説明

部材を滅菌する方法および装置

本発明は、オゾンガスを用いて少なくとも1つの部材を滅菌する方法および装置に関する。本発明の方法は、 少なくとも1つの部材が配置される滅菌チャンバーを有するハウジングを供する工程、 前記少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる工程、および、水蒸気を前記滅菌チャンバーへ供給する工程を含んで成る。そして、酸素含有ガスが第2電位に帯電するようにイオン化ユニットで酸素含有ガスを静電的イオン化する。また、静電的にイオン化した酸素含有ガスに基づいて、オゾン発生器でイオン化オゾンガスを発生させる。帯電した少なくとも1つの部材の表面にイオン化オゾンガスが引き寄せられるように、イオン化したオゾンガスを滅菌チャンバーに供給する。そして、 所定の暴露時間でもって少なくとも1つの部材を前記イオン化したオゾンガスに曝す。本発明の方法および装置では、迅速で安全な低コストな滅菌処理が供される。本発明では、滅菌される部材とイオン化オゾンガスとの間の電位差に起因して、イオン化オゾンガスが部材の全ての露出面と接触することができる(例えばそれが小さく複雑な面または表面であっても接触することができる)ので、滅菌効率が相当に増す。また、本発明では、比較的低い温度および圧力が用いられているので、滅菌される機器・器具の変形および磨耗・損傷が減じられると共に、実質的に滅菌後すぐに機器・器具を使用することができる。このことは、超音波振動子および内視鏡などの複雑な医療デバイスを滅菌するのに有利となる。なぜなら、かかる医療デバイスは非常に高価であるので、滅菌処理による磨耗・損傷が減じられて医療デバイスの寿命が長くなると、効率的なコスト低減につながるからである。尚、本発明は、医療デバイスではない他の機器・器具(例えば再使用可能な製品)であっても、効率的に滅菌することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン含有ガスを用いて少なくとも1つの部材を滅菌または殺菌するための方法および装置に関する。
【0002】
本発明の方法および装置は、再使用可能な医療機器・医療器具(特に内視鏡または超音波振動子等の熱に敏感な機器)などの部材を殺菌するのに特に適している。但し、本発明の方法および装置は、そのような「熱に敏感な機器」だけでなく、歯科器具、外科器具、補聴器または他の医療器具・医療器具に対しても用いることができる。
【背景技術】
【0003】
滅菌・殺菌は、ウイルス、バクテリア、菌類または他の微生物を死滅させる処理である(ウイルス、バクテリア、菌類または他の微生物が成長状態にあるか、休眠状態にあるかに拘わらず、それらを死滅させる)。医療器具を殺菌する主たる常套の方法は、低圧・高温のオートクレーブ(例えば、温度が約140℃〜300℃および圧力が約1atm以下となるスチーム・ユニット、または、より温度が高いドライヒート・ユニット)を用いる方法または毒性物質(例えばエチレンオキサイドガス:EO)を用いる方法である。
【0004】
水蒸気圧力による滅菌・殺菌は、効果的であると考えられており、比較的迅速(約1〜2時間)に行われ、コスト的にも好ましい。しかしながら、オートクレーブを用いた処理では、熱に敏感な器具(例えば、間節鏡、内視鏡および超音波振動子)が損傷を受ける。具体的には、熱膨張係数の異なる種々の材料/材質が用いられているので熱により悪影響を受けることなり、例えばレンズ、デリケートな電気接続部および回路、セラミック音波放射体などの敏感なパーツが破壊される。更に、オートクレーブを用いた処理では圧力が低いので、既存の薄いウォーターダクトおよび空気ダクトなどのキャピラリーダクトの両端が同時に圧力下に付されると、かかるダクト内に気泡が形成され、バクテリア成長の可能性が増加する。
【0005】
エチレンオキサイドガス滅菌は、熱に敏感な器具を低温滅菌するために用いられる。かかるエチレンオキサイドガス滅菌では、数回の真空サイクル、真空下での約80℃の熱処理、数時間のガス処理、およびガスを放散させるための長い(2週間)通気処理が行われる。このようにエチレンオキサイドガス滅菌は、複雑であって時間がかかるので、コスト的に高くなる。更には、エチレンオキサイドは、発癌性物質、神経毒性物質であると共に、高い可燃性を有しているので、汚染処理設備、過剰ガスの燃焼処理、および防火処理が必要とされる。
【0006】
