酵素検出のための電気化学的検定方法
【課題】
本発明の目的は、レドックス活性分子のE0の変化に対応する溶媒再配置エネルギー内の変化を利用して、標的検体を検出する組成物と方法を提供することである。
【解決手段】
本発明は、電子移動プロセスの核再配置エネルギーλを使って酵素を検出する新規組成物と方法に関する。前記方法は:(a)標的酵素を含む試験試料を電極を含む固体支持体に追加するステップであって、該電極は:(i)自己組織化単分子層(SAM)と、(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、(iii)前記電極に付着する複数の前記酵素の基板とを含み、(b)前記標的酵素と前記基板を接触して複数の反応物質を形成するステップと、(c)前記E0の変化を測定することによって、前記酵素の存在を判断するステップとを含む。
本発明の目的は、レドックス活性分子のE0の変化に対応する溶媒再配置エネルギー内の変化を利用して、標的検体を検出する組成物と方法を提供することである。
【解決手段】
本発明は、電子移動プロセスの核再配置エネルギーλを使って酵素を検出する新規組成物と方法に関する。前記方法は:(a)標的酵素を含む試験試料を電極を含む固体支持体に追加するステップであって、該電極は:(i)自己組織化単分子層(SAM)と、(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、(iii)前記電極に付着する複数の前記酵素の基板とを含み、(b)前記標的酵素と前記基板を接触して複数の反応物質を形成するステップと、(c)前記E0の変化を測定することによって、前記酵素の存在を判断するステップとを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体のE0の変化を使って酵素を検出する新規組成物と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願へのクロスリファレンス)
本願は、2007年10月17日出願の米国仮出願番号60/980、733と、2008年8月7日出願の61/087、094と61/087、102との優先権の利益を主張し、これらの開示全体をここに参照のために取り込む。
【0003】
電子移動反応は、光合成から有気呼吸に至る様々な生物学的変換において、重大なステップである。化学系、生物系の双方における電子移動反応の研究によって、大きな知識体系と、少数のパラメータに関する電子移動速度について述べる強力な理論的基礎が発展した。
【0004】
タンパク質とその他の生体分子中の電子トンネルは、レドックス中心の電子的相互作用が比較的弱い反応で発生する。半古典論では、電子移動の反応速度は、駆動力(-ΔG°)、核再配置パラメータ(λ)、および遷移状態における反応物と生成物の間の電子的結合の強さ(HAB)によるものであり、以下の式による:
kET = (4π3/h2λkBT)1/2(HAB)2exp[(-ΔG° + λ)2/λkBT]
【0005】
核再配置エネルギーλは、上述の式において、生成物の平衡核配置での反応物質のエネルギーと定義される。極性溶媒の電子移動に関しては、λへの主な供与は、反応物質の電荷分布の変化に応じた溶媒分子の再配列から発生する。2つ目のλの成分は、ドナーと受容体の酸化状態における変化による結合長さと角度の変化によるものである。
【0006】
先行研究には、再配置エネルギーλの変化を新規センサーの基準として利用すると記載されている(特許文献1、2、3、4参照)。本方法は一般に、レドックス活性錯体に、またはその近くに検体を結合するステップを含む。レドックス活性錯体は、少なくとも1つの溶媒接触可能のレドックス活性分子と標的検体を結合する捕捉リガンドを含み、そして錯体は電極に結合している。検体結合時にレドックス活性分子の再配置エネルギーが低下して溶媒阻害レドックス活性分子が形成され、溶媒阻害レドックス活性分子と電極の間の電子移動が可能になる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,013,459号明細書
【特許文献2】米国特許第6,013,170号明細書
【特許文献3】米国特許第6,248,229号明細書
【特許文献4】米国特許第7,267,939号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、レドックス活性分子のE0の変化に対応する溶媒再配置エネルギー内の変化を利用して、標的検体を検出する組成物と方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本発明は試験試料内のプロテアーゼを検出する方法を提供し、前記方法は、(a) プロテアーゼを含む試験試料を電極に加えるステップであって、前記電極が (i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii)E0の遷移金属錯体を含む共有結合的に付着した電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着した複数のタンパク質とを含み、該タンパク質は前記プロテアーゼの開裂部位を含み、(b)前記プロテアーゼで複数の前記タンパク質を開裂するステップと、(c)前記E0の変化を測定して前記プロテアーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、EAMとタンパク質は、EAMが溶液に露出されることから、少なくとも部分的にタンパク質によってシールドされるように配置される。いくつかの実施形態では、前記開裂部位は、前記タンパク質が前記開裂部位で開裂された場合に、前記EAMが前記溶液に露出されるように、前記EAMの高さの近くにある。いくつかの実施形態では、 プロテアーゼは、ボツリヌス毒素A、BまたはEを含むボツリヌス菌によって生成されるエンドペプチダーゼ神経毒などのエンドペプチダーゼ毒素である。
【0011】
いくつかの実施形態では、EAMと前記タンパク質は前記電極に別々に付着している。いくつかの実施形態では、タンパク質はSEQ ID NO:1から4の何れかによる配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属錯体は、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀そして金より成る基から選択された金属を含まない。いくつかの実施形態では、 前記遷移金属錯体はフェロセンを含まない。
【0013】
別の態様では、本発明は試験試料内のキナーゼを検出する方法を提供する。前記方法は、(a)キナーゼを含む試験試料を電極に加えるステップであって、前記電極が、(i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii)E0の遷移金属錯体を含む共有結合的に付着した電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着した複数のタンパク質とを含み、該タンパク質は前記キナーゼの第1基板であり、(b)前記タンパク質を前記キナーゼと第2キナーゼにリン酸化して、前記第2キナーゼ基板を前記タンパク質に共有結合的に付着させるステップと、(c)前記E0の変化を測定することによって前記キナーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記EAMと前記ペプチドは、EAMが少なくとも一部は溶液に露出されるように配置する。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記第1基板はリン酸化部位を含み、該部位は、混合SAM配列で、前記第2基板が前記リン酸化ステップによって第1基板に付着する際に、前記第2基板の結合した第1基板が、隣接するEAMを前記溶液からシールドするように、前記開裂部位が前記EAMの高さの近くにある。キナーゼは、表2に記載するキナーゼからなる基より選ばれたタンパク質キナーゼである。いくつかの実施形態では、第2キナーゼ基板はポリマー修飾ATP共同因子である。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属錯体は、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀そして金から成る基から選択された金属を含まない。いくつかの実施形態では、 前記遷移金属錯体はフェロセンを含まない。
【0017】
別の態様では、本発明は 試験試料中の標的酵素を検出する方法を提供する。前記方法は、(a)標的酵素を含む試験試料を電極に加えるステップであって、前記電極が、(i)自己組織化単分子層(SAM);(ii)E0の遷移金属錯体を含む共有結合的に付着する電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着した複数の基板を含み、該基板は前記酵素の基板であり、(b)前記標的酵素と前記基板に接触して複数の反応物質を形成するステップと、(c)前記E0の変化を測定して前記酵素の存在を判断するステップとを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属錯体は、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀そして金から成る基から選ばれた金属を含む。いくつかの実施形態では、 標的酵素は加水分解酵素であり、好適にはペプチダーゼを含むプロテアーゼである。いくつかの実施形態では、標的酵素は転移酵素であり、好適にはキナーゼである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のいくつかの実施形態による、キナーゼ活性の電気化学的検定の概要を示す図である。
【図2】本発明のいくつかの実施形態による、ペプチダーゼ毒素の電気化学的検定の概要を示す図である。
【図3】本発明の適切な配置を示す図である。図3Aは、リンカーの一端が電極に付着し、もう片方の端は遷移金属(TM)に配位原子を提供するリガンド(L)で終端する状況を示す図である。捕捉基板(CS)は追加のリガンド(図示せず)を提供し、複数の他のリガンドは残りの配位原子を提供する。酵素の作用で、捕捉基板は脱離基(X)となる。なお、図3は遷移金属が6つの配位原子を使う様子を示すが、金属によって他の数の配位原子を使用してもよい。同様に、図3は単一の配位原子を供給するリガンドの使用を示すが、複数の配位原子(例えば、多座配位)を提供するより少ないリガンドも使用することができる。図3Bは、捕捉基板とEAMが電極に別々に付着している様子を示す図である。図3Cは、図3Aと同様の様子を示す図である。ただし、捕捉基板は遷移金属に配位原子を供給しない。なお、溶液中のEAMの電気化学ポテンシャルを標的酵素の酵素活性によって変えることができる点で、溶液相系は図3Aと図3Cで同じであると理解されたい。
【図4A】図4Aは、前立腺特異抗原(PSA)活性の検出の実施例を示す図である。
【図4B】図4Bは、前立腺特異抗原(PSA)活性の検出の実施例を示す図である。
【図5】PSA検定例の1つに使用されるEMAの構造を示す図である。
【図6】図6Aは、プロテアーゼ活性を検出する電気化学バイオセンサプラットホームの略図である。(1)SAM中の隣接するプロテアーゼ除去ペプチド基板に埋められたフェロセンのE0 を測定するステップと、(2)固定化ペプチドを認識して開裂する標的プロテアーゼをインキュベートするステップと、(3)洗浄によって開裂されたペプチドを除去し、より水性環境にフェロセンプローブを露出してE0に負のシフトを生じさせるステップが含まれる。バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図7】バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図8】バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図9】バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図10A】図10Aは、アルキルチオールアンカーを有する [BIM-Ru(NH3)4L]2+ 錯体を示す図である。
【図10B】図10Bは、 共役チオールアンカーを有する[Ru(NH3)5L]2+ 錯体を示す図である。
【図11】オスミウム系EAMを示す図である。
【図12A】図12Aは、Ru-N系錯体の新しい構造を示す図である。
【図12B】図12Bは、Ru-N系錯体の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、電極の表面、または場合によっては溶液中(本明細書に記載されているもののほとんどは固体相検定を対象としたものであるが、当業者によって理解されるように、本発明は溶液中でも使用でき、本明細書中のそのような記載は、溶液相検定にも適用できることを意味している)の何れかにおけるレドックス活性分子の電気化学ポテンシャルE0の変化に基づく検体、特に酵素を検出するための方法と組成物を対象とする。
【0021】
本発明は、検体結合時のレドックス活性分子の再配置エネルギーの変化を利用した、標的検体を検出する方法と組成物を提供して、レドックス活性分子と電極間の電子移動の促進や、阻止を行う。本発明は、遷移金属イオンのようなレドックス活性分子が酸化(電子を失う)または還元(電子を得る)した場合に、分子構造や隣接する溶媒環境に変化が起こるという事実に基づくものである。分子構造(結合長さと角度)や分子をとりまく溶媒分子の組織内の変化は、エネルギー的に新しい酸化状態を安定させる働きをする。これらの変化の和はレドックス反応の再配置エネルギーλを構成する。分子内の変化は内圏再配置エネルギーλiと呼ばれ、溶媒や環境内の変化は外圏または溶媒再配置エネルギーλoと呼ばれる。
【0022】
本発明の目的として、発明のいくつかの実施形態では内圏再配置の変化も考慮されるが、第一の焦点は溶媒再配置エネルギーの変化である。対象検体(例えば、タンパク質またはバクテリア)に選択的に結合することのできる捕捉リガンド(CL)に電気活性分子(EAM)が付着する際のレドックス反応の再配置エネルギーの変化を利用するのが本発明の意図である。EAM-CLの検体への結合によってEAMの溶媒環境が変化し、EAMを伴うレドックス反応の再配置エネルギーが変化する。レドックス反応が電極とEAMの間の電子移動を伴う場合、標準ポテンシャルE0は変化する。従って、EAM-CL錯体のE0の変化は、それが検体に結合したことを示す。本発明の意図は、結合の指標としてE0の変化を検出し、その結果として検体の存在を検出することである。
【0023】
電子移動を使った検体検出の従来の方法論では、結合対(例えば抗体と抗原)の一員に付着するラベルまたはタグとして、たいていEAMを用いる。これらの方法では、酸化または還元時に最小の溶媒再配置を有する電気活性分子を使って、外圏溶媒効果が最小のEAMが選ばれる。一般にこのようなEAMは、水との相互作用がほとんどない大きな疎水性リガンドを含む。よって、従来使用されてきた遷移金属イオンのリガンドは無極性で、有機環(例えば、ビピリジルとテルピリジル)をしばしば含む、通常は疎水性である。従来は全体の電子移動反応の大きさが所定の電極ポテンシャルで測定されるので、このようなEAMが選ばれる。
【0024】
理論に束縛されるものではないが、本発明に一番適合するレドックス分子は、水性の環境で、そのレドックス反応が大きな溶媒再配置エネルギーを有するものであると思われる。電荷の増減を安定化させる溶媒再配置エネルギーは、いくつかの現象を特定できる。水のような極性溶媒では、レドックス分子上の電荷は、レドックス分子の近くの環境の極性溶媒分子の配向によって安定する。極性分子は分子の異なる原子に僅かな電荷の変化があるため、レドックス分子の周囲のそれらの配向は、その安定化に役立つ。さらに、CN-などのいくつかのリガンドはそれ自身が極性で、原子に部分電荷を持っている。これらの極性リガンドはそれ自身が周囲の溶媒分子の配向を生じさせる。荷電したレドックス分子の安定化 (または不安定化)はまた、溶媒および/または他の分子のレドックス分子中の遷移金属のリガンドへの水素結合によっても起こる。溶媒分子やレドックス分子を取り囲む溶媒内のその他の分子は、それらのドナー番号または受容体番号に基づいて特徴付けられ、そして比較される (Neyhart et al.、米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc)第118巻 (1996年) 3724〜29ページを、ここに参照のために取り込む)。好ましいドナー番号または受容体番号を持つ分子の特定の溶媒または溶媒への特定の添加剤の使用は、レドックス反応の溶媒再配置エネルギーに影響を与える。さらに、レドックス分子の電荷の変化は溶媒中の荷電イオンによって安定される。よって、検体結合時の溶媒再配置の変化は、イオンの電荷、イオンの濃度、イオンの大きさ、イオンの疎水性を考慮した電解液の適切な選択によって最大化することができる。
【0025】
理論に束縛されるものではないが、 最適な溶媒系内のレドックス分子 (すなわち、その溶媒再配置エネルギーを最大化する)の安定性を最大にして、レドックス分子/捕捉リガンド錯体、 EAM-CLの検体への結合時に、レドックス分子を安定させる現象が妨げられることが好ましい。このような条件において、 E0の変化によって証明される再配置エネルギーの変化は最適であるだろうと考えられる。CLの検体への結合は、EAMを検体(例えばタンパク質)の表面または割れ目やポケットの環境に「強いる」こととなり、これは溶媒環境の最適な配置にはあまり好ましくないと思われる。一実施形態では、結合によって、立体的束縛のため、EAM近くの水分子の脱落が生じる。
【0026】
なお、そして理論に束縛されず、溶媒再配置エネルギーが結合時に増えるか減るか(そしてE0 がより正のポテンシャルになるかより負のポテンシャルになるか)は、EAMの特定の電荷による。EAMレドックス反応の測定で、EAM2+酸化からEAM3+というように、EAMの電荷が増えた場合には、EAM-CLの結合環境は非結合EAM-CLよりも再配置による安定性が低いということである。よって、E0はより正のポテンシャルへ移動すると考えられる。または、EAMレドックス反応の測定で、EAM2- 酸化からEAM-というように、電荷が減少する場合には、非結合EAM-CLは結合EAM-CLよりも再配置による安定性が低いということである。よって、E0はより低いポテンシャルへ移動すると考えられる。
【0027】
理論に束縛されるものではないが、 本発明で活用することのできる2つの一般的な機構がある。第1の機構はレドックスラベルによる内圏の変化に関するものである。本実施形態では、標的検体のEAMに立体的に近い捕捉リガンドへの結合によって、EAMの1つ以上の小さな極性リガンドが標的検体によって供給された1つ以上の配位原子によって置換され、少なくとも2つの理由によって、内圏再配置エネルギーが変化する。1つ目の理由は、小さな極性リガンドと推定的により大きなリガンドとの交換によって、通常金属からより多くの水が排除され、必要とされる溶媒再配置エネルギー (すなわち内圏λi効果)が下がる。2つ目の理由は、一般に大きな標的検体を比較的小さなレドックス活性分子に近づけると、金属イオンの第1または第2の配位圏内の水が立体的に排除され、そして溶媒再配置エネルギーが変化する。
【0028】
また、本発明は置換型不活性リガンドと外圏効果に依存する。本実施形態では、金属イオン上の極性リガンドと標的検体配位原子を交換する。また本実施形態では、極性リガンドは、効果的そして不可逆的に金属イオンに結合され、そして、溶媒再配置エネルギーの変化が標的検体の結合の結果として、金属イオンの第1または第2配位圏内の水の排除によって得られる。水は基本的に排除される(すなわち、外圏 λo 効果)。
【0029】
本発明は標的検体を検出するための新規構造を有する化合物とこれらの化合物の使用方法を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態では、標的検体は捕捉リガンドに結合する。いくつかの実施形態では、標的検体は酵素であってもよく、E0の変化は酵素的事象の結果である。これは、米国特許出願番号 61/087、094に記載されており、その全体を本明細書に参照のために取り込む。
【0031】
本発明の実施形態では、標的検体の導入時に、おそらく再配置エネルギーの変化によってE0が変化する。下記により詳細を述べるように、この変化は様々な要因によるE0 の正シフトまたは負シフトである。一般に、シアノリガンドが使用される場合、E0 の変化はE0の負シフトであり、使用される系やその他のリガンド(もしあれば)にもよるが、標的検体と捕捉リガンドの相互作用の効果はE0 の正シフトとなる。驚くことに、約50 mV、 100 mV、 150 mV、 200 mV、 250 mV、300 mVよりも大きなシフトはシアノリガンドを使用して見られる。
【0032】
一般に、本発明は「芝刈り機」検定と呼ばれることもあり、下記に説明する。遷移金属と遷移金属に配位原子を提供するリガンドを通常含む電気化学活性分子(EAM)は、一般に下記に説明するリンカーによって電極の表面に付着している。さらに、本明細書に記載されるように、その電極は任意選択に自己組織化単分子層(SAM)を含むことができる。EAMの空間的近傍に、検出される酵素の基板に対応する捕捉基板も付着している。標的酵素の導入時に、標的酵素は基板に作用して、EAMの電気化学ポテンシャルに変化を起こし、これが様々な方法で検出される。例えば、酵素がプロテアーゼのような加水分解酵素である場合、捕捉基板は標的酵素に対応するペプチドのようなタンパク質であってもよい。捕捉基板の開裂時に、EAMの周囲の環境が変わり、分子の電気化学ポテンシャルが変化する。同様に、酵素が転移酵素または異性化酵素である場合、基板上の酵素的反応はEAMの周囲の環境を変化させ、分子の電気化学ポテンシャル内で再度変化を生じさせる。この検定はリガーゼにも使うことができる、その場合、溶液基板が使用され、リガーゼが存在する場合には、その溶液基板が捕捉基板に加えられて変化が生じる。
【0033】
「芝刈り機検定」は、 隣接したペプチド基板の厚い「芝」に「埋められた」EAMを含む任意選択でSAMからなる表面と相互作用する酵素を検出する方法を述べる。SAM内の合成ペプチドの触媒開裂は、電極に結合されない生成物のフラグメントの拡散とあいまって、EAMを溶媒に露出させ、電気化学ポテンシャルのシフトと電流の増加をトリガする。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的酵素にとって周知の基板である隣接する捕捉基板部分に「埋められた」チオラートEAMの混合SAMを例示する。この配置では、EAMはSAM/溶液界面から「シールド」される。標的酵素があると、捕捉基板は触媒的に開裂し、SAM高さの減少が生じる。開裂部位が混合SAM 配列中のEAMの高さの近くにある場合には、界面からの生成ペプチドの拡散によって単分子層中に「穴」が生成され、EAM成分が溶液に露出される。標的酵素(「芝刈り機」のような)による隣接ペプチドの触媒的「細断」によるEAMの溶媒化環境のこの変化によって、 電気化学的に検出することのできるポテンシャルが変化する。一旦標的酵素が見つかって捕捉基板 (合成か自然発生によるもの)が識別されると、EAMの次元/濃度とSAM内のペプチド成分を変えることによって、検定をさらに最適化することができる。 図2にグラフィック描写を示す。この検定の有効な特性は、酵素活性に対する固有の感度であり、これによって標的酵素分子当たりの信号の増幅がもたらされる。
【0035】
いくつかの実施形態では、EAMと開裂部位を含む捕捉基板は、前記EAMが溶液への露出から少なくとも部分的に基板によってシールドされるように配置される。好適には、開裂部位は、基板が開裂部位で開裂されたときに、EAMが溶液に露出されるように、前記EAMの高さの近くにある。
【0036】
いくつかの実施形態では、標的酵素は、下記にさらに示すように、ボツリヌス毒素A、BまたはEのようなボツリヌス菌によって生成されるエンドペプチダーゼ神経毒などのプロテアーゼである。
【0037】
本発明の1つの利点は、酵素の触媒性質によって、単一の酵素分子が多くの反応を起こし、よって信号を効果的に増幅させて検出の制限を下げることである。
【0038】
本発明の適切な配置のいくつかのポテンシャル略図を図3に示す。
【0039】
図7から図9に示すように、センサーには3つの基本的な配置がある。ただし、本明細書の記載はそのように限定されることを意味したものではない。一実施形態では、図7Aに示すように、遷移金属イオンと遷移金属に配位原子を提供するリガンド(いくつかの実施形態では、その中の少なくとも1つはシアノリガンドである)を含む電気活性部分(EAM)が電極に付着している。さらに、標的検体に特異的に結合する捕捉リガンド(「結合リガンド」と呼ばれることもある)も電極に付着している。どちらの種類も一般的に、本明細書に記載の付着リンカーを使って電極に付着している。これらの2つの種は、EAMのE0が標的検体の結合時に変わるように空間的に近く電極に付着している。なお、下記に記載する単分子層形成種を含む第3種もまた任意選択で電極上に存在することもできる。本実施形態では、EAM種は(Ia)の式、捕捉リガンドは(Ib)の式、希釈剤種は(Ic)の式を有する:
AG-スペーサ1 − EAM (Ia)
AG-スペーサ1-CL (Ib)
AG-スペーサ1-TGn (Ic)
式中、AGはアンカー基、EAMは溶媒接触可能のレドックス錯体を含む電気活性部分、スペーサ1は本明細書に記載のSAM形成種、CLは捕捉リガンド、TGは末端基であり、nは0または1である。
【0040】
第2の実施形態では、図7Bに示すように、EAMの遷移金属の配位原子の1つは捕捉リガンドを備え、「レドックス活性部分錯体」すなわちReAMCを形成する。本実施形態では、配位原子は実際には捕捉リガンド(例えば、捕捉リガンドがペプチドの場合、アミノ基が配位原子を提供する)の一部か、捕捉リガンド(例えば、ピリジンリンカーなど)の付着に使用されるリンカーの一部である。ReAMCは単一種として付着され、上述の様に、下記に示す単分子層形成種を含む追加種もまた、任意選択で電極に存在してもよい。本実施形態では、本発明は式(II)の化合物を提供する:
AG − スペーサ1 − EAM − (スペーサ2)n − CL (II)
式中、AGはアンカー基、EAMは溶媒接触可能のレドックス錯体を含む電気活性部分、CLは捕捉リガンド、スペーサ1は本明細書に記載のSAM形成種、スペーサ2はリンカー、nは0または1である。
【0041】
第3の実施形態では、図7Cに示すように、ReAMCは単一種であるが、捕捉リガンドは配位原子を提供しない。それはReAMCのEAMに空間的に近いが、それと区別されている。さらに、下記に示す単分子層形成種を含む第3種もまた任意選択で電極に存在することができる。本実施形態では、本発明は式 (III)の化合物を提供する:
【化1】
式中、AGはアンカー基、EAMは溶媒接触可能のレドックス錯体を含む電気活性部分、CLは捕捉リガンド、スペーサ1は本明細書に記載のSAM形成種、S2とS3 はEAMとCLを一緒にAGに結び付けてブランチ構造を形成する2つの結合である。S2とS3は同じであってもよいし、違っていてもよい。
【0042】
さらに、米国特許番号6,013,459、6,248,229、7,018,523、7,267,939、米国特許出願番号09/096593と60/980、733、そして本出願と同時に出願される「バイオセンサにおける新しい化学」という名称の米国特許出願の全体を、本明細書に全ての目的のために取り込む。
【0043】
従って、本発明は電気化学的に検出する酵素反応の組成物と方法を提供する。
【0044】
I.組成物:
【0045】
一態様では、本発明は電極を使って試験試料中の酵素を検出する方法を提供する。電極は任意選択で、自己組織化単分子層(SAM)と、共有結合した電気活性部分(EAM、また本明細書では「レドックス活性分子」(REAM)とも呼ぶ)とを含む。EAMは 第1E0の遷移金属錯体を含む。また、電極には標的酵素の複数の酵素基板(「捕捉基板」は、本明細書で「支持基板」と呼ばれることもある)が付着している。よって本方法では、試験試料が電極に加えられ、標的酵素と標的酵素の基板が複数の反応物質を形成する。酵素の存在は、EAMの環境の変化による E0の変化を測定して判断される。
【0046】
下記と図3に示すように、本発明ではいくつかの異なる配置を使用することができる。一実施形態では、図3Aに示すように、EAMは本明細書で「レドックス活性部分錯体」すなわちReAMCと呼ばれるものを形成する捕捉基板も含む。いくつかの実施形態では、捕捉基板は配位原子(図3A)を提供する。その他では、REAMCは電極に付着する単一分子であり、捕捉基板は配位原子(図3C)を提供しない。その他の実施形態では、図3Bに示す様に、ReAMCはなく、EAMと捕捉基板が電極に別々に付着している。
【0047】
A. 標的酵素
【0048】
一態様では、本発明は標的酵素の検出に役立つ方法と組成物を提供する。本明細書でいう「検体」、「標的検体」または「標的酵素」は、検出する酵素を意味し、これは酸化還元酵素、加水分解酵素 (特にプロテアーゼ)、リアーゼ、異性化酵素、転移酵素(特にキナーゼ)、リガーゼを含むが、これらに限定されない。酵素命名法(Enzyme Nomenclature)1992年、 Academic Press、 San Diego、 California およびその付録 1 (1993)、付録 2 (1994)、 付録 3 (1995)、 付録 4 (1997)、付録5 (それぞれ、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Eur. J. Biochem)1994年、第223巻、1〜5ページ; Eur. J. Biochem. 1995年、第232巻、1〜6ページ; Eur. J. Biochem. 1996年、第237巻、1〜5ページ; Eur. J. Biochem. 1997年、第250巻、1〜6ページ; Eur. J. Biochem. 1999年、第264巻、610〜650ページを参照)の全体をここに参照のために取り込む。
【0049】
加水分解酵素
【0050】
いくつかの実施形態では、標的酵素は加水分解酵素である。本明細書でいう「加水分解酵素」とは、様々な化学結合の加水分解に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。それらはEC番号分類基準のEC3に分類される。加水分解酵素には、エステル結合(ヌクレアーゼ、ホスフォジエステラーゼ、リパーゼ、ホスファターゼなどのエスタレーゼ)に触媒作用を及ぼす酵素、糖類(グリコシラーゼ/DNAグリコシラーゼ、配糖体加水分解酵素、セルラーゼ、エンドーグルカナーゼなどを含むカルボヒドラーゼ)、エーテル結合、ペプチド結合(プロテアーゼ/ペプチダーゼ)、炭素窒素結合(ペプチド結合以外)、酸無水物(ヘリカーゼとGTPアーゼを含む酸無水物加水分解酵素)、炭素炭素結合、ハライド結合、リン窒素結合、硫黄窒素結合、炭素リン結合、硫黄硫黄結合、炭素硫黄結合が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの実施形態では、加水分解酵素はプロテアーゼ(EC3.4)である。本明細書でいう「プロテアーゼ」または「タンパク質」とは、アミノ酸を結び付けるペプチド(アミド)結合の加水分解によってタンパク質を加水分解することのできる酵素を意味する。具体的にプロテアーゼの定義に含まれるものにはペプチダーゼがあり、これは具体的にペプチドを加水分解する酵素のことを指している。
【0052】
本明細書でいう「タンパク質」または相当語句は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドとペプチド、非自然発生的アミノ酸とアミノ酸類似物質を含有するタンパク質を含む派生物質と類似物質、そしてペプチド模倣体構造のことである。側鎖は(R)配置であっても(S)配置であってもよい。好ましい実施形態では、アミノ酸は(S)またはL配置である。下記に述べるように、タンパク質が捕捉基板として使用される場合、タンパク質類似物質を使って試料の汚染物質による劣化を遅らせることが望ましい。しかしながら一般に、タンパク質類似物質が酵素基板として使用される場合、その基板は標的酵素によってさらに処理を行うことができる。
【0053】
プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼの6つの基に分類される。一般に、プロテアーゼは、タンパク質のアミノ酸配列 による切断特異ペプチド結合(例えば限られたタンパク質分解に特異の部分)でも全体のタンパク質のアミノ酸への分解 (無制限のタンパク質分解)でもよい。活性は、タンパク質の機能をだめにしたり、またはタンパク質を主成分に分解する破壊的な変化であり、また、機能の活性化でもあり、またはシグナル経路の信号でもある。
【0054】
いくつかの実施形態では、標的酵素はエンドペプチダーゼである。本明細書でいう「エンドペプチダーゼ」とは、タンパク質基板内のペプチド結合を切断するペプチダーゼであり、タンパク質基板の1つまたは両方の終端からペプチド結合を切断するエキソペプチダーゼとは対照的である。エンドペプチダーゼは、触媒機構に基づいて、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドペプチダーゼ、アスパラギンエンドペプチダーゼ、メタロエンドペプチダーゼ、そしてその他のエンドペプチダーゼのサブクラスに分類される。
【0055】
(1). セリンエンドペプチダーゼ
【0056】
このクラスは2つの明確なファミリーを含む。キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼまたはカリクレインなどの哺乳類の酵素を含むキモトリプシンファミリーと、スブチリシンのようなバクテリア酵素を含むスブチリシンファミリーである。これら2つのファミリーの一般的な三次元(3D)構造は異なるが、同じ活性部位配置を持ち、同じ機構を介して触媒を進める。セリンエンドペプチダーゼは、基板残留物と相互作用する様々な酵素のサブサイト内のアミノ酸置換に関連する、様々な基板の特異性を呈する。いくつかの酵素は基板との拡大相互作用部位を持つが、他の酵素はP1基板残留物に限られた特異性を持つ。
【0057】
(2). システインエンドペプチダーゼ
【0058】
このファミリーは、パパイン、アクチニジンまたはブロメライン、リソソームカテプシンやカテプシンB、L、S、H、J、N、Oを含む、いくつかの哺乳類のカテプシンなどのプラントプロテアーゼ、細胞質カルパイン(カルシウム活性)およびいくつかの寄生性プロテアーゼ(例えば、トリパノソーマ、住血吸虫)とインターロイキン変換酵素(ICE)を含むカスパーゼを含む。
【0059】
(3). アスパラギンエンドペプチダーゼ
【0060】
アスパラギンエンドペプチダーゼのほとんどは、ペプシンファミリーに属する。ペプシンファミリーは、ペプシンやキモシン、そしてリソソームカテプシンD、レニンなどのプロセシング酵素、そして特定の真菌プロテアーゼ(ペニシロペプシン、リゾプスペプシン、エンドシアペプシン)などの消化酵素を含む。第2ファミリーは、レトロペプシンとも呼ばれるAIDSウィルス(HIV)からのプロテアーゼなどの、ウィルスエンドペプチダーゼを含む。
【0061】
セリンプロテアーゼやシステインプロテアーゼとは対照的に、アスパラギンエンドペプチダーゼによる触媒作用は、4面体型中間体は存在するが、共有結合中間体を含まない。求核攻撃は、1つは水分子から2つのカルボキシル基の2連子への移動、そして2つめは2連子から同時CO・NH結合開裂を有する基板のカルボニル酸素への移動の、2つの同時のプロトン移動によって達成される。
【0062】
(4). メタロエンドペプチダーゼ
【0063】
メタロエンドペプチダーゼはバクテリア、菌類、高等生物に見られる。それらは配列と構造が大きく異なっているが、酵素のほとんどが触媒的に活性の亜鉛原子を含んでいる。いくつかの場合において、亜鉛は活性を失わずにコバルトやニッケルなどの別の金属と置換することができる。バクテリアサーモリシンははっきり特徴付けられており、その結晶機構は、亜鉛が2つのヒスチジンと1つのグルタミン酸で結合されていることを示している。多くの酵素は亜鉛のための2つのヒスチジンリガンドを提供するHEXXH配列を含み、一方で第3リガンドはグルタミン酸(サーモリシン、ネプリライシン、アラニルアミノペプチダーゼ)かまたはヒスチジン (アスタシン)である。その他のファミリーは亜鉛原子の明確な結合モードを呈する。触媒機構は、切断されやすい結合のカルボニル基上での亜鉛結合分子の攻撃の後に、非共有4面体中間体の形成をもたらす。この中間体は、グルタミン酸プロトンの脱離基への移動によってさらに分解される。
【0064】
特に興味深いのは、アデノシンデアミナーゼ、アンジオテンシン変換酵素、カルシニューリン、メタロ-β-ラクタマーゼ、PDE3、PDE4、PDE5、腎ジペプチダーゼ、 ウレアーゼを含むメタロ酵素である。
【0065】
一実施形態では、メタロエンドペプチダーゼは、MMP-1からMMP-10、特にMMP-1、MMP-2、MMP-7、MMP-9を含むマトリックスメタロプロテイナーゼである。
【0066】
(5). 細菌/毒素エンドペプチダーゼ
【0067】
通常は細菌起源である毒素エンドペプチダーゼは、宿生生物に破壊的な、そして時として致命的な影響を与えることがある。良く知られる細菌エンドペプチダーゼ毒素のいくつかを表1に示す。
【0068】
表1
【表1】
【0069】
ボツリヌス菌神経毒(BoNTs、血清型A-G)と破傷風菌神経毒(TeNT)は、エンドペプチダーゼである細菌毒素の2つの例である。BoNTsは最も一般には乳児ボツリヌス症と食物経由のボツリヌス症に関連し、神経毒と内臓で毒素分子に保護と安定性を与えると考えられる、1つ以上の関連タンパク質から構成される大きな錯体として自然の中に存在する。傷の中で増殖した破傷風菌から合成するTeNTは、他のタンパク質成分と錯体を形成するようには思われない。
【0070】
BoNTは、シナプス小胞と神経シナプス膜のドッキングを制御する小さなタンパク質を特異的に開裂する高特異性亜鉛依存的エンドプロテアーゼである。BoNT AとBoNT Eは特異的に、25-kDシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を、残留物Q197とR198の間のBoNT A開裂で開裂する。SNAP-25は神経伝達物質放出の調整に携わるシナプス前プラズマ膜タンパク質である。SNAP25A(ジーンバンクアセッション番号NP_003072)とSNAP25B(ジーンバンクアセッション番号 NP_570824)の、異なるタンパク質アイソフォームを符号化する2つの転写変異体が人間のこの遺伝子に書き込まれている。BoNT Cは膜タンパク質シンタクシンとSNAP-25を開裂する。BoNT B、D、F、Gは細胞内小胞関連の膜関連タンパク質(VAMP、またシナプトブレビンとも呼ぶ)に特異している。Schiavo et al.、JBC 266:23784〜87ページ (1995年); Schiavo et al.、FEBS Letters 335:99〜103ページ(1993年)の全体を、本明細書に参照のために取り込む。
