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは96重量%以上である。上限は100重量%であり、特に限定されないが、普通99.9重量%以下である。
【0036】
上記還元型補酵素Q10の含有量としては、特に制限されない。一般に、還元型補酵素Q10の安定性や使用の容易さ・便利さ等も考慮して、油脂とポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドの合計量(100重量%)に対する還元型補酵素Q10の重量割合として、好ましくは約1重量%以上、より好ましくは約2重量%以上、さらに好ましくは約3重量%以上、特に好ましくは約5重量%以上、最も好ましくは約10重量%以上である。上限は特に制限されないが、液性状等を考慮して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。
【0037】
本発明で使用するアスコルビン酸類としては、特に制限されず、例えば、アスコルビン酸のみならず、rhamno−アスコルビン酸、arabo−アスコルビン酸、gluco−アスコルビン酸、fuco−アスコルビン酸、glucohepto−アスコルビン酸、xylo−アスコルビン酸、galacto−アスコルビン酸、gulo−アスコルビン酸、allo−アスコルビン酸、erythro−アスコルビン酸、6−デスオキシアスコルビン酸等のアスコルビン酸に類するものを含み、更に、それらのエステル体や塩であってもかまわない。これらは、L体、D体、あるいは、ラセミ体であっても良い。具体的には、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビルパルミテート、L−アスコルビルステアレート、L−アスコルビルジパルミテート、L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸カルシウム、D−arabo−アスコルビン酸等を挙げることができる。本発明においては、上記アスコルビン酸類をいずれも好適に使用しうるが、入手容易性、価格等の観点から、好ましくは、L−アスコルビン酸、D−arabo−アスコルビン酸、L−アスコルビルパルミテート、L−アスコルビルステアレート等である。言うまでもなく、これらのアスコルビン酸類は単独あるいは複数用いても良い。
【0038】
上記アスコルビン酸類の使用量としては、還元型補酵素Q10の安定化に効果のある量であれば特に制限されないが、還元型補酵素Q10100重量部に対して、下限は、好ましくは1重量部以上、より好ましくは10重量部以上、さらに好ましくは約20重量部以上、特に好ましくは約30重量部以上、最も好ましくは約50重量部以上、とりわけ好ましくは約100重量部以上である。上限は特に制限されないが、経済性等の観点から、好ましくは約10000重量部以下、より好ましくは約5000重量部以下、さらに好ましくは約3000重量部以下、特に好ましくは約2000重量部以下である。
【0039】
本発明において、油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び縮合リシノレイン酸ポリグリセリドは、食用又は医薬用に許容されるものであることが好ましい。
また、本発明において、還元型補酵素Q10やアスコルビン酸類は、一般に油脂やポリグリセリン脂肪酸エステル又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドに溶解又は懸濁されているが、使用する油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合リシノレイン酸ポリグリセリドの種類や組成比により、該組成物は液体又は固体又はスラリーの形態のいずれも取り得る。
【0040】
尚、本発明の方法及び組成物においては、還元型補酵素Q10及び/又はアスコルビン酸類が外部添加されても良く、一方、上記の油脂と、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドを含有する組成物中で、酸化型補酵素Q10をアスコルビン酸類を用いて還元することにより得た還元型補酵素Q10を含有する組成物であっても良い。通常は、組成物の成分が単純化でき調製も容易であることや、アスコルビン酸類が酸化型補酵素Q10の還元に使用されることで発生する酸化物(デヒドロアルコルビン酸類)が有害なシュウ酸となるリスクを回避する点等から、還元型補酵素Q10及び/又はアスコルビン酸類が外部添加されることが望ましい。
【0041】
本発明の安定化方法及び組成物における最も単純な構成の組成物は、言うまでもなく、還元型補酵素Q10、アスコルビン酸類、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドからなる組成物であるが、還元型補酵素Q10の安定化を実質的に阻害しない成分を添加することや、還元型補酵素Q10の安定化を阻害する成分であっても実質的に阻害しない程度の量であれば当該成分を添加することは許容されうるし、また、そのような成分は数多く存在するであろう。この観点から、還元型補酵素Q10、アスコルビン酸類、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドを含有し、且つ、還元型補酵素Q10の安定化を実質的に阻害しないような組成物とすることが本発明の本質であり、本発明においては、還元型補酵素Q10の安定化を実質的に阻害しないその他の成分が含まれることを妨げない。このような成分として、例えば、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリド以外の界面活性剤、エタノール、水等を挙げることができる。
【0042】
