説明

酵素固定化ハイドロゲルの製造方法

【課題】固定化される酵素の触媒活性には影響を及ぼさず、かつ、固定化された担体からの酵素の漏出が抑制される、酵素固定化ハイドロゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】酵素を固定化したハイドロゲルを得る製造方法であって、
フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、フェノール基どうしを結合させて架橋させる架橋触媒の存在下に反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させる工程を含み、前記架橋触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用い、前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記架橋触媒と共に酸素を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素固定化ハイドロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中で酵素を触媒として物質変換を行う場合、酵素と反応混合物等の分離の容易さから、固定化された酵素が好ましい。固定化酵素としては、粒子や粉体等の担体に固定化するものが知られているが、その担体が、水媒体、酵素および/または親水性基質との親和性が低い場合が多く、固定化により酵素の触媒活性が十分に発揮できない場合が多い。この問題を解決するため、ハイドロゲルに酵素を固定化する方法が知られている。このハイドロゲルに酵素を固定化する方法としては、包括法が代表的である。また、一般にバイオリアクター等によく使用される担体としては、アルギン酸カルシウムやカラギナンカルシウム、アガロース等のゲルが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。これらのゲルを使用して得られる包括固定化担体は、繰り返して使用されることを前提とするため、このゲルは機械的強度に優れ、しかも酵素の反応性は維持される必要がある。担体としてアルギン酸カルシウムを用いる場合は、カルシウム塩濃度が高いために固定化された酵素の活性低下を引起こす場合がある。また、担体としてアガロースを用いる場合には、ゲルから固定化された酵素が漏出する場合がある。前記以外に機械的強度に優れた包括固定化担体としては、ポリエチレンイミン等のカチオン性高分子化合物をグルタルアルデヒド等の多官能性架橋試薬で架橋してより強固にする方法やゲル中にポリビニルアルコールを共存せしめ、凍結、解凍を繰り返す方法により得られる単体等が報告されている。しかし、例えば多官能性架橋試薬を用いた方法は、架橋処理の際に酵素活性の失活等が起こるために、固定化された酵素の反応性が低下する場合がある。さらにこの方法には、使用する薬剤の残留等による安全性に関する問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−224160号公報
【特許文献2】特開昭63−160584号公報
【特許文献3】特開2004−201638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、固定化される酵素の触媒活性には影響を及ぼさず、かつ、固定化された担体からの酵素の漏出が抑制される、酵素が固定化されたハイドロゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酵素を固定化したハイドロゲルを得る製造方法であって、
フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、フェノール基どうしを結合させて架橋させる架橋触媒の存在下に反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させる工程を含み、
前記架橋触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、
前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用い、
前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記架橋触媒と共に酸素を用いる。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、固定化される酵素の触媒活性には影響を及ぼさず、かつ、固定化された担体からの酵素の漏出が抑制される、酵素を固定化したハイドロゲル(本明細書中、「酵素固定化ハイドロゲル」と呼ぶ場合がある。)を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、参考例1で得られたポリマーの1H−NMRである。
【図2】図2は、実施例1で得られたCAB固定化ハイドロゲルの保存性評価を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1で得られたCAB固定化ハイドロゲルの繰り返し使用評価を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1で得られたCAB固定化ハイドロゲルの温度安定性評価を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例2で得られたリパーゼ固定化ハイドロゲルの繰り返し使用評価を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2で得られたリパーゼ固定化ハイドロゲルの温度安定性評価を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例4で得られたCAB固定化ハイドロゲルの保存性評価を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4で得られたCAB固定化ハイドロゲルの繰り返し使用評価を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、前記のように、酵素を固定化したハイドロゲルを得る製造方法であって、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、フェノール基どうしを結合させて架橋させる架橋触媒の存在下に反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させる工程を含み、前記架橋触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用い、前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記架橋触媒と共に酸素を用いる。
