説明

酵素含有組成物、かかる組成物を製造する方法およびその使用

【課題】
簡単かつ痛みがない方法で毎日実施することにより、カリエスに感染した歯組織を除去することができる組成物が必要であった。さらに、保存する価値のある健全な歯材料が攻撃および損傷を受けないかまたは少なくとも回避することができるカリエスを除去するための組成物が必要であった。さらに、カリエス治療後に、本質的に細菌残渣が残留しないことを確実にするカリエスを除去するための組成物が必要であった。さらに、痛みがなくかつ簡単なカリエスの治療のための方法が必要であった。
【解決手段】
本発明は、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼと、少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼと、を含む組成物であって、プロテアーゼとグリコシダーゼの活性比が、1,000,000:1〜1:1,000,000であり、総酵素活性が少なくとも2U/mlである組成物に関する。さらに、本発明は、そのような酵素を含む組成物を製造する方法およびカリエスを除去する方法に関する。さらに、本発明は、カリエスを除去するための治療剤を製造するための1種もしくはそれ以上の酵素を含む組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼまたは少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼおよび少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼを含む組成物であって、プロテアーゼおよびグリコシダーゼの活性比が、1,000,000U:1U〜1U:1,000,000Uである、上記組成物に関する。さらに、本発明は、本酵素を含む組成物を製造する方法およびカリエスを除去する方法に関する。本発明はまた、カリエスを除去するための治療剤を製造するための酵素を含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
齲歯とも呼ばれるカリエスは最も頻繁に発症するヒト疾患の1種である。カリエスは、歯が抜け落ちることもあり得る歯の細菌性損傷である。外側から見ていくと、歯は硬いエナメル質の覆いで保護されており、より柔らかい象牙質が封入され、次にいわゆる歯髄が封入されている。エナメル質自体は、約95%の無機化合物、具体的にはヒドロキシアパタイト、ならびに約5%の有機化合物および水よりなる。象牙質はエナメル質よりも柔らかく、65%の無機化合物(主にヒドロキシアパタイト)、約20%の有機化合物(主にコラーゲンおよび多糖)および約15%の水よりなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
カリエス疾患は、しばしば、歯垢の形成および歯垢から発達する歯石から始まる。歯垢は、拭き取ることが困難な塊を含有する細菌、タンパク質、および多糖よりなる歯の上の白色がかった膜である。用語「歯垢」は、歯の表面上に存在するすべての微生物およびそれらの有機マトリックスを説明している。歯垢からは、カリエスおよび歯石が発達する可能性があって、後者は石灰化した歯垢からなり、歯茎をかなり損傷させる。注意深くブラッシングしても、歯の表面から歯石を除去することは不可能である。
【0004】
カリエスは、炭水化物の細菌性発酵、特に、糖から酸への細菌性発酵によるいくつかの段階で発達する。前記細菌性発酵から生じる酸は、はじめに、硬いエナメル質を溶解する一方、細菌は、主に、歯に残留している食物小片などの有機成分を攻撃する。
【0005】
酸の細菌誘導性の影響によりエナメル質が多孔化および軟化すると、細菌は、歯石の下の象牙質層に達し、象牙質をカリエスで汚染する。カリエス疾患は、しばしば、象牙質の歯髄の炎症を生じる。歯髄の炎症は激痛をともない、迅速に治療しなければ患者の健康に深刻なリスクを生じ得る。
【0006】
エナメル質、またはエナメル質と象牙質とが溶解する領域は、ほとんどの場合、カリエス病巣と呼ばれる。カリエス病巣は、通常、一部は細菌を起源とし、一部は唾液ならびに食物小片由来である多数の異なる化合物よりなる。
【0007】
他の生体身体組織に対する損傷とは対照的に、カリエスによって生じる歯の損傷を修復する内因的方法は存在しない。カリエスの初期相においてのみ、歯の硬質物質の無機質補充による治癒は可能である。カリエスの後半の段階では、カリエスによって損傷した歯の領域を除去する治療が必要である。カリエスに冒された歯の組織を除去することによって生じる空いた空間は窩洞と呼ばれる。窩洞が所定のサイズより大きく、かつカリエスに冒された歯の組織が除去された後、窩洞は、通常、人工的充填材で充填される。
【0008】
カリエスにより生じた歯の損傷は、通常、歯科用ドリルでカリエスの歯組織に穴をけることによって、除去する。徴候および技術に依存して、400,000rpm間でのドリル速度が得られる。使用されるドリルは、硬質の金属またはダイヤモンド器具である。ドリルによる穴あけは非常に多量の熱を放出し、除去した歯実質が治療部位に混入するため、窩洞を冷却および浄化するために、通常、水および空気の混合物が必要である。
【0009】
しかし、歯科用ドリルを使用してカリエスを除去するための治療の方法はいくつかの欠点を有する。
【0010】
例えば、重大な欠点は、本治療方法が、一般に、患者の相当な痛みを伴うことである。ドリルによる穴あけによって生じる痛みとして、患者は、しばしば炎症を生じる歯の領域で、特に、回転するドリルの器具の微細な振動を感じる。さらに、極めて不快に感じられる口笛のようなドリルの音が存在する。従って、多くの患者は、カリエスに冒され、損傷を受けた歯を治療してもらう前に、しばしば、非常に長い間放置してしまう。
【0011】
本治療方法に関する更なる欠点は、ドリルによる穴あけが健全な歯実質を損傷し、除去することである。しかし、健全な歯材料のそのような除去は、一般に所望されない。
【0012】
カリエスが感染した歯の、ドリルによる処理に関する更なる欠点は、ドリルによる穴あけでカリエスの歯組織を除去する代わりに、しばしば、細菌の残渣が損傷部位に残留することである。そのような細菌残渣は、歯髄および歯根の炎症などの有害な副作用を生じる可能性がある。その治療は、しばしば初期段階の予備的処理よりもかなりの痛みを伴う。
【0013】
上記の古典的なドリル穴あけ治療に加えて、最近数年間の間に、硬い歯質の穏やかな治療のための方法についての記載が増えている。
【0014】
例えば、国際公開WO98/20838には、本質的に痛みがなく、ドリルを使用せずにカリエスを除去するための化学的−機械的方法について記載している。カリエスを溶解するために、強度の酸化剤、次亜塩素酸ナトリウムをアミノ酸との併用で使用する。本方法の欠点は、強酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウムが、感染カリエス歯組織および非感染の健全な歯組織の構成成分と非特異的に反応することである。
【0015】
さらに、この方法は、表面のカリエス領域を軟化することを可能にするのみである。酸化効果が減少すると、直ちに、次亜塩素酸ナトリウム溶液を再度適用しなければならない。従って、該溶液を頻繁に適用することが必要である。
【0016】
臨床経験により、上記の化学的−機械的方法が極めて時間がかかり、常に成功するとは限らないので、最終的にはやはり、歯科用ドリルに戻らなければならないことが実証されている。
【0017】
国際公開WO96/07329は、カリエスおよび歯周病疾患を治療および予防するための方法について記載している。遺伝子操作の方法によって得られる酵素で口腔内の微生物と戦うことが示唆されている。リゾチームおよびデキストラナーゼが、適切な酵素として挙げられている。カリエスを治療および防止するための開始点として、酵素で歯垢を除去するべきである。カリエス自体の治療については該文献に記載されていない。
【0018】
同様に、EP08 24 910A2公報は、歯垢の治療のための所定の酵素の使用について記載している。カリエス自体の治療については該文献で言及されていない。
【0019】
国際公開WO92/10165は、補綴物上の歯垢を除去するための特に実質、プロテアーゼおよび錯化剤を所定の量で含有する組成物を開示している。ここでは、中性または塩基性環境で稼動するプロテアーゼが好適である。カリエス自体の治療については該文献で言及されていない。
【0020】
国際公開WO97/38669は、それぞれ、歯垢の形成を回避するためおよび歯垢を除去するための組成物に関し、ここで、組成物は、グリコシダーゼ、デキストラナーゼおよびムタナーゼ(mutanase)、ならびに必要に応じて、プロテアーゼなどの他の酵素を含有する。該文献に従って使用されるすべての酵素はpH6〜8の範囲で適用されると記載されている。歯磨き、歯磨き粉または洗浄として組成物を使用することができる。カリエス自体の治療については該文献で言及されていない。
【0021】
国際公開WO98/26807は、プラスチックまたはバイオフィルムで被覆された金属から作製される稼動表面などの表面を浄化および消毒するための方法について記載しており、ここで、使用される組成物は酵素を含有する。カリエス自体の治療については該文献で言及されていない。
【0022】
カリエスの予防治療のためにリゾチームを錯化剤EDTA(エチレン−ジアミノ−テトラ酢酸)と併用して使用することが、米国特許第4,355,022号に記載されている。カリエス自体の治療については該文献で言及されていない。
【0023】
従って、簡単かつ痛みがない方法で毎日実施することにより、カリエスに感染した歯組織を除去することができる組成物が必要であった。さらに、保存する価値のある健全な歯材料が攻撃および損傷を受けないかまたは少なくとも回避することができるカリエスを除去するための組成物が必要であった。さらに、カリエス治療後に、本質的に細菌残渣が残留しないことを確実にするカリエスを除去するための組成物が必要であった。さらに、痛みがなくかつ簡単なカリエスの治療のための方法が必要であった。
【0024】
一般に、歯科医師は、窩洞が「清潔」であるかどうか、即ちカリエスの残渣がないかどうかを決定するための多様な方法に依存することができる。しかし、極めて多くの場合、歯科医師は、新しく調製された窩洞の表面を歯科プローブで引っかくことによって発生する異なる音シグナルに依存する。カリエスがない象牙質は、上記の歯科プローブで引っかく場合、窩洞壁の鉱物材料の高画分から生じる乾いた澄んだ音を発する。この試験は、しばしば窩洞にカリエス材料がないかどうかを決定する最も容易な方法として適用され、この試験の信頼性は高い一方、窩洞をカリエスがないと規定することができる歯材料の除去位置を必ずしも正確に決定しない。通常、所望される結果を伴う歯科プローブ法を適用するための歯から除去すべき材料の量は、必要量より多い。このことは、カリエス細菌はないがすでに部分的に抗物質が除去されているわずかに抗物質が除去された歯材料は、健全な歯材料と同様に治療することができるが、歯科プローブで引っかく場合に典型的な引っかき音が生じないという事実から説明することができる。従って、歯科プローブスクラッチ試験に依存することが可能であるために、カリエスを除去して、基本的に接触していないより柔らかいが健全な歯材料を残すか、またはカリエスと、軟化され、部分的に脱灰した歯科材料とを除去するかのいずれかである歯科ドリルを使用することなく、窩洞からカリエスを除去するための材料を選択することが長い間必要とされてきた。
【課題を解決するための手段】
【0025】
従って、本発明の目的は、1種もしくはそれ以上の上記の要件を満たす組成物を提供することである。本発明のもう1つの目的は、1種もしくはそれ以上の上記の要件を満たすカリエスを除去するための治療の方法を提供することである。
