説明

酸化チタンゾル、それを用いた樹脂組成物、光学材料および光学素子

【課題】酸化チタン微粒子が溶媒中に分散した散乱の低い酸化チタンゾル及びそれを用いた光学材料を提供する。
【解決手段】少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、下記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有する酸化チタンゾル。前記酸化チタンゾルと、樹脂を含有する光学材料。


(式中、Rはメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表す。Xは−O−SO−R、−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rを表す。Rは炭素数1から16のアルキル基またはアリール基を表す。mは1以上3以下、nは1以上3以下の数値を表す。但し、m+n=4である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱の低い酸化チタンゾル、それを用いた樹脂組成物、光学材料および光学素子に関するものである。詳細には、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品用途の材料として有用な有機無機複合樹脂、光学材料および光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機無機複合樹脂は、ナノオーダーの無機微粒子がモノマー、オリゴマー、ポリマー等の樹脂中に均一に分散した複合樹脂である。それら複合樹脂はミクロンオーダーの無機微粒子が樹脂中に分散した材料に比べて、光学散乱特性、耐熱性、機械特性等の種々物性に優れている。
【0003】
特に光学分野においては、有機無機複合樹脂を用いて光学材料を調製することで、樹脂または無機物質単独では発現出来ない特性を有する光学材料の開発がなされている。例えば酸化チタンの無機微粒子をエネルギー重合可能なアクリルモノマー中に分散させた光学材料の検討が挙げられる。それらの光学材料は高屈折率、低アッベ数(νd)、高2次分散特性(θg、F)、また高透明性、高反射率、高耐熱性、高機械強度等の特性を有している。そのことから、ハードコート等の膜やレンズ等の形状に成形して有用な光学部材と利用することが期待されている。
【0004】
しかし一般的にシングルナノサイズから数十ナノサイズの無機微粒子は、有機溶媒中またはモノマー、オリゴマー、ポリマー等の樹脂中で極めて凝集体を形成し易い。その結果、散乱が生じ白濁が発生する。特にハードコートやレンズ等の光学部材に用いる場合には、凝集による散乱は避ける必要がある。現在、酸化チタンの無機微粒子を溶媒中に分散させたゾルが市販されているが、それらのゾルは白濁しており、散乱を抑制することが必要な光学材料等として用いるには不適当である。また、それらのゾルは経時安定性にも欠ける。
【0005】
ナノサイズの無機微粒子を樹脂中に均一に分散させるには、まずは溶媒中に無機微粒子が均一に分散されたゾルを調製し、これに樹脂を溶解させる方法が有効である。また分散剤や表面処理剤を溶媒若しくは樹脂中に添加することで酸化チタンを一次分散させ、安定化させる検討がなされている。特に散乱の発生を抑制する際には、無機微粒子またはその凝集体は、光の波長より十分に小さい状態で均一分散させておくことが必要である。
【0006】
そうした中で特許文献1には、加水分解性シランと、チタン化合物および/またはオルガノシロキサンオリゴマーと、金属酸化物微粒子が混合されたコーティング用組成物が記載されている。そして該組成物を乾燥膜厚が0.2μmになるように塗布した膜は透明性に優れていことが記載されている。しかしながら、前記組成により得られた組成物を塗膜にすることなく、溶媒を除去した場合、白濁が発生することがある。また、塗膜にした場合でも100μm以上の膜厚では白濁が発生する。
【0007】
また特許文献2では、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸を分散剤とし、トルエン中に酸化チタンを分散させ、得られた酸化チタンのゾルをビーズミルで粉砕処理し、遠心分離することにより比較的透明なゾルが得られることが記載されている。しかし得られたゾルは良好に凝集体を除去できていないためか、散乱を伴ったやや白濁の液である。
【0008】
また有機ポリマーとしてZEONEX(日本ゼオン株式会社製)をトルエン中に溶解させ、前記ゾルと混合した溶液を調製している。その溶液からトルエン溶媒を除去することでポリマー系ナノコンポジットを作製しているが、これも散乱を伴ったやや白濁の材料であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−99879
【特許文献2】特開2008−69046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の特許文献1、2に示す様に、酸化チタンの特性を損なわせることなく、酸化チタン微粒子が溶媒中に極めて散乱の低い状態で分散した酸化チタンゾル、および酸化チタン微粒子が樹脂中に分散した散乱の低い有機無機複合樹脂は実質的に得られていない。
【0011】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、酸化チタン微粒子が溶媒中に分散した散乱の低い酸化チタンゾルを提供することである。
また、本発明は、樹脂中に酸化チタンゾル微粒子が分散した散乱の低い樹脂組成物、光学材料および該光学材料を用いて作製された光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する酸化チタンゾルは、少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、下記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有することを特徴とする。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rはメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表す。Xは−O−SO−R、−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rを表す。Rは炭素数1から16のアルキル基またはアリール基を表す。mは1以上3以下、nは1以上3以下の数値を表す。但し、m+n=4である。)
