説明

酵素コンピテンスを評価するためのシステムおよび方法

本発明は、ある患者がある有害薬物反応を起こし得るかどうか、特定酵素機能の欠陥に関連する疾患を有するかどうか、および/または病態生理を引き起こす可能性が高い酵素欠陥を持つかどうかを決定する際に重要な、酵素コンピテンスを決定するためのシステムおよび方法を提供する。本発明においては、酵素コンピテンスを決定すべき患者に親分子物質を投与することが考えられる。患者の体液の試料を本発明のセンサーに曝露して、その体液中の検出可能物質を識別し、検出し、定量する。検出可能物質に関してセンサーが取得したデータを使って、酵素コンピテンスを決定する。好ましくは患者の呼気の試料を収集し、本発明のセンサーに曝露する。本発明のセンサーシステムのタイプには、表面共鳴アレイ;微小電気機械センサー(例えばマイクロカンチレバーに基づく技術);分子インプリントポリマーセンサー;増幅蛍光センサー技術;アプタマーに基づくセンサー技術;SAWセンサー;赤外センサー;燃料電池;化学反応器;およびpH感受性センサーが含まれるが、これらに限定されるわけではない。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2004年9月20日に出願された米国仮出願第60/611,514号の恩典を主張するものであり、前記仮出願は参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の背景
米国における主たる罹病および死亡原因は薬物有害反応(ADR)または薬物有害事象(ADE)である。病院、外来診療および養護施設では毎年250万例を超えるADRが発生し、それが100,000例を超える死亡につながっていると推定される。多くのADRは薬物代謝(特にシトクロムP450(CYP)酵素系が関与するもの)が不完全であるために起こる。
【0003】
一般にADRは異常に高い薬物レベルに起因すると考えることができる。酵素機能の異常、すなわち高すぎる酵素活性(例えば薬物による酵素量の誘導)または低すぎる酵素活性(例えば遺伝的性質、薬物阻害)は、それぞれ治療レベルを下回る薬物レベルおよび治療レベルを上回る薬物レベルをもたらすことにより、危害を引き起こし得る。酵素機能の欠陥が引き起こすADRは、三つのカテゴリー、すなわち1)酵素機能の遺伝的欠損(例えば多型);2)薬物が誘発する酵素機能阻害または酵素機能増強;および3)当該酵素の基質である複数の薬物による酵素「アテンション(attention)」をめぐる競合、に分類することができる。
【0004】
薬理ゲノミクスは、多型の遺伝学的基礎を決定し、個体が特定の薬物をどのように代謝するかを、それぞれの「酵素」編成に基づいて予測することを主眼とする、新しい学問分野である。残念ながら、たとえ各個人の遺伝子多型がわかっていたとしても、多くの条件、特に臓器機能障害(例えば肝疾患)またはさまざまな治療剤を代謝するキー酵素における生体異物誘発性の改変により、ほとんどの状況下でそれらの薬物を正常に代謝するであろう正常な遺伝子編成を持つ個体でさえ、ADRは起こり得る。
【0005】
ADRの大部分を担う主要酵素系はCYP酵素系である。P450酵素は数多く存在するが、あらゆる薬物の約50%の代謝はCYP3A4酵素によって説明され、薬物の約33%の代謝はCYP2D6によって説明される。これらが薬物代謝を担う主要酵素であるが、薬物代謝およびヒトの恒常的幸福には、他の一定の因子も、薬物代謝とは無関係であり得るような形で、寄与する場合がある(例えば疾患の結果として生じる酵素機能の変化、または疾患を引き起こす酵素機能の変化)。
【0006】
酵素系(特にCYP系)のコンピテンス(competency)をリアルタイムで理解することは、ある患者がADRを起こす可能性が高いかどうか、特定酵素機能の欠陥に関連する疾患を持つかどうか、または病態生理を引き起こす可能性が高い酵素欠陥を持つかどうかを決定する際に、極めて重要である。この酵素系コンピテンスのポイントオブケア査定の必要性に十分に対処した技術は、今までなかった。
【発明の開示】
【0007】
概要
本発明は、査定すべき機能を持つ関心対象酵素の基質であることがわかっている親分子物質(parent molecular entity:PME)が患者に投与されるシステムおよび方法を提供する。本発明の一態様では、酵素切断時に放出される標的マーカーが、PMEに取付けられている。または、PME自体もしくはPMEの代謝産物が標的マーカーを生成する。PMEを投与した後、PMEと標的酵素との相互作用後に放出および/または生成される任意の標的マーカーを検出するべく、患者から採取した体液の試料を分析する。
【0008】
本発明のシステムおよび方法は、腸(臨床処置に関連して酵素コンピテンスを査定するため)および肝臓を含む臓器および組織の酵素活性を査定することに拡張することができる。例えば、本発明の一態様は、肝不全を持つ別の患者への移植を検討している肝臓の機能的能力および生存能力の査定を可能にする。
【0009】
肝臓は合成および解毒という二つの主要機能を持つ。一般に、いくつかの臨床検査を利用して、肝組織が製造し分泌する多数の必須タンパク質(例えばプレアルブミン、アルブミン、糖タンパク質、血栓形成に必要な多くの因子)により、肝臓の合成機能を測定することができる。これらのタンパク質を直接測定するか、機能的検査(例えばプロトロンビン時間)で測定することにより、合成機能を査定することができる。残念ながら、物質を解毒する肝臓の能力は、確認することが、より困難であるが、直接ビリルビン濃度および総ビリルビン濃度などの総合的検査を使って決定することができる。
【0010】
したがって本発明は、物質の解毒に関する肝臓の機能的能力を測定するためのシステムおよび方法を提供する。ある態様では、CYP基質を代謝する肝臓の能力を査定するために、PMEをドナー候補に投与する。PME由来の標的マーカーは肝臓による適切な代謝が起こった場合にのみ放出される。ドナーの体液試料に含まれる標的マーカーを本発明のセンサーを使って検出/定量することにより、ドナーへの移植に適した肝臓が示される。本発明により、移植チームは、固形臓器移植に関連する全ての急性および慢性リスクと共に、ドナー候補の肝臓(または他の任意の臓器)が移植レシピエントにとって役立つのに十分な機能的能力を持つかどうかを、少なくとも部分的には、迅速かつ正確に決定することができるようになる。
【0011】
本発明は、酵素機能のインビトロ査定のためのシステムおよび方法も提供する。ある態様では、PME(すなわち関連P450系によって代謝される分子)を、エクスビボで、関心対象酵素を含む基質に導入する。好ましくは、既知量のPMEを密閉容器内で酵素系と接触させる。酵素活性の査定は、基質から放出される標的マーカーの濃度を分析することにより、迅速、精密かつ正確に決定することができる。例えば、基質中に存在する機能的酵素の量を査定するために、本発明のセンサーを使って密閉容器のヘッドスペース中に存在する標的マーカーを検出/定量することができる。このデータに基づいて、その基質を用いる以後の実験データを、機能的酵素の存在量に対して標準化することにより、P450酵素系を使った実験データから、より決定的で再現性の高い結果を得ることができる。
【0012】
本発明のシステムおよび方法を使うと酵素コンピテンスをすぐに査定することができるという点で、本発明は医学分野では特に有利である。例えば本発明の一定の態様は、例えば緊急処置室、手術室、病院検査室および他の臨床検査室、医院、迅速かつ正確な結果が望まれる分野またはそのような任意の状況において、ポイントオブケアで使用されるように設計される。
【0013】
特に本発明は、関心対象酵素のコンピテンスを査定するために体液(例えば血液、呼気、尿)試料中の標的マーカーを識別し、検出し、定量することができるセンサーの使用に関する。本発明による酵素コンピテンス査定では、PMEまたはPME代謝産物の血中濃度を反映する体液試料中の標的マーカーの濃度を追跡する。一定の例では、体液試料中の標的マーカーを同定するだけで、酵素コンピテンスに関する重要な情報が得られる。例えば、PME投与後の体液試料中に標的マーカーが存在しない場合、それはそのPMEがその患者によって適正に代謝されなかったしるしになり得る。
【0014】
ある態様では、標的マーカーの濃度を経時的に追跡して、酵素機能の「フィンガープリント」を得る。次に、このフィンガープリントを、正常な酵素機能を表すことがわかっているフィンガープリントと比較することにより、関心対象である酵素系のコンピテンスを決定することができる。もう一つの態様として、薬物、栄養不良、肝疾患などによる酵素機能の任意の変化について観察するために、フィンガープリントを、その患者の以前のフィンガープリントと比較することができる。
【0015】
PMEに関する酵素コンピテンス査定を可能にすることにより、本発明は、異常な酵素機能によって引き起こされる薬物有害反応(ADR)を検出し、それに対処することができるという点で、特に有利である。ほとんどの薬学的薬物にとって標的酵素は周知であるから、薬学的薬物に基づくPMEは、薬物代謝障害に関係するADRの査定には、とりわけ有用である。
【0016】
より重要なことに、本発明は、ポイントオブケア状況での個別化された治療の決定を可能にする。例えば、一定の治療化合物(例えば麻酔薬またはワルファリン)に関して酵素コンピテンスを正常に示すであろう患者も、一定の緊急的状況(例えば肝不全またはシトクロムP450機能異常)では、そのような化合物を適正に代謝することができないかもしれない。本発明によれば、緊急的状況において、その患者が薬物有害反応を誘発せずに麻酔薬を適正に代謝することができるかどうかを査定するために、麻酔薬PMEを患者に投与することができる。もう一つの例では、ある個体が複数の薬物レジメンを持つ場合に、臨床医は、本技術を使って、ある薬物の追加(または除去)が薬物有害反応を誘発し得るかどうかを容易に査定することができると共に、新たに加えられた薬物を適正に代謝するその患者の能力を容易に査定することができる。
【0017】
本技術のPMEの潜在的タイプには(1)状態または疾患を処置するためにヒトに使用することがFederal Drug Administration(FDA)によって承認された薬物;(2)関心対象の酵素系によって代謝される、FDAによって一般に安全と認められる(GRAS)化合物;および(3)FDAによって以前に承認されたことがない新規化学物質(new chemical entity:NCE)が含まれる。
【0018】
詳細な開示
本発明は、多種多様な酵素系の査定に使用するためのシステムおよび方法に関する。本発明は、異常な酵素機能の診断を、ポイントオブケア評価により、リアルタイムで行なうことができる点で、特に有利である。異常な酵素コンピテンスはしばしば多くの後天的および/または遺伝的疾患と関連するので、不適格な酵素系の診断は、ADRを予防するのに役立ち得ると共に、その異常酵素系に関係する他の臨床状態を評価するのにも役立ち得る。
【0019】
定義
本明細書にいう「ポイントオブケア」とは、結果として得られる査定が本発明のシステムおよび方法を使用しない類似の検査よりも速く行なわれるように、短い時間枠で行なうことができるリアルタイム酵素コンピテンス査定(診断検査など)を指す。加えて、本明細書に記載する方法および装置によれば、迅速かつ正確な結果が要求される場所において迅速に現場で査定を行なうことができる。ポイントオブケアには、緊急処置室、施術室、病院検査室および他の臨床検査室、医院、迅速かつ正確な結果が望まれる分野またはそのような任意の状況が包含されるが、これらに限定されるわけではない。
【0020】
本明細書において使用する用語「体液」は、患者から得られる分子の混合物を指す。体液には、呼気、全血、血漿、尿、精液、唾液、リンパ液、髄膜液、羊膜液、腺液(例えば母乳)、喀痰、糞便、汗、粘液、膣液、眼水、および脳脊髄液が包含されるが、これらに限定されるわけではない。体液には、前述した全ての溶液の実験的に分離された画分、またはホモジナイズされた固形物を含有する混合物、例えば糞便、組織および生検試料も包含される。
【0021】
本明細書において使用する用語「マーカー」は、本発明に関連する用量では患者にとって無害であり、その物理的または化学的性質を利用して検出することができる分子または化合物を指す。したがってマーカーは、当技術分野において公知であるいくつかのセンサー技術、例えばフローサイトメーター、導電体および半導体ガスセンサー;質量分析装置;赤外(IR)、紫外(UV)、可視、または蛍光分光光度計;ガスクロマトグラフィー;導電性ポリマーガスセンサー技術;表面音響波ガスセンサー技術;免疫アッセイ技術;ミクロスフェア(ビーズ)アレイ技術;分子インプリントポリマー薄膜技術;微小電気機械システム(MEMS);および増幅蛍光ポリマー(amplifying fluorescent polymer:AFP)センサー技術など(ただしこれらに限定されるわけではない)によって、検出することができる。
【0022】
本発明のマーカーには、GRAS(「一般に安全と認められる物質」)として分類される連邦政府が承認した物品、ならびに本発明のシステムおよび方法に従って検出される適切な毒物学的性質および物理化学的性質を持つ、正式にはGRASと指定されていない他の化合物(FDA承認薬または新規化学物質)が包含される。例えば本発明のマーカーは、体液(特に血液および息)中に検出され得る公知シトクロムP450基質(例えばベラパミルまたはベラパミル類似体などのCYP3A4基質)の揮発性マーカーであることができる。
