部分義歯
【課題】高齢化や他の疾患のために歯の治療の必要性が高いにもかかわらず歯科治療を受けることが出来ない患者のために、装着感に優れ、迅速かつ簡単に製作可能な部分義歯を提供する。
【解決手段】人工歯31と、人工歯が設けられる義歯床20と、残存歯にあてがわれて装着状態を保つ装着状態保持部である嵌め合せ部C1,C2とを備え、義歯床20はレジンにより形成され、嵌め合せ部C1,C2は、義歯床にレジンにより形成されたものであることを特徴とする。
【解決手段】人工歯31と、人工歯が設けられる義歯床20と、残存歯にあてがわれて装着状態を保つ装着状態保持部である嵌め合せ部C1,C2とを備え、義歯床20はレジンにより形成され、嵌め合せ部C1,C2は、義歯床にレジンにより形成されたものであることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が受ける拘束感を減らすために、残存歯にあてがわれて装着状態を保持する装着状態保持部を備える部分義歯において、オンサイトでの製作が可能な部分義歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12(a)は、旧来のクラスプを取り付けた状態を頬側(表側)から見た場合の正面図であり、図12(b)は上面図である。旧来のクラスプは、図12(a),(b)に示すように、人工歯側に固定される固定部108の先端に設けられ、鉤状の鉤状アーム109が、人工歯側(図中左側)の上部から斜め下部遠方へ延びて維持歯103を囲むように拘束する。
【0003】
上記の鉤状アーム109は、維持歯103を側部および上部から立体的に取り囲み、維持歯103へ大きな負担をかけていた。図12(a)において、固定部108の先の基点111から突き出し、維持歯の歯冠部トップを上から抑えるレスト110と、基点111から斜め下方に維持歯の豊隆部(張り出し部)を経てアンダーカット部または歯頚部にいたる鉤状アーム109とが、立体的なカセ(枷)といってもよいほどの態様で維持歯103を拘束する。クラスプは、金属ワイヤまたは鋳造金属でなるが、維持歯へ大きな負担がかかるという点では、クラスプが鋳造金属製でも金属ワイヤ製でも同じである。
【0004】
上記のような旧来のクラスプを備えた部分義歯で食物を噛むと、鉤状アーム109の基点111(鉤状アーム109とレスト110との接続部分)が維持歯103の上端に位置するため、テコの原理により基点111付近を支点として鉤状アーム109が動揺し、維持歯103を揺さぶることになる。このため、顎堤粘膜に痛みが生じたり、部分義歯が外れたりする事例を生じる。また、レスト部分では咬合圧をまともに受けるため、レストが取れる等の破損が生じ、破損物を呑み込むなどの問題を生じることがあった。さらに、鉤状アーム109が、舌、唇、頬粘膜等と接触し、違和感を生じるなど、良好な使用感が得られないことが多かった。
【0005】
また、旧来のクラスプを使用した部分義歯は、図12(a),(b)に示すように、鉤状アームが表側に大きく露出することになり、義歯床によって覆い隠すことができない。このため、鉤状アーム109が目立って、とくに前歯部において審美性の点で大きな問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するために、金属クラスプを用いずに弾力性に富んだ熱可塑性樹脂で部分義歯の維持部および床部を形成した、ノンクラスプデンチャ(ノンクラスプ義歯)と呼ばれる部分義歯が提供されている。熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂等が用いられる。ポリカーボネート樹脂は、わが国でも認可されているものもあるが、ナイロン系樹脂は、未認可である。ナイロン系樹脂を用いたノンクラスプ義歯の例を図13に示す。これは米国において実用化されているもので、バルプラスト(登録商標)、ルシトーン等の名称で呼ばれる部分義歯である。ポリカーボネート樹脂を用いたノンクラスプ義歯も、図13のノンクラスプ義歯と同様の考え方のもとに、図13と同様の形状のものが、わが国でも用いられている。また、ナイロン系樹脂を用いたバルプラスト等のノンクラスプ義歯(非特許文献2、3)は、わが国での認可がどうなるかは不明である。現段階では、ナイロン系樹脂のノンクラスプ義歯は、当該熱可塑性樹脂材料が個人輸入され、国内で既に未認可のまま使用が始まっている。これらの部分義歯150は、図13に示すように、人工歯131以外はすべて熱可塑性樹脂で形成される。部分義歯の維持としては、まず(1)大ぶりの義歯床(熱可塑性樹脂)120と顎堤粘膜との大きい密着面積によって、維持力を得る。さらに、(2)頬側にウィングと呼ばれる翼状の幅広突出部Wを配置して、舌側の凹状壁121bとの間で図示していない維持歯とその維持歯に接する歯茎の一部を挟み付け、その弾性力で大きな維持力を確保している。部分義歯150は、維持歯が、図13の部分義歯150の空隙部161hから出るように、装着される。このような部分義歯150によれば、従来の鉤状の金属クラスプによる拘束よりは維持歯の負担が軽減され、装着感も改善される。また、金属クラスプを使用しないため、熱可塑性樹脂の色を歯肉と同じ色にすれば、審美性も向上する。しかし、上記のウィングWは、維持歯の歯牙から歯茎(歯頚部)にまで密着被蓋するため、窮屈感または息苦しさは大きく、とくに食物の咬合・咀嚼の際に違和感が大きいと考えられる。また、顎堤粘膜または歯茎を覆う義歯床120の面積が広いことは、部分義歯150の容積を大きくして、口腔内の違和感を増幅し、味覚等に障害を与えている。そのほかにも、熱可塑性樹脂の特性である大きい弾性変形能が、咬合時の不安定感を増すという短所もある。
【0007】
なお、人工歯は樹脂部の樹脂で固定される。人工歯には、歯列方向に遠心側と近心側と結んで貫通する歯列方向小孔と、人口歯底部から上記の歯列方向小孔に開口する歯軸方向小孔とが設けられ、いわばT字状小孔が形成されている。樹脂部において、樹脂は、この人工歯のT字状小孔を充填しているので、T字状の樹脂糸が人工歯の内部に形成され、人工歯の周囲を保持する樹脂とともに、人工歯の固定を確実なものとしている。わが国では樹脂部を含めて義歯床の樹脂の材料は、上記の例外的なポリカーボネート樹脂以外は、主に加熱重合レジンおよび常温重合レジンが認可されていた。加熱重合レジンは、硬く、熱可塑性樹脂に比べて弾性変形能が小さいことが特徴である。わが国では、部分義歯の樹脂部には、もっぱらこの加熱重合レジンが用いられてきた。このため、上述のノンクラスプ義歯150以外には、熱可塑性樹脂を主要部に用いた部分義歯の例は、現状では少ないとおもわれる。
【0008】
上記のノンクラスプ義歯150とは別に、鉤状アームやレストを用いずに、図14(a),(b)に示すように、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせる半円弧状凹部を少なくとも1つ備える、新しいコンセプトの部分義歯が提案された(特許文献1または2)。この半円弧状凹部は、金属アーム111a,111bを含み、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせられる。維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111aは頬側に延在し、短く、やはり維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111bは舌側に延在し、頬側アーム111aよりも長い。2つの金属アーム111a,111bが会合する部分を含めて、金属アーム111a,111bは、ほぼ一平面上に形成されており、図14(a),(b)に示すように、立体的な形状を呈しない。この新しいコンンセプトの部分義歯によれば、固定部111sから分岐した2つの金属アーム111a,111bを含む半円弧状凹部は、維持歯161の歯牙にのみ宛がわれるように嵌め合わせる。したがって、上記の熱可塑性樹脂を用いたノンクラスプ部分義歯におけるウィングWのように歯茎にまで密着する部分がないので、咬合に際し違和感がなく、維持歯161の拘束感を画期的に減らすことができる。また、2つの金属アームのうち頬側(表側)アームの長さを短くすることが可能であり、そのために審美的にも優れたものになる。なお、上記金属アームにより維持を確保する部分義歯では、義歯床や樹脂部に用いる樹脂には、もっぱら認可の出ている義歯床用アクリル系レジン(JIST6501)すなわち加熱重合レジンが用いられていた。なお、以後の説明で、「レジン」の語は、加熱重合レジンおよび常温重合レジンをさすこととする。