【0071】
固定化合成ペプチド基板の開裂に基づいて、いくつかの in vitro 検定が行われた。Halls et al.、ジャーナル・オブ・クリニカルマイクロバイオロジー(J Clin Microbiol)第34巻:1934〜8ページ (1996年); Witcome et al.、アプライド&エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Appl Environ Microbiol)第65巻:3787〜92ページ(1999年)、Anne et al.、 Ana Biochem 第291巻:253〜61ページ (2001年)を参照のこと。
【0072】
BoNTとTeNTはプラスミドコード(TeNT、BoNT/A、GまたはBの可能性もある)か、またはバクテリオファージコード(BoNT/C、 D、 E、 F)であり、神経毒は150 kDaの不活性ポリペプチドとして合成される。BoNTsとTeNTは溶解細菌細胞から放出され、神経毒ポリペプチド内の露出されたループのタンパク分解開裂によって活性化される。各活性神経毒分子は単一鎖間ジスルフィド結合によって結び付けられる重鎖(100 kDa)と軽鎖(50 kDa)から成る。BoNTとTeNTの双方の重鎖は、分子のN端末半にある毒素の転移に必要な領域と、重鎖のC終端内にある細胞結合ドメインの2つのドメインを含む。BoNTとTeNTの双方の軽鎖は、分子の亜鉛依存的プロテアーゼ活性に必要な亜鉛結合モチーフを含む。
【0073】
BoNTとTeNTの細胞標的は、シナプス小胞のシナプス前プラズマ膜へのドッキングと融合に必要とされるタンパク質の基であり、よって、神経伝達物質の放出に欠かせないものである。BoNTは周囲の神経系と関連する運動ニューロンのシナプス前膜の受容体に結合する。これらのニューロン内の標的タンパク質のタンパク質分解はアセチルコリンの放出を阻害する、よって筋肉の収縮を防ぐ。BoNT/B、 D、 F、 Gは、小胞関連膜タンパク質とシナプトブレビンを開裂し、BoNT/AとEはシナプトソーム関連タンパク質SNAP-25を標的とし、BoNT/CはシンタキシンとSNAP-25を加水分解する。TeNTは中枢神経系に作用し、2つのタイプのニューロンに入ることによって作用する。TeNTは最初に運動ニューロンのシナプス前膜の受容体に結合するが、それから逆行性小胞輸送によって脊髄に移動し、そこで神経毒は阻害性介在ニューロンに入ることができる。これらのニューロン内の小胞関連膜タンパク質とシナプトブレビンの開裂によって、グリシンとγアミノ酪酸の放出が妨げられ、そして、筋収縮が引き起こされる。BoNTまたはTeNT中毒 (それぞれ弛緩と痙攣性麻痺)の対照的な臨床症状は、感染したニューロンと遮断された神経伝達物質のタイプの直接的な結果である。
【0074】
特に興味深いのは、BoNT/LC (血清型 C)と、特にBoNTC/LC(他のLC血清型と比較して)である。第1に、BoNTC/LCは、人間の神経細胞内での半減期が長いため、特に深刻なバイオテロの脅威を提起する。2つめには、BoNTC/LCのin vitro検定は現在存在しない、というのはおそらくこのLCプロテアーゼは、膜が機能するのを必要とするように思われるからである。神経細胞環境では、BoNTC/LCは、シナプス小胞のシナプス前膜への融合に必要とされる、膜タンパク質であるシンタキシンを開裂する。
【0075】
その他の例として、 エルシニア毒性因子のYopJとYopT、そしてサルモネラ病原因子AvrAがある。
【0076】
転移酵素
【0077】
いくつかの実施形態では、標的酵素は転移酵素である。本明細書でいう「転移酵素」とは、官能基(例えば、メチルまたはリン酸塩基)の1つの分子(ドナー)から別の分子(受容体)への転移に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0078】
転移酵素はEC番号の分類基準でEC2に分類される。転移酵素はさらに、1炭素基を転移する酵素(メチル転移酵素)、アルデヒドまたはケトン基を転移する酵素、アシル転移酵素、グリコシル転移酵素、メチル基以外にアルキルまたはアリル基を転移する酵素、窒素基を転移する酵素(アミノ基転移酵素)、リン含有基を転移する酵素(ポリメラーゼとキナーゼを含むリン酸転移酵素)、硫黄含有基を転移する酵素(硫黄転移酵素と硫酸転移酵素)、セレニウム含有基を転移する酵素の9つのサブクラスに分類される。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、標的酵素はキナーゼである。
【0080】
別の態様では、本発明はキナーゼを検出する組成物と方法を提供する。タンパク質キナーゼ活性を定量化する検定方法は、病気の診断と治療に際して、それらの役割を理解する上で重要である。本明細書に提供されるキナーゼ検定は、キナーゼの薬品候補阻害剤のスクリーンにも使用することができる。
【0081】
真核生物は、特異タンパク質のリン酸化と脱リン酸化を利用して、多くの細胞処理を調節する。T. Hunter、 Cell 80:225〜236ページ(1995年); Karin、 M.、 Curr. Opin. Cell Biol.第3巻:467〜473ページ (1991年)参照のこと。これらの処理には信号変換、細胞分割、遺伝子転写の開始が含まれる。よって、生物の維持、適応、病気に対する感染性の重大な事象は、タンパク質のリン酸化と脱リン酸化によって制御される。これらの現象はあまりにも広範囲に及ぶので、人間にはおよそ2、000のタンパク質キナーゼ遺伝子と1、000のタンパク質ホスファターゼ遺伝子(T. Hunter、Cell 第80巻:225〜236ページ (1995年)を参照のこと)があり、これらのうちのいくつかは病気に対する感染性のためにコーディングされていると考えられている。こういった理由により、タンパク質キナーゼとホスファターゼは、薬物療法の開発の良い標的である。
【0082】
頻繁に使用されるタンパク質キナーゼスクリーンのいくつかは、放射能APTまたはELISAを使用している。しかしながら放射能ATPの使用は、記録管理、廃棄物処理に付随する費用や、検定フォーマットが統一されていないという事実のため、望ましいものではない。ELISAは洗浄と酵素反応の両方に余分なステップが必要なため、検定処理量が低いので、望ましくない。
【0083】
可視波長内の蛍光検出は、キナーゼ検定に放射線追跡子またはELISAを使用する選択肢を与える、というのも、蛍光は放射線のそれに相当する検出限界を提供するからである。さらに、これによって放射能廃物処理費がかからなくなる。しかしながら、以前開発されたキナーゼの蛍光検定は高いスループットスクリーニングの要求に対して、特に修正が可能ではなかった。
【0084】
フェロセン共役ATP(Fc-ATP)を使うキナーゼ活性の電気化学検出について、Song et al.、 Chem. Commun.、502〜504ページ (2008年)に記載されている。この検定では、タンパク質キナーゼ C(PKC)の基板は電極の表面に固定されている。PKCの触媒反応によって、γ-リン酸-Fc基がペプチドのセリン残留物に転移される。電極表面に付着したFc基は電気化学技術を使って検出される。よって、この検定では、フェロセンはリン酸化前には電極に付着せず、リン酸化プロセスによってのみ電極に付着する。
【0085】
金粉を使ったタンパク質キナーゼC(PLC)触媒チオリン酸化の電気化学検出については、Kerman and Kraatz、 Chem. Commun. 5019〜5021ページ (2007年)に記載されている。この検定では、ビオチン化基板ペプチドが、ストレプトアビジンコートされた炭素電極の表面に固定されている。PKC触媒反応によって、チオリン酸基がペプチドのセリン残留物に転移される。チオリン酸化ペプチドと金粉のインキュベーションによって、金粉が表面に付着する。金粉の存在は、金粉上の塩素イオンから得られる電気化学還元反応によって判断される。よってこの検定では、金粉はリン酸化の前に電極に付着しない。金粉はリン酸化反応プロセスによってのみ電極に付着する。
【0086】
いくつかの実施形態では、標的検体はタンパク質キナーゼである。本明細書でいう「キナーゼ」または「リン酸転移酵素」は、リン酸基をATPのような高エネルギードナー分子から特異標的分子(基板)に転移する酵素のことを意味する。この転移プロセスをリン酸化と呼ぶ。よって、タンパク質キナーゼは、リンのアデノシン三リン酸(ATP)またはグアノシン三リン酸(GTP)から標的タンパク質への転移に触媒作用を及ぼし、リン酸化タンパク質とアデノシン二リン酸(ADP)またはグアノシン二リン酸(GDP)をそれぞれ生じさせる。ATPまたはGTPは先ず、ADPまたはGDP、そして無機リン酸塩に加水分解される。そして無機リン酸塩は標的タンパク質に付着する。キナーゼによって標的にされたタンパク質基板は、細胞壁などの膜材料に見つかる構造タンパク質や、官能性タンパク質である、別の酵素であってもよい。
【0087】
それらの生理的関連性、多様性そして普遍性のため、タンパク質キナーゼは生化学と医療研究において最も重要で広く研究される酵素ファミリーの1つとなった。研究では、タンパク質キナーゼは、信号伝達、転写調節、細胞運動、細胞分裂を含む、たくさんの細胞機能の主要な調節因子であると示されている。いくつかの腫瘍遺伝学ではまた、タンパク質キナーゼの符号化を示し、キナーゼが腫瘍形成において重要な役割を果たすことを示唆している。
【0088】
タンパク質キナーゼは、それらがリン酸化するアミノ酸残留物に基づき、たいてい2つの基に分けられる。1つ目の基はセリン/トレオニンキナーゼで、環状APTと環状GMPへの依存性タンパク質キナーゼ、カルシウムとリン脂質への依存性タンパク質キナーゼ、カルシウムとカルモジュリンへの依存性タンパク質キナーゼ、カゼインキナーゼ、細胞分裂周期タンパク質キナーゼなどを含む。これらのキナーゼはたいてい細胞質か、またはおそらくアンカータンパク質によって、特定の細胞破片と結合する。
【0089】
2つ目のキナーゼ基はチロシンキナーゼと呼ばれ、チロシンの残留物をリン酸化するものである。それらの量はかなり少ないが、細胞の調整においては同じくらいに重要な役割を果たす。これらのキナーゼは、表皮成長要因受容体、インスリン受容体、血小板由来の受容体などの、成長因子やホルモンのようないくつかの受容体を含んでいる。研究によると、多くのチロシンキナーゼが膜貫通タンパク質であり、その受容体ドメインが細胞の外側にあり、そのキナーゼドメインが細胞の内側にある。
【0090】
セリン含有、トレオニン含有、チロシン含有タンパク質のキナーゼによるリン酸化は、腫瘍形成、細胞形質転換、細胞成長、開口分泌を含む、様々な細胞プロセスでリン酸化タンパク質性生物が関係しているため、重要である。
【0091】
酸化還元酵素
【0092】
いくつかの実施形態では、標的酵素は酸化還元酵素である。酸化還元酵素は、1分子(酸化剤、また、水素ドナーまたは電子ドナーとも呼ばれる)から別の分子(還元剤、また、水素受容体または電子受容体とも呼ばれる)への電子の移動に触媒作用を及ぼす酵素である。酸化還元酵素は酵素のEC番号の分類基準でEC1に分類される。酸化還元酵素はさらに、以下の22のサブクラスに分類される。多くの酸化還元酵素は1つ以上の金属イオンを含むメタロ酵素である。この基のいくつかの代表的酵素には、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ、5‐リポオキシゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アロマターゼ、シクロオキシゲナーゼ、 シトクロム P450、 フマル酸レダクターゼ、ヘムオキシゲナーゼ、ラノステロールデメチラーゼ、ピルビン酸:フェレドキシンオキシドレダクターゼ、リボヌクレオシド二リン酸レダクターゼ、甲状腺ペルオキシダーゼ、キサンチンオキターゼがある。
【0093】
リアーゼ
【0094】
いくつかの実施形態では、標的酵素はリアーゼである。本明細書でいう「リアーゼ」とは、通常新しい二重結合または環状構造を形成して、加水分解と酸化以外の手段により、様々な化学結合の切断に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0095】
リアーゼは酵素のEC番号分類基準でEC4に分類される。リアーゼはさらに、 (1)デカルボキシラーゼ、アルデヒドリアーゼ、オキン酸リアーゼなどの炭素炭素結合を開裂するリアーゼ、(2)デヒドラターゼなどの炭素酸素結合を開裂するリアーゼ、(3)炭素窒素結合を開裂するリアーゼ、(4)炭素硫黄結合を開裂するリアーゼ、(5)炭素ハロゲン化物結合を開裂するリアーゼ、(6)アデニル酸シクラーゼ、グアニル酸シクラーゼ などのリン酸素結合を開裂するリアーゼ、(7)フェルケラーゼなどのその他のリアーゼのサブクラスに分類される。
【0096】
異性化酵素
【0097】
いくつかの実施形態では、標的酵素は異性化酵素である。本明細書でいう「異性化酵素」とは、異性体の構造的再配列に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0098】
異性化酵素はそれ自身の酵素のECクラス、5がある。異性化酵素はさらに、(1)ラミセ化(ラセマーゼ)とエピマー化(エピメラーゼ)に触媒作用を及ぼす酵素、(2) 幾何異性体(シストランスの異性化酵素)の異性化に触媒作用を及ぼす酵素、(3)分子内の酸化還元酵素、(4)分子内の転移酵素(ムターゼ)、(5) 分子内のリアーゼ、(6)その他の異性化酵素 (トポイソメラーゼを含む)の6つのサブクラスに分類される。
【0099】
リガーゼ
【0100】
いくつかの実施形態では、 標的酵素はリガーゼである。本明細書でいう「リガーゼ」とは、ATP内のニリン酸結合の不純物加水分解または同様の三リン酸との2つの分子の連結に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0101】
リガーゼは酵素のEC番号の分類基準のEC6に分類される。リガーゼはさらに、(1)対応するアミノ酸 (アミノ酸tRNAリガーゼ)と炭素酸素結合(例えば、転移RNAをアシル化する酵素)を形成する酵素、(2)炭素硫黄結合(例えば、アシルCoA誘導体を合成する酵素)を形成する酵素、(3)炭素窒素結合(例えば、アミドシンターゼ、ペプチドシンターゼ、複素環を構成する酵素、グルタミンをアミド-N-ドナーとして使う酵素)やその他を形成する酵素、(4)炭素炭素結合(ほとんどはビオチニル-タンパク質であるカルボキシル化酵素)を形成する酵素、(5)リン酸エステル結合(例えば、核酸内で切断されたリン酸ジエステル結合を修復する酵素(通常、回復酵素と呼ばれる))を形成する酵素、(6)窒素金属結合 (例えば、テトラピロール環系の金属キレート化)を形成する酵素の6つのサブクラスに分類される。
【0102】
B. 標的酵素の基板
【0103】
本発明で使用される基板は標的酵素によって決まる。酵素と基板の関係は通常、関連標的酵素の特性として知られている。下記に示すように、本発明で使用される基板には、標的酵素によって、「捕捉基板」と「溶液基板」の2種類がある。
【0104】
「捕捉基板」は標的酵素の基板であり、通常対応する酵素との接触による共有結合の変化に基づく立体配座の変化を起こすものである。例えば、下記により詳細を示すように、酵素がプロテアーゼの場合、基板は開裂されることがある。同様に、基板は転移酵素や異性化酵素のように、空間的再配列を起こすことがある。なお、「捕捉基板」(本明細書では「支持基板」と呼ぶこともある)は、表面で実際に標的を捕捉するものとは限らず、むしろ、表面に付着するものであると理解されたい。一般に、捕捉基板は、例えば加水分解酵素、異性化酵素、転移酵素のような共有結合を切断する酵素に使用される。
【0105】
「溶液基板」は酵素的反応において結合を合成する標的酵素と共に使用され、これによって、1つの反応物質(または「生成物」とも呼ばれる)を形成するために2つ以上の基板を追加することになる。例えば、リガーゼは2つの短いペプチドから長いペプチドを合成したり、2つの核酸を一緒に連結させる場合に使用することができる(例えば、捕捉基板を表面に、そして溶液基板をアッセイ中に)。別の例として、核酸合成があるが、この場合、核酸が表面にあり、そしてヌクレオチドが捕捉基板に加えられる。キナーゼもまた、本明細書に記載の通り、このクラスに該当する。
【0106】
適切な標的酵素/基板のペアにはプロテアーゼ/タンパク質 (プロテアーゼ/ペプチドを含む)、リガーゼ/核酸、リガーゼ/タンパク質、リパーゼ/脂質、カルボヒドラーゼ/炭水化物、キナーゼ/リン酸リン酸基などがあるが、これらに限定されない。
【0107】
例えば、標的酵素がプロテアーゼの場合、基板は通常標的酵素によって開裂されるペプチドを含むタンパク質である。いくつかの実施形態では、ペプチドのような、より小さな捕捉基板が好まれるが、より大きなタンパク質を使うこともできる。さらに重要なことは、REAMの近くの電気化学ポテンシャルが酵素の作用によって変化することである。この基板は、各基板が1つ以上の特異標的酵素によってのみ開裂されるように、開裂に特異性を与える配列も含むことが好ましい。
【0108】
例えば、標的酵素がBoNTの1つである場合、遺伝子工学などによる最適化のあるなしにかかわらず、基板はSNAP-25またはVAMPなどのBoNTの周知の基板から派生した配列を含む。
【0109】
C. 電極
【0110】
一態様では、本発明は電極に付着するリガンド構造を提供する。本明細書でいう「電極」とは、電子デバイスに結合されると電流または電荷を感知し、それを信号に変換する組成物を意味する。好適な電極は当技術分野では周知であり、金、白金、パラジウム、シリコン、アルミニウム、白金酸化物、チタニウム酸化物、スズ酸化物、インジウムスズ酸化物、パラジウム酸化物、シリコン酸化物、アルミニウム酸化物、モリブデン酸化物(Mo2O6)、タングステン酸化物(WO3)、ルテニウム酸化物を含む金属酸化物電極、そして炭素 (ガラス状炭素電極、グラファイト、カーボンペーストを含む)を含む特定の金属やその他の酸化物を含むが、これらに限定されない。好適な電極には金、シリコン、炭素、金属酸化物電極が含まれ、金を有するものが特に好適である。
【0111】
本明細書に記載の電極は平面として説明するが、これは電極の可能な配座のほんの1つであり、略図の目的のみに使用するものである。電極の配座は使用する検出方法によって様々である。例えば、平坦電極は光検出方法や核酸配列が作成される場合などの、合成や検出のアドレス可能な場所が必要な場合に好適である。あるいは、単一プローブ検定の場合、電極は、内面に結合するSAM、EAM、捕捉リガンドなどの系の成分を有する管状であってもよい。これによって、少量の試料に露出される核酸を含む表面の面積を最大にすることができる。
【0112】
本発明の電極は通常バイオチップカートリッジに組み込まれ、様々な配置をとることができ、作用電極と参照電極、相互連結 (「基板貫通」(through board) 相互連結を含む)、そしてマイクロ流体成分を含むことができる。例えば、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許番号7,312,087を参照のこと。
【0113】
バイオチップカートリッジはバイオ分子の配列を有する基板を含み、様々な方法で配置することができる。例えば、チップは試薬の導入と除去のための注入ポートと排出ポートを含むことができる。さらにカートリッジは、試料を導入し、試薬を加え、反応を行い、そして試料を検出用配列を含む反応チャンバに加えることができるように、マイクロ流体成分を有するキャップまたは蓋を含んでいてもよい。
【0114】
好適な実施形態では、バイオチップは複数の配列位置を有する基板を含む。本明細書の「基板」、「固体支持体」またはその他の相当語句は、捕捉リガンドの付着または会合に適切な分離した個々の部位を含むように修飾することのできる物質を意味する。適切な基板には、金などの金属面、下記に定める電極、ガラスと修飾または官能化されたガラス、ファイバーグラス、テフロン(登録商標)、セラミックス、雲母、プラスチック(アクリル、ポリスチレンとスチレン共重合体とその他の物質、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、テフロン(登録商標)とその誘導体などを含む)、GETEK(ポリプロピレン酸化物とファイバーグラスの混合)など、多糖類、ナイロンまたはニトロセルロース、樹脂、シリコンと修飾シリコンを含むシリカまたはシリカ系物質、炭素、金属、無機ガラスおよびその他の様々なポリマーが含まれ、プリント基板(PCB)物質を有するものが特に好適である。
【0115】
本システムは配列形成において特に有用である。つまり、その中にアドレス可能な検出電極のマトリクスがある(本明細書では通常「パッド」、「アドレス」または「ミクロ位置」と呼ぶ)。本明細書における「配列」とは、配列形成の複数の捕捉リガンドを意味し、配列の大きさは組成物と配列の最終的な使用によって決まる。約2つの異なる捕捉基板から何千何万という捕捉基板を含む配列を作ることができる。
【0116】
好適な実施形態では、検出電極は基板上に形成される。さらに、本明細書の説明では、通常金電極の使用を対象としているが、当業者によって理解されるように、その他の電極も使用することができる。基板は本明細書および引用文献に概要を示すように、様々な物質を含むことができる。
【0117】
一般に、好適な物質にはプリント基板材料が含まれる。プリント基板材料は導電層でコーティングされ、電極と相互連結のパターンを形成する (技術的に、相互連結またはリードと呼ばれることがある)リソグラフィー技術、具体的にはフォトリソグラフィー技術によって処理される絶縁基板を含むものである。絶縁基板は通常ポリマーであるが、常にそうではない。当該技術分野において周知であるように、「2次元」(例えば、平面内の全ての電極と相互連結)または「3次元」(電極が1つの表面にあり、そして相互連結が基板の反対側まで貫通する、または電極が複数の表面上にある)基板の何れかを作るために、1つまたは複数の層を使用することができる。3次元システムはしばしば、「基板貫通」相互連結が行われるように、穴あけまたはエッチング、それに続く銅などの金属による電気メッキに依存する。基板物質にはよく、銅箔などの、基板にすでに付着した箔が備わっており、例えば電気メッキによって、必要であれば(例えば相互連結など)銅を追加する。従って銅の表面は、接着層が付着するように、例えばエッチングによって粗面化する必要がある。
【0118】
従って、好適な実施形態では、本発明は、複数の電極、好適には金電極を含む基板を含むバイオチップ(本明細書において「チップ」と呼ばれることがある)を提供する。電極の数は配列のために説明したものである。各電極は、好適には、本明細書に概要を示すように、自己組織化単分子層を含む。好適な実施形態では、単分子層形成種の1つは、本明細書に概要を示すように捕捉リガンドを含む。さらに、各電極は、片方の端が電極に付着し、そして電極を制御することのできる装置に最終的に付着する相互連結を有する。つまり、各電極は独立してアドレス可能である。
【0119】
最後に、本発明の構成は、マイクロ流体コンポーネントとロボットコンポーネント(例えば、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許番号6,942,771、7,312,087と、その関連ケースを参照のこと)を含む様々な付加コンポーネントと、信号処理技術を使用するコンピュータを含む検出システム(例えば、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許番号6,740,518を参照のこと)を含むことができる。
【0120】
(a). 自己組織化単分子層スペーサ
【0121】
いくつかの実施形態では、電極は任意選択でさらにSAMを含むことができる。本明細書でいう「単分子層」または「自己組織化単分子層」すなわち「SAM」は、分子が互いにほぼ平行に、そして表面にほぼ垂直に配向された、表面に自発的に化学吸着する分子の比較的規則性のある会合体を意味する。各分子は表面に接着する官能基と、単分子層の隣接する分子と相互作用して比較的規則性のある配列を形成する部分を含む。「混合」単分子層は、少なくとも2つの異なる分子が単分子層を構成する異種単分子層を含む。本明細書に概要を示すように、単分子層の使用は、生体分子の表面への非特異性結合の量を減らし、核酸の場合は、オリゴヌクレオチドの電極からの距離の結果として、オリゴヌクレオチドのハイブリッド化の効率を増やす。従って単分子層は、標的酵素の電極表面から離れたところでの維持を容易にする。さらに、単分子層 は、電荷を電極の表面から運び出しておくのに役立つ。従って、この層は電極とREAM、または溶媒内の電極と荷電種の間の電気接触を防ぐのに役立つ。このような接触によって、直接的な「短絡」や試料中に存在することのある荷電種を介した間接的な短絡が起こることもある。従って、単分子層は、好適には、最小限の「穴」が存在するように、電極表面の均一層に隙間なく充填する。よって単分子層は電極への溶媒の露出を阻止する物理障壁として機能する。
【0122】
いくつかの実施形態では、単分子層は導電性オリゴマを含む。本明細書でいう「導電性オリゴマ」とは、実質的導電性オリゴマであり、好適には直線状であり、そのいくつかの実施形態は文献で「分子ワイヤ」と呼ばれる。本明細書でいう「実質的導電性」とは、オリゴマが100 Hzで電子を転移することができることである。一般に、導電性オリゴマは導電性オリゴマ単量体単位間のように、実質的に重複するπ-軌道、すなわち共役π-軌道を有する。ただし、導電性オリゴマは1つ以上のシグマ(σ)結合を含むことができる。さらに、導電性オリゴマは、関連EAMへ電子を注入したり、また関連EAMから電子を受容する能力によって、機能的に定義される。さらに、導電性オリゴマは、本明細書に定めるように、絶縁体よりも導電性がある。さらに、本発明の導電性オリゴマは、それ自身が電子を供与したり受容したりする電気活性ポリマーから区別される。
【0123】
導電性オリゴマのより詳しい説明はWO/1999/57317に記載されており、その内容全体を本明細書に参照として取り込む。特に、WO/1999/57317の14から21ページの構造1から9に記載の導電性オリゴマで、本発明が使用されている。いくつかの実施形態では、導電性オリゴマは次の構造を持つ:
【化2】
【0124】
さらに、単分子層の導電性オリゴマの少なくともいくつかの末端は電子的に露出している。本明細書でいう「電子的に露出した」とは、EAMの末端と近接した配置、そして適切な信号で開始の後、EAMの存在に依存する信号が検知されることがあるということである。導電性オリゴマは末端基を持っている場合もあるし、持たない場合もある。よって、好適な実施形態では、付加的な末端基はなく、導電性オリゴマは、例えばアセチレン結合のように、末端基で終了する。あるいはいくつかの実施形態では、末端基が追加され、本明細書では「Q」と説明することもある。末端基はいくつかの理由によって使用される、例えば、EAMの検出のために導電性オリゴマの電子的有用性(electronic availability)に供与するため、または、非特異性結合を防ぐためなど、他の理由でSAMの表面を変えるためなどである。例えば、標的検体がDNAやRNAなどの核酸である場合、核酸は忌避されるか、または表面に横たわらないようにされ、ハイブリッド化が促進されるように、末端に負荷電基が存在して負荷電の表面を形成することができる。好適な末端基には、-NH、-OH、-COOH、そして-CH3などのアルキル基、そして(ポリ)エチレングリコールなどの(ポリ)アルキル酸化物が含まれ、−OCH2CH2OH、-(OCH2CH2O)2H、-(OCH2CH2O)3H、-(OCH2CH2O)4H を有するものが好適である。
【0125】
一実施形態では、導電性オリゴマの混合物を異なる種類の末端基と使用することができる。よって、例えば、末端基の中には検出を促進するものや、そして非特異性結合を防ぐものがある。
【0126】
いくつかの実施形態では、電極はさらに、好適には電極表面の単分子層の形で、不動態化剤を含む。いくつかの検体は、結合リガンドが電極から離れると、検体結合(つまりハイブリッド化)の効率が上がることがある。さらに、単分子層の存在は表面への非特異性結合を減少させる(これはさらに、本明細書で概要を示す末端基の使用によってさらに促進させることができる)。不動態化剤層は、結合リガンドおよび/または電極表面層から離れた検体の維持を促進させる。さらに、不動態化剤は電荷を電極の表面から運び出しておくことに役立つ。よって、この層は電極と電子移動部分との間、または溶媒内の電極と荷電種との間の電気接触を防ぐのに役立つ。このような接触によって、直接的な「短絡」や試料中に存在することのある荷電種を介した間接的な短絡が起こることもある。よって、不動態化剤の単分子層は、最小限の「穴」が存在するように、電極表面にきつく詰めた均一層状態にするのが好ましい。あるいは、不動態化剤は単分子層の形状でなくてもよく、導電性オリゴマの充填やその他の特性を助けるために存在してもよい。
【0127】
よって不動態化剤は、溶媒の電極への露出を阻止する物理障壁として機能することができる。このように、不動態化剤自身は実際には、(1)導電または(2)非導電、すなわち絶縁分子のどちらでもよい。従って、一実施形態では、不動態化剤は、本明細書で示すように、電荷の電極への転移を阻止または減少させる末端基の有無にかかわらず、導電性オリゴマである。導電性のその他の不動態化剤には、--(CF2)n--、 --(CHF)n--そして--(CFR)n−−のオリゴマが含まれる。好適な実施形態では、不動態化剤は絶縁体部分である。
【0128】
いくつかの実施形態では、 単分子層は絶縁体を含む。「絶縁体」は実質的に非導電性オリゴマで、好適には直線状である。本明細書でいう「実質的非導電性」とは、絶縁体を通る電子移動の速度が導電性オリゴマを通る電子移動の速度よりも遅いことを意味する。別の言い方をすれば、絶縁体の電気抵抗が導電性オリゴマの電気抵抗よりも高いということである。なお、オリゴマは通常 --(CH2)16分子などの絶縁体と考えられるが、遅い速度ではあるが、電子を転移することができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、 絶縁体は約10-7 Ω-1 cm-1以下の導電率Sを持つ。好適には、約10-8 Ω-1 cm-1 である。Gardner et al.、センサーとアクチュエーター(Sensors and Actuators) A 51 (1995年) 57〜66ページを本明細書に参照として取り込む。
【0130】
一般に、絶縁体は、たとえ特定の絶縁体分子が芳香基または1つ以上の共役結合を含んでいるとしても、アルキルまたはヘテロアルキルオリゴマまたはシグマ結合部分である。本明細書でいう「ヘテロアルキル」とは、少なくとも1つのヘテロ原子、すなわち鎖に含まれる窒素、酸素、硫黄、リン、シリコンまたはホウ素を有するアルキル基を意味する。あるいは、絶縁体は電子移動を好適には実質的に阻止または遅くする役目を持つ、1つ以上のヘテロ原子または結合を持つ導電性オリゴマに非常に似ていることがある。いくつかの実施形態では、絶縁体はC6-C16アルキルを含む。
【0131】
絶縁体を含む不動態化剤は、本明細書で定めるように、R基と置換して、電極の部分または導電性オリゴマの充填、絶縁体の親水性または疎水性、絶縁体の回転、ねじり、または縦の柔軟性などのたわみ性を変化させる。例えば、ブランチアルキル基を使用することができる。さらに、絶縁体を含む不動態化剤の末端は、本明細書で末端木(「TG」)と呼ばれることのある、単分子層の露出した表面に影響を与える付加基を含むことがある。例えば、荷電した中性または疎水性の基を加えて試料との非特異性結合を阻止したり、検体などの結合の動力に影響を与えることができる。例えば、末端に荷電した基を置いて、荷電表面を形成して、ある標的検体の結合を促進または阻害したり、表面に横たわることを忌避したり妨げたりすることができる。
【0132】
不動態化剤の長さは必要に応じて変化させることができる。一般に、不動態化剤の長さは上述のように、導電性オリゴマの長さと同様である。さらに、導電性オリゴマは基本的に不動態化剤と同じ長さかまたはそれよりも長く、結合リガンドが溶媒によって露出可能となる。
【0133】
単分子層は絶縁体を含む1種類の不動態化剤または異なる種類のものである。
【0134】
適切な絶縁体は当技術分野では周知であり、--(CH2)n--、--(CRH)n− と --(CR2)n--、エチレングリコール または酸素の代わりに他のヘテロ原子を使った誘導体、すなわち、窒素または硫黄 (硫黄誘導体は電極が金の場合は好適ではない)である。いくつかの実施形態では、絶縁体はC6 からC16アルキルを含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、 電極は金属面であり、相互連結または電気化学を行う能力を持つ必要はない。
【0136】
(b). アンカー基
【0137】
本発明はアンカー基を含む化合物を提供する。本明細書でいう「アンカー」または「アンカー 基」とは、本発明の化合物を電極に付着させる化学基である。
【0138】
当業者によって理解されるように、アンカー基の組成物は、それが付着する表面の組成物によって異なる。金電極の場合、ピリジニルアンカー基とチオール系アンカー基が特に使用される。
【0139】
導電性オリゴマの共有付着は、電極と使用される導電性オリゴマによって、様々な方法で達成される。一般に、構造1に「A」と示すように、いくつかの種類のリンカーが使用される。その中で、Xは導電性オリゴマで、斜線の表面は電極である:
【化3】
【0140】
この実施形態では、Aはリンカーまたは原子である。「A」の選択は部分的に、電極の特性による。よって、例えば、金の電極が使用される場合、Aは硫黄でもよい。あるいは、金属酸化物の電極が使用される場合、Aは酸化物の酸素に付着するシリコン(シラン)部分でもよい(例えば、参照として明示的に本明細書に取り込む、Chen et al.、 Langmuir 10:3332〜3337ページ (1994年); Lenhard et al.、 J. Electroanal. Chem. 第78巻:195〜201ページ (1977年)を参照のこと)。炭素系電極が使用される場合、Aはアミノ部分(好適には1級アミン; 例えば、Deinhammer et al.、 Langmuir 第10巻:1306〜1313ページ (1994年)を参照のこと)であってもよい。よって、好適なA部分には、シラン部分、硫黄部分(アルキル硫黄部分を含む)、アミノ部分が含まれるが、それらに限定されない。
【0141】
いくつかの実施形態では、 電極は炭素電極である。すなわちガラス状の炭素電極であり、付着はアミン基の窒素を介して行われる。代表的な構造は、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許出願番号20080248592の構造15に示される。さらに、リンカーおよび/または末端基などの付加原子が存在してもよい。
【0142】
明細書に参照として取り込む米国特許出願番号20080248592の構造16では、酸素原子は金属酸化物電極の酸化物から得られる。Si原子はまたその他の原子、すなわち、置換基を含むシリコン部分を含んでもよい。その他の電極へのその他のSAMの付着は当技術分野では周知である。例えば、インジウムスズ酸化物電極への付着に関しては、Napier et al.、 Langmuir、1997年を参照のこと。また、インジウムスズ酸化物電極げびリン酸の化学吸着に関しては、1998年5月4、5日、CHI会議、H. Holden Thorpeによる講演を参照のこと。
【0143】
1つの好適な実施形態では、インジウムスズ酸化物(ITO)が電極として使用され、アンカー基はホスホン酸含有種である。
【0144】
1). 硫黄アンカー基
【0145】
単一部分として構造1に示すが、導電性オリゴマは、1つ以上の「A」部分を有する電極に付着することができる。「A」部分は同じでもよいし、異なるものであってもよい。よって、例えば、電極が金の電極であり、そして「A」が 硫黄原子または部分である場合、下記の構造2、3、4に示すように、導電性オリゴマの電極への付着に多重硫黄原子を使うことができる。当業者によって理解されるように、他にもこのような構造を作ることもできる。構造2,3,4では、A部分は単なる硫黄原子であるが、置換硫黄部分を使用してもよい。
【0146】
よって、例えば、電極が金の電極で、そして「A」が、下記の構造6に示すように硫黄原子または部分である場合、下記の構造、2、3、4に示すように、多重硫黄原子を使って導電性オリゴマを電極に付着することができる。当業者によって理解されるように、他にもこのような構造を作ることができる。 構造2、3、4では、A部分は単なる硫黄原子であるが、置換硫黄部分を使用してもよい。
【化4】
【0147】
なお、構造4と同様に、電極に付着する3つの硫黄部分を有する単一炭素原子で終了する導電性オリゴマを持つことができる。
【0148】
別の態様では、本発明は共役チオールを含むアンカーを提供する。図10に共役チオールアンカーを有する例示的錯体を示す。いくつかの実施形態では、アンカーはアルキルチオール基を含む。図10Aと図4Bにいくつかの例を示す。図10Bに示す2つの化合物はそれぞれカルベンと4-ピリジルアラニンに基づくものである。
【0149】
別の態様では、本発明は、金電極などの電極の検体検出の電気活性部分の構成でアンカー基として機能する共役多足性チオ含有化合物を提供する。つまり、スペーサー基(種を形成するEAM、REAMCまたは「空いた」単分子層に付着することのできるもの)は2つ以上の硫黄原子を使って付着される。これらの多足性アンカー基は本明細書に示すように、直線状または環状であることができる。
【0150】
いくつかの実施形態では、アンカー基は「2足性」であり、そして、金表面に付着する2つの硫黄原子を含み、直線状である。しかし、場合によっては他の多足性(例えば「3足性」)の系を含むことができる。このような多足性アンカー基は安定性の増加を示し、そして/または立体的要求性頭部を有するチオール含有アンカーからSAMを調製するための大きなフットプリントが可能となる。
【0151】
いくつかの実施形態では、アンカーは環状ジスルフィド (「バイポッド」)を含む。場合によっては他の多足性(例えば「3足性」)を有する連鎖系アンカー基を含むことが可能である。連鎖の原子数は、例えば5から10への変えることができ、下記に述べる多環状アンカー基も含む。
【0152】