【0023】
本明細書にいう「患者」とは、本発明の組成物による処置が施される哺乳動物を含む生物をいう。本明細書に開示するシステムおよび方法の恩典を受ける哺乳動物種には、類人猿、チンパンジー、オランウータン、ヒト、サル、ならびに家畜(ペットなど)、例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、およびハムスターが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0024】
本明細書において使用する用語「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物の製造に役立つ担体であって、その組成物の他の成分と一般に適合し、患者にとって有害ではなく、生物学的にも他の面でも望ましくないということのない担体を意味し、獣医学的使用およびヒト薬学的使用に許容される担体を包含する。本明細書および特許請求の範囲において使用する「薬学的に許容される担体」は、一つのそのような担体および複数のそのような担体をどちらも包含する。
【0025】
本明細書に記載する発明では、査定すべき機能を持つ少なくとも一つの標的酵素系の基質である、投与された親分子物質(PME)を利用し、そのPMEには、酵素がそのPMEと相互作用すると放出される標的マーカーが取付けられている。ある態様では、投与されたPMEが、複数の標的酵素によって代謝される。ある関連態様では、PMEが、他の酵素よりも特定の一酵素に対して選択的である。
【0026】
本発明においては、少なくとも一つのPMEを医薬化合物または治療法と一緒に使用することができると考えられる。例えば本発明によれば、少なくとも一つのPMEを、臨床状態を処置するため(例えば身体活動を増加させるため、食物消費量を変化させるため、アルコール消費量および喫煙を低減/排除するため)の治療方法;薬物(例えば糖尿病を処置するためのインスリン);および/またはホルモン補充療法と同時に投与することができる。そのような態様により、本発明は、PME活性以外の因子を考慮して、酵素機能を決定することができる。
【0027】
本発明のさらなる態様では、複数の酵素系のコンピテンスを査定するために、複数の投与されたPMEを利用する。これらのPMEは、個別にまたは同時に、患者に投与することができる。例えば本発明によれば、複数のPMEを(例えば一つの薬学的組成物に)混合して用意することができる。または、複数のPMEを、別個の化合物として、例えば逐次的に、または同時に、または異なる時間に投与される別個の薬学的組成物などとして、用意することもできる。複数のPMEを個別に投与する場合には、複数の酵素系コンピテンスを正確に査定することができないほど長い時間的間隔をあけてそれらを投与しないことが好ましい。
【0028】
本発明のシステムおよび方法は、医薬化合物および治療法に関して酵素コンピテンスを査定することだけでなく、肝臓などの臓器および組織における酵素活性を査定することにも拡張することができる。例えば本発明の一態様では、肝不全を持つ別の患者への移植を検討している肝臓の機能的能力および生存能力を査定する。好ましくは、(1)肝臓によって代謝されると標的マーカーを生成するであろうPMEをドナー候補に投与し;(2)患者体液を試料採取して、標的マーカーの存在および/または濃度について査定し;そして(3)査定された標的マーカーの検出/濃度に基づいて、ドナー候補の肝臓が移植に適しているかどうかを決定することにより、物質を解毒する肝臓の機能的能力を査定することができる。好ましくは、ドナーの呼気試料を分析することにより、移植チームは、固形臓器移植に関連する全ての急性および慢性リスクと共に、ドナー候補の肝臓が移植レシピエントにとって役立つのに十分な機能的能力を持つかどうかを、少なくとも部分的には、迅速かつ正確に決定することができるだろう。
【0029】
ある関連態様では、本明細書に記載するシステムおよび方法を使って、臓器の移植適合性の査定を、エクスビボで達成することができる。例えば、外植された肝臓、人工肝臓、または他の肝組織(例えばミクロソーム)から採取した試料をPMEと接触させることができる。この場合、PMEは、代謝されると標的マーカーを生成するだろう。好ましくは、ミクロソーム試料をPMEと共に密閉容器に入れ、次に、センサーを使ってその容器のヘッドスペースを分析することにより、ヘッドスペース中に存在する標的マーカーを検出/定量する。ヘッドスペース中に存在する標的マーカーの濃度により、その肝臓試料(外植された肝臓、人工肝臓など)の機能的能力および移植適合性に関する情報が得られる。
【0030】
したがって本発明のシステムおよび方法はインビボ使用に限定されない。本発明の一局面には、検査室における組換え・非組換え両CYP酵素の再構成および使用が含まれる。現在、CYP酵素系の活性は、バッチ間変化および世界的な検査室間の相違を見込む国際単位標準化に依拠しており、CYP酵素活性を正確に査定するための統一された標準は提供されていない。本発明は、系/試料内の活性P450酵素画分の量を決定する洗練された正確かつ精密な方法を提供する。ある態様では、既知量のPME(例えば関連P450系によって代謝される分子)を密閉容器内で標的酵素系/試料と接触させる。この場合、PMEは、標的酵素系/試料によって代謝されると標的マーカーを生成する。次に、容器ヘッドスペースを試料採取し標的(揮発性)マーカーについて査定することにより、試料中に存在する酵素の活性を迅速、精密かつ正確に定量することができるだろう。このデータに基づいて、その系/試料を用いる以後の実験データを、機能的酵素の存在量に対して標準化することにより、P450酵素系を使った実験データから、より決定的で再現性の高い結果を得ることができる。
【0031】
異なる酵素に対する異なる基質プローブである複数のPMEを投与すれば、本発明により、いくつかの酵素(または酵素系)のコンピテンスを同時にかつリアルタイム/ポイントオブケア環境で、査定することができるだろう。具体的には、PMEと標的酵素との相互作用後に、血中PME濃度を特徴づける放出されたマーカーを、本発明のセンサーを使って識別し、検出し、定量することにより、複数の酵素機能(例えば全ての主要シトクロムP450機能)の総合的査定を行なう。本発明によれば、本発明のセンサーを使って標的マーカーを体液試料(例えば呼気)中に検出することができる。
【0032】
本発明によれば、舌下、胃腸(例えば経口、直腸)、膣、静脈内、皮下、経皮、筋肉内、(例えば眼への)局所外用、経鼻、肺などを含む(ただしこれらに限定されるわけではない)いくつかの送達経路によって、PMEを投与することができる。投与されるPMEの用量は、本発明のセンサー装置の感度および/または特異性に依存して、低(<1ng/kg体重)、高(>1gm/kg)、またはそれら二つの中間的な値をとり得る。
【0033】
本発明によれば、本発明のセンサーを使って検出することができる標的マーカーには、揮発性マーカー(放射標識されていてもされていなくてもよく、持ち運び可能な装置を使ってリアルタイム・ポイントオブケア的に検出することができるものであっても、そうでなくてもよい)、ならびに放射標識マーカーのみが包含される。ある関連態様では、標的マーカーが化学部分(例えばフッ素原子)である。本発明においては、その化学部分を、酵素相互作用後に体液への標的マーカー放出が容易に起こり得るような方法で、公知の酵素経路を持つPMEに取付けることができると考えられる。好ましい態様では、標的マーカーが、他の生成物(例えば他の内在性生成物または「背景」ノイズ)よりも容易に認識されるようなものである。
【0034】
酵素コンピテンスを査定するため、PME投与後に、体液試料中の標的マーカーの存在を測定する。酵素とPMEとの公知の相互作用が標的マーカーの放出を引き起こすので、標的マーカーの検出は酵素コンピテンスの容易な指標である。具体的には、そのPMEが代謝されているかどうかは、体液試料中の標的マーカーの存在によって容易に示される。例えば、一定のPMEでは、公知の酵素によって切断される部位に、標的マーカーを取付けることができる。したがってPME酵素切断が起こると、標的マーカーが放出されて体液試料中に検出されるようになる。
【0035】
一定の態様では、与えられた体液試料中の標的マーカーの濃度を経時的に査定し、正常な酵素機能を表す既知濃度のPMEおよび/またはPME代謝産物と比較する。一般に、標的マーカーの濃度が血中のPME濃度を表す場合、体液試料中の標的マーカーの量は、酵素機能の「フィンガープリント」として特徴づけることができる特徴的な時間依存性で減少するだろう。
【0036】
正常な酵素機能のフィンガープリントを確定するために、査定すべき機能を持つ標的酵素の基質である特定PMEを、そのPMEに関して正常な酵素機能を示すことがわかっている患者に投与する。次に体液試料を取得し、それをセンサーに曝露することにより、PMEおよび/またはPME代謝産物を代表する標的マーカーを識別し、検出し、定量する。次に、センサーによって取得されたデータを使って、酵素コンピテンスの査定において比較の基礎となる正常な酵素機能のフィンガープリントを作成する。
【0037】
もう一つの態様では、患者に投与される特定PMEに関する正常な酵素機能のフィンガープリントを、同じPMEまたは異なるPMEについて同じ患者から以前に得られたフィンガープリンと比較する。そうすることにより、薬物、栄養不良、肝疾患などによる酵素機能の任意の変化を、容易に観察することができる。
【0038】
もう一つの態様では、本発明のセンサーが、検出された標的マーカーに関する情報を、呼気中の標的マーカーの存在を経時的に定量し傾向分析することができるプロセッサーに提供する。本発明は、PMEを患者に投与し、適切な期間の後、患者の呼気を標的マーカー(例えば非結合物質、活性代謝産物、または不活性代謝産物)の濃度について分析する工程を提供する。この場合、体液試料における標的マーカーの存在および/または濃度は、被験者におけるその薬剤の代謝の特徴を示す。本方法はさらに、分析によって得られた結果を、その結果に基づいて患者処置レジメンを適切に制御するために、いずれかの使用者に提供する工程を含む(例えばPMEが静脈内医薬などを代表する場合など)。
【0039】
異なるPME投与経路を用いることにより、酵素機能の用量依存的異常を査定することができる(例えば腸および経口投与ならびに静脈内投与におけるシトクロムP450機能)。ある関連態様では、PMEを患者に投与し、次に、標的マーカーの検出および/または濃度に関して、その患者の呼気を分析する。これにより、そのPMEの患者腸吸収に関する情報が得られる。標的マーカーの検出および/または濃度に関してセンサーが生成したデータをプロセッサーを使って分析することにより、適切な患者処置レジメンを処方するのに役立つ情報を得ることができる。好ましくは、呼気中の標的マーカーの検出および/または濃度により、腸におけるPMEとシトクロムP450酵素との相互作用に関する情報が得られる。または、呼気中の標的マーカーの検出および/または濃度により、身体の他の領域(肝臓など)におけるPMEとシトクロムP450酵素との相互作用に関する情報が得られる。
【0040】
一定の態様では、呼気のプロセッサー分析から得られた結果が、ソフトウェアプログラムに提供される。このソフトウェアプログラムは、それらの結果を利用して適切な薬剤投与量を発生させ、それが処置レジメンに自動的に適用される(例えばプロセッサーが標的マーカーの存在を監視するだけでなく、患者薬剤分配/投与の監視および制御も行なう場合)。
【0041】
望ましい場合には、(1)正常な酵素機能のフィンガープリントを確定し;(2)異常な酵素機能を同定し;および/または(3)酵素機能に基づいて適切な処置を同定するために、本発明のシステムに、ニューラルネットワークシステムを適用することができる。
【0042】
本発明によれば、ニューラルネットワークシステムは、与えられたデータセットに対して非線形最小二乗フィットを行なうことができる。データセットは正しい入力/出力対の例からなり、その特徴をニューラルネットは訓練中に「学習」することになる。インプットは連続量(例えば年齢、身長、体重)またはファジー入力からなり得る。後者は、ある連続した値域を想定し得るが、離散した値の集合についてのみ、明確に定義された意味を持ち得る。例えば、不適格なCYP酵素系を持つという性質は、ファジー入力では、この性質の有無を示す離散値0および1でモデル化することができるだろう。ただし、いくつかの不適格な酵素機能特徴を持つ人には、中間値を使用することができるだろう。
【0043】
正しい入力/出力対(例えばあるPMEに関して正常な酵素機能を代表する息中の標的マーカーの濃度)の例の一覧が与えられたとすると、訓練データセットをモデル化する際に任意のカイ二乗誤差が最小になるように任意の/全ての自由パラメータ(重み)を体系的に変化させることによって、どのPMEについても正常な酵素機能と異常な酵素機能とを対比して同定するように、本発明のニューラルネットを訓練することができる。これらの最適重みがいったん決定されたら、訓練されたネットを訓練データセットのモデルとして使用して正確度を検定することができる。例えば、訓練データからの入力をニューラルネットに送り込むと、ネット出力はおおよそ訓練データに含まれる正しい出力になるだろう。さらに、ニューラルネットに与えられる入力であって訓練データ中にその例が現われないものを説明するために、ニューラルネットワークシステムに、簡単な非線形関数の多重適用および中間量の多重線形組み合わせを含めることができる。そのような適用により、ニューラルネットは、訓練データ中の関連する入力/出力対から抽出された特徴に基づいて出力を生成することができる。
