説明

酵素糖化を促進させるためのバイオマスの有機溶剤前処理

バイオマスは、アルカリ条件下で、1種以上のアルキルアミンおよび任意により1種以上の追加の求核剤の存在下で、有機溶剤溶液を用いて前処理されて、リグニンが断片化および抽出される。前処理済バイオマスは、糖化酵素共同体でさらに加水分解される。糖化によって遊離された発酵可能な糖質は、発酵による目標化学薬品の生成に利用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年12月19日に出願された米国仮特許出願第61/139147号明細書の利益を主張し、その開示は、全体が参照により援用される。
【0002】
容易に糖化可能な炭水化物富化リグノセルロースバイオマスを生成するための方法が提供されている。具体的には、前処理済バイオマスが、高温、アルカリ条件下に、1種以上のアルキルアミンおよび種々の求核試薬の存在下での、有機溶剤溶液中のリグニンの同時断片化および選択的抽出を通して調製される。次いで、前処理済バイオマス中に残留している炭水化物富化固形分が酵素糖化に供されて発酵可能な糖質が得られ得、これが、目標生成物の生成のためのさらなる加工に供され得る。
【背景技術】
【0003】
農業残渣、木材、林業廃棄物、製紙由来のスラッジ、ならびに、都市および産業固体廃棄物などのセルロース系およびリグノセルロース系供給原料および廃棄物は、化学薬品、プラスチック、燃料および飼料の製造のための潜在的に大きな再生可能原材料を提供する。セルロース、ヘミセルロース、ペクチンおよびリグニンから構成されるセルロースおよびリグノセルロース系供給原料および廃棄物は、一般に、多様な化学的、機械的および酵素的手段により処理されて第1級ヘキソースおよびペントース糖質が遊離され、次いで、これが、有用な生成物に発酵されることが可能である。
【0004】
度々、リグノセルロースバイオマスの多糖類を、セルロース分解酵素に対してより容易にアクセス可能とするために、前処理方法が用いられる。セルロース分解酵素消化に対する主な障害の一つは、酵素の基質に対するアクセスを制限するバリアおよび酵素が非生産的に結合する表面である、リグニンの存在である。酵素糖化に関連する相当のコストのために、酵素吸着に対するリグニンの非働化、または、その完全な抽出により、酵素の使用量を最低限とすることが望ましい。他の課題は、ヘミセルロースおよびリグニンによる保護または結晶化度による保護による、酵素加水分解に対するセルロースの難アクセス性である。これらの課題の解決を試みる前処理方法としては:水蒸気爆発、熱水、希酸、アンモニア繊維爆発、アルカリ加水分解(アンモニア再利用パーコレーションを含む)、酸化脱リグニン化およびオルガノソルブが挙げられる。
【0005】
リグノセルロースバイオマスの処理に既に実施されている、パルプの製造用またはバイオ燃料用途のためのオルガノソルブ法は、一般にリグニンの除去は良好である一方、特にキシロースといった糖質の回収率が低い。例えば、わずかに酸性のエタノール−水混合物(例えば、EtOH 42重量%)を用いた高温でのリグノセルロースバイオマスからのリグニンの除去(非特許文献1)では、炭水化物の相当量の損失が生じてしまう。95℃での希酸加水分解、これに続く、有機溶剤抽出および酵素糖化(非特許文献2)は、加水分解の最中にヘミセルロースの相当量の損失が生じ、有機溶剤抽出では追加で炭水化物の損失が生じてしまい、残渣の酵素糖化での収率は低い(総炭水化物の約50%)。アンモニアを含有する水性有機溶剤を高温で使用するリグノセルロースバイオマスの処理(非特許文献3)では、高い液体:固形分比を前処理において用いる必要があり、結果的に、ヘミセルロースの相当量の損失が生じると共に、セルロースの酵素糖化に劣ってしまう。気体状の水およびメチルアミンでのバイオマスの処理、これに続く、有機溶剤での抽出、および、次いで、水での抽出は、3つのステップを必要とし、炭水化物の相当量の損失が生じる(非特許文献4)。高温での水−脂肪族アルコール混合物と触媒との中でのポリアミンまたはエチルアミンでの処理では、高い液体/固形分比および低濃度のアルコールが必要とされ、特にキシランといった糖質の回収率が低くなってしまう(特許文献1)。水性アルカリ溶液中のチオグリコレートを用いた高温でのリグノセルロースバイオマスの処理、これに続く、熱水での洗浄では、アルカリ−金属水酸化物またはアルカリ土類水酸化物の使用が必要とされる。この方法では、無機イオンのコストのかかる廃棄、高重量%のチオグリコレート、および、大量の水の使用が必要とされる(特許文献2)。硫化物/ビ硫化物の存在下での高温での有機溶剤−水混合物での処理では高い溶剤/固形分比および高い硫黄含有量が必要とされ、炭水化物が相当量で損失される(特許文献3)。
【0006】
既に適用されている方法の追加の欠点としては、個別のヘキソースおよびペントース流(例えば希酸)、特にリグニン含有量が高い供給原料(例えば、サトウキビバガス、軟材)における不十分なリグニン抽出または抽出されたリグニンの多糖からの分離不足、廃棄生成物(例えば、酸または塩基の中和で形成される塩)の廃棄、ならびに、洗浄ステップにおける分解または損失による炭水化物の低い回収率が挙げられる。他の問題としては、エネルギーの高いコスト、設備投資、および、前処理触媒回収率、および、糖化酵素との非適合性が挙げられる。
【0007】
バイオマス前処理の主な課題の一つは、低コストで効率的なプロセスを通じて、炭水化物の損失(セルロース+ヘミセルロース)を最小限としつつ、リグニンの抽出または化学的中和(セルロース分解酵素の非生産的な結合に関して)を最大化することである。選択性が高いほど、前処理および酵素糖化の組み合わせに続く単糖の全収率が高い。
【0008】
本開示においては、1種以上のアルキルアミンおよび任意により種々の求核試薬と組み合わされる、高温、アルカリ条件下でのリグニンのオルガノソルブ媒介断片化および選択的抽出が経済的なプロセスで用いられて、高度に酵素糖化されやすく、目標生成物(例えば、付加価値化学薬品および燃料)への生物変換のための発酵可能な糖質(グルコース、ならびに、キシロース)をきわめて高い収率でもたらす炭水化物富化バイオマスが生成される。驚くべきことに、本開示におけるアルキルアミンの使用は、顕著に向上したリグニンの断片化および抽出、ならびに、高い炭水化物の保存をもたらした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,597,830A号明細書
【特許文献2】米国特許第3,490,993号明細書
【特許文献3】米国特許第4,329,200号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kleinert,T.N.,Tappi,57:99〜102ページ,1974年
【非特許文献2】Lee,Y−H.ら,Biotech.Bioeng.,29:572〜581ページ,1987年
【非特許文献3】Park J.−K.およびPhillips,J.A.,Chem.Eng.Comm.65:187〜205ページ,1988年
【非特許文献4】Siegfried,P.およびGoetz,R.,Chem.Eng.Technol.,15:213〜217ページ,1992年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生成する方法、および、炭水化物を略量的に保存しつつ、リグニンをリグノセルロースバイオマスから選択的に抽出する方法を提供する。本方法は、単一ステップにおいて、リグノセルロースバイオマスを、高温、アルカリ条件下に、オルガノソルブなどの有機溶剤溶液および1種以上のアルキルアミンで処理するステップを含む。一定の実施形態において、溶剤溶液は、アンモニア、チオールおよび硫化物などの追加の求核性成分をさらに含む。前処理に続いて、バイオマスを糖化酵素共同体でさらに処理して発酵可能な糖質を生成し得る。これらの糖質は、目標生成物の生成のためにさらなる加工に供され得る。
【0012】
従って、本発明は:
(a)リグニンを含むリグノセルロースバイオマスを提供するステップ;
(b)アルカリ条件下で水および1種以上のアルキルアミンを含む有機溶剤溶液に(a)のバイオマスを懸濁させることにより、バイオマス−溶剤懸濁液を形成するステップ;
(c)バイオマス−溶剤懸濁液を約100℃〜約220℃の温度に約5分間〜約5時間加熱することにより、リグニンを断片化させて、懸濁液中に溶解させるステップ;ならびに
(d)自由液体をろ過することにより、溶解リグニンを除去して炭水化物富化バイオマスを生成するステップ
を含む炭水化物富化バイオマスを生成する方法を提供する。
【0013】
特に、R−NH、R−NH、RN、(HN−R−NH)、(HN−R(NH)、(HO−R−NH)、((HO)−R−NH)、(HO−R−(NH)、(HS−R−NH)、((HS)−R−NH)、(HS−R−(NH)および(HN−R(OH)(SH)、ならびに、これらの組み合わせからなる群から選択されるアルキルアミンが好適であり、ここで、Rは、独立して、一価、二価または三価の1〜6個の炭素を有する、直鎖、環式または分岐アルカン、アルケンまたはアルキンである。
【0014】
特に好適な本発明の方法に用いられる供給原料としては、これらに限定されないが、スイッチグラス、古紙、製紙由来のスラッジ、トウモロコシ繊維、コーン穂軸、コーン包葉、コーン葉茎、草、コムギ、コムギわら、干草、オオムギ、オオムギわら、稲わら、サトウキビバガス、サトウキビわら、ユリノキ、モロコシ、大豆、穀粒の加工から得られる構成要素、高木、枝、根、葉、木片、おがくず、低木および潅木、野菜、果実、花、動物堆肥、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
他の実施形態において、本発明は、実質的にリグニンを含まないバイオマスを生成するためのリグノセルロースバイオマスからリグニンを同時に断片化および選択的抽出する方法を提供し、この方法は:
(a):
1)一定量のリグノセルロースバイオマス;
2)水中に約40%〜約70%のエタノールを含む多成分溶剤溶液;ならびに
3)アルカリ条件下の1種以上のアルキルアミン
を提供するステップ;
(b)前記バイオマスを(a)の多成分溶剤溶液と接触させて溶剤−バイオマス混合物を形成するステップ;
(c)溶剤−バイオマス混合物を密閉圧力容器中に入れて、(b)の混合物を約100℃〜約220℃の温度で約5〜約5時間加熱することにより、リグニンを溶剤中に断片化および溶解させるステップ;ならびに
(d)(c)などの溶解リグニンをろ過により除去するステップ、および
(e)残存バイオマスを有機溶剤で洗浄することにより実質的にリグニンを含まないバイオマスを生成するステップ
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】グルコース単糖は、HO中の70%EtOH(v/v)および14%メチルアミン(w/wバイオマス)における、2%チオグリコレート(w/wバイオマス)を伴うかまたは伴わない187℃で1時間の前処理に続く、1%ツイン20(w/v)の存在下および不在下における酵素糖化の時間経過を示す。
【図1B】キシロース単糖は、HO中の70%EtOH(v/v)および14%メチルアミン(w/wバイオマス)における、2%チオグリコレート(w/wバイオマス)を伴うかまたは伴わない187℃で1時間の前処理に続く、1%ツイン20(w/v)の存在下および不在下における酵素糖化の時間経過を示す。
【図2A】HO中の70%EtOH(v/v)+14%メチルアミン(w/wバイオマス)、および、HO中の70%EtOH(v/v)と14%メチルアミン(w/wバイオマス)+2%チオグリコール酸(w/wバイオマス)、および、HO中の70%EtOH(v/v)+14%エチルアミン(w/wバイオマス)、および、HO中の70%EtOH(v/v)と14%エチルアミン(w/wバイオマス)+2%チオグリコール酸(w/wバイオマス)における、187℃で1時間の前処理後の、濾液(HO中の70%EtOH(v/v)で1:5000に希釈)のUV吸光スペクトルを示す。
【図2B】HO中の70%EtOH(v/v)+14%メチルアミン(w/wバイオマス)、および、HO中の70%EtOH(v/v)と14%メチルアミン(w/wバイオマス)+2%グリコール酸(w/wバイオマス)、または、2%グリシン(w/wバイオマス)における187℃での前処理後の、濾液(HO中の70%EtOH(v/v)で1:5000に希釈)のUV吸光スペクトルを示す。
【図3A】2%もしくは6%(NHS(w/wバイオマス)が伴うかまたは伴わない、HO中の70%EtOH(v/v)+14%メチルアミン(w/wバイオマス)における187℃で1時間の前処理後の、濾液(HO中の70%EtOH(v/v)で1:5000に希釈)のUV吸光スペクトルを示す。
【図3B】2%元素硫黄(w/wバイオマス)が伴うまたは伴わない、HO中の70%EtOH(v/v)+14%メチルアミン(w/wバイオマス)における187℃で1時間の前処理後の濾液(HO中の70%EtOH(v/v)で1:5000に希釈)のUV吸光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
出願人らは、本開示において引用されているすべての文献の全内容を特定的に援用する。そうではないとの記載がない限り、すべての割合、部、比率等は重量当たりである。商標は大文字で表記されている。さらに、量、濃度、または他の値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または、好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として記載されている場合、これは、範囲が別に開示されていない限りにおいて、任意の範囲上限または好ましい値と任意の範囲下限または好ましい値との任意の対から形成されるすべての範囲を特定的に開示していると理解されるべきである。本明細書において数値の範囲が言及されている場合、他に明記されていない限りにおいて、この範囲は、範囲内の両端点、ならびに、すべての整数および少数を含むことが意図されている。本発明の範囲が、範囲の定義の際に言及されている特定の値に限定されることは意図されていない。
【0018】
本発明は、糖化により容易に発酵可能な糖質を得ることが可能であるよう、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生成してその後の酵素糖化ステップを促進させるために、バイオマスを処理するためのプロセスを提供する。
【0019】
高温、アルカリ条件下で、1種以上のアルキルアミンの存在下で有機溶剤を用いてリグニンが同時に断片化および抽出される前処理ステップを含むプロセスが採用される。追加の求核試薬がさらなる有益性のために採用され得る。次いで、処理されたバイオマスは、ろ過および洗浄されて、可溶化されたリグニン、酢酸、アセトアミド、アルキルアミドおよび過剰量の試薬が除去され、次いで、糖化酵素共同体で消化されて容易に発酵可能な糖質が生成される。この糖質は、次いで、1種以上の目標生成物にさらに加工されてもよい。除去されたリグニンもまた、効率を高めるために、他の目的(エネルギーのための燃焼など)のためにさらに加工および利用され得る。
【0020】
定義
以下の定義が本開示において用いられている。
温度に関して用いられる場合、「室温」および「周囲」とは、約15℃〜約25℃の任意の温度を指す。
【0021】
「発酵可能な糖質」とは、目標生成物を生成するための発酵プロセスにおいて微生物によって炭素源として用いられることが可能である単糖およびいくらかの二糖を主に含む糖質含有物(いくらかの多糖類が存在していてもよい)を指す。「容易に発酵可能な糖質」とは、追加の高価な加工が不要であること、および/または、抑制因子または発酵に悪影響を及ぼし得る他の構成成分による障害が最低限で、発酵微生物が得られた糖質に接触することが可能であることを意味する。
【0022】
「リグノセルロース」とは、リグニンおよびセルロースの両方を含む材料を指す。リグノセルロース材料はヘミセルロースをも含んでいてもよい。本明細書に記載のプロセスにおいて、リグニンは溶解されて、リグノセルロースバイオマスから実質的に除去されて炭水化物富化バイオマスが生成される。
【0023】
本明細書において参照される「溶解リグニン」は、有機溶剤溶液中に溶解されたリグニンを意味する。
【0024】
「AIリグニン」とは、酸不溶性リグニンを指す。
【0025】
「自己加水分解」とは、外来性の酸もしくは塩基または加水分解酵素の添加などのさらなる添加を伴わない、溶剤(水、または、有機溶剤+水)+熱の存在下でのバイオマスの加水分解を指す。
【0026】
「セルロース系」とは、セルロースを含む組成物を指す。
【0027】
「目標生成物」とは、発酵によって生成される薬品、燃料または化学構築ブロックを指す。生成物は、広範に用いられると共に、例えば、ペプチド、酵素および抗体を含むタンパク質などの分子を含む。目標生成物の定義には、エタノールおよびブタノールが含まれることも意図されている。
【0028】
「バイオマスの乾燥重量」とは、すべての水または実質的にすべての水が除去されたバイオマスの重量を指す。乾燥重量は、典型的には、American Society for Testing and Materials(ASTM)規格E1756−01(Standard Test Method for Determination of Total Solids in Biomass)またはTechnical Association of the Pulp and Paper Industry,Inc.(TAPPI)規格T−412 om−02(Moisture in Pulp,Paper and Paperboard)に準拠して計測される。
【0029】
「選択的抽出」とは、炭水化物が実質的に保存されるリグニンの除去を意味する。
【0030】
本明細書において用いられるところ、「溶剤溶液」および「有機溶剤溶液」は、固体、液体または気体の溶質を溶解して溶液をもたらす任意の有機液体を含む水中の有機溶剤混合物である。本発明のために最も好適な溶剤溶液は、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノールおよびヘキサノール、ならびに、炭素数が同一であるジオールなどの有機溶剤である。これらはまた、非プロトン性溶剤をも含んでいることが可能である。溶剤溶液は、溶液との混合物で追加の成分を含んでいることが可能であり、例えば、溶剤溶液は1種以上の求核剤を含んでいてもよい。
【0031】