【0015】
上記の課題を解決する酸化チタンゾルの製造方法は、少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、上記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有する混合溶液を分散処理して酸化チタンゾルを製造する方法において、メディアとしてビーズを用いたビーズミル分散処理する工程を有することを特徴とする。
【0016】
上記の課題を解決する樹脂組成物は、上記の酸化チタンゾルと、樹脂を含有することを特徴とする。
上記の課題を解決する光学材料は、上記の樹脂組成物からなることを特徴とする。
上記の課題を解決する光学素子は、上記の光学材料を用いて作製された光学素子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化チタン微粒子が溶媒中に分散した散乱の低い酸化チタンゾルを提供することができる。
また、本発明は、樹脂中に酸化チタンゾル微粒子が分散した散乱の低い樹脂組成物、光学材料および該光学材料を用いて作製された光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る酸化チタンゾルは、少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、下記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有することを特徴とする。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Rはメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表す。Xは−O−SO−R、−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rを表す。Rは炭素数1から16のアルキル基またはアリール基を表す。mは1以上3以下、nは1以上3以下の数値を表す。但し、m+n=4である。)
【0021】
次に、本発明の酸化チタンゾルに含有される各成分について説明する。
(酸化チタン微粒子)
本発明の酸化チタンゾルは、少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子を含有することを特徴とする。特に散乱の発生を抑制する際には、酸化チタン微粒子が溶媒の中で均一分散させておくことが必要である。また酸化チタン微粒子が凝集体となった場合でも、凝集体の粒子径が光の波長より十分に小さく、溶媒の中で均一分散していれば問題はない。
【0022】
本発明に用いられる酸化チタン微粒子としては、酸化チタンまたは酸化チタンと酸化チタン以外の他の化合物の複合物であってもよい。酸化チタン以外の他の化合物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウムなどのチタン酸塩類、窒素をドープした前記酸化チタン、およびチタン酸塩類が挙げられる。また酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化セレン、酸化インジウムスズ、酸化イットリウム等の酸化物、CdS、CdSe、ZnSe、CdTe、ZnS、HgS、HgSe、PdS、SbSe等の硫化物、GaN等の窒化物等の複合物であっても良い。これらを1種類、または2種以上を混合して用いることができる。またコア−シェル型微粒子とすることで、1種類の粒子に他の物質を被覆した微粒子を使用することもできる。
【0023】
本発明に用いられる酸化チタン微粒子の粒子径としては、平均一次粒子径が3nm以上50nm以下が好ましい。前記微粒子を光の波長より十分に小さい状態で均一分散させておくことで、散乱の低い均一分散したゾルや有機無機複合樹脂を得ることができる。平均一次粒子径は、好ましくは30nm以下であり、より好ましくは20nm以下であることが望ましい。3nm未満では結晶性等の低下や量子サイズ効果による特性変化により、結晶体等のバルクと比較して微粒子の特性は低くなる。そのため最終的な有機無機複合樹脂に高屈折率特性等、酸化チタン依存の特性を反映させたい場合は、微粒子種にもよるが3nm以上で用いることが好ましい。また、50nmより大きいと、凝集した際に、散乱の原因となる。
【0024】
また本発明において使用する酸化チタン微粒子は、ゾルゲル法等の湿式手法、CVD法等の乾式手法、直流プラズマアーク法、プラズマジェット法、高周波プラズマ法等のプラズマ法で製造できる。ゾルゲル法等の湿式手法、直流プラズマアーク法が生産性などの点から好ましい。
【0025】
本発明の酸化チタンゾルに含有される酸化チタン微粒子の含有量は、酸化チタンゾル全体に対して0.1重量%以上30.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以上20.0重量%以下である。含有量が30.0重量%より高すぎると、経時安定性が悪くなり、また散乱の元となる白濁やゲル化を生じやすくなる。含有量が0.1重量%未満と少ない場合は、高濃度の酸化チタンを含有したゾルが欲しい場合には量産効率が低くなる。また最終的に樹脂に混ぜて、溶媒を除去する必要がある場合は、溶媒除去のプロセスが長くなる。
なお、酸化チタンゾルに含有される酸化チタン微粒子の含有量(重量%)は、酸化チタン微粒子の重量×100/酸化チタンゾルの重量で表される。
【0026】
(チタネート系表面処理剤)
本発明における表面処理剤としては、下記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤が用いられる。
【0027】
【化3】

【0028】
一般式(1)において、Rはメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表す。