【0009】
【非特許文献1】改訂新版オズボーン パーシャルデンチャー 医歯薬出版株式会社、1977年7月、p.166
【非特許文献2】バルプラストジャパンホームページ http://www.unionlabo.com
【非特許文献3】アルテ・インターナショナルホームページ http//www.pi-touch.co.jp
【特許文献1】特許第3928102号
【特許文献2】WO2006/131969 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の部分義歯は、旧来の枷のような立体状クラスプを有する部分義歯を含めて、半円弧状凹部を有する部分義歯においても、患者の印象取りをした後、図15に示す工程を経て製造されるのが通例である。
(X)樹脂部を義歯床用アクリル系レジンで形成する場合(後半が図15の(X)工程の場合)
石膏模型→ろう(パラフィンワックス)義歯製作(金属部分:大連結子、メッシュ部、クラスプなど|人工歯)→ろう義歯の一次埋没(下フラスコ内)→二次埋没(上フラスコ内)→流ろう→上下フラスコ分離→型整備→義歯床用アクリル系レジンを型内に挿入して加圧→高温保持・徐冷却(1日程度)→取り出し
(Y)樹脂部を熱可塑性樹脂で形成する場合(後半が図15の(Y)工程の場合)
石膏模型→ろう義歯製作(金属部分:大連結子、メッシュ部、クラスプなど|人工歯)→ろう義歯の一次埋没(下フラスコ内)→二次埋没(上フラスコ内)→流ろう→上下フラスコ分離→型整備→熱可塑性樹脂を型内に高圧高温注入→自然冷却(1時間程度)→取り出し
【0011】
上記の部分義歯の製造工程では、診療室での印象取り、歯科技工所(デンタルラボラトリ)での作業を経て、部分義歯の一応の完成まで、1週間以上かかるのが通例である。また患者は、歯科医院に通院することが必要である。しかしながら、高齢人口が増大し、介護を要する老人の増大に伴い、治療の必要性が高いにもかかわらず通院できない患者が急激に増えている。
【0012】
本発明は、高齢化や他の疾患のために歯の治療の必要性が高いにもかかわらず歯科治療を受けることが出来ない患者のために、迅速かつ簡単に製作可能で、装着感に優れた部分義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の部分義歯は、人工歯と、人工歯が設けられる義歯床と、残存歯にあてがわれて装着状態を保つ装着状態保持部とを備える。この部分義歯では、義歯床はレジンにより形成され、装着状態保持部は、義歯床にレジンにより形成されたものであることを特徴とする。
【0014】
上記の構成により、歯科医師が患者の様子を見ながら、患者の傍らで、簡単かつ迅速に、装着感に優れた部分義歯を製作することができる。すなわち歯科技工所を通さずに製作可能な部分義歯とすることができる。ここで、レジンは、上述のように、加熱重合レジン、および、常温重合レジンをさし、ポリメチルメタクリレート(PMMA: poly(methyl methacrylate))およびMMA(methylmethacrylate)を主原料とするものである。
【0015】
上記の義歯床および装着状態保持部を形成するレジンを、常温重合レジンとすることができる。これによって、患者の傍らで、加熱などをしないで、患者の口腔の形状に適合するのが容易になる。常温重合レジンは、上述のように粉末状のPMMAおよび液体のMMAを主成分とし、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)等が含まれている。その過酸化ベンゾイルの活性化のためにジメチルパラトルイジン(N,N-dimethyl-p-toluidine)等が用いられる。本説明において、重合開始剤の活性化のために用いられる薬剤を重合促進剤と呼ぶ。実際の商品としては、粉末剤と液剤とに分け、粉末剤にPMMA、重合開始剤等を、液剤にMMA、重合促進剤等を含ませ、使用時に粉末剤と液剤とを混ぜ合わせて重合させるタイプが普通である。重合開始剤および重合促進剤は、粉末と液剤とに分けておき(保管時に両剤を一緒にしない)、粉末と液剤との混合時に重合が始まるようにする。重合開始剤および重合促進剤は、上記のほかの薬品もあり得て、重合開始剤が粉末に、また重合促進剤が液剤に含まれるものと固定する必要はないが、以後の説明では、簡単化のために、重合開始剤が粉末に含まれる過酸化ベンゾイルであり、重合促進剤が液剤に含まれる3級アミンのジメチルパラトルイジンとする。
【0016】
上記の装着状態保持部を、残存歯のうちの維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部とすることができる。これによって、通常の欠損状態の患者について、十分な維持力と把持力と支持力を備え、装着感に優れ、かつ審美性も損なわない部分義歯を、簡単かつ迅速に製作することができる。
【0017】
上記の嵌め合せ部は、壁部と、該壁部の頬側および舌側にそれぞれ位置する頬側部および舌側部により、義歯床に形成された凹状部分とすることができる。これにより、金属クラスプ等を用いることなく、維持歯に面するレジン製義歯床を変形し、または当該義歯床に付加的に突き出して、十分な維持力を持ちながら装着感に優れた嵌め合せ部を、簡単かつ迅速に、形成することができる。
【0018】
上記の嵌め合せ部は、義歯床に後から形成したものとすることができる。これによって、まず部分義歯のベースとなる義歯床を形成し、その後、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌め合せ部を形成するので、大から細部(装着感には大きな影響を持つ)へと、部分義歯の製作が容易となる。このような製作手順は、患者の傍らにおいて手作業で行うのに、非常に好都合であり、上述の一体成形加工による熱可塑性樹脂の部分義歯にはないものである。
【0019】
また、上記の装着状態保持部が、残存歯に舌側からあてがわれる凹状のあてがい部で形成してもよい。これによって、通常の欠損状態の場合とは異なる場合、たとえば、歯軸に交差する方向(水平方向)に沿って根元部に嵌め合わせることが難しく、大まかに歯軸方向に合わせて曲線に沿うように装着しないとスムースな装着ができない患者の場合に、有用な部分義歯を得ることができる。上記のあてがい部により、欠損状態が通常と異なる特異な患者に対しても、装着感および装着状態保持性に優れた部分義歯を提供することができる。
【0020】
上記の義歯床にリベース処理がなされていてもよい。これにより、一旦オンサイトで形成した部分義歯が患者の口腔に少し合わない場合でも、義歯床裏面等にリベース処理を施すことにより、患者への適合度を完璧な域にもってゆくことができる。
【0021】
上記の人工歯がレジンにより形成されていてもよい。これによって、さらに簡単かつ迅速に、部分義歯を容易に製作することができる。レジンによる人工歯は、人工歯専用の材料に比べれば耐摩滅性などは劣るが、咬合力が小さい老人等には十分に実用に耐える人工歯として機能する。
【0022】
オンサイトで、ヒトの口腔に合わせて、義歯床、人工歯、および装着状態保持部を形成したものとすることができる。これにより、患者の様子を見ながら、簡単かつ迅速に、装着感に優れた部分義歯を製作することができる。オンサイト(その場)とは、一貫して患者の傍らで患者の様子を見ながら、という意味であり、従来の部分義歯の製作に欠かせない歯科技工所での作業等は皆無である。このため、歯科医院での部分義歯の製作だけでなく、介護施設に出張して、欠損のため咀嚼に不自由する多くの患者のために、装着感に優れた部分義歯をオンサイトで迅速に製作することができる。
【0023】
オンサイトのみで部分義歯の製作が可能な最も大きな理由は、維持作用を奏する部分が、従来のような立体的なクラスプで形成されず、維持歯にあてがうように嵌め合わされる嵌め合せ部によって形成され、複雑な形状のクラスプとならないことによる。しかも、その嵌め合せ部が義歯床を形成するレジンで形成されることによる。従来のクラスプは、上述のような枷状の複雑な立体形状を持つため、歯科技工所での熟練作業によらなければ製作できない。しかし、上記の嵌め合せ部は、患者の維持歯の歯牙に嵌め合せる凹状であればよく、簡単明瞭な形状をとるため、オンサイトの作業のみで可能である。
【0024】
オンサイトでヒトの口腔の印象取りをして模型(石こうまたはパラフィンワックス)を製作して、引き続きオンサイトで該模型上で製作したものとすることができる。これによって患者の口腔内を再現した模型を用いて、任意の方向から模型を確認しながら義歯床等を製作でき、部分義歯の製作を容易化し、かつ製作精度を高めることができる。また患者の口腔内での義歯床の形状合わせ等の回数を減らし、すなわち製作時の患者の口腔内へのアクセス回数を減らし、患者の負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、装着感に優れた部分義歯を、簡単かつ迅速に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における部分義歯50を示す斜視図である。この部分義歯50は、下顎用であり、レジン製義歯床20と、白色の樹脂製人工歯31と、図示しない維持歯への嵌め合せ部C1,C2とを備える。患者は、下顎左5〜7番、右6〜7番を欠損しており、部分義歯50は上記欠損部を補うものである。右側の人工歯を固定する樹脂部と、左側の人工歯を固定する樹脂部とをつなぐ連結部は、通常、金属製の大連結子で構成されるが、図1に示すように、本発明では、この部分もレジンで形成される。このため、樹脂部も連結部も同じ用語の「義歯床」で呼ぶこととする。なお、大連結子は、歯列内の離れた位置にある床同士、または床と維持装置とを連結する金属構造物であり、バー、プレートなどと呼ばれる。上顎の場合は、パラタルバー、パラタルプレートなどであり、下顎では、リンガルバー、リンガルプレートと呼ばれる。上記のように、本実施の形態では、これらはすべて義歯床と同じように、レジンで形成される。
【0027】
嵌め合せ部C1,C2は、図示しない維持歯にあてがわれるように側方から嵌め合わされ、拘束感を与えることなく、十分な維持力を生じることができる。嵌め合せ部C1,C2は、壁部1と、その頬側に位置する頬側部11と、その舌側に位置する舌側部21とで形成され、図示しない維持歯に対して凹状の形状をとる。
【0028】
レジン製の頬側部11は、維持歯の頬側に突き出すように設けられ、維持歯に適合する面状部分を有している。頬側部11だけでなく、嵌合せ部C1,C2を形成する壁部1および舌側部21においても、維持歯に適合する面状部分を有する。大連結子に対応する義歯床20の部分を形成する場合、舌側部21は小さくなる傾向があり、壁部1との区別がつきにくい。しかし、ほとんどが壁部1とみることができる場合であっても、舌側部21が舌側の縁の部分に付随すると考えることができる。本発明の部分義歯では、維持歯の歯牙にのみあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部C1,C2で維持するので、維持歯への拘束が増大して装着感が劣化することはない。
【0029】
図2は、図1の部分義歯50の嵌め合せ部C2の部分拡大図である。人工歯31の歯列の延長部分に位置する壁部1と、その頬側に位置する頬側部11と、舌側に位置する舌側部21とで、凹状の嵌め合せ部C2が形成されている。義歯床20の裏面20bは、自然歯が欠損している部分の顎堤粘膜に密着する。また義歯床20の縁部20eは、顎堤粘膜を覆った状態で、最も下側になり、下顎に近い端となる。
【0030】
図3は、同じ部分C2を頬側から見た図である。頬側部11は、縁部20eのある義歯床20から維持歯側に突き出るように、付加的に後から設けられるため、肉眼では分からないが、電子顕微鏡、その他のミクロ組織観察手段(走査型電子顕微鏡、EPMA(Electron Probe Micro-Analysis)、走査型原子間力顕微鏡など)でミクロ的に観察すると、頬側部11と、その根元側の義歯床20との間に境界面Sbが認められると考えられる。ただし、部分義歯のみを見て、後から頬側部が付加されたことを特定する方法の推測であり、実際に確認したわけではない。
【0031】
図4は、嵌め合せ部C2を維持歯側からやや見上げるように見た図である。図示しない維持歯の歯牙部分にのみ嵌め合わされるように、適合する面Fがはっきり認められる。このような嵌め合せ部C2はレジンで形成されているので、患者を診ながらその場で歯科医師の手で作製することができる。このため、歯科技工所での作業は不要であり、また熱可塑性樹脂のように射出成形も不要であり、その場で部分義歯50を提供することが可能となる。次に、図1に示す部分義歯50の作製方法について説明する。
【0032】
これから説明する部分義歯の作製方法は、分かりやすいので模型上に配置した状態について説明するが、実際は、模型はなくてもよい。図5は、図1に示す部分義歯50の最初の作製工程を示す図である。まず患者の口腔における下顎に合わせて、義歯床20を形成する。患者は、模型Mによれば、下顎の右側1番〜5番(R1〜R5)および左側1番〜4番(L1〜L4)が残存している。すなわち患者の下顎は、右6番、7番(R6〜R7)が欠損し、左5番〜7番(L5〜L7)が欠損している。この場合、右側ではR5が、また左側ではL4が、それぞれ維持歯となる。維持歯には、嵌め合せ部が嵌め合わされる。
【0033】
上記の欠損部分の顎堤粘膜Gに密着するように、かつ過大にならないように(むしろ小さめに)、義歯床20を形成する。義歯床20は顎堤粘膜Gに適合した形状をもって、顎堤粘膜Gの上にのっている。義歯床20の原料には、PMMA、重合開始剤等を含む粉末と、MMA、ジメチルパラトルイジン等を含む液剤とからなる常温重合レジンを用いるのがよい。なお、義歯床20を過大にならないように形成するのは、装着感を良好にするためである。
【0034】
次いで、図6に示すように、常温重合レジンを用いて、義歯床20に人工歯31を設ける。当然、右側はR6、R7を、そして左側はL5、L6、L7を設ける。人工歯31の材料は、樹脂が用いられるが、その中でもレジンを用いてもよい。人工歯31は、ヒトの歯はその位置(番号)でおおよそ決まっているので、典型的な人工歯を数種類のサイズで準備しておけばある程度、即応してその場で削るなどして対処することができ、あとは噛み合わせの調整で可能である。上記の典型例の人工歯と常温重合レジンとを組み合わせてよい。常温重合レジンは、義歯床に用いることを想定して肉色なので、白色などにすることが好ましいが、場合(寝たきり高齢者などの場合)に応じて、肉色のままの対応でもよい。また、繰り返し咬合圧に耐久性を持つことができるように、靭性上の改良も望まれる。
【0035】
図6では、人工歯31を義歯床に固定しただけで、嵌め合せ部は形成されていない。図7は、義歯床20において、維持歯R5に面する部分に嵌め合せ部C1を、また維持歯L4に面する部分に嵌め合せ部C2を形成した状態を示す図である。図7では、維持歯L4に嵌め合わされる嵌め合せ部C2の頬側部11が明確に認められる。図8は、維持歯L4に嵌め合わされた嵌め合せ部C2の拡大斜視図である。図1〜図4と合わせて図8を見ると、嵌め合せ部C2は維持歯L4の歯牙部分に嵌め合わされ、部分義歯の維持力を確保していることが分かる。
【0036】
図9は、図1に示す部分義歯50の製作工程を示す図である。図9の工程は、図12に示す従来の製作工程と比べて、非常に簡単化されていることが分かる。しかも、この全工程を患者と相対しながら、その場で行うことができる。したがって、治癒の必要性が高いにもかかわらず通院が容易ではない高齢者や被介護者に、非常に有益である。医院においてその場で製作可能なだけでなく、介護施設等に出向いて、その場で部分義歯を製作することも可能である。上記の工程において、印象採取→模型(石こうまたはパラフィンワックス)の製作は省略してもよい。また、リベース処理は一度出来上がった部分義歯の義歯床裏面に、上述の粉末のPMMA、重合開始剤と、MMA、重合促進剤等を含む液剤とからなる常温重合レジンを用いて粘膜により正確に適合させる調整補修を行う処理である。このリベース処理も必須ではなく、部分義歯の出来上がり精度が良好であり、装着がスムースであれば、リベース処理を省略することができる。しかしながら、リベース処理により、オンサイトで患者の口腔状態にきめ細かく合わせることができるので、非常に高精度で、かつ装着感に優れた部分義歯を、短時間で得ることができる。このため、リベース処理は行うことが望ましい。
【0037】
上記の実施の形態1のように、部分義歯では、あてがうように維持歯に嵌め合せる嵌め合せ部は、2つあることが望ましいが、1つであってもよく、他の係止部の形態は問わない。本発明の部分義歯の製造方法について一例を示したが、本発明の部分義歯の製造方法は、上記一例に限定されず、周知の変形方法の付加または置換を行うことができる。
