部分義歯
【課題】 着脱性および装着感の両方ともに優れた部分義歯を提供する。
【解決手段】 人工歯31と、人工歯31を固定する樹脂部20と、樹脂部20の端に位置し、維持歯61にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部C1,C2とを備える部分義歯50であって、嵌合せ部は、維持歯に対して凹状であり、その凹状部の少なくとも頬側は、維持歯に面する帯状面Fを持つ弧状の金属アーム11で形成され、樹脂部20が、熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする。
【解決手段】 人工歯31と、人工歯31を固定する樹脂部20と、樹脂部20の端に位置し、維持歯61にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部C1,C2とを備える部分義歯50であって、嵌合せ部は、維持歯に対して凹状であり、その凹状部の少なくとも頬側は、維持歯に面する帯状面Fを持つ弧状の金属アーム11で形成され、樹脂部20が、熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、維持歯への負担を減らすために、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌め合せ部を備える部分義歯において、着脱を容易にした部分義歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図16(a)は、旧来のクラスプを取り付けた状態を頬側(表側)から見た場合の正面図であり、図16(b)は上面図である。旧来のクラスプは、図16(a),(b)に示すように、人工歯側に固定される固定部108の先端に設けられ、鉤状の鉤状アーム109が、人工歯側(図中左側)の上部から斜め下部遠方へ延びて維持歯103を囲むように拘束する。
【0003】
上記の鉤状アーム109は、維持歯103を側部および上部から立体的に取り囲み、維持歯103へ大きな負担をかけていた。図16(a)において、固定部108の先の基点111から突き出し、維持歯の歯冠部トップを上から抑えるレスト110と、基点111から斜め下方に維持歯の豊隆部(張り出し部)を経てアンダーカット部または歯頚部にいたる鉤状アーム109とが、立体的なカセ(枷)といってもよいほどの態様で維持歯103を拘束する。クラスプは、金属ワイヤまたは鋳造金属でなるが、維持歯へ大きな負担がかかるという点では、クラスプが鋳造金属製でも金属ワイヤー製でも同じである。
【0004】
上記のような旧来のクラスプを備えた部分義歯で食物を噛むと、鉤状アーム109の基点111(鉤状アーム109とレスト110との接続部分)が維持歯103の上端に位置するため、テコの原理により基点111付近を支点として鉤状アーム109が動揺し、維持歯103を揺さぶることになる。このため、顎堤粘膜に痛みが生じたり、部分義歯が外れたりする事例を生じる。また、レスト部分では咬合圧をまともに受けるため、レストが取れる等の破損が生じ、破損物を呑み込むなどの問題を生じることがあった。さらに、鉤状アーム109が、舌、唇、頬粘膜等と接触し、違和感を生じるなど、良好な使用感が得られないことが多かった。
【0005】
また、旧来のクラスプを使用した部分義歯は、図16(a),(b)に示すように、鉤状アームが表側に大きく露出することになり、義歯床によって覆い隠すことができない。このため、鉤状アーム109が目立って、とくに前歯部において審美性の点で大きな問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するために、金属クラスプを用いずに弾力性に富んだ熱可塑性樹脂で部分義歯の維持部および床部を形成した、ノンクラスプデンチャ(ノンクラスプ義歯)と呼ばれる部分義歯が提供されている。熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂が用いられる。ポリカーボネート樹脂は、わが国でも認可されているものもあるが、ナイロン系樹脂は、未認可である。ナイロン系樹脂を用いたノンクラスプ義歯の例を図17に示す。これは米国において実用化されているもので、バルプラスト(登録商標)、ルシトーン等の名称で呼ばれる部分義歯である。ポリカーボネート樹脂を用いたノンクラスプ義歯も、図17のノンクラスプ義歯と同様の考え方のもとに、図17と同様の形状のものが、わが国でも用いられている。また、ナイロン系樹脂を用いたバルプラスト等のノンクラスプ義歯(非特許文献2、3)は、わが国での認可がどうなるかは不明である。現段階では、ナイロン系樹脂のノンクラスプ義歯は、当該熱可塑性樹脂材料が個人輸入され、国内で既に未認可のまま使用が始まっている。これらの部分義歯150は、図17に示すように、人工歯131以外はすべて熱可塑性樹脂で形成される。部分義歯の維持としては、まず(1)大ぶりの義歯床(熱可塑性樹脂)120と顎堤粘膜との大きい密着面積によって、維持力を得る。さらに、(2)頬側にウィングと呼ばれる翼状の幅広突出部Wを配置して、舌側の凹状壁121bとの間で図示していない維持歯とその維持歯に接する歯茎の一部を挟み付け、その弾性力で大きな維持力を確保している。部分義歯150は、維持歯が、図17の部分義歯150の空隙部161hから出るように、装着される。このような部分義歯150によれば、従来の鉤状の金属クラスプによる拘束よりは維持歯の負担が軽減され、装着感も改善される。また、金属クラスプを使用しないため、熱可塑性樹脂の色を歯肉と同じ色にすれば、審美性も向上する。しかし、上記のウィングWは、維持歯の歯牙から歯茎(歯頚部)にまで密着被蓋するため、窮屈感または息苦しさは大きく、とくに食物の咬合・咀嚼の際に違和感が大きい。また、顎堤粘膜または歯茎を覆う義歯床120の面積が広いことは、部分義歯150の容積を大きくして、口腔内の違和感を増幅している。そのほかにも、熱可塑性樹脂の特性である大きい弾性変形能が、咬合時の不安定感を増すという短所もある。
【0007】
なお、人工歯は樹脂部の樹脂で固定される。人工歯には、歯列方向に遠心側と近心側と結んで貫通する歯列方向小孔と、人口歯底部から上記の歯列方向小孔に開口する歯軸方向小孔とが設けられ、いわばT字状小孔が形成されている。樹脂部において、樹脂は、この人工歯のT字状小孔を充填しているので、T字状の樹脂糸が人工歯の内部に形成され、人工歯の周囲を保持する樹脂とともに、人工歯の固定を確実なものとしている。わが国では樹脂部を含めて義歯床の樹脂の材料は、上記の例外的なポリカーボネート樹脂以外は、熱硬化性の加熱重合レジンに限って認可がされていた。加熱重合レジンは、硬く、熱可塑性樹脂に比べて弾性変形能がほとんどないことが特徴である。わが国では、部分義歯の樹脂部には、もっぱらこの加熱重合レジンが用いられてきた。このため、上述のノンクラスプ義歯150以外には、熱可塑性樹脂を主要部に用いた部分義歯の例は、知られていない。
【0008】
上記のノンクラスプ義歯150とは別に、鉤状アームやレストを用いずに、図18(a),(b)に示すように、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせる半円弧状凹部を少なくとも1つ備える、新しいコンセプトの部分義歯が提案された(特許文献1または2)。この半円弧状凹部は、金属アーム111a,111bを含み、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせられる。維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111aは頬側に延在し、短く、やはり維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111bは舌側に延在し、頬側アーム111aよりも長い。2つの金属アーム111a,111bが会合する部分を含めて、金属アーム111a,111bは、ほぼ一平面上に形成されており、図18(a),(b)に示すように、立体的な形状を呈しない。この新しいコンンセプトの部分義歯によれば、固定部111sから分岐した2つの金属アーム111a,111bを含む半円弧状凹部は、維持歯161の歯牙にのみ宛がわれるように嵌め合わせる。したがって、上記の熱可塑性樹脂を用いたノンクラスプ部分義歯におけるウィングWのように歯茎にまで密着する部分がないので、咬合に際し違和感がなく、維持歯161の拘束感を画期的に減らすことができる。また、2つの金属アームのうち頬側(表側)アームの長さを短くすることが可能であり、そのために審美的にも優れたものになる。なお、上記金属アームにより維持を確保する部分義歯では、義歯床や樹脂部に用いる樹脂には、もっぱら認可の出ている熱硬化性アクリル系樹脂である義歯床用アクリル系レジン(JIST6501)すなわち加熱重合レジンが用いられていた。なお、以後の説明で、熱硬化性アクリル系レジン、加熱重合レジンおよびレジンの語は、いずれも義歯床用アクリル系レジンをさすこととし、常温重合レジンまたは即時重合レジンについては、とくに断って用いる。
【0009】
【非特許文献1】改訂新版オズボーン パーシャルデンチャー 医歯薬出版株式会社、1977年7月、p.166
【非特許文献2】バルプラストジャパンホームページ http://www.unionlabo.com
【非特許文献3】アルテ・インターナショナルホームページ http//www.pi-touch.co.jp
【特許文献1】特許第3928102号
【特許文献2】WO2006/131969 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記半円弧状凹部を有する部分義歯は、着脱が容易ではなく、使い始めの使用者は一度装着した当該部分義歯を自ら外すことができない場合さえ生じていた。このため、装着感に優れているものの、着脱性の改善が求められていた。
【0011】
本発明は、着脱性および装着感の両方ともに優れた部分義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の部分義歯は、人工歯と、人工歯を固定する樹脂部と、樹脂部に設けられ、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部とを備える部分義歯である。この部分義歯では、嵌合せ部は、維持歯に対して凹状であり、その凹状部の少なくとも頬側は、維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成され、樹脂部が、熱可塑性樹脂でなることを特徴とする。
【0013】
上記の構成により、樹脂部が弾力性に富む熱可塑性樹脂で形成されるため、弾性変形をさせやすいため、装着を容易に行うことができる。また、嵌合せ部の少なくとも頬側を金属アームとすることにより、維持歯への維持を堅固にできるので、人工歯以外のすべてを熱可塑性樹脂で形成したノンクラスプの部分義歯に比較して、顎堤粘膜を覆う樹脂部の面積を大幅に小さくすることができる。このため違和感が減少し、装着感が向上し、食物の味覚も十分賞味することができる。また上述の加熱重合レジンは、部分義歯を床等に落とすと、破損する場合が多いので義歯床部分を厚く形成するが、熱可塑性樹脂は弾性に富み、破損することがないので、比較的、義歯床を薄く形成することができる。このため、上記本発明の部分義歯は、口腔に装着した場合、舌が自由に動ける範囲(舌房)を広くすることができ、装着感をさらに向上することができる。なお、上記の熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂など、およそ熱可塑性樹脂であれば何でもよい。
