説明

酵素付着カプセル化農薬、および土壌くん蒸方法

【課題】農薬使用者と土壌くん蒸成分の接触を避けることができ、放出期間を制御することが可能な酵素付着カプセル化農薬を提供する。
【解決手段】酵素付着カプセル化農薬を、ゼラチンを含有する皮膜からなるカプセル皮膜と、前記カプセル皮膜内に封入され、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体と、前記カプセル皮膜の表面に付着したタンパク質分解酵素を含有する粉体と、を含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素付着カプセル化農薬、および土壌くん蒸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に果樹及び蔬菜類に見られる立ち枯れ病、萎ちょう病、つる割れ病、白絹病、紋羽病、黒根病などの土壌病害及び線虫類、ハリガネムシ、ネキリムシなどの土壌害虫は、果樹蔬菜類の連作を妨げる大きな原因となっている。以上の様な土壌病害虫が存在する土壌において、土壌病原菌、害虫、線虫を防除して連作を可能とする方法としては、土壌を蒸気や熱により消毒する方法やクロルピクリン(CP)、1,3−ジクロロプロペン(D−D)などの薬剤による消毒方法が知られている。これら薬剤による土壌消毒方法の内、例えば、クロルピクリンによる土壌くん蒸方法は、殺菌殺虫効果が高く、また作物及び土壌に対する残留の心配がないために、現在、最も広範囲に実施されている。しかしながら、例えば、クロルピクリンは沸点が112℃、蒸気圧は2440Pa(20℃)の強い刺激性と催涙性を有する劇物相当の有害な液体であり、その取扱は容易ではないため、改善が強く望まれている。
【0003】
上記問題点である刺激性と催涙性を抑制して、その取扱性を改善するための方法として、低温下での水溶性を向上させたゼラチン皮膜に土壌くん蒸剤を封入した土壌くん蒸用カプセル化製剤が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、ゼラチンカプセルの崩壊性を改良する方法として、ゼラチンカプセルにタンパク分解酵素を含有したコーティング材で被覆することにより崩壊性を改良したゼラチンカプセルが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、最内層と該最内層を覆うように順次積層された1または2以上の皮膜層を有し、少なくとも1つの皮膜層が酵素または微生物を含有し、所定条件下、該酵素または微生物がこれを含有する皮膜層あるいは他の皮膜層を分解するように構成されたソフトカプセルが開示している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−112905号公報
【特許文献2】特公昭60−3046号公報
【特許文献3】特開2002−360665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の製剤では低温下での土壌くん蒸剤の放出を促進するために、低温下で水溶性を向上したゼラチンとしてコハク化ゼラチンを用いており、このような修飾ゼラチンは一般的な未修飾ゼラチンと比べ高価であるため、修飾ゼラチンを用いることは製造コスト的に不利である。また、低温下での放出をある程度促進することが可能となることが開示されているものの、放出期間を制御することは困難であった。
また特許文献2に記載のゼラチンカプセルでは、ゼラチンカプセル表面に酵素を含有するコーティング材で被覆する際に、加温下、コーティング液に酵素を均一に分散させる必要があり、更にはコーティングパン中で50℃乃至60℃の熱風を送りながらコーティングするといった加熱冷却工程を経るため、熱安定性の低い封入物または熱安定性の低い酵素を使用するには不向きであるだけでなく、製造工程が煩雑であるといった問題があった。
さらに特許文献3に記載のソフトカプセルでは、最外層に酵素もしくは微生物を含有する皮膜層を形成するために、例えば、糖液に溶解した溶液をコーティング後、速やかに乾燥させるなどと記載されている通り、酵素を含有する皮膜層を1層形成させる必要があり、コーティング工程や乾燥工程といった製造工程が煩雑になるといった問題があった。また、用途として、農薬を開示しているものの、具体的な農薬に関する例示はなく、土壌くん蒸成分を封入した場合の、放出期間の制御に関する内容も何ら開示していない。
【0006】
本発明の課題は、農薬使用者と土壌くん蒸成分の接触を避けることができ、かつ、放出期間を制御することが可能な酵素付着カプセル化農薬及びその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために検討を重ねた結果、以下に述べる新たな知見を見出し、本発明を完成した。
すなわち、ゼラチンを含有する皮膜に土壌殺菌成分や土壌くん蒸成分を含有しない疎水性液体(例えば、揮発性のある有機溶媒)を封入したカプセルを土壌中もしくは土壌表面に処理した場合、土壌水分によりゼラチンを含有する皮膜が膨潤し、封入物を僅かに放出するだけではなく、数日〜1週間程度で土壌中の微生物によりゼラチンを含有する皮膜が分解を開始することにより、封入物が放出される。これに対して、ゼラチンを含有する皮膜に土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体(例えば、クロルピクリン)を封入したカプセルを土壌中もしくは土壌表面に処理した場合、理由は定かではないが、土壌中の微生物によるゼラチンを含有する皮膜の分解が極度に抑制され、30日以上経過後も、ゼラチンを含有する皮膜に封入した封入物が残存することが確認された。そこで、ゼラチンを含有する皮膜表面にタンパク質分解酵素を付着させたところ、封入物が速やかに放出されるようになったばかりか、酵素量を増減することで放出期間を1週間〜5週間程度の間で容易に制御することが可能であることを見出した。すなわち、ゼラチンを含有する皮膜に土壌くん蒸成分を封入することにより、農薬使用者と土壌くん蒸成分の接触を避けるとともに、取り扱い性に優れたカプセル農薬とすることができることを見出した。
本発明者らは、更に、ゼラチンを含有する皮膜表面にタンパク質分解酵素を含有する皮膜層を形成させるため、加温溶融したコーティング液を皮膜形成後に冷却するといった工程や、糖液を拭き付け後、水分を乾燥させるなどの工程を経なくとも、ゼラチンを含有する皮膜に土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体を封入したカプセルとタンパク質分解酵素を含有する粉体とを混合して、該カプセル表面に、該粉体を付着させることで、酵素付着カプセル化農薬を構成することができ、これを土壌に処理した場合に、1週間〜5週間程度の間で土壌くん蒸成分の放出期間が制御できることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1] ゼラチンを含有する皮膜からなるカプセル皮膜と、前記カプセル皮膜内に封入され、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体と、前記カプセル皮膜の表面に付着したタンパク質分解酵素を含有する粉体と、を含む酵素付着カプセル化農薬。
