配管用溶接開先加工治具
【課題】狭い作業スペースでも伝熱管の交換が可能で、交換を必要としない健全な伝熱管の切断は不要な溶接開先加工治具を提供する。
【解決手段】ネジ部17を形成し先端部に係止爪18を有する芯棒11と押さえナット12を備え、係止爪18を管寄せ1の管孔3を通して内側に挿入して内面に当接し、押さえナット12を係止爪側に締め付けて、押さえナット12と係止爪18の間で管孔3の外周部分に挟持して芯棒11を固定し、加工工具28を保持した保持部材10を芯棒11に保持して、加工工具28を11芯棒を中心にして旋回することにより座ぐり部5を形成する。
【解決手段】ネジ部17を形成し先端部に係止爪18を有する芯棒11と押さえナット12を備え、係止爪18を管寄せ1の管孔3を通して内側に挿入して内面に当接し、押さえナット12を係止爪側に締め付けて、押さえナット12と係止爪18の間で管孔3の外周部分に挟持して芯棒11を固定し、加工工具28を保持した保持部材10を芯棒11に保持して、加工工具28を11芯棒を中心にして旋回することにより座ぐり部5を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複合発電(コンバインドサイクル発電)プラントに用いられる排熱回収ボイラ(以下、HRSGという)における熱交換器の伝熱管ブロックの減肉対策などに使用する可搬型の配管用溶接開先加工治具に係り、特にコンバインドサイクル発電プラントの現地において伝熱管ブロックの管寄せに多数本接続された伝熱管を取り替えるのに好適な可搬型の配管用溶接開先加工治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、HRSGの伝熱管ブロックにおける伝熱管の減肉に伴う保全工事や前もって行なう予防保全工事などにおいては、取替え対象の伝熱管を管寄せの外表面近傍でガスやグラインダーなどを用いて切断除去し、管台の溶接開先を機械加工で形成した後、その管台に新規な伝熱管を設置して、溶接を行なっている。
【0003】
図11は前記伝熱管ブロックの一例を示す斜視図、図12はその伝熱管ブロックの管寄せと伝熱管との接続部を示す一部斜視図である。
【0004】
これらの図に示すように、管寄せ1a,1bには、その管寄せ1a,1bの周方向に3本ずつ、管軸方向に32列の伝熱管2が接続されている。
【0005】
通常、HRSGの稼働中に全ての伝熱管2が減肉することはないため、減肉した伝熱管2のみを交換すればよい。この伝熱管2の交換のための作業スペースが必要になるため、例えば減肉による交換が必要な伝熱管2のために、その伝熱管2の前後左右、合計で4本の健全な伝熱管2も交換する必要があった。
【0006】
図13に、従来、特開平7−276124号公報(特許文献1)として提案された溶接開先加工治具ならびにその加工状況を示す。また、図14に、管寄せ1の外表面における伝熱管2の配置状態を示す。
【0007】
図14に示すように、伝熱管2は管寄せ1の外表面に千鳥配列されている。そして、減肉による交換が必要な伝熱管が2Xだとすると、その伝熱管2Xの周囲には、交換を必要としない健全な伝熱管2A〜2Dが存在している。
【0008】
従来の溶接開先加工治具100は図13に示すように、中心軸101の周囲に4本の支持脚102が軸対称に配置され、また、中心軸101の上部に支持腕103が設けられ、その支持腕103に加工工具104が所定の傾斜角度をもって取り付けられている。
【0009】
前記支持脚102の上端部は、前記中心軸101に取り付けられた軸着部105にピン106で取り付けられ、また支持脚102の中間部には内側に向いて突出した突出部107が設けられている。
【0010】
さらに支持脚102の下端部の外側面には段状の支持部108が設けられ、伝熱管2に予め形成されている接合穴109の内側に嵌合できるようになっており、支持部108の伝熱管2との当接面には滑り止め部材110が設置されている。前記支持部108の伝熱管2に対する位置調整は、ネジ棒111の回転によってなされる。
【0011】
前記中心軸101の下方部には円板状の拡縮部材112が螺合され、その拡縮部材112の外周部に十字状に設けられた切欠部に前記支持脚102の一部が嵌まり込んでいる。
【0012】
前記支持脚102は、コイルスプリング113によって互いに連結されている。そして前記中心軸101を回転することにより拡縮部材112ならびに支持脚102も一緒に回転する。この回転により、前記コイルスプリング113の弾性に抗して、支持脚102はピン106を中心として拡張し、前記支持部108を伝熱管2の接合穴109に適合させる。なお、中心軸101の回転は、回転用レバー114によってなされる。
【0013】
前記支持腕103は、中心軸101の上部にスリーブ115を介して回転自在に装着されている。支持腕103には工具支持部材116が形成されており、この工具支持部材116に設けられている長溝状の支持調整部材117に、突出量調整部材118が取り付けられ、この突出量調整部材118に前記加工工具104が支持されている。
【0014】
前記支持調整部材117ならびに突出量調整部材118により伝熱管2に対する加工工具104の突出量ならびに傾斜角度を調整して、加工工具104の先端部に取り付けたカッター部材119をできるだけ伝熱管2の接合穴109に接近して、所定の深さに開先加工できるようになっている。
【0015】
なお、溶接開先加工装置に関しては、例えば下記特許文献1、2などを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−276124号公報
【特許文献2】実開平4−51331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図13に示した従来の溶接開先加工治具100は前述のような構造になっており、伝熱管2上での溶接開先加工治具100の垂直状態および管孔位置を設定する必要がある。そのために、中心軸101の外周に4本の支持脚102を配置し、各支持脚102の下端部に設けた支持部108が伝熱管2の接合穴109に当接するために水平方向に保持された円板状の拡縮部材112や、拡縮部材112を元の位置に復帰するために4本のコイルスプリング113などが設けられている。