本明細書において用いられるところ、「バイオマス」および「リグノセルロースバイオマス」とは、例えば、バイオエネルギー作物、農業残渣、都市固体廃棄物、産業固体廃棄物、庭園廃棄物、木材、林業廃棄物およびこれらの組み合わせ、ならびに、以下にさらに記載されているものといった、セルロース系およびヘミセルロース系材料を含む任意のリグノセルロース材料を指す。バイオマスは、多糖類およびオリゴ糖を含む炭水化物含有物を有すると共に、タンパク質および/または脂質などの追加の成分をも含んでいてもよい。
【0032】
本明細書において用いられるところ、「高度に保存された」とは、本明細書に記載の加工ステップ後のリグノセルロース材料の炭水化物含有量を指す。発明の一実施形態において、高度に保存された炭水化物含有量は、本明細書に記載のプロセスによる糖質収率の損失を最低限として理論収率と実質的に同様である糖化後の糖質収率を提供する。発明の一実施形態において、炭水化物含有量に関して高度に保存されたとは、本明細書に記載の前処理に先立つバイオマスと比してバイオマス炭水化物の85%以上の保存を指す。
【0033】
本明細書において用いられるところ、「プレ加工」とは、前処理に先立つリグノセルロースバイオマスの加工を指す。プレ加工は、機械的粉砕および/または適切な水分接触への乾燥などの前処理用のバイオマスを調製するバイオマスの任意の処理である。
【0034】
「バイオマス−溶剤懸濁液」とは、バイオマスと溶剤との混合物を指す。バイオマス−溶剤溶液は、アルキルアミン、チオグリコレート、アンモニア、硫化物等などの追加の成分を含んでいてもよい。
【0035】
「糖化」とは、加水分解酵素の作用による主に多糖類からの発酵可能な糖質の生成を指す。前処理済バイオマスからの発酵可能な糖質の生成は、セルロース分解酵素およびヘミセルロース分解酵素の作用による酵素糖化によって生じる。
【0036】
本明細書において用いられるところ、「バイオマスを前処理する」または「バイオマス前処理」とは、自然のまたは前加工されたバイオマスを化学的もしくは物理的作用、または、いずれかのこれらの組み合わせに供して、酵素糖化に対する、または、糖化に先立つ他の加水分解手段に対するより高い感度をバイオマスに与えることを指す。例えば、本明細書において特許請求されている方法は、バイオマスを糖化のために加水分解酵素に対してよりアクセス可能とするための前処理プロセスとして称され得る。
【0037】
「前処理濾液」とは、前処理後にバイオマスに接触していると共にろ過によって分離される自由液体を意味する。
【0038】
本明細書において用いられるところ、「前処理済バイオマス」とは、酵素糖化に対する、または、糖化に先立つ他の加水分解手段に対するより高い感度をバイオマスに与える、化学的、物理的あるいは生物学的作用、または、いずれかのこれらの組み合わせに供された自然のまたは前加工されたバイオマスを指す。
【0039】
「ろ過されたバイオマスを空気乾燥するステップ」は、バイオマスを周囲雰囲気の空気との平衡を介して乾燥させることにより実施されることが可能である。
【0040】
「容易に糖化可能なバイオマス」とは、炭水化物富化されていると共に、単糖およびオリゴ糖の生成のためにセルロースまたはヘミセルロース分解酵素によってより加水分解されやすくされたバイオマス、すなわち、本明細書に記載の前処理済バイオマスを意味する。
【0041】
本明細書において用いられるところ、「炭水化物富化された」とは、本明細書に記載のプロセス処理により生成されるバイオマスを指す。一実施形態において、本明細書に記載のプロセスにより生成された容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスは、乾燥重量を基準として出発バイオマスリグニン含有量の75%以上が除去されていつつも、乾燥されたバイオマスの85重量%以上の炭水化物濃度を有する。
【0042】
「バイオマス懸濁液を加熱するステップ」とは、溶剤中に懸濁されたバイオマスを周囲温度または室温を超える温度に供するステップを意味する。本前処理に関連する温度は、約100〜約220℃、または、約140〜約180℃、または、これらの範囲内の任意の温度またはおよそこれらの範囲の任意の温度である。
【0043】
「自由液体を加圧下にろ過するステップ」とは、フィルタの両面にいくらかの圧力差をかけたろ過をとおした自由液体の除去を意味する。
【0044】
「アルカリ」または「アルカリ条件下」とは、7.0を超えるpHを意味する。本発明においては、「アルカリ条件下」とはまた、実質的に脱プロトン化されると共に、プロトン化状態にあるよりも高度に反応性であるよう、存在する求核試薬のpKa以上のバイオマス−溶剤懸濁液のpHを意味する。これらの求核試薬は、アルキルアミン、および、アンモニア、チオール、多硫化物および水硫化物(存在する場合)を含むであろう。
【0045】
「二価アルカン」とは、2の満たされていない原子価を有する直鎖、分岐または環式アルカンを意味する。
【0046】
「アルキルアミン」とは、1個、2個または3個のH原子の代わりに−NH基を含有するアルカンを意味し;例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、イソプロピル−アミン、エチルヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、および、以下にさらに定義されているものである。
【0047】
「空気乾燥されたサンプル」とは、その含水量が、典型的には≧85%乾燥物質といった、周囲空気の含水量と平衡となるような程度の周囲温度および圧力で空気乾燥された前処理されたサンプルを意味する。
【0048】
「実質的にリグニンを含まないバイオマス」とは、リグニンの約≧75%が除去された前処理されたサンプルを意味する。
【0049】
「乾燥バイオマス」とは、≧85%の乾燥物質含有量を有するバイオマスを意味する。バイオマスの乾燥方法は、周囲温度での減圧への露出もしくは周囲温度での大気圧下での空気流への露出、および/または、オーブンもしくは真空オーブン中での加熱を含む。
【0050】
「多成分溶剤」とは、有機溶剤、水、および、リグニンを化学的に攻撃可能な試薬を含有する溶剤を意味する。
【0051】
「圧力容器」は、バイオマス/溶剤懸濁液を攪拌するための機構を備えていてもいなくてもよい、リグノセルロースバイオマスの加熱時に正圧がかけられる密閉容器である。
【0052】
「求核剤」は、結合電子の両方を与えることによりその反応相手と共有結合を形成することが可能である化学薬品である。
【0053】
「加水分解物」とは、バイオマスに作用する(酵素的にまたは非酵素的に)加水分解反応の生成物を含有するリグノセルロースバイオマスに接触している液体を指し、この場合単糖およびオリゴ糖を指す。
【0054】
「オルガノソルブ」とは、典型的にはバイオマスに接触していると共に、リグニンまたはその断片が可溶性である有機溶剤と水との混合物を意味する。
【0055】
「酵素共同体」または「糖化酵素共同体」は、通常微生物によって分泌される一群の酵素であって、これは、本事例においては、典型的には、1種以上のセルラーゼ、キシラナーゼ、グリコシダーゼ、リグニナーゼおよびエステラーゼを含有するであろう。
【0056】
「単糖」または「単純な糖質」は、単一のペントースまたはヘキソースユニット、例えば、グルコース、キシロースおよびアラビノースから構成される。
【0057】
「脱リグニン化」は、リグノセルロースバイオマスからリグニンを除去する操作である。本出願の文脈において、脱リグニン化は、高温、アルカリ条件下で、アルキルアミンおよび任意により種々の求核試薬の存在下に有機溶剤を用いるリグノセルロースバイオマスからのリグニンの断片化および抽出を意味する。
【0058】
「断片化」は、リグノセルロースバイオマスをアルカリ条件下に有機溶剤で処理して、リグニンをより小さなサブユニットに分解するプロセスである。
【0059】
「選択的抽出」は、断片化されたリグニンをアルカリ条件下での有機溶剤での処理により溶解させて、多糖を残留させるプロセスである。
【0060】
本明細書において用いられるところ、「同時断片化および選択的抽出」とは、リグニン断片がバルクバイオマスから遊離されると直ぐに溶液に溶解するよう、有機溶剤において実施される断片化反応を指す。
【0061】
容易に糖化可能なバイオマスを生成するリグノセルロースバイオマスの前処理方法が提供されている。これらの方法は、リグノセルロースバイオマスの成分を、酵素糖化に対してよりアクセス可能に、または、受容可能にするための経済的なプロセスを提供する。この前処理は、化学的、物理的あるいは生物学的、または、前述のものの任意の組み合わせであることが可能である。本開示において、前処理は、求核試薬の存在下に、特に1種以上のアルキルアミンの存在下に、アルカリ条件下で実施される。NH、チオール、硫化物試薬、またはこれらの組み合わせなどの追加の求核試薬が存在していてもよい。有機溶剤の存在およびアルカリ条件が、リグニン断片化および除去および炭水化物回収を補助する。
【0062】
加えて、本開示に記載の方法は、前処理プロセスの最中の炭水化物の損失を最小限とすると共に、糖化における可溶化された(単糖+オリゴ糖)の収率を最大限とする。
【0063】
上記に開示されているとおり、本明細書に記載の方法は、リグノセルロース材料を以下に記載の成分を含む溶剤溶液で前処理して、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生成するステップを含む。
【0064】
溶剤
本明細書に記載の方法は、バイオマスの前処理であって、具体的には、リグニンの断片化および抽出のための有機溶剤の使用を含む。本方法において有用な溶剤は、技術分野においてオルガノソルブとして頻繁に称されている(例えば、E.Muurinen(2000年)Organosolv Pulping,A review and distillation study related to peroxyacid pulping Thesis,University of Oulu,314ページ;S.Aziz,K.Sarkanen,Tappi J.,72/73:169〜175ページ,1989年;A.K.VarshenyおよびD.Patel,J.Sci.Ind.Res.,47:315〜319ページ,1988年;A.A.ShatalovおよびH.Pereira,BioResources 1:45〜61ページ,2006年;T.N.Kleinert,Tappi J.,57:99〜102ページ,1979年;EtOH/HOを用いるパイロットスケールにまで進行したKleinertによるバイオ燃料用のオルガノソルブテクノロジーの実施が記載されている(国際公開第20071051269号パンフレット)、およびX.Pan,N.Gilkes,J.Kadla,K.Pye,S.Saka,D.Gregg,K.Ehara,D.Xie,D.LamおよびJ.Saddler,Biotechnol.Bioeng.,94:851〜861ページ,2006年。実験規模ではあるが、アセトン/HOの使用が米国特許第4,470,851号明細書に記載されている。前処理技術に関するさらなる詳細は溶剤の使用に関すると共に、他の前処理は、Wymanら(Bioresource Tech.,96:1959,2005年);Wymanら、(Bioresource Tech.,96:2026,2005年);Hsu,(「Pretreatment of biomass」,Handbook on Bioethanol:Production and Utilization,Wyman,TaylorおよびFrancis編,179〜212ページ,1996年);ならびに、Mosierら,(Bioresource Tech.,96:673,2005年)に見出されることが可能である。本明細書においては溶剤がリグニンを除去するバイオマスの前処理のために用いられる。脱リグニン化は、典型的には、165〜225℃の温度、4:1〜20:1の液体対バイオマス比、50%有機溶剤(v/v)の液体組成物、および、0.5〜12時間の反応時間で実施される。多数のモノ−およびポリヒドロキシ−アルコールが溶剤としてテストされた。エタノール、ブタノールおよびフェノールがこれらの反応に用いられている(Park,J.K.およびPhillips,J.A.,Chem.Eng.Comm.,65:187〜205ページ,1988年)。
【0065】
本方法におけるオルガノソルブまたは有機溶剤溶液前処理は、水および有機溶剤の混合物を温度、時間、圧力、溶剤対水比および固形分対液体比を含む選択された条件パラメータで含んでいてもよい。この溶剤は、特に限定されないが、アルコールおよび非プロトン性溶剤(ヒドロキシル基のように酸素に結合している水素原子、または、アミン基のように窒素に結合している水素原子、または、チオール基のように硫黄に結合している水素原子を有さない溶剤、例えば、ケトン)を含んでいることが可能である。これらのアルコールは、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ヘキサンジオールなどの、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールおよびヘキサノール、ならびに、同数の炭素原子を有するその異性体およびジオールを含み得る。
【0066】
本発明における溶液(すなわち水)中の溶剤の濃度は、約2〜約90%(v/v)、または約10%〜約85%または約20%〜約80%または約30%〜約80%またはより好ましくは約40%〜約70%(v/v)である。特に、本明細書における方法の一実施形態の目的に関して、約0%〜80%(v/v)エタノール濃度のHO混合物中のEtOHを試験し、および、40〜70%(v/v)EtOHを含有する溶液が最も効果的であることが見出された。
【0067】
アルキルアミン
アルキルアミンは、溶剤溶液の成分として本方法によるバイオマスの前処理に用いられる。アルキルアミンは低価格の材料であり、バイオマスの前処理に用いられる場合、全体的に経済的なプロセスの提供に寄与する。さらに、アルキルアミンは前処理の最中に再利用可能であり、これにより本方法の効率および経済性が高められる。
【0068】
本発明のための好適なアルキルアミンは:メチルアミン(MA)、ジメチルアミン(DMA)、トリメチルアミン(TMA)、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンを含む。本発明のためにより好適なアルキルアミンとしては、これらに限定されないが、MAおよびDMAが挙げられる。本方法によるアルキルアミンの濃度は、乾燥バイオマスの約1%〜約20重量%であればよい。
【0069】
本明細書において採用されるアルキルアミンは、プロトン性極性溶剤中の置換アンモニウムカチオンの安定性に影響して、アミンの塩基性(pKa)に作用すると共に求核試薬としての活性に作用する、電子供与性要素、立体配置的要素およびH結合要素の組み合わせを有する。
【0070】
本方法によれば、特にMAおよびDMAといったアルキルアミンは、バイオマスの乾燥重量に対して10〜14%の濃度範囲で高度に活性であることが予想外に発見された。この濃度範囲においては、溶剤溶液の高いpHでの維持を保証すると共に、前処理で行われる継続的なリグニン断片化を保証するに十分な濃度のアルキルアミンを保証する十分なアルキルアミンが存在している。
【0071】
本明細書に記載のバイオマスの前処理の最中において、アルキルアミンは、リグニンの断片化を促進し、そのメカニズムは、β−アリールエーテルの脱離を伴うβ−アリールエーテル結合の破断またはキノンメチドの還元を促進させる、アルカリ条件下で形成されたリグニンアリールエーテル結合への求核攻撃(キノンメチドのα位での求核攻撃)を含み得る。この低分子量成分へのリグニンの断片化およびこれらの断片のオルガノソルブ溶剤への溶解が、オリゴ糖および単糖の加水分解的遊離のために、セルロース分解酵素およびヘミセルロース分解酵素(セルラーゼおよびヘミセルラーゼなど)に対する多糖鎖の露出を高めさせる。
【0072】
アルキルアミンは、アルキル鎖炭素によるアミン窒素への電子供与性により強塩基であると共に、第一級アミン(R−NH)、第二級アミン(R−N−R’)および第三級アミンから構成され、ここで、Rはアルキル鎖である。特にRは、直鎖、環式または分岐の、1〜6個の炭素を有する一価、二価または三価アルカン、アルケンまたはアルキンからなる群から選択されることが可能である。アルキルアミンの例としては、モノ、ジ−およびトリ−メチルアミン、モノ、ジ−およびトリ−エチルアミン、モノ、ジ−およびトリ−プロピルアミン、モノ、ジ−およびトリ−ブチルアミンが挙げられる。アルキルアミンとしては、モノ−、ジ−およびトリ−アミン、アルコールアミン(HO−R−NH)、ジオールアミン((HO)−R−NH)、アルコールジアミン(HO−R−(NH)、チオールアミン(HS−R−NH)、ジチオールアミン((HS)−R−NH)、チオールジアミン(HS−R−(NH)およびアルコールチオールアミン(HN−R(OH)(SH)が挙げられ、ここで、Rは定義のとおりである。
【0073】
アルキルアミンもまた、約9〜11のpKaを有する強求核試薬である。例えば、メチルアミンおよびジメチルアミン(DMA)のpKaは、それぞれ、10.62および10.64である。従って、これらを、リグノセルロースバイオマスに対する効果を研究するために選んだ。驚くべきことに、本方法におけるアルキルアミンの使用は、リグニンのきわめて顕著に向上した断片化および抽出をもたらした。
【0074】
さらに、炭水化物、および、最終的には糖質回収率は、イミン(シッフ塩基)の形成により多糖鎖の還元末端を保護し、これにより、アルカリ性pHで「ピーリング」への糖質の損失を低減させると共に、その後の、フルフラールおよびヒドロキシメチルフルフラールの形成を低減させるよう機能し得るアルキルアミンの使用で向上された。
【0075】
さらに、溶剤溶液におけるエタノール(溶剤)濃度の増加に伴う多糖回収率の増加が観察され、これは、前処理濾液中へのキシロースオリゴ糖の溶解度の低減が伴う前処理の最中のグルカンおよびキシランの加水分解の低減を反映している可能性が高い。1種以上のアルキルアミンを含む前処理溶液中の高いエタノール濃度による高いリグニン断片化および抽出は、本方法における、アルキルアミンの非プロトン化形態の増加および低減している極性溶剤中へのリグニン断片の高い溶解度を反映している可能性が高い。
【0076】
溶剤溶液の追加の成分
