説明

酒精含有調味料及びその製造方法

【課題】呈味性ヌクレオチドを高含有する酒精含有調味料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上の酒精含有調味料。また、酒粕を、ヌクレアーゼ処理、次いでアデニル酸デアミナーゼ処理を包含する酵素処理した酒粕酵素処理液を用いる当該酒精含有調味料の製造方法。
【効果】従来の不快臭の低減やマスキングという効果に上乗せした形で、素材にコク・旨みを付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コク・旨みの増強された酒精含有調味料及びその製造方法に関する。更に詳細には、呈味性ヌクレオチドを特定量以上含有する酒精含有調味料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
うま味調味料は、うま味のもととなるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸を生成した調味料である。うま味調味料の一つとして、5’−リボヌクレオチド二ナトリウムがあり、これはイノシン酸のナトリウム塩であるイノシン酸ナトリウムとグアニル酸のナトリウム塩であるグアニル酸ナトリウムを主成分とした混合物であり、核酸系調味料とも呼ばれている。5’−イノシン酸二ナトリウム塩は鰹節の旨味成分であり、5’−グアニル酸二ナトリウム塩はシイタケの旨味成分として知られている。
【0003】
調味料としての酒類としては、みりん、清酒、発酵調味料(不可飲措置、すなわち食塩を加え飲用できないようにしたもの)、ワイン、焼酎、ラム、ブランデーなどがある。酒類が料理に不可欠なものとして用いられているのは、味が良くなる、香りが良くなる、てり・つやなどの見た目が良くなる、素材がやわらかくなり食感も良くなる、日持ちが良くなるなど、酒類が総合的に調理品の仕上がり・品質を高めることからである。清酒を例にすると、通常飲用されている清酒や有機酸を多く含有する料理清酒は、不快な畜肉臭や魚介類臭を低減する、あるいはマスキングするために広く調理に用いられている。
【0004】
核酸系調味料については、製造方法の改良など古くからさまざまな検討がなされている(特許文献1〜3)。一方、5’−ヌクレオチド含有酵母エキスを用いたミートフレーバー様やビーフフレーバー様の風味を有する調味料の製造方法が知られている(特許文献4〜5)。しかしながら、従来清酒には呈味性ヌクレオチドは含有されておらず、アルコール、すなわち酒精を含有する清酒などの調味料において、呈味性ヌクレオチドを高含有させる検討はほとんど行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−255号公報
【特許文献2】特開昭62−215364号公報
【特許文献3】特開平2−311492号公報
【特許文献4】特開2003−169627号公報
【特許文献5】特開2007−259744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、呈味性ヌクレオチドを特定量以上含有する酒精含有調味料及びその製造方法に関する。更に、コク・旨みの増強された酒精含有調味料とするために、酒粕酵素処理液を用いることにより、呈味性ヌクレオチドを高含有する酒精含有調味料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上の酒精含有調味料に関する。本発明の第2の発明は、酒精含有調味料が清酒である第1の発明の酒精含有調味料に関する。本発明の第3の発明は、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料の製造方法において、酒粕を酵素処理した酒粕酵素処理液を用いることを特徴とするアルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチドを60mg/L以上高含有する酒精含有調味料の製造方法に関する。本発明の第4の発明は、酒粕酵素処理が、ヌクレアーゼ処理、次いでアデニル酸デアミナーゼ処理を包含するものである第3の発明の酒精含有調味料の製造方法に関する。
【0008】