【0044】
本発明によれば、訓練データセットは、例えば年齢、体重、身長、体液中に検出し得る標的マーカーの濃度、標的マーカー濃度に基づいて使用されるべき処置、標的マーカー濃度に基づく酵素機能の診断(例えば不適格なCYP酵素系、酵素機能に基づく遺伝的障害)、および標的マーカー濃度に基づくPMEの代謝速度など(ただしこれらに限定されるわけではない)、入力/出力についてさまざまな変量を含むことができる。
【0045】
本発明のさらにもう一つの態様は、特定の薬剤に対する患者の酵素コンピテンスをポイントオブケア査定するためのキットである。本キットは、少なくとも一つの標的マーカーが取付けられた親分子物質の試料と、少なくとも一つのセンサーとを含む。一定の態様では、センサーが、そのセンサーとプロセッサーとの通信を可能にする通信手段(例えば通信線、無線通信能力)を含む。本キットはさらに、センサーによって与えられる情報を分析するためのプロセッサーに適用されるソフトウェアを含むことができる。
【0046】
本発明によれば「正常」な酵素コンピテンスまたは酵素機能は、患者に依存して変動するだろう。一般的な意味で、「正常」な酵素コンピテンスまたは酵素機能が、ある母数として定義されるのに対して、異常とは、その母数以外または患者の恒常性を許すのには十分でないと定義される。
【0047】
本発明の範囲内で、3タイプのPME、すなわちタイプ1)FDA承認薬物;タイプ2)GRAS化合物;およびタイプ3)新規化学物質(NCE)が例示される。本発明によれば、タイプ1、すなわちFDA承認薬物は、状態または疾患の処置を目的とするヒトでの使用がFood and Drug Administrationによって以前に承認された薬物である。GRAS化合物は、その消費がFDAによって一般に安全と認められる化合物である。最後にNCEは、特定の酵素標的に対して高度に選択的または比較的選択的な基質となるように設計された非FDA承認化合物である。これらのNCE/PMEまたはこれらのNCE/PMEの代謝産物のいずれかの血中濃度は、本発明のセンサー装置を使って体液試料を標的マーカーに関して分析することにより、計算することができる。
【0048】
好ましい態様では、タイプ1〜3のPMEが、呼気におけるそれらの検出を特に高感度および特異的にする化学部分(例えばフッ素原子)である標的マーカーを含有する。本発明の関連態様では、もっぱら特定の酵素系によって代謝される従来の薬物を使用し、それらの薬物の化学構造に改変を加えることにより、代謝された時に体液中に検出し得る標的マーカーを生成するような、タイプ3のNCEを作製する。ある関連態様では、検出可能な化学部分(標的マーカー)を薬物に組み込んで、その薬物が特定の酵素系によって代謝された後に標的マーカーが生成するようなNCEを作る。好ましくは、薬物代謝産物を体液中に検出することができるように、標的マーカーを薬物中に組み込む。標的マーカー(例えば検出可能な化学部分)を薬物に取付けてNCEを形成させることにより、本発明を使って酵素コンピテンスを査定することができる。
【0049】
本発明のもう一つの態様では、タイプ1またはタイプ2のPME(どちらも公知の酵素経路を持つもの)に、化学部分を組み込む。本発明を用いることにより、タイプ1またはタイプ2のPMEが代謝された結果として放出される標的マーカーが、他のPME分解産物よりも容易に認識される。
【0050】
本発明の好ましい態様では、揮発性である化学部分を、体液(好ましくは呼気)中に検出し得る標的マーカーとして利用する。本発明は、複数の薬物を処方される患者に関する酵素コンピテンスの決定を可能にする。これは、危篤状態の患者およびいくつかの薬物を同時に処方され服用している患者(例えば高齢者)では、特に重要である。例えば、4つ以上の薬物を患者(特に高齢患者)が服用する場合は、ADRの発生率が指数的に上昇することは、確立されている。
【0051】
投与された複数の薬剤に関する酵素コンピテンスを検討すべき場合は、患者に各処方薬のPMEを同時に投与することができる。PME投与後に、体液の試料(例えば呼気)を集め、PMEが代謝されているかどうかを決定するためにセンサーを使って試料中の標的マーカーを識別し、検出し、定量することにより、酵素コンピテンスをすぐに決定することができる。一定の態様では、センサーによって与えられた情報を使ってフィンガープリントを確定し、その試料フィンガープリントを、正常な酵素機能を表すフィンガープリントと比較する追加工程も行なわれる。
【0052】
現代医学の特質は、与えられた患者に対する総合医療計画の個別化である。疾患を処置するために医師と患者の間で成立したこの計画は、例えば以下に挙げるような(ただしそれらに限定されるわけではない)複数のパラメータによって修正され得る:遺伝的異常(例えば多型)、同時に存在する病的状態(例えば1型糖尿病という状況でのβ-アドレナリン受容体アンタゴニスト使用)、生理機能(例えば高齢患者または妊娠患者に対する用量の低減または薬剤の変更)、潜在的な薬物薬物相互作用およびADRを伴う複数薬剤の同時処置(例えばP450誘導剤および/または阻害剤)、ならびに社会的条件(例えば薬剤を購入する財力)。本発明は、使用者(例えば医療提供者)が、そのようなパラメータをリアルタイム・ポイントオブケア環境で考慮して、個別化された総合医療計画を患者に適合させることを可能にする。この特徴は潜在的に壊滅的な事象(例えばADR)に対して患者の安全性を高めるだけでなく、医療全般を著しく向上させる無類の好機を提供する。
【0053】
本発明では、体液試料におけるマーカーの存在を検出するために、センサー技術を使用する。本発明の組成物および方法と共に使用されることが考えられるセンサーには、表面音響波(SAW)センサー(例えば米国特許第4,312,228号および第4,895,017号、ならびにGroves W.A.ら「Analyzing organic vapors in exhaled breath using surface acoustic wave sensor array with preconcentration: Selection and characterization of the preconcentrator adsorbent」Analytica Chimica Acta, 371:131-143(1988)に開示されているもの);本発明の作用に応用できる化学選択的被覆を用いる当技術分野において公知の化学センサー(例えばバルク音響波(BAW)装置、板音響波(plate acoustic wave)装置、くし形微小電極(IME)装置(例えばくし形微小電極アレイ上に堆積したアルカンチオール安定化金ナノクラスターの半導体薄膜など)、光導波路(OW)装置、電気化学センサー、および導電性センサー);流体センサー技術(例えば「人工鼻」、「電子鼻」、もしくは「電子舌」と呼ばれる市販の装置、または米国特許第5,945,069号、第5,918,257号、第5,891,398号、第5,830,412号、第5,783,154号、第5,756,879号、第5,605,612号、第5,252,292号、第5,145,645号、第5,071,770号、第5,034,192号、第4,938,928号、および第4,992,244号、ならびに米国特許出願第2001/0050228号に開示されているもの);半導体ガスセンサー;微細加工によって作製されたナノ機械カンチレバーセンサーを含む微小電気機械システム(MEMS);質量分析計;IR、UV、可視、または蛍光分光光度計;光ファイバーミクロスフェアセンサー技術;表面共鳴アレイ;分子インプリントポリマー薄膜センサー技術;微小重量測定センサー;厚みすべりモードセンサー;導電性ポリマーガスセンサーを持つ機器(「ポリマー型」);アプタマーバイオセンサー;および増幅蛍光ポリマー(AFP)センサーなどがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0054】
呼気の構成要素(特にガス)を収集し監視するためにさまざまなシステムが開発されている。例えば、Silkoffの米国特許第6,010,459号には、ヒトにおける呼気の構成要素を測定するための方法および機器が記載されている。呼気を収集し分析するための他のさまざまな機器には、Glaserら,米国特許第5,081,871号の呼吸試料採取器;Kennyら,米国特許第5,042,501号の機器;Osborn,米国特許第4,202,352号の乳児の呼気を測定するための機器;Ekstrom,米国特許第5,971,937号の呼吸気から血中アルコール濃度を測定する方法、およびMitsuiら,米国特許第4,734,777号のヒト尿および呼気中の代謝物を並行分析するための計器などがある。コンピュータデータ分析構成要素を含む肺診断システムも公知である。例えばSnowら,米国特許第4,796,639号を参照されたい。
【0055】
本発明によれば、体液試料採取は、PMEの投与前、投与中および/または投与後に行なうことができる。ある態様では、本発明のセンサーを使った体液試料の採取および分析を、PMEの投与前、投与中、および投与後に行なうことにより、マーカー濃度の傾向分析を可能にする。別の態様では、体液試料の採取および分析をPMEの投与中または投与後に行なう。
【0056】
以下に、本発明を実施するための材料および手順を例示する実施例を記載する。これらの実施例を限定であるとみなしてはならない。別段の注記がない限り、百分率は全て重量百分率であり、溶媒混合物の比率は全て体積比である。
【0057】
実施例1−酵素の選択
以下に、本発明のシステムおよび方法を実施して査定することができるさまざまな酵素とそれに対応する化合物(その酵素が作用するもの)の例を挙げる。
【0058】
CYP3A4
CYP3A4は、デラビルジン、インジナビル、リトナビル、サキナビル、アンプレナビル7、ジドビジン(zidovidine)(AZT)、メシル酸ネルフィナビル、エファビレンツ、ネビラピン、イミキモド、レシキモド、ドネゼピル(donezepil)、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルカスタチン(flucastatin)、アトルバスタチン、セリバスタチン、ロスバスタチン、ベンザフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル、ナイアシン、ベンゾジアゼピン類、エリスロマイシン、デキストロメトルファンジヒドロピリジン類、シクロスポリン類、リドカイン、ミダゾラム、ニフェジピン、ベラパミル、およびテルフェナジンを含む、いくつかの薬物および食物構成成分を代謝する。加えて、CYP3A4は、環境前発癌物質、とりわけN'-ニトロソノルニコチン(NNN)、4-メチルニトロソアミノ-1-(3-ピリジル-1-ブタノン)(NNK)、5-メチルクリセン、および4,4'-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)(紫煙生成物)を活性化する。
【0059】
CYP2C6
CYP2C6は、抗ウイルス剤(例えばエファビレンツ、ネビラピン、リトナビル、サキノビル(saquinovir)、メシル酸ネルフィナビル、およびインジナビル);向精神薬(例えばアミフラミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、クロザピン、デシプラミン、ハロペリドール、イミプラミン、マプロチリン、メトキシフェナミン、ミナプリン、ノルトリプチリン、パロキセチン、ペルフェナジン、レモキシプリド、チオリダジン、トモキセチン、トリフリペリドール(triflyperidol)、ズクロペンチキソール、リスペリドン、およびフルオキセチン);心血管作動薬(例えばアプリンジン、ブフラロール、デブリソキン、エンカイニド、フレカイニド、グアノキサン(guanoxam)、インドラミン、メトプロロール、メキシレチン、n-プロピルアマリン(n-propylamaline)、プロパフェノン、プロプラノロール、スパルテイン、チモロール、およびベラパミル);ならびに種々の薬剤(例えばクロルプロパミド、コデイン、デキストロメトルファン、メタンフェタミン、ペルヘキシレン(perhexilene)、およびフェンホルミン)を含むいくつかの薬物を代謝する。
【0060】
CYP2E1
CYP2E1は、イソフルラン、ハロタン、メトキシフルラン、エンフルラン、プロポフォール、チアミラール、セボフルラン、エタノール、アセトン、アセトアミノフェン、ニトロソアミン類、ニトロソジメチルアミン、およびp-ニトロフェノールを含むいくつかの薬物および食物構成成分を代謝する。
【0061】
加えて、CYP2E1は環境前発癌物質、とりわけニトロソジメチルアミン、ニトロソピロリドン、ベンゼン、四塩化炭素、および3-ヒドロキシピリジン(紫煙生成物)を活性化する。ある研究では、高いCYP2E1(CYP2E1 *5AまたはCYP2E1 *5B)活性を持つ個体は胃癌のリスクが高いこと(OR=23.6〜25.7)が示されている。