本方法によれば、1種以上のアルキルアミンを含む溶剤溶液は、任意により、追加の成分を含んでいてもよい。追加の成分は、水酸化ナトリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムなどの少なくとも1種の追加の(無機)塩基などの他の求核試薬を含み得る。
【0077】
これらの1種以上の追加の塩基は、アルキルアミンと組み合わされて、バイオマス乾燥重量に対して約20重量%未満である一定量の総塩基を形成する量で添加され得る。好ましくは、合計1種の追加の塩基+アルキルアミンは、バイオマスの乾燥重量に対して、約16%未満、または、約0%、2%、4%、6%、8%、10%、12%、14%あるいは16%である量である。1種以上の追加の塩基は、少なくとも0.5%〜約16%の種々の濃度で用いられ得る。1%〜10%の濃度がより好適である。2%〜8%の濃度が最も好適である。
【0078】
一実施形態において、NaOHは、アルキルアミンの存在下で溶剤溶液の追加の成分として採用され得、リグニン断片化および抽出を高めると共に、酵素糖化に対して高度にアクセス可能とされた炭水化物富化バイオマスをもたらす。NaOHが、特に、HO溶剤溶液中のEtOHにおいて用いられ得る。NaOHの使用は、さらなるリグニン断片化のためのアントラキノンなどの触媒の溶剤溶液への添加を含み得る。
【0079】
他の実施形態においては、アンモニアがアルキルアミンの存在下に溶剤溶液の追加の成分として利用され得、リグニン断片化および抽出が高められると共に、酵素糖化に対する炭水化物富化バイオマスのアクセス性が高められる。さらに特定の実施形態は、溶剤溶液中におけるアンモニアおよびメチルアミンの使用である。一態様は、アルキルアミンとしてメチルアミンを溶剤溶液中に含む溶剤溶液中における元素硫黄およびアンモニアの使用を含む。例えば、このような溶剤溶液は、1%元素硫黄、2%〜16%NH(w/wバイオマス)およびメチルアミンと共に、HO中に20〜80%v/v EtOHを含み得る。
【0080】
高いグルコースおよびキシロース糖化収率が、HO中の70%EtOH(v/v)および1%元素硫黄および14%メチルアミン(共にw/wバイオマス)を含む溶剤溶液における前処理後のリグノセルロースバイオマスから観察された。しかしながら、1%元素硫黄(w/wバイオマス)の存在下でのHO中の70%EtOHにおけるメチルアミンのアンモニアでの置き換えの増加が伴う前処理は、その後の酵素糖化で遊離される単糖の量の低下をもたらした(実施例11)。
【0081】
他の実施形態においては、チオグリコレートが、アルキルアミンの存在下に溶剤溶液に添加されて、高いリグニン断片化および抽出がもたらされると共に、従って、容易に糖化可能なバイオマスの酵素糖化に対する高いアクセス性がもたらされる。本発明においては、0.5〜15%のチオグリコレートの濃度が用いられ得る。より具体的には、1〜3%の濃度がより有用である。さらにより具体的には、約2%の濃度が本発明について最も有用であることが可能である。
【0082】
他の実施形態においては、硫化アンモニウムがアルキルアミンの存在下に溶剤溶液に添加されて、リグニン断片化および抽出が高められると共に、酵素糖化に対する炭水化物富化バイオマスの高いアクセス性がもたらされる。硫化物は良好な求核剤であると共に還元剤である。加えて、硫化物は、潜在的に、HSでのスパージングにより、または、元素硫黄の不均化反応によりアルカリ有機溶剤溶液前処理溶液中に生成され得る。本発明においては、0.5%〜15%の硫化アンモニウムの濃度が用いられることが可能である。より具体的には、1%〜6%の濃度がより有用である。さらにより具体的には、2%〜4%の濃度が本発明について最も有用であろう。
【0083】
他の実施形態においては、上述のとおり、元素硫黄アルキルアミンの存在下に溶剤溶液に添加されて、硫黄の可溶化および不均化反応がもたらされて、多硫化物、硫化物および水硫化物が生成される。硫化アンモニウムの場合のとおり、この添加は、前処理に有益であり、リグニン断片化および抽出が高められると共に、容易に糖化可能なバイオマスの酵素糖化に対する高いアクセス性がもたらされる。本発明においては、0.05%〜5%(w/wバイオマス)の元素硫黄の濃度が用いられることが可能である。より具体的には、0.5〜2%(w/wバイオマス)の濃度がより有用である。さらにより具体的には、約1%(w/wバイオマス)の濃度が本発明について最も有用であろう。
【0084】
リグノセルロースバイオマス
本明細書において前処理されるリグノセルロースバイオマスとしては、特に限定されないが、バイオエネルギー作物、農業残渣、都市固体廃棄物、産業固体廃棄物、製紙由来のスラッジ、庭園廃棄物、木材および林業廃棄物が挙げられる。バイオマスの例としては、これらに限定されないが、コーン穂軸、コーン包葉などの作物残渣、コーン葉茎、草、コムギ、コムギわら、オオムギ、オオムギわら、干草、稲わら、スイッチグラス、古紙、サトウキビバガス、サトウキビわら、ユリノキ、モロコシ、大豆、穀粒の粉砕から得られる構成要素、高木、枝、根、葉、木片、おがくず、低木および潅木、野菜、果実、花、ならびに、動物堆肥が挙げられる。
【0085】
一実施形態においては、リグノセルロースバイオマスとしては、コーン葉茎、コムギわら、オオムギわら、カラスムギわら、稲わら、アブラナわらおよびダイズ葉茎などの農業残渣;スイッチグラス、茅、コードグラスおよびクサヨシなどの草;トウモロコシ繊維、ビートパルプ、パルプミル微細繊維およびパルプミル廃棄物ならびにサトウキビバガスなどの繊維加工残渣;サトウキビわらおよびモロコシ;ユリノキ、ハコヤナギ材、他の硬材、軟材およびおがくずなどの林業廃棄物;ならびに、消費後の紙製品;ならびに、他の作物または十分に豊富に存在するリグノセルロース材料が挙げられる。
【0086】
他の実施形態において、本発明に有用であるバイオマスは、比較的高い炭水化物含有量を有し、比較的高密度であり、および/または、収集、輸送、保管および/または取扱が比較的容易である。
【0087】
本発明の他の実施形態において、有用であるバイオマスとしては、コーン穂軸、コーン葉茎、サトウキビバガス、サトウキビわら、ユリノキおよびスイッチグラスが挙げられる。
【0088】
リグノセルロースバイオマスは、単一の供給源に由来し得、または、2つ以上の供給源に由来する混合物を含んでいることが可能であり;例えば、バイオマスは、コーン穂軸およびコーン葉茎の混合物、または、幹もしくは茎および葉の混合物を含んでいることが可能である。
【0089】
本方法において、バイオマス乾燥重量は、前処理の最中、バイオマス−溶剤懸濁液の重量の少なくとも約9%〜約80%以下の初期濃度である。より好適には、バイオマスの乾燥重量は、バイオマス−溶剤懸濁液の重量の約15%〜約70%、15%〜約60%、または、約15%〜約50%の濃度である。バイオマス−溶剤懸濁液中のバイオマスの割合は、前処理材料の総体積を低減して、必要とされる溶剤および試薬の量を少なくすると共にプロセスをより経済的とするために高く維持される。
【0090】
バイオマスは、供給源から入手されたまま直接的に用いられてもよく、または、何らかの前加工に供されてもよく、例えば、エネルギーがバイオマスに適用されて、サイズが低減され、露出表面積が高められ、および/または、本方法の第2のステップおよび第3のステップにおけるオルガノソルブ前処理および用いられる糖化酵素のそれぞれに対するバイオマス中に存在するリグニンのアクセス性ならびにセルロース、ヘミセルロースおよび/またはオリゴ糖のアクセス性が高められる。サイズを減少させるために、露出表面積を高めるために、および/または、オルガノソルブ前処理および糖化酵素に対するバイオマス中に存在するリグニンならびにセルロース、ヘミセルロースおよび/またはオリゴ糖のアクセス性を高めるために有用なエネルギー手段としては、これらに限定されないが、ミリング、破砕、研削、寸断、細断、ディスク精砕、超音波、およびマイクロ波が挙げられる。エネルギーの適用は、前処理の前もしくは最中、糖化の前もしくは最中、または、いずれかのこれらの組み合わせで行われ得る。
【0091】
前処理に先立つ乾燥ステップは、周囲温度での減圧もしくは大気圧での空気流への露出、および/または、大気圧のオーブンまたは真空オーブン中での加熱などの従来の手段によっても行われ得る。
【0092】
前処理条件
1種以上のアルキルアミンを含む溶剤溶液でのバイオマスの前処理は、任意の好適な容器中で実施される。典型的には、容器は、圧力に耐えることが可能であり、加熱のためのメカニズムを有し、および、内容物を混合するためのメカニズムを有するものである。市販されている容器としては、例えば、Zipperclave(登録商標)反応器(Autoclave Engineers,Erie,PA)、Jaygo反応器(Jaygo Manufacturing,Inc.,Mahwah,NJ)、ならびに、スチームガン反応器(General Methods Autoclave Engineers,Erie,PAに記載されている)が挙げられる。同様の機能を有するより大規模の反応器が用いられ得る。あるいは、バイオマスおよびオルガノソルブ溶液を1つの容器中に組み合わせ、次いで、他の反応器に移してもよい。また、バイオマスは、1つの容器中で前処理され得、次いで、さらに、スチームガン反応器(General Methods;Autoclave Engineers,Erie,PAに記載されている)などの他の反応器中でプロセスされ得る。
【0093】
前処理反応は、バッチ式反応器または連続式反応器などの任意の好適な容器で実施され得る。当業者は、より高い温度(100℃超)、圧力容器が要求されることを認識するであろう。好適な容器は、バイオマス−オルガノソルブ混合物を攪拌するためのインペラなどの手段を備えていてもよい。反応器設計は、Lin,K.−H.およびVan Ness,H.C.(Perry,R.H.およびChilton,C.H.(編),Chemical Engineer’s Handbook,第5版(1973年)チャプター4,McGraw−Hill,NY)において考察されている。この前処理反応は、バッチまたは連続プロセスのいずれかとして実施され得る。
【0094】
バイオマスに溶剤を接触させる前に、バイオマスを含有する容器を減圧してもよい。バイオマスの細孔から排気することにより、バイオマスへの溶剤のより良好な浸透が達成され得る。減圧を適用する時間およびバイオマスに適用される負圧の程度はバイオマスのタイプに依存することとなり、バイオマスの最適な前処理(糖化後の発酵可能な糖質の生成により測られる)が達成されるよう経験的に判定可能である。
【0095】
溶剤とのバイオマスの加熱は、約100℃〜約220℃、約150℃〜200℃または約165℃〜約195℃の温度で実施される。加熱された溶液は室温に急速に冷却され得る。さらに他の実施形態において、バイオマスの加熱は、約180℃の温度で実施される。バイオマス−溶剤懸濁液の加熱は、約5分間〜約5時間、または、約30分間〜約3時間、または、より好ましくは約1〜2時間行われ得る。
【0096】
溶剤溶液および1種以上のアルキルアミンでのバイオマスの前処理は、存在する求核試薬のpKa以上であるpHのアルカリ条件下で行われる。脱プロトン化は、典型的には、求核剤の反応性を高める。アルキルアミンに追加して、存在する求核試薬は、アンモニア、チオール、多硫化物または水硫化物を含むことが可能である。
【0097】
本明細書に記載の前処理方法に関して、温度、pH、前処理時間、ならびに、有機溶剤およびアルキルアミン溶液などの反応体の濃度、ならびに、1種以上の追加の試薬の濃度、バイオマス濃度、バイオマスタイプおよびバイオマス粒径が関連しており;それ故、これらの可変要素は、バイオマスのタイプの各々について必要に応じて調整されて、本明細書に記載の前処理プロセスを最適化してもよい。
【0098】
高温での前処理の後、バイオマスは加圧下でろ過される。冷却はろ過の前に行われても行われなくてもよい。ろ過に続いて、バイオマスは、水和有機溶剤で、高温または周囲温度で1回以上洗浄され得る。これは、次いで、水で洗浄されるか、または、乾燥されて有機溶剤が除去され得、次いで、糖化される。バイオマスを乾燥させる方法としては、本明細書においてより完全に記載されているとおり、周囲温度での減圧への露出もしくは周囲温度での大気圧下での空気流への露出、および/または、オーブンもしくは真空オーブン中での加熱が挙げられる。
【0099】
前処理(すなわち、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスの生成およびその後の糖化)の性能を個別にまたは一緒に評価するために、出発バイオマスから誘導可能な糖質の理論収率が判定されると共に、実測した収率と比較されることが可能である。前処理性能が、酵素の仕込み量がどのように全体的な系性能における目標生成物の収率に影響するかを関連付けることによりさらに評価され得る。
【0100】
さらなるプロセス
糖化
前処理の後、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスは、有機溶剤の混合物、1種以上のアルキルアミンおよびチオグリコレートまたはアンモニアなどの溶剤溶液の任意の追加の成分;断片化および抽出されたリグニン;ならびに、多糖類を含む。さらなる加工ステップに先立って、1種以上のアルキルアミン、および/または、チオグリコレートまたはアンモニアなどの追加の溶剤成分、および、リグニン断片は、サンプルのろ過およびHO中のEtOH(0%〜100%EtOH v/v)または水での洗浄により、前処理済バイオマスから除去され得る。バイオマスは、水で洗浄されてEtOHが除去されるか、または、乾燥されて炭水化物富化された、容易に糖化可能なバイオマスがもたらされてもよく、また、前記バイオマスのグルカン、キシランおよび酸不溶性リグニン含有物の濃度が技術分野において周知である分析手段を用いて測定されてもよい。これは、前処理済バイオマスは水で洗浄されるか、または、糖化のために乾燥されることが可能であるという、本発明の現実的な有益性である。次いで、容易に糖化可能なバイオマスは、糖化酵素共同体の存在下にさらに加水分解されて加水分解物中のオリゴ糖および/または単糖が遊離され得る。
【0101】
ツイン20もしくはツイン80、または、PEG2000、4000あるいは8000などのポリオキシエチレンなどの界面活性剤が添加されて、糖化プロセスが向上され得る(米国特許第7,354,743 B2号明細書、参照により本明細書において援用される)。酵素糖化への界面活性剤(例えば、ツイン20)の添加は、度々、単糖遊離の速度および収率を促進させる。界面活性剤がいずれかの残存するリグニンを覆って、酵素のリグニンに対する非生産的な結合を低減させている可能性が高い。代わりのアプローチは、前処理におけるリグニンの抽出を促進させるか、または、リグニン吸着に対する酵素の損失が抑えられるようリグニンを化学的に変性させることである。
【0102】
糖化酵素およびバイオマス処理方法が、Lynd,L.R.ら,(Microbiol.Mol.Biol.Rev.,66:506〜577ページ,2002年)において概説されている。糖化酵素共同体は、1種以上のグリコシダーゼを含み得;グリコシダーゼは、セルロース加水分解グリコシダーゼ、ヘミセルロース加水分解グリコシダーゼおよびデンプン加水分解グリコシダーゼからなる群から選択され得る。糖化酵素共同体中の他の酵素は、ペプチダーゼ、リパーゼ、リグニナーゼおよびエステラーゼを含み得る。
【0103】
糖化酵素共同体は、排他的ではないが、二糖、オリゴ糖および多糖類のエーテル結合を加水分解する群「グリコシダーゼ」から主に選択される1種以上の酵素を含み、これらは、一般的な群「加水分解酵素」(EC3)の酵素分類EC3.2.1.x(Enzyme Nomenclature 1992年,Academic Press,San Diego,CA,追補1(1993年)、追補2(1994年)、追補3(1995年、追補4(1997年)および追補5[それぞれ、Eur.J.Biochem.,223:1〜5ページ,1994年;Eur.J.Biochem.,232:1〜6ページ,1995年;Eur.J.Biochem.,237:1〜5ページ,1996年;Eur.J.Biochem.,250:1〜6ページ,1997年;ならびに、Eur.J.Biochem.,264:610〜650ページ,1999年])に見出される。本方法において有用なグリコシダーゼは、これらによって加水分解されるバイオマス成分によって分類されることが可能である。本方法に有用なグリコシダーゼとしては、セルロース加水分解グリコシダーゼ(例えば、セルラーゼ、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼ)、ヘミセルロース加水分解グリコシダーゼ(例えば、キシラナーゼ、エンドキシラナーゼ、エキソキシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、アラビノ−キシラナーゼ、マンナーゼ、ガラクターゼ、ペクチナーゼ、グルクロニダーゼ)、および、デンプン加水分解グリコシダーゼ(例えば、アミラーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、イソアミラーゼ)が挙げられる。加えて、ペプチダーゼ(EC3.4.x.y)、リパーゼ(EC3.1.1.xおよび3.1.4.x)、リグニナーゼ(EC1.11.1.x)、およびフェルロイルエステラーゼ(EC3.1.1.73)などの糖化酵素共同体の他の活性を追加して、バイオマスの他の成分からの多糖類の遊離を補助することが有用であり得る。多糖加水分解酵素を産生する微生物は、度々、セルロース分解などの活性を示し、これは、異なる基質特異性を有する数々の酵素または酵素の群によって触媒されることが技術分野において周知である。それ故、微生物由来の「セルラーゼ」は、そのすべてがセルロース−分解活性に寄与し得る酵素の群を含み得る。商業的なまたは非商業的なセルラーゼなどの酵素調製は、酵素の入手に利用される精製スキームに応じて数多くの酵素を含み得る。それ故、本方法の糖化酵素共同体は、「セルラーゼ」などの酵素活性を含み得るが、しかしながら、この活性は、2種以上の酵素によって触媒されていてもよいことが認識されている。
【0104】
糖化酵素は、Spezyme(登録商標)CPセルラーゼ(Genencor International,Rochester,NY)およびMultifect(登録商標)キシラナーゼ(Genencor)などの単離された形態で商業的に入手され得る。加えて、糖化酵素は、組み換え型微生物の使用を含む、バイオ燃料植物で宿主微生物中に発現され得る。
【0105】