本発明者らは、コク・旨みの増強された酒精含有調味料を提供すべく、鋭意検討を行った。その結果、従来清酒には呈味性ヌクレオチドは含有されていないことを確認し、呈味性ヌクレオチドを特定量以上含有すること、更に、呈味性ヌクレオチドを特定量以上含有する酒精含有調味料とするために、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料の製造方法において、酒粕酵素処理液を用いることにより、呈味性ヌクレオチドを高含有する酒精含有調味料が得られることを見出した。すなわち、コク・旨みの増強された酒精含有調味料とすることができ、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酒精含有調味料は、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上の酒精含有調味料であり、コク・旨みの増強された酒精含有調味料である。特に、前記第3の発明の酒精含有調味料の製造方法により、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料の製造方法において、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチドを60mg/L以上高含有する酒精含有調味料が得られる。呈味性ヌクレオチドを特定量以上含有する清酒であれば、従来清酒を調理に用いることにより得られる、例えば不快な畜肉臭や魚介類臭を低減する、あるいはマスキングするという効果に上乗せした形で素材にコク・旨みを付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明でいう呈味性ヌクレオチドとは、イノシン酸及び/又はグアニル酸、あるいはそれらの塩のことであり、うま味を感じさせる核酸関連物質である。なお、うま味、旨味、旨みはすべて同じ意味で使用している。イノシン酸は、ヌクレオチド構造を持つ有機化合物の一種である。ヒポキサンチンとD−リボースとリン酸で構成されたリボヌクレオチドであり、IMPと略記される。主に肉類の中に存在する天然化合物である。グアニル酸は、イノシン酸と同様にヌクレオチド構造を持つ有機化合物の一種である。核酸塩基のグアニンとD−リボースとリン酸より構成されたリボヌクレオチドであり、GMPと略記される。イノシン酸、グアニル酸は、グルタミン酸ナトリウムと共存すると、うま味を相乗的に増幅する、いわゆる「うま味の相乗効果」があることが知られている。イノシン酸、グアニル酸は、リン酸の結合位置が異なる2’−体、3’−体、5’−体があることが知られているが、特に旨味に有用なのは5’−体である。5’−IMPのナトリウム塩は、鰹節に含まれる旨味成分として、5’−GMPのナトリウム塩は、シイタケの旨味成分として知られている。
【0011】
本発明の酒精含有調味料は、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上であることが特徴である。グアニル酸含量が単独で60mg/L以上、又はイノシン酸含量とグアニル酸含量との総和が60mg/L以上である。グアニル酸はイノシン酸よりも旨みが増強されるので、グアニル酸含量が多い方が好ましい。アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上である酒精含有調味料とすると、従来酒精含有調味料を調理に用いることにより得られる効果に上乗せした形で素材にコク・旨みを付与することができる。
【0012】
本発明では、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのないことが特徴である。うまみ調味料として、イノシン酸とグアニル酸との混合物が市販されているが、自然な形で後述する清酒等の酒精含有調味料に呈味性ヌクレオチドを含有させるのがよい。
【0013】
本発明の酒精含有調味料は、酒精を含有する調味料であればよく、調理に使用する酒類であってもよい。酒類としては、みりん、清酒、焼酎が挙げられる。調味料としては、発酵調味料が挙げられる。醤油にはグルタミン酸ナトリウムや窒素成分が多く含まれているが、素材に色が付きやすくなるので、淡色の酒類にアルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上とすれば、素材に過度な着色をすることなく、素材の持つコク・旨みを相乗的に引き立たせることができる。以上のようなことから、みりん、清酒、焼酎といった酒類、清酒タイプの発酵調味料であることが好ましい。
【0014】
後述するように酒粕酵素処理液を用いることから、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上の酒精含有調味料としては、清酒が好適である。従来清酒を調理に用いることにより得られる、例えば不快な畜肉臭や魚介類臭を低減する、あるいはマスキングするという効果に上乗せした形で素材にコク・旨みを付与することができる。
【0015】