現在の他の滅菌処理は、熱に敏感な器具に対しては適当でないが、γ線照射滅菌法がある。かかるγ線照射滅菌法では、γ線の照射によって原子構造(特にプラスチック材料の原子構造)が変化し、例えば、そのような材料が脆くなったりする。また、プラズマ照射では、電界強度(または電場強度)に起因して、過酸化水素および真空状態が、電子機器およびゴムを破壊してしまう。更に、γ線照射およびプラズマ照射では、複雑なデバイスを必要とし、オペレーターを保護する措置が必要とされる。
【0007】
より効率的で安全な低コストの滅菌処理は、強酸化剤となるオゾンOを使用した方法である。かかるオゾンOは、無害の酸素Oから容易に発生させることができ、また、かかる無害の酸素Oに戻すことができる。そして、かかる酸素Oは、周囲環境に存在する又は医療施設に存在する空気の構成成分であり、このように存在する酸素源を容易に利用することができる。酸化反応によって、オゾンが酸素に変換されるので、滅菌処理された器具に有害な物質が残留しない。オゾンガスを用いた常套の滅菌処理では、微生物を殺菌処理するのに比較的高濃度のオゾンガスが必要とされるが、かかる高濃度のオゾンは、臨界レベルの湿気(水分)と組み合わさなければならない。なぜなら、相対湿度が増えれば、オゾンの活性が急激に増すからである。更に、オゾン活性に対する胞子の耐性は菌株ごとに異なるものの、かかる相違は相対湿度が増加すれば比較的小さくなる。これは、微生物の保護「シェル」をオゾンが通過するには高い湿度が必要であることを意味している。枯草菌(Bacillus subtilis var. Niger(ATCC 9372))の菌株は、特に耐性を有しており、殺菌効果を示す指標として用いることができるものである。
【0008】
国際特許公開(WO)第00/66186号には、水蒸気およびオゾン含有ガスが供給される真空下にチャンバーを配置する方法およびそのための装置が開示されている。滅菌される部材は、相対湿度が95%よりも大きい(好ましくは外界温度の飽和点となった)チャンバーに所定時間配置される。その後、真空状態が解放され、水の沸点が下げられる。国際特許公開(WO)第00/66186号に開示されている方法および装置の問題点は、必要とされる真空度が比較的高いので、上述したようにダクト内で気泡の発生が引き起こされてしまうことである。また、特別な機器を用いて、真空を形成したり、湿度、温度および真空度を正確に制御したりしなければならないことであり、装置のコストが高くなってしまうことも問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、オゾン含有ガスを用いて部材を滅菌する方法および装置であって、上述したような問題点・不都合点を引き起こすことなく、迅速、安全および低コストで部材を処理できる方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的は、オゾンを用いて少なくとも1つの部材を滅菌する本発明の方法および装置で達成することができる。かかる本発明の方法は、
− 少なくとも1つの部材が配置された滅菌チャンバーを備えたハウジングを供する工程、
− 前記少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる工程(または前記少なくとも1つの部材が第1電位を有するようにする工程)、
− 前記滅菌チャンバーに水蒸気を供給する工程、
− 酸素含有ガスが第2電位に帯電するようにイオン化ユニットで酸素含有ガスを静電的イオン化する工程、
− 静電的にイオン化した酸素含有ガスから、オゾン発生器でイオン化オゾンガス(「イオン化したオゾンガス」)を発生させる工程、
− 第1電位に帯電した前記少なくとも1つの部材の表面に前記イオン化オゾンガスが引き寄せられるように、前記滅菌チャンバーに前記イオン化オゾンガスを供給する工程、および
− 所定の暴露時間でもって前記少なくとも1つの部材を前記イオン化オゾンガスに曝す工程
を含んで成る。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、滅菌される部材とイオン化オゾンガスとの間の電位差に起因して、イオン化オゾンガスが、部材の全ての露出面と接触することができる(例えばそれが小さく複雑な面または表面であっても接触することができる)ので、滅菌効率が相当に増加する。このことは2つの利点をもたらす。第1の利点は、滅菌チャンバー内で1つ以上の部材を効率的に滅菌するのに必要とされるオゾンガス量を少なくできることである。例えば、大気中の空気から得られる量のオゾンガス量で十分である。第2の利点は、必要とされる滅菌時間を相当に減らすことができることである。このことは、例えば時間が重要なファクターとなる医療現場で特に重要である。
【0012】
