説明

配線具及びワイヤハーネス

【課題】電線を予め定められた経路に沿って保持するとともに保護する配線具を備えるワイヤハーネスにおいて、配線具を電線に取り付けるための工数及び装置を従来よりも簡素化できること。
【解決手段】ワイヤハーネス3は、板状の部材が加工されることにより得られる基盤部材10と、曲げ変形可能な板状の架設部材20とを備える。基盤部材10には、電線が配置される配線部11及び配線部11の両側に位置する留め孔13が形成されている。架設部材20は、その一部が基盤部材10における配線部11の両側の留め孔13各々に通されることにより、配線部11における電線9を跨ぐ状態で保持される。架設部材20の一部と留め孔13の縁部とは、留め孔13からの架設部材20の抜けを妨げる抜け止め機構を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線を予め定められた経路に沿う状態で保持する配線具及びそれを備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスは、電線に取り付けられた樹脂製の配線具を備え、電線がその配線具によって予め定められた経路に沿って保持された状態で敷設されることが多い。例えば、従来の一般的なワイヤハーネスにおいて、電線は、粘着テープ又はベルト部材などの結束材によって板状又は棒状の樹脂部材に固定される。
【0003】
また、特許文献1に示されるワイヤハーネスは、電線束を挟み込む状態で熱プレスによって固着された2つの樹脂部材からなる配線具を備える。特許文献1に示されるワイヤハーネスにおいて、電線は、配線具とは別個の結束材によって2つの樹脂部材の一方に固定され、熱プレスにより固着された2つの樹脂部材によって保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−27242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される配線具は、電線を固定する部位ごとに粘着テープを巻き付ける作業又はベルト部材を環状に保持する機構を備えたベルト式結束具を巻き付ける作業を必要とし、さらに、配線具を構成する2つの樹脂部材の固着のために、熱プレスの装置及び工程を必要とする。また、従来の一般的なワイヤハーネスにおいても、多くの樹脂部材を電線に固定するために粘着テープを巻き付ける作業又はベルト式結束具を巻き付ける作業などの煩雑な作業が必要となる。
【0006】
以上に示したように、従来の配線具及びワイヤハーネスは、電線を予め定められた経路に沿って保持しつつ保護するために、多くの部品を電線に取り付けるための煩雑な作業を必要とし、さらに、比較的大がかりな装置を必要とするという問題点を有している。
【0007】
本発明は、電線を予め定められた経路に沿って保持するとともに保護する配線具を備えるワイヤハーネスにおいて、配線具を電線に取り付けるための工数及び装置を従来よりも簡素化できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る配線具は、以下に示す各構成要素を備える。第1の構成要素は、板状の部材が加工されることにより得られる部材であり、電線が配置される配線部及びその配線部の両側の位置における貫通孔が形成された基盤部材である。第2の構成要素は、曲げ変形可能な板状の部材であり、その一部が基盤部材における配線部の両側の貫通孔各々に通されることにより配線部を跨ぐ状態で保持される架設部材である。そして、架設部材の一部と基盤部材における貫通孔の縁部とが貫通孔からの架設部材の抜けを妨げる抜け止め機構を構成する。
【0009】
また、本発明に係る配線具において、抜け止め機構が、架設部材の一部に形成され貫通孔の縁部に引っ掛かる掛かり部と、貫通孔の縁部とにより構成されていることが考えられる。
【0010】
また、本発明に係る配線具において、複数の掛かり部が、対応する基盤部材の貫通孔ごとに、架設部における貫通孔への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されていることが考えられる。
【0011】
また、本発明に係る配線具において、架設部材に、それを横断する線に沿って他の部分よりも折り曲がりやすく構成された屈曲対象部が形成されていることが考えられる。