【0038】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2における上顎用の部分義歯50を示す図である。義歯床20はレジン製であり、装着状態保持部を形成している、舌側から残存歯にあてがわれる凹状のあてがい部A1〜A4が設けられている。人工歯の位置(番号)は、上顎右側の1番、2番、4番(R1,R2,R4)および左側の4番(L4)である。
【0039】
図11は、患者の残存歯模型Mに、図10の部分義歯を装着した状態を示す図である。それぞれ残存歯に舌側から向かって凹状を呈する、あてがい部A1は残存歯R4に、あてがい部A2は残存歯L1に、あてがい部A3は残存歯L2に、そしてあてがい部A4は残存歯L3に、あてがわれる。これらあてがい部によるあてがいにより、部分義歯50は、装着状態において、離脱に抗する十分な維持力、水平方向のズレや回転に抗する把持力などを得ることができる。あてがい部は、実施の形態1における嵌め合せ部による維持力や把持力に比べると、やや低いので、十分な維持力や把持力を確保するため、2つまたは3つ以上設けられるのが普通である。
【0040】
本実施の形態における部分義歯50は、残存歯が飛び飛びにある場合で、実施の形態1と異なり、特異で変則的である。このため、歯列の方向に開放端を持つC字状の(壁部+頬側部+舌側部)の嵌め合せ部によって装着状態保持部を形成することができない。まず、人工歯L4の部分に嵌め合せ部を形成しようとしても、図11に示すように、この患者の場合小さすぎて、嵌め合せ部を形成することはできない。人工歯R1の部分に嵌め合せ部を形成しようとした場合、維持歯は残存歯L1になるが、患者の口元正面になるので、審美性の点で好ましくない。また嵌め合せ部を人工歯R2の部分に形成しようとした場合、この部分に嵌め合せ部を形成すると、装着および離脱の際に、維持歯R3の歯牙部分に側方から(歯軸交差方向に沿って)嵌め合わせる際に、他の部分(人工歯L4の部分や人工歯R4の部分)が残存歯との間で干渉を生じ、装着および離脱に困難を生じる。人工歯R4の部分に嵌め合せ部を形成する場合も同様である。
【0041】
このため、本実施の形態では、離散的(飛び飛び)に位置する残存歯にあてがう部分を、残存歯の歯軸に沿う方向またはそれに近い方向に沿って曲線状に、移動させて装着および離脱を行なうようにして、歯軸交差方向に沿う装着および離脱における残存歯との干渉を回避する。そして、離散的(飛び飛び)に位置する残存歯にあてがい部A1〜A4の総計が長いことを利用して、これらあてがい部A1〜A4により装着状態保持部を形成し、十分安定な装着状態を保持することを可能にした。あてがい部A1〜A4は、単純な直線に沿う方向での装着ではなく、曲線に沿って(掬い上げるように、または落とし込むように)、大まかに歯軸方向に沿うように装着する。このため、各あてがい部の直線状の維持力作用方向とは異なるので、一度、装着した状態が得られると、容易に離脱することが防止される。
【0042】
本実施の形態における部分義歯も、金属クラスプの使用はなく、歯科技工所での作業は必要とせず、患者を診ながらオンサイトで、常温重合レジンを用いて、全作業を行うことができる。このため、変則的で、特異な残存歯の患者の場合であっても、全工程を患者と相対しながら、その場で部分義歯を完成させることができる。このため、事故や内臓疾患などの病気が原因で、また健常者において、特異な残存歯となった患者に、簡単かつ迅速に、部分義歯の提供が可能になる。
【0043】
ここで、本発明の部分義歯のポイントについてまとめておく。
(1)残存歯にあてがうあてがい部または維持歯にあてがうように嵌め合わされる嵌め合せ部によって、維持作用や把持作用を得るので、装着感に優れ、かつ構造が簡単である。あてがい部または嵌合せ部が、簡単な構造の装着状態保持部を形成する。
(2)上記(1)のように構造が簡単であるため、義歯床および装着状態保持部(嵌め合せ部またはあてがい部)を、レジンとくに常温重合レジンで形成することにより、簡単かつ迅速に、歯科技工所の作業を必要とせずに、患者を診ながらオンサイトで、部分義歯を完成させることができる。すなわち上記(1)の形状が簡単であるため、常温重合レジンと組み合わせることにより、(2)が可能となる。レジン以外の他の材質、たとえば熱可塑性樹脂では、いくら構造が簡単でも、上記(2)はまったく不可能である。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の部分義歯により、簡単かつ迅速に、患者を診ながらオンサイトで、装着感に優れた部分義歯を完成できるので、高齢者等にとって有益な部分義歯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態1における部分義歯を示す斜視図である。
【図2】図1の部分義歯の嵌め合せ部の拡大図である。
【図3】図1の部分義歯の嵌め合せ部を頬側から見た図である。
【図4】図1の部分義歯の嵌め合せ部を維持歯側から見た図である。
【図5】図1の部分義歯の製作において、義歯床を形成した状態を示す図である。
【図6】図5の義歯床に人工歯を設けた状態を示す図である。
【図7】図6の状態の部分義歯中間品に嵌め合せ部を設けた状態を示す図である。
【図8】図7の部分義歯の嵌め合せ部の部分拡大図である。
【図9】図1の部分義歯の製作工程を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態2における部分義歯を示す斜視図である。
【図11】図10の部分義歯を残存歯模型に装着した状態を示す図である。
【図12】従来の部分義歯を装着した状態を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【図13】従来のノンクラスプ型部分義歯を示す図である。
【図14】従来の半円弧状凹部を嵌め合わせる型の部分義歯を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【図15】従来の部分義歯の製作工程を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 嵌め合せ部の壁部、11 頬側部、20 義歯床、20b 義歯床裏面、20e 義歯床縁部、21 舌側部、31 人工歯、50 部分義歯、A1,A2,A3,A4 あてがい部、C1,C2 嵌め合せ部、F 維持歯適合面、G 模型の顎堤粘膜、L1〜L7 左側歯番号、M 残存歯模型、R1〜R7 右側歯番号、Sb 義歯床と後から形成した頬側部との界面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が受ける拘束感を減らすために、残存歯にあてがわれて装着状態を保持する装着状態保持部を備える部分義歯において、オンサイトでの製作が可能な部分義歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12(a)は、旧来のクラスプを取り付けた状態を頬側(表側)から見た場合の正面図であり、図12(b)は上面図である。旧来のクラスプは、図12(a),(b)に示すように、人工歯側に固定される固定部108の先端に設けられ、鉤状の鉤状アーム109が、人工歯側(図中左側)の上部から斜め下部遠方へ延びて維持歯103を囲むように拘束する。
【0003】
上記の鉤状アーム109は、維持歯103を側部および上部から立体的に取り囲み、維持歯103へ大きな負担をかけていた。図12(a)において、固定部108の先の基点111から突き出し、維持歯の歯冠部トップを上から抑えるレスト110と、基点111から斜め下方に維持歯の豊隆部(張り出し部)を経てアンダーカット部または歯頚部にいたる鉤状アーム109とが、立体的なカセ(枷)といってもよいほどの態様で維持歯103を拘束する。クラスプは、金属ワイヤまたは鋳造金属でなるが、維持歯へ大きな負担がかかるという点では、クラスプが鋳造金属製でも金属ワイヤ製でも同じである。
【0004】
上記のような旧来のクラスプを備えた部分義歯で食物を噛むと、鉤状アーム109の基点111(鉤状アーム109とレスト110との接続部分)が維持歯103の上端に位置するため、テコの原理により基点111付近を支点として鉤状アーム109が動揺し、維持歯103を揺さぶることになる。このため、顎堤粘膜に痛みが生じたり、部分義歯が外れたりする事例を生じる。また、レスト部分では咬合圧をまともに受けるため、レストが取れる等の破損が生じ、破損物を呑み込むなどの問題を生じることがあった。さらに、鉤状アーム109が、舌、唇、頬粘膜等と接触し、違和感を生じるなど、良好な使用感が得られないことが多かった。