本発明におけるみりんとは、酒税法でいう混成酒類の中のみりんであり、清酒とは、酒税法上の清酒のことであり、焼酎とは、酒税法でいう蒸留酒類の中の焼酎である。また、発酵調味料とは、酒類の不可飲処置による免税措置に基づいて食塩を添加して発酵・熟成することを基本とし、これに糖質原料、麹、変性アルコールなど目的に応じた副原料を添加して製造する。例えば、一般的な発酵調味料の製造方法は、発酵工程は、掛原料、麹、酵母を添加して醪とし、糖化・発酵し、この醪を固液分離して搾汁と粕を得る。熟成工程は、この搾汁、掛原料、麹を混合して醪となし、糖化・熟成させて固液分離して精製工程を経て発酵調味料を得る。飲用の清酒では、例えば酒造米を、吟醸酒では50%精白して仕込み原料とするような製造を行うが、清酒タイプの発酵調味料はいかに清酒のような風味を有するかが考慮されて製造されるので、酒造米でなく一般米を仕込み原料とすればよい。
【0016】
本発明における呈味性ヌクレオチドの供給源としては、リボ核酸(以下、RNAと略述する)を含有するものであればよいが、清酒酵母やビール酵母の菌体そのもの、あるいは酵母を含有する食品素材など挙げられる。発酵産物、あるいはそれらを固液分離して得られる残渣でもよい。酵母を含有するものを呈味性ヌクレオチドの供給源として用い、それらから呈味性ヌクレオチドを引き出すことになる。酒精含有調味料が、調理に使用する酒類であって、酒類としてのみりん、清酒、焼酎では、それぞれ酒税法で規定される原料の制限もあり、酒粕が好ましい。酒粕の分析値例を示すと、固形分量は55.5%、デンプン質の食物中に含まれるデンプン含量を重量百分率で示した値であるデンプン価は6.3%、アルコール分は10.1%である。
【0017】
本発明の酒精含有調味料の製造方法では、酒粕酵素処理液を用いることが特徴である。イノシン酸及び/又はグアニル酸といった呈味性ヌクレオチドはホスファターゼにより容易に分解され呈味力を失うことになるので、酵母の有するホスファターゼが作用しにくいようにすることが肝要である。例えば、清酒の製造であれば、留後上槽する前のいずれかの時期に酒粕酵素処理液を用いればよい。酒粕酵素処理液を用いることにより、グアニル酸、イノシン酸及びグアニル酸といった呈味性ヌクレオチドをアルコール分13.5%(v/v)換算で60mg/L以上高含有する酒精含有調味料を得ることができる。
【0018】
本発明の酒粕酵素処理液は、酒粕を酵素処理することにより得られる。酵素処理としては、溶菌酵素処理、ヌクレアーゼ処理、アデニル酸デアミナーゼ処理が挙げられる。特にヌクレアーゼ処理、アデニル酸デアミナーゼ処理が重要であり、ヌクレアーゼ処理、次いでアデニル酸デアミナーゼ処理することが好ましい。溶菌酵素としては、例えばYL−NL「アマノ」〔天野エンザイム(株)製〕、ツニカーゼFN〔大和化成(株)製〕、FILTRASE R NL〔ディー・エス・エム・ジャパン(株)製〕、FILTRASE R NLC L〔ディー・エス・エム・ジャパン(株)製〕等が挙げられ、ヌクレアーゼとしては、例えばヌクレアーゼ「アマノ」G〔天野エンザイム(株)製〕、スミチームNP〔新日本化学工業(株)製〕等が挙げられ、アデニル酸デアミナーゼとしては、例えばデアミザイムG〔天野エンザイム(株)製〕等が挙げられる。溶菌酵素処理、ヌクレアーゼ処理、アデニル酸デアミナーゼ処理の条件は、イノシン酸、グアニル酸が分解されないように、pH、温度、時間を適宜選択すればよい。溶菌酵素処理では、pHは4〜9の範囲から、温度は30〜60℃の範囲から、時間は6〜20時間の範囲から、酵素量は0.001〜1.0%(w/v)の範囲から、ヌクレアーゼ処理では、pHは4〜6の範囲から、温度は50〜70℃の範囲から、時間は0.5〜40時間の範囲から、酵素量は0.005〜0.2%(w/v)の範囲から、アデニル酸デアミナーゼ処理では、pHは3〜8の範囲から、温度は30〜60℃の範囲から、時間は1〜12時間の範囲から、酵素量は0.001〜0.01%(w/v)の範囲から適宜選択すればよい。アデニル酸デアミナーゼ処理を行わない場合は、グアニル酸含量が多いものとなる。清酒の製造において、酒粕を溶菌酵素処理、ヌクレアーゼ処理、アデニル酸デアミナーゼ処理して得られる酒粕酵素処理液を四段として用いることにより、イノシン酸、イノシン酸及びグアニル酸といった呈味性ヌクレオチドをアルコール分13.5%(v/v)換算で60mg/L以上高含有する酒精含有調味料を得ることができる。なお、清酒の四段前醪、酒粕酵素処理液、アル添に用いるアルコールのそれぞれの容量を適宜選択することにより、呈味性ヌクレオチドをアルコール分13.5%(v/v)換算で最大100mg/L高含有する酒精含有調味料を得ることができることは確認済みである。
【0019】
以下、検討例によって本発明を更に具体的に説明する。
検討例1
グルタミン酸ナトリウムと呈味性ヌクレオチドとの旨みの相乗効果について検討した。
惣菜を想定して、食塩1%、グルタミン酸ナトリウム1000mg/Lを含有する水溶液に、5’−ヌクレオチドであるリボタイド〔キリン協和フーズ(株)製〕を添加していき、旨みが増強されたと感じる5’−ヌクレオチドの含有量を確認した。なお、リボタイドは、イノシン酸とグアニル酸とが1:1の比率で混合されているものである。8名のパネラーにより官能評価試験を行ったところ、5mg/L以上の含有量、すなわちグルタミン酸ナトリウムの1/200量においてパネラー全員が旨みの増強効果を確認することができた。
