説明

配向フィルム

【課題】フィルム面内の一方向に、実用に必要な機械的特性を具備させつつ、低い湿度膨張係数を有する二軸配向ポリエステルフィルムの提供。
【解決手段】ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる樹脂Aと、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる樹脂Bとを、重量比(樹脂A:樹脂B)で4:6〜9:1の割合で含有する樹脂組成物からなる配向フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境変化、特に湿度変化に対して優れた寸法安定性を発現するポリエステルフィルムに関し、特にデジタルデータなどの高密度記録メディアのベースフィルムに適したポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、優れた機械的特性、熱的特性および化学的特性とを有することから、各種用途に用いられており、特に寸法安定に優れることからデジタルビデオ用テープやコンピュータのバックアップ用テープ(以後、データテープという)など磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。
【0003】
このデータテープは、近年記録密度の高密度化が進み、トラックの幅が非常に狭くになってきている。その結果、データテープの走行または保存の間に生じるわずかな熱的・力学的寸法変化や、データを記録する際と読み取る際の温湿度環境の違いにより、データを読み取る磁気ヘッドとトラックの位置とがずれてしまい、データの再生不良を引き起こす問題点が生じてきた。従って、高密度記録に対応するデータテープには、湿度変化に対して高い寸法安定性が要求されている。特に記録方式がリニア記録方式のデータテープでは、データテープの幅方向により高い寸法安定性が要求されている。
【0004】
このような、データテープのベースフィルムに用いるフィルムの素材としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)やポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと称することがある。)が用いられてきた。しかし、高密度記録のデータテープに求められる寸法安定性の要求はますます厳しくなっており、それだけでは不十分となってきている。
【0005】
一方で、PETやPENのほかに、ポリエステル素材として、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PTNと称することがある)が知られている。例えば、特許文献1では、PTNの配向フィルムを感熱孔版用途に用いることが提案されている。また、特許文献2および3では、PTNの配向フィルムが良好なガスバリア性および耐光性を持つことが提案されている。しかしながら、これら特許文献1〜3の実施例に具体的に開示されたフィルムを追試してみると、湿度膨張係数が従来のPETやPENと同等程度のものでしかなかった。
【0006】
また、特許文献4では、2,6−ポリトリメチレンナフタレート、2,6−ポリテトラメチレンナフタレート、2,6−ポリペンタメチレンナフタレート、及び2,6−ポリヘキサメチレンナフタレートのいずれかからなるフィルムを磁気記録媒体のベースフィルムに用いることが提案されている。また、その実施例の湿度膨張係数を見ると、幅方向のヤング率が9GPaのPENを用いた場合が6.8ppm/%RHで、幅方向のヤング率を11GPaまで高めた2,6−ポリテトラメチレンナフタレートや2,6−ポリヘキサメチレンナフタレートを用いた場合が5.9〜6.4ppm/%RHとある。そして、ポリエステルフィルムの場合、その方向のヤング率が高いほど、分子鎖がその方向に揃っていて湿度膨張係数が低くなる傾向にあることを勘案すると、特許文献4の実施例からは、同程度のヤング率ならPENと、そのグリコール成分の炭素数を変更したものとでは湿度膨張係数はほとんど変わらないことが理解される。なお、特許文献4は、具体的に2,6−ポリトリメチレンナフタレートでの確認はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−213947号公報
【特許文献2】特開2001−038866号公報
【特許文献3】特開2000−017159号公報
【特許文献4】特開2007−287312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、PETやPENからなるフィルムに比べ、優れた湿度変化に対する寸法安定性と、PTNからなるフィルムに比べ、優れた機械的強度とを兼備するポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、PETやPENとほとんど湿度膨張係数について変わらないと思われていたポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを、特許文献1−3に記載されたフィルムよりもさらに面内方向に高屈折率となる方向を有するフィルムとすると、驚くべきことにPETやPENに比べて極めて小さな湿度膨張係数を有するフィルムを得ることができ、しかも、PETやPENを特定の割合でブレンドすることで、湿度膨張係数を低くしつつヤング率などの機械的特性も向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
かくして本発明によれば、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる樹脂Aと、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる樹脂Bとを、重量比(樹脂A:樹脂B)で4:6〜8:2の割合で含有する樹脂組成物からなる配向フィルムが提供される。