【0009】
本発明の製造方法において、前記カルボキシル基を含有するポリマーは、ポリ(γ−グルタミン酸)、アルギン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ポリアスパラギン酸、タンパク質(例えば、コラーゲン、ゼラチン等)、ポリアクリル酸、およびポリメタクリル酸からなる群から選択される1種以上であるのが好ましく、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、アルギン酸がより好ましく、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸がさらに好ましい。本発明において、前記ポリマーの分子量は限定されないが、重量平均分子量が、例えば、3千〜1千万であり、好ましくは5千〜800万であり、より好ましくは1万〜500万である。
【0010】
本発明の製造方法において、「フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマー」は、例えば、前記カルボキシル基を含有するポリマーのカルボキシル基と、フェノール基と一級アミノ基を有する化合物のアミノ基とでアミド結合を形成することにより、得ることができる。前記「フェノール基と一級アミノ基を有する化合物」としては、例えば、チロシン、チラミン、3−(2−アミノエチル)カテコールおよび3、4-ジヒドロキシ−L−フェニルアラニンが挙げられる。例えば、チラミン由来の「フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマー」は、以下のスキーム1に従い、「カルボキシル基を含有するポリマー」としての「ポリ(γ−グルタミン酸)」と、「フェノール基と一級アミノ基を有する化合物」としてのチラミンとから、製造することができる。
【0011】
【化1】

【0012】
スキーム1中、「γ−PGA」は「ポリ(γ−グルタミン酸)」を、「EDC]は、「1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド」を、「NHS」は「N−ヒドロキシコハク酸イミド」を意味する。
【0013】
また、本発明の製造方法において、「フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマー」は、例えば、前記カルボキシル基を含有するポリマーのカルボキシル基と、フェノール基と一級水酸基を有する化合物の水酸基とでエステル結合を形成することにより、得ることができる。前記「フェノール基と一級水酸基を有する化合物」としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール、4−ヒドロキシメチルフェノール、3−(2−ヒドロキシエチル)カテコールおよび3−ヒドロキシメチルカテコールが挙げられる。
【0014】
「フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマー」において、フェノール基の導入の程度は、特に限定されない。カルボキシル基を含有するポリマーのカルボキシル基の、例えば0.5モル%〜50モル%、好ましくは0.8モル%〜30モル%、より好ましくは1モル%〜20モル%に、フェノール基が導入されていてもよい。
【0015】
アミド結合あるいはエステル結合を介して、カルボキシル基を含有するポリマーへフェノール基を導入する方法は、当該分野で公知の方法をいずれも用いることができる。例えば、カルボキシル基を含有するポリマーと、前記フェノール基と一級アミノ基を有する化合物または、前記フェノール基と一級水酸基を有する化合物とを水あるいは中性の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒に溶解させ、そこへ縮合剤を添加して室温〜60℃において、1時間〜3日混合することにより、カルボキシル基を含有するポリマーのカルボキシル基と、前記フェノール基と一級アミノ基を有する化合物のアミノ基との間にアミド結合または、前記フェノール基と一級水酸基を有する化合物の一級水酸基との間にエステル結合をそれぞれ形成することができる。前記縮合剤として、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)等が挙げられる。また、前記有機溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。なお、前記縮合剤と合わせて、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOOBt)、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)等の酸性添加剤を用いるのが、反応効率向上の観点から好ましい。
【0016】
具体的には、カルボキシル基を含有するポリマーと、縮合剤(ポリマーに含まれるカルボキシル基に対して0.01〜1当量)と、酸性添加剤(ポリマーに含まれるカルボキシル基に対して0.01〜1当量)とを、溶媒中に溶解させ、室温〜60℃において、1時間〜3日、攪拌させる。次いで、その混合物に前記フェノール基と一級アミノ基を有する化合物または、前記フェノール基と一級水酸基を有する化合物を、ポリマーに含まれるカルボキシル基に対して0.005〜0.8当量添加し、室温〜60℃において、1時間〜3日、更に攪拌させる。得られた混合物に、縮合剤および酸性添加剤が溶解可能であるが、生成物が溶解しない溶剤(例えば、縮合剤がEDCであり、縮合補助剤がNHSの場合、エタノール)を添加して生成したポリマーを沈殿させ、沈殿物を回収する。その沈殿物を溶媒に溶解させ、その溶液をイオン交換樹脂(例えば陽イオン交換樹脂)を用いて精製する。陽イオン交換樹脂により精製した場合は、得られた生成物にアルカリ化合物(例えばNaHCO3)を添加して塩(例えばNa塩)の形態にしてから、凍結乾燥する。
【0017】
