説明

還元鉄の製造方法

【課題】還元鉄の原料となる混合物を塊成化する際に造粒性を更に向上させることが可能な還元鉄の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る還元鉄の製造方法は、粉状の酸化鉄原料と還元材とを含む混合物を混練する混練工程と、混練後の前記混合物を塊成化して塊成化物とする造粒工程と、前記塊成化物を還元して還元鉄を生成する還元工程と、を含み、前記混練工程では、前記混合物に対して、60℃以上の水分を添加する。これにより、還元鉄の原料となる混合物を塊成化する際に、造粒性を更に向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑や製鋼過程の高炉や転炉、電気炉、溶解炉等で発生する鉄分が主成分であるダストを原料として再利用することが行われている。
【0003】
上記ダストのような固形含鉄冷材を原料として利用するために、収集された固形含鉄冷材である酸化鉄原料に対して還元材を混合したうえで混練し、その後塊成化処理を経て塊成化物としたのちに、かかる塊成化物を還元して還元鉄を製造することが行われている(例えば、以下の特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−97065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているような還元鉄の製造方法において、塊成化処理を実施する造粒工程時に、原料の混合物を塊成化しきれずに粉体が残留することがあり、更なる造粒性の向上を図る際の課題となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、還元鉄の原料となる混合物を塊成化する際に造粒性を更に向上させることが可能な、還元鉄の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、粉状の酸化鉄原料と還元材とを含む混合物を混練する混練工程と、混練後の前記混合物を塊成化して塊成化物とする造粒工程と、前記塊成化物を還元して還元鉄を生成する還元工程と、を含み、前記混練工程では、前記混合物に対して、60℃以上の水分を添加する還元鉄の製造方法が提供される。
【0008】
前記混練工程では、前記混合物に対して、前記60℃以上の水分に可溶なバインダーを更に添加してもよい。
【0009】
前記60℃以上の水分に可溶なバインダーは、液体状の有機系バインダー又は粉末状の有機系バインダーであってもよい。
【0010】
前記粉末状の有機系バインダーは、米、タピオカ、ライ麦及びトウモロコシからなる群から選択される穀物のデンプンであってもよい。
【0011】
前記混練工程では、前記混合物の水分含有率が6%〜9%となるように、前記60℃以上の水分を加水してもよい。
【0012】
混練される前の前記混合物の粒径は、篩下80%粒径で70μm〜500μmであってもよい。
【0013】
水分の添加がなされる前の前記混合物の水分含有率は、1%〜3%であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、酸化鉄原料と還元材とを含む混合物を造粒する際に当該混合物に対して60℃以上の水分を添加するため、前記混合物中の水分の均一化を図ることが可能となり、造粒工程における造粒性を更に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】還元鉄の製造工程の一例を説明するための説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る還元鉄の製造工程を説明するための流れ図である。
【図3】混合物への水分の浸透に要する所要時間を示したグラフ図である。
【図4】混合物中に存在するダマの割合を示したグラフ図である。
【図5】コーンスターチの水への溶解割合の変化を示したグラフ図である。
【図6】塊成化物の乾燥後の強度の変化を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
<還元鉄の製造工程について>
本発明の実施形態に係る還元鉄の製造方法について説明するに先立ち、図1を参照しながら、還元鉄の製造工程について、詳細に説明する。図1は、還元鉄の製造工程の一例を説明するための説明図である。
【0018】
製鉄所における各設備から収集された製鉄ダストや鉄鉱石等の酸化鉄原料と、石炭、コークス、微粒カーボン等の還元材とは、予めホッパー11等に格納されている。酸化鉄原料及び還元材は、予め設定された配合比となるように配合されて、粉砕機13に装入される。
【0019】
