説明

酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品およびその製造方法

【課題】酒類を含有するチョコレートコーティングされた「香り」と「風味」が豊かなナッツ食品および製造方法を提供する。
【解決手段】ナッツ類をセンターとし、チョコレート中にアルコール分が16〜40%含有する酒類含有乳化組成物層とチョコレート層とがそれぞれ2層以上からなる多層構造を有することを特徴とする酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品。このナッツ食品は、ナッツ類のセンターを転動させ、液状のチョコレートを散布し、次に予め酒類とチョコレートを攪拌し混合乳化、冷却固化した乳化組成物を散布し、冷却固化させることで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味豊かな酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ピーナッツやアーモンドをはじめとしたナッツ類とチョコレートを組み合わせた食品が知られている。その中でもパンワークによりチョコレートコーティングされたナッツ食品があり、この十数年来市場が拡大してきた。この市場は300億円規模であり各社、主力商品を展開している。特にチョコレートの大手メーカーである明治製菓(株)や(株)ロッテは「アーモンドチョコレート」としてブランドを育成してきた。
【0003】
しかしながら、その市場において近年、売上は横ばい傾向となっている。現在市場で見られるチョコレートコーティングされたナッツ食品は、チョコレートとナッツが持つ「香り」「風味」及び「食感」に限定される。特に「香り」や「風味」に関してはバラエティに乏しいことは否めず、現代社会の多様化する食の嗜好において、「香り」や「風味」の豊かなチョコレートでコーティングされたナッツ食品が望まれてきた。
【0004】
一方、「香り」や「風味」が豊かなチョコレートとして、洋酒を含有しているガナッシュやトルッフェル等が知られている。通常、ガナッシュクリーム、トルッフェルクリームといわれるものは、生クリーム、バター、シロップなどを加温、沸騰させた後に加熱を止め、細かく切り刻んだチョコレートを加えて攪拌乳化することにより0/W系のエマルジョンとし、酒類を添加する場合は、冷えてから洋酒などを加えて製造される。このガナッシュやトルッフェルは成形性が非常に困難で、特にコーティングをしようとすると非常に増粘し、いわゆるボテ現象が発生する。また、水分活性が高く日持ちは常温で3日〜1週間程度が一般的である。
【0005】
また、ガナッシュやトルッフェル以外の酒含有チョコレートとして、粉末酒含有のチョコレートが提案されている(特許文献1)。この粉末酒含有チョコレートはデキストリン含有の為、チョコレートコーティングの際の増粘が問題点として上げられる。また、官能としては、ざらつきがでることや、デキストリンに包摂させているため「香り」のトップ立ちに乏しいなどの問題点がある。
【0006】
さらにチョコレートコーティングの方法として、パンワークを行う際、センターに水溶液をかけるなどの手法が提案されている(特許文献2)。この水溶液はアルコールを含んでもよいと提案されているが、添加率としては3重量%程度であり、酒などの「風味」を強くつけることは困難である。また、この提案はチョコレートの耐熱性を上げる目的であるうえ、アルコールの含有量は明らかに異なる態様と考えられる。
【0007】
また、液状アルコール或いはアルコールを加えることからなる油脂性菓子の製造方法が提案されている(特許文献3)。同公報においては、チョコレートに対し液状アルコール或いはアルコール溶液を2〜15重量%加えており、油脂性菓子におけるアルコール分を換算すると最大2〜13重量%を含有する。しかし、押出しなどの機械適性は得られるが粘度が上がりすぎるためコーティングには適さない。また、この油脂性菓子を冷却固化、粉状とし、チョコレート層との多層構造を構成したとしてもアルコール含有率が低いため、望むような「香り」や「風味」を得ることができない。
【0008】
さらには油脂組成物を直接酒類により、0/W乳化で得られる乳化組成物が提案されている(特許文献4)。この公報において、乳化組成物はアルコール分2〜15重量%を含有する。また、チョコレートのセンターにすることを前提としておりデポジッターに対する適性はあるが、この物性ではボテてしまいコーティングの使用は適さない。また、生産性の面で課題が残る。また、この公報を応用し、本発明者らが実験を行ったところ、この酒類乳化組成物を冷却、粉状化したものを掛け、チョコレート層と多層構造を構成したとしてもアルコール分が低いため、望むような「香り」や「風味」を得ることが出来なかった。
【特許文献1】特開昭57−105139号公報
【特許文献2】特開平04−248950号公報
【特許文献3】特公平1−21943号公報
【特許文献4】特許第292990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、酒類を含有するチョコレートコーティングされた「香り」と「風味」が豊かなナッツ食品および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルコール含量を増量し安定化した乳化組成物を得ること及び、これを用いて多層構造を形成することで本願目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、ナッツ類をセンターとし、チョコレート中にアルコール分が16〜40重量%含有する酒類含有乳化組成物層とチョコレート層とがそれぞれ2層以上からなる多層構造を有することを特徴とする酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品に関する。
また、ナッツ類のセンターを、転動させ、液状のチョコレートを散布し、次に予め酒類とチョコレートを攪拌し混合乳化、冷却固化した乳化組成物を散布し、冷却固化させることを特徴とする請求項1記載の酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品の製造方法に関する。