本発明の製造方法において、前記酵素は、炭酸脱水酵素(CAB)、リパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼおよびペルオキシダーゼからなる群からなる群から選択される1種以上であるのが好ましく、炭酸脱水酵素(CAB)、リパーゼ、アミラーゼ、ペルオキシダーゼがより好ましい。本発明において用いられるペルオキシダーゼは、種々の起源のペルオキシダーゼが含まれる。好ましいペルオキシダーゼとしては、植物由来のもの、細菌由来のもの、坦子菌類由来のものが挙げられ、とくに好ましいものとして西洋わさび由来のもの(ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ)、大豆由来のもの、Coprinus cineris由来のものが挙げられる。また、本発明において用いられるラッカーゼは、種々の起源のラッカーゼが使用でき、特に制限はなく全てのラッカーゼが含まれる。好ましいラッカーゼとしては、植物由来のもの、細菌由来のもの、坦子菌類由来のものが挙げられる。前記ラッカーゼとしては、例えばウルシの木から得られるラッカーゼ、Pyricularia, Pleurotus, Pycnoporus, Polystictus, Coriolus, Bjerkandera, Neurospora属の微生物から得られるラッカーゼを挙げることができる。
【0018】
本発明の製造方法において、前記架橋触媒は、フェノール基どうしを結合させて前記ポリマーを架橋させる。このような架橋触媒としては、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼである。なお、本発明の製造方法において、前記酵素は、例えば前記架橋触媒としても作用する場合がある。この場合、前記酵素はハイドロゲルに固定化され、かつ、前記ポリマーと前記酵素自身とを反応させるよう作用する。具体的には、酵素を固定化したハイドロゲルを得る製造方法であって、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させる工程を含み、前記酵素は、フェノール基どうしを結合させて架橋させる架橋触媒としても作用し、前記架橋触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用い、前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記架橋触媒と共に酸素を用いる。
【0019】
本発明の製造方法において、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、前記架橋触媒の存在下に反応させる工程は、以下のようにして行うことができる。本発明の製造方法において、前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用いる。この場合、前記反応させる工程は、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、前記酵素と、ペルオキシダーゼを、溶媒中で攪拌して混合して行うことができる。その混合液に、過酸化水素を加え、さらに静置または攪拌することにより、前記ポリマーのフェノール基どうしの酸化カップリングが起こる。その結果、前記ポリマー間(分子内および分子間)で架橋され、前記ポリマーをゲル化することができる。また、同時に、前記酵素に一般的に含まれているチロシン残基と、前記ポリマーのフェノール基との間でも酸化カップリングが起きる。その結果、得られる酵素固定化ハイドロゲルにおいて、前記酵素は前記ゲルへ共有結合的に固定化されることができる。なお、この架橋反応はフェノール基が選択的に反応するため、固定化された酵素の活性には影響が少ない。また、本発明の製造方法において、前記酵素もペルオキシダーゼである場合、固定化される酵素がペルオキシダーゼであり、かつ、架橋触媒もペルオキシダーゼである。すなわち、ペルオキシダーゼは、一つで二つの機能を果たすことができる。
【0020】
例えば、チラミン由来のフェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリ(γ−グルタミン酸)は、ゲル化により、以下のスキーム2に示すような構造に変換される。
【0021】
【化2】

【0022】
スキーム2中、「γ−PGA」は「ポリ(γ−グルタミン酸)」を意味する。
【0023】
酵素がペルオキシダーゼ以外の酵素である場合、前記酵素の量は、(フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーの重量):(前記酵素の重量)が、例えば、1〜200:1であり、5〜150:1が好ましく、10〜100:1がより好ましい。また、架橋触媒としての前記ペルオキシダーゼの量は、(フェノール基を導入した、カルボン酸基を含有するポリマーの重量):(前記ペルオキシダーゼの重量)が、例えば、1〜150,000:1であり、10〜100,000:1が好ましく、100〜80,000:1がより好ましい。また、過酸化水素の量は、(フェノール基を導入したカルボキシル基を含有するポリマーの重量):(過酸化水素の重量)が、例えば、5〜1,000:1であり、10〜800:1が好ましく、15〜600:1がより好ましい。
【0024】
一方、酵素がペルオキシダーゼである(すなわち、ペルオキシダーゼは固定化されるべき酵素であり、かつ、架橋触媒としても作用する)場合、前記ペルオキシダーゼの量は、(フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーの重量):(前記ペルオキシダーゼの重量)が、例えば、1〜500:1であり、3〜400:1が好ましく、5〜300:1がより好ましい。また、過酸化水素の量は、(フェノール基を導入したカルボキシル基を含有するポリマーの重量):(過酸化水素の重量)が、例えば、5〜1,000:1であり、10〜800:1が好ましく、15〜600:1がより好ましい。
【0025】
前記ポリマーと前記酵素と前記ペルオキシダーゼとを混合する際、反応混合物の温度は、例えば10〜45℃であり、15〜35℃が好ましい。前記ポリマーと前記酵素と前記ペルオキシダーゼとを混合する際、混合時間は、例えば10秒以上であり、30秒〜10時間が好ましい。
【0026】
過酸化水素を加えて混合する際、反応混合物の温度は、例えば0〜50℃であり、10〜30℃が好ましい。過酸化水素を加えて混合する際、混合時間は、例えば1秒〜1時間であり、2秒〜30分が好ましい。
【0027】