【0014】
上記の嵌合せ部の凹状部の頬側および舌側を、ともに、維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成することができる。この構成によって、維持歯への嵌合せをより堅固にでき、義歯床面積をさらに小さくすることができる。
【0015】
上記の嵌合せ部の凹状部の舌側を、樹脂部と連続し、維持歯に面する凹状壁を有する熱可塑性樹脂の突出部とすることができる。これによって、嵌合せ部の維持歯への嵌め合わせにおいて、熱可塑性樹脂の凹状壁の弾力変形を利用できるので、着脱をより容易に行うことができる。
【0016】
上記の部分義歯の義歯床のすべてを、熱可塑性樹脂で形成し、樹脂部を義歯床と一体射出成形することができる。この構成によれば、少なくとも嵌合せ部の頬側の金属アーム以外は、上記の樹脂部を含めてすべて熱可塑性樹脂で形成されるので、鋳型を用いて一体射出成形により樹脂部および義歯床全体を作製できる。この場合、高温溶融状態の熱可塑性樹脂を高圧で鋳型に注入し、放置して固化させるので、能率的に部分義歯を製作することができる。また、熱可塑性樹脂、とくにポリカーボネートは、水分を吸収しにくいので、臭いがつきにくいという利点を有する。さらに、弾力変形の点でも大きくなるので、着脱がさらに容易となる。
【0017】
上記の部分義歯は、金属床または大連結子を備え、樹脂部を、金属床または大連結子と一体の金属メッシュを包むように設けることができる。これによって、左右に離れて位置する欠損部を対象とする部分義歯を、堅固に形成することができる。
【0018】
上記頬側の金属アームを、頬側にのみアームを持つ頬側鋳造クラスプ、または頬側および舌側へと略C字状に延在するC字状鋳造クラスプにおける頬側のアームによって形成し、頬側鋳造クラスプまたはC字状鋳造クラスプを、金属床または大連結子と一体鋳造した構成とすることができる。これによって、嵌合せ部を堅固に形成しながら、熱可塑性樹脂の樹脂部の弾性変形能を保持することができ、部分義歯の着脱を容易に行うことができる。また、上記の堅固な嵌合せのために、より一層、義歯床を薄く形成できるので、さらに口腔内における舌の自由な可動範囲を広く確保できるので、装着感は卓越したものになる。
【0019】
上記の頬側の金属アームを、頬側にのみアームを持つ金属線または鋳造金属であって、該金属線または鋳造金属の根元側を樹脂部に固定した構成とすることができる。この構成により、部分義歯の患者への調整段階において、全体の適合性を考慮しながら維持歯への嵌合せ部の嵌め合わせを、簡単にその場(オンサイト)で調整することができる。このため、装着感と着脱性とに優れた部分義歯を得ることができる。
【0020】
上記の頬側の金属アームを、幹部分から頬側および舌側へと略C字状に分かれする二股鋳造クラスプの頬側のアームで形成し、その二股鋳造クラスプの幹部分を樹脂部に固定する構成とすることができる。これによって、大連結子や金属床を用いない場合に、樹脂床に連続する樹脂部に、二股鋳造クラスプを、患者の歯により適合するように調整しながら固定することができる。
【0021】
上記の熱可塑性樹脂の裏面(顎堤粘膜に接する面)にリベース処理をすることができる。リベース処理は、熱可塑性樹脂の裏面に、常温重合レジンなどの硬い樹脂を貼着して補強する処理である。熱可塑性樹脂の中にはレジンなどが接着しない樹脂もあるので、その場合には、熱可塑性樹脂面を粗面化して化学結合を求めるために、ロカテック処理などを施すのがよい。リベース処理によって顎堤粘膜へのより完全な密着性を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、着脱性および装着感の両方ともに優れた部分義歯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(実施の形態1)
つぎに図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態1における部分義歯50を示す斜視図である。また、図2は、図1の部分義歯50を天地逆にして裏面側を見た斜視図であり、図3は、図2において樹脂部20と人工歯31を除いた状態、すなわち、大連結子12を含む金属部分全体を示す図である。図1において、2つの嵌合せ部C1,C2は、頬側の金属アーム11と、舌側の凹状壁を持つ突出部21とを有して、図示しない維持歯に対して凹状の形状をとる。嵌め合せ部C1,C2の形状は、ちょうど人差し指と親指とを、維持歯に相当する円柱体の側部にあてがうようにしたときの形状に近似している。親指は人差し指に比べて短く、頬側および舌側をともに金属アームで形成した場合、頬側の金属アームに相当する。頬側および舌側ともに金属アームとする場合には、通常、審美性の点から特に前歯部では頬側アームを舌側アームに比べて短くする。また、審美性の観点以外に、着脱性を良くするために、頬側アームを短くする要請が常にある。熱可塑性樹脂を樹脂部に用いた場合には、着脱性が向上するので、その着脱性の向上分、頬側アームを短くすることができる。頬側金属アームまたは舌側金属アームを長くした場合でも、本発明の部分義歯では、維持歯の歯牙にのみあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部で維持するので、維持歯への拘束が増大して装着感が劣化することはない
【0024】
頬側金属アーム11は、維持歯に面する帯状面Fを有し、上述の親指の形状に対応して、弧状である。嵌合せ部C1,C2の凹状壁の突出部21は、樹脂部20と一体であり、熱可塑性樹脂の一体射出成形によって、作製される。したがって、頬側金属アーム11は、上述した頬側鋳造クラスプに該当する。本説明においては、金属アームが鋳造製か、汎用の金属線を加工したものか、その都度、説明するが、図面に付す番号によっては、鋳造製かまたは汎用金属線かは区別せず、同じ符号11等をつける。図2に示すように、樹脂部20の裏面は、欠損部の顎堤粘膜に適合するように、歯列に沿って中央部が凹んでいる。後で、詳しく説明するように、樹脂部20の面積は、小さく形成して問題がなければ、より快適な装着感を得ることができる。
【0025】
大連結子12は、歯列内の離れた位置にある床同士、または床と維持装置とを連結する金属構造物であり、バー、プレートなどと呼ばれる。上顎の場合は、パラタルバー、パラタルプレートなどであり、下顎では、リンガルバー、リンガルプレートと呼ばれる。図1〜図3の場合は、上顎の場合であり、パラタルバーである。図3に示すように、パラタルバー12の両端にはメッシュ部13が設けられ、樹脂部20が固着しやすいようにしている。パラタルバー12と、メッシュ部13と、頬側の金属アーム11とは、一体化されている。一体化は、パラタルバー12、メッシュ部13および頬側金属アーム11を、一体鋳造により作製することにより、簡単に強固な一体物を得ることができる。後で、製造方法について説明するが、図3に示す一体物の金属部分を、鋳型の中に配置して、図1または図2に示す熱可塑性樹脂部20(熱可塑性樹脂の突出部21を含む)の空間以外の部分は石膏中に埋没させた状態として、熱可塑性樹脂を高圧注入するので、上記一体物の金属部分は、全体として所定値以上の強度を必要とする。
【0026】
本実施の形態における部分義歯50は、嵌合せ部C1,C2がともに、維持歯にあてがうように嵌め合わされる円弧状凹部であるため、維持歯への負担を大きく軽減することができる。また、樹脂部20および上記円弧状凹部の舌側部分が、熱可塑性樹脂で形成されるため、部分義歯50の着脱を容易に行うことができる。部分義歯の着脱の難易度には、部分義歯50の全体構成が関与しており、樹脂部20の裏面と顎堤粘膜との適合、維持歯と凹状部分とくに金属アーム11および凹状壁の突出部21との嵌め合い、などが協働して関係するため、それぞれの部分の弾性変形のしやすさに応じて、着脱は容易となる。本実施の形態における部分義歯50は、樹脂部20および凹状壁の突出部21に、熱可塑性樹脂を用いているため、着脱の容易性は大幅に向上する。なお、本実施の形態における部分義歯では、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌め合せ部が、2つある場合を例示したが、上記凹状の嵌め合せ部が1つの部分義歯でもよいことは言うまでもない。
【0027】
人工歯以外すべてが熱可塑性樹脂で形成されたノンクラスプ型の部分義歯に比べて、本発明の実施の形態の部分義歯50において得られる長所は、つぎのようにまとめられる。
(1)ノンクラスプ型では、幅広のウィングで頬側部分を形成するのに対して、本実施の形態では、頬側部分を金属アームで形成したので、歯肉部を含めて維持歯付近への負担、圧迫感は小さい。
(2)本実施の形態では、頬側部分を金属アームで形成したので、維持力は、上記ウィングに比べて大きくなり、その分、顎堤粘膜を覆う義歯床面積を小さくすることができ、違和感を小さくすることができる。この点に関しては、このあと図9において義歯床部分を具体的に比較して示す。
(3)本実施の形態では、大連結子(パラタルバー)12を用いているため、顎堤粘膜を覆う部分は非常に小さくなり、違和感は大きく改善される。
(4)熱可塑性樹脂のノンクラスプ型の部分義歯の短所である、咬合時の弾性変形過多に起因する不安定感は、上記の(2)および(3)によって抑止される。
【0028】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における部分義歯50を示す斜視図である。また、図5は、図4の部分義歯50を天地逆にして、裏面側を見た図である。実施の形態1に示した部分義歯50との相違点は、本実施の形態では、嵌合せ部C1,C2が両方とも金属アーム11a,11bで形成されている点にある。本実施の形態では、図5においてより観察しやすいように、パラタルバー12と、メッシュ部13と、C字状クラスプ11a,11bとが、一体鋳造によって一体物として作製されている。したがって、C字状クラスプ11は、C字状鋳造クラスプに該当する。
【0029】
図4および図5に示す部分義歯50では、人工歯31を固定する樹脂部20のみが熱可塑性樹脂で形成される。嵌合せ部C1,C2がパラタルバー12およびメッシュ部13と一体化したC字状鋳造クラスプであり、熱可塑性樹脂が樹脂部20のみに配置された部分義歯であっても、着脱性は、部分義歯全体の構成が関与するため、樹脂部20を加熱重合レジンとした場合に比べて、格段に向上する。その理由は、つぎのような装着過程を経るからと考えられる。すなわち、部分義歯50の装着時には、樹脂部20は、顎堤粘膜の所定領域を被覆し、C字状クラスプ11a,11bは、維持歯の定位置に嵌め合わされるのであるが、装着開始の時点で、たとえば樹脂部20が所定姿勢・所定領域から多少外れていても弾性変形することによって、まず高剛性のC字状クラスプ11a,11bを維持歯の定位置の付近に嵌合させ、次いで樹脂部20の姿勢や位置を微調整しながら弾性復元しながらC字状クラスプ11a,11bを維持歯の定位置にずらして、正しい装着位置および装着姿勢をとることができる。換言すれば、従来、レジンを用いていた場合、正しい装着に至る経路は非常に狭い一通りの経路しかなかったものが、弾性変形に富む熱可塑性樹脂を樹脂部20に用いることによって、正しい装着に至る経路が幅広くなり着脱が容易となる。
【0030】
本実施の形態における部分義歯50では、上記の着脱の容易性の向上のほかに、C字状鋳造クラスプ11a,11bを用いるため、維持が強固になり、部分義歯の維持の耐久性を向上することができる。違和感がないこと、および維持歯の負担が小さいことは、実施の形態1における部分義歯50と同様である。
【0031】
図6は、図1の部分義歯50と、図4の部分義歯50との中間に当る変形例である。この変形例の部分義歯50では、一方の嵌合せ部C1は、頬側の金属アーム11aと、舌側の熱可塑性樹脂の凹状壁の突出部21とで形成されるのに対して、他方の嵌合せ部C2では、頬側および舌側ともに、金属アームのC字状クラスプ11a,11bで形成されている。嵌め合せ部C1における金属アーム11aは頬側鋳造クラスプであり、または嵌め合せ部C2におけるC字状クラスプ11a,11bはC字状鋳造クラスプであり、どちらもパラタルバー12と一体鋳造により一体化されている。図6の変形例の部分義歯50は、図1の部分義歯50と図4の部分義歯50との中間の長所を備える。図1、図4および図6の部分義歯50のうち、どのような場合に、どの部分義歯50を用いるかは、残存歯、欠損部などの患者の口腔に応じて選択することになる。
【0032】
次に、上記の図1、図4または図6に示す部分義歯の製作方法について、説明する。まず患者から、残存歯の状態を写しとる印象を採得する。次いで患者の残存歯状態を表す石膏模型を作り、その石膏模型を基にしてろう義歯を製作する。パラタルバー、メッシュ部、頬側クラスプまたは両側クラスプなどの金属部分については、上記の石膏模型を基にして耐火模型を作り、その耐火模型上にワックスでパラタルバーなどの金属部分を作製する。ワックスの金属部分を配置したまま耐火模型を埋没剤に埋め、次いでそのワックスを溶かし出して金属部分の鋳型を製作する。その鋳型に溶解した金属を鋳込んで金属部分を製作しておく。金属部分12,13,11および人工歯31を、上記のろう義歯に配置する。樹脂部20に埋め込まれるメッシュ部13、部分的に樹脂部20に埋め込まれるクラスプ11および人工歯31は、樹脂部20をろう材とみて、ろう材の中に、対応するようにそれぞれ埋め込む。なお、このあと説明する本発明の実施の形態3における部分義歯(図8参照)では、金属部分には金属線等を用い、鋳造工程で作製しないので、金属部分の別途での鋳造工程は不要となる。
【0033】
熱可塑性樹脂の射出成形の際に、下型となる下フラスコに石膏を入れ、上記のろう義歯を部分的に埋没する(一次埋没)。次いで、上型となる上フラスコ内に石膏を入れ、ろう義歯を包むように埋没する(二次埋没)。この埋没工程の際に、上記ろう義歯のろう材が加熱され解けて流れ出る湯道を設けておく。湯道は、射出成形の際の熱可塑性樹脂の注入経路ともなる。次いで、全体を加熱して、流ろう工程を行う。ろう材が流れ出たあとは、熱可塑性樹脂を注入するための樹脂部や義歯床の型の空間となっている。パラタルバーに連続するメッシュ部13などは、この空間内に露出している。上下フラスコを分離して、すなわち上下型を分離して、それぞれの金型の表面を整える。
【0034】
上下フラスコを機械的にしっかりと合体した後、射出成形機に固定して、流動状態に加熱された熱可塑性樹脂を、先の湯道から高圧で注入して、その後、冷却する。冷却した後、埋没するのに用いた石膏を除去して仕上げることにより、部分義歯50が完成する。従来のレジンを用いた部分義歯の製作工程は、図7の破線で囲った工程に対応しており、上記の製作工程と大きく相違する。加熱重合レジンを鋳型内に充填して、上下フラスコ間に挟み加圧して鋳型内に充填する。そのときバリなどの余剰分が多く出るので、それらを除去する。その後、上下フラスコごと高温に保持して、レジンを硬化させる。所定温度に所定時間保持した後、一日程度の時間をかけて冷却し、部分義歯を型から取り出し、仕上げ成形をする。
【0035】
上記のように、レジンを樹脂部や義歯床に用いた従来の部分義歯に比べて、本発明の部分義歯は、熱可塑性樹脂を加熱重合レジンの代わりに用いるため、型に合わせて射出し、固化する処理を簡単化し、かつ短時間で行うことができる。とくに最終段階の型内に装入して加圧する工程を、射出成形機内で、機械装置が一瞬にして自動的に行うことができる。このため、本発明の部分義歯は、着脱性や装着感が向上するだけでなく、製作工程を機械装置により自動化して、簡単に短時間で行うことができる。
【0036】
(実施の形態3)
図8は、本発明の実施の形態3における部分義歯50を示す斜視図である。本実施の形態における部分義歯50では、パラタルバーなどの大連結子は用いず、樹脂部を含む義歯床20に熱可塑性樹脂を用いる点に特徴を有する。嵌め合せ部C1,C2は、ともに、頬側は金属線11であり、また舌側は義歯床20と一体物の凹状壁の突出部21である。嵌め合せ部の頬側に金属線11を用いたことによって、部分義歯50を患者に装着したときの維持力を高めることができる。この金属線は、鋳造クラスプではなく、この後、詳しく説明するように異形断面の金属線であり、汎用金属線でも、特注または専用金属線でもよい。図8の部分義歯50では、ノンクラスプの熱可塑性樹脂のみで維持力を確保する従来の部分義歯に比べて、顎堤粘膜を被覆する部分の幅を狭くして、部分義歯全体の体積を小さくすることができる。
【0037】
図9(a)は、本実施の形態の部分義歯50であり、本発明の実施の形態3(図8)に示した部分義歯50を、患者の模型に装着した状態を示す図である。したがって、嵌め合せ部C1,C2には、頬側に金属線11が用いられている。比較のために示したのが、図9(b)のノンクラスプ型の人工歯以外すべて熱可塑性樹脂からなる部分義歯150である。すなわち、図17と同じタイプの部分義歯である。図9(a)および図9(b)の患者の石膏模型70,170は同じものである。比較すべきは、義歯床のサイズである。図9(b)のノンクラスプ型の部分義歯150では、義歯床が大ぶりであり、図9(a)または図8に示す部分義歯50より大幅に大きい。図9(b)における破線は、図9(a)に示す部分義歯50の義歯床の輪郭線であり、部分義歯50が二次元的に部分義歯150の中にスッポリと入ることが分かる。
【0038】
ノンクラスプ型の部分義歯150では、熱可塑性樹脂の義歯床120と、クラスプ相当のウィングWおよび凹状壁121bで維持力を確保する。ウィングWおよび凹状壁121bによる維持力は、金属線11など金属を用いた維持力に比べて小さい。このため、ノンクラスプ型の部分義歯150では、義歯床120の幅または面積は広くなり、また、図17に示したように、クラスプ相当部分のウィングWの高さ(幅)を大きくせざるを得なかった。いかに熱可塑性樹脂が弾性変形に富むといっても、顎堤粘膜や歯肉を大きく覆って、容量の大きなものが口腔内に入る場合、患者は、非咬合時および咬合時の別なく違和感を強く感じる。たとえば、図9(b)の左下の奥歯(維持歯)161の周囲には、熱可塑性樹脂の義歯床121が取り囲んでおり、舌側の壁状部分121bと頬側のウィングWとで囲まれた殆ど穴状の部分161hが設けられている。これに対して、図9(a)の同じ位置の奥歯61の周囲には、義歯床20は回っていず、部分義歯50の終端部は奥歯61の近心側位置にとどまっている。
【0039】
図9(a),(b)に基づき、部分義歯50,150を全体的に比較してわかるように、本実施の形態の部分義歯50のサイズを部分義歯150よりも非常に小さくできる。これは、嵌め合せ部の頬側部分に金属線11を用いたために得ることができる利点であり、顎堤粘膜を覆う義歯床を小さくすることができ、使用者の装着感を大幅に向上することができる。その上、本実施の形態における部分義歯50には、製作上、以下に説明するような利点を有する。
【0040】
図10は、円弧と直線とで囲まれるような断面である異形断面を有する金属線による頬側アーム11を示す図である。この金属線はステンレス鋼製であるが、ステンレス鋼に限定されず、Ti合金、白金加金などどのような金属を用いてもよい。頬側アーム11には、図10に示すように帯状面Fが設けられている。金属線11の断面は絃と円弧とで囲まれる形状である。すなわち帯状面Fに対応する、断面が弦に対応する面と、断面が円弧になる面で囲まれている。帯状面Fの幅(または断面における弦の長さ)は2mm程度であり、円弧の高さ(金属線の厚み)は1mm程度である。このような金属線は、帯状面Fに沿ってその帯状面に直交する面内の任意の方向(剛性が最も低い)に容易に曲げ加工することができる。
【0041】
頬側アーム11の根元部11sは、義歯床に埋め込まれて固定される部分であり、それより先の部分において、曲げられてアールが形成され、維持歯にあてがわれる部分となる。図10に示す金属線製の頬側アーム11は、帯状面Fに直交する面内において曲げ加工されるため、一平面上に形成されており、すなわち一平面上に置くことができる。直線状の根元部11sには、義歯床との摩擦力を高めるために凹部(切れ込み)11vを付すのがよい。
【0042】
図8に示す部分義歯における頬側アームとは異なるが、図11に、鋳造金属製の頬側アーム11を示す。この鋳造金属製の頬側アーム11においても、根元部11sには凹部11vを設けるのがよい。湾曲している部分から先端側は、局所的には維持歯に対して凸状であるように見えるが、湾曲部全体では維持歯に対して凹状である。本発明においては、印象取りや鋳型形成などを経ずに異形断面の金属線を曲げ加工した頬側アーム(図10参照)でもよいし、また(印象取り−鋳型形成)工程を経て鋳造された頬側アーム(図11参照)であってもよい。
【0043】
図12は、図7の部分義歯の製作において、義歯床20の裏側20bに頬側アーム11を埋め込み固定するための溝20dを設け、その溝20d内に、図10に示す頬側アーム11の根元部11sを配置した状態を示す図である。この義歯床20には、人工歯の根元側が埋め込まれて固定されているので、頬側アーム11の根元部11sを埋めて固定するスペースは、あまり大きくとれない。しかし、金属線の帯状面Fを維持歯にあてがうように配置するため、図10の頬側アームを構成する金属線の厚みまたは円弧の高さ(1mm程度)が、義歯床20の溝20dの幅に対応する配置になり、この結果、帯状面の幅方向(断面の弦の長さ方向)が溝20dの深さ方向に揃うため、頬側アーム11の固定に必要な義歯床面積を少なくすることができる。図12に示すように、頬側アーム11の根元部11sを溝20dの中に配置したあと、常温重合(即時重合)レジンなどで溝20dを埋めて、常温重合レジンを固化させて、頬側アーム11を義歯床20に強固に固定することができる。
【0044】
上記の構造によれば、患者の口腔内で、多くの調整作業を、直接的かつ即時性をもって行うことができ、頬側アーム11の形状および配置の精度を向上させることができ、しかも従来に比べて画期的に短時間で、容易に行うことができる。このため、高精度の部分義歯を安価に提供することが可能になる。このような、頬側アーム11を部分義歯に設ける作業は、図18に示すような新しいコンセプトの部分義歯の嵌め合せ部における金属アームであるから容易に可能となるのであり、図16に示した部分義歯における立体的な鉤状アームが維持歯を拘束するタイプの係合部では、クラスプの形状が複雑であるため、加工は困難である。とくに曲げ加工を容易にする一平面内における曲げ加工のみで、上記鉤状アームを形成することは不可能である。
【0045】
図12に示すように頬側アーム11の金属線を樹脂部20に埋め込んで固定した後、熱可塑性樹脂の裏面20bにリベース処理を施してもよい。リベース処理に用いる材料には、市販のリベース用の常温重合レジンを用いることができる。たとえば液材と粉末材とが一組になった材料を用いて、裏面20bに硬い被覆層を形成することができる。熱可塑性樹脂の中には、滑らかな面では、加熱重合レジンと固着しないものもあるので、この場合には、ロカテック処理等によって表面を粗面化し、シランカップリング剤等を用いて化学結合を形成するのがよい。リベース処理によって、熱可塑性樹脂の義歯床は、顎堤粘膜との密着性をよくして維持力を向上することができる。
【0046】
図13は、本発明の実施の形態3の部分義歯10の装着状態を、人工歯の歯先から歯元に向かう方向に見た平面図である。本実施の形態では、上述のように、維持歯61にあてがわれる嵌合せ部C1またはC2が、頬側の金属アーム11a(11)と、舌側の凹状壁の突出部21とによって形成される。頬側アーム11は、異形断面の金属線によって形成され、義歯床20に埋め込まれ、固定されている。
【0047】
本実施の形態の部分義歯50は、嵌め合せ部C1またはC2の一方または両方において、頬側のみを金属線由来の金属アーム11で形成し、舌側は、熱可塑性樹脂の樹脂部または義歯床20と一体化された凹状壁の突出部21で形成する。熱可塑性樹脂は、樹脂部を含めて義歯床20全体に用いられるので、弾性変形に富み、部分義歯の着脱は非常に容易となる。一方、頬側に金属アーム11を用いることから部分義歯の維持力が向上し、義歯床の顎堤粘膜への密着によって維持力に寄与する部分を減らすことができる。すなわち、義歯床の面積または体積を減らすことができる。この結果、部分義歯の違和感を減らし、良好な装着感を得ることができる。
【0048】
(実施の形態4)
図14は、本発明の実施の形態4の部分義歯50を装着した状態を人工歯の歯先から歯元に向かう方向に見た平面図である。大連結子は省略してある。本実施の形態では、維持歯61にあてがわれる嵌め合せ部C1またはC2が、二股鋳造クラスプ11によって形成されている点に特徴を有する。二股鋳造クラスプ11は、樹脂部20に埋め込まれる幹部分11sと、その幹部分からC字状に頬側と舌側とに二股に枝分かれした頬側アーム11aおよび舌側アーム11bとを備える。この二股クラスプ11は、石膏模型を基にして鋳造工程により作製される。
【0049】
図15に、鋳造金属製の二股クラスプ11を示す。この鋳造金属製の二股クラスプ11においても、根元部11sには凹部11vを設けるのがよい。二股クラスプ11の樹脂部20への固定作業は、図12に示した方法と基本的に同じである。樹脂部20の底面側は、義歯床と同様に、盛り上った顎堤粘膜に適合するように、アーチ状なので、図15に示す二股クラスプ11を固定する部分を確保するために、人工歯の底面側も十分高いアーチ状にする必要がある。人工歯の下方の樹脂部20に溝を設け、その溝に二股クラスプ11の幹部分を収納し、常温重合レジン等を用いて溝を充填し、固定する作業は図12の場合と同じである。二股クラスプ11の根元部11sは、帯状面Fに直交する方向の厚みを薄くするのがよく、図12に示すように、二股クラスプの根元部を埋め込むスペースを節約することができる。
【0050】
本発明の部分義歯では、あてがうように維持歯に嵌め合せる嵌め合せ部は、2つあることが望ましいが、1つであってもよく、他の係止部の形態は問わない。本発明の部分義歯の製造方法について一例を示したが、本発明の部分義歯の製造方法は、上記一例に限定されず、周知の変形方法の付加または置換を行うことができる。
【0051】
ここで、本発明の部分義歯の頬側金属アームとの組み合わせにおいて、熱可塑性樹脂が奏する作用効果についてまとめておく。
(1)維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部を持つ部分義歯の着脱性を改善する。
(2)頬側の金属アームの利用により、樹脂部の大きさを小さくしても維持力を十分確保できるため、樹脂部のサイズを小さくすることができる。これは、樹脂部を加熱重合レジンで構成しても、同様にサイズを小さくできる。樹脂部を熱可塑性樹脂で構成した場合は、さらに次の要因により、さらに樹脂部のサイズを小さくすることができる。すなわち、部分義歯を落としても熱可塑性樹脂の樹脂部は割れないので、上記本発明の部分義歯の樹脂部の厚みを、加熱重合レジンを用いる場合よりも、薄くできる。その結果、舌の自由な可動範囲である舌房を大きくすることができ、装着感をさらに向上できる。
(3)加熱重合レジンを樹脂部に用いる場合、頬側金属アームまたは舌側金属アームの長さは、より長いほうがベストと考えても、着脱性を考えると、長くできない場合があった。樹脂部に熱可塑性樹脂を用いることで着脱性が向上するため、頬側金属アームまたは舌側金属アームの長さの制約が除かれ、ベストの長さにすることができる。なお、念のため付け加えるが、頬側金属アームまたは舌側金属アームを長くした場合でも、本発明の部分義歯では、維持歯の歯牙にのみあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部で維持するので、維持歯への拘束などが増大して装着感が劣化することはない
(4)上記本発明の部分義歯の製造方法を簡単化して、製造期間を短縮する。ただし、この製造方法の簡単化等は、ノンクラスプ義歯でも同様に得られる作用効果である。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の部分義歯を用いることにより、維持歯にあてがうようにして嵌め合わせる嵌合せ部を含む部分義歯を、非常に容易に着脱することができ、しかも義歯床の容積を大幅に小さくできるので、ノンクラスプ型の部分義歯に比べて、装着感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1における部分義歯を示す斜視図である。
【図2】図1の部分義歯の底面(裏面)側を見た斜視図である。
【図3】図1の部分義歯のパラタルバーおよび頬側アームを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態2における部分義歯を示す斜視図である。
【図5】図4の部分義歯を底面(裏面)側を見た斜視図である。
【図6】図1および図4に示す部分義歯の変形例を示す斜視図である。
【図7】本発明例に係る部分義歯の製造工程を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3における部分義歯を示す斜視図である。
【図9】図8の部分義歯と、ノンクラスプ型部分義歯との比較を示す図であり、(a)は図8の部分義歯を、また(b)はノンクラスプ型部分義歯を示す図である。
【図10】頬側アームを形成する金属線の一例を示す図である。
【図11】頬側アームを形成する鋳造金属の一例を示す図である。
【図12】図8の部分義歯の製造において、金属線を樹脂部の溝に配置した状態を示す図である。
【図13】図8の部分義歯を装着した状態を歯の先側から根元側に向かって見た図である。
【図14】本発明の実施の形態4における部分義歯を装着した状態を示す図である。
【図15】図14の部分義歯の二股クラスプを示す斜視図である。
【図16】従来の部分義歯を装着した状態を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【図17】従来のノンクラスプ型部分義歯を示す図である。
【図18】従来の半円弧状凹部を嵌め合わせる型の部分義歯を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 金属アーム(頬側アーム)、11a 頬側アーム、11b 舌側アーム、11s 金属線の根元部、11v 金属線の凹部、12 大連結子(パラタルバー)、13 メッシュ部、20 樹脂部または義歯床、20b 義歯床の底面、20d 溝、21 凹状壁の突出部(舌側)、31 人工歯、50 部分義歯、61 維持歯、70 石膏模型、F 金属アームの帯状面、C1,C2 嵌め合わせ凹部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、維持歯への負担を減らすために、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌め合せ部を備える部分義歯において、着脱を容易にした部分義歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図16(a)は、旧来のクラスプを取り付けた状態を頬側(表側)から見た場合の正面図であり、図16(b)は上面図である。旧来のクラスプは、図16(a),(b)に示すように、人工歯側に固定される固定部108の先端に設けられ、鉤状の鉤状アーム109が、人工歯側(図中左側)の上部から斜め下部遠方へ延びて維持歯103を囲むように拘束する。
【0003】
上記の鉤状アーム109は、維持歯103を側部および上部から立体的に取り囲み、維持歯103へ大きな負担をかけていた。図16(a)において、固定部108の先の基点111から突き出し、維持歯の歯冠部トップを上から抑えるレスト110と、基点111から斜め下方に維持歯の豊隆部(張り出し部)を経てアンダーカット部または歯頚部にいたる鉤状アーム109とが、立体的なカセ(枷)といってもよいほどの態様で維持歯103を拘束する。クラスプは、金属ワイヤまたは鋳造金属でなるが、維持歯へ大きな負担がかかるという点では、クラスプが鋳造金属製でも金属ワイヤー製でも同じである。
【0004】
上記のような旧来のクラスプを備えた部分義歯で食物を噛むと、鉤状アーム109の基点111(鉤状アーム109とレスト110との接続部分)が維持歯103の上端に位置するため、テコの原理により基点111付近を支点として鉤状アーム109が動揺し、維持歯103を揺さぶることになる。このため、顎堤粘膜に痛みが生じたり、部分義歯が外れたりする事例を生じる。また、レスト部分では咬合圧をまともに受けるため、レストが取れる等の破損が生じ、破損物を呑み込むなどの問題を生じることがあった。さらに、鉤状アーム109が、舌、唇、頬粘膜等と接触し、違和感を生じるなど、良好な使用感が得られないことが多かった。
【0005】
また、旧来のクラスプを使用した部分義歯は、図16(a),(b)に示すように、鉤状アームが表側に大きく露出することになり、義歯床によって覆い隠すことができない。このため、鉤状アーム109が目立って、とくに前歯部において審美性の点で大きな問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するために、金属クラスプを用いずに弾力性に富んだ熱可塑性樹脂で部分義歯の維持部および床部を形成した、ノンクラスプデンチャ(ノンクラスプ義歯)と呼ばれる部分義歯が提供されている。熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂が用いられる。ポリカーボネート樹脂は、わが国でも認可されているものもあるが、ナイロン系樹脂は、未認可である。ナイロン系樹脂を用いたノンクラスプ義歯の例を図17に示す。これは米国において実用化されているもので、バルプラスト(登録商標)、ルシトーン等の名称で呼ばれる部分義歯である。ポリカーボネート樹脂を用いたノンクラスプ義歯も、図17のノンクラスプ義歯と同様の考え方のもとに、図17と同様の形状のものが、わが国でも用いられている。また、ナイロン系樹脂を用いたバルプラスト等のノンクラスプ義歯(非特許文献2、3)は、わが国での認可がどうなるかは不明である。現段階では、ナイロン系樹脂のノンクラスプ義歯は、当該熱可塑性樹脂材料が個人輸入され、国内で既に未認可のまま使用が始まっている。これらの部分義歯150は、図17に示すように、人工歯131以外はすべて熱可塑性樹脂で形成される。部分義歯の維持としては、まず(1)大ぶりの義歯床(熱可塑性樹脂)120と顎堤粘膜との大きい密着面積によって、維持力を得る。さらに、(2)頬側にウィングと呼ばれる翼状の幅広突出部Wを配置して、舌側の凹状壁121bとの間で図示していない維持歯とその維持歯に接する歯茎の一部を挟み付け、その弾性力で大きな維持力を確保している。部分義歯150は、維持歯が、図17の部分義歯150の空隙部161hから出るように、装着される。このような部分義歯150によれば、従来の鉤状の金属クラスプによる拘束よりは維持歯の負担が軽減され、装着感も改善される。また、金属クラスプを使用しないため、熱可塑性樹脂の色を歯肉と同じ色にすれば、審美性も向上する。しかし、上記のウィングWは、維持歯の歯牙から歯茎(歯頚部)にまで密着被蓋するため、窮屈感または息苦しさは大きく、とくに食物の咬合・咀嚼の際に違和感が大きい。また、顎堤粘膜または歯茎を覆う義歯床120の面積が広いことは、部分義歯150の容積を大きくして、口腔内の違和感を増幅している。そのほかにも、熱可塑性樹脂の特性である大きい弾性変形能が、咬合時の不安定感を増すという短所もある。
【0007】
なお、人工歯は樹脂部の樹脂で固定される。人工歯には、歯列方向に遠心側と近心側と結んで貫通する歯列方向小孔と、人口歯底部から上記の歯列方向小孔に開口する歯軸方向小孔とが設けられ、いわばT字状小孔が形成されている。樹脂部において、樹脂は、この人工歯のT字状小孔を充填しているので、T字状の樹脂糸が人工歯の内部に形成され、人工歯の周囲を保持する樹脂とともに、人工歯の固定を確実なものとしている。わが国では樹脂部を含めて義歯床の樹脂の材料は、上記の例外的なポリカーボネート樹脂以外は、熱硬化性の加熱重合レジンに限って認可がされていた。加熱重合レジンは、硬く、熱可塑性樹脂に比べて弾性変形能がほとんどないことが特徴である。わが国では、部分義歯の樹脂部には、もっぱらこの加熱重合レジンが用いられてきた。このため、上述のノンクラスプ義歯150以外には、熱可塑性樹脂を主要部に用いた部分義歯の例は、知られていない。
【0008】
上記のノンクラスプ義歯150とは別に、鉤状アームやレストを用いずに、図18(a),(b)に示すように、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせる半円弧状凹部を少なくとも1つ備える、新しいコンセプトの部分義歯が提案された(特許文献1または2)。この半円弧状凹部は、金属アーム111a,111bを含み、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせられる。維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111aは頬側に延在し、短く、やはり維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111bは舌側に延在し、頬側アーム111aよりも長い。2つの金属アーム111a,111bが会合する部分を含めて、金属アーム111a,111bは、ほぼ一平面上に形成されており、図18(a),(b)に示すように、立体的な形状を呈しない。この新しいコンンセプトの部分義歯によれば、固定部111sから分岐した2つの金属アーム111a,111bを含む半円弧状凹部は、維持歯161の歯牙にのみ宛がわれるように嵌め合わせる。したがって、上記の熱可塑性樹脂を用いたノンクラスプ部分義歯におけるウィングWのように歯茎にまで密着する部分がないので、咬合に際し違和感がなく、維持歯161の拘束感を画期的に減らすことができる。また、2つの金属アームのうち頬側(表側)アームの長さを短くすることが可能であり、そのために審美的にも優れたものになる。なお、上記金属アームにより維持を確保する部分義歯では、義歯床や樹脂部に用いる樹脂には、もっぱら認可の出ている熱硬化性アクリル系樹脂である義歯床用アクリル系レジン(JIST6501)すなわち加熱重合レジンが用いられていた。なお、以後の説明で、熱硬化性アクリル系レジン、加熱重合レジンおよびレジンの語は、いずれも義歯床用アクリル系レジンをさすこととし、常温重合レジンまたは即時重合レジンについては、とくに断って用いる。
【0009】
【非特許文献1】改訂新版オズボーン パーシャルデンチャー 医歯薬出版株式会社、1977年7月、p.166
【非特許文献2】バルプラストジャパンホームページ http://www.unionlabo.com
【非特許文献3】アルテ・インターナショナルホームページ http//www.pi-touch.co.jp
【特許文献1】特許第3928102号
【特許文献2】WO2006/131969 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記半円弧状凹部を有する部分義歯は、着脱が容易ではなく、使い始めの使用者は一度装着した当該部分義歯を自ら外すことができない場合さえ生じていた。このため、装着感に優れているものの、着脱性の改善が求められていた。
【0011】
本発明は、着脱性および装着感の両方ともに優れた部分義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の部分義歯は、人工歯と、人工歯を固定する樹脂部と、樹脂部に設けられ、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部とを備える部分義歯である。この部分義歯では、嵌合せ部は、維持歯に対して凹状であり、その凹状部の少なくとも頬側は、維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成され、樹脂部が、熱可塑性樹脂でなることを特徴とする。
【0013】
上記の構成により、樹脂部が弾力性に富む熱可塑性樹脂で形成されるため、弾性変形をさせやすいため、装着を容易に行うことができる。また、嵌合せ部の少なくとも頬側を金属アームとすることにより、維持歯への維持を堅固にできるので、人工歯以外のすべてを熱可塑性樹脂で形成したノンクラスプの部分義歯に比較して、顎堤粘膜を覆う樹脂部の面積を大幅に小さくすることができる。このため違和感が減少し、装着感が向上し、食物の味覚も十分賞味することができる。また上述の加熱重合レジンは、部分義歯を床等に落とすと、破損する場合が多いので義歯床部分を厚く形成するが、熱可塑性樹脂は弾性に富み、破損することがないので、比較的、義歯床を薄く形成することができる。このため、上記本発明の部分義歯は、口腔に装着した場合、舌が自由に動ける範囲(舌房)を広くすることができ、装着感をさらに向上することができる。なお、上記の熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂など、およそ熱可塑性樹脂であれば何でもよい。
【0014】
上記の嵌合せ部の凹状部の頬側および舌側を、ともに、維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成することができる。この構成によって、維持歯への嵌合せをより堅固にでき、義歯床面積をさらに小さくすることができる。
【0015】
上記の嵌合せ部の凹状部の舌側を、樹脂部と連続し、維持歯に面する凹状壁を有する熱可塑性樹脂の突出部とすることができる。これによって、嵌合せ部の維持歯への嵌め合わせにおいて、熱可塑性樹脂の凹状壁の弾力変形を利用できるので、着脱をより容易に行うことができる。
【0016】
上記の部分義歯の義歯床のすべてを、熱可塑性樹脂で形成し、樹脂部を義歯床と一体射出成形することができる。この構成によれば、少なくとも嵌合せ部の頬側の金属アーム以外は、上記の樹脂部を含めてすべて熱可塑性樹脂で形成されるので、鋳型を用いて一体射出成形により樹脂部および義歯床全体を作製できる。この場合、高温溶融状態の熱可塑性樹脂を高圧で鋳型に注入し、放置して固化させるので、能率的に部分義歯を製作することができる。また、熱可塑性樹脂、とくにポリカーボネートは、水分を吸収しにくいので、臭いがつきにくいという利点を有する。さらに、弾力変形の点でも大きくなるので、着脱がさらに容易となる。
【0017】
上記の部分義歯は、金属床または大連結子を備え、樹脂部を、金属床または大連結子と一体の金属メッシュを包むように設けることができる。これによって、左右に離れて位置する欠損部を対象とする部分義歯を、堅固に形成することができる。
【0018】
上記頬側の金属アームを、頬側にのみアームを持つ頬側鋳造クラスプ、または頬側および舌側へと略C字状に延在するC字状鋳造クラスプにおける頬側のアームによって形成し、頬側鋳造クラスプまたはC字状鋳造クラスプを、金属床または大連結子と一体鋳造した構成とすることができる。これによって、嵌合せ部を堅固に形成しながら、熱可塑性樹脂の樹脂部の弾性変形能を保持することができ、部分義歯の着脱を容易に行うことができる。また、上記の堅固な嵌合せのために、より一層、義歯床を薄く形成できるので、さらに口腔内における舌の自由な可動範囲を広く確保できるので、装着感は卓越したものになる。
【0019】
上記の頬側の金属アームを、頬側にのみアームを持つ金属線または鋳造金属であって、該金属線または鋳造金属の根元側を樹脂部に固定した構成とすることができる。この構成により、部分義歯の患者への調整段階において、全体の適合性を考慮しながら維持歯への嵌合せ部の嵌め合わせを、簡単にその場(オンサイト)で調整することができる。このため、装着感と着脱性とに優れた部分義歯を得ることができる。
【0020】
上記の頬側の金属アームを、幹部分から頬側および舌側へと略C字状に分かれする二股鋳造クラスプの頬側のアームで形成し、その二股鋳造クラスプの幹部分を樹脂部に固定する構成とすることができる。これによって、大連結子や金属床を用いない場合に、樹脂床に連続する樹脂部に、二股鋳造クラスプを、患者の歯により適合するように調整しながら固定することができる。
【0021】