【0026】
従って、本発明の第1の実施態様では、本発明は、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼと、少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼとを含む組成物であって、組成物におけるプロテアーゼとグリコシダーゼの酵素活性の比は、1,000,000:1〜1:1,000,000の範囲であり、総酵素活性は2U/mlより大きい、上記組成物に関する。
【0027】
酵素活性の単位(Uと略称される)は、それぞれの酵素について、対応する基質を、標準条件で1分間に1μmol変換するのに必要な酵素のそれぞれの量である。プロテイナーゼKの場合、Uは、単位mAnsonに関連する。簡単のため、略称Uは、プロテイナーゼKについても本明細書内において使用され、ここで、この場合、略称Uは単位mAnsonを示す。従って、酵素プロテイナーゼKの場合、酵素単位(U)についての酵素活性の比の数字はまた、プロテイナーゼKのみに使用される酵素単位mAnsonについても有効である。
【0028】
本発明の場合、総酵素活性[U/ml]は、例えば、酵素および必要に応じて乾燥状でもある1種もしくはそれ以上のアジュバントの混合物より排他的になる液体ならびにペースト状および乾燥生成物に関する。
【0029】
本発明において使用される酵素は、一般に、植物、動物または菌類ならびに細菌または酵母から単離することができる。酵素はまた、生物工学によっても生成されている。ブタまたはニワトリから得られる酵素などの動物、細菌、または酵母から単離された酵素が適切である。さらにまた、細菌のストレプトマイセス(Streptomyces)属もしくは菌類のペニシリウム(Penicillium)または細菌のクロストリジウム(Clostridium)属、菌類のアスペルギルス(Aspergillus)もしくはトリオチラキウム(Triotirachium)から単離される酵素も適切である。ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、クロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、ペニシリウム(penicillium)種またはトリチラキウム・アルブム(Tritirachium album)から単離された酵素が好適である。
【0030】
本発明に関して、用語「プロテアーゼ」は、ペプチド結合を加水分解することにより、タンパク質分解的にタンパク質を変換することが可能なすべての酵素を示す。
【0031】
本発明に従って使用されるプロテアーゼは、カリエス病巣に存在し得るタンパク質成分の分解を触媒するために使用される。この目的のために、タンパク質およびペプチド分解を触媒する一般にすべてのプロテアーゼが適切である。しかし、本発明に関して、例えば、歯の材料に存在するコラーゲン線維の分解を触媒することが可能であるか、またはプロテアーゼ反応後にコラーゲン線維がより良好な溶解特徴を有するように少なくともコラーゲン線維の構造の変化を触媒する該プロテアーゼが特に適切である。
【0032】
本発明に従って使用されるプロテアーゼは、例えば、ペプチダーゼ、ペプチジルペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、ジペプチジルペプチダーゼ、オリゴペプチダーゼ、プロテイナーゼ、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼである。
【0033】
タンパク質触媒に関与するアミノ酸または補因子に関して、本発明に従う適切なプロテアーゼを分類することも可能である。従って、本発明に関して、セリンプロテアーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよびシステインプロテアーゼなどの一般にすべてのプロテアーゼを使用することができる。一般に、組成物に含まれるプロテアーゼは、それぞれのプロテアーゼがカリエス病巣に存在するタンパク質成分の分解を触媒することを可能にする条件下で使用するべきである。
【0034】
一般に、本発明に従う組成物は、1種のプロテアーゼを含み得るだけではなく、2種もしくはそれ以上の異なるプロテアーゼをも含み得る。
【0035】
本発明の1つの実施態様に従えば、組成物は、例えば、1種のプロテアーゼを含む。もう1つの実施態様に従えば、本発明に従う組成物は、約1〜10種の異なるプロテアーゼ、好ましくは1〜6種、より好ましくは1〜4種、およびより好ましくは2〜3種、ならびにより好ましくは2種の異なるプロテアーゼを含む。
【0036】
本発明の好適な実施態様に従えば、組成物は少なくとも2種のプロテアーゼを含む。本発明の実施態様に従えば、本発明の組成物は、例えば、コラゲナーゼおよびプロナーゼを含み、もう1種の実施態様に従えば、本発明の組成物は、例えば、コラゲナーゼおよびプロテイナーゼKを含む。
【0037】
もう1種の実施態様に従えば、本発明の組成物は3種のプロテアーゼ、即ち、コラゲナーゼ、プロナーゼ、およびプロテイナーゼKを含む。クロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histokyticum)由来のコラゲナーゼおよびストレプトマイセス・グリセウス由来のプロナーゼおよびトリチラキウム・アルブム(Tritirachium album)由来のプロテイナーゼKの使用が特に好適である。もう1種の実施態様に従えば、本発明の組成物は、ただ1種のプロテアーゼ、好ましくは、アスパラギン酸プロテアーゼを含み、ここで、ペプシン、および特にブタ由来のペプシンが好適である。
【0038】
本発明に関して使用することができるグリコシダーゼとして、カリエス病巣内の多糖構造を切断および分解することが可能であるすべてのグリコシダーゼが可能である。このことに関して、グリコシダーゼは、カリエス病巣に存在する多糖構造のグリコシド結合の加水分解切断を触媒する。
【0039】
グリコシダーゼの触媒機構は、それぞれのグリコシダーゼが基質に特異的に連結する場合にのみ稼動する。従って、例えば、リゾチームは多糖構造におけるN−アセチルムラミン酸とN−アセチル−D−グルコサミンとの間のβ−1,4連結の加水分解を触媒する。これとは対照的に、α−アミラーゼは、多糖構造における2種のD−グルコース単位間のα−1,4連結の加水分解を触媒し、ムタナーゼは、α−1,3連結の加水分解を触媒する。デキストラナーゼは、デキストランにおけるα−1,6連結の加水分解を触媒する。
【0040】
本発明に従う組成物では、一般にすべての型のグリコシダーゼは、個別にまたは他のグリコシダーゼ、例えば、α−グリコシダーゼまたはβ−グリコシダーゼまたは保持型グリコシダーゼまたは反転型グリコシダーゼとの組み合わせのいずれかで含まれ得る。
【0041】
本発明に従う組成物は、一般に、例えば、1種のグリコシダーゼを含み得るだけでなく、2種もしくはそれ以上の異なるグリコシダーゼをも含み得る。本発明の実施態様に従えば、組成物は、例えば、1種のプロテアーゼを含む。もう1種の実施態様に従えば、本発明に従う組成物は、約1〜10種の異なるグリコシダーゼ、例えば1〜約6種、もしくは1〜4種、または2〜3種、例えば、2種の異なるグリコシダーゼを含む。
【0042】
本発明の好適な実施態様に従えば、少なくとも2種の異なるグリコシダーゼが組成物に使用される。好適なグリコシダーゼはリゾチーム、α−アミラーゼ、ムタナーゼもしくはデキストラナーゼまたは2種もしくはそれ以上のそれらの混合物である。リゾチームおよびデキストラナーゼの併用使用も適切である。好ましくは、少なくとも2種の異なるグリコシダーゼ、特にニワトリ卵アルブミン由来のリゾチーム、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)由来のα−アミラーゼおよびペニシリウム(penicillium)種由来のデキストラナーゼが本発明に従って使用される。
【0043】
本発明に従う組成物は、プロテアーゼの活性とグリコシダーゼの活性との間の独特な関係によって特徴付けられる。一般に、本発明における組成物におけるプロテアーゼ対グリコシダーゼの酵素活性の比は、1,000,000:1〜1:1,000,000の範囲である。
【0044】
上記の活性比は、すべて、各酵素についての各標準的条件におけるものである。これに関して、以下の標準的条件が有効である:
プロナーゼ:1単位は、基質としてカゼインを使用する場合、40℃、pH7.5で1分間あたり25μgのチロシンへの変換に対応する。
コラゲナーゼ:1単位は、基質としてコラーゲンを使用する場合、37℃およびpH7.5で5時間で1mmolのL−ロイシンへの変換に対応する。
ペプシン:1単位は、TCAによる変換されたヘモグロビンのA280nm、37℃での0.01のΔEに対応する。
リゾチーム:1単位は、pH6.24、25℃で1分間あたり0.001の活性を生じる。2.6mlの検出容積で、基質としてM.リソデイクチス(M.lysodeikticus)細胞を使用する。
デキストラナーゼ:基質としてデキストランを使用する場合、37℃、pH6.0で1分間あたり25μmolのイソマルトースへの変換に対応する。
α−アミラーゼ:1単位は、基質としてデンプンを使用する場合、20℃、pH6.9で3分間における1mgのマルトースの変換に対応する。
プロテイナーゼK:1Anson単位は、基質としてヘモグロビンを使用する場合、pH7.5、35℃での1μmolのフォリン陽性アミノ酸に対応する。
【0045】
本発明に従えば、プロテアーゼ活性とグリコシダーゼ活性の活性比は、約10,000:1〜1:1,000,000もしくは約100:1〜1:1,000,000もしくは約1:1〜1:1,000,000の比または約1:10〜1:100,000もしくは約1:100〜1:100,000の比が適切である。例えば、約1:1,000〜1:100,000の比が特に適切であり、約1:3,000〜1:30,000の比がより好適である。好適な比は、例えば、約1:100〜1:500である。
【0046】
上記の活性比は、それぞれの酵素に有効である標準的条件に明白に関連する。
【0047】
さらに、本発明は、グリコシダーゼとプロテアーゼとを含むか、またはグリコシダーゼと少なくとも2種もしくはそれ以上のプロテアーゼとを含むか、または少なくとも2種もしくはそれ以上のグリコシダーゼとプロテアーゼとを含むか、または少なくとも2種もしくはそれ以上のグリコシダーゼと2種もしくはそれ以上のプロテアーゼとを含む組成物に関する。本発明による組成物は、例えば、約1〜約10種のグリコシダーゼおよび約1〜約10種のプロテアーゼ、好ましくは約6種のグリコシダーゼおよび約1〜約10種のプロテアーゼ、ならびにより好ましくは約4種のグリコシダーゼおよび約1〜約10種のプロテアーゼ、より好ましくは約2種のグリコシダーゼおよび約1〜約10種のプロテアーゼまたは約6種のグリコシダーゼおよび約6種のプロテアーゼまたは約6種のグリコシダーゼおよび約4種のプロテアーゼまたは約6種のグリコシダーゼおよび約2種のプロテアーゼ、ならびにより好ましくは約4種のグリコシダーゼおよび約6種のプロテアーゼまたは約4種のグリコシダーゼおよび約4種のプロテアーゼまたは約4種のグリコシダーゼおよび約2種のプロテアーゼ、ならびにより好ましくは約2種のグリコシダーゼおよび約2種のプロテアーゼを含む。
【0048】
本発明の好適な実施態様に従えば、本発明に従う組成物は、プロテアーゼであるプロテイナーゼKおよびコラゲナーゼを、グリコシダーゼであるリゾチームおよびデキストラナーゼとの組み合わせで含む。
【0049】
本発明はまた、本発明に従う組成物および少なくとも1種の溶媒を含む溶液に関する。一般に、変性することなく酵素を溶解することができる各溶媒は、本発明に従う組成物に含まれる成分でありうる。本発明に従う使用を不可能にする程度にまで酵素の活性を損なわないすべての水性および有機溶媒を使用することができる。