前記ポリマーと前記酵素と前記ペルオキシダーゼとを混合する際、および過酸化水素を加えて混合する際、用いられる溶媒は、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、TRIS緩衝液等が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法において、前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、前記架橋触媒の存在下に反応させる工程は、前記架橋触媒と共に酸素を用いる。この場合、前記反応させる工程は、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素と、ラッカーゼまたはチロシナーゼを、酸素(例えば、空気)存在下、溶媒中で攪拌して混合することにより行うことができる。この際、前記ポリマーのフェノール基どうしの酸化カップリングが起こる。その結果、前記ポリマー間(分子内および分子間)で架橋され、前記ポリマーをゲル化することができる。また、同時に、酵素に一般的に含まれているチロシン残基と、前記ポリマーのフェノール基との間で酸化カップリングが起きる。その結果、得られる酵素固定化ハイドロゲルにおいて、前記酵素は前記ゲルへ共有結合的に固定化されることができる。なお、この架橋反応はフェノール基が選択的に反応するため、固定化された酵素の活性には影響が少ない。また、本発明の製造方法において、前記酵素がラッカーゼまたはチロシナーゼである場合、固定化される酵素がラッカーゼまたはチロシナーゼであり、かつ、架橋触媒もラッカーゼまたはチロシナーゼである。すなわち、ラッカーゼまたはチロシナーゼは、一つで二つの機能を果たすことができる。
【0029】
酵素がラッカーゼまたはチロシナーゼ以外の酵素である場合、前記酵素の量は、(フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーの重量):(前記酵素の重量)が、例えば、1〜200:1であり、5〜150:1が好ましく、10〜100:1がより好ましい。また、前記ラッカーゼまたはチロシナーゼの量は、(フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーの重量):(前記ラッカーゼまたはチロシナーゼの重量)が、例えば、1〜150,000:1であり、10〜100,000:1が好ましく、100〜80,000:1がより好ましい。
【0030】
一方、酵素がラッカーゼまたはチロシナーゼである場合、前記ラッカーゼまたはチロシナーゼの量は、(フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーの重量):(前記ラッカーゼまたはチロシナーゼの重量)が、例えば、1〜500:1であり、3〜400:1が好ましく、5〜300:1がより好ましい。
【0031】
前記ポリマーと前記酵素と前記ラッカーゼまたはチロシナーゼとを空気(酸素)存在下で混合する際、温度は、例えば0〜50℃であり、10〜40℃が好ましい。前記ポリマーと前記酵素と前記ラッカーゼまたはチロシナーゼとを空気(酸素)存在下で混合する際、混合時間は、例えば1時間〜5日であり、3時間〜2日が好ましい。「前記酸素存在下」としては、例えば空気存在下、酸素存在下が挙げられ、空気存在下が好ましい。
【0032】
前記ポリマーと前記酵素と前記ラッカーゼまたはチロシナーゼとを空気(酸素)存在下で混合する際、用いられる溶媒は、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、TRIS緩衝液等が挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法においては、酵素固定化ハイドロゲルを製造するために、前記ポリマーと酵素との共有結合形成に、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼという触媒を用いている。そのため、本発明の製造方法においては、前記触媒による選択的な固定化が可能である。また、前記ポリマーと酵素との共有結合形成に、少量のペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼ(酵素)を用いているため、固定化される酵素の触媒活性には影響を及ぼさない。さらに、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼを用いる架橋反応は穏和かつ選択的(フェノール基のみと反応)であるため、前記ポリマーと酵素との共有結合形成時に、固定化される酵素の活性低下を抑制することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、前記ポリマーのゲル中に共有結合を介して酵素が固定されるため、得られる酵素固定化ハイドロゲルから、酵素が漏出することを抑制することができる。
【0034】
本発明の製造方法により得られる酵素固定化ハイドロゲルは、繰り返し使用しても酵素活性が低下しない。また、この酵素固定化ハイドロゲルは、酵素活性が安定的に持続する。具体的には、水溶液中の酵素はその活性が短期間で低下することが知られているが、この酵素固定化ハイドロゲルは、酵素活性が短期間ではほとんど低下しない。
【0035】
また、本発明は、フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、フェノール基どうしを結合させて前記ポリマーを架橋させる触媒の存在下に反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させる工程を含み、前記触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、前記触媒がペルオキシダーゼの場合、前記触媒と共に過酸化水素を用い、前記触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記触媒と共に酸素を用いる製造方法により得られた酵素を固定化したハイドロゲルである。
【0036】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
γ−PGA:ポリ(γ−グルタミン酸)
DMSO:ジメチルスルホキシド
EDC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド
NHS:N−ヒドロキシコハク酸イミド
HRP:ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ
CAB:Bovine erythrocytes由来のcarbonic anhydrase
pNPA:p−ニトロフェニルアセテート
pNPP:プロピオン酸p−ニトロフェニル
リパーゼ:Amano Lipase AK from Pseudomonas fluorescens
アミラーゼ:α-Amylase type VI-B from porcine pancreas(シグマ)
【0037】
本明細書において、測定機器は以下の機器を用いた。
1H−NMR:ブルッカー製、商品名:DPX 400
UV:HITACHI分光光度計U-2810
蛍光吸光プレートリーダー:BIO-TEK社製SynergyHT−SIAFR−4型
【0038】
[参考例1]
13mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の製造
無水DMSO(50mL)にγ−PGA(50kDa)(1.625g、12.5ユニットmmol)を溶かし、そこへ1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)(712.5mg、3.75mmol)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)(510mg、3.75mmol)を添加して、3時間、室温で攪拌した。次いで、その混合物へチラミン(315mg、1.875mmol、ポリマーに対して15mol%)を加え、室温で一晩攪拌した。前記混合物を大過剰のエタノール中へ滴下し、生じた沈殿物を遠心分離により単離した。得られた沈殿物にNaHCO3(1.05g、12.5mmol)を添加し、水に溶解させた。得られた溶液に陽イオン交換樹脂を加えて室温で6時間攪拌した。前記溶液から陽イオン交換樹脂を除いた後、その溶液を2日間脱イオン水中で透析し(cut−off2000)、次いで凍結乾燥した。ポリ(γ−グルタミン酸)へのチラミンの導入率を、得られた生成物の1H−NMRにより求めた。1H−NMRを図1に示す。ポリマーに対して15mol%のチラミン仕込み量に対し、生成物には13mol%のチラミン由来のフェノール基が導入されていた。
【0039】
[参考例2]
9mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の製造
EDC(712.5mg、3.75mmol)、NHS(510mg、3.75mmol)およびチラミン(315mg、1.875mmol、ポリマーに対して15mol%)の代わりに、EDC(475mg、2.50mmol)、NHS(340mg、2.50mmol)およびチラミン(210mg、1.25mmol、ポリマーに対して10mol%)を用いた以外は、参考例1と同様にして行った。得られた生成物には9mol%のチラミン由来のフェノール基が導入されていた。
【0040】
[参考例3]
4mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の製造
EDC(712.5mg、3.75mmol)、NHS(510mg、3.75mmol)およびチラミン(315mg、1.875mmol、ポリマーに対して15mol%)の代わりに、EDC(237.5mg、1.25mmol)、NHS(170mg、1.25mmol)およびチラミン(105mg、0.625mmol、ポリマーに対して5mol%)を用いた以外は、参考例1と同様にして行った。得られた生成物には4mol%のチラミン由来のフェノール基が導入されていた。
【0041】
[参考例4]
1mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の製造
EDC(712.5mg、3.75mmol)、NHS(510mg、3.75mmol)およびチラミン(315mg、1.875mmol、ポリマーに対して15mol%)の代わりに、EDC(142.5mg、0.75mmol)、NHS(102mg、0.75mmol)およびチラミン(63mg、0.375mmol、ポリマーに対して3mol%)を用いた以外は、参考例1と同様にして行った。得られた生成物には1mol%のチラミン由来のフェノール基が導入されていた。
【0042】
[参考例5]
15mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリアクリル酸の製造
無水DMSO(50mL)にポリアクリル酸(分子量:25,000)(380mg、5.0ユニットmmol)を溶かし、そこへ1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)(287.6mg、1.50mmol)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)(172.5mg、1.50mmol)を添加して、3時間、室温で攪拌した。次いで、その混合物へチラミン(102.8mg、0.750mmol、ポリマーに対して15mol%)を加え、室温で一晩攪拌した。前記混合物を大過剰のアセトン中へ滴下し、生じた沈殿物を遠心分離により単離した。得られた沈殿物にNaHCO3(440mg、5.0mmol)を添加し、水に溶解させた。得られた溶液に陽イオン交換樹脂を加えて室温で6時間攪拌した。前記溶液から陽イオン交換樹脂を除いた後、その溶液を2日間脱イオン水中で透析し(cut−off2000)、次いで凍結乾燥した。ポリアクリル酸へのチラミンの導入率を、得られた生成物の1H−NMRにより求めた。ポリマーに対して15mol%のチラミン仕込み量に対し、生成物には15mol%のチラミン由来のフェノール基が導入されていた。
【0043】
[実施例1]
(1)CAB固定化ハイドロゲルの製造
参考例1で得られた13mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の溶液(3重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、HRP溶液(10ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、およびCAB溶液(80mg/mL、1.0μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を滴下して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、CAB固定化ハイドロゲルを定量的に得た。
【0044】