Xは、−O−SO−Rで表されるスルホン酸類、−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rで表されるホスホン酸類が挙げられる。Rは、炭素数が1から16個のアルキル基、またはアリール基を表す。アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
mは1以上3以下、nは1以上3以下の数値を表す。但し、m+n=4である。
【0029】
チタネート系表面処理剤の具体例としては、イソプロピルトリメチルスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(トリフルオロメチルスルホニル)チタネート、イソプロピルトリドデシルスルホニルチタネート、イソプロピルトリフェニルスルホニルチタネート、イソプロピルトリp―トルエンスルホニルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、ジイソプロピルビス(ドデシルベンゼンスルホニル)チタネート、トリイソプロピルドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、トリイソプロピル(ジオクチルピロホスフェート)チタネートが挙げられる。これらを1種類、または2種以上を混合して用いることができる。これらの中で、好ましいものとしては、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等が挙げられる。
【0030】
本発明における表面処理剤としては、酸解離定数がより大きい方が酸化チタン微粒子の分散安定化を図るのに望ましい。即ち、カルボン酸類よりも、ホスホン酸類の方が好ましく、更に好ましくはスルホン酸類である。一般的に微粒子を凝集なく分散させるためには、微粒子のゼータ電位の絶対値が大きいほうが有利である。ここでゼータ電位とは溶媒中に分散した微粒子表面に形成される電気二重層のうち、外側の層界面における電位のことである。このゼータ電位は溶媒のpHによって電位が0になる点、即ち等電点が存在するが、等電点付近では微粒子間に静電反発力が生じないため凝集が発生しやすい。そのため、等電点からpHを振ってゼータ電位の絶対値を大きくすると凝集しにくくなる。
【0031】
本発明における酸化チタン微粒子の等電点は粒径や溶媒にもよるが、一般にpH6から7の付近にあるため、より酸性側にpHを振ることがゼータ電位の点から有効である。塩基系の表面処理剤を用いることも可能であるが、着色等の点から有効な化合物は知られていない。従って、本発明の表面処理剤としては、一般式(1)で表されるXが−O−SO−Rで表されるスルホン酸類、または−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rで表されるホスホン酸類のチタネート系表面処理剤が有効である。
【0032】
本発明の酸化チタンゾルに含有されるチタネート系表面処理剤の含有量は、酸化チタン微粒子の重量に対して10.0重量%以上75.0重量%以下、好ましくは15.0重量%以上65.0重量%以下である。表面処理剤の含有量は、溶媒の種類や分散剤の種類、酸化チタン微粒子の平均粒子径等に応じて異なるが、最も好ましくは20.0重量%以上45.0重量%以下で用いることができる。表面処理剤の含有量が75.0重量%より高すぎると、下記に示す分散剤の場合と同様に微粒子起因の特性が低くなる。また含有量が10.0重量%未満ではゲル化や白濁を生じやすい。
【0033】
なお、酸化チタンゾルに含有されるチタネート系表面処理剤の含有量(重量%)は、(チタネート系表面処理剤の重量×100/酸化チタン微粒子の重量)で表される。
また最適な分散剤および表面処理剤の含有量を用いないと、分散処理の最中に、または樹脂を加え溶媒を除去する際に、ゲル化を生じる。
【0034】
(ポリエーテル系分散剤)
本発明に係る表面処理剤は、ポリエーテル系分散剤と併用することが必要である。
即ち、これらの極性基を有するポリエーテル系分散剤を用いた場合、アルコール系溶媒中において酸化チタン微粒子表面に電気二重層が形成されるため、微粒子の近接時に粒子表面に形成された電気二重層の重畳による反発ポテンシャルが発生する。特に上記のような酸性化によりゼータ電位の絶対値を大きくした場合は、粒子間に働く静電反発力によるポテンシャル障壁も大きくなるため、より効果的に微粒子の凝集を抑制できる。一方、無極性の分散剤を使用した場合、微粒子表面に電気二重層が有効に形成されないため、静電反発力によるポテンシャル障壁が小さくなり、酸性化によるゼータ電位増大の効果が十分でない。
【0035】
本発明におけるポリエーテル系分散剤としては、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ−2−プロピレングリコール、EMALEX100系、EMALEX500系、EMALEX600系、EMALEX700系、EMALEX DAPE系、EMALEX BHA系、EMALEX CS系、EMALEX1600系、EMALEX1800系、EMALEX OD系、EMALEX2400系、EMALEX PEL−12系、EMALEX800系、EMALEX PEIS−EX系、EMALEX OE系、EMALEX LWS系、EMALEX LWIS系、EMALEX CWS系、EMALEX SWS系、EMALEX PEG−di−L系、EMALEX PEG−di−S系、EMALEX PEG−di−IS系、EMALEX PEG−di−O系(日本エマルジョン株式会社製)が挙げられる。これらを1種類、または2種以上を混合して用いることができる。また併せてDISPERBYK−103、DISPERBYK−106、DISPERBYK−110、DISPERBYK−111、DISPERBYK−112、DISPERBYK−180(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、ソルスパーズ41090(日本ルーブリゾール株式会社製)を混合して用いることができる。
これらの中で、好ましいものとしては、ポリプロピレングリコール、ポリ−2−プロピレングリコールが挙げられる。
【0036】