【0018】
そしてこれら各種部材の外側に、加工工具104ならびにそれを支持して位置や傾斜角度を調整するための支持腕103、工具支持部材116、突出量調整部材118が設置されている。
【0019】
従来の溶接開先加工治具100は、このように中心軸101の外側に各種部材を備えており、外周方向に出っ張った構造になっている。そのため図14に示すように、減肉した伝熱管2Xを交換する際には、その周囲の伝熱管2A〜2Dが溶接開先加工治具100と干渉するため、これら交換を必要としない健全な伝熱管2A〜2Dも交換する必要がある。
【0020】
また従来の溶接開先加工治具100は、部品数が多く、構造ならびに操作が複雑であり、必然的に重量も重くなる。
【0021】
従来の溶接開先加工治具は前述のような構成になっており、
(a)伝熱管の交換のために広い作業スペースが必要である。
(b)余分な伝熱管の切断ならびにそれらの復旧作業が必要である。
(c)熟練作業者による工具の製作や成形作業が必要である。
(d)機械加工装置の設置に労力が必要である。
【0022】
などの課題があり、開先部の加工において多大な人手と時間がかかって、作業能率が悪いという欠点がある。
【0023】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、狭い作業スペースでも伝熱管の交換が可能で、しかも交換を必要としない健全な伝熱管の切断は不要で、短時間で伝熱管の交換が可能な、コンパクトで持ち運びが容易な配管用溶接開先加工治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、外周部にネジ部を形成し、先端部に管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入されて管寄せの内面に当接する係止爪を有する芯棒と、
前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する例えばグラインダーなどの加工工具と、
その加工工具を保持する工具保持部材と、
前記芯棒のネジ部に螺着される押さえナットを備え、
前記芯棒の係止爪を前記管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入して管寄せの内面に当接し、押さえナットを係止爪側に締め付けて、当該押さえナットと係止爪の間で管寄せの管孔の外周部分に挟持することにより、前記芯棒を管寄せの管孔を基点として管寄せ上に垂直に位置決め固定し、
前記加工工具を保持した工具保持部材を前記芯棒の頭部に旋回可能に保持して、加工工具を回転駆動しながら芯棒を中心にして旋回することにより、前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する構成になっていることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、
前記工具保持部材が前記芯棒のネジ部に沿って1回転することにより、前記加工工具が前記管寄せの管孔側に向けてネジ部の1ピッチ分押し下げられる構成になっていることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の第3の手段は前記第1の手段において、
前記芯棒の係止爪の平面形状がほぼ長方形あるいは楕円形をしており、その係止爪の長手方向を示すマークが前記芯棒の頭部に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は前述のような構成になっており、狭い作業スペースでも伝熱管の交換が可能で、しかも交換を必要としない健全な伝熱管の切断は不要で、短時間で伝熱管の交換が可能な、コンパクトで持ち運びが容易な配管用溶接開先加工治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る配管用溶接開先加工治具の正面図である。
【図2】その溶接開先加工治具に用いる芯棒の正面図である。
【図3】その芯棒の下面図である。
【図4】図2A−A線上の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る溶接開先加工治具に用いる押さえナットの上面図である。
【図6】その押さえナットの一部を断面にした正面図である。
【図7】各部材を配置した芯体部材の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態に係る溶接開先加工治具に用いる工具保持部材の正面図である。
【図9】その工具保持部材の上面図である。
【図10】(a)〜(f)本発明の実施形態に係る加工工具による開先加工の手順を説明するための説明図である。
【図11】伝熱管ブロックの一例を示す斜視図である。
【図12】その伝熱管ブロックの管寄せと伝熱管との接続部を示す一部斜視図である。
【図13】従来提案された溶接開先加工治具ならびにその加工状況を示す図である。
【図14】管寄せの外表面における伝熱管の配置状態を示す図である。
【図15】(a),(b)管寄せと伝熱管の接続部を説明するための一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
前述のように図12は、伝熱管ブロック(図11参照)の管寄せ1と伝熱管2との接続部を示す一部斜視図である。この管寄せ1の管台とは、管寄本体に伝熱管2を接続するために設けた部位であり、図15に示すように溶接開先を形成している。同図(a),(b)に示すように、伝熱管2の内径に合わせた管孔3、伝熱管2の端部を位置決めするための植え込み部4ならびに座ぐり部5を有しており、伝熱管2の外周と座ぐり部5の内周との間を隅肉溶接することで、伝熱管2と管寄せ1が接続される。同図(b)の符号6は、隅肉溶接部を示している。
