説明

酵母を利用した精糖方法

【課題】複数種の糖質の混合する糖原料から、酵母を利用して目的の糖質以外の糖質を資化させることにより目的の糖質の含有率を高める精糖方法において、グリセロールが精製糖中に実質的に残存しない精糖方法を提供すること。
【解決手段】酵母、特にパン酵母(Saccharomyces
cerevisiae)又はビール酵母(Saccharomyces
pastorianus)で、目的の糖質の資化能がなく、且つグリセロールの資化性能の高いものを用いて好気的に処理することにより、複数種の糖質の混合する糖原料から目的の糖質以外の糖質を酵母が資化し、且つ糖精製物中にグリセロールの残存が実質的に認められないため、目的とする糖質のみを高純度で得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な精糖方法に関する。より詳細には、複数種の糖質の混合する糖原料から、酵母を利用して目的の糖質以外の糖質を資化させることにより目的の糖の含有率を高める精糖方法において、グリセロールが糖精製物中に実質的に残存しない精糖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、酵母を利用した精糖方法について幾つかの提案がなされてきた。例えば、特許文献1では、糖混合物から高純度のL−アラビノースを簡便な操作でしかも安価に取得する方法として、L−アラビノースとL−アラビノース以外の単糖が1種類以上混在するL−アラビノース含有糖混合物に、L−アラビノース資化能のない微生物を作用させてL−アラビノース以外の単糖を1種類以上資化させることによりL−アラビノースの含有率を高めることを特徴とするL−アラビノースの精製方法が提案されている。
【0003】
特許文献2では、L−アラビノースとD−キシロースを含む溶液を、D−キシロースを選択的に資化する酵母で処理することを特徴とするL−アラビノースの分離方法が提案されている。
【0004】
特許文献3では、マルトースを主成分とし、グルコースを副成分として含有するでん粉糖液を、サッカロミセス属、トルロプシス属又はピヒア属に属し、グルコースを資化し、マルトースを資化しない酵母で処理することを特徴とする高純度マルトースの製造方法が提案されている。
【0005】
特許文献4では、タマリンド種子キシログルカンに、エンド−1,4−β−グルカナーゼ及びβ−ガラクトシダーゼを作用させた後、ガラクトース資化性菌を作用せしめてガラクトースを選択的に消費せしめ、キシログルカンオリゴ7糖を製造する方法が提案されている。
【0006】
特許文献5では、デンプン分解物を含有する糖液に、サッカロマイセス属の酵母菌体を添加し、糖液中のマルトトリオース以下の低分子オリゴ糖を資化させて得たマルトテトラオース以上を含有するデンプン分解物、及びその糖液と酵母菌体を精密濾過膜または限外濾過膜を用いて分離することを特徴とするデンプン分解物の製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献6では、タマリンド種子由来のキシログルカンに、エンド−1,4−β−グルカナーゼを作用させ、キシログルカンの繰り返し構造単位に由来するオリゴ糖鎖の混合物を生じさせ、続いて、該混合物に、ゲオトリカム属に属し、キシログルカンオリゴ7糖及び8糖を選択的に資化し得る能力を有する微生物を接種して培養し、オリゴ9糖以外のオリゴ糖を選択的に消費させた後、培養物よりオリゴ9糖を回収することを特徴とするキシログルカンオリゴ9糖の製造方法が提案されている。
【0008】
特許文献7では、マルトースを主成分とし、グルコースを副成分として含有するでん粉糖液を、キャンディダ属に属し、グルコースを資化し、マルトースを資化しない酵母の固定化菌体で処理することを特徴とする、実質的にグルコースを含まない高純度マルトースの製造方法が提案されている。
【0009】
特許文献8では、ナガマツモ科(Chordariaceae)又はモズク科(Spermatochnaceae)の海藻を酸にて加水分解し、アルカリで中和した後、酵母を加えL−フコース以外の糖類を資化せしめ、脱色、脱イオン等の精製処理をした後、濃縮、結晶化せしめることを特徴とするL−フコースの製造方法が提案されている。
【0010】
特許文献9では、マンナンまたはマンナン含有天然物をβ−1,4−マンナナーゼにて酵素加水分解したのち、酵母カンディダ・グィリエルモンディー(Candida guilliermondii)を用いてβ−1,4−マンノトリオース以外の酵素加水分解液中に残存する糖を資化させることを特微とするβ−1,4−マンノトリオースの製造方法が提案されている。
【0011】
【特許文献1】特開2002-209597号公報
【特許文献2】特開2002-262899号公報
【特許文献3】特開平5-219977号公報
【特許文献4】特開平7-031491号公報(特許第3482454号公報)
【特許文献5】特開平9-143191号公報