【0005】
また、旧来のクラスプを使用した部分義歯は、図12(a),(b)に示すように、鉤状アームが表側に大きく露出することになり、義歯床によって覆い隠すことができない。このため、鉤状アーム109が目立って、とくに前歯部において審美性の点で大きな問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するために、金属クラスプを用いずに弾力性に富んだ熱可塑性樹脂で部分義歯の維持部および床部を形成した、ノンクラスプデンチャ(ノンクラスプ義歯)と呼ばれる部分義歯が提供されている。熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂等が用いられる。ポリカーボネート樹脂は、わが国でも認可されているものもあるが、ナイロン系樹脂は、未認可である。ナイロン系樹脂を用いたノンクラスプ義歯の例を図13に示す。これは米国において実用化されているもので、バルプラスト(登録商標)、ルシトーン等の名称で呼ばれる部分義歯である。ポリカーボネート樹脂を用いたノンクラスプ義歯も、図13のノンクラスプ義歯と同様の考え方のもとに、図13と同様の形状のものが、わが国でも用いられている。また、ナイロン系樹脂を用いたバルプラスト等のノンクラスプ義歯(非特許文献2、3)は、わが国での認可がどうなるかは不明である。現段階では、ナイロン系樹脂のノンクラスプ義歯は、当該熱可塑性樹脂材料が個人輸入され、国内で既に未認可のまま使用が始まっている。これらの部分義歯150は、図13に示すように、人工歯131以外はすべて熱可塑性樹脂で形成される。部分義歯の維持としては、まず(1)大ぶりの義歯床(熱可塑性樹脂)120と顎堤粘膜との大きい密着面積によって、維持力を得る。さらに、(2)頬側にウィングと呼ばれる翼状の幅広突出部Wを配置して、舌側の凹状壁121bとの間で図示していない維持歯とその維持歯に接する歯茎の一部を挟み付け、その弾性力で大きな維持力を確保している。部分義歯150は、維持歯が、図13の部分義歯150の空隙部161hから出るように、装着される。このような部分義歯150によれば、従来の鉤状の金属クラスプによる拘束よりは維持歯の負担が軽減され、装着感も改善される。また、金属クラスプを使用しないため、熱可塑性樹脂の色を歯肉と同じ色にすれば、審美性も向上する。しかし、上記のウィングWは、維持歯の歯牙から歯茎(歯頚部)にまで密着被蓋するため、窮屈感または息苦しさは大きく、とくに食物の咬合・咀嚼の際に違和感が大きいと考えられる。また、顎堤粘膜または歯茎を覆う義歯床120の面積が広いことは、部分義歯150の容積を大きくして、口腔内の違和感を増幅し、味覚等に障害を与えている。そのほかにも、熱可塑性樹脂の特性である大きい弾性変形能が、咬合時の不安定感を増すという短所もある。
【0007】
なお、人工歯は樹脂部の樹脂で固定される。人工歯には、歯列方向に遠心側と近心側と結んで貫通する歯列方向小孔と、人口歯底部から上記の歯列方向小孔に開口する歯軸方向小孔とが設けられ、いわばT字状小孔が形成されている。樹脂部において、樹脂は、この人工歯のT字状小孔を充填しているので、T字状の樹脂糸が人工歯の内部に形成され、人工歯の周囲を保持する樹脂とともに、人工歯の固定を確実なものとしている。わが国では樹脂部を含めて義歯床の樹脂の材料は、上記の例外的なポリカーボネート樹脂以外は、主に加熱重合レジンおよび常温重合レジンが認可されていた。加熱重合レジンは、硬く、熱可塑性樹脂に比べて弾性変形能が小さいことが特徴である。わが国では、部分義歯の樹脂部には、もっぱらこの加熱重合レジンが用いられてきた。このため、上述のノンクラスプ義歯150以外には、熱可塑性樹脂を主要部に用いた部分義歯の例は、現状では少ないとおもわれる。
【0008】
上記のノンクラスプ義歯150とは別に、鉤状アームやレストを用いずに、図14(a),(b)に示すように、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせる半円弧状凹部を少なくとも1つ備える、新しいコンセプトの部分義歯が提案された(特許文献1または2)。この半円弧状凹部は、金属アーム111a,111bを含み、維持歯161の根元にあてがうように嵌め合わせられる。維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111aは頬側に延在し、短く、やはり維持歯に対して凹に湾曲する金属アーム111bは舌側に延在し、頬側アーム111aよりも長い。2つの金属アーム111a,111bが会合する部分を含めて、金属アーム111a,111bは、ほぼ一平面上に形成されており、図14(a),(b)に示すように、立体的な形状を呈しない。この新しいコンンセプトの部分義歯によれば、固定部111sから分岐した2つの金属アーム111a,111bを含む半円弧状凹部は、維持歯161の歯牙にのみ宛がわれるように嵌め合わせる。したがって、上記の熱可塑性樹脂を用いたノンクラスプ部分義歯におけるウィングWのように歯茎にまで密着する部分がないので、咬合に際し違和感がなく、維持歯161の拘束感を画期的に減らすことができる。また、2つの金属アームのうち頬側(表側)アームの長さを短くすることが可能であり、そのために審美的にも優れたものになる。なお、上記金属アームにより維持を確保する部分義歯では、義歯床や樹脂部に用いる樹脂には、もっぱら認可の出ている義歯床用アクリル系レジン(JIST6501)すなわち加熱重合レジンが用いられていた。なお、以後の説明で、「レジン」の語は、加熱重合レジンおよび常温重合レジンをさすこととする。
【0009】
【非特許文献1】改訂新版オズボーン パーシャルデンチャー 医歯薬出版株式会社、1977年7月、p.166
【非特許文献2】バルプラストジャパンホームページ http://www.unionlabo.com
【非特許文献3】アルテ・インターナショナルホームページ http//www.pi-touch.co.jp
【特許文献1】特許第3928102号
【特許文献2】WO2006/131969 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の部分義歯は、旧来の枷のような立体状クラスプを有する部分義歯を含めて、半円弧状凹部を有する部分義歯においても、患者の印象取りをした後、図15に示す工程を経て製造されるのが通例である。
(X)樹脂部を義歯床用アクリル系レジンで形成する場合(後半が図15の(X)工程の場合)
石膏模型→ろう(パラフィンワックス)義歯製作(金属部分:大連結子、メッシュ部、クラスプなど|人工歯)→ろう義歯の一次埋没(下フラスコ内)→二次埋没(上フラスコ内)→流ろう→上下フラスコ分離→型整備→義歯床用アクリル系レジンを型内に挿入して加圧→高温保持・徐冷却(1日程度)→取り出し
(Y)樹脂部を熱可塑性樹脂で形成する場合(後半が図15の(Y)工程の場合)
石膏模型→ろう義歯製作(金属部分:大連結子、メッシュ部、クラスプなど|人工歯)→ろう義歯の一次埋没(下フラスコ内)→二次埋没(上フラスコ内)→流ろう→上下フラスコ分離→型整備→熱可塑性樹脂を型内に高圧高温注入→自然冷却(1時間程度)→取り出し
【0011】
上記の部分義歯の製造工程では、診療室での印象取り、歯科技工所(デンタルラボラトリ)での作業を経て、部分義歯の一応の完成まで、1週間以上かかるのが通例である。また患者は、歯科医院に通院することが必要である。しかしながら、高齢人口が増大し、介護を要する老人の増大に伴い、治療の必要性が高いにもかかわらず通院できない患者が急激に増えている。
【0012】
本発明は、高齢化や他の疾患のために歯の治療の必要性が高いにもかかわらず歯科治療を受けることが出来ない患者のために、迅速かつ簡単に製作可能で、装着感に優れた部分義歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の部分義歯は、人工歯と、人工歯が設けられる義歯床と、残存歯にあてがわれて装着状態を保つ装着状態保持部とを備える。この部分義歯では、義歯床はレジンにより形成され、装着状態保持部は、義歯床にレジンにより形成されたものであることを特徴とする。
【0014】