当業者は、どのように、共同体において用いられる酵素の有効量を決定し、最適な酵素活性のための条件を調整するかを知っているであろう。当業者はまた、どのように、共同体内で必要とされる酵素活性のクラスを最適化して、選択された条件下で所与の前処理生成物の最適な糖化を達成するかを知っているであろう。
【0106】
好ましくは、糖化反応は、糖化酵素に最適な温度およびpHで、またはその付近で実施される。本方法において糖化酵素共同体と共に用いられる至適温度は、約15℃〜約100℃の範囲である。他の実施形態において、至適温度は、約20℃〜約80℃および最も典型的には45〜50℃の範囲である。至適pHは約2〜約11の範囲であることが可能である。他の実施形態において、本方法において糖化酵素共同体と共に用いられる至適pHは約4〜約5.5の範囲である。
【0107】
糖化は、約数分間〜約120時間、および、好ましくは約数分間〜約48時間の時間で実施されることが可能である。反応時間は、酵素濃度および特定の活性、ならびに、用いられた基質、その濃度(すなわち、固形分仕込み量)、ならびに、温度およびpHなどの環境条件に応じることとなる。当業者は、特定の基質および糖化酵素共同体と共に用いられるべき温度、pHおよび時間の最適な条件を容易に決定することが可能である。
【0108】
糖化は、バッチ式でまたは連続プロセスとして実施されることが可能である。糖化はまた、一つのステップで、または、多数のステップで実施されることが可能である。例えば、糖化に必要とされる異なる酵素は、異なる至適pHまたは至適温度を示し得る。第1の処理は、一つの温度およびpHで酵素と共に実施され、続いて、第2または第3(または、それ以上)の処理が、異なる温度および/またはpHで異なる酵素と共に実施されることが可能である。加えて、逐次的ステップにおける異なる酵素での処理は、より高いpHおよび温度で安定であると共により活性であるセルラーゼの使用、これに続く、より低いpHおよび温度で活性であるヘミセルラーゼの使用など、同一のpHおよび/または温度であり得、または、異なるpHおよび温度であり得る。
【0109】
糖化後のバイオマスからの糖質の可溶化度は、単糖およびオリゴ糖の遊離を計測することにより監視されることが可能である。単糖およびオリゴ糖の計測方法は技術分野において周知である。例えば、還元糖の濃度は、1,3−ジニトロサリチル(DNS)酸アッセイ(Miller,G.L.,Anal.Chem.,31:426〜428ページ,1959年)を用いて測定することが可能である。あるいは、糖質は、以下に記載のとおり適切なカラムを用いるHPLCにより計測することが可能である。
【0110】
目標生成物への発酵
本方法によって生成される容易に糖化可能なバイオマスは、上記のとおり、酵素によって加水分解されて発酵可能な糖質を生成し得、次いで、これが、目標生成物に発酵されることが可能である。「発酵」とは、任意の発酵プロセスまたは発酵ステップを含む任意のプロセスを指す。目標生成物としては、特に限定されないが、アルコール(例えば、アラビニトール、ブタノール、エタノール、グリセロール、メタノール、1,3−プロパンジオール、ソルビトール、およびキシリトール);有機酸(例えば、酢酸、アセトン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、クエン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、ギ酸、フマル酸、グルカル酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタル酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、イタコン酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、シュウ酸、プロピオン酸、コハク酸、およびキシロン酸);ケトン(例えば、アセトン);アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、リシン、セリン、およびスレオニン);ガス(例えば、メタン、水素(H)、二酸化炭素(CO)、および一酸化炭素(CO))が挙げられる。
【0111】
発酵プロセスはまた、飲用アルコール産業(例えば、ビールおよびワイン)、乳製品産業(例えば、発酵乳製品)、皮革産業、およびタバコ産業において用いられるプロセスを含む。
【0112】
上記に加えて、本明細書に記載の前処理済バイオマスの糖化により生成された糖質は、普通、キシロース、アセトン、アセテート、グリシン、リシン、有機酸(例えば、乳酸)、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、グリセロール、1,2−エタンジオール、フルフラール、ポリヒドロキシアルカノエート、シス,シス−ムコン酸、および、動物飼料などの有機製品、化学薬品、燃料、汎用および特殊化学薬品の製造に用いられ得る(Lynd,L.R.,Wyman,C.E.およびGerngross,T.U.,Biocom.Eng.,Biotechnol.Prog.,15:777〜793ページ,1999年;およびPhilippidis,G.P.,Cellulose bioconversion technology,Handbook on Bioethanol:Production and Utilization,Wyman,C.E.編,Taylor & Francis,Washington,D.C.,179〜212ページ,1996年;ならびに、Ryu,D.D.Y.およびMandels,M.,Cellulases:biosynthesis and applications,Enz.Microb.Technol.,2:91〜102ページ,1980年)。
【0113】
発酵可能な炭水化物由来の複数の有機生成物などの生成物の潜在的な同時生産もまたもたらされ得る。前処理および発酵の後に残留する富リグニン残渣はリグニン−由来の化学薬品、化学構築ブロックに転化されるか、または、発電に用いられることが可能である。
【0114】
発酵および/または糖化の従来の方法は技術分野において公知であり、特にこれらに限定されないが、糖化、発酵、個別の加水分解および発酵(SHF)、同時糖化および発酵(SSF)、同時糖化および共発酵(SSCF)、ハイブリッド加水分解および発酵(HHF)、および直接微生物性転換(DMC)を含む。
【0115】
SHFは、先ず、セルロースをグルコースおよびキシロースなどの糖質に酵素加水分解し、次いで、糖質をエタノールに発酵する個別のプロセスステップを用いる。SSFにおいて、セルロースの酵素的加水分解およびグルコースのエタノールへの発酵は一つのステップに組み合わされている(前述のPhilippidis,G.P.)。SSCFは、複数種の糖質の共発酵を含む(Sheehan,J.およびHimmel,M.,Biotechnol.Prog.15:817〜827ページ,1999年)。HHFは、異なる温度、すなわち、高温酵素糖化とこれに続く発酵菌株が許容することが可能であるより低い温度でのSSFで実施される同一の反応器内での2つの異なるステップを含む。DMCは、すべての3つのプロセス(セルラーゼ生成、セルロース加水分解および発酵)を一つのステップに組み合わせる(Lynd,L.R.,Weimer,P.J.,van Zyl,W.H.およびPretorius,I.S.,Microbiol.Mol.Biol.Rev.,66:506〜577ページ,2002年)。
【0116】
これらのプロセスは、本明細書に記載の前処理方法により生成された容易に糖化可能なバイオマスから目標生成物を生成するために用いられ得る。
【0117】
本方法の利点
高温、アルカリ条件下での、1種以上のアルキルアミンおよび種々の求核試薬を併用したリグニンの断片化および選択的抽出を用いるリグノセルロースバイオマスの本発明に記載の前処理方法は、酵素糖化のための炭水化物富化バイオマスを得るための経済的なプロセスを提供する。次いで、このようなバイオマスは、付加価値化学薬品および燃料への生物変換のための発酵可能な糖質(グルコース、ならびに、キシロース)のきわめて高い収率をもたらす。
【0118】
現在のオルガノソルブプロセスの重要な欠点のうち、文献に記載されているものは以下のとおりである:前処理後の特にキシロースといった炭水化物の低い回収率、個別のヘキソース流およびペントース流の必要性、糖質分解生成物の生成、大量の溶剤の使用、ならびに、高い資本経費。例えば、一定の既存のプロセスは、酸性オルガノソルブ条件の使用を含むと共に、ヘミセルロースおよびセルロースの加水分解物をもたらす。酸性条件下でのヘミセルロースの大きい易変性は、単糖キシロースの分解生成物(例えばフルフラール)の形成をもたらし、キシロースの回収率を大きく低下させる(前述のPanら)。このプロセスの一態様(Arato,C.,Pye,E.K.およびGjennestad,G.,Appl.Biochem.Biotech.121−124:871〜882ページ,2005年)においては、ヘミセルロースが酸性条件下で加水分解されると共に、セルロースが、中和の後、酵素加水分解される。糖化の前に酸を中和させる必要性、キシロースの部分的損失、ならびに、個別のペントース流およびヘキソース流の加工はすべて、プロセスコストを増加させる。しかも、酸性条件の使用は反応器および配管における合金の使用が必要となり、これは、実質的に、設備の資本経費を増加させる。
【0119】
本開示は、リグニンが安価な試薬を用いて選択的に断片化および抽出されると共に、ヘミセルロースおよびセルロースがその後に酵素糖化されるべくバイオマス中に一緒に残留する高度に選択的なプロセスの開発を説明している。有機溶剤溶液に抽出されるリグニンの量は≧75%であると共に、残存バイオマスにおけるキシランおよびグルカン回収率は定量に近似している。多糖の高い回収率は、ヘミセルロース加水分解および糖質分解を低減するアルカリ条件の使用、アルカリ条件下での多糖ピーリングを防止するアンモニアまたはアルキルアミンの使用、ならびに、炭水化物加水分解を制限すると共にキシロースオリゴ糖を不溶性とする有機溶剤溶液の高いエタノール含有量による。加えて、用いられるアルカリ条件は、設備における新種の合金の使用が不要であり、これにより、資本経費が抑えられる。反応体または生成物(例えば、NaOH、NaCO、CaSO)中に無機塩をほとんどまたは全く含まない本プロセスの実施は、最終的な無機廃棄物材料の廃棄に関連するコストをほとんどまたは全く伴わない。未反応試薬(例えば、EtOH、アルキルアミンおよびHS/S)は再利用可能であり、EtOHおよびアルキルアミンの場合には、沸点が低く、水と比して蒸発熱が低く、これにより、エネルギー必要量および運用費用が低減される。文献中に記載のプロセスの多くは高い溶剤対バイオマス比を用いる。本事例において、アルカリ条件の使用および添加された求核試薬によるリグニンの相当の断片化は、溶剤流が、高濃度のリグニンを集積させて、大容量の溶剤の必要性を低減させ、ならびに、同時に、微量の可溶化された炭水化物の損失を低減させることが可能であることを意味する。最後に、残存炭水化物は、おそらくは、前処理におけるリグニン断片の高レベルの抽出、ヘミセルロースとリグニンとの間のエステルリンケージの効果的な切断、および、多糖の重合度のいくらかの低下のために酵素を用いて良好に糖化される。有機溶剤の使用は、バイオマスの湿潤性および基質の細孔への容易な浸透能を向上させる。高pKa有機塩基(例えば、アルキルアミン)を用いたアルカリ条件と、強求核試薬(例えば、アルキルアミン、硫化物)の存在との組み合わせは、リグニン含有量が高い供給原料(例えば、スイッチグラス、バガス)に関しても、このプロセスによる容易に糖化可能なバイオマスの生成を可能とする。前処理の普遍性が、ここではコーン穂軸、スイッチグラス、サトウキビバガス、サトウキビわらおよびユリノキにより代表されている幅広い範囲のリグノセルロース材料の前処理に続く良好な糖化が示されている実施例12および14において実証されている。
【実施例】
【0120】
容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを得るためのバイオマスの前処理
以下に記載の実験研究の目標は、リグニン抽出および糖質保存の両方が最大限とされたリグノセルロースのための経済的な前処理プロセスを開発すること、および、酵素糖化の際に、最大の単糖収率を達成するであろう容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生成することであった。採用したアプローチは、固形分残渣中の糖質を保存しつつリグニンを好適な溶剤に選択的に断片化および抽出することである。有機溶剤、および、アルキルアミン、および、NH、チオール、多硫化物および硫化物のような任意により一定の求核試薬の組み合わされた存在は、バイオマスのリグニン成分を選択的に断片化および可溶化して、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを残留させることが見出された。
【0121】
スイッチグラス、コーン穂軸、サトウキビわら、ユリノキおよびサトウキビバガスを、前処理の前に、1mmスクリーンを通してウィリーナイフミル中でミルにかけた。
【0122】
以下の略語が実施例において用いられている:「HPLC」は高性能液体クロマトグラフィーであり、「C」は摂氏温度または摂氏であり;「%」はパーセントであり;「wt」は重量であり;「w/w」は重量に対する重量であり;「mL」はミリリットルであり;「OD」は外径であり;「ID」は内径であり;「h」は時間であり;「rpm」は1分間当たりの回転数であり;「EtOH」はエタノールであり;「mg/g」はミリグラム/グラムであり;「g/100mL」はグラム/100ミリリットルであり;「N」はノルマルであり;「g」はグラムであり;「NaOH」は水酸化ナトリウムであり;「w/v」は体積当たりの重量であり;「v/v」は体積に対する体積であり;「NH」はアンモニアであり;「mm」はミリメートルであり;「mL/min」はミリリットル/分であり;「min」は分間であり;「mM」はミリモルである。
【0123】
材料
硫酸、水酸化アンモニウム、酢酸、アセトアミド、イースト菌抽出物、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、リン酸カリウム、グルコース、キシロース、トリプトン、塩化ナトリウムおよびクエン酸、モノメチルおよびジメチルアミンは、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)から得た。Spezyme CPおよびMultifect CX12LはGenecor(Genencor International,Palo Alto,CA)製であると共に、Novozyme 188はNovozyme(Novozymes,2880 Bagsvaerd,Denmark)製であった。
【0124】
実施例1
有効なエタノール濃度
この実施例の目的は、pH制御の不在下での、炭水化物の回収およびリグニンの可溶化/抽出に対する水中の溶剤(例えば、エタノール)の濃度の影響を試験することであった。バガス(0.2g、95.78%乾燥物質)を、種々の濃度(0〜80%)のEtOHを含有する1.56mLのEtOH/水溶液中に懸濁させた。この懸濁液をタイプ316ステンレス鋼管(1/4インチID、3/8インチOD、4インチ長)に仕込み、Swagelock取付け部品(Penn Fluid System Technologies,Huntingdon Valley,PA)でキャップをした。これらを流動砂浴(Techne Model SBS−4,Techne Inc.,Burlington,NJ)に入れ、180℃で2時間加熱し、および、室温の水浴へのプランジングにより急速に冷却した。サンプルをチューブから取り出し、Spin−Xフィルタ(Costar,Corning Inc.,Corning NY)を用いて、室温で、卓上遠心機(Spectrifuge 16M,Labnet International Inc.,Edison,NJ)中で14,000rpmで遠心分離することによりろ過して溶解リグニンを除去した。各サンプルの濃縮水を、180℃処理(0〜80%HO中のEtOH)で用いたものと同一のEtOH濃度を用いて、0.5mLのEtOH/HOで洗浄した(4×)。次いで、サンプルを室温で空気乾燥させる(約92%乾燥物質以下)と共に、残渣のグルカン、キシランおよび酸不溶性リグニン内容物をNational Renewable Energy Laboratory(NREL)手法(Determination of Structural Carbohydrates and Lignin in Biomass−2006年度版,Amie Sluiterら、NRELウェブサイトから入手可能)を用いて測定した。
【0125】
その後の酵素糖化
上記で調製した空気乾燥されたサンプルを、50mmクエン酸緩衝剤に、pH4.6、約14%固形分仕込み量で懸濁させた。糖化酵素、例えばSpezyme CP、Multifect CX12LおよびNovozyme188を、それぞれ6:3:6mg/gセルロースの濃度で添加した。また、1%(w/v)ツイン20および0.01%(w/v)NaNを添加し、ここで、後者は微生物性の増殖を防止するためである。サンプル(約0.4mL)を2個の5mmガラスビーズを含むスクリューキャップバイアル中に入れると共に、250rpmで操作した回転振盪機で46℃でインキュベートした。分析のために開始から4時間で、および、24時間間隔毎にアリコートを採ると共に、0.01 N HSOで41.25倍に希釈した。次いで、サンプルをSpin−Xフィルタを通してろ過し、濾液をHPLC(Agilent series 1100/1200,Agilent Technologies, Wilmington, DE)により分析した。BioRad HPX−87H Aminexカラム(Bio−Rad Laboratories,Hercules CA 94547を用いて、0.01N HSOを移動相として用い、0.6mL/minの流量で遊離化された糖質を分割した。カラムは60℃に維持した。示差屈折計を用いて溶出した糖質を検出し、これを55℃に維持した。グルコース、キシロースおよびアラビノースの滞留時間は、それぞれ、9.05、9.72および10.63分であった。表1Aは、0%〜80%のEtOH濃度での前処理後の、グルカンおよびキシラン回収割合、ならびに、酸不溶性(AI)リグニン含有量の割合変化を概説している。
【0126】
【表1】

