説明

部分放電発生回数測定装置

【課題】この発明は、不確定な時期に突然飛来する宇宙線や、外部からの電磁波などによる誤動作を起こさず、サージ電圧に起因する部分放電のみを判別して検出することができる部分放電発生回数測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る部分放電発生回数測定装置は、回転機の巻き線部に用いる電線にサージ状の電圧が加わったときに電線表面もしくはその近傍で生じる部分放電の発生回数を記録するための装置であって、電線6を収納するもので内面が鏡面4になっている容器1と、容器1内での発光を検知する光電子増倍管2と、電線6にサージ電圧を印加する電源装置と、光電子増倍管2の検知信号とサージ電圧が印加される時間の対応を判定する判定装置とを備え、光電子増倍管の検知信号とサージ電圧が印加される時間の対応があるときの回数を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器に急峻な過電圧が加わったときに引き起こされる部分放電を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バッテリーを電源とする電気自動車やハイブリッド車において交流モータを駆動するためにはインバータと呼ばれる交-直変換装置が必要である。インバータの制御方式として最も多く用いられているのがPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれるパルス幅変調方式である。交流1サイクルを多数のパルス列で構成し、そのパルスの数、間隔、幅などを時間的に変えて、その平均値を正弦波状になるように制御するのが、PWM制御の原理である。
【0003】
自動車や鉄道などの分野で、今後ますますインバータ駆動モータの需要が高まることから、モータの長期信頼性を如何に高めるかということに多くの関心が寄せられている。そこで、モータの寿命に大きな影響を及ぼす電気絶縁性能を正確に診断するための評価技術が重要となる。PWM制御を用いてモータに交流電圧を加えた場合、パルス列の立ち上がりと立ち下がり時において急激な電流の増減に起因する誘導起電力が発生し、その結果、モータの定格電圧の数倍の波高値を有する急峻なサージ状の電圧が駆動回路に侵入することが知られている。このサージはインバータサージと呼ばれ、これにより非常に高い頻度でモータ巻き線やモータ制御回路周辺で部分放電現象が引き起こされることから、絶縁劣化の加速が懸念されている。しかしながら、このような高頻度のサージによる劣化現象は、これまで一般に使用されてきた交流モータにおいては認められなかったため、その評価方法や診断方法は十分に確立されていない。
【0004】
絶縁材料中にボイドや異物などの微小欠陥が存在すると、サージ電圧の重畳が無くても部分放電が引き起こされ得る。このときの部分放電検出には、放電電流パルスを積分回路に入力することにより、部分放電電荷量を計測する方法が一般的である。さらには、電力用ガス絶縁開閉装置内部での部分放電による絶縁異常を監視することを目的として、部分放電に伴い伝搬する電磁波を検出するセンサを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1の図1および特許文献2の請求項1参照)。しかし、インバータサージが繰り返し侵入する絶縁システムの場合、サージの侵入時に部分放電電流よりも遥かに大きい変位電流が瞬間的に流れることや、それに伴い空中を伝搬する誘導雑音が大きいために、微小な部分放電を従来方法で検出することは難しい。また規格面においても、従来の部分放電検出に関する国際規格(IEC)では、正弦波交流電圧印加時の計測に関してのみ規定がなされているだけである。したがって、インバータサージによる絶縁劣化の評価方法や診断方法として、新たな部分放電検出方法が必要とされている。
【0005】
電流や電磁波測定以外の代表的な部分放電検出法として知られているものに、光電子増倍管などの光センサを用いた光検出法が挙げられる。光検出の場合には、被試験体を暗部に配置しなければいけないことや、不透明な被試験体内部での部分放電光を検出できないなどの短所があるものの、部分放電雑音に強いため高いSN比が得られるという長所を有する。したがって、モータ巻き線もしくはそれを模擬した撚り線(ツイストペア)試料の近傍に光電子増倍管を配置し、そこからの光信号をオシロスコープ上で観測するという方法がよく用いられている。また最近では、これらの検出装置により部分放電信号が表示されたときのパルス電圧波高値を分圧器で計測・記録すると同時に、高電圧回路を遮断して一定の実験休止期間を設けるという処理手順を繰り返しおこなうことにより巻き線の部分放電開始電圧を測定する方法が提案されている(例えば特許文献3の図1参照)。