上記の構成により、歯科医師が患者の様子を見ながら、患者の傍らで、簡単かつ迅速に、装着感に優れた部分義歯を製作することができる。すなわち歯科技工所を通さずに製作可能な部分義歯とすることができる。ここで、レジンは、上述のように、加熱重合レジン、および、常温重合レジンをさし、ポリメチルメタクリレート(PMMA: poly(methyl methacrylate))およびMMA(methylmethacrylate)を主原料とするものである。
【0015】
上記の義歯床および装着状態保持部を形成するレジンを、常温重合レジンとすることができる。これによって、患者の傍らで、加熱などをしないで、患者の口腔の形状に適合するのが容易になる。常温重合レジンは、上述のように粉末状のPMMAおよび液体のMMAを主成分とし、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)等が含まれている。その過酸化ベンゾイルの活性化のためにジメチルパラトルイジン(N,N-dimethyl-p-toluidine)等が用いられる。本説明において、重合開始剤の活性化のために用いられる薬剤を重合促進剤と呼ぶ。実際の商品としては、粉末剤と液剤とに分け、粉末剤にPMMA、重合開始剤等を、液剤にMMA、重合促進剤等を含ませ、使用時に粉末剤と液剤とを混ぜ合わせて重合させるタイプが普通である。重合開始剤および重合促進剤は、粉末と液剤とに分けておき(保管時に両剤を一緒にしない)、粉末と液剤との混合時に重合が始まるようにする。重合開始剤および重合促進剤は、上記のほかの薬品もあり得て、重合開始剤が粉末に、また重合促進剤が液剤に含まれるものと固定する必要はないが、以後の説明では、簡単化のために、重合開始剤が粉末に含まれる過酸化ベンゾイルであり、重合促進剤が液剤に含まれる3級アミンのジメチルパラトルイジンとする。
【0016】
上記の装着状態保持部を、残存歯のうちの維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部とすることができる。これによって、通常の欠損状態の患者について、十分な維持力と把持力と支持力を備え、装着感に優れ、かつ審美性も損なわない部分義歯を、簡単かつ迅速に製作することができる。
【0017】
上記の嵌め合せ部は、壁部と、該壁部の頬側および舌側にそれぞれ位置する頬側部および舌側部により、義歯床に形成された凹状部分とすることができる。これにより、金属クラスプ等を用いることなく、維持歯に面するレジン製義歯床を変形し、または当該義歯床に付加的に突き出して、十分な維持力を持ちながら装着感に優れた嵌め合せ部を、簡単かつ迅速に、形成することができる。
【0018】
上記の嵌め合せ部は、義歯床に後から形成したものとすることができる。これによって、まず部分義歯のベースとなる義歯床を形成し、その後、維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌め合せ部を形成するので、大から細部(装着感には大きな影響を持つ)へと、部分義歯の製作が容易となる。このような製作手順は、患者の傍らにおいて手作業で行うのに、非常に好都合であり、上述の一体成形加工による熱可塑性樹脂の部分義歯にはないものである。
【0019】
また、上記の装着状態保持部が、残存歯に舌側からあてがわれる凹状のあてがい部で形成してもよい。これによって、通常の欠損状態の場合とは異なる場合、たとえば、歯軸に交差する方向(水平方向)に沿って根元部に嵌め合わせることが難しく、大まかに歯軸方向に合わせて曲線に沿うように装着しないとスムースな装着ができない患者の場合に、有用な部分義歯を得ることができる。上記のあてがい部により、欠損状態が通常と異なる特異な患者に対しても、装着感および装着状態保持性に優れた部分義歯を提供することができる。
【0020】
上記の義歯床にリベース処理がなされていてもよい。これにより、一旦オンサイトで形成した部分義歯が患者の口腔に少し合わない場合でも、義歯床裏面等にリベース処理を施すことにより、患者への適合度を完璧な域にもってゆくことができる。
【0021】
上記の人工歯がレジンにより形成されていてもよい。これによって、さらに簡単かつ迅速に、部分義歯を容易に製作することができる。レジンによる人工歯は、人工歯専用の材料に比べれば耐摩滅性などは劣るが、咬合力が小さい老人等には十分に実用に耐える人工歯として機能する。
【0022】
オンサイトで、ヒトの口腔に合わせて、義歯床、人工歯、および装着状態保持部を形成したものとすることができる。これにより、患者の様子を見ながら、簡単かつ迅速に、装着感に優れた部分義歯を製作することができる。オンサイト(その場)とは、一貫して患者の傍らで患者の様子を見ながら、という意味であり、従来の部分義歯の製作に欠かせない歯科技工所での作業等は皆無である。このため、歯科医院での部分義歯の製作だけでなく、介護施設に出張して、欠損のため咀嚼に不自由する多くの患者のために、装着感に優れた部分義歯をオンサイトで迅速に製作することができる。
【0023】
オンサイトのみで部分義歯の製作が可能な最も大きな理由は、維持作用を奏する部分が、従来のような立体的なクラスプで形成されず、維持歯にあてがうように嵌め合わされる嵌め合せ部によって形成され、複雑な形状のクラスプとならないことによる。しかも、その嵌め合せ部が義歯床を形成するレジンで形成されることによる。従来のクラスプは、上述のような枷状の複雑な立体形状を持つため、歯科技工所での熟練作業によらなければ製作できない。しかし、上記の嵌め合せ部は、患者の維持歯の歯牙に嵌め合せる凹状であればよく、簡単明瞭な形状をとるため、オンサイトの作業のみで可能である。
【0024】
オンサイトでヒトの口腔の印象取りをして模型(石こうまたはパラフィンワックス)を製作して、引き続きオンサイトで該模型上で製作したものとすることができる。これによって患者の口腔内を再現した模型を用いて、任意の方向から模型を確認しながら義歯床等を製作でき、部分義歯の製作を容易化し、かつ製作精度を高めることができる。また患者の口腔内での義歯床の形状合わせ等の回数を減らし、すなわち製作時の患者の口腔内へのアクセス回数を減らし、患者の負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、装着感に優れた部分義歯を、簡単かつ迅速に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における部分義歯50を示す斜視図である。この部分義歯50は、下顎用であり、レジン製義歯床20と、白色の樹脂製人工歯31と、図示しない維持歯への嵌め合せ部C1,C2とを備える。患者は、下顎左5〜7番、右6〜7番を欠損しており、部分義歯50は上記欠損部を補うものである。右側の人工歯を固定する樹脂部と、左側の人工歯を固定する樹脂部とをつなぐ連結部は、通常、金属製の大連結子で構成されるが、図1に示すように、本発明では、この部分もレジンで形成される。このため、樹脂部も連結部も同じ用語の「義歯床」で呼ぶこととする。なお、大連結子は、歯列内の離れた位置にある床同士、または床と維持装置とを連結する金属構造物であり、バー、プレートなどと呼ばれる。上顎の場合は、パラタルバー、パラタルプレートなどであり、下顎では、リンガルバー、リンガルプレートと呼ばれる。上記のように、本実施の形態では、これらはすべて義歯床と同じように、レジンで形成される。
【0027】
嵌め合せ部C1,C2は、図示しない維持歯にあてがわれるように側方から嵌め合わされ、拘束感を与えることなく、十分な維持力を生じることができる。嵌め合せ部C1,C2は、壁部1と、その頬側に位置する頬側部11と、その舌側に位置する舌側部21とで形成され、図示しない維持歯に対して凹状の形状をとる。
【0028】
レジン製の頬側部11は、維持歯の頬側に突き出すように設けられ、維持歯に適合する面状部分を有している。頬側部11だけでなく、嵌合せ部C1,C2を形成する壁部1および舌側部21においても、維持歯に適合する面状部分を有する。大連結子に対応する義歯床20の部分を形成する場合、舌側部21は小さくなる傾向があり、壁部1との区別がつきにくい。しかし、ほとんどが壁部1とみることができる場合であっても、舌側部21が舌側の縁の部分に付随すると考えることができる。本発明の部分義歯では、維持歯の歯牙にのみあてがうように嵌め合わせる嵌合せ凹部C1,C2で維持するので、維持歯への拘束が増大して装着感が劣化することはない。
【0029】
図2は、図1の部分義歯50の嵌め合せ部C2の部分拡大図である。人工歯31の歯列の延長部分に位置する壁部1と、その頬側に位置する頬側部11と、舌側に位置する舌側部21とで、凹状の嵌め合せ部C2が形成されている。義歯床20の裏面20bは、自然歯が欠損している部分の顎堤粘膜に密着する。また義歯床20の縁部20eは、顎堤粘膜を覆った状態で、最も下側になり、下顎に近い端となる。
