説明

酵母細胞壁画分の製造方法

【課題】ハンドリング性に優れ、成分組成も良好な酵母細胞壁画分の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)酵母菌体を、自己消化または酵素反応に供することなく機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去することによって、粗酵母細胞壁画分を調製する工程;(b)工程(a)で取得した粗酵母細胞壁画分を機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程;場合により、(c)工程(b)で取得した酵母細胞壁画分を、酵素処理と機械的破壊処理との同時処理に供し、液画分を分離処理し、酵母細胞壁画分を回収する工程をさらに含む、酵母細胞壁画分の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母細胞壁画分の製造方法、該方法により製造される酵母細胞壁画分、および該酵母細胞壁画分を含む腸内環境改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母細胞壁は、現在さまざまな用途で使用されており、食品、食品添加物、飼料等の分野で使われている。特に食品関係では、腸内環境を改善させる機能性食品素材、健康食品等の錠剤等へのコーティング剤や香料のマイクロカプセル基材等の食品添加物として使用されている。機能性食品としては、免疫賦活、腸内環境改善、消臭等の生理機能が報告されており、様々な機能性食品素材で使用されている。酵母細胞壁素材の原体は一般には、酵母エキス製造時の副製品として発生したものであるが、酵母を自己消化や酵素反応することで細胞質画分をエキス分として可溶化し、固液分離により不溶性画分を採取することで得られる。得られた細胞壁画分はそのままの状態では、酵母臭・茶褐色の濃い色調・独特の味等の欠点があり、食品素材や食品添加物としては一般に使用しにくい。これまで様々な方法で上記欠点を改善する技術が開発・検討されてきており、オゾンや過酸化水素による方法(特許文献1)、アルカリエタノール処理(特許文献2)、アルカリ・酸処理を行う(特許文献3)等の化学的な方法により、酵母臭や色を低下させた方法が開発されてきた。また、物理的な処理による方法として、酵母あるいは酵母細胞壁に対し、高圧ホモジナイゼーション処理のような高圧分散処理を行う方法が、特許文献4や特許文献5等に示されている。
【0003】
特許文献1乃至3のような方法による処理は、化学的な処理を伴い、近年、食品としての安全性や天然物志向の高まりから、実際には使用しにくい。また、有機溶媒などを使用するため、付随する設備による高コストや環境問題的にも実際の使用は難しい。
【0004】
特許文献4のような物理的な処理方法によるものも、処理過程での酵素反応やメイラード反応の影響を受け、特有の味や酵母臭、色等が抜けにくくなり、含有する食物繊維含量も上昇しにくくなるケースが多くなる。また、特許文献5のように酵母細胞壁画分の特有の味や酵母臭、色を十分なレベルまで低下させ、食物繊維含量を60%以上まで上げる高圧分散処理を行った場合、酵母細胞壁画分の粘度が急激に高まり、ペースト状になるため、工程のハンドリング性が大きく低下するとともに、含水率が高まり、乾燥が行いにくくなる欠点もあった。
【0005】
さらに、特許文献6では酵母細胞壁画分を摂取することにより腸内細菌叢が改善されるとともに、腸管環境の改善に寄与する有機酸の産生促進および腸内pHの低下効果があるとされていたが、腸内環境改善に有効な有機酸を特異的に産生し、腸内環境に好ましくないとされる有機酸が産生されにくい作用については確認されていなかった。
【0006】
【特許文献1】特許第298976号公報
【特許文献2】特許第3407125号公報
【特許文献3】特開2004-113246号公報
【特許文献4】特許第3432342号公報
【特許文献5】特許第3502341号公報
【特許文献6】特開2001-55338号公報
【特許文献7】国際公開第WO 90/04334号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術では、化学的な処理を行うこと無く酵母臭や色度を低下させた酵母細胞壁画分として、上記特許文献5に示されるようなものが存在するが、非常に粘度が高く、ハンドリング性や乾燥特性も悪いため、粘度を低下させた酵母細胞壁画分が望まれていた。また、酵母細胞壁の有する短鎖脂肪酸供給源機能で腸内環境の悪化指標であるコハク酸の生成を抑え、酪酸・酢酸等の有用な短鎖脂肪酸の生成を促す酵母細胞壁画分が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するため、従来のように酵母エキスを抽出した残渣を原料として用いるのではなく、酵母菌体そのものを自己消化や酵素処理することなく機械的破壊処理に供して菌体内部の細胞質を粗酵母細胞壁画分から遠心分離除去し、該粗酵母細胞壁画分を機械的破壊処理またはこれと酵素反応との同時処理に供することで、低粘度かつ特有の味や酵母臭、色を低下し、食物繊維含量が60%以上ある酵母細胞壁画分を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を包含する:
(1)以下の工程:
(a)酵母菌体を、自己消化または酵素反応に供することなく機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去することによって、粗酵母細胞壁画分を調製する工程;および
(b)工程(a)で取得した粗酵母細胞壁画分を機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程;