【0006】
この方法により、巻き線に用いる電線の耐インバータサージ性能を定量的に評価することが可能となった。
【0007】
また、光電子増倍管により検出された部分放電パルス信号と雑音パルス信号を、オシロスコープを用いることなく識別する方法として、カウンタ部、演算部および判断部よりなる検出系を用いることにより、ひとつの光電子増倍管から単位時間あたりに入力されるパルス信号を計数して、定常的に雑音パルスが入力される状況の中で、突然現れる部分放電パルスの発生時期を統計処理により特定する手法などが知られている(例えば特許文献4の図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-47285公報
【特許文献2】特開2007-232496公報
【特許文献3】特開2006-38471公報
【特許文献4】特開平9-243700公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4に記載された手法は、不確定な時期に検出される正弦波交流電界下での部分放電検出を目的として発明されたものであり、サージ電圧が繰り返し印加される状況のもとで、それぞれの印加に対応して部分放電が引き起こされるか否かを判断するための方法ではない。
【0010】
これに対し、特許文献3に記載された発明は、巻き線に用いる電線の耐インバータサージ性能を定量的に評価することを目的としたもので、実用状態で発生するのに近い状態での部分放電検出を測定することができる。したがって、部分放電についての分析や品質管理への適用が期待できる有力な発明である。
【0011】
一方、不確定な時期に突然飛来する宇宙線や、外部からの電磁波などによる誤動作によって、あたかも突然に部分放電が始まったかのような誤解を生む可能性があるが、サージ電圧に起因する部分放電のみを判別して検出することができれば、より正確な測定が可能となる。
【0012】
さらに、部分放電に起因する光信号は数ナノ秒から十数ナノ秒という短い幅の電気信号なので、数百MHz以上の高周波信号にも対応できるだけの性能を有するとともに、高頻度で繰り返される部分放電現象を統計的に処理するための大容量メモリとデータ演算処理能力を付帯したオシロスコープが必要とされているが、このような高性能のオシロスコープを使用しない簡易なシステムが実現できることが好ましい。
【0013】
この発明は、不確定な時期に突然飛来する宇宙線や、外部からの電磁波などによる誤動作を起こさず、サージ電圧に起因する部分放電のみを判別して検出することができる部分放電発生回数測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明に係る部分放電発生回数測定装置は、回転機の巻き線部に用いる電線にサージ状の電圧が加わったときに電線表面もしくはその近傍で生じる部分放電の発生回数を記録するための装置であって、電線を収納するもので内面が鏡面になっている容器と、容器内での発光を検知する光電子増倍管と、電線にサージ電圧を印加する電源装置と、光電子増倍管の検知信号とサージ電圧が印加される時間の対応を判断する判断装置とを備え、光電子増倍管の検知信号とサージ電圧が印加される時間の対応があるときの回数を計測する。
【0015】
さらに、光電子増倍管の後段に設けられていて光電子増倍管の出力電圧と所定の閾値との比較を行う比較器と、比較器の後段に設けられたパルスストレッチャと、サージ電圧印加に同期して読み取り命令を発生する制御器を有し、パルスストレッチャによって出力されたパルス信号が継続している間に読み取り命令があったときにパルスストレッチャから出力されたパルス信号のみをカウンタ回路に取り込むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放電発生回数測定装置は、光電子増倍管の後段に備えられた比較器からの論理パルス信号の中から、サージ電圧の印加と同期して出力された論理パルスのみを記録することができるので、正確で信頼性の高い放電発生回数測定が実現できるという効果を有する。鏡状の光反射壁を配置することにより光電子増倍管の数を必要最小限にとどめることができるとともに、複数のセンサから入力される大量の光信号データをオシロスコープに記録する必要が無いため、検出精度を低下させることなくシステムの簡素化と低価格化が実現できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】部分放電発生回数測定装置の例を示す構成図である。
【図2】実施例1と比較例1におけるサージ電圧の波高値と放電発生率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例2におけるインパルス電圧印加および各種信号出力の一例を示すタイミングチャートである。