ボールミル等の振動ミルに代表される粉砕機13は、装入された酸化鉄原料及び還元材を、混合しながら所定の粒径となるまで粉砕する。粉砕後の酸化鉄原料及び還元材の粒径は、還元鉄の製造に用いられる回転炉床炉やロータリーキルン等の還元炉に適した値に応じて、適宜設定すればよい。粉砕後の酸化鉄原料及び還元材からなる混合物は、混練機15に運搬される。
【0020】
混練機15は、粉砕機13により所定の粒径に粉砕された混合物を混練する。また、混練機15は、混合物の混練に際して、還元鉄の製造に用いる還元炉に適した水分量となるまで、混合物に加水を行う調湿処理を施すことがおおい。混練機15の一例として、ミックスマラーを挙げることができるが、これ以外にも多様な種類の混練機を利用することが可能である。混練機15によって混練された混合物は、成型機17に搬送される。
【0021】
パンペレタイザー(皿形造粒機)、ダブルロール圧縮機(ブリケット製造機)、押し出し成形機等の成型機17は、酸化鉄原料及び還元材を含む混合物を成型し、例えばペレットやブリケットのような塊成化物とする。ここで、塊成化物とは、ペレット、ブリケット、押し出し成型して裁断した成型品、粒度調整された塊状物等の粒状物・塊状物をいう。成型機17は、後述する乾燥・加熱還元後、例えば熱間にて溶解炉23に装入する際に炉内上昇ガス流で飛散しないような大きさとなるように、上記混合物を塊成化する。生成された塊成化物は、乾燥機19へと装入される。
【0022】
乾燥機19は、塊成化物を乾燥して、後述する加熱還元工程に適した水分含有率(換言すれば、還元鉄の製造に用いる還元炉ごとに適した水分含有率:例えば、1%以下)となるようにする。所定の水分含有率となった塊成化物は、後述する還元炉21へと搬送される。
【0023】
例えば回転炉床炉(Rotary Hearth Furnace:RHF)やロータリーキルン等のような還元炉21は、装入された塊成化物を、LNGバーナーやCOGバーナー等を用いた加熱雰囲気で加熱及び還元し、還元鉄とする。還元炉は、塊成化物を例えば1000〜1300℃程度まで加熱して、塊成化物の還元処理を行い、還元鉄を製造する。製造された還元鉄は、溶解炉23へと搬送される。
【0024】
溶解炉23は、例えば高温ペレット等の状態で供給される還元鉄を溶解して、溶銑とする。生成された溶銑は、取鍋等を用いて搬送され、脱硫・精錬処理を施された後に、粗溶鋼として利用される。
【0025】
<還元鉄の製造方法について>
以上の説明を踏まえ、以下では、本実施形態に係る還元鉄の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
[本実施形態に係る還元鉄の製造方法の概略]
本実施形態に係る還元鉄の製造方法は、前述のように、酸化鉄原料と還元材とを混合して成型した塊成化物を加熱・還元処理し、還元鉄を製造する方法である。ここで、本実施形態に係る酸化鉄原料は、製鉄ダスト(例えば、含鉄冷材溶解用転炉、精錬用転炉及びダスト溶解用転炉等で発生し、湿式集塵装置等にて集塵された転炉ダストや、高炉ダストや、ミルスケールや、電気炉ダスト等)、非鉄製錬ダスト及び鉄鉱石からなる群より選択される。また、本実施形態に係る還元材としては、例えば、粉石炭等の石炭や、コークスや、微粒カーボン等の炭材を用いることが可能である。
【0027】
ここで、先だって説明したような還元鉄の製造工程において、造粒機を用いた造粒工程時に、原料の混合物を塊成化しきれずに粉体が残留することがあった。このような粉体の残留は、造粒工程における造粒性を向上させるにあたっての妨げとなる。そこで、本発明者は、造粒工程における造粒性の向上を目的として鋭意検討を行った結果、造粒工程時に、60℃以上の水分を添加することで、造粒工程における造粒性を向上させることが可能であることに想到した。
【0028】
以下で詳細に説明するように、本発明者による検討の結果、造粒工程において60℃以上の水分を利用することで、酸化鉄原料及び還元材を含む混合物に対する水分の浸透性を向上させることが可能となり、混合物への水分の拡散効率を飛躍的に向上させることが可能となることが明らかとなった。このような拡散効率の向上により、酸化鉄原料及び還元材を含む混合物中に存在する水分を更に均一化することが可能となり、造粒時における造粒性を向上させることが可能となる。
【0029】