【0012】
また、本発明に係る配線具において、基盤部材が、真空成形により形成された部分であり、配線部の一部に沿って突出して形成されたガイド部をさらに有することが考えられる。
【0013】
また、本発明に係る配線具において、基盤部材の一部に、当該配線具の向きを表すマークが記されていることも考えられる。
【0014】
また、本発明は、以上に示した本発明に係る配線具を備えたワイヤハーネスの発明として捉えられてもよい。即ち、本発明に係るワイヤハーネスは、電線と、配線具を構成する基盤部材及び架設部材と、を備える。本発明に係るワイヤハーネスにおいて、基盤部材は、板状の部材が加工されることにより得られる部材であり、電線が配置された配線部及びその配線部の両側の位置における貫通孔が形成された部材である。また、架設部材は、曲げられた板状の部材であり、その一部が基盤部材における配線部の両側の貫通孔各々に通されることにより配線部における電線を跨ぐ部材である。そして、架設部材が、その一部において基盤部材における貫通孔の縁部と引っ掛かり、基盤部材の配線部とともに電線の周囲を取り囲む状態で保持されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、電線は、架設部材と基盤部材の配線部とによって一部が取り囲まれ、これにより、電線は、予め定められた経路に沿って保持される。また、電線は、少なくとも配線部に対向する面において保護され、さらに、架設部材及び基盤部材の配線部で囲まれた部分においては周面全体において保護される。即ち、本発明において、架設部材は、従来のワイヤハーネスにおける電線の結束材として機能し、基盤部材の配線部及び架設部材は、電線の保護部材として機能する。
【0016】
以上に示したように、本発明に係る配線具又はワイヤハーネスが採用されることにより、電線は、予め定められた経路に沿って保持され、また、保護される。さらに、電線の結束材及び保護部材として機能する架設部材は、その一部が基盤部材の貫通孔に通されるだけで、抜け止め機構の作用により、配線部とともに電線を取り囲む状態で保持される。そのため、配線具を電線に取り付けるための工数及び装置は、従来よりも大幅に簡素化される。特に、本発明は、電線を基盤部材に支持させるために基盤部材の裏側に向かう作業が不要である点において好適である。
【0017】
例えば、架設部材の抜け止め機構が、架設部材の一部に形成された掛かり部と貫通孔の縁部とにより構成されれば、架設部材が貫通孔から抜けないようにするための作業は容易である。
【0018】
また、抜け止め機構において、複数の掛かり部が、対応する貫通孔ごとに架設部材の複数の箇所に並んで形成されていれば、架設部材における電線を囲う部分の長さを電線の太さなどに応じて調節することが可能となる。そのため、電線が、架設部材と基盤部材の配線部との間に挟み込まれるように架設部材の長さを調節し、電線を配線部に固定する作業が容易となる。
【0019】
ところで、架設部材は、その幅が大きいほど柔軟性が悪くなり、曲げにくくなる。そのため、架設部材に、それを横断する線に沿って他の部分よりも折り曲がりやすく構成された屈曲対象部が形成されていれば、電線を跨ぐように架設部材を曲げることが容易となる。そのような屈曲対象部の効果は、例えば、電線を広い範囲に渡って保護するために架設部材の幅が大きく形成された場合に特に顕著となる。なお、屈曲対象部は、例えば、架設部材において、それを横断して破線状に並ぶ複数の切り目が形成された部分、或いは、架設部材を横断する溝などである。
【0020】
また、基盤部材が、真空成形により形成されたガイド部を有していれば、電線を配線部に沿って配置する作業が容易となる。また、真空成形によってガイド部を形成する装置及び工程は、射出成形によって突起したガイド部を有する樹脂部材を成形する装置及び工程よりも簡易に実現できる点において好適である。
【0021】
また、基盤部材の一部に、当該配線具の向きを表すマークが記されていれば、当該配線具を正しい向きで取り付けることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤハーネス3の平面図である。
【図2】ワイヤハーネス3における第1電線支持部100Aの分解斜視図である。
