説明

酵素活用調理法および酵素活用調理器

【課題】既製の酵素を添加せずに食品に内在する酵素を活用して、酵素反応工程後に加熱調理を行うことで通常の調理法よりも栄養成分と旨み成分の増加を図ることを目的とする。
【解決手段】鍋4と、加熱手段3と、温度検知手段6と、制御手段8を備え、鍋底および鍋内を酵素活性温度帯で一定時間保持する酵素反応工程を経てから加熱工程を行うように加熱手段3を制御することで、通常調理法よりも栄養成分と旨み成分が増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に含まれる内在酵素を活用して新たに栄養成分を付加させる調理法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素を活用して食品を加工する方法として、植物食品素材の内部に酵素を急速に導入し、食品の軟化や食味を改質するものが提案されている。
【0003】
この方法では植物食品素材を凍結解凍後、酵素を溶解した酵素液に浸漬して減圧下に放置することで食品内部の空隙に存在する空気と酵素を急速に置き換える。
【0004】
食品内部に導入する酵素がペクチナーゼであれば、植物食品素材は細胞壁成分が分解されて軟化される。また、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を導入すれば、ジャガイモなどのデンプン系の食品では中心部のグルコース量が増加して食品素材の改変が可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−284522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の酵素を活用して食品を加工する方法では、食品の改質の程度は酵素の添加量に左右されることから、入れすぎると作用が大きくなって食することができない事態を招く可能性があった。
【0006】
また、市販されている酵素は工業的に精製されたもので大容量のものが多く、一般家庭で調味料を購入するのとは異なり、一般消費者にとっては入手が困難で扱いづらいものであった。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を改善するもので一般家庭の調理において特別に酵素を添加することなく、食品に内在する酵素を活性化させて栄養成分や旨みを増加させる調理法とその調理法を実現し得る調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、本発明の酵素活用調理法は、植物性食品に内在する酵素の活性温度帯で一定時間保持する酵素反応工程と、酵素反応工程の後に前記酵素の活性温度帯よりも高温で加熱する加熱工程からなり、食品の内在酵素が活性する温度に保持してから加熱調理するものである。
【0009】
食品の内在酵素の酵素反応を利用するので、既製の酵素を添加する必要がなく、栄養成分や旨みを増加させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酵素活用調理法は、食品の内在酵素を活性温度で一定時間保持してから加熱調理を行うので、精製された既製の酵素を新たに添加することなく、食品の栄養成分や旨みを増加できる調理法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明は、植物性食品に内在する酵素の活性温度帯で一定時間保持する酵素活性工
程と、前記酵素反応工程の後に前記酵素の活性温度帯よりも高温で加熱する加熱工程からなる酵素活用調理法であり、食品の内在酵素を活性化することで栄養成分や旨み成分を増加させることができる。
【0012】
第2の発明は、前記第1の発明において、グルタミン酸脱炭酸酵素を含む植物性食品とグルタミン酸あるいはグルタミン酸ナトリウムを含む食品を組み合わせて酵素反応工程と加熱工程を行うもので、酵素反応工程でグルタミン酸が脱炭酸反応されてGABA(γ−アミノ酪酸)が生成され、栄養成分を増加させることができる。
【0013】
第3の発明は、前記第1の発明において、プロテアーゼを含む植物性食品とタンパク質を含む食品を組み合わせて酵素反応工程と加熱工程を行うもので、酵素反応工程でタンパク質が分解されてアミノ酸が生成され、旨み成分を増加させることができる。
【0014】
第4の発明は、前記第1〜3いずれか一つの酵素活用調理法を調理器に応用したものである。
【0015】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施の形態が本発明を限定するものではない。
【0016】
(実施の形態1)
図1,2において、本体1の上面に天板2が配設してある。前記天板2の下方に加熱手段となる加熱コイル3が位置し、電源スイッチ(図示なし)を動作させると、前記天板2上に載せた鍋4自体が発熱体となって鍋4内の食品5が加熱される。
【0017】
また、天板2の下方には温度検知手段6が備えられており、前記鍋4の温度が検知される。
【0018】
前記鍋4は蓋7で覆われている。前記温度検知手段6は前記鍋4の底面の温度を検知してその検知信号を制御手段8に送る。制御手段8では、酵素反応工程、加熱工程の順で加熱コイル3を制御する。
【0019】
まず、酵素反応工程では食品の内在酵素が活性化する温度に前記鍋底を一定時間保持し、次の加熱工程で酵素反応工程よりも高温で加熱を行う。
【0020】
酵素反応工程での食品の組み合わせには次のようなものがある。
【0021】
一つは、グルタミン酸脱炭酸酵素を含む食品とグルタミン酸あるいはグルタミン酸ナトリウムを含む食品の組み合わせである。
【0022】
グルタミン酸脱炭酸酵素を含む植物性食品にはカボチャ、トマト、人参、白菜、ジャガイモ、タマネギ、キャベツ、コマツナ、ホウレンソウなどがある。
【0023】
一方、グルタミン酸およびグルタミン酸ナトリウムを含む食品は主に調味料であるが、醤油、味噌、固形スープの素(チキンやビーフのエキス成分)、だしの素(カツオおよびコンブのエキス成分)などがある。
【0024】
実際にグルタミン酸脱炭酸酵素を含むカボチャとグルタミン酸を含む固形スープの素を組み合わせた時の反応温度と保持時間によるGABA生成量を調べた結果を図3に示す。
【0025】
GABAの生成量は50℃になると30℃や40℃で保持したときより劣るが生のとき
よりも増加した。
【0026】