【0030】
管寄せ1に管孔3を中心とした所定の大きさの座ぐり部5を形成するために、本発明の実施形態に係る配管用溶接開先加工治具7が使用される。
次にこの配管用溶接開先加工治具7の構成ならびに各部の機能などについて説明する。図1は本発明の実施形態に係る配管用溶接開先加工治具の正面図、図2はその配管用溶接開先加工治具に用いられる芯棒の正面図、図3は芯棒の下面図、図4は図2A−A線上の断面図である。
【0031】
図1に示すように配管用溶接開先加工治具7は、芯体部材8と,加工工具9ならびに工具保持部材10とから主に構成されている。
【0032】
前記芯体部材8は、芯棒11と、押さえナット12と、スプリング下部受け筒体13と、コイルスプリング14と、スプリング上部受け筒体15と、上側筒体16から構成されている。
【0033】
前記芯棒11は図2に示すように、その下端部を除いて外ネジ部17が形成され、芯棒11の下端部には前記外ネジ部17の直径より若干長い略長方形をした係止爪18(図3参照)と、その係止爪18と前記外ネジ部17の下端との間に設けられた連結部19が設けられている。
【0034】
前記係止爪18の下面には中央部が先細り状になるように両側に傾斜面20(図2参照)が形成されており、さらに前記連結部19の途中の周面には切欠部21(図2,図4参照)が設けられている。この切欠部21は、係止爪18の一方の端部側に設けられている。
【0035】
前記押さえナット12は図5ならびに図6に示すように、前記芯棒11の外ネジ部17と螺合する内ネジ部22を有するナット部23と、そのナット部23の下端に設けられた押さえリング24とから構成されている。
【0036】
前記スプリング下部受け筒体13とコイルスプリング14は前記芯棒11に遊嵌されて、芯棒11の軸方向に沿って移動自在になっている。前記スプリング上部受け筒体15と前記上側筒体16は芯棒11の外ネジ部17に螺着され、両者は外ネジ部17に沿って回転することにより芯棒11の軸方向に沿って上下動する。
【0037】
図7は芯棒11に押さえナット12、スプリング下部受け筒体13、コイルスプリング14、スプリング上部受け筒体15、上側筒体16の順で配置した芯体部材8の斜視図である。同図に示すように芯棒11の上面には、係止爪18の向き(長手方向)を示すマーク25が施されている。
【0038】
なお、実際にはスプリング上部受け筒体15と上側筒体16の間に工具保持部材10が挿入されるが、工具保持部材10を描くとコイルスプリング14やスプリング上部受け筒体15の様子が分かり難くなるため、工具保持部材10を省略した状態で図示している。
【0039】
図8ならびに図9は、工具保持部材10の正面図ならびに上面図である。
工具保持部材10の上面から下面にかけて前記芯棒11が挿通する貫通穴26が垂直方向に形成され、この貫通穴26の近くに加工工具9を取り付けるための工具取付穴27が形成されている。この工具取付穴27は、貫通穴26に対して若干の傾斜角度をもって工具保持部材10を貫通している。
【0040】
図1に示すように、前記加工工具9の下端部には、加工工具であるほぼ球状をしたグラインダー28が交換可能に取り付けられて、グラインダー28は押さえナット12の近くに配置されている。
【0041】
図10(a)〜(f)は、前記加工工具9による開先加工の手順を説明するための説明図である。
【0042】
(ステップ1)(図10(a)参照)
HRSGの運転に伴う磨耗などにより、特定の伝熱管2が減肉し、この伝熱管2を交換する場合、伝熱管2を管寄せ1の外表面から数センチメートルの高さでガスまたはグラインダーにより切断し、伝熱管2を管寄せ1から除去する。
【0043】
次に管寄せ1の外表面までグラインダーなどで削る。このとき伝熱管2の端部の一部は、溶接部が残っているため離脱せず管台内に残る。
【0044】
これを除去する前に、座ぐり位置を設定するため、罫書き用治具を管孔3に差し込み、罫書き用治具(図示せず)を回転させて、座ぐり位置を設定するための罫線を書き入れる。
【0045】
次に小型のグラインダーを開先の円周方向に回転させながら、開先加工前の座ぐり部30が形成される。その開先加工前の座ぐり部30の底部を、開先の底部寸法に合わせて平行に研磨して、伝熱管2の外径とほぼ等しい内径を有する植え込み部4を形成する。
【0046】
次に残留している伝熱管の端部を除去して、グラインダーなどで開先内を仕上げる。この状態が図10(a)に示されており、図中の点線は開先加工によって形成される座ぐり部5の位置を示している。
【0047】
(ステップ2)(図10(b)〜(e)参照)
次に、芯体部材8を管寄せ1に固定する。
この際、図10(b)〜(d)に示すように管寄せ1に対して芯体部材8を斜めにして、係止爪18側から開先加工前の座ぐり部30、植え込み部4、管孔3へと挿通していくわけであるが、最終的には図10(d)に示すように係止爪18の上面を管寄せ1の内面に密着させるために、係止爪18の長手方向Xを管寄せ1の軸方向Yに合わす必要がある。
【0048】
ところが芯体部材8を管寄せ1内に挿入するときには、芯体部材8の下部にある前記係止爪18の長手方向Xがどの方向を向いているのか分かり難い。そのため図7に示すように、芯体部材8の頭部に係止爪18の長手方向Xを示すマーク25が施されている。作業者はこのマーク25を管寄せ1の軸方向Yに合わせて芯体部材8を管寄せ1内に挿入すれば、係止爪18の長手方向Xが管寄せ1の軸方向Yに自動的に合うようになっている。
【0049】
さらに、芯体部材8の挿入をスムーズにするため、係止爪18の下面両側には逃げ用の傾斜面20が形成され、連結部19の周面には逃げ用の切欠部21が設けられている。
【0050】
図10(b)、(c)に示すように芯体部材8の傾斜角度を調整しながら、芯体部材8の係止爪18を植え込み部4から管孔3を通して管寄せ1の内側に挿入する。挿入が終わると芯体部材8を垂直に立てて、係止爪18を管寄せ1の内面に当接する。
【0051】