【図3】ワイヤハーネス3における第2電線支持部100Bの分解斜視図である。
【図4】ワイヤハーネス3における第1電線支持部100Aの正面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る配線具1の3面図である。
【図6】配線具1において採用可能な第1の例に係る架設部材及び基盤部材の一部の平面図である。
【図7】配線具1において採用可能な第2の例に係る架設部材の平面図である。
【図8】配線具1において採用可能な第3の例に係る架設部材の断面図である。
【図9】配線具1において採用可能な第4の例に係る架設部材の断面図である。
【図10】配線具1において採用可能な第5の例に係る架設部材及び基盤部材の平面図である。
【図11】配線具1において採用可能な第6の例に係る架設部材及び基盤部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0024】
<ワイヤハーネス>
まず、図1から図5を参照しつつ、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス3及び配線具1の構成について説明する。なお、図1及び図5において、便宜上、貫通孔の部分には網点模様が描かれ、突出した部分には網線模様が描かれているが、実際のワイヤハーネス3に網点模様及び網線模様が描かれているわけではない。また、図2及び図3において、電線9が仮想線(二点鎖線)により描かれている。また、図4において、電線9の図は断面図である。
【0025】
図1から図3に示されるように、ワイヤハーネス3は、電線9と、配線具1とを備えている。また、配線具1は、組み合わされて用いられる基盤部材10と架設部材20とを含む。また、電線9の端部にはコネクタ91が設けられている。図5(a)は配線具1の平面図、図5(b)は配線具1の正面図、図1(c)は配線具1の側面図である。但し、図5(b)及び図5(c)において、架設部材20の図示は省略されている。即ち、図5(b)及び図5(c)は、実質的に基盤部材10の正面図及び側面図である。
【0026】
配線具1の基盤部材10は、板状の樹脂部材が加工されることにより得られる部材であり、電線9を予め定められた経路に沿う状態に保持する部材である。また、配線具1の架設部材20は、曲げ変形可能な板状の樹脂部材であり、基盤部材10と連結された状態で電線9に取り付けられる。基盤部材10及び架設部材20は、例えば、ポリプロピレン(PP)又はポリアミド(PA)などの樹脂の部材である。
【0027】
図1に示されるように、基盤部材10は、電線9が配置された配線部11を含む平坦な部分とそこから突出したガイド部15とを有している。なお、図5において、便宜上、配線部11が占める領域を表す破線が描かれているが、必ずしも実際の基盤部材10に破線が描かれているわけではない。
【0028】
図1に示されるように、ワイヤハーネス3において、電線9は、ガイド部15に沿って配置され、これにより、電線9は、予め定められた経路に沿う状態、即ち、基盤部材10における配線部11に沿う状態で配置されている。
【0029】
基盤部材10において、ガイド部15は、真空成形により形成された部分であり、配線部11の一部に沿って突出して形成された部分である。基盤部材10がガイド部15を有することにより、電線9を配線部11に沿って配置する作業が容易となる。特に、ガイド部15は、電線9の分岐部が配置される部分に沿って形成されていることが望ましい。真空成形によってガイド部15を形成する装置及び工程は、射出成形によって突起したガイド部を有する樹脂部材を成形する装置及び工程よりも簡易に実現できる。
【0030】
また、基盤部材10には、複数の留め孔13と複数のクランプ用孔16とが形成されている。クランプ用孔16は、基盤部材10の外縁部分における複数の箇所に形成された貫通孔である。これらクランプ用孔16は、配線具1の基盤部材10を車両の金属パネル又は樹脂製のパネルなどの支持体の定位置に固定するための固定用部品であるクランプが通される貫通孔である。
【0031】
図1及び図5に示されるように、複数の留め孔13は、基盤部材10における配線部11の両側の位置にペアで形成され、架設部材20の一部がその末端から挿入される貫通孔である。そして、架設部材20と、架設部材20の一部が挿入される複数の留め孔13とが、配線部11とともに電線9の周囲を取り囲むことにより電線9を支持する電線支持部100を構成している。