【0062】
CYP1A2
CYP1A2は、レシキモド、イミキモド、タクリン、アセトアミノフェン、アンチピリン、17β-エストラジオール、カフェイン、クロイプラミン(cloipramine)、クロザピン、フルタミド(抗アンドロゲン)、イミプラミン、パラセタモール、フェナセチン、タクリンおよびテオフィリンを含むいくつかの薬物および食物構成成分を代謝する。
【0063】
加えて、CYP1A2は環境前発癌物質、とりわけ複素環式アミン類および芳香族アミン類を活性化する。ある研究では、迅速型N-アセチレーターであり、高いCYP1a2活性を持つ個体は、直腸結腸癌のリスクが高いこと(該当者は35%であるのに対して対照は16%,OR=2.79(P0.00-2)が示されている。
【0064】
CYP2A6
CYP2A6は、神経弛緩薬および揮発性麻酔薬ならびに天然化合物クマリン、ニコチンおよびアフラトキシンB1を含むいくつかの薬物を代謝する。加えて、CYP2A6は、紫煙のいくつかの構成要素(例えばNNK)ならびに6-アミノクリセンを活性化する。紫煙を活性化する役割およびニコチンの代謝から、喫煙関連癌の発生におけるCYP2A6の役割が示唆された。
【0065】
CYP2C19
CYP2C19は、三環系抗うつ薬アミトリプチリン、イミプラミンおよびクロミプラミン、鎮静薬ジアゼパムおよびヘキソバルビタール、胃プロトンポンプ阻害剤オメプラゾール、パントプラゾール、およびランソプラゾール、ならびに抗ウイルス薬メシル酸ネルフィナビル、抗マラリア薬プログアニルおよびβ遮断薬プロパノロール(propanolol)を含むさまざまな化合物を代謝する。
【0066】
CYP2C9
CYP2C9は、S-ワルファリン、フェニトイン、トルブタミド、チエニル酸、ならびにいくつかの非ステロイド系抗炎症薬、例えばジクロフェナク、ピロキシカム、テノキシカム、イブプロフェン、およびアセチルサリチル酸などを含むさまざまな化合物を代謝する。
【0067】
アセチルコリンエステラーゼ、ブチルコリンステラーゼ(butylcholinsterase)、およびパロキソナーゼ(paroxonase)
アセチルコリンエステラーゼ(しばしば単にコリンエステラーゼという)は、アセチルコリンが神経細胞または筋細胞間のシナプスを横切った後に、そのアセチルコリンを破壊する酵素である。ブチルコリンステラーゼも、主として血漿、腸、および肝臓などの末梢組織で、アセチルコリンを破壊する。パロキソナーゼについてはほとんどわかっていないが、体内に取り込まれる一定の形態の農薬を解毒するのに極めて重要であることが示されている。これらの酵素はいずれも、サリン、タブンなどの化学兵器剤の作用を軽減するのに重要であると思われる。本発明を使って患者をスクリーニングすることにより、そのような兵器剤に対する患者の感受性のレベルを確認することができる。
【0068】
実施例2−PMEタイプ1、2、および3の例
タイプ1:FDA承認薬(プロポフォール)
本発明において、FDA承認薬は、PMEとして役立ち得ると考えられる。PMEおよび/またはその代謝産物は、体液の試料(例えば呼気の試料)中に検出されるだろう。この経路は魅力的である。なぜなら患者が既に使用した薬剤を使用することができるからである。
【0069】
プロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール)は、伝統的な強い吸入麻酔剤のように吸入によって投与されるのではなく、静脈内(IV)に投与されるユニークな麻酔薬である。この麻酔剤は作用開始が極めて速く、作用停止も同じように速いため、短い外科手術には理想的である。プロポフォールは、体液中の検出可能マーカーとして役立ち得るPMEの一例である。特にプロポフォールは、呼気中に、直接測定することができる。呼気における消失速度は、薬物代謝の指標として役立つ。この場合、シトクロムP450 2B6(すなわちCYP2B6)と、それより程度は低いもののCYP2C9が、プロポフォールの酸化代謝に寄与している。
【0070】
呼気中のプロポフォールを検出する本発明のセンサーの能力を図1に図解する。具体的には、低鎮静濃度で与えた場合でも商用既製品(COTS)神経ガス検出器(Hazmatcad,Microsensor Systems, Inc.,ケンタッキー州ボーリンググリーン)を使って動物の呼気中にプロポフォールを検出できることを実証するパイロット研究を行なった。一被験者に関するこのORでの研究により、Hazmatcadを使って記録される呼気プロポフォール濃度はプロポフォールのボーラス用量および注入用量をどちらも追跡することが実証された。
【0071】
正常な酵素コンピテンスを持つボランティア群に対して追加のパイロット研究を行なった。このボランティア群に低鎮静用量のプロポフォールを与えて、温熱疼痛知覚に対するその作用を評価した。プロポフォールの作用部位濃度は、プロポフォールの薬力学を分析するアルゴリズムを使ってプログラムした(図2参照)。そのような結果をLC-MS-MSを使って測定した実際の血中濃度と比較した。血中作用部位濃度を15分ごとに変化させ、血液試料を15分後に採取した。加えて、呼気試料の肺胞試料をテフロン製バッグに収集し、プロポフォール濃度をGC-MSを使って測定した。固相マイクロ抽出(SPME)ファイバーを使ってテフロン製バッグから試料を収集し、残りの試料は、Hazmatcadを用いるプロポフォール濃度の測定に使用した。収集される呼気試料のための適切な手段、バッグからの漏れ、最適とはいえないHazmatcadの前濃縮器、前濃縮器上に収集された気体を蒸発させるために用いられる(プロポフォールにとっては)比較的低い温度、およびテフロンの透過性を含む技術的問題により、呼気プロポフォール濃度が血中濃度と定量的に相関するかどうかを決定する研究の価値は制限されたが、Hazmatcadを使用することにより、全ての呼気試料中にプロポフォールが検出された。
【0072】
加えて、一人の被験者では、SPMEおよびHazmatcadを使って、呼気プロポフォールを半定量的に測定した。この被験者の場合、これらの技法のどちらで測定したプロポフォール濃度も、測定された血中プロポフォール濃度と相関した(図3〜8参照)。
【0073】
タイプ2−GRAS化合物
場合によっては、本発明の方法および/または組成物を利用するPMEおよび/またはマーカーとして、GRAS(一般に安全と認められる)分子を使用することができる。一定のGRAS分子が粘膜(例えば胃腸粘膜)を通して患者に伝達され得ることは公知である。そのようなGRAS化合物は、関心対象の酵素系によって代謝され、呼気中に検出することができる一つまたは複数の生成物を生成し得る。本発明に従って使用することができるGRAS化合物の一覧を以下の表1に記載する。
【0074】
(表1)GRASに基づくPME候補の一覧

CAS、RN、または他のコード
【0075】
表1に記載するラベルの定義は以下のとおりである。

【0076】
タイプ3−新規化学物質
以下の例(例えばベラパミル、デキストロメトルファンの類似体)は、それぞれ、多くの薬物の代謝を担うP450亜画分3A4および2D6のインビボ・リアルタイム・ポイントオブケアコンピテンスを試験するために使用することができるだろう。これらの例は、包括的ではないものの、検出用揮発性生成物の遊離が起こり得るように現行の薬物を化学修飾し得ること、または全く新規な化学物質を使用し得ることも実証している。
【0077】
ベラパミル
この薬物は、広く処方されているカルシウムチャネルアンタゴニストであり、主に本態性高血圧または心不整脈を処置するために用いられる。ベラパミルの代謝は、多くの薬物を酸化的N-脱アルキル化によって代謝するCYP3A4系を介して行なわれる。N-脱アルキル化の際にアミンから失われる(そしてO-脱アルキル化の際にエーテルから失われる)アルキル基は、カルビノールアミン中間体の解離によって生じるアルデヒドまたはケトンとして出現することが、一般に観察される(Brodieら「Enzymatic metabolism of drugs and other foreign compounds」Annu Rev. Biochem, 27:427-454 (1958);RoseおよびCastagnoli「The metabolism of tertiary-amines」Med Res Rev., 3(1):73-88 (1983))。本技術のこの特定例では、代謝によって遊離される本来のホルムアルデヒドの代わりに、非内在性揮発性分子が親基質に対して1:1のモル比で生成されるように、ベラパミルを修飾する(図9参照)。この揮発性生成物は肺に輸送され、肺胞腔内に排出される。呼息中にほぼ全ての肺内ガスが(残基量を除いて)吐き出されるため、さまざまな測定方法論(例えばSAW、赤外、燃料電池など)を使ってかなりの量の揮発性マーカーを呼気中に検出することができる。この特定の状況において、シトクロムP450 3A4の誘導物質は、動物モデルにおける呼気中の揮発性マーカーの割合および濃度を、対照値より高く増加させた。対照的に、阻害剤による処置は、呼気中のマーカーの濃度を著しく減少させた。そうすることで、一般酵素系のコンピテンスだけでなく、特定の薬物代謝などを担うまさにそのCYP P450亜画分のコンピテンスも、迅速に調べることができる。得られるアルデヒドは検出限界が低いので、薬物類似体は、薬学的/生物学的活性を発現するであろう用量より低い用量で投与されることが期待される。
【0078】
ベラパミルは甚だしい肝代謝を受ける。肝初回通過効果が大きいため、生物学的利用率は正常な被験者では20〜35%を超えない。12の代謝産物が記述されている。主要代謝産物はノルベラパミルであり、その他はさまざまなN-およびO-脱アルキル化代謝産物である(Knoll Pharmaceuticals, Product Information: Isoptin SR (1984);Shomerusら「Physiological disposition of verapamil in man」Cardiovasc Res., 10:605-612 (1976))。
【0079】
CYP3A4基質としてのベラパミル類似体の合成
一態様として、ベラパミル類似体をCYP3A4基質として合成するための方法は、N-ノル-(+)-ベラパミル塩酸塩(477mg,1mmol)をメタノール10mLに懸濁し、その混合物に水酸化ナトリウム(40mg,1mmol)を加える工程を含む。沈殿物を濾去した後、溶媒を減圧下で蒸発させる。残渣をアセトニトリル(10mL)に溶解し、その溶液にポリスチレン結合型1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エン(2g)および3-ブロモ-1,1,1-トリフルオロプロパン(195mg,1.1mmol)を加える。その混合物を室温で16時間撹拌する。次に、スカベンジャー樹脂(マクロ孔質ポリスチレン樹脂に結合したメチルイソシアネート,2g)を加え、反応混合物をさらに16時間撹拌する。固形物を濾去し、アセトニトリル(2×5mL)で洗浄し、濾液を減圧下で蒸発乾固し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製する。次に、精製された生成物を2M塩酸を含有するジエチルエーテルで処理することにより、それを塩型として得る。
【0080】
本発明のもう一つの態様では、ノルベラパミルの類似体(N-(2,2,2-トリフルオロエチル)ノルベラパミル)を合成する(図11参照)。この態様では、ノルベラパミル塩酸塩(40mg,0.084mmol)を水(8mL)に溶解し、pH10に達するようにK2CO3で処理する。その混合物をCH2Cl2(3×8mL)で抽出する。合わせた有機抽出物をNa2SO4で乾燥し、濾過し、溶媒を減圧下で除去することにより、ノルベラパミル遊離塩基を得る。そのノルベラパミルをトルエン(4mL)に溶解した後、その混合物にNaHを加え、70℃で4時間撹拌する。次に、ノルベラパミルナトリウム塩にトリフルオロエチルトリフレート(100μL)を加え、還流下に終夜撹拌する。その混合物を水に注ぎ込み、ジエチルエーテル(3×10mL)で抽出する。合わせた有機抽出物をNa2SO4で乾燥し、濾過し、溶媒を減圧下で除去することにより、油状生成物(17mg,収率39%)を得る。この油状物をエタノールに溶解し、濃HClで処理する。溶媒を減圧下で蒸発させることにより、塩酸塩を得る。
【0081】
トリフルオロエチルトリフレート(2,2,2-トリフルオロエチルトリフレートとも呼ばれる)を製造するための一方法では、2,2,2-トリフルオロエタノール(1.77g,17.7mmol,1.27mL)をN2下でジイソプロピルエチルアミン(DIPEA,2.3Og,17.8mmol,3.11mL)中に捕集する。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(5g,17.7mmol,3mL)を0℃で滴下した後、その混合物を室温まで温め、次に還流下で3時間撹拌する。油浴中120℃で蒸留することにより、生成物トリフルオロエチルトリフレート(3.2g,収率78%)を得る。
【0082】
デキストロメトルファン