また、前記酒類含有乳化組成物を冷却固化した後、粉状化し散布し、酒類含有乳化組成物層を形成する前記酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルコール分が16〜40重量%の酒類含有乳化組成物層とチョコレート層を多層とすることで、酒類を含有したチョコレートコーティングを実現し、センターをナッツ類とすることで豊かな「香り」と「風味」が十分に引き出されたナッツ食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品は、ナッツ類をセンターとし、アルコール分が16〜40重量%の酒類含有乳化組成物層とチョコレート層とがそれぞれ2層以上からなる多層構造を有することを特徴とする。
本発明では、アルコール分が16〜40重量%のように高含有率を実現しているため、香りと風味とを十分に引き出すことができる。また、本発明では、前記酒類含有乳化組成物層が乳化形態をとっているため、トップの「香り」と「風味」がよく感じられ、非常に美味なナッツ食品となる。
【0014】
本発明に用いるナッツ類は、例えばアーモンド、ピーナッツ、カシュー、ピスタチオなどがあり、生でもよいが、適度に焙煎したものがより好ましい。
ナッツ類の大きさとしては、通常の菓子類で使用される大きさであればよく特に限定はない。
【0015】
本発明において酒類含有乳化組成物に用いる酒類は、ブランデー、ラム、ウィスキー、焼酎、ウォッカなどの蒸留酒、コワントロー、クレームドカカオ、ペパーミント、梅酒などのリキュール類或いはぶどう酒、日本酒などの発酵酒、カクテル類などの酒税法によるものが使用できる。また、エチルアルコールと水溶液と混合したものや、前記酒類にエチルアルコールを添加調整した可食性アルコールの水溶液が使用できる。また、いずれの酒類を2種類以上混合して使用できる。
【0016】
前記酒類含有乳化組成物に用いるチョコレートは、公正規約等の法的規制により限定されるものではなく、また、テンパリングタイプ、ノーテンパリングタイプであることを問わない。
【0017】
前記酒類含有乳化組成物は、前記酒類とチョコレート以外に水溶性香料、油溶性香料、乳化香料、抽出物など、乳化、冷却固化を阻害しなければ含有してもよい。
【0018】
本発明においては、前記酒類含有乳化組成物が冷却固化されているものをかけるため、ボテないという利点がある。なお、均一に散布するため、冷却固化した後、メッシュにかけ押し出して粉状化するなどが望ましい。
【0019】
また、前記酒類含有乳化組成物とは別のチョコレート層に用いるチョコレートに関しても、前記と同様であるが、コーティングに適したテンパリングタイプが望ましい。
【0020】
本発明においては、前記ナッツ類に前記酒類含有乳化組成物層とチョコレート層とがそれぞれ2層以上からなる多層構造を有する点に一つの特徴がある。このように多層構造をすることで、アルコールを含有したチョコレートコーティングを実現できるという利点がある。
得られるコーティング全体の厚みとしては、ナッツ類の種類、大きさ、酒類含有乳化組成物中のアルコール含量などにより一概に限定はできないが、例えば、0.5〜5mm程度であればよい。
【0021】
本発明の酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品は、ナッツ類のセンターを、転動させ、液状のチョコレートを散布し、次に予め酒類とチョコレートを攪拌し混合乳化、冷却固化した酒類含有乳化組成物を散布し、冷却固化させることで得ることができる。
【0022】
具体的には次のように製造することができる。
予め、常温で酒類と35℃以上で溶解したチョコレートを激しく攪拌し混合乳化させ出来た酒類含有乳化組成物を冷却固化したものを準備する。前記酒類含有乳化組成物を均一にかけるため、メッシュにかけ押出して粉状化するなどおこなってもよい。メッシュに特に規定はないが散布してムラにならない程度の大きさで、好ましくは10メッシュから30メッシュである。
なお、前記酒類含有乳化組成物の混合乳化、冷却固化は公知の手法に基づいて行えばよい。
【0023】
まず、コーティングパンにナッツ類のセンターを入れておき、溶解したチョコレートをセンターに均一に散布する。この操作を1回以上行いチョコレート層を形成する。
ナッツ類はホールに限らずクラッシュしたものや、カットしたものでも使用でき形状にも特に制限はない。室温20〜25℃、コーティングパンは、10〜50rpmで回転させながら操作を行う。
【0024】
酒類含有乳化組成物層は、冷却固化させ、必要であれば粉状化させた酒類含有乳化組成物を、チョコレート層が冷却固化する直前に散布し冷却固化させることで形成する。
【0025】
本発明では、上記のようなチョコレート層の形成と酒類含有乳化組成物層の形成の操作を2回以上繰り返して行う。また、チョコレート層と酒類含有乳化組成物層の好ましい重量比率(チョコレート層:酒類含有乳化組成物層)は、センターの大きさにより一概に限定できないが、均一な層を形成させるためには、2:1〜7:1が好ましく、4:1付近がより好ましい。チョコレート層の比率を増加させると酒類含有チョコレートのアルコール分が希釈され「香り」「風味」が弱くなる。各々の層が交互に少なくともそれぞれ2層以上となるように多層を形成することで目的のナッツ食品が得られる。
【0026】
以上のようにして得られる本発明のナッツ食品は、チョコレートやナッツに加えて、アルコール由来の「香り」と「風味」をも備えたものであり、豊かな「香り」と「風味」を楽しむことができる菓子類である。
【実施例】
【0027】
次に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
室温20℃で下記表1に示す組成でアルコール度数80°のラムと40℃で溶解したチョコレートを混合し、ハンドミキサー用いて激しく攪拌し混合乳化させた。後に室温にて冷却固化し、25メッシュサイズのメッシュにかけ押出して粉状化させておいた乳化組成物を準備した。この酒類含有乳化組成物1のアルコール分は32重量%である。
【0029】
【表1】

