説明

酵素処理ローヤルゼリーの製造方法

【課題】 高い活性を有するアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの工業的な大量生産に適した酵素処理ローヤルゼリーの製造方法を提供する。
【解決手段】 酵素処理ローヤルゼリーは、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施すことにより製造され、イソロイシル・チロシン(IY)、バリル・チロシン(VY)、イソロイシル・バリル・チロシン(IVY)等のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチドを高い割合で含有する。タンパク質分解酵素処理は50℃、pH7の条件で1〜5時間、好ましくは2〜5時間、最も好ましくは4時間実施される。図1(a)はタンパク質分解酵素処理の処理時間とACE阻害ペプチド含量との関係を示し、図1(b)は該処理時間とACE阻害活性(ACE活性を50%阻害する試料濃度(IC50))との関係を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下作用を有するアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを含む酵素処理ローヤルゼリーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1〜3には、ローヤルゼリーに含まれるタンパク質をタンパク質分解酵素処理することにより、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するローヤルゼリー分解物(酵素処理ローヤルゼリー)を製造する方法が開示されている。この製造方法では、中国産生ローヤルゼリー(固形分32.7%(w/w))8gに水45mlを加えて5分間撹拌後、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来のエンド型中性プロテアーゼを25mg添加し、至適pHである7.0に調整して50℃で14時間反応させるタンパク質分解酵素処理が施される。その結果、得られた酵素処理ローヤルゼリーには、イソロイシル・チロシン(Ile−Tyr)、バリル・チロシン(Val−Tyr)及びイソロイシル・バリル・チロシン(Ile−Val−Tyr)を含むアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドが生成されていたことが報告されている。なお、前記エンド型中性プロテアーゼの特徴や性質については、非特許文献4に公開されているカタログを参照可能である。
【非特許文献1】鈴木和道、外6名、"プロテアーゼによるローヤルゼリー分解物のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性"、食科工、2003、50,286−288
【非特許文献2】丸山広恵、外6名、"プロテアーゼ処理ローヤルゼリー中に含まれるアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドの単離同定"、食科工、2003、50,310−315
【非特許文献3】徳永勝彦、外6名、"高血圧自然発症ラットに対するタンパク質分解酵素処理ローヤルゼリーの血圧調節作用"、食科工、2003、50,457−462
【非特許文献4】天野エンザイム株式会社 マーケティング本部 食品事業部、“プロテアーゼN「アマノ」G”、[online]、[平成17年5月20日検索]、インターネット<URL : http://www.amano-enzyme.co.jp/pdf/food_j/cat_food_PR-NG_f_j.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドは、高血圧症の予防や治療に有用であるため、低いコストで大量生産する技術の開発が待望されている。本発明者らは、酵素処理ローヤルゼリーを安価に大量生産するために、前記従来の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法をさらに改良する試みを行ったところ、タンパク質分解酵素処理の処理時間に大幅なロスがあったことを突き止めた。そして、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を低下させることなく、工業的な大量生産に適した製造条件を見出し、本発明を完成するに至った。
【0004】