また、保持時間は60分まではGABAの生成量が増加するが、60以上では微増となった。
【0027】
よって、この場合は40℃で30分保持することで生のときよりもGABAが2倍に増加させることができる。
【0028】
食品の種類や量を考慮すると、酵素反応工程で保持する温度は60℃以下で時間は2時間を上限とするのが望ましい。
【0029】
酵素活用調理法でのもう一つの食品の組み合わせには、プロテアーゼを含むショウガやキウイあるいはプロテアーゼの一種エンドぺプチターゼを含むマイタケなどのキノコ類とタンパク質を含む肉、魚、豆の組み合わせがある。
【0030】
これらの組み合わせの場合、酵素反応工程で保持する温度は40〜50℃が好ましく、耐熱性酵素を含むマイタケなどでは80℃でもよい。保持する時間については菌繁殖などの衛生面と食味を考慮すると、4時間を上限とするのが望ましい。
【0031】
以上のように食品を組み合わせて酵素反応工程、加熱工程からなる調理プログラムを備えた調理器を使用して酵素活用調理法を行った例について説明する。
【0032】
(実施例1)
10mm角の角切りにしたカボチャ、人参、玉ねぎ、トマト、ベーコンと、水、固形スープの素を一緒に入れた鍋4を天板2に載せる。メニューボタン9でGABAコースを選択すると、酵素反応工程がスタートし加熱コイル3が通電されて鍋底温度が45℃になるように制御手段8によって制御される。
【0033】
鍋底の温度が45℃に達したことを温度検知手段6で検知すると、鍋底温度45℃のままの状態で例えば30分間保持される。
【0034】
この間、鍋4内の水には角切りに切られたカボチャや人参、玉ねぎの細胞内から溶出したグルタミン酸脱炭酸酵素と固形スープから溶解したグルタミン酸が会合して、酵素反応によってグルタミン酸からGABAが生成される。
【0035】
所定の保持時間が経過したことを制御手段8で検知後、加熱工程に移行して鍋底が100℃に到達するように加熱コイル3が通電される。
【0036】
鍋底温度が100℃に到達したことを温度検知手段6で検知して例えば20分間、鍋底が100℃で保持されるように加熱コイル3の通電量が制御される。所定時間の経過後、加熱コイル3の通電がOFFされて調理終了となる。
【0037】
このように、既製の酵素を添加しないでも食品を組み合わせて酵素反応工程を設けることによって、通常の調理よりも機能性成分であるGABAを増加させ、栄養成分が付加したスープを作ることができる。
【0038】
ちなみに、GABAは生体においては神経伝達物質という生命活動に重要な役割を果たす成分であり、また、血圧上昇抑制効果もあるといわれる機能性成分の一つである。
【0039】
(実施例2)
小房に分けたマイタケと角切りの牛肉、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、水、固形スープの素を一緒に入れた鍋4を天板2に載せる。
【0040】
メニューボタン9で旨みコースを選択すると、酵素反応工程がスタートして加熱コイル3が通電されて鍋底温度が50℃になるように制御される。
【0041】
鍋底の温度が50℃に達したことを温度検知手段6で検知すると、鍋底温度が50℃のままで30分間保持される。この間に鍋内の食品材料も50℃で保持されるので、マイタケから溶出したエンドぺプチターゼが活性化して肉のタンパク質が分解される。
【0042】
また、肉自体に内在しているカテプシンやカルパインなどのプロテアーゼが活性化して肉の筋肉タンパクを分解する。
【0043】
その結果、肉質は軟化し、タンパク質が分解することで旨み成分のアミノ酸が生成され、肉に旨みが生じる。
【0044】
さらに、ジャガイモ、人参の細胞内から溶出したグルタミン酸脱炭酸酵素と水に溶解した固形スープの成分であるグルタミン酸が会合して、同じく酵素反応によってグルタミン酸からGABAも生成される。
【0045】
酵素反応工程の所定の保持時間が経過したことを制御手段8で検知後、加熱工程に移行して鍋底が100℃に到達するように加熱コイル3が通電される。
【0046】
鍋底温度が100℃に到達したことを温度検知手段6で検知した後、制御手段8によって加熱コイル3の通電量を制御して鍋底100℃のままで例えば30分保持される。
【0047】
所定時間が経過し加熱コイル3の通電がOFFされて調理終了となる。その後、ブラウンソースのルーを溶かしいれて温めれば、アミノ酸とGABAが付加された旨みが強く栄養価の高いビーフシチューが出来上がる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる酵素活用調理法は、酵素を内在する食品と前記酵素の作用を受ける成分を有する食品を組み合わせて、酵素活性温度帯で一定時間保持し、その後加熱を行う調理法によって、既製の酵素を新たに添加することなく、調理メニューの機能性成分や旨みを増加させることができる。
【0049】
また、このような調理プログラムを調理器に装備させることで家庭用の調理器として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1を示す調理器の構成概略図
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す調理工程と鍋底の温度曲線図
【図3】反応温度と保持時間によるGABA生成量のグラフ
【符号の説明】
【0051】
1 本体
2 天板
3 加熱手段(加熱コイル)
4 鍋
5 食品
6 温度検知手段
7 蓋
8 制御手段
9 メニューボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性食品に内在する酵素の活性温度帯で一定時間保持する酵素反応工程の後に、前記酵素の活性温度帯よりも高温で加熱する加熱工程を有する酵素活用調理法。
【請求項2】
グルタミン酸脱炭酸酵素を含む植物性食品とグルタミン酸あるいはグルタミン酸ナトリウムを含む食品を組み合わせたことを特徴とする請求項1記載の酵素活用調理法。
【請求項3】
プロテアーゼを含む植物性食品とタンパク質を含む食品を組み合わせたことを特徴とする請求項1記載の酵素活用調理法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の酵素活用調理法で調理を行うようにした酵素活用調理器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate