説明

酵素基質としての新規フェノキサジノン(phenoxazinone)誘導体、及び、ペプチダーゼ活性を有する微生物の検出における指標としてのその使用

【課題】酵素基質としての新規フェノキサジノン誘導体、及び、ペプチダーゼ活性を有する微生物の検出における指標としてのその使用
【解決手段】本発明は、下記一般式を有し、R、R、R、R、R、R、A及びXは請求項1に定義する通りである新規の酵素基質、これを含む反応媒体、並びに、少なくとも一種のペプチダーゼ活性を示す微生物を検出、識別及び/又は定量するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチダーゼ活性を検出するための新規の発色性酵素基質に関する。上記基質は、特に微生物学、生化学、免疫学、分子生物学、組織学等において、酵素加水分解により物理化学的なシグナルを発する段階を含む用途に使用できる。既存の基質の大部分は蛍光性であるのに対し、本発明の発色性基質は着色を生じ、この着色は反応媒体中に拡散せずにコロニーの中に集まるので、微生物検出用のゲル化媒体においてこの発色性基質を特に使用できる。
【0002】
また、本発明は、この基質を含む反応媒体、並びに、グラム陰性菌、グラム陽性菌及びペプチダーゼ活性を示す酵母を検出するための上記基質又は上記媒体の使用、並びに、その使用方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
「アミノペプチダーゼ」という名称は一般的に、アミノ酸のアシル基と第一級アミンの間のアミド基を加水分解して切断できる酵素に対して付与され、「ペプチダーゼ」という名称は、ペプチドのアシル基と第一級アミンの間のアミド基を加水分解して切断できる酵素に対して付与される。本出願においては、「ペプチダーゼ」という用語は、必要に応じて、上記に定義したペプチダーゼ及びアミノペプチダーゼの両方を指す可能性がある。
【0004】
ペプチダーゼ活性検出用の拡散しない発色性酵素基質が文献中に記載されていて、従来技術から既に公知である。例えば、この基質は、本出願人による特許文献1及び特許文献2の範囲内に含まれる。しかし、この基質には、合成が困難であり、純度が低く、かつ、収率が低いといった様々な問題がある。また、培養基中で使用する際には、培養基の組成を非常に正確に定義しなければ着色を観察できない。現在のところ文献に記載されている基質のうちこの基質以外では、混合培養において固形媒体中で使用して微生物を検出できるものはない。
【0005】
フェノキサジノンに由来する物質は蛍光を発することができることが知られている。上記物質は、
−例えば非特許文献1中に記載されるように、酸−塩基指示薬として、又は、
−非特許文献2中に記載されるように、例えばタンパク質のコンホメーション変化を追従するための、蛍光標識として使用可能である。
【0006】
フェノキサジノン誘導体は以前は酵素基質としては使用されていなかった。
【特許文献1】PCT特許WO−A−98/04735
【特許文献2】PCT特許WO−A−99/38995
【非特許文献1】Stuzka,V.ら,1963,Collection Czech.Chem.Commun.,28,1399−1407
【非特許文献2】Nakanishi J.ら,2001,Analytical Chemistry,73(13),2920−2928
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明によれば、ペプチダーゼ活性を示す微生物を検出するための新規の発色性酵素基質が提案される。また、本発明は、この基質を含む反応媒体、及び、ペプチダーゼ活性を検出するための上記基質又は上記媒体の使用、及び、その使用方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実際、本出願人は予想外にも、発色性フェノキサジノン誘導体の発する着色は反応媒体中に拡散せずにコロニーの中に集まるため、培養基中のコロニーの着色の変化によりペプチダーゼ活性を実証できることから、これを使用することによりペプチダーゼ活性を示す微生物を検出可能であることを発見した。
【0009】
本発明の基質を含む反応媒体に試験する微生物を播種すると、この微生物が基質を加水分解できない場合にはコロニーの色は無色から白色となる。一方、この微生物が本発明の基質を加水分解できる場合には、コロニーが着色される。
【0010】
本発明のフェノキサジノン誘導体は、発色性かつ蛍光性であり、検出感度が良好であるという利点を有する。
【0011】
従って、本発明の主題は、
式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
:の発色性酵素基質であって、
式中、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【0014】
【化2】

【0015】
:のナフタレン環、又は、式:
【0016】
【化3】

【0017】
:の任意に置換されたクマリン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cのアルキル基、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【0018】
【化4】

【0019】
:の任意に置換されたナフタレン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し
(但し、
(i)R/R及びR/Rの少なくとも一方は、自身が結合しているフェニル環と共に上記の任意に置換されたナフタレン環又はクマリン環を形成し、かつ、
(ii)R及びRが自身が結合しているフェニル環と共に任意に置換されたクマリン環を形成する場合には、R及びRは自身が結合しているフェニル環と共に任意に置換されたナフタレン環を形成しない)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基又はC〜Cのアルキル基を表し(但し、R/R及びR/Rがそれぞれ自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する場合、Rはハロゲン原子を表す)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルボキシアルキル基、カルボキシル基又はスルホン酸基を表すか、
−そうでなければ、R及びRは、自身が結合している2つの炭素原子と共にC〜C環を形成し、
−Rは水素原子、臭素原子、塩素原子、ベンゾイル基、−COH基又は−SOH基を表し(但し、Rが水素原子ではない場合にはRが水素原子である)、
−R’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
−R’’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表すか、
−そうでなければ、R’及びR’’は、自身が結合している窒素原子と共にヘテロ原子を1つ以上含む複素環を形成し、
−Aは少なくとも1つのアミノ酸を表し、かつ、
−Xは、ブロック基を表す又は何も表さない。
【0020】
本発明によれば、「アリール」という用語は特に、C〜C10芳香環、特にフェニル環、ベンジル環、1−ナフチル環又は2−ナフチル環を意味するものとする。アラルキル基のアリール部についても同様である。
【0021】
また、本発明による、アラルキル基及びカルボキシアルキル基におけるアルキルは、C〜Cである。
【0022】
「C〜Cのアルキル」という用語は、炭素原子を1〜6つ有する直鎖又は分岐のアルキルを意味するものとする。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びヘキシル基を挙げることができる。
【0023】
「ハロゲン原子」という用語は、塩素、臭素、ヨウ素及びフッ素を意味するものとする。
【0024】
「ヘテロ原子」という用語は、O、N又はS等の炭素原子以外の原子を意味するものとする。
【0025】
R’及びR’’により形成可能な複素環の大きさは任意であってよいが、5〜7員環であることが好ましい。
【0026】
複素環の例としては、モルホリン環、ピペラジン環、ピペリジン環、ピロリジン環及びイミダゾリジン環が含まれる。
【0027】
本発明に記載される置換基R/R及びR/Rによって形成される様々なナフタレン環及びクマリン環は、破線を含んで表され、この破線は対応する置換基を伴って完成されてより明瞭となり、また、本発明の式(I)のフェノキサジノン誘導体におけるこれらの環の位置は外観上確認できる。
【0028】
本発明によるブロック基には、アミンを保護可能な当業者に公知の任意のブロック基が含まれる。例えば、t−ブトキシカルボニル基(N−tBOC)、9−フルオレニルオキシカルボニル基、スクシニル基等の可溶性基、又は、ピペコリン酸等の代謝不可能なアミノ酸、すなわち非天然アミノ酸が挙げられる。
【0029】
ブロック基は、本発明の化合物中に系統的には存在していない。従って、本発明の化合物がブロック基を有していない(Xがない)場合、本発明の化合物は塩化物、臭化物又はトリフルオロ酢酸塩等の塩の形態である。
【0030】
式(I)中においてAで表すアミノ酸は、当業者に公知の任意のアミノ酸である。
【0031】
本発明のある実施形態によれば、Aは、アミノ酸、又は、同一の若しくは異なる最大10つのアミノ酸を有するペプチドを表す。基質にかかるコストの都合上、Aは、アミノ酸、又は、同一の若しくは異なる最大4つのアミノ酸を有するペプチドを表すことが好ましい。
【0032】
ある実施形態によれば、本発明の化合物は式(I):
【0033】
【化5】