【0011】
また、本発明の配向フィルムの好ましい態様として、幅方向の湿度膨張係数が7.5ppm/%RH以下であること、磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられることの少なくともいずれかを具備する配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0012】
従来のPETやPENからなるフィルムに比べ、ヤング率などの機械的特性を維持しつつ、より湿度膨張係数が低い方向を有する配向フィルムが得られる。したがって、本発明の配向フィルムを、例えば磁気記録媒体などのベースフィルムに用いれば、目的とする方向により湿度変化に対して優れた寸法安定性と実用に耐えうるヤング率などの機械的特性とを有するデータテープなどの製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における樹脂AはPTNであり、このPTNとは、主たる芳香族ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分で、主たるグリコール成分がトリメチレングリコール成分である芳香族ポリエステルである。もちろん、本発明の目的を損なわない範囲で、それ自体公知の共重合成分を共重合しても良い。なお、共重合する場合は、通常全酸性分のモル数を基準として、20モル%以下、更に10モル%以下が好ましい。
【0014】
つぎに、本発明における樹脂Bは、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂である。なお、本発明におけるPETとは、主たる芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分で、主たるグリコール成分がエチレングリコール成分である芳香族ポリエステルである。また、本発明におけるPENとは、主たる芳香族ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分で、主たるグリコール成分がエチレングリコール成分である芳香族ポリエステルである。もちろん、本発明の目的を損なわない範囲で、これらPETやPENは、それ自体公知の共重合成分を共重合しても良い。特に、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合することは、さらに湿度膨張係数を低減しやすいことから好ましい態様である。なお、共重合する場合は、通常全酸成分のモル数を基準として、20モル%以下、更に10モル%以下が好ましい。
【0015】
本発明における樹脂Aおよび樹脂Bの固有粘度(I.V.)の好ましい範囲は、0.5〜1.5dl/g、さらに0.55〜1.4dl/gである。この下限より下回るI.V.では、フィルム製膜において結晶化が問題になり、均一な延伸が困難になる。またこの上限を上回るI.V.では、高分子鎖の絡み合いにより延伸時の応力が大きすぎて、均一な延伸が困難になる。このような好ましい範囲のI.V.を有するPTNは、溶融重合や固相重合法によるI.V.調整によって合成可能となる。
【0016】
ところで、本発明の配向フィルムの特徴は、前述の樹脂Aと樹脂Bとを、重量比(樹脂A:樹脂B)4:6〜8:2の範囲でブレンドし、樹脂組成物の状態で用いたことにある。樹脂Aの割合が下限未満だと、湿度膨張係数の低減効果が乏しくなり、他方樹脂Bの割合が下限未満だと、ヤング率などの機械的特性が低下しやすくなる。好ましい重量比(樹脂A:樹脂B)は、5:5〜7.9:2.1、さらに6:4〜7.8:2.2の範囲である。
【0017】
ところで、本発明の配向フィルムは、フィルムの製膜方向または幅方向の屈折率が1.74以上であることが好ましい。もちろん、製膜方向と幅方向の両方向が、屈折率1.74以上であっても良いし、それは好ましい態様である。屈折率の好ましい範囲は、1.74〜1.85、さらに1.75〜1.80、特に好ましくは1.76〜1.80の範囲である。このように極めて高度に分子鎖が配向された方向を存在させることで、フィルムの当該方向における湿度膨張係数を極めて低くできる。製膜方向および幅方向のいずれの方向も、屈折率が上記下限値よりも低い場合、従来のPETやPENと同程度の高い湿度膨張係数を有するフィルムしか得られず、本発明の湿度膨張係数の低減効果が奏されない。なお、製膜方向または幅方向の屈折率の上限は、使用する用途に適した湿度膨張係数になるように適宜設定すればよい。ただ、あまりにも屈折率を大きくすると、湿度膨張係数が負の値、すなわち収縮が過度に大きくなったり、製膜時にそれだけ高い延伸倍率で延伸することが必要になって、製膜が難しくなることから、1.85以下であることが好ましい。もちろん、成形品としての湿度膨張係数が小さければよく、例えば湿度膨張係数の大きな層と貼り合せるような場合は、貼り合せた状態で湿度膨張係数が小さくなるように、本発明の配向フィルムは、その屈折率の最大値を1.85以上にしてもよい。
【0018】
また、本発明の配向フィルムは、データテープなどテープ状で用いる場合は、テープの長手方向に進行させながら用いることが多く、前述の屈折率が1.74以上である方向は幅方向であることが好ましい。特にデータトラックを幅方向に非常に狭い間隔で並べるリニア記録方式のデータテープの場合、少なくとも幅方向の屈折率が1.74以上であることが好ましい。
【0019】