【特許文献6】特開平11-127888号公報(特許第3032817号公報)
【特許文献7】特開昭61-104794号公報(特公平6-40830号公報)
【特許文献8】特開昭63-027496号公報(特公平7-45510号公報)
【特許文献9】特開昭63-309196号公報(特許第2591956号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまでの酵母を利用した精糖方法においては、酵母は比較的低分子の糖質を資化するものの、酵母の発酵代謝産物であるグリセロールが糖精製物と共に残存していたため、更にこのグリセロールをクロマト法により除去するという工程が必要であった。しかしながらグリセロール除去のためのクロマトを行う場合、そのための設備投資あるいはそれに付随する原料等が必要となるため、過剰なコストの支出を余儀なくされる。ゆえに、本発明が解決しようとする課題は、複数種の糖質の混合する糖原料から、酵母を利用して目的の糖質以外の糖質を資化させることにより目的の糖の含有率を高める精糖方法において、グリセロールが糖精製物中に実質的に残存しない精糖方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らによる鋭意研究の結果、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)もしくはビール酵母(Saccharomyces pastorianus)の中から、特に目的の糖質の資化能がなく、且つグリセロールの資化性能の高い菌株を選抜して用い、好気的に処理することにより、複数種の糖質の混合する糖原料から目的の糖質以外の糖質を酵母が資化し、且つ糖精製物中にグリセロールの残存が実質的に認められないため、目的とする糖質のみを高純度で得ることが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
(1)複数種の糖質の混合する糖原料から、酵母を利用して目的の糖質以外の糖質を資化させることにより、糖精製物中の目的の糖質の含有率を高め、かつ糖精製物中に実質的にグリセロールが残存しないことを特徴とする、精糖方法。
(2)実質的にグリセロールが残存しない状態が、糖精製物中に含まれるグリセロール含量が0.5%(w/v)以下、望ましくは0.2%(w/v)以下、更に望ましくは0.1%(w/v)以下の状態であることを特徴とする、前記(1)に記載の精糖方法。
(3)目的の糖質がアラビノース、リボース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース、セドヘプツロース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトトリオース、ラフィノース、シクロデキストリン、マルトテトラオース、スタキオース、マルトペンタオース、乳果オリゴ糖、クラフトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、パラチノース、グリセロール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、デオキシリボース、フコース、ラムノースのうちの1つまたは2つ以上であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の精糖方法。
(4)酵母が、目的の糖質を資化せず、かつグリセロールを資化する酵母であることを特徴とする、前記(1)から(3)のいずれかに記載の精糖方法。
(5)酵母がSaccharomyces属の酵母であることを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載の精糖方法。
(6)Saccharomyces属の酵母が、Saccharomyces cerevisiae、又はSaccharomyces pastorianusであることを特徴とする、前記(5)に記載の精糖方法。
(7)Saccharomyces cerevisiaeが産総研寄託番号:FERM AP-20685、又はSaccharomyces pastorianusが産総研寄託番号:FERM AP-20686であることを特徴とする、前記(6)に記載の精糖方法。
(8)目的の糖質以外の糖質の資化において、通気及び/又は攪拌を行うことを特徴とする、前記(1)から(7)のいずれかに記載の精糖方法。
(9)通気が、Kla値:300〜400(h-1)の条件で行われることを特徴とする、前記(8)に記載の精糖方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、グリセロールが実質的に残存しない糖精製物の調製が可能となるため、グリセロール除去のためのクロマト工程が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための最良の形態を記すが、以下の形態に限定されるものではない。