本発明の方法および装置では、比較的低い温度および圧力が用いられるので、滅菌される機器・器具の変形および磨耗・損傷が減じられると共に、実質的に滅菌後すぐに機器・器具を使用することができる。このことは、種々の材質から成る超音波振動子(ultrasound transducer)および内視鏡などの複雑な医療デバイスを滅菌するのに有利といえる。なぜなら、かかる医療デバイスは非常に高価であるので、滅菌処理による磨耗・損傷が減じられて医療デバイスの寿命が長くなると、コスト低減が効率的に行えることになるからである。尚、本発明では比較的低い温度および圧力の条件下で反応性のある滅菌剤としてオゾンガスが用いられるので、医療デバイスではない他の機器・器具(例えば再使用可能な製品)であっても、効率的に滅菌することができる。
【0013】
更に、本発明による滅菌では、特別な安全手段またはコスト的に高い安全手段を滅菌装置内または滅菌装置の周囲に設ける必要がない。更に、時間ならびに滅菌チャンバー内の圧力および温度をモニタリングしたり、それらを正確に制御したりするのに、複雑な制御システムを必要としない。従って、本発明の方法および装置は安全でよりコスト的に好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。尚、以下の説明は、本発明の態様の1つの例示にすぎない。
【0015】
図1は、ある態様の本発明の滅菌装置の全体図を示している。一般的には、本発明の滅菌装置は、接地された金属格子2が収容された滅菌チャンバー12を備えたハウジング1、水蒸気発生装置3、イオン化オゾン発生装置4および出口ガス清浄装置5を有して成る。出口ガス清浄装置5は、滅菌チャンバー12から出口ガスを排除するために用いられる。
【0016】
ハウジング1は滅菌チャンバー12を有して成る。本発明の使用に際して、滅菌すべき医療機器(図示せず)が滅菌チャンバー12内の金属格子21上に配置され、かかる金属格子21によって、医療機器(図示せず)がグラウンド電位23(または地電位23)の第1電位となる。ハウジング1は、開閉可能であり、滅菌処理前の医療機器をハウジング内に入れることができたり、あるいは、滅菌処理後の医療機器をハウジングから取り出すことができる。
【0017】
水蒸気発生装置3は、脱イオン水(demineralized water)の供給源30、かかる供給源30に接続された水ポンプ32および蒸気発生器34を有して成る。水ポンプ32および蒸気発生器34は当業者に既知の種類のポンプ/発生器であってよい。水蒸気発生装置3によって生じた水蒸気は吸気バルブ14へ送られ、滅菌チャンバー12へと導かれることになる。本発明の滅菌装置および滅菌方法の作用効果の点では、水蒸気の正確な温度は特に重要ではない。但し、湿度レベルは約80%〜約100%にされ得る。導電性を有する蒸気であれば、そのような導電性蒸気を水蒸気の代わりに用いることができる。
【0018】
イオン化オゾン発生装置4は、清浄空気吸引アッセンブリ40を有して成る。清浄空気吸引アッセンブリ40は、吸引ポンプ406に接続された空気フィルター・アッセンブリ402,404、テフロン・フィルター408、および、UV/C照射ユニット410を有して成る。コンタミを生じることなく清浄空気が供給されるように、周囲の空気がHEPAフィルター402および活性炭フィルター404を通して取り込まれることになる。空気吸引ポンプ406は、ガスを連続的に流すのに適した空気量を供することができる常套の空気吸引ポンプであってよい。テフロン・フィルターによって、ガス流れに含まれる粒状物が除去される。UV/C照射ユニット410では、常套の手法により、通過する空気に対して紫外線照射が行われ、空気中に残存するバクテリアまたは微生物を死滅させる。
【0019】
イオン化オゾン発生装置4は、空気イオン化ユニットまたは空気電荷ユニット42、および、オゾン発生器44を有して成る。オゾン発生器44では、濾過されイオン化した吸引空気から、「イオン化したオゾン含有ガス」が生じることになる。かかるイオン化したオゾン含有ガスは、吸引バルブ14を開けることによって滅菌チャンバー12へと送られる。
【0020】
空気イオン化ユニット42は、かかるユニットに送られてくる清浄ガスをコロナ電流によってイオン化または帯電させる。即ち、空気流れに対して高電圧電極が配置されているので、空気が高静電気に帯電する。電極によって電子が励起され、空気中を電子が移動することになる。これにより、空気流れが電子を伴うことになり、80kV(40μA)のオーダーの第2電位に空気が帯電またはイオン化されることになる。尚、副作用としてオゾンが生じる場合であっても、かかるオゾンの発生は、空気イオン化ユニットで行う処理の主たる目的ではない。