【0127】
表1Aに示されている結果は、EtOH含有量の増加と共にリグニン抽出が増加したことを示し、これは、おそらく、EtOH濃度の増加に伴うリグニンの溶解度の増加による。しかしながら、抽出されたリグニンの量は高いエタノール濃度であっても適度に維持された。
【0128】
ヘミセルロース加水分解およびキシロースオリゴ糖の溶解度はEtOHの増加と共に低減し、残渣中のキシランおよびキシロースオリゴ糖の回収率を高める。前処理によって遊離されたアセテートの量もまたEtOH含有量の増加に伴って低減し、高いEtOH濃度でのバイオマスの自己加水分解の低減と一致した。
【0129】
表1Bは、異なるEtOH濃度での前処理後の酵素糖化96時間後のグルコースおよびキシロース収率を示す。セルロースの糖化は、前処理におけるEtOHの濃度が0から20%に増加した際に増加したが、次いで、EtOHのより高い前処理濃度では低下した。リグニンおよびセルロースの部分的加水分解のあり得る低減(セルロースの重合度の増加であり、これがその後の糖化でのグルコース収率を低減させた−表1B)が20%EtOH超の濃度で観察された。
【0130】
【表2】

【0131】
特にキシロースの単糖回収率(表1B)は低いEtOH濃度ではかなり劣っていた。低いEtOH濃度では、高温でヘミセルロースのアセチル基の加水分解によりもたらされた酸性条件がヘミセルロースを加水分解する。可溶化されたキシロースおよびいくらかのグルコースが前処理の後に続くろ過および洗浄において損失される。より高いEtOH濃度では、糖化収率を低下させる、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンの部分的な加水分解は少ない。低および高エタノール濃度での挙動は、一緒になって、単糖グルコースおよびキシロースの低い全収率をもたらす。
【0132】
実施例2
リグニン抽出に対するアルカリ有機溶剤溶液前処理の効果
この実施例の目的は、炭水化物保存およびリグニン抽出、ならびに、その後の酵素糖化の最中の単糖に関して、異なるEtOH/HO比での有機溶剤溶液前処理に対するpHを上げた影響を試験することであった。自己加水分解がpHを低下させ、キシランを加水分解し、および、キシロースの損失を促進させる場合、前処理のpHをNaOHの添加によって高めた。より高いpHのキシロース回収率に対する影響が以下に実証されている。サトウキビバガス(0.25g、95.78%乾燥物質)を、EtOH(水中に20〜80%)および8%NaOH(w/wバイオマス)+1mgアントラキノン(AQ、リグニン断片化用の触媒)を含有する1.75mLの溶剤に懸濁させた。この溶液の初期のpHは約13.7であった。実施例1に記載されているとおり、この懸濁液をタイプ316ステンレス鋼管に仕込み、キャップをし、168℃で140分間処理し、および、室温の水中で冷却した。サンプルを圧力容器から取り出し、ろ過し、洗浄し、空気乾燥し、および、実施例1に上述されているとおりすべてを分析した。グルカン、キシラン、アラビナン含有量および前処理後のリグニン含有量の変化が表2Aに示されている。
【0133】
その後の酵素糖化は、Spezyme:Multifect:Novozymes188比が、1%ツイン20(w/v)の存在下で12:6:1.2mg/g乾燥固形分であったこと以外は実施例1に記載のとおり実施した。表2Bは、予め異なるEtOH濃度で前処理したバイオマスの96時間の酵素糖化後の単糖収率を示す。
【0134】
【表3】