を含む、酵母細胞壁画分の製造方法。
(2)工程(b)を複数回実施することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)(c)工程(b)で取得した酵母細胞壁画分を、酵素処理と機械的破壊処理との同時処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程をさらに含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(4)(c)工程(b)で取得した酵母細胞壁画分を、酵素反応に供し、続けて機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程をさらに含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の方法。
(5)機械的破壊処理が、高圧ホモジナイザーによる処理であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)酵素処理が、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、β-グルカナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、α-マンナナーゼ、マンノシダーゼ、及びフォスファターゼよりなる群から選択される少なくとも1種の酵素による処理であることを特徴とする、(3)または(4)に記載の方法。
(7)以下の工程:
(a)酵母菌体を、自己消化または酵素反応に供することなく機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去することによって、粗酵母細胞壁画分を調製する工程;および
(b)工程(a)で取得した粗酵母細胞壁画分を、酵素反応と機械的破壊処理との同時処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程;
を含む、酵母細胞壁画分の製造方法。
(8)機械的破壊処理が、高圧ホモジナイザーによる処理であることを特徴とする、(7)に記載の方法。
(9)酵素処理が、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、β-グルカナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、α-マンナナーゼ、マンノシダーゼ、及びフォスファターゼよりなる群から選択される少なくとも1種の酵素による処理であることを特徴とする、(7)または(8)に記載の方法。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法により得られる下記の物性を有する酵母細胞壁画分:
a)5%濃度、20℃の温度で1〜200mPa・sの粘度;
b)65%以上の食物繊維含量;
c)酵母エキス残渣から調製される酵母細胞壁画分と比較して、ラットでの摂取後の、酢酸、プロピオン酸および酪酸の合計有機酸産生量の増加をもたらす;
d)酵母エキス残渣から調製される酵母細胞壁画分と比較して、ラットでの摂取後の、コハク酸産生量の低下をもたらす;ならびに
e)40以下のスラリー色度。
(11)(10)に記載の酵母細胞壁画分を有効成分とする腸内環境改善剤。
(12)(10)に記載の酵母細胞壁画分、または(11)に記載の腸内環境改善剤を添加した飲食品。
(13)(10)に記載の酵母細胞壁画分、または(11)に記載の腸内環境改善剤を添加することを特徴とする飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、粘度が低く、食物繊維含量も高い酵母細胞壁画分を簡便に製造することができる。また、本発明の方法により製造される酵母細胞壁画分は、色度に優れ、タンパク質、脂質、灰分の量も少ないという特徴を有する。
【0011】
さらに、本発明の方法により製造される酵母細胞壁画分は、従来の方法により得られる酵母細胞壁画分に比較して、腸内環境の改善効果を向上させる有機酸濃度を増加し、かつ腸内環境に悪影響を及ぼすコハク酸濃度を低下することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、酵母細胞壁画分の製造方法、該製造方法により得られる酵母細胞壁画分、および該酵母細胞壁画分を含む腸内環境改善のための組成物に関する。
【0013】
酵母細胞壁画分の製造方法
本発明の酵母細胞壁画分の製造方法は、(1)酵母菌体から粗酵母細胞壁画分を調製する工程;および(2)前記粗酵母細胞壁画分から酵母細胞壁画分を調製する工程を含む。
具体的に、工程(1)は、酵母菌体を自己消化または酵素反応に供することなく機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去することを含む。ここで、「自己消化または酵素反応に供することなく」とは、機械的破壊処理の前段で、自己消化を助長する反応条件にする操作を行わないこと、また外部から酵素を添加しないことを意味する。
【0014】
粗酵母細胞壁画分は、一般的に、酵母菌体内の実質的に細胞質に相当する可溶性の菌体内成分(水または有機溶媒に可溶性の菌体内成分、例えば蛋白質、アミノ酸、糖質、核酸、有機酸、脂質など)を除去することによって得られる。従来の細胞質成分の除去方法は、酵母全体を自己消化や酵素分解等することや、これに併せてホモジナイズ処理を行い、細胞質成分を溶解させ、溶出除去する方法である。これに対し、本発明では、機械的破壊処理のみにより、菌体内の細胞質と外界とを通じさせ、水や有機溶媒で内部を洗い、物理的に可溶性・分散性の細胞質成分を溶出させることで、細胞質成分を除去することができる。