いくつかの実施形態では、アンカー基は、下記に示すような、尖部の窒素原子と分子内のジスルフィド結合を有する7員環の[1、2、5]-ジチアゼピン単位を含む。
【化5】
【0153】
なお、構造(IIIa)では、 連鎖の炭素原子をさらに置換することができる。 当業者によって理解されるように、他の員環も含まれる。さらに、多環状連鎖構造を使用することができ、これは、他の環状アルカン(環状ヘテロアルカンを含む)または芳香連鎖構造と置換する上述の[1、2、5]-ジチアゼピンなどの環状ヘテロアルカンを含むことができる。
【0154】
いくつかの実施形態では、アンカー基とスペーサの部分は下記の構造を有する。
【化6】
【0155】
本明細書の「R」基 は、EAMの遷移金属成分の末端配位リガンドを有する共役オリゴフェニルエチニレン単位を含む任意の置換基である。
【0156】
アンカーは二座中間体(I)(式IIIによる化合物、式中 R=I)から合成される。これは、本明細書に参照として取り込む Li et al.、 Org. Lett. 第4巻:3631〜3634ページ (2002年)を参照のこと。また、Wei et al、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J. Org、 Chem.)第69巻:1461〜1469ページ (2004年)も参照のこと。
【0157】
硫黄原子の数は、本明細書に概要を示すように、特定の実施形態では、スペーサあたり、1、2、そして3つの硫黄原子を使用する。
【0158】
(c). 電気活性部分
【0159】
アンカー基に加え、本発明では電気活性部分を含む化合物を提供する。本明細書でいう「電気活性部分(EAM)」、「遷移金属錯体」、「レドックス活性分子」、「電子移動部分(ETM)」は、可逆的または半可逆的に1つ以上の電子を転移することのできる金属含有化合物を意味する。電子ドナーと受容体の容量は相対的であると理解されたい。つまり、ある実験条件下で電子を失う分子は別の実験条件下では電子を受容することができる。
【0160】
可能な遷移金属錯体の数は大きく、そして電子移動化合物の当業者は、本発明では多くの化合物を使用することができると理解されたい。本明細書でいう「遷移金属」とは、その原子が部分的または全体的な電子の殻を持つ金属を意味する。本発明で使用する適切な遷移金属には、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、レニウム (Re)、白金(Pt)、スカンジウム(Sc)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、テクネチウム (Tc)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)を含むが、これらに限定されない。つまり、遷移金属の第1系列、白金金属 (Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、そしてFe、Re、W、Mo、Tcが本発明で特に使用される。特に好適なのは、酸化状態の変化時に配位部位が変化しない金属であり、これには、ルテニウム、オスミウム、鉄、白金、パラジウムが含まれ、オスミウム、ルテニウム、鉄が特に好適であり、オスミウムは多くの実施形態で特に使用される。いくつかの実施形態では、 鉄は好適ではない。通常、遷移金属は本明細書でTMまたはMと示される。
【0161】
遷移金属と配位リガンドは金属錯体を形成する。本明細書でいう「リガンド」すなわち「配位性リガンド」(本明細書では図に「L」と示す)は、1つ以上の中心原子またはイオンとの配位共有結合で、その電子のうちの1つ以上を通常供与するもしくはその電子を共有する原子、イオン、分子または官能基を意味する。
【0162】
金属のその他の配位部位を、遷移金属錯体の捕捉リガンド (直接的または間接的にリンカーを使う)または電極 (下記に詳細を示すように、頻繁にスペーサを使う)、または両方への付着に使用する。よって、例えば、遷移金属錯体が結合リガンドに直接連結される場合、金属イオンの配位部位の中の1つ、2つまたはそれ以上が結合リガンドによって供給される配位原子(または、間接的に連結される場合には、リンカーによって)占有されることがある。さらに、または代替的に、金属イオンの配位部位の1つ以上が、遷移金属錯体の電極への付着に使用されるスペーサによって占有されることがある。例えば、下記により詳細を示すように、遷移金属錯体が結合リガンドから離れて電極に付着する場合、1(n-1)を除く金属(n)の全ての配位部位が極性リガンドを含むことができる。
【0163】
本明細書で「L」と示す適切な小さな極性リガンドは、本明細書でより詳しく述べるように、2つのカテゴリーに該当する。一実施形態では、一般的に良くない脱離基または優れたシグマドナー、そして金属の固有性により、小さな極性リガンドは効果的に不可逆的に金属イオンに結合する。これらのリガンドは「置換不活性」と呼ぶことができる。あるいは、下記により詳細を示すように、小さな極性リガンドは、それらの優れた脱離基特性または良くないシグマドナー特性により、標的検体の結合時に、検体が1つ以上の配位原子を金属に提供し、効果的に小さな極性リガンドを置換するように、可逆的に金属イオンに結合させてもよい。これらのリガンドは、「置換が容易」と呼ぶことができる。リガンドは、好適には双極子を形成する、というのも、これは高溶媒再配置エネルギーに供与するからである。
【0164】
遷移金属錯体の構造のいくつかを下記に示す。
【化7】
【0165】
Lは配位原子を金属イオンの結合に提供するコリガンドである。当業者によって理解されるように、コリガンドの数と性質は金属イオンの配位数によって決まる。単座、二座または多座のコリガンドを任意の位置で使用することができる。よって、例えば、金属が6の配位数を持つ場合、導電性オリゴマの末端からのL、核酸から供与されるL、そしてrで、合計6になる。よって、金属が6の配位数を持つ場合、全てのコリガンドが単座であれば、r の範囲は0(全ての配位原子に他の2つのリガンドが備わっている場合)から4である。よって一般に、rは金属イオンの配位数とその他のリガンドの選択によって、0から8である。
【0166】
一実施形態では、金属イオンの配位数は6であり、導電性オリゴマに付着するリガンドと核酸に付着するリガンドはどちらも少なくとも二座である。つまり、r は好適には、0、1(すなわち、残りのコリガンドは二座)、または2(2つの単座コリガンドが使われる)である。
【0167】
当技術分野で理解されているように、コリガンドは同じでもよいし、異なっていてもよい。適切なリガンドは、配位原子 (通常文献ではシグマ(σ)ドナーと呼ばれる)として窒素、酸素、硫黄、炭素またはリン原子(金属イオンによる)を使用するリガンドと、メタロセンリガンド(文献では通常pi(π)ドナーと呼ばれ、本明細書ではLmと説明される)などの有機金属リガンドの2つのカテゴリーに該当する。適切な窒素ドナーリガンドは当技術分野では周知であり、シアノ (C≡N)、NH2 ; NHR; NRR'; ピリジン; ピラジン; イソニコチンアミド; イミダゾール; ビピリジンとビピリジンの置換 誘導体; テルピリジンと置換誘導体; フェナントロリン、特に1、10-フェナントロリン (phenと略する ) と、4、7-ジメチルフェナントロリンとジピリジル[3、2-a:2'、3'-c]フェナジン(dppzと略する); ジピリドフェナジン; 1、4、5、8、9、12-ヘキサアザトリフェニレン(hatと略する)とフェナントロリンの置換誘導体; 9、10-フェナントレンキノンジイミン(phiと略する); 1、4、5、8-テトラアザフェナントレン(tapと略する); 1、4、8、11-テトラ-アザシクロテトラデカン(cyclamと略する )とイソシアン化物を含む。溶融誘導体を含む置換誘導体も使用することができる。いくつかの実施形態では、ポルフィリンとポルフィリンファミリーの置換誘導体を使用することができる。例えば、本明細書に参照として明示的に取り込む、 コンプリヘンシブ・コーディネーション・ケミストリー(Comprehensive Coordination Chemistry)、Ed. Wilkinson et al.、Pergammon Press、1987年、13.2章 (73〜98ページ)、 21.1章 (813〜898ページ)、21.3章(915〜957ページ)を参照のこと。
【0168】
当技術分野で理解されるように、本発明では、ドナー(1)が金属とドナー(2)に結合する任意のリガンドドナー(1)-架橋-ドナー(2) を周囲の媒体(溶媒、タンパク質など)との相互作用に使用することができる。ドナー(1)とドナー(2)がシアノ(C はドナー(1)、N はドナー(2)、piシステムはCN三重結合)のように、piシステムで結合されている場合は特にそうである。一つの例として、ビピリミジンがある。これは、ビピリジンと大変良く似ているが、媒体との相互作用のために、「背面」にNドナーを持っている。付加コリガンドには、シアン酸塩、イソシアン酸塩(-N=C=O)、チオシアン酸塩、イソニトリル、N2、O2、カルボニル、ハロゲン化物、アルコキシド、チオラート、アミド、リン化物、スルフィノ、スルホニル、スルホアミノ、スルファモイルなどの硫黄含有化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0169】
いくつかの実施形態では、 様々な金属を有する錯体へのコリガンドとして多重シアノが使用される。例えば、7つのシアノがRe(III)に結合し、8つがMo(IV)とW(IV)に結合する。よって、本発明では、6つ以下のシアノと1つ以上のLを有するRe(III)、または7つ以下のシアノと1つ以上Lを有するMo(IV)またはW(IV)を使用することができる。W(IV)系を持つEAMは他のものよりも特に有利である、というのも、それはより不活性で、調合が簡単で、より有利な還元ポテンシャルだからである。通常、CN/L率が大きいとシフトが大きくなる。
【0170】
炭素、酸素、硫黄、リンを使ってリガンドに供与する適切なシグマは当技術分野では周知である。例えば、適切なシグマ炭素ドナーは、本明細書に参照として取り込むCotton and Wilkenson、 Advanced Organic Chemistry、 第5版、 John Wiley & Sons、1988年の、例えば38ページを参照のこと。同様に、適切な酸素リガンドには、当技術分野では周知であるクラウンエーテル、水などが含まれる。ホスフィンと置換ホスフィンもまた適切である。上述の文献の38ページを参照のこと。
【0171】
ヘテロ原子が配位原子として機能できるように、酸素、硫黄、リン、窒素供与リガンドが付着される。
【0172】
いくつかの実施形態では、有機金属リガンドが使用される。レドックス部分として使用する純粋有機化合物、そしてヘテロ環状または環外の置換基としてのドナー原子を有するδ-結合有機リガンドを有する様々な遷移金属配位錯体に加え、pi-結合有機リガンドを有する様々な遷移金属有機金属化合物がある(本明細書に参照として明示的に取り込む、Advanced Inorganic Chemistry、第5版、Cotton & Wilkinson、John Wiley & Sons、1988年、26章; Organometallics、 A Concise Introduction、 Elschenbroich et al.、第2版、1992年、 VCH; Comprehensive Organometallics Chemistry II、A Review of the Literature 1982〜1994年、 Abel et al. Ed.、 第7巻、7、8、10 & 11章、Pergamon Pressを参照のこと)。このような有機金属リガンドには、環シクロペンタジエニドイオン[C5H5 (-1)]などの環状芳香化合物や、ビス(シクロペンタジエル)メタル化合物(すなわちメタロセン)の類を生成するインデニリデ (-1)イオンのような、様々な連鎖置換および連鎖溶融誘導体を含む(例えば、参照として取り込むRobins et al.、米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc.) 第104巻:1882〜1893ページ (1982年); Gassman et al.、 J. Am. Chem. Soc. 第108巻:4228〜4229ページ (1986年)を参照のこと)。これらの中で、フェロセン [(C5H5)2 Fe]とその誘導体は、様々な化学(Connelly et al.、Chem. Rev. 第96巻:877〜910ページ (1996年)を参照として取り込む)と電気化学電子移動または「レドックス」反応 (Geiger et al.、アドバンシーズ・イン・オルガノメタリックケミストリー(Advances in Organometallic Chemistry) 第23巻:1〜93ページ; Geiger et al.、 Advances in Organometallic Chemistry 第24巻:87ページを参照として取り込む)で使用される典型的な例である。第1、第2、第3列遷移金属の様々なメタロセン誘導体は、リボース連鎖またはヌクレオシド系核酸に共有結合するレドックス部分としての有望な候補である。その他の適合する可能性のある有機金属リガンドには、ビス(アレーン)金属化合物とその 連鎖置換および連鎖溶融誘導体を生成するベンゼンなどの環状アレーンがあり、その中でビス(ベンゼン)クロムは典型的な例である。アリル(-1)イオンやブタジエンなどのその他の環状π-結合リガンドは適合する可能性のある有機金属化合物を生成し、そのようなリガンドは全て、その他のpi-結合やδ-結合リガンドと導通して、炭素結合の金属を持つ、有機金属化合物の一般的な類を構成する。架橋有機リガンド、付加的非架橋 リガンド、金属金属結合を有するまたは有しないそのような化合物の様々な二重体とオリゴマの電気化学の研究は、核酸検定における可能性のあるレドックス部分の候補を示している。
【0173】
コリガンドの中の1つ以上が有機金属リガンドである場合、付着はヘテロ環状リガンドのその他の原子を介するが、そのリガンドは、通常有機金属リガンドの炭素原子の1つを介して付着する。好適な有機金属リガンドには、置換誘導体とメタロセノファンを含むメタロセンリガンドが含まれる(コットンアンドウィルカーソン、スープラ(Cotton and Wilkenson、supra)の1174ページ参照のこと)。例えば、ペンタメチルシクロペンタジエニルなどの、多重メチル基を有するものが好適なメチルシクロペンタジエニルなどのメタロセンリガンドの誘導体を、メタロセンの安定性を増やすために使用することができる。好適な実施形態では、メタロセンの2つのメタロセンリガンドの1つのみが誘導体化される。
【0174】
本明細書に記載するように、リガンドの任意の組み合わせを使用することができる。好適な組み合わせには、a) 全リガンドが窒素供与リガンド、b)全リガンドが有機金属リガンド、c) 導電性オリゴマの末端のリガンドがメタロセンリガンドで、核酸によって提供されるリガンドが窒素供与リガンドで、他のリガンドは、必要であれば、窒素供与リガンドか、メタロセンリガンドか、または混合物である場合が含まれる。
【0175】
原則として、非マクロ環状キレート剤を含むEAMは、金属イオンと結合して非マクロ環状キレート化合物を形成する、というのも、金属が存在すると多重プロリガンドが結合して多重酸化状態を提供するからである。
【0176】
いくつかの実施形態では、窒素供与プロリガンドが使用される。適した窒素供与プロリガンドは当技術分野では周知であり、NH2; NHR; NRR’; ピリジン; ピラジン; イソニコチンアミド; イミダゾール; ビピリジンとビピリジンの置換誘導体; テルピリジンと置換誘導体; フェナントロリン、具体的に1、10-フェナントロリン(phenと略する)とフェナントロリンの置換誘導体、4、7-ジメチルフェナントロリンとジピリジル[3、2-a:2’、3’-c]フェナジン(dppzと略する);ジピリジルフェナジン; 1、4、5、8、9、12-ヘキサアザトリフェニレン(hatと略する); 9、10-フェナントレンキノンジイミン(phiと略する); 1、4、5、8-テトラアザフェナントレン(tapと略する); 1、4、8、11-テトラ-アザシクロテトラデカン(cyclamと略する)とイソシアン化物が含まれるが、これらに限定されない。溶融誘導体を含む置換誘導体も使用することができる。なお、配位的に金属イオンを飽和し、そして別のプロリガンドの追加を必要とするマクロ環状リガンドは、この目的では非マクロ環状と考える。当業者によって理解されるように、多くの「非マクロ環状」リガンドを共有付着して配位的に飽和した化合物を形成することができるが、それには環状骨格が欠けている。
【0177】
いくつかの実施形態では、単座(例えば、少なくとも1つのシアノリガンド)、二座、三座、そして多座リガンドの混合物(飽和するまで)をEAMの構成に使用することができる。
【0178】
通常、遷移金属錯体が溶媒接触可能かどうかを決めるのは組成物またはリガンドの特性である。本明細書でいう「溶媒接触可能遷移金属錯体」または相当語句は、少なくとも1つ、好適には2つ、そしてより好適には3、4またはそれ以上の小さな極性リガンドを有する遷移金属錯体を意味する。極性リガンドの実際の数は金属イオンの配位数による。極性リガンドの好適な数は(n-1)と(n-2)である。例えば、Fe、Ru、Osなどの六配位金属の場合、溶媒接触可能遷移金属錯体は、下記により詳細を示すように、他の部位の要求により、好適には1つから5つの極性リガンドを持つが、2から5つが好適で、そして3から5つが特に好適である。Pt と Pdなどの四配位金属は、好適には、1、2または3つの小さな極性リガンドを持つ。
【0179】
なお、「溶媒接触可能」と「溶媒阻止」は相対語であると理解されたい。つまり、高いエネルギーが加わると、溶媒接触可能遷移金属錯体さえも電子を転移するように促される。
【0180】
EAMのいくつかの例を説明する。
【0181】
1). シアノ系錯体
【0182】
一態様では、本発明は1つの遷移金属と少なくとも1つのシアノ(-C≡N)リガンドを有するEAMを提供する。金属の価数と系(例えば、配位原子を供与する捕捉リガンドなど)の構成により、1、2、3、4または5のシアノリガンドを使用することができる。一般には、最も多くのシアノリガンドを使用する実施形態が好適である。さらに、これは系の配位による。例えば、図7に示すように、捕捉リガンドから別々に付着する オスミウムなどの六座金属を使うEAMは、6番目の配位部位を有する5シアノリガンドが付着リンカーの末端によって占有されることができる。六座金属が付着リンカーと配位原子を提供する捕捉リガンドの両方を有する場合、シアノリガンドは4つであることができる。
【0183】
いくつかの実施形態では、図7から9に示すように、付着リンカーおよび/または捕捉リガンドは1つ以上の配位原子を提供することができる。よって、例えば、図11では、付着リンカーは2つの配位原子を供与するビピリジンを含む。
【0184】
いくつかの実施形態では、 シアノリガンド以外のリガンドが少なくとも1つのシアノリガンドと組み合わせて使用される。
【0185】
2). Ru-N系錯体
【0186】
一態様では、最新の発明は、配位が単座、二座、三座または多座であることのできるRu-N系錯体の新しい構造を提供する。よって、配位リガンドL(アンカーと捕捉リガンドに共有的に結合する)の数は1、2、3または4であることができる。例のいくつかを図12Aに示す。
【0187】
荷電中和リガンドは、本明細書に記載するように、ジチオカルバミン酸塩、ベンゼンジチオレートまたはシッフ塩基などの、当技術分野で周知の任意の適したリガンドでよい。捕捉リガンドとアンカーは同じ枠組みでもよいし、別々でもよい。
【0188】
本発明の別の態様では、EAMリガンド構造の各成分はRu配位化学よりも共有結合によって結合されている。本明細書で提供される構築の構成は現代の合成有機化学方法論によるものである。重要な設計の考慮事項には、アンカーに存在する官能基の必要な直交反応性と、捕捉リガンド成分対配位リガンド成分が含まれる。好適には、化合物全体が合成でき、合成の最後のステップの近くでレドックス活性遷移金属がリガンドに配位される。本明細書で提供する配位リガンドは、ルテニウムペンタアミン前駆体の確立された無機方法論によるものである。ここに参照として取り込む Gerhardt and Weck、ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)第71巻:6336〜6341ページ(2006年); Sizova et al.、 インオーガニック・ケミカ・アクタ(Inorg. Chim. Acta)、第357巻:354〜360ページ (2004年); Scott and Nolan、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Eur. J. Inorg. Chem.)1815〜1828ページ(2005年)を参照のこと。Ruペンタアミン錯体を有するEAM構造のいくつかの例を下記の図5Bに示す。
【0189】
当業者によって理解されるように、本明細書で提供される化合物のアンカー成分はアルキルと多足性系チオールの間で置き換えられる。
【0190】
3). フェロセン系EAM
【0191】
いくつかの実施形態では、EAMは置換フェロセンを含む。フェロセンは空気中で安定する。それは捕捉リガンドとアンカー基の両方と簡単に置換することができる。フェロセンで標的タンパク質が捕捉リガンドに結合する際、フェロセンの周囲を環境を変えるだけでなく、シクロペンタジエニル連鎖がスピンするのを防ぎ、エネルギーを約4kJ/mol変化させる。WO/1998/57159; Heinze and Schlenker、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Eur. J. Inorg. Chem.)2974〜2988ページ(2004年); Heinze and Schlenker、Eur. J. Inorg. Chem.66〜71ページ(2005年); Holleman-Wiberg、インオーガニックケミカル(Inorganic Chemical)、Academic Press 34版、1620を参照のこと。これらは全て参照として取り込む。
【化8】
【0192】
いくつかの実施形態では、アンカーと捕捉リガンドは同じリガンドに付着して、合成を簡単にしている。いくつかの実施形態では、アンカーと捕捉リガンドは異なるリガンドに付着している。
【0193】
本明細書に開示する新しい構造を作るために使用することのできる多くのリガンドがある。それらには、カルボン酸塩、アミン、チオラート、ホスフィン、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン、テルピリジン、tacn(1、4、7-トリアザシクロノナン)、サレン(N、N'-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、acacen(N、N'-エチレンビス(アセチルアセトンイミネート(-))、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPAジエチレントリアミン五酢酸)、Cp(シクロペンタジエニル)、ピンサーリガンド、スコーピオナートが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、好適なリガンドはペンタアミンである。
【0194】
ピンサーリガンドはキレートリガンドの特異型である。ピンサーリガンドは金属中心の周りでそれ自体を包み、金属の反対側や中間に結合を作る。金属コア電子でのピンサーリガンド化学の効果はアミン、ホスフィン、混合ドナー リガンドと似ている。これにより、金属の活性が調整される化学状況が生み出される。例えば、ピンサーリガンドに対応する錯体の立体構造には高い需要があるため、金属の参加することのできる化学反応は限られ、そして選択的である。
【0195】
スコルピオネートリガンドとは、金属をfacの方法で結合する三座リガンドのことを指す。最もよく知られているスコルピオネートの類は、トリス(ピラゾリル)ヒドリドホウ酸塩またはTpリガンドである。CpリガンドはTpと等電子的である。
【0196】
いくつかの実施形態では、次の制限が望ましい:金属錯体は、溶媒と密接に接触するために小さな極性リガンドを有するべきである。
【0197】
4). 荷電中和リガンド
【0198】
別の態様では、本発明は荷電リガンドを有する金属錯体を有する組成物を提供する。中和から荷電(例えば、M+ <-> M0; M- <-> M0)に変化させる系の再配置エネルギーは、電荷が単に変化する(例えば、M2+ <-> M3+)系よりも大きくてもよい、というのも、水分子は変化にもっと適応するため、または分極環境を形成するために「再配置」しなければならない。
【0199】
いくつかの実施形態では、荷電リガンドアニオン化合物は、アンカーと捕捉リガンドを金属中心に付着するために使用することができる。錯体圏にハロゲン化物イオンXを含む金属錯体は、チオール(R-SH)、チオラート(RS-E; E=脱離 基、すなわち、トリメチルシリル基)、炭酸、ジチオール、炭素塩、アセチルアセトネート、サリチル酸塩、システイン、3-メルカプト-2-(メルカプトメチル)プロパン酸を含むが、それらに限定されない荷電電荷リガンドと反応する。この反応の駆動力は、HXまたはEXの形成である。アニオンリガンドが捕捉リガンドとアンカーの両方を含む場合には、1つの置換反応が必要である、よって、それと反応する金属錯体は、内圏に1つのハロゲン化物リガンドを持つ必要がある。アンカーと捕捉リガンドが別々に導入される場合、出発物質は通常内配位圏に2つのハロゲン化物を含む必要がある。Seidel et al.、インオーガニック・ケミストリー(Inorg.Chem) 第37巻:6587〜6596ページ(1998年);Kathari and Busch、Inorga.Chem.第8巻:2276〜2280ページ(1978年);Isied and Kuehn ジャーナルオブアメリカンケミカルソサイエティー(J. Am. Chem. Soc.)第100巻:6752〜6754ページ;Volkers et al.、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Eur. J. Inorg. Chem.)4793〜4799ページ(2006年)を全て、ここに参照として取り込む。
【0200】
適した金属錯体の例を下記に示す(なお、下記に示す構造は、シアノリガンドなどの単座配位子リガンドと置換や結合のできる多重単座配位子リガンドと多座配位子リガンドである):
【化9】
【0201】
いくつかの実施形態では、ジチオカルバミン酸塩が、下記に例を示す電荷-中和リガンドとして使用される:
【化10】
【0202】
いくつかの実施形態では、ベンゼンジチオレートが、下記に例を示す電荷-中和リガンドとして使用される:
【化11】
【0203】
上に示す構造で、Lnは配位リガンドで、n=0または1である。
【0204】
いくつかの実施形態では、EAMはシッフ塩基型錯体を含む。本明細書でいう「シッフ塩基」または「アゾメチン」は、アリール基またアルキル基に結合する窒素原子との炭素窒素二重結合を含む官能基を意味する。水素ではない。シッフ塩基は一般式がR1R2C=N-R3である。式中R3は、シッフ塩基を安定イミンにするフェニルまたはアルキル基である。シッフ塩基は、ヘミアミナールを形成する求核的付加と、それに続くイミンを発生させる脱水によって、芳香アミンとカルボニル化合物から合成することができる。
【0205】
acacenは、その窒素と酸素原子によって、とりまく水分子への水素結合を形成することのできる小さな平面四座リガンドであり、これによって再配置エネルギー効果が高まる。これは、カルボン酸とハロゲン化物を含むが、これに限定されない多くの官能性で修飾することができる。これはacacen-リガンドの捕捉リガンド、そしてアンカー基への結合に使用することができる。この系によって、多種の異なる金属中心がEAMで使用することができる。リガンドは2つの酸素と2つの窒素原子と結合するので、ほんの4配位部位が占有されるだけである。これによって、金属中心によって、2つの付加配位部位が空きとなる。これらの配位部位は多種の有機、無機リガンドによって占有することができる。これらの付加的な空き部位は内圏置換(例えば、不安定なH2OまたはNH3はタンパク質結合によって置き換えられる)または外圏影響(例えば、CO、CNをH-結合)に使用することができ、捕捉リガンドの標的への結合時にポテンシャルのシフトを最適化する。WO/1998/057158、WO/1997/21431、Louie et al.、PNAS 第95巻:6663〜6668ページ(1999年)とBottcher et al.、インオーガニックケミカル(Inorg. Chem.)第36巻:2498〜2504ページ(1997年)の全体をここに参照のために取り込む。
【0206】
いくつかの実施形態では、サレン錯体も使用される。Syamal et al.、反応性および機能性高分子(Reactive and Functional Polymers)第39巻:27〜35ページ(1999年)参照のこと。
【0207】
acacen系錯体とサレン系錯体のいくつかの構造を下記に示す。ここで、捕捉リガンドと/またはアンカーとの官能化に適したリガンドの位置を星印で示す。
【化12】
【0208】
acacenをリガンドとして使用してコバルト錯体を形成する例を下記に示す:
【化13】
ここで、AとBは適した基で、Lnは配位リガンド、n=0または1である。
【0209】
5). スルファトリガンド
【0210】
いくつかの実施形態では、EAMは[L-Ru(III)(NH3)4SO4]+と[L-Ru(III)(NH3)4SO22]2+含むが、これらに限定されないスルファト錯体を含む。SO4−Ru(III)-錯体は空気中で安定する。リガンドLは捕捉リガンドとアンカーを含む。サルフェートリガンドはアミンよりも極性があり、負に荷電している。よって表面錯体は[L-Ru(NH3)5-L’]と[L-Ru(NH3)5]2+よりも多くの水分子で囲まれている。Isied and Taube、インオーガニックケミカル(Inorg. Chem.)第13巻:1545〜1551ページ(1974年)を、ここに参照として取り込む.
【化14】
【0211】
(d). スペーサ基
【0212】
いくつかの実施形態では、EAMまたはREAMCは、付着リンカーまたはスペーサ(「スペーサ1」)を介してアンカー基(電極に付着している)に共有結合しており、それは通常さらに官能基分を含んでおり、付着リンカーの電極への会合が可能となる。(例えば、米国特許番号7,384,749を参照のこと。その内容全体を、そして特に付着リンカーの考察について、本明細書に参照として取り込む)。なお、金電極の場合、硫黄原子は官能基として使用することができる(この付着はこの発明に関しては、共有であると考える)。本明細書でいう「スペーサ」また「付着リンカー」は、レドックス活性錯体を電極の表面に寄せ付けない部分のことを意味する。下記に概要を示すように、適切なスペーサ部分は不動態化剤と絶縁体を含むが、いくつかの実施形態では、本明細書に概要を示すように、スペーサは導電性オリゴマである。場合によって、スペーサ分子は種を形成するSAMである。好適には(ただし要求はされないが)、レドックス活性分子と電極(HAB)との間の電子結合は、電子移動の速度制限ステップにはならないが、スペーサ部分は実質的に非導電でもよい。
【0213】
さらに付着リンカーは、ReAMCが利用される場合、捕捉リガンドの配位原子と捕捉リガンドそれ自身との間で使用することができる。同様に、図7から9に示すように、付着リンカーはブランチすることができる。さらに、付着リンカーは、ReAMCに関連しない場合、捕捉リガンドの電極への付着に使用することができる。
【0214】
付着リンカーの一端がEAM/REAMC/捕捉リガンドに結び付けられ、もう一端は(当業者によって理解されるように、どちらも正確な末端である必要はないが)電極に付着される。
【0215】
レドックス活性分子を含む導電性オリゴマの共有付着(と他のスペーサ分子の付着)は、使用される電極と導電性オリゴマによって、様々な方法で達成される。例えば、米国特許出願公報第20020009810の構造12から19と本文を参照のこと。これらの内容全体を本明細書に参照として取り込む。
【0216】
一般に、スペーサの長さは、本明細書に参照として取り込む、米国特許番号6,013,459、6,013,170、6,248,229および7,384,749に導電性ポリマーと不動態化剤の概要を示す通りである。当業者によって理解されるように、スペーサが長すぎると、レドックス活性分子と電極の間の電子的結合は急速に減少する。
【0217】
II. 作成方法
【0218】
別の態様では、本明細書に記載するように、本発明は組成物の作成方法を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は2008年8月7日に出願された、米国特許番号6,013,459、6,248,229、7,018,523、7,267,939、米国特許出願番号09/096593と60/980、733、および米国特許仮出願番号61/087、102の開示に従って作成される。これらは全て、その全体を全ての目的のために本明細書に取り込む。
【0219】
一実施形態では、下記に示す化合物1(非対称のジアルキルジスルフィドを持つ末端フェロセンとマレイミド)は、例でより詳細を示すように、下記のように、金電極に合成または堆積する。
【化15】
【0220】
III. 標的酵素の検出方法
【0221】
検体を検出する方法を開発するために、再配置エネルギーの調査を行う。
【0222】
1). 概説
【0223】
一態様では、本発明は、結合/電離(物理)事象よりも、基板の開裂または転移の触媒作用(化学)事象を伴って増幅効果を生み出す標的酵素の検出方法を提供する。いくつかの実施形態では、標的検体は酵素である。標的酵素の導入時に、酵素は基板と関連して、基板を開裂あるいは立体的に変えて、レドックス活性分子が溶媒接触可能となるようにする。この変化は検出することができる。この実施形態は信号を増幅させるという点で有利である、というのも、1つの酵素分子が多重溶媒接触可能分子になるからである。これはバクテリアやその他の酵素、具体的にスカベンジャープロテアーゼまたはカルボヒドラーゼを分泌する病原体の検出に特に使用される。
【0224】
2). 試料
【0225】
一態様では、本発明は試料内で標的酵素を検出する方法を提供する。本明細書でいう「試料」または「試験試料」とは、検出する検体を含む組成物を意味する。試料は、異なるタンパク質などの様々な成分を含む異種性でもよい。あるいは、試料は1つの成分を含む同種性でもよい。試料は自然発生する生物学的物質または人造の物質でもよい。物質は、天然または変性した形態であってもよい。試料は、単細胞または複数の細胞、血清検体、組織試料、皮膚試料、尿試料、水試料または土試料であってもよい。いくつかの実施形態では、試料は単細胞の中身か、または複数細胞の中身を含む。試料は真核生物、原核生物、哺乳類、人間、イースト菌またはバクテリアなどの生体からのものであってもよいし、または、試料はウィスルからのものであってもよい。試料は処理をしなくて使用してもよいし、要望があれば、処理をして使用してもよい。
【0226】
よって本発明では、試料または試験試料は、本明細書に記載するように標的酵素を含んでいる。
【0227】
3). 機構
【0228】
本明細書で提供される検定では、E0のシフトはEAMの近くから部分を除去したり、またはEAMの近くに部分を加えることによる。部分は、このような部分の除去または追加が標的酵素の検出を可能にするEAMのE0のシフトであるかぎり、どのようなサイズでもよい。
【0229】
一般に、部分をEAMの近くに追加すると、EAMのE0は正にシフトする。1つの例として本明細書ではキナーゼ検定を説明する。
【0230】
一般に、部分をEAMの近くから除去すると、EAMのE0は負にシフトする。1つの例として本明細書では「芝刈り検定」を説明する。
【0231】
いくつかの実施形態では、検定はEAMの近くへの部分の追加と近くからの部分の除去を伴い、よって、EAMのE0の両方向へのシフトを伴う。1つの例として、本明細書では「芝刈り検定」を説明する。図4Aを参照のこと。
【0232】
4). 用途
【0233】
本明細書に記載の方法と組成物は様々な用途で使用される。
【0234】
キナーゼ
【0235】
一態様では、本発明はキナーゼの検出方法を提供する。方法は、(a)キナーゼを含む試験試料の電極へ追加するステップであって、該電極は、(i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着する複数のタンパク質を含み、前記タンパク質は前記キナーゼの第1基板であるステップと、(b)前記タンパク質を前記キナーゼと第2キナーゼ基板にリン酸化するステップと、(c)E0の変化を測定することによって、前記キナーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0236】
いくつかの実施形態では、キナーゼ検定は、キナーゼ酵素にとって周知の基板である、隣接するオリゴペプチド配列でわずかに薄められるチオラート電気活性部分(EAM)の混合自己組織化単分子層(SAM)を使用する。この配列では、EAMはSAM/溶液界面に「露出」している。目的のキナーゼ標的が存在すると、SAM内のオリゴペプチドは、試料マトリックス中に存在するポリマー修飾ATP共同因子と特異的にリン酸化し、リン酸末端基ポリマーで修飾されたオリゴペプチドとなる。リン酸化部位が、混合SAM配列内のEAM高さの近くに存在する場合には、ポリマー結合生成物ペプチドが、隣接するEAMを溶媒から「シールド」する。キナーゼの触媒リン酸化反応によるEAMの溶媒化環境のこの変化によって、電気化学的に検出することのできるポテンシャルが変化する。図1に、キナーゼ検定のいくつかの実施形態の図形を示す。
【0237】
本明細書に記載するように、タンパク質キナーゼは、リン酸をドナー(第2基板)から受容体ペプチド(第1基板)に転移する。本発明では、第1と第2基板は捕捉基板か、または溶液基板であることができる。
【0238】
一旦標的キナーゼが見つかって合成ペプチド基板が識別されると、SAM内のEAMとペプチド成分の次元/濃度を変えることによって、検定を最適化することができる。
【0239】
一旦目的の特定のキナーゼのポテンシャルシフトが最適化されると、本明細書に記載するように、キナーゼ活性を抑制する薬物候補のスクリーンに、この検定を使うことができる。
【0240】
本明細書でいう「第1基板」とは、キナーゼによってリン酸化することのできるタンパク質を意味する。第1基板の組成物は標的キナーゼによって決まる。
【0241】