そういった観点から、本発明の配向フィルムは、幅方向の湿度膨張係数が7.5ppm/%RH以下であることが好ましく、さらに0ppm/%RH以上7.5ppm/%RH以下の範囲にあることが、製膜性と湿度変化に対する高度な寸法安定性とを得られることから好ましい。なお、前述のとおり、湿度膨張係数は、その方向の分子鎖の配向を高めるような延伸条件を採用することで、小さくすることができる。具体的には、その方向の延伸倍率を高めたり、より分子鎖が配向しやすいような温度条件を採用すればよい。
【0020】
ところで、湿度膨張係数は、樹脂Aと樹脂Bをブレンドする割合によっても変化する。そのような観点から、樹脂A:樹脂Bが4:6〜4.9:5.1ときは、屈折率1.74以上の方向の湿度膨張係数が7.5ppm/%RH以下であることが好ましく、樹脂A:樹脂Bが5.5〜6.5:3.5のときは、屈折率1.74以上の方向の湿度膨張係数が6ppm/%RH以下であることが好ましく、樹脂A:樹脂Bが6.6:3.4〜8:2のときは、湿度膨張係数が5ppm/%RH以下であることが好ましい。特に、湿度膨張係数が6ppm/%RH以下から0ppm/%RH以上、さらに5.2ppm/%RH以下から0ppm/%RH以上といった特性を有する場合、磁気記録媒体のベースフィルムに好適に用いることができ、特にその方向が幅方向である場合、トラックズレなどの幅方向における寸法変化の抑制が求められるリニア記録方式の磁気記録媒体支持体に好適に用いることができる。
【0021】
本発明の配向フィルムは、それ自体で単層フィルムとして用いてもよいし、さらに別のフィルム層と積層した積層配向フィルムとして用いても良い。すなわち、少なくとも1つの層として、本発明の配向フィルムを有していれば良い。
【0022】
また、本発明の配向フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲、例えば配向フィルムの重量を基準として、20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲で、樹脂組成物に、それ自体公知の機能剤や他の樹脂を含有させて組成物として用いたものでも良い。具体的な機能剤としては、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤(ワックスや不活性粒子など)、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などが挙げられ、他の熱可塑性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。特に、磁気記録媒体支持体として使用されてきたPENに比べ、PTNはガラス転移温度(以下Tgと称する場合がある)が低くなりやすいので、例えばポリエーテルイミドなどガラス転移温度を高められるような成分を共重合したり、ブレンドすることは好ましい態様である。
【0023】
つぎに、本発明の配向フィルムの好ましい態様について、さらに詳述する。
本発明における樹脂組成物は、DSCで測定したガラス転移温度が、70℃以上、さらに75℃以上であることが、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。このようなガラス転移温度は、ガラス転移温度を下げるような成分の割合を制御することで調整できる。一方、ガラス転移温度の上限については、特に制限されないが、製膜性の点から、150℃以下、さらに130℃以下が好ましい。なお、通常副生物の少ないホモのPTNであれば、ガラス転移温度は90℃程度であり、よりガラス転移温度の高いものとするには、前述のようにポリエーテルイミドなど、Tgをあげる目的でそれ自体公知の他の共重合成分を共重合したり、ブレンドしても良い。
【0024】
また、本発明における樹脂組成物は、DSCで測定した融点が、190〜230℃の範囲、さらに190〜225℃の範囲、特に195〜225℃の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなるため生産性は悪化する。一方で、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、芳香族ポリエステルの持つ機械的特性などは損なわれやすくなる。
【0025】
本発明の配向フィルムは、前述のとおり、単層フィルムでもよいが、データテープのベースフィルムとして用いる場合には、平滑性と走行性とをより高度に両立させやすいことから、少なくとも2層以上の積層フィルムであることが好ましい。また、配向フィルム表面に、厚み1〜50nmの水溶性または水分散性高分子、あるいは溶剤可溶性高分子などからなる易滑性を向上させるようなそれ自体公知のコーティング層を積層しても良い。
【0026】
本発明の配向フィルムは、走行性や巻取り性などを向上させるために、不活性粒子を含有させてもよい。なお、本発明でいう不活性粒子とは、無機または有機の粒子で、フィルムを形成するポリマー中で、本発明の効果を損なうような化学的反応や、磁気記録テープとしたときに記録特性を損なうような電磁気的影響を与えないものをいう。不活性粒子としては、それ自体公知のものを好適に使用できる。
【0027】
本発明の配向フィルムが不活性粒子を含有する場合、その好ましい平均粒径および含有量は、配向フィルムの用途や積層構成によって異なるが、例えばデータテープのベースフィルムに用いる場合、以下のような範囲が好ましい。
【0028】