【0015】
本明細書で使用する「機械的破壊処理」とは、酵母菌体の細胞壁に亀裂や穴を生じさせて開孔部を形成する処理、または菌体を破砕する処理等を含む。
【0016】
細胞壁に開口部を形成するまたは菌体を破砕する機械的破壊方法は、物理的な方法であれば当業者に公知のいずれの方法を用いてもよく、これに限定されるものではないが、高圧ホモジナイザー等による高圧処理、各種衝撃波、パルス電圧、超音波、レーザー照射などを挙げることができる。また菌体を破砕する他の方法として、ガラスビーズ等のビーズを用いた破壊処理、凍結破壊などを使用することができる。
【0017】
本発明では、機械的破壊処理を高圧ホモジナイザー高圧分散処理によって行うことが好ましい。これは連続的に大量の処理が可能であるとの観点に基づくものである。
【0018】
高圧ホモジナイザーによる高圧分散処理の条件は、30〜500MPa、好ましくは、60〜200MPa、より好ましくは80〜150MPaである。
【0019】
液画分の分離除去方法として、水などの溶媒で希釈し、遠心分離する方法(「遠心洗浄」ともいう)などが挙げられるが、膜による分画法など、細胞壁と細胞質とを分離する方法であればどのような方法を用いてもよい。細胞質成分と粗細胞壁との分離に遠心洗浄を用いる場合、溶媒として通常の上水道水を用いることができるが、可溶化・分散化された細胞質画分の除去効率を低下させない範囲で、酸性水、アルカリ性水、エタノール含有水、各種塩類を含んだ水などを用いることも出来る。洗浄水の温度は、細胞質画分の除去効率を低下させない範囲であれば、いずれの温度でもよい。
【0020】
工程(2)は、工程(1)で取得した粗酵母細胞壁画分をさらに機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収することを含む。この工程は、1回または複数回実施することができる。
【0021】
粗酵母細胞壁画分には不溶性のタンパク質や脂質、灰分、低分子の糖質等が多く含まれており、機械的破壊処理による可溶化・微分散化処理と、洗浄とを十分行うことにより、粗酵母細胞壁画分中のタンパク質、脂質、灰分等は低減され、不溶性の糖質や食物繊維含量を高めた酵母細胞壁画分を得ることができる。機械的破壊処理による可溶化・微分散化および洗浄は、複数回実施することにより、粗酵母細胞壁画分中のタンパク質、脂質、灰分等を、十分に低減することが好ましい。また工程(2)で使用できる機械的破壊処理および液画分の分離除去方法ならびにその手順は、上記工程(1)と同様である。
【0022】
工程(2)の後に、好ましくは、上記のようにして回収した酵母細胞壁画分を、酵素処理と機械的破壊処理との同時処理、或いは酵素反応とそれに続く機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程(3)をさらに含むことができる。本明細書で使用する「酵素処理と機械的破壊処理との同時処理」とは、酵素反応と機械的破壊処理とを同時に行うことを指し、例えば、機械的破壊処理の間に酵素による酵素反応を行うこと、および酵素反応の間に機械的破壊処理を行うことを含む。この場合、酵素は、破壊処理前または処理中に添加し得る。
【0023】
酵素反応としては、酵母菌体内の酵素を使用するいわゆる自己消化法、外部からプロテアーゼ、ヌクレアーゼ、β−グルカナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、α-マンナナーゼ、マンノシダーゼ、フォスファターゼ等の酵素を添加する酵素添加方法、それらを併用する方法等、いずれも酵母菌体内成分を溶出させ、糖質または食物繊維含量を高める方法であれば、どのような酵素反応法をも用いることができる。酵素は、原核生物または真核生物由来の精製酵素、粗製酵素または固定化酵素のいずれでもよく、好ましくは細菌、酵母、菌類などの微生物由来の酵素である。
【0024】
酵素反応の条件は、使用する酵素の至適温度、至適pHまたはその近位の値に設定するものとし、反応時間、添加する酵素の量は、粗酵母細胞壁画分の量などに応じて当業者が適宜設定することができる。酵素の測定や性質については、例えば上代淑人ら編、酵素ハンドブック(朝倉書店)に記載されている。
【0025】
酵素反応の終了後は、遠心洗浄を行い、可溶化・分散化された成分を十分洗浄除去することが望ましい。また、得られた酵母細胞壁画分の糖質または食物繊維含量が不足している場合は、追加的に機械的破壊処理を行い、遠心洗浄を行ってもよい。なお、機械的破壊処理に高圧ホモジナイザーを用いる場合、高圧分散処理の条件は30〜500MPa、好ましくは60〜200MPa、より好ましくは80〜150MPaである。
【0026】
可溶性または分散性の成分の除去は、遠心分離を用いた遠心洗浄に限るものではなく、固液分離を基本とした操作で適切に酵母細胞壁画分が得られる方法であればいずれの方法を用いても問題ない。遠心洗浄に用いられる溶媒は、通常の上水道水を用いることができるが、可溶化・分散化された細胞質画分の除去効率を低下させない範囲で、酸性水、アルカリ性水、エタノール含有水、各種塩類を含んだ水を用いることも出来る。洗浄水の温度は、細胞質画分の除去効率を低下させない範囲であれば、いずれの温度でもよい。
【0027】
また、上記高圧分散処理、遠心洗浄を行った後、必要に応じて、有機溶剤処理、酸・アルカリ処理、塩浸漬、加熱処理を行いより純度の高い酵母細胞壁画分とすることもできる。
【0028】
