説明

配筋検査方法

【課題】コンクリート構造物に構造物としての機能を損なわず、また、騒音や粉塵を発生させることなく鉄筋の配筋状態を確認できるようにする。
【解決手段】鉄筋コンクリート柱10の表面を切断してスリット1を2本平行に形成し、このスリット1に板ジャッキ3を挿入し水を圧入して膨張させると、表面のコンクリートが鉄筋2に沿って剥離される。高圧空気を剥離面に吹きかけて、表面に浮き上がったコンクリートを吹き飛ばして表面をきれいにし、鉄筋を表面に露出させ鉄筋の径や配筋間隔を実測し、設計図との対比や、基準に合致する配筋であるかを確認する。剥離によって形成された空間に高強度モルタルを充填して、構造部材を原状に復帰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の鉄筋の配筋状態を簡単に目視で確認できるようにすると共に、原状に回復できるようにした配筋検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の設計における構造計算の耐震強度偽装や手抜き工事が問題となっている。鉄筋が設計通りに配筋されているかを確認するためには、X線でコンクリート構造物を透視したり、コンクリートをブレーカでハツルことがおこなわれているが、X線透視では、床版や壁の配筋間隔の概略を確認することはできるが、鉄筋の直径を正確に確認することができない。
【0003】
柱、梁の場合はX線透視でも配筋状態を確認することは困難であり、特許文献1(特開2005−292111号公報)には、コンクリートの周囲にコイル等を設置し、交流磁界の強度と交流磁界の周波数、または、直流磁界強度を変えて鉄筋コンクリート中の鉄骨材の磁気的な応答を測定し、応答特性とコンクリート内部及びコンクリート表面に敷設した鉄骨材の量との相関から鉄筋量を測定することが開示されているが、概略的な鉄筋量が推定できるだけであり、配筋間隔や鉄筋太さを明確に確認することは不可能であった。
【0004】
特許文献2(特開平05−273134号公報)には、予めコンクリート打設領域の鉄筋近くに透明筒を配置してコンクリートを打設し、透明筒体内に内視鏡を挿入して、この内視鏡により鉄筋を観察することが開示されているが、建設当初から透明筒体を設置しておく必要があり、構造に疑念が生じた建築物に適用することができない。
【0005】
コンクリート構造物をブレーカで破壊すると衝撃によってクラックが発生するなどして構造物の強度が低下し、更に、ブレーカが作動すると騒音、振動、加えて粉塵が発生するという問題があり、居住者が使用した状態での施工は難しい状態である。
また、スラブ等のコンクリートの表層補修方法としてウォータージェットによって鉄筋上部までのコンクリートを撤去する工法が知られているが、この工法を配筋の検査確認に応用するとなると、水を大量に使いコストが非常に高く、また放出された多量の水を処理しなくてはならず、使用中の住宅用建築物に適用することは不可能であった。
【0006】
【特許文献1】特開2005−292111号公報
【特許文献2】特開平05−273134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
完成後の鉄筋コンクリート構築物の配筋を検査する方法として提案された特許文献2に開示された方法は、予め観察用の空間をコンクリート内に設ける必要があり、予め観察装置を挿入する空間が準備されていない建築物に対しては適用できない。また、特許文献1に開示された方法によっては、鉄筋の正確な直径は確認できない。
鉄筋を露出させるため、ブレーカを使用して表面コンクリートをハツって撤去し、配筋を確認する方法は、ブレーカのピックの振動・衝撃によってコンクリートにクラックが発生するなどして鉄筋コンクリート構造物の強度が低下するという問題があり、更に、ブレーカが作動すると騒音、振動、加えて粉塵が発生するという問題があり、居住者が使用した状態での施工は難しい状態である。
本発明は、コンクリート構造物に構造物としての機能を維持したまま、また、騒音や粉塵を発生させることなく鉄筋の配筋状態を目視で確認できるようにすると共に、容易に原状に回復できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鉄筋コンクリート構造物の表面にスリットを形成し、このスリットに板ジャッキを挿入して膨張させ、コンクリート表面部を剥離して鉄筋を露出させる、配筋検査方法である。
鉄筋コンクリート構造物がスラブなどの場合は、スリットを四角形に形成し、1辺に板ジャッキを設置することによってスリットで囲まれた部分を剥離させて抜き取ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、板ジャッキを用いることによって騒音・振動の発生を大幅に低下させ、構造物の強度低下を極力抑止してコンクリート表面を剥離させて鉄筋を目視できるようにしたものであり、板ジャッキによるコンクリート剥離は、鉄筋に沿って剥離される特性があり、コンクリート構造物の内部にはクラックが進行しないので、強度の低下を起こすことなく配筋状態を確認することができる。
また、クラックが内部に進行していないので、剥離部分に高強度モルタルを充填することによって、コンクリート構造物を現状に回復することも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
柱体の配筋の検査をする場合に本発明を適用した場合を例にして説明する。
図1に示すように、鉄筋コンクリート柱10にハンドカッターでコンクリート表面を切断してスリット1を2本平行に柱の2辺に形成し、更にこのスリット1に直角にスリット11を形成する。スリット1は、鉄筋2を露出させる長さを決めるものである。スリット11は、後述の板ジャッキ3を挿入して圧力を加えて表面のコンクリートを剥離するためのものであり、柱10の角から適宜の距離の位置に形成する。スリット11の角からの距離は、主筋の径や間隔を確認できるものとする。