上記界面活性剤としては、例えば、有機酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリンの重合度が1又は2のポリグリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0043】
有機酸モノグリセリドとしては、特に制限されないが、例えば、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド等を挙げることができる。
【0044】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル等を挙げることができる。上記ショ糖脂肪酸エステルは、モノエステル、ポリエステルを問わず使用できる。言うまでもなく、複数の脂肪酸残基を有する混合脂肪酸エステルであっても良い。
【0045】
グリセリンの重合度が1又は2のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に制限されないが、モノグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリンジ脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0046】
上記界面活性剤を用いる場合、その使用量は特に制限されず、価格や取り扱いやすさ等を考慮して適宜設定することができるが、組成物(当該界面活性剤を含む)の総重量(100重量%)に対して、下限は、普通1重量%以上、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上であり、上限は、普通90重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。言うまでもなく、必要に応じて、上記以外の量も使用しうる。尚、言うまでもなく、上記界面活性剤を2種以上使用しても何ら差し支えはない。
【0047】
また、還元型補酵素Q10、アスコルビン酸類、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドからなる組成物に、更に他の薬学上許容できる成分を添加することを妨げない。このような物質としては、特に制限されないが、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、有効成分の溶解補助剤、安定化剤、粘度調整剤等を挙げることができる。言うまでもなく、組成物の付加価値を高めるために、補酵素Q10以外の他の活性成分を共存させることも妨げない。
【0048】
上記賦形剤としては特に制限されないが、例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニトール、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等を挙げることができる。
【0049】
上記崩壊剤としては特に制限されないが、例えば、でんぷん、寒天、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、トラガント等を挙げることができる。
【0050】
上記滑沢剤としては特に制限されないが、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等を挙げることができる。
【0051】
上記結合剤としては特に制限されないが、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガント、シェラック、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ソルビトール等を挙げることができる。
【0052】
上記酸化防止剤としては特に制限されないが、例えば、トコフェロール、ビタミンA、β−カロチン、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、クエン酸等を挙げることができる。
【0053】
上記着色剤としては特に制限されないが、例えば、医薬品、食品に添加することが許可されているもの等を挙げることができる。
【0054】
上記凝集防止剤としては特に制限されないが、例えば、ステアリン酸、タルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ酸等を挙げることができる。
【0055】
上記吸収促進剤としては特に制限されないが、例えば、高級アルコール類、高級脂肪酸類、先述した界面活性剤等を挙げることができる。
【0056】
上記有効成分の溶解補助剤としては特に制限されないが、例えば、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸等を挙げることができる。
【0057】
上記安定化剤としては特に制限されないが、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル等が挙げられる。
【0058】
上記粘度調整剤としては特に制限されないが、例えば、ミツロウ、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、シェラクロウ、ホホバロウ等を挙げることができる。好ましくは、ミツロウ、カルナウバロウ、コメヌカロウであり、特に好ましくはミツロウである。
【0059】
上記補酵素Q10以外の他の活性成分としては特に制限されないが、例えば、アミノ酸、ビタミンE等のビタミン類やその誘導体、β−カロチンやアスタキサンチン等のカロチノイド類、ミネラル、ポリフェノール、有機酸類、糖類、ペプチド、タンパク質等を挙げることができる。
【0060】