本発明の目的とするところは、高い活性を有するアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの工業的な大量生産に適した酵素処理ローヤルゼリーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを含む酵素処理ローヤルゼリーを製造する方法であって、該方法は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施す工程を備え、該タンパク質分解酵素処理は、50℃、pH7の条件で、1〜5時間実施されることを要旨とする。
【0006】
この方法において、タンパク質分解酵素処理は、エンド型中性プロテアーゼの至適pHであるpH7で実施される。さらに、同タンパク質分解酵素処理は、前記プロテアーゼの至適温度に近く、かつ該プロテアーゼの活性を長時間に亘って高く維持可能な温度である50℃で実施される。よって、タンパク質分解酵素処理におけるpH及び温度が最適化されている。
【0007】
一方、この方法においては、タンパク質分解酵素処理を1時間実施すれば、ほぼ最大に近い量のアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドが酵素処理ローヤルゼリー中に生成される。そして、4時間までは僅かずつではあるが徐々にアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの生成量が増加傾向となる。逆に、5時間を超えてタンパク質分解酵素処理を実施すると、僅かずつではあるが徐々にアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの含量が減少する傾向にある。従って、タンパク質分解酵素処理を1〜5時間実施することにより、アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを短時間で効率的に生成させることができるため、工業的な大量生産に適している。
【0008】
請求項2に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記タンパク質分解酵素処理は、2〜5時間実施されることを要旨とする。
この方法においては、タンパク質分解酵素処理を2時間以上実施することにより、酵素処理ローヤルゼリーにより発揮されるアンジオテンシン変換酵素阻害活性が極めて安定して推移するようになるため、高度に安定した品質の酵素処理ローヤルゼリーを提供することが容易となる。
【0009】
請求項3に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記タンパク質分解酵素処理は、4時間実施されることを要旨とする。
この方法においては、タンパク質分解酵素処理を4時間実施することにより、酵素処理ローヤルゼリー中に生成されるアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの量が最大となるため、処理時間を含めてタンパク質分解酵素処理に関する諸条件を極めて適切に最適化することが可能となる。
【0010】
請求項4に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記タンパク質分解酵素処理は、前記ローヤルゼリー、前記エンド型中性プロテアーゼ及び水を含む反応液をインキュベートすることにより実施され、前記反応液には、前記ローヤルゼリーの固形分が該反応液の重量に対して5〜10%含有されていることを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記タンパク質分解酵素処理は、前記ローヤルゼリーの固形分1gあたり、1.4×10ユニット以上のタンパク質分解活性を有する前記エンド型中性プロテアーゼを用いて実施されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い活性を有するアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドの工業的な大量生産に適した酵素処理ローヤルゼリーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法を具体化した一実施形態について説明する。以下、アンジオテンシン変換酵素をACE、ローヤルゼリーをRJと略記する。
本実施形態の酵素処理RJには、イソロイシル・チロシン(IY)、バリル・チロシン(VY)及びイソロイシル・バリル・チロシン(IVY)を含むACE阻害ペプチドがそれぞれ高い割合で含有されている。また、この酵素処理RJには、配列番号1〜3で表されるアミノ酸配列からなるACE阻害ペプチドに加え、その他の未同定のACE阻害ペプチドもそれぞれ含有されている。
【0014】