更に、本発明者による検討の結果、造粒工程時において60℃以上の水分を利用することで、造粒性の向上のみならず、製造される塊成化物の強度を更に向上させることが可能であることも判明した。先に説明したような還元鉄の製造方法においては、塊成化物の強度を向上させるために、酸化物原料及び還元材からなる混合物に対して、各種のバインダーを添加することが行われてきた。しかしながら、本実施形態に係る還元鉄の製造方法のように、造粒工程において60℃以上の水分を混合物に添加することで、添加するバインダーの量を増やすことなく、製造される塊成化物の強度を更に向上させることが可能となる。また、造粒工程において60℃以上の水分を添加することに加え、混合物に対して更にバインダーを添加することで、製造される塊成化物の強度をより一層向上させることが可能となる。
【0030】
[本実施形態に係る還元鉄の製造方法の流れ]
以下では、上述のような知見に基づく本実施形態に係る還元鉄の製造方法の流れの一例を、図2を参照しながら詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る還元鉄の製造方法の流れを示した流れ図である。
【0031】
本実施形態に係る還元鉄の製造方法では、まず、製鉄プロセスで発生する製鉄ダスト及び鉄鉱石からなる群より選択される酸化鉄原料は、還元材と混合され(ステップS101)、粉砕機へと装入される。上記還元材として用いられる粉石炭として、例えば、篩下80%粒径が5mm〜10mm程度であり、水分含有率が8〜12%W.B.程度であるものを使用することが可能である。また、酸化鉄原料と還元材との配合比率は、後述する還元工程において良好な還元鉄を得るために好適な条件を考慮して調整されるが、例えば、酸化鉄原料と還元材の質量比を、例えば90:10程度とすることが可能である。この混合物が粉砕機へと装入される時点で、例えば、混合物は、4mm程度の粒径を有している。
【0032】
酸化鉄原料と還元材との混合物は、続いて、粉砕機により例えば70μm〜500μmの粒径(篩下80%粒径)となるまで、好ましくは150μm〜300μmの粒径となるまで、粉砕される(ステップS103)。混合物の粒径を、70μm〜500μmとすることで、金属化率のばらつきが小さい(例えば、6%程度以下)高金属化率の還元鉄を製造することが可能となり、粒径の下限値を70μmとすることで、還元工程における塊成化物の爆裂を抑制することが可能となる。また、混合物の粒径を150μm〜300μmとすることで、金属化率のばらつきが極めて小さい(例えば、3%程度以下)高金属化率の還元鉄を製造することができ、粒径の下限値を150μmとすることで、還元工程における塊成化物の爆裂を回避することができる。
【0033】
また、この粉砕工程において、酸化鉄原料及び還元材からなる混合物の水分含有率を、約1%〜3%程度とすることが好ましい。かかる水分含有率とすることで、後述する混練工程において、良好な混錬性を保持することが可能となる。
【0034】
混合物を粉砕する粉砕機として、例えば、ボールミルやロッドミル等の振動ミルを使用することが可能である。ボールミル等の振動ミルの出側において、混合物の粒径を上述の範囲とし、混合物の水分含有率を約1%〜3%とするためには、粉砕に用いるボールミル等の処理速度を適宜設定すればよい。例えば、振動ミル(ボールミル)の出側での粒径の目標値と、振動ミル(ボールミル)入側における粒径とから粉砕比を算出し、算出した粉砕比と、特許文献1に記載されているような、振動ミル出側における水分含有率の目標値でのボールミルの粉砕能力理論曲線とを利用することで、振動ミルの処理速度を決定することが可能である。
【0035】
また、本実施形態における還元鉄の製造方法においては、混合前に酸化鉄原料を乾燥することにより、粉砕機装入時における混合物の水分含有率を、振動ミルが適正な粉砕性を示す値に保持することが可能となり、粉砕時の振動ミルの制御を絶えず変更する必要がなくなる。また、酸化鉄原料の水分含有率が、様々な要因により上下したとしても、混合前の乾燥時に乾燥機の設定を適切に制御することにより、振動ミルの粉砕性を好適な値に維持することが可能となる。
【0036】
混合物の粉砕が終了すると、粉砕された混合物は、ミックスマラー等の混練機へと装入されて、水分含有率が混練に適正な値(例えば、6〜9%程度)となるように加水された後に混練される(ステップS105)。また、混合物を混練する際に、製造される塊成化物の強度の向上を図るために、混合物に対して、所定のバインダーを添加してもよい。
【0037】
ここで、先に説明したように、本実施形態に係る還元鉄の製造方法では、混合物の水分含有率を調整するために、60℃以上の水分を利用する。この60℃以上の水分は、温水の状態であってもよく、蒸気の状態であってもよい。このような60℃以上の水分を利用することで、混合物に対する水分の浸透性を向上させることが可能となり、混合物への水分の拡散効率を飛躍的に向上させることができる。その結果、混合物中に存在する水分を更に均一化することが可能となり、造粒時における造粒性を向上させることが可能となる。
【0038】
ここで、混合物に添加される水分の温度の上限は、混練工程や混練工程の後に実施される各工程で使用される設備の耐熱温度や蒸気供給設備の設備制約等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、160℃〜200℃程度とすることができる。
【0039】
また、本実施形態に係る還元鉄の製造方法では、水分含有率を調整するための加湿処理に60℃以上の水分を利用することで、造粒性の向上のみならず、製造される塊成化物の強度を、飛躍的に向上させることが可能となる。従って、本実施形態に係る還元鉄の製造方法によれば、添加するバインダーの量を増加させることなく、製造される塊成化物の強度の増強を図ることが可能となる。
【0040】
本実施形態に係る還元鉄の製造方法では、このような塊成化物の強度の向上によって、還元鉄の生産量に合わせてバインダーの添加量を制御することが可能となる。すなわち、還元鉄の生産量が比較的少ない場合には、バインダーの添加量を減少させ、60℃以上の水分を添加することで得られる強度の向上効果を利用して、安価に還元鉄を製造することができる。また、還元鉄の生産量が比較的多い場合には、バインダーの添加量を減少させずに、造粒性の向上と強度の増強とを図ることが可能となる。このように、混練工程において60℃以上の水分を添加することで、操業に幅を持たせることが可能となる。
【0041】
混練工程で用いられるバインダーは、60℃以上の水分に可溶のものであれば、任意のものを使用することが可能である。このようなバインダーとして、液体状の有機系バインダーや、粉末状の有機系バインダーを挙げることができる。液体状の有機系バインダーの例としては、糖蜜やリグニン等がある。また、粉末状の有機系バインダーの例としては、米、タピオカ、ライ麦、トウモロコシ等の穀物のデンプン等がある。これらの有機系バインダーのうち、特に、粉末状の有機系バインダーを利用することが好ましい。
【0042】
60℃以上の水分に可溶のバインダーを利用することで、バインダー自体の水分への溶解性が向上することとなり、その結果、バインダーの分散効率を向上させることができる。その結果、バインダー自体が混合物の全体に行き渡るようになり、製造される塊成化物の強度を更に向上させることが可能となる。
【0043】
また、上記有機系バインダーに加えて、更に、セメント、ベントナイト、フライアッシュ等の無機系バインダーを更に添加してもよい。
【0044】
なお、混合物に添加されるバインダーの量について、添加すればするほど、製造される塊成化物の強度増強を図ることが可能であるが、製造コスト等の観点から、混練される混合物の全体質量に対して2%以下とすることが好ましい。
【0045】
混練機による混練が終了すると、混合物はパンペレタイザー(皿型造粒機)、ダブルロール圧縮機(ブリケット製造機)、押し出し成形機等の塊成化装置に装入されて造粒され(ステップS107)、塊成化物となる。
【0046】
生成された塊成化物は、乾燥機により乾燥処理を施され、例えば1%以下の水分含有率となる(ステップS109)。乾燥が終了した塊成化物は、RHF等の還元炉へと装入され、還元処理が施される。本実施形態に係る塊成化物は、混練工程において60℃以上の水分を用いることで、良好な造粒性を示すのみならず良好な圧壊強度を示すため、還元工程においても還元炉内で塊成化物が割れることが少なく、塊成化物を十分に還元することができる。例えば、還元炉としてRHFを使用する場合には、例えば、炉内の温度を1350℃程度に設定し、約15分で還元処理が完了するように、回転床の速度を設定することが可能である。かかる還元処理を行うことで、割れにくく、かつ、高金属化率を有する還元鉄を効率よく製造することが可能である。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る還元鉄の製造方法によれば、造粒工程における造粒性の向上を図ることが可能となるだけでなく、割れにくく、かつ、高金属化率を有する還元鉄を製造することが可能である。そのため、還元鉄溶解用転炉の酸素原単位を向上させることが可能であり、さらには、溶銑の生産性を高位に維持することが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る還元鉄の製造方法について、更に説明を行う。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明の一具体例であって、本発明が以下に示す実施例に限定されるわけではない。
【0049】