デキストロメトルファン(3-メトキシ-17-メチルモルフィナン臭化水素酸塩一水和物;MW370.3)は、コデイン類似体でありオピオイド鎮痛薬であるレボフェノール(levophenol)のd-異性体である。この薬剤の主な臨床使用は鎮咳薬としての使用である。
【0083】
明瞭な初回通過代謝があり、治療活性は主としてその活性代謝産物デキストロファン(dextrophan)によると一般に考えられている(Silvastiら「Pharmacokinetics of dextromethorphan and dextrorphan: a sigle dose comparison of three preparations in human volunteers」Int J Clin Pharmacol Ther Toxicol, 9:493-497 (1987);Baselt & Cravey,Disposition of Toxic Drugs and Chemicals in Man,第3版,Yearbook Medical Publishers, Inc.,シカゴ(1982))。遺伝子多型はその代謝に著しい影響を持つ(Hildebrandら「Determination of dextromethorphan metabolizer phenotype in healthy volunteers」Eur J Clin Pharmacol, 36:315-318 (1989))。デキストロメトルファンはシトクロムP450酵素表現型の変動に依存して多型的に代謝を受ける。特異的シトクロムP450酵素はP450 2D6(CYP2D6)である(Schadelら「The pharmacokinetics of dextromethorphan and metabolites in humans: influence of the CYP2D6 phenotype and quinidine inhibition」J Clin Psychopharmacol, 15(4):263-269 (1995))。迅速代謝群は人口の約84%を構成する。
【0084】
30mgの投与後に、迅速代謝群における血漿レベルは、摂取後4時間で5ng/mL未満である(Woodworthら「The polymorphic metabolism of dextromethorphan」J Clin Pharmacol, 27:139-143 (1987))。中間代謝群は人口の約6.8%を構成する。30mgの経口投与後に、血漿レベルは、摂取後4時間で10〜20ng/mL、摂取後24時間で5ng/mL未満である(Woodworthら,1987)。低代謝群はコーカソイド人口の5%〜10%を構成する。8時間尿試料における親薬物に対する代謝産物の比率は、15mgの投与後に、10対1未満である(Hildebrandら,1989)。
【0085】
30mgの経口投与後に、血漿レベルは、4時間で10ng/mLより高く、24時間で5ng/mLより高い(Woodworthら,1987)。高代謝群では肝臓でデキストロルファンに代謝される。デキストロルファンはそれ自体が活性な鎮咳性化合物である(Baselt & Cravey,1982)。低代謝群では少量しか形成されない(Kupferら「Pharmacogenetics of dextromethorphan O-demethylation in man」Xenobiotica, 16:421-433 (1986))。投与量の15%未満が、D-メトキシモルフィナンおよびD-ヒドロキシモルフィナンを含む微量代謝産物を形成する(Kupferら,1986)。
【0086】
このタイプのコンピテンス検査に馴染みやすい他の系には、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルカリホスファターゼ、スルファターゼ、コリンエステラーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、前立腺特異抗原などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0087】
CYP2D6基質としてのデキストロメトルファン類似体(+)-の合成
ベラパミル修飾とよく似た方法を使って、ヒトの呼気中に検出することができる生成物を形成するようにデキストロメトルファンを修飾する(図10Aおよび10Bに図解した最終生成物を参照)。
【0088】
デキストロメトルファン類似体を合成するための一方法では(図10A参照)、3-ヒドロキシ-N-メチルモルフィナン酒石酸塩(407mg,1mmol)を水(2mL)に溶解し、pH10に達するまで飽和炭酸カリウム溶液で処理する。その水溶液をクロロホルム(3×2mL)で抽出し、合わせた有機抽出物を無水炭酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を窒素気流下に室温で蒸発させる。乾燥窒素雰囲気下で残渣を室温の乾燥1,2-ジクロロエタン5mlに溶解する。1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ,215mg,1.2mmol)およびクロロギ酸ビニル(245mg,2.2mmol)を加え、その溶液を60℃で終夜加熱する。溶媒を減圧下で蒸発させ、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液はジクロロメタン)で精製する。溶媒を減圧下で蒸発させた後、ビニルオキシカルボニル保護3-ヒドロキシモルフィナンを、水酸化ナトリウム40mg(1mmol)を含有するジオキサン(6mL)および水(2mL)で処理し、その溶液を50℃で4時間加熱する。その混合物を室温に冷却し、食塩水に注ぎ込んだ後、ジエチルエーテル10mL×3で抽出する。合わせた抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下で蒸発させる。残渣をテトラヒドロフラン(5mL)に溶解し、その溶液にポリスチレン結合型1,5,7-トリアザビシクロ[4,4,0]デカ-5-エン(2g)および3-ブロモ-1,1,1-トリフルオロプロパン(195mg,1.1mmol)を加える。室温で2時間撹拌した後、固形物を濾去し、テトラヒドロフラン(2×2mL)で洗浄し、合わせた濾液を減圧下で蒸発乾固する。残渣をジエチルエーテル(1mL)に溶解し、47%臭化水素酸水溶液(0.1mL)で処理する。得られた固形物を濾去し、ジエチルエーテルから再結晶する。
【0089】
本発明のもう一つの態様では、図10Bおよび10Cに図解したスキームに従って、デキストロメトルファンの類似体(O-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-メチルモルフィナン)を合成する。図10Bに図解するように、デキストロメトルファン臭化水素酸塩1(1Og,28.4mmol)を47%臭化水素酸水溶液(50ml)に溶解する。その溶液を18時間還流する。得られた混合物を破砕した氷に注ぎ込み、pH10に達するようにK2CO3で処理する。次にその混合物をクロロホルム(3×100mL)で抽出する。合わせた有機抽出物を食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、溶媒を減圧下で除去することにより、固形物N-メチルモルフィナン2(6g,収率81%)を得る。
【0090】
N-メチルモルフィナン2(6g,23.4mmol)およびプロトンスポンジ(1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン,6g,28.2mmol)をN2下で60℃の1,2-ジクロロエタン(50mL)に溶解する。クロロギ酸ビニル(VOC-Cl,6g,53mmol)を加えた後、その溶液を終夜加熱還流する。得られた混合物を濾過し、濃縮し、残渣を短いシリカゲルカラムに通して、CH2Cl2で溶出させる。望ましい画分を合わせてから溶媒を除去することにより、黄色油状物N,0-ビス(ビニルオキシカルボニル)モルフィナン3(5g,収率56%)を得た。
【0091】
N,O-ビス(ビニルオキシカルボニル)モルフィナン3(3.27g,8.5mmol)を、NaOH 408mg(10.2mmol)を含有するジオキサン(36mL)および水(12mL)に溶解する。その溶液を60℃で3時間加熱する。薄層クロマトグラフィー(TLC)により、出発物質は存在しないことがわかった。その混合物を室温(RT)まで冷まし、食塩水に注ぎ込み、エーテル(3×50mL)で抽出する。合わせたエーテル抽出物をNa2SO4で乾燥し、濾過し、得られた溶媒を減圧下で除去することにより、油状物3-ヒドロキシ-N-ビニルオキシカルボニルモルフィナン4(2.5g,収率94%)を得る。
【0092】
3-ヒドロキシ-N-ビニルオキシカルボニルモルフィナン4(2g,6.4mmol)の乾燥DMF(25mL)溶液を高速で撹拌したものに、NaH(60%油性分散液,400mg,10mmol)をN2下で加えた。1時間撹拌した後、DMF 10mL中の2,2,2-トリフルオロエチル-p-トルエンスルホネート5(2.3g,9.1mmol)を滴下する。その混合物を室温で終夜撹拌した後、食塩水100mLに注ぎ込み、エーテル(3×40mL)で抽出する。合わせた有機抽出物をNa2SO4で乾燥、濾過し、溶媒を減圧下で除去することにより、油状物3-(2,2,2-トリフルオロエチル-N-ビニルオキシカルボニルモルフィナン6(1g,収率40%)を得た。
【0093】
2,2,2-トリフルオロエチル-p-トルエンスルホネート5を合成するためのスキームを図10Cに図解する。CH2Cl2(10ml)に溶解した塩化p-トルエンスルホニル(4.5g,24mmol)を、N2下で、2,2,2-トリフルオロエタノール(1.6g,16mmol)のCH2Cl2 10mL溶液に滴下した後、トリエチルアミン(TEA)4.5mLを0℃で加える。TEA添加の完了後に、反応混合物を室温で16時間撹拌する。混合物を濃縮し、残渣をEtOAc(150mL)に溶解し、NaHCO3(100mL)、0.5Mクエン酸(100mL)、蒸留水(100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥する。溶媒を減圧下で除去することにより、生成物2,2,2-トリフルオロエチル-p-トルエンスルホネート5(3.2g,収率80%)を得る。
【0094】
デキストロメトルファン類似体O-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-メチルモルフィナン7を合成するために、3-(2,2,2-トリフルオロエチル-N-ビニルオキシカルボニルモルフィナン6(730mg,1.84mmol)を乾燥THF(25mL)に溶解し、N2下に氷浴で30分撹拌する。LiAlH4(300mg,7.9mmol)を0℃で高速に撹拌しながら少しずつ加える。室温で終夜撹拌した後、水0.3mLおよび15%NaOH水溶液0.3mLを加える。得られた混合物を水75mLに注ぎ込み、エーテル(4×30mL)で抽出する。合わせた有機抽出物をNa2SO4で乾燥し、濾過し、溶媒を減圧下で除去することにより、油状物(360mg,収率58%)を得る。その油状物(60mg)をジエチルエーテル(1mL)に溶解し、48%HBr水溶液(200μL)で処理した後、高真空下で蒸発させることにより、O-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-メチルモルフィナンの臭化水素酸塩を得る。
【0095】
ベラパミル類似体およびデキストロメトルファン類似体の特徴的性質
ベラパミルおよびデキストロメトルファンのトリフルオロエチル類似体の、それぞれCYP3A4およびCYP2A6に対する親和性を、アイソフォーム基質(具体的には、3A4の場合はジベンジルフルオレセイン、2D6の場合は3-[2-(N,N-ジエチル-N-メチルアミノ)エチル]-7-メトキシ-4-メチルクマリン)に対するcDNA発現ヒトCYPアイソフォーム(2D6または3A4)の機能的活性の阻害を測定することによって調べる(Crespiら「High throughput screening for inhibition of cytochrome P450 metabolism」Med. Chem. Res., 8:457-471 (1998))。代謝産物(3A4の場合はフルオレセイン、2D6の場合は3-[2-(N,N-ジエチル-N-メチルアミノ)エチル]-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン)を蛍光測定アッセイによって決定した。さまざまな濃度の基質と共にインキュベートすることにより、IC50を決定した(下記の表2および表3参照)。親薬物(ベラパミルおよびデキストロメトルファン)の蛍光基質の代謝の50%阻害をもたらす濃度(IC50)を、標的CYPアイソフォームに対する親和性の変化を査定するための参照値として使用した。
【0096】
(表2)ヒト組換えCYP3A4によるジベンジルフルオレセイン(5・10-7M)の代謝の50%阻害をもたらす濃度

CYP3A4用の参照阻害剤
【0097】
(表3)ヒト組換えCYP2A6による3-[2-(N,N-ジエチル-N-メチルアミノ)エチル]-7-メトキシ-4-メチルクマリン(1.5・10-6M)の代謝の50%阻害をもたらす濃度

*CYP2A6用の参照阻害剤
【0098】