【0032】
また、架設部材20の一部と留め孔13の縁部とは、留め孔13からの架設部材20の抜けを妨げる抜け止め機構を構成している。図1から図3に示されるように、本実施形態における抜け止め機構は、留め孔13の縁部の一部として形成された突起部131と、架設部材20の一部に形成され留め孔13の突起部131に引っ掛かる貫通孔である抜け止め孔21とにより構成されている。なお、抜け止め孔21は、留め孔13の縁部に引っ掛かる掛かり部の一例である。
【0033】
ワイヤハーネス3において、電線支持部100の架設部材20は、電線9の周囲に沿って曲げられている。さらに、架設部材20は、抜け止め孔21の部分において留め孔13の縁部における突起部131と引っ掛かり、配線部11の一部とともに電線9の周囲を取り囲む状態で保持されている。
【0034】
本実施形態において、配線具1は、2種類の電線支持部100を備えている。以下、2種類の電線支持部100の区別が必要な場合、2種類の電線支持部100のうちの一方を第1電線支持部100A、他方を第2電線支持部100Bと称する。第1電線支持部100A及び第2電線支持部100Bは、それを構成する留め孔13の数及び架設部材20の形状が異なるが、基本的な構造は同じである。
【0035】
また、2種類の電線支持部100の区別が必要な場合、第1電線支持部100Aを構成する架設部材20及び留め孔13のことをそれぞれ架設部材20A及び留め孔13Aと記載し、第2電線支持部100Bを構成する架設部材20及び留め孔13のことをそれぞれ架設部材20B及び留め孔13Bと記載する。
【0036】
本実施形態において、第1電線支持部100Aの架設部材20Aは、比較的幅の狭いベルト状に形成されている。そして、図2に示されるように、架設部材20Aは、その可撓性により曲げ変形可能な部材である。また、第1電線支持部100Aにおいて、1つの架設部材20Aに対して2つの留め孔13Aが配線部11の両側の位置にペアで形成されている。ベルト状の架設部材20Aは、その両端各々から2つの留め孔13Aに挿入される。
【0037】
また、第1電線支持部100Aの架設部材20Aには、複数の抜け止め孔21が、対応する留め孔13Aごとに、留め孔13への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されている。そのため、留め孔13Aの縁部における突起部131と引っ掛かる抜け止め孔21を選択することにより、架設部材20Aにおける配線部11に跨る部分の長さ、即ち、電線9に跨る部分の長さを調節することが可能である。
【0038】
第1電線支持部100Aにおいて、架設部材20Aは、留め孔13Aの縁部及び抜け止め孔21からなる抜け止め機構の作用により、配線部11の一部とともに電線9の周囲を取り囲む状態で保持される。また、抜け止め機構の長さ調節機能により、電線9を配線部11に押し付けて固定することも可能である。これにより、電線9は、予め定められた経路に沿って保持される。ここで、架設部材20Aは、従来のワイヤハーネスにおける電線の結束材として機能する。
【0039】
一方、第2電線支持部100Bの架設部材20Bには、それを横断する線に沿って他の部分よりも折り曲がりやすく構成された屈曲対象部23が形成されている。屈曲対象部23は、例えば、架設部材20Bにおいて、それを横断して破線状に並ぶ複数の切り目が形成された部分である。また、屈曲対象部23が、架設部材20Bを横断する溝であることも考えられる。図1及び図5に示される例では、2本の屈曲対象部23が架設部材20Bに形成されているが、1本の屈曲対象部23又は3本以上の屈曲対象部23が形成されることも考えられる。
【0040】
図3に示されるように、架設部材20Bは、屈曲対象部23に沿って曲げられることにより、電線9の周囲に沿って電線9の一部を跨ぐように曲げられる。また、第2電線支持部100Bにおいて、1つの架設部材20Bに対して複数組の対の留め孔13Bが配線部11の両側に沿って形成されている。図1、図3及び図5に示される例では、1つの架設部材20Bに対して3対の留め孔13Bが配線部11の両側に沿って形成されている。