【0034】
:を有し、
式中、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【0035】
【化6】

【0036】
:のナフタレン環、又は、式:
【0037】
【化7】

【0038】
:の任意に置換されたクマリン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cのアルキル基、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【0039】
【化8】

【0040】
:の任意に置換されたナフタレン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し、
(但し:
(i)R/R及びR/Rの少なくとも一方は、自身が結合しているフェニル環と共に上記の任意に置換されたナフタレン環又はクマリン環を形成し、かつ、
(ii)R及びRが自身が結合しているフェニル環と共に任意に置換されたクマリン環を形成する場合には、R及びRは自身が結合しているフェニル環と共に任意に置換されたナフタレン環を形成しない)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基又はC〜Cアルキル基を表し、
(但し:
(i)R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環又はクマリン環を形成する場合、Rは水素原子を表し、かつ、
(ii)R/R及びR/Rが自身が結合しているフェニル環と共にベンゼン環を形成する場合、Rはハロゲン原子を表す)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルボキシアルキル基、カルボキシル基又はスルホン酸基を表すか、
−そうでなければ、R及びRは、自身が結合している2つの炭素原子と共にC〜C環を形成し、
−Rは水素原子、臭素原子、塩素原子、ベンゾイル基、−COH基又は−SOH基を表し(但し、Rが水素原子ではない場合にはRが水素原子である)、
−R’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
−R’’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表すか、
−そうでなければ、R’及びR’’は、自身が結合している窒素原子と共にヘテロ原子を1つ以上含む複素環を形成し、
−Aは少なくとも1つのアミノ酸を表し、かつ、
−Xは、ブロック基を表す又は何も表さない。
【0041】
別の実施形態によれば、本発明の化合物は、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成するか、そうでなければR及びRが自身が結合しているフェニル環と共にクマリン環を形成するか、そうでなければR及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成し、他の置換基は上述の通りであり、但し、R/Rが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環又はクマリン環を形成する場合、R/Rが自身が結合しているフェニル環と共に同時にナフタレン環を形成することはなく、逆の場合も同じであるような式(I)の化合物から選択される。
【0042】
従って、この実施形態によれば、上記酵素基質は下記式(I):
【0043】
【化9】

【0044】
:の化合物であって、
式中、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【0045】
【化10】

【0046】
:のナフタレン環、又は、式:
【0047】
【化11】

【0048】
:の任意に置換されたクマリン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cのアルキル基、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【0049】
【化12】

【0050】
:の任意に置換されたナフタレン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し(但し:R/R及びR/Rのうち一方のみが自身が結合しているフェニル環と共に上記の任意に置換されたナフタレン環又はクマリン環を形成する)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基又はC〜Cアルキル基を表し、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルボキシアルキル基、カルボキシル基又はスルホン酸基を表すか、
−そうでなければ、R及びRは、自身が結合している2つの炭素原子と共にC〜C環を形成し、
−Rは水素原子、臭素原子、塩素原子、ベンゾイル基、−COH基又は−SOH基を表し(但し、Rが水素原子ではない場合にはRが水素原子である)、
−R’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
−R’’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表すか、
−そうでなければ、R’及びR’’は、自身が結合している窒素原子と共にヘテロ原子を1つ以上含む複素環を形成し、
−Aは少なくとも1つのアミノ酸を表し、かつ、
−Xは、ブロック基を表す又は何も表さない。
【0051】
本発明のある実施形態によれば、Aは、アミノ酸、又は、同一の若しくは異なる最大10つのアミノ酸を有するペプチドを表す。Aは、アミノ酸、又は、同一の若しくは異なる最大4つのアミノ酸を有するペプチドを表すことが好ましい。
【0052】
特定の実施形態によれば、本発明の化合物は下記式(Ia):
【0053】
【化13】

【0054】
:を有する酵素基質であって、式中、R、R、A及びXは上記に定義する通りである。
【0055】
式(Ia)の化合物は、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成し、かつ、R及びRがそれぞれ水素原子である式(I)の化合物である。
【0056】
好ましくは、式(Ia)の化合物において、Rは水素原子を表し、Rは水素原子又は塩素原子等のハロゲン原子を表し、Aはロイシン、プロリン及びアラニンから選択されるアミノ酸であり、かつ、Xはt−ブトキシカルボニルブロック基であるか又は存在しない。
【0057】
別の特定の実施形態によれば、本発明の化合物は式(Ib):
【0058】
【化14】

【0059】
:の酵素基質であって、式中、R、R、R、A及びXは上記に定義する通りである。
【0060】
式(Ib)の化合物は、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にクマリン環を形成し、かつ、R、R及びRがそれぞれ水素原子である式(I)の化合物である。
【0061】
好ましくは、本発明の式(Ib)の化合物において、Rは水素原子であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、C〜Cアルキル基、アラルキル基、アリール基又はカルボキシアルキル基を表すか、そうでなければR及びRは自身が結合している2つの炭素原子と共にC〜C環を形成し、Aはロイシン、プロリン及びアラニンから選択されるアミノ酸であり、かつ、Xはt−ブトキシカルボニルブロック基であるか又は存在しない。
【0062】
更に別の特定の実施形態によれば、本発明の化合物は式(Ic):
【0063】
【化15】

【0064】
:の酵素基質であって、式中、R、R、R,A及びXは上記に定義する通りである。
【0065】
式(Ic)の化合物は、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成し、かつ、R及びRがそれぞれ水素原子である式(I)の化合物である。
【0066】
好ましくは、式(Ic)の化合物において、R、R及びR基はそれぞれ水素原子を表し、Aはロイシン、プロリン及びアラニンから選択されるアミノ酸であり、かつ、Xはt−ブトキシカルボニルブロック基であるか又は存在しない。
【0067】
更に別の実施形態によれば、本発明の化合物は式(Id):
【0068】
【化16】

【0069】
:の酵素基質であって、式中、R、R、A及びXは上記に定義する通りである。
【0070】
式(Id)の化合物は、R/R及びR/Rがそれぞれ自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する式(I)の化合物である。
【0071】
本発明の化合物は、R/Rが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する場合、又は、R/Rが自身が結合しているフェニル環と共にクマリン環を形成する場合、又は、R/Rが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する場合、又は、R/R及びR/Rがそれぞれ自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する場合のいずれにおいても、R/R基及びR/R基が形成する環に応じたいくつかの製造方法によって調製可能である。
【0072】
従って、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する式(I)の化合物は、下記スキーム1に表す方法によって調製可能である。
【0073】
【化17】

【0074】
上記スキーム1によれば、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する式(I)の化合物は次のように調製される。適切な2−アミノ−5−ニトロフェノール化合物(a)と、予め沸点まで加熱した後で25℃に冷却した適切なハロゲン化1,4−ナフトキノン(b)とを反応させて、対応する9−ニトロベンゾ[a]フェノキサジノン(c)を形成する。続いて、この化合物cを、銅IIアセチルアセトナートを予め水素化ホウ素ナトリウムと反応させた混合物と反応させて、化合物(d)を形成する。その後、化合物(d)を、一種以上の任意に保護されたアミノ酸(6)と共に約−12℃に冷却した浴中で反応させて、式(I)の化合物を得る。注目すべきは、言うまでもなく、Aが単一のアミノ酸である場合、化合物(6)中のA’は化合物(I)のAに相当し、更に水酸基を含むということである。言い換えると、Aが単一のアミノ酸である場合、A’の末端は−C(O)OHであり、Aは−C(O)−を介して−NH−に結合していて−OHを有していないということである。また、Aが少なくとも2つのアミノ酸の鎖である場合には、A’の末端アミノ酸は上記の通りである、すなわち、Aの末端アミノ酸に関して、水酸基を更に含む。
【0075】
及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成し、かつ、Rが水素原子である式(Ia)の化合物は、下記のスキーム1a中に記載する方法によって調製可能である。
【0076】
【化18】