以下で説明する実施例及び比較例では、図2に示した手順に従って、塊成化物の製造を行った。なお、粉砕工程では(ステップS103)では、ボールミル(3.5mφ×5.4mL、Pw:520kW)を使用し、混練工程(ステップS105)では、ミックスマラーを使用した。また、造粒工程(ステップS107)では、ダブルロール圧縮機を使用し、乾燥工程(ステップS109)では、バンド乾燥機を使用した。
【0050】
なお、以下で説明する実施例及び比較例では、転炉ダスト及び高炉ダストを含む製鉄所ダストを酸化鉄原料として使用し、石炭を還元材として使用した。また、以下で説明する実施例及び比較例では、酸化鉄原料と還元材とを、87:13の質量比となるように混合して、混合物とした。ここで、混合物の粒径は、篩下80%粒径で300μmであった。また、混練工程における加水処理では、水分含有率が8.0%W.B.となるように、水分を添加した。以下の例において実施例と比較例との違いは、混練工程において用いた水分の温度である。
【0051】
[混合物への水分の浸透時間について]
まず、図3を参照しながら、混合物への水分の浸透時間の変化について説明する。
混合物への水分の浸透時間は、上述の割合で酸化鉄原料及び還元材が混合された、加水及び混練前の混合物20gを採取したうえで、採取した混合物に対して水分含有率8%に相当する水分を添加した場合に、添加した水分が混合物に浸透しきるまでの時間を計測することで測定した。ここで、添加する水分の温度は、0℃、15℃、60℃、80℃及び90℃の5種類とし、図3では、15℃の水分が浸透しきるまでの時間を基準とした相対時間を示している。
【0052】
図3を参照すると明らかなように、0℃の水分を添加した場合には、15℃の水分を添加した場合に比べて、混合物への水分の浸透時間が増加していることがわかる。また、60℃、80℃及び90℃の水分を添加した場合には、15℃の水分を添加した場合に比べて混合物への水分の浸透時間が減少しており、水分の温度が高くなるほど、浸透時間は減少していることがわかる。図3に示したように、90℃の水分を混合物に添加することで、15℃の水分を添加する場合に比べて60%の時間で水分が浸透し、混合物への水分の浸透時間を40%削減できたことがわかる。このように、60℃以上の水分(本例では60℃、80℃及び90℃の水分)を混合物に添加することで、混合物への水分の浸透時間を、大幅に削減することが可能となる。
【0053】
[ダマの存在割合について]
続いて、図4を参照しながら、混練後(かつ造粒前)での混合物中に存在するダマの割合の変化について説明する。なお、以下の説明において、「ダマ」とは、ふるい分けした際の粒径が5mm以上のものである。本例では、15℃、60℃、80℃及び90℃の4種類の温度の水分を添加した、混練後(かつ造粒前)の混合物を採取し、その後ふるい分けして、5mm以上の粒径を有するダマの重量を計測した。図4では、混練工程において温度が15℃の水分を添加した場合のダマの重量を基準とした場合の割合を示している。
【0054】
図4から明らかなように、混練工程において温度が60℃、80℃及び90℃の水分を利用することで、ダマの存在割合が、15℃の水分を利用したときと比べて減少しており、かつ、水分の温度が高くなるほど、ダマの存在割合の減少度合いが大きいことがわかる。また、混練工程において温度が90℃の水分を利用することで、ダマの存在割合が、15℃の水分を利用したときに比べて約87%まで減少していることがわかる。かかる結果は、60℃以上の水分(本例では60℃、80℃及び90℃の水分)を利用することで水分が混合物に対してより均一に拡散し、混合物中の水分の均一化が実現され、造粒性が向上したことを示している。
【0055】
[コーンスターチの溶解割合について]
次に、本例において、有機系バインダーとして利用したコーンスターチに関して、水への溶解割合が水温度の変化によりどのように変化するのかを、実際に測定した。かかる測定において、5.0gのコーンスターチを500mLの水(水温度は、20℃、60℃、80℃、90℃の4種類)に対して添加し、溶け残った溶質量(g)を測定することで、溶解割合を算出した。
【0056】
得られた結果を、図5に示す。図5から明らかなように、水温が20℃の水に対して溶解したコーンスターチの割合は40%であったのに対し、水温が60℃の水に対しては溶解割合が約48%となり、水温が80℃の水に対しては溶解割合が約70%となり、水温が90℃の水に対しては溶解割合が約96%となった。
【0057】
かかる結果は、混練工程において添加する水分の温度を60℃以上とすることで、バインダー自身の水分への溶解性が向上することを示しており、バインダーが水分に溶解することで、バインダーの分散効率が向上することを示している。
【0058】