本発明は、複数種の糖質の混合する糖原料から、酵母を利用して目的の糖質以外の糖質を資化させることにより目的の糖の含有率を高める精糖方法において、グリセロールが糖精製物中に実質的に残存しない精糖方法である。
【0017】
本発明の精糖方法において使用する糖原料としては、複数種の糖質の混合物であれば特に問題なく、例えば馬鈴薯澱粉、かんしょ澱粉、タピオカ澱粉、小麦粉澱粉を酵素や酸で処理することにより得られる澱粉糖化液(水飴)、メープルシュガー、蜂蜜、ヤシ糖のような原料を酵素や酸で処理し分解することにより得られる複数種の糖質の混合物が使用可能である。また、以下に列挙する糖質のうちの2つ以上を含む溶液を上記糖原料とすることも可能である。
【0018】
<単糖類>
(五炭糖)アラビノース、リボース、キシロース、リキソース
(六炭糖)アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース
(七炭糖)セドヘプツロース
<二糖類>
マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、
<オリゴ糖>
(三糖類)マルトトリオース、ラフィノース、シクロデキストリン
(四糖類)マルトテトラオース、スタキオース
(五糖類)マルトペンタオース、
(その他オリゴ糖)乳果オリゴ糖、クラフトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、パラチノース
<糖アルコール>
グリセロール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール
<その他>
デオキシリボース、フコース、ラムノース
【0019】
本発明の精糖方法では、目的の糖質以外の糖質を優先的に資化しうる菌株の酵母菌体を用いる。このような酵母は、当業者に入手可能な酵母、例えば、市販のパン酵母、ビール酵母等を、後述するスクリーニング方法に供して選抜することにより、得ることができる。選抜された菌株は、Saccharomyces属に属するもの、Saccaromycodes属に属するもの、又はSchizosaccaromycesに属するものでありうる。例えば、Sccharomyces cerevisiae、Saccharomyces pastorianus、Saccharomyces carlsbergensis(Saccharomyces uvarum)、Saccharomyces diastaticus、Saccharomyces rouxii、Saccaromycodes ludwigii、Schizosaccaromyces pombe又はSchizosaccaromyces octosporusの菌株でありうる。より好ましくはSccharomyces cerevisiae又はSaccharomyces pastorianusの菌株を供するとよい。
【0020】
本発明の精糖方法に使用しうる酵母菌株のスクリーニング方法は、例えば以下のようにして実施することができる。すなわち、目的の糖質とそれ以外の任意の糖質とを適切な糖濃度に混合したものを調製し、候補となる酵母菌株を糖液に添加し、資化に適した温度で、必要に応じ通気及び/又は振とうしながら、一定時間(例えば、120分以上)培養する。培養期間中、炭酸ガス発生量を単位時間(例えば、30分)毎に測定する。そして、炭酸ガスの発生量が一旦急激に低下した後に培養を停止し、培養液を遠心分離の後上澄みを調製し、HPLC又は糖質検出試薬例えばF-kit(ロッシュ社製)を使用し、培養前後の各糖質の濃度変化を測定し、目的の糖質の濃度の減少が少なく、かつそれ以外の糖質の濃度の減少が大きい菌株を選抜する。
【0021】
更に本発明の精糖方法において使用される酵母は、グリセロール資化性の高い、すなわち糖精製物中のグリセロール濃度が少ないことが求められるため、上記[00]により得られた糖精製物中のグリセロール含量をHPLIC等により測定し、グリセロール含量の少ない菌株を上記でスクリーニングされた酵母の中から選抜する。
【0022】
このようにして選抜された酵母菌株としては、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)においては寄託菌株(FERM AP-20685)、ビール酵母(Saccharomyces pastorianus)においては寄託菌株(FERM AP-20686)が挙げられる。
【0023】
あるいは、本発明の精糖方法に使用する酵母菌株は、本発明の目的に合致する酵母を自然界からスクリーニングすることや、突然変異処理して目的とする菌株を選抜することで得ることができる。なお、突然変異処理としては、γ線、紫外線、温度差等物理的処理のほか、エチジウムブロマイド、ナイトロジェンマスタード、ジエポキシブタン、コルヒチン、パーオキサイド、プリン誘導体等変異誘導剤処理といった常法が広く利用することができる。
【0024】