【0021】
イオン化した空気は、オゾン発生器44に送られる。オゾン発生器44では、常套の手法で、前記イオン化した空気に短波長UVを照射することによって又は約185nmのUV/Cを照射することによって、オゾンを発生させる。尚、オゾン発生器としては、常套のオゾン製造ユニットを用いてよい。オゾン発生器44では、吸引された空気中に存在する酸素の光化学反応が引き起こされる。その結果、オゾンまたはOガス(即ち、117°の角度で三角形を成す3つの酸素原子から成る分子から成る高活性ガス)が含まれる空気の連続流れが生じることになる。オゾンが生じる前では酸素含有ガスが比較的高い電位に帯電していることに起因して、空気中で生じるオゾンまたはOガスは、電子によって帯電され、Oが生じることになる。
【0022】
このようにして、濾過され、滅菌され、イオン化された空気から、「イオン化したオゾンガスO」を形成することができる。イオン化したオゾンガスOは、イオン化していないオゾンガス(常套のオゾン殺菌装置で現在使用されているようなオゾンガス)よりも相当に高い活性を有している(即ち、攻撃的である)。このような高活性なOは、医療機器のバクテリアを効果的に破壊することになり、滅菌に際して必要とされるオゾンの濃度を高い濃度からより低い濃度へと減じることができる。
【0023】
好ましくは、入口バルブ14を介して、「水蒸気」および「イオン化オゾンガスを含んだ空気」の双方が滅菌チャンバー12に供給される。後述するが、かかる入口バルブ14によって、装置構成がシンプルとなり、ハウジングの取外しが容易となる。別法にて、入口および出口が組み合わされた入口/出口バルブを設けてもよいし、あるいは、2個以上の別個の入口バルブ14および/または出口バルブ16を設けてもよい。
【0024】
図1および図2に示す態様では、水蒸気は、入口バルブ14を介して供給され、所定の蒸気暴露時間(例えば1分)を経た後、出口バルブ16から排出される。金属格子21に設けられた医療機器の表面(露出面)が効果的に水蒸気に覆われるので、金属格子21によってもたらされる第1電位が、導電性水蒸気層を介して、実質的に全ての表面に供され、たとえゴムなどの非導電性の表面であっても第1電位が供されることになる。
【0025】
水蒸気を排出した後は、イオン化したオゾンガスを含んだ空気が、入口バルブ14を介して滅菌チャンバー内へと送られる。イオン化したオゾンガスは、接地された医療機器に効果的かつ実質的瞬時に引き寄せられ(または引き付けられ)、かかるイオン化したオゾンガスが医療機器表面を極めて効果的に覆うことになる。その結果、非常に効率的な殺菌効果が生じることになる(本発明の方法および装置の効果である)。
【0026】
更に、オゾンが、滅菌チャンバー12に導入される前に第2電位を帯びるようにイオン化されるので、イオン化されたオゾンガス分子Oは、ハウジング1の内側面ではなく、電荷を帯びた表面(即ち、医療機器の表面および金属格子21)にのみ実質的に引き寄せられることになる。その結果、オゾン滅菌の効率が向上することになり、効果的な殺菌に必要とされるオゾンガス量を更に減じることができる。イオン化したオゾンガスの大部分は、電荷を帯びた前記表面と接触すると触媒作用により酸素へと変換される。従って、滅菌チャンバー1から排出される排出ガスに残存する攻撃的なオゾンガスを減じるのに必要とされる「排出ガスの汚染浄化処理および/または転換処理」が減じられ、更なる効果が奏されることになる。
【0027】
イオン化したオゾンガス(接地された金属格子に引き寄せられるイオン化したオゾンガス)の量を減じるために、金属格子のグランド電位を有する部分の表面を最小限に維持することが好ましい。そのため、例えば、大きな隙間を有する薄い金網から金属格子を構成してもよく、あるいは、例えば滅菌される機器に応じて金属格子の滅菌されない部分を絶縁してもよい。
【0028】
第1電位を有する医療機器表面と、第2電位を有するイオン化したオゾンガスとの間には電位差が存在している。滅菌を効率的に行わないのであれば、電位差はあまり重要ではなく、また、2つの電位のプラス/マイナスも重要ではない。他の考えられる態様としては、医療機器表面が正の電位を有する態様である。あるいは、イオン化したオゾンが正に帯電し、医療機器表面が負電位またはグラウンド電位となる態様も考えられる。金属格子21は、いずれの導電性材料から形成してもよい。例えば、外科用ステンレス鋼、他のステンレス鋼、鉄または銅などから金属格子21を形成してもよい。また、金属格子21は、いずれの形状および種類であってよく、例えば、プレート状格子、エッジを備えたトレイ、バスケット(basket)などであってよい。別法にて、部材を帯電させる手段は、1つまたはそれ以上の金属プレート、ワイヤーおよび/または医療機器に特別に取り付けられたプラグであってよい。