【0020】
実際の調理において、例えばぶりの照り焼きは醤油の使用量に対して等量の清酒を使用するが、醤油のグルタミン酸ナトリウムの含有量は12000mg/Lであるので、その1/200量の60mg/L含有する清酒があれば旨みを増強させることができるということがわかった。
【0021】
検討例2
市販の料理清酒に、5’−ヌクレオチドであるリボタイド〔キリン協和フーズ(株)製〕を添加して、種々の呈味性ヌクレオチド含有清酒モデル液(清酒に食品添加物を添加すると清酒とはならないので、ここではモデル液としている)を調製し、呈味性ヌクレオチドの調理に及ぼす影響について調べた。なお、リボタイドは、イノシン酸とグアニル酸とが1:1の比率で混合されているものである。料理清酒中の5’−ヌクレオチド含量が、アルコール分13.5%(v/v)換算で0〜100mg/Lになるように呈味性ヌクレオチド含有清酒モデル液を調製した。
得られた呈味性ヌクレオチド含有清酒モデル液を用いて、潮汁を調製し官能評価試験を行った。潮汁は、昆布だし1000mlに醤油2.5ml、食塩3.5g、呈味性ヌクレオチド含有清酒モデル液100mlを配合して2分間煮立てた。13名のパネラーにより官能評価試験を行い、3点法(1:良、2:普通、3:悪)で評価し、各パネラーによる官能評価の平均値より、1.0〜1.5を◎、1.5超〜2.0を○、2.0超〜2.5を△、2.5超〜3.0を×で示した。調製した呈味性ヌクレオチド含有清酒モデル液の呈味性ヌクレオチド含量、及び官能評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1より、呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上であると旨みが強いという結果となった。呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上では13名のパネラーすべて旨みが強いと選択し、コクも付与しているという評価であった。
【0024】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
酒粕酵素処理液の調製
酒粕酵素処理液の調製を行った。仕込配合を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
酒粕を水に懸濁し、85℃、15分加熱処理後、アンモニア水溶液でpHを7.0に調整し、YL−NL「アマノ」〔天野エンザイム(株)製〕を用いて50℃、16時間溶菌処理を行った。溶菌処理を行った後、乳酸でpHを5.0に調整し、ヌクレアーゼ「アマノ」G〔天野エンザイム(株)製〕を用いて70℃、3時間ヌクレアーゼ処理し、次いでアンモニア水溶液でpHを6.0に調整し、デミアザイムG〔天野エンザイム(株)製〕を用いて50℃、8時間アデニル酸デアミナーゼ処理した。アデニル酸デアミナーゼ処理を行った後、85℃、15分加熱処理して酒粕酵素処理液を得た。得られた酒粕酵素処理液のイノシン酸含量、グアニル酸含量は、アルコール分13.5%(v/v)換算で、それぞれ221mg/L、275mg/Lであり、合計496mg/Lであった。なお、イノシン酸、グアニル酸の測定は、HPLCにて行った。
【実施例2】
【0028】
酒粕酵素処理液を四段として用いた清酒の製造
掛米は精米歩合75%(w/w)の白米を用い、常法に従って洗米、浸漬、蒸きょうして蒸米を得た。麹米は精米歩合75%(w/w)の白米を用い、蒸米としてその蒸米に清酒に通常用いられる清酒用麹菌(種もやし)を接種して46時間製麹し、麹を製造した。これらの原料を用い、また酵母は協会酵母701号を使用し、水麹後、初添、仲添、留添の三段仕込を実施した。総米166.8kg(掛米150.0kg、麹米16.8kg)、汲水431.4リットルとした。醪品温は10〜15℃とし、留後18日目に四段、アル添を行い上槽した。具体的には、清酒の四段前醪302リットルに対し、実施例1で得られた酒粕酵素処理液をその半分量の196リットルと40v/v%アルコール113リットルとを加えて、上槽後、割水してアルコール分13.5%(v/v)の呈味性ヌクレオチドを含有する清酒の製造を行った。
【0029】
得られた呈味性ヌクレオチドを含有する清酒の分析値を、市販のみりん、市販の料理清酒とともに表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
本発明品の清酒のイノシン酸含量は36.0mg/L、グアニル酸含量は48.9mg/L、合計84.9mg/Lであり、呈味性ヌクレオチドを高含有する清酒であった。一方、市販のみりん、料理清酒には、イノシン酸、グアニル酸といった呈味性ヌクレオチドは全く含有されていなかった。