【0135】
【表4】

【0136】
表2Aおよび2Bに見ることが可能であるとおり、この実験のアルカリ条件は、実施例1の自己加水分解実験と比して、前処理におけるキシランの保存を実質的に高めた。この効果は、低EtOH濃度で最も明白であった。NaOHは、溶液の酸性化を防止し(最終pH約10.7)、従って、ヘミセルロースを酸触媒加水分解から保護した。加えて、顕著により多量のリグニンが抽出されたが、これは、おそらくは、リグニンの塩基触媒分別による。糖化後の単糖全収率は、実施例1において観察されたものよりも実質的に高かった。前処理におけるより高い糖質回収率およびより高いリグニン抽出がその後の酵素糖化の収率を高めた。キシロースおよびグルコース糖化収率は、すなわち、糖質収率を高める傾向にあるより高レベルのEtOHでのリグニンの抽出の増加、および、EtOH濃度のさらなる上昇に伴うヘミセルロースおよびリグニンの部分加水分解の低下といった2つの反対のプロセスの結果として、約45%EtOHで最高であった。糖質再重合させるかまたは糖質と反応することが可能であるキノンメチドの形成と、「ピーリング」と、多糖のアルカリ切断反応とが、すべて、一緒になって糖質全収率の制限の要因となる可能性が高い。
【0137】
実施例3
糖化に先行したバイオマスの前処理に対するアルキルアミンの影響
この実施例の目的は、前処理後のバイオマスのリグニン含有量および前処理および糖化後の炭水化物回収率に関して、有機溶剤溶液(水中に70%EtOH v/v)におけるアルキルアミンの存在の影響を研究することであった。
【0138】
サトウキビバガス(0.375g、95.78%乾燥物質)を、HO中の70%EtOH(v/v)を含有する1.125mLの溶剤に懸濁させた。加えて、この溶剤は、種々の量(6、10または14%)のジメチルアミン(DMA、w/wバイオマス)を含有していた。これらの溶剤の初期のpHは、それぞれ、12.50、12.68および12.80であった。pHはNaOHを用いて調整した。この懸濁液をタイプ316ステンレス鋼圧力容器(3/16インチID、1/4インチOD、4インチ長)に仕込み、キャップをして、固形分仕込み量がより多く、および、サンプルは168℃で140min加熱したこと以外、実施例1に記載のとおり処理した。前処理の結果が表3Aにまとめられている。
【0139】
【表5】

【0140】
表3Aに見ることが可能であるとおり、DMAの濃度の上昇に伴って増加したリグニンの抽出は、より高いアミン濃度でのリグニンの促進された断片化に一致している。実施例2とは対照的に、70%EtOH中のDMAでの前処理後の炭水化物回収率はかなり高い。アルカリpHでの「ピーリング」反応による炭水化物の損失は、8%NaOHではpHはそんなに高くないため、または、DMA、若しくは、MMAおよびNHへのいくらかの分解が、多糖の還元末端でのイミン形成を介して「ピーリング」反応をブロックするため、DMAの使用によって防止されるか、または、制限される可能性が高い。
【0141】
前処理後の酵素糖化は、Spezyme:Multifect:Novozymes188比が、1%ツイン20(w/v)の存在下で6.68:3.34:1.67mg/g乾燥固形分であったこと以外は実施例1に記載のとおり実施した。固形分仕込み量は14重量%であった。単糖糖化収率が表3Bに示されている。
【0142】
【表6】

【0143】
表3Bは、DMAでの前処理後の酵素糖化での単糖収率は、以外にも、70%EtOH中の8%NaOHでの前処理後のものよりもかなり高いことを示す。加えて、単糖収率は、前処理溶剤におけるDMA濃度と共に高くなった。
【0144】
実施例4
酵素糖化での最高の収率をもたらしたジメチルアミン
この実施例の目的は、DMAをNH単独またはNH+NaOHと比較して、前処理溶液の含有量の関数として、前処理後の炭水化物収率と酵素糖化後の炭水化物収率とを比較することであった。バガス(0.375g)を懸濁させた70%EtOH/HO(v/v)溶剤(1.125mL)が、8%NH、6%NH+2%NaOHまたは14%DMA(すべてw/wバイオマス)を含有していたこと以外は実施例3に概要が記載されているとおり前処理を実施して実験を行うと共に、この実験は、168℃で140分実施した。グルカン、キシランおよびアラビナンの前処理回収率、ならびに、リグニンの抽出が表4Aに作表されている。
【0145】
酵素糖化は実施例3に記載のとおり実施した。70%EtOH+異なる添加剤(w/wバイオマス)中での前処理の後のツイン20の不在下における、96時間での糖化収率が表4Bに示されている。
【0146】
【表7】

【0147】
【表8】

【0148】
用いた3つの条件のうち、DMA前処理が、最大レベルのリグニンの断片化および抽出をもたらして、セルロースおよびヘミセルロースに最大の酵素アクセス性をもたらし、最高の単糖収率をもたらした。
【0149】
実施例5
バイオマスの前処理のためのメチルアミンとジメチルアミンとの比較
この実施例においては、メチルアミン(MA)またはジメチルアミン(DMA)を含有するHO中の70%EtOH(v/v)中にサトウキビバガスを懸濁させたこと以外は、実施例3のとおり前処理を実施した。これらの前処理は、表5Aに示されているとおり、6、10および14%DMA(w/wバイオマス)を含有するサンプルについては168℃で140分、ならびに、6、10および14%MAおよび14%DMA(w/wバイオマス)を含有するサンプルについては187℃で1時間実施した。2組の実験(MAおよびDMA)を2つの異なる温度および時間で実施したが、温度および時間は、アルキルアミンの各々について(168℃、140分と187℃、1時間との間の前処理について)前処理回収率および糖化収率に対する影響は小さく、計測誤差の範囲内である(例えば、168℃での14%DMAと187℃での14%DMAとを参照のこと)。2種のアルキルアミン間でも前処理収率の差異はあまりないように見られる。
【0150】
【表9】

【0151】
糖化は、Spezyme:Multifect:Novozymes188比が、1%ツイン20(w/v)の存在下に、14%(w/w)の固形分仕込み量で、6.68:3.34:1.67mg/g乾燥固形分であったこと以外は実施例1に記載のとおり96時間実施した。
【0152】
表5Bに示されているとおり、MA−前処理済バイオマスは、DMAで前処理したサンプルよりも高いグルコース糖化収率をもたらした。10%MA(MW=31)サンプルは、グルコース収率は高いにもかかわらず、求核剤濃度に関しては14%DMA(MW=45)と同等であるべきである。同一の濃度に対するキシロース単糖収率は、同等であるか、または、MAよりもDMAでわずかに高かった。リグニンの断片化におけるMMAの使用には、DMAを超える立体的利点が存在し得、わずかに高いレベルの抽出およびより高い糖化収率がもたらされる。
【0153】
【表10】

