説明

酸化チタン含有ナイロン66樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 酸化チタンが微細粒子で均一に分散された、酸化チタンを多量に含有する製糸用ナイロン66樹脂組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】
酸化チタンを含有するナイロン66の重合または、ナイロン66を主体とした他のポリアミドを共重合する際に、ポリマー温度が216℃以上230℃以下の温度範囲内で、100重量部のナイロン66樹脂に対して1重量部から5重量部以下の酸化チタンを添加して得られたことを特徴とするナイロン66樹脂組成物およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー中の酸化チタンの分散が良好、かつ酸化チタンを高濃度で含有するナイロン66樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【0002】
さらに詳しくは、ナイロン66以外の共重合成分を2重量部以下とし、重合時に酸化チタンを添加することによって得られる、酸化チタンを高濃度で含有するナイロン66樹脂組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリアミドは、ポリエステルとともに衣料用、産業用等の繊維用途あるいはプラスチック用途として幅広く用いられている。これらには酸化チタンを艶消し剤や不透明性付与を目的として添加することが広く行われている。
【0004】
汎用樹脂であるナイロン66は、強度、耐久性、ストレッチ性、染色性に優れている。同じ汎用樹脂であるナイロン6と比較した場合、高い耐熱性に由来して、加工性に優れているといった利点を有し、つや消しや不透明性を付与する酸化チタンを含有したナイロン66樹脂は、繊維用途として広く生産されてきた。しかし、酸化チタンを含有するナイロン66は、ポリマー中の酸化チタンの分散性が不十分であると、紡糸時等における糸切れ、紡糸機内での濾過圧力上昇等の重大なトラブルを引き起こすことが、問題点とされてきた。
【0005】
酸化チタンを含有するナイロン66樹脂を製造するにあたって、従来、以下の方法が取られてきた。
(1)重合前あるいは重合中に酸化チタンを原料系に添加する重合時添加方法。
(2)重合後、混練機等により、酸化チタン粉末をポリアミドに練り込むアフターダリング方法。
(3)マスターバッチと呼ばれる高濃度の酸化チタンを含有するナイロン66樹脂のペレットを製造し、それと酸化チタン濃度が低いまたは含有しないナイロン66樹脂ペレットをブレンドして製糸し、所定量の酸化チタンを含有する糸品種を製造するチップブレンド方法。
【0006】
本発明で用いる重合時添加処方は、ナイロン66の原材料であるヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸、またはその塩(以下AH塩と略す)等の水溶液の電気特性から、酸化チタンが非常に凝集しやすい特性を有し、特に酸化チタン濃度が高い場合、酸化チタンの分散性に優れたナイロン66繊維用樹脂を得ることは困難であるといった問題点を有していた。
【0007】
しかし、アフターダリングやチップブレンド法で問題とされてきたポリマー中の酸化チタン濃度バラツキが非常に小く、またさらに酸化チタンをポリマー中に導入する後工程を必要とせず、コスト面で優れているため、重合時添加処方で高濃度の酸化チタンを含有するナイロン66樹脂組成物を得ることが望まれてきた。
【0008】
工業的には重合初期段階において、酸化チタンの水スラリーを原料に添加する方法が、広く実施されている。
【0009】
酸化チタンの重合時における添加時期は、重合系中のAH塩やその他添加剤等のイオン濃度から考えると、重合後半が望ましく、逆に酸化チタンが均一に混合し分散するためには、水分率が高く、粘度の低い重合初期が望ましいと考えられている。
【0010】
酸化チタンを重合系に添加する際に、酸化チタンの分散性向上の方法として、特許文献1では原料のナイロン66原料であるAH塩が沸騰状態でかつ重合系の粘度が高くない重合系の温度が210℃以上215℃以下の範囲内で酸化チタンを水スラリーで添加する方法を提案しているが、添加剤としてモノカルボン酸、またはモノアミンやマンガン化合物を有するような酸化チタンの凝集しやすい重合系では、分散性は不十分である。
【0011】
特許文献2では、総重合時間を関数として酸化チタン水スラリー添加時期を規定する製造方法を提案しているが、酸化チタンの凝集は、重合系内の状態が重要であり、使用する重合缶が限定される。
【0012】
また、いずれの方法も、実施例において100重量部のナイロン66樹脂組成物に対して、酸化チタン濃度が0.3重量部と低く、1重量部以上の酸化チタンを含有するナイロン66樹脂組成物の分散性の改善が困難であることに対する記述も示唆もなされてない。
【0013】
また、特許文献3では酸化チタン水スラリーとε−カプロラクタムとを混合し、混合スラリーとして原料AH塩水溶液中に添加することによって酸化チタンの分散性が改善する方法等を提案している。しかし、添加する酸化チタンが増加する場合、ε−カプロラクタムによる分散性の向上は不十分であり、改善が望まれてきた。
【特許文献1】英国特許554718号明細書(第2ページ48行〜57行)
【特許文献2】特開平5−9292号公報(〔0008〕〜〔0011〕段落)
【特許文献3】特公昭62−32212号公報(第2欄20行〜第3欄10行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は従来技術をさらに改良し、酸化チタンの高い分散性を有し、かつ酸化チタンを高濃度で含有するナイロン66樹脂組成物およびその製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、艶消しの目的で添加する酸化チタンを、高濃度で含有するナイロン66樹脂組成物において、酸化チタンの分散性を向上させるために鋭意検討した結果、上記課題を解決できる方法を見出した。