【図4】比較例2におけるインパルス電圧印加および各種信号出力の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1に放電発生回数計測装置の例の構成を示す。容器1は、光電子増倍管本体2、光電子増倍管電源部3、反射鏡4、高圧線・接地線接続端子5、被試験体6を有する。繰り返しパルス電源7は、半導体スイッチ8、パルス形成用同軸ケーブル9、直流電源10、保護抵抗11、ハイパスフィルタ12、スイッチ駆動用TTLパルス発振回路13を有する。計測制御機器14は、比較器15、パルスストレッチャ16、信号入出力ポート17、コンピュータ18を有する。
【0019】
図1に示す容器1においては、長さ300mm、内径107mm、外径114mmの円筒形で、遮光性を有するプラスチック製の絶縁筒を容器1として用いた。ここでは、2本のエナメル線が拠り合わさってできたツイストペアサンプルのような細長い被試験体を用いたので、本例のような、円筒型の容器を使用している。これ以外に、巻き線の状態の電線や、モータ全体などを被試験体とすることもできる。内部に配置する被試験体の形状に応じて他の容器形状を選択することもできる。
【0020】
本例において、円筒容器の円盤部分は、脱着可能な蓋になっている。蓋の一方には高圧線と接地線を接続する端子が備えられている。接続端子に被試験体を固定した状態で、円盤蓋を円筒に取り付けると、被試験体が容器の中心部分に位置するように設計している。蓋の役目は、主に外部からの光の侵入防止であるが、さらに好ましくは、容器内の気密性や湿度を制御できるようにしてもよい。
【0021】
容器1の内壁には、不確定な場所から放射される部分放電光を光電子増倍管の光電面に効率よく入射させるために、容器1の内壁の一部もしくは全面に、反射鏡が貼られている。本実施例においては、シート状のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、アルミ蒸着が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムを容器1の筒部内面に沿って貼付けたが、複数の小型の鏡を内壁に沿ってタイル状に並べて反射面を形成しても良い。
【0022】
光電子増倍管本体2およびそれに直結する光電子増倍管電源部3は、外部からの電磁波侵入によるSN比の低下を防ぐために、金属ケースに収納することにより厳密な静電遮蔽がなされている。本実施例の場合は、商用周波電源用コンセントからのノイズ侵入をも抑止するために、直流12V入力にて動作する光電子増倍管モジュールを用いるとともに、電源部3の中にバッテリーを内蔵し、これら全体をアルミの金属ケースに収納している。金属ケースには光電面用の窓がもうけられており、金属ケースの外側に露出した光電面が、円筒容器内部を覗き込むように配置している。
【0023】
図1の繰り返しパルス電源7における半導体スイッチ8は、直並列接続されたMOSFETにより構成されている。急峻なサージを得るためにスイッチ動作の立ち上がりが早い素子を用いるのがよく、本例において用いられたスイッチの動作立ち上がり時間は3nsである。MOSFET以外にも、IGBTなどの高速デバイスを用いることができ、半導体以外でも、高耐圧の水銀リレーを用いることにより早いスイッチング動作を得ることができる。本例においては、半導体スイッチ8がパルス形成用同軸ケーブル9の一端に取り付けられ、もう一端にはハイパスフィルタ12を介して高圧線・接地線接続端子5の一方に取り付けられた。ハイパスフィルタ12は直流電源10と被試験体との直結による被試験体への直流課電の抑止を目的に備え付けられたものであり、本例においては容量500pFの耐圧コンデンサと100kΩの純抵抗で構成されている。逆に直流成分を被試験体に印加したい場合には、これらの素子を取り除くことになる。
【0024】
ここで、パルス電源の作用について説明する。定常時において半導体スイッチ8は開いた状態であり、保護抵抗11を介して直流電源10と接続されたパルス形成用同軸ケーブル9は直流充電されている。この状態から半導体スイッチ8を閉じると、ケーブルの内部導体と外部導体間は短絡されるため電圧進行波が伝搬を開始し、ケーブル両端で反射しながら往復を繰り返す。この時、短絡部のインピーダンスはケーブルの特性インピーダンスよりも小さいので、進行波は短絡部で極性反転して反射される。その結果ハイパスフィルタ12に接続された被試験体のエナメル線間には、充電電圧の2倍の波高値を有するサージ電圧が減衰振動しながら印加される。振動周期は同軸ケーブル9の長さに依存しており、本例では長さ50mの同軸ケーブルを用いているので、500nsの周期となる。実際のインバータサージも減衰振動を伴うことが多いため、本例のようなパルス電源は実際のインバータサージを忠実に再現しており、好ましい。
【0025】
図1の計測制御機器14における比較器15は、光電子増倍管からの光信号の電圧波高値と閾値であるリファレンス電圧を比較し、光信号が大きい時に、TTLレベルの論理信号を出力する機能を有する。部分放電の光信号の幅が10ns前後であることを考慮して、応答速度の速い比較器を用いるのがよく、本例ではアナログ・デバイセズ社製の超高速電圧コンパレータ(AD9696、遅延時間4.5ns)を用いている。
【0026】
ついで、光電子増倍管の出力信号とサージ電圧が印加される時間の対応を判定する判定装置について説明する。比較器15からの論理パルスは、パルスストレッチャ16により望みのパルス幅に拡張される。本実施例においては、ソフトウェアを用いたコンピュータ制御により、インパルス電圧印加直後に、カウンタ回路へ論理信号を取り込むようなシーケンスを組んでいる。カウンタ回路が読み取り作業を実行している時に、幅の大きくなった論理パルスが出力されていれば、放電が進展していることを記録装置に記録できる。不確定な時期に部分放電が引き起こされる正弦波交流電圧の場合とは異なり、インバータサージによる部分放電はサージ侵入時にしか引き起こされないのだから、この時以外に検出される論理パルスは、雑音信号と断定してよい。すなわちサージ電圧印加と同期して出力される論理パルスのみをサンプリングすれば、部分放電検出における誤り率は大幅に改善できる。パルス幅を広げる理由は、比較器からの出力パルスが光信号のパルス幅と等しいままでは、10ns程度しかないため、カウンタ回路の読み取り動作との同期を取るのが難しいためである。本例では、パルスストレッチャ16にて、論理パルスの幅を3msに拡張した。一方で、拡張時間をあまりに長くしすぎると、不確定な時期に出力される雑音信号に起因する論理パルスの幅も長くなり、その結果、カウンタ回路がその信号をサンプリングしてしまう可能性が高まるので、適切な拡張幅を選定する必要がある。
【0027】
本例においては、判定装置をパルスストレッチャやコンピュータにより構成しているが、TTL回路などによって構成してもよい。
【0028】
また本例においては、カウンタ回路と記録装置の双方の役割をコンピュータ18が果たしているが、ワンチップマイコンやデータロガーなどを使用することもできる。コンピュータ18からは、サージ波高値制御用のアナログ信号、半導体スイッチのオンオフ命令およびカウンタ回路への論理パルス取り込み命令が出力されている。コンピュータ18内には、計測制御用ソフトウェアが組み込まれており、これを用いて被測定試料に加わるサージ電圧の波高値と頻度を自由に制御できるとともに、サージ電圧が印加された直後に、カウンタ回路が比較器からの信号を読み取るようにプログラムされている。
【0029】
本発明に基づく実施例の有効性を確認するために行われた2種類の放電発生回数計測方法の例を説明する。
【0030】
アミドイミド系絶縁皮膜で覆われた線径0.8mmのエナメル線2本よりなる有効長さ120mmのツイストペアサンプルに立ち上がり時間30nsのサージ電圧を一定の周期で繰り返し印加した。全く部分放電しないような低い電圧値をサージ波高値の初期設定値としておき、同じ波高値にて10回繰り返し印加したら、次は波高値を10Vほど上昇させてから再び10回印加するという手順を繰り返し、最終的には必ず部分放電が引き起こされるような高電圧のサージを加えるところまで実験を継続し、各10回の印加ごとの放電発生回数を記録した。得られた結果を統計処理して、放電発生率が50%に達するときの電圧を50%放電開始電圧(V50)と定義し、放電発生率が90%に達したときの電圧を90%放電開始電圧(V90)と定義して、実施例と比較例との間で、V50とV90がどのくらい異なるのかについて検証した。繰り返し周期は20msとし、同一電圧による10回の繰り返し終了時から、次の10回を開始するまでの時間は50msとした。比較器のリファレンス電圧は0.3V一定とした。
【0031】
(実施例1)
図1に示す放電発生回数計測装置を用いて測定した。実施例1として印加開始電圧を1500V、印加終了電圧を2500Vとして実験したところ、V50が2080V、V90が2110Vであった。
【0032】
(比較例1)
比較例1として図1の反射鏡4を取り除いて同様の計測をしたところ、V50が2110V、V90が2155Vであった。
【0033】
実施例1の結果と比較例1の結果のそれぞれにおけるサージ電圧の波高値と放電発生確率との関係を図2に示す。反射鏡を用いることにより収光率が向上するため検出感度が高くなることがわかる。
【0034】
(2)検証試験2