【0041】
また、第2電線支持部100Bにおいて、架設部材20Bの側辺部分には、複数の留め孔13B各々に挿入される複数の挿入片22が形成されている。そして、複数の挿入片22各々に、留め孔13B各々の縁部における突起部131に引っ掛かる抜け止め孔21が形成されている。
【0042】
なお、第2電線支持部100Bの架設部材20Bにおいて、抜け止め孔21は、対応する留め孔13Bごとに、留め孔13Bへの挿入方向における1箇所にのみ形成されている。そのため、第2電線支持部100Bは、架設部材20Bにおける電線9に跨る部分の長さを調節する機能を備えていない。
【0043】
第2電線支持部100Bにおいて、架設部材20Bは、留め孔13Bの縁部及び抜け止め孔21からなる抜け止め機構の作用により、配線部11の一部とともに電線9の周囲を取り囲む状態で保持される。基盤部材10の配線部11及び架設部材20Bは、電線9をその両側から覆うことにより、電線9が他の部材と接触して破損することを防止する。
【0044】
以上に示したように、電線支持部100において、架設部材20は、抜け止め機構により、その一部が留め孔13に挿入された状態で保持される。しかしながら、架設部材20が留め孔13から抜けることをより確実に防止するために、架設部材20における留め孔13に挿入された部分が、基盤部材10に対して固着されることも考えられる。
【0045】
図4は、電線9を支持する第1電線支持部100Aの正面図である。図4に示される例では、架設部材20における留め孔13に挿入された部分の先端が、超音波溶接などによって基盤部材10に対して溶着されている。架設部材20Aは、抜け止め機構によって留め孔13Aに挿入された状態で予め保持されているため、架設部材20Aを基盤部材10に固着する作業は容易である。
【0046】
なお、第2電線支持部100Bにおいても、図4に示される例と同様に、架設部材20Bにおける留め孔13に挿入された部分である挿入片22の先端が、超音波溶接などによって基盤部材10に対して溶着されることも考えられる。
【0047】
ワイヤハーネス3は、例えば、車両における座席シートの下方のスペース、天井裏のスペース又はトランクルームなどに取り付けられる。ワイヤハーネス3において、複数の電線9は、予め定められた形状に保持された状態で、配線具1(基盤部材10及び架設部材20)によって一体にユニット化されている。そのため、ワイヤハーネス3は、クランプを用いて簡易に所定の位置に取り付けられる。
【0048】
また、基盤部材10には、その一部に配線具1の向きを表すマーク17が記されている。図1及び図5に示される例では、矢印形状のマーク17が、基盤部材10の角部に記されている。マーク17は、例えば、インクの転写、加熱もしくは加圧による刻印などによって基盤部材10に形成される。
【0049】
配線具1は、電線9を保持する状態で支持体に取り付けられる際に、マーク17が表す向きが予め定められた向きと一致するように支持体に取り付けられる。
【0050】
次に、図6から図11を参照しつつ、配線具1において採用可能な架設部材20の他の例について説明する。
【0051】
図6は、配線具1において採用可能な第1の例に係る架設部材20及び基盤部材10における留め孔13の部分の平面図である。図1〜3及び図5に示された電線支持部100において、架設部材20の抜け止め機構は、架設部材20に形成された抜け止め孔21と、留め孔13の縁部の一部である突起部131とにより構成されている。
【0052】
一方、図6に示される例では、抜け止め機構が、架設部材20における幅方向の外縁において外側に張り出した張出部21Aと、留め孔13の縁部とにより構成される。架設部材20の張出部21Aの部分の幅は、留め孔13の幅よりも大きく形成されている。そして、架設部材20における張出部21Aが形成された部分が留め孔13に挿入されると、張出部21Aは、収縮しつつ留め孔13を通過した後、留め孔13の縁部の裏側に引っ掛かる。
【0053】
また、図6に示される例では、のこぎりの刃状に張り出した複数の張出部21Aが、対応する留め孔13ごとに、架設部材20における留め孔13への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されている。これにより、架設部材20における配線部11に跨る部分の長さを調節することが可能である。図6に示される電線支持部100も、配線具1において採用可能である。