上記の熱可塑性樹脂の裏面(顎堤粘膜に接する面)にリベース処理をすることができる。リベース処理は、熱可塑性樹脂の裏面に、常温重合レジンなどの硬い樹脂を貼着して補強する処理である。熱可塑性樹脂の中にはレジンなどが接着しない樹脂もあるので、その場合には、熱可塑性樹脂面を粗面化して化学結合を求めるために、ロカテック処理などを施すのがよい。リベース処理によって顎堤粘膜へのより完全な密着性を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、着脱性および装着感の両方ともに優れた部分義歯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(実施の形態1)
つぎに図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態1における部分義歯50を示す斜視図である。また、図2は、図1の部分義歯50を天地逆にして裏面側を見た斜視図であり、図3は、図2において樹脂部20と人工歯31を除いた状態、すなわち、大連結子12を含む金属部分全体を示す図である。図1において、2つの嵌合せ部C1,C2は、頬側の金属アーム11と、舌側の凹状壁を持つ突出部21とを有して、図示しない維持歯に対して凹状の形状をとる。嵌め合せ部C1,C2の形状は、ちょうど人差し指と親指とを、維持歯に相当する円柱体の側部にあてがうようにしたときの形状に近似している。親指は人差し指に比べて短く、頬側および舌側をともに金属アームで形成した場合、頬側の金属アームに相当する。頬側および舌側ともに金属アームとする場合には、通常、審美性の点から特に前歯部では頬側アームを舌側アームに比べて短くする。また、審美性の観点以外に、着脱性を良くするために、頬側アームを短くする要請が常にある。熱可塑性樹脂を樹脂部に用いた場合には、着脱性が向上するので、その着脱性の向上分、頬側アームを短くすることができる。頬側金属アームまたは舌側金属アームを長くした場合でも、本発明の部分義歯では、維持歯の歯牙にのみあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部で維持するので、維持歯への拘束が増大して装着感が劣化することはない
【0024】
頬側金属アーム11は、維持歯に面する帯状面Fを有し、上述の親指の形状に対応して、弧状である。嵌合せ部C1,C2の凹状壁の突出部21は、樹脂部20と一体であり、熱可塑性樹脂の一体射出成形によって、作製される。したがって、頬側金属アーム11は、上述した頬側鋳造クラスプに該当する。本説明においては、金属アームが鋳造製か、汎用の金属線を加工したものか、その都度、説明するが、図面に付す番号によっては、鋳造製かまたは汎用金属線かは区別せず、同じ符号11等をつける。図2に示すように、樹脂部20の裏面は、欠損部の顎堤粘膜に適合するように、歯列に沿って中央部が凹んでいる。後で、詳しく説明するように、樹脂部20の面積は、小さく形成して問題がなければ、より快適な装着感を得ることができる。
【0025】
大連結子12は、歯列内の離れた位置にある床同士、または床と維持装置とを連結する金属構造物であり、バー、プレートなどと呼ばれる。上顎の場合は、パラタルバー、パラタルプレートなどであり、下顎では、リンガルバー、リンガルプレートと呼ばれる。図1〜図3の場合は、上顎の場合であり、パラタルバーである。図3に示すように、パラタルバー12の両端にはメッシュ部13が設けられ、樹脂部20が固着しやすいようにしている。パラタルバー12と、メッシュ部13と、頬側の金属アーム11とは、一体化されている。一体化は、パラタルバー12、メッシュ部13および頬側金属アーム11を、一体鋳造により作製することにより、簡単に強固な一体物を得ることができる。後で、製造方法について説明するが、図3に示す一体物の金属部分を、鋳型の中に配置して、図1または図2に示す熱可塑性樹脂部20(熱可塑性樹脂の突出部21を含む)の空間以外の部分は石膏中に埋没させた状態として、熱可塑性樹脂を高圧注入するので、上記一体物の金属部分は、全体として所定値以上の強度を必要とする。
【0026】
本実施の形態における部分義歯50は、嵌合せ部C1,C2がともに、維持歯にあてがうように嵌め合わされる円弧状凹部であるため、維持歯への負担を大きく軽減することができる。また、樹脂部20および上記円弧状凹部の舌側部分が、熱可塑性樹脂で形成されるため、部分義歯50の着脱を容易に行うことができる。部分義歯の着脱の難易度には、部分義歯50の全体構成が関与しており、樹脂部20の裏面と顎堤粘膜との適合、維持歯と凹状部分とくに金属アーム11および凹状壁の突出部21との嵌め合い、などが協働して関係するため、それぞれの部分の弾性変形のしやすさに応じて、着脱は容易となる。本実施の形態における部分義歯50は、樹脂部20および凹状壁の突出部21に、熱可塑性樹脂を用いているため、着脱の容易性は大幅に向上する。なお、本実施の形態における部分義歯では、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌め合せ部が、2つある場合を例示したが、上記凹状の嵌め合せ部が1つの部分義歯でもよいことは言うまでもない。
【0027】
人工歯以外すべてが熱可塑性樹脂で形成されたノンクラスプ型の部分義歯に比べて、本発明の実施の形態の部分義歯50において得られる長所は、つぎのようにまとめられる。
(1)ノンクラスプ型では、幅広のウィングで頬側部分を形成するのに対して、本実施の形態では、頬側部分を金属アームで形成したので、歯肉部を含めて維持歯付近への負担、圧迫感は小さい。
(2)本実施の形態では、頬側部分を金属アームで形成したので、維持力は、上記ウィングに比べて大きくなり、その分、顎堤粘膜を覆う義歯床面積を小さくすることができ、違和感を小さくすることができる。この点に関しては、このあと図9において義歯床部分を具体的に比較して示す。
(3)本実施の形態では、大連結子(パラタルバー)12を用いているため、顎堤粘膜を覆う部分は非常に小さくなり、違和感は大きく改善される。
(4)熱可塑性樹脂のノンクラスプ型の部分義歯の短所である、咬合時の弾性変形過多に起因する不安定感は、上記の(2)および(3)によって抑止される。
【0028】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における部分義歯50を示す斜視図である。また、図5は、図4の部分義歯50を天地逆にして、裏面側を見た図である。実施の形態1に示した部分義歯50との相違点は、本実施の形態では、嵌合せ部C1,C2が両方とも金属アーム11a,11bで形成されている点にある。本実施の形態では、図5においてより観察しやすいように、パラタルバー12と、メッシュ部13と、C字状クラスプ11a,11bとが、一体鋳造によって一体物として作製されている。したがって、C字状クラスプ11は、C字状鋳造クラスプに該当する。
【0029】
図4および図5に示す部分義歯50では、人工歯31を固定する樹脂部20のみが熱可塑性樹脂で形成される。嵌合せ部C1,C2がパラタルバー12およびメッシュ部13と一体化したC字状鋳造クラスプであり、熱可塑性樹脂が樹脂部20のみに配置された部分義歯であっても、着脱性は、部分義歯全体の構成が関与するため、樹脂部20を加熱重合レジンとした場合に比べて、格段に向上する。その理由は、つぎのような装着過程を経るからと考えられる。すなわち、部分義歯50の装着時には、樹脂部20は、顎堤粘膜の所定領域を被覆し、C字状クラスプ11a,11bは、維持歯の定位置に嵌め合わされるのであるが、装着開始の時点で、たとえば樹脂部20が所定姿勢・所定領域から多少外れていても弾性変形することによって、まず高剛性のC字状クラスプ11a,11bを維持歯の定位置の付近に嵌合させ、次いで樹脂部20の姿勢や位置を微調整しながら弾性復元しながらC字状クラスプ11a,11bを維持歯の定位置にずらして、正しい装着位置および装着姿勢をとることができる。換言すれば、従来、レジンを用いていた場合、正しい装着に至る経路は非常に狭い一通りの経路しかなかったものが、弾性変形に富む熱可塑性樹脂を樹脂部20に用いることによって、正しい装着に至る経路が幅広くなり着脱が容易となる。
【0030】
本実施の形態における部分義歯50では、上記の着脱の容易性の向上のほかに、C字状鋳造クラスプ11a,11bを用いるため、維持が強固になり、部分義歯の維持の耐久性を向上することができる。違和感がないこと、および維持歯の負担が小さいことは、実施の形態1における部分義歯50と同様である。
【0031】
図6は、図1の部分義歯50と、図4の部分義歯50との中間に当る変形例である。この変形例の部分義歯50では、一方の嵌合せ部C1は、頬側の金属アーム11aと、舌側の熱可塑性樹脂の凹状壁の突出部21とで形成されるのに対して、他方の嵌合せ部C2では、頬側および舌側ともに、金属アームのC字状クラスプ11a,11bで形成されている。嵌め合せ部C1における金属アーム11aは頬側鋳造クラスプであり、または嵌め合せ部C2におけるC字状クラスプ11a,11bはC字状鋳造クラスプであり、どちらもパラタルバー12と一体鋳造により一体化されている。図6の変形例の部分義歯50は、図1の部分義歯50と図4の部分義歯50との中間の長所を備える。図1、図4および図6の部分義歯50のうち、どのような場合に、どの部分義歯50を用いるかは、残存歯、欠損部などの患者の口腔に応じて選択することになる。
【0032】
次に、上記の図1、図4または図6に示す部分義歯の製作方法について、説明する。まず患者から、残存歯の状態を写しとる印象を採得する。次いで患者の残存歯状態を表す石膏模型を作り、その石膏模型を基にしてろう義歯を製作する。パラタルバー、メッシュ部、頬側クラスプまたは両側クラスプなどの金属部分については、上記の石膏模型を基にして耐火模型を作り、その耐火模型上にワックスでパラタルバーなどの金属部分を作製する。ワックスの金属部分を配置したまま耐火模型を埋没剤に埋め、次いでそのワックスを溶かし出して金属部分の鋳型を製作する。その鋳型に溶解した金属を鋳込んで金属部分を製作しておく。金属部分12,13,11および人工歯31を、上記のろう義歯に配置する。樹脂部20に埋め込まれるメッシュ部13、部分的に樹脂部20に埋め込まれるクラスプ11および人工歯31は、樹脂部20をろう材とみて、ろう材の中に、対応するようにそれぞれ埋め込む。なお、このあと説明する本発明の実施の形態3における部分義歯(図8参照)では、金属部分には金属線等を用い、鋳造工程で作製しないので、金属部分の別途での鋳造工程は不要となる。
【0033】
熱可塑性樹脂の射出成形の際に、下型となる下フラスコに石膏を入れ、上記のろう義歯を部分的に埋没する(一次埋没)。次いで、上型となる上フラスコ内に石膏を入れ、ろう義歯を包むように埋没する(二次埋没)。この埋没工程の際に、上記ろう義歯のろう材が加熱され解けて流れ出る湯道を設けておく。湯道は、射出成形の際の熱可塑性樹脂の注入経路ともなる。次いで、全体を加熱して、流ろう工程を行う。ろう材が流れ出たあとは、熱可塑性樹脂を注入するための樹脂部や義歯床の型の空間となっている。パラタルバーに連続するメッシュ部13などは、この空間内に露出している。上下フラスコを分離して、すなわち上下型を分離して、それぞれの金型の表面を整える。
【0034】