2層以上の積層構成を有する磁性層を形成する側のフィルム層に用いられている場合、含有する不活性粒子の平均粒径は、0.005〜0.5μmが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.3μm、さらに好ましくは0.03〜0.2μm、最も好ましくは0.05〜0.15μmである。また、その不活性粒子の含有量は、該不活性粒子を含有するフィルム層の重量を基準として、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%、最も好ましくは0.01〜0.2重量%である。一方、磁性層を形成しない側(非磁性層側)のフィルム層に用いられる場合、含有する不活性粒子は、2種類以上のサイズの異なる不活性粒子を用いることが好ましい。平均粒径の大きな不活性粒子の平均粒径は、0.05〜2μmが好ましく、より好ましくは、0.1〜1μm、さらに好ましくは0.2〜0.6μmである。また、平均粒径の小さな不活性粒子の平均粒経は、0.01〜0.3μmが好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.2μm、最も好ましくは0.05〜0.15μmである。なお、平均粒径の大きな不活性粒子と平均粒径の小さな不活性粒子との平均粒径の差は0.04μm以上あることが好ましい。平均粒径の大きな不活性粒子の含有量は、該不活性粒子を含有するフィルム層の重量を基準として、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%、最も好ましくは0.02〜0.2重量%である。また、平均粒径の小さな不活性粒子の含有量は、該不活性粒子を含有するフィルム層の重量を基準として、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%、最も好ましくは0.02〜0.2重量%である。
【0029】
本発明の配向フィルムが、2層以上のフィルム層を積層した積層フィルムの少なくとも一つの層に用いられている場合、本発明の配向フィルムの厚みは、積層フィルムの厚みに対して、20%以上、さらに30%以上、特に40%以上であることが、得られる積層フィルムに優れた湿度膨張係数を発現させられることから好ましい。
【0030】
なお、本発明の配向フィルムが、単層フィルムとしてデータテープのベースフィルムに用いられる場合には、含有する不活性粒子の平均粒径は、0.01〜1μmが好ましく、より好ましくは、0.05〜0.5μmである。また、含有する不活性粒子の含有量は、配向フィルムの重量を基準として、0.01〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0031】
つづいて、本発明の配向フィルムの製造方法の一例について、説明する。
まず、本発明の配向フィルムを製造するためのPTN、PET、PENは、それ自体公知の方法で製造できる。具体的には、PTNの場合、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはその低級アルキルエステルとトリメチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させて、さらに所望の固有粘度になるまで重縮合反応させればよい。この際、エステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応の反応速度を高めるために、それ自体公知の触媒を好適に使用できる。
このようにして得られたPTN、PET、PENを溶融状態で所望の割合にブレンドしてダイからシート状に回転している冷却ドラム上に押出し、未延伸シートを作成する。
【0032】
このようにして得られた未延伸シートを、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)以上からTg+30℃以下の範囲で、製膜方向または幅方向に3.0倍以上延伸すればよい。なお、屈折率が1.74以上の方向を発現させるための延伸条件は、その方向の延伸倍率のほかに、延伸温度や延伸方向と直交する方向の延伸条件などが影響する。例えば、一方向にしか延伸処理を行わない一軸配向フィルムの場合は、Tg+20℃で延伸する場合は、延伸倍率を2.5倍以上にすることで屈折率1.74以上とすることができ、より延伸倍率を高めたり、延伸温度を低くすることで、より屈折率を高くできる。また、直交する2方向に延伸する場合、例えばフィルムの製膜方向に延伸倍率1.5倍で延伸し、幅方向の屈折率を1.74以上にしたいときは、幅方向の延伸倍率を4.2倍以上にすることが望ましい。なお、詳細な延伸条件は、実際に目的とする屈折率およびその方向が決まれば、それに応じてその方向により高い延伸倍率の条件で延伸をして、目的とする屈折率に足らなければ、その方向の延伸倍率を高めたり、延伸温度を低くすること、またはそれと直交する方向の延伸倍率を低くしたり、延伸温度を低くするなどして、調整すればよい。
【0033】
もちろん、本発明の配向フィルムは、上述のような延伸工程を経た後、弛緩、定長もしくは緊張化で、150〜180℃の温度で熱固定処理を行うことが、その後の寸法安定性をより高められることから好ましい。
なお、前述の説明は、単層フィルムについて説明したが、積層フィルムの場合は、それ自体公知の共押出や貼り合せなどによって積層フィルムとすればよい。
【0034】
このようにして得られた本発明の配向フィルムは、目的とする方向の湿度膨張係数を極めて低いものとすることができ、例えば幅方向の屈折率を1.74以上にしてリニア記録方式のデータテープのベースフィルムに用いれば、磁気ヘッドとの湿度変化による幅方向のトラックの位置がずれる、いわゆるトラックズレによるエラーが極めて低いデータテープとすることができる。
【0035】
なお、このようなデータテープは、本発明の配向フィルムの一方の面に、磁性層を形成するための磁性層用塗液を塗布および乾燥することで製造できる。もちろん、必要に応じて、ベースフィルムと磁性層との間に、磁性層の厚みを薄くするための非磁性層を形成したり、磁性層を形成しない側に、データテープとしたときの走行性を向上させるためのバックコート層を形成しても良い。
【実施例】
【0036】
次の実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
<測定方法>