【0054】
図7は、配線具1において採用可能な第2の例に係る架設部材20の平面図である。図7に示される架設部材20も、図6に示される例と同様に、その幅方向の外縁において外側に張り出した張出部21Bが形成されている。この場合、抜け止め機構は、張出部21Bと留め孔13の縁部とにより構成される。架設部材20の張出部21Bの部分の幅は、留め孔13の幅よりも大きく形成されている。そして、架設部材20における張出部21Bが形成された部分が留め孔13に挿入されると、張出部21Bは、収縮しつつ留め孔13を通過した後、留め孔13の縁部の裏側に引っ掛かる。
【0055】
また、図7に示される例では、矩形波状に張り出した複数の張出部21Bが、対応する留め孔13ごとに、架設部材20における留め孔13への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されている。これにより、架設部材20における配線部11に跨る部分の長さを調節することが可能である。図7に示される架設部材20も、配線具1において採用可能である。
【0056】
図8は、配線具1において採用可能な第3の例に係る架設部材20の断面図である。図8に示される架設部材20は、その厚み方向に突出した突出部21Cが形成されている。この場合、抜け止め機構は、突出部21Cと留め孔13の縁部とにより構成される。架設部材20における突出部21Cの部分の厚みは、留め孔13の高さよりも大きく形成されている。そして、架設部材20における突出部21Cの部分が留め孔13に挿入されると、突出部21Cは、収縮しつつ留め孔13を通過した後、留め孔13の縁部の裏側に引っ掛かる。架設部材20の突出部21Cは、例えば、真空成形によって形成される。
【0057】
また、図8に示される例では、方形波状に突出した複数の突出部21Cが、対応する留め孔13ごとに、架設部材20における留め孔13への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されている。これにより、架設部材20における配線部11に跨る部分の長さを調節することが可能である。図8に示される架設部材20も、配線具1において採用可能である。
【0058】
図9は、配線具1において採用可能な第4の例に係る架設部材20の断面図である。図9に示される架設部材20も、図8に示される例と同様に、その厚み方向に突出した突出部21Dが形成されている。この場合、抜け止め機構は、突出部21Dと留め孔13の縁部とにより構成される。架設部材20における突出部21Dの部分の厚みは、留め孔13の高さよりも大きく形成されている。そして、架設部材20における突出部21Dの部分が留め孔13に挿入されると、突出部21Dは、収縮しつつ留め孔13を通過した後、留め孔13の縁部の裏側に引っ掛かる。架設部材20の突出部21Dは、例えば、真空成形によって形成される。
【0059】
また、図9に示される例では、のこぎりの刃状に突出した複数の突出部21Dが、対応する留め孔13ごとに、架設部材20における留め孔13への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されている。これにより、架設部材20における配線部11に跨る部分の長さを調節することが可能である。図9に示される架設部材20も、配線具1において採用可能である。
【0060】
図10は、配線具1において採用可能な第5の例に係る架設部材20及び基盤部材10における留め孔13の部分の平面図である。図10に示される例では、図6及び図7に示される例と同様に、抜け止め機構が、架設部材20における幅方向の外縁において外側に張り出した張出部21Eと、留め孔13の縁部とにより構成される。張出部21Eは、留め孔13の縁部の裏側に引っ掛かる部分である。
【0061】
しかしながら、図10に示される例において、張出部21Eは、対応する留め孔13ごとに、留め孔13への挿入方向における1箇所にのみ形成されている。図10に示される電線支持部100は、架設部材20における配線部11に跨る部分の長さを調節する機能を備えていない。図10に示される電線支持部100も、配線具1において採用可能である。