この状態が図10(d)に示めされている。この図に示すように、係止爪18の長手方向Xの長さは、管寄せ1の管孔3の内径より長く、かつ、芯体部材8を斜めにして係止爪18が管孔3を通り得る長さに設計されている。
【0052】
芯体部材8の挿入時に押さえナット12が係止爪18の近くまで下がっていると、押さえナット12が開先加工前の座ぐり部30の開口端などに当って、芯体部材8の挿入に支障をきたす。そのため、芯体部材8の挿入時には押さえナット12は外ネジ部17の比較的上側部分に位置しており、芯体部材8の挿入に障害にならないようになっている。
【0053】
図10(d)に示めされているように芯体部材8の挿入が終わって垂直に立てられると、図10(e)に示すように押さえナット12を回転しながら下げて、押さえナット12の押さえリング24を植え込み部4の底面に密着するように押さえナット12を締め付ける。
【0054】
この押さえナット12の締め付けにより、芯体部材8の係止爪18と押さえナット12の押さえリング24の間で管寄せ1の管孔3の外周部を機械的に挟持することにより、芯体部材8を前記管孔3を基点(中心)として管寄せ1上に垂直にしっかりと位置決め固定して、芯体部材8の立設状態が確実に維持される。
【0055】
(ステップ3)(図10(f)参照)
このようにして芯体部材8を管寄せ1の管孔3上に固定した後、図1に示すようにグラインダー28を下側にして加工工具9を工具保持部材10に取り付ける。次に、加工工具9にグラインダー28を回転駆動するための駆動源(本実施形態ではコンプレッサー)を接続する。
【0056】
そしてグラインダー28を高速で回転駆動すると、グラインダー28によって前記開先加工前の座ぐり部30が徐々に切削される。グラインダー28を回転駆動しながら、スプリング上部受け筒体15と工具保持部材10と上側筒体16を一緒に外ネジ部17に沿って時計回り方向に回転することにより、工具保持部材10を介して加工工具9(グラインダー28)が押し下げられて、座ぐり部30の切削が下方へ進行する。
【0057】
外ネジ部17のピッチは、座ぐり部30の切削に合った押し下げ量となっている。また、工具保持部材10の押し下げに伴って、コイルスプリング14は徐々に圧縮され、最終的には図10(f)に示すように植え込み部4の上に隅肉溶接に適合した座ぐり部5が形成される。
【0058】
このようにして座ぐり部5が形成されると開先加工の作業が終了したことになるから、前記駆動源を加工工具9から外し、加工工具9を工具保持部材10から取り外す。
【0059】
次にスプリング上部受け筒体15と工具保持部材10と上側筒体16を一緒に外ネジ部17に沿って反時計回り方向に回転することにより、三者は元の位置に復帰し、それに伴いコイルスプリング14の圧縮状態が緩和される。
【0060】
前述の駆動源の取り外しから工具保持部材10らの元の位置への戻しまでの作業中、係止爪18と押さえリング24によって芯棒11の立設状態は維持されているから、前述の諸作業をスムーズに行なうことができる。
【0061】
しかる後、押さえナット12の締め付けを緩めて、押さえナット12を上側に移動し、芯棒11を傾けて管寄せ1から取り出す。その後は図15(b)に示すように、新品の伝熱管2の端部を管寄せ1の植え込み部4に嵌合して、伝熱管2の外周と座ぐり部5の内周との間を隅肉溶接することで、新品の伝熱管2を管寄せ1に接続・固定することができる。
【0062】
本実施形態に係る配管用溶接開先加工治具7は図13に示す従来の溶接開先加工治具100に較べるとスリムであるから、図14に示すように例えば伝熱管2Xの取替えを行う際に、その周囲の交換を必要としない健全な伝熱管2A〜2Dはそのままの状態で伝熱管2Xの取替えができる。そのために、取替え作業の簡略化ならびに時間の短縮が図れる。
【0063】
前記実施形態では平面形状が略長方形をした係止爪18を示したが、係止爪18の平面形状は楕円形であっても構わない。
【符号の説明】
【0064】
1:管寄せ、
2:伝熱管、
3:管孔、
4:植え込み部、
5:座ぐり部、
6:隅肉溶接部、
7:配管用溶接開先加工治具、
8:芯体部材、
9:加工工具、
10:工具保持部材、
11:芯棒、
12:押さえナット、
13:スプリング下部受け筒体、
14:コイルスプリング、
15:スプリング上部受け筒体、
16:上側筒体、
17:ネジ部、
18:係止爪、
19:連結部、
20:傾斜面、
21:切欠部、
22:ネジ部、
23:ナット部、
24:押さえリング、
25:マーク、
26:貫通穴、
27:工具取付穴、
28:グラインダー、
30:開先加工前の座ぐり部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば複合発電(コンバインドサイクル発電)プラントに用いられる排熱回収ボイラ(以下、HRSGという)における熱交換器の伝熱管ブロックの減肉対策などに使用する可搬型の配管用溶接開先加工治具に係り、特にコンバインドサイクル発電プラントの現地において伝熱管ブロックの管寄せに多数本接続された伝熱管を取り替えるのに好適な可搬型の配管用溶接開先加工治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、HRSGの伝熱管ブロックにおける伝熱管の減肉に伴う保全工事や前もって行なう予防保全工事などにおいては、取替え対象の伝熱管を管寄せの外表面近傍でガスやグラインダーなどを用いて切断除去し、管台の溶接開先を機械加工で形成した後、その管台に新規な伝熱管を設置して、溶接を行なっている。
【0003】
図11は前記伝熱管ブロックの一例を示す斜視図、図12はその伝熱管ブロックの管寄せと伝熱管との接続部を示す一部斜視図である。
【0004】
これらの図に示すように、管寄せ1a,1bには、その管寄せ1a,1bの周方向に3本ずつ、管軸方向に32列の伝熱管2が接続されている。
【0005】
通常、HRSGの稼働中に全ての伝熱管2が減肉することはないため、減肉した伝熱管2のみを交換すればよい。この伝熱管2の交換のための作業スペースが必要になるため、例えば減肉による交換が必要な伝熱管2のために、その伝熱管2の前後左右、合計で4本の健全な伝熱管2も交換する必要があった。