【0030】
図3は、同じ部分C2を頬側から見た図である。頬側部11は、縁部20eのある義歯床20から維持歯側に突き出るように、付加的に後から設けられるため、肉眼では分からないが、電子顕微鏡、その他のミクロ組織観察手段(走査型電子顕微鏡、EPMA(Electron Probe Micro-Analysis)、走査型原子間力顕微鏡など)でミクロ的に観察すると、頬側部11と、その根元側の義歯床20との間に境界面Sbが認められると考えられる。ただし、部分義歯のみを見て、後から頬側部が付加されたことを特定する方法の推測であり、実際に確認したわけではない。
【0031】
図4は、嵌め合せ部C2を維持歯側からやや見上げるように見た図である。図示しない維持歯の歯牙部分にのみ嵌め合わされるように、適合する面Fがはっきり認められる。このような嵌め合せ部C2はレジンで形成されているので、患者を診ながらその場で歯科医師の手で作製することができる。このため、歯科技工所での作業は不要であり、また熱可塑性樹脂のように射出成形も不要であり、その場で部分義歯50を提供することが可能となる。次に、図1に示す部分義歯50の作製方法について説明する。
【0032】
これから説明する部分義歯の作製方法は、分かりやすいので模型上に配置した状態について説明するが、実際は、模型はなくてもよい。図5は、図1に示す部分義歯50の最初の作製工程を示す図である。まず患者の口腔における下顎に合わせて、義歯床20を形成する。患者は、模型Mによれば、下顎の右側1番〜5番(R1〜R5)および左側1番〜4番(L1〜L4)が残存している。すなわち患者の下顎は、右6番、7番(R6〜R7)が欠損し、左5番〜7番(L5〜L7)が欠損している。この場合、右側ではR5が、また左側ではL4が、それぞれ維持歯となる。維持歯には、嵌め合せ部が嵌め合わされる。
【0033】
上記の欠損部分の顎堤粘膜Gに密着するように、かつ過大にならないように(むしろ小さめに)、義歯床20を形成する。義歯床20は顎堤粘膜Gに適合した形状をもって、顎堤粘膜Gの上にのっている。義歯床20の原料には、PMMA、重合開始剤等を含む粉末と、MMA、ジメチルパラトルイジン等を含む液剤とからなる常温重合レジンを用いるのがよい。なお、義歯床20を過大にならないように形成するのは、装着感を良好にするためである。
【0034】
次いで、図6に示すように、常温重合レジンを用いて、義歯床20に人工歯31を設ける。当然、右側はR6、R7を、そして左側はL5、L6、L7を設ける。人工歯31の材料は、樹脂が用いられるが、その中でもレジンを用いてもよい。人工歯31は、ヒトの歯はその位置(番号)でおおよそ決まっているので、典型的な人工歯を数種類のサイズで準備しておけばある程度、即応してその場で削るなどして対処することができ、あとは噛み合わせの調整で可能である。上記の典型例の人工歯と常温重合レジンとを組み合わせてよい。常温重合レジンは、義歯床に用いることを想定して肉色なので、白色などにすることが好ましいが、場合(寝たきり高齢者などの場合)に応じて、肉色のままの対応でもよい。また、繰り返し咬合圧に耐久性を持つことができるように、靭性上の改良も望まれる。
【0035】
図6では、人工歯31を義歯床に固定しただけで、嵌め合せ部は形成されていない。図7は、義歯床20において、維持歯R5に面する部分に嵌め合せ部C1を、また維持歯L4に面する部分に嵌め合せ部C2を形成した状態を示す図である。図7では、維持歯L4に嵌め合わされる嵌め合せ部C2の頬側部11が明確に認められる。図8は、維持歯L4に嵌め合わされた嵌め合せ部C2の拡大斜視図である。図1〜図4と合わせて図8を見ると、嵌め合せ部C2は維持歯L4の歯牙部分に嵌め合わされ、部分義歯の維持力を確保していることが分かる。
【0036】
図9は、図1に示す部分義歯50の製作工程を示す図である。図9の工程は、図12に示す従来の製作工程と比べて、非常に簡単化されていることが分かる。しかも、この全工程を患者と相対しながら、その場で行うことができる。したがって、治癒の必要性が高いにもかかわらず通院が容易ではない高齢者や被介護者に、非常に有益である。医院においてその場で製作可能なだけでなく、介護施設等に出向いて、その場で部分義歯を製作することも可能である。上記の工程において、印象採取→模型(石こうまたはパラフィンワックス)の製作は省略してもよい。また、リベース処理は一度出来上がった部分義歯の義歯床裏面に、上述の粉末のPMMA、重合開始剤と、MMA、重合促進剤等を含む液剤とからなる常温重合レジンを用いて粘膜により正確に適合させる調整補修を行う処理である。このリベース処理も必須ではなく、部分義歯の出来上がり精度が良好であり、装着がスムースであれば、リベース処理を省略することができる。しかしながら、リベース処理により、オンサイトで患者の口腔状態にきめ細かく合わせることができるので、非常に高精度で、かつ装着感に優れた部分義歯を、短時間で得ることができる。このため、リベース処理は行うことが望ましい。
【0037】
上記の実施の形態1のように、部分義歯では、あてがうように維持歯に嵌め合せる嵌め合せ部は、2つあることが望ましいが、1つであってもよく、他の係止部の形態は問わない。本発明の部分義歯の製造方法について一例を示したが、本発明の部分義歯の製造方法は、上記一例に限定されず、周知の変形方法の付加または置換を行うことができる。
【0038】
(実施の形態2)
図10は、本発明の実施の形態2における上顎用の部分義歯50を示す図である。義歯床20はレジン製であり、装着状態保持部を形成している、舌側から残存歯にあてがわれる凹状のあてがい部A1〜A4が設けられている。人工歯の位置(番号)は、上顎右側の1番、2番、4番(R1,R2,R4)および左側の4番(L4)である。
【0039】
図11は、患者の残存歯模型Mに、図10の部分義歯を装着した状態を示す図である。それぞれ残存歯に舌側から向かって凹状を呈する、あてがい部A1は残存歯R4に、あてがい部A2は残存歯L1に、あてがい部A3は残存歯L2に、そしてあてがい部A4は残存歯L3に、あてがわれる。これらあてがい部によるあてがいにより、部分義歯50は、装着状態において、離脱に抗する十分な維持力、水平方向のズレや回転に抗する把持力などを得ることができる。あてがい部は、実施の形態1における嵌め合せ部による維持力や把持力に比べると、やや低いので、十分な維持力や把持力を確保するため、2つまたは3つ以上設けられるのが普通である。
【0040】
本実施の形態における部分義歯50は、残存歯が飛び飛びにある場合で、実施の形態1と異なり、特異で変則的である。このため、歯列の方向に開放端を持つC字状の(壁部+頬側部+舌側部)の嵌め合せ部によって装着状態保持部を形成することができない。まず、人工歯L4の部分に嵌め合せ部を形成しようとしても、図11に示すように、この患者の場合小さすぎて、嵌め合せ部を形成することはできない。人工歯R1の部分に嵌め合せ部を形成しようとした場合、維持歯は残存歯L1になるが、患者の口元正面になるので、審美性の点で好ましくない。また嵌め合せ部を人工歯R2の部分に形成しようとした場合、この部分に嵌め合せ部を形成すると、装着および離脱の際に、維持歯R3の歯牙部分に側方から(歯軸交差方向に沿って)嵌め合わせる際に、他の部分(人工歯L4の部分や人工歯R4の部分)が残存歯との間で干渉を生じ、装着および離脱に困難を生じる。人工歯R4の部分に嵌め合せ部を形成する場合も同様である。
【0041】
このため、本実施の形態では、離散的(飛び飛び)に位置する残存歯にあてがう部分を、残存歯の歯軸に沿う方向またはそれに近い方向に沿って曲線状に、移動させて装着および離脱を行なうようにして、歯軸交差方向に沿う装着および離脱における残存歯との干渉を回避する。そして、離散的(飛び飛び)に位置する残存歯にあてがい部A1〜A4の総計が長いことを利用して、これらあてがい部A1〜A4により装着状態保持部を形成し、十分安定な装着状態を保持することを可能にした。あてがい部A1〜A4は、単純な直線に沿う方向での装着ではなく、曲線に沿って(掬い上げるように、または落とし込むように)、大まかに歯軸方向に沿うように装着する。このため、各あてがい部の直線状の維持力作用方向とは異なるので、一度、装着した状態が得られると、容易に離脱することが防止される。
【0042】