【0029】
イオン化したオゾンガスは、所定の暴露時間(例えば1分間)使用された後、排出されることになる。この際、水蒸気による暴露とイオン化オゾンガスによる暴露とのサイクルを所定の回数(例えば6回)繰り返した後、水蒸気による暴露を最終工程として行うことによって、残存するイオン化オゾンを酸素へと触媒的に変換させる。
【0030】
出口ガス清浄装置5は、出口バルブ16、フロー・センサー52、湿気分離器(または水分分離器)54、UV/C照射ユニット56ならびに排出ユニット58(カーボン・フィルター582および空気排出ポンプ584を有して成る排出ユニット)を有して成る。滅菌処理の間および/または滅菌処理の後、滅菌チャンバー内のガスまたは空気は、出口バルブ16を介して排出される。尚、かかる排出は、出口バルブ16を開くことによって行ってもよいし、あるいは、出口バルブ16を連続的に開の状態にしておくことによって行ってもよい。フロー・センサー52では空気の流量が記録される。湿気分離器54では、排出された空気から水分が除去されるので、空気汚染の可能性が減じられる。全てのオゾンが触媒作用に起因して酸素へと変換されるように、また、排出ガス中に微生物が存在することがないように、出口ガス流れはUV/C照射ユニット56へと送られる。UV/C照射ユニット56へと送られた後、出口ガス流れは、排出ユニット58を介して本発明の装置から排出される。排出ユニット58では、空気ポンプ584の吸引により出口ガス流れがカーボン・フィルター58を通過することになるので、ガス中に残存する汚染物質が除去されることになる。尚、カーボン・フィルター58は、装置の停止時において外部から汚染物質が装置内に進入するのを防止する効果もある。
【0031】
好ましくは、水蒸気を供給し、所定の蒸気暴露時間の経過後にかかる水蒸気を排出すること、および、「イオン化したオゾンガス」を供給し、所定のオゾンガス暴露時間の経過後にかかる「イオン化したオゾンガス」を排出することを所定の回数繰り返す。また、このように水蒸気とイオン化したガスとを交互に供給するサイクルを実施する代わりに、最初の蒸気暴露時間の後に、イオン化したオゾンガスを連続的または断続的に滅菌チャンバーを通過するように流してもよい。更に、水蒸気およびイオン化したオゾンガスを同時に供給してもよい。但し、この場合は、オゾンガスが医療機器に結合するのではなく、滅菌チャンバー内の空間に存在する水蒸気と結合し得るので、場合によってはイオン化オゾンガスの効果が著しく損なわれる可能性がある。
【0032】
各々の滅菌処理時間の合計(即ち、蒸気およびイオン化したガスを交互に供給して処理を行うサイクルに要する時間と、最後に水蒸気を供給して処理を行う時間との合計)は、1分〜120分、好ましくは10分〜20分、より好ましくは13分〜15分である。水蒸気とイオン化したガスとを交互に供給する時間は、例えば、1回につき1分である。この際、必要に応じて、かかる水蒸気の供給とイオン化したガスとの供給の間に、わずかな保持時間(休止時間)または吸引時間があってもよい(7回の水蒸気暴露および6回のイオン化オゾンガス暴露では、1秒〜数十秒の保持時間または吸引時間が10回程度あってもよい)。保持時間によって、滅菌される機器に水蒸気が付着するための休止期間が確保されると共に、滅菌チャンバー内に残存する水蒸気が吸い出される。
【0033】
従来技術では、滅菌された部材をどのように収容(即ち保持)および/または輸送し、使用に供するまでの保存期間どのように部材を滅菌状態に保持するかについて課題が残されている。従って、本発明では、本発明の装置に使用するのに適したハウジングまたは本発明の方法を実施するのに適したハウジングであって、部材を滅菌状態で保持することができる(部材が使用に供するまで滅菌状態に保持することができる)ハウジングが供される。
【0034】
好ましくは、滅菌チャンバー内の圧力がハウジングの外側の空気環境よりも高くなるように、滅菌チャンバーとその周囲環境との間に圧力差を形成する手段が本発明の装置に設けられる。これは、滅菌処理の間および/または特に滅菌処理の後で滅菌チャンバー12内の圧力が僅かに過圧状態となるように、入口バルブ14および出口バルブ16を設計することによって行われる。滅菌チャンバー12内の圧力が僅かに過圧状態となると、外部の空気から汚染物質が進入しにくくなるので、滅菌チャンバー12内における滅菌状態が維持される。
【0035】