代替的に、工程(2)は、工程(1)で取得した粗酵母細胞壁画分をそのまま酵素反応と機械的破壊処理との同時処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収することを含む。これにより、酵母菌体からの酵母細胞壁画分の製造を、より簡便かつ迅速に行うことができる。この場合に行う酵素反応、機械的破壊処理および液画分の分離除去は、上記と同様に行うことができる。
【0029】
本発明において、分類学上酵母に属するものであればどのような酵母を用いてもよく、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母、ピキア酵母(清酒酵母、アルコール醸造用酵母、味噌用酵母など)等を用いることができる。より具体的に、本発明で使用し得る酵母として、サッカロマイセス属のサッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)或いはサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、その他サッカロマイセス・ルーキシ(Saccharomyces rouxii)、サッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、サッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、サッカロマイセス・バイヤナス(Saccharomyces bayanus)、またはメタノール資化性酵母であるキャンディダ属のキャンディダ・ウティリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・フレーベリ(Candida flaveri)、キャンディダ・ボイジニィ(Candida boidinii)等を、更に、ロドトルラ・ミニュータ(Rhodotrura minuta)等を例示することができる。
【0030】
そして、これらの酵母は、単独でまたは組合せて使用することができる。また、酵母としては生酵母を用いることが好ましいが、乾燥酵母等の生酵母以外の形態の酵母を用いる場合であっても、例えば水中等に懸濁して生酵母同様に処理することもできる。さらに、使用する酵母の形状や大きさに特に制限はないが、形状としてはなるべく球形に近い形状のものが好ましく、また、その大きさは1〜20μmの範囲のものが好ましい。
【0031】
酵母菌体は適当な増殖条件で培養したもので良いが、好ましくは低温での発酵過程を経たものが好ましく、さらに好ましくは、ビール・発泡酒等の発酵過程で発生した酵母菌体を使用することが好ましい。
【0032】
また、各種酒類などの発酵で使用された酵母には、発酵液などが含まれていたり不純物が含まれていたりすることもあるため、異物の除去や水による洗浄を行ってもよい。また、ビール等で使用された場合は、酵母表層に苦味物質など不快な成分が付着していたりする場合があるため、素材への不快物質の移行を防ぐためにも、苦味成分をアルカリおよび/または酸性条件で溶解後に遠心水洗浄することも好ましい。遠心分離に用いられる溶媒は、通常の上水道水を用いることができるが、酸性水、アルカリ性水エタノール含有水、各種塩類を含んだ水を用いることもできる。
【0033】
本発明の酵母細胞壁画分の特徴
上記方法により製造される酵母細胞壁画分の特徴を下記に示す。
【0034】
酵母細胞壁画分の成分値
本発明の酵母細胞壁画分の食物繊維含量は乾燥物重量あたり65重量%以上100重量%未満であり、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上である。ここで、食物繊維含量は上記特許文献5に示されている以下の酵素−重量法により測定した値である。500mlトールビーカー2個に採取量の差が20mg以内であるように試料を乾燥重量として1gずつ分取し(S)、0.08mol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)を50mlずつ、およびターマミル120L(Novozyme)を0.1mlずつ添加し、沸騰水中で約5分間隔で振とうしながら30分間加熱する。放冷後、0.275mol/L水酸化ナトリウム溶液10mlでpH 7.5±0.1に調製し、リン酸緩衝液に50mg/mlの濃度で溶解させたプロテアーゼ溶液(SIGMA P-5380)を0.1mlずつ添加した後、60℃、30分間振とうする。放冷後、0.325mol/L塩酸溶液10mlでpH 4.3±0.3に調製し、アミログルコシダーゼ溶液(SIGMA 「A-9913」)を0.1mlずつ添加した後、60℃、30分間振とうする。その後、60℃に加温した95%エタノールを4倍容ずつ加え、室温で1時間放置後、あらかじめ約1.1gのセライトで濾過層を形成させてある2G2のガラスフィルターを用い、吸引ろ過する。残留物を78%エタノール20mlで3回、次いで95%エタノール10mlで2回以上洗浄し、105℃で一晩乾燥させる。恒量測定(R1,R2)後、一つは525℃で5時間灰化させ、灰分含有率(A)を算出する。もう一つはケルダール法(係数6.25)によりタンパク質含有率(p)を算出する。試料を添加せず同様の方法により処理した各値をブランク値とする。それぞれの値をもとに以下の計算式によって食物繊維含量を算出する:
食物繊維(重量%)=(R×(1-(P+A)/100-B)/S×100
R:残留物重量(平均値、(R1+R2)/2、mg)
P:残留物中のタンパク含有率(%)
A:残留物中の灰分含有率(%)
S:試料採取量(平均値、mg)
B:ブランク(mg)
B(mg)=r×(1-(p+a)/100)
r:ブランク残留物の重量(平均値mg)
p:ブランク残留物中のタンパク含有率(%)