【0050】
適切な溶媒は、例えば、水、2〜10個の炭素原子を有する直鎖、分岐または環式、飽和もしくは不飽和アルコール、ケトン、エステル、カルボキシル酸および2もしくはそれ以上の前記タイプの溶媒の混合物である。
【0051】
本発明に従えば、例えば、ジアルキルケトンもしくはアルコールまたはポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルメタクリレートもしくは(2,3−エポキシプロピル)メタクリレートなどの低粘度の高分子化可能な物質およびそれらの混合物を溶媒として使用することができる。特に好適なアルコール性溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびプロパノールである。他の適切な有機溶媒には、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アルカンおよび酢酸アルキルエステル、特に、酢酸エチルエステルがある。
【0052】
一般に、上記の溶媒を単独で、または溶媒混合物が所望される結果を得ることができなくなる程度にまで酵素活性を損なわない範囲でこれらの溶媒の2種もしくはそれ以上のいずれかの混合物として使用することが可能である。しかし、本発明の好適な実施態様に従えば、成分として水、特に、水−アルコール溶媒混合物を含む溶媒混合物が使用される。
【0053】
本発明に従う組成物の粘度は、組成物が溶媒を含有する場合、本質的に、高い流動性からペースト状の任意の範囲内にある。それは、しばしば、治療すべきカリエス病巣内に容易にアクセスしない領域にまで流動させるために、組成物が十分に低い粘度を有する場合に有用となる。しかし、それはまた、本発明に従う組成物を含有する溶媒がより高い粘度を有する場合、即ち、組成物は、カリエス病巣が歯の側面の領域に位置する場合、過度に速く流動しないようにゲル様である場合、有利であり得る。
【0054】
本発明に従う溶液の粘度の範囲は、例えば、+25℃で、約1.0mPas〜約1000mPasの範囲、または、例えば、+25℃で、約10mPas〜約100mPasの範囲である。
【0055】
一般に、本発明において使用することができるすべての増粘剤は、前記増粘剤が所望される使用目的を損なわないかまたは少なくとも本質的に損なわない場合、溶液の所望の粘度に調整するために通常使用される当業者に公知である物質であり得る。適切な増粘剤には、例えば、デンプン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびシリカゲルまたはフィロケイ酸塩などの無機増粘剤ならびに上記の増粘剤の2種もしくはそれ以上の混合物がある。
【0056】
本発明に従う酵素溶液は、例えば、溶液1mlあたり約2U〜約1,000,000U総酵素活性を有することができる。下限は、例えば、約3、5、7、または10U/mlであり、ここで、本発明の効果は、約20または約25または約30または約40または約45または約50U/ml溶液の総酵素活性の下限で通常顕著に改善される。
【0057】
好ましくは、本発明の酵素溶液は、約60U〜約600,000U/ml溶媒、例えば、約100U〜約400,000U/ml溶媒または約300〜約300,000U/ml溶媒または約500U〜約200,000U/ml溶媒または約700〜約150,000U/ml溶媒または約1,000〜約100,000U/ml溶媒または約5,000〜約50,000U/ml溶媒を含む。さらに、本発明の説明に関して、それぞれの範囲の上記の下限は、本発明の酵素溶液の有利な効果が上記の範囲内で特に個別に生じる場合、上記の限界値のそれぞれと組み合わせることができる。
【0058】
それぞれの酵素は、それぞれの酵素に有効な標準的条件に関連して、例えば、1Uプロテアーゼ:1Uグリコシダーゼ〜1Uプロテアーゼ:1,000,000Uグリコシダーゼの比または約1Uプロテアーゼ:10Uグリコシダーゼ〜1Uプロテアーゼ:100,000Uグリコシダーゼまたは約1Uプロテアーゼ:100Uグリコシダーゼ〜1Uプロテアーゼ:100,000Uグリコシダーゼの比で存在する。特に適切な比は、例えば、約1Uプロテアーゼ:1,000Uグリコシダーゼ〜1Uプロテアーゼ:100,000Uグリコシダーゼであり、約1Uプロテアーゼ:3,000Uグリコシダーゼ〜1Uプロテアーゼ:30,000Uグリコシダーゼの比がより好適である。
【0059】
総プロテアーゼ活性は、例えば、約1U/ml溶媒〜約1,000,000U/ml溶媒の範囲、好ましくは、約5U〜約100,000U/ml溶媒の範囲または約50U〜約50,000U/ml溶媒の範囲である。
【0060】
2種のプロテアーゼの酵素の組み合わせを含む本発明に従う適切な組成物は、例えば、以下の酵素活性:約1〜約5,000U/ml溶媒、例えば、約1〜約1,000U/ml溶媒または例えば、約1〜約5U/ml溶媒の範囲のコラーゲン、ならびに約10〜約300mAnson/ml溶媒、好ましくは、約20〜約100mAnson/ml溶媒および特に好ましくは、約20〜約50mAnson/ml溶媒の範囲のプロテイナーゼKを有する。同様の濃度および比はコラゲナーゼとプロテイナーゼKとは異なるプロテアーゼとの併用にも当てはまる。
【0061】
一般に、本発明に従う組成物の総グリコシダーゼ活性は、1U/mlを超える範囲である。本発明に従えば、総グリコシダーゼ活性は、約1U/ml〜約1,000,000U/ml溶媒の範囲であることができ、好ましくは、総グリコシダーゼ活性は、約10U/ml〜約500,000U/ml溶媒、例えば、約50U〜約300,000U/ml溶媒の濃度または約1,000U/ml〜約200,000U/ml溶媒の濃度または約10,000U/ml〜約100,000U/ml溶媒の濃度である。
【0062】
本発明のもう1種の実施態様に従えば、2種のグリコシダーゼの酵素の組み合わせを含む組成物は、例えば、以下の濃度:
・5,000〜200,000U/ml溶媒、好ましくは、10,000〜150,000U/ml溶媒、より好ましくは、70,000〜100,000U/ml溶媒の範囲のリゾチーム、ならびに
・10〜1,000U/ml溶媒、好ましくは50〜500U/ml溶媒、およびより好ましくは90〜250U/ml溶媒の範囲のデキストラナーゼ
を有する。
【0063】
カリエス病巣の主なタンパク質成分はタンパク質コラーゲンであるため、単独または1種またはそれ以上の他のプロテアーゼとの組み合わせでコラーゲンを分解することが可能である本発明の溶液が好適である。
【0064】
本発明のもう1種の実施態様に従えば、構造的にインタクトなコラーゲンの分解のための本発明の溶液は少なくとも2種のプロテアーゼを含む。
【0065】
例えば、コラゲナーゼとプロテイナーゼKなどのもう1種のプロテアーゼとの併用は、構造的に生来のコラーゲンの分解に有利な効果を有する。生来のコラーゲンの分解は、酵素コラゲナーゼによって誘導される。このことは、変換の後に二次構造もまた他のプロテアーゼによって攻撃され得るような方法で、コラゲナーゼがコラーゲンの三次構造を変換することを意味する。しかし、コラゲナーゼ単独では、コラーゲンを完全に分解することは不可能である。しかし、プロテイナーゼKまたはプロナーゼなどのプロテアーゼは、インタクトなコラーゲンを構造的に分解することは不可能である。そのようなプロテアーゼは、コラゲナーゼによるコラーゲンの事前の反応後にのみコラーゲンを分解することができる。従って、コラーゲンの効率的な分解のためには、コラゲナーゼと他のプロテイナーゼとの組み合わせが有利である。
【0066】
本発明のもう1種の実施態様に従えば、プロテアーゼおよびグリコシダーゼの選択ならびに濃度は、使用期間中にプロテアーゼがグリコシダーゼをタンパク質分解的に不活化しないような方法で選択される。
【0067】
基質の石灰化が高いほど、本発明の組成物が象牙質−コラーゲンに到達することは困難である。その結果、本発明の組成物は活性であり、歯質が損傷している場所でのみ分解効果を有する。歯の中実な領域は酵素含有組成物による攻撃を受けない。カリエスの治療またはカリエスの治療のための薬学的製剤の調製のための使用のための上記のプロテアーゼおよびグリコシダーゼの組み合わせを含む本発明の組成物の効果は、歯における鉱質な基質の割合によって制御される。本発明のもう1種の実施態様に従えば、例えば、細菌の細胞壁の成分を分解することによって殺菌効果を有するプロテアーゼおよびグリコシダーゼが使用される。
【0068】
さらに、本発明の組成物は、少なくとも1種の緩衝液または緩衝液として作用する第2の化合物と組み合わされる場合には第1の化合物を含むことができる。本発明の組成物に含まれる緩衝液は、本発明の酵素混合物を含む本発明の溶液のpH値を、それぞれ、本発明のそれぞれの実施態様のためおよび規定された期間中でのpH値の変化を防止するためおよびそれぞれの溶液を安定化するために所望される値に調整する役割を果たす。
【0069】
本発明に関して、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシルグリシン緩衝液またはグリシン緩衝液などのすべての従来の緩衝液が適切である。リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸水素ナトリウム緩衝液、リン酸二水素ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、リン酸水素カリウム緩衝液、リン酸二水素カリウム緩衝液またはピロリン酸緩衝液が好適である。炭酸ナトリウム緩衝液、炭酸カリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム緩衝液または炭酸水素カリウム緩衝液もまた適切である。特に好ましくは、本発明の組成物は、それぞれ、リン酸緩衝液およびそれらの成分を含む。特に好適なリン酸緩衝液はリン酸二水素ナトリウム緩衝液である。
【0070】
本発明に従えば、所望のpHで系を安定化するだけはなく、組成物内の第2のタスクを満たす、即ち酵素活性を活性化または不活化する緩衝系を使用することも可能である。したがって、それらの酵素の活性化または不活化特性に関する下記の酸およびまたはそれらの塩もまた、本発明の組成物のpH値を安定化するための緩衝系として使用することができる。これらのうち、ジエチルバルビツール酸、トリシン(Tricine)、グリシン−グリシンおよびリン酸緩衝液が緩衝化合物として好適である。
【0071】
本発明に従う溶液を含有する溶媒の緩衝液濃度は1リットルあたり100molまでの範囲であることができる。1リットルあたりのmol濃度は、溶液における酸性画分に関連する。1リットルあたり約0.001〜約10molの範囲が好適である。本発明のもう1種の実施態様に従えば、酵素含有溶液は、1リットルあたり約0.001mol〜1リットルあたり約5molの範囲の緩衝液を含む。1リットルあたり約0.01〜約3molの範囲が好適である一方、1リットルあたり約0.02〜約2.0molの範囲がより好適である。本発明のもう1種の実施態様に従えば、酵素含有溶液は、1リットルあたり約0.03〜約10molの範囲、より好適には1リットルあたり約0.05〜約5molの範囲、さらにより好適には1リットルあたり約0.08〜2molの範囲で緩衝液を含む。
【0072】
本発明の酵素を含む溶液は、一般に、約1〜約10の範囲のpH値を有することができる。
【0073】
本発明のもう1種の実施態様に従えば、本発明の酵素含有溶液のpH値は、約pH5〜約pH10、特に約pH6〜約pH9、特に約pH7または約pH1〜約pH4の範囲である。
【0074】