(2)CAB固定化ハイドロゲルの保存性評価
CABを触媒としてp−ニトロフェニルアセテート(pNPA)は加水分解され、その生成物が400nmに吸収を有することを利用して、CAB固定化ハイドロゲルの酵素活性の保存性を評価した。すなわち、ゲル内に固定されたCABの量が多くなるほど、生成物に由来する吸光度は大きくなる。(1)で得られたCAB固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、5分後にその混合物の400nmにおける吸光度を測定した。
【0045】
前記CAB固定化ハイドロゲルとしては、1日、2日、3日、4日、5日、6日および7日25℃で保存後のものを用いた。得られた結果を図2に示す。また、CAB固定化ハイドロゲルの代わりに、1日、2日、3日、4日、5日、6日および7日25℃で保存後のCAB水溶液(1.6mg/mL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)、1mL)を用いた。酵素活性は、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を加えてから1分間の400nmにおける吸光度を測定し吸光度の傾きから評価した。得られた結果を図2に示す。
【0046】
図2に示すように、本発明の製造方法により得られたCAB固定化ハイドロゲルは、水溶液中のCABと比較して、酵素活性が著しく安定であることが確認できた。
【0047】
(3)CAB固定化ハイドロゲルの繰り返し使用評価
(1)で得られたCAB固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、加水分解生成物を生じさせた。その後、前記ゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)に浸漬させてゲルを洗浄した。洗浄したゲルに、再度、pNPAのアセトニトリル溶液を、リン酸緩衝液に添加して、加水分解反応生成物を生じさせた。このように前記ゲルを加水分解反応の触媒として用い、次いで洗浄しという操作を繰り返した。この操作の回数と、その際の酵素活性を図3に示す。
【0048】
図3に示すように、本発明の製造方法により得られたCAB固定化ハイドロゲルは、10回程度繰り返し使用しても、その酵素活性の減少はわずかであることが確認できた。
【0049】
(4)CAB固定化ハイドロゲルの温度安定性評価
各温度で10分間加熱後、室温まで冷却した、(1)で得られたCAB固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、5分後にその混合物の400nmにおける吸光度を測定した。得られた結果を図4に示す。また、CAB固定化ハイドロゲルの代わりに、各温度で10分間加熱後、室温まで冷却したCAB水溶液(1.6mg/mL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)、1mL)を用いて、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を加えてから1分間の400nmにおける吸光度を測定し吸光度の傾きから活性を評価した。得られた結果を図4に示す。
【0050】
図4に示すように、本発明の製造方法により得られたCAB固定化ハイドロゲルは、高温に対しても比較的安定であることが確認できた。
【0051】
[実施例2]
(1)リパーゼ固定化ハイドロゲルの製造
参考例1で得られた13mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の溶液(3重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、HRP溶液(10ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、およびリパーゼ溶液(80mg/mL、1.0μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を滴下して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、リパーゼ固定化ハイドロゲルを定量的に得た。
【0052】
(2)リパーゼ固定化ハイドロゲルの繰り返し使用評価
(1)で得られたリパーゼ固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、プロピオン酸p−ニトロフェニル(pNPP)のアセトニトリル溶液(50mM、5μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、加水分解生成物を生じさせた。加水分解物の生成量はCABと同様に測定した。その後、前記ゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)に浸漬させてゲルを洗浄した。洗浄したゲルに、再度、pNPPのアセトニトリル溶液を、リン酸緩衝液に添加して、加水分解反応生成物を生じさせた。このように前記ゲルを加水分解反応の触媒として用い、次いで洗浄しという操作を繰り返した。この操作の回数と、その際の酵素活性を図5に示す。
【0053】
図5に示すように、本発明の製造方法により得られたリパーゼ固定化ハイドロゲルは、10回程度繰り返し使用しても、その酵素活性の減少はわずかであることが確認できた。
【0054】
(3)リパーゼ固定化ハイドロゲルの温度安定性評価
各温度で10分間加熱後、室温まで冷却した、(1)で得られたリパーゼ固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、pNPPのアセトニトリル溶液(50mM、5μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、5分後にその混合物の400nmにおける吸光度を測定した。得られた結果を図6に示す。また、リパーゼ固定化ハイドロゲルの代わりに、各温度で10分間加熱後、室温まで冷却したリパーゼ水溶液(1.6mg/mL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)、1mL)を用いて、pNPPのアセトニトリル溶液(50mM、5μL)を加えてから1分間の400nmにおける吸光度を測定し吸光度の傾きから活性を評価した。得られた結果を図6に示す。
【0055】
図6に示すように、本発明の製造方法により得られたリパーゼ固定化ハイドロゲルは、高温に対しても比較的安定であることが確認できた。