いくつかの実施形態では、標的キナーゼはタンパク質キナーゼC(PKC)であり、第1基板はSEQ ID NO:1 (SIYRRGSRRWRKL)の配列を持つペプチドを含む。
【0242】
いくつかの実施形態では、第1基板はおよそ10から50のアミノ酸長であり、好適には、およそ15から20のアミノ酸長である。
【0243】
本明細書でいう「第2基板」とは、キナーゼによるリン酸化反応のためのリン酸を提供する分子を意味する。いくつかの実施形態では、第2基板はAPを含むポリマーである。いくつかの実施形態では、第2基板はGTPを含むポリマーである。
【0244】
いくつかの実施形態では、第2基板はポリマー修飾ATP共同因子である。
【0245】
いくつかの実施形態では、第2基板は式(I)の構造を持っている:
【化16】
【0246】
いくつかの実施形態では、EAMと第1基板ペプチドは、EAMが少なくとも部分的に溶液に露出されるように配置される。
【0247】
通常、第1基板はリン酸化部位を含み、この部位は、混合SAM配列内でEAMの高さの近くにあり、第2基板がリン酸化反応によって第1基板に付着すると、第2基板結合第1基板が隣接するEAMを溶液からシールドするようになっている。
【0248】
リン酸化部位の配列は標的キナーゼによる。例えば、セリン/トレオニンキナーゼのペプチド基板はセリンまたはトレオニンを有する。様々なタンパク質キナーゼの共通配列が知られている(Enzymology 200: 62〜81ページ (1991年)に記載の方法)。図2は、本発明に適した様々なタンパク質キナーゼの共通リン酸化部位モチーフを示す。星印はリン酸化可能な残留物を示す。「X」はアミノ酸を示す。
【0249】
【表2】
【0250】
キナーゼ検定に対するポテンシャルペプチド基板の有用性は、キナーゼが活性であることが知られている状態で、ポテンシャルペプチド基板をインキュベートすることによって判断することができる。キナーゼ反応で役立つペプチド基板は、目的のキナーゼでリン酸化することのできるものである。その他の好適なペプチド基板を例にあげる。
【0251】
当技術分野で周知の任意のキナーゼ認識モチーフを、本発明によって使用することができる。本発明の金属結合アミノ酸を使ったリン酸化反応のためにモニタリングすることのできる認識モチーフの例を表3に示す。
【0252】
【表3】
【0253】
リン酸化することのできるその他のペプチド(および対応するキナーゼ)は、Pinna & Donella-Deana、バイオキミカ・エ・バイオフィジカ・アクタ(Biochemical et Biophysica Acta)第1222巻:415〜431ページ(1994年)の表Iに記載されており、その内容全体を本明細書に参照として取り込む。別のリストは、New England Biolabs Inc. 2005〜06年カタログと技術参照(Catalog & Technical Reference)の198ページに記載されており、その内容全体を本明細書に参照として取り込む。
【0254】
例えば、調査中のキナーゼに活性剤が必要な場合など、必要であれば、活性剤をキナーゼ反応に加えることができる。最適なキナーゼ活性を達成するためにも、活性剤を加えることが望ましい。キナーゼ反応に有用な活性剤には、カルシウム-リン脂質依存タンパク質キナーゼ(PKC)用のカルシウム、リン脂質およびその他の脂質、ホルボール12-ミリスチン酸塩13-アセテート(PMA)または類似の活性剤、カルモジュリン依存タンパク質キナーゼ(CaM K)用のカルシウムとカルモジュリン、cAMP依存タンパク質キナーゼ(PKA)ホロ酵素用のcAMP、cGMP依存タンパク質キナーゼ(PKG)用のcGMP、DNA-PK用のDNAが含まれるが、これらに限定されない。活性剤は、調査中のキナーゼによって、ナノモルかまたはそれより高い濃度とミクロモルかまたはそれより低い濃度で加えることができる。例えば、タンパク質キナーゼの測定と定量化など、キナーゼ反応が起きていて、終末点が必要な系には、停止試薬を任意選択で加えることができる。停止試薬は通常金属キレート試薬で、これは、キナーゼから金属を隔離するのに十分な濃度で加える。さらに、キナーゼによって触媒されるリン酸化を停止させるその他の試薬も、リン酸化反応を停止するために使用することができる。例えば、EDTA、EGTA、1、10-フェナントロリンはそれぞれマグネシウム、カルシウム、亜鉛に良いキレート剤である。その他のイオンキレート剤を使用してもよい。さらに、キナーゼは加熱不活性化することができる。
【0255】
キナーゼ反応はリンペプチドをリン酸ドナー、そしてヌクレオシドニリン酸(NDP)をリン酸受容体として使用して行うこともできる。すなわち、先に述べた反応の逆である。この配置では、キナーゼ反応は上述と同じ方法で行われる。しかしながら、通常検出される出力は、リン酸ペプチドがリン酸ドナーであるキナーゼ反応の出力の逆数である。つまり、キナーゼ活性がこの検定配置にある場合にリンのペプチド基板の脱リン酸化反応とNDPのリン酸化反応が起こると、出力は増える。
【0256】
プロテアーゼとPSA
【0257】
いくつかの実施形態では、標的酵素はプロテアーゼである。プロテアーゼは多くの重要な生理的プロセスに携わる幅広い酵素のクラスを表しており、関節炎、アルツハイマー病、癌、脳卒中を含む多くの病状の診断マーカに関連すると見なされる。タンパク質のこの重要なクラスのバイオセンサプラットフォームの開発は、依然としてカタロミクス、細胞生物学、創薬、臨床診断を促進させる集学的研究の活動的な分野である。
【0258】
いくつかの実施形態では、標的酵素は前立腺特異抗原(PSA)である。カリクレインIII、セミニン(seminin)、セメノゲラーゼ(semenogelase)、γ-セミノタンパク質、P-30 抗原としても知られるPSAはほとんど前立腺のみで作られる34kD糖タンパク質である。PSAはセリンプロテアーゼ (EC 3.4.21.77)酵素であり、一般の人間の血清にほんの少量だけ存在し、そして前立腺癌やその他の前立腺疾患があると、上昇する。PSAを測定する血液検査は、前立腺癌の早期発見のために現在行われている検査の1つである。経時的なPSAレベルの上昇は前立腺癌(CaP)の場所の特定と転移に関連する。
【0259】
図4A、4B、6A、6Bに実施例を示す。この検定では、ペプチド(HSSKLQC、SEQ ID NO:33)が最初にリンカーに付着する。これによってE0がシフトする(正のシフト)。検定にPSAが存在すると、それがペプチドを開裂して、別のE0のシフトとなる(負のシフト)。
【0260】
ペプチダーゼ 毒素
【0261】
一態様では、本発明はペプチダーゼ毒素検出の組成物と方法を提供する。この方法には、(a)プロテアーゼを含む試験試料を加えるステップであって、前記電極が、(i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii) E0の遷移金属錯体を含む共有結合電気活性活性部分(EAM)と、(iii)前記電極に付着する複数のタンパク質を含み、該タンパク質は前記プロテアーゼの開裂部位を含むステップと、(b)複数の前記タンパク質を前記プロテアーゼで開裂するステップと、(c)E0の変化を測定することによって、前記プロテアーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0262】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼの基板は電極に付着する開裂部位を含む。いくつかの実施形態では、基板は標的ペプチダーゼによって開裂される開裂部位を含むペプチドを含む。好適には、ペプチドはさらに標的ペプチダーゼ(標的認識配列)によって認識されるアミノ酸配列をさらに含み、よって、開裂に対して特異性を与える。開裂部位と標的認識配列は、本明細書に記載のように、最適化のあるなしにかかわらず、当技術分野で周知のものから選ぶことができる。
【0263】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼはBoNT A、つまりSNAP-25の残留物187から203を含む基板:SNKTRIDEAN QRATKML(SEQ ID NO:1)か、またはアルギニンと置換したK189とK291の修飾版:SNRTRIDEAN QRATRML(SEQ ID NO:2)である。Schmidt and Stafford、応用環境微生物学(Applied and Environmental Microbiology)、第69巻:297〜303ページ(2003年)を参照のこと。
【0264】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼはBoNT B、つまりヒトVAMP-2の残留物60から94を含む基板:(GenBank Aceesion No: NP_055047):LSELDDRADA LQAGASQFET SAAKLKRKYW WKNLK(SEQ ID NO:3)である。
【0265】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼはBoNT F、つまりヒトVAMP-2の残留物37から75を含む基板:AQVDEVVDI MRVNVDKVLE RDQKLSELDD RADALQAGAS (SEQ ID NO:4)である。
【0266】
あるいは、開裂部位と標的認識配列は、標的ペプチダーゼに基づいて設計することができる。例えば、ランダムペプチドのライブラリーペプチダーゼ基板のスクリーンに使用することができる。
【0267】
いくつかの実施形態では、基板は周知の標的ペプチダーゼ基板の類似物質を含むことができる。
【0268】
ペプチドは当技術分野の技術を使って作ることができる。ペプチドは化学的に合成してもよい。あるいは、 ペプチドは、E. coliまたはイーストベースの発現システムを使ったin vitro発現によって生成することができる。
【0269】
基板は、本明細書に記載するように、付着リンカーを使って電極に付着される。
【0270】
よっていくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼを含む試験試料がEAMとSAMを含む電極に加えられ、本明細書に記載するように、標的ペプチダーゼの存在はEAMのE0を測定することによって判断される。
【0271】
5). 開始
【0272】
一態様では、本発明は標的検体、好適には酵素の検出に使用される方法と組成物を提供する。
【0273】
いくつかの実施形態では、存在する場合には標的酵素が基板に触媒作用を及ぼす条件において、試験試料に含まれる標的検体が、溶媒接触可能レドックス活性錯体かまたは溶媒接触可能レドックス活性分子と基板の混合物を含む電極に加えられる。これらの条件は一般に生理的条件である。通常は、複数の検定混合物を異なる濃度で同時に行い、様々な濃度に対する反応の差を得る。一般的には、これらの濃度の1つは負の制御、つまりゼロ濃度または検出レベル以下としての機能を果たす。さらに、他の様々な試薬をスクリーン検定に含めてもよい。これらには、最適な結合の促進や非特異性やバックグラウンド相互作用を減少させるために使用される、例えば、アルブミン、洗剤などの食塩や中性タンパク質が含まれる。また、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤など、検定の効率を別のやり方で向上させる試薬も使うことができる。成分の混合物は、必要な結合を提供するような順番で加えることができる。
【0274】
いくつかの実施形態では、標的酵素による基板の触媒時に、溶媒接触可能レドックス活性分子が溶媒阻止になる。本明細書でいう「溶媒阻止レドックス活性分子」とは、溶媒接触可能レドックス活性分子の溶媒再配置エネルギーよりも溶媒阻止レドックス活性分子の溶媒再配置エネルギーが小さいことを意味する。
【0275】
いくつかの実施形態では、標的酵素による基板の触媒作用時に、溶媒阻止レドックス活性分子が溶媒接触可能になる。
【0276】
いくつかの実施形態では、必要とされる溶媒再配置エネルギー変化は、レドックス活性分子のE0の変化が約100 mVs、好適には少なくとも200 mV、そして特に好適には300から500 mVとなるのに十分なものである。いくつかの実施形態では、露出レドックス活性分子が溶媒阻止になった場合、レドックス活性分子のE0の変化は減少する。いくつかの実施形態では、溶媒阻止レドックス活性分子が溶媒接触可能になると、レドックス活性分子のE0の変化が増加する。
【0277】
いくつかの実施形態では、必要とされる溶媒再配置エネルギーは少なくとも100 mV変化し、好適には少なくとも約200 mV、そして特に好適には約300から500 mVである。
【0278】
いくつかの実施形態では、必要とされる溶媒再配置エネルギーは、溶媒接触可能レドックス活性分子と電極との間の電子移動の速度と溶媒阻止レドックス活性分子と電極との間の電子移動(kET)の速度変化が相対的であるように減少する。一実施形態では、この速度変化は約3の因子よりも大きく、好適には少なくとも約10の因子、そして特に好適には、少なくとも約100以上の因子である。
【0279】
溶媒再配置エネルギーの決定は、当業者によって理解されるようにして行われる。つまり、マーカス理論で概要が述べてあるように、電子移動速度(kET)は異なる駆動力(または自由エネルギー:-ΔG°)の数で決められる。その点では、自由エネルギーと同等の速度はλである。これはほとんどの場合、溶媒再配置エネルギーと同等のものとして処理される。Gray et al.アニュアル・レビュー・オブ・バイオケミストリー(Ann. Rev. Biochem.)第65版:537ページ(1996年)を、本明細書に参照として取り込む。
【0280】
標的検体を示す溶媒阻止レドックス活性分子は、溶媒阻止レドックス活性分子と電極と
の間の電子移動の信号特性の電子移動の開始と検出によって検出される。
【0281】
電子移動は通常電子的に、好適には電圧を使って開始される。修飾された核酸プローブを含む試料にポテンシャルを加える。加えるポテンシャルの正確な制御と変化は、ポテンショスタットと3電極システム(1つの参照、1つの試料、1つの対極)または2電極システム(1つの試料と1つの対極)を介して行われる。これにより、一部はレドックス活性分子そして一部は使用する導電性オリゴマによって決まる、加えるポテンシャルのピーク電子移動ポテンシャルへの照合ができるようになる。
【0282】
好適には、溶媒接触可能と溶媒阻止レドックス活性分子の溶媒再配置エネルギーとの間の相対的差異を最大にするために、開始と検出が選択される。
【0283】
6). 検出
【0284】
レドックス活性分子と電極間の電子移動は、好適には、アンペロメトリ、ボルタンメトリ、キャパシタンス、インピーダンスを含むが、それらに限定されない電子検出による、様々な方法で検出することができる。これらの方法には、ACまたはDC電流による時間または周波数に依存する方法、パルス方法、ロックイン技術、フィルタリング (ハイパス、ローパス、バンドパス)が含まれる。いくつかの実施形態では、必要なのは電子移動検出だけである。その他では、電子移動速度が決められる。
【0285】
いくつかの実施形態では、アンペロメトリ、ボルタンメトリ、キャパシタンス、 インピーダンスを含む電子検出が使用される。適切な技術には、電解重量法; 電量検定 (制御ポテンシャル電量検定と定電流電量検定を含む);ボルタンメトリ(環状ボルタンメトリ、パルスボルタンメトリ(通常のパルスボルタンメトリ、矩形波ボルタンメトリ、示差パルスボルタンメトリ、オスターヤング(Osteryoung)矩形波ボルタンメトリ、クーロスタティックパルス技術); ストリッピング検定(アニオンストリッピング検定、陰極ストリッピング検定、矩形波ストリッピングボルタンメトリ);コンダクタンス測定(電解コンダクタンス、直接検定);時間依存的電気化学検定(クロノアンペロメトリ、クロノポテンシオメトリ、環状クロノポテンシオメトリとアンペロメトリ、ACポログラフィ、クロノガルバメトリ、クロノ電量検定);ACインピーダンス測定;キャパシタンス測定;ACボルタンメトリ、光電気化学が含まれるが、これらに限定されない。
【0286】
いくつかの実施形態では、電子移動のモニタリングは電流検出を介して行われる。この検出方法には、本発明の組成物を含む電極と試験試料の補助(対)電極の間に電極(別個の参照電極と比べて)を与えることが含まれる。異なる効率の電子移動が、標的検体の有無によって試料中で引き起こされる。
【0287】
電流的に電子移動を測定する装置には、感度電流検出と電圧ポテンシャルを制御する手段、通常はポテンショスタットが含まれる。この電圧はレドックス活性分子のポテンシャルを参照して最適化される。
【0288】
いくつかの実施形態では、代替の電子検出モードが利用される。例えば、ポテンシャル差(または電解電流計の)測定には、非ファラデー(非正味電流フロー)プロセスが含まれ、伝統的にpH およびその他のイオン検出器で利用されている。同様のセンサーが、レドックス活性分子と電極間の電子移動のモニターに使用される。さらに、絶縁体(抵抗など)と導体(導電率、インピーダンス、キャパシタンスなど)のその他の特性をレドックス活性分子と電極間の電子移動のモニターに使用することができる。最終的に、電流(電子移動など)を発生させるシステムは、小さな磁界も発生させ、いくつかの実施形態ではこれをモニターすることができる。
【0289】
いくつかの実施形態では、標的を加える前に、有機溶媒中でシステムを動作させることによって、電極の溶媒接触可能レドックス活性分子の量を決めるように、システムを較正してもよい。これは、センサーまたはシステムの内部制御として機能するためには極めて重要である。これにより、同様の、しかし異なる制御システムに依存するよりはむしろ、標的を加える前に検出に使用される同じ分子の事前測定を行うことが可能になる。従って、検出に使用される実際の分子を実験前に定量化することができる。水がない状態、すなわちアセトニトリルなどの有機溶媒中でシステムを動作させることによって、水を排除し、そして実質的に溶媒再配置効果をネゲートする。これによって、電極の表面にある実際の分子数を定量化することができる。それから試料が加えられ、出力信号が決められ、そして結合/非結合分子の率が決められる。これは前の方法よりもはるかに有利である。
【0290】
なお、本発明の組成物の中に見られる、速い電子移動の1つの利点は、時間分解能が、電子電流に基づく、モニターの信号に対するノイズ量を大幅に向上させるということを理解されたい。本発明による速い電子移動により、電子移動の開始と終了の間の高信号と定型化した遅れがもたらされる。電子移動のパルス開始や検出の「ロックイン」増幅によって特定の遅れ信号を増幅させることにより、信号に対するノイズ量の一桁分の改善が達成される。
【0291】
理論に束縛されるものではないが、電極に結合される標的検体は、直列のレジスタとコンデンサと同様の方法で、応答するようである。また、レドックス活性分子のE0は、標的検体結合の結果、シフトすることができる。さらに、電子移動の速度に基づいて溶媒接触可能と溶媒阻止のレドックス活性分子を区別することが可能で、これは、標的検体を検出するために多くの方法で活用することができる。よって、当業者によって理解されるように、本発明では多くの数の開始検出システムを使用することができる。
【0292】
いくつかの実施形態では、電子移動は直流(DC)技術を使って開始することができる。上述の様に、レドックス活性分子のE0は、標的検体結合時の溶媒再配置エネルギーの変化によってシフトすることができる。従って、溶媒接触可能レドックス活性分子のE0と溶媒阻止分子のE0で行われる測定によって、検体の検出を行うことができる。当業者によって理解されるように、電子移動を検出するために多くの適切な方法を使用することができる。
【0293】
いくつかの実施形態では、電子移動は交流電流(AC)法によって開始される。電極と第2電子移動部分との間で電子移動を開始するために、好適には少なくとも1つの試料電極(本発明の錯体を含む)と対極を介して、システムに第1入力電気信号が加えられる。また、参照電極と作用電極に電圧を加えて、3つの電極システムも使用することができる。この実施形態では、第1入力信号は少なくとも1つのAC成分を含んでいる。AC成分は、様々な振幅と周波数を持つ。通常、本方法で使用するためのAC振幅範囲は約1 mVから約1.1 Vであり、好適には約10 mV から約800 mV、特に好適には約10 mVから約500 mVである。AC周波数の範囲は約0.01 Hzから約10 MHzで、好適には約1 Hzから約1 MHz、特に好適には約1 Hzから約100 kHzである。
【0294】
いくつかの実施形態では、第1入力信号はDC成分とAC成分とを含む。つまり、試料と対極の間のDCオフセット電圧は、第2電子移動部分の電気化学ポテンシャルによって掃引される。掃引は、システムの最大応答が見られるDC電圧を識別するために使用される。これは通常レドックス活性分子の電気化学ポテンシャルか、またはそれくらいである。一旦この電圧が決まると、掃引または1つ以上の一定のDCオフセット電圧を使用することができる。好適には、約-1 V から約+1.1 VDCのオフセット電圧で、特に好適には、約-500 mVから約+800 mVで、また特に好適には、約-300 mVから約500 mVである。DC オフセット電圧に加えて、可変振幅と周波数のAC信号成分が加えられる。レドックス活性分子がAC摂動に応答するのに十分に低い溶媒再配置エネルギーを有する場合には、AC電流は電極とレドックス活性分子間の電子移動によって生成される。
【0295】
いくつかの実施形態では、AC振幅は変化する。理論に束縛されるものではないが、振幅が増えると駆動力が増えるようである。よって、より高い振幅は、より高い過電圧となって、電子移動の速度が速くなる。よって通常、同じシステムで、その周波数でより高い過電圧を使用して、任意の1つの周波数で向上された応答を与える。従って、システムの電子移動の速度を上げるために、振幅を高い周波数で上げることができ、結果として感度が上がる。さらに、上述の様に、電子移動に基づいて溶媒接触可能レドックス活性分子と溶媒阻止レドックス活性分子を区別することが可能であり、それにより、周波数または過電圧に基づいてこれらの2つを区別することができる。
【0296】
いくつかの実施形態では、システムの測定は少なくとも2つの別々の振幅または過電圧で行われる。好適には、複数の振幅での測定である。上述の様に、振幅の変化による応答の変化は、システムの識別、較正、定量かの基礎を成す。
【0297】
いくつかの実施形態では、AC周波数は変化する。異なる周波数では、異なる分子が異なる方法で応答する。当業者によって理解されるように、周波数の増加により、出力電流は通常増加する。しかしながら、周波数が電極とレドックス活性分子との間を電子が移動する速度よりも大きい場合には、周波数が大きくなると、出力信号の損失または減少につながる。いくつかの点では、溶媒阻止レドックス活性分子であっても、周波数は電子移動の速度よりも大きく、そして出力信号も下がる。
【0298】
さらに、AC技術の使用によって、共有結合核酸以外の成分、すなわち「ロックアウト」または「フィルタリング」される不要な信号による任意の1つの周波数において、背景信号の減少が可能となる。つまり、溶液中の電荷担体またはレドックス活性分子の周波数応答は拡散係数によって制限される。従って、高い周波数では、電荷担体はその電荷が電極に転移するほど速くは拡散しない、そして/または電荷転移速度(動力学)は十分な速度ではないかもしれない。これは、不活性化層単分子層を利用しない、または部分的または不十分な単分子層を有する、つまり、溶媒が電極に接触可能である実施形態では、特に重要である。上述に概要を示すように、DC技術では、電極が溶媒に接触可能となる「穴」の存在によって、溶媒電荷担体がシステムを「短絡」させてしまうこととなる。しかしながら、現在のAC技術を使って、単分子層の存在にかかわらず、溶液中の1つ以上の電荷担体の周波数応答を防ぐ1つ以上の周波数を選ぶことができる。これは特に重要である、というのも、血液のような多くの生物学的流体は、電流検出方法を妨げる可能性のある大量のレドックス活性分子を含んでいるからである。
【0299】
いくつかの実施形態では、システムの測定は少なくとも2つの別々の周波数で、好適には複数の周波数で行われる。複数の周波数にはスキャンが含まれる。好適な実施形態では、周波数応答は少なくとも2つ、好適には少なくとも約5つ、そしてより好適には少なくとも約10の周波数で決められる。
【0300】
7). 信号処理
【0301】
電子移動を開始するために入力信号を送信した後に、出力信号が受信または検出される。出力信号の存在と大きさは入力信号の過電圧/振幅; 入力AC信号の周波数;介在媒体の組成物、すなわち電子移動部分間のインピーダンス;DCオフセット;システム環境;そして溶媒によって決まる。特定の入力信号では、出力信号の存在と大きさは通常、金属イオンの酸化状態に変化をもたらすために必要な溶媒再配置エネルギーによって決まる。従って、 入力信号の送信時には、AC成分とDCオフセットを含み、溶媒再配置エネルギーが十分に低く、周波数が範囲内で、振幅が十分の時に、電子が電極とレドックス活性分子の間に転移され、出力信号となる。
【0302】
いくつかの実施形態では、出力信号はAC電流を含む。上述の様に、出力電流の強さはパラメータの数によって決まる。これらのパラメータを変えることによって、システムは多くの方法で最適化することができる。
【0303】
通常、本発明ではAC電流は約1フェムトアンペアから約1ミリアンペアであり、好適には約50フェムトアンペアから約100ミクロアンペア、そして特に好適には 約1ピコアンペアから約1ミクロアンペアである。
【0304】
IV. 装置
【0305】
本発明は、AC検出方法を使って検体を検出する装置をさらに提供する。装置は、少なくとも第1測定電極すなわち試料電極と第2測定電極すなわち対極を有するテストチャンバを含む。また、3つの電極システムも使用できる。第1と第2の測定電極は、液体試験試料があると、2つの電極が電気接触するように、試験試料受け入れ領域と接触している。
【0306】
また別の実施形態では、本明細書に示すように、第1測定電極は、スペーサ、好適には導電性オリゴマを介して共有結合するレドックス活性錯体を含む。あるいは、第1測定電極は共有結合レドックス活性分子と結合リガンドを含む。
【0307】
装置はさらにテストチャンバ、つまり測定電極と電気的に接続される電源をさらに含む。好適には、必要な場合に、電源はAC、DC電源を供給することができる。
【0308】
一実施形態では、装置はさらに入力信号と出力信号を比較することのできるプロセッサをさらに含む。プロセッサは電極に連結され、出力信号を受信するように構成され、よって、標的検体の存在を検出する。
【0309】
V. 用途
【0310】
別の態様では、本発明はプロテアーゼまたはキナーゼ阻害剤をスクリーンする方法を提供する。
【0311】
本明細書でいう「阻害剤」とは、標的酵素を阻害することのできる分子を意味する。本明細書でいう「阻害」とは、阻害剤がない場合の活性と比較して、標的酵素の活性を減らすことを意味する。この場合、「阻害」は通常活性の少なくとも5-20-25%の減少であり、いくつかの実施形態では50から75%以上が使用でき、95-98-100% の活性の損失も使用できる。各標的酵素の活性は変わることがあり、より詳細を説明する。
【0312】
A. BoNT阻害剤のスクリーン方法
【0313】
別の態様では、本発明はエンドペプチダーゼ毒素の阻害剤を識別するための検定を提供する。いくつかの実施形態では、検定はペプチダーゼ阻害剤を識別するための検定ベース検定である。米国特許出願公報第 20050136394の全体を本明細書に取り込む。
【0314】
B. キナーゼ阻害剤のスクリーン方法
【0315】
一態様では、本発明はキナーゼ阻害剤をスクリーンするキナーゼ検定を提供する。このような阻害剤は薬品候補として使用することができる。米国特許出願公報第20080113396の全体を、本明細書に取り込む。
【0316】
本発明のさらなる実施形態は、キナーゼ反応の変化のスクリーンのための検定を提供する。変化には、キナーゼ反応の活性化または不活性化が含まれるが、これらに限定されない。このために、キナーゼのポテンシャル活性剤または阻害剤である検体が、キナーゼと一緒に検定に加えられる。検定には、一般的にバッファ、カチオン、NTP、ペプチド基板、そして?、0.05 単位以上の対象のキナーゼが含まれる。
【0317】
ポテンシャル阻害剤または活性剤を反応に加えて、化合物がリン酸化反応を阻害するか活性化するかを判断する。さらに上述のように、ペプチダーゼを反応に加える。ポテンシャル阻害剤または活性剤は、レポーター化合物からの検出可能な出力に変化を作り出すことができる。例えば、ポテンシャル阻害剤が検定に含まれる場合、レポーター化合物からの検出可能なアウトプットの増加は通常、キナーゼの不活性化を示す。この増加はキナーゼの阻害によるものであり、ペプチド基板のリン酸化反応の減少を導くものである。リン酸化ペプチド基板のアミノ酸が少ないと、ペプチダーゼはペプチド基板のより多くの分子を開裂することができ、非阻害キナーゼ反応よりも多くのレポーター化合物が遊離する。逆に、検定にポテンシャルエンハンサーが含まれる場合には、ポテンシャルエンハンサーのない制御反応と比べてレポーター化合物からのアウトプットが減少するとうことは、キナーゼのエンハンスメントを示す。
【0318】
好適な実施形態では、検体と接触する試験試料からの出力は、検体と接触していない制御試料の出力と比較される。好適には、これらの検出出力から、率を計算する。この率はキナーゼによるレポーター化合物リン酸化反応(または反応がない)の基準となる。
【0319】
いくつかの実施形態では、キナーゼ反応はバッファ、金属源すなわち二価カチオン、リン酸ドナーとして作用することのできるヌクレオチド三リン酸 (NTP)、ペプチド基板、そして任意選択で、キナーゼの活性剤を含む。バッファ、カチオン、NTPそしてペプチド基板は、下記に説明するように、調査中のタンパク質キナーゼに基づいて選択される。必要であれば、キナーゼの活性剤も加えることができる。試料が反応に加えられる。
【0320】
試料がタンパク質キナーゼを含んでいれば、タンパク質キナーゼは、ペプチド基板をリン酸化するために、NTPからのリン酸基の転移に触媒作用を及ぼすことができる。キナーゼ反応は酵素が活性化する温度でインキュベートすることができる。好適には、温度は約21°C以上である。また好適には、温度は37°C以下である。イオンのインキュベート時間は好適には5秒以上である。また好適には、イオンのインキュベート時間は1時間以下である。しかしながら、検定条件下で反応時間が転移酵素の活性よりも長くならない限り、インキュベーション時間は1時間以上でもよい。インキュベーション時間は、例えば、インキュベーション温度、調査中のキナーゼの安定性と量、そしてペプチド基板の量によって最適化することができる。反応は瞬間的なので、実行可能になり次第、測定を行うことができる。
【0321】
キナーゼ反応で使用できるバッファには、調査中の酵素に最適な濃度とpHレベルで、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジニン-N'-(2-エタンスルホン酸) (HEPES)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸) (HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸 (MES)が含まれるが、これらに限定されない。好適には、バッファ濃度は10 mM以上である。また好適には、バッファ濃度は100 mM以下である。好適にはキナーゼ反応のpH は7.0以上である。また好適には、pHは9.0以下である。
【0322】
キナーゼ反応に好適な二価カチオンはマグネシウムである。マンガン、カルシウム、ニッケルなどのその他の二価カチオンはマグネシウムの代わりとなる。さらに、これらのその他の二価カチオンはマグネシウムと組み合わせることができる。とりわけ、その他の二価カチオンのいくつかを、キナーゼの最適な活性のために加えることができる。好適には、二価カチオンは1 mM以上の濃度で加える。また、好適には、50 mM以下の濃度でマグネシウムを加える。その他の二価カチオンは、ミクロモルからミリモルの範囲で加えることができる。
【0323】
キナーゼ反応に加えるNTPは、一般にATPまたはGTPである。当該技術分野において周知であるように、キナーゼ反応にどちらのNTPを選ぶかは、検定で使用するキナーゼによる。キナーゼ反応に好適なNPTの濃度は約1 uM以上であり、また、1 mM 以下も好適である、そしてより好適には、100 uMである。
【0324】
例
例1 化合物1の合成
【0325】
概論:合成操作(スキームS1)は全て乾燥アルゴン雰囲気で、他の記載のない限り、標準のシュレンク法を用いて行う。反応媒体としては、溶媒はGlass Contours社 (Laguna Beach、 CA)から入手したDow-Grubbs 溶媒システム1を介して、中性アルミナ上で乾燥する。これらの溶媒は使用前にアルゴンで脱ガスを行う。実験室空気の正圧で、シリカゲル60(粒径: 40-63 μ)(EMD Chemicalls、Gibbstown、NJ)を用いて全てのフラッシュクロマトグラフィーを行う。1H と13C NMRスペクトルをVarian INOVA 500 FT-NMR スペクトロメータ(1H NMRに500 MHz、13C NMRに125 MHz )に記録する。1H NMRデータは次のように記録される:化学シフト{多重度(b = 幅広い、s = 一重線、d = 二重線、t = 三重線、q = 四重線、pt = 非分解二重線からの擬似三重線、m = 多重線)、統合、ピーク同定}。1Hと13Cの化学シフトはテトラメチルシラン(TMS)からのppmダウンフィールドで報告される。マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間(MALDI-TOF)質量検定はPerspective Biosystems Voyager DE-Pro 質量検定計で得られる。元素検定はQuantitative Technologies、 Inc. (Whitehouse、 NJ)によって行われる。X線結晶構造解析はCCD検出器を備えたBruker SMART 1000X解回析装置で行われる。電気化学実験は、CHIモデル660A電気化学検定器(CHI Instruments Inc.)を使って、Ag/AgCl参照ワイヤ、対極として白金ワイヤ(Bioanalytical Systems)、そして作用電極として蒸着金基板を使った3電極系で行う。溶液内の電気化学測定を、新たに洗浄した白金マイクロディスク電極(CHI Instruments)で行う。DH-2000-BAL光源を備えたOcean Optics S200 Dual Channelスペクトロメータを使って吸収スペクトルを収集する。
【0326】
材料:先に記載したように、化合物3と11-アミノウンデカンチオールHClを合成する。2、3クロロホルム-d1 をCambridge Isotope Laboratoriesから購入する。その他の試薬はすべて市販のもので、特に断りのない限りさらには洗浄せずに使用する。TLC(アルミニウム裏付けシリカゲルシート60 F254;EMD Chemicalls,Inc.、Gibbstown、NJ)によって反応をモニターし、斑点を紫外線露出時の蛍光焼入れによって視覚化するする。電気化学測定に関しては、脱イオン水を、逆浸透脱イオンシステムと紫外線殺菌灯とを備えたAqua Solutionsシステムを通した後で、18.0 MΩ cmの抵抗を持つ最終生成物に使用する。
【0327】
スキームS1: 化合物 1の合成
【化17】
【0328】
反応条件:(a) PPh3/NH4OH;(b)DCC、HOBt、11-メルカプトウンデカン酸;(c)アルドリチオール(AldrithiolTM-2)、TEA;(d)11-アミノウンデカンチオールHCl、DMAP;(e)3-マレイミド安息香酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、TEA。
【0329】
フェロセンメチルアミン(4):化合物 3 (0.226 g、0.940 mmol)をTHF(4 mL)で溶解し、水浴内で4°Cに冷却する。リチウムアルミニウム水素化物 (0.053 mg、1.40 mmol)を固形物としてゆっくりと追加し、反応物質を4°Cで1時間攪拌し、さらに2時間常温まで暖める。反応物質を水浴で冷却し、飽和Na2SO4 (aq)(5 mL)で焼き入れる。10分後、混合物をNaOH(aq)(0.1 M、100 mL)に注ぎ入れ、DCM (3 x 50 mL)で抽出する。有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、オレンジ色の固形物(0.177 g、0.820 mmol、87%)になるまで濃縮する。1H NMRは4の構造と一致している。
【0330】
11-メルカプトウンデカン酸フェロセニルメチル-アミド(5)。化合物4(0.175g、0.81mmol)、N、N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.169g、0.82mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.126g、0.82mmol)と11-メルカプトウンデカン酸(0.179 g、0.82mmol)を脱ガスしたアセトン(12 mL)に一体化する。溶液はArの雰囲気で18時間、常温で攪拌される。反応混合物は真空濃縮され、ジクロロメタン(100 mL)で溶解される。水(3 x 50 mL)で洗浄後、有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、そして粗い残留物に濃縮し、これをシリカゲル(2:3、EtOAc:ヘキサン)のカラムクロマトグラフィーで浄化し、淡いオレンジの固形物(0.288g、0.69mmol、85%)の純粋な生成物を生成する。1H NMR (CDCl3): δ1.25-1.38(m、13H、(CH2)6 + SH)、 1.57-1.66 (m、 4H、 COCH2CH2 + CH2CH2SH) 2.17 (t、 JH-H = 7.8 Hz、 2H、 COCH2)、 2.51 (擬似 dt、 JH-H = 7.3 Hz、 7.4 Hz、 2H、 CH2SH)、 4.13-4.15 (m、 4H、 NHCH2 + フェロセン-H)、 4.16 (bs、 5H、 フェロセン-H)、 4.18 (pt、 2H、 フェロセン-H)、 5.56 (bs、 1H、 NH)。 13C{1H} NMR (CDCl3): δ 24.9、 26.0、 28.6、 29.2、 29.5、 29.5、 29.6、 29.6、 34.2、 37.0、 39.0、 68.4、 68.5、 68.8、 85.0、 172.6.