上記の値に調整されたプロテアーゼ混合物を使用することは、例えば、カリエス病巣内の脱灰が強度であるために、カリエス病巣のタンパク質へのアクセス可能が容易である場合、有利である。しかし、そのような溶液が鉱質材料と接触する場合、タンパク質分解は生じない。この方法では、基質の利用可能性に限界があるため、効果にも限界がある。本質的に感染した象牙質およびより大きな程度にまで灰化した象牙質のみを除去することが有利である一方、健全な石灰化した象牙質は攻撃を受けていないか、または極僅かにしか攻撃されていない。従って、上記の溶液は、pH約5〜約10で歯の健全な材料に対してほとんど無害である。
【0075】
本発明の組成物は、錯化剤、酵素基質または酵素エフェクターなどのさらなるアジュバントを含むことができる。本発明に従えば、酵素エフェクターは、酵素活性化剤ならびに酵素阻害剤を含む。
【0076】
本発明に関して、錯化剤は、ヒドロキシアパタイトの分解を支持することによって、カリエス病巣へのアクセスを容易にする役割を果たす。
【0077】
本発明の好適な錯化剤は、2価の金属イオンと安定な錯体を形成する錯化剤である。例えば、EDTA(エチレンジアミノテトラ酢酸)、EGTA(エチレングリコールジアミノエチルテトラ酢酸)、クエン酸またはサリチル酸は適切な錯化剤である。EDTA(エチレンジアミノテトラ酢酸)は最も好適な錯化剤である。
【0078】
本発明に関して、酵素が機能する能力を最適化することが可能なさらなる化合物を本発明の組成物に添加することができる。そのような酵素活性化または阻害化合物は、ジエチルバルビツール酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、グリシン、グリシルグリシン、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、N−(2−アセトアミド)−イミノジ酢酸(ADA)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(BICINE)、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)−イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS−TRIS)、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)、2−[4−(2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジン)]エタンスルホン酸(HEPES)、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPES)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−グリシン(TRICINE)、硫酸、スルホン酸、リン酸、塩酸、酢酸、硝酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの塩基、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化鉄(III)、塩化鉄(II)、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、マグネシウム塩、コバルト塩、亜鉛塩などの塩、補酵素、アミノ酸、ベタイン、タウリン、ソルビトール、キシリトール、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、マンニトール、グリセロールおよびビタミンならびに当業者に公知の他の多くの添加物を含む。
【0079】
本発明はまた、本発明に関して記載の酵素含有組成物を製造する方法に関し、ここで、酵素の適切な選択がそれぞれの酵素活性の適切な比と混合される。
【0080】
本発明はさらに、本発明に関して記載の酵素含有組成物を製造する方法に関し、ここで、適切なアジュバントおよび1種もしくはそれ以上の溶媒は必要に応じて酵素の適切な混合物に添加される。
【0081】
本発明のプロセルにおける製造および貯蔵に関して、当業者であれば、酵素を治療する仕方に関するすべての既知の技術を使用することができる。本発明に従う組成物は、例えば、クロマトグラフィー技術、凍結乾燥、噴霧乾燥、顆粒化、遠心分離、沈殿、結晶化または限外濾過もしくはナノ濾過によって治療してもよい。
【0082】
さらに、貯蔵安定性を改善するために、当業者に公知のすべての製品アジュバントを使用することができる。
【0083】
本発明はさらに、カリエスを除去する方法に関し、ここで、本発明に関して記載の酵素含有組成物は、カリエスに冒された歯の領域に適用される。
【0084】
適切な処理溶液を選択する場合、特に、カリエスの治療および除去のための溶液の調製に適切な酵素を選択する場合、例えば、どの型のカリエスが特定の症例に存在するかを考慮しなければならない。
【0085】
一般に、異なる型のカリエス間には差異が認められる。従って、例えば、カリエスは、象牙質へのアクセスが妨害されない崩壊カリエス、カリエスの象牙質がエナメル質でなお被覆されているカリエス病巣、エナメル質カリエス、根面カリエスおよび根管カリエスに分類される。
【0086】
カリエスに冒された箇所がエナメル質の厚い層にまたは古い充填物に包囲されており、従って、処理溶液がアクセスできない場合、高速回転ドリルでエナメル質の被覆または古い充填物を除去してもよい。しかし、例えば、進行性のカリエス疾患によって、エナメル質の被覆に穿孔が認められる場合、歯科用ドリルを使用せずに、機械的支持体と組み合わせて本発明に従う組成物を貫入させてもよい。穿孔があるエナメル質の被覆の貫入を支持するための可能な機械的道具は、プラスチックまたは金属製の小さなブラシを有するマイクロブラシ、金属チップを伴う例、スプーンを伴う例、ボールを伴う例および歯科用途に歯科医師に一般に利用可能な他の道具を含む。これらの道具は、本発明の溶液を治療すべき部位に広げ、前記溶液でカリエス象牙質をこすり、軟化したカリエス象牙質を除去し、接触で象牙質およびエナメル質の硬い表面を触知できるようにする役割を果たす。
【0087】
カリエスに冒された領域へのアクセスが可能である場合、治療は、通常、患者の口腔内の歯のカリエス領域の同定から始める。例えば、視診、プロービング、X線により、また診断用印象材料による歯科医師に公知の方法によって同定を行うことができる。歯の同定されたカリエス感染領域は、必要に応じて、例えば、プローブまたはエキスカベーターにより大まかに浄化し、ここでまた、必要に応じて侵食剤を添加してもよい。続いて、治療すべき歯の領域を濯ぎ、通気する。
【0088】
これらの調製の後、歯の調製された領域に本発明の酵素含有組成物を適用することによって、カリエスを除去する。
【0089】
治療すべき部位ならびに必要に応じて存在する窩洞は、常に、それぞれ本発明の溶液で被覆し、完全に充填するべきである。カリエスに冒された歯の領域の治療のための適切な適用容積は、例えば、約100μlである。しかし、適切な適用容積は、特定の症例、即ち、窩洞のサイズおよびカリエスに冒された歯の領域のサイズに調整するべきである。従って、適切な適用容積は、約0.001〜約0.5mlの範囲、好ましくは、約0.01〜約0.3mlの範囲および好ましくは約0.02〜約0.2mlの範囲である。
【0090】
本発明の酵素含有組成物の好適な暴露時間は、約5秒間〜約5分間の範囲であって、ここで、カリエス病巣のサイズに依存して、暴露時間を減少または増強することができる。暴露時間は、好ましくは約10秒間〜約3分間の範囲、例えば、約15秒間〜2分間の範囲または約20秒間〜1分間の範囲である。
【0091】
暴露時間中、カリエス病巣のカリエスの部分は分解され、より大きな窩洞が発達する。一旦、暴露時間が終了したら、歯の治療された領域を濯ぎ、必要に応じて通気する。
【0092】
以下のスキームに従って、カリエス分解治療工程を行う。適切な適用容積の酵素含有溶液を治療すべき歯の領域に適用し、約5秒間〜約5分間、溶液を暴露し、続いて、歯の領域を、例えば、水で濯ぐ。以後、そのような治療方法をインキュベーション工程と称する。
【0093】
一般に、インキュベーション工程は、カリエスまたは細菌残渣が歯の治療領域に残留しないように、必要であるたびに行われる。インキュベーション工程は、1回あるいは1回より多く、例えば、2もしくは3回またはより多くの回数で行うことができる。しかし、ほとんどの場合、2または3回を超えてインキュベーション工程を繰り返す必要はない。
【0094】
本発明に関して、インキュベーション工程を、連続工程で2回行う場合、特に有利であることが明らかにされている。本発明の酵素溶液のカリエスに冒された歯の領域への暴露の期間は、約10〜約30秒間、例えば、約20秒間であるべきである。
【0095】
従って、本発明はまた、カリエスを除去する方法に関し、ここで、本発明の組成物、特に、本発明の少なくとも1種の溶媒を含む組成物が歯のカリエス領域に適用される。
【0096】
さらに、本発明は、カリエスを除去する方法に関し、ここで、前記方法は2回もしくはそれ以上のインキュベーション工程で行われる。
【0097】
さらに、本発明は、カリエスを除去する方法に関し、ここで、初回1および1回以降または数回以降の工程において、本発明の組成物が歯のカリエス領域に適用される。
【0098】
本発明のいくつかの好適な実施態様を以下に示す。
【0099】
本発明の1つの好適な実施態様は、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼと、少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼと、を含む組成物であって、プロテアーゼとグリコシダーゼの活性比は、1,000,000:1〜1:1,000,000であり、総酵素活性は少なくとも2U/mlである、組成物に関する。
【0100】
本発明のさらに好適な実施態様では、上述した組成物は、プロテアーゼとして、プロテイナーゼK、コラゲナーゼもしくはプロナーゼのうち少なくとも1種、または2種あるいは3種の混合物を含む。
【0101】
さらに、前出の2つの実施態様のうちの1つに従う組成物は、グリコシダーゼとして、リゾチーム型、α−アミラーゼ型もしくはデキストラナーゼ型のグリコシダーゼのうち少なくとも1種、または2種あるいは3種の混合物を含んでもよい。
【0102】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の実施態様のいずれか1つに従う組成物は、少なくとも2種のプロテアーゼと、少なくとも1種のグリコシダーゼとを含む。
【0103】
また、本発明のさらに好適な実施態様では、上述した組成物は、プロテイナーゼK、コラゲナーゼ、リゾチーム、およびデキストラナーゼを含む。
【0104】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の好適な実施態様のいずれかに従う組成物は、少なくとも1種の溶媒を含み、当該溶媒は1種の極性溶媒とすることができる。
【0105】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の好適な実施態様のいずれかに従う組成物は、少なくとも1種の緩衝液を含み、当該緩衝液はリン酸緩衝液とすることができる。
【0106】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の好適な実施態様のいずれかに従う組成物は、以下の群のアジュバント:
i. 錯化剤
ii. 酵素基質
iii. 酵素エフェクター
iv. 増粘剤
v. 保存剤
vi. 安定化剤
の1種もしくはそれ以上から選択されるアジュバントを少なくとも1種含む。
【0107】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の好適な実施態様のいずれかに従う組成物において、前記少なくとも1種の酵素は、pH1〜10の範囲またはpH5〜8の範囲で酵素活性を有する。