【0011】
スリット1、11の深さは、鉄筋に達しないものとし、鉄筋に損傷を与えないようにしてあるので、切断にあまり時間を必要としない。スリット11の幅は、板ジャッキ3が挿入できればよく、一般的な板ジャッキは板厚0.9mmの深絞り鋼板を重ね合わせて周辺を溶接して袋状としたものであるので、2.5mmの溝幅があれば十分である。
また、スリット11は、表面に対して直角だけでなく、斜めに形成してもよく、こうすることによってコンクリートの剥離がより小さな力でおこなうことができる。
【0012】
このようにして形成したスリット11に、図6に示す板ジャッキ3を挿入し、2つの板ジャッキ3の注入口に水またはオイルの流体を同期させて圧入して膨張させると、角部のコンクリートが鉄筋2に沿って剥離され、柱体10の2面の配筋を確認することができる。
柱や梁部材のようにスリット11から角部の開放面までの距離が50cm程度以内であれば補助のスリットを設ける必要はないが、補助のスリットを設けるとコンクリートは剥離しやすくなる。
【0013】
コンクリートがちょうど鉄筋2の表面から剥離されるので鉄筋2が剥離面に露出し、鉄筋2の種類や配筋を目視で確認できる。高圧空気を剥離面に吹きかけて、表面に浮き上がったコンクリートを吹き飛ばして表面をきれいにすることによって鉄筋を表面に露出させ鉄筋の径や配筋間隔を実測することができ、設計図との対比や、基準に合致する配筋であるかが一目瞭然である。
【0014】
配筋の検査作業が終了したら、更に高圧空気を吹きかけて、剥離面をクリーニングし、剥離によって形成された空間に高強度モルタルを充填して、構造部材を原状に戻すことができる。必要に応じて炭素繊維やケブラー繊維の網体を補強材として剥離面に接着してから、モルタルを充填して一体化する。
【0015】
図2に示す例は、小さな力でコンクリートを剥離しようとするもので、柱10に3本のスリット1、11、12を平行に形成する。スリット1とスリット11の間隔は小さめにしておき、スリット11と12の間隔はそれよりも大きなものとする。まず、スリット1に板ジャッキ3を挿入して圧力をかけて表面のコンクリートを剥離し、次にスリット12に板ジャッキを挿入して圧力かけてコンクリートを剥離するものであり大きな力を必要とせずに配筋を確認することが可能である。
この例においても、確認終了後は、剥離によって形成された空間に高強度モルタル等を充填して、柱10を元の状態に戻す。
【0016】
スラブや壁などの配筋状態を検査する場合は、スリット1から開放面までの距離が大きくなるので、図3に示すように、スラブ15のうちの配筋を確認する部分を決め、スリット1を四角形に形成し、板ジャッキ3を1辺に挿入して膨張させ、表面コンクリートを剥離する。図4に示すように、四角形のスリット1の内部に補助スリット13を設けたり、図5に示すように、スリット1の形成方向をコンクリート表面に対して斜めに形成することによって、剥離が容易となる。
【0017】
柱体を使用した確認試験例
コンクリート断面500×500mm(W×H)、かぶり厚(c)120mm、鉄筋D32の主筋が横方向5本、縦方向に4本、合計20本配筋された柱体10を水平に設置した状態で本発明を適用して表面コンクリートの剥離を確認した。
ハンドカッターを使用し、図7に示すように、柱体10の端面から600mm(D)の位置に切断幅2.8mm、深さ10cm(d)のスリット1をコンクリート上面に形成した。幅500mmの板ジャッキをスリット1に挿入し、水を圧力媒体として板ジャッキに圧力120kg/cm2を加えたところ、柱体10のコンクリートは鉄筋2の表面から剥離され、鉄筋2が剥離面に現れた。
剥離面を高圧空気でクリーニングして鉄筋2を露出させ、鉄筋の種類の確認及び直径を測定してD32の鉄筋が1辺に5本配筋されていること、及びφ9mmの帯筋が200mm間隔で設けてあることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を柱に適用した配筋検査の概念図。
【図2】本発明を柱に適用した他の配筋検査の概念図。
【図3】スラブ・壁に本発明を適用した配筋検査の概念図。
【図4】補助スリットを形成してスラブ・壁に本発明を適用した配筋検査の概念図。
【図5】スリットを斜めに設けた場合の説明図。
【図6】板ジャッキの平面図。
【図7】試験例の斜視図。
【符号の説明】
【0019】
1 スリット
2 鉄筋
3 板ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の表面にスリットを形成し、このスリットに板ジャッキを挿入して膨張させ、コンクリート表面部を剥離して鉄筋を露出させる、配筋検査方法。
【請求項2】
請求項1において、鉄筋コンクリート構造物がスラブ、耐力壁等の平板部材であり、スリットを四角形に形成する配筋検査方法。
【請求項3】
請求項1において、鉄筋コンクリート構造物が梁、柱等の棒状体であり、スリットを棒状体の周囲に少なくとも2つ形成する配筋検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、スリットが鉄筋コンクリート構造物の表面に対して斜めである配筋検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、剥離して形成された空間に充填材を充填して元の状態に戻す配筋検査方法。
【請求項6】
請求項5において、空間に補強材を設置してから充填材を充填する配筋検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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