【0077】
このスキーム1aによれば、式(Ia)の化合物は次のように調製される。適切な3−アセトアミドフェノール化合物(1)と亜硝酸ナトリウム(X=Na)又は亜硝酸カリウム(X=K)等の亜硝酸塩(2)とを−3℃において反応させる。続いて、こうして得られたニトロソアセトアミドフェノール(3)と1,3−ジヒドロキシナフタレン(4)とをブタノール等の溶媒中で、約70℃に加熱して濃硫酸を添加し、90℃まで加熱し続けた後冷却することにより反応させ、適切な9−アセトアミドベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンを形成する。続いて、この化合物を穏やかに濃縮した硫酸と共に加熱することによって加水分解し、9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(5)を得る。最後の段階は、スキーム1の最後の段階と同じである。
【0078】
及びRが自身が結合しているフェニル環と共にクマリン環を形成する式(I)の化合物は、下記スキーム2に表す方法によって調製可能である。
【0079】
【化19】

【0080】
上記スキーム2によれば、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にクマリン環を形成し、かつ、式(I)の化合物の概略的な定義の中で示されるようにRが水素原子である式(I)の化合物は、次のように調製される。適切なp−フェニレンジアミン誘導体(7)を化合物(8)の存在下で酸化及び塩素化して、Willstaetter及びMayerの方法(1904,Chem.Ber.,37:1498)によりN,N’−ジクロロ−p−ベンゾキノンジイミン(9)を得る。続いて、この化合物をアルコール溶液中で5,7−ジヒドロキシクマリン(10)と反応させ、適切な7−アミノ−1,2−ピロニルフェノキサジン−3−オン(11)を得る。最後の段階は、スキーム1の最後の段階と同じである。
【0081】
式(I)の化合物においてR及びRが自身が結合しているフェニル環と共にクマリン環を形成している式(Ib)の化合物は、言うまでもなく、上記の方法で調製可能である。
【0082】
従って、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する式(I)の化合物は、下記スキーム3に表す方法によって調製可能である。
【0083】
【化20】

【0084】
上記スキーム3によれば、R及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する式(I)の化合物は、次のように調製される。適切な2−ナフトール(12)と適切な4−ニトロフェノール(13)とをFischer及びHeppの方法(参照:36.2,1807,1903)によって縮合して、適切なナフトフェノキサゾン(14)を得る。続いて、この化合物(14)をKehrman及びGottrauの方法(参照:38,2574,1905)によってヒドロキシルアミン塩酸塩(15)と反応させ、ヒドロキシイミン及びアミノケトン(それぞれ化合物16及び17)を得る。最後の段階は、スキーム1の最後の段階と同じである。
【0085】
式(I)の化合物においてR及びRが自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成している式(Ic)の化合物は、言うまでもなく、上記の方法で調製可能である。
【0086】
最後に、R/R及びR/Rがそれぞれ自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する本発明の式(I)の化合物(式(Id)の化合物)は、下記スキーム4に表す方法によって調製可能である。
【0087】
【化21】