【0006】
図13に、従来、特開平7−276124号公報(特許文献1)として提案された溶接開先加工治具ならびにその加工状況を示す。また、図14に、管寄せ1の外表面における伝熱管2の配置状態を示す。
【0007】
図14に示すように、伝熱管2は管寄せ1の外表面に千鳥配列されている。そして、減肉による交換が必要な伝熱管が2Xだとすると、その伝熱管2Xの周囲には、交換を必要としない健全な伝熱管2A〜2Dが存在している。
【0008】
従来の溶接開先加工治具100は図13に示すように、中心軸101の周囲に4本の支持脚102が軸対称に配置され、また、中心軸101の上部に支持腕103が設けられ、その支持腕103に加工工具104が所定の傾斜角度をもって取り付けられている。
【0009】
前記支持脚102の上端部は、前記中心軸101に取り付けられた軸着部105にピン106で取り付けられ、また支持脚102の中間部には内側に向いて突出した突出部107が設けられている。
【0010】
さらに支持脚102の下端部の外側面には段状の支持部108が設けられ、伝熱管2に予め形成されている接合穴109の内側に嵌合できるようになっており、支持部108の伝熱管2との当接面には滑り止め部材110が設置されている。前記支持部108の伝熱管2に対する位置調整は、ネジ棒111の回転によってなされる。
【0011】
前記中心軸101の下方部には円板状の拡縮部材112が螺合され、その拡縮部材112の外周部に十字状に設けられた切欠部に前記支持脚102の一部が嵌まり込んでいる。
【0012】
前記支持脚102は、コイルスプリング113によって互いに連結されている。そして前記中心軸101を回転することにより拡縮部材112ならびに支持脚102も一緒に回転する。この回転により、前記コイルスプリング113の弾性に抗して、支持脚102はピン106を中心として拡張し、前記支持部108を伝熱管2の接合穴109に適合させる。なお、中心軸101の回転は、回転用レバー114によってなされる。
【0013】
前記支持腕103は、中心軸101の上部にスリーブ115を介して回転自在に装着されている。支持腕103には工具支持部材116が形成されており、この工具支持部材116に設けられている長溝状の支持調整部材117に、突出量調整部材118が取り付けられ、この突出量調整部材118に前記加工工具104が支持されている。
【0014】
前記支持調整部材117ならびに突出量調整部材118により伝熱管2に対する加工工具104の突出量ならびに傾斜角度を調整して、加工工具104の先端部に取り付けたカッター部材119をできるだけ伝熱管2の接合穴109に接近して、所定の深さに開先加工できるようになっている。
【0015】
なお、溶接開先加工装置に関しては、例えば下記特許文献1、2などを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−276124号公報
【特許文献2】実開平4−51331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図13に示した従来の溶接開先加工治具100は前述のような構造になっており、伝熱管2上での溶接開先加工治具100の垂直状態および管孔位置を設定する必要がある。そのために、中心軸101の外周に4本の支持脚102を配置し、各支持脚102の下端部に設けた支持部108が伝熱管2の接合穴109に当接するために水平方向に保持された円板状の拡縮部材112や、拡縮部材112を元の位置に復帰するために4本のコイルスプリング113などが設けられている。
【0018】
そしてこれら各種部材の外側に、加工工具104ならびにそれを支持して位置や傾斜角度を調整するための支持腕103、工具支持部材116、突出量調整部材118が設置されている。
【0019】
従来の溶接開先加工治具100は、このように中心軸101の外側に各種部材を備えており、外周方向に出っ張った構造になっている。そのため図14に示すように、減肉した伝熱管2Xを交換する際には、その周囲の伝熱管2A〜2Dが溶接開先加工治具100と干渉するため、これら交換を必要としない健全な伝熱管2A〜2Dも交換する必要がある。
【0020】
また従来の溶接開先加工治具100は、部品数が多く、構造ならびに操作が複雑であり、必然的に重量も重くなる。
【0021】
従来の溶接開先加工治具は前述のような構成になっており、
(a)伝熱管の交換のために広い作業スペースが必要である。
(b)余分な伝熱管の切断ならびにそれらの復旧作業が必要である。
(c)熟練作業者による工具の製作や成形作業が必要である。
(d)機械加工装置の設置に労力が必要である。
【0022】
などの課題があり、開先部の加工において多大な人手と時間がかかって、作業能率が悪いという欠点がある。
【0023】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、狭い作業スペースでも伝熱管の交換が可能で、しかも交換を必要としない健全な伝熱管の切断は不要で、短時間で伝熱管の交換が可能な、コンパクトで持ち運びが容易な配管用溶接開先加工治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、外周部にネジ部を形成し、先端部に管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入されて管寄せの内面に当接する係止爪を有する芯棒と、
前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する例えばグラインダーなどの加工工具と、
その加工工具を保持する工具保持部材と、
前記芯棒のネジ部に螺着される押さえナットを備え、
前記芯棒の係止爪を前記管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入して管寄せの内面に当接し、押さえナットを係止爪側に締め付けて、当該押さえナットと係止爪の間で管寄せの管孔の外周部分に挟持することにより、前記芯棒を管寄せの管孔を基点として管寄せ上に垂直に位置決め固定し、