[2] 前記土壌くん蒸成分が、クロルピクリンおよび1,3−ジクロロプロペンから選ばれる少なくとも1種である前記[1]に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[3] 前記タンパク質分解酵素が、枯草菌由来のプロテアーゼまたは麹菌由来のプロテアーゼである前記[1]または[2]に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[4] 前記タンパク質分解酵素を含有する粉体は、少なくとも1種の鉱物質粉を含有する前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[5] 前記タンパク質分解酵素を含有する粉体の付着量が、酵素付着カプセル化農薬の重量に対して0.01重量%〜0.5重量%である前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[6] 前記ゼラチンを含有する皮膜は、含水率が皮膜重量に対して3重量%〜10重量%である前記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[7] 前記土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体の封入量が、0.1ml〜3mlである前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[8] ゼラチンを含有する皮膜に、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体を、ロータリーダイ法によって封入してカプセルを形成する工程と、前記カプセルの皮膜表面に、タンパク質分解酵素を含有する粉体を付着する工程と、を含む酵素付着カプセル化農薬の製造方法によって製造された前記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
[9] 前記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬を、土壌表面に配置する工程、または土壌中に埋設する工程を含む土壌くん蒸方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、農薬使用者と土壌くん蒸成分の接触を避けることができ、放出期間を制御することが可能な酵素付着カプセル化農薬及びその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[酵素付着カプセル化農薬]
本発明の酵素付着カプセル化農薬はゼラチンを含有する皮膜に土壌くん蒸成分を封入したカプセル化製剤である。そのため、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体を封入しているにもかかわらず、土壌くん蒸成分に対するバリアー性を有するゼラチンを含有する皮膜により、取り扱い性に優れた固形製剤として使用することが可能である。これにより農薬使用者と土壌くん蒸成分の接触を避けることができる。
【0011】
本発明の酵素付着カプセル化農薬は、土壌の水分により、ゼラチンを含有する皮膜が膨潤し、また、ゼラチンを含有する皮膜表面に付着したタンパク質分解酵素により、ゼラチンを含有する皮膜が分解して、封入物の土壌くん蒸成分が放出され、生物効果を発揮すると推察される。皮膜に含有されるゼラチンは土壌中で極めて良好な生分解性を有しているため、土壌くん蒸成分が揮散もしくは分解により消失した後は、微生物によるゼラチンの分解が進行し、土壌蓄積、土壌残留などのリスクが低いばかりでなく、微生物による分解物は肥料としての効果も期待できる。
【0012】
本発明の酵素付着カプセル化農薬に封入される土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体とは、例えば、液体の土壌くん蒸成分、液体または固体の土壌くん蒸成分を疎水性液体に溶解した溶液、液体の土壌くん蒸成分を、これと相溶しない疎水性液体に乳化した乳化液、および、固体の土壌くん蒸成分を、これを溶解しない疎水性液体に分散した分散液などのことをさす。
【0013】
前記土壌くん蒸成分としては、通常用いられる土壌くん蒸剤を特に制限なく用いることができる。中でも、土壌くん蒸効果の観点から、クロルピクリンおよび1,3−ジクロルプロペンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
さらに、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体として、具体的には、クロルピクリン(化学名;トリクロロニトロメタン)、1,3−ジクロロプロペン(例えば、商品名;D−D)、クロルピクリンと1,3−ジクロロプロペンとの混合製剤(例えば、商品名;ソイリーン、三井化学アグロ(株)製)、クロルピクリンと灯油の混合製剤(例えば、商品名;ドロクロール、三井化学アグロ(株)製)、クロルピクリンとDCIP〔化学名;ビス(2−クロロ−1−メチルエチル)エーテル〕混合製剤(例えば、商品名;ルーテクト油剤、(株)エス・ディー・エス バイオテック製)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明の酵素付着カプセル化農薬におけるゼラチンを含有する皮膜に使用するゼラチンとしては、一般的なゼラチンカプセル化法(例えば、ロータリーダイ法、平板法、滴下法など)に使用可能なゼラチンであれば特に制限はない。具体的には例えば、牛骨、牛皮、豚骨、豚皮、他のほ乳類の骨、皮、更には魚などから酸処理、アルカリ処理または熱水処理などによって工業的に得られるものが挙げられる。また、これらのゼラチンを更に精製し、例えば、日本薬局方のゼラチンまたは精製ゼラチンの規格を満たすようにしたものでもよい。またさらに、ゼラチンの側鎖を例えば、コハク化、カルボキシメチル化、カルボキシエチル化、メチル化、ヒドロキシエチル化、アセチル化などの化学修飾した誘導体であってもよい。
【0015】
これらゼラチンの中でも、牛骨、牛皮、豚骨、豚皮から工業的に得られるゼラチンが好ましく、牛骨のアルカリ処理または豚皮の酸処理により工業的に得られるゼラチンがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の酵素付着カプセル化農薬におけるゼラチンを含有する皮膜に使用するゼラチンのゼリー強度としては、一般的なゼラチンのゼリー強度が50g(ブルーム)〜300g(ブルーム)程度であり、80g(ブルーム)〜250g(ブルーム)が好ましく、100g(ブルーム)〜220g(ブルーム)がより好ましく、120g(ブルーム)〜200g(ブルーム)が更に好ましい。80g(ブルーム)以上であることで、例えば、ロータリーダイ法において、ゼラチンを含有するシートの作成時にシート形成に要する時間を短縮することができ、製造効率が向上する。また、得られたカプセル化農薬の粒同士が付着しやすくなることを抑制することができる。一方、250g(ブルーム)以下であることで、ゼラチンを含有するシートを調製するためのゼラチンを含有する溶液の粘度が高くなりすぎることを抑制し、該溶液のハンドリングが向上する。
また、本発明の酵素付着カプセル化農薬におけるゼラチンを含有する皮膜に使用するゼラチンは、1種類を単独で使用しても、複数種のゼラチンを併用[例えば、120g(ブルーム)の牛骨ゼラチンと200g(ブルーム)の豚皮ゼラチンの併用など]してもよい。
尚、ゼラチンのゼリー強度はJIS K6503−1996に準拠して測定される。
【0017】
本発明の酵素付着カプセル化農薬におけるゼラチンを含有する皮膜は、ゼラチン以外の成分として、カプセル皮膜に使用される公知の成分を適宜選択して含有することができる。例えば、カプセルの成形性、耐荷重性、熱安定性、光安定性、弾力性、水への溶解もしくは膨潤性、分解性、耐腐食性、付着防止などの各種効果を付与または調整する目的で、例えば、水、水溶性コラーゲン、デンプン、デンプンの誘導体、セルロース、デキストリン、カラギーナン、アラビアガム、グアーガム、ペクチン、オリゴ糖、グリセリン、D−ソルビトール、白糖、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、有機酸(クエン酸、アスパラギン酸、コハク酸など)、植物油(大豆油、綿実油、中鎖脂肪酸トリグリセリドなど)、鉱物油(ミネラルオイル、流動パラフィンなど)、紫外線吸収剤、防腐剤、着色剤などを必要に応じ使用することができる。
【0018】
本発明におけるゼラチンを含有する皮膜は、ゼラチンに加えて水を含有することが好ましい。水の含有量としてはゼラチンを含有する皮膜の全重量に対して例えば、3重量%〜12重量%とすることができる。中でも皮膜の全重量に対して3重量%〜10重量%の水を含有することが好ましく、4重量%〜8重量%の水を含有することがより好ましい。3重量%以上とすることで、乾燥工程の負荷を低減することができ、生産性が向上する。また10重量%以下とすることで、ゼラチンおよび水以外の成分の含有量にもよるが、ゼラチンを含有する皮膜が柔らかくなることを抑制し、酵素付着カプセル化農薬のカプセル粒の形状が安定化する。また、長期間の保存(例えば、1年)もしくは加温状態で保存(例えば、50℃)した場合における形状変化を抑制することができる。さらに保管中において、ゼラチンを含有する皮膜表面に付着したタンパク質分解酵素と皮膜中の水分との作用による皮膜の分解を抑制し、保管時における封入物の漏洩を抑制できる。