(1)固有粘度(I.V.)
得られたポリエステルの固有粘度は、35℃でのオルソクロロフェノールを溶媒として用いて測定した。
【0037】
(2)ガラス転移温度および融点
ガラス転移温度および融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal analyst2100)により試料量10mg、昇温速度20℃/minで測定した。
【0038】
(3)ヤング率
得られた配向フィルムを、測定方向がそれぞれ製膜方向および幅方向になるように、試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張って測定する。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。なお、ヤング率は、製膜方向および幅方向にそれぞれ5回繰り返し、それらの平均値とした。
【0039】
(4)屈折率
メトリコン社製レーザー屈折計(商品名:プリズムカプラ)を用い、フィルムの製膜方向と幅方向の屈折率を測定した。
【0040】
(5)湿度膨張係数(αh)
前述の(4)の測定で屈折率が1.74以上であった方向が測定方向となるように長さ12mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHで30分間静置したときのサンプルの長さを測定し、それをL20とし、その後12分かけて湿度を80%RHに変更し、30分間静置してから湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、それをL80とした。そして、次式にて湿度膨張係数を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。また、前述の(4)の測定で屈折率がいずれの方向も1.74未満であった場合は、その最も屈折率が高い方向について、測定した。
αh=(L80−L20)/(L80×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0041】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部と1,3−プロパンジオール60重量部およびテトラブチルチタネート0.08重量部を使用し、エステル交換反応を行った。次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.62dl/gのポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(樹脂A1)を得た。
また2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部およびテトラブチルチタネート0.08重量部を使用し、エステル交換反応を行った。次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(樹脂B1)を得た。
上記原料を重量比で樹脂A1:樹脂B1=7.8:2.2の割合でブレンドして乾燥した後、押出機に供給し、温度を300℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、製膜方向に延伸せず、製膜方向に直交する方向(幅方向に)に延伸温度120℃で4.8倍の倍率で延伸をした後、一旦冷却し、160℃で1.5%幅方向に弛緩しつつ熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの配向フィルムをワインダーで巻き取り、配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、樹脂A1:樹脂B1を7.8:2.2から6:4に変更したほかは、実施例1と同様にして配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
実施例1において、樹脂A1:樹脂B1を7.8:2.2から4:6に変更し、製膜方向に135℃にて延伸倍率2.9倍で延伸を行うように変更し、また幅方向の延伸温度を120℃から135℃に、また延伸倍率を5.3倍に変更し、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部およびテトラブチルチタネート0.08重量部を使用し、エステル交換反応を行った。次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンテレフタレート(樹脂B2)を得た。
そして、実施例1における樹脂B1の代わりに樹脂B2を、樹脂A1:樹脂B2の重量比が7.8:2.2となるように用い、溶融押出の温度を280℃に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。こうして延伸された厚み10μmの配向フィルムをワインダーで巻き取り、配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例5]
実施例1において、未延伸フィルムを製膜方向に温度120℃で、延伸倍率1.7倍で延伸してから、幅方向に延伸するように変更し、さらに幅方向の延伸倍率を4.7倍に変更し、厚みが10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[実施例6]
実施例2において、製膜方向の延伸倍率を2.1倍に変更し、幅方向の延伸倍率を4.9倍に変更し、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例2と同様にして配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部と1,3−プロパンジオール60重量部およびテトラブチルチタネート0.08重量部を使用し、エステル交換反応を行った。次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固相重合をさらに行い固有粘度が0.70dl/gのポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(樹脂A2)を得た。