上下フラスコを機械的にしっかりと合体した後、射出成形機に固定して、流動状態に加熱された熱可塑性樹脂を、先の湯道から高圧で注入して、その後、冷却する。冷却した後、埋没するのに用いた石膏を除去して仕上げることにより、部分義歯50が完成する。従来のレジンを用いた部分義歯の製作工程は、図7の破線で囲った工程に対応しており、上記の製作工程と大きく相違する。加熱重合レジンを鋳型内に充填して、上下フラスコ間に挟み加圧して鋳型内に充填する。そのときバリなどの余剰分が多く出るので、それらを除去する。その後、上下フラスコごと高温に保持して、レジンを硬化させる。所定温度に所定時間保持した後、一日程度の時間をかけて冷却し、部分義歯を型から取り出し、仕上げ成形をする。
【0035】
上記のように、レジンを樹脂部や義歯床に用いた従来の部分義歯に比べて、本発明の部分義歯は、熱可塑性樹脂を加熱重合レジンの代わりに用いるため、型に合わせて射出し、固化する処理を簡単化し、かつ短時間で行うことができる。とくに最終段階の型内に装入して加圧する工程を、射出成形機内で、機械装置が一瞬にして自動的に行うことができる。このため、本発明の部分義歯は、着脱性や装着感が向上するだけでなく、製作工程を機械装置により自動化して、簡単に短時間で行うことができる。
【0036】
(実施の形態3)
図8は、本発明の実施の形態3における部分義歯50を示す斜視図である。本実施の形態における部分義歯50では、パラタルバーなどの大連結子は用いず、樹脂部を含む義歯床20に熱可塑性樹脂を用いる点に特徴を有する。嵌め合せ部C1,C2は、ともに、頬側は金属線11であり、また舌側は義歯床20と一体物の凹状壁の突出部21である。嵌め合せ部の頬側に金属線11を用いたことによって、部分義歯50を患者に装着したときの維持力を高めることができる。この金属線は、鋳造クラスプではなく、この後、詳しく説明するように異形断面の金属線であり、汎用金属線でも、特注または専用金属線でもよい。図8の部分義歯50では、ノンクラスプの熱可塑性樹脂のみで維持力を確保する従来の部分義歯に比べて、顎堤粘膜を被覆する部分の幅を狭くして、部分義歯全体の体積を小さくすることができる。
【0037】
図9(a)は、本実施の形態の部分義歯50であり、本発明の実施の形態3(図8)に示した部分義歯50を、患者の模型に装着した状態を示す図である。したがって、嵌め合せ部C1,C2には、頬側に金属線11が用いられている。比較のために示したのが、図9(b)のノンクラスプ型の人工歯以外すべて熱可塑性樹脂からなる部分義歯150である。すなわち、図17と同じタイプの部分義歯である。図9(a)および図9(b)の患者の石膏模型70,170は同じものである。比較すべきは、義歯床のサイズである。図9(b)のノンクラスプ型の部分義歯150では、義歯床が大ぶりであり、図9(a)または図8に示す部分義歯50より大幅に大きい。図9(b)における破線は、図9(a)に示す部分義歯50の義歯床の輪郭線であり、部分義歯50が二次元的に部分義歯150の中にスッポリと入ることが分かる。
【0038】
ノンクラスプ型の部分義歯150では、熱可塑性樹脂の義歯床120と、クラスプ相当のウィングWおよび凹状壁121bで維持力を確保する。ウィングWおよび凹状壁121bによる維持力は、金属線11など金属を用いた維持力に比べて小さい。このため、ノンクラスプ型の部分義歯150では、義歯床120の幅または面積は広くなり、また、図17に示したように、クラスプ相当部分のウィングWの高さ(幅)を大きくせざるを得なかった。いかに熱可塑性樹脂が弾性変形に富むといっても、顎堤粘膜や歯肉を大きく覆って、容量の大きなものが口腔内に入る場合、患者は、非咬合時および咬合時の別なく違和感を強く感じる。たとえば、図9(b)の左下の奥歯(維持歯)161の周囲には、熱可塑性樹脂の義歯床121が取り囲んでおり、舌側の壁状部分121bと頬側のウィングWとで囲まれた殆ど穴状の部分161hが設けられている。これに対して、図9(a)の同じ位置の奥歯61の周囲には、義歯床20は回っていず、部分義歯50の終端部は奥歯61の近心側位置にとどまっている。
【0039】
図9(a),(b)に基づき、部分義歯50,150を全体的に比較してわかるように、本実施の形態の部分義歯50のサイズを部分義歯150よりも非常に小さくできる。これは、嵌め合せ部の頬側部分に金属線11を用いたために得ることができる利点であり、顎堤粘膜を覆う義歯床を小さくすることができ、使用者の装着感を大幅に向上することができる。その上、本実施の形態における部分義歯50には、製作上、以下に説明するような利点を有する。
【0040】
図10は、円弧と直線とで囲まれるような断面である異形断面を有する金属線による頬側アーム11を示す図である。この金属線はステンレス鋼製であるが、ステンレス鋼に限定されず、Ti合金、白金加金などどのような金属を用いてもよい。頬側アーム11には、図10に示すように帯状面Fが設けられている。金属線11の断面は絃と円弧とで囲まれる形状である。すなわち帯状面Fに対応する、断面が弦に対応する面と、断面が円弧になる面で囲まれている。帯状面Fの幅(または断面における弦の長さ)は2mm程度であり、円弧の高さ(金属線の厚み)は1mm程度である。このような金属線は、帯状面Fに沿ってその帯状面に直交する面内の任意の方向(剛性が最も低い)に容易に曲げ加工することができる。
【0041】
頬側アーム11の根元部11sは、義歯床に埋め込まれて固定される部分であり、それより先の部分において、曲げられてアールが形成され、維持歯にあてがわれる部分となる。図10に示す金属線製の頬側アーム11は、帯状面Fに直交する面内において曲げ加工されるため、一平面上に形成されており、すなわち一平面上に置くことができる。直線状の根元部11sには、義歯床との摩擦力を高めるために凹部(切れ込み)11vを付すのがよい。
【0042】
図8に示す部分義歯における頬側アームとは異なるが、図11に、鋳造金属製の頬側アーム11を示す。この鋳造金属製の頬側アーム11においても、根元部11sには凹部11vを設けるのがよい。湾曲している部分から先端側は、局所的には維持歯に対して凸状であるように見えるが、湾曲部全体では維持歯に対して凹状である。本発明においては、印象取りや鋳型形成などを経ずに異形断面の金属線を曲げ加工した頬側アーム(図10参照)でもよいし、また(印象取り−鋳型形成)工程を経て鋳造された頬側アーム(図11参照)であってもよい。
【0043】
図12は、図7の部分義歯の製作において、義歯床20の裏側20bに頬側アーム11を埋め込み固定するための溝20dを設け、その溝20d内に、図10に示す頬側アーム11の根元部11sを配置した状態を示す図である。この義歯床20には、人工歯の根元側が埋め込まれて固定されているので、頬側アーム11の根元部11sを埋めて固定するスペースは、あまり大きくとれない。しかし、金属線の帯状面Fを維持歯にあてがうように配置するため、図10の頬側アームを構成する金属線の厚みまたは円弧の高さ(1mm程度)が、義歯床20の溝20dの幅に対応する配置になり、この結果、帯状面の幅方向(断面の弦の長さ方向)が溝20dの深さ方向に揃うため、頬側アーム11の固定に必要な義歯床面積を少なくすることができる。図12に示すように、頬側アーム11の根元部11sを溝20dの中に配置したあと、常温重合(即時重合)レジンなどで溝20dを埋めて、常温重合レジンを固化させて、頬側アーム11を義歯床20に強固に固定することができる。
【0044】
上記の構造によれば、患者の口腔内で、多くの調整作業を、直接的かつ即時性をもって行うことができ、頬側アーム11の形状および配置の精度を向上させることができ、しかも従来に比べて画期的に短時間で、容易に行うことができる。このため、高精度の部分義歯を安価に提供することが可能になる。このような、頬側アーム11を部分義歯に設ける作業は、図18に示すような新しいコンセプトの部分義歯の嵌め合せ部における金属アームであるから容易に可能となるのであり、図16に示した部分義歯における立体的な鉤状アームが維持歯を拘束するタイプの係合部では、クラスプの形状が複雑であるため、加工は困難である。とくに曲げ加工を容易にする一平面内における曲げ加工のみで、上記鉤状アームを形成することは不可能である。
【0045】
図12に示すように頬側アーム11の金属線を樹脂部20に埋め込んで固定した後、熱可塑性樹脂の裏面20bにリベース処理を施してもよい。リベース処理に用いる材料には、市販のリベース用の常温重合レジンを用いることができる。たとえば液材と粉末材とが一組になった材料を用いて、裏面20bに硬い被覆層を形成することができる。熱可塑性樹脂の中には、滑らかな面では、加熱重合レジンと固着しないものもあるので、この場合には、ロカテック処理等によって表面を粗面化し、シランカップリング剤等を用いて化学結合を形成するのがよい。リベース処理によって、熱可塑性樹脂の義歯床は、顎堤粘膜との密着性をよくして維持力を向上することができる。
【0046】
図13は、本発明の実施の形態3の部分義歯10の装着状態を、人工歯の歯先から歯元に向かう方向に見た平面図である。本実施の形態では、上述のように、維持歯61にあてがわれる嵌合せ部C1またはC2が、頬側の金属アーム11a(11)と、舌側の凹状壁の突出部21とによって形成される。頬側アーム11は、異形断面の金属線によって形成され、義歯床20に埋め込まれ、固定されている。
【0047】
本実施の形態の部分義歯50は、嵌め合せ部C1またはC2の一方または両方において、頬側のみを金属線由来の金属アーム11で形成し、舌側は、熱可塑性樹脂の樹脂部または義歯床20と一体化された凹状壁の突出部21で形成する。熱可塑性樹脂は、樹脂部を含めて義歯床20全体に用いられるので、弾性変形に富み、部分義歯の着脱は非常に容易となる。一方、頬側に金属アーム11を用いることから部分義歯の維持力が向上し、義歯床の顎堤粘膜への密着によって維持力に寄与する部分を減らすことができる。すなわち、義歯床の面積または体積を減らすことができる。この結果、部分義歯の違和感を減らし、良好な装着感を得ることができる。
【0048】
(実施の形態4)
図14は、本発明の実施の形態4の部分義歯50を装着した状態を人工歯の歯先から歯元に向かう方向に見た平面図である。大連結子は省略してある。本実施の形態では、維持歯61にあてがわれる嵌め合せ部C1またはC2が、二股鋳造クラスプ11によって形成されている点に特徴を有する。二股鋳造クラスプ11は、樹脂部20に埋め込まれる幹部分11sと、その幹部分からC字状に頬側と舌側とに二股に枝分かれした頬側アーム11aおよび舌側アーム11bとを備える。この二股クラスプ11は、石膏模型を基にして鋳造工程により作製される。
【0049】
図15に、鋳造金属製の二股クラスプ11を示す。この鋳造金属製の二股クラスプ11においても、根元部11sには凹部11vを設けるのがよい。二股クラスプ11の樹脂部20への固定作業は、図12に示した方法と基本的に同じである。樹脂部20の底面側は、義歯床と同様に、盛り上った顎堤粘膜に適合するように、アーチ状なので、図15に示す二股クラスプ11を固定する部分を確保するために、人工歯の底面側も十分高いアーチ状にする必要がある。人工歯の下方の樹脂部20に溝を設け、その溝に二股クラスプ11の幹部分を収納し、常温重合レジン等を用いて溝を充填し、固定する作業は図12の場合と同じである。二股クラスプ11の根元部11sは、帯状面Fに直交する方向の厚みを薄くするのがよく、図12に示すように、二股クラスプの根元部を埋め込むスペースを節約することができる。