【0108】
本発明のさらに好適な実施態様は、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼと、少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼを、プロテアーゼとグリコシダーゼの活性比が1,000,000:1〜1:1,000,000であり、総酵素活性が少なくとも2U/mlであるように含む組成物、または、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼと、少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼを、プロテアーゼとグリコシダーゼの活性比が1,000,000:1〜1:1,000,000であり、総酵素活性が少なくとも2U/mlであるように混合する上述した好適な組成物実施態様に従う組成物、を製造する方法に関する。
【0109】
本発明に関して、所定の状況において、エナメル質および象牙質が攻撃され、損傷したpH値に調整された酵素含有処理溶液を使用することが有利であることが明らかにされている。これは、例えば、カリエス病巣が、穿孔が認められるが完全には崩壊してないエナメル質被覆下に位置する場合の症例であり得る。そのような場合、酸性に調整された酵素含有処理溶液によって、ドリルを伴うことなくエナメル質を除去することが可能であり、ここで、そのような溶液に含まれる酵素は、エナメル質被覆下に位置するカリエス領域の分解を誘導するかまたは実行する。
【0110】
さらに、それは、5もしくはそれ以上のpH値の酵素含有組成物ですでに治療されているカリエス病巣が、中間の工程においてまたは最終的に、エナメル質もしくは象牙質が攻撃され、損傷したpH値に調整された酵素含有処理溶液で治療される場合、有利であり得る。象牙質およびエナメル質に対するそのような酸性溶液の分解効果のため、以後の充填療法を調製および容易にすることによって、窩洞の内部が粗にされる。
【0111】
適切な処理溶液は、約4未満、特に約3未満のpH値を有する。適切なpH値は、例えば、約1〜約4の範囲、特に、約1.2〜約3または約1.5〜約2.5、例えば、約2である。
【0112】
適切な処理溶液は、上記の範囲内のpH値で活性を示す少なくとも1種の酵素を含む。このことに関して、酵素ペプシンは特に適切である。
【0113】
本発明に従い、歯科医師がカリエスの完全な除去のために窩洞壁の表面を評価するための歯科用プローブを使用することができるような方法で、窩洞を調製する利点を付与するペプシン溶液について説明する。本発明に従うペプシン溶液による治療は、石灰化した窩洞壁を有する窩洞を生じ、従って、歯科医師に慣れているプロービング音を発生することが可能である。本発明に従う溶液の酸性環境と組み合わせたペプシンのタンパク質分解作用は、窩洞におけるコラゲノイド残渣の除去を改善する。ペプシンおよび本発明に従う組成物の酸性鉱物溶解環境のタンパク質分解特性の相互作用は、この目的のために調整される。象牙質の鉱質構造への攻撃中、本発明に従う組成物の酸性部分はまた、コラゲノイド構造を変性し、ペプシンの攻撃のために該構造を調製する。窩洞における組成物のpH値は、pH値が高くて鉱質成分をそれ以上損傷しなくなるまで、象牙質における鉱質成分の溶解による治療中に増加する。しかし、酵素はなお活性であり、窩洞において残留する変性タンパク質を消化する。従って、健全な象牙質に類似する組成物を有する窩洞壁はが得られる。しかし、そのような窩洞壁は、カリエス実体の完全な除去を決定するために、歯科用プローブで窩洞をプロービングする場合、歯科医師に慣れた音を発する。
【0114】
従って、本発明はまた、水、酸、ペプシンおよび流動性添加物を含む約2もしくはそれ以下のpH値を有する組成物に関し、ここで、ペプシンは、1〜45,000U/mlの濃度で存在し、組成物は約1〜約1000mPasの粘度を有する。
【0115】
一般に、上記の組成物は、所望のpH値を提供するために、任意の型の酸、有機もしくは無機、または両方の型の酸の混合物を含むことができる。ジエチルバルビツール酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、グリシン、グリシルグリシン、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、N−(2−アセトアミド)−イミノジ酢酸(ADA)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(BICINE)、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)−イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS−TRIS)、2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)、2−[4−(2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジン)]エタンスルホン酸(HEPES)、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPES)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)−メチル]−グリシン(TRICINE)のような有機酸を使用して、本発明に従う組成物のpH値を所望のpH範囲に移行させることが可能であることが見出されている。しかし、いくつかまたはすべての上記の酸は、pH値を低下させることを除いて、組成物に対して他の効果、特に加速または阻害効果を有することができることに留意すべきである。上記の酸の組み合わせを使用することも本発明内にあり、ここで、所望のpH値に到達するかまたは調整する目的のために1種もしくはそれ以上の酸が添加され、pH値に対する影響にかかわらず、他の目的のために1種もしくはそれ以上の酸が添加される。
【0116】
しかし、硫酸、スルホン酸、リン酸、塩酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸または硝酸などの無機酸は、所望のpH値を提供するのに有利であり、本発明に従う組成物の変性および鉱物溶解特性を改善するのに有利であることを発見した。本発明に関して、ギ酸および酢酸などの酸は、無機酸のグループの部分であるとして治療されることに留意すべきである。
【0117】
pH値を低下する目的のための上記の有機酸と無機酸との組み合わせを使用することも可能である。しかし、無機酸を使用することによって、所望のpH値を調整する場合、十分または有利でさえあることが見出されている。
【0118】
本発明の最も好適な実施態様では、所望のpH範囲を達成するために無機酸、特にリン酸が使用される。
【0119】
本発明に従うペプシン含有組成物のpH値を安定化するために、そのような組成物は緩衝系を含むことができる。一般に、緩衝系は、当業者に公知であり、pH値を低下させるために使用される酸に関連して選択するべきである。適切な緩衝系は、例えば、HPO/HPO、ギ酸/ギ酸塩、酢酸/酢酸塩、クエン酸/Na−クエン酸、グリシン/HClである。
【0120】
緩衝液の濃度は、約0.01〜約2.0Mの範囲内にある。
【0121】
本発明に従うペプシン含有組成物は少なくとも1種の流動性添加物を含有する。
【0122】
溶解したペプシンは、等電点付近の配置および相互作用効果のため、約3.5のpH値を通過するときに構造変化を経験することが見出されている。
【0123】
それらの構造および相互作用変化のため、ペプシンは、等電点に接近するときに溶液から沈殿する傾向がある。しかし、このことは、pH値を増加させるときにペプシンの活性の緩徐な減少を生じる。次いで、この挙動は、本発明の目的の1種、即ち、基本的に接触することなく窩洞壁の鉱質成分を残したまま、窩洞におけるコラーゲン残渣を除去することに逆効果であり得る。従って、できるだけペプシンの活性を保持し、等電点接近時にペプシン分子の沈殿を回避することが所望される。
【0124】
驚くべきことに、流動性添加物の添加は、より高いpH値でもペプシンの早期の沈殿を阻害し、作用の延長を容易にし得ることを見出した。
【0125】
流動性添加物、有機増粘剤は首尾よく使用される。適切な流動性添加物は多糖である。従って、本発明に従うペプシン含有組成物が流動性添加物として多糖を含有する場合、好適である。適切な多糖には、例えば、デンプン、マンナン、キサントン、アルギン酸、カラゲン(carragen)、ペクチン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルポリセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムおよびその2種もしくはそれ以上の混合物がある。用語「流動性添加物」および用語「増粘剤」は、他に明示しない限り、本発明に関して交換可能に使用することができることを留意すべきである。
【0126】
上記の絶対的な成分、水、酸、ペプシンおよび流動性添加物に加えて、ポリエステルもしくは両性イオン界面活性剤、または2種もしくはそれ以上のポリエステルおよび両性イオン界面活性剤の混合物が、本発明に従うペプシン含有組成物に存在することができる。
【0127】
両型の成分の添加は以後の沈殿の阻害を改善することが明らかにされている。一般に、すべての型のポリエーテルは、ペプシンの沈殿を阻害する目的に適切である。しかし、本発明に従って使用されるポリエーテルは、少なくとも所定の程度まで水溶性であることが不可欠である。
【0128】
一般に、適切なポリエーテルは、20℃の温度で、水に対して少なくとも約1g/ml、好ましくは、例えば、少なくとも約5または少なくとも約200g/mlの溶解度を有する。本発明に従う組成物の構成成分として使用されるポリエーテルは、20℃の温度で水に対して少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも約1重量%または少なくとも約2重量%の溶解度を示す。
【0129】
適切なポリエーテルは、一般的に、出発材料、通常、水、アルコールまたはアミンと1種もしくはそれ以上のエポキシドとを塩基触媒開環反応において反応させることによって作製される。テトラヒドロフラン(THF)のような環式エーテルの開環高分子化によって適切なポリエーテルを得ることも可能である。好適な出発物質は、水または単−もしくは多官能アルコールである。適切な単官能アルコールは、1〜約22個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐、飽和または不飽和脂肪族、脂環式もしくは芳香族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、異性体ペンタノール、異性体ヘキサノール、異性体ヘプタノールおよびそれらのより高級な相同物、シクロヘキサノール、フェノール、ナフトールなどである。中でも好適な多官能アルコールは、2、3または4個の水酸基を有するアルコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビトールなどである。
【0130】
適切なエポキシドまたは環式エーテルは、一般に、オキシラン(エチレンオキシド)、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドまたはTHFである。
【0131】
本発明に従うペプシンの沈殿に対して阻害効果を示すポリエーテルは、ただ1種の型のモノマーを含むことができる。しかし、1種を超える型のモノマーよりなるポリエーテルを用いることもまた、本発明の範囲内にある。そのようなコポリマーは、無作為またはブロックで組織化することができる。