【0331】
11-(ピリジン-2-イルジスルファニル)-ウンデカン酸フェロセニルメチル-アミド(6)。化合物5(0.288 g、 0.69 mmol)をメタノール(8 mL)とジクロロメタン(2 mL)で溶解する。アルドリチオールTM-2 (0.304 g、 1.38 mmol)、続いてトリエチルアミン(0.192 mL、 1.38 mmol)を加え、Ar雰囲気の常温で15時間攪拌する。真空で溶媒を取り出し、粗い残留物をシリカゲル(2:3、 EtOAc:ヘキサン)上のカラムクロマトグラフィーで浄化し、オレンジの油(0.316 g、 0.60 mmol、 87%)としての純粋な生成物を生成する。1H NMR (CDCl3): δ 1.25-1.39 (m、 12H、 (CH2)6)、 1.60-1.71 (m、 4H、 COCH2CH2 + CH2CH2SS)、 2.16 (t、 JH-H = 7.8 Hz、 2H、 COCH2)、 2.79 (t、 JH-H = 7.4 Hz、 CH2CH2SS)、 4.13-4.15 (m、 4H、 NHCH2 + フェロセン-H)、 4.16 (bs、 5H、 フェロセン-H)、 4.18 (pt、 2H、 フェロセン-H)、 5.59 (bs、 1H、 NH)、 7.63-7.66 (m、 1H、 ピリジル-H)、 7.06-7.09 (m、 1H、 ピリジル-H)、 7.73 (d、 1H、 JH-H = 8.1 Hz、 ピリジル-H)、 8.45 (d、 1H、 JH-H = 4.8 Hz、 ピリジル-H). 13C{1H} NMR (CDCl3): δ 26.0、 28.6、 29.1、 29.3、 29.5、 29.5、 29.5、 29.6、 37.0、 39.0、 39.2、 68.4、 68.5、 68.8、 85.0、 119.7、 120.7、 137.1、 149.8、 160.9、 172.6。
【0332】
11-(11-アミノ-ウンデスイルジスルファニル)-ウンデカン酸フェロセニルメチル-アミド(7)。化合物6(0.060 g、 0.11 mmol)、11-アミノウンデカンチオールHCl (0.032 g、 0.13 mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(0.030 g、 0.24 mmol)をAr雰囲気の常温で5時間、THF(4 mL)とDMF(1 mL)に混ぜ合わせる。真空で溶媒を取り出し、粗い残留物をシリカゲル (0.3: 0.7: 9、 TEAMeOH:DCM)上のカラムクロマトグラフィーによって浄化し、純粋な淡い黄色の固形物(0.065 g、 0.10 mmol、 91%)として純粋な生成物を生成する。ESI-MS (MeOH) m/z: 617.77 (M+H)+。1H NMR は7の構造に一致する。
【0333】
3-マレイミド-N-{11-[10-(フェロセニルメチル-カルバモイル)-デシルジスルファニル]-ウンデシル}-ベンズアミド (1): 化合物7 (0.024 g、 0.039 mmol)と3-マレイミド安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(0.024 g、 0.078 mmol)をN、N-dジメチルアセトアミド(3 mL)内で混ぜる。トリエチルアミン (0.100 mL)を加えて、Arの雰囲気、常温で4時間攪拌するように設定する。真空で溶媒を取り除き、粗い残留物をジクロロメタン(100 mL)で溶解し、H2O (3 x 50 mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、そして濃縮する。粗い残留物をシリカゲル(0.1:0.9:9、MeOH:EtOAc:DCM)上のカラムクロマトグラフィーによって浄化し、オレンジの固形物(0.028 g、0.034 mmol、87%)としての純粋な生成物を生成する。1H NMRは1の構造に一致する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体のE0の変化を使って酵素を検出する新規組成物と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願へのクロスリファレンス)
本願は、2007年10月17日出願の米国仮出願番号60/980、733と、2008年8月7日出願の61/087、094と61/087、102との優先権の利益を主張し、これらの開示全体をここに参照のために取り込む。
【0003】
電子移動反応は、光合成から有気呼吸に至る様々な生物学的変換において、重大なステップである。化学系、生物系の双方における電子移動反応の研究によって、大きな知識体系と、少数のパラメータに関する電子移動速度について述べる強力な理論的基礎が発展した。
【0004】
タンパク質とその他の生体分子中の電子トンネルは、レドックス中心の電子的相互作用が比較的弱い反応で発生する。半古典論では、電子移動の反応速度は、駆動力(-ΔG°)、核再配置パラメータ(λ)、および遷移状態における反応物と生成物の間の電子的結合の強さ(HAB)によるものであり、以下の式による:
kET = (4π3/h2λkBT)1/2(HAB)2exp[(-ΔG° + λ)2/λkBT]
【0005】
核再配置エネルギーλは、上述の式において、生成物の平衡核配置での反応物質のエネルギーと定義される。極性溶媒の電子移動に関しては、λへの主な供与は、反応物質の電荷分布の変化に応じた溶媒分子の再配列から発生する。2つ目のλの成分は、ドナーと受容体の酸化状態における変化による結合長さと角度の変化によるものである。
【0006】
先行研究には、再配置エネルギーλの変化を新規センサーの基準として利用すると記載されている(特許文献1、2、3、4参照)。本方法は一般に、レドックス活性錯体に、またはその近くに検体を結合するステップを含む。レドックス活性錯体は、少なくとも1つの溶媒接触可能のレドックス活性分子と標的検体を結合する捕捉リガンドを含み、そして錯体は電極に結合している。検体結合時にレドックス活性分子の再配置エネルギーが低下して溶媒阻害レドックス活性分子が形成され、溶媒阻害レドックス活性分子と電極の間の電子移動が可能になる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,013,459号明細書
【特許文献2】米国特許第6,013,170号明細書
【特許文献3】米国特許第6,248,229号明細書
【特許文献4】米国特許第7,267,939号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、レドックス活性分子のE0の変化に対応する溶媒再配置エネルギー内の変化を利用して、標的検体を検出する組成物と方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本発明は試験試料内のプロテアーゼを検出する方法を提供し、前記方法は、(a) プロテアーゼを含む試験試料を電極に加えるステップであって、前記電極が (i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii)E0の遷移金属錯体を含む共有結合的に付着した電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着した複数のタンパク質とを含み、該タンパク質は前記プロテアーゼの開裂部位を含み、(b)前記プロテアーゼで複数の前記タンパク質を開裂するステップと、(c)前記E0の変化を測定して前記プロテアーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、EAMとタンパク質は、EAMが溶液に露出されることから、少なくとも部分的にタンパク質によってシールドされるように配置される。いくつかの実施形態では、前記開裂部位は、前記タンパク質が前記開裂部位で開裂された場合に、前記EAMが前記溶液に露出されるように、前記EAMの高さの近くにある。いくつかの実施形態では、 プロテアーゼは、ボツリヌス毒素A、BまたはEを含むボツリヌス菌によって生成されるエンドペプチダーゼ神経毒などのエンドペプチダーゼ毒素である。
【0011】
いくつかの実施形態では、EAMと前記タンパク質は前記電極に別々に付着している。いくつかの実施形態では、タンパク質はSEQ ID NO:1から4の何れかによる配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属錯体は、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀そして金より成る基から選択された金属を含まない。いくつかの実施形態では、 前記遷移金属錯体はフェロセンを含まない。
【0013】
別の態様では、本発明は試験試料内のキナーゼを検出する方法を提供する。前記方法は、(a)キナーゼを含む試験試料を電極に加えるステップであって、前記電極が、(i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii)E0の遷移金属錯体を含む共有結合的に付着した電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着した複数のタンパク質とを含み、該タンパク質は前記キナーゼの第1基板であり、(b)前記タンパク質を前記キナーゼと第2キナーゼにリン酸化して、前記第2キナーゼ基板を前記タンパク質に共有結合的に付着させるステップと、(c)前記E0の変化を測定することによって前記キナーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記EAMと前記ペプチドは、EAMが少なくとも一部は溶液に露出されるように配置する。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記第1基板はリン酸化部位を含み、該部位は、混合SAM配列で、前記第2基板が前記リン酸化ステップによって第1基板に付着する際に、前記第2基板の結合した第1基板が、隣接するEAMを前記溶液からシールドするように、前記開裂部位が前記EAMの高さの近くにある。キナーゼは、表2に記載するキナーゼからなる基より選ばれたタンパク質キナーゼである。いくつかの実施形態では、第2キナーゼ基板はポリマー修飾ATP共同因子である。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属錯体は、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀そして金から成る基から選択された金属を含まない。いくつかの実施形態では、 前記遷移金属錯体はフェロセンを含まない。
【0017】
別の態様では、本発明は 試験試料中の標的酵素を検出する方法を提供する。前記方法は、(a)標的酵素を含む試験試料を電極に加えるステップであって、前記電極が、(i)自己組織化単分子層(SAM);(ii)E0の遷移金属錯体を含む共有結合的に付着する電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着した複数の基板を含み、該基板は前記酵素の基板であり、(b)前記標的酵素と前記基板に接触して複数の反応物質を形成するステップと、(c)前記E0の変化を測定して前記酵素の存在を判断するステップとを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属錯体は、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀そして金から成る基から選ばれた金属を含む。いくつかの実施形態では、 標的酵素は加水分解酵素であり、好適にはペプチダーゼを含むプロテアーゼである。いくつかの実施形態では、標的酵素は転移酵素であり、好適にはキナーゼである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のいくつかの実施形態による、キナーゼ活性の電気化学的検定の概要を示す図である。
【図2】本発明のいくつかの実施形態による、ペプチダーゼ毒素の電気化学的検定の概要を示す図である。
【図3】本発明の適切な配置を示す図である。図3Aは、リンカーの一端が電極に付着し、もう片方の端は遷移金属(TM)に配位原子を提供するリガンド(L)で終端する状況を示す図である。捕捉基板(CS)は追加のリガンド(図示せず)を提供し、複数の他のリガンドは残りの配位原子を提供する。酵素の作用で、捕捉基板は脱離基(X)となる。なお、図3は遷移金属が6つの配位原子を使う様子を示すが、金属によって他の数の配位原子を使用してもよい。同様に、図3は単一の配位原子を供給するリガンドの使用を示すが、複数の配位原子(例えば、多座配位)を提供するより少ないリガンドも使用することができる。図3Bは、捕捉基板とEAMが電極に別々に付着している様子を示す図である。図3Cは、図3Aと同様の様子を示す図である。ただし、捕捉基板は遷移金属に配位原子を供給しない。なお、溶液中のEAMの電気化学ポテンシャルを標的酵素の酵素活性によって変えることができる点で、溶液相系は図3Aと図3Cで同じであると理解されたい。
【図4A】図4Aは、前立腺特異抗原(PSA)活性の検出の実施例を示す図である。
【図4B】図4Bは、前立腺特異抗原(PSA)活性の検出の実施例を示す図である。
【図5】PSA検定例の1つに使用されるEMAの構造を示す図である。
【図6】図6Aは、プロテアーゼ活性を検出する電気化学バイオセンサプラットホームの略図である。(1)SAM中の隣接するプロテアーゼ除去ペプチド基板に埋められたフェロセンのE0 を測定するステップと、(2)固定化ペプチドを認識して開裂する標的プロテアーゼをインキュベートするステップと、(3)洗浄によって開裂されたペプチドを除去し、より水性環境にフェロセンプローブを露出してE0に負のシフトを生じさせるステップが含まれる。バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図7】バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図8】バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図9】バイオセンサの実施例の配置と、そのようなバイオセンサを使った模式図である。
【図10A】図10Aは、アルキルチオールアンカーを有する [BIM-Ru(NH3)4L]2+ 錯体を示す図である。
【図10B】図10Bは、 共役チオールアンカーを有する[Ru(NH3)5L]2+ 錯体を示す図である。
【図11】オスミウム系EAMを示す図である。
【図12A】図12Aは、Ru-N系錯体の新しい構造を示す図である。
【図12B】図12Bは、Ru-N系錯体の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、電極の表面、または場合によっては溶液中(本明細書に記載されているもののほとんどは固体相検定を対象としたものであるが、当業者によって理解されるように、本発明は溶液中でも使用でき、本明細書中のそのような記載は、溶液相検定にも適用できることを意味している)の何れかにおけるレドックス活性分子の電気化学ポテンシャルE0の変化に基づく検体、特に酵素を検出するための方法と組成物を対象とする。
【0021】
本発明は、検体結合時のレドックス活性分子の再配置エネルギーの変化を利用した、標的検体を検出する方法と組成物を提供して、レドックス活性分子と電極間の電子移動の促進や、阻止を行う。本発明は、遷移金属イオンのようなレドックス活性分子が酸化(電子を失う)または還元(電子を得る)した場合に、分子構造や隣接する溶媒環境に変化が起こるという事実に基づくものである。分子構造(結合長さと角度)や分子をとりまく溶媒分子の組織内の変化は、エネルギー的に新しい酸化状態を安定させる働きをする。これらの変化の和はレドックス反応の再配置エネルギーλを構成する。分子内の変化は内圏再配置エネルギーλiと呼ばれ、溶媒や環境内の変化は外圏または溶媒再配置エネルギーλoと呼ばれる。
【0022】
本発明の目的として、発明のいくつかの実施形態では内圏再配置の変化も考慮されるが、第一の焦点は溶媒再配置エネルギーの変化である。対象検体(例えば、タンパク質またはバクテリア)に選択的に結合することのできる捕捉リガンド(CL)に電気活性分子(EAM)が付着する際のレドックス反応の再配置エネルギーの変化を利用するのが本発明の意図である。EAM-CLの検体への結合によってEAMの溶媒環境が変化し、EAMを伴うレドックス反応の再配置エネルギーが変化する。レドックス反応が電極とEAMの間の電子移動を伴う場合、標準ポテンシャルE0は変化する。従って、EAM-CL錯体のE0の変化は、それが検体に結合したことを示す。本発明の意図は、結合の指標としてE0の変化を検出し、その結果として検体の存在を検出することである。
【0023】
電子移動を使った検体検出の従来の方法論では、結合対(例えば抗体と抗原)の一員に付着するラベルまたはタグとして、たいていEAMを用いる。これらの方法では、酸化または還元時に最小の溶媒再配置を有する電気活性分子を使って、外圏溶媒効果が最小のEAMが選ばれる。一般にこのようなEAMは、水との相互作用がほとんどない大きな疎水性リガンドを含む。よって、従来使用されてきた遷移金属イオンのリガンドは無極性で、有機環(例えば、ビピリジルとテルピリジル)をしばしば含む、通常は疎水性である。従来は全体の電子移動反応の大きさが所定の電極ポテンシャルで測定されるので、このようなEAMが選ばれる。
【0024】
理論に束縛されるものではないが、本発明に一番適合するレドックス分子は、水性の環境で、そのレドックス反応が大きな溶媒再配置エネルギーを有するものであると思われる。電荷の増減を安定化させる溶媒再配置エネルギーは、いくつかの現象を特定できる。水のような極性溶媒では、レドックス分子上の電荷は、レドックス分子の近くの環境の極性溶媒分子の配向によって安定する。極性分子は分子の異なる原子に僅かな電荷の変化があるため、レドックス分子の周囲のそれらの配向は、その安定化に役立つ。さらに、CN-などのいくつかのリガンドはそれ自身が極性で、原子に部分電荷を持っている。これらの極性リガンドはそれ自身が周囲の溶媒分子の配向を生じさせる。荷電したレドックス分子の安定化 (または不安定化)はまた、溶媒および/または他の分子のレドックス分子中の遷移金属のリガンドへの水素結合によっても起こる。溶媒分子やレドックス分子を取り囲む溶媒内のその他の分子は、それらのドナー番号または受容体番号に基づいて特徴付けられ、そして比較される (Neyhart et al.、米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc)第118巻 (1996年) 3724〜29ページを、ここに参照のために取り込む)。好ましいドナー番号または受容体番号を持つ分子の特定の溶媒または溶媒への特定の添加剤の使用は、レドックス反応の溶媒再配置エネルギーに影響を与える。さらに、レドックス分子の電荷の変化は溶媒中の荷電イオンによって安定される。よって、検体結合時の溶媒再配置の変化は、イオンの電荷、イオンの濃度、イオンの大きさ、イオンの疎水性を考慮した電解液の適切な選択によって最大化することができる。
【0025】
理論に束縛されるものではないが、 最適な溶媒系内のレドックス分子 (すなわち、その溶媒再配置エネルギーを最大化する)の安定性を最大にして、レドックス分子/捕捉リガンド錯体、 EAM-CLの検体への結合時に、レドックス分子を安定させる現象が妨げられることが好ましい。このような条件において、 E0の変化によって証明される再配置エネルギーの変化は最適であるだろうと考えられる。CLの検体への結合は、EAMを検体(例えばタンパク質)の表面または割れ目やポケットの環境に「強いる」こととなり、これは溶媒環境の最適な配置にはあまり好ましくないと思われる。一実施形態では、結合によって、立体的束縛のため、EAM近くの水分子の脱落が生じる。
【0026】
なお、そして理論に束縛されず、溶媒再配置エネルギーが結合時に増えるか減るか(そしてE0 がより正のポテンシャルになるかより負のポテンシャルになるか)は、EAMの特定の電荷による。EAMレドックス反応の測定で、EAM2+酸化からEAM3+というように、EAMの電荷が増えた場合には、EAM-CLの結合環境は非結合EAM-CLよりも再配置による安定性が低いということである。よって、E0はより正のポテンシャルへ移動すると考えられる。または、EAMレドックス反応の測定で、EAM2- 酸化からEAM-というように、電荷が減少する場合には、非結合EAM-CLは結合EAM-CLよりも再配置による安定性が低いということである。よって、E0はより低いポテンシャルへ移動すると考えられる。
【0027】
理論に束縛されるものではないが、 本発明で活用することのできる2つの一般的な機構がある。第1の機構はレドックスラベルによる内圏の変化に関するものである。本実施形態では、標的検体のEAMに立体的に近い捕捉リガンドへの結合によって、EAMの1つ以上の小さな極性リガンドが標的検体によって供給された1つ以上の配位原子によって置換され、少なくとも2つの理由によって、内圏再配置エネルギーが変化する。1つ目の理由は、小さな極性リガンドと推定的により大きなリガンドとの交換によって、通常金属からより多くの水が排除され、必要とされる溶媒再配置エネルギー (すなわち内圏λi効果)が下がる。2つ目の理由は、一般に大きな標的検体を比較的小さなレドックス活性分子に近づけると、金属イオンの第1または第2の配位圏内の水が立体的に排除され、そして溶媒再配置エネルギーが変化する。
【0028】
また、本発明は置換型不活性リガンドと外圏効果に依存する。本実施形態では、金属イオン上の極性リガンドと標的検体配位原子を交換する。また本実施形態では、極性リガンドは、効果的そして不可逆的に金属イオンに結合され、そして、溶媒再配置エネルギーの変化が標的検体の結合の結果として、金属イオンの第1または第2配位圏内の水の排除によって得られる。水は基本的に排除される(すなわち、外圏 λo 効果)。
【0029】
本発明は標的検体を検出するための新規構造を有する化合物とこれらの化合物の使用方法を提供する。
【0030】
いくつかの実施形態では、標的検体は捕捉リガンドに結合する。いくつかの実施形態では、標的検体は酵素であってもよく、E0の変化は酵素的事象の結果である。これは、米国特許出願番号 61/087、094に記載されており、その全体を本明細書に参照のために取り込む。
【0031】
本発明の実施形態では、標的検体の導入時に、おそらく再配置エネルギーの変化によってE0が変化する。下記により詳細を述べるように、この変化は様々な要因によるE0 の正シフトまたは負シフトである。一般に、シアノリガンドが使用される場合、E0 の変化はE0の負シフトであり、使用される系やその他のリガンド(もしあれば)にもよるが、標的検体と捕捉リガンドの相互作用の効果はE0 の正シフトとなる。驚くことに、約50 mV、 100 mV、 150 mV、 200 mV、 250 mV、300 mVよりも大きなシフトはシアノリガンドを使用して見られる。
【0032】
一般に、本発明は「芝刈り機」検定と呼ばれることもあり、下記に説明する。遷移金属と遷移金属に配位原子を提供するリガンドを通常含む電気化学活性分子(EAM)は、一般に下記に説明するリンカーによって電極の表面に付着している。さらに、本明細書に記載されるように、その電極は任意選択に自己組織化単分子層(SAM)を含むことができる。EAMの空間的近傍に、検出される酵素の基板に対応する捕捉基板も付着している。標的酵素の導入時に、標的酵素は基板に作用して、EAMの電気化学ポテンシャルに変化を起こし、これが様々な方法で検出される。例えば、酵素がプロテアーゼのような加水分解酵素である場合、捕捉基板は標的酵素に対応するペプチドのようなタンパク質であってもよい。捕捉基板の開裂時に、EAMの周囲の環境が変わり、分子の電気化学ポテンシャルが変化する。同様に、酵素が転移酵素または異性化酵素である場合、基板上の酵素的反応はEAMの周囲の環境を変化させ、分子の電気化学ポテンシャル内で再度変化を生じさせる。この検定はリガーゼにも使うことができる、その場合、溶液基板が使用され、リガーゼが存在する場合には、その溶液基板が捕捉基板に加えられて変化が生じる。
【0033】
「芝刈り機検定」は、 隣接したペプチド基板の厚い「芝」に「埋められた」EAMを含む任意選択でSAMからなる表面と相互作用する酵素を検出する方法を述べる。SAM内の合成ペプチドの触媒開裂は、電極に結合されない生成物のフラグメントの拡散とあいまって、EAMを溶媒に露出させ、電気化学ポテンシャルのシフトと電流の増加をトリガする。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的酵素にとって周知の基板である隣接する捕捉基板部分に「埋められた」チオラートEAMの混合SAMを例示する。この配置では、EAMはSAM/溶液界面から「シールド」される。標的酵素があると、捕捉基板は触媒的に開裂し、SAM高さの減少が生じる。開裂部位が混合SAM 配列中のEAMの高さの近くにある場合には、界面からの生成ペプチドの拡散によって単分子層中に「穴」が生成され、EAM成分が溶液に露出される。標的酵素(「芝刈り機」のような)による隣接ペプチドの触媒的「細断」によるEAMの溶媒化環境のこの変化によって、 電気化学的に検出することのできるポテンシャルが変化する。一旦標的酵素が見つかって捕捉基板 (合成か自然発生によるもの)が識別されると、EAMの次元/濃度とSAM内のペプチド成分を変えることによって、検定をさらに最適化することができる。 図2にグラフィック描写を示す。この検定の有効な特性は、酵素活性に対する固有の感度であり、これによって標的酵素分子当たりの信号の増幅がもたらされる。
【0035】
いくつかの実施形態では、EAMと開裂部位を含む捕捉基板は、前記EAMが溶液への露出から少なくとも部分的に基板によってシールドされるように配置される。好適には、開裂部位は、基板が開裂部位で開裂されたときに、EAMが溶液に露出されるように、前記EAMの高さの近くにある。
【0036】
いくつかの実施形態では、標的酵素は、下記にさらに示すように、ボツリヌス毒素A、BまたはEのようなボツリヌス菌によって生成されるエンドペプチダーゼ神経毒などのプロテアーゼである。
【0037】
本発明の1つの利点は、酵素の触媒性質によって、単一の酵素分子が多くの反応を起こし、よって信号を効果的に増幅させて検出の制限を下げることである。
【0038】
本発明の適切な配置のいくつかのポテンシャル略図を図3に示す。
【0039】
図7から図9に示すように、センサーには3つの基本的な配置がある。ただし、本明細書の記載はそのように限定されることを意味したものではない。一実施形態では、図7Aに示すように、遷移金属イオンと遷移金属に配位原子を提供するリガンド(いくつかの実施形態では、その中の少なくとも1つはシアノリガンドである)を含む電気活性部分(EAM)が電極に付着している。さらに、標的検体に特異的に結合する捕捉リガンド(「結合リガンド」と呼ばれることもある)も電極に付着している。どちらの種類も一般的に、本明細書に記載の付着リンカーを使って電極に付着している。これらの2つの種は、EAMのE0が標的検体の結合時に変わるように空間的に近く電極に付着している。なお、下記に記載する単分子層形成種を含む第3種もまた任意選択で電極上に存在することもできる。本実施形態では、EAM種は(Ia)の式、捕捉リガンドは(Ib)の式、希釈剤種は(Ic)の式を有する:
AG-スペーサ1 − EAM (Ia)
AG-スペーサ1-CL (Ib)
AG-スペーサ1-TGn (Ic)
式中、AGはアンカー基、EAMは溶媒接触可能のレドックス錯体を含む電気活性部分、スペーサ1は本明細書に記載のSAM形成種、CLは捕捉リガンド、TGは末端基であり、nは0または1である。
【0040】
第2の実施形態では、図7Bに示すように、EAMの遷移金属の配位原子の1つは捕捉リガンドを備え、「レドックス活性部分錯体」すなわちReAMCを形成する。本実施形態では、配位原子は実際には捕捉リガンド(例えば、捕捉リガンドがペプチドの場合、アミノ基が配位原子を提供する)の一部か、捕捉リガンド(例えば、ピリジンリンカーなど)の付着に使用されるリンカーの一部である。ReAMCは単一種として付着され、上述の様に、下記に示す単分子層形成種を含む追加種もまた、任意選択で電極に存在してもよい。本実施形態では、本発明は式(II)の化合物を提供する:
AG − スペーサ1 − EAM − (スペーサ2)n − CL (II)
式中、AGはアンカー基、EAMは溶媒接触可能のレドックス錯体を含む電気活性部分、CLは捕捉リガンド、スペーサ1は本明細書に記載のSAM形成種、スペーサ2はリンカー、nは0または1である。
【0041】
第3の実施形態では、図7Cに示すように、ReAMCは単一種であるが、捕捉リガンドは配位原子を提供しない。それはReAMCのEAMに空間的に近いが、それと区別されている。さらに、下記に示す単分子層形成種を含む第3種もまた任意選択で電極に存在することができる。本実施形態では、本発明は式 (III)の化合物を提供する:
【化1】
式中、AGはアンカー基、EAMは溶媒接触可能のレドックス錯体を含む電気活性部分、CLは捕捉リガンド、スペーサ1は本明細書に記載のSAM形成種、S2とS3 はEAMとCLを一緒にAGに結び付けてブランチ構造を形成する2つの結合である。S2とS3は同じであってもよいし、違っていてもよい。
【0042】
さらに、米国特許番号6,013,459、6,248,229、7,018,523、7,267,939、米国特許出願番号09/096593と60/980、733、そして本出願と同時に出願される「バイオセンサにおける新しい化学」という名称の米国特許出願の全体を、本明細書に全ての目的のために取り込む。
【0043】
従って、本発明は電気化学的に検出する酵素反応の組成物と方法を提供する。
【0044】
I.組成物:
【0045】
一態様では、本発明は電極を使って試験試料中の酵素を検出する方法を提供する。電極は任意選択で、自己組織化単分子層(SAM)と、共有結合した電気活性部分(EAM、また本明細書では「レドックス活性分子」(REAM)とも呼ぶ)とを含む。EAMは 第1E0の遷移金属錯体を含む。また、電極には標的酵素の複数の酵素基板(「捕捉基板」は、本明細書で「支持基板」と呼ばれることもある)が付着している。よって本方法では、試験試料が電極に加えられ、標的酵素と標的酵素の基板が複数の反応物質を形成する。酵素の存在は、EAMの環境の変化による E0の変化を測定して判断される。
【0046】
下記と図3に示すように、本発明ではいくつかの異なる配置を使用することができる。一実施形態では、図3Aに示すように、EAMは本明細書で「レドックス活性部分錯体」すなわちReAMCと呼ばれるものを形成する捕捉基板も含む。いくつかの実施形態では、捕捉基板は配位原子(図3A)を提供する。その他では、REAMCは電極に付着する単一分子であり、捕捉基板は配位原子(図3C)を提供しない。その他の実施形態では、図3Bに示す様に、ReAMCはなく、EAMと捕捉基板が電極に別々に付着している。
【0047】
A. 標的酵素
【0048】
一態様では、本発明は標的酵素の検出に役立つ方法と組成物を提供する。本明細書でいう「検体」、「標的検体」または「標的酵素」は、検出する酵素を意味し、これは酸化還元酵素、加水分解酵素 (特にプロテアーゼ)、リアーゼ、異性化酵素、転移酵素(特にキナーゼ)、リガーゼを含むが、これらに限定されない。酵素命名法(Enzyme Nomenclature)1992年、 Academic Press、 San Diego、 California およびその付録 1 (1993)、付録 2 (1994)、 付録 3 (1995)、 付録 4 (1997)、付録5 (それぞれ、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Eur. J. Biochem)1994年、第223巻、1〜5ページ; Eur. J. Biochem. 1995年、第232巻、1〜6ページ; Eur. J. Biochem. 1996年、第237巻、1〜5ページ; Eur. J. Biochem. 1997年、第250巻、1〜6ページ; Eur. J. Biochem. 1999年、第264巻、610〜650ページを参照)の全体をここに参照のために取り込む。
【0049】
加水分解酵素
【0050】
いくつかの実施形態では、標的酵素は加水分解酵素である。本明細書でいう「加水分解酵素」とは、様々な化学結合の加水分解に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。それらはEC番号分類基準のEC3に分類される。加水分解酵素には、エステル結合(ヌクレアーゼ、ホスフォジエステラーゼ、リパーゼ、ホスファターゼなどのエスタレーゼ)に触媒作用を及ぼす酵素、糖類(グリコシラーゼ/DNAグリコシラーゼ、配糖体加水分解酵素、セルラーゼ、エンドーグルカナーゼなどを含むカルボヒドラーゼ)、エーテル結合、ペプチド結合(プロテアーゼ/ペプチダーゼ)、炭素窒素結合(ペプチド結合以外)、酸無水物(ヘリカーゼとGTPアーゼを含む酸無水物加水分解酵素)、炭素炭素結合、ハライド結合、リン窒素結合、硫黄窒素結合、炭素リン結合、硫黄硫黄結合、炭素硫黄結合が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの実施形態では、加水分解酵素はプロテアーゼ(EC3.4)である。本明細書でいう「プロテアーゼ」または「タンパク質」とは、アミノ酸を結び付けるペプチド(アミド)結合の加水分解によってタンパク質を加水分解することのできる酵素を意味する。具体的にプロテアーゼの定義に含まれるものにはペプチダーゼがあり、これは具体的にペプチドを加水分解する酵素のことを指している。
【0052】
本明細書でいう「タンパク質」または相当語句は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドとペプチド、非自然発生的アミノ酸とアミノ酸類似物質を含有するタンパク質を含む派生物質と類似物質、そしてペプチド模倣体構造のことである。側鎖は(R)配置であっても(S)配置であってもよい。好ましい実施形態では、アミノ酸は(S)またはL配置である。下記に述べるように、タンパク質が捕捉基板として使用される場合、タンパク質類似物質を使って試料の汚染物質による劣化を遅らせることが望ましい。しかしながら一般に、タンパク質類似物質が酵素基板として使用される場合、その基板は標的酵素によってさらに処理を行うことができる。
【0053】
プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼの6つの基に分類される。一般に、プロテアーゼは、タンパク質のアミノ酸配列 による切断特異ペプチド結合(例えば限られたタンパク質分解に特異の部分)でも全体のタンパク質のアミノ酸への分解 (無制限のタンパク質分解)でもよい。活性は、タンパク質の機能をだめにしたり、またはタンパク質を主成分に分解する破壊的な変化であり、また、機能の活性化でもあり、またはシグナル経路の信号でもある。
【0054】
いくつかの実施形態では、標的酵素はエンドペプチダーゼである。本明細書でいう「エンドペプチダーゼ」とは、タンパク質基板内のペプチド結合を切断するペプチダーゼであり、タンパク質基板の1つまたは両方の終端からペプチド結合を切断するエキソペプチダーゼとは対照的である。エンドペプチダーゼは、触媒機構に基づいて、セリンエンドペプチダーゼ、システインエンドペプチダーゼ、アスパラギンエンドペプチダーゼ、メタロエンドペプチダーゼ、そしてその他のエンドペプチダーゼのサブクラスに分類される。
【0055】
(1). セリンエンドペプチダーゼ
【0056】
このクラスは2つの明確なファミリーを含む。キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼまたはカリクレインなどの哺乳類の酵素を含むキモトリプシンファミリーと、スブチリシンのようなバクテリア酵素を含むスブチリシンファミリーである。これら2つのファミリーの一般的な三次元(3D)構造は異なるが、同じ活性部位配置を持ち、同じ機構を介して触媒を進める。セリンエンドペプチダーゼは、基板残留物と相互作用する様々な酵素のサブサイト内のアミノ酸置換に関連する、様々な基板の特異性を呈する。いくつかの酵素は基板との拡大相互作用部位を持つが、他の酵素はP1基板残留物に限られた特異性を持つ。
【0057】
(2). システインエンドペプチダーゼ
【0058】
このファミリーは、パパイン、アクチニジンまたはブロメライン、リソソームカテプシンやカテプシンB、L、S、H、J、N、Oを含む、いくつかの哺乳類のカテプシンなどのプラントプロテアーゼ、細胞質カルパイン(カルシウム活性)およびいくつかの寄生性プロテアーゼ(例えば、トリパノソーマ、住血吸虫)とインターロイキン変換酵素(ICE)を含むカスパーゼを含む。
【0059】
(3). アスパラギンエンドペプチダーゼ
【0060】
アスパラギンエンドペプチダーゼのほとんどは、ペプシンファミリーに属する。ペプシンファミリーは、ペプシンやキモシン、そしてリソソームカテプシンD、レニンなどのプロセシング酵素、そして特定の真菌プロテアーゼ(ペニシロペプシン、リゾプスペプシン、エンドシアペプシン)などの消化酵素を含む。第2ファミリーは、レトロペプシンとも呼ばれるAIDSウィルス(HIV)からのプロテアーゼなどの、ウィルスエンドペプチダーゼを含む。
【0061】
セリンプロテアーゼやシステインプロテアーゼとは対照的に、アスパラギンエンドペプチダーゼによる触媒作用は、4面体型中間体は存在するが、共有結合中間体を含まない。求核攻撃は、1つは水分子から2つのカルボキシル基の2連子への移動、そして2つめは2連子から同時CO・NH結合開裂を有する基板のカルボニル酸素への移動の、2つの同時のプロトン移動によって達成される。
【0062】
(4). メタロエンドペプチダーゼ
【0063】
メタロエンドペプチダーゼはバクテリア、菌類、高等生物に見られる。それらは配列と構造が大きく異なっているが、酵素のほとんどが触媒的に活性の亜鉛原子を含んでいる。いくつかの場合において、亜鉛は活性を失わずにコバルトやニッケルなどの別の金属と置換することができる。バクテリアサーモリシンははっきり特徴付けられており、その結晶機構は、亜鉛が2つのヒスチジンと1つのグルタミン酸で結合されていることを示している。多くの酵素は亜鉛のための2つのヒスチジンリガンドを提供するHEXXH配列を含み、一方で第3リガンドはグルタミン酸(サーモリシン、ネプリライシン、アラニルアミノペプチダーゼ)かまたはヒスチジン (アスタシン)である。その他のファミリーは亜鉛原子の明確な結合モードを呈する。触媒機構は、切断されやすい結合のカルボニル基上での亜鉛結合分子の攻撃の後に、非共有4面体中間体の形成をもたらす。この中間体は、グルタミン酸プロトンの脱離基への移動によってさらに分解される。
【0064】
特に興味深いのは、アデノシンデアミナーゼ、アンジオテンシン変換酵素、カルシニューリン、メタロ-β-ラクタマーゼ、PDE3、PDE4、PDE5、腎ジペプチダーゼ、 ウレアーゼを含むメタロ酵素である。
【0065】
一実施形態では、メタロエンドペプチダーゼは、MMP-1からMMP-10、特にMMP-1、MMP-2、MMP-7、MMP-9を含むマトリックスメタロプロテイナーゼである。
【0066】
(5). 細菌/毒素エンドペプチダーゼ
【0067】
通常は細菌起源である毒素エンドペプチダーゼは、宿生生物に破壊的な、そして時として致命的な影響を与えることがある。良く知られる細菌エンドペプチダーゼ毒素のいくつかを表1に示す。
【0068】
表1
【表1】
【0069】
ボツリヌス菌神経毒(BoNTs、血清型A-G)と破傷風菌神経毒(TeNT)は、エンドペプチダーゼである細菌毒素の2つの例である。BoNTsは最も一般には乳児ボツリヌス症と食物経由のボツリヌス症に関連し、神経毒と内臓で毒素分子に保護と安定性を与えると考えられる、1つ以上の関連タンパク質から構成される大きな錯体として自然の中に存在する。傷の中で増殖した破傷風菌から合成するTeNTは、他のタンパク質成分と錯体を形成するようには思われない。
【0070】
BoNTは、シナプス小胞と神経シナプス膜のドッキングを制御する小さなタンパク質を特異的に開裂する高特異性亜鉛依存的エンドプロテアーゼである。BoNT AとBoNT Eは特異的に、25-kDシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を、残留物Q197とR198の間のBoNT A開裂で開裂する。SNAP-25は神経伝達物質放出の調整に携わるシナプス前プラズマ膜タンパク質である。SNAP25A(ジーンバンクアセッション番号NP_003072)とSNAP25B(ジーンバンクアセッション番号 NP_570824)の、異なるタンパク質アイソフォームを符号化する2つの転写変異体が人間のこの遺伝子に書き込まれている。BoNT Cは膜タンパク質シンタクシンとSNAP-25を開裂する。BoNT B、D、F、Gは細胞内小胞関連の膜関連タンパク質(VAMP、またシナプトブレビンとも呼ぶ)に特異している。Schiavo et al.、JBC 266:23784〜87ページ (1995年); Schiavo et al.、FEBS Letters 335:99〜103ページ(1993年)の全体を、本明細書に参照のために取り込む。
【0071】
固定化合成ペプチド基板の開裂に基づいて、いくつかの in vitro 検定が行われた。Halls et al.、ジャーナル・オブ・クリニカルマイクロバイオロジー(J Clin Microbiol)第34巻:1934〜8ページ (1996年); Witcome et al.、アプライド&エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Appl Environ Microbiol)第65巻:3787〜92ページ(1999年)、Anne et al.、 Ana Biochem 第291巻:253〜61ページ (2001年)を参照のこと。
【0072】