本発明の酸化チタンゾルに含有されるポリエーテル系分散剤の含有量は、酸化チタン微粒子の重量に対して3.0重量%以上60.0重量%以下、好ましくは5.0重量部以上55.0重量%以下であり、更に好ましくは10.0重量%以上30重量%以下である。分散溶液中の分散剤の含有量が60.0重量%より高すぎると、分散溶液においてまたは樹脂を配合し溶媒を除去した際の有機無機複合樹脂組成物の状態において、分散剤の特性に影響され微粒子起因の特性が低くなる。分散溶液中の分散剤の含有量が3.0重量%未満ではゲル化や白濁を生じやすい。
なお、酸化チタンゾルに含有されるポリエーテル系分散剤の含有量(重量%)は、(ポリエーテル系分散剤の重量×100/酸化チタン微粒子の重量)で表される。
【0037】
(アルコール系溶媒)
本発明に使用されるアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、11−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられる。これらの中で、好ましいものとしては、エタノール、2−プロパノール、ブタノールが挙げられるが、実際の使用に際しては上述した表面処理剤や分散剤の相溶性、微粒子の分散性等に併せて用いることが好ましい。あまり沸点の高い溶媒を用いると、最終的に溶媒を除去する際に、より高温に加熱、減圧等することが必要になり微粒子の分散状態を破壊する場合がある。上記アルコール系溶媒は1種類、または2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
また必要に応じて、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒も微粒子の分散状態を損ねない程度に添加することが可能である。これによりアルコール系溶媒には溶解性の低い樹脂や添加剤等も加えることができる。
【0039】
尚、アルコール系溶媒および必要に応じて加えることが出来る上記溶媒については、より高純度の溶媒であって、水を含まない脱水した溶媒であることが好ましい。水分を多く含むと表面処理剤や分散剤の効果が薄れるためである。
【0040】
本発明の酸化チタンゾルに含有されるアルコール系溶媒の含有量は、酸化チタン微粒子の重量に対して180重量%以上100000重量%以下、好ましくは350重量%以上10000重量%以下である。含有量が100000重量%より高すぎると、ゾル中の微粒子濃度が希薄になり微粒子の分散処理に時間がかかり、ゾルの製造効率が良くない。また溶媒除去にも時間を要する。含有量が180重量%未満では、微粒子濃度が濃くなることから再凝集の可能性が高くなり、分散処理に時間を要する。またはその結果、白濁やゲル化等を生ずる。
【0041】
酸化チタンゾルに含有されるアルコール系溶媒の含有量(重量%)は、(アルコール系溶媒の重量×100/酸化チタン微粒子の重量)で表される。
本発明の酸化チタンゾルには、上記の成分以外にその他の成分として酸化防止剤、還元剤、紫外線吸収剤、離型剤等を含有することができる。
【0042】
次に、本発明の酸化チタンゾルの製造方法について説明する。
本発明の酸化チタンゾルの製造方法は、少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有する混合溶液を分散処理して酸化チタンゾルを製造する方法において、メディアとしてビーズを用いたビーズミル分散処理する工程を有することを特徴とする。
【0043】
具体的には、少なくとも上記に示したアルコール系溶媒に、ポリエーテル系分散剤と酸化チタン微粒子とチタネート系表面処理剤を順に加え、種々の方法によって分散させることで、酸化チタンゾルが得られる。分散方法としては、超音波ミル、サンドミル、ジェットミル、ディスクミル、ビーズミル等の分散機を用いて調製することができる。これによりアルコール系溶媒に酸化チタン微粒子の沈殿が生じない程度にプレ分散された酸化チタンゾルを得ることができる。この状態ではまだ微粒子の凝集が多数あり、ゾルは白濁し散乱している。なお、上記分散機の選択には、特に制限はなく酸化チタン微粒子の沈殿が生じない程度にプレ分散される程度の能力のもので良い。
【0044】
続いて、得られた白濁した酸化チタンゾルをビーズミル分散処理装置で処理することで極めて散乱の低い酸化チタンゾルを製造することができる。ビーズミル処理に用いるメディアにはジルコニア製のメディアを用いることが硬度の面から好ましい。メディアの平均一次粒径は10から50μmのサイズのものを用いることができる。
【0045】
ビーズミル分散処理のメカニズムは、溶液中でメディアとしてのビーズを所望の微粒子の凝集体に繰り返し衝突させ徐々に凝集体を解していくことで、微粒子の分散性を向上させるものである。メディアの粒子径が小さければ小さいほど、凝集体への衝突はマイルドになり、一度解れた微粒子の再凝集を発生させにくいものとなる。しかしながらメディアの粒子径が小さすぎても凝集体を解すのに時間がかかり過ぎてしまい効率的でない。そのため本発明に使用するシングルナノサイズから数十ナノサイズの無機微粒子を分散処理する場合は好ましくは15から30μmのサイズのものを使用することができる。また一度処理した溶液を循環させ、分散処理を繰り返すことで、より分散性を向上させることができる。
【0046】
本発明において、特に分散剤、表面処理剤の種類は、ゾルを製造する工程、ビーズミル分散装置で前記ゾルを分散処理する工程、樹脂組成物を製造する工程の全ての工程を鑑みて、最も慎重に選択しなければならない。上述した分散剤若しくは表面処理剤のどちらか片方だけしか配合されていない場合は、ゾルに樹脂等を加えた状態から溶媒を除去する過程でゲル化を発生することが多い。また両方が配合されている場合であっても、溶媒除去の直後にはゲル化を発生しなくとも、分散剤、表面処理剤の相性等により経時安定性が悪くなり、最終的にゲル化、再凝集を発生することも多い。即ち、本発明におけるアルコール系溶媒に該酸化チタン微粒子を均一に分散させ極めて散乱を低く安定的にゾルを得るためには、また樹脂組成物、光学材料を得るためには、該分散剤と該表面処理剤の二つは必須成分となる。
【0047】
次に、本発明の樹脂組成物について説明する。