[塊成化物の強度の変化について]
次に、上述のような工程に則して製造した複数種類の塊成化物について、乾燥後における圧壊強度を測定した。圧壊強度の測定は、JIS Z−8841に規定される強度測定方法のうち、圧壊強度の測定方法に則して実施した。
【0059】
なお、圧壊強度を測定した塊成化物は、15℃、60℃、90℃、120℃、160℃、200℃の温度の水分をそれぞれ添加して製造した塊成化物、及び、上記混合物に対して1%のコーンスターチを更に添加(外添)し、上記温度の水分を添加して製造した塊成化物、の計14種類である。また、これらの例以外にも、バインダーの添加量を13%削減した混合物に対して90℃の水分を添加して製造した塊成化物、及び、バインダーの添加量を21%削減した混合物に対して90℃の水分を添加して製造した塊成化物についても、同様に圧壊強度を測定した。なお、製造した塊成化物は、長径が20〜30mmの楕円形状を有している。
【0060】
得られた結果を、図6に示す。なお、図6では、バインダーの添加されていない混合物に対して15℃の水分を添加した場合の塊成化物の圧壊強度を1とした相対強度を示している。
【0061】
図6から明らかなように、バインダーを添加しなかった場合、及び、バインダーを添加した場合の双方において、添加した水分の温度が60℃以上である場合に、圧壊強度が顕著に向上していることがわかる。このように、混練工程において60℃以上の水分を添加することによって、造粒工程における造粒性の向上のみならず、製造される塊成化物の強度を向上させることが可能であることがわかる。また、バインダーを添加しなかった場合、及び、バインダーを添加した場合の双方において、添加した水分の温度が90℃〜200℃である場合には、圧壊強度がほぼ一定の値となっていることがわかる。
【0062】
次に、バインダーが添加された混合物に対して15℃の水分を添加した場合の強度と、バインダーの添加量を削減した混合物に対して90℃の水分を添加した場合の強度とに着目する。図6から明らかなように、同じ90℃の水分を添加した塊成化物間では、バインダーの添加量を削減することにより、圧壊強度の低下がみられる。しかしながら、バインダーの添加量を13%削減し90℃の水分を添加した塊成化物の圧壊強度は、バインダーを含む混合物に対して80℃の水分を添加した場合の圧壊強度と同程度の値を有しており、バインダーの添加量を21%削減し90℃の水分を添加した塊成化物の圧壊強度は、バインダーを含む混合物に対して15℃の水分を添加した場合の圧壊強度と同程度の値を有していることがわかる。この結果は、60℃以上の水分を混合物に対して添加することで、バインダーの添加量を制御可能であることを示しており、本実施形態に係る還元鉄の製造方法を用いることで、還元鉄を製造するための操業の幅を広げることが可能であることを示唆している。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0064】
11 ホッパー
13 粉砕機
15 混練機
17 成型機
19 乾燥機
21 還元炉
23 溶解炉



【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の酸化鉄原料と還元材とを含む混合物を混練する混練工程と、
混練後の前記混合物を塊成化して塊成化物とする造粒工程と、
前記塊成化物を還元して還元鉄を生成する還元工程と、
を含み、
前記混練工程では、前記混合物に対して、60℃以上の水分を添加することを特徴とする、還元鉄の製造方法。
【請求項2】
前記混練工程では、前記混合物に対して、前記60℃以上の水分に可溶なバインダーを更に添加することを特徴とする、請求項1に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記60℃以上の水分に可溶なバインダーは、液体状の有機系バインダー又は粉末状の有機系バインダーであることを特徴とする、請求項2に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項4】
前記粉末状の有機系バインダーは、米、タピオカ、ライ麦及びトウモロコシからなる群から選択される穀物のデンプンであることを特徴とする、請求項3に記載の還元鉄の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82493(P2012−82493A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231512(P2010−231512)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】