【0019】
本発明の酵素付着カプセル化農薬のゼラチンを含有する皮膜厚は乾燥状態(ゼラチンを含有する皮膜の水分率が8%程度)で0.1mm〜1mmが好ましく、0.15mm〜0.8mmがより好ましい。
0.1mm以上とすることでカプセルの強度が向上し、取扱時に破損などの問題を生じることを抑制し、取り扱い性がより向上する。また1mm以下とすることで、取り扱い性と生産効率の向上とを両立することができる。さらに、ゼラチンを含有する皮膜厚を厚くするとカプセルは壊れにくくなるものの、製剤中に占めるゼラチンの含有量が増え、単位重量当りに占めるゼラチンの使用量が増加し、コストが上昇するため好ましくない場合がある。
【0020】
本発明のゼラチンを含有する皮膜への土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体の封入量は、カプセルの製造方法に応じて適宜選択できる。例えば、ロータリーダイ法でカプセルを製造する場合、0.1ml〜10ml程度の封入量とすることができるが、0.1ml〜3mlが好ましい。0.1ml以上とすることでカプセルの強度を保つために酵素付着カプセル化農薬中のゼラチンを含有する皮膜使用割合が少なくなり、単位重量当りに占めるゼラチン使用割合が減り、所望の効果を得るための酵素付着カプセル化農薬の必要量を抑制することができる。また、コストの上昇も抑制できる。また、3ml以下とすることで、酵素付着カプセル化農薬の1粒あたりの大きさを抑制することができ、単位面積あたり一定重量を処理する場合における処理間隔が広がりすぎることを抑制し、土壌表面もしくは土壌中への土壌くん蒸成分の均一拡散がより容易になる。
【0021】
本発明の酵素付着カプセル化農薬の形状は特に限定されるものでなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、手撒き、動力散布機、手動散布機、または肥料散粒機で散布、施用しやすく、かつ保管及び輸送などで問題のないものであればよい。一般的にはフットボール型、球型、長楕円(オブロング)型、なみだ型、またはその変形体(例えば、カプセルの強度を増すために接合面積を広くした淵付きタイプ、および、残ネット量を軽減するように設計された六角形、四角形、または三角形の連続する金型で打ち抜いたネットレス型など)が挙げられる。中でも、フットボール型、球型、長楕円型、残ネット量を軽減するように設計された六角形、または四角形の連続する金型で打ち抜いたネットレス型が好ましいが、これらに限定されるものではない。
尚、残ネット量とは、例えば、ロータリーダイ法においてロール状の金型でゼラチンシートを打ち抜いた後のゼラチンシートの残った部分のことをさす。
【0022】
本発明の酵素付着カプセル化農薬に使用するタンパク質分解酵素とは、プロテアーゼ類(EC3.4群)に属する酵素であれば特に制限はない。前記プロテアーゼ類としては、例えば、枯草菌由来のプロテアーゼ、麹菌由来のプロテアーゼ、黒麹菌由来のプロテアーゼ、高温細菌由来のプロテアーゼ、パパイン、トリプシン、キモトリプシンなど一般的なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が挙げられる。中でも、枯草菌由来のプロテアーゼ、麹菌由来のプロテアーゼ、黒麹菌由来のプロテアーゼ、高温細菌由来のプロテアーゼが好ましく、枯草菌由来のプロテアーゼ、麹菌由来のプロテアーゼがより好ましい。
また、本発明においては1種類のプロテアーゼを用いても、複数種のプロテアーゼを併用(例えば、枯草菌由来プロテアーゼと麹菌由来プロテアーゼの併用など)してもよい。
【0023】
さらに本発明におけるタンパク質分解酵素は、通常用いられる各種安定剤や増量剤等の助材の少なくとも1種を含んでいてもよい。助材としては例えば、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、デキストリン、乳糖、グアーガム、エチレングリコールなどを挙げることができる。本発明においては、これらの各種安定剤や増量剤等の助材を数%〜数十%含有する粉体、顆粒もしくは液体の市販酵素製剤を、タンパク質分解酵素として用いることもできる。
【0024】
本発明の酵素付着カプセル化農薬に使用するタンパク質分解酵素を含有する粉体とは、タンパク質分解酵素の少なくとも1種を数ppm〜数十%(重量基準)含有する粉体であれば特に制限はない。例えば、液体の市販酵素製剤を鉱物質粉に含浸した粉体、粉体の市販酵素製剤、粉体の市販酵素製剤と鉱物質粉を混合した粉体、顆粒の市販酵素製剤を粉砕した粉体、顆粒の市販酵素製剤を粉砕した粉体と鉱物質粉を混合した粉体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明においては、タンパク質分解酵素を含有する粉体が、タンパク質分解酵素を0.1〜100重量%含むことが好ましく、0.5〜50重量%含むことがより好ましい。
【0025】
本発明におけるタンパク質分解酵素を含有する粉体は、カプセル表面へのタンパク質分解酵素の均一付着性の観点から、少なくとも1種の鉱物質粉を含むことが好ましい。前記鉱物質粉とは、農薬用キャリアとして一般的に使用される鉱石を原料とする担体または合成品のことを指す。鉱石を原料とする担体としては、例えば、タルク、クレー(ろう石クレー、カオリンクレー、珪石クレー)、炭酸カルシウム、珪藻土、ゼオライト、ベントナイト、酸性白土、活性白土、アタパルガスクレー、バーミキュライト、パーライト、軽石等を挙げることができる。また、合成品としては、例えば、ホワイトカーボン(親水性シリカ、疎水性シリカ、ケイ酸カルシウム)、酸化チタンなどが挙げられる。本発明においては、鉱物質粉として、タルク、カオリンクレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、およびホワイトカーボンから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、タルク、およびホワイトカーボンの少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0026】
本発明の酵素付着カプセル化農薬において、タンパク質分解酵素を含有する粉体の粒子径としては特に制限はない。例えば0.1μm〜500μmとすることができ、0.5μm〜300μmが好ましく、1μm〜100μmがより好ましい。粒子径を0.1μm以上とすることで粉体の舞い上がりを抑制し、取り扱い性が向上する。また、500μm以下とすることでゼラチンを含有する皮膜表面へのタンパク質分解酵素を含有する粉体の付着性が向上する。
【0027】
本発明におけるタンパク質分解酵素を含有する粉体としては、枯草菌由来プロテアーゼ、麹菌由来プロテアーゼ、黒麹菌由来プロテアーゼ、および高温細菌由来のプロテアーゼから選ばれる少なくとも1種と、鉱物質粉の少なくとも1種とを含み、タンパク質分解酵素の含有率が0.1〜100重量%であって、粉体の粒子径が0.5μm〜300μmであることが好ましい。
また、枯草菌由来プロテアーゼ、麹菌由来プロテアーゼ、黒麹菌由来プロテアーゼ、および高温細菌由来のプロテアーゼから選ばれる少なくとも1種と、タルク、カオリンクレー、ベントナイト、炭酸カルシウムおよびホワイトカーボンから選ばれる鉱物質粉の少なくとも1種とを含み、タンパク質分解酵素の含有率が0.5〜50重量%であって、粉体の粒子径が0.5μm〜300μmであることがより好ましい。
さらに、枯草菌由来プロテアーゼおよび麹菌由来プロテアーゼから選ばれる少なくとも1種と、タルク、カオリンクレー、ベントナイト、炭酸カルシウムおよびホワイトカーボンから選ばれる鉱物質粉の少なくとも1種とを含み、タンパク質分解酵素の含有率が0.5〜50重量%であって、粉体の粒子径が1μm〜100μmであることがさらに好ましい。
かかる態様のタンパク質分解酵素を含有する粉体であることで、取り扱い性がより向上し、封入された土壌くん蒸成分の放出期間の制御性がより向上する。
【0028】