【0050】
本発明の部分義歯では、あてがうように維持歯に嵌め合せる嵌め合せ部は、2つあることが望ましいが、1つであってもよく、他の係止部の形態は問わない。本発明の部分義歯の製造方法について一例を示したが、本発明の部分義歯の製造方法は、上記一例に限定されず、周知の変形方法の付加または置換を行うことができる。
【0051】
ここで、本発明の部分義歯の頬側金属アームとの組み合わせにおいて、熱可塑性樹脂が奏する作用効果についてまとめておく。
(1)維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部を持つ部分義歯の着脱性を改善する。
(2)頬側の金属アームの利用により、樹脂部の大きさを小さくしても維持力を十分確保できるため、樹脂部のサイズを小さくすることができる。これは、樹脂部を加熱重合レジンで構成しても、同様にサイズを小さくできる。樹脂部を熱可塑性樹脂で構成した場合は、さらに次の要因により、さらに樹脂部のサイズを小さくすることができる。すなわち、部分義歯を落としても熱可塑性樹脂の樹脂部は割れないので、上記本発明の部分義歯の樹脂部の厚みを、加熱重合レジンを用いる場合よりも、薄くできる。その結果、舌の自由な可動範囲である舌房を大きくすることができ、装着感をさらに向上できる。
(3)加熱重合レジンを樹脂部に用いる場合、頬側金属アームまたは舌側金属アームの長さは、より長いほうがベストと考えても、着脱性を考えると、長くできない場合があった。樹脂部に熱可塑性樹脂を用いることで着脱性が向上するため、頬側金属アームまたは舌側金属アームの長さの制約が除かれ、ベストの長さにすることができる。なお、念のため付け加えるが、頬側金属アームまたは舌側金属アームを長くした場合でも、本発明の部分義歯では、維持歯の歯牙にのみあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部で維持するので、維持歯への拘束などが増大して装着感が劣化することはない
(4)上記本発明の部分義歯の製造方法を簡単化して、製造期間を短縮する。ただし、この製造方法の簡単化等は、ノンクラスプ義歯でも同様に得られる作用効果である。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の部分義歯を用いることにより、維持歯にあてがうようにして嵌め合わせる嵌合せ部を含む部分義歯を、非常に容易に着脱することができ、しかも義歯床の容積を大幅に小さくできるので、ノンクラスプ型の部分義歯に比べて、装着感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1における部分義歯を示す斜視図である。
【図2】図1の部分義歯の底面(裏面)側を見た斜視図である。
【図3】図1の部分義歯のパラタルバーおよび頬側アームを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態2における部分義歯を示す斜視図である。
【図5】図4の部分義歯を底面(裏面)側を見た斜視図である。
【図6】図1および図4に示す部分義歯の変形例を示す斜視図である。
【図7】本発明例に係る部分義歯の製造工程を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3における部分義歯を示す斜視図である。
【図9】図8の部分義歯と、ノンクラスプ型部分義歯との比較を示す図であり、(a)は図8の部分義歯を、また(b)はノンクラスプ型部分義歯を示す図である。
【図10】頬側アームを形成する金属線の一例を示す図である。
【図11】頬側アームを形成する鋳造金属の一例を示す図である。
【図12】図8の部分義歯の製造において、金属線を樹脂部の溝に配置した状態を示す図である。
【図13】図8の部分義歯を装着した状態を歯の先側から根元側に向かって見た図である。
【図14】本発明の実施の形態4における部分義歯を装着した状態を示す図である。
【図15】図14の部分義歯の二股クラスプを示す斜視図である。
【図16】従来の部分義歯を装着した状態を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【図17】従来のノンクラスプ型部分義歯を示す図である。
【図18】従来の半円弧状凹部を嵌め合わせる型の部分義歯を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 金属アーム(頬側アーム)、11a 頬側アーム、11b 舌側アーム、11s 金属線の根元部、11v 金属線の凹部、12 大連結子(パラタルバー)、13 メッシュ部、20 樹脂部または義歯床、20b 義歯床の底面、20d 溝、21 凹状壁の突出部(舌側)、31 人工歯、50 部分義歯、61 維持歯、70 石膏模型、F 金属アームの帯状面、C1,C2 嵌め合わせ凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯と、前記人工歯を固定する樹脂部と、前記樹脂部に設けられ、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部とを備える部分義歯であって、
前記嵌合せ部は、前記維持歯に対して凹状であり、その凹状部の少なくとも頬側は、前記維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成され、
前記樹脂部が、熱可塑性樹脂でなることを特徴とする、部分義歯。
【請求項2】
前記嵌合せ部の凹状部の頬側および舌側が、ともに、前記維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
【請求項3】
前記嵌合せ部の凹状部の舌側は、前記樹脂部と連続し、前記維持歯に面する凹状壁を有する熱可塑性樹脂の突出部であることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
【請求項4】
前記部分義歯の義歯床のすべてが、熱可塑性樹脂で形成され、前記樹脂部は当該義歯床と一体射出成形されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項5】
金属床または大連結子を備え、前記樹脂部は、前記金属床または大連結子と一体の金属メッシュを包むように設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項6】
前記頬側の金属アームが、頬側にのみアームを持つ頬側鋳造クラスプ、または頬側および舌側へと略C字状に延在するC字状鋳造クラスプにおける頬側のアームによって形成され、前記頬側鋳造クラスプまたはC字状鋳造クラスプが、前記金属床または大連結子と一体鋳造されていることを特徴とする、請求項5に記載の部分義歯。
【請求項7】
前記頬側の金属アームが、頬側にのみアームを持つ金属線または鋳造金属であって、該金属線または鋳造金属の根元側が前記樹脂部に固定されたものであることを特徴とする、請求項1〜5に記載の部分義歯。
【請求項8】
前記頬側の金属アームが、幹部分から頬側および舌側へと略C字状に分かれする二股鋳造クラスプの頬側のアームで形成され、その二股鋳造クラスプの幹部分が前記樹脂部に固定されていることを特徴とする、請求項1〜5に記載の部分義歯。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂の裏面にリベース処理がなされていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項1】
人工歯と、前記人工歯を固定する樹脂部と、前記樹脂部に設けられ、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部とを備える部分義歯であって、
前記嵌合せ部は、前記維持歯に対して凹状であり、その凹状部の少なくとも頬側は、前記維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成され、
前記樹脂部が、熱可塑性樹脂でなることを特徴とする、部分義歯。
【請求項2】
前記嵌合せ部の凹状部の頬側および舌側が、ともに、前記維持歯に面する帯状面を持つ弧状の金属アームで形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
【請求項3】
前記嵌合せ部の凹状部の舌側は、前記樹脂部と連続し、前記維持歯に面する凹状壁を有する熱可塑性樹脂の突出部であることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
【請求項4】
前記部分義歯の義歯床のすべてが、熱可塑性樹脂で形成され、前記樹脂部は当該義歯床と一体射出成形されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項5】
金属床または大連結子を備え、前記樹脂部は、前記金属床または大連結子と一体の金属メッシュを包むように設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項6】
前記頬側の金属アームが、頬側にのみアームを持つ頬側鋳造クラスプ、または頬側および舌側へと略C字状に延在するC字状鋳造クラスプにおける頬側のアームによって形成され、前記頬側鋳造クラスプまたはC字状鋳造クラスプが、前記金属床または大連結子と一体鋳造されていることを特徴とする、請求項5に記載の部分義歯。
【請求項7】
前記頬側の金属アームが、頬側にのみアームを持つ金属線または鋳造金属であって、該金属線または鋳造金属の根元側が前記樹脂部に固定されたものであることを特徴とする、請求項1〜5に記載の部分義歯。
【請求項8】
前記頬側の金属アームが、幹部分から頬側および舌側へと略C字状に分かれする二股鋳造クラスプの頬側のアームで形成され、その二股鋳造クラスプの幹部分が前記樹脂部に固定されていることを特徴とする、請求項1〜5に記載の部分義歯。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂の裏面にリベース処理がなされていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の部分義歯。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−272031(P2008−272031A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116233(P2007−116233)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(303069151)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(303069151)
【Fターム(参考)】
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