本実施の形態における部分義歯も、金属クラスプの使用はなく、歯科技工所での作業は必要とせず、患者を診ながらオンサイトで、常温重合レジンを用いて、全作業を行うことができる。このため、変則的で、特異な残存歯の患者の場合であっても、全工程を患者と相対しながら、その場で部分義歯を完成させることができる。このため、事故や内臓疾患などの病気が原因で、また健常者において、特異な残存歯となった患者に、簡単かつ迅速に、部分義歯の提供が可能になる。
【0043】
ここで、本発明の部分義歯のポイントについてまとめておく。
(1)残存歯にあてがうあてがい部または維持歯にあてがうように嵌め合わされる嵌め合せ部によって、維持作用や把持作用を得るので、装着感に優れ、かつ構造が簡単である。あてがい部または嵌合せ部が、簡単な構造の装着状態保持部を形成する。
(2)上記(1)のように構造が簡単であるため、義歯床および装着状態保持部(嵌め合せ部またはあてがい部)を、レジンとくに常温重合レジンで形成することにより、簡単かつ迅速に、歯科技工所の作業を必要とせずに、患者を診ながらオンサイトで、部分義歯を完成させることができる。すなわち上記(1)の形状が簡単であるため、常温重合レジンと組み合わせることにより、(2)が可能となる。レジン以外の他の材質、たとえば熱可塑性樹脂では、いくら構造が簡単でも、上記(2)はまったく不可能である。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の部分義歯により、簡単かつ迅速に、患者を診ながらオンサイトで、装着感に優れた部分義歯を完成できるので、高齢者等にとって有益な部分義歯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態1における部分義歯を示す斜視図である。
【図2】図1の部分義歯の嵌め合せ部の拡大図である。
【図3】図1の部分義歯の嵌め合せ部を頬側から見た図である。
【図4】図1の部分義歯の嵌め合せ部を維持歯側から見た図である。
【図5】図1の部分義歯の製作において、義歯床を形成した状態を示す図である。
【図6】図5の義歯床に人工歯を設けた状態を示す図である。
【図7】図6の状態の部分義歯中間品に嵌め合せ部を設けた状態を示す図である。
【図8】図7の部分義歯の嵌め合せ部の部分拡大図である。
【図9】図1の部分義歯の製作工程を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態2における部分義歯を示す斜視図である。
【図11】図10の部分義歯を残存歯模型に装着した状態を示す図である。
【図12】従来の部分義歯を装着した状態を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【図13】従来のノンクラスプ型部分義歯を示す図である。
【図14】従来の半円弧状凹部を嵌め合わせる型の部分義歯を示す図であり、(a)は斜視図、また(b)は上面図である。
【図15】従来の部分義歯の製作工程を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 嵌め合せ部の壁部、11 頬側部、20 義歯床、20b 義歯床裏面、20e 義歯床縁部、21 舌側部、31 人工歯、50 部分義歯、A1,A2,A3,A4 あてがい部、C1,C2 嵌め合せ部、F 維持歯適合面、G 模型の顎堤粘膜、L1〜L7 左側歯番号、M 残存歯模型、R1〜R7 右側歯番号、Sb 義歯床と後から形成した頬側部との界面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯と、前記人工歯が設けられる義歯床と、残存歯にあてがわれて装着状態を保つ装着状態保持部とを備える部分義歯であって、
前記義歯床はレジンにより形成され、
前記装着状態保持部は、前記義歯床にレジンにより形成されたものであることを特徴とする、部分義歯。
【請求項2】
前記義歯床および装着状態保持部を形成するレジンが、常温重合レジンであることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
【請求項3】
前記装着状態保持部が、前記残存歯のうちの維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の部分義歯。
【請求項4】
前記嵌め合せ部が、壁部と、該壁部の頬側および舌側にそれぞれ位置する頬側部および舌側部により、前記義歯床に形成された凹状部分であることを特徴とする、請求項3に記載の部分義歯。
【請求項5】
前記嵌め合せ部は、前記義歯床に後から形成されたものであることを特徴とする、請求項3または4に記載の部分義歯。
【請求項6】
前記装着状態保持部が、前記残存歯に舌側からあてがわれる凹状のあてがい部で形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の部分義歯。
【請求項7】
前記義歯床にリベース処理がなされていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項8】
前記人工歯が前記レジンにより形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項9】
オンサイトで、ヒトの口腔に合わせて、前記義歯床、前記人工歯、および前記装着状態保持部を形成したものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項10】
オンサイトで前記ヒトの口腔の印象取りをして模型を製作して、引き続きオンサイトで該模型上で製作したものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項1】
人工歯と、前記人工歯が設けられる義歯床と、残存歯にあてがわれて装着状態を保つ装着状態保持部とを備える部分義歯であって、
前記義歯床はレジンにより形成され、
前記装着状態保持部は、前記義歯床にレジンにより形成されたものであることを特徴とする、部分義歯。
【請求項2】
前記義歯床および装着状態保持部を形成するレジンが、常温重合レジンであることを特徴とする、請求項1に記載の部分義歯。
【請求項3】
前記装着状態保持部が、前記残存歯のうちの維持歯にあてがうように嵌め合わせる嵌合せ部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の部分義歯。
【請求項4】
前記嵌め合せ部が、壁部と、該壁部の頬側および舌側にそれぞれ位置する頬側部および舌側部により、前記義歯床に形成された凹状部分であることを特徴とする、請求項3に記載の部分義歯。
【請求項5】
前記嵌め合せ部は、前記義歯床に後から形成されたものであることを特徴とする、請求項3または4に記載の部分義歯。
【請求項6】
前記装着状態保持部が、前記残存歯に舌側からあてがわれる凹状のあてがい部で形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の部分義歯。
【請求項7】
前記義歯床にリベース処理がなされていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項8】
前記人工歯が前記レジンにより形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項9】
オンサイトで、ヒトの口腔に合わせて、前記義歯床、前記人工歯、および前記装着状態保持部を形成したものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の部分義歯。
【請求項10】
オンサイトで前記ヒトの口腔の印象取りをして模型を製作して、引き続きオンサイトで該模型上で製作したものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の部分義歯。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−66281(P2009−66281A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239402(P2007−239402)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(303069151)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(303069151)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]