表2および表3に例示するように、ベラパミルおよびデキストロメトルファンの2,2,2-トリフルオロエチル類似体はどちらも、親薬物(ベラパミルおよびデキストロメトルファン)と比較して、標的CYPアイソフォームに対して改善された親和性を示す。
【0099】
実施例3−センサーの選択
本発明の方法を実施する際に利用することができるさまざまなセンサー技術の例を以下に記載する。
【0100】
微小重力測定センサー
微小重量測定センサーは、特定の物質または構造類似体の群に対して選択的に前もって決定されたポリマー系吸収剤または生体分子系吸収剤の製造に基づく。吸収剤と標的マーカーとの結合によって誘発される質量変化の直接測定は、センサーの基材における音響すべり波(acoustic shear wave)の伝播によって観察することができる。音響波の位相および速度は、センサー表面への標的マーカーの特異的吸着によって左右される。石英(SiO2)または酸化亜鉛(ZnO)などの圧電材料は、振動場で励起されると、特定の超音波周波数で機械的に共鳴する。電磁エネルギーが音響エネルギーに変換されることにより、圧電気が異方性結晶構造を持つ材料の電気分極に関連づけられる。一般に、振動法は音響発振を監視するために用いられる。具体的には、振動法では、共鳴センサーの直列共鳴振動数を測定する。微小重量測定センサーに由来するセンサーのタイプには、厚みすべりモード(TSM)を応用する水晶微量天秤(QCM)装置および表面音響波(SAW)検出原理を応用する装置が含まれる。微小重量測定センサーに由来する他の装置には、たわみ板波(flexural plate wave:FPW)、すべり水平音響板(shear horizontal acoustic plate:SH-APM)、表面横波(surface transverse wave:STW)およびシン・ロッド音響波(thin-rod acoustic wave:TRAW)が含まれる。
【0101】
導電性ポリマー
導電性ポリマーセンサーには、短い応答時間、低コスト、ならびに良好な感度および選択性が見込まれる。この技術は概念的に比較的単純である。炭素などの導電性材料を特定の非導電性ポリマーに均一に配合し、酸化アルミニウム基材上に薄い薄膜として堆積させる。その薄膜は2本の導線を横切って置かれ、化学抵抗器(chemoresistor)を作り出す。ポリマーをさまざまな化学物質蒸気にさらすと、ポリマーが膨張して炭素粒子間の距離が増加し、それによって抵抗が増加する。ポリマーマトリックスは、分析物蒸気が薄膜中に吸収される(その程度は分析物の分配係数によって決まる)ために、膨潤する。分配係数は、指定された温度における蒸気相と凝縮相の間の分析物の平衡分布を定義する。個々の検出器素子は、ベースラインノイズを上回る顕著な応答を引き起こすために、分析物の最小吸収量を必要とする。異なる蒸気に対する選択性は、ポリマーの化学組成を変化させることによって達成される。これにより、各センサーを、特定の化学物質蒸気に適応させることができる。したがって、ほとんどの応用例では、選択性を改善するために、直交応答センサー(orthogonal responding sensors)のアレイが必要である。関心対象の化学物質蒸気を正しく同定するには、アレイ中のセンサー数にかかわらず、それらからの情報をパターン認識ソフトウェアで処理しなければならない。感度濃度(sensitivity concentration)は良いと言われている(数十ppm)。この技術は可搬性が高く(小さく、消費電力が少ない)、応答時間が比較的短く(1分未満)、低コストであり、堅牢で信頼性が高いはずである。
【0102】
電気化学センサー
電気化学センサーは、感知素子上での標的マーカーの化学的相互作用が引き起こす感知素子の出力電圧の変化を測定する。一定の電気化学センサーは変換器原理に基づく。例えば一定の電気化学センサーは、試料とセンサー表面との間に電荷分離を生成するイオン選択膜を含むイオン選択電極を使用する。他の電気化学センサーは、複合体形成材である表面として電極を単独で使用し、この場合は電極電位の変化が標的マーカーの濃度と関係する。電気化学センサーのさらなる例は、いわゆるソース電極とドレイン電極の間の金属ゲート上に蓄積された電極表面の電荷を監視するための半導体技術に基づく。表面電位は標的マーカー濃度と共に変動する。
【0103】
さらなる電気化学センサー装置には、電流測定型、導電率測定型、および容量型免疫センサーが含まれる。電流測定型免疫センサーは一定電圧下で電気化学反応によって生成する電流を測定するように設計される。一般に、感知電極による標的マーカーの電気化学反応には、そのままで、または酵素反応の生成物として、電気化学的に活性なラベルが必要である。電流測定型免疫センサーには、酸素電極およびH2O2電極を含む数多くの市販電極を使用することができる。
【0104】
容量型免疫センサーは、一定電圧で溶液中の電気伝導率の変化を測定するセンサー系変換器であり、この場合、電導率の変化はイオンを特異的に生成または消費する生化学的酵素反応によって引き起こされる。静電容量変化は、生物活性素子が一対の金属電極(例えば金または白金電極)上に固定化された電気化学系を使って測定される。
【0105】
導電率測定型免疫センサーも、表面電導率の変化を測定するセンサー系変換器である。容量型免疫センサーの場合と同様に、生物活性素子が電極表面に固定化される。生物活性素子が標的マーカーと相互作用すると、電極間で電導率の低下が起こる。
【0106】
電気化学センサーは低百万分率濃度を検出するのに非常に適している。また、それらは堅牢であり、電力をほとんど消費せず、線形であり、著しい支援電子機器または蒸気の取扱(ポンプ、バルブなど)を必要としない。コストは中くらいであり(50ドル〜少量で200ドル)、サイズは小さい。
【0107】
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)は実際には二つの技術の組み合わせである。一方の技術は化学構成要素を分離し(GC)、他方はそれらを検出する(MS)。技術的には、ガスクロマトグラフィーは、2以上の化合物が二つの相(すなわち移動相および固定相)の間で差別的に分布することに基づく、2以上の化合物の物理的分離である。移動相は、固定相で被覆したカラム(分離はここで起こる)を通して気化試料を移動させるキャリアーガスである。分離された試料構成要素がカラムから溶出するときに、検出器がカラム溶出物を電気シグナルに変換し、それが測定され、記録される。シグナルはクロマトグラムプロット中にピークとして記録される。クロマトグラフピークは、その対応する保持時間から同定することができる。保持時間は、試料注入時からピーク極大時まで測定され、他の試料構成要素の存在には左右されない。保持時間は、選択したカラムおよび構成要素に依存して、数秒〜数時間の範囲に及び得る。ピークの高さは試料混合物中の構成要素の濃度に関係する。
【0108】
分離後に、化学構成要素を検出する必要がある。質量分析はそのような検出方法の一つであり、この方法では、分離された試料構成要素分子に、それらがカラムから溶出した時に、電子ビームで衝撃を与える。これにより、その分子は電子を失い、正の電荷を持つイオンが形成される。分子を一つにつなぎ止めている結合の一部はその過程で破壊され、その結果生じた断片は転位またはさらなる分解を起こして、より安定な断片を形成し得る。与えられた化合物は、与えられた一組の条件下で再現性よくイオン化し、断片化し、転位するだろう。これにより、考え得る分子が同定される。質量スペクトルは、試料分子およびその断片に由来するイオンについて、質量/電荷比を存在量データに対して示すプロットである。この比は、通常は、その断片の質量に等しい。スペクトル中の最大ピークは基準ピークである。GC/MSは正確であり、選択的であり、高感度である。
【0109】
赤外分光法(FTIR,NDIR)
赤外(IR)分光法は有機化学者および無機化学者が使用するもっとも一般的な分光学的技術である。簡単に述べると、これは、IRビームの経路内に置かれた試料によるさまざまなIR周波数の吸収測定である。IR放射は、0.78〜1000マイクロメートル(ミクロン)の波長を持つ電磁スペクトルの広い区間にまたがる。一般にIR吸収はその波数(その波長の逆数を10,000倍したもの)によって表される。IR分光法を使って検出しようとする与えられた試料に関して、試料分子はIR領域で活性でなければならない。すなわちその分子はIR放射に曝露された時に振動しなければならない。このデータが掲載された参考図書は、CRC Press発行のHandbook of Chemistry and Physicsを含めて、いくつか入手することができる。
【0110】
大きく分けて2種類のIR分光光度計、すなわち分散型と非分散型がある。典型的な分散型IR分光光度計では、広帯域線源からの放射が試料を通過し、モノクロメーターによって成分周波数へと分散させられる。次にビームは検出器(典型的には熱検出器または光子検出器)に当たり、それが分析用の電気シグナルを生成する。フーリエ変換IR分光光度計(FTIR)は、速さおよび感度が優れているので、分散型IR分光光度計に取って代わった。FTIRは、移動鏡マイケルソン干渉計を使用し、シグナルのフーリエ変換を行なうことにより、光学成分周波数の物理的分離を排除する。
【0111】
逆に、非分散型IR(NDIR)分光光度計の場合は、一連の試料ガスを分析するために広いIRスペクトルを提供する代わりに、NDIRは、標的試料の吸収波長に対応する特定波長を提供する。これは比較的広いIR線源を利用し、放出を関心対象の波長に限定するために分光フィルターを使用することによって達成される。例えばNDIRは、IRエネルギーを4.67ミクロンの波長で吸収する一酸化炭素(CO)を測定するために、しばしば使用される。設計時にIR線源および検出器を注意深く調整することにより、大量生産COセンサーが製造される。これはとりわけ印象的である。というのも、二酸化炭素は一般的な緩衝物質であり、COのIR吸収波長に極めて近い4.26ミクロンというIR吸収波長を持つからである。
【0112】
NDIRセンサーには、低いコスト(200ドル未満)、経常的コストなし、良好な感度および選択性、較正なしおよび高い信頼性が見込まれる。それらは小さく、電力をほとんど消費せず、素速く応答する(1分未満)。安定所要時間はわずかである(5分未満)。残念なことに、これらは一つの標的ガスしか検出しない。より多くのガスを検出するには、追加の分光フィルターおよび検出器、ならびに広帯域IR線源を方向付ける追加の光学部品が必要である。
【0113】
イオン移動度分光分析法(IMS)
イオン移動度分光分析法(IMS)では、イオン化した分子試料を、管内で電場に曝した時のそれらの遷移時間に基づいて分離する。試料が計器内に取り出されると、それが弱い放射線源によってイオン化される。イオン化された分子は電場の影響下にセルの中をドリフトする。電気シャッターグリッドが、ドリフト管へのイオンの周期的導入を可能にし、その中でイオンは電荷、質量および形状に基づいて分離する。小さいイオンほど大きいイオンより速くドリフト管内を移動し、検出器に速く到達する。検出器からの増幅された電流が時間の関数として測定され、スペクトルが作成される。マイクロプロセッサーがそのスペクトルを標的化合物に関して評価し、ピーク高に基づいて濃度を決定する。
【0114】
IMSは極めて迅速な方法であり、ほぼリアルタイムな分析が可能である。また感度も極めて高く、関心対象の分析物を全て測定することができるはずである。IMSはコストが中くらいであり(数千ドル)、サイズおよび消費電力は大きい。
【0115】
金属酸化物半導体(MOS)センサー
金属酸化物半導体(MOS)センサーでは半導体金属酸化物結晶(典型的にはスズ-酸化物)を感知材料として利用する。金属-酸化物結晶が約400℃に加熱され、その温度で表面が酸素を吸着する。結晶中のドナー電子は吸着された酸素に移動して、空間電荷領域中に正電荷を残す。したがって表面電位が形成され、それがセンサーの抵抗を増加させる。センサーを脱酸(または還元)ガスに曝露すると表面電位が除去されて、抵抗が低下する。最終的な結果は、その電気抵抗が脱酸ガスへの曝露と共に変化するセンサーである。抵抗の変化はほぼ対数的である。
【0116】
MOSセンサーには、極めて低コストである(少量で8ドル未満)と共に分析時間が短い(ミリ秒〜秒)という利点がある。これらは作動寿命が長く(5年超)、貯蔵寿命に問題があるという報告もない。
【0117】
厚みすべりモードセンサー(TSM)
TSMセンサーはATカット圧電性結晶円板(石英は生物学的流体中で化学的に安定であり、極端な温度に対して耐性を持つので、ほとんどの場合、石英製である)と、その円板の相対する面に取付けられた二つの電極(好ましくは金属)とからなる。電極は振動電場をかける。一般にTSMセンサー装置は5〜20MHzの範囲で作動させる。利点は、化学的に不活性であることの他に、装置が低コストであること、および量産された石英円板が信頼できる品質を持つことである。
【0118】
光イオン化検出器(PID)