本発明の酵素付着カプセル化農薬において、タンパク質分解酵素を含有する粉体のカプセル皮膜表面への付着量には特に制限はない。例えば所望の放出期間等に応じて適宜選択することができる。具体的には、酵素付着カプセル化農薬の全重量に対して、0.001重量%〜0.5重量%であることが好ましく、0.005重量%〜0.3重量%であることがより好ましい。付着量が0.001重量%以上であることで均一付着性が向上する。また0.5重量%以下であることで付着したタンパク質分解酵素を含有する粉体の剥離による舞い上がりが抑制できる。
【0029】
[酵素付着カプセル化農薬の製造方法]
本発明の酵素付着カプセル農薬の製造方法としては、ゼラチンを含有する皮膜に土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体を封入してカプセルを得る工程と、前記カプセルを構成する皮膜表面に、タンパク質分解酵素を含有する粉体を付着させる工程とを含む製造方法であることが好ましい。
かかる製造方法であることで、加熱処理による封入物または酵素への影響を低減することができ、また、製造工程が煩雑になることを避けることができる。
【0030】
前記カプセル化する工程としては、ロータリーダイ法(スタンピング法)、平板法、滴下法などの一般的なカプセル化法が挙げられる。生産性およびカプセル粒の形状自由度が高いなどの観点から、ロータリーダイ法(スタンピング法)が好ましいが、これに限定されるものではない。
本発明でいうロータリーダイ法(スタンピング法)とは、2本のダイロール(ロール状の金型)間に2枚のゼラチンを含有するシートを通し、ダイロール(ロール状の金型)でカプセル形状に打ち抜く方法であり、切断、圧着、溶着および封入物充填を同時に行うカプセル化方法をいう。
また平板法とはスタンピング法で用いる金型がロール状ではなく平板の金型を使用する方法である。また、滴下法とは多重ノズルの内側ノズルからカプセル封入液を、外側ノズルからカプセル皮膜液を一定速度で流し、この多層液を一定間隔で切断し、液滴とした後、外側の皮膜層をゲル化(固化)させるカプセル化法である。
【0031】
前記カプセルを構成するゼラチンを含有する皮膜表面に酵素を含有する粉体を付着させる方法としては、カプセル粒子表面に粉体を付着させることが可能な方法であれば特に制限はない。例えば、ゼラチンを含有する皮膜を有するカプセル化農薬と酵素を含有する粉体とを、例えば、袋もしくはフラスコなどの容器に充填し、該容器を振蕩することにより付着させるなどの容器混合による方法、パン型などの転動回転機器内に充填し、回転させて付着させる方法、攪拌羽を備えた容器内に充填し、攪拌羽を回転させて混合付着させる方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、ゼラチンを含有する皮膜表面に酵素を含有する粉体を付着させる際に、付着性を向上させるためにゼラチンを含有する皮膜表面に疎水性液体を付着させた後に、酵素を含有する粉体を付着させてもよい。この場合の疎水性液体としては、常温常圧で不揮発性もしくは揮発しにくい疎水性液体が好ましく、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、流動パラフィン、ミネラルオイル、その他半合成オイルや合成オイルなどが挙げられる。
【0032】
本発明の酵素付着カプセル化農薬の保管に関しては高温、高湿度を避けて、防湿素材の包装中で冷暗所にて保存することが望ましい。
【0033】
[土壌くん蒸方法]
本発明の土壌くん蒸方法は、本発明の酵素付着カプセル化農薬を、土壌表面に配置する工程、または土壌中に埋設する工程を含むものである。
本発明の酵素付着カプセル化農薬を土壌表面に配置、または土壌中に埋設する施用方法としては、一般的な農薬粒剤と同様の方法で散布・施用できる。例えば、畑に処理する場合では、手撒き、動力散布機、手動散布機、肥料散粒機などで土壌表面に均一に散布する方法、土壌表面に均一に散布後トラクター、管理機、鍬などで土壌混和する方法、苗植え付け個所に溝を堀り、該溝に酵素付着カプセル化農薬を施用後覆土する方法、苗植え付け個所に穴を堀り、該穴に酵素付着カプセル化農薬を施用後覆土する方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の酵素付着カプセル化農薬を薬剤処理した後は、通常の土壌消毒剤と同様に、安全性ならびに土壌くん蒸効果を高めるために、ガスバリアー性フィルムで土壌表面を被覆することが好ましい。
【0034】
従来、土壌くん蒸剤(特にクロルピクリン)は刺激性があるため、固形肥料、殺虫剤、殺菌剤、または除草剤等の他の固形製剤と土壌くん蒸剤を同時に処理することはあまり行われていない。本発明の酵素付着カプセル化農薬は散布・施用前には、ゼラチンを含有する皮膜のガスバリアー性により土壌くん蒸成分の放出が極端に抑制されている製剤であるため、前記他の固形製剤と同時に処理することができる。酵素付着カプセル化農薬を土壌表面に散布した後、前記他の固形製剤を散布し、土壌混和してもよく、前記他の固形製剤を散布した後、酵素付着カプセル化農薬を散布し、土壌混和してもよい。あるいは、酵素付着カプセル化農薬と前記他の固形製剤を予め混合して、混合剤として散布後土壌混和してもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は重量基準である。
【0036】
(実施例1)
[酵素付着カプセル化農薬1の調製]
−カプセル化農薬の調製−
ロータリーダイ法(スタンピング法)にて、下記構成のカプセル化農薬Aを得た。
皮膜組成:150ブルーム牛骨ゼラチン100部、グリセリン38部、水8.8部(皮膜水分6%)
皮膜厚 : 0.3mm(平均値)
形状 : ネットレス(四角形)型
封入液 :クロルピクリン
封入液量:0.5ml
【0037】
−酵素含有粉体の調製−
下記組成比となるように、酵素(製剤)および鉱物質粉をガラス製容器に量りこみ、容器を振って酵素含有粉体aを調製した。
酵素製剤 :ヌクレイシン(HBI社製、枯草菌由来のプロテアーゼ3%、硫酸カルシウム30%、塩化ナトリウム67%含有酵素製剤)
酵素製剤量:25部
鉱物質粉 :Sタルク(日本滑石製錬株式会社製)
鉱物質粉量:75部
【0038】
−酵素付着カプセル化農薬の調製−
上記で得られたカプセル化農薬A 100部、および、酵素含有粉体a 0.2部をガラス製容器に量りこみ、容器を10分間、上下反転を繰り返して、カプセル化農薬Aの表面に酵素含有粉体aを付着させ、本発明の酵素付着カプセル化農薬1を調製した。
【0039】
(実施例2〜10)
−カプセル化農薬の調製−
実施例1におけるカプセル化農薬の調製において、カプセル化農薬の構成を表1に示した構成に変更した以外は実施例1と同様にして、カプセル化農薬B〜Fをそれぞれ調製した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中、三井ソイリーン(三井化学アグロ株式会社製)は、クロルピクリン41.5%、1,3−ジクロロプロペン54.5%を含有する混合製剤である。また、ドロクロール(三井化学アグロ株式会社製)は、クロルピクリン80%を含有する灯油希釈製剤である。
【0042】
−酵素含有粉体の調製−
実施例1における酵素含有粉体の調製において、酵素製剤として表2に示した酵素製剤を用い、表3に示した組成比となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、酵素含有粉体a〜fをそれぞれ調製した。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
表3中、Sタルクは、タルク(日本滑石製錬株式会社製)であり、カオリンクレーは、カオリン(関東化学株式会社製の試薬)であり、ベントナイトは、豊順穂高ベントナイト(株式会社ホージュン製)であり、炭酸カルシウムは、NS#3000(日東粉化工業株式会社製)である。
【0046】
−酵素付着カプセル化農薬の調製−
実施例1における酵素付着カプセル化農薬の調製において、表4に示した構成となるように、上記で得られたカプセル化農薬B〜F、および酵素含有粉体a〜fを用いたこと以外は実施例1と同様にして、酵素付着カプセル化農薬2〜12を調製した。
【0047】
【表4】