【0154】
実施例6
溶剤溶液の追加の成分としてのチオグリコレートの影響
この実施例の目的は、溶剤溶液中のオルガノメルカプタン(例えば、チオグリコレート)の影響を研究することであった。さらに、ツイン20のような界面活性剤は、度々、単糖遊離の速度および収率を促進させるが、コストも追加されてしまう。界面活性剤はいずれかの残存するリグニンを覆って、酵素のリグニンに対する非生産的な結合を低減させる可能性が高い。糖化ステップにおける界面活性剤の必要性を排除する向上した前処理によって経費削減が実現可能である。このような向上は、前処理におけるリグニンの抽出のさらなる促進によって、または、糖化の最中にリグニン吸着に失われる酵素が少なくなるよう残存リグニンを化学的に変性させることによって達成されることが可能である。
【0155】
この実施例において、前処理は、バガスを懸濁させたHO中の70%EtOH(v/v)溶剤が、2%チオグリコール酸、2%グリコール酸または2%グリシン(すべてw/wバイオマス)を伴ってまたは伴わずに14%MAを含有していたこと以外は実施例3のように実施した。加えて、この前処理は、168℃で140分の代わりに187℃で1時間実施した。
【0156】
その後の酵素糖化は、反応を1%ツイン20(w/v)の存在下および不在下で実施したこと以外は実施例5のとおり実施した。図1Aは、2%チオグリコレートを伴うまたは伴わない70%EtOH/HOおよび14%MA中での187℃で1時間の前処理後の、ツインの存在下および不在下での酵素糖化での単糖グルコースの遊離を示す。図1Bは、チオグリコレートの存在下および不在下での同様の前処理の後の、ツインの存在下および不在下での酵素糖化での単糖キシロースの遊離を示す。前処理における2%チオグリコール酸(w/wバイオマス)の70%EtOH/HO(v/v)+14%MA(w/wバイオマス)への添加は、ツイン20の不在下における酵素糖化速度および単糖の収率を顕著に活性化させた。前処理における、2%チオグリコール酸を伴うまたは伴わない、1%ツイン20の存在下および不在下での糖化動態学(図1Aおよび1B)の比較は、チオグリコール酸が、ツイン20がその両方に対して有していた作用を超えて、糖化速度および収率を活性させたことを示す。
【0157】
チオグリコール酸化学の性質を理解するために、チオグリコール酸の−SHがそれぞれ−OHおよび−NHで置き換えられているグリコール酸およびグリシンと共に同様の実験を行った。
【0158】
図2Aは、メチルアミンの存在下での、上記(実施例5)の前処理におけるリグニンの抽出(より優れたUV吸収)のチオグリコール酸による促進を示している。対照的に、HO中の70%EtOH(v/v)+14%MA+2%グリコール酸または2%グリシン(w/wバイオマス)(図2B)で処理したものと比して、70%EtOH/HO(v/v)+14%MA(w/wバイオマス)単独で処理したバイオマスのUVスペクトルの振幅にはほとんど差異はなかった。
【0159】
表6に見ることが可能であるとおり、チオグリコール酸、グリコール酸またはグリシンを含有する70%EtOH/HO(v/v)+14%MA(w/wバイオマス)での前処理後の、ツイン20の不在下での96時間の酵素糖化後の比較は、チオグリコール酸がグリコール酸またはグリシンのいずれよりも顕著に高い糖化速度および収率をもたらしたことを示した。−SH基は、チオグリコール酸の反応性に対して重要であると結論付けた。チオグリコール酸は、キノンメチドを還元することにより、または、キノンメチドに付加反応を行うことにより、または、リグニンのα−および/またはβ−アリールエーテル成分に対する置換により、アルカリ条件下でのリグニンの断片化で生成されたキノンメチド中間体と反応される可能性が高い。これらの反応は、リグニンの断片化および抽出をさらに促進させる可能性が高い(図2)。グリコール酸およびグリシンはかなり反応性に劣っているか、または、非反応性であった。
【0160】
【表11】

【0161】
酵素糖化の最中のオリゴ糖および単糖のHPLCプロファイルの比較は、前処理(糖化にツインは伴わない)におけるチオグリコール酸の添加は、ツイン20(前処理にチオグリコール酸は伴わない)の添加後に観察されたものときわめて同様のプロファイル−すなわち、単糖キシロースの増加が伴うキシロビオースの低減、および、単糖グルコースの増加が伴うセロビオースの増加をもたらしたことを示した。これらの2種の条件に対する単糖収率はきわめて類似していた(図1および表6)。これらの知見は、前処理の最中のチオグリコール酸の添加によってもたらされるリグニン抽出の増加と一致する(表6を参照のこと)。チオグリコール酸によるリグニンの誘導体化で残存リグニンをより親水性(カルボキシレートの陰電荷の追加)とし、セルロースの損失の低減およびキシラナーゼ酵素の非生産的な結合の低減もまた可能である。このような糖化に対するリグニンの低減された影響は、チオグリコレートの不在下で前処理された(すなわち、ツインがリグニンに結合してこれをより親水性とする)バイオマスにツイン20が添加された場合に生じると考えられるものと同様である。まとめると、70%EtOHおよびアルキルアミンでの前処理における2%チオグリコレート(w/wバイオマス)の包含は、リグニン抽出を高めると共に、グルコースおよびキシロースの両方の糖化収率を活性化した。
【0162】
実施例7
前処理の最中のメチルアミンおよびエチルアミンに対するチオグリコレートの添加によるリグニン抽出の促進
前処理を、バガスを懸濁させたHO中の70%EtOH(v/v)溶剤が、2%チオグリコール酸(w/wバイオマス)を伴っておよび伴わずに、14%MAまたは14%エチルアミン(すべてw/wバイオマス)を含有していたこと以外は実施例3のとおり実施した。図2Aは、2%チオグリコレートを伴うかまたは伴わない70%EtOH+14%アルキルアミン中での187℃で、1時間の前処理後の濾液のUV吸光スペクトルを示す。両方の事例における、チオグリコール酸の前処理溶剤への添加でのUV吸収の増加は、チオグリコール酸がリグニンの断片化および抽出を促進させたことを示し、これは、前処理、ろ過およびHO中の70%EtOH(v/v)での洗浄後の残渣中に存在するリグニンの低減と一致していた。
【0163】
実施例8
リグニン抽出の最中の硫化アンモニウムを用いるバイオマスの前処理
この実施例の目的は、硫化アンモニウムのバイオマス前処理に対する影響を研究することであった。前処理を、バガスを懸濁させた70%EtOH/HO(v/v)溶剤が14%MA(w/wバイオマス)+2%または6%(NHS(w/wバイオマス)を含有していたこと以外は実施例3のように実施した。酵素糖化を実施例5のとおり実施した。2%および6%硫化アンモニウム(w/wバイオマス)の存在下および不在下での70%EtOH+14%MA中の前処理後の、1%ツイン20(v/v)の存在下および不在下での、96時間での糖化収率が表7に示されている。
【0164】
【表12】

【0165】
0%、2%または6%(NHS(w/wバイオマス)を含有するHO中の70%EtOH(v/v)+14%MA(w/wバイオマス)での前処理後のツイン20の不在下での酵素糖化の比較は、前処理に存在する場合、(NHSはその後の酵素糖化を促進させたことを示した。促進された糖化は、リグニンの断片化および抽出の増加と関連している可能性が高かった(図3)。表7は、2%(NHS前処理の影響は、キシランのキシロースへの糖化およびグルカンのグルコースへの糖化にかなり顕著であったことを示す。加水分解物のHPLC分析は、チオグリコール酸の場合と同様に、糖化に界面活性剤が伴わない前処理における(NHSによる促進されたリグニンの抽出は、前処理に(NHSが伴わない糖化における界面活性剤の添加と同様の挙動を見せたことを示した。界面活性剤は残存リグニンを覆う一方で、(NHSは残存リグニンの量を低減させる。前処理における6%(NHSの存在は、前処理では(NHSが不在であるがツイン20で糖化されたサンプルをはるかに超えて、糖化収率のさらなる向上をもたらす。
【0166】
実施例9
硫化アンモニウム促進リグニン抽出
前処理を、バガスを懸濁させたHO中の70%EtOH(v/v)溶剤が、2%または6%(NHS(w/wバイオマス)の添加を伴っておよび伴わずに、14%MA(w/wバイオマス)を含有していたこと以外は、実施例3のとおり実施した。図3Aは、HO中の70%EtOH(v/v)で5000倍に希釈した、前処理の後の濾液の吸光スペクトルを示す。2%および6%(NHSの70%EtOH/HO+MAへの添加は、前処理後の濾液のUV吸収のきわめて大きい増強を示し、これは、抽出されたリグニンの増加を示している。前処理における(NHSの包含によるリグニン抽出の促進は、その後の酵素糖化の顕著な促進と一致している(表7)。
【0167】
実施例10
リグニン抽出の最中の元素硫黄を用いるバイオマスの前処理
この実施例の目的は、バイオマス前処理における元素硫黄の影響を研究することであった。従って、元素硫黄を、バイオマスの重量の1%または2%に等しい濃度でバイオマスに添加するか、または、添加しなかった。前処理を、14%MA(w/wバイオマス)を含有するHO中の70%EtOH v/v中に硫黄を伴うおよび伴わないバイオマスを懸濁させたこと以外は、実施例3のとおり実施した。懸濁液を実施例3と同様に圧力容器中に入れると共に、187℃に1時間加熱した。圧力容器を室温に急速に冷却した後、内容物をろ過し、HO中の70%EtOH(v/v)で洗浄し、および、静置させて空気乾燥した。2%硫黄で前処理した後に得られた濾液をHO中の70%EtOH(v/v)で1:5000に希釈し、UVスペクトルを記録した。図3Bに示すとおり、HO中の70%EtOH(v/v)における14%MA(w/wバイオマス)単独の場合と比して、14%MA(w/wバイオマス)+2%硫黄(w/wバイオマス)の存在下ではUV吸光度の顕著な増強が存在する。硫黄の存在下での高められたリグニンの抽出は、前処理後の固形分中の低減されたリグニンの含有量、および、酵素糖化の後の促進された単糖収率と一致する(表8)。
【0168】
その後の酵素糖化は、硫黄を伴わないサンプルの場合には1%ツイン20(w/v)の存在下および不在下で、ならびに、硫黄を伴うサンプルの場合には、0.5%PEG2000(w/wバイオマス)の存在下および不在下で実施したこと以外は、1%硫黄を含有するサンプルに対する実施例5のとおり実施した。並列実験(図示せず)は、1%ツイン20(w/v)および0.5%PEG2000(w/wバイオマス)が酵素糖化に事実上同一レベルの促進をもたらしたことを示した。前処理収率、ならびに、70%EtOH+14%MA中での前処理後、および、0.5%PEG2000(w/wバイオマス)および1%S(w/wバイオマス)の存在下および不在下での前処理後の1%ツイン20(v/v)の存在下および不在下での、96時間での酵素糖化収率が表8に示されている。
【0169】
【表13】

【0170】
バイオマスへの1%(w/wバイオマス)の元素硫黄の添加は、界面活性剤の存在下および不存在下の両方で、グルコースおよびキシロースの酵素糖化収率に顕著な増加をもたらす。硫黄の存在は、糖質収率の増加に追加して、PEG2000の添加が酵素的糖質収率のきわめてわずかな増加しかもたらさない点まで残存リグニンを変性する。
【0171】
実施例11
メチルアミンおよび元素硫黄を含有する有機溶剤溶液前処理へのアンモニアの添加の影響
前処理を、バガスが1%元素硫黄(w/wバイオマス)を含有していたこと、および、これを、14%MA(メチルアミン)、7%NH+7%MA、10%NH+4%MAまたは14%NH(すべてw/wバイオマス)のいずれかを含むHO中の70%EtOH(v/v)中に懸濁させたこと以外は、実施例3のとおり実施した。サンプルを187℃で1時間、圧力容器中で加熱し、次いで、水浴中で室温に急速に冷却した。残渣をろ過し、洗浄し、および、既述のとおり乾燥させた。酵素糖化を、実施例5のとおりであるが、0.5%PEG2000(w/wバイオマス)の存在下および不在下で実施した。
【0172】
【表14】

【0173】
表9に示されているとおり、メチルアミンのアンモニアでの置き換えは前処理でのグルカンおよびキシラン回収率に影響を有さない。単糖グルコースおよびキシロースの両方に対する糖化収率は、しかしながら、メチルアミンのアンモニアでの置換が大量になるほど、累進的に低下する(表9)。PEG2000を伴って行われる糖化と伴わずに行われる糖化との間の差異は、大部分において数パーセントのみである。収率の低減が伴ってしまうが前処理におけるメチルアミンのアンモニアでの置換、または、添加剤のコストが伴ってしまうが糖化におけるPEG2000の添加のいずれかで、糖質生成費用が削減されているかどうかを判定するためのプロセス全体の経済的分析が必要とされている。
【0174】
実施例12
メチルアミンおよび元素硫黄を用いるコーン穂軸、スイッチグラスおよびサトウキビバガスの有機溶剤溶液前処理
有機溶剤溶液+メチルアミン+元素硫黄前処理を、すべての事例においてバイオマスを1%元素硫黄(w/wバイオマス)と混合し、および、14%メチルアミン(w/wバイオマス)を含有するHO中の70%EtOH中に懸濁させたこと以外は、実施例10と同様の条件を用いて3種の異なる供給原料で試験した。スイッチグラスおよびサトウキビバガスは183℃で1時間加熱した。コーン穂軸は187℃で1時間加熱した。サンプルをHO中の70%EtOH(v/v)で洗浄し実施例10と同様に空気乾燥させ、次いで、糖化をPEG2000(バイオマスの0.5重量%)の存在下および不在下で実施したこと以外は実施例5に記載のとおり糖化させた。単糖収率が表10に示されている。
【0175】
【表15】