【0032】
10名のパネラーにより官能評価試験を行った。従来の料理清酒に比べて、強い旨みが後に残る、コハク酸の旨みとは異なるがこれだけで美味しいという評価であった。
【実施例3】
【0033】
醤油と清酒を等量使用する場合に官能的な差があるかについて検討を行った。水900ml、醤油50ml、実施例2で得られた本発明品の呈味性ヌクレオチドを含有する清酒50mlを加え、10名のパネラーにより官能評価試験を行った。醤油由来のグルタミン酸ナトリウム含量は600mg/L、呈味性ヌクレオチドを含有する清酒由来の呈味性ヌクレオチド含量は4.2mg/Lであり、グルタミン酸ナトリウムの1/200量を超えるものであった。
【0034】
10名のパネラーすべて旨みが強いと選択し、本発明品の呈味性ヌクレオチドを含有する清酒は旨みを増強させることができることがわかった。
【実施例4】
【0035】
昆布仕立てのすまし汁を調製し、官能評価試験を行った。昆布だし1000mlに醤油2.5ml、食塩3.5gを加えたものに、実施例2で得られた呈味性ヌクレオチド含有清酒を60ml、120ml、240mlと配合量を変えてそれぞれ加え、旨みが増強される添加量を確認した。対照は、呈味性ヌクレオチドを含有する清酒を加えないものとした。13名のパネラーにより官能評価試験を行った。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
実施例2で得られた呈味性ヌクレオチドを含有する清酒を120ml添加することにより、13名のパネラーすべて旨みが強いと選択し、コクも付与しているという評価であった。1カップは200mlなので、通常調理に使用する程度の分量で旨みを増強させることができることがわかった。
【実施例5】
【0038】
酒粕酵素処理液を用いた発酵調味料の製造
酒粕酵素処理液の調製を行った。仕込配合を表5に示す。
【0039】
【表5】

【0040】
酒粕を水に懸濁し、85℃、15分加熱処理後、乳酸でpHを5.0に調整し、ヌクレアーゼ「アマノ」G〔天野エンザイム(株)製〕を用いて70℃、3時間ヌクレアーゼ処理し、次いでデミアザイムG〔天野エンザイム(株)製〕を用いて50℃、8時間アデニル酸デアミナーゼ処理した。アデニル酸デアミナーゼ処理を行った後、85℃、15分加熱処理して酒粕酵素処理液を得た。得られた酒粕酵素処理液のイノシン酸含量、グアニル酸含量は、アルコール分13.5%(v/v)換算で、それぞれ206mg/L、244mg/Lであり、合計450mg/Lであった。なお、イノシン酸、グアニル酸の測定は、HPLCにて行った。
【0041】
得られた酒粕酵素処理液に加塩清酒、食塩、糖類、醸造アルコールを加えて、上槽後、割水してアルコール分13.5%(v/v)の呈味性ヌクレオチドを含有する発酵調味料の製造を行った。
【0042】
本発明品の発酵調味料のイノシン酸含量は42.5mg/L、グアニル酸含量は57.9mg/L、合計100.4mg/Lであり、呈味性ヌクレオチド自体を添加することがなくとも呈味性ヌクレオチドを高含有する発酵調味料が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の、呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上の酒精含有調味料は、例えば清酒であれば、従来清酒を調理に用いることにより得られる、例えば不快な畜肉臭や魚介類臭を低減する、あるいはマスキングするという効果に上乗せした形で素材にコク・旨みを付与することができる。呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料の製造方法において、酒粕酵素処理液を用いることにより、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチドを60mg/L以上高含有する酒精含有調味料が得られるので、本発明は優れた酒精含有調味料及びその製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料であって、アルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチド含量が60mg/L以上の酒精含有調味料。
【請求項2】
酒精含有調味料が清酒である請求項1記載の酒精含有調味料。
【請求項3】
呈味性ヌクレオチド自体を添加することのない酒精含有調味料の製造方法において、酒粕を酵素処理した酒粕酵素処理液を用いることを特徴とするアルコール分13.5%(v/v)換算で呈味性ヌクレオチドを60mg/L以上高含有する酒精含有調味料の製造方法。
【請求項4】
前記酒粕酵素処理が、ヌクレアーゼ処理、次いでアデニル酸デアミナーゼ処理を包含するものであることを特徴とする請求項3記載の酒精含有調味料の製造方法。