前記加工工具を保持した工具保持部材を前記芯棒の頭部に旋回可能に保持して、加工工具を回転駆動しながら芯棒を中心にして旋回することにより、前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する構成になっていることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、
前記工具保持部材が前記芯棒のネジ部に沿って1回転することにより、前記加工工具が前記管寄せの管孔側に向けてネジ部の1ピッチ分押し下げられる構成になっていることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の第3の手段は前記第1の手段において、
前記芯棒の係止爪の平面形状がほぼ長方形あるいは楕円形をしており、その係止爪の長手方向を示すマークが前記芯棒の頭部に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は前述のような構成になっており、狭い作業スペースでも伝熱管の交換が可能で、しかも交換を必要としない健全な伝熱管の切断は不要で、短時間で伝熱管の交換が可能な、コンパクトで持ち運びが容易な配管用溶接開先加工治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る配管用溶接開先加工治具の正面図である。
【図2】その溶接開先加工治具に用いる芯棒の正面図である。
【図3】その芯棒の下面図である。
【図4】図2A−A線上の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る溶接開先加工治具に用いる押さえナットの上面図である。
【図6】その押さえナットの一部を断面にした正面図である。
【図7】各部材を配置した芯体部材の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態に係る溶接開先加工治具に用いる工具保持部材の正面図である。
【図9】その工具保持部材の上面図である。
【図10】(a)〜(f)本発明の実施形態に係る加工工具による開先加工の手順を説明するための説明図である。
【図11】伝熱管ブロックの一例を示す斜視図である。
【図12】その伝熱管ブロックの管寄せと伝熱管との接続部を示す一部斜視図である。
【図13】従来提案された溶接開先加工治具ならびにその加工状況を示す図である。
【図14】管寄せの外表面における伝熱管の配置状態を示す図である。
【図15】(a),(b)管寄せと伝熱管の接続部を説明するための一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
前述のように図12は、伝熱管ブロック(図11参照)の管寄せ1と伝熱管2との接続部を示す一部斜視図である。この管寄せ1の管台とは、管寄本体に伝熱管2を接続するために設けた部位であり、図15に示すように溶接開先を形成している。同図(a),(b)に示すように、伝熱管2の内径に合わせた管孔3、伝熱管2の端部を位置決めするための植え込み部4ならびに座ぐり部5を有しており、伝熱管2の外周と座ぐり部5の内周との間を隅肉溶接することで、伝熱管2と管寄せ1が接続される。同図(b)の符号6は、隅肉溶接部を示している。
【0030】
管寄せ1に管孔3を中心とした所定の大きさの座ぐり部5を形成するために、本発明の実施形態に係る配管用溶接開先加工治具7が使用される。
次にこの配管用溶接開先加工治具7の構成ならびに各部の機能などについて説明する。図1は本発明の実施形態に係る配管用溶接開先加工治具の正面図、図2はその配管用溶接開先加工治具に用いられる芯棒の正面図、図3は芯棒の下面図、図4は図2A−A線上の断面図である。
【0031】
図1に示すように配管用溶接開先加工治具7は、芯体部材8と,加工工具9ならびに工具保持部材10とから主に構成されている。
【0032】
前記芯体部材8は、芯棒11と、押さえナット12と、スプリング下部受け筒体13と、コイルスプリング14と、スプリング上部受け筒体15と、上側筒体16から構成されている。
【0033】
前記芯棒11は図2に示すように、その下端部を除いて外ネジ部17が形成され、芯棒11の下端部には前記外ネジ部17の直径より若干長い略長方形をした係止爪18(図3参照)と、その係止爪18と前記外ネジ部17の下端との間に設けられた連結部19が設けられている。
【0034】
前記係止爪18の下面には中央部が先細り状になるように両側に傾斜面20(図2参照)が形成されており、さらに前記連結部19の途中の周面には切欠部21(図2,図4参照)が設けられている。この切欠部21は、係止爪18の一方の端部側に設けられている。
【0035】
前記押さえナット12は図5ならびに図6に示すように、前記芯棒11の外ネジ部17と螺合する内ネジ部22を有するナット部23と、そのナット部23の下端に設けられた押さえリング24とから構成されている。
【0036】
前記スプリング下部受け筒体13とコイルスプリング14は前記芯棒11に遊嵌されて、芯棒11の軸方向に沿って移動自在になっている。前記スプリング上部受け筒体15と前記上側筒体16は芯棒11の外ネジ部17に螺着され、両者は外ネジ部17に沿って回転することにより芯棒11の軸方向に沿って上下動する。
【0037】
図7は芯棒11に押さえナット12、スプリング下部受け筒体13、コイルスプリング14、スプリング上部受け筒体15、上側筒体16の順で配置した芯体部材8の斜視図である。同図に示すように芯棒11の上面には、係止爪18の向き(長手方向)を示すマーク25が施されている。
【0038】
なお、実際にはスプリング上部受け筒体15と上側筒体16の間に工具保持部材10が挿入されるが、工具保持部材10を描くとコイルスプリング14やスプリング上部受け筒体15の様子が分かり難くなるため、工具保持部材10を省略した状態で図示している。