【0016】
酸化チタンを含有するナイロン66の重合または、ナイロン66を主体とした他のポリアミドを共重合する際に、ポリマー温度が216℃以上230℃以下の温度範囲内で、100重量部のナイロン66対して1.0重量部から5.0重量部の酸化チタンを添加して得られたことを特徴とするナイロン66樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸化チタンの分散性の優れた繊維原料用酸化チタン高含有ナイロン66樹脂組成物およびその製造方法は、次の効果を奏する。
【0018】
酸化チタンが、ポリマー中に微細粒子で分散よく配合されているため、ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して1重量部以上と高い割合で酸化チタンを含有したナイロン66ペレットであっても、酸化チタン粗大粒子数や、濾過圧力上昇が低く、製糸工程で使用した場合、紡糸濾過圧力上昇等の製糸トラブルを減少できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明について説明する。
【0020】
本発明でのナイロン66樹脂組成物は、酸化チタンを含有するナイロン66またはナイロン66成分を主体とした共重合体であっても構わない。ナイロン66成分を主体とする共重合体とは、他の共重合体成分の重量がナイロン66の有する耐熱性、加工性の特性を損なわない程度とし、好ましくは、共重合成分が、ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して2重量部以下、さらに好ましくは1.5重量部以下である。ナイロン66共重合成分は、ナイロン66の特性を損なわないためにアミド結合が主鎖に介在した重合体が好適に用いることができ、たとえば66/6、66/6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体)等が挙げられる。
【0021】
酸化チタンの含有量は、ナイロン66樹脂100重量部に対して、1重量部以上5重量部以下とすることが必要である。1重量部未満では、紡糸した際に、つや消し効果が十分でなく、5重量部より多い場合は、粗大粒子数の抑制が困難であり、実用的ではない。
【0022】
酸化チタンには結晶形態が異なるルチル型とアナターゼ型がある。ルチル型は硬度が大きいため、糸の加工時に使用する金属ピンなどを磨耗させるので、製糸用途としては、アナターゼ型が通常用いられ、本発明もアナターゼ型が好ましい。また、酸化チタンには、対候性を改良されたものや、分散性を向上させるために金属化合物がコーティングされているものもあるが、本発明で使用する酸化チタンは、水中で分散性が良好であれば、特に限定されるものではない。また、分級、ろ過、粉砕等の操作を行うことになんら問題はない。
【0023】
酸化チタンは、一般的には水スラリーとして添加する。その際に、糸の強度や伸度低減の原因となる球晶の発生を抑制するために、ε−カプロラクタム等の共重合成分を併用添加してもよい。これらの添加量は、ナイロン66の特性を損なわないためにナイロン66樹脂組成物100重量部に対して0.1重量部以上2重量部以下が好ましく、0.5重量部以上1.5重量部以下がより好ましい。また、酸化チタンの分散性を高めるために、分散向上剤を添加する場合は、分散向上剤を酸化チタン水スラリー中に併用添加してもよいし、また酸化チタン分散向上剤をAH塩水溶液中に添加しても構わない。分散向上剤は、アニオン、カチオン、ノニオン性のものがあり、いずれを使用しても構わないが、酸化チタンの水中の帯電状態から、アニオン界面活性剤が好ましい。
【0024】
酸化チタンを含有するナイロン66樹脂組成物は、光により酸化チタンが反応し、酸素ラジカルを発生しやすく、酸化チタンを含有しないナイロン66と比較して耐候性が悪いため、耐候剤を添加してもよい。気候剤として、マンガン化合物が広くナイロンに添加され、例えば、塩化マンガン、硼酸マンガン、ピロリン酸マンガン、次亜燐酸マンガン、珪酸マンガン、コハク酸マンガン、吉草酸マンガン、ヨウ化マンガン、燐酸水素マンガン、酢酸マンガン、シュウ酸マンガン、酒石酸マンガン、クエン酸マンガン、安息香酸マンガン、サルチル酸マンガン、グリセロリン酸マンガン、乳酸マンガン、フェノールスルホン酸マンガンが挙げられる。
【0025】
このマンガン化合物の添加量は、ポリマーの用途に応じた量とすればよく、一般的にはナイロン66樹脂組成物に対して、Mn換算で2ppm以上20ppm以下の範囲がとられる。
【0026】
粘度安定化のために、モノカルボン酸、モノアミンを添加してもよい。このうち酢酸は、安価であること等により工業的に広く使用されている。酢酸の添加量は、ポリマーの用途に応じた量とすればよく、一般的には、AH塩に対して0.1モル%以上1.0モル%以下である。
【0027】
また、用途に応じてジアミンやジカルボン酸などの末端基調整剤、耐熱剤、制電剤等を配合してもよい。
【0028】
酸化チタンの重合系への添加時期は、ポリマー温度が216℃以上230℃以下とする。216℃未満であると、重合系にAH塩、AH塩オリゴマーや添加剤等のイオン濃度が高く、酸化チタンが凝集しやすい。また、231℃以上であると、系の反応が進行し、水分率の低下や、粘度が上昇することで、酸化チタンの分散性が不十分となる。
【0029】