【0062】
図11は、配線具1において採用可能な第6の例に係る架設部材20及び基盤部材10における留め孔13の部分の平面図である。図11に示される例では、架設部材20の抜け止め機構は、架設部材20の側端部に形成された複数の矢印形状の挿入片21Fと、各挿入片21Fが挿入される複数の留め孔13の縁部とにより構成される。各挿入片21Fの最大幅は、留め孔13の幅よりも大きく形成されている。そして、挿入片21Fが留め孔13に挿入されると、挿入片21Fは、収縮しつつ留め孔13を通過した後、最も幅の広い部分において留め孔13の縁部の裏側に引っ掛かる。図11に示される電線支持部100も、配線具1において採用可能である。
【0063】
<効果>
ワイヤハーネス3において、電線9は、架設部材20と基盤部材10における配線部11とによって一部が取り囲まれ、これにより、電線9は、予め定められた経路に沿って保持される。また、電線9は、少なくとも配線部11に対向する面において保護され、さらに、架設部材20及び配線部11で囲まれた部分においては周面全体において保護される。即ち、ワイヤハーネス3において、架設部材20は、従来のワイヤハーネスにおける電線の結束材として機能し、基盤部材10の配線部11及び架設部材20は、電線9の保護部材として機能する。
【0064】
以上に示したように、配線具1又はワイヤハーネス3が採用されることにより、電線9は、予め定められた経路に沿って保持され、また、保護される。さらに、電線9の結束材及び保護部材として機能する架設部材20は、その一部が基盤部材10の留め孔13に通されるだけで、抜け止め機構の作用により、配線部11とともに電線9を取り囲む状態で保持される。そのため、配線具1を電線に取り付けるための工数及び装置は、従来よりも大幅に簡素化される。特に、配線具1は、電線9を基盤部材10に支持させるために基盤部材10の裏側に向かう作業が不要である点において好適である。
【0065】
また、架設部材20の抜け止め機構が、架設部材20の一部に形成された掛かり部と留め孔13の縁部とにより構成されているため、架設部材20が留め孔13から抜けないようにするための作業は容易である。なお、抜け止め孔21、張出部21A,21B,21E、突出部21C,21D及び挿入片21Fは、掛かり部の一例である。
【0066】
また、抜け止め機構において、複数の掛かり部が、対応する留め孔13ごとに架設部材20の複数の箇所に並んで形成されることにより、架設部材20における電線9を囲う部分の長さを電線9の太さなどに応じて調節することが可能となる。そのため、電線9が、架設部材20と基盤部材10の配線部11との間に挟み込まれるように架設部材20の長さを調節し、電線9を配線部11に固定する作業が容易となる。
【0067】
また、架設部材20は、その幅が大きいほど柔軟性が悪くなり、曲げにくくなる。しかしながら、架設部材20に、それを横断する線に沿って他の部分よりも折り曲がりやすく構成された屈曲対象部23が形成されることにより、電線9を跨ぐように架設部材20を曲げることが容易となる。そのような屈曲対象部23の効果は、例えば、電線9を広い範囲に渡って保護するために架設部材20の幅が大きく形成された場合に特に顕著となる。
【0068】
また、基盤部材10が、真空成形により形成されたガイド部15を備えるため、電線9を配線部11に沿って配置する作業が容易となる。また、真空成形によってガイド部15を形成する装置及び工程は、射出成形によって突起したガイド部を有する樹脂部材を成形する装置及び工程よりも簡易に実現できる点において好適である。
【0069】
また、基盤部材10の一部に、配線具1の向きを表すマーク17が記されているため、配線具1を正しい向きで取り付けることが容易となる。
【0070】
<その他>
以上に示された各実施形態においては、電線9は、その一面において配線部11によって保護され、配線部11に対し反対側の面においては、主として第2電線支持部100Bの架設部材20Bによって保護される。
【0071】
しかしながら、電線9が、その一面において配線部11によって保護されれば十分な場合、配線具1において、第2電線支持部100Bが第1電線支持部100Aに置き換えられること、或いは第1電線支持部100Aが省略されることも考えられる。また、電線9が、コルゲートチューブなどの保護チューブで覆われた状態で、第1電線支持部100A又は第2電線支持部100Bによって支持されることも考えられる。