本発明の上記組成物は、そのまま使用することもできるが、それをカプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、錠剤、チュアブル錠、シロップ、飲料等の経口投与形態に加工して好ましく使用しうるし、クリーム、坐薬、練り歯磨き等のための形態に加工しても使用しうる。特に好ましくは、カプセル剤であり、とりわけ、ソフトカプセルである。カプセル基材としては特に制限されず、牛骨、牛皮、豚皮、魚皮等を由来とするゼラチンをはじめとして、食品添加物として使用しうる他の基材(例えば、海藻由来品(カラギーナン、アルギン酸等)、植物種子由来品(ローカストビーンガム、グアーガム等)等の増粘安定剤;セルロース類を含む製造用剤)も使用しうる。
【0061】
本発明の効果を最大限に発揮するためには、例えば、脱酸素雰囲気において、本発明の方法を実施するのが好ましく、又、本発明の組成物を調製及び/又は保存するのが好ましい。上記の加工や加工後の保存も脱酸素雰囲気に行うのが好ましい。脱酸素雰囲気は、不活性ガスによる置換、減圧、沸騰や、これらを組み合わせることにより達成できる。少なくとも、不活性ガスによる置換、即ち、不活性ガス雰囲気を用いるのが好適である。上記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、水素ガス、炭酸ガス等を挙げることができ、好ましくは窒素ガスである。
【0062】
以上のように、還元型補酵素Q10、アスコルビン酸類、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドからなる組成物とする、あるいは、得られた組成物を更に経口投与形態等の形態に加工することにより、還元型補酵素Q10を安定に保存できる。所定期間保存後の還元型補酵素Q10の保持率としては、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
なお、ここでいう保持率とは、所定期間保存後の還元型補酵素Q10の組成物中の絶対量(あるいは濃度)/保存前の還元型補酵素Q10の組成物中の絶対量(あるいは濃度)の重量割合として求められるものである。上記保存期間は、例えば、1日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは1ヶ月以上、さらに好ましくは半年以上、特に好ましくは1年以上、最も好ましくは2年以上である。
【0063】
本発明における「安定化」(あるいは「安定な組成物」)とは、還元型補酵素Q10を他の方法や他の組成物中で保存するよりも酸化から防護しその保持率を高めることをいい、特に限定されるものではないが、例えば、上記保存期間に上記保持率を維持すること(あるいは維持できる組成物)であり、一例として、40℃、空気中にて1ヶ月保存後の還元型補酵素Q10の保持率が、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であること等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、還元型補酵素Q10を酸化から好適に防護して、安定化することができる。また、還元型補酵素Q10を安定に保存できる組成物を提供することができ、特に、安全で取り扱いやすい試剤を用い、食用や医薬用等の組成物として用いられる安定な還元型補酵素Q10の組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
また、実施例中の還元型補酵素Q10の純度、還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10との重量比は下記HPLC分析により求めたが、得られた還元型補酵素Q10の純度は本発明における純度の限界値を規定するものではなく、また、同様に、還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10との重量比における還元型補酵素Q10の割合も、その上限値を規定するものではない。
【0067】
(HPLC分析条件)
カラム:SYMMETRY C18(Waters製)250mm(長さ)4.6mm(内径)、移動相;COH:CHOH=4:3(v:v)、検出波長;210nm、流速;1ml/min、還元型補酵素Q10の保持時間;9.1min、酸化型補酵素Q10の保持時間;13.3min。
【0068】
(製造例1)
1000gのエタノール中に、100gの酸化型補酵素Q10(純度99.4%)と、60gのL−アスコルビン酸を加え、78℃にて攪拌し、還元反応を行った。30時間後、50℃まで冷却し、同温を保持しながらエタノールを400g添加した。このエタノール溶液(還元型補酵素Q10を100g含む)を攪拌しながら、10℃/時間の冷却速度で2℃まで冷却し、白色のスラリーを得た。得られたスラリーを減圧ろ過し、湿結晶を冷エタノール、冷水、冷エタノールで順に洗浄(洗浄に用いた冷溶媒の温度は2℃)して、さらに、湿結晶を減圧乾燥(20〜40℃、1〜30mmHg)することにより、白色の乾燥結晶95gを得た(有姿収率95モル%)。なお、減圧乾燥を除くすべての操作は窒素雰囲気下で実施した。得られた結晶の還元型補酵素Q10/酸化型補酵素Q10の重量比は99.5/0.5、還元型補酵素Q10の純度は99.2%であった。
【0069】
(実施例1、比較例1)
製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶0.3gと、L−アスコルビルパルミテート0.3gを、表1に記載の界面活性剤と油脂の混合物10g(界面活性剤と油脂の重量比は3/7)に加え、40℃、空気中にて保存した。1ヶ月経過後の還元型補酵素Q10/酸化型補酵素Q10の重量比を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
上記の結果より、ポリグリセリン脂肪酸エステルの場合、還元型補酵素Q10の安定性に、グリセリンの重合度が大きく影響し、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、あるいは、縮合リシノレイン酸ポリグリセリドを使用した際に、大きな安定化効果を有することがわかった。
【0072】