【0048】
(比較例1)
実施例1におけるカプセル化農薬の調製と同様にして、カプセル化農薬Aを調製し、これを酵素未付着カプセル化農薬とした。
【0049】
[試験例1]
トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)で汚染された畑地から採取した土壌を、金属篩(メッシュ6:3.36mm)を通したものを供試土壌とし、1/2,000アールのポットに深さ15cmの部位まで入れた。そこに実施例1記載の酵素付着カプセル化農薬1、実施例5記載の酵素付着カプセル化農薬5、実施例6記載の酵素付着カプセル化農薬6および比較例1記載の酵素未付着カプセル化農薬を封入液量として30L/10アール相当量の製剤をポット中央に施用した後、表面が供試土壌で覆われるまで入れた後、ポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。
また対照においては、ポットの表面が供試土壌で覆われるまで入れ、ポット中央かつ深さ15cm部位に30L/10アール相当量の三井東圧クロールピクリン剤(三井化学アグロ株式会社製)を注入処理した後、ポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。
薬剤処理後、ポットを23℃に制御した温室内に、被覆期間が1週間、3週間、5週間となるようにそれぞれ置いた後、ポリエチレンフィルムを除去した。ポット内の土壌を金属篩(メッシュ6:3.36mm)にて通した後、金属篩に残った物も一緒に再度ポット内に入れた。以上のようにして薬剤処理した供試土壌の入ったポットを被覆期間毎に各10個、合計30個用意した。
用意したポットの中央部に2葉期のトマト(品種:桃太郎)を1本移植した。また、移植したトマトの周囲にキュウリの種子(品種:相模半白)を5粒播種した。
播種14日後にキュウリの発芽数(発芽総数)を調査した。また、移植45日後にトマトの地際部を切断し、導管褐変の有無を調査し、発病株数から防除価を算出した。結果を表5に示した。
−防除価の算出方法−
防除価=(無処理の発病株数−薬剤処理区の発病株数)÷(無処理の発病株数)×100
【0050】
【表5】