【0088】
上記スキーム4によれば、R/R及びR/Rがそれぞれ自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する式(I)の化合物は、次のように調製される。適切な1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸(18)と適切な2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン(19)とを縮合して、適切なジナフトキサゾンスルホン酸(20)を得る。続いて、この化合物(20)をアンモニウムの存在下で加熱してアミノジナフトキサゾン(21)を得る。この方法の最後の段階は、スキーム1の最後の段階と同じである。
【0089】
上記の方法において、開始反応物質(化合物(1)、(2)、(4)、(6)、(7)、(8)、(10)、(12)、(13)、(15)、(18)及び(19))は、特にアルドリッチ社から、市販されており入手可能である。
【0090】
また、本発明の主題は、少なくとも一種の上記式(I)の発色性酵素基質を、単独で使用した、又は、本発明の基質によって検出される酵素活性以外の酵素活性に対して特異的な少なくとも一種の他の酵素基質と併用して使用した反応媒体に関する。
【0091】
事実上、本発明の化合物を含む反応媒体中に又はその上にペプチダーゼ活性を示す微生物を播種すると、着色が生じ、この着色は反応媒体中に又はその上に拡散せずにコロニーの中に集まる。
【0092】
「本発明の反応媒体」という用語は、少なくとも一種の微生物の少なくとも一種の酵素活性を顕現させることができる媒体を意味するものとする。
【0093】
この反応媒体は、視覚化用の媒体のみとしても使用可能であり、また、培養基及び視覚化用の媒体の両方としても使用可能である。前者の場合においては播種前に微生物を培養し、後者の場合においては反応媒体が、本発明の特定の実施形態を構成する培養基でもある。
【0094】
反応媒体は、固形、半固形又は液体であってよい。「固形媒体」という用語は、例えばゲル化媒体を意味するものとする。
【0095】
微生物を培養するために微生物学において従来から使用される固形媒体は寒天であるが、ゼラチン又はアガロースも使用可能である。例えば、Columbia agar、Trypcase soy agar、マッコンキー寒天(Mac Conkey agar)、サブロー寒天(Sabouraud agar)、又は、より一般的には、Handbook of Microbiological Media(CRC Press)中に記載されているもの等、いくつかの市販の調製品を使用可能である。
【0096】
反応媒体が培養基でもある場合、この反応媒体はゲル状であることが好ましい。
【0097】
反応媒体中における寒天の量は、2〜40g/l、好ましくは9〜25g/lである。
【0098】
本発明の酵素基質は、広い範囲のpHにおいて、特にpH5.5〜10において使用可能である。
【0099】
反応媒体中における本発明の酵素基質の濃度は0.025〜0.40g/l、有利には0.05g/lである。というのは、この基質濃度である場合には着色のコントラストが良好だからである。
【0100】
反応媒体は、本発明の基質によって検出される酵素活性以外の酵素活性に対して特異的な少なくとも一種の他の基質を含んでいてよい。この他の基質の酵素加水分解により、本発明の基質によって検出されるシグナルとは異なる(例えば、色の異なる又は蛍光の異なる)検出可能なシグナルが生じるため、一種以上の微生物について検出、識別及び/又は定量等の実証が可能である。
【0101】
他の特異的な基質としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコシド(Biosynth社)若しくは5−ブロモ−6−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトシド(Biosynth社)等のインドキシル型の基質、又は、微生物の検出に使用される他の任意の基質を挙げることができる。
【0102】
他の特異的な酵素基質の濃度は、一般的に0.01〜2g/lである。当業者であれば、使用する基質に応じて上記濃度を容易に決定できるであろう。
【0103】
また、反応媒体は、アミノ酸、ペプトン、炭水化物、ヌクレオチド、無機物、ビタミン、抗生物質、界面活性剤、バッファー、リン酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩又は金属塩等の一種以上の成分を組み合わせて含んでいてよい。媒体の例が、本出願人によるヨーロッパ特許EP656421及びPCT出願WO99/09207中に記載されている。
【0104】
従って、本発明の酵素基質及び反応媒体は、ペプチダーゼ活性を有する微生物の分析において有用である。
【0105】
従って、本発明の主題はまた、少なくとも一種のペプチダーゼ活性を示す微生物を検出、識別及び/又は定量するための、式(I)の発色性酵素基質又は上記反応媒体の使用である。
【0106】
また、本発明は、
少なくとも一種のペプチダーゼ活性を示す微生物を検出、識別及び/又は定量するための方法であって、
・上記反応媒体を準備すること、
・試験する生体試料を上記媒体に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・少なくとも一種のペプチダーゼ活性の存在を、単独で、又は、このペプチダーゼ活性以外の少なくとも一種の他の酵素活性と共に顕現させることを含む
ことを特徴とする方法
にも関する。
【0107】
上記播種段階及びインキュベート段階は、当業者に広く知られている。
【0108】
例えば、インキュベート時の温度は37℃である。また、インキュベート時の雰囲気は、嫌気的であっても好気的であってもよい。しかし、酵素活性が良好となるため、インキュベートは好気的条件下で実施されるのが好ましい。
【0109】
上記顕現は、反応媒体中に拡散せずにコロニーの中に集まる着色の変化を視覚化することにより、肉眼で実施される。
【0110】
本発明の酵素基質によって分析可能な微生物としては、グラム陰性菌、グラム陽性菌及び酵母を挙げることができる。
【0111】
グラム陰性菌としては、次の属の細菌を挙げることができる:シュードモナス属、エシェリキア属、サルモネラ属、赤痢菌属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、セラチア属、プローテウス属、カンピロバクター属、ヘモフィルス属、モルガネラ属、ビブリオ菌、エルシニア属、アシネトバクター属、ブランハメラ属、ナイセリア属、バークホルデリア(Burkholderia)属、シトロバクター属、ハフニア属、エドワードシエラ属及びレジオネラ属。
【0112】
グラム陽性菌としては、次の属の細菌を挙げることができる:エンテロコッカス菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、バチルス、リステリア菌、クロストリジウム属、マイコバクテリウム属及びコリネバクテリウム属。
【0113】
酵母の例としては、次の属の酵母が含まれる:カンジダ属、クリプトコッカス属、サッカロミセス属及びトリコスポロン属。
【0114】
分析する生体試料は、唾液、血液、尿若しくは糞便といった任意の臨床試料、又は、その分析が臨床医による診断を援助可能な他の任意の試料である。また、上記試料は、病原微生物が存在しないことを確認する必要のある又は汚染叢数を計数する必要のある又は特定の微生物を検出する必要のある、食品産業及び/又は医薬産業に由来する製品又はこれらの産業における原料の試料であってもよい。
【0115】
Aがアラニンである本発明の発色性基質は、グラム陰性菌とグラム陽性菌とを識別可能であるという利点を有する。
【0116】
従って、本発明の別の主題は、
細菌のうちグラム陽性微生物に属する細菌とグラム陰性微生物に属する細菌とを識別する方法であって、
・発色性基質の置換基Aがアラニンである上記反応媒体を準備すること、
・試験する生体試料を上記媒体に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・グラム陰性微生物又はグラム陽性微生物の存在を示す少なくとも一種の着色の存在を顕現させることを含む
ことを特徴とする方法
からなる。
【0117】
Aがプロリンである発色性基質は、Candida albicans種の酵母とCandida tropicalis種及びCandida glabrata種の酵母とを識別可能であるという利点を有する。
【0118】
従って、本発明の別の主題は、
Candida albicans種の酵母とCandida tropicalis種及びCandida glabrata種の酵母とを識別する方法であって、
・発色性基質の置換基Aがプロリンである上記反応媒体を準備すること、
・試験する生体試料を上記媒体に播種すること、
・インキュベートしておき、Candida albicans種の酵母の存在を示す少なくとも一種の着色の存在を顕現させることを含む
ことを特徴とする方法
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0119】
本発明は以下の実施例によってより明瞭に理解されるであろう。しかし、これらの実施例はいかなる制限を加えるものでもない。
【実施例1】
【0120】
「9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(R=R=R=Hである化合物(5))の合成」
1.1<2−ニトロソ−5−アセトアミドフェノールの調製>
3−アセトアミドフェノール(アルドリッチ社)9gを、水酸化ナトリウム2.8gを含む水溶液(100ml)中に溶解させた。この溶液を氷塩浴を使用して−3℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム5gを水(12ml)中に溶解させた溶液を添加した。
【0121】
得られた溶液を撹拌しながら、この溶液中に、リン酸を等量の水(25ml)で希釈した溶液を分液漏斗を使用して添加した。この添加は、温度が0℃以下に維持されるような速度で実施した。その後、赤褐色の沈殿が形成された。更に1時間激しく撹拌した後でpHを測定し、酸性(pH<2)であること確認した。
【0122】
こうして得られた濃厚な懸濁液をろ過し、残渣を冷水で入念に洗浄して、過剰な酸及び塩を除去した。適切な吸引を実施した後、残渣を減圧デシケーター中で乾燥させた。2−ニトロソ−5−アセトアミドフェノール7.36gが収率68.6%で得られた。
【0123】
1.2<9−アセトアミドベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンの調製>
撹拌及び70℃に加熱しながら、上記1.1項で得られた粗生成物1.8g及び1,3−ジヒドロキシナフタレン(アルドリッチ社)1.60gをブタン−1−オール50ml中に溶解させた。この加熱した溶液中に濃硫酸1gを滴下し、90℃になるまで加熱を続けた。30分後、この混合物を冷却した。固体相を吸引ろ過によって除去し、少量のエタノールで洗浄した。乾燥させた後、表題の化合物が収率76%で得られた。
【0124】
得られた物質を、移動相として酢酸エチル/トルエン(3:1)を使用して、シリカゲル板上の薄層クロマトグラフィーに供した。オレンジ色がかった淡黄色のスポットが得られた(R=0.8)。
【0125】
1.3<9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンの調製>
撹拌及び100℃に加熱しながら、上記1.2項で得られた化合物1.5gを最少量の硫酸及び水(1:1)の中に溶解させて水中に希釈し、続いて酢酸エチル中に抽出したところ、出発物質は薄層クロマトグラフィーによって全く検出されなかった。こうして得られた濃色溶液を撹拌し、数分間加熱して温度を沸点まで上昇させた後、冷却して氷水浴(300ml)中に添加した。沈殿した塩基を微細に砕いて40℃に加熱し、一晩静置した。上清液を沈殿により分離させ、生成物の懸濁液をろ過して水で洗浄した。乾燥させた後、所望の物質が収率78%で得られた。
【実施例2】
【0126】
「9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(R/Rがナフタレンを形成し、R=R=R=R=H、A=アミノ酸かつX=N−t−BOCである式(I)の化合物)のアミノアシル化」
加熱しながら、実施例1中で得られた関連のあるアミノ化合物0.52g(2mmol)をジメチルホルムアミド(高速液体クロマトグラフィー級品)15ml中に溶解させ、その後テトラヒドロフラン10ml中に溶解させた。この溶液を、(ナトリウムホウ素水和物(sodium borohydrate)/酢酸から得られた)水素、及び、触媒として10%パラジウム−炭素0.1gを使用して三口フラスコ中で水素化した。外観が濃紫色から蛍光性の緑色に変化した。この水素化は30分間継続して実施し、フラスコを閉じて一晩静置した。
【0127】
N−tBOCで保護されたアミノ酸3mmolを無水THF10ml中に溶解させ、得られた物質を−12℃に冷却した(氷/塩浴)。この冷却した溶液にN−メチルモルホリン0.33g(3.3mmol)を添加した後、クロロギ酸イソブチル0.42g(3.1mmol)を−12℃〜−9℃においてゆっくりと添加した。5分後、再度酸化しないように水素を導入しながら、上記の還元アミン溶液を撹拌している中にこの無水反応混合物を添加し、得られた混合物を少なくとも−5℃まで前冷却した。10分後、フラスコを閉じて内容物を室温において更に5時間撹拌した。
【0128】
反応混合物をろ過して、溶媒(THF)をロータリーエバポレーターで除去した。水/氷の混合物を激しく撹拌している中に上記のDMF溶液を添加し、沈殿をろ過して水で洗浄し、風乾させた。粗生成物をジクロロメタン(DCM)中に溶解させ、希水酸化ナトリウム溶液(0.2M)で洗浄した後、水で洗浄した。硫酸マグネシウムによって乾燥させ、溶媒を除去した。
【0129】
ある場合には、円錐形のシリカゲルを使用してDCM抽出物をろ過することによって、薄層クロマトグラフィーで観察される傾向のある原料物質を完全に除去した。
【0130】
本実施例中で得られた化合物は、次の方法で脱保護可能である:この化合物を少量の酢酸エチル中に溶解させ、塩化水素で飽和した等量の酢酸エチルと共に1時間撹拌した。過剰量の無水エーテルを添加し、沈殿した塩酸塩を迅速にろ過して除去した後、更にエーテル又はエーテル/無機物を添加して洗浄し、真空中で乾燥させた。
【実施例3】
【0131】
「9−アミノ−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(R/Rがナフタレンを形成し、R=R=R=H、R=−C(O)OR’かつR’=Cである式Iの化合物)の合成」
3.1<エチル1,3−ジヒドロキシナフトエートの調製>
マロン酸ジエチル及び塩化フェニルアセチルからMeyer及びBlochの方法(Org.Synth.Coll.,Vol 3,p132)によってこの化合物を製造した。
【0132】
3.2<9−アセトアミド−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンの調製>
加熱及び70℃で撹拌しながら、2−ニトロソ−5−アセトアミドフェノール1.8g(10mmol)及びエチル1,3−ジヒドロキシナフトエート2.08g(9mmol)をブタノール60ml中に溶解させた。濃硫酸をゆっくりと滴下し、得られた溶液を約90℃に徐々に加熱した。30分後、反応混合物を冷却し、5℃で一晩維持した。
【0133】
赤色の生成物を吸引ろ過によって除去し、少量のエタノールで洗浄した。
【0134】
乾燥させた後、9−アセトアミド−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンが収率65%で得られた。
【0135】
3.3<9−アミノ−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンの調製>
上記3.2項で得られた9−アセトアミド−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンを硫酸(3ml)及びエタノール(3ml)の混合物中に溶解させた。徐々に水(1ml)を添加しながら、この混合物を80℃に加熱した。アミン特有の紫色が迅速に現われた。この試料を水で希釈して酢酸エチル中に抽出したものについて薄層クロマトグラフィーにより9−アセトアミド−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンが完全に検出されなくなるまで、加水分解を続けた。
【0136】
この反応混合物を氷冷水150ml中に添加し、生成物を吸引ろ過によって回収して水で洗浄し、乾燥させた。生成物が収率85%で得られた。
【実施例4】
【0137】
「9−アミノ−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンのアミノアシル化」
実施例3中で得られた生成物を使用し、また、N−t−Bocで保護された適切なアミノ酸を使用して、実施例2中に記載する工程を実施した。
【0138】
アミノ化化合物の脱保護は、トリフルオロ酢酸2ml中に溶解させた後、エーテルから沈澱させることによって実施した。このようにしてオレンジ色粉末状の生成物が得られ、薄層クロマトグラフィーによれば均質であった。
【実施例5】
【0139】
「9−アミノ−6−クロロベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(R/Rがナフタレンを形成し、R=R=R=HかつR=Clである式Iの化合物)の合成」
5.1<9−ニトロ−6−クロロベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンの調製>
純度95%の2−アミノニトロフェノール(アルドリッチ社)1.54g(10mmol)を、予め温度を沸点まで加熱した後25℃に冷却した2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン(Fluka社)2.26g(10mmol)のエタノール懸濁液中に添加した。この混合物を撹拌し、無水酢酸ナトリウム1gを添加した。数時間後、オレンジ色がかった褐色の沈殿が形成された。24時間撹拌し続けた後、固体を吸引ろ過によって分離して乾燥させ、加熱した酢酸から再結晶させた(収率65%)。
【0140】
5.2<9−アミノ−6−クロロベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンの調製>
エタノール10ml中に懸濁した銅IIアセチルアセトナート130mg(1mmol)を水素化ホウ素ナトリウム0.18g(5mmol)と共に室温で撹拌し、この物質の触媒作用により褐色の化合物が形成された。(約10分間)。上記5.1項で得られた化合物1.29g(4mmol)をプロパン−1−オール10ml中に懸濁した懸濁液をこの混合物に添加し、その後水素化ホウ素ナトリウム0.37g(10mmol)を添加した。この混合物を30℃において3時間撹拌した。
【0141】
冷却した後、この反応混合物を氷/水混合物中に添加し、続いてろ過によって粗生成物を回収し、乾燥させた。加熱したブタン−1−オール中にこれを溶解させ、ろ過して銅を含む物質を除去することによって精製した。濃縮した後に結晶化させることにより、表題の化合物0.68gが得られた。
【実施例6】
【0142】
「9−アミノ−6−クロロベンゾ[a]フェノキサジン−5−オンのアミノアシル化」
実施例5中で得られた生成物を使用し、また、N−t−Bocで保護された適切なアミノ酸を使用して、実施例2中に記載する工程を実施した。
【0143】
アミノ化化合物の脱保護は、実施例2中に記載される方法も実施した。
【実施例7】
【0144】
「5−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−9−オン(R/Rがナフタレンを形成し、かつ、R=R=R=R=R=Hである式Iの化合物)の合成」
7.1<ナフトフェノキサゾンの調製>
上記Fisher及びHeppの方法とほぼ同様の方法により、縮合剤として塩化亜鉛を使用することによって、4−ニトロソフェノール及び2−ナフトールの縮合を氷酢酸中で実施した。
【0145】
加熱したトルエン/無機物から収率25%で粗生成物を再結晶させた。
【0146】
ここで使用される4−ニトロソフェノールはFluka社から入手した市販品であり、次の工程によって変換されたものである。エーテル中に溶解させ、Phase−Sep紙でろ過してNoriteと共に1時間撹拌することによってこの生成物を精製した。ろ過した後、このエーテル溶液をロータリーエバポレーターで蒸発させて量を減らし、冷却して純粋なニトロソフェノールの結晶を得た。
【0147】
7.2<アミン物質の調製>
上記Kehrmann及びGottrauの方法によって、上記7.1項で得られたナフトフェノキサゾン3.0g及びヒドロキシルアミン塩酸塩3.0gを無水エタノール200mlと混合し、この混合物を沸点まで徐々に加熱した。ナフトフェノキサゾンの赤色は徐々にオレンジ色に変化し、塩基の塩酸塩の沈澱が生じた。沈殿をろ過により除去して少量のエタノールで洗浄した後乾燥させることによって、塩酸塩が収率63%で得られた。
【0148】
こうして得られた塩1gを水と共に加熱して分解させた後冷却することによって、遊離の塩基の緑色の残渣が得られた。溶解させるために十分量のHClを添加しながら、生成物をろ過して40℃のエタノール数ml中に溶解させた。蛍光性の紫がかった赤色の溶液を十分量の無水酢酸ナトリウムと共に加熱して、遊離の塩基(濃緑色の針状金属)を得た。生成物をろ過して熱水で洗浄し、収率97%となるまで乾燥させた。
【実施例8】
【0149】
「7−アミノ−1,2−(3’,4’−シクロペンテノ−2’−ピロニル)−フェノキサジン−3−オン(R/Rがクマリンを形成し、R及びRが自身が結合している2つの炭素原子と共にシクロペンテンを形成し、かつ、R=R=R=R=Hである式Iの化合物)の合成」
8.1<5,7−ジヒドロキシ−3,4−シクロペンテノクマリンの調製>
フロログルシノール3.02g(24mmol)及びエチル2−オキソシクロペンタンカルボキシレート3.12g(20mmol)を小型フラスコ中で少量のエタノールを使用して混合した。この混合物を冷却した後で撹拌している中に、硫酸/水の75質量%の混合物30mlを添加した。室温で48時間撹拌を継続した。得られた半固形の物質を、氷/水の混合物を入念に撹拌している中に添加してろ過した。残渣を水で入念に洗浄し、吸引により排水させて風乾させた。
【0150】
エタノールから再結晶させることによって得られた生成物は、薄層クロマトグラフィーによれば均質であった。収率は2.8gであった。
【0151】
8.2<表題の化合物の調製>
上記8.1項で得られた5,7−ジヒドロキシ−3,4−シクロペンテノクマリン2.18g(10mmol)を加熱したエタノール40ml中に溶解させ、これを撹拌している中に1,4−ジクロロ−p−ベンゾキノンジイミン1.74g(10mmol)を添加した。この反応混合物を水浴上で数分間ゆっくりと還流させると、その間に液体の色が濃紫色になった。更に20分間還流させた後、酢酸塩2gを含む氷/水の混合物250ml中に反応混合物を添加した。染料は、紺青色の沈殿として分離された。こうして得られた沈殿を吸引ろ過によって除去し、水で洗浄した。酢酸及びブタン−1−オールから再結晶させることにより、乾燥した生成物(1.5g)を取得することができた。
【実施例9】
【0152】
「7−アミノ−1,2−(4’−メチル−2’−ピロニル)フェノキサジン−3−オン(R/Rがクマリンを形成し、Rがメチル基であり、かつ、R=R=R=R=R=Hである式Iの化合物)の合成」
9.1<5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリンの調製>
フロログルシノール2.77g(22mmol)とアセト酢酸エチル2.6g(20mmol)の混合物を溶解させて冷却し、半固形の塊に硫酸/水(75%(w/w))の混合物40mlを迅速に添加した。この混合物を24時間撹拌している間に、半固形の塊が形成された。酢酸ナトリウム5gを含む氷/水の混合物(300ml)の中にこれを添加し、沈殿を吸引ろ過によって回収した。
【0153】
水で洗浄して乾燥させる工程を繰り返した後、粗生成物を加熱したエタノールから再結晶させることにより、クマリン3.05gが得られた。
【0154】
9.2<7−アミノ−1,2−(4’−メチル−2’−ピロニル)フェノキサジン−3−オンの調製>
5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリン1.92g(10mmol)を、無水メタノール50ml中に溶解させた。発熱を緩和して生成物の塩素化を低減するため、この溶液を加熱して撹拌している中に尿素7.5g(0.125mol)を添加した。反応混合物を撹拌しながら2時間還流させ、その中に1,4−ジクロロベンゾキノンジイミン1.74g(10mmol)を添加した。
【0155】
酢酸ナトリウム10gを含む水/氷の混合物を入念に撹拌し、この中に上記濃紫色の溶液を添加した。濃紫色の沈殿を吸引ろ過によって除去し、乾燥させた。粗生成物を50℃に加熱したメタノール200ml中に懸濁し、この混合物を入念に撹拌している中に亜ジチオン酸ナトリウム5gと炭酸ナトリウム5gとを水20ml中に溶解させた溶液を徐々に添加することによって、精製した。黄褐色の沈殿が形成された。
【0156】
この反応混合物を迅速にろ過することによって、ジヒドロ化合物の状態の染料の沈殿を分離させた。少量の亜ジチオン酸ナトリウムを含む氷/水の混合物でこれを洗浄し、これにより湿った沈殿をメタノール100ml中に移した。この溶液を急速に撹拌して40℃に加熱し、水を徐々に添加することによって無色の染料(ジヒドロ化合物の状態)を再度酸化させ、濃紫褐色の沈殿を取得できた。最後に、ろ過により回収した後で乾燥させた染料の酸化及び沈澱を、水100mlを添加することによって停止させた。薄層クロマトグラフィーにより紫色の化合物のみが示され、この化合物の少量はジヒドロ化合物の状態であることが分かった。
【実施例10】
【0157】
「7−アミノ−1,2−(3’−カルボキシエチル−4’−メチル−2’−ピロニル)フェノキサジン−3−オン(R/Rがクマリンを形成し、Rがカルボキシエチル基であり、Rがメチル基であり、かつ、R=R=R=R=Hである式Iの化合物)の合成」
10.1<5,7−ジヒドロキシ−4−メチルクマリン−3−プロピオン酸エチルの調製>
フロログルシノール2.77g(22mmol)及びアセチルグルタル酸ジエチル4.60g(20mmol)を混合して冷却し、硫酸/水の75質量%混合物35mlと共に撹拌した。48時間撹拌を継続した。こうして得られた物質を氷/水の混合物を撹拌している中に添加することによって分離し、吸引ろ過を実施した。残渣を水で入念に洗浄して風乾させた。
【0158】
こうして得られた物質を、エタノール中に懸濁して水酸化カリウム水溶液(3モル等量)と共に撹拌することによって、遊離の酸に直接変換した。4時間後、pH2の2M塩酸を添加することによって酸が沈殿した。多量の沈殿を吸引ろ過により除去して水で洗浄し、吸引によって排水させた。風乾させた後、所望の物質3.8gが得られた。
【0159】
10.2<表題の化合物の調製>
この化合物を、1,4−ジクロロ−p−ベンゾキノンジイミン及び上記10.1項で得られた酸(等モル)を使用して、実施例8.1と同様に調製した。この反応混合物を氷/水の混合物中に添加し、塩酸を添加してpH2にすることによって、遊離のカルボン酸の状態の染料を完全に沈澱させた。得られた乾燥物質は2.2gであった。
【実施例11】
【0160】
「ロイシン−ペプチダーゼ活性を示す微生物の検出」
11.1<検出用の媒体の調製>
biogelytone(ビオメリュー社)1.4g、肉抽出物(ビオメリュー社)0.84g、NaCl(メルク社)2.24g、IPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトピラノシド、BIOSYNTH社)水溶液280μl(濃度10g/l)及びEuropean agar(ビオメリュー社)4.2gを混合することにより、検出用の媒体を調製した。
【0161】
その後、実施例2中で得られた本発明の基質(アミノ酸がロイシン(ロイシン−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(Leu−ABP))である)か、そうでなければ、従来技術の基質(ロイシン−アミノメチルクマリン(Leu−AMC、BACHEM社))を次の方法で添加した。浸透水(osmosed water)280mlをこの媒体に添加し、この混合物を水浴中で100℃において溶解させた。この混合物を121℃において15分間オートクレーブし、水浴中で50℃まで冷却した。
【0162】
その後、DMSO(メルク社)中に溶解させた基質を、表1中に示す濃度に従って添加した。
【0163】
【表1】