上記原料を十分乾燥した後、押出機に供給し、温度を280℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、90℃の予熱ロールを通して、延伸温度を110℃で製膜方向に1.5倍延伸し、つづいて製膜方向に直交する方向(幅方向に)に延伸温度120℃で4.2倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で1.5%幅方向に弛緩しつつ熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNの二軸配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
製膜方向の延伸倍率を4.0倍に、また幅方向の延伸倍率を3.0倍に変更し、厚みが10μmになるように未延伸フィルムの厚みを変更したほかは比較例1と同様な操作を繰り返した。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[比較例3]
製膜方向の延伸を行わなかったことと、幅方向の延伸倍率を4.2倍から2.0倍に変更したことと、厚みが10μmになるように未延伸フィルムの厚みを調整したほかは、比較例1と同様にしてPTNの配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[比較例4]
前記樹脂B2(PET)を十分乾燥した後、押出機に供給し、温度を280℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、延伸温度100℃で幅方向に6.0倍の倍率で延伸をした後、一旦冷却し、200℃で1.5%幅方向に弛緩しつつ熱処理を施した。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0051】
[比較例5]
前記樹脂B1(PEN)を十分乾燥した後、押出機に供給し、温度を300℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、延伸温度135℃で幅方向に5.7倍の倍率で延伸をした後、一旦冷却し、200℃で1.5%幅方向に弛緩しつつ熱処理を施した。こうして延伸されたPEN配向フィルムをワインダーで巻き取り、フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0052】
[比較例6]
前記樹脂A2とB1とを、重量比9.5:0.5になるように加え、製膜方向の延伸倍率を3倍に、幅方向の延伸温度を120℃から135℃に変更し、幅方向の延伸倍率を4.2倍から4.25倍に変更し、厚みが10μmになるように未延伸フィルムの厚みを調整したほかは、比較例1と同様にして配向フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[比較例7]
前記樹脂A2とB2とを、重量比1.0:9.0になるように加え、280℃で溶融押出し、未延伸フィルムを作成した。この未延伸フィルムを100℃で製膜方向の延伸倍率を3倍に延伸し、続いて幅方向に110℃で4.5倍延伸し、180℃で1.5%幅方向に弛緩しつつ熱処理を施した。こうして延伸された配向フィルムをワインダーで巻き取り、フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0054】
[比較例8]
前記樹脂A2とB1とを、重量比1.0:9.0になるように加え、300℃で溶融押出し、未延伸フィルムを作成した。この未延伸フィルムを135℃で製膜方向の延伸倍率を3倍に延伸し、続いて幅方向に145℃で4.5倍延伸し、180℃で1.5%幅方向に弛緩しつつ熱処理を施した。こうして延伸された配向フィルムをワインダーで巻き取り、フィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0055】
【表1】

表1中のMDは製膜方向、TDは幅方向を示す。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の配向フィルムは、ヤング率などの機械的特性を実用上問題のない範囲に維持しつつ、湿度膨張係数が小さな方向を有し、例えばデータテープなどのベースフィルムなど、湿度変化に対する寸法安定性と機械的特性とが求められる用途に好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる樹脂Aと、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる樹脂Bとを、重量比(樹脂A:樹脂B)で4:6〜8:2の割合で含有する樹脂組成物からなることを特徴とする配向フィルム。
【請求項2】
幅方向の湿度膨張係数が7.5ppm/%RH以下である請求項1記載の配向フィルム。
【請求項3】
磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられる請求項1に記載の配向フィルム。

【公開番号】特開2012−46592(P2012−46592A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188304(P2010−188304)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】