【0051】
被覆期間が1週間では、酵素付着カプセル化農薬5のキュウリ発芽数は無処理と同等、トマト萎凋病に対する防除効果は対照と同等であった。一方、酵素付着カプセル化農薬1、酵素付着カプセル化農薬6および比較例1記載の酵素未付着カプセル化農薬は、薬害のためにキュウリは発芽せず、トマトも枯死した。
被覆期間3週間では、酵素付着カプセル化農薬1および酵素付着カプセル化農薬5のキュウリ発芽数は無処理と同等、トマト萎凋病に対する防除効果は対照と同等であった。一方、酵素付着カプセル化農薬6および比較例1記載の酵素未付着カプセル化農薬は、薬害のためにキュウリは発芽せず、トマトも枯死した。
被覆期間5週間では、酵素付着カプセル化農薬1、酵素付着カプセル化農薬5および酵素付着カプセル化農薬6のキュウリ発芽数は無処理と同等、トマト萎凋病に対する防除効果は対照と同等であった。一方、比較例1記載の酵素未付着カプセル化農薬は、薬害のためにキュウリは発芽せず、トマトも枯死した。
以上の結果から、酵素付着量を調整することで薬剤の放出性を1週間〜5週間で制御できることが明らかとなった。
【0052】
[試験例2]
予めトマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)で汚染された畑地を耕起し、各区0.09アール(1.8m×5m)に区割りを行い、そこに実施例1記載の酵素付着カプセル化農薬1を封入液量として17L/10アール相当量となるように土壌表面に散布後、ポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。
また別の区に上記と同様にして、酵素付着カプセル化農薬1を土壌表面に散布後、小型管理機で深さ15cm程度混和した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
またそれぞれ別の区に、酵素付着カプセル化農薬1を封入液量として17L/10アール相当量となるように60または90cm間隔で深さ15cmの部位に均一に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
また対照として、クロピクテープ剤(三井化学アグロ株式会社製)をクロルピクリン液量として17L/10アール相当量となるように90cm間隔で深さ15cmの部位に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
薬剤処理3週間後にポリエチレンフィルムを取り除き、3葉期のトマト(品種:桃太郎)を移植した。移植60日後にトマトの地際部を切断し、下記評価基準に従い0〜3の4段階で導管褐変を調査し、発病指数から発病度と防除価を算出した。結果を表6に示した。尚、発病度の算出式における程度別発病株数は、発病指数に対応する発病状態を示した株数を意味する。
【0053】
〜評価基準〜
発病指数0:導管褐変なし。
発病指数1:導管褐変1/4未満。
発病指数2:導管褐変1/4以上1/2未満。
発病指数3:導管褐変1/2以上1/2未満。
【0054】
発病度の算出方法
発病度=Σ(程度別発病株数×発病指数)÷(調査株数×3)×100
防除価の算出方法
防除価=(無処理の発病度−薬剤処理区の発病度)÷(無処理の発病度)×100
【0055】
【表6】