【0132】
主にまたは完全に、エチレンオキシド反復単位(−CH−CH−O)よりなり、2または3個の水酸基を有するポリエーテルを用いることは、本発明内において好適である。
【0133】
GPCのような従来の方法によって測定される上記ポリエーテルの平均分子量(Mw)は、約10,000原子単位を超えるべきではなく、好ましくは、約1,000原子単位未満であるべきである。上記ポリエーテルの最小平均分子量(Mw)は、約100原子単位、好ましくは、150原子単位もしくはそれ以上、例えば、約200原子単位であるべきである。
【0134】
本発明の好適な実施態様に従えば、ペプシン含有組成物は、約100〜約500原子単位、好ましくは200原子単位の分子量を有するポリエチレングリコールを含有する。
【0135】
1種もしくはそれ以上の上記のポリエーテルの代わりに、またはそれに加えて、本発明に従うペプシン含有組成物は、1個もしくはそれ以上の両性イオン化合物を含有することができる。一般に、少なくとも1個の正に荷電したイオンおよび1個の負に荷電したイオンを有するすべての型の低分子化合物が本発明に関して適切である。用語「低分子」は、約1000未満、好ましくは約500未満の分子量を有する両性イオン成分に関する。本発明の好適な実施態様では、本発明に従うペプシン含有組成物は、両性イオン化合物として、1種もしくはそれ以上の次の成分、グリシンベタイン、ベタイン、タウリン、エクトインまたはプロピオン酸ジメチルスルホニウムを含有する。
【0136】
さらに、本発明に従うペプシン含有組成物は、ポリエーテルではない4個もしくはそれ以上の水酸基を有する1種もしくはそれ以上の多価アルコールを含有することができる。適切な多価アルコールまたは糖アルコールは、ペンタエリトリトール、キシリット、ソルビトール、グルコース、スクロース、フルクトース、マンニトールまたはグリセロールである。
【0137】
プロテアーゼ自体はタンパク質であるため、プロテアーゼ含有溶液は常に、溶液中の酵素の自己消化のために反応性を失う危険性にある。特に、4未満のpH値で貯蔵したペプシン含有溶液は、活性の迅速な減少を経験し得る。このような活性の減少を遅らせるために、そのような溶液に阻害剤を添加することができる。この阻害剤が溶液中のペプシンの自己消化を遅らせる場合、窩洞におけるタンパク質に対する活性も遅延する。しかし、カリエスに対する反応性を犠牲にしても貯蔵安定性が増加した溶液を有することが所望され得る。従ってさらに、本発明に従うペプシン含有組成物は阻害剤を含有することができる。
【0138】
適切な阻害剤は、すでに記載の阻害剤であり得る。好適な阻害剤は、ポリリジン、ペプスタチンAまたは置換されたピペリジンである。
【0139】
本発明に従うペプシン含有組成物は、一般に、約1〜約100,000U/mlの組成物の量でペプシンを含有する。しかし、ペプシンの活性が約500〜約50,000U/mlの組成物または約1000〜約8000U/mlの組成物である場合、好適である。例えば、1mlの組成物あたり約0.5〜約15mgの量の通常市販されている品質のペプシンを添加することによって、所望の活性を得ることができる。
【0140】
流動性添加物は、約1〜約1000mPasの粘度を提供するのに十分な量で、添加される。本発明に従う組成物が約5〜約500mPasまたは約10〜約mPasを有する場合、好適である。
【0141】
粘度は、25℃でのハーク(Haake)レオメーター(ローター−ビスコ(Rotor−Visco)(RV1));センサー(60/1°Ti)による標準手順に従って測定する。
【0142】
本発明に従うペプシン含有組成物は、組成物の重量に基づき約0.1〜約2重量%の量で、流動性添加物を含有する。流動性添加物の量が約0.2〜約1重量%の範囲であるが、但し、組成物の粘度が上記の範囲内にある場合、好適である。
【0143】
本発明に従うペプシン含有組成物は、組成物の重量に基づき、約0.1〜約20重量%の量でポリエーテルまたは2種もしくはそれ以上のポリエーテルの混合物を含有することができる。しかし、ポリエーテルが約0.5〜約8重量%の量、特に約0.8〜約5重量%の量で存在する場合、有利であることを見出した。
【0144】
本発明に従うペプシン含有組成物は、両性イオン化合物または2種もしくはそれ以上の両性イオン化合物の混合物を含有する場合、そのような成分は、組成物の重量に基づいて、約0.1〜約20重量%の量で存在する。
【0145】
一般的に、両性イオン成分は、約1〜約15重量%または約7〜約12重量%の量で存在する場合、有利であることが見出されている。
【0146】
本発明に従うペプシン含有組成物は、さらに保存剤を含有することができる。一般に、すべての型の保存剤を、本発明に従う溶液における微生物の増殖を阻害し、かつ人体には寛容である本発明に従う組成物の部分として使用することができる。しかし、パラヒドロキシ安息香酸エステル型の従来の保存剤が最も好適であることを見出した。メチルパラヒドロキシ安息香酸エステル(メチルパラベン)およびプロピルパラヒドロキシ安息香酸エステル(プロピルパラベン)の名称で既知である保存剤が特に公知である。上記の保存剤のそれぞれは、本発明に従う組成物における単独の保存剤として使用することができる。しかし、上記保存剤の組み合わせを使用することも可能である。保存剤は、一般に、組成物の重量に基づき、約0.001〜約1重量%の量で使用される。本発明の好適な実施態様では、組成物の重量に基づき、約0.01〜0.25重量%の量で保存剤が使用される。
【0147】
さらに、本明細書において上記のように、本発明に従うペプシン含有組成物は、錯化剤、酵素基質または酵素エフェクターなどの他の添加物を含有することができる。
【0148】
本発明のいくつかの好適な実施態様を以下に示す。
【0149】
本発明の1つの好適な実施態様は、水、酸、ペプシンおよび流動性添加物を含む4.0もしくはそれ以下のpH値を有する組成物であって、前記ペプシンの濃度は1〜50,000U/mgであり、前記組成物の粘度は10〜1000mPasである、組成物に関する。
【0150】
本発明のさらに好適な実施態様では、4.0もしくはそれ以下のpH値を有する前記組成物に従う組成物において、ポリエーテルグリコール、もしくは両性イオン界面活性剤、またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物がさらに含まれる。
【0151】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の2つの実施態様に従う4.0もしくはそれ以下のpH値を有する組成物は、阻害剤を含有する。
【0152】
本発明に従うペプシン含有溶液の貯蔵安定性および活性の消失に関する問題を克服するために、上記ペプシン含有溶液は2種の成分系の形態で有利に提供され得ることが見出されている。
【0153】
従って、本発明はまた、2種の成分AおよびBを含む組成物に関し、ここで、成分Aは、水、ペプシンが最も活性であるpH値よりも大きなpH値を提供する緩衝系および流動性添加物を含み、成分Bは、水、ペプシンが最も活性であるpH値未満またはそれに等しいpH値を提供する酸、増粘剤およびポリエーテルもしくは両性イオン界面活性剤またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物を含む。
【0154】
従って、本発明に従うペプシン含有組成物はまた、2種の成分AおよびBよりなり得る。組成物Aは、水およびペプシンが最も活性であるpH値よりも大きなpH値を提供する緩衝系を含む。一般に、適切な緩衝系は、約3.5もしくはそれ以上、特に約4もしくはそれ以上または約4.5または5もしくはそれ以上のpH値を提供する。成分Aは約5.2を超える、特に、約5.3を超える、または約5.4を超えるpH値を有する場合、特に有用であることを見出した。約5.5のpH値は極めて良好な結果を生じることを見出した。
【0155】
本明細書で使用する用語「緩衝系」は、成分Aならびに成分AおよびBの混合物に関して緩衝効果を提供することが可能である系に関する。従って、成分Aが完全な緩衝系を含有することは、一般に必ずしも必要ではない。成分AおよびBが上記の緩衝系を生じる場合、十分である。
【0156】
一般に、本明細書において上記で述べたすべての型の緩衝系を使用することができる。本発明の好適な実施態様では、リン酸緩衝液が使用される。成分Aは、好ましくは、約4.5〜約6のpH値でリン酸緩衝液を含有する。成分Aが約10〜約500mmol/l、特に、約50〜約150mmol/lの濃度でリン酸緩衝液を含有する場合、良好な結果を生じることを見出した。
【0157】
本発明に従う組成物では、成分Aは、好ましくは、約60,000U/ml未満のペプシン活性、特に、約500〜約50,000または約5,000〜約45,000U/ml組成物のペプシン活性を含有する。一般に、上記のペプシン濃度および活性に関する所見もまた、本明細書に記載の組成物に有効である。
【0158】
成分Aは、一般に、約20mg未満のペプシン/mlの成分A、好ましくは、15未満または、10mg未満のペプシン/mlの成分Aを含有する。
【0159】
成分Aはさらに、流動性添加物を含有する。例えば、すでに記載の流動性添加物が適切である。本発明の好適な実施態様では、成分Aは、流動性添加物として多糖、例えば、ヒドロキシエチルセルロースを含有する。流動性添加物は、約0.05〜約1.5重量%の量、好ましくは、約0.1〜約1重量%または約0.3〜約0.7重量%の量で成分A中に存在する。
【0160】
本発明に従う好適な実施態様では、成分Aは、以下の量で以下の構成成分を含有することができる:
ペプシン:約0.1〜約1.0重量%
リン酸二水素ナトリウム:約0.6〜約2.4重量%
水酸化ナトリウム:約0.001〜約0.5重量%
ヒドロキシエチルセルロース:約0.2〜約1.0重量%
メチルパラベン:約0.005〜約0.05重量%
プロピルパラベン:約0.005〜約1.0重量%
水:添加して100重量%とする。
【0161】
本発明に従う成分Bは、水、4.0未満のpH値を提供する酸、増粘剤およびポリエーテルもしくは両性イオン界面活性剤またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物を含む。
【0162】
一般に、成分Bは、所望のpH値に達するために上記のすべての型の酸を含むことができる。成分AおよびBは混合後に緩衝系を形成することができるため、成分B中の少なくとも1種の酸は、成分Aに含有される塩に一致する場合、有利であり得る。本発明の好適な実施態様では、成分Bはリン酸を含有する。成分Bが、1〜約2.8、特に約1.5〜約2.5のpH値に達するような量で酸を含有する場合、有利であることをさらに見出した。
【0163】
成分Bはさらに、ポリエチレングリコールまたは両性イオン化合物またはその両方を含む。ポリエチレングリコールとして、上記のポリエチレングリコールは適切である。上記の範囲の分子量にあったポリエチレングリコールを使用することは好適である。成分Bがポリエチレングリコールを含有する場合、量は、成分Bの重量に基づき、約0.1〜約10.0重量%、好ましくは、約0.5〜約5.0重量%の範囲内にある。
【0164】
成分Bが両性イオン化合物を含有する場合、上記の両性イオン成分は好適である。成分B中の両性イオン化合物の量は、約0.1〜約20重量%、特に、約1〜約15または約7〜約12重量%の範囲である。
【0165】
本発明に従う好適な実施態様では、成分Bは、以下の量で以下の構成成分を含有することができる:
リン酸二水素ナトリウム:約10〜約20重量%
リン酸:約5〜約10重量%
ポリエチレングリコール:約2〜約5重量%
ヒドロキシエチルセルロース:約0.2〜約1.0重量%
水:添加して100重量%とする。
【0166】