好ましくは、圧力差が形成されるように、入口バルブ14と出口バルブ16とが個々に(または独立して)制御できるようになっている。そのようにバルブが制御可能になっていることと併せて又はそれとは別に、水ポンプ32、吸引ポンプ406、空気排出ポンプ584が個々に(または独立して)制御できるようになっている。
【0036】
好ましくは、そのような制御は、本発明の装置に含まれるプロセッサー等の制御手段によって行ってもよい。
【0037】
図2は、内蔵型のコンパクトな本発明の装置の上方斜視図である。かかる装置には、図1に示す構成要素の全てが好ましくはキャビネット70の中に含まれている。かかるキャビネット70には、本発明の装置の移送を容易にする車輪74が備えられている。尚、必要になり得る外付け要素は電力ユニットである。従って、本発明の装置が、例えばUV照射ユニットおよびイオン化ユニットなどに対して用いる高電圧発生器を更に含むことが可能である。水は、外部に設けられた脱イオン水供給源から供給してもよいものの、好ましくは、キャビネット70内部の水供源から供給される。
【0038】
キャビネット70の正面には、制御パネル72が設けられる。制御パネルによって、オペレターは、滅菌処理の開始および終了を制御することができたり、あるいは、予め設定された滅菌プログラムを選択したり、または、温度、圧力、排出ガス流れ、オゾンガス量および/または制御すべき他の機能を制御およびモニタリングすることができる。好ましくは、制御パネル72によって、ハウジング1に設けられた滅菌チャンバー内の滅菌処理を電子的に記録する。
【0039】
最もシンプルな態様では、パネルを設けなくてもよい。この場合、カセット・ハウジング1をキャビネット1に取り付けると自動的に、予め設定された滅菌プログラムを始動させる。かかる滅菌プログラムは、所定時間を経過後に停止し、その後、滅菌チャンバー内が僅かに過圧状態にされ、そして、開ハンドル18(カセット・ハウジング1の上部に設けられているハンドル)によってカセット・ハウジング1が開けられる。滅菌処理で得られる監視パラメーター(surveillance parameter)は、例えばスクリーンまたはインジケーター・ライトにより視覚的に用いてもよい。
【0040】
ハウジング1は、少なくとも1つの部材を受容する滅菌チャンバーを有するカセット・ハウジングである。滅菌チャンバーは、少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる手段を有して成り、カセット・ハウジングは、水蒸気供給およびイオン化オゾンガス供給のための入口バルブ14およびガス排出のための出口バルブ16を有して成る。尚、滅菌チャンバー内の圧力がハウジングの外側の空気環境よりも高くなるように、滅菌チャンバーとその周囲環境との間に圧力差を形成する手段がカセット・ハウジングに設けられていてもよい。
【0041】
図2では、カセット・ハウジングとして、または、一方の側部に設けられたヒンジ(図示せず)によって相互に取り付けられた上側パーツ1aおよび下側パーツ1bを有する「スーツ・ケース」として、ハウジング1が供されている。入口バルブ14および出口バルブ16を有して成る取付手段によって、カセット・ハウジングがキャビネット70に取外し可能に接続されている。かかる取付手段は、ハウジングを本発明の装置に取外し可能に接続することができる。カセット・ハウジングの一方の側部には移動用ハンドル19が設けられており、それによって、カセット・ハウジング自体を本発明の装置とは別個に別の場所に移動させることができ、ハウジング内部で水平に配置された金属格子の上に部材または医療機器を保持できる。これにより、部材または医療機器の保存が可能となり、現地で直接使用されるまで部材または医療機器を保存することができる、あるいは、他の医療施設で使用されるまで部材または医療機器を保存することができる。
【0042】
「医療施設に使用される殺菌デバイスをモニタリングする用途に供されるバイオロジカル・インジケーターの市販前の届出[510K]、産業界およびFDA検査官のための手引書草案(Premarket Notification [510k] for Biological Indicators Intended to Monitor Sterilizers used in Health Care facilities, Draft Guidance for Industry and FDA Reviewers)」(出版:米連邦医薬品局、2001年)に従って、枯草菌株(strain of Bacillus subtilis var. niger)を生物学的指標として用いると、滅菌処理の効果について情報を得ることができる。図1および図2に示すような装置に枯草菌株を供した後に本発明の方法を実施したところ、本発明の方法の滅菌効果が非常に高いことが判った。特に、最も効果的なEOおよび今日市販されている真空滅菌装置と比べて滅菌効果が高かった。