【0056】
酵素付着カプセル化農薬1は、トマト萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0057】
[試験例3]
試験例2において、酵素付着カプセル化農薬1の代わりに、酵素付着カプセル化農薬2を用い、処理量を封入液量として20L/10アールに変更したこと以外は試験例2と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表7に示した。
【0058】
【表7】

【0059】
酵素付着カプセル化農薬2は、トマト萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0060】
[試験例4]
試験例2において、酵素付着カプセル化農薬1の代わりに、酵素付着カプセル化農薬3を用いたこと以外は試験例2と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表8に示した。
【0061】
【表8】

【0062】
酵素付着カプセル化農薬3は、トマト萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0063】
[試験例5]
予めキュウリつる割病菌(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum)で汚染された畑地を耕起し、各区0.09アール(1.8m×5m)に区割りを行い、そこに実施例4記載の酵素付着カプセル化農薬4を封入液量として17L/10アール相当量となるように土壌表面に散布後、ポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。
また別の区に上記と同様にして、酵素付着カプセル化農薬4を土壌表面に散布後、小型管理機で深さ15cm程度混和した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
またそれぞれ別の区に、酵素付着カプセル化農薬4を封入液量として17L/10アール相当量となるように60または90cm間隔で深さ15cmの部位に均一に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
また対照として、クロピクテープ剤(三井化学アグロ株式会社製)をクロルピクリン液量として17L/10アール相当量となるように90cm間隔で深さ15cmの部位に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
薬剤処理3週間後にポリエチレンフィルムを取り除き、2葉期のキュウリ(品種:相模半白)を移植し、移植60日後にキュウリの地際部を切断し、下記評価基準に従い0〜3の4段階で導管褐変を調査し、発病指数から発病度と防除価を算出した。結果を表9に示した。
【0064】
〜評価基準〜
発病指数0:導管褐変なし。
発病指数1:導管褐変1/4未満。
発病指数2:導管褐変1/4以上1/2未満。
発病指数3:導管褐変1/2以上1/2未満。
【0065】
発病度の算出方法
発病度=Σ(程度別発病株数×発病指数)÷(調査株数×3)×100
防除価の算出方法
防除価=(無処理の発病度−薬剤処理区の発病度)÷(無処理の発病度)×100
【0066】
【表9】

【0067】
酵素付着カプセル化農薬4は、キュウリつる割病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0068】
[試験例6]
試験例5において、酵素付着カプセル化農薬4の代わりに、酵素付着カプセル化農薬5を用い、処理量を封入液量として20L/10アールに変更したこと以外は試験例5と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表10に示した。
【0069】
【表10】

【0070】
酵素付着カプセル化農薬5は、キュウリつる割病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0071】
[試験例7]
試験例5において、酵素付着カプセル化農薬4の代わりに、酵素付着カプセル化農薬6を用い、処理量を封入液量として20L/10アールに変更したこと以外は試験例5と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表11に示した。
【0072】
【表11】

【0073】
酵素付着カプセル化農薬6は、キュウリつる割病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0074】
[試験例8]
予めホウレンソウ萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp.spinaciae)で汚染された畑地を耕起し、各区0.027アール(0.9m×3m)に区割りを行い、そこに実施例7記載の酵素付着カプセル化農薬7を封入液量として17L/10アール相当量となるように土壌表面に散布後、ポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。
また別の区に上記と同様にして、酵素付着カプセル化農薬7を土壌表面に散布後、小型管理機で深さ15cm程度混和した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
またそれぞれ別の区に、酵素付着カプセル化農薬7を封入液量として17L/10アール相当量となるように60または90cm間隔で深さ15cmの部位に均一に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
また対照として、クロピクテープ剤(三井化学アグロ株式会社製)をクロルピクリン液量として17L/10アール相当量となるように90cm間隔で深さ15cmの部位に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
薬剤処理3週間後にポリエチレンフィルムを取り除き、ホウレンソウ種子(品種:プリウス)を播種し、播種45日後にホウレンソウ萎凋病の発病の有無を以下評価基準に従って調査し、発病指数から発病度と防除価を算出した。結果を表12に示した。
【0075】
〜評価基準〜
発病指数0:無病徴
発病指数1:地上部にしおれが見られないが根または地際部の維管束に褐変がある
発病指数2:下葉の1〜2枚にしおれがある
発病指数3:葉の3枚以上にしおれがある
発病指数4:枯死
【0076】
発病度の算出方法
発病度=Σ(程度別発病株数×発病指数)÷(調査株数×4)×100
防除価の算出方法
防除価=(無処理の発病度−薬剤処理区の発病度)÷(無処理の発病度)×100
【0077】
【表12】

【0078】
酵素付着カプセル化農薬7は、ホウレンソウ萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0079】
[試験例9]
試験例8において、酵素付着カプセル化農薬7の代わりに、酵素付着カプセル化農薬8を用い、処理量を封入液量として20L/10アールに変更したこと以外は試験例8と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表13に示した。
【0080】
【表13】

【0081】
酵素付着カプセル化農薬8は、ホウレンソウ萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0082】
[試験例10]
試験例8において、酵素付着カプセル化農薬7の代わりに、酵素付着カプセル化農薬9を用い、処理量を封入液量として20L/10アールに変更したこと以外は試験例8と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表14に示した。
【0083】
【表14】