検証試験1で用いたのと同種のツイストペアに、実施例の結果1で得られたV50よりも十分に低いサージ電圧を30分間にわたって繰り返し印加した。繰り返しの間隔は100msとして、1000秒間のうちに印加を10000回繰り返した。印加の繰り返し回数と放電発生回数の累積値との関係を調べた。比較器のリファレンス電圧は0.5V一定とした。
【0035】
(実施例2)
図1に示す放電発生回数計測装置を用いて測定した。サージ波高値を1500Vとした場合、10000回後の放電の累積発生回数は2回であった。サージ波高値を1800Vとした場合、10000回後の放電の累積発生回数は26回であった。
【0036】
実施例2における、各パルス信号のタイミングチャートの一例を図3に示す。図3においてPM出力と示されているのは光電子増倍管からの出力であり、インパルス電圧a1が印加された時点で、部分放電による光信号パルスb1が検出されている。一方、不確定な時期に雑音パルスb2が検出されている。信号b1、b2ともに比較器により論理パルスに変換された後、パルスストレッチャにより所定のパルス幅に拡張されている。インパルス電源の短絡スイッチの投入命令が下りた直後に、論理パルス信号の読み取り命令がカウンタ回路に入るようにプログラムしているので、拡張された論理パルスd1は読み込まれ、部分放電が1回引き起こされたことを認識できる。一方、雑音パルスc2はカウンタ回路へ取り込まれない。
【0037】
(比較例2)
比較器からの論理パルスの拡張幅は、実施例において3msであったのに対し、本比較例では70msとした。それ以外は実施例2と全く同じ状態のもとで、放電の累積発生回数を測定した。サージ波高値を1500Vとした場合、10000回後の放電の累積発生回数は24回であった。サージ波高値を1800Vとした場合、10000回後の放電の累積発生回数は41回であった。
【0038】
比較例2における、各パルス信号のタイミングチャートの一例を図4に示す。この例ではインパルス電圧a3が印加されても部分放電が引き起こされなかったために光信号パルスは検出されない。一方、雑音信号b3が検出された後、論理パルスの幅が、信号d3のように過剰に引き延ばされてしまうと、カウンタ回路がこれを読み取る確率が高まるために、検出の誤り率が高まる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、インバータサージの繰り返し印加によりモータ巻き線間などで極めて短時間のうちに引き起こされる部分放電の検出において、高性能のオシロスコープを使用すること無く、小型化かつ低価格にて放電発生回数を測定する装置を提供する手段として利用できる。さらに、本発明の放電発生回数測定装置は、サージが侵入する時にのみ検出回路が有効に働くようにしているため、不確定な時期に外部から侵入する雑音などを部分放電信号として誤認識する確率が低下するため、信頼性の高い部分放電発生回数測定装置として利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1.容器
2.光電子増倍管本体
3.光電子増倍管電源部
4.反射鏡
5.高圧線・接地線接続端子
6.被試験体
7.繰り返しパルス電源
8.半導体スイッチ
9.パルス形成用同軸ケーブル
10.直流電源
11.抵抗
12.ハイパスフィルタ
13.スイッチ駆動用TTLパルス発振回路
14.計測制御機器
15.比較器
16.パルスストレッチャ
17.信号入出力ポート
18.コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の巻き線部に用いる電線にサージ状の電圧が加わったときに電線表面もしくはその近傍で生じる部分放電の発生回数を記録するための装置であって、電線を収納する内面が鏡面になっている容器と、容器内での発光を検知する光電子増倍管と、電線にサージ電圧を印加するパルス電源と、光電子増倍管の出力信号とサージ電圧が印加される時間の対応を判定する判定装置とを備え、光電子増倍管の検知信号とサージ電圧が印加される時間の対応があるときの回数を計測する部分放電発生回数測定装置。
【請求項2】
光電子増倍管の後段に設けられていて光電子増倍管の出力電圧と所定の閾値との比較を行う比較器と、比較器の後段に設けられたパルスストレッチャと、サージ電圧印加に同期して読み取り命令を発生する制御器を有し、パルスストレッチャによって出力されたパルス信号が継続している間に読み取り命令があったときにパルスストレッチャから出力されたパルス信号のみをカウンタ回路に取り込むことを特徴とする請求項1に記載の部分放電発生回数測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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