【0030】
センターとなる焙煎したホールアーモンド100gをコーティングパン(容量1L、以下の例でも同じ)に投入し、回転数15rpmで回転させながら溶解したチョコレートをセンターに均一に散布する。チョコレート層が冷却固化する直前に前記粉状化させた酒類含有乳化組成物1を散布し冷却固化させ形成する。チョコレートと酒類含有乳化組成物1の投入する割合は、重量比で酒類含有乳化組成物を1部に対し、チョコレートを4部という割合でコーティングを行った。上記のようなチョコレート層の形成と酒類含有乳化組成物層の形成との操作を繰り返して行い全重量が500gとなるところまで多層を形成した。この多層の酒類含有チョコレートのアルコール分は6.4重量%であり、ナッツ食品中5.1重量%である。
【0031】
このナッツ食品はラムを含有したチョコレートコーティングを実現し、豊かな「香り」「風味」が十分に引き出されたナッツ食品であった。
【0032】
(実施例2)
室温20℃で下記表2に示す組成でアルコール度数50°のブランデーと40℃で溶解したチョコレートを混合し、ハンドミキサーを用いて激しく攪拌し混合乳化させた。後に20℃にて冷却固化し、25メッシュサイズのメッシュにかけ押出して粉状化させておいた乳化組成物を準備した。この酒類含有乳化組成物2のアルコール分は20重量%である。
【0033】
【表2】