【0176】
単糖グルコース収率は異なる供給原料(例えば、コーン、スイッチグラスおよびバガス)の間でほとんど異なっておらず、PEG2000の添加の影響はほとんどない。オリゴ糖+単糖キシロースの全収率は3種の供給原料について同様であったが、単糖対オリゴ糖の比はかなり異なっており、単糖/オリゴ糖比はバガスが最も高く、コーン穂軸が最も小さかった。単糖形成の程度は、穂軸およびスイッチグラスについてはPEGの添加でいくらか増加したが、バガスではほとんど増加は見られなかった。異なる供給原料において可溶化されたキシロースオリゴ糖間の構造的差が単糖への酵素転換における差異の原因であり、前処理の効力によるものではない可能性が高い。
【0177】
これらの結果は、開発された前処理の、リグニン組成がかなり異なる(コーン穂軸、スイッチグラスおよびバガスでは、それぞれ、DMの約14%、23%および約25%)供給原料に対する適用可能範囲を実証する。
【0178】
実施例13
メチルアミンおよび硫黄の存在下で有機溶剤溶液を用いて前処理したコーン穂軸の酵素糖化の、希アンモニアで前処理されたコーン穂軸および未処理のコーン穂軸の酵素糖化に対する比較
元素硫黄およびメチルアミンを用いる有機溶剤溶液前処理
一方が0.5%および他方が1%元素硫黄(w/wバイオマス)を含む、2つのバッチの134g(8.4%含水量)ハンマーミルにかけたコーン穂軸を、各々、280mL EtOH、66.7mL水、53.3mLメチルアミン溶液(47.4g)中に懸濁させると共に、1L圧力容器中で、195℃に加熱し、その温度で機械攪拌しながら1時間保存した。次いで、各バッチをHO中の70%EtOH(v/v)で3回洗浄した。この材料を空気乾燥させると共に、2つのバッチをプールした。
【0179】
希アンモニア前処理:
5L反応器に仕込んだ713g(5.8%含水量)のハンマーミルにかけたコーン穂軸に、138.9gのNHOH溶液(29重量%NH)および491.1g追加の水を添加して、50%固形分内容物を得た。反応器を140℃に加熱し、その温度で20分保存した。次いで、NHを反応器を冷却しながらフラッシュし、次いで、減圧によりさらに除去した。反応器の内容物を取り出すと共に糖化に用いた。
【0180】
未処理のバイオマス:
未処理の(8.4%含水量)ハンマーミルにかけたコーン穂軸をこの糖化研究のための対照として用いた。
【0181】
グルカンおよびキシラン含有量をNREL手法(実施例1を参照のこと)を用いて測定した。加水分解された糖質の分析はHPLCにより行った(カラム温度が60℃の代わりに65℃であったこと以外は上記の方法を用いた)。この材料の糖化は、200rpmおよび48℃に設定した回転振盪機上の1Lガラスエルレンマイヤーフラスコ(Chemglass,Vineland,NJ)中で行った。比較糖化においては、5.4〜5.6の平均pHの75mmolクエン酸ナトリウム緩衝剤を用いてpHを調整した。加えて、ペニシリンおよびバージニアマイシン抗生物質の各々を5ppm添加して細菌の増殖を阻害すると共に、0.5%PEG2000(固形分の重量%)を添加してリグニンへの酵素吸着を低減させた。固形分は、18.3重量%炭水化物であった炭水化物含有量に基づいて仕込んだ((グルカン+キシラン)/(グルカン+キシラン+バイオマスに添加した液体の質量))。これは、有機溶剤溶液、希アンモニアおよび未処理材料のそれぞれに対して、20.8%、25.2%および25.6%の固形分仕込み量に相当する。用いた酵素は実施例1において記載されている。Spezyme:Novozyme188のタンパク質重量比は4:1であると共に、Spezyme/Novozyme188タンパク質の合計仕込み量は、高、中および低酵素仕込み量について、それぞれ、37.5、25および10mgタンパク質/1gのグルカンであった。Multifectは、高、中および低酵素仕込み量について、それぞれ、15、10および4mg/1gのキシランで仕込みした。1Lフラスコ中に緩衝剤、追加の水、酵素、界面活性剤および抗生物質を一緒に混合し、次いで、固形分の最初の60%を添加した。フラスコを加熱すると共に振盪した。1時間後、固形分の次の20%を各フラスコに添加した。固形分の最後の20%を3時間後に添加した。温度で反応を合計で96時間継続して混合し、その後、これらを取り出した。各々の代表サンプルを遠心分離容器に移し、遠心分離器中でスピンさせ、および、液体画分を傾瀉した。固体を水中に再懸濁させ、再度遠心分子にかけ、および、分離した液体を再度傾瀉した。これをさらに4回反復した。液体をHPLCを用いて単糖含有量について分析した。この硫酸(4%w/v)での洗浄画分の一部分を1時間、121℃で加水分解し、再度HPLCで分析することによりオリゴ糖含有量を測定し、単糖含有量の差をオリゴ糖に由来するものとみなした。酵素糖化によりもたらされた単糖およびオリゴ糖含有量は、フラスコ中の初期固形分中のグルカンおよび/またはキシランの初期量の収率として報告されている。これらの実験の結果は以下の表11に示されている。
【0182】
【表16】

【0183】
この比較研究は、希アンモニアプロセス、および、糖化器中に既述の実施例(14%w/w)よりもかなり高い固形分仕込み量(有機溶剤溶液に対して20.8%w/w)での前処理無しと比した、前処理されたコーン穂軸の糖化の促進における有機溶剤溶液/メチルアミン/硫黄前処理の効力を実証する。有機溶剤溶液前処理後の単糖+オリゴ糖への酵素転換は、高酵素仕込み量ではほとんど定量的である。すべての酵素仕込み量下で、有機溶剤溶液前処理は、単糖グルコースおよびキシロースへの、ならびに、単糖+オリゴ糖グルコースおよびキシロースへの最高の転換をもたらす。
【0184】
実施例14
メチルアミンおよび元素硫黄の存在下における有機溶剤前処理の種々の供給原料に対する性能の比較
リグニン含有量が異なる5種類の供給原料に対するメチルアミン(MA)および硫黄(S)での有機溶剤前処理の効果を比較するために、コーン穂軸(AIリグニンは乾燥物質(DM)の14%)、スイッチグラス(AIリグニンはDMの23.4%)、サトウキビバガスAI(DMのリグニン25%)、サトウキビわら(AIリグニンはDMの25%)およびユリノキ(AIリグニンはDMの20%)を、10または14%MAおよび元素Sを含有する水中の70%エタノール(v/v)中で、表1に詳述した条件を用いて処理した。次いで、前処理済バイオマスを洗浄し、乾燥させ、および、酵素糖化に供した。前処理に先立って、すべての供給原料を先ず1mmふるいを用いてナイフミル中で粉砕した。前処理は、MAおよびSを含有する水中の70%EtOH(v/v)中の示されている固形分仕込み量で実施し、示された温度および時間加熱した。サンプルをろ過し、次いで、70%EtOHで洗浄し、次いで、周囲温度で空気乾燥させた。前処理後のグルカンおよびキシラン含有量およびパーセント回収率が表12にまとめられている。次いで、48℃で、Spezyme CP:Mutifect Xylanase:Novozyme188を、6.68:3.34:1.67mg/gバイオマスの比で、50mm NaCitrate中に14%の固形分仕込み量で、pH4.7で用い、および、他の固形分仕込み量については50mm NaCitrate中の示された酵素仕込み量で、pH4.8〜4.9で用いてサンプルを糖化した。糖化は示された回数で実施した。単糖収率は、実施例1に示されているとおりHPLCにより測定し(60℃、0.01N HSO移動相でBioRad HPX−87Hカラム)、これらは、糖化器に入る前処理済バイオマスの糖質含有量を基準としている。合計糖質濃度(オリゴ糖+単糖)は、糖化の最後に上澄みを採り、および、4%HSO中でオートクレービングに121℃で1時間かけ、続く、HPLC分析により測定した。糖化結果は表13に示されている。
【0185】
これらの結果は、リグノセルロースバイオマスのメチルアミンおよび硫黄を含有する有機溶剤での前処理は、高度に保存されおよび富化されたグルカンおよびキシラン含有量を含む処理されたバイオマスを、リグニン含有量がかなり異なる幅広い範囲の供給原料にわたってもたらすことを示す。加えて、この前処理はその後の酵素糖化を促進させて、同一の群の供給原料について高い収率の可溶性糖質をもたらす。
【0186】
【表17】

【0187】
【表18】

【0188】
【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リグニンを含むリグノセルロースバイオマスを備えるステップ;
(b)アルカリ条件下で水および1つまたはそれ以上のアルキルアミンを含む有機溶剤溶液に(a)のバイオマスを懸濁させ、それにより、バイオマス−溶剤懸濁液を形成させるステップ;
(c)バイオマス−溶剤懸濁液を約100℃〜約220℃の温度に約5分間〜約5時間加熱し、それにより、リグニンを断片化させて、懸濁液中に溶解させるステップ;ならびに
(d)自由液体をろ過し、それにより、溶解リグニンを除去して炭水化物富化バイオマスを生産させるステップ
を含む炭水化物富化バイオマスを生産する方法。
【請求項2】
(e)ステップ(d)で生産したバイオマスを溶剤溶液で洗浄するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(f)ステップ(e)で生産したバイオマスを水で洗浄して、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生産させるステップ
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(e)で生産したバイオマスを乾燥させて、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生産させるステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(e)および(f)を1回またはそれ以上反復するステップをさらに含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
(c)の加熱ステップを密閉圧力容器中で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(d)のろ過ステップを加圧下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1つまたはそれ以上のアルキルアミンが、R−NH、R−NH、RN、(HN−R−NH)、(HN−R(NH)、(HO−R−NH)、((HO)−R−NH)、(HO−R−(NH)、(HS−R−NH)、((HS)−R−NH)、(HS−R−(NH)および(HN−R(OH)(SH)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、式中、Rは、独立して、一価、二価または三価の1〜6個の炭素を有する、直鎖、環式または分岐アルカン、アルケンまたはアルキンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
Rが、独立して、メチル、エチル、プロピルまたはブチルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルキルアミンがメチルアミンである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
アルキルアミンが、乾燥バイオマスの最大で約20質量%までの濃度である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)における有機溶剤溶液対バイオマスが約10:1〜0.5:1の質量比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(c)の加熱された懸濁液が、ステップ(d)におけるろ過ステップの前に室
温に冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(e)の後、ろ過されて洗浄されたバイオマスの溶剤を除去して、容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを生産させるステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
容易に糖化可能な炭水化物富化バイオマスを酵素集合体で糖化させ、それにより、発酵可能な糖質を生産させるステップをさらに含む、請求項3、4または14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(f)の水での洗浄後にバイオマスを酵素集合体と接触させるステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項17】
糖類を発酵させて標的生産物を生産させるステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
標的生産物が、アルコール、有機酸、アミノ酸およびガスからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
バイオマスが、スイッチグラス、古紙、製紙由来のスラッジ、トウモロコシ繊維、コーン穂軸、コーン包葉、コーン葉茎、草、コムギ、コムギわら、干草、オオムギ、オオムギわら、稲わら、サトウキビバガス、サトウキビわら、ユリノキ、モロコシ、大豆、穀粒の加工から得られる成分、高木、枝、根、葉、木片、おがくず、低木および潅木、野菜、果実、花、動物堆肥、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
実質的にリグニンを含まないバイオマスを生産するためのリグノセルロースバイオマスからリグニンを同時に断片化および選択的抽出する方法であって:
(a)
1)一定の量のリグノセルロースバイオマス;
2)水中に約40%〜約70%のエタノールを含む多成分溶剤溶液;ならびに
3)アルカリ条件下の1つまたはそれ以上のアルキルアミン
を備えるステップ;
(b)バイオマスを(a)の多成分溶剤溶液と接触させて溶剤−バイオマス混合物を形成させるステップ;
(c)該溶剤−バイオマス混合物を密閉圧力容器に入れ、それにより(b)の混合物を約100℃〜約220℃の温度で約5〜約5時間加熱し、それにより、リグニンを溶剤中に断片化および溶解させるステップ;
(d)(c)の溶解リグニンをろ過により除去するステップ;ならびに
(e)残存バイオマスを有機溶剤で洗浄し、それにより実質的にリグニンを含まないバイオマスを生産させるステップ
を含む、上記方法。
【請求項21】
ステップ(e)の溶剤が水を含有していてもよい、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(c)の温度が約165℃〜約195℃である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
(c)のステップが60分〜約140分行なわれる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
実質的にリグニンを含まないバイオマスが、バイオマスの元々の質量の約60%〜約100%である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
有機溶剤溶液が、アルカリもしくはアルカリ土類水酸化物もしくは炭酸塩、アンモニア、チオール、多硫化物、もしくは硫化物、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される1種または追加の成分をさらに含む、請求項1または20に記載の方法。
【請求項26】
溶剤溶液、および任意の未反応アルキルアミンまたは他の未反応成分が再生利用可能である、請求項1または20に記載の方法。
【請求項27】
有機溶剤溶液が、アルコール、ジオールおよび非プロトン性溶剤からなる群から選択される溶剤を含む、請求項1または20に記載の方法。
【請求項28】
有機溶剤溶液が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールおよびヘキサノール、その異性体およびそのジオールからなる群から選択される溶剤を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(a)のリグノセルロースバイオマスが、ステップ(a)〜(d)にわたって高度に保存される炭水化物含有量を有する、請求項1または20に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2012−512657(P2012−512657A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542372(P2011−542372)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/068224
【国際公開番号】WO2010/080434
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】