【0056】
[実施例3]
(1)アミラーゼ固定化ハイドロゲルの製造
参考例1で得られた13mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の溶液(3重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、HRP溶液(10ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、およびアミラーゼ溶液(80mg/mL、1.0μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を滴下して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、アミラーゼ固定化ハイドロゲルを定量的に得た。
【0057】
(2)アミラーゼ固定化ハイドロゲルの酵素活性評価
アミラーゼの活性評価はEnzChek Ultra Amylase Assay Kit (Molecular Probes, USA)を用いて行った。リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、100μL)に(1)で得たアミラーゼ固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、アミラーゼ基質溶液(200μg/mL、100μL)を加え、遮光して30分後、放置した。その後、蛍光吸光プレートリーダーを用いて溶液の蛍光強度を測定した(λex=505nm,λem=512nm)。比較のため、アミラーゼ固定化ハイドロゲルを用いずに、前記と同様にして溶液の蛍光強度を測定した。なお、アミラーゼ基質溶液は、酢酸ナトリウム溶液(50mM、pH4.0)に溶解させたDQトウモロコシデンプン(BODIPY(登録商標)FL conjugate、モレキュラー・プローブ社製、1mg/mL)をリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)で5倍に希釈して使用した。
【0058】
アミラーゼ固定化ハイドロゲル存在下での溶液の蛍光強度は12100であり、アミラーゼ固定化ハイドロゲル不在下での溶液の蛍光強度は6150であった。このことより、アミラーゼ固定化ハイドロゲル中のアミラーゼは、酵素活性が有ることが確認できた。
【0059】
[実施例4]
(1)CAB固定化ハイドロゲルの製造
参考例5で得られた15mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリアクリル酸の溶液(10重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、HRP溶液(10ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、およびCAB溶液(80mg/mL、1.0μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を滴下して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、CAB固定化ハイドロゲルを定量的に得た。
【0060】
(2)CAB固定化ハイドロゲルの保存性評価
CABを触媒としてp−ニトロフェニルアセテート(pNPA)は加水分解され、その生成物が400nmに吸収を有することを利用して、CAB固定化ハイドロゲルの酵素活性の保存性を評価した。すなわち、ゲル内に固定されたCABの量が多くなるほど、生成物に由来する吸光度は大きくなる。(1)で得られたCAB固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、5分後にその混合物の400nmにおける吸光度を測定した。
【0061】
前記CAB固定化ハイドロゲルとしては、0日および8日25℃で保存後のものを用いた。得られた結果を図7に示す。また、CAB固定化ハイドロゲルの代わりに、0日および8日25℃で保存後のCAB水溶液(1.6mg/mL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)、1mL)を用いて、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を加えてから1分間400nmにおける吸光度を測定し吸光度の傾きから活性を評価した。得られた結果を図7に示す。
【0062】
図7に示すように、本発明の製造方法により得られたCAB固定化ハイドロゲルは、水溶液中のCABと比較して、酵素活性が著しく安定であることが確認できた。
【0063】
(3)CAB固定化ハイドロゲルの繰り返し使用評価
(1)で得られたCAB固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)と、pNPAのアセトニトリル溶液(100mM、10μL)を、リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4、1mL)に添加し、加水分解生成物を生じさせた。その後、前記ゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)に浸漬させてゲルを洗浄した。洗浄したゲルに、再度、pNPAのアセトニトリル溶液を、リン酸緩衝液に添加して、加水分解反応生成物を生じさせた。このように前記ゲルを加水分解反応の触媒として用い、次いで洗浄しという操作を繰り返した。この操作の回数と、その際の酵素活性を図8に示す。
【0064】
図8に示すように、本発明の製造方法により得られたCAB固定化ハイドロゲルは、10回程度繰り返し使用しても、その酵素活性の減少はわずかであることが確認できた。
【0065】
[実施例5]
CAB固定化ハイドロゲルの製造
参考例2で得られた9mol%のチラミンで修飾されたポリ(γ−グルタミン酸)の溶液(3重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、HRP溶液(10ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、およびCAB溶液(80mg/mL、1.0μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を添加して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、CAB固定化ハイドロゲルを定量的に得た。このゲル存在下にpNPAの加水分解反応が進行したことより、ゲル中のCABは活性を有していることがわかった。