【0084】
酵素付着カプセル化農薬9は、ホウレンソウ萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0085】
[試験例11]
予めネコブセンチュウ類で汚染された畑地を耕起し、各区0.027アール(0.9m×3m)に区割りを行い、そこに実施例1記載の酵素付着カプセル化農薬1を封入液量として17L/10アール相当量となるように土壌表面に散布後、ポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。
また別の区に上記と同様にして、酵素付着カプセル化農薬1を土壌表面に散布後、小型管理機で深さ15cm程度混和した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
またそれぞれ別の区に、酵素付着カプセル化農薬1を封入液量として17L/10アール相当量となるように60または90cm間隔で深さ15cmの部位に均一に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
また対照として、クロピクテープ剤(三井化学アグロ株式会社製)をクロルピクリン液量として17L/10アール相当量となるように90cm間隔で深さ15cmの部位に埋設処理した後、ポリエチレンフィルムで被覆した。
薬剤処理3週間後にポリエチレンフィルムを取り除き、ホウレンソウ種子(品種:プリウス)を播種し、播種45日後にホウレンソウの根部の被害程度を以下評価基準に従って調査し、被害指数から発病度と防除価を算出した。結果を表15に示した。
【0086】
〜評価基準〜
被害指数0:健全。
被害指数1:わずかに根りゅう形成を認める。
被害指数2:中程度に根りゅう形成を認める。
被害指数3:多数に根りゅう形成を認める。
被害指数4:連続して根りゅう形成を認める。
【0087】
発病度の算出方法
発病度=Σ(程度別発病株数×被害指数)÷(調査株数×4)×100
防除価の算出方法
防除価=(無処理の発病度−薬剤処理区の発病度)÷(無処理の発病度)×100
【0088】
【表15】

【0089】
酵素付着カプセル化農薬1は、ネコブセンチュウ類に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0090】
[試験例12]
試験例11において、土壌表面処理した区を設けず、酵素付着カプセル化農薬1の代わりに、酵素付着カプセル化農薬10を用い、処理量を封入液量として30L/10アールに変更したこと以外は試験例11と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表16に示した。
【0091】
【表16】

【0092】
酵素付着カプセル化農薬10は、ネコブセンチュウ類に対して、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0093】
[試験例13]
試験例11において、酵素付着カプセル化農薬1の代わりに、酵素付着カプセル化農薬11を用い、処理量を封入液量として30L/10アールに変更したこと以外は試験例11と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表17に示した。
【0094】
【表17】

【0095】
酵素付着カプセル化農薬11は、ネコブセンチュウ類に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0096】
[試験例14]
試験例8において、酵素付着カプセル化農薬7の代わりに、酵素付着カプセル化農薬12を用い、処理量を封入液量として30L/10アールに変更したこと以外は試験例8と同様にして、発病度と防除価を算出した。結果を表18に示した。
【0097】
【表18】

【0098】
酵素付着カプセル化農薬12は、ホウレンソウ萎凋病に対して、土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理でクロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた防除効果を示した。
【0099】
[試験例15]
圃場においてトラクターにて深度20cmで起耕砕土し、各区0.027アール(0.9m×3m)に区割りを行い、そこに実施例1記載の酵素付着カプセル化農薬1を封入液量として17L/10アール相当量となるように土壌表面に散布処理した。
また別の区に上記と同様にして、酵素付着カプセル化農薬1を土壌表面に散布後、小型管理機で深さ15cm程度混和処理した。
またそれぞれ別の区に、酵素付着カプセル化農薬1を封入液量として17L/10アール相当量となるように60または90cm間隔で深さ15cmの部位に均一に埋設処理した。
また対照として、クロピクテープ剤(三井化学アグロ株式会社製)をクロルピクリン液量として17L/10アール相当量となるように90cm間隔で深さ15cmの部位に埋設処理した。
各区において薬剤を処理後、土壌表面にメヒシバ、アオビユの種子を播種し、さらにポリエチレンフィルム(0.03mm)で被覆した。薬剤処理3週間後にポリエチレンフィルムを取り除き、一定面積(0.2m×0.2m)内のメヒシバ、アオビユの発芽数を観察した。調査は各区3箇所行った。結果を表19に示した。
【0100】
【表19】

【0101】
酵素付着カプセル化農薬1の土壌表面処理、土壌表面処理後混和、60cmと90cmの土壌埋設処理は、クロピクテープの土壌埋設処理(90cm間隔)と同等の優れた除草効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の酵素付着カプセル化農薬は、ゼラチンを含有する皮膜に土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体を封入し、更に、ゼラチンを含有する皮膜表面にタンパク質分解酵素を含有する粉体を付着したことにより、農薬使用者と土壌くん蒸成分の接触を避けることが可能となり、使用時の取扱性および使用者安全性が大幅に改善されるのみならず、土壌くん蒸成分の放出期間がタンパク質分解酵素を含有する粉体の付着により制御することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンを含有する皮膜からなるカプセル皮膜と、
前記カプセル皮膜内に封入され、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体と、
前記カプセル皮膜の表面に付着したタンパク質分解酵素を含有する粉体と、
を含む酵素付着カプセル化農薬。
【請求項2】
前記土壌くん蒸成分が、クロルピクリンおよび1,3−ジクロロプロペンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項3】
前記タンパク質分解酵素が、枯草菌由来のプロテアーゼまたは麹菌由来のプロテアーゼである請求項1または請求項2に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項4】
前記タンパク質分解酵素を含有する粉体は、少なくとも1種の鉱物質粉を含有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項5】
前記タンパク質分解酵素を含有する粉体の付着量が、酵素付着カプセル化農薬の重量に対して0.01重量%〜0.5重量%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項6】
前記ゼラチンを含有する皮膜は、含水率が皮膜重量に対して3重量%〜10重量%である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項7】
前記土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体の封入量が、0.1ml〜3mlである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項8】
ゼラチンを含有する皮膜に、土壌くん蒸成分を含有する疎水性液体を、ロータリーダイ法によって封入してカプセルを形成する工程と、
前記カプセルの皮膜表面に、タンパク質分解酵素を含有する粉体を付着する工程と、を含む酵素付着カプセル化農薬の製造方法によって製造された請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の酵素付着カプセル化農薬を、土壌表面に配置する工程、または土壌中に埋設する工程を含む土壌くん蒸方法。

【公開番号】特開2010−254620(P2010−254620A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106529(P2009−106529)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【Fターム(参考)】