ナイロン66樹脂組成物の酸化チタン含有量が大きくなるのに比例して、添加する酸化チタンスラリー液量が増大するため、添加時に重合系内の圧力・温度の急激な変動を制御する目的で添加流量を調整する場合がある。その際、酸化チタンスラリー全量を連続で導入しても、複数回に分けて導入するバッチ式でも、ポリマー温度が上記範囲内であれば差し支えない。
【0030】
本発明では、ナイロン66樹脂組成物の5μm以上の酸化チタン粗大粒子数が、ナイロン66樹脂組成物1gあたり600個以下であることが必須である。この範囲より粗大粒子が多い場合、紡糸時のろ過圧力上昇が大きく、糸切れが起こるなどの製糸操業性悪化の原因となる。製糸操業性の観点から、好ましくは400個以下、さらに好ましくは200個以下である。
【実施例】
【0031】
以下の実施例中の物性は、次のようにして得られた。
【0032】
酸化チタン粗大粒子数(個/g):得られたペレットのサンプル50mgを再溶融して10μmの薄膜状とし、光学顕微鏡(ニコン社製FX−21、倍率100倍)で5μm以上の大きさの酸化チタン粒子を数えた。
【0033】
濾過圧力上昇速度(MPa/hr):ペレットを310℃で溶融し、目開き3μmのフィルターで1.3g/cm2・minの速度で5時間濾過した。この時間単位当たりの濾過圧力の上昇速度を濾過圧力上昇速度とした。
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0035】
(実施例1、比較例1,2)
AH塩85%水溶液29Kg、酢酸(AH塩100molに対して0.005mol)、塩化マンガン(ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して、マンガン量換算で10ppm)、アジピン酸(AH塩100molに対して0.0015mol)80リットルのステンレス製オートクレーブに投入し、缶内の酸素を窒素置換後密封し、缶内の温度が表1に示したポリマ温度に到達した時点で、水スラリー化した酸化チタン(319g、ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して1.5重量部)を添加した。酸化チタンスラリー添加終了後のポリマー温度は、表1に示す通りである。さらにポリマー温度が255℃になるまで内圧が1.7MPaを超えないように保持し、攪拌しながら加熱昇温し重合反応を進めた。ポリマー温度255℃に到達後、90分間で缶内圧を大気圧まで放圧を行い、重合反応を終了した。重合終了後、缶内の液相重合ポリマーをストランド状に押し出し、冷却、ペレタイズ化した。得られたペレットに対して、濾過圧力上昇速度(MPa/Hr)およびチタン粗大粒子数を求めた結果を表1にまとめた。
(実施例2)
水スラリー化した酸化チタン(319g、ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して1.5重量部)にε−カプロラクタム213g(ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して1.0重量部)を予め混合し、実施例1と同様の操作を行った。得られた結果を表1に示した。
(実施例3)
原料として、AH塩85%水溶液29Kg、酢酸(AH塩100molに対して0.005mol)、塩化マンガン(ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して、マンガン量換算で10ppm)、アジピン酸(AH塩100molに対して0.0015mol)、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合塩16g(酸化チタン100重量部に対して5重量部)を80リットルのステンレス製オートクレーブに投入し、以下実施例1と同様の操作を行い、結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に、それぞれの得られたペレットについての測定結果を示した。
【0038】
本発明によれば、酸化チタンの添加終了時を216℃以上230℃以内とすることで、濾過圧力速度、凝集酸化チタン数は、比較例より低い値を示し、酸化チタンの分散性が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のナイロン66樹脂に対して1重量部から5重量部以 下の酸化チタンを含有し、かつ共重合成分が、ナイロン66樹脂組成物100重量部に対して2重量部以下であることを特徴とするナイロン66樹脂組成物。
【請求項2】
5μm以上の酸化チタン粗大粒子数が、ナイロン66樹脂組成物1gあたり600個以下であることを特徴とする請求項1に記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項3】
酸化チタンがアナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項4】
ナイロン66樹脂組成物を製造するにあたり、ポリマー温度が216℃以上230℃以下の温度範囲内で、ナイロン66樹脂に酸化チタンを添加して得られたことを特徴とする、酸化チタンを含有するナイロン66樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
酸化チタンがアナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする請求項4に記載のナイロン66樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−83255(P2006−83255A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268143(P2004−268143)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】