a:ブランク残留物中の灰分含有率(%)
【0035】
また、タンパク含有率は、ケルダール法で測定した値であり、例えば文献「食品分析法、日本食品工業学会食品分析法編集委員会編、p101」記載の方法に準じて行うことができる。
【0036】
本発明の酵母細胞壁画分の粘度物性
一般的に酵母細胞壁画分は、固形分濃度に対し粘度は指数関数に近い急激な上昇率で上昇する特徴があるが、本発明の酵母細胞壁画分は、酵母に酵素反応や自己消化と併せてホモジナイズ処理した従来の酵母エキス残渣または酵母エキスを抽出した残渣をホモジナイズ処理し、遠心洗浄して得られた従来の酵母細胞壁画分に比較して高い固形分濃度でも、同様の粘度値を示す。すなわち、本発明品は従来の酵母細胞壁に比較し低い粘度特性を有する。具体的な数値では、従来品では3%濃度で10〜200mPa・sであったものが、本発明品では5%濃度で1〜200mPa・s、好ましくは1〜100mPa・s、より好ましくは1〜70mPa・sの粘度値となる。上記の通り、粘度が低下することにより流動性が求められる用途においても添加量を上昇させることができ、また他の物質との混合や攪拌を行う上でハンドリング性が大きく向上する。
さらに、スプレードライ等での乾燥においても濃度を高くして乾燥処理が可能となり、乾燥効率の上昇につながり乾燥コストの低減が見込まれる。
【0037】
本発明の酵母細胞壁画分の外観物性
また、本発明の酵母細胞壁画分は、酵母エキスを抽出した残渣をホモジナイズ処理し遠心洗浄して得られた従来の酵母細胞壁画分に比較し、黄色から褐色の着色を低く抑えることができ、従来の着色度の高い外観特性では使用し難かった用途においても使用範囲や使用量を広げることができる。
特に高い白色度や、鮮やかな色彩を求められる物質との組み合わせでは、着色度の低い本発明の使用は有用である。酵母細胞壁の着色は一般的に黄色から褐色であることから、測定指標としてYI値(Yellowness Index)を用い比較評価を行う。本発明の酵母細胞壁のYI値は、0〜40、好ましくは0〜30、より好ましくは0〜20の範囲であることが好ましい。
【0038】
本発明の酵母細胞壁画分の生理機能
これまで、酵母細胞壁画分は便通改善等の整腸効果を有する食品素材として知られてきており、腸内有機酸濃度を上げ、いわゆる悪玉菌の腸内での増殖を抑える効果等を有している。腸内細菌により発生する短鎖脂肪酸は、腸内のpHを低下させ、腸内環境を増悪させる腸内細菌の増殖を抑制する効果だけでなく、酢酸、プロピオン酸、酪酸により腸上皮の再生等も促進する効果がある。一方、有機脂肪酸のうち、コハク酸は腸内環境を増悪させる腸内細菌の増殖を示し、腸粘膜の刺激炎症を誘発する物質として知られている。本発明の酵母細胞壁画分は、酵母エキス残渣から調製される酵母細胞壁画分と比較して、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸の産生プロファイルにおいて酢酸、プロピオン酸および酪酸の合計有機酸産生量を増加させ、コハク酸の産生量を抑制または低下するという優れた効果を有している(後述の表2参照)。
【0039】
酵母細胞壁の用途
本発明の酵母細胞壁画分は以下のような用途を有する。
本発明の酵母細胞壁画分は、上記の通り、腸内環境を増悪させる腸内細菌の増殖を抑制し、腸内環境を改善する作用効果を有しているため、医薬品または飲食品へ添加して使用することが可能である。そのような製品の使用形態については特に限定されず、例えば液状、スラリー状、ペレット、ペースト状、錠剤、丸剤、粉末状等、その使用形態に応じて適宜自由に選択することができる。また、酵母特有の味や臭いを顕著に低く抑えた医薬品や飲食品の有機成分、補助成分または素材(添加物など)として使用することできる。
【0040】
好ましい用途は、主に食品用途であるが、使用用途は特に制限されるものではない。飲食品の形態としては特に制限は無く、飲料、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ゼリー、パン、ビスケット、麺類、焼菓子、流動食、米飯、麦飯、スープ、味噌、まんじゅう、あんこ、ハム、ソーセージ等の練りもの、シュウマイ、餃子等の皮、ガム、グミ、あめ類、カレー、シチュー等のルー、冷菓、ケーキ、プリン、せんべい等のスナック類、ドレッシング、マヨネーズ、豆腐、コンニャク、羊かん、つくだ煮、コロッケ、ハンバーグ、サラダ等の惣菜などを挙げることができる。
【0041】
飲食品への添加量は、有効成分として成人1日1人当たり1〜50g、好ましくは1〜30g間の範囲の摂取量となるように摂取すればよい。
【0042】
また、本発明の酵母細胞壁画分を医薬品に添加して用いる場合、その有効成分としての投与量または摂取量は、受容者の年齢及び体重、剤形、投与方法などに応じて当業者が適宜決定できる。例えば、本発明の医薬を、腸内環境、便通の改善あるいは腎機能の保護のために経口投与する場合、その用量は通常、成人1日1人当たり20〜1000mg/kg体重、好ましくは20〜60mg/kg体重であり、これを1日1回または複数回に分けて投与することができる。
【0043】
また、高い安全性と保水性から、飲食品、医薬品以外の化粧品、化成品、医薬品添加物、医薬部外品、食品添加物の用途としても使用可能である。
【実施例】
【0044】
実施例に示した物性の測定方法
この実施例、比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。なお、実施例中に示された酵母細胞壁画分重量は、全て実状態での重量(ドライウエイト)である。
【0045】
1.スラリー色度(YI値)