光イオン化検出器は、全ての元素および化学物質はイオン化させることができるという事実に依拠している。電子を引き離しガスを「イオン化」するのに必要なエネルギーをイオン化ポテンシャル(IP)といい、電子ボルト(eV)の単位で測定される。PIDでは紫外(UV)光源を使ってガスをイオン化する。UV光源のエネルギーは少なくとも、試料ガスのIPと同じ強さでなければならない。例えばベンゼンは9.24eVのIPを持ち、一酸化炭素は14.01eVのIPを持つ。PIDでベンゼンを検出するには、UVランプは少なくとも9.24eVのエネルギーを持たなければならない。ランプが15eVのエネルギーを持つ場合は、ベンゼンと一酸化炭素の両方がイオン化されるだろう。いったんイオン化されると、検出器は電荷を測定し、シグナル情報を表示濃度に変換する。残念ながら、表示装置はこれら二つのガスを区別せず、単に両方を合計した総濃度を示すだけである。
【0119】
9.8、10.6および11.7eVという三つのUVランプエネルギーが市販されている。関心対象のガスをイオン化するのに十分なエネルギーを持つと同時に最も低いエネルギーのランプを選択することにより、多少の選択性を達成することができる。PIDによって測定される最大の化合物群は有機物(炭素を含有する化合物)であり、それらは典型的には百万分率(ppm)濃度まで測定することができる。PIDは11.7eVより大きいIPを持つ気体、例えば窒素、酸素、二酸化炭素および水蒸気などを測定しない。CRC Press Handbook of Chemistry and Physicsには、さまざまな気体のIPを列挙した表が掲載されている。
【0120】
PIDは高感度であり(低ppm)、低コストであり、応答が速く、持ち運び可能な検出器である。また電力もほとんど消費しない。
【0121】
表面音響波センサー(SAW)
表面音響波(SAW)センサーは、圧電性基材上に製作されたくし形金属電極を使って、表面音響波を生成すると共に表面音響波を検出するように構築される。表面音響波は、表面にその最大振幅を持ち、そのエネルギーが15〜20波長の表面内にほぼ全て含有される波である。振幅は表面で最大なので、そのような装置は表面感度が極めて高い。通常、SAW装置は携帯電話に電子帯域フィルターとして使用される。それらは、SAWの表面と接触する物質によってその性能が変化しないことを保証するために密封パッケージされる。
【0122】
SAW化学センサーは、この表面感度を利用して、センサーとして機能する。特定化合物に対する特異性を増加させるために、SAW装置はしばしば、装置の周波数および挿入損に予測可能な再現性のある形で影響を及ぼすであろう薄いポリマー薄膜で被覆される。センサーアレイ中の各センサーは異なるポリマーで被覆され、ポリマー被覆の数およびタイプは、検出すべき化学物質に基づいて選択される。次に、ポリマー被覆を持つ装置を、そのポリマー材料に吸収される化学物質蒸気にさらすと、装置の周波数および挿入損は、さらに変化するだろう。装置が化学センサーとして機能することを可能にするのは、この最終変化である。
【0123】
いくつかのSAW装置をそれぞれ異なるポリマー材料で被覆した場合、与えられた化学物質蒸気に対する応答は、装置ごとに異なるだろう。ポリマー薄膜は通常、それぞれがさまざまな有機化学物質クラス、すなわち炭化水素、アルコール、ケトン、酸素化物、塩素化物、および窒素化物に対して異なる化学親和性を持つように選択される。ポリマー薄膜が適切に選択された場合、関心対象の各化学物質蒸気は、その装置セットに対してユニークな総合的作用を持つだろう。SAW化学センサーは、極端に軽く高揮発性のヘキサンから極端に重く低揮発性の半揮発性化合物に及ぶ有機化合物の範囲で有用である。
【0124】
試料をアレイ内に運び、アレイを通過させるために、モーター、ポンプおよびバルブを使用する。蒸気濃度が低い場合は、アレイの前に化学前濃縮器を使用するというオプションにより、システムの感度を向上させることができる。作動時には、前濃縮機がある期間にわたって試験蒸気を吸収した後、加熱されて、より短い時間間隔でその蒸気を放出することにより、アレイにおけるその蒸気の有効濃度を増加させる。このシステムでは何らかのタイプの駆動および検出電子機器をアレイに使用する。システムのシークエンスを制御し、アレイからのデータを解釈し分析するための計算能力を得るために、オンボードマイクロプロセッサーを使用する。
【0125】
SAWセンサーは手頃な価格であり(200ドル未満)、良好な感度(数十ppm)と極めて良好な選択性とを合わせ持つ。持ち運び可能であり、頑強であり、消費電力もごくわずかである。安定所要時間は2分未満であり、ほとんどの分析で、所要時間は1分未満である。通例、高正確度定量用途には使用されないので、較正は必要ない。SAWセンサーは経時的にドリフトせず、作動寿命が長く(5年超)、貯蔵寿命に問題があるという報告もない。湿気の影響を受けやすいが、これは熱脱着型濃縮器および処理アルゴリズムの使用によって対処される。
【0126】
増幅蛍光ポリマー技術
センサーには、高感度標的マーカー検出器として揮発性化学物質と反応する蛍光ポリマーを使用することができる。従来の蛍光検出では、通常、一分子の標的マーカーが孤立した発色団と相互作用した時に起こる蛍光強度の増減または放出波長シフトが測定され、標的マーカーと相互作用する発色団が消光される場合、残りの発色団は蛍光を発し続ける。
【0127】
このアプローチの変法が、YangおよびSwager,J. Am. Chem. Soc, 120:5321-5322(1998)ならびにCummingら,IEEE Trans Geoscience and Remote Sensing,39:1119-1128(2001)に記載されている「分子ワイヤ」構成である。分子ワイヤ構成では、任意の発色団による光の単光子の吸収が連鎖反応をもたらして、多くの発色団の蛍光を消光し、感知応答を数桁増幅する。分子ワイヤ構成に基づくセンサーが爆薬を検出するために組み立てられている(SwagerおよびWosnick,MRS Bull,27:446-450(2002)参照)。
【0128】
光ファイバーミクロスフェア技術
光ファイバーミクロスフェア技術は、複数のミクロスフェアセンサー(ビーズ)のアレイに基づき、各ミクロスフェアは、マイクロメートル規模の複数のウェルを含有する光学基材上に置かれた、標的マーカーと関連する離散クラスに属する(例えばMichael et al., Anal Chem, 71:2192-2198(1998);Dickinson et al., Anal Chem., 71:2192-2198(1999);AlbertおよびWalt,Anal Chem, 72:1947-1955(2000);ならびにStitzel et al., Anal Chem, 73:5266-5271(1001)参照)。各タイプのビーズは、そのビーズを同定しその位置を特定するために、ユニークな符号を与えられる。標的マーカーに曝露すると、ビーズは標的マーカーに応答し、その強度および波長シフトを使って、蛍光応答パターンを作成し、次にそれを公知のパターンと比較することによって、標的マーカーを同定する。
【0129】
くし形微小電極アレイ(IME)
くし形微小電極アレイは、それぞれが有機単分子膜シェルで被覆されているナノメートルサイズ金属粒子のアンサンブルを組み込んだ変換器薄膜の使用に基づく(例えばWohltjenおよびSnow,Anal Chem, 70:2856-2859(1998);ならびにJarvis et al., Proceedings of the 3rd Intl Aviation Security Tech Symposium,ニュージャージー州アトランティックシティ,639-647(2001)参照)。そのようなセンサー装置は、薄い絶縁層によって分離されたコロイドサイズの導電性金属コアの大集団の組み合わせであることから、金属-絶縁体-金属アンサンブル(metal-insulator-metal ensemble:MIME)とも呼ばれている。
【0130】
微小電気機械システム(MEMS)
MEMSに基づくセンサー技術では、機械的素子、センサー、アクチュエーター、および電子機器が、標的マーカーの検出に使用される共通のシリコン基材上に統合される(例えばPinnaduwage et al., Proceedings of 3rd Intl Aviation Security Tech Symposium,ニュージャージー州アトランティックシティ,602-615(2001);およびLareauet al.,Proceedings of 3rd Intl Aviation Security Tech Symposium,ニュージャージー州アトランティックシティ,332-339(2001)参照)。
【0131】
MEMSに基づくセンサー技術の一例は、マイクロカンチレバーセンサーである。マイクロカンチレバーセンサーは、現在使用されているセンサーより少なくとも1,000倍は高感度で小さい、毛髪様シリコン系装置である。ほとんどのマイクロカンチレバーセンサーの作用原理は、変位の測定に基づいている。具体的には、バイオセンサー用途の場合、カンチレバープローブの変位は、カンチレバービームの(活性化)表面における分子の結合に関係づけられ、これらの結合の強さならびに考慮中の溶液における特定試薬の存在を計算するために用いられる(Fritz, J.ら「Translating biomolecular recognition into nanomechanics」Science, 288:316-318(2000);Raiteri, R.ら「Sensing of biological substances based on the bending of microfabricated cantilevers」Sensors and Actuators B, 61:213-217(1999))。これらの装置の感度が最小検出可能運動に強く依存し、それが理論的に達成可能な性能との対比で実際に達成可能な性能に制約を課すことは明らかである。
【0132】
マイクロカンチレバー技術の一例では、異なるセンサー/検出器層(例えば抗体またはアプタマー)で被覆されたシリコンカンチレバービーム(好ましくは長さ数百マイクロメートル、厚さ1μm)を使用する。標的マーカーに曝露すると、カンチレバー表面が標的マーカーを吸収し、それが、カンチレバーを屈曲させるセンサーと吸収層の間の界面応力をもたらす。各カンチレバーは各標的マーカーに特有の特徴的な形で屈曲する。時間の関数としてのカンチレバー屈曲応答の強さから、各標的マーカーについてフィンガープリントパターンを得ることができる。
【0133】
マイクロカンチレバーセンサーは、相対湿度、温度、圧力、流れ、粘度、音、紫外および赤外放射、化学物質、ならびにDNA、タンパク質および酵素などの生体分子を検出し、測定することができる点で、非常に有利である。マイクロカンチレバーセンサーは堅牢であり、再利用可能であり、極めて高感度である上に、コストが低く、電力をほとんど消費しない。これらのセンサーを使用する際のもう一つの利点は、それらが空気中、真空下、または液体環境下で作動することである。
【0134】
分子インプリントポリマー薄膜
分子インプリンティングは、ポリマー材料における特異的分子認識部位(結合部位または触媒部位)の形成がテンプレートによって誘導される過程であり、この過程では、テンプレートが、自己集合機序によるポリマー材料の構造構成要素の配置および配向を指図する(例えばOlivier et al., Anal Bioanal Chem, 382:947-956(2005);およびErsoz et al., Biosensors & Bioelectronics, 20:2197-2202(2005)参照)。ポリマー材料には、有機ポリマー材料および無機シリカゲルが包含され得る。分子インプリントポリマー(MIP)は、例えば蛍光分光法;UV/Vis分光法;赤外分光法;表面プラズモン共鳴;化学発光吸着剤アッセイ;および反射率測定干渉分光法を含む(ただしこれらに限定されるわけではない)さまざまなセンサープラットフォームで使用することができる。そのようなアプローチは、高効率かつ高感度な標的マーカー認識の実現を可能にする。
【0135】
本明細書で言及または引用する特許、特許出願、仮出願、および刊行物は全て、本明細書の明示的教示内容に矛盾しない範囲で、全ての図および表を含むその全文が、参照により本明細書に組み入れられる。
【0136】
本明細書に記載した実施例および態様は例示を目的とするに過ぎず、当業者には、それらに照らしてさまざまな変更または改変が示唆されると共に、それらは本願の要旨および範囲に包含されるものであることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】呼気中のプロポフォールを検出するSAWセンサーの能力を図解したグラフである。
【図2】プロポフォール薬力学に関する研究の結果を図解したグラフである。
【図3】予想プロポフォール血中濃度に対してプロットした三つのSAWセンサーに関する総周波数シフトを図解したグラフである。
【図4】測定されたプロポフォール血中濃度に対してプロットした三つのSAWセンサーに関する総周波数シフトを図解したグラフである。
【図5】被験者にプロポフォールを投与する前にプロポフォールピークが存在しなかったことを示すGC-MSクロマトグラフである。
【図6】計算作用部位濃度が0.5μg/mLであるプロポフォールピーク(存在量=80,000カウント)を示すGC-MSクロマトグラフである。
【図7】計算作用部位濃度1.0μg/mLのプロポフォールピーク(存在量=2,200,000カウント)を持つGC-MSクロマトグラフである。