これらのACE阻害ペプチドはいずれも、生体内における血圧の調節や体内電解質の維持に重要な役割を果たすレニン−アンジオテンシン系(RAS)に作用して血圧降下活性を発揮する。即ち、RASにおいて、アンジオテンシノーゲンより生成するアンジオテンシンIは、ACEにより、強い昇圧活性を有するアンジオテンシンIIに変換されるが、本実施形態のACE阻害ペプチドは、前記ACEを阻害してアンジオテンシンIIの生成を抑える。アンジオテンシンIIは、強い昇圧活性を有するとともに、副腎球状層からのアルドステロンの分泌を上昇させる。そして、本実施形態のACE阻害ペプチドは、主として、前記アンジオテンシンIIの生成抑制を介して、副腎球状層からのアルドステロンの分泌を阻害し、腎遠位尿細管からのナトリウム再吸収を抑え、結果的に循環血漿量を低下させて血圧を降下させる。これらのACE阻害ペプチドを含む酵素処理RJは、血圧が高めの人に対する健康食品素材として主に利用される。
【0015】
本実施形態の酵素処理RJの製造方法は、RJにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施す工程を備えている。
RJは、蜜蜂のうち日齢3〜12日の働き蜂の下咽頭腺及び大腮腺から分泌される分泌物を混合して作られる乳白色のゼリー状物質であり、古くから健康食品として利用されてきた。RJは、人体に対して好ましい生理活性を持つことが知られている。RJ中の主な生理活性成分としては、タンパク質、糖類、RJに特有な10−ハイドロキシデセン酸等の脂肪酸類、脂質、ビタミンB類や葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。本実施形態の製造方法に用いられるRJとしては、生RJ及び生RJを乾燥させて粉末化したRJ粉末のいずれであってもよい。また、RJの産地は、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等いずれであってもよい。
【0016】
タンパク質分解酵素処理は、バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いて、RJに含有されるタンパク質のペプチド結合を加水分解し、IY、VY、IVY等のACE阻害ペプチドを生成させる処理である。バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼは、金属プロテイナーゼに属しており、7.0の至適pH及び55℃の至適温度を有している(例えば非特許文献4参照)。
【0017】
タンパク質分解酵素処理は、RJ、前記エンド型中性プロテアーゼ及び水を含む反応液を、50℃、pH7の条件で、1〜5時間インキュベートすることにより実施される。
なお、このタンパク質分解酵素処理は、通常、前記インキュベート後の反応液を直ちに75〜100℃で5〜60分間加熱して前記プロテアーゼを失活させることにより終了する。また、タンパク質分解酵素処理終了後の反応液(酵素処理RJ)は、そのままドリンク剤に添加する等して利用されても構わないが、凍結乾燥等の公知の粉末化方法により粉末化して利用されることが望ましい。
【0018】
前記反応液には、RJに起因する粘度上昇を抑えてタンパク質分解酵素処理を迅速に進行させるための溶媒として、水又は緩衝液が含有されている。例えば生RJを用いる場合、反応液には、生RJの重量に対して2〜10倍量、好ましくは2〜6倍量、より好ましくは2〜3倍量の水又は緩衝液が含有されていることが望ましい。生RJの重量に対して2倍量未満の溶媒が加えられる場合、生RJに起因する反応液の粘度上昇を十分に抑えることができないため、タンパク質分解酵素処理を迅速に進行させることが困難になる。逆に、生RJの重量に対して10倍量を超える溶媒が加えられる場合、反応液の全量が必要以上に大きくなるため、該反応液中の全てのエンド型中性プロテアーゼを同じタイミングで失活させることが困難になる。さらにこのとき、得られた酵素処理RJの粉末化に多くの時間を要するという不都合も発生する。
【0019】
また、この反応液には、RJの固形分が該反応液の総重量に対して、2〜15%、好ましくは4〜12%、より好ましくは5%(非特許文献1〜3参照)〜10%、特に好ましくは10%程度(下記実施例1,2参照)含有されていることが望ましい。RJの固形分が反応液の総重量の2%未満の場合、反応液の全量が必要以上に大きくなるため、該反応液中の全てのエンド型中性プロテアーゼを同じタイミングで失活させることが困難になる。さらにこのとき、得られた酵素処理RJの粉末化に多くの時間を要するという不都合も発生する。逆に、RJの固形分が反応液の総重量の15%を超える場合、生RJに起因する反応液の粘度上昇を十分に抑えることができない。
【0020】
反応液中に添加されるエンド型中性プロテアーゼの量は、RJ中の成分が前記プロテアーゼに対して阻害的に働く可能性を考慮して、通常の基質に対して酵素処理を行う場合の10倍量以上に設定されていることが好ましい。具体的には、RJの固形分1gあたり、1.4×10ユニット以上のタンパク質分解活性を有する酵素量であることが好ましく(非特許文献1〜3参照)、1.5×10ユニット以上のタンパク質分解活性を有する酵素量であることが特に好ましい(下記実施例1,2参照)。