【0072】
また、配線具1の基盤部材10が、ガイド部15を有さないことも考えられる。ガイド部15を有さない基盤部材10は、平坦な部材である。この場合、基盤部材10は、その表裏のいずれの側に電線9を配置させるかにより、電線支持部100などの位置関係が反対の2種類の基盤部材10として利用可能である。例えば、車両の運転席の下方に配置されるワイヤハーネスと、助手席の下方に配置されるワイヤハーネスとにおいて、電線9の位置関係が左右対称である場合、ガイド部15を有さない基盤部材10及び架設部材20は、運転席用と助手席用とに兼用することができる。
【0073】
また、配線具1において、基盤部材10の配線部11は、平坦な部分である。しかしながら、配線部11が、真空成形などによって成形された溝であることも考えられる。
【符号の説明】
【0074】
1 配線具
3 ワイヤハーネス
9 電線
10 基盤部材
11 配線部
13,13A,13B 留め孔
15 ガイド部
16 クランプ用孔
17 マーク
20,20A,20B 架設部材
21 抜け止め孔
21A,21B,21E 架設部材の張出部
21C,21D 架設部材の突出部
21F,22 架設部材の挿入片
23 架設部材の屈曲対象部
91 コネクタ
100 電線支持部
100A 第1電線支持部
100B 第2電線支持部
131 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の部材が加工されることにより得られる部材であり、電線が配置される配線部及び該配線部の両側の位置における貫通孔が形成された基盤部材と、
曲げ変形可能な板状の部材であり、その一部が前記基盤部材における前記配線部の両側の前記貫通孔各々に通されることにより前記配線部を跨ぐ状態で保持される架設部材と、を備え、
前記架設部材の一部と前記基盤部材における前記貫通孔の縁部とが前記貫通孔からの前記架設部材の抜けを妨げる抜け止め機構を構成することを特徴とする配線具。
【請求項2】
前記抜け止め機構は、前記架設部材の一部に形成され前記貫通孔の縁部に引っ掛かる掛かり部と前記貫通孔の縁部とにより構成されている、請求項1に記載の配線具。
【請求項3】
複数の前記掛かり部が、対応する前記基盤部材の前記貫通孔ごとに、前記架設部における前記貫通孔への挿入方向に沿う複数の箇所に並んで形成されている、請求項2に記載の配線具。
【請求項4】
前記架設部材に、それを横断する線に沿って他の部分よりも折り曲がりやすく構成された屈曲対象部が形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載の配線具。
【請求項5】
前記基盤部材は、真空成形により形成された部分であり、前記配線部の一部に沿って突出して形成されたガイド部をさらに有する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の配線具。
【請求項6】
前記基盤部材の一部に当該配線具の向きを表すマークが記されている、請求項1から請求項5のいずれかに記載の配線具。
【請求項7】
電線と、
板状の部材が加工されることにより得られる部材であり、前記電線が配置された配線部及び該配線部の両側の位置における貫通孔が形成された基盤部材と、
曲げられた板状の部材であり、その一部が前記基盤部材における前記配線部の両側の前記貫通孔各々に通されることにより前記配線部における前記電線を跨ぐ架設部材と、を備え、
前記架設部材が、その一部において前記基盤部材における前記貫通孔の縁部と引っ掛かり、前記基盤部材の前記配線部とともに前記電線の周囲を取り囲む状態で保持されていることを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−239316(P2012−239316A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106897(P2011−106897)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】