【0164】
その後、媒体をペトリ皿中に添加した。
【0165】
11.2<微生物菌株の播種>
本出願人が保存している株に由来する微生物菌株10株を生理食塩水中に懸濁し、各媒体上のコロニー中に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの着色、拡散及びこの着色の濃さについて記録した。
【0166】
11.3<結果>
結果は、着色の濃さを0〜4の任意のスケールを基準として、また、拡散を0〜4の任意のスケールを基準として表した。この結果を下記表2中に示す。表中、
−Tはインキュベート時間、Cは増殖直径(mm)、Iは着色の濃さ、Coはコロニーの色、また、Dは拡散に相当し、
−Bは蛍光性青色、また、Rはピンク色に相当する。
【0167】
【表2】

【0168】
上記表1及び表2中に示す結果から、本発明の発色性酵素基質を使用することによってロイシン−ペプチダーゼ活性を示す微生物を0に分析できること、また、従来技術の基質と比較してコロニー周辺への拡散が非常に少ないことが実証される。
【実施例12】
【0169】
「プロリル−ペプチダーゼを示す微生物の検出」
12.1<検出用の媒体の調製>
酵母抽出物(ビオメリュー社)1.68g、biocase(ビオメリュー社)1.4g、麦芽抽出物(ビオメリュー社)1.26g、グルコース(メルク社)0.08g及び寒天(ビオメリュー社)3.92gを混合することによって、検出用の媒体を調製した。
【0170】
この粉末に浸透水280mlを添加した後、この混合物を水浴中で100℃において溶解させた。生成物を2つのフラスコ中に140mlずつに分けた。121℃において15分間オートクレーブを実施し、生成物を水浴中で50℃まで冷却した。
【0171】
その後、L−プロリル−7−アミノ−4−メチルクマリン(Pro−AMC、BACHEM社)を第一のフラスコ中に添加し(コントロール)、続いて、L−プロリル−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(Pro−ABP、実施例2中で得られたアミノ酸がL−プロリンである本発明の基質)を最終濃度50mg/lとなるように第二のフラスコ中に添加した。
【0172】
12.2<微生物菌株の播種>
本出願人が保存している株に由来する微生物菌株9株を生理食塩水中に懸濁し、各媒体上のコロニー中に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの大きさ、着色及びこの着色の濃さについて記録した。
【0173】
12.3<結果>
段落11.3中に記載する規則及び学名に従って、結果を以下の表3中に示す。
【0174】
表3:従来技術の基質Pro−AMC及び本発明の基質Pro−ABPによる微生物のプロリル−ペプチダーゼ活性
【0175】
【表3】