成分Aおよび成分Bは1種もしくはそれ以上の上記の添加物を含有することができる。好ましくは、成分AまたはBの1種は、成分間を識別し、適用前に成分が徹底的に混合されたかどうかを決定することが可能であるために、少なくとも1種の着色料を含有する。
【0167】
成分AおよびBが混合される比率は、混合物の所望される特性に大きく依存する。一般に、成分は、混合物のpH値が成分AのpH値未満であるような方法で混合すべきである。好ましくは、比率は、混合物の特性がペプシン含有組成物についての上記の特性に対応するように選択される。従って、約4未満、好ましくは、約3.8未満または約3.5未満、特に好適には約3.3未満または約3.2未満のpH値を有する混合物をもたらす比率で、成分AおよびBが混合される場合、好適である。
【0168】
成分AおよびBが以下の特性を有する場合、さらに好適である:
pH値:約1.5〜約3.5
粘度:約10〜約50mPas
ペプシン活性:約1,000〜約10,000
緩衝能:約0.5〜約2.0。
【0169】
成分AおよびBは、上記の特性を有する適用のための混合物に達するために、成分AおよびBの比率が、約5:1〜約1:5、特に、約2:1〜約1:4または約1:1〜約1:3.5、好ましくは、約1:2〜約1:3であるように、有利に調製される。
【0170】
本発明のいくつかの好適な実施態様を以下に示す。
【0171】
本発明の1つの好適な実施態様は、2種の成分AおよびBを含む組成物であって、成分Aは、水と、ペプシンの活性が最も高いpH値より大きなpH値を提供する緩衝系と、流動性添加物とを含み、成分Bは、水と、ペプシンの活性が最も高いpH値より小さなpH値を提供する酸と、増粘剤と、ポリエーテル、もしくは両性イオン界面活性剤、またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物と、を含む組成物に関する。
【0172】
本発明のさらに好適な実施態様では、上述した2種成分組成物において、前記成分Aは50,000U/ml未満のペプソン活性を有する。
【0173】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の2つの実施態様のうちの1つに従う2種成分組成物において、前記成分Aは20mg/ml未満のペプシンを含有する。
【0174】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の3つの実施態様のうちの1つに従う2種成分組成物において、前記成分AはpH5〜6のリン酸緩衝液を含有する。
【0175】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の4つの実施態様のうちの1つに従う2種成分組成物において、前記成分BはpH1.5〜4.0のリン酸を含有する。
【0176】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の5つの実施態様のうちの1つに従う2種成分組成物において、前記成分Aは増粘剤として多糖を含有する。
【0177】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の6つの実施態様のうちの1つに従う2種成分組成物において、前記成分Bはポリエチレングリコールもしくはベタインまたはその両方を含有する。
【0178】
本発明のさらに好適な実施態様では、前出の7つの実施態様のうちの1つに従う2種成分組成物において、前記成分Bは流動性添加物を含有する。
【0179】
本発明はまた、カリエスを除去する方法に関し、ここで、約5もしくはそれ以下または約4もしくはそれ以下のpH値でタンパク質分解触媒作用至適値を有する少なくとも1種のプロテアーゼを含む処理溶液が使用される。
【0180】
さらに、本発明は、カリエスを除去する方法に関し、ここで、カリエス病巣は、本発明に従う少なくとも1種の組成物および7未満の酸性pH範囲においてタンパク質分解触媒作用至適値を有するプロテアーゼを含む少なくとも1種の処理溶液と接触される。
【0181】
本発明のもう1種の実施態様に従えば、上記の処理溶液は、例えば、アスパラギン酸プロテアーゼ、好ましくはペプシンを含む。本方法において使用される処理溶液の出発pH値は、好ましくは約1.0〜約2.5である。本発明に関して使用される上記の溶液は、好ましくは、緩衝液を含む。
【0182】
本発明のさらなる実施態様は、カリエスの治療のための方法に関し、ここで、上記の2種の成分AおよびBは混合され、カリエス病巣は本発明に従う混合物に接触される。
【0183】
本発明のさらなる実施態様は、成分AおよびBを含む混合物の使用に関し、ここで、成分Aは、水、ペプシンが最も活性であるpH値よりも大きなpH値を提供する緩衝系および流動性添加物を含み、成分Bは、カリエスの治療のために水、ペプシンが最も活性であるpH値よりも小さなpH値を提供する酸、増粘剤およびポリエーテルもしくは両性イオン界面活性剤またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物を含む。
【0184】
本発明のさらなる実施態様は、成分AおよびBを含む組成物の使用に関し、ここで、成分Aは、水、ペプシンが最も活性であるpH値よりも大きなpH値を提供する緩衝系および流動性添加物を含み、成分Bは、カリエスの治療に有用である薬学的製品の調製のための水、ペプシンが最も活性であるpH値よりも小さなpH値を提供する酸、増粘剤およびポリエーテルもしくは両性イオン界面活性剤またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物を含む。
【0185】
好ましくはペプシンを含む上記処理溶液によるカリエス治療方法は、本質的に、本発明に従う組成物が使用される既に記載の方法に従って行われる。
【0186】
それぞれの酸性処理溶液は、既存の多孔性エナメル質被覆を介してカリエスにおける鉱物被覆タンパク質部分へのアクセスを提供し得る。同時に、酸は、カリエス病巣のタンパク質を変性させる。この方法で、タンパク質分解は支持される。生来および構造的にインタクトなコラーゲンはペプシンによって緩徐にしか攻撃されないため、このことは高いコラーゲンの割合に対して有利である。酸およびペプシンは、この場合相乗効果を有する。
【0187】
本明細書に記載の組成物が歯に過度に深く貫入し、これにより、また、健全な歯材料に損傷を与えることを防止し、ヒドロキシアパタイトのアルカリ特性を利用する。ヒドロキシアパタイトが溶解するほど、溶液のpH値は、酸性ペプシン溶液のヒドロキシアパタイト溶解能を制限する5.5にさらに移行する。従って、酸性ペプシン含有溶液は、歯の健全な領域に対し危険性はない。さらに、酸性ペプシン溶液は、殺菌効果を有することが有利である。
【0188】
本発明に関して、上記の処理溶液は、カリエス病巣を治療するために、1種もしくはそれ以上の以後の工程にいて単独で使用することができる。しかし、本発明に従えば、本発明に従う組成物と組み合わせて、特に、本発明に従う組成物を含む溶媒と組み合わせて、処理溶液を使用することも可能である。
【0189】
一般に、本発明に従う組成物および酸性処理溶液による連続の治療工程は本質的に任意である。従って、本発明に従う組成物および酸性処理溶液は、例えば、各場合において、2もしくはそれ以上の工程においてまたは数回、連続的に順に使用することができる。これにより、第1の治療工程は、本発明に従う組成物または酸性処理溶液によって行うことができる。
【0190】
好ましくは、個別の治療工程の間に濯ぎ肯定が行われ、ここで、カリエス病巣の溶解した部分の残渣が、治療のために使用される組成物または処理溶液と共に除去される。
【0191】
本発明はまた、カリエスを除去するための方法に関し、ここで、カリエス病巣は、本発明に従う少なくとも1種の組成物および7未満の酸性pH範囲においてタンパク質分解触媒作用至適値を有する少なくとも1種のプロテアーゼを含む少なくとも1種の処理溶液と接触される。好ましくは、治療は、2種もしくはそれ以上の以後の工程において行われる。
【0192】
本発明の実施態様に従えば、例えば、最初の2種のインキュベーション工程が本発明に従う溶液で行われ、最終的なインキュベーション工程が酸性処理溶液で行われる場合、有利であることが明らかにされている。酸性処理溶液は歯の表面を僅かに腐食し、従って、結果的に、カリエス除去後の充填療法の調製に極めて適切である。酸性処理溶液の腐食効果から生じる硬くかつ若干粗い表面のため、充填材料は極めて良好に歯に接着する。
【0193】
本発明のさらなる実施態様に従えば、最初のインキュベーション工程が酸性ペプシン含有溶液で行われる場合、有利であることが明らかにされている。このアプローチは、エナメル層が感染した象牙質を被覆する場所であるが、前記エナメル層が、カリエスのため、酸が多孔性エナメル質を介する象牙質へのアクセスを提供し、コラーゲンを変性し、変性したコラーゲンを分解するのに十分である程度にまで多孔性および軟質である場所の歯の損傷の場合に、最適である。
【0194】
以後、例えば、変性したコラーゲンを分解するために、本発明に従う溶液によるインキュベーション工程を行うことができる。
【0195】
カリエスに以前冒されていた歯の領域にカリエス活性細菌が本質的に検出されないことこそが、まさに、本発明に従うカリエスを治療する方法の効果である。このことは、例えば、顕微鏡分析によって証明される。
【0196】
本発明に従って提唱されるカリエスの治療のための溶液は、一般的に任意の許容的な形態で末端ユーザに提供することができる。基本的形態では、2種もしくはそれ以上の上記の酵素であって、必要量をユーザ自身が混合する上記酵素を含むキットを、ユーザに提供することができる。
【0197】
従って、本発明はまた、本発明に従う組成物を得るために混合することが可能である少なくとも2種の酵素を含むキットに関する。
【0198】
本発明のさらに好適な実施態様は、少なくとも2種の酵素を含むキットであって、前記酵素は、少なくとも1種の生物学的に活性なプロテアーゼと、少なくとも1種の生物学的に活性なグリコシダーゼと、を含む上述した実施態様に従う組成物を得るために混和可能である、キットに関する。このようなキットは、分離された溶媒を含んでもよい。
【0199】
本発明のさらに好適な実施態様は、上述した組成物実施態様のいずれかに従う少なくとも1種の組成物と、少なくとも1種の処理溶液とを含むキットであって、前記処理溶液は、pH4未満の酸性範囲にタンパク質分解触媒作用の至適値を有する少なくとも1種のプロテアーゼを含む、キットに関する。
【0200】
ユーザの混合方法を容易にするために、適切な溶媒をキットに添加することが有利であり得る。さらに、キットに含まれる酵素が、上記の限界内の活性に関して適切な混合比で既に混合されている場合、該キットは絶対的に可能かつ簡易な適用である。
【0201】
しばしば、本発明に従う組成物および酸性処理溶液による治療を組み合わせることには意味がある。この場合においても、ユーザに対し適用を容易にするために、本発明に従う組成物および酸性処理溶液もキットとして提供される場合、有利であることが明らかにされた。
【0202】
従って、本発明はまた、本発明に従う少なくとも1種の組成物もしくは7未満の酸性pH範囲においてタンパク質分解触媒活性至適値を有する少なくとも1種のプロテアーゼを含む少なくとも1種の酸性処理溶液を含むか、または本発明に従う少なくとも1種の組成物および最大でも約4のpH値でタンパク質分解触媒活性至適値を有する少なくとも1種のプロテアーゼを含む少なくとも1種の酸性処理溶液を含むキットに関する。
【0203】
本発明に従う組成物が2種の成分で提供される場合、成分は、一般に、任意の型のパッケージ、例えば、チューブ、フラスコなどで提供することができる。しかし、少量の液体の適用のために、先行技術は、特に歯科適用におけるそのような少量の液体の適用を容易にする多くの代替物を開示し、ここで、制限された開放空間はしばしば、簡単なアプリケータの取り扱いを困難にする。