本発明の樹脂組成物は、上記の酸化チタンゾルと、樹脂等を含有することを特徴とする。上記で得られた酸化チタンゾルに使用した溶媒に溶解可能な樹脂やエネルギー重合開始剤を酸化チタンゾルに加え、均一に相溶させることで、ハードコート等のコート剤として用いることができる極めて散乱の低いゾルとして本発明にかかる樹脂組成物を得ることができる。用いる樹脂と分散剤、表面処理剤、溶媒のそれぞれにおいて親和性、相溶性等に調和がとれている必要があり、その調和が乱れることで多くの場合、ゲル化や微粒子の凝集、析出により白濁を発生する。
【0048】
樹脂としては、微粒子、分散剤、表面処理剤、溶媒との親和性、相溶性等を考慮し、微粒子の分散性を損なわないように選択することが必要である。
樹脂としては、特に制限はないが、エネルギー付与により重合等による硬化反応をさせたい場合は少なくとも重合可能な不飽和官能基を有する樹脂が好ましい。樹脂としては、光重合または熱重合可能なアクリル系、メタクリル系、ビニル系、エポキシ系等の樹脂のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が挙げられる。樹脂の市販品の具体例としては、KAYARADO R−604、KAYARADO R−684(日本化薬株式会社製)、SR9003(サートマー社製)、EA−5520、EA−5521、EA−5821、EA−5921、EA−1026、EA−1028、A−DCP、DCP、A−DOD、DOD、A−PTMG65、A−TMPT−3EO、A−GLY、A−9300−1CL、BPE−80N、BPE−100、BPE−200、(新中村化学工業株式会社製)、ライトアクリレートTMP−A(共栄化学工業株式会社製)、BPEF−A(大阪ガスケミカル株式会社製)、UV1000−I5RE(三菱化学株式会社)等が挙げられる。またこれらのオリゴマー、ポリマー等の重合体でもよく、1種類、または2種以上を混合して用いることもできる。
【0049】
エネルギー重合開始剤としては、光重合開始剤、熱重合開始剤を用いることができる。本発明において、光重合可能な樹脂を用いる場合に用いる光重合開始剤は、ラジカル重合開始剤を利用して、光エネルギー照射によるラジカル生成機構を利用するものであり、通常、ハードコート等の成膜やレンズ等の成形に好ましい。光重合開始剤としては、具体的には、2―ベンジル―2―ジメチルアミノ―1―(4―モルフォリノフェニル)―1―ブタノン、1―ヒドロキシ―シクロヘキシル―フェニルケトン、2―ヒドロキシ―2―メチル―1―フェニル―プロパン―1―オン、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)―フェニルフォスフィンオキサイド、4―フェニルベンゾフェノン、4―フェノキシベンゾフェノン、4,4’―ジフェニルベンゾフェノン、4,4’―ジフェノキシベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0050】
重合可能な樹脂成分に対する光重合開始剤の添加比率は、光照射量、更には、付加的な加熱温度に応じて適宜選択することができ、また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調製することもできる。本発明の樹脂組成物に用いる光重合開始剤の添加量は、重合可能な樹脂に対して0.01重量%以上10.00重量%以下の範囲が好ましい。光重合開始剤は樹脂の反応性、光照射の波長によって1種類、または2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
また、本発明において光重合可能な樹脂を用いる場合における光重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤以外ではカチオン重合開始剤を利用して、光照射によるカチオン生成機構を利用することができる。酸素阻害を条件下で重合する場合の成膜、成形等に好ましい。前記光重合開始剤としては、代表的にはイルガキュア250が挙げられ、優れた硬化特性を示し、十分な紫外線照射等で低黄変性を実現できる。カチオン重合開始剤として具体的に挙げたが、これに限定されるものではない。
【0052】
また本発明において熱重合可能な樹脂を用いる場合には、熱重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を利用して、加熱によるラジカル生成機構を利用することができる。これらもハードコート、レンズ等の成膜、成形に好ましい。熱重合開始剤としては、例えば、アゾビソイソブチルニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキサイド、t―ブチルパーオキシピバレート、t―ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t―ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、t―ブチルパーオキシネオデカノエート、t―ヘキシルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等を挙げることができる。なお、重合可能な樹脂成分に対する熱重合開始剤の添加比率は、加熱温度、更には成形時の酸素存在量に応じて、適宜選択することができる。また、得られる成形体の目標とする重合度に応じて、調製することもできる。本発明の樹脂組成物に用いる熱重合開始剤の添加量は、重合可能な樹脂に対して0.01重量%以上10.00重量%以下の範囲が好ましい。熱重合開始剤は樹脂の反応性、所望の加熱温度によって1種類、または2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤は単独で使用することもできるし、両者を併用して使用することもできる。また光重合開始剤と熱重合開始剤を併用して使用することもできる。また樹脂としては、熱可塑性樹脂を混合、併用しても良い。具体的にはポリメチルメタクリレートやポリカーポネート等が挙げられる。
【0054】
次に、本発明の光学材料について説明する。
本発明の光学材料は、酸化チタンゾルに、樹脂と共にエネルギー重合開始剤等を配合した樹脂組成物から、アルコール系溶媒を除去することで、エネルギー重合可能な光学材料となることを特徴とする。前記光学材料を用いて光学素子は作製される。