【0043】
特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内において、本発明を種々の態様で具現化することができる。例えば、ハウジングは、例えば、ロックを備えた円筒形バケットまたは閉鎖可能なプラスチックバックなどの態様を有するものであってよい。キャビネットは設けてもよいし、設けなくてもよい。また、ハウジングは、取外し可能に接続されてもよいし、取外し可能に接続されなくてもよい。更には、酸素は、酸素供給コンテナーによって供してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明のある態様の滅菌装置の構成要素の全体的に示している。
【図2】図2は、取外し可能に接続されたカセット・ハウジングを有して成るキャビネットを含んだ図1の装置の上方斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンガスを用いて少なくとも1つの部材を滅菌する方法であって、
− 少なくとも1つの部材が配置された滅菌チャンバーを有するハウジングを供する工程、
− 前記少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる工程、
− 前記滅菌チャンバーに水蒸気を供給する工程、
− 酸素含有ガスが第2電位に帯電するようにイオン化ユニットで酸素含有ガスを静電的イオン化する工程、
− 静電的にイオン化した酸素含有ガスに基づいて、オゾン発生器でイオン化オゾンガスを発生させる工程、
−前記イオン化オゾンガスが前記少なくとも1つの部材の表面に引き寄せられるように、前記イオン化オゾンガスを前記滅菌チャンバーに供給する工程、および
− 所定の暴露時間でもって前記少なくとも1つの部材を前記イオン化オゾンガスに曝す工程
を含んで成る方法。
【請求項2】
前記水蒸気を供給し、所定の蒸気暴露時間の経過後に前記水蒸気を排出すること、および、前記イオン化オゾンガスを供給し、所定のオゾンガス暴露時間の経過後に前記イオン化オゾンガスを排出することを所定の回数繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の蒸気暴露時間の経過後に1秒〜数十秒の休止期間を含んでおり、行われる休止期間の回数が10回である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定の蒸気暴露時間の水蒸気の供給でもって滅菌処理を終了する、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の蒸気暴露時間および前記所定のオゾンガス暴露時間が、それぞれ、30秒〜15分であり、好ましくは1分〜5分であり、より好ましくは約1分である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1電位がグラウンド電位であり、前記第2電位がより大きい値の負電位である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの部材を金属格子に配置することによって、第1電位の帯電を行う、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
滅菌チャンバー内の圧力がより高くなるように、滅菌チャンバーとその周囲の環境との間に圧力差を形成する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記イオン化オゾンガスを連続的なガス流れとして用い、前記イオン化オゾンガスに前記少なくとも1つの部材を曝す、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記イオン化オゾンガスを断続的なガス流れとして用い、前記イオン化オゾンガスに前記少なくとも1つの部材を曝す、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの部材を前記イオン化オゾンガスに1回曝す、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの部材が、超音波振動子などの複雑な医療デバイスである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