酵母細胞壁画分は、酵母由来の黄褐色〜褐色を呈しているため、脱色し外観的に白色であることが望まれ、脱色の度合いを表す指標は、YI(Yellow Index)値で規定が可能である。黄色度YIはJIS K 7103に規定されているように、無色または白色から黄方向に離れる度合いで、プラスの量として表示される。YIが低いほど、白色度が高い(黄色度が低い)。
酵母細胞壁画分を固形分濃度5重量%に調製した液5gを日本電色工業(株)分光式色差計SE-2000の反射測定法、光源C、視野2°、測定三回の平均値を求めた。これを液YIとした。
【0046】
2.粘度
5%(重量比)の酵母細胞壁画分のスラリーをB型粘度計を用いて、値を測定した。
測定温度は20℃、回転数は60rpmで15分回転後の値を測定値とした。
【0047】
実施例1:粗酵母細胞壁画分の製造
脱苦味酵母の製造
発酵を終了したビール酵母スラリーにはホップ粕等の酵母以外の不純物が多く含まれるため、200メッシュの篩を用い酵母から分離除去を行う。加えて、酵母の表層に付着した苦味成分をアルカリ条件(pH9〜10)にして溶解後、遠心分離を行い、遠心分離の軽液部分は廃棄した。沈降した酵母の重量に対し3倍量の水を加えて十分分散した後、遠心分離を行い、軽液部分を廃棄し、ビール酵母スラリーに含まれる苦味成分や残存ビール分を除いた(以下、沈殿の希釈から軽液廃棄までの一連の操作を遠心水洗浄と称する)。この遠心水洗浄を2回繰り返し、ビール成分や不純物の除去された酵母を得る。
【0048】
粗酵母細胞壁画分の製造
脱苦味酵母の固形分濃度を10%に調整し40℃以上に温度が上がらないように適宜冷却を行い、900bar高圧ホモジナイザー処理を実施した。
ホモジナイズ処理実施後、遠心分離を行い、軽液部分を除去した。得られた沈殿物に対し、遠心水洗浄を2回行い、水に溶解・分散した細胞質成分を洗浄除去し、粗細胞壁画分を得る。
【0049】
実施例2:高圧ホモジナイザー処理のみによる酵母細胞壁画分の製造
粗酵母細胞壁画分の固形分濃度を5%、pH 7.5のスラリーに調整し、40℃以上に温度が上がらないように適宜冷却を行い、900barで高圧ホモジナイザー(APV Rannie Model Lab 10.51VH)で高圧ホモジナイザー処理を2回、4回、6回実施した。処理を行ったサンプルは、遠心分離し、軽液を廃棄した後、水で遠心洗浄を2回実施して夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。殺菌・冷却後、各処理回数の沈殿のペーストをそれぞれ5%濃度のスラリーに希釈調整した。これらの2回、4回、6回処理品をそれぞれ本発明品1、本発明品2、本発明品3とした。
本発明品1、2、3の物性値及び成分値を測定した。物性値は、粘度及び色度、ならびに成分値としてタンパク質、脂質、灰分及び食物繊維含量を測定した結果、表1の通り、タンパク質含量が比較的高い値を示した。
【0050】
実施例3:粗酵母細胞壁画分をホモジナイズ処理後、酵素反応とホモジナイズ処理を同時に行うことにより製造される酵母細胞壁画分
粗酵母細胞壁画分の固形分濃度を5%、pH 7.5のスラリーに調整し、40℃以上に温度が上がらないように適宜冷却を行い、900barで高圧ホモジナイザー(APV Rannie Model Lab 10.51VH)で高圧ホモジナイザー処理を実施した。処理を行った後、遠心洗浄を行い、サンプル温度を60℃に上昇し、アルカラーゼ(NOVO製)を0.2mg/gの添加率で加えて16時間反応させ、酵素反応をさせたまま再度ホモジナイザーをかけた後、遠心分離し、軽液を廃棄した。沈殿物を水で希釈し、遠心洗浄を2回実施し、夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整した後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。殺菌・冷却後、各処理回数の沈殿のペーストを5%濃度のスラリーに希釈調整した。このサンプルを本発明品4とした。
本発明品4の物性値及び成分値を測定した。物性値は、粘度及び食物繊維含量を測定した結果、表1の通り13.6mPa・sと低い粘度値を示し、YI値も9.1であった。また、食物繊維含量も表1に示される通り82.5%含まれていた。
【0051】
実施例4:粗酵母細胞壁画分をホモジナイズ処理後、酵素反応とホモジナイズ処理を同時に行うことにより製造される粉末状酵母細胞壁画分
別ロットの酵母を元に作製した粗酵母細胞壁画分の固形分濃度を5%、pH 7.5のスラリーに調整し、40℃以上に温度が上がらないように適宜冷却を行い、900barで高圧ホモジナイザー(APV Rannie Model Lab 10.51VH)で高圧ホモジナイザー処理を実施した。処理を行った後、遠心洗浄を行い、サンプル温度を60℃に上昇し、アルカラーゼ(NOVO)を0.2mg/gの添加率で加えて16時間反応させ、酵素反応をさせたまま再度ホモジナイザーをかけた後、遠心分離し、軽液を廃棄した。沈殿物を水で希釈し、遠心洗浄を2回実施し、夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整した後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。殺菌・冷却後、固形分濃度5%のスラリーに希釈調整し、吸気温度180℃、排気温度100℃でスプレードライにより乾燥を行い、粉末品を作製した。このサンプルを本発明品5とした。
本発明品5の成分値(タンパク質、脂質、食物繊維含量)は、表1の通り、それぞれ17.1%、0.6%、81.8%の含量であった。また、スプレードライ前の物性値は、粘度が67mPa・sであり、YI値は10.0であった。
【0052】