【0055】
本発明の光学材料に含有される酸化チタン微粒子の含有量は、樹脂の重量に対して0.1重量%以上65.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以上45.0重量%以下である。含有量が65.0重量%より高すぎると、ゲル化や白濁を生じやすい。含有量が0.1重量%未満では、微粒子以外の特性に影響され微粒子起因の特性が低くなる。
【0056】
なお、光学材料に含有される酸化チタン微粒子の含有量(重量%)は、(酸化チタン微粒子の重量×100/樹脂の重量)で表される。
次に、本発明の光学材料から、光重合機構を利用することで光学素子を形成する工程について述べる。
【0057】
光学素子を成形する基板となるガラス製のレンズ上に前記光学材料を層構造に形成する際には、例えば前記レンズと、対応する金型の両者の間に光学材料を流し込み、軽く抑えることで型成形を行う。その状態に保ったまま光学材料の光重合を行う。かかる光重合反応に供する光照射は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に対応して、好適な波長の光、通常紫外光もしくは可視光を利用して行う。具体的には、レンズを介して、成形されている光学材料に対して、均一に光照射を実施する。照射される光量は、光重合開始剤を利用したラジカル生成に起因する機構に応じて、また、含有される光重合開始剤の含有比率に応じて、適宜選択される。続いて該レンズと一体となった光学材料を金型より離型することで、片面がガラス製のレンズで、残りの面が光学部材の光学素子が得られる。
【0058】
また必要に応じて、前記ガラス製のレンズと一体となった光学材料と、別のガラス製のレンズを用いることでガラス製のレンズに挟まれた光学素子を得ることができる。例えば、前述した光学素子の光学材料側の面と、対応する別のガラス製のレンズの両者の間に、同様の光学材料を流し込み、軽く抑えることで成形を行う。その状態に保ったまま光学材料の光重合を行う。それにより光学材料がガラス製のレンズに挟まれた光学素子を得ることができる。
【0059】
本発明は上記と同様にして熱重合法により光学素子の作製を行うこともでき、この場合、レンズや光学材料等の全体の温度をより均一にすることが望ましい。
以上より、得られた光学素子は任意の金型等形状を用いることで、例えば、投影光学系や撮像光学系の屈折光学素子、回折光学素子として用いることができる。また任意の形状、膜に成形することで、レンズ等の光学用途の他、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品用途、ハードコートを代表した各種膜用途の材料に用いることができる。
【実施例1】
【0060】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がそれらによって何ら制限されるものではない。
下記に実施例1から実施例8を示す。
【0061】
<実施例1>
アルコール系溶媒としてエタノール564.0重量部に、分散剤としてポリ―2−プロピレングリコール5.5重量部と、平均一次粒径5nmの酸化チタン微粒子30.4重量部と、表面処理剤としてイソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート10.0重量部を順に加え、超音波ミルを用いて攪拌して、プレ分散した酸化チタンゾルを得た。得られた酸化チタンゾルは、沈殿を発生することはないものの白濁しており散乱している状態であった。
【0062】
なお、溶媒、分散剤、表面処理剤の含有量は酸化チタン微粒子の重量に対して、それぞれ1855.6重量%、18.1重量%、32.9重量%になるように調製した。
続いて上記で調製した酸化チタンゾルに、メディアの平均一次粒径が15μmのジルコニアビーズ(高周波熱錬株式会社製)を400.0重量部加えた。ジルコニアビーズの含有量は、酸化チタン微粒子の重量に対して1315.1重量%である。酸化チタンゾルとジルコニアビーズを混合した溶液をビーズミル分散装置(寿工業株式会社製)にて循環させ繰り返し分散処理することで、酸化チタン微粒子が5.0重量%で分散した本実施例の酸化チタンゾル101を得た。
【0063】
<実施例2>
実施例1の酸化チタン微粒子の平均一次粒径を13nmにした以外は実施例1と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル102を得た。
【0064】
<実施例3>
実施例1の酸化チタン微粒子の平均一次粒径を47nmにした以外は実施例1と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル103を得た。
【0065】
<実施例4>
実施例2の表面処理剤をイソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネートにした以外は実施例2と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル104を得た。
【0066】
<実施例5>
実施例2の分散剤の量を酸化チタン微粒子の重量に対して8.9重量%とした以外は実施例2と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル105を得た。
【0067】
<実施例6>
実施例2の分散剤の量を酸化チタン微粒子の重量に対して50.2重量%とした以外は実施例2と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル106を得た。
【0068】
<実施例7>
実施例2の表面処理剤の量を酸化チタン微粒子の重量に対して17.1重量%とした以外は実施例2と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル107を得た。
【0069】
<実施例8>
実施例2の表面処理剤の量を酸化チタン微粒子の重量に対して63.1重量%とした以外は実施例2と同様に行い、本実施例の酸化チタンゾル108を得た。
【0070】
次に、比較例1から比較例7を示す。
<比較例1>