【0039】
図8ならびに図9は、工具保持部材10の正面図ならびに上面図である。
工具保持部材10の上面から下面にかけて前記芯棒11が挿通する貫通穴26が垂直方向に形成され、この貫通穴26の近くに加工工具9を取り付けるための工具取付穴27が形成されている。この工具取付穴27は、貫通穴26に対して若干の傾斜角度をもって工具保持部材10を貫通している。
【0040】
図1に示すように、前記加工工具9の下端部には、加工工具であるほぼ球状をしたグラインダー28が交換可能に取り付けられて、グラインダー28は押さえナット12の近くに配置されている。
【0041】
図10(a)〜(f)は、前記加工工具9による開先加工の手順を説明するための説明図である。
【0042】
(ステップ1)(図10(a)参照)
HRSGの運転に伴う磨耗などにより、特定の伝熱管2が減肉し、この伝熱管2を交換する場合、伝熱管2を管寄せ1の外表面から数センチメートルの高さでガスまたはグラインダーにより切断し、伝熱管2を管寄せ1から除去する。
【0043】
次に管寄せ1の外表面までグラインダーなどで削る。このとき伝熱管2の端部の一部は、溶接部が残っているため離脱せず管台内に残る。
【0044】
これを除去する前に、座ぐり位置を設定するため、罫書き用治具を管孔3に差し込み、罫書き用治具(図示せず)を回転させて、座ぐり位置を設定するための罫線を書き入れる。
【0045】
次に小型のグラインダーを開先の円周方向に回転させながら、開先加工前の座ぐり部30が形成される。その開先加工前の座ぐり部30の底部を、開先の底部寸法に合わせて平行に研磨して、伝熱管2の外径とほぼ等しい内径を有する植え込み部4を形成する。
【0046】
次に残留している伝熱管の端部を除去して、グラインダーなどで開先内を仕上げる。この状態が図10(a)に示されており、図中の点線は開先加工によって形成される座ぐり部5の位置を示している。
【0047】
(ステップ2)(図10(b)〜(e)参照)
次に、芯体部材8を管寄せ1に固定する。
この際、図10(b)〜(d)に示すように管寄せ1に対して芯体部材8を斜めにして、係止爪18側から開先加工前の座ぐり部30、植え込み部4、管孔3へと挿通していくわけであるが、最終的には図10(d)に示すように係止爪18の上面を管寄せ1の内面に密着させるために、係止爪18の長手方向Xを管寄せ1の軸方向Yに合わす必要がある。
【0048】
ところが芯体部材8を管寄せ1内に挿入するときには、芯体部材8の下部にある前記係止爪18の長手方向Xがどの方向を向いているのか分かり難い。そのため図7に示すように、芯体部材8の頭部に係止爪18の長手方向Xを示すマーク25が施されている。作業者はこのマーク25を管寄せ1の軸方向Yに合わせて芯体部材8を管寄せ1内に挿入すれば、係止爪18の長手方向Xが管寄せ1の軸方向Yに自動的に合うようになっている。
【0049】
さらに、芯体部材8の挿入をスムーズにするため、係止爪18の下面両側には逃げ用の傾斜面20が形成され、連結部19の周面には逃げ用の切欠部21が設けられている。
【0050】
図10(b)、(c)に示すように芯体部材8の傾斜角度を調整しながら、芯体部材8の係止爪18を植え込み部4から管孔3を通して管寄せ1の内側に挿入する。挿入が終わると芯体部材8を垂直に立てて、係止爪18を管寄せ1の内面に当接する。
【0051】
この状態が図10(d)に示めされている。この図に示すように、係止爪18の長手方向Xの長さは、管寄せ1の管孔3の内径より長く、かつ、芯体部材8を斜めにして係止爪18が管孔3を通り得る長さに設計されている。
【0052】
芯体部材8の挿入時に押さえナット12が係止爪18の近くまで下がっていると、押さえナット12が開先加工前の座ぐり部30の開口端などに当って、芯体部材8の挿入に支障をきたす。そのため、芯体部材8の挿入時には押さえナット12は外ネジ部17の比較的上側部分に位置しており、芯体部材8の挿入に障害にならないようになっている。
【0053】
図10(d)に示めされているように芯体部材8の挿入が終わって垂直に立てられると、図10(e)に示すように押さえナット12を回転しながら下げて、押さえナット12の押さえリング24を植え込み部4の底面に密着するように押さえナット12を締め付ける。
【0054】
この押さえナット12の締め付けにより、芯体部材8の係止爪18と押さえナット12の押さえリング24の間で管寄せ1の管孔3の外周部を機械的に挟持することにより、芯体部材8を前記管孔3を基点(中心)として管寄せ1上に垂直にしっかりと位置決め固定して、芯体部材8の立設状態が確実に維持される。
【0055】
(ステップ3)(図10(f)参照)
このようにして芯体部材8を管寄せ1の管孔3上に固定した後、図1に示すようにグラインダー28を下側にして加工工具9を工具保持部材10に取り付ける。次に、加工工具9にグラインダー28を回転駆動するための駆動源(本実施形態ではコンプレッサー)を接続する。
【0056】
そしてグラインダー28を高速で回転駆動すると、グラインダー28によって前記開先加工前の座ぐり部30が徐々に切削される。グラインダー28を回転駆動しながら、スプリング上部受け筒体15と工具保持部材10と上側筒体16を一緒に外ネジ部17に沿って時計回り方向に回転することにより、工具保持部材10を介して加工工具9(グラインダー28)が押し下げられて、座ぐり部30の切削が下方へ進行する。
【0057】
外ネジ部17のピッチは、座ぐり部30の切削に合った押し下げ量となっている。また、工具保持部材10の押し下げに伴って、コイルスプリング14は徐々に圧縮され、最終的には図10(f)に示すように植え込み部4の上に隅肉溶接に適合した座ぐり部5が形成される。
【0058】
このようにして座ぐり部5が形成されると開先加工の作業が終了したことになるから、前記駆動源を加工工具9から外し、加工工具9を工具保持部材10から取り外す。
【0059】