【0021】
反応液のpHは、タンパク質分解酵素処理を迅速に進行させるために、エンド型中性プロテアーゼの至適pHであるpH7に設定されている。
タンパク質分解酵素処理の処理温度は、50℃に設定されている。エンド型中性プロテアーゼの熱安定性を調べた文献(例えば非特許文献4参照)によれば、至適温度である55℃で15分間反応させた場合の残存活性(%)は、50℃以下の温度で15分間反応させた場合の残存活性よりも低下している。即ち、前記文献によれば、50℃以下の温度では残存活性の変化はほとんど見られないが、50℃を超えると急激に残存活性が低下する傾向が見て取れる。よって、本実施形態の製造方法では、タンパク質分解酵素処理を少なくとも1時間以上実施する必要があるため、処理温度を55℃に設定することは好ましくなく、むしろエンド型中性プロテアーゼの至適温度に近く、かつ長時間の反応でも活性の低下を抑制可能な温度である50℃が採用されている。
【0022】
タンパク質分解酵素処理の処理時間は、1〜5時間である必要があるが、好ましくは2〜5時間、より好ましくは3〜5時間、最も好ましくは4時間である。処理時間が1時間未満の場合、酵素処理RJ中に十分な量のACE阻害ペプチドが生成されないため、血圧降下作用を十分に発揮させることができない。逆に、処理時間が5時間を越える場合、酵素処理RJ中に十分な量のACE阻害ペプチドが生成されるが、酵素処理RJの製造に要する時間が著しく浪費されるため不経済である。またこのとき、酵素処理RJ中に生成されたACE阻害ペプチドが僅かずつではあるが徐々に減少する傾向を示すため好ましくない。
【0023】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の酵素処理RJの製造方法では、タンパク質分解酵素処理がエンド型中性プロテアーゼの至適pHであるpH7で実施される。さらに、同タンパク質分解酵素処理は、前記プロテアーゼの至適温度に近く、かつ該プロテアーゼの活性を長時間に亘って高く維持可能な温度である50℃で実施される。よって、タンパク質分解酵素処理におけるpH及び温度が最適化されているため、高い活性を有するACE阻害ペプチドを短時間で効率よく生成させることを可能にする。
【0024】
・ 本実施形態の酵素処理RJの製造方法では、タンパク質分解酵素処理が1〜5時間実施される。タンパク質分解酵素処理を1時間実施すれば、ほぼ最大に近い量のACE阻害ペプチドが酵素処理RJ中に生成される。そして、4時間までは僅かずつではあるが徐々にACE阻害ペプチドの生成量が増加傾向となる。逆に、5時間を超えてタンパク質分解酵素処理を実施すると、僅かずつではあるが徐々にACE阻害ペプチドの含量が減少する傾向にある。従って、タンパク質分解酵素処理を1〜5時間実施することにより、ACE阻害ペプチドを短時間で効率的に生成させることができるため、工業的な大量生産に適している。特に、非特許文献1〜3の製造方法におけるタンパク質分解酵素処理の処理時間(14時間)に対して、3分の1程度から十数分の1の時間で同等以上の品質の酵素処理RJを製造可能である点は、工業的には極めて重要である。
【0025】
・ 本実施形態の酵素処理RJの製造方法では、タンパク質分解酵素処理を2時間以上実施することにより、酵素処理RJにより発揮されるACE阻害活性が極めて安定して推移するようになるため、高度に安定した品質の酵素処理RJを提供することが容易となる。さらに、タンパク質分解酵素処理を4時間実施することにより、酵素処理RJ中に生成されるACE阻害ペプチドの量が最大となるため、処理時間を含めてタンパク質分解酵素処理に関する諸条件を極めて適切に最適化することが可能となる。
【実施例1】
【0026】
<酵素処理RJの調製>
中国産生RJ(固形分35%(w/w))1kgに水2.5kgを加えて攪拌しながら50℃に昇温した後、pH7に調整することにより、RJ希釈液を調製した。次に、前記RJ希釈液に、バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを3.5g添加することにより、反応液を調製した。なお、前記エンド型中性プロテアーゼは、非特許文献4のカタログに掲載された天野エンザイム社製のプロテアーゼNであり、pH7.0において1.5×10ユニット/g以上のタンパク質分解活性を有している。よって、前記反応液中には、RJの固形分1gあたり、1.4×10ユニット以上(計算上では1.5×10ユニット以上)のタンパク質分解活性を有するエンド型中性プロテアーゼが添加されていることになる。また、同反応液には、RJの固形分が該反応液の重量に対して10%含有されていることになる。
【0027】