本発明の精糖方法は、目的の糖質以外の糖質を資化させる際、通気及び/又は攪拌を行い、糖原料に酸素供給を行うことを特徴とする。通気は常法により行うことが可能であり、また糖原料の処理のスケールにより必要に応じて攪拌を行うことも可能である。なお、通気及び/又は攪拌により、糖原料中のKla値を300〜400(h-1)に維持するのが望ましい。Kla値が300未満であると酵母に充分な酸素供給が行われなくなる結果、目的以外の糖質の資化が十分行われず、また糖生成物中のグリセロール含量が増加するため望ましくない。またKla値が400以上であるとその増加に見合うだけの効果が見られない。なお、Kla値の測定に関しては、公知の方法、例えば、Dynamic Method法、亜硝酸酸化法、電極法(Gassing Out法)、Static Method法、排ガス分析法により、行うことができる。
【0025】
本発明の精糖方法は、主に通気を伴うバッチ培養により行うのが望ましく、必要に応じて攪拌を行うことも可能である。その他の条件、例えば酵母菌体及び澱粉糖化液の仕込量、反応温度、反応時間、通気量、撹拌速度等は、当業者であれば、適切に設定することができ、また、培養の途中で酵母の栄養源となるミネラル・ビタミン・窒素源等を添加することも可能である。この工程は、糖原料中の目的以外の糖質及びグリセロールが充分に資化されるまで行うことができる。
【0026】
本発明の精糖方法は、それにより得られる糖精製物中にグリセロールが実質残存しないことを特徴とする。すなわち、糖原料を酵母により反応させ、得られた糖精製物に含まれるグリセロール含量が0.5%(w/v)以下、望ましくは0.2%(w/v)以下、更に望ましくは0.1%(w/v)以下である。
【実施例1】
【0027】
以下に本発明の実施例を示すが、以下の実施例に限定されるものではない。
(菌株の一次選抜)
出願人が保有する酵母菌株40種から、本発明の用途に使用可能な酵母菌株の選抜を行った。菌株の選抜は、以下の液発酵力試験培養を行い、培養開始後150分後の間に、ガス(CO2)発生量の急激な低下及びその後の回復が見られるか否かを指標に行った。すなわち、培養開始直後にグルコース等の低分子を資化し、それによる一時的なガス発生量の急激な低下が見られるが、その後細胞内の各種酵素の誘導によりグルコース以上の糖の資化が開始され、ガス発生量が回復するという性質を利用するというものである。
<液発酵力試験>
100ml容三角フラスコに液発酵基質15mlと適当な濃度(10%乃至20%)のイーストサスペンジョン5 mlを添加し、30℃で振とうしたときの炭酸ガス発生量を30分毎に測定した。なお、ガス発生量の測定には、発酵力試験装置 TIC-3S(高崎科学器械株式会社)を用いた。液発酵基質は、グルコースを5質量%、ガラクトースを15質量%含有する糖液を調製し、MV液と硫安を添加することにより調製した。なお、MV液の組成は表1のとおりである。
【表1】

【0028】
この液発酵力試験において、ガス発生量の急激な低下及びその後の回復が見られた菌株として5菌株を得ることができた。また、これら5菌株における糖液中のグルコース濃度をF-kit(ロッシュ社製)により測定したが、グルコースは検出されなかった。
【0029】
(菌株の二次選抜)
一次選抜された上記5菌株につき、更に糖液中のグリセロール濃度を同様にF-kit(ロッシュ社製)により測定した。グリセロール濃度の低いもの、すなわちグリセロールの資化性が高い菌株として、Saccharomyces cerevisiae及びSaccharomyces pastorianusでそれぞれ1菌株ずつが選抜された。なお、それらの菌株は現在独立行政法人産業技術総合研究所において寄託番号:FERM AP-20685及びFERM AP-20686としてそれぞれ寄託されている。
【実施例2】
【0030】
実施例1において選抜した2菌株を用い、グルコース以外の糖としてマンノース(六炭糖単糖)、キシロース(五炭糖単糖)、ラフィノース(三糖)、キシリトール(五炭糖単糖アルコール)又はソルビトール(六炭糖単糖アルコール)のうちいずれかを各15質量%、並びにグルコース5質量%を含有する糖液を調製し(表2)、それをパン酵母によって資化させ、左記糖液からグルコース及びグリセロールの除去が可能か否かを検討した。また、栄養源として前記MV液を10ml添加した。
【表2】

【0031】
本実施例は200ml容メスシリンダーを用い、上記組成の糖溶液を100 ml仕込み、通気流量0.4L/min、反応温度30℃、反応時間24時間にて行った。各試験区とも湿重量で5gずつ(液量あたり5質量%)添加した。なお、反応時のKla値は315であった。反応終了後、パン酵母により処理した上記糖液を3500rpm、10分間遠心分離し、その上清を採取し、さらに0.2μmのメンブレンフィルターにて濾過し、分析用サンプルとした。糖分析は、マンノース、キシロース、ラフィノース、メリビオースにおいてはHPLCを用い、これ以外の糖についてはF-kit(ロッシュ社製)を用いた。
【0032】