【0176】
上記表中で示した結果から、本発明の発色性酵素基質を使用することによってプロリル−ペプチダーゼ活性を示す微生物の分析、特にCandida albicans種の酵母とCandida tropicalis種及びCandida glabrata種の酵母の分離が明らかに可能となることが実証される。
【実施例13】
【0177】
「アラニル−ペプチダーゼ活性を示す微生物の検出」
13.1<検出用の媒体の調製>
biogelytone(ビオメリュー社)3.6g、肉抽出物(ビオメリュー社)2.16g、麦芽抽出物(ビオメリュー社)1.26g、NaCl(メルク社)5.76g及び寒天(ビオメリュー社)10.8gを混合することによって、検出用の媒体を調製した。
【0178】
この粉末に浸透水720mlを添加した後、この混合物を水浴中で50℃において溶解させた。生成物を2つのフラスコ中に360mlずつに分けた。121℃において15分間オートクレーブを実施し、生成物を水浴中で100℃まで冷却した。
【0179】
その後、L−アラニル−7−アミノ−4−メチルクマリン(Ala−AMC、BACHEM社)を最終濃度50mg/lとなるように第一のフラスコ中に添加し(コントロール)、続いて、L−アラニル−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(Ala−ABP、実施例2中で得られたアミノ酸がL−アラニンである本発明の基質)を最終濃度25mg/lとなるように第二のフラスコ中に添加した。
【0180】
13.2<微生物菌株の播種>
本出願人が保存している株に由来する微生物菌株25株を生理食塩水中に懸濁し、各媒体上のコロニー中に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの大きさ、着色及びこの着色の濃さについて記録した。
【0181】
13.3<結果>
段落11.3中に記載する規則及び学名に従って、結果を以下の表4中に示す。
【0182】
表4:従来技術の基質Ala−AMC及び本発明の基質Ala−ABPによる微生物のアラニル−ペプチダーゼ活性
【0183】
【表4】

【0184】
上記の表中で示した結果から、本発明の発色性酵素基質を使用することによってアラニル−ペプチダーゼ活性を示す微生物の分析、特にグラム陽性菌(活性を示さない)とグラム陰性菌(活性を示す)との分離が明らかに可能となることが実証される。
【実施例14】
【0185】
「β−アラニンペプチダーゼ活性を示す微生物の検出」
14.1<検出用の媒体の調製>
Columbia媒体300mlを水浴中で100℃において溶解させ、121℃で15分間オートクレーブした。その後、生成物を水浴中で50℃まで冷却した。
【0186】
この媒体を3つのフラスコ中に100mlずつに分け、この中に、アミノ酸がβ−アラニンである実施例4及び6の基質(それぞれ、β−アラニン−9−アミノ−6−カルボエトキシベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(β−Ala−ACAP)及びβ−アラニン−9−アミノ−6−クロロベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(β−Ala−ACHP))をDMSO中に溶解させたものを、50℃において下記表5中に示す濃度に従って添加した。
【0187】
【表5】

【0188】
その後、媒体をペトリ皿中に添加した。
【0189】
14.2<微生物菌株の播種>
本出願人が保存している株に由来する微生物菌株9株を生理食塩水中に懸濁したものを、上記14.1項中で調製した媒体上に、多点接種法により100000cfu/点の割合で播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニー(菌株1つあたりコロニー1つ)の外観を調べた。
【0190】
14.3<結果>
段落11.3中に記載する規則及び学名に従って、結果を以下の表6中に示す。表中、RPは淡いピンク色を示す。
【0191】
【表6】

【0192】
上記の表中に示す結果から、本発明の発色性酵素基質を使用することによって、(P.aeruginosa株に特異的であって他の菌株は有していない)β−アラニンペプチダーゼ活性を示す微生物の分析が明らかに可能となることが実証される。
【実施例15】
【0193】
「Aが少なくとも二種のアミノ酸である基質を使用することによるアラニンペプチダーゼ活性を示す微生物の検出」
15.1<検出用の媒体の調製>
Columbia媒体1000mlを水浴中で100℃において溶解させ、121℃で15分間オートクレーブした。その後、これを水浴中で50℃まで冷却した。
【0194】
この媒体を5つのフラスコ中に200mlずつに分け、この中に、Aが以下であるような実施例2の基質を50℃において添加した。基質はそれぞれDMSO中に溶解させ、最終濃度50mg/lで使用する。
−媒体1;L−アラニン(L−アラニン−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(A−ABP))、
−媒体2;L−アラニン−L−アラニン(L−アラニン−L−アラニン−9−アミノベンゾ−[a]フェノキサジン−5−オン(AA−ABP))、
−媒体3;L−アラニン−L−アラニン−L−アラニン(L−アラニン−L−アラニン−L−アラニン−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(AAA−ABP))、
−媒体4;L−アラニン−グリシン(L−アラニン−グリシン−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(AG−ABP))、また、
−媒体5;グリシン−L−アラニン(グリシン−L−アラニン−9−アミノベンゾ[a]フェノキサジン−5−オン(GA−ABP)。
【0195】
その後、媒体をペトリ皿中に添加した。
【0196】
15.2<微生物菌株の播種>
本出願人が保存している株に由来する微生物菌株9株を生理食塩水中に懸濁したものを、上記15.1項中で調製した媒体上のコロニー中に、多点接種法により15000cfu/点の割合で播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。
【0197】
15.3<結果>
段落11.3中に記載する規則及び学名に従って、結果を以下の表7及び表8中に示す。表中、Rはピンク色、RPは淡いピンク色、また、Iは無色を示す。
【0198】
【表7】