次にスプリング上部受け筒体15と工具保持部材10と上側筒体16を一緒に外ネジ部17に沿って反時計回り方向に回転することにより、三者は元の位置に復帰し、それに伴いコイルスプリング14の圧縮状態が緩和される。
【0060】
前述の駆動源の取り外しから工具保持部材10らの元の位置への戻しまでの作業中、係止爪18と押さえリング24によって芯棒11の立設状態は維持されているから、前述の諸作業をスムーズに行なうことができる。
【0061】
しかる後、押さえナット12の締め付けを緩めて、押さえナット12を上側に移動し、芯棒11を傾けて管寄せ1から取り出す。その後は図15(b)に示すように、新品の伝熱管2の端部を管寄せ1の植え込み部4に嵌合して、伝熱管2の外周と座ぐり部5の内周との間を隅肉溶接することで、新品の伝熱管2を管寄せ1に接続・固定することができる。
【0062】
本実施形態に係る配管用溶接開先加工治具7は図13に示す従来の溶接開先加工治具100に較べるとスリムであるから、図14に示すように例えば伝熱管2Xの取替えを行う際に、その周囲の交換を必要としない健全な伝熱管2A〜2Dはそのままの状態で伝熱管2Xの取替えができる。そのために、取替え作業の簡略化ならびに時間の短縮が図れる。
【0063】
前記実施形態では平面形状が略長方形をした係止爪18を示したが、係止爪18の平面形状は楕円形であっても構わない。
【符号の説明】
【0064】
1:管寄せ、
2:伝熱管、
3:管孔、
4:植え込み部、
5:座ぐり部、
6:隅肉溶接部、
7:配管用溶接開先加工治具、
8:芯体部材、
9:加工工具、
10:工具保持部材、
11:芯棒、
12:押さえナット、
13:スプリング下部受け筒体、
14:コイルスプリング、
15:スプリング上部受け筒体、
16:上側筒体、
17:ネジ部、
18:係止爪、
19:連結部、
20:傾斜面、
21:切欠部、
22:ネジ部、
23:ナット部、
24:押さえリング、
25:マーク、
26:貫通穴、
27:工具取付穴、
28:グラインダー、
30:開先加工前の座ぐり部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部にネジ部を形成し、先端部に管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入されて管寄せの内面に当接する係止爪を有する芯棒と、
前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する加工工具と、
その加工工具を保持する工具保持部材と、
前記芯棒のネジ部に螺着される押さえナットを備え、
前記芯棒の係止爪を前記管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入して管寄せの内面に当接し、押さえナットを係止爪側に締め付けて、当該押さえナットと係止爪の間で管寄せの管孔の外周部分に挟持することにより、前記芯棒を管寄せの管孔を基点として管寄せ上に垂直に位置決め固定し、
前記加工工具を保持した工具保持部材を前記芯棒の頭部に旋回可能に保持して、加工工具を回転駆動しながら芯棒を中心にして旋回することにより、前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する構成になっていることを特徴とする配管用溶接開先加工治具。
【請求項2】
請求項1に記載の配管用溶接開先加工治具において、
前記工具保持部材が前記芯棒のネジ部に沿って1回転することにより、前記加工工具が前記管寄せの管孔側に向けてネジ部の1ピッチ分押し下げられる構成になっていることを特徴とする配管用溶接開先加工治具。
【請求項3】
請求項1に記載の配管用溶接開先加工治具において、
前記芯棒の係止爪の平面形状がほぼ長方形あるいは楕円形をしており、その係止爪の長手方向を示すマークが前記芯棒の頭部に設けられていることを特徴とする配管用溶接開先加工治具。
【請求項1】
外周部にネジ部を形成し、先端部に管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入されて管寄せの内面に当接する係止爪を有する芯棒と、
前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する加工工具と、
その加工工具を保持する工具保持部材と、
前記芯棒のネジ部に螺着される押さえナットを備え、
前記芯棒の係止爪を前記管寄せの外側から管孔を通して管寄せの内側に挿入して管寄せの内面に当接し、押さえナットを係止爪側に締め付けて、当該押さえナットと係止爪の間で管寄せの管孔の外周部分に挟持することにより、前記芯棒を管寄せの管孔を基点として管寄せ上に垂直に位置決め固定し、
前記加工工具を保持した工具保持部材を前記芯棒の頭部に旋回可能に保持して、加工工具を回転駆動しながら芯棒を中心にして旋回することにより、前記管寄せの管孔の外側部分に座ぐり部を形成する構成になっていることを特徴とする配管用溶接開先加工治具。
【請求項2】
請求項1に記載の配管用溶接開先加工治具において、
前記工具保持部材が前記芯棒のネジ部に沿って1回転することにより、前記加工工具が前記管寄せの管孔側に向けてネジ部の1ピッチ分押し下げられる構成になっていることを特徴とする配管用溶接開先加工治具。
【請求項3】
請求項1に記載の配管用溶接開先加工治具において、
前記芯棒の係止爪の平面形状がほぼ長方形あるいは楕円形をしており、その係止爪の長手方向を示すマークが前記芯棒の頭部に設けられていることを特徴とする配管用溶接開先加工治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−192483(P2012−192483A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57891(P2011−57891)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】
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