グルコースは全試験区においてほぼ全量資化され、脱糖がなされていた。また、グルコース以外の糖については、糖分析の結果、マンノースにおいては、FERM AP-20685及びFERM AP-20686ともにマンノースを全量資化していることを確認した。両イーストともキシロースおよびラフィノースの場合1〜2質量%程度資化もしくは分解していることを確認した。またキシリトール、ソルビトールについてはほとんど資化されていなかった。結果を表3及び図1に示す。なお、ラフィノースについては、酵母細胞由来のインベルターゼによりメリビオースが生成するため、表中の数値はメリビオースの濃度である。
【表3】

【0033】
グリセロールの残存については、基質にマンノースを添加した試験区においてはグリセロール残存濃度が高くなったが、その他の糖については、キシロース及びラフィノースにおいてFERM AP-20685を用いた場合グリセロールの残存が若干見られたものの、FERM AP-20686及びFERM AP-20686ともにグリセロールの実質的残存が見られず、本発明の精糖方法に使用可能であることが明らかとなった。結果を表4及び図2に示す
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例2において、選抜された2菌株FERM AP-20685及びFERM AP-20686を用いて脱糖を行った後の、糖溶液中に含まれるグルコース以外の糖の濃度を示すグラフである。
【図2】実施例2において、選抜された2菌株FERM AP-20685及びFERM AP-20686を用いて脱糖を行った後の、糖溶液中に含まれるグリセロールの濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の糖質の混合する糖原料から、酵母を利用して目的の糖質以外の糖質を資化させることにより、糖精製物中の目的の糖質の含有率を高め、かつ糖精製物中に実質的にグリセロールが残存しないことを特徴とする、精糖方法。
【請求項2】
実質的にグリセロールが残存しない状態が、糖精製物中に含まれるグリセロール含量が0.5%(w/v)以下、望ましくは0.2%(w/v)以下、更に望ましくは0.1%(w/v)以下の状態であることを特徴とする、請求項1に記載の精糖方法。
【請求項3】
目的の糖質がアラビノース、リボース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フルクトース、セドヘプツロース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトトリオース、ラフィノース、シクロデキストリン、マルトテトラオース、スタキオース、マルトペンタオース、乳果オリゴ糖、クラフトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、キシロオリゴ糖、パラチノース、グリセロール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、デオキシリボース、フコース、ラムノースのうちの1つまたは2つ以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の精糖方法。
【請求項4】
酵母が、目的の糖質を資化せず、かつグリセロールを資化する酵母であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の精糖方法。
【請求項5】
酵母がSaccharomyces属の酵母であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の精糖方法。
【請求項6】
Saccharomyces属の酵母が、Saccharomyces cerevisiae、又はSaccharomyces pastorianusであることを特徴とする、請求項5に記載の精糖方法。
【請求項7】
Saccharomyces cerevisiaeが産総研寄託番号:FERM AP-20685、又はSaccharomyces pastorianusが産総研寄託番号:FERM AP-20686であることを特徴とする、請求項6に記載の精糖方法。
【請求項8】
目的の糖質以外の糖質の資化において、通気及び/又は攪拌を行うことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の精糖方法。
【請求項9】
通気が、Kla値:300〜400(h-1)の条件で行われることを特徴とする、請求項8に記載の精糖方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−215501(P2007−215501A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41023(P2006−41023)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】