実施例2の表面処理剤をシランカップリング剤KBM−3103(信越化学株式会社製)にした以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル201を得た。
【0071】
<比較例2>
実施例2の表面処理剤をシランカップリング剤KBM−503(信越化学株式会社製)にした以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル202を得た。
【0072】
<比較例3>
実施例2の表面処理剤を添加しなかった以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル203を得た。
【0073】
<比較例4>
実施例2の分散剤を添加しなかった以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル204を得た。
【0074】
<比較例5>
実施例2の表面処理剤をシランカップリング剤KBM−3103(信越化学株式会社製)にして、分散剤を添加しなかった以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル205を得た。
【0075】
<比較例6>
実施例2の溶媒をトルエンにした以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル206を得た。
【0076】
<比較例7>
実施例2の表面処理剤をプレンアクトKR TTS(カルボン酸系化合物、味の素ファインテクノ株式会社製)にした以外は実施例2と同様に行い、酸化チタンゾル207を得た。
【0077】
実施例1から実施例8、比較例1から比較例7で得られた酸化チタンゾルにおける微粒子の分散状態の結果を表1および表2に示す。
表において、白濁の有無、ゲル化の有無について○×で評価した。
【0078】
(白濁の有無の評価)
得られた酸化チタンゾルを2mm厚の石英セルに入れ、波長430nmの光を照射して散乱率を測定した、その結果、散乱率が0.01%以上1.0%未満のものを○、1.0%以上のものを×とした。
【0079】
(ゲル化の有無の評価)
分散処理中、若しくは分散処理後3ヶ月の間にゲル化が発生しなかったものを○、ゲル化が発生したものを×とした。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
実施例1から実施例8で得られた本発明に係る酸化チタンゾル101から108は、極めて散乱が少なく、またゲル化することもなく安定な微粒子分散状態であった。比較例4および比較例5で得られた酸化チタンゾル204および205はゲル化することはなかったものの、散乱率が1.0%以上あり、若干の白濁が観察された。他の比較例で得られた酸化チタンゾルは光をほとんど透過せず、または明確に白濁しており、若しくはゲル化することで白濁を発生した。
【0083】
次に、実施例1から実施例8、比較例1から比較例7で得られた酸化チタンゾルのうち、ゲル化しなかった実施例1から実施例8の酸化チタンゾル101から108と、比較例4および比較例5の酸化チタンゾル204および205を用いて光学材料を製造した。
【0084】
下記に実施例9から実施例18に示す。
<実施例9>
実施例1で得られた酸化チタンゾル101の100重量部に、樹脂(KAYARADO R−604、日本化薬株式会社製)を78.1重量部、光重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャリティケミカルズ社製)を2.4重量部を添加し相溶させて樹脂組成物を得た。得られた溶液から溶媒を減圧除去して本実施例の光学材料301を得た。
なお、酸化チタン微粒子の含有量は前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。また光重合開始剤の含有量は前記樹脂に対して3.0重量%になるように調製した。
【0085】
<実施例10>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル102を用いた以外は実施例9と同様に行い、本実施例の光学材料302を得た。
【0086】
<実施例11>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル103を用いた以外は実施例9と同様に行い、本実施例の光学材料303を得た。
【0087】
<実施例12>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル104を用いた以外は実施例9と同様に行い、本実施例の光学材料304を得た。
【0088】
<実施例13>
実施例10の酸化チタン微粒子の含有量を前記樹脂に対して22.0重量%になるように調製した以外は実施例10と同様に行い、本実施例の光学材料305を得た。
【0089】
<実施例14>
実施例10の酸化チタン微粒子の含有量を前記樹脂に対して47.1重量%になるように調製した以外は実施例10と同様に行い、本実施例の光学材料306を得た。
【0090】
<実施例15>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル105を用いて、同様の手法により、酸化チタン微粒子の含有量が前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。それにより本実施例の光学材料307を得た。
【0091】
<実施例16>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル106を用いて、同様の手法により、酸化チタン微粒子の含有量が前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。それにより本実施例の光学材料308を得た。
【0092】
<実施例17>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル107を用いて、同様の手法により、酸化チタン微粒子の含有量が前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。それにより本実施例の光学材料309を得た。
【0093】