BoNTとTeNTはプラスミドコード(TeNT、BoNT/A、GまたはBの可能性もある)か、またはバクテリオファージコード(BoNT/C、 D、 E、 F)であり、神経毒は150 kDaの不活性ポリペプチドとして合成される。BoNTsとTeNTは溶解細菌細胞から放出され、神経毒ポリペプチド内の露出されたループのタンパク分解開裂によって活性化される。各活性神経毒分子は単一鎖間ジスルフィド結合によって結び付けられる重鎖(100 kDa)と軽鎖(50 kDa)から成る。BoNTとTeNTの双方の重鎖は、分子のN端末半にある毒素の転移に必要な領域と、重鎖のC終端内にある細胞結合ドメインの2つのドメインを含む。BoNTとTeNTの双方の軽鎖は、分子の亜鉛依存的プロテアーゼ活性に必要な亜鉛結合モチーフを含む。
【0073】
BoNTとTeNTの細胞標的は、シナプス小胞のシナプス前プラズマ膜へのドッキングと融合に必要とされるタンパク質の基であり、よって、神経伝達物質の放出に欠かせないものである。BoNTは周囲の神経系と関連する運動ニューロンのシナプス前膜の受容体に結合する。これらのニューロン内の標的タンパク質のタンパク質分解はアセチルコリンの放出を阻害する、よって筋肉の収縮を防ぐ。BoNT/B、 D、 F、 Gは、小胞関連膜タンパク質とシナプトブレビンを開裂し、BoNT/AとEはシナプトソーム関連タンパク質SNAP-25を標的とし、BoNT/CはシンタキシンとSNAP-25を加水分解する。TeNTは中枢神経系に作用し、2つのタイプのニューロンに入ることによって作用する。TeNTは最初に運動ニューロンのシナプス前膜の受容体に結合するが、それから逆行性小胞輸送によって脊髄に移動し、そこで神経毒は阻害性介在ニューロンに入ることができる。これらのニューロン内の小胞関連膜タンパク質とシナプトブレビンの開裂によって、グリシンとγアミノ酪酸の放出が妨げられ、そして、筋収縮が引き起こされる。BoNTまたはTeNT中毒 (それぞれ弛緩と痙攣性麻痺)の対照的な臨床症状は、感染したニューロンと遮断された神経伝達物質のタイプの直接的な結果である。
【0074】
特に興味深いのは、BoNT/LC (血清型 C)と、特にBoNTC/LC(他のLC血清型と比較して)である。第1に、BoNTC/LCは、人間の神経細胞内での半減期が長いため、特に深刻なバイオテロの脅威を提起する。2つめには、BoNTC/LCのin vitro検定は現在存在しない、というのはおそらくこのLCプロテアーゼは、膜が機能するのを必要とするように思われるからである。神経細胞環境では、BoNTC/LCは、シナプス小胞のシナプス前膜への融合に必要とされる、膜タンパク質であるシンタキシンを開裂する。
【0075】
その他の例として、 エルシニア毒性因子のYopJとYopT、そしてサルモネラ病原因子AvrAがある。
【0076】
転移酵素
【0077】
いくつかの実施形態では、標的酵素は転移酵素である。本明細書でいう「転移酵素」とは、官能基(例えば、メチルまたはリン酸塩基)の1つの分子(ドナー)から別の分子(受容体)への転移に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0078】
転移酵素はEC番号の分類基準でEC2に分類される。転移酵素はさらに、1炭素基を転移する酵素(メチル転移酵素)、アルデヒドまたはケトン基を転移する酵素、アシル転移酵素、グリコシル転移酵素、メチル基以外にアルキルまたはアリル基を転移する酵素、窒素基を転移する酵素(アミノ基転移酵素)、リン含有基を転移する酵素(ポリメラーゼとキナーゼを含むリン酸転移酵素)、硫黄含有基を転移する酵素(硫黄転移酵素と硫酸転移酵素)、セレニウム含有基を転移する酵素の9つのサブクラスに分類される。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、標的酵素はキナーゼである。
【0080】
別の態様では、本発明はキナーゼを検出する組成物と方法を提供する。タンパク質キナーゼ活性を定量化する検定方法は、病気の診断と治療に際して、それらの役割を理解する上で重要である。本明細書に提供されるキナーゼ検定は、キナーゼの薬品候補阻害剤のスクリーンにも使用することができる。
【0081】
真核生物は、特異タンパク質のリン酸化と脱リン酸化を利用して、多くの細胞処理を調節する。T. Hunter、 Cell 80:225〜236ページ(1995年); Karin、 M.、 Curr. Opin. Cell Biol.第3巻:467〜473ページ (1991年)参照のこと。これらの処理には信号変換、細胞分割、遺伝子転写の開始が含まれる。よって、生物の維持、適応、病気に対する感染性の重大な事象は、タンパク質のリン酸化と脱リン酸化によって制御される。これらの現象はあまりにも広範囲に及ぶので、人間にはおよそ2、000のタンパク質キナーゼ遺伝子と1、000のタンパク質ホスファターゼ遺伝子(T. Hunter、Cell 第80巻:225〜236ページ (1995年)を参照のこと)があり、これらのうちのいくつかは病気に対する感染性のためにコーディングされていると考えられている。こういった理由により、タンパク質キナーゼとホスファターゼは、薬物療法の開発の良い標的である。
【0082】
頻繁に使用されるタンパク質キナーゼスクリーンのいくつかは、放射能APTまたはELISAを使用している。しかしながら放射能ATPの使用は、記録管理、廃棄物処理に付随する費用や、検定フォーマットが統一されていないという事実のため、望ましいものではない。ELISAは洗浄と酵素反応の両方に余分なステップが必要なため、検定処理量が低いので、望ましくない。
【0083】
可視波長内の蛍光検出は、キナーゼ検定に放射線追跡子またはELISAを使用する選択肢を与える、というのも、蛍光は放射線のそれに相当する検出限界を提供するからである。さらに、これによって放射能廃物処理費がかからなくなる。しかしながら、以前開発されたキナーゼの蛍光検定は高いスループットスクリーニングの要求に対して、特に修正が可能ではなかった。
【0084】
フェロセン共役ATP(Fc-ATP)を使うキナーゼ活性の電気化学検出について、Song et al.、 Chem. Commun.、502〜504ページ (2008年)に記載されている。この検定では、タンパク質キナーゼ C(PKC)の基板は電極の表面に固定されている。PKCの触媒反応によって、γ-リン酸-Fc基がペプチドのセリン残留物に転移される。電極表面に付着したFc基は電気化学技術を使って検出される。よって、この検定では、フェロセンはリン酸化前には電極に付着せず、リン酸化プロセスによってのみ電極に付着する。
【0085】
金粉を使ったタンパク質キナーゼC(PLC)触媒チオリン酸化の電気化学検出については、Kerman and Kraatz、 Chem. Commun. 5019〜5021ページ (2007年)に記載されている。この検定では、ビオチン化基板ペプチドが、ストレプトアビジンコートされた炭素電極の表面に固定されている。PKC触媒反応によって、チオリン酸基がペプチドのセリン残留物に転移される。チオリン酸化ペプチドと金粉のインキュベーションによって、金粉が表面に付着する。金粉の存在は、金粉上の塩素イオンから得られる電気化学還元反応によって判断される。よってこの検定では、金粉はリン酸化の前に電極に付着しない。金粉はリン酸化反応プロセスによってのみ電極に付着する。
【0086】
いくつかの実施形態では、標的検体はタンパク質キナーゼである。本明細書でいう「キナーゼ」または「リン酸転移酵素」は、リン酸基をATPのような高エネルギードナー分子から特異標的分子(基板)に転移する酵素のことを意味する。この転移プロセスをリン酸化と呼ぶ。よって、タンパク質キナーゼは、リンのアデノシン三リン酸(ATP)またはグアノシン三リン酸(GTP)から標的タンパク質への転移に触媒作用を及ぼし、リン酸化タンパク質とアデノシン二リン酸(ADP)またはグアノシン二リン酸(GDP)をそれぞれ生じさせる。ATPまたはGTPは先ず、ADPまたはGDP、そして無機リン酸塩に加水分解される。そして無機リン酸塩は標的タンパク質に付着する。キナーゼによって標的にされたタンパク質基板は、細胞壁などの膜材料に見つかる構造タンパク質や、官能性タンパク質である、別の酵素であってもよい。
【0087】
それらの生理的関連性、多様性そして普遍性のため、タンパク質キナーゼは生化学と医療研究において最も重要で広く研究される酵素ファミリーの1つとなった。研究では、タンパク質キナーゼは、信号伝達、転写調節、細胞運動、細胞分裂を含む、たくさんの細胞機能の主要な調節因子であると示されている。いくつかの腫瘍遺伝学ではまた、タンパク質キナーゼの符号化を示し、キナーゼが腫瘍形成において重要な役割を果たすことを示唆している。
【0088】
タンパク質キナーゼは、それらがリン酸化するアミノ酸残留物に基づき、たいてい2つの基に分けられる。1つ目の基はセリン/トレオニンキナーゼで、環状APTと環状GMPへの依存性タンパク質キナーゼ、カルシウムとリン脂質への依存性タンパク質キナーゼ、カルシウムとカルモジュリンへの依存性タンパク質キナーゼ、カゼインキナーゼ、細胞分裂周期タンパク質キナーゼなどを含む。これらのキナーゼはたいてい細胞質か、またはおそらくアンカータンパク質によって、特定の細胞破片と結合する。
【0089】
2つ目のキナーゼ基はチロシンキナーゼと呼ばれ、チロシンの残留物をリン酸化するものである。それらの量はかなり少ないが、細胞の調整においては同じくらいに重要な役割を果たす。これらのキナーゼは、表皮成長要因受容体、インスリン受容体、血小板由来の受容体などの、成長因子やホルモンのようないくつかの受容体を含んでいる。研究によると、多くのチロシンキナーゼが膜貫通タンパク質であり、その受容体ドメインが細胞の外側にあり、そのキナーゼドメインが細胞の内側にある。
【0090】
セリン含有、トレオニン含有、チロシン含有タンパク質のキナーゼによるリン酸化は、腫瘍形成、細胞形質転換、細胞成長、開口分泌を含む、様々な細胞プロセスでリン酸化タンパク質性生物が関係しているため、重要である。
【0091】
酸化還元酵素
【0092】
いくつかの実施形態では、標的酵素は酸化還元酵素である。酸化還元酵素は、1分子(酸化剤、また、水素ドナーまたは電子ドナーとも呼ばれる)から別の分子(還元剤、また、水素受容体または電子受容体とも呼ばれる)への電子の移動に触媒作用を及ぼす酵素である。酸化還元酵素は酵素のEC番号の分類基準でEC1に分類される。酸化還元酵素はさらに、以下の22のサブクラスに分類される。多くの酸化還元酵素は1つ以上の金属イオンを含むメタロ酵素である。この基のいくつかの代表的酵素には、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ、5‐リポオキシゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、アロマターゼ、シクロオキシゲナーゼ、 シトクロム P450、 フマル酸レダクターゼ、ヘムオキシゲナーゼ、ラノステロールデメチラーゼ、ピルビン酸:フェレドキシンオキシドレダクターゼ、リボヌクレオシド二リン酸レダクターゼ、甲状腺ペルオキシダーゼ、キサンチンオキターゼがある。
【0093】
リアーゼ
【0094】
いくつかの実施形態では、標的酵素はリアーゼである。本明細書でいう「リアーゼ」とは、通常新しい二重結合または環状構造を形成して、加水分解と酸化以外の手段により、様々な化学結合の切断に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0095】
リアーゼは酵素のEC番号分類基準でEC4に分類される。リアーゼはさらに、 (1)デカルボキシラーゼ、アルデヒドリアーゼ、オキン酸リアーゼなどの炭素炭素結合を開裂するリアーゼ、(2)デヒドラターゼなどの炭素酸素結合を開裂するリアーゼ、(3)炭素窒素結合を開裂するリアーゼ、(4)炭素硫黄結合を開裂するリアーゼ、(5)炭素ハロゲン化物結合を開裂するリアーゼ、(6)アデニル酸シクラーゼ、グアニル酸シクラーゼ などのリン酸素結合を開裂するリアーゼ、(7)フェルケラーゼなどのその他のリアーゼのサブクラスに分類される。
【0096】
異性化酵素
【0097】
いくつかの実施形態では、標的酵素は異性化酵素である。本明細書でいう「異性化酵素」とは、異性体の構造的再配列に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0098】
異性化酵素はそれ自身の酵素のECクラス、5がある。異性化酵素はさらに、(1)ラミセ化(ラセマーゼ)とエピマー化(エピメラーゼ)に触媒作用を及ぼす酵素、(2) 幾何異性体(シストランスの異性化酵素)の異性化に触媒作用を及ぼす酵素、(3)分子内の酸化還元酵素、(4)分子内の転移酵素(ムターゼ)、(5) 分子内のリアーゼ、(6)その他の異性化酵素 (トポイソメラーゼを含む)の6つのサブクラスに分類される。
【0099】
リガーゼ
【0100】
いくつかの実施形態では、 標的酵素はリガーゼである。本明細書でいう「リガーゼ」とは、ATP内のニリン酸結合の不純物加水分解または同様の三リン酸との2つの分子の連結に触媒作用を及ぼす酵素を意味する。
【0101】
リガーゼは酵素のEC番号の分類基準のEC6に分類される。リガーゼはさらに、(1)対応するアミノ酸 (アミノ酸tRNAリガーゼ)と炭素酸素結合(例えば、転移RNAをアシル化する酵素)を形成する酵素、(2)炭素硫黄結合(例えば、アシルCoA誘導体を合成する酵素)を形成する酵素、(3)炭素窒素結合(例えば、アミドシンターゼ、ペプチドシンターゼ、複素環を構成する酵素、グルタミンをアミド-N-ドナーとして使う酵素)やその他を形成する酵素、(4)炭素炭素結合(ほとんどはビオチニル-タンパク質であるカルボキシル化酵素)を形成する酵素、(5)リン酸エステル結合(例えば、核酸内で切断されたリン酸ジエステル結合を修復する酵素(通常、回復酵素と呼ばれる))を形成する酵素、(6)窒素金属結合 (例えば、テトラピロール環系の金属キレート化)を形成する酵素の6つのサブクラスに分類される。
【0102】
B. 標的酵素の基板
【0103】
本発明で使用される基板は標的酵素によって決まる。酵素と基板の関係は通常、関連標的酵素の特性として知られている。下記に示すように、本発明で使用される基板には、標的酵素によって、「捕捉基板」と「溶液基板」の2種類がある。
【0104】
「捕捉基板」は標的酵素の基板であり、通常対応する酵素との接触による共有結合の変化に基づく立体配座の変化を起こすものである。例えば、下記により詳細を示すように、酵素がプロテアーゼの場合、基板は開裂されることがある。同様に、基板は転移酵素や異性化酵素のように、空間的再配列を起こすことがある。なお、「捕捉基板」(本明細書では「支持基板」と呼ぶこともある)は、表面で実際に標的を捕捉するものとは限らず、むしろ、表面に付着するものであると理解されたい。一般に、捕捉基板は、例えば加水分解酵素、異性化酵素、転移酵素のような共有結合を切断する酵素に使用される。
【0105】
「溶液基板」は酵素的反応において結合を合成する標的酵素と共に使用され、これによって、1つの反応物質(または「生成物」とも呼ばれる)を形成するために2つ以上の基板を追加することになる。例えば、リガーゼは2つの短いペプチドから長いペプチドを合成したり、2つの核酸を一緒に連結させる場合に使用することができる(例えば、捕捉基板を表面に、そして溶液基板をアッセイ中に)。別の例として、核酸合成があるが、この場合、核酸が表面にあり、そしてヌクレオチドが捕捉基板に加えられる。キナーゼもまた、本明細書に記載の通り、このクラスに該当する。
【0106】
適切な標的酵素/基板のペアにはプロテアーゼ/タンパク質 (プロテアーゼ/ペプチドを含む)、リガーゼ/核酸、リガーゼ/タンパク質、リパーゼ/脂質、カルボヒドラーゼ/炭水化物、キナーゼ/リン酸リン酸基などがあるが、これらに限定されない。
【0107】
例えば、標的酵素がプロテアーゼの場合、基板は通常標的酵素によって開裂されるペプチドを含むタンパク質である。いくつかの実施形態では、ペプチドのような、より小さな捕捉基板が好まれるが、より大きなタンパク質を使うこともできる。さらに重要なことは、REAMの近くの電気化学ポテンシャルが酵素の作用によって変化することである。この基板は、各基板が1つ以上の特異標的酵素によってのみ開裂されるように、開裂に特異性を与える配列も含むことが好ましい。
【0108】
例えば、標的酵素がBoNTの1つである場合、遺伝子工学などによる最適化のあるなしにかかわらず、基板はSNAP-25またはVAMPなどのBoNTの周知の基板から派生した配列を含む。
【0109】
C. 電極
【0110】
一態様では、本発明は電極に付着するリガンド構造を提供する。本明細書でいう「電極」とは、電子デバイスに結合されると電流または電荷を感知し、それを信号に変換する組成物を意味する。好適な電極は当技術分野では周知であり、金、白金、パラジウム、シリコン、アルミニウム、白金酸化物、チタニウム酸化物、スズ酸化物、インジウムスズ酸化物、パラジウム酸化物、シリコン酸化物、アルミニウム酸化物、モリブデン酸化物(Mo2O6)、タングステン酸化物(WO3)、ルテニウム酸化物を含む金属酸化物電極、そして炭素 (ガラス状炭素電極、グラファイト、カーボンペーストを含む)を含む特定の金属やその他の酸化物を含むが、これらに限定されない。好適な電極には金、シリコン、炭素、金属酸化物電極が含まれ、金を有するものが特に好適である。
【0111】
本明細書に記載の電極は平面として説明するが、これは電極の可能な配座のほんの1つであり、略図の目的のみに使用するものである。電極の配座は使用する検出方法によって様々である。例えば、平坦電極は光検出方法や核酸配列が作成される場合などの、合成や検出のアドレス可能な場所が必要な場合に好適である。あるいは、単一プローブ検定の場合、電極は、内面に結合するSAM、EAM、捕捉リガンドなどの系の成分を有する管状であってもよい。これによって、少量の試料に露出される核酸を含む表面の面積を最大にすることができる。
【0112】
本発明の電極は通常バイオチップカートリッジに組み込まれ、様々な配置をとることができ、作用電極と参照電極、相互連結 (「基板貫通」(through board) 相互連結を含む)、そしてマイクロ流体成分を含むことができる。例えば、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許番号7,312,087を参照のこと。
【0113】
バイオチップカートリッジはバイオ分子の配列を有する基板を含み、様々な方法で配置することができる。例えば、チップは試薬の導入と除去のための注入ポートと排出ポートを含むことができる。さらにカートリッジは、試料を導入し、試薬を加え、反応を行い、そして試料を検出用配列を含む反応チャンバに加えることができるように、マイクロ流体成分を有するキャップまたは蓋を含んでいてもよい。
【0114】
好適な実施形態では、バイオチップは複数の配列位置を有する基板を含む。本明細書の「基板」、「固体支持体」またはその他の相当語句は、捕捉リガンドの付着または会合に適切な分離した個々の部位を含むように修飾することのできる物質を意味する。適切な基板には、金などの金属面、下記に定める電極、ガラスと修飾または官能化されたガラス、ファイバーグラス、テフロン(登録商標)、セラミックス、雲母、プラスチック(アクリル、ポリスチレンとスチレン共重合体とその他の物質、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、テフロン(登録商標)とその誘導体などを含む)、GETEK(ポリプロピレン酸化物とファイバーグラスの混合)など、多糖類、ナイロンまたはニトロセルロース、樹脂、シリコンと修飾シリコンを含むシリカまたはシリカ系物質、炭素、金属、無機ガラスおよびその他の様々なポリマーが含まれ、プリント基板(PCB)物質を有するものが特に好適である。
【0115】
本システムは配列形成において特に有用である。つまり、その中にアドレス可能な検出電極のマトリクスがある(本明細書では通常「パッド」、「アドレス」または「ミクロ位置」と呼ぶ)。本明細書における「配列」とは、配列形成の複数の捕捉リガンドを意味し、配列の大きさは組成物と配列の最終的な使用によって決まる。約2つの異なる捕捉基板から何千何万という捕捉基板を含む配列を作ることができる。
【0116】
好適な実施形態では、検出電極は基板上に形成される。さらに、本明細書の説明では、通常金電極の使用を対象としているが、当業者によって理解されるように、その他の電極も使用することができる。基板は本明細書および引用文献に概要を示すように、様々な物質を含むことができる。
【0117】
一般に、好適な物質にはプリント基板材料が含まれる。プリント基板材料は導電層でコーティングされ、電極と相互連結のパターンを形成する (技術的に、相互連結またはリードと呼ばれることがある)リソグラフィー技術、具体的にはフォトリソグラフィー技術によって処理される絶縁基板を含むものである。絶縁基板は通常ポリマーであるが、常にそうではない。当該技術分野において周知であるように、「2次元」(例えば、平面内の全ての電極と相互連結)または「3次元」(電極が1つの表面にあり、そして相互連結が基板の反対側まで貫通する、または電極が複数の表面上にある)基板の何れかを作るために、1つまたは複数の層を使用することができる。3次元システムはしばしば、「基板貫通」相互連結が行われるように、穴あけまたはエッチング、それに続く銅などの金属による電気メッキに依存する。基板物質にはよく、銅箔などの、基板にすでに付着した箔が備わっており、例えば電気メッキによって、必要であれば(例えば相互連結など)銅を追加する。従って銅の表面は、接着層が付着するように、例えばエッチングによって粗面化する必要がある。
【0118】
従って、好適な実施形態では、本発明は、複数の電極、好適には金電極を含む基板を含むバイオチップ(本明細書において「チップ」と呼ばれることがある)を提供する。電極の数は配列のために説明したものである。各電極は、好適には、本明細書に概要を示すように、自己組織化単分子層を含む。好適な実施形態では、単分子層形成種の1つは、本明細書に概要を示すように捕捉リガンドを含む。さらに、各電極は、片方の端が電極に付着し、そして電極を制御することのできる装置に最終的に付着する相互連結を有する。つまり、各電極は独立してアドレス可能である。
【0119】
最後に、本発明の構成は、マイクロ流体コンポーネントとロボットコンポーネント(例えば、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許番号6,942,771、7,312,087と、その関連ケースを参照のこと)を含む様々な付加コンポーネントと、信号処理技術を使用するコンピュータを含む検出システム(例えば、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許番号6,740,518を参照のこと)を含むことができる。
【0120】
(a). 自己組織化単分子層スペーサ
【0121】
いくつかの実施形態では、電極は任意選択でさらにSAMを含むことができる。本明細書でいう「単分子層」または「自己組織化単分子層」すなわち「SAM」は、分子が互いにほぼ平行に、そして表面にほぼ垂直に配向された、表面に自発的に化学吸着する分子の比較的規則性のある会合体を意味する。各分子は表面に接着する官能基と、単分子層の隣接する分子と相互作用して比較的規則性のある配列を形成する部分を含む。「混合」単分子層は、少なくとも2つの異なる分子が単分子層を構成する異種単分子層を含む。本明細書に概要を示すように、単分子層の使用は、生体分子の表面への非特異性結合の量を減らし、核酸の場合は、オリゴヌクレオチドの電極からの距離の結果として、オリゴヌクレオチドのハイブリッド化の効率を増やす。従って単分子層は、標的酵素の電極表面から離れたところでの維持を容易にする。さらに、単分子層 は、電荷を電極の表面から運び出しておくのに役立つ。従って、この層は電極とREAM、または溶媒内の電極と荷電種の間の電気接触を防ぐのに役立つ。このような接触によって、直接的な「短絡」や試料中に存在することのある荷電種を介した間接的な短絡が起こることもある。従って、単分子層は、好適には、最小限の「穴」が存在するように、電極表面の均一層に隙間なく充填する。よって単分子層は電極への溶媒の露出を阻止する物理障壁として機能する。
【0122】
いくつかの実施形態では、単分子層は導電性オリゴマを含む。本明細書でいう「導電性オリゴマ」とは、実質的導電性オリゴマであり、好適には直線状であり、そのいくつかの実施形態は文献で「分子ワイヤ」と呼ばれる。本明細書でいう「実質的導電性」とは、オリゴマが100 Hzで電子を転移することができることである。一般に、導電性オリゴマは導電性オリゴマ単量体単位間のように、実質的に重複するπ-軌道、すなわち共役π-軌道を有する。ただし、導電性オリゴマは1つ以上のシグマ(σ)結合を含むことができる。さらに、導電性オリゴマは、関連EAMへ電子を注入したり、また関連EAMから電子を受容する能力によって、機能的に定義される。さらに、導電性オリゴマは、本明細書に定めるように、絶縁体よりも導電性がある。さらに、本発明の導電性オリゴマは、それ自身が電子を供与したり受容したりする電気活性ポリマーから区別される。
【0123】
導電性オリゴマのより詳しい説明はWO/1999/57317に記載されており、その内容全体を本明細書に参照として取り込む。特に、WO/1999/57317の14から21ページの構造1から9に記載の導電性オリゴマで、本発明が使用されている。いくつかの実施形態では、導電性オリゴマは次の構造を持つ:
【化2】
【0124】
さらに、単分子層の導電性オリゴマの少なくともいくつかの末端は電子的に露出している。本明細書でいう「電子的に露出した」とは、EAMの末端と近接した配置、そして適切な信号で開始の後、EAMの存在に依存する信号が検知されることがあるということである。導電性オリゴマは末端基を持っている場合もあるし、持たない場合もある。よって、好適な実施形態では、付加的な末端基はなく、導電性オリゴマは、例えばアセチレン結合のように、末端基で終了する。あるいはいくつかの実施形態では、末端基が追加され、本明細書では「Q」と説明することもある。末端基はいくつかの理由によって使用される、例えば、EAMの検出のために導電性オリゴマの電子的有用性(electronic availability)に供与するため、または、非特異性結合を防ぐためなど、他の理由でSAMの表面を変えるためなどである。例えば、標的検体がDNAやRNAなどの核酸である場合、核酸は忌避されるか、または表面に横たわらないようにされ、ハイブリッド化が促進されるように、末端に負荷電基が存在して負荷電の表面を形成することができる。好適な末端基には、-NH、-OH、-COOH、そして-CH3などのアルキル基、そして(ポリ)エチレングリコールなどの(ポリ)アルキル酸化物が含まれ、−OCH2CH2OH、-(OCH2CH2O)2H、-(OCH2CH2O)3H、-(OCH2CH2O)4H を有するものが好適である。
【0125】
一実施形態では、導電性オリゴマの混合物を異なる種類の末端基と使用することができる。よって、例えば、末端基の中には検出を促進するものや、そして非特異性結合を防ぐものがある。
【0126】
いくつかの実施形態では、電極はさらに、好適には電極表面の単分子層の形で、不動態化剤を含む。いくつかの検体は、結合リガンドが電極から離れると、検体結合(つまりハイブリッド化)の効率が上がることがある。さらに、単分子層の存在は表面への非特異性結合を減少させる(これはさらに、本明細書で概要を示す末端基の使用によってさらに促進させることができる)。不動態化剤層は、結合リガンドおよび/または電極表面層から離れた検体の維持を促進させる。さらに、不動態化剤は電荷を電極の表面から運び出しておくことに役立つ。よって、この層は電極と電子移動部分との間、または溶媒内の電極と荷電種との間の電気接触を防ぐのに役立つ。このような接触によって、直接的な「短絡」や試料中に存在することのある荷電種を介した間接的な短絡が起こることもある。よって、不動態化剤の単分子層は、最小限の「穴」が存在するように、電極表面にきつく詰めた均一層状態にするのが好ましい。あるいは、不動態化剤は単分子層の形状でなくてもよく、導電性オリゴマの充填やその他の特性を助けるために存在してもよい。
【0127】
よって不動態化剤は、溶媒の電極への露出を阻止する物理障壁として機能することができる。このように、不動態化剤自身は実際には、(1)導電または(2)非導電、すなわち絶縁分子のどちらでもよい。従って、一実施形態では、不動態化剤は、本明細書で示すように、電荷の電極への転移を阻止または減少させる末端基の有無にかかわらず、導電性オリゴマである。導電性のその他の不動態化剤には、--(CF2)n--、 --(CHF)n--そして--(CFR)n−−のオリゴマが含まれる。好適な実施形態では、不動態化剤は絶縁体部分である。
【0128】
いくつかの実施形態では、 単分子層は絶縁体を含む。「絶縁体」は実質的に非導電性オリゴマで、好適には直線状である。本明細書でいう「実質的非導電性」とは、絶縁体を通る電子移動の速度が導電性オリゴマを通る電子移動の速度よりも遅いことを意味する。別の言い方をすれば、絶縁体の電気抵抗が導電性オリゴマの電気抵抗よりも高いということである。なお、オリゴマは通常 --(CH2)16分子などの絶縁体と考えられるが、遅い速度ではあるが、電子を転移することができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、 絶縁体は約10-7 Ω-1 cm-1以下の導電率Sを持つ。好適には、約10-8 Ω-1 cm-1 である。Gardner et al.、センサーとアクチュエーター(Sensors and Actuators) A 51 (1995年) 57〜66ページを本明細書に参照として取り込む。
【0130】
一般に、絶縁体は、たとえ特定の絶縁体分子が芳香基または1つ以上の共役結合を含んでいるとしても、アルキルまたはヘテロアルキルオリゴマまたはシグマ結合部分である。本明細書でいう「ヘテロアルキル」とは、少なくとも1つのヘテロ原子、すなわち鎖に含まれる窒素、酸素、硫黄、リン、シリコンまたはホウ素を有するアルキル基を意味する。あるいは、絶縁体は電子移動を好適には実質的に阻止または遅くする役目を持つ、1つ以上のヘテロ原子または結合を持つ導電性オリゴマに非常に似ていることがある。いくつかの実施形態では、絶縁体はC6-C16アルキルを含む。
【0131】
絶縁体を含む不動態化剤は、本明細書で定めるように、R基と置換して、電極の部分または導電性オリゴマの充填、絶縁体の親水性または疎水性、絶縁体の回転、ねじり、または縦の柔軟性などのたわみ性を変化させる。例えば、ブランチアルキル基を使用することができる。さらに、絶縁体を含む不動態化剤の末端は、本明細書で末端木(「TG」)と呼ばれることのある、単分子層の露出した表面に影響を与える付加基を含むことがある。例えば、荷電した中性または疎水性の基を加えて試料との非特異性結合を阻止したり、検体などの結合の動力に影響を与えることができる。例えば、末端に荷電した基を置いて、荷電表面を形成して、ある標的検体の結合を促進または阻害したり、表面に横たわることを忌避したり妨げたりすることができる。
【0132】
不動態化剤の長さは必要に応じて変化させることができる。一般に、不動態化剤の長さは上述のように、導電性オリゴマの長さと同様である。さらに、導電性オリゴマは基本的に不動態化剤と同じ長さかまたはそれよりも長く、結合リガンドが溶媒によって露出可能となる。
【0133】
単分子層は絶縁体を含む1種類の不動態化剤または異なる種類のものである。
【0134】
適切な絶縁体は当技術分野では周知であり、--(CH2)n--、--(CRH)n− と --(CR2)n--、エチレングリコール または酸素の代わりに他のヘテロ原子を使った誘導体、すなわち、窒素または硫黄 (硫黄誘導体は電極が金の場合は好適ではない)である。いくつかの実施形態では、絶縁体はC6 からC16アルキルを含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、 電極は金属面であり、相互連結または電気化学を行う能力を持つ必要はない。
【0136】
(b). アンカー基
【0137】
本発明はアンカー基を含む化合物を提供する。本明細書でいう「アンカー」または「アンカー 基」とは、本発明の化合物を電極に付着させる化学基である。
【0138】
当業者によって理解されるように、アンカー基の組成物は、それが付着する表面の組成物によって異なる。金電極の場合、ピリジニルアンカー基とチオール系アンカー基が特に使用される。
【0139】
導電性オリゴマの共有付着は、電極と使用される導電性オリゴマによって、様々な方法で達成される。一般に、構造1に「A」と示すように、いくつかの種類のリンカーが使用される。その中で、Xは導電性オリゴマで、斜線の表面は電極である:
【化3】
【0140】
この実施形態では、Aはリンカーまたは原子である。「A」の選択は部分的に、電極の特性による。よって、例えば、金の電極が使用される場合、Aは硫黄でもよい。あるいは、金属酸化物の電極が使用される場合、Aは酸化物の酸素に付着するシリコン(シラン)部分でもよい(例えば、参照として明示的に本明細書に取り込む、Chen et al.、 Langmuir 10:3332〜3337ページ (1994年); Lenhard et al.、 J. Electroanal. Chem. 第78巻:195〜201ページ (1977年)を参照のこと)。炭素系電極が使用される場合、Aはアミノ部分(好適には1級アミン; 例えば、Deinhammer et al.、 Langmuir 第10巻:1306〜1313ページ (1994年)を参照のこと)であってもよい。よって、好適なA部分には、シラン部分、硫黄部分(アルキル硫黄部分を含む)、アミノ部分が含まれるが、それらに限定されない。
【0141】
いくつかの実施形態では、 電極は炭素電極である。すなわちガラス状の炭素電極であり、付着はアミン基の窒素を介して行われる。代表的な構造は、その内容全体を本明細書に参照として取り込む米国特許出願番号20080248592の構造15に示される。さらに、リンカーおよび/または末端基などの付加原子が存在してもよい。
【0142】
明細書に参照として取り込む米国特許出願番号20080248592の構造16では、酸素原子は金属酸化物電極の酸化物から得られる。Si原子はまたその他の原子、すなわち、置換基を含むシリコン部分を含んでもよい。その他の電極へのその他のSAMの付着は当技術分野では周知である。例えば、インジウムスズ酸化物電極への付着に関しては、Napier et al.、 Langmuir、1997年を参照のこと。また、インジウムスズ酸化物電極げびリン酸の化学吸着に関しては、1998年5月4、5日、CHI会議、H. Holden Thorpeによる講演を参照のこと。
【0143】
1つの好適な実施形態では、インジウムスズ酸化物(ITO)が電極として使用され、アンカー基はホスホン酸含有種である。
【0144】
1). 硫黄アンカー基
【0145】
単一部分として構造1に示すが、導電性オリゴマは、1つ以上の「A」部分を有する電極に付着することができる。「A」部分は同じでもよいし、異なるものであってもよい。よって、例えば、電極が金の電極であり、そして「A」が 硫黄原子または部分である場合、下記の構造2、3、4に示すように、導電性オリゴマの電極への付着に多重硫黄原子を使うことができる。当業者によって理解されるように、他にもこのような構造を作ることもできる。構造2,3,4では、A部分は単なる硫黄原子であるが、置換硫黄部分を使用してもよい。
【0146】
よって、例えば、電極が金の電極で、そして「A」が、下記の構造6に示すように硫黄原子または部分である場合、下記の構造、2、3、4に示すように、多重硫黄原子を使って導電性オリゴマを電極に付着することができる。当業者によって理解されるように、他にもこのような構造を作ることができる。 構造2、3、4では、A部分は単なる硫黄原子であるが、置換硫黄部分を使用してもよい。
【化4】
【0147】
なお、構造4と同様に、電極に付着する3つの硫黄部分を有する単一炭素原子で終了する導電性オリゴマを持つことができる。
【0148】
別の態様では、本発明は共役チオールを含むアンカーを提供する。図10に共役チオールアンカーを有する例示的錯体を示す。いくつかの実施形態では、アンカーはアルキルチオール基を含む。図10Aと図4Bにいくつかの例を示す。図10Bに示す2つの化合物はそれぞれカルベンと4-ピリジルアラニンに基づくものである。
【0149】
別の態様では、本発明は、金電極などの電極の検体検出の電気活性部分の構成でアンカー基として機能する共役多足性チオ含有化合物を提供する。つまり、スペーサー基(種を形成するEAM、REAMCまたは「空いた」単分子層に付着することのできるもの)は2つ以上の硫黄原子を使って付着される。これらの多足性アンカー基は本明細書に示すように、直線状または環状であることができる。
【0150】
いくつかの実施形態では、アンカー基は「2足性」であり、そして、金表面に付着する2つの硫黄原子を含み、直線状である。しかし、場合によっては他の多足性(例えば「3足性」)の系を含むことができる。このような多足性アンカー基は安定性の増加を示し、そして/または立体的要求性頭部を有するチオール含有アンカーからSAMを調製するための大きなフットプリントが可能となる。
【0151】
いくつかの実施形態では、アンカーは環状ジスルフィド (「バイポッド」)を含む。場合によっては他の多足性(例えば「3足性」)を有する連鎖系アンカー基を含むことが可能である。連鎖の原子数は、例えば5から10への変えることができ、下記に述べる多環状アンカー基も含む。
【0152】
いくつかの実施形態では、アンカー基は、下記に示すような、尖部の窒素原子と分子内のジスルフィド結合を有する7員環の[1、2、5]-ジチアゼピン単位を含む。
【化5】
【0153】
なお、構造(IIIa)では、 連鎖の炭素原子をさらに置換することができる。 当業者によって理解されるように、他の員環も含まれる。さらに、多環状連鎖構造を使用することができ、これは、他の環状アルカン(環状ヘテロアルカンを含む)または芳香連鎖構造と置換する上述の[1、2、5]-ジチアゼピンなどの環状ヘテロアルカンを含むことができる。
【0154】
いくつかの実施形態では、アンカー基とスペーサの部分は下記の構造を有する。
【化6】
【0155】
本明細書の「R」基 は、EAMの遷移金属成分の末端配位リガンドを有する共役オリゴフェニルエチニレン単位を含む任意の置換基である。
【0156】
アンカーは二座中間体(I)(式IIIによる化合物、式中 R=I)から合成される。これは、本明細書に参照として取り込む Li et al.、 Org. Lett. 第4巻:3631〜3634ページ (2002年)を参照のこと。また、Wei et al、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J. Org、 Chem.)第69巻:1461〜1469ページ (2004年)も参照のこと。
【0157】
硫黄原子の数は、本明細書に概要を示すように、特定の実施形態では、スペーサあたり、1、2、そして3つの硫黄原子を使用する。
【0158】
(c). 電気活性部分
【0159】
アンカー基に加え、本発明では電気活性部分を含む化合物を提供する。本明細書でいう「電気活性部分(EAM)」、「遷移金属錯体」、「レドックス活性分子」、「電子移動部分(ETM)」は、可逆的または半可逆的に1つ以上の電子を転移することのできる金属含有化合物を意味する。電子ドナーと受容体の容量は相対的であると理解されたい。つまり、ある実験条件下で電子を失う分子は別の実験条件下では電子を受容することができる。
【0160】
可能な遷移金属錯体の数は大きく、そして電子移動化合物の当業者は、本発明では多くの化合物を使用することができると理解されたい。本明細書でいう「遷移金属」とは、その原子が部分的または全体的な電子の殻を持つ金属を意味する。本発明で使用する適切な遷移金属には、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、レニウム (Re)、白金(Pt)、スカンジウム(Sc)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、テクネチウム (Tc)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)を含むが、これらに限定されない。つまり、遷移金属の第1系列、白金金属 (Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、そしてFe、Re、W、Mo、Tcが本発明で特に使用される。特に好適なのは、酸化状態の変化時に配位部位が変化しない金属であり、これには、ルテニウム、オスミウム、鉄、白金、パラジウムが含まれ、オスミウム、ルテニウム、鉄が特に好適であり、オスミウムは多くの実施形態で特に使用される。いくつかの実施形態では、 鉄は好適ではない。通常、遷移金属は本明細書でTMまたはMと示される。
【0161】
遷移金属と配位リガンドは金属錯体を形成する。本明細書でいう「リガンド」すなわち「配位性リガンド」(本明細書では図に「L」と示す)は、1つ以上の中心原子またはイオンとの配位共有結合で、その電子のうちの1つ以上を通常供与するもしくはその電子を共有する原子、イオン、分子または官能基を意味する。
【0162】
金属のその他の配位部位を、遷移金属錯体の捕捉リガンド (直接的または間接的にリンカーを使う)または電極 (下記に詳細を示すように、頻繁にスペーサを使う)、または両方への付着に使用する。よって、例えば、遷移金属錯体が結合リガンドに直接連結される場合、金属イオンの配位部位の中の1つ、2つまたはそれ以上が結合リガンドによって供給される配位原子(または、間接的に連結される場合には、リンカーによって)占有されることがある。さらに、または代替的に、金属イオンの配位部位の1つ以上が、遷移金属錯体の電極への付着に使用されるスペーサによって占有されることがある。例えば、下記により詳細を示すように、遷移金属錯体が結合リガンドから離れて電極に付着する場合、1(n-1)を除く金属(n)の全ての配位部位が極性リガンドを含むことができる。
【0163】