実施例5:粗酵母細胞壁画分をホモジナイズ処理と酵素反応との同時処理に供することにより製造される酵母細胞壁画分
粗酵母細胞壁画分の固形分濃度を5%、pH 8.0のスラリーに調整し、アルカラーゼ(NOVO)を0.2mg/gの添加率で加え、60℃以上に温度が上がらないように適宜冷却を行い、900barで高圧ホモジナイザー(APV Rannie Model Lab 10.51VH)で高圧ホモジナイザー処理を実施した。処理を行った後、サンプル温度を60℃に調整して16時間反応させ、再度ホモジナイザーをかけた後、遠心分離し、軽液を廃棄した。沈殿物を水で希釈し、遠心洗浄を2回実施し、夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整した後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。殺菌・冷却後、各処理回数の沈殿のペーストを5%濃度のスラリーに希釈調整した。このサンプルを本発明品6とした。
本発明品6の物性値及び成分値を測定した。物性値は、粘度及び食物繊維含量を測定した結果、表1の通り、12.3mPa・sと低い粘度値を示し、YI値も15.3であった。また、食物繊維含量も表1に示される通り85.2%含まれていた。
【0053】
比較例1:酵母エキスを抽出した残渣を原料とした酵母細胞壁画分
特開2000-44878公報記載の方法に従い、ビール工場より副生物として得られた生菌状態のビール生酵母スラリーを遠心分離(4200rpm、10分)することにより得られた酵母を、固形分が10重量%になるように懸濁した。この酵母を100MPaのホモジナイザーで処理した後、プロテアーゼ(NOVO製、ニュートラーゼ、アルカラーゼを使用し、45〜60℃、pH 7.5において15時間反応)により菌体内成分を溶解した。その後、酵素を失活させ、このスラリーを遠心分離(4200rpm、10分)することで可溶性菌体内成分を除去し、酵母エキス残渣を作製した。この酵母エキス残渣を、固形分濃度8%、pH 7.5に調整した後、高圧ホモジナイザーにより900barで2回処理した後、遠心洗浄を2回実施した。沈殿物を水で希釈し、遠心洗浄を2回実施し、夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整した後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。殺菌・冷却後、各処理回数の沈殿のペーストを5%濃度のスラリーに希釈調整した。このサンプルを比較品1とした。
比較品1の物性値及び成分値を測定した。物性値は、粘度及び食物繊維含量を測定した結果、表1の通り324.4mPa・sと高い粘度値を示した。YI値も8.9であった。また、食物繊維含量も表1に示される通り96.4%含まれていた。
【0054】
比較例2:酵母エキスを抽出した残渣を原料とした酵母細胞壁画分の乾燥品
特開2000-44878公報記載の方法に従い、ビール工場より副生物として得られた生菌状態のビール生酵母スラリーを遠心分離(4200rpm、10分)することにより得られた酵母を、固形分が10重量%になるように懸濁した。この酵母を100MPaのホモジナイザーで処理した後、プロテアーゼ(NOVO製、ニュートラーゼ、アルカラーゼを使用し、45〜60℃、pH 7.5において15時間反応)により菌体内成分を溶解した。その後、酵素を失活させ、このスラリーを遠心分離(4200rpm、10分)することで可溶性菌体内成分を除去し、酵母エキス残渣を作製した。この酵母エキス残渣を固形分濃度8%、pH 7.5に調整した後、高圧ホモジナイザーにより900barで4回処理した後、遠心洗浄を2回実施した。沈殿物を水で希釈し、遠心洗浄を2回実施し、夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整した後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。殺菌・冷却後、各処理回数の沈殿のペーストを5%濃度のスラリーに希釈調整した後、吸気温度180℃、排気温度100℃でスプレードライにより乾燥を行い、粉末品を作製した。このサンプルを比較品2とした。
比較品2の成分値(タンパク質、脂質、食物繊維含量)は、それぞれ表1の通り、11.5%、1.9%、79.0%の含量であった。
【0055】
比較例3:酵母エキスを抽出した残渣を原料として、ホモジナイズ処理と同時に酵素反応を行うことにより製造される酵母細胞壁画分
特開2000-44878公報記載の方法に従い、ビール工場より副生物として得られた生菌状態のビール生酵母スラリーを遠心分離(4200rpm、10分)することで得られた酵母を、固形分が10重量%になるように懸濁した。この酵母を100MPaのホモジナイザーで処理後、プロテアーゼ(NOVO製、ニュートラーゼ、アルカラーゼを使用し、45〜60℃、pH 7.5において15時間反応)により菌体内成分を溶解した。その後、酵素を失活させ、このスラリーから遠心分離(4200rpm、10分)により可溶性菌体内成分を除去し、酵母エキス残渣を作製した。この酵母エキス残渣を、固形分濃度を5%、pH 8.0のスラリーに調整し、アルカラーゼ(NOVO)を0.2mg/gの添加率で加え、60℃以上に温度が上がらないように適宜冷却を行い、900barで高圧ホモジナイザー(APV Rannie Model Lab 10.51VH)で高圧ホモジナイザー処理を実施した。処理を行った後、サンプル温度を60℃に調整し16時間反応させ、再度ホモジナイザーをかけた後、遠心分離し、軽液を廃棄した。沈殿物を水で希釈し、遠心洗浄を2回実施し、夾雑物質を除去し、pH 3.8に調整した後、90℃・30分の加熱殺菌処理を行った。このサンプルを比較品3とした。