【0199】
【表8】

【0200】
表7及び表8中に示す結果から、本発明の発色性酵素基質を使用することによって、この基質のアミノ酸鎖長に関わらず、アラニンペプチダーゼ活性を有する微生物株の酵素発現の検出が明らかに可能となることが実証される。また、対象菌株に応じてアミノ酸の性質及び数を変えて基質の特異性及び感受性又は毒性の両方を変化させることにより、対象対象菌株の分析が可能である。
【実施例16】
【0201】
「本発明の基質と従来技術の基質との併用による微生物の検出」
16.1<検出用の媒体の調製>
酵母抽出物3.3g、Biocase2.75g、麦芽抽出物2.475g、グルコース0.165g及び寒天7.7gを混合し、浸透水550mlを添加した。
【0202】
この混合物を水浴中で100℃において溶解させ、121℃で15分間オートクレーブした。その後、これを水浴中で50℃まで冷却した。
【0203】
実施例2中で調製した本発明の基質(アミノ酸がプロリンである)を0.05g/lの割合で添加し、従来技術の他の基質である5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコシドを0.05g/lの割合で添加した。
【0204】
その後、媒体をペトリ皿中に分けた。
【0205】
16.2<微生物菌株の播種>
本出願人が保存している株に由来する微生物菌株12株を生理食塩水中に懸濁し、上記16.1項中で調製した媒体上のコロニー中に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。
【0206】
16.3<結果>
下記の表9中に示す結果は、増殖の大きさ(mm)、活性及び色を示し、Tはインキュベート時間、Rはピンク色、Oはオレンジ色、Vは緑色、Tは青緑色、Mは褐色、GOはオレンジがかった灰色、また、GVは灰色がかった緑色を示す。
【0207】
【表9】

【0208】
上記の表9中に示す結果から、菌株が示す酵素活性の着色特性は以下のように明瞭に観察されることが分かる:
−プロリンペプチダーゼ活性のみを有する菌株(Escherichia coli、Morganella morganii、Acinetobacter baumanii、Hafnia alvei、Edwardsiella tarda及びCandida albicans)の場合は、本発明の基質の加水分解によってピンク色からオレンジ色に着色し、
−β−グルコシダーゼ活性のみを有する菌株(Staphylococcus sciuri、Enterococcus faecalis)の場合は、従来技術の基質の加水分解によって青緑色に着色し、また、
−二種の酵素活性を有する菌株(Serratia marcescens、Serratia liquefaciens、Klebsellia pneumoniae、Pseudomonas aeruginosa及びListeria innocua)の場合は、ピンク色/オレンジ色及び青緑色の二種の着色に由来して緑色から褐色に着色する。
【0209】
従って、各菌株に特異的ないくつかの異なる酵素活性は、これらの代謝により検出可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色性酵素基質であって、
下記式(I):
【化1】

:に相当し、
式中、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【化2】

:のナフタレン環、又は、式:
【化3】

:の任意に置換されたクマリン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cのアルキル基、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し、
−R及びRは、自身が結合しているフェニル環と共に式:
【化4】

:の任意に置換されたナフタレン環を形成するか、
−そうでなければ、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基、−SOH基又はスルホンアミド基を表し、
(但し、
(i)R/R及びR/Rの少なくとも一方は、自身が結合しているフェニル環と共に前記の任意に置換されたナフタレン環又はクマリン環を形成し、かつ、
(ii)R及びRが自身が結合しているフェニル環と共に任意に置換されたクマリン環を形成する場合には、R及びRは自身が結合しているフェニル環と共に任意に置換されたナフタレン環を形成しない)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−C(O)OR’基、C(O)NR’R’’基又はC〜Cのアルキル基を表し(但し、R/R及びR/Rがそれぞれ自身が結合しているフェニル環と共にナフタレン環を形成する場合、Rはハロゲン原子を表す)、
−R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C〜Cアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルボキシアルキル基、カルボキシル基又はスルホン酸基を表すか、
−そうでなければ、R及びRは、自身が結合している2つの炭素原子と共にC〜C環を形成し、
−Rは水素原子、臭素原子、塩素原子、ベンゾイル基、−COH基又は−SOH基を表し(但し、Rが水素原子ではない場合にはRが水素原子である)、
−R’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、
−R’’は、水素原子又はC〜Cアルキル基を表すか、
−そうでなければ、R’及びR’’は、自身が結合している窒素原子と共にヘテロ原子を1つ以上含む複素環を形成し、
−Aは少なくとも1つのアミノ酸を表し、かつ、
−Xは、ブロック基を表す又は何も表さない
ことを特徴とする発色性酵素基質。
【請求項2】
/R及びR/Rのうち一方のみが自身が結合しているフェニル環と共に請求項1に記載の任意に置換されたナフタレン環又はクマリン環を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の発色性酵素基質。
【請求項3】
下記式(Ia):
【化5】

:に相当し、式中、R、R、A及びXは請求項1に定義する通りである
ことを特徴とする請求項2に記載の発色性酵素基質。
【請求項4】
は水素原子を表し、Rは水素原子又はハロゲン原子を表し、Aはロイシン、プロリン及びアラニンから選択されるアミノ酸であり、かつ、Xはt−ブトキシカルボニルブロック基であるか又は存在しない
ことを特徴とする請求項3に記載の発色性酵素基質。
【請求項5】
下記式(Ib):
【化6】

:に相当し、式中、R、R、R、A及びXは請求項1に定義する通りである
ことを特徴とする請求項2に記載の発色性酵素基質。
【請求項6】
は水素原子であり、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、C〜Cアルキル基、アラルキル基、アリール基又はカルボキシアルキル基を表すか、そうでなければR及びRは自身が結合している2つの炭素原子と共にC〜C環を形成し、Aはロイシン、プロリン及びアラニンから選択されるアミノ酸であり、かつ、Xはt−ブトキシカルボニルブロック基であるか又は存在しない
ことを特徴とする請求項5に記載の発色性酵素基質。
【請求項7】
下記式(Ic):
【化7】

:に相当し、式中、R、R、R,A及びXは請求項1に定義する通りである
ことを特徴とする請求項2に記載の発色性酵素基質。
【請求項8】
、R及びR基はそれぞれ水素原子を表し、Aはロイシン、プロリン及びアラニンから選択されるアミノ酸であり、かつ、Xはt−ブトキシカルボニルブロック基であるか又は存在しない
ことを特徴とする請求項7に記載の発色性酵素基質。
【請求項9】
下記式(Id):
【化8】

:に相当し、式中、R、R、A及びXは請求項1に定義する通りである
ことを特徴とする請求項1に記載の発色性酵素基質。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の発色性酵素基質の少なくとも一種を、単独で使用した、又は、本発明の基質によって検出される酵素活性以外の酵素活性に対して特異的な少なくとも一種の他の酵素基質と併用して使用した反応媒体。
【請求項11】
培養基である
ことを特徴とする請求項10に記載の媒体。
【請求項12】
ゲル状である
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の媒体。
【請求項13】
少なくとも一種のペプチダーゼ活性を示す微生物を検出、識別及び/又は定量するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の発色性酵素基質又は請求項10〜12のいずれか1項に記載の反応媒体の使用。
【請求項14】
少なくとも一種のペプチダーゼ活性を示す微生物を検出、識別及び/又は定量するための方法であって、
・請求項10〜12のいずれか1項に記載の反応媒体を準備すること、
・試験する生体試料を前記媒体に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・少なくとも一種のペプチダーゼ活性の存在を、単独で、又は、このペプチダーゼ活性以外の少なくとも一種の他の酵素活性と共に顕現させることを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
細菌のうちグラム陽性微生物に属する細菌とグラム陰性微生物に属する細菌とを識別する方法であって、
・発色性基質の置換基Aがアラニンである請求項10〜12のいずれか1項に記載の反応媒体を準備すること、
・試験する生体試料を前記媒体に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・グラム陰性微生物又はグラム陽性微生物の存在を示す少なくとも一種の着色の存在を顕現させることを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
Candida albicans種の酵母とCandida tropicalis種及びCandida glabrata種の酵母とを識別する方法であって、
・発色性基質の置換基Aがプロリンである請求項10〜12のいずれか1項に記載の反応媒体を準備すること、
・試験する生体試料を前記媒体に播種すること、
・インキュベートしておくこと、及び、
・Candida albicans種の酵母の存在を示す少なくとも一種の着色の存在を顕現させることを含む
ことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2007−501018(P2007−501018A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530437(P2006−530437)
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050193
【国際公開番号】WO2004/101536
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】