本明細書で「L」と示す適切な小さな極性リガンドは、本明細書でより詳しく述べるように、2つのカテゴリーに該当する。一実施形態では、一般的に良くない脱離基または優れたシグマドナー、そして金属の固有性により、小さな極性リガンドは効果的に不可逆的に金属イオンに結合する。これらのリガンドは「置換不活性」と呼ぶことができる。あるいは、下記により詳細を示すように、小さな極性リガンドは、それらの優れた脱離基特性または良くないシグマドナー特性により、標的検体の結合時に、検体が1つ以上の配位原子を金属に提供し、効果的に小さな極性リガンドを置換するように、可逆的に金属イオンに結合させてもよい。これらのリガンドは、「置換が容易」と呼ぶことができる。リガンドは、好適には双極子を形成する、というのも、これは高溶媒再配置エネルギーに供与するからである。
【0164】
遷移金属錯体の構造のいくつかを下記に示す。
【化7】
【0165】
Lは配位原子を金属イオンの結合に提供するコリガンドである。当業者によって理解されるように、コリガンドの数と性質は金属イオンの配位数によって決まる。単座、二座または多座のコリガンドを任意の位置で使用することができる。よって、例えば、金属が6の配位数を持つ場合、導電性オリゴマの末端からのL、核酸から供与されるL、そしてrで、合計6になる。よって、金属が6の配位数を持つ場合、全てのコリガンドが単座であれば、r の範囲は0(全ての配位原子に他の2つのリガンドが備わっている場合)から4である。よって一般に、rは金属イオンの配位数とその他のリガンドの選択によって、0から8である。
【0166】
一実施形態では、金属イオンの配位数は6であり、導電性オリゴマに付着するリガンドと核酸に付着するリガンドはどちらも少なくとも二座である。つまり、r は好適には、0、1(すなわち、残りのコリガンドは二座)、または2(2つの単座コリガンドが使われる)である。
【0167】
当技術分野で理解されているように、コリガンドは同じでもよいし、異なっていてもよい。適切なリガンドは、配位原子 (通常文献ではシグマ(σ)ドナーと呼ばれる)として窒素、酸素、硫黄、炭素またはリン原子(金属イオンによる)を使用するリガンドと、メタロセンリガンド(文献では通常pi(π)ドナーと呼ばれ、本明細書ではLmと説明される)などの有機金属リガンドの2つのカテゴリーに該当する。適切な窒素ドナーリガンドは当技術分野では周知であり、シアノ (C≡N)、NH2 ; NHR; NRR'; ピリジン; ピラジン; イソニコチンアミド; イミダゾール; ビピリジンとビピリジンの置換 誘導体; テルピリジンと置換誘導体; フェナントロリン、特に1、10-フェナントロリン (phenと略する ) と、4、7-ジメチルフェナントロリンとジピリジル[3、2-a:2'、3'-c]フェナジン(dppzと略する); ジピリドフェナジン; 1、4、5、8、9、12-ヘキサアザトリフェニレン(hatと略する)とフェナントロリンの置換誘導体; 9、10-フェナントレンキノンジイミン(phiと略する); 1、4、5、8-テトラアザフェナントレン(tapと略する); 1、4、8、11-テトラ-アザシクロテトラデカン(cyclamと略する )とイソシアン化物を含む。溶融誘導体を含む置換誘導体も使用することができる。いくつかの実施形態では、ポルフィリンとポルフィリンファミリーの置換誘導体を使用することができる。例えば、本明細書に参照として明示的に取り込む、 コンプリヘンシブ・コーディネーション・ケミストリー(Comprehensive Coordination Chemistry)、Ed. Wilkinson et al.、Pergammon Press、1987年、13.2章 (73〜98ページ)、 21.1章 (813〜898ページ)、21.3章(915〜957ページ)を参照のこと。
【0168】
当技術分野で理解されるように、本発明では、ドナー(1)が金属とドナー(2)に結合する任意のリガンドドナー(1)-架橋-ドナー(2) を周囲の媒体(溶媒、タンパク質など)との相互作用に使用することができる。ドナー(1)とドナー(2)がシアノ(C はドナー(1)、N はドナー(2)、piシステムはCN三重結合)のように、piシステムで結合されている場合は特にそうである。一つの例として、ビピリミジンがある。これは、ビピリジンと大変良く似ているが、媒体との相互作用のために、「背面」にNドナーを持っている。付加コリガンドには、シアン酸塩、イソシアン酸塩(-N=C=O)、チオシアン酸塩、イソニトリル、N2、O2、カルボニル、ハロゲン化物、アルコキシド、チオラート、アミド、リン化物、スルフィノ、スルホニル、スルホアミノ、スルファモイルなどの硫黄含有化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0169】
いくつかの実施形態では、 様々な金属を有する錯体へのコリガンドとして多重シアノが使用される。例えば、7つのシアノがRe(III)に結合し、8つがMo(IV)とW(IV)に結合する。よって、本発明では、6つ以下のシアノと1つ以上のLを有するRe(III)、または7つ以下のシアノと1つ以上Lを有するMo(IV)またはW(IV)を使用することができる。W(IV)系を持つEAMは他のものよりも特に有利である、というのも、それはより不活性で、調合が簡単で、より有利な還元ポテンシャルだからである。通常、CN/L率が大きいとシフトが大きくなる。
【0170】
炭素、酸素、硫黄、リンを使ってリガンドに供与する適切なシグマは当技術分野では周知である。例えば、適切なシグマ炭素ドナーは、本明細書に参照として取り込むCotton and Wilkenson、 Advanced Organic Chemistry、 第5版、 John Wiley & Sons、1988年の、例えば38ページを参照のこと。同様に、適切な酸素リガンドには、当技術分野では周知であるクラウンエーテル、水などが含まれる。ホスフィンと置換ホスフィンもまた適切である。上述の文献の38ページを参照のこと。
【0171】
ヘテロ原子が配位原子として機能できるように、酸素、硫黄、リン、窒素供与リガンドが付着される。
【0172】
いくつかの実施形態では、有機金属リガンドが使用される。レドックス部分として使用する純粋有機化合物、そしてヘテロ環状または環外の置換基としてのドナー原子を有するδ-結合有機リガンドを有する様々な遷移金属配位錯体に加え、pi-結合有機リガンドを有する様々な遷移金属有機金属化合物がある(本明細書に参照として明示的に取り込む、Advanced Inorganic Chemistry、第5版、Cotton & Wilkinson、John Wiley & Sons、1988年、26章; Organometallics、 A Concise Introduction、 Elschenbroich et al.、第2版、1992年、 VCH; Comprehensive Organometallics Chemistry II、A Review of the Literature 1982〜1994年、 Abel et al. Ed.、 第7巻、7、8、10 & 11章、Pergamon Pressを参照のこと)。このような有機金属リガンドには、環シクロペンタジエニドイオン[C5H5 (-1)]などの環状芳香化合物や、ビス(シクロペンタジエル)メタル化合物(すなわちメタロセン)の類を生成するインデニリデ (-1)イオンのような、様々な連鎖置換および連鎖溶融誘導体を含む(例えば、参照として取り込むRobins et al.、米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc.) 第104巻:1882〜1893ページ (1982年); Gassman et al.、 J. Am. Chem. Soc. 第108巻:4228〜4229ページ (1986年)を参照のこと)。これらの中で、フェロセン [(C5H5)2 Fe]とその誘導体は、様々な化学(Connelly et al.、Chem. Rev. 第96巻:877〜910ページ (1996年)を参照として取り込む)と電気化学電子移動または「レドックス」反応 (Geiger et al.、アドバンシーズ・イン・オルガノメタリックケミストリー(Advances in Organometallic Chemistry) 第23巻:1〜93ページ; Geiger et al.、 Advances in Organometallic Chemistry 第24巻:87ページを参照として取り込む)で使用される典型的な例である。第1、第2、第3列遷移金属の様々なメタロセン誘導体は、リボース連鎖またはヌクレオシド系核酸に共有結合するレドックス部分としての有望な候補である。その他の適合する可能性のある有機金属リガンドには、ビス(アレーン)金属化合物とその 連鎖置換および連鎖溶融誘導体を生成するベンゼンなどの環状アレーンがあり、その中でビス(ベンゼン)クロムは典型的な例である。アリル(-1)イオンやブタジエンなどのその他の環状π-結合リガンドは適合する可能性のある有機金属化合物を生成し、そのようなリガンドは全て、その他のpi-結合やδ-結合リガンドと導通して、炭素結合の金属を持つ、有機金属化合物の一般的な類を構成する。架橋有機リガンド、付加的非架橋 リガンド、金属金属結合を有するまたは有しないそのような化合物の様々な二重体とオリゴマの電気化学の研究は、核酸検定における可能性のあるレドックス部分の候補を示している。
【0173】
コリガンドの中の1つ以上が有機金属リガンドである場合、付着はヘテロ環状リガンドのその他の原子を介するが、そのリガンドは、通常有機金属リガンドの炭素原子の1つを介して付着する。好適な有機金属リガンドには、置換誘導体とメタロセノファンを含むメタロセンリガンドが含まれる(コットンアンドウィルカーソン、スープラ(Cotton and Wilkenson、supra)の1174ページ参照のこと)。例えば、ペンタメチルシクロペンタジエニルなどの、多重メチル基を有するものが好適なメチルシクロペンタジエニルなどのメタロセンリガンドの誘導体を、メタロセンの安定性を増やすために使用することができる。好適な実施形態では、メタロセンの2つのメタロセンリガンドの1つのみが誘導体化される。
【0174】
本明細書に記載するように、リガンドの任意の組み合わせを使用することができる。好適な組み合わせには、a) 全リガンドが窒素供与リガンド、b)全リガンドが有機金属リガンド、c) 導電性オリゴマの末端のリガンドがメタロセンリガンドで、核酸によって提供されるリガンドが窒素供与リガンドで、他のリガンドは、必要であれば、窒素供与リガンドか、メタロセンリガンドか、または混合物である場合が含まれる。
【0175】
原則として、非マクロ環状キレート剤を含むEAMは、金属イオンと結合して非マクロ環状キレート化合物を形成する、というのも、金属が存在すると多重プロリガンドが結合して多重酸化状態を提供するからである。
【0176】
いくつかの実施形態では、窒素供与プロリガンドが使用される。適した窒素供与プロリガンドは当技術分野では周知であり、NH2; NHR; NRR’; ピリジン; ピラジン; イソニコチンアミド; イミダゾール; ビピリジンとビピリジンの置換誘導体; テルピリジンと置換誘導体; フェナントロリン、具体的に1、10-フェナントロリン(phenと略する)とフェナントロリンの置換誘導体、4、7-ジメチルフェナントロリンとジピリジル[3、2-a:2’、3’-c]フェナジン(dppzと略する);ジピリジルフェナジン; 1、4、5、8、9、12-ヘキサアザトリフェニレン(hatと略する); 9、10-フェナントレンキノンジイミン(phiと略する); 1、4、5、8-テトラアザフェナントレン(tapと略する); 1、4、8、11-テトラ-アザシクロテトラデカン(cyclamと略する)とイソシアン化物が含まれるが、これらに限定されない。溶融誘導体を含む置換誘導体も使用することができる。なお、配位的に金属イオンを飽和し、そして別のプロリガンドの追加を必要とするマクロ環状リガンドは、この目的では非マクロ環状と考える。当業者によって理解されるように、多くの「非マクロ環状」リガンドを共有付着して配位的に飽和した化合物を形成することができるが、それには環状骨格が欠けている。
【0177】
いくつかの実施形態では、単座(例えば、少なくとも1つのシアノリガンド)、二座、三座、そして多座リガンドの混合物(飽和するまで)をEAMの構成に使用することができる。
【0178】
通常、遷移金属錯体が溶媒接触可能かどうかを決めるのは組成物またはリガンドの特性である。本明細書でいう「溶媒接触可能遷移金属錯体」または相当語句は、少なくとも1つ、好適には2つ、そしてより好適には3、4またはそれ以上の小さな極性リガンドを有する遷移金属錯体を意味する。極性リガンドの実際の数は金属イオンの配位数による。極性リガンドの好適な数は(n-1)と(n-2)である。例えば、Fe、Ru、Osなどの六配位金属の場合、溶媒接触可能遷移金属錯体は、下記により詳細を示すように、他の部位の要求により、好適には1つから5つの極性リガンドを持つが、2から5つが好適で、そして3から5つが特に好適である。Pt と Pdなどの四配位金属は、好適には、1、2または3つの小さな極性リガンドを持つ。
【0179】
なお、「溶媒接触可能」と「溶媒阻止」は相対語であると理解されたい。つまり、高いエネルギーが加わると、溶媒接触可能遷移金属錯体さえも電子を転移するように促される。
【0180】
EAMのいくつかの例を説明する。
【0181】
1). シアノ系錯体
【0182】
一態様では、本発明は1つの遷移金属と少なくとも1つのシアノ(-C≡N)リガンドを有するEAMを提供する。金属の価数と系(例えば、配位原子を供与する捕捉リガンドなど)の構成により、1、2、3、4または5のシアノリガンドを使用することができる。一般には、最も多くのシアノリガンドを使用する実施形態が好適である。さらに、これは系の配位による。例えば、図7に示すように、捕捉リガンドから別々に付着する オスミウムなどの六座金属を使うEAMは、6番目の配位部位を有する5シアノリガンドが付着リンカーの末端によって占有されることができる。六座金属が付着リンカーと配位原子を提供する捕捉リガンドの両方を有する場合、シアノリガンドは4つであることができる。
【0183】
いくつかの実施形態では、図7から9に示すように、付着リンカーおよび/または捕捉リガンドは1つ以上の配位原子を提供することができる。よって、例えば、図11では、付着リンカーは2つの配位原子を供与するビピリジンを含む。
【0184】
いくつかの実施形態では、 シアノリガンド以外のリガンドが少なくとも1つのシアノリガンドと組み合わせて使用される。
【0185】
2). Ru-N系錯体
【0186】
一態様では、最新の発明は、配位が単座、二座、三座または多座であることのできるRu-N系錯体の新しい構造を提供する。よって、配位リガンドL(アンカーと捕捉リガンドに共有的に結合する)の数は1、2、3または4であることができる。例のいくつかを図12Aに示す。
【0187】
荷電中和リガンドは、本明細書に記載するように、ジチオカルバミン酸塩、ベンゼンジチオレートまたはシッフ塩基などの、当技術分野で周知の任意の適したリガンドでよい。捕捉リガンドとアンカーは同じ枠組みでもよいし、別々でもよい。
【0188】
本発明の別の態様では、EAMリガンド構造の各成分はRu配位化学よりも共有結合によって結合されている。本明細書で提供される構築の構成は現代の合成有機化学方法論によるものである。重要な設計の考慮事項には、アンカーに存在する官能基の必要な直交反応性と、捕捉リガンド成分対配位リガンド成分が含まれる。好適には、化合物全体が合成でき、合成の最後のステップの近くでレドックス活性遷移金属がリガンドに配位される。本明細書で提供する配位リガンドは、ルテニウムペンタアミン前駆体の確立された無機方法論によるものである。ここに参照として取り込む Gerhardt and Weck、ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)第71巻:6336〜6341ページ(2006年); Sizova et al.、 インオーガニック・ケミカ・アクタ(Inorg. Chim. Acta)、第357巻:354〜360ページ (2004年); Scott and Nolan、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Eur. J. Inorg. Chem.)1815〜1828ページ(2005年)を参照のこと。Ruペンタアミン錯体を有するEAM構造のいくつかの例を下記の図5Bに示す。
【0189】
当業者によって理解されるように、本明細書で提供される化合物のアンカー成分はアルキルと多足性系チオールの間で置き換えられる。
【0190】
3). フェロセン系EAM
【0191】
いくつかの実施形態では、EAMは置換フェロセンを含む。フェロセンは空気中で安定する。それは捕捉リガンドとアンカー基の両方と簡単に置換することができる。フェロセンで標的タンパク質が捕捉リガンドに結合する際、フェロセンの周囲を環境を変えるだけでなく、シクロペンタジエニル連鎖がスピンするのを防ぎ、エネルギーを約4kJ/mol変化させる。WO/1998/57159; Heinze and Schlenker、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Eur. J. Inorg. Chem.)2974〜2988ページ(2004年); Heinze and Schlenker、Eur. J. Inorg. Chem.66〜71ページ(2005年); Holleman-Wiberg、インオーガニックケミカル(Inorganic Chemical)、Academic Press 34版、1620を参照のこと。これらは全て参照として取り込む。
【化8】
【0192】
いくつかの実施形態では、アンカーと捕捉リガンドは同じリガンドに付着して、合成を簡単にしている。いくつかの実施形態では、アンカーと捕捉リガンドは異なるリガンドに付着している。
【0193】
本明細書に開示する新しい構造を作るために使用することのできる多くのリガンドがある。それらには、カルボン酸塩、アミン、チオラート、ホスフィン、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン、テルピリジン、tacn(1、4、7-トリアザシクロノナン)、サレン(N、N'-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、acacen(N、N'-エチレンビス(アセチルアセトンイミネート(-))、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPAジエチレントリアミン五酢酸)、Cp(シクロペンタジエニル)、ピンサーリガンド、スコーピオナートが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、好適なリガンドはペンタアミンである。
【0194】
ピンサーリガンドはキレートリガンドの特異型である。ピンサーリガンドは金属中心の周りでそれ自体を包み、金属の反対側や中間に結合を作る。金属コア電子でのピンサーリガンド化学の効果はアミン、ホスフィン、混合ドナー リガンドと似ている。これにより、金属の活性が調整される化学状況が生み出される。例えば、ピンサーリガンドに対応する錯体の立体構造には高い需要があるため、金属の参加することのできる化学反応は限られ、そして選択的である。
【0195】
スコルピオネートリガンドとは、金属をfacの方法で結合する三座リガンドのことを指す。最もよく知られているスコルピオネートの類は、トリス(ピラゾリル)ヒドリドホウ酸塩またはTpリガンドである。CpリガンドはTpと等電子的である。
【0196】
いくつかの実施形態では、次の制限が望ましい:金属錯体は、溶媒と密接に接触するために小さな極性リガンドを有するべきである。
【0197】
4). 荷電中和リガンド
【0198】
別の態様では、本発明は荷電リガンドを有する金属錯体を有する組成物を提供する。中和から荷電(例えば、M+ <-> M0; M- <-> M0)に変化させる系の再配置エネルギーは、電荷が単に変化する(例えば、M2+ <-> M3+)系よりも大きくてもよい、というのも、水分子は変化にもっと適応するため、または分極環境を形成するために「再配置」しなければならない。
【0199】
いくつかの実施形態では、荷電リガンドアニオン化合物は、アンカーと捕捉リガンドを金属中心に付着するために使用することができる。錯体圏にハロゲン化物イオンXを含む金属錯体は、チオール(R-SH)、チオラート(RS-E; E=脱離 基、すなわち、トリメチルシリル基)、炭酸、ジチオール、炭素塩、アセチルアセトネート、サリチル酸塩、システイン、3-メルカプト-2-(メルカプトメチル)プロパン酸を含むが、それらに限定されない荷電電荷リガンドと反応する。この反応の駆動力は、HXまたはEXの形成である。アニオンリガンドが捕捉リガンドとアンカーの両方を含む場合には、1つの置換反応が必要である、よって、それと反応する金属錯体は、内圏に1つのハロゲン化物リガンドを持つ必要がある。アンカーと捕捉リガンドが別々に導入される場合、出発物質は通常内配位圏に2つのハロゲン化物を含む必要がある。Seidel et al.、インオーガニック・ケミストリー(Inorg.Chem) 第37巻:6587〜6596ページ(1998年);Kathari and Busch、Inorga.Chem.第8巻:2276〜2280ページ(1978年);Isied and Kuehn ジャーナルオブアメリカンケミカルソサイエティー(J. Am. Chem. Soc.)第100巻:6752〜6754ページ;Volkers et al.、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Eur. J. Inorg. Chem.)4793〜4799ページ(2006年)を全て、ここに参照として取り込む。
【0200】
適した金属錯体の例を下記に示す(なお、下記に示す構造は、シアノリガンドなどの単座配位子リガンドと置換や結合のできる多重単座配位子リガンドと多座配位子リガンドである):
【化9】
【0201】
いくつかの実施形態では、ジチオカルバミン酸塩が、下記に例を示す電荷-中和リガンドとして使用される:
【化10】
【0202】
いくつかの実施形態では、ベンゼンジチオレートが、下記に例を示す電荷-中和リガンドとして使用される:
【化11】
【0203】
上に示す構造で、Lnは配位リガンドで、n=0または1である。
【0204】
いくつかの実施形態では、EAMはシッフ塩基型錯体を含む。本明細書でいう「シッフ塩基」または「アゾメチン」は、アリール基またアルキル基に結合する窒素原子との炭素窒素二重結合を含む官能基を意味する。水素ではない。シッフ塩基は一般式がR1R2C=N-R3である。式中R3は、シッフ塩基を安定イミンにするフェニルまたはアルキル基である。シッフ塩基は、ヘミアミナールを形成する求核的付加と、それに続くイミンを発生させる脱水によって、芳香アミンとカルボニル化合物から合成することができる。
【0205】
acacenは、その窒素と酸素原子によって、とりまく水分子への水素結合を形成することのできる小さな平面四座リガンドであり、これによって再配置エネルギー効果が高まる。これは、カルボン酸とハロゲン化物を含むが、これに限定されない多くの官能性で修飾することができる。これはacacen-リガンドの捕捉リガンド、そしてアンカー基への結合に使用することができる。この系によって、多種の異なる金属中心がEAMで使用することができる。リガンドは2つの酸素と2つの窒素原子と結合するので、ほんの4配位部位が占有されるだけである。これによって、金属中心によって、2つの付加配位部位が空きとなる。これらの配位部位は多種の有機、無機リガンドによって占有することができる。これらの付加的な空き部位は内圏置換(例えば、不安定なH2OまたはNH3はタンパク質結合によって置き換えられる)または外圏影響(例えば、CO、CNをH-結合)に使用することができ、捕捉リガンドの標的への結合時にポテンシャルのシフトを最適化する。WO/1998/057158、WO/1997/21431、Louie et al.、PNAS 第95巻:6663〜6668ページ(1999年)とBottcher et al.、インオーガニックケミカル(Inorg. Chem.)第36巻:2498〜2504ページ(1997年)の全体をここに参照のために取り込む。
【0206】
いくつかの実施形態では、サレン錯体も使用される。Syamal et al.、反応性および機能性高分子(Reactive and Functional Polymers)第39巻:27〜35ページ(1999年)参照のこと。
【0207】
acacen系錯体とサレン系錯体のいくつかの構造を下記に示す。ここで、捕捉リガンドと/またはアンカーとの官能化に適したリガンドの位置を星印で示す。
【化12】
【0208】
acacenをリガンドとして使用してコバルト錯体を形成する例を下記に示す:
【化13】
ここで、AとBは適した基で、Lnは配位リガンド、n=0または1である。
【0209】
5). スルファトリガンド
【0210】
いくつかの実施形態では、EAMは[L-Ru(III)(NH3)4SO4]+と[L-Ru(III)(NH3)4SO22]2+含むが、これらに限定されないスルファト錯体を含む。SO4−Ru(III)-錯体は空気中で安定する。リガンドLは捕捉リガンドとアンカーを含む。サルフェートリガンドはアミンよりも極性があり、負に荷電している。よって表面錯体は[L-Ru(NH3)5-L’]と[L-Ru(NH3)5]2+よりも多くの水分子で囲まれている。Isied and Taube、インオーガニックケミカル(Inorg. Chem.)第13巻:1545〜1551ページ(1974年)を、ここに参照として取り込む.
【化14】
【0211】
(d). スペーサ基
【0212】
いくつかの実施形態では、EAMまたはREAMCは、付着リンカーまたはスペーサ(「スペーサ1」)を介してアンカー基(電極に付着している)に共有結合しており、それは通常さらに官能基分を含んでおり、付着リンカーの電極への会合が可能となる。(例えば、米国特許番号7,384,749を参照のこと。その内容全体を、そして特に付着リンカーの考察について、本明細書に参照として取り込む)。なお、金電極の場合、硫黄原子は官能基として使用することができる(この付着はこの発明に関しては、共有であると考える)。本明細書でいう「スペーサ」また「付着リンカー」は、レドックス活性錯体を電極の表面に寄せ付けない部分のことを意味する。下記に概要を示すように、適切なスペーサ部分は不動態化剤と絶縁体を含むが、いくつかの実施形態では、本明細書に概要を示すように、スペーサは導電性オリゴマである。場合によって、スペーサ分子は種を形成するSAMである。好適には(ただし要求はされないが)、レドックス活性分子と電極(HAB)との間の電子結合は、電子移動の速度制限ステップにはならないが、スペーサ部分は実質的に非導電でもよい。
【0213】
さらに付着リンカーは、ReAMCが利用される場合、捕捉リガンドの配位原子と捕捉リガンドそれ自身との間で使用することができる。同様に、図7から9に示すように、付着リンカーはブランチすることができる。さらに、付着リンカーは、ReAMCに関連しない場合、捕捉リガンドの電極への付着に使用することができる。
【0214】
付着リンカーの一端がEAM/REAMC/捕捉リガンドに結び付けられ、もう一端は(当業者によって理解されるように、どちらも正確な末端である必要はないが)電極に付着される。
【0215】
レドックス活性分子を含む導電性オリゴマの共有付着(と他のスペーサ分子の付着)は、使用される電極と導電性オリゴマによって、様々な方法で達成される。例えば、米国特許出願公報第20020009810の構造12から19と本文を参照のこと。これらの内容全体を本明細書に参照として取り込む。
【0216】
一般に、スペーサの長さは、本明細書に参照として取り込む、米国特許番号6,013,459、6,013,170、6,248,229および7,384,749に導電性ポリマーと不動態化剤の概要を示す通りである。当業者によって理解されるように、スペーサが長すぎると、レドックス活性分子と電極の間の電子的結合は急速に減少する。
【0217】
II. 作成方法
【0218】
別の態様では、本明細書に記載するように、本発明は組成物の作成方法を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は2008年8月7日に出願された、米国特許番号6,013,459、6,248,229、7,018,523、7,267,939、米国特許出願番号09/096593と60/980、733、および米国特許仮出願番号61/087、102の開示に従って作成される。これらは全て、その全体を全ての目的のために本明細書に取り込む。
【0219】
一実施形態では、下記に示す化合物1(非対称のジアルキルジスルフィドを持つ末端フェロセンとマレイミド)は、例でより詳細を示すように、下記のように、金電極に合成または堆積する。
【化15】
【0220】
III. 標的酵素の検出方法
【0221】
検体を検出する方法を開発するために、再配置エネルギーの調査を行う。
【0222】
1). 概説
【0223】
一態様では、本発明は、結合/電離(物理)事象よりも、基板の開裂または転移の触媒作用(化学)事象を伴って増幅効果を生み出す標的酵素の検出方法を提供する。いくつかの実施形態では、標的検体は酵素である。標的酵素の導入時に、酵素は基板と関連して、基板を開裂あるいは立体的に変えて、レドックス活性分子が溶媒接触可能となるようにする。この変化は検出することができる。この実施形態は信号を増幅させるという点で有利である、というのも、1つの酵素分子が多重溶媒接触可能分子になるからである。これはバクテリアやその他の酵素、具体的にスカベンジャープロテアーゼまたはカルボヒドラーゼを分泌する病原体の検出に特に使用される。
【0224】
2). 試料
【0225】
一態様では、本発明は試料内で標的酵素を検出する方法を提供する。本明細書でいう「試料」または「試験試料」とは、検出する検体を含む組成物を意味する。試料は、異なるタンパク質などの様々な成分を含む異種性でもよい。あるいは、試料は1つの成分を含む同種性でもよい。試料は自然発生する生物学的物質または人造の物質でもよい。物質は、天然または変性した形態であってもよい。試料は、単細胞または複数の細胞、血清検体、組織試料、皮膚試料、尿試料、水試料または土試料であってもよい。いくつかの実施形態では、試料は単細胞の中身か、または複数細胞の中身を含む。試料は真核生物、原核生物、哺乳類、人間、イースト菌またはバクテリアなどの生体からのものであってもよいし、または、試料はウィスルからのものであってもよい。試料は処理をしなくて使用してもよいし、要望があれば、処理をして使用してもよい。
【0226】
よって本発明では、試料または試験試料は、本明細書に記載するように標的酵素を含んでいる。
【0227】
3). 機構
【0228】
本明細書で提供される検定では、E0のシフトはEAMの近くから部分を除去したり、またはEAMの近くに部分を加えることによる。部分は、このような部分の除去または追加が標的酵素の検出を可能にするEAMのE0のシフトであるかぎり、どのようなサイズでもよい。
【0229】
一般に、部分をEAMの近くに追加すると、EAMのE0は正にシフトする。1つの例として本明細書ではキナーゼ検定を説明する。
【0230】
一般に、部分をEAMの近くから除去すると、EAMのE0は負にシフトする。1つの例として本明細書では「芝刈り検定」を説明する。
【0231】
いくつかの実施形態では、検定はEAMの近くへの部分の追加と近くからの部分の除去を伴い、よって、EAMのE0の両方向へのシフトを伴う。1つの例として、本明細書では「芝刈り検定」を説明する。図4Aを参照のこと。
【0232】
4). 用途
【0233】
本明細書に記載の方法と組成物は様々な用途で使用される。
【0234】
キナーゼ
【0235】
一態様では、本発明はキナーゼの検出方法を提供する。方法は、(a)キナーゼを含む試験試料の電極へ追加するステップであって、該電極は、(i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)、(iii)前記電極に付着する複数のタンパク質を含み、前記タンパク質は前記キナーゼの第1基板であるステップと、(b)前記タンパク質を前記キナーゼと第2キナーゼ基板にリン酸化するステップと、(c)E0の変化を測定することによって、前記キナーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0236】
いくつかの実施形態では、キナーゼ検定は、キナーゼ酵素にとって周知の基板である、隣接するオリゴペプチド配列でわずかに薄められるチオラート電気活性部分(EAM)の混合自己組織化単分子層(SAM)を使用する。この配列では、EAMはSAM/溶液界面に「露出」している。目的のキナーゼ標的が存在すると、SAM内のオリゴペプチドは、試料マトリックス中に存在するポリマー修飾ATP共同因子と特異的にリン酸化し、リン酸末端基ポリマーで修飾されたオリゴペプチドとなる。リン酸化部位が、混合SAM配列内のEAM高さの近くに存在する場合には、ポリマー結合生成物ペプチドが、隣接するEAMを溶媒から「シールド」する。キナーゼの触媒リン酸化反応によるEAMの溶媒化環境のこの変化によって、電気化学的に検出することのできるポテンシャルが変化する。図1に、キナーゼ検定のいくつかの実施形態の図形を示す。
【0237】
本明細書に記載するように、タンパク質キナーゼは、リン酸をドナー(第2基板)から受容体ペプチド(第1基板)に転移する。本発明では、第1と第2基板は捕捉基板か、または溶液基板であることができる。
【0238】
一旦標的キナーゼが見つかって合成ペプチド基板が識別されると、SAM内のEAMとペプチド成分の次元/濃度を変えることによって、検定を最適化することができる。
【0239】
一旦目的の特定のキナーゼのポテンシャルシフトが最適化されると、本明細書に記載するように、キナーゼ活性を抑制する薬物候補のスクリーンに、この検定を使うことができる。
【0240】
本明細書でいう「第1基板」とは、キナーゼによってリン酸化することのできるタンパク質を意味する。第1基板の組成物は標的キナーゼによって決まる。
【0241】
いくつかの実施形態では、標的キナーゼはタンパク質キナーゼC(PKC)であり、第1基板はSEQ ID NO:1 (SIYRRGSRRWRKL)の配列を持つペプチドを含む。
【0242】
いくつかの実施形態では、第1基板はおよそ10から50のアミノ酸長であり、好適には、およそ15から20のアミノ酸長である。
【0243】
本明細書でいう「第2基板」とは、キナーゼによるリン酸化反応のためのリン酸を提供する分子を意味する。いくつかの実施形態では、第2基板はAPを含むポリマーである。いくつかの実施形態では、第2基板はGTPを含むポリマーである。
【0244】
いくつかの実施形態では、第2基板はポリマー修飾ATP共同因子である。
【0245】
いくつかの実施形態では、第2基板は式(I)の構造を持っている:
【化16】
【0246】
いくつかの実施形態では、EAMと第1基板ペプチドは、EAMが少なくとも部分的に溶液に露出されるように配置される。
【0247】
通常、第1基板はリン酸化部位を含み、この部位は、混合SAM配列内でEAMの高さの近くにあり、第2基板がリン酸化反応によって第1基板に付着すると、第2基板結合第1基板が隣接するEAMを溶液からシールドするようになっている。
【0248】
リン酸化部位の配列は標的キナーゼによる。例えば、セリン/トレオニンキナーゼのペプチド基板はセリンまたはトレオニンを有する。様々なタンパク質キナーゼの共通配列が知られている(Enzymology 200: 62〜81ページ (1991年)に記載の方法)。図2は、本発明に適した様々なタンパク質キナーゼの共通リン酸化部位モチーフを示す。星印はリン酸化可能な残留物を示す。「X」はアミノ酸を示す。
【0249】
【表2】
【0250】
キナーゼ検定に対するポテンシャルペプチド基板の有用性は、キナーゼが活性であることが知られている状態で、ポテンシャルペプチド基板をインキュベートすることによって判断することができる。キナーゼ反応で役立つペプチド基板は、目的のキナーゼでリン酸化することのできるものである。その他の好適なペプチド基板を例にあげる。
【0251】
当技術分野で周知の任意のキナーゼ認識モチーフを、本発明によって使用することができる。本発明の金属結合アミノ酸を使ったリン酸化反応のためにモニタリングすることのできる認識モチーフの例を表3に示す。
【0252】
【表3】
【0253】
リン酸化することのできるその他のペプチド(および対応するキナーゼ)は、Pinna & Donella-Deana、バイオキミカ・エ・バイオフィジカ・アクタ(Biochemical et Biophysica Acta)第1222巻:415〜431ページ(1994年)の表Iに記載されており、その内容全体を本明細書に参照として取り込む。別のリストは、New England Biolabs Inc. 2005〜06年カタログと技術参照(Catalog & Technical Reference)の198ページに記載されており、その内容全体を本明細書に参照として取り込む。
【0254】
例えば、調査中のキナーゼに活性剤が必要な場合など、必要であれば、活性剤をキナーゼ反応に加えることができる。最適なキナーゼ活性を達成するためにも、活性剤を加えることが望ましい。キナーゼ反応に有用な活性剤には、カルシウム-リン脂質依存タンパク質キナーゼ(PKC)用のカルシウム、リン脂質およびその他の脂質、ホルボール12-ミリスチン酸塩13-アセテート(PMA)または類似の活性剤、カルモジュリン依存タンパク質キナーゼ(CaM K)用のカルシウムとカルモジュリン、cAMP依存タンパク質キナーゼ(PKA)ホロ酵素用のcAMP、cGMP依存タンパク質キナーゼ(PKG)用のcGMP、DNA-PK用のDNAが含まれるが、これらに限定されない。活性剤は、調査中のキナーゼによって、ナノモルかまたはそれより高い濃度とミクロモルかまたはそれより低い濃度で加えることができる。例えば、タンパク質キナーゼの測定と定量化など、キナーゼ反応が起きていて、終末点が必要な系には、停止試薬を任意選択で加えることができる。停止試薬は通常金属キレート試薬で、これは、キナーゼから金属を隔離するのに十分な濃度で加える。さらに、キナーゼによって触媒されるリン酸化を停止させるその他の試薬も、リン酸化反応を停止するために使用することができる。例えば、EDTA、EGTA、1、10-フェナントロリンはそれぞれマグネシウム、カルシウム、亜鉛に良いキレート剤である。その他のイオンキレート剤を使用してもよい。さらに、キナーゼは加熱不活性化することができる。
【0255】
キナーゼ反応はリンペプチドをリン酸ドナー、そしてヌクレオシドニリン酸(NDP)をリン酸受容体として使用して行うこともできる。すなわち、先に述べた反応の逆である。この配置では、キナーゼ反応は上述と同じ方法で行われる。しかしながら、通常検出される出力は、リン酸ペプチドがリン酸ドナーであるキナーゼ反応の出力の逆数である。つまり、キナーゼ活性がこの検定配置にある場合にリンのペプチド基板の脱リン酸化反応とNDPのリン酸化反応が起こると、出力は増える。
【0256】
プロテアーゼとPSA
【0257】
いくつかの実施形態では、標的酵素はプロテアーゼである。プロテアーゼは多くの重要な生理的プロセスに携わる幅広い酵素のクラスを表しており、関節炎、アルツハイマー病、癌、脳卒中を含む多くの病状の診断マーカに関連すると見なされる。タンパク質のこの重要なクラスのバイオセンサプラットフォームの開発は、依然としてカタロミクス、細胞生物学、創薬、臨床診断を促進させる集学的研究の活動的な分野である。
【0258】
いくつかの実施形態では、標的酵素は前立腺特異抗原(PSA)である。カリクレインIII、セミニン(seminin)、セメノゲラーゼ(semenogelase)、γ-セミノタンパク質、P-30 抗原としても知られるPSAはほとんど前立腺のみで作られる34kD糖タンパク質である。PSAはセリンプロテアーゼ (EC 3.4.21.77)酵素であり、一般の人間の血清にほんの少量だけ存在し、そして前立腺癌やその他の前立腺疾患があると、上昇する。PSAを測定する血液検査は、前立腺癌の早期発見のために現在行われている検査の1つである。経時的なPSAレベルの上昇は前立腺癌(CaP)の場所の特定と転移に関連する。
【0259】
図4A、4B、6A、6Bに実施例を示す。この検定では、ペプチド(HSSKLQC、SEQ ID NO:33)が最初にリンカーに付着する。これによってE0がシフトする(正のシフト)。検定にPSAが存在すると、それがペプチドを開裂して、別のE0のシフトとなる(負のシフト)。
【0260】
ペプチダーゼ 毒素
【0261】
一態様では、本発明はペプチダーゼ毒素検出の組成物と方法を提供する。この方法には、(a)プロテアーゼを含む試験試料を加えるステップであって、前記電極が、(i)自己組織化単分子層(SAM)、(ii) E0の遷移金属錯体を含む共有結合電気活性活性部分(EAM)と、(iii)前記電極に付着する複数のタンパク質を含み、該タンパク質は前記プロテアーゼの開裂部位を含むステップと、(b)複数の前記タンパク質を前記プロテアーゼで開裂するステップと、(c)E0の変化を測定することによって、前記プロテアーゼの存在を判断するステップとを含む。
【0262】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼの基板は電極に付着する開裂部位を含む。いくつかの実施形態では、基板は標的ペプチダーゼによって開裂される開裂部位を含むペプチドを含む。好適には、ペプチドはさらに標的ペプチダーゼ(標的認識配列)によって認識されるアミノ酸配列をさらに含み、よって、開裂に対して特異性を与える。開裂部位と標的認識配列は、本明細書に記載のように、最適化のあるなしにかかわらず、当技術分野で周知のものから選ぶことができる。
【0263】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼはBoNT A、つまりSNAP-25の残留物187から203を含む基板:SNKTRIDEAN QRATKML(SEQ ID NO:1)か、またはアルギニンと置換したK189とK291の修飾版:SNRTRIDEAN QRATRML(SEQ ID NO:2)である。Schmidt and Stafford、応用環境微生物学(Applied and Environmental Microbiology)、第69巻:297〜303ページ(2003年)を参照のこと。