【0204】
従って、本発明に従えば、2種の成分の混合および適用を容易にする技術的により進歩したパッケージ内の2種の成分AおよびBを有する上記の組成物を供給することは好適である。本発明の他の好適な実施態様に従えば、2種の成分AおよびBは、それぞれ、国際公開WO02/06820の3〜4頁および13〜17頁および図1〜4、独国特許出願公開第100 56 212A1号明細書、段落番号2〜10および図1〜5ならびに米国特許第6,105,761号、段落番号2〜5および図1〜6に記載のマルチチャンバアプリケータに供給される。上記の文献は、明確に言及しており、それらの開示物、特に、上記の位置において開示された多成分組成物の分配デバイスに関する開示物は、本発明の開示内容の部分であるとみなされる。
【0205】
従って、本発明は、少なくとも1種のチャンバは成分Aを含有し、少なくとも1種のチャンバは成分Bを含有し、ここで、成分Aは水、ペプシンが最も活性であるpH値より大きなpHを提供する緩衝系および流動性添加物を含み、成分Bは、水、ペプシンが最も活性であるpH値よりも小さなpHを提供する酸、および流動性添加物ならびにポリエーテルもしくは両性イオン界面活性剤またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物を含むことを特徴とする、液体を貯蔵および分配するためのマルチチャンバデバイスに関する。
【0206】
本発明はさらに、カリエスを除去するための治療剤を製造するための7未満の酸性pH範囲、特に、最大でも4のpH値でタンパク質分解触媒活性至適値を有する少なくとも1種のプロテアーゼの使用に関する。本発明のさらに好適な実施態様は、カリエスを除去するための治療剤を製造するための上述した組成物のうちの1つの使用に関する。
【0207】
本発明のさらに好適な実施態様を以下に示す。
【0208】
本発明のさらに好適な実施態様は、カリエスを除去するための治療剤を製造するための上述した組成物のうちの1つの使用に関する。
【0209】
本発明のさらに好適な実施態様は、カリエスを除去するための治療剤を製造するためのグリコシダーゼの使用に関する。
【0210】
本発明の1つの好適な実施態様は、カリエスを除去するための治療剤を製造するための、pH7未満の範囲でタンパク質分解活性を有する酵素の使用に関する。
【0211】
本発明のさらに好適な実施態様は、上述した酵素の使用であって、前記酵素は、最大でもpH4までの範囲に触媒作用の至適値を有する。
【0212】
本発明のさらに好適な実施態様は、カリエスを除去するための治療剤を製造するためのペプシンの使用である。
【0213】
本発明のさらに好適な実施態様は、液体を貯蔵および分配するためのマルチチャンバデバイスであって、少なくとも1種のチャンバは成分Aを含有し、少なくとも1種のチャンバは成分Bを含有し、ここで、前記成分Aは水と、ペプシンの活性が最も高いpH値より大きなpH値を提供する緩衝系と、流動性添加物とを含み、前記成分Bは、水と、ペプシンの活性が最も高いpH値よりも小さなpH値を提供する酸と、流動性添加物と、ポリエーテル、もしくは両性イオン界面活性剤、またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤と、の混合物を含むことを特徴とする、マルチチャンバデバイスに関する。
【0214】
以下の実施例で本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0215】
使用した酵素:
酵素ペプシン、コラゲナーゼ、リゾチーム、プロナーゼ、デキストラナーゼ、およびα−アミラーゼは、SIGMA社から購入した。酵素プロテイナーゼKは、ICN社から購入した。
【0216】
実施例1:処方
【0217】
【表1】

【0218】
【表2】

【0219】
実施例2:治療方法
本発明に従う溶液の効力の決定に関する試験を、抽出したカリエス歯によりインビトロで行った。
【0220】
1.アクセス
必要であれば、カリエス領域を被覆するエナメル質層を、高速回転ドリルで除去した。
【0221】
2.任意の概略的浄化
概略的浄化は必ずしも必要ではないが、歯科医師の治療の効果の試験を容易にする。エキスカベーターまたはカリエススプーンにより、カリエス病巣の概略的浄化を実施した。
【0222】
3.酵素溶液による治療
a)20秒間 100μlの溶液1
b)リンス
c)20秒間 100μlの溶液1
d)リンス
e)20秒間 100μlの溶液2
f)リンス
g)以後、必要に応じて充填療法
【0223】
両溶液は、細菌のいないカリエスによって冒された歯の領域を作製することが可能であるため、治療は、溶液1もしくは2のいずれか一方で排他的にまたは異なる順序で行うことができる。併用を実施する。酸性溶液2の最後の適用(pH2.0)は、その後に充填療法が意図される場合、特に有利である。
【0224】
実施例3:細菌の不在の証明
カリエス病巣の感染した硬い歯質を除去するための酵素溶液を、要件に従って適用した後、抽出および治療した歯を通気し、包埋塊(サイトフィックス(cytofix)、シュトルヤーズ(Struers)社)に固定した。内部ホールソーにより、カリエス病巣を介する歯セクションを段階的に作製した。歯セクションを被覆包埋材料から解放し、それぞれを細菌に対する1mlの生/死染料溶液(ライブ/デッド・バックライト(Live/Dead BacLight)、モレキュラー・プローブス(Molecular Probes)社)中にインキュベートした。インキュベーション中、歯セクションを光から保護して、貯蔵した。蛍光顕微鏡(ツァイス(Zeiss)社、アキシオプラン(Axioplan)2)により、反射光下、24FITCフィルター、630および1000の拡大倍数で注目した細菌について研究した。同じ条件下の非治療サンプルにおいて細菌ベッドを観察したところ、本発明に従って治療したサンプルは、細菌が全く認められなかった。より低い程度で、カリエスにより崩壊した歯材料の場合、本発明に従うただ1種の溶液または1種のペプシン含有溶液のそれまでの1回の適用により、カリエスに先に冒された歯の細菌が認められない領域が生じ得る。
【0225】
2成分溶液
本発明に従う2成分系を以下の通りに調製した。
【0226】
【表3】

【0227】
1:3(成分A:成分B)の割合で成分AおよびBの混合により、例えば、プラスチック容器に適切な割合で2種の溶液を連続的に添加し、成分を徹底的に混合することによって、処理溶液を調製した。
【0228】
混合後、処理溶液は以下の組成を有した。
【0229】
【表4】

【0230】
治療方法:
a)20秒間 100μlの溶液
b)濯ぐ
c)20秒間 100μlの溶液
d)濯ぐ
e)20秒間 100μlの溶液
f)濯ぐ
g)以後、必要に応じて充填療法
【0231】
細菌の不在の証明:
カリエス病巣の感染した硬い歯質を除去するための酵素溶液を、要件に従って適用した後、抽出および治療した歯を通気し、包埋塊(サイトフィックス(cytofix)、シュトルヤーズ(Struers)社)に固定した。内部ホールソーにより、カリエス病巣を介する歯セクションを段階的に作製した。歯セクションを被覆包埋材料から解放し、それぞれを細菌に対する1mlの生/死染料溶液(ライブ/デッド・バックライト(Live/Dead BacLight)、モレキュラー・プローブス(Molecular Probes)社)中にインキュベートした。インキュベーション中、歯セクションを光から保護して、貯蔵した。蛍光顕微鏡(ツァイス(Zeiss)社、アキシオプラン(Axioplan)2)により、反射光下、24FITCフィルター、630および1000の拡大倍数で注目した細菌について研究した。同じ条件下の非治療サンプルにおいて細菌ベッドを観察したところ、本発明に従って治療したサンプルは、細菌が全く認められなかった。より低い程度で、カリエスにより崩壊した歯材料の場合、上記の本発明に従う溶液のそれまでの1回の適用により、カリエスに先に冒された歯の細菌が認められない領域が生じ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリエスに感染した歯組織を歯から除去するための治療剤を製造するために使用される歯科用組成物であって、
前記組成物は4.0もしくはそれ以下のpH値を有し、
前記組成物は、
水と、
酸と、
ペプシンと、
流動性添加物と、を含み、
前記ペプシンの濃度は、500〜60,000U/mlであり、
前記組成物の粘度は、10〜1000mPasである、
歯科用組成物。
【請求項2】
前記流動性添加物は、多糖である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記組成物は、ポリエーテル、もしくは両性イオン界面活性剤、またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物をさらに含む、請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記組成物は、阻害剤、もしくは緩衝液、または阻害剤および緩衝液を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記組成物は、2種の成分AおよびBを含む組成物として提供され、
a)成分Aは、水と、ペプシンと、ペプシンの活性が最も高いpH値より大きなpH値を提供する緩衝系と、流動性添加物とを含み、
b)成分Bは、水と、ペプシンの活性が無いpH値より小さなpH値を提供する酸と、流動性添加物と、ポリエーテル、もしくは両性イオン界面活性剤、またはポリエーテルおよび両性イオン界面活性剤の混合物と、を含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記成分Aおよび成分Bの混合物は、以下の特性:
pH値:1.5〜3.5
粘度:10〜50mPas
ペプシン活性:1,000〜10,000U/ml
緩衝能:0.5〜2.0mol/l
を有する、請求項5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
成分Aは、20mg/ml未満のペプシンを含有する、請求項6に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記組成物は、0.001〜0.5mlの適用容積で提供される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記感染した歯組織への前記組成物の暴露時間は、5秒間〜5分間である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
液体を貯蔵および分配するためのマルチチャンバデバイスであって、少なくとも1種のチャンバは成分Aを含有し、少なくとも1種のチャンバは成分Bを含有し、成分Aおよび成分Bは請求項6に記載したものである、マルチチャンバデバイス。
【請求項11】
カリエスを除去するための治療剤を製造するための、pH7未満の範囲でタンパク質分解活性を有する酵素の使用であって、前記酵素はペプシンまたはグリコシダーゼから選択される、酵素の使用。

【公開番号】特開2010−90164(P2010−90164A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−294987(P2009−294987)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【分割の表示】特願2004−529962(P2004−529962)の分割
【原出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【出願人】(500213199)スリーエム エスペ アーゲー (6)
【Fターム(参考)】