比較品3の物性値及び成分値を測定した。物性値は、粘度及び食物繊維含量を測定した結果、表1の通り551.9mPa・sと非常に高い粘度値を示した。YI値も26.0であった。また、食物繊維含量も表1に示される通り92.1%含まれていた。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例6:腸内有機酸産生組成の改善
6週齢の正常SDラットを一群10匹とし、本発明品5及び比較品2を実験食に5%添加し、8日間自由に摂取させた。対照群として、繊維源としてセルロース5%を混餌した群をおいた。本発明品5及び比較品2由来の繊維分および蛋白質の過不足をそれぞれセルロースおよびカゼインで調整した。実験飼料の組成を表2に、発明品5と比較品2の成分組成を表3に示す。試験期間中、各飼料間での体重変化および摂餌量に差は認められなかった。試験最終日に盲腸内容物を採取し、盲腸内容物中の有機酸濃度を測定した結果を表4及び5に示す。対照群と比較して本発明品5および比較品2の盲腸内容物量は増加し、有機酸濃度ともに増加した。特に本発明品5の有機酸組成は比較品2に比べて酢酸、プロピオン酸、酪酸濃度が上昇しており、コハク酸濃度は顕著に低下した。以上のことから、本発明品5は酵母細胞壁組成物摂取による有機酸産生促進作用を向上させながら、過剰なコハク酸産生を抑制することが示された。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)酵母菌体を、自己消化または酵素反応に供することなく機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去することによって、粗酵母細胞壁画分を調製する工程;および
(b)工程(a)で取得した粗酵母細胞壁画分を機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程;
を含む、酵母細胞壁画分の製造方法。
【請求項2】
工程(b)を複数回実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(c)工程(b)で取得した酵母細胞壁画分を、酵素処理と機械的破壊処理との同時処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(c)工程(b)で取得した酵母細胞壁画分を、酵素反応に供し、続けて機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
機械的破壊処理が、高圧ホモジナイザーによる処理であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
酵素処理が、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、β-グルカナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、α-マンナナーゼ、マンノシダーゼ、及びフォスファターゼよりなる群から選択される少なくとも1種の酵素による処理であることを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程:
(a)酵母菌体を、自己消化または酵素反応に供することなく機械的破壊処理に供し、液画分を分離除去することによって、粗酵母細胞壁画分を調製する工程;および
(b)工程(a)で取得した粗酵母細胞壁画分を、酵素反応と機械的破壊処理との同時処理に供し、液画分を分離除去し、酵母細胞壁画分を回収する工程;
を含む、酵母細胞壁画分の製造方法。
【請求項8】
機械的破壊処理が、高圧ホモジナイザーによる処理であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酵素処理が、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、β-グルカナーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、α-マンナナーゼ、マンノシダーゼ、及びフォスファターゼよりなる群から選択される少なくとも1種の酵素による処理であることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法により得られる下記の物性を有する酵母細胞壁画分:
a)5%濃度、20℃の温度で1〜200mPa・sの粘度;
b)65%以上の食物繊維含量;
c)酵母エキス残渣から調製される酵母細胞壁画分と比較して、ラットでの摂取後の、酢酸、プロピオン酸および酪酸の合計有機酸産生量の増加をもたらす;
d)酵母エキス残渣から調製される酵母細胞壁画分と比較して、ラットでの摂取後の、コハク酸産生量の低下をもたらす;ならびに
e)40以下のスラリー色度。
【請求項11】
請求項10に記載の酵母細胞壁画分を有効成分とする腸内環境改善剤。
【請求項12】
請求項10に記載の酵母細胞壁画分、または請求項11に記載の腸内環境改善剤を添加した飲食品。
【請求項13】
請求項10に記載の酵母細胞壁画分、または請求項11に記載の腸内環境改善剤を添加することを特徴とする飲食品の製造方法。

【公開番号】特開2009−22227(P2009−22227A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190056(P2007−190056)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】