(実施例2)
L−アスコルビルパルミテートに代えてL−アスコルビン酸を使用し、表2記載の界面活性剤及び油脂を使用する以外は実施例1とまったく同様に調製、保存した。1ヶ月経過後の還元型補酵素Q10/酸化型補酵素Q10の重量比を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
(比較例2)
L−アスコルビルパルミテートを加えず、表3記載の界面活性剤及び油脂を使用する以外は実施例1とまったく同様に調製、保存した。5日経過後の還元型補酵素Q10/酸化型補酵素Q10の重量比を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
(実施例3)
製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶0.3gと、L−アスコルビルパルミテート0.3gを、表4に記載の界面活性剤と油脂の混合物10g(界面活性剤と油脂の重量比は3/7)に加え、60℃、空気中にて保存した。6週間経過後の還元型補酵素Q10/酸化型補酵素Q10の重量比を表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
(比較例3)
製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶0.3gと、L−アスコルビルパルミテート0.3gを、0.5gのSpan80、5.5gのTween80、3.5gのMCT、0.5gのグリセリンからなる混合物に添加し、実施例3とまったく同条件にて保存した。6週間経過後の還元型補酵素Q10と酸化型補酵素Q10の重量比は36.9/63.1であった。
【0079】
(実施例4)
製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶1gと、L−アスコルビルパルミテート1gを、表5のように重量比を変えたヘキサグリセリンモノオレイン酸エステルとMCTの混合物10gに加え、40℃、空気中にて保存した。1ヶ月経過後の還元型補酵素Q10/酸化型補酵素Q10の重量比を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
(製剤例1)
中鎖脂肪酸トリグリセリド、テトラグリセリンモノオレエート、硬化油、蜜蝋、レシチンの混合物に、製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶とL−アスコルビルパルミテートを50℃にて添加し、常法により下記成分よりなるゼラチンのソフトカプセル製剤を得た。
還元型補酵素Q10 100重量部
L−アスコルビルパルミテート 100重量部
テトラグリセリンモノオレエート 320重量部
中鎖脂肪酸トリグリセリド 350重量部
硬化油 60重量部
蜜蝋 50重量部
レシチン 20重量部
【0082】
(製剤例2)
ナタネ油、ヘキサグリセリンモノオレエート、硬化油、蜜蝋、レシチンの混合物に、製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶とL−アスコルビルパルミテートを50℃にて添加し、常法により下記成分よりなるゼラチンのソフトカプセル製剤を得た。
還元型補酵素Q10 100重量部
L−アスコルビルパルミテート 100重量部
ヘキサグリセリンモノオレエート 220重量部
ナタネ油 450重量部
硬化油 60重量部
蜜蝋 50重量部
レシチン 20重量部
【0083】
(製剤例3)
中鎖脂肪酸トリグリセリド、デカグリセリンモノオレエート、硬化油、蜜蝋、レシチンの混合物に、製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶とL−アスコルビルパルミテートを50℃にて添加し、常法により下記成分よりなるゼラチンのソフトカプセル製剤を得た。
還元型補酵素Q10 100重量部
L−アスコルビルパルミテート 100重量部
デカグリセリンモノオレエート 200重量部
中鎖脂肪酸トリグリセリド 470重量部
硬化油 60重量部
蜜蝋 50重量部
レシチン 20重量部
【0084】
(製剤例4)
中鎖脂肪酸トリグリセリド、デカグリセリンペンタオレエート、硬化油、蜜蝋、レシチンの混合物に、製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶とL−アスコルビルパルミテートを50℃にて添加し、常法により下記成分よりなるゼラチンのソフトカプセル製剤を得た。
還元型補酵素Q10 100重量部
L−アスコルビルパルミテート 100重量部
デカグリセリンペンタオレエート 320重量部
中鎖脂肪酸トリグリセリド 350重量部
硬化油 60重量部
蜜蝋 50重量部
レシチン 20重量部
【0085】
(製剤例5)
中鎖脂肪酸トリグリセリド、ヘキサグリセリンモノオレエート、硬化油、蜜蝋、レシチンの混合物に、製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶とL−アスコルビン酸を50℃にて添加し、常法により下記成分よりなるゼラチンのソフトカプセル製剤を得た。
還元型補酵素Q10 100重量部
L−アスコルビン酸 100重量部
ヘキサグリセリンモノオレエート 220重量部
中鎖脂肪酸トリグリセリド 450重量部
硬化油 60重量部
蜜蝋 50重量部
レシチン 20重量部
【0086】
(製剤例6)
中鎖脂肪酸トリグリセリド、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリド、硬化油、蜜蝋、レシチンの混合物に、製造例1で得られた還元型補酵素Q10結晶とL−アスコルビン酸を50℃にて添加し、常法により下記成分よりなるゼラチンのソフトカプセル製剤を得た。
還元型補酵素Q10 100重量部
L−アスコルビン酸 100重量部
縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリド 200重量部