【0264】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼはBoNT B、つまりヒトVAMP-2の残留物60から94を含む基板:(GenBank Aceesion No: NP_055047):LSELDDRADA LQAGASQFET SAAKLKRKYW WKNLK(SEQ ID NO:3)である。
【0265】
いくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼはBoNT F、つまりヒトVAMP-2の残留物37から75を含む基板:AQVDEVVDI MRVNVDKVLE RDQKLSELDD RADALQAGAS (SEQ ID NO:4)である。
【0266】
あるいは、開裂部位と標的認識配列は、標的ペプチダーゼに基づいて設計することができる。例えば、ランダムペプチドのライブラリーペプチダーゼ基板のスクリーンに使用することができる。
【0267】
いくつかの実施形態では、基板は周知の標的ペプチダーゼ基板の類似物質を含むことができる。
【0268】
ペプチドは当技術分野の技術を使って作ることができる。ペプチドは化学的に合成してもよい。あるいは、 ペプチドは、E. coliまたはイーストベースの発現システムを使ったin vitro発現によって生成することができる。
【0269】
基板は、本明細書に記載するように、付着リンカーを使って電極に付着される。
【0270】
よっていくつかの実施形態では、標的ペプチダーゼを含む試験試料がEAMとSAMを含む電極に加えられ、本明細書に記載するように、標的ペプチダーゼの存在はEAMのE0を測定することによって判断される。
【0271】
5). 開始
【0272】
一態様では、本発明は標的検体、好適には酵素の検出に使用される方法と組成物を提供する。
【0273】
いくつかの実施形態では、存在する場合には標的酵素が基板に触媒作用を及ぼす条件において、試験試料に含まれる標的検体が、溶媒接触可能レドックス活性錯体かまたは溶媒接触可能レドックス活性分子と基板の混合物を含む電極に加えられる。これらの条件は一般に生理的条件である。通常は、複数の検定混合物を異なる濃度で同時に行い、様々な濃度に対する反応の差を得る。一般的には、これらの濃度の1つは負の制御、つまりゼロ濃度または検出レベル以下としての機能を果たす。さらに、他の様々な試薬をスクリーン検定に含めてもよい。これらには、最適な結合の促進や非特異性やバックグラウンド相互作用を減少させるために使用される、例えば、アルブミン、洗剤などの食塩や中性タンパク質が含まれる。また、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤など、検定の効率を別のやり方で向上させる試薬も使うことができる。成分の混合物は、必要な結合を提供するような順番で加えることができる。
【0274】
いくつかの実施形態では、標的酵素による基板の触媒時に、溶媒接触可能レドックス活性分子が溶媒阻止になる。本明細書でいう「溶媒阻止レドックス活性分子」とは、溶媒接触可能レドックス活性分子の溶媒再配置エネルギーよりも溶媒阻止レドックス活性分子の溶媒再配置エネルギーが小さいことを意味する。
【0275】
いくつかの実施形態では、標的酵素による基板の触媒作用時に、溶媒阻止レドックス活性分子が溶媒接触可能になる。
【0276】
いくつかの実施形態では、必要とされる溶媒再配置エネルギー変化は、レドックス活性分子のE0の変化が約100 mVs、好適には少なくとも200 mV、そして特に好適には300から500 mVとなるのに十分なものである。いくつかの実施形態では、露出レドックス活性分子が溶媒阻止になった場合、レドックス活性分子のE0の変化は減少する。いくつかの実施形態では、溶媒阻止レドックス活性分子が溶媒接触可能になると、レドックス活性分子のE0の変化が増加する。
【0277】
いくつかの実施形態では、必要とされる溶媒再配置エネルギーは少なくとも100 mV変化し、好適には少なくとも約200 mV、そして特に好適には約300から500 mVである。
【0278】
いくつかの実施形態では、必要とされる溶媒再配置エネルギーは、溶媒接触可能レドックス活性分子と電極との間の電子移動の速度と溶媒阻止レドックス活性分子と電極との間の電子移動(kET)の速度変化が相対的であるように減少する。一実施形態では、この速度変化は約3の因子よりも大きく、好適には少なくとも約10の因子、そして特に好適には、少なくとも約100以上の因子である。
【0279】
溶媒再配置エネルギーの決定は、当業者によって理解されるようにして行われる。つまり、マーカス理論で概要が述べてあるように、電子移動速度(kET)は異なる駆動力(または自由エネルギー:-ΔG°)の数で決められる。その点では、自由エネルギーと同等の速度はλである。これはほとんどの場合、溶媒再配置エネルギーと同等のものとして処理される。Gray et al.アニュアル・レビュー・オブ・バイオケミストリー(Ann. Rev. Biochem.)第65版:537ページ(1996年)を、本明細書に参照として取り込む。
【0280】
標的検体を示す溶媒阻止レドックス活性分子は、溶媒阻止レドックス活性分子と電極と
の間の電子移動の信号特性の電子移動の開始と検出によって検出される。
【0281】
電子移動は通常電子的に、好適には電圧を使って開始される。修飾された核酸プローブを含む試料にポテンシャルを加える。加えるポテンシャルの正確な制御と変化は、ポテンショスタットと3電極システム(1つの参照、1つの試料、1つの対極)または2電極システム(1つの試料と1つの対極)を介して行われる。これにより、一部はレドックス活性分子そして一部は使用する導電性オリゴマによって決まる、加えるポテンシャルのピーク電子移動ポテンシャルへの照合ができるようになる。
【0282】
好適には、溶媒接触可能と溶媒阻止レドックス活性分子の溶媒再配置エネルギーとの間の相対的差異を最大にするために、開始と検出が選択される。
【0283】
6). 検出
【0284】
レドックス活性分子と電極間の電子移動は、好適には、アンペロメトリ、ボルタンメトリ、キャパシタンス、インピーダンスを含むが、それらに限定されない電子検出による、様々な方法で検出することができる。これらの方法には、ACまたはDC電流による時間または周波数に依存する方法、パルス方法、ロックイン技術、フィルタリング (ハイパス、ローパス、バンドパス)が含まれる。いくつかの実施形態では、必要なのは電子移動検出だけである。その他では、電子移動速度が決められる。
【0285】
いくつかの実施形態では、アンペロメトリ、ボルタンメトリ、キャパシタンス、 インピーダンスを含む電子検出が使用される。適切な技術には、電解重量法; 電量検定 (制御ポテンシャル電量検定と定電流電量検定を含む);ボルタンメトリ(環状ボルタンメトリ、パルスボルタンメトリ(通常のパルスボルタンメトリ、矩形波ボルタンメトリ、示差パルスボルタンメトリ、オスターヤング(Osteryoung)矩形波ボルタンメトリ、クーロスタティックパルス技術); ストリッピング検定(アニオンストリッピング検定、陰極ストリッピング検定、矩形波ストリッピングボルタンメトリ);コンダクタンス測定(電解コンダクタンス、直接検定);時間依存的電気化学検定(クロノアンペロメトリ、クロノポテンシオメトリ、環状クロノポテンシオメトリとアンペロメトリ、ACポログラフィ、クロノガルバメトリ、クロノ電量検定);ACインピーダンス測定;キャパシタンス測定;ACボルタンメトリ、光電気化学が含まれるが、これらに限定されない。
【0286】
いくつかの実施形態では、電子移動のモニタリングは電流検出を介して行われる。この検出方法には、本発明の組成物を含む電極と試験試料の補助(対)電極の間に電極(別個の参照電極と比べて)を与えることが含まれる。異なる効率の電子移動が、標的検体の有無によって試料中で引き起こされる。
【0287】
電流的に電子移動を測定する装置には、感度電流検出と電圧ポテンシャルを制御する手段、通常はポテンショスタットが含まれる。この電圧はレドックス活性分子のポテンシャルを参照して最適化される。
【0288】
いくつかの実施形態では、代替の電子検出モードが利用される。例えば、ポテンシャル差(または電解電流計の)測定には、非ファラデー(非正味電流フロー)プロセスが含まれ、伝統的にpH およびその他のイオン検出器で利用されている。同様のセンサーが、レドックス活性分子と電極間の電子移動のモニターに使用される。さらに、絶縁体(抵抗など)と導体(導電率、インピーダンス、キャパシタンスなど)のその他の特性をレドックス活性分子と電極間の電子移動のモニターに使用することができる。最終的に、電流(電子移動など)を発生させるシステムは、小さな磁界も発生させ、いくつかの実施形態ではこれをモニターすることができる。
【0289】
いくつかの実施形態では、標的を加える前に、有機溶媒中でシステムを動作させることによって、電極の溶媒接触可能レドックス活性分子の量を決めるように、システムを較正してもよい。これは、センサーまたはシステムの内部制御として機能するためには極めて重要である。これにより、同様の、しかし異なる制御システムに依存するよりはむしろ、標的を加える前に検出に使用される同じ分子の事前測定を行うことが可能になる。従って、検出に使用される実際の分子を実験前に定量化することができる。水がない状態、すなわちアセトニトリルなどの有機溶媒中でシステムを動作させることによって、水を排除し、そして実質的に溶媒再配置効果をネゲートする。これによって、電極の表面にある実際の分子数を定量化することができる。それから試料が加えられ、出力信号が決められ、そして結合/非結合分子の率が決められる。これは前の方法よりもはるかに有利である。
【0290】
なお、本発明の組成物の中に見られる、速い電子移動の1つの利点は、時間分解能が、電子電流に基づく、モニターの信号に対するノイズ量を大幅に向上させるということを理解されたい。本発明による速い電子移動により、電子移動の開始と終了の間の高信号と定型化した遅れがもたらされる。電子移動のパルス開始や検出の「ロックイン」増幅によって特定の遅れ信号を増幅させることにより、信号に対するノイズ量の一桁分の改善が達成される。
【0291】
理論に束縛されるものではないが、電極に結合される標的検体は、直列のレジスタとコンデンサと同様の方法で、応答するようである。また、レドックス活性分子のE0は、標的検体結合の結果、シフトすることができる。さらに、電子移動の速度に基づいて溶媒接触可能と溶媒阻止のレドックス活性分子を区別することが可能で、これは、標的検体を検出するために多くの方法で活用することができる。よって、当業者によって理解されるように、本発明では多くの数の開始検出システムを使用することができる。
【0292】
いくつかの実施形態では、電子移動は直流(DC)技術を使って開始することができる。上述の様に、レドックス活性分子のE0は、標的検体結合時の溶媒再配置エネルギーの変化によってシフトすることができる。従って、溶媒接触可能レドックス活性分子のE0と溶媒阻止分子のE0で行われる測定によって、検体の検出を行うことができる。当業者によって理解されるように、電子移動を検出するために多くの適切な方法を使用することができる。
【0293】
いくつかの実施形態では、電子移動は交流電流(AC)法によって開始される。電極と第2電子移動部分との間で電子移動を開始するために、好適には少なくとも1つの試料電極(本発明の錯体を含む)と対極を介して、システムに第1入力電気信号が加えられる。また、参照電極と作用電極に電圧を加えて、3つの電極システムも使用することができる。この実施形態では、第1入力信号は少なくとも1つのAC成分を含んでいる。AC成分は、様々な振幅と周波数を持つ。通常、本方法で使用するためのAC振幅範囲は約1 mVから約1.1 Vであり、好適には約10 mV から約800 mV、特に好適には約10 mVから約500 mVである。AC周波数の範囲は約0.01 Hzから約10 MHzで、好適には約1 Hzから約1 MHz、特に好適には約1 Hzから約100 kHzである。
【0294】
いくつかの実施形態では、第1入力信号はDC成分とAC成分とを含む。つまり、試料と対極の間のDCオフセット電圧は、第2電子移動部分の電気化学ポテンシャルによって掃引される。掃引は、システムの最大応答が見られるDC電圧を識別するために使用される。これは通常レドックス活性分子の電気化学ポテンシャルか、またはそれくらいである。一旦この電圧が決まると、掃引または1つ以上の一定のDCオフセット電圧を使用することができる。好適には、約-1 V から約+1.1 VDCのオフセット電圧で、特に好適には、約-500 mVから約+800 mVで、また特に好適には、約-300 mVから約500 mVである。DC オフセット電圧に加えて、可変振幅と周波数のAC信号成分が加えられる。レドックス活性分子がAC摂動に応答するのに十分に低い溶媒再配置エネルギーを有する場合には、AC電流は電極とレドックス活性分子間の電子移動によって生成される。
【0295】
いくつかの実施形態では、AC振幅は変化する。理論に束縛されるものではないが、振幅が増えると駆動力が増えるようである。よって、より高い振幅は、より高い過電圧となって、電子移動の速度が速くなる。よって通常、同じシステムで、その周波数でより高い過電圧を使用して、任意の1つの周波数で向上された応答を与える。従って、システムの電子移動の速度を上げるために、振幅を高い周波数で上げることができ、結果として感度が上がる。さらに、上述の様に、電子移動に基づいて溶媒接触可能レドックス活性分子と溶媒阻止レドックス活性分子を区別することが可能であり、それにより、周波数または過電圧に基づいてこれらの2つを区別することができる。
【0296】
いくつかの実施形態では、システムの測定は少なくとも2つの別々の振幅または過電圧で行われる。好適には、複数の振幅での測定である。上述の様に、振幅の変化による応答の変化は、システムの識別、較正、定量かの基礎を成す。
【0297】
いくつかの実施形態では、AC周波数は変化する。異なる周波数では、異なる分子が異なる方法で応答する。当業者によって理解されるように、周波数の増加により、出力電流は通常増加する。しかしながら、周波数が電極とレドックス活性分子との間を電子が移動する速度よりも大きい場合には、周波数が大きくなると、出力信号の損失または減少につながる。いくつかの点では、溶媒阻止レドックス活性分子であっても、周波数は電子移動の速度よりも大きく、そして出力信号も下がる。
【0298】
さらに、AC技術の使用によって、共有結合核酸以外の成分、すなわち「ロックアウト」または「フィルタリング」される不要な信号による任意の1つの周波数において、背景信号の減少が可能となる。つまり、溶液中の電荷担体またはレドックス活性分子の周波数応答は拡散係数によって制限される。従って、高い周波数では、電荷担体はその電荷が電極に転移するほど速くは拡散しない、そして/または電荷転移速度(動力学)は十分な速度ではないかもしれない。これは、不活性化層単分子層を利用しない、または部分的または不十分な単分子層を有する、つまり、溶媒が電極に接触可能である実施形態では、特に重要である。上述に概要を示すように、DC技術では、電極が溶媒に接触可能となる「穴」の存在によって、溶媒電荷担体がシステムを「短絡」させてしまうこととなる。しかしながら、現在のAC技術を使って、単分子層の存在にかかわらず、溶液中の1つ以上の電荷担体の周波数応答を防ぐ1つ以上の周波数を選ぶことができる。これは特に重要である、というのも、血液のような多くの生物学的流体は、電流検出方法を妨げる可能性のある大量のレドックス活性分子を含んでいるからである。
【0299】
いくつかの実施形態では、システムの測定は少なくとも2つの別々の周波数で、好適には複数の周波数で行われる。複数の周波数にはスキャンが含まれる。好適な実施形態では、周波数応答は少なくとも2つ、好適には少なくとも約5つ、そしてより好適には少なくとも約10の周波数で決められる。
【0300】
7). 信号処理
【0301】
電子移動を開始するために入力信号を送信した後に、出力信号が受信または検出される。出力信号の存在と大きさは入力信号の過電圧/振幅; 入力AC信号の周波数;介在媒体の組成物、すなわち電子移動部分間のインピーダンス;DCオフセット;システム環境;そして溶媒によって決まる。特定の入力信号では、出力信号の存在と大きさは通常、金属イオンの酸化状態に変化をもたらすために必要な溶媒再配置エネルギーによって決まる。従って、 入力信号の送信時には、AC成分とDCオフセットを含み、溶媒再配置エネルギーが十分に低く、周波数が範囲内で、振幅が十分の時に、電子が電極とレドックス活性分子の間に転移され、出力信号となる。
【0302】
いくつかの実施形態では、出力信号はAC電流を含む。上述の様に、出力電流の強さはパラメータの数によって決まる。これらのパラメータを変えることによって、システムは多くの方法で最適化することができる。
【0303】
通常、本発明ではAC電流は約1フェムトアンペアから約1ミリアンペアであり、好適には約50フェムトアンペアから約100ミクロアンペア、そして特に好適には 約1ピコアンペアから約1ミクロアンペアである。
【0304】
IV. 装置
【0305】
本発明は、AC検出方法を使って検体を検出する装置をさらに提供する。装置は、少なくとも第1測定電極すなわち試料電極と第2測定電極すなわち対極を有するテストチャンバを含む。また、3つの電極システムも使用できる。第1と第2の測定電極は、液体試験試料があると、2つの電極が電気接触するように、試験試料受け入れ領域と接触している。
【0306】
また別の実施形態では、本明細書に示すように、第1測定電極は、スペーサ、好適には導電性オリゴマを介して共有結合するレドックス活性錯体を含む。あるいは、第1測定電極は共有結合レドックス活性分子と結合リガンドを含む。
【0307】
装置はさらにテストチャンバ、つまり測定電極と電気的に接続される電源をさらに含む。好適には、必要な場合に、電源はAC、DC電源を供給することができる。
【0308】
一実施形態では、装置はさらに入力信号と出力信号を比較することのできるプロセッサをさらに含む。プロセッサは電極に連結され、出力信号を受信するように構成され、よって、標的検体の存在を検出する。
【0309】
V. 用途
【0310】
別の態様では、本発明はプロテアーゼまたはキナーゼ阻害剤をスクリーンする方法を提供する。
【0311】
本明細書でいう「阻害剤」とは、標的酵素を阻害することのできる分子を意味する。本明細書でいう「阻害」とは、阻害剤がない場合の活性と比較して、標的酵素の活性を減らすことを意味する。この場合、「阻害」は通常活性の少なくとも5-20-25%の減少であり、いくつかの実施形態では50から75%以上が使用でき、95-98-100% の活性の損失も使用できる。各標的酵素の活性は変わることがあり、より詳細を説明する。
【0312】
A. BoNT阻害剤のスクリーン方法
【0313】
別の態様では、本発明はエンドペプチダーゼ毒素の阻害剤を識別するための検定を提供する。いくつかの実施形態では、検定はペプチダーゼ阻害剤を識別するための検定ベース検定である。米国特許出願公報第 20050136394の全体を本明細書に取り込む。
【0314】
B. キナーゼ阻害剤のスクリーン方法
【0315】
一態様では、本発明はキナーゼ阻害剤をスクリーンするキナーゼ検定を提供する。このような阻害剤は薬品候補として使用することができる。米国特許出願公報第20080113396の全体を、本明細書に取り込む。
【0316】
本発明のさらなる実施形態は、キナーゼ反応の変化のスクリーンのための検定を提供する。変化には、キナーゼ反応の活性化または不活性化が含まれるが、これらに限定されない。このために、キナーゼのポテンシャル活性剤または阻害剤である検体が、キナーゼと一緒に検定に加えられる。検定には、一般的にバッファ、カチオン、NTP、ペプチド基板、そして?、0.05 単位以上の対象のキナーゼが含まれる。
【0317】
ポテンシャル阻害剤または活性剤を反応に加えて、化合物がリン酸化反応を阻害するか活性化するかを判断する。さらに上述のように、ペプチダーゼを反応に加える。ポテンシャル阻害剤または活性剤は、レポーター化合物からの検出可能な出力に変化を作り出すことができる。例えば、ポテンシャル阻害剤が検定に含まれる場合、レポーター化合物からの検出可能なアウトプットの増加は通常、キナーゼの不活性化を示す。この増加はキナーゼの阻害によるものであり、ペプチド基板のリン酸化反応の減少を導くものである。リン酸化ペプチド基板のアミノ酸が少ないと、ペプチダーゼはペプチド基板のより多くの分子を開裂することができ、非阻害キナーゼ反応よりも多くのレポーター化合物が遊離する。逆に、検定にポテンシャルエンハンサーが含まれる場合には、ポテンシャルエンハンサーのない制御反応と比べてレポーター化合物からのアウトプットが減少するとうことは、キナーゼのエンハンスメントを示す。
【0318】
好適な実施形態では、検体と接触する試験試料からの出力は、検体と接触していない制御試料の出力と比較される。好適には、これらの検出出力から、率を計算する。この率はキナーゼによるレポーター化合物リン酸化反応(または反応がない)の基準となる。
【0319】
いくつかの実施形態では、キナーゼ反応はバッファ、金属源すなわち二価カチオン、リン酸ドナーとして作用することのできるヌクレオチド三リン酸 (NTP)、ペプチド基板、そして任意選択で、キナーゼの活性剤を含む。バッファ、カチオン、NTPそしてペプチド基板は、下記に説明するように、調査中のタンパク質キナーゼに基づいて選択される。必要であれば、キナーゼの活性剤も加えることができる。試料が反応に加えられる。
【0320】
試料がタンパク質キナーゼを含んでいれば、タンパク質キナーゼは、ペプチド基板をリン酸化するために、NTPからのリン酸基の転移に触媒作用を及ぼすことができる。キナーゼ反応は酵素が活性化する温度でインキュベートすることができる。好適には、温度は約21°C以上である。また好適には、温度は37°C以下である。イオンのインキュベート時間は好適には5秒以上である。また好適には、イオンのインキュベート時間は1時間以下である。しかしながら、検定条件下で反応時間が転移酵素の活性よりも長くならない限り、インキュベーション時間は1時間以上でもよい。インキュベーション時間は、例えば、インキュベーション温度、調査中のキナーゼの安定性と量、そしてペプチド基板の量によって最適化することができる。反応は瞬間的なので、実行可能になり次第、測定を行うことができる。
【0321】
キナーゼ反応で使用できるバッファには、調査中の酵素に最適な濃度とpHレベルで、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジニン-N'-(2-エタンスルホン酸) (HEPES)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸) (HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸 (MES)が含まれるが、これらに限定されない。好適には、バッファ濃度は10 mM以上である。また好適には、バッファ濃度は100 mM以下である。好適にはキナーゼ反応のpH は7.0以上である。また好適には、pHは9.0以下である。
【0322】
キナーゼ反応に好適な二価カチオンはマグネシウムである。マンガン、カルシウム、ニッケルなどのその他の二価カチオンはマグネシウムの代わりとなる。さらに、これらのその他の二価カチオンはマグネシウムと組み合わせることができる。とりわけ、その他の二価カチオンのいくつかを、キナーゼの最適な活性のために加えることができる。好適には、二価カチオンは1 mM以上の濃度で加える。また、好適には、50 mM以下の濃度でマグネシウムを加える。その他の二価カチオンは、ミクロモルからミリモルの範囲で加えることができる。
【0323】
キナーゼ反応に加えるNTPは、一般にATPまたはGTPである。当該技術分野において周知であるように、キナーゼ反応にどちらのNTPを選ぶかは、検定で使用するキナーゼによる。キナーゼ反応に好適なNPTの濃度は約1 uM以上であり、また、1 mM 以下も好適である、そしてより好適には、100 uMである。
【0324】
例
例1 化合物1の合成
【0325】
概論:合成操作(スキームS1)は全て乾燥アルゴン雰囲気で、他の記載のない限り、標準のシュレンク法を用いて行う。反応媒体としては、溶媒はGlass Contours社 (Laguna Beach、 CA)から入手したDow-Grubbs 溶媒システム1を介して、中性アルミナ上で乾燥する。これらの溶媒は使用前にアルゴンで脱ガスを行う。実験室空気の正圧で、シリカゲル60(粒径: 40-63 μ)(EMD Chemicalls、Gibbstown、NJ)を用いて全てのフラッシュクロマトグラフィーを行う。1H と13C NMRスペクトルをVarian INOVA 500 FT-NMR スペクトロメータ(1H NMRに500 MHz、13C NMRに125 MHz )に記録する。1H NMRデータは次のように記録される:化学シフト{多重度(b = 幅広い、s = 一重線、d = 二重線、t = 三重線、q = 四重線、pt = 非分解二重線からの擬似三重線、m = 多重線)、統合、ピーク同定}。1Hと13Cの化学シフトはテトラメチルシラン(TMS)からのppmダウンフィールドで報告される。マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間(MALDI-TOF)質量検定はPerspective Biosystems Voyager DE-Pro 質量検定計で得られる。元素検定はQuantitative Technologies、 Inc. (Whitehouse、 NJ)によって行われる。X線結晶構造解析はCCD検出器を備えたBruker SMART 1000X解回析装置で行われる。電気化学実験は、CHIモデル660A電気化学検定器(CHI Instruments Inc.)を使って、Ag/AgCl参照ワイヤ、対極として白金ワイヤ(Bioanalytical Systems)、そして作用電極として蒸着金基板を使った3電極系で行う。溶液内の電気化学測定を、新たに洗浄した白金マイクロディスク電極(CHI Instruments)で行う。DH-2000-BAL光源を備えたOcean Optics S200 Dual Channelスペクトロメータを使って吸収スペクトルを収集する。
【0326】
材料:先に記載したように、化合物3と11-アミノウンデカンチオールHClを合成する。2、3クロロホルム-d1 をCambridge Isotope Laboratoriesから購入する。その他の試薬はすべて市販のもので、特に断りのない限りさらには洗浄せずに使用する。TLC(アルミニウム裏付けシリカゲルシート60 F254;EMD Chemicalls,Inc.、Gibbstown、NJ)によって反応をモニターし、斑点を紫外線露出時の蛍光焼入れによって視覚化するする。電気化学測定に関しては、脱イオン水を、逆浸透脱イオンシステムと紫外線殺菌灯とを備えたAqua Solutionsシステムを通した後で、18.0 MΩ cmの抵抗を持つ最終生成物に使用する。
【0327】
スキームS1: 化合物 1の合成
【化17】
【0328】
反応条件:(a) PPh3/NH4OH;(b)DCC、HOBt、11-メルカプトウンデカン酸;(c)アルドリチオール(AldrithiolTM-2)、TEA;(d)11-アミノウンデカンチオールHCl、DMAP;(e)3-マレイミド安息香酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、TEA。
【0329】
フェロセンメチルアミン(4):化合物 3 (0.226 g、0.940 mmol)をTHF(4 mL)で溶解し、水浴内で4°Cに冷却する。リチウムアルミニウム水素化物 (0.053 mg、1.40 mmol)を固形物としてゆっくりと追加し、反応物質を4°Cで1時間攪拌し、さらに2時間常温まで暖める。反応物質を水浴で冷却し、飽和Na2SO4 (aq)(5 mL)で焼き入れる。10分後、混合物をNaOH(aq)(0.1 M、100 mL)に注ぎ入れ、DCM (3 x 50 mL)で抽出する。有機相をNa2SO4で乾燥し、濾過し、オレンジ色の固形物(0.177 g、0.820 mmol、87%)になるまで濃縮する。1H NMRは4の構造と一致している。
【0330】
11-メルカプトウンデカン酸フェロセニルメチル-アミド(5)。化合物4(0.175g、0.81mmol)、N、N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.169g、0.82mmol)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.126g、0.82mmol)と11-メルカプトウンデカン酸(0.179 g、0.82mmol)を脱ガスしたアセトン(12 mL)に一体化する。溶液はArの雰囲気で18時間、常温で攪拌される。反応混合物は真空濃縮され、ジクロロメタン(100 mL)で溶解される。水(3 x 50 mL)で洗浄後、有機相をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、そして粗い残留物に濃縮し、これをシリカゲル(2:3、EtOAc:ヘキサン)のカラムクロマトグラフィーで浄化し、淡いオレンジの固形物(0.288g、0.69mmol、85%)の純粋な生成物を生成する。1H NMR (CDCl3): δ1.25-1.38(m、13H、(CH2)6 + SH)、 1.57-1.66 (m、 4H、 COCH2CH2 + CH2CH2SH) 2.17 (t、 JH-H = 7.8 Hz、 2H、 COCH2)、 2.51 (擬似 dt、 JH-H = 7.3 Hz、 7.4 Hz、 2H、 CH2SH)、 4.13-4.15 (m、 4H、 NHCH2 + フェロセン-H)、 4.16 (bs、 5H、 フェロセン-H)、 4.18 (pt、 2H、 フェロセン-H)、 5.56 (bs、 1H、 NH)。 13C{1H} NMR (CDCl3): δ 24.9、 26.0、 28.6、 29.2、 29.5、 29.5、 29.6、 29.6、 34.2、 37.0、 39.0、 68.4、 68.5、 68.8、 85.0、 172.6.
【0331】
11-(ピリジン-2-イルジスルファニル)-ウンデカン酸フェロセニルメチル-アミド(6)。化合物5(0.288 g、 0.69 mmol)をメタノール(8 mL)とジクロロメタン(2 mL)で溶解する。アルドリチオールTM-2 (0.304 g、 1.38 mmol)、続いてトリエチルアミン(0.192 mL、 1.38 mmol)を加え、Ar雰囲気の常温で15時間攪拌する。真空で溶媒を取り出し、粗い残留物をシリカゲル(2:3、 EtOAc:ヘキサン)上のカラムクロマトグラフィーで浄化し、オレンジの油(0.316 g、 0.60 mmol、 87%)としての純粋な生成物を生成する。1H NMR (CDCl3): δ 1.25-1.39 (m、 12H、 (CH2)6)、 1.60-1.71 (m、 4H、 COCH2CH2 + CH2CH2SS)、 2.16 (t、 JH-H = 7.8 Hz、 2H、 COCH2)、 2.79 (t、 JH-H = 7.4 Hz、 CH2CH2SS)、 4.13-4.15 (m、 4H、 NHCH2 + フェロセン-H)、 4.16 (bs、 5H、 フェロセン-H)、 4.18 (pt、 2H、 フェロセン-H)、 5.59 (bs、 1H、 NH)、 7.63-7.66 (m、 1H、 ピリジル-H)、 7.06-7.09 (m、 1H、 ピリジル-H)、 7.73 (d、 1H、 JH-H = 8.1 Hz、 ピリジル-H)、 8.45 (d、 1H、 JH-H = 4.8 Hz、 ピリジル-H). 13C{1H} NMR (CDCl3): δ 26.0、 28.6、 29.1、 29.3、 29.5、 29.5、 29.5、 29.6、 37.0、 39.0、 39.2、 68.4、 68.5、 68.8、 85.0、 119.7、 120.7、 137.1、 149.8、 160.9、 172.6。
【0332】
11-(11-アミノ-ウンデスイルジスルファニル)-ウンデカン酸フェロセニルメチル-アミド(7)。化合物6(0.060 g、 0.11 mmol)、11-アミノウンデカンチオールHCl (0.032 g、 0.13 mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(0.030 g、 0.24 mmol)をAr雰囲気の常温で5時間、THF(4 mL)とDMF(1 mL)に混ぜ合わせる。真空で溶媒を取り出し、粗い残留物をシリカゲル (0.3: 0.7: 9、 TEAMeOH:DCM)上のカラムクロマトグラフィーによって浄化し、純粋な淡い黄色の固形物(0.065 g、 0.10 mmol、 91%)として純粋な生成物を生成する。ESI-MS (MeOH) m/z: 617.77 (M+H)+。1H NMR は7の構造に一致する。
【0333】
3-マレイミド-N-{11-[10-(フェロセニルメチル-カルバモイル)-デシルジスルファニル]-ウンデシル}-ベンズアミド (1): 化合物7 (0.024 g、 0.039 mmol)と3-マレイミド安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(0.024 g、 0.078 mmol)をN、N-dジメチルアセトアミド(3 mL)内で混ぜる。トリエチルアミン (0.100 mL)を加えて、Arの雰囲気、常温で4時間攪拌するように設定する。真空で溶媒を取り除き、粗い残留物をジクロロメタン(100 mL)で溶解し、H2O (3 x 50 mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、そして濃縮する。粗い残留物をシリカゲル(0.1:0.9:9、MeOH:EtOAc:DCM)上のカラムクロマトグラフィーによって浄化し、オレンジの固形物(0.028 g、0.034 mmol、87%)としての純粋な生成物を生成する。1H NMRは1の構造に一致する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験試料の中の標的酵素を検出する方法であって、前記方法は:
(a)標的酵素を含む試験試料を電極を含む固体支持体に追加するステップであって、該電極は:
(i)自己組織化単分子層(SAM)と、
(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、
(iii)前記電極に付着する複数の前記酵素の基板とを含み、
(b)前記標的酵素と前記基板を接触して複数の反応物質を形成するステップと、
(c)前記E0の変化を測定することによって、前記酵素の存在を判断するステップとを含む。
【請求項2】
前記酵素はプロテアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵素はキナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記EAMは少なくとも1つのシアノリガンドを含む、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロテアーゼはエンドペプチダーゼ神経毒である、請求項1、2または4に記載の方法。
【請求項6】
前記エンドペプチダーゼ神経毒はボツリヌス菌A、BまたはEから成る基から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記EAMと前記基板は前記電極に別々に付着する、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記固体支持体は電極の配列を含む、請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記遷移金属は、鉄、ルテニウム、オスミウムから成る基から選択される、請求項1から8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
試験試料の中のプロアテーゼを検出する方法であって、前記方法は:
(a)プロアテーゼを含む試験試料を、電極を含む固体支持体に追加するステップであって、前記電極は:
(i)自己組織化単分子層(SAM)と、
(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、
(iii)前記電極に付着する、前記プロテアーゼの開裂部位を含む複数のタンパク質とを含み、
(b)複数の前記タンパク質を前記プロテアーゼで開裂するステップと、
(c)前記E0の変化を測定することによって、前記プロテアーゼの存在を判断するステップとを含む。
【請求項11】
試験試料の中のキナーゼを検出する方法であって、前記方法は:
(a)キナーゼを含む試験試料を電極を含む固体支持体に追加するステップであって、前記電極は:
(i)自己組織化単分子層(SAM)と、
(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、
(iii)前記電極に付着する、前記キナーゼの第1基板である複数のタンパク質とを含み、
(b)前記タンパク質を前記キナーゼと第2キナーゼ基板でリン酸化して、前記第2キナーゼ基板を前記タンパク質に共有結合させるステップと、
(c)前記E0の変化を測定して、前記キナーゼの存在を判断するステップとを含む。
【請求項1】
試験試料の中の標的酵素を検出する方法であって、前記方法は:
(a)標的酵素を含む試験試料を電極を含む固体支持体に追加するステップであって、該電極は:
(i)自己組織化単分子層(SAM)と、
(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、
(iii)前記電極に付着する複数の前記酵素の基板とを含み、
(b)前記標的酵素と前記基板を接触して複数の反応物質を形成するステップと、
(c)前記E0の変化を測定することによって、前記酵素の存在を判断するステップとを含む。
【請求項2】
前記酵素はプロテアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵素はキナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記EAMは少なくとも1つのシアノリガンドを含む、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロテアーゼはエンドペプチダーゼ神経毒である、請求項1、2または4に記載の方法。
【請求項6】
前記エンドペプチダーゼ神経毒はボツリヌス菌A、BまたはEから成る基から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記EAMと前記基板は前記電極に別々に付着する、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記固体支持体は電極の配列を含む、請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記遷移金属は、鉄、ルテニウム、オスミウムから成る基から選択される、請求項1から8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
試験試料の中のプロアテーゼを検出する方法であって、前記方法は:
(a)プロアテーゼを含む試験試料を、電極を含む固体支持体に追加するステップであって、前記電極は:
(i)自己組織化単分子層(SAM)と、
(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、
(iii)前記電極に付着する、前記プロテアーゼの開裂部位を含む複数のタンパク質とを含み、
(b)複数の前記タンパク質を前記プロテアーゼで開裂するステップと、
(c)前記E0の変化を測定することによって、前記プロテアーゼの存在を判断するステップとを含む。
【請求項11】
試験試料の中のキナーゼを検出する方法であって、前記方法は:
(a)キナーゼを含む試験試料を電極を含む固体支持体に追加するステップであって、前記電極は:
(i)自己組織化単分子層(SAM)と、
(ii)E0を有する遷移金属錯体を含む共有結合電気活性部分(EAM)と、
(iii)前記電極に付着する、前記キナーゼの第1基板である複数のタンパク質とを含み、
(b)前記タンパク質を前記キナーゼと第2キナーゼ基板でリン酸化して、前記第2キナーゼ基板を前記タンパク質に共有結合させるステップと、
(c)前記E0の変化を測定して、前記キナーゼの存在を判断するステップとを含む。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【公表番号】特表2011−502245(P2011−502245A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530156(P2010−530156)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/080363
【国際公開番号】WO2009/052422
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(510108607)オームクス コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/080363
【国際公開番号】WO2009/052422
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(510108607)オームクス コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】
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