【0034】
センターとなる焙煎し殻から取り出したピスタチオ100gをコーティングパンに投入し、回転数15rpmで回転させながら溶解したチョコレートをセンターに均一に散布する。チョコレート層が冷却固化する直前に前記粉状化させた酒類含有乳化組成物2を散布し冷却固化させ形成する。チョコレートと酒類含有乳化組成物2の投入する割合は、重量比で酒類含有乳化組成物2を1部に対し、チョコレートを2部という割合でコーティングを行った。上記のようなチョコレート層の形成と酒類含有乳化組成物層の形成の操作を繰り返して行い全重量が400gとなるところまで多層を形成した。この多層の酒類含有チョコレートのアルコール分は6.7重量%であり、ナッツ食品中5.4重量%である。
【0035】
このナッツ食品はブランデーを含有したチョコレートコーティングを実現し、豊かな「香り」「風味」が十分に引き出されたナッツ食品であった。
【0036】
(比較例1)
室温20℃とし、センターとなる焙煎したホールアーモンド100gをコーティングパンに投入した。回転数15rpmで回転させながら下記表3に示す組成で2℃に冷却したアルコール度数40°のラムと、40℃で溶解したチョコレートを混合し、ハンドミキサーを用いて激しく攪拌し混合乳化させた液状の酒類含有乳化組成物3を散布した。しかし、酒類含有乳化組成物3にボテが生じて、アーモンド同士がくっつく現象が起き、コーティングが不可能であった。
【0037】
【表3】

【0038】
(比較例2)
室温20℃で下記表4に示す組成で2℃に冷却したアルコール度数45°のラムと40℃で溶解したチョコレートを混合し、ハンドミキサーを用いて激しく攪拌し混合乳化させた。後に室温にて冷却固化し、25メッシュサイズのメッシュにかけ押出して粉状化させておいたものを準備した。この酒類含有乳化組成物4のアルコール分は15重量%である。
【0039】
【表4】

【0040】
センターとなる焙煎したホールアーモンド100gをコーティングパンに投入し、回転数15rpmで回転させながら溶解したチョコレートをセンターに均一に散布する。チョコレート層が冷却固化する直前に前記粉状化させた酒類含有乳化組成物4を散布し冷却固化させ形成する。チョコレートと酒類含有乳化組成物の投入する割合は、重量比で酒類含有乳化組成物4を1部に対し、チョコレートを4部という割合でコーティングを行った。上記のようなチョコレート層の形成と酒類含有乳化組成物層の形成の操作を繰り返して行い全重量が500gとなるところまで多層を形成した。この多層の酒類含有チョコレートのアルコール分は、3.0重量%であり、ナッツ食品中2.4重量%である。
得られたこのナッツ食品はラムを含有したチョコレートコーティングを実現しているものの、ラムの「香り」、「風味」に乏しいナッツ食品であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナッツ類をセンターとし、チョコレート中にアルコール分が16〜40重量%含有する酒類含有乳化組成物層とチョコレート層とがそれぞれ2層以上からなる多層構造を有することを特徴とする酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品。
【請求項2】
ナッツ類のセンターを、転動させ、液状のチョコレートを散布し、次に予め酒類とチョコレートを攪拌し混合乳化、冷却固化した乳化組成物を散布し、冷却固化させることを特徴とする請求項1記載の酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品の製造方法。
【請求項3】
前記酒類含有乳化組成物を冷却固化した後、粉状化し散布し、酒類含有乳化組成物層を形成する請求項2記載の酒類含有チョコレートでコーティングされたナッツ食品の製造方法。

【公開番号】特開2010−29149(P2010−29149A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196818(P2008−196818)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】