中鎖脂肪酸トリグリセリド 470重量部
硬化油 60重量部
蜜蝋 50重量部
レシチン 20重量部
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、還元型補酵素Q10を酸化から好適に防護して、安定化することができる。また、還元型補酵素Q10を安定に保存できる組成物を提供することができ、特に、安全で取り扱いやすい試剤を用い、食用や医薬用等の組成物として用いられる安定な還元型補酵素Q10の組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型補酵素Q10と油脂との混合物に、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドと、アスコルビン酸類を共存させることを特徴とする、還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項2】
アスコルビン酸類が、アスコルビン酸、その塩又はそのエステルである請求項1記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項3】
アスコルビン酸類が、L−アスコルビン酸、D−arabo−アスコルビン酸、L−アスコルビルパルミテート及びL−アスコルビルステアレートからなる群より選択される1種以上である請求項1記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項4】
油脂が、ヤシ油、パーム油、パーム核油、アマニ油、つばき油、玄米胚芽油、菜種油、米油、オリーブ油、落花生油、コーン油、小麦胚芽油、大豆油、エゴマ油、綿実油、ヒマワリ種子油、カポック油、月見草油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ゴマ油、サフラワー油、豚脂、乳脂、魚油、牛脂、これらを分別、水素添加又はエステル交換により加工した油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸の部分グリセリド及びリン脂質からなる群より選択される1種以上である請求項1記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの重合度が3〜10である請求項1記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項6】
ポリグリセリン脂肪酸エステル中の脂肪酸残基の数が1〜5である請求項1記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項7】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸残基の炭素数が8〜18である請求項1記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項8】
縮合リシノレイン酸ポリグリセリドのグリセリンの重合度が1〜10である請求項1に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項9】
油脂とポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドとの合計量に対する油脂の重量割合が20〜95重量%である請求項1〜8のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項10】
油脂とポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリドとの合計量に対する還元型補酵素Q10の重量割合が1重量%以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項11】
還元型補酵素Q10100重量部に対して、アスコルビン酸類を1重量部以上添加することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項12】
さらに他の活性成分を添加することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項13】
還元型補酵素Q10及び/又はアスコルビン酸類を外部添加することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項14】
脱酸素雰囲気下に実施することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項15】
油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び縮合リシノレイン酸ポリグリセリドが、食用又は医薬用に許容されるものである請求項1〜14のいずれか1項に記載の還元型補酵素Q10の安定化方法。
【請求項16】
還元型補酵素Q10、油脂、グリセリンの重合度が3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は縮合リシノレイン酸ポリグリセリド、並びにアスコルビン酸類を含有してなる、還元型補酵素Q10の安定な組成物。
【請求項17】
経口投与形態に加工された請求項16記載の組成物。
【請求項18】
経口投与形態が、カプセル剤、錠剤、チュアブル錠、シロップ又は飲料である請求項17記載の組成物。
【請求項19】
カプセル剤がソフトカプセルである請求項18記載の組成物。

【公開番号】特開2007−145831(P2007−145831A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293945(P2006−293945)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】