【0066】
[実施例6]
CAB固定化ハイドロゲルの製造
参考例3で得られた4mol%のチラミンで修飾されたポリ(γ−グルタミン酸)の溶液(3重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、HRP溶液(10ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))、およびCAB溶液(80mg/mL、1.0μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を添加して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、CAB固定化ハイドロゲルを定量的に得た。このゲル存在下にpNPAの加水分解反応が進行したことより、ゲル中のCABは活性を有していることがわかった。
【0067】
[実施例7]
(1)HRP固定化ハイドロゲルの製造
参考例1で得られた13mol%のチラミン由来のフェノール基を導入した、ポリ(γ−グルタミン酸)の溶液(3重量%、50μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))およびHRP溶液(1000ユニット/mL(100ユニット/mg)、1.25μL、溶媒:リン酸緩衝液(0.1M、pH7.4))を混合し、その混合物へ過酸化水素水(1.5重量%、1.25μL)を滴下して、室温で静置した。析出したゲルを単離し、そのゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)中に室温で一晩浸漬して、ゲルを洗浄して、HRP固定化ハイドロゲルを定量的に得た。
【0068】
(2)HRP固定化ハイドロゲルの酵素活性評価
(1)で得たHRP固定化ハイドロゲル((1)で得られた量全て)をグアイアコール水溶液(18mM、1mL)に入れ、続いて過酸化水素(1.5重量%、5μL)を加え、5分後に470nmにおける吸光度を測定して酵素反応の生成物の量を測定した。吸光度が1.1であったことから酵素活性があることがわかった。また、この反応によりゲルが茶色に呈色し、酵素反応により生じた化合物がゲル内にトラップされることがわかった。次いで、HRP固定化ゲルをリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)で洗浄した。このゲルにグアイアコール水溶液(18mM、1mL)と過酸化水素(1.5重量%、5μL)を加え、5分後に470mnにおける吸光度を測定して酵素反応の生成物の量を測定したところ、吸光度が0.4となり、また、ゲルの呈色が強くなったことから、2回目の測定においても酵素反応が進行していることがわかった。このことより、HRP固定化ハイドロゲル中のHRPは、繰り返し使用後も酵素活性があることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の方法により得られた酵素固定化ハイドロゲルは、固定化酵素やバイオセンサ等への利用も期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を固定化したハイドロゲルを得る製造方法であって、
フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、フェノール基どうしを結合させて架橋させる架橋触媒の存在下に反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させる工程を含み、
前記架橋触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、
前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用い、
前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記架橋触媒と共に酸素を用いる製造方法。
【請求項2】
前記カルボキシル基を含有するポリマーが、ポリ(γ−グルタミン酸)、アルギン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ポリアスパラギン酸、タンパク質、ポリアクリル酸、およびポリメタクリル酸からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酵素が、炭酸脱水酵素(CAB)、リパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコシダーゼ、ヒアルロニダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、トランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼおよびペルオキシダーゼからなる群から選択される1種以上である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酵素が、前記架橋触媒としても作用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
フェノール基を導入した、カルボキシル基を含有するポリマーと、酵素とを、フェノール基どうしを結合させて架橋させる架橋触媒の存在下に反応させ、前記ポリマーを架橋させると共に前記酵素を前記ポリマーに固定化させて得られる酵素を固定化したハイドロゲルであって、
ただし、前記架橋触媒は、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼまたはチロシナーゼであり、
前記架橋触媒がペルオキシダーゼの場合、前記架橋触媒と共に過酸化水素を用い、
前記架橋触媒がラッカーゼまたはチロシナーゼの場合、前記架橋触媒と共に酸素を用いる酵素を固定化したハイドロゲル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−50343(P2012−50343A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193106(P2010−193106)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】