続いて、前記反応液を50℃でインキュベートすることにより、タンパク質分解酵素処理を実施した。タンパク質分解酵素処理の開始から、0時間後、5分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、3時間45分後、4時間後、4時間15分後、5時間後、8時間後及び14時間後にそれぞれ反応液を少量ずつ採取した。採取直後の各反応液をそれぞれ98℃で5分間加熱して酵素を失活させることにより、タンパク質分解酵素処理の処理時間がそれぞれ異なる酵素処理RJをそれぞれ調製した。ちなみに、前記タンパク質分解酵素処理の開始から終了までの反応液の温度及びpHを不定期に測定したところ、温度管理上の誤差や実験上の誤差の範囲内で、概ね50℃及びpH7の条件が継続的に維持されていたことを確認した。
【0028】
<電気泳動法によるタンパク質分解度の検討>
タンパク質分解酵素処理の処理時間が5分、15分、30分、1時間、2時間、3時間、3時間45分、4時間、及び4時間15分となるように調製された各酵素処理RJを、それぞれSDS−PAGEにて電気泳動した後、クマシー染色を行った。その結果、処理時間が2時間以下の酵素処理RJでは、処理時間の経過に伴って染色されたタンパク質バンドの低分子化の進行が見られたが、処理時間が3時間以上の酵素処理RJではいずれも、染色されたタンパク質バンドが十分に低分子化されているうえ、ほぼ同様な染色パターンとなっていた。
【0029】
<酵素処理RJ中に含まれるACE阻害ペプチド含量の定量>
タンパク質分解酵素処理の処理時間が0時間、1時間、2時間、3時間、3時間45分、4時間、4時間15分、5時間、8時間及び14時間となるように調製された各酵素処理RJを、液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MS/MS)でそれぞれ分析した。分析条件を以下に示す。
【0030】
(液体クロマトグラフ(HPLC)条件)
Agilent1100(HP1100)システム
カラム ;NOMURA Develosil ODS-HG-5 (2.0×100mm)
温度 ;35℃
サンプル;10μl
流速 ;200μl/分
溶媒 ;水(0.1%TFA)及びCHCN(0.1%TFA)の混合溶媒
溶出条件;0 → 0.5分 10% CHCN
0.5 →18分 10%→90% CHCNのグラジエント溶出
18→23分 90% CHCN
23→33分 90%→10% CHCNのグラジエント溶出
(質量分析計(MS)条件)
Applied Biosystems API365システム
イオン化法 ;ESI+
イオン源 ;ターボイオンスプレー
ネブライザーガス流量;13
カーテンガス流量 ;13
イオンスプレー電圧 ;5000度
オリフィス電圧 ;76V
検出法MRM(VY=Q1/Q3=281/71、IY=295/86、IVY=394/212)
前記LC/MS/MSにて各酵素処理RJ中に含まれるIY、VY及びIVYの含量をそれぞれ測定した結果と、これら3種のACE阻害ペプチドの含量の合計とを、下記表1及び図1(a)に示す。また、処理時間が3時間、4時間及び5時間の各酵素処理RJについて、3種のACE阻害ペプチドの含量の合計を4回ずつ測定し、それぞれ有意差検定を行った結果も表1及び図1(a)に併記する。
【0031】
【表1】

表1及び図1(a)より、タンパク質分解酵素処理を1〜5時間実施した各酵素処理RJには、図1(a)の点線で示すように、14時間実施した酵素処理RJより多量のACE阻害ペプチドが生成されていた。即ち、タンパク質分解酵素処理を14時間もの長い時間かけて実施する必要は全くなく、少なくとも1時間実施すれば十分であり、好ましくは3〜5時間、より好ましくは3〜4時間、最も好ましくは4時間実施するとよいことが確認された。特に、タンパク質分解酵素処理を4時間実施した酵素処理RJは、3時間及び5時間実施したものよりも、ACE阻害ペプチドの生成量が有意に増加している点は重要である。また、処理時間が4時間を超えると、各ACE阻害ペプチドが僅かずつではあるが徐々に減少したことも確認された。
【0032】
<酵素処理RJによるACE阻害活性>
タンパク質分解酵素処理の処理時間が0時間、1時間、2時間、3時間、3時間45分、4時間、4時間15分、5時間、8時間及び14時間となるように調製された各酵素処理RJについて、非特許文献1に記載の方法に従って、インビトロでACE阻害活性を定量した。ACE阻害活性の定量は、基質(Hippuryl-His-Leu)に対するACE活性の阻害率(%)を、各酵素処理RJの希釈系列に関してそれぞれ測定し、各希釈系列に含まれる試料濃度と得られたACE阻害率との関係から、ACE活性を50%阻害するときの試料濃度(IC50)を求める方法を用いた。結果を上記表1及び図1(b)に示す。
【0033】