【図8】計算作用部位濃度0.3μg/mLのプロポフォールピーク(存在量=1,200,000カウント)を持つGC-MSクロマトグラフである。
【図9】ベラパミル類似体を代謝して呼気中に容易に検出されるマーカーを遊離させるCYP3A4の模式図である。
【図10A】デキストロメトルファン類似体を代謝して呼気中に容易に検出されるマーカーを遊離させるCYP2D6の模式図である。
【図10B】本発明に従ってデキストロメトルファン類似体を合成するための製造スキームの図解である。
【図10C】本発明に従ってデキストロメトルファン類似体を合成するための製造スキームの図解である。
【図11】本発明に従ってノルベラパミル類似体を合成するための製造スキームの図解である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、酵素系コンピテンスのリアルタイム・ポイントオブケア決定のための方法:
a)少なくとも一つの酵素系についてコンピテンスを決定すべき患者に、少なくとも一つの親分子物質を投与し、少なくとも一つの標的マーカーが該少なくとも一つの親分子物質から生成される工程;
c)患者からの体液を、体液中の標的マーカーを識別し、検出し、定量することができるセンサーに曝露する工程;および
d)標的マーカーの存在に基づいて、患者が少なくとも一つの酵素系についてコンピテンスを示すかどうかを確定する工程。
【請求項2】
標的マーカーが揮発性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
親分子物質が少なくとも一つの酵素系の基質であり、親分子物質がFDA承認薬、GRAS化合物、および新規化学物質からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
体液が、呼気、全血、血漿、尿、精液、唾液、リンパ液、髄膜液、羊膜液、腺液、喀痰、糞便、汗、粘液、膣液、眼水、および脳脊髄液からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
体液が呼気である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
センサーが、金属-絶縁体-金属アンサンブル(metal-insulator-metal ensemble:MIME)センサー、交差反応光学マイクロセンサーアレイ(cross-reactive optical microsensor array)、蛍光ポリマー薄膜、表面増強ラマン分光法(SERS)、ダイオードレーザー、選択イオンフロー管(selected ion flow tube)、金属酸化物センサー(MOS)、バルク音響波(BAW)センサー、比色管、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー、半導体ガスセンサー技術、質量分析計、蛍光分光光度計、導電性ポリマーガスセンサー技術、アプタマーセンサー技術、増幅蛍光ポリマー(amplifying fluorescent polymer:AFP)センサー技術、マイクロカンチレバー技術、分子ポリマー薄膜(molecularly polymeric film)技術、表面共鳴アレイ、微小重量測定センサー、厚みすべりモードセンサー、または表面音響波ガスセンサー技術からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
酵素系がシトクロムP450系である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
酵素系がシトクロムP450 3A4系であり、親分子物質がベラパミルの類似体であり、標的マーカーがベラパミルの代謝産物である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ベラパミルの類似体がN-(2,2,2-トリフルオロエチル)ノルベラパミルである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
酵素系がシトクロムP450 2D6系であり、親分子物質がデキストロメトルファンの類似体であり、標的マーカーがデキストロメトルファンの代謝産物である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
デキストロメトルファンの類似体がO-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-メチルモルフィナンである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
患者が有害薬物反応を起こすかどうかを、少なくとも一つの酵素系のコンピテンスに基づいて決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの酵素系のコンピテントな活性に関する第1フィンガープリントを確定し、体液試料中の標的マーカーの濃度を経時的に査定して第2フィンガープリントを確定し、第1フィンガープリントの第2フィンガープリントとの比較に基づいて患者が疾患を持つかどうかを決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
患者が病態生理を示すかどうかを少なくとも一つの酵素系のコンピテンスに基づいて決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
親分子物質が、舌下、胃腸、膣、静脈内、皮下、経皮、筋肉内、局所外用、経鼻、および肺からなる群より選択される経路を使って投与される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
少なくとも一つの酵素系のコンピテンスに基づいて患者のために個別化された総合医療計画を作成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
複数の親分子物質を患者に投与し、酵素系のコンピテンスに基づいて複数の薬物について有益な投薬量を処方する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
以下を含む、酵素系コンピテンスのリアルタイム・ポイントオブケア決定のためのシステム:
a)少なくとも一つの親分子物質であって、少なくとも一つの標的マーカーが該少なくとも一つの親分子物質から生成されるもの;
b)該標的マーカーを検出するためのセンサー;および
c)センサーによって与えられた情報を記憶し分析するように構成されたプロセッサー。
【請求項19】
プロセッサーが、少なくとも一つの正常酵素機能を代表するフィンガープリントを記憶し、センサーによって与えられたデータに基づいて試料フィンガープリントを決定し、代表フィンガープリントを試料フィンガープリントと比較するようにも構成される、請求項18記載のシステム。
【請求項20】
親分子物質が少なくとも一つの酵素系の基質であり、親分子物質がFDA承認薬、GRAS化合物、および新規化学物質からなる群より選択される、請求項18記載のシステム。
【請求項21】
センサーが、金属-絶縁体-金属アンサンブル(MIME)センサー、交差反応光学マイクロセンサーアレイ、蛍光ポリマー薄膜、表面増強ラマン分光法(SERS)、ダイオードレーザー、選択イオンフロー管、金属酸化物センサー(MOS)、バルク音響波(BAW)センサー、比色管、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー、半導体ガスセンサー技術、質量分析計、蛍光分光光度計、導電性ポリマーガスセンサー技術、アプタマーセンサー技術、増幅蛍光ポリマー(AFP)センサー技術、マイクロカンチレバー技術、分子インプリントポリマー薄膜技術、微小重量測定センサー、表面共鳴アレイ、厚みすべりモードセンサー、または表面音響波ガスセンサー技術からなる群より選択される、請求項18記載のシステム。
【請求項22】
試料フィンガープリントがシトクロムP450系に関するデータに基づく、請求項18記載のシステム。
【請求項23】
酵素系がシトクロムP450 3A4系であり、親分子物質がベラパミルの類似体であり、標的マーカーがベラパミルの代謝産物である、請求項22記載のシステム。
【請求項24】
ベラパミルの類似体がN-(2,2,2-トリフルオロエチル)ノルベラパミルである、請求項24記載のシステム。
【請求項25】
酵素系がシトクロムP450 2D6系であり、親分子物質がデキストロメトルファンの類似体であり、標的マーカーがデキストロメトルファンの代謝産物である、請求項22記載のシステム。
【請求項26】
デキストロメトルファンの類似体がO-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-メチルモルフィナンである、請求項25記載のシステム。
【請求項27】
少なくとも一つの親分子物質に対する患者の酵素コンピテンスのポイントオブケア査定のためのキットであって、以下を含むキット:
a)該親分子物質の試料であって、少なくとも一つの標的マーカーがそこから生成されるもの;および
b)少なくとも一つのセンサー。
【請求項28】
センサーが、センサーとプロセッサーの間の通信を可能にする通信手段を含む、請求項27記載のキット。
【請求項29】
センサーによって与えられる情報の分析に使用するためのプロセッサーに適用されるソフトウェアをさらに含む、請求項28記載のキット。
【請求項30】
センサーが、金属-絶縁体-金属アンサンブル(MIME)センサー、交差反応光学マイクロセンサーアレイ、蛍光ポリマー薄膜、表面増強ラマン分光法(SERS)、ダイオードレーザー、選択イオンフロー管、金属酸化物センサー(MOS)、バルク音響波(BAW)センサー、比色管、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー、半導体ガスセンサー技術、質量分析計、蛍光分光光度計、導電性ポリマーガスセンサー技術、アプタマーセンサー技術、増幅蛍光ポリマー(AFP)センサー技術、マイクロカンチレバー技術、分子インプリントポリマー薄膜技術、表面共鳴アレイ、微小重量測定センサー、厚みすべりモードセンサー、または表面音響波ガスセンサー技術からなる群より選択される、請求項27記載のキット。
【請求項31】
親分子物質が関心対象の酵素系の基質であり、親分子物質がFDA承認薬、GRAS化合物、および新規化学物質からなる群より選択される、請求項27記載のキット。
【請求項32】
酵素系がシトクロムP450系である、請求項27記載のキット。
【請求項33】
酵素系がシトクロムP450 3A4系であり、親分子物質がベラパミルの類似体であり、標的マーカーがベラパミルの代謝産物である、請求項32記載のキット。
【請求項34】
ベラパミルの類似体がN-(2,2,2-トリフルオロエチル)ノルベラパミルである、請求項33記載のキット。
【請求項35】
酵素系がシトクロムP450 2D6系であり、親分子物質がデキストロメトルファンの類似体であり、標的マーカーがデキストロメトルファンの代謝産物である、請求項32記載のキット。
【請求項36】
デキストロメトルファンの類似体がO-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-メチルモルフィナンである、請求項35記載のキット。
【請求項37】
以下の工程を含む、候補患者臓器の移植適合性を査定するための方法:
a)臓器中の少なくとも一つの酵素系についてコンピテンスを決定すべき患者に、少なくとも一つの親分子物質を投与し、少なくとも一つの標的マーカーが該少なくとも一つの親分子物質から生成される工程;
c)患者からの体液を、体液中の標的マーカーを識別し、検出し、定量することができるセンサーに曝露する工程;および
d)標的マーカーの存在に基づいて、患者が少なくとも一つの酵素系についてコンピテンスを示すかどうかおよび臓器が移植に適しているかどうかを確定する工程。
【請求項38】
以下の工程を含む、酵素機能のインビトロ査定のための方法:
a)ヘッドスペースを含む密閉容器内で、少なくとも一つの親分子物質を、活性を決定すべき少なくとも一つの酵素を含む試料に投与し、少なくとも一つの標的マーカーが該少なくとも一つの親分子物質から生成される工程;
c)ヘッドスペース中の標的マーカーを識別し、検出し、定量することができるセンサーを、ヘッドスペースに曝露する工程;および
d)標的マーカーの存在に基づいて、少なくとも一つの酵素が活性であるかどうかを確定する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−513026(P2008−513026A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532655(P2007−532655)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/033883
【国際公開番号】WO2006/034370
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500228159)ユニバーシティ・オブ・フロリダ・リサーチ・ファンデーション・インコーポレーテッド (13)
【Fターム(参考)】