− 前記少なくとも1つの部材を収容する滅菌チャンバーを備えたハウジング、および
− 水蒸気を前記滅菌チャンバーに供給する手段
を有して成る、少なくとも1つの部材をオゾンガスで処理する装置であって、
− 前記少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる手段、および
− 静電的にイオン化したオゾンガスを前記滅菌チャンバーに供給する手段
を更に有して成り、
前記「静電的にイオン化したオゾンガスを前記滅菌チャンバーに供給する手段」が、
− 酸素含有ガス供給源、
− 酸素ガス含有ガスを第2電位に帯電させる手段、および
− オゾン発生器
を有して成り、
前記酸素含有ガス供給源と前記第2電位に帯電させる手段とが接続され、前記第2電位に帯電させる手段と前記オゾン発生器とが接続され、前記オゾン発生器と前記滅菌チャンバーとが接続されている、
装置。
【請求項14】
前記第1電位がグラウンド電位であり、前記第2電位が比較的大きい負電位である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる手段が、金属格子である、請求項13または14に記載の装置。
【請求項16】
前記ハウジングが、前記イオン化したオゾンガスおよび前記水蒸気のための入口バルブ、ならびに、排出ガスのための出口バルブを有して成る、請求項13〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
酸素含有ガス供給源が、前記装置の周囲に存在する大気である、請求項13〜16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記ハウジングを前記装置に取外し可能に接続できる取付手段を更に有して成る、請求項13〜17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記取付手段が入口バルブおよび出口バルブを有して成る、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記少なくとも1つの部材が、超音波振動子などの複雑な医療デバイスである、請求項13〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
請求項9〜16のいずれかに記載の装置のためのハウジングであって、
前記ハウジングが、殺菌される少なくとも1つの部材が収容される滅菌チャンバーを備えたカセット・ハウジングであり、
前記滅菌チャンバーが、前記少なくとも1つの部材を第1電位に帯電させる手段を有して成り、
前記カセット・ハウジングが、水蒸気およびイオン化したオゾンガスを供給するための入口手段、および、水蒸気およびイオン化したオゾンガスを排出するための出口手段を有して成る、ハウジング。
【請求項22】
前記入口手段および前記出口手段が入口/出口バルブであるか、または、前記入口手段が入口バルブであって前記出口手段が出口バルブである、請求項21に記載のハウジング。
【請求項23】
前記ハウジングを前記装置に取外し可能に接続することを可能とする取付手段を有して成る、請求項21または22に記載のハウジング。
【請求項24】
前記取付手段が、前記入口/出口バルブであるか、または、前記入口バルブおよび前記出口バルブである、請求項23に記載のハウジング。
【請求項25】
滅菌チャンバー内の圧力がより高くなるように、滅菌チャンバーとその周囲の環境との間に圧力差を形成する手段が設けられている、請求項21〜24のいずれかに記載のハウジング。
【請求項26】
前記少なくとも1つの部材が、超音波振動子などの複雑な医療デバイスである、請求項21〜25のいずれかに記載のハウジング。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−528070(P2008−528070A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551545(P2007−551545)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000052
【国際公開番号】WO2006/079337
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(507249498)バット・ホールディング・アンパルトセルスカブ (1)
【氏名又は名称原語表記】Bat Holding ApS
【Fターム(参考)】