その結果、タンパク質分解酵素処理を1〜5時間実施した酵素処理RJはいずれも、図1(b)の点線で示すように、14時間実施した酵素処理RJとほぼ同等又は該酵素処理RJよりも高いACE阻害活性を有していた。即ち、タンパク質分解酵素処理を14時間もの長い時間かけて実施する必要は全くなく、少なくとも1時間実施すれば十分であり、好ましくは2時間以上、特に好ましくは4時間実施するとよいことが確認された。特に、図1(b)に示すように、タンパク質分解酵素処理を2時間以上実施した各酵素処理RJでは、1時間以下のものと比べて、ACE阻害活性が極めて安定に推移していることが明確に把握され得る。また、処理時間が4時間の酵素処理RJは、上記表1及び図1(a)においてACE阻害ペプチド含量の最大値を示したことと一致して、最も高いACE阻害活性を示した。
【実施例2】
【0034】
<酵素処理RJの大量生産>
上記実施例1の製造方法を50倍にスケールアップした。即ち、中国産生RJ(固形分35%(w/w))50kgに水125kgを加えて攪拌しながら50℃に昇温した後、pH7に調整することにより、RJ希釈液を調製した。次に、前記RJ希釈液に、バチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを175g添加することにより、反応液を調製した。続いて、前記反応液を50℃でインキュベートすることにより、タンパク質分解酵素処理を実施した。
【0035】
タンパク質分解酵素処理の開始から、0.5時間後、1時間後、4時間後及び14時間後にそれぞれ反応液を少量ずつ採取した。採取直後の各反応液をそれぞれ98℃で5分間加熱して酵素を失活させることにより、タンパク質分解酵素処理の処理時間がそれぞれ異なる酵素処理RJをそれぞれ調製した。ちなみに、前記タンパク質分解酵素処理の開始から終了までの反応液の温度及びpHを不定期に測定したところ、温度管理上の誤差や実験上の誤差の範囲内で、概ね50℃及びpH7の条件が継続的に維持されていたことを確認した。得られた各酵素処理RJを、上記実施例1と同様に、ACE阻害ペプチド含量の定量及びACE阻害活性の測定に供した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

表2より、実施例1の製造方法を50倍にスケールアップした本実施例においても、該実施例1と全く同様の結果が得られた。つまり、本実施例の方法は、スケールの大小に関わらず、極めて再現性の高い方法であると言える。従って、本実施例の製造方法は、高い活性を有するACE阻害ペプチドの工業的な大量生産に適したものであると結論づけられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は、実施例1の結果を示すグラフであって、タンパク質分解酵素処理の処理時間とACE阻害ペプチド含量との関係を示すグラフ、(b)は、実施例1の結果を示すグラフであって、タンパク質分解酵素処理の処理時間とACE阻害活性との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを含む酵素処理ローヤルゼリーを製造する方法であって、
該方法は、ローヤルゼリーにバチルス・サブティリス由来のエンド型中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理を施す工程を備え、
該タンパク質分解酵素処理は、50℃、pH7の条件で、1〜5時間実施されることを特徴とする酵素処理ローヤルゼリーの製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質分解酵素処理は、2〜5時間実施されることを特徴とする請求項1に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質分解酵素処理は、4時間実施されることを特徴とする請求項1に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法。
【請求項4】
前記タンパク質分解酵素処理は、前記ローヤルゼリー、前記エンド型中性プロテアーゼ及び水を含む反応液をインキュベートすることにより実施され、
前記反応液には、前記ローヤルゼリーの固形分が該反応液の重量に対して5〜10%含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質分解酵素処理は、前記ローヤルゼリーの固形分1gあたり、1.4×10ユニット以上のタンパク質分解活性を有する前記エンド型中性プロテアーゼを用いて実施されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−78(P2007−78A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183835(P2005−183835)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】