<実施例18>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル108を用いて、同様の手法により、酸化チタン微粒子の含有量が前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。それにより本実施例の光学材料310を得た。
【0094】
下記に比較例8から比較例9を示す。
<比較例8>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル204を用いた以外は実施例9と同様に行い、本実施例の光学材料401を得た。
【0095】
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル204を用いて、同様の手法により、酸化チタン微粒子の含有量が前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。それにより本実施例の光学材料401を得た。
【0096】
<比較例9>
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル205を用いた以外は実施例9と同様に行い、本実施例の光学材料402を得た。
【0097】
実施例9の酸化チタンゾル101の代わりに酸化チタンゾル205を用いて、同様の手法により、酸化チタン微粒子の含有量が前記樹脂に対して6.4重量%になるように調製した。それにより本実施例の光学材料402を得た。
【0098】
実施例9から実施例18、比較例11から比較例12で得られた光学材料をそれぞれ0.5mmのスペーサーを介した2枚のガラス板からなる成形型内に注入し、紫外光を照射強度20mW/cmで上下から300秒間照射し硬化させた。ガラスを離型後、60℃空気中で15時間加熱して、光学材料の硬化物を得た。
【0099】
以上、実施例9から実施例18、比較例8から比較例9で得られた光学材料の硬化物における微粒子の分散状態の結果を表3および表4に示す。
表において、白濁の有無、ゲル化の有無について○×で評価した。
【0100】
(白濁の有無の評価)
前記硬化物の波長430nmにおける光の散乱率を測定した結果、散乱率が0.1%以上3.5%未満のものを○、3.5%以上のものを×とした。
【0101】
(ゲル化の有無の評価)
酸化チタンゾルに樹脂と光重合開始剤を添加、相溶させた樹脂組成物から溶媒を減圧除去した後にゲル化が発生しなかったものを○、ゲル化が発生したものを×とした。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
実施例9から実施例18で得られた本発明に係る光学材料301から310は、極めて散乱が少なくゲル化することなく安定な微粒子分散状態であった。また硬化物も同様に散乱が少なかった。
比較例8および比較例9で得られた光学材料401および402は溶媒を減圧除去中、若しくは減圧除去後にゲル化した。
【0105】
<光学素子の成形>
実施例14で得た光学材料306を用いて、前記記載の光重合機構を利用した方法により、二枚のガラス製のレンズで挟んだ光学素子を作製した。得られた光学素子は非常に散乱が低く良好であった。
【0106】
これより、本発明に係る酸化チタンゾルは、散乱の極めて少ないものであることを確認した。また、該酸化チタンゾルを用いて製造された光学材料も同様に散乱の極めて少ないものであることを確認した。また、該光学材料を用いて製造された光学素子も散乱の少ない良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、酸化チタン微粒子が溶媒に分散した散乱の極めて少ない酸化チタンゾルが得られる。また該酸化チタンゾルを用いることで、樹脂に酸化チタン微粒子が分散した極めて散乱の少ない有機無機複合樹脂組成物、光学材料及び光学素子が得られる。本発明の光学材料は、具体的には、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品材料、電気・電子部品用途の材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、下記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有することを特徴とする酸化チタンゾル。
【化1】

(式中、Rはメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表す。Xは−O−SO−R、−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rを表す。Rは炭素数1から16のアルキル基またはアリール基を表す。mは1以上3以下、nは1以上3以下の数値を表す。但し、m+n=4である。)
【請求項2】
少なくとも平均一次粒子径が3nm以上50nm以下の酸化チタン微粒子、下記一般式(1)で表される化合物からなるチタネート系表面処理剤、ポリエーテル系分散剤およびアルコール系溶媒を含有する混合溶液を分散処理して酸化チタンゾルを製造する方法において、メディアとしてビーズを用いたビーズミル分散処理する工程を有することを特徴とする酸化チタンゾルの製造方法。
【化2】

(式中、Rはメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表す。Xは−O−SO−R、−O−P(OH)O−O−PHO−O−Rを表す。Rは炭素数1から16のアルキル基またはアリール基を表す。mは1以上3以下、nは1以上3以下の数値を表す。但し、m+n=4である。)
【請求項3】
請求項1に記載の酸化チタンゾルと、樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする光学材料。
【請求項5】
請求項4に記載の光学材料を用いて作製された光学素子。

【公開番号】特開2011−126946(P2011−126946A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284553(P2009−284553)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】