説明

酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法、並びに酸化チタン微粒子及び有機ポリマーを含むポリマー系ナノコンポジットの製造方法

【課題】酸化チタン微粒子が非水性溶媒中に均一に分散した非水性分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化チタン微粒子を、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸からなる分散剤とともに、非水性溶媒に混合した後、湿式粉砕する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン微粒子を含む非水性分散液の製造方法、並びに酸化チタン微粒子及び有機ポリマーを含むポリマー系ナノコンポジットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー系ナノコンポジットは、ナノオーダーの無機微粒子(ナノ粒子、粒径:通常1〜100 nm)が有機ポリマー中に微分散した複合材料であり、ミクロンオーダーの無機微粒子が有機ポリマー中に分散した複合材料に比べて各種物性(例えば耐熱性、耐ガス透過性等)に優れている。光学材料分野では、ポリマー系ナノコンポジットにより光学部品を形成し、光学部品の高屈折率化、高アッベ数化、高耐熱化、高透明化、軽量化等を図ることが検討されている。例えば酸化チタン微粒子をポリカーボネート樹脂中に高分散させたポリマー系ナノコンポジットの調製が検討されている。
【0003】
しかし一般的にナノ粒子は凝集体を形成しやすく、しかも有機ポリマーに対する親和性が低いので、有機ポリマー中に均一に分散させるのが極めて困難である。特にポリマー系ナノコンポジットを光学材料に用いるには、光の波長より十分に小さい径の粒子を用いる必要があるので、なおさら均一分散が困難である。
【0004】
ナノ粒子を有機ポリマー中に高分散させるには、まず非水性溶媒中でナノ粒子を高分散させたスラリーを調製し、これに有機ポリマーを分散又は溶解させる方法が有効である。非水性溶媒としては、無極性又は低極性の溶媒が好ましい。しかし一次粒子径が10 nm以下の酸化チタンナノ粒子の分散液として、水等の極性溶媒コロイドは数種類市販されているものの、非水性溶媒を用いた分散液は粒子濃度の低いものしか得られていない。
【0005】
そこで特表2001-505248号(特許文献1)は、ポリマー先駆物質(有機ワックス、オリゴマー又はモノマー)中に小さい粒子を分散する方法として、粒状材料(最長寸法が約10 nmから約10μmの範囲)、界面活性剤及び非水性溶媒を混合し、得られた混合物にポリマー先駆物質を添加し、撹拌しながら非水性溶媒の沸点まで加熱し、非水性溶媒を除去する方法を記載している。
【0006】
特許文献1は、粒状材料としてチタン酸バリウム粒子、チタン酸鉛粒子等を挙げており、界面活性剤としてオレイン酸等の脂肪酸を挙げており、非水性溶媒としてトルエン等の芳香族炭化水素を挙げている。ただし特許文献1は、実施例において、粒状材料としてチタン酸バリウム粒子及びチタン酸鉛粒子を用い、界面活性剤として脂肪酸アミンの酸化エチレン付加物を用い、非水性溶媒として1-ブタノールを用いている。しかし酸化チタン微粒子を、脂肪酸アミン系界面活性剤とともに非水性溶媒に混合しても、高濃度の分散液が得られない。
【0007】
特開2003-73559号(特許文献2)は、高屈折性、高いアッベ数、無色性(低黄色度)、耐熱性、透明性及び軽量性を有し、さらに屈折率を任意に制御できる光学部品用材料として、数式(A):
1.45≦n1≦1.65 ・・・(A)
で示される屈折率n1、及び数式(B):
ν1≧195−100 n1 ・・・(B)
で示されるアッベ数ν1を有する熱可塑性樹脂100重量部と、化学式(1):
Si(OR1)X(R2)4-X ・・・(1)
(但し化学式(1)において、Xは1〜4の整数であり、R1及びR2は、それぞれ独立に、化学式群(2):
【化1】

のいずれかから選ばれる一価の結合基を表す。化学式(2)において、Yは1〜30の整数、Zは0〜5の整数である。)で示される化合物により表面修飾が施され、平均粒子直径diが数式(C):
1 nm≦di≦200 nm ・・・(C)
で示される表面修飾チタン酸化物微粒子1〜200重量部とから構成され、数式(D):
1.45<n2≦1.80 ・・・(D)
、数式(E):
ν2≧200−100 n2 ・・・(E)
及び数式(F):
n2≧n1+0.01 ・・・(F)
で示される屈折率n2及びアッベ数ν2を有し、かつ数式(G):
−3≦Y≦10 ・・・(G)
で示される黄色度Yを有する熱可塑性材料組成物を提案している。
【0008】
具体的には、特許文献2では、ジメチルメトキシシランで表面修飾したチタン酸化物及び1-ブタノールの分散液を調製し、得られた分散液を、ポリカーボネートのクロロホルム溶液に滴下し、得られた混合液を、メタノールと蒸留水の等容量混合液中に析出させて、上記熱可塑性材料組成物を調製している。しかしクロロホルムの使用は環境安全上好ましくない。しかも本発明者らは、ジメチルメトキシシランで表面修飾したチタン酸化物と1-ブタノールとを混合したが、分散性のよいスラリーが得られないことを確認した。
【0009】
特開平11-278844号(特許文献3)は、活性が強く、凝集のない二酸化チタン超微粒子の非水性分散体を効率よく製造する方法として、チタン原料を直流アークプラズマ法によって加熱し、気化させ、そのチタン蒸気を酸化し、冷却することにより、20質量%水分散体のpHが2.8〜4.0の範囲で、平均粒子径が5〜70 nmの範囲の球状の二酸化チタン超微粒子を製造し、得られた二酸化チタン超微粒子と分散剤を有機溶媒に加え、分散させる方法を提案している。
【0010】
特許文献3は、分散剤として脂肪酸アミン系、スルホン酸アミド系、ε-カプロラクトン系、ハイドロステアリン酸系、ポリカルボン酸系、ポリエステルアミン等を挙げており、有機溶媒としてトルエン等の炭化水素系溶媒を挙げており、分散手段として超音波ミル、サンドミル、ディスクミル等の粉砕機を挙げている。しかし、酸化チタンに対して上記分散剤を用いても、分散性のよいスラリーが得られない。
【0011】
特開2006-1775号(特許文献4)は、高純度の酸化チタン粉末を高濃度で添加しても均一分散が可能であり、低粘度であり、pHが中性領域の酸化チタン分散体を製造する方法として、酸化チタン粉末と、アミン系分散剤及び/又はカルボキシル基含有高分子分散剤(例えばポリカルボン酸及びその塩)と、水溶媒又は有機溶媒とからなる酸化チタン分散体前駆体を湿式解砕処理する方法を記載している。しかし特許文献4が有機溶媒として挙げているのは、アルコール類、エーテル類、アセトン類等の極性溶媒であり、無極性又は低極性の溶媒ではない。
【0012】
【特許文献1】特表2001-505248号
【特許文献2】特開2003-73559号
【特許文献3】特開平11-278844号
【特許文献4】特開2006-1775号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、酸化チタン微粒子が高濃度で非水性溶媒中に均一に分散した非水性分散液の製造方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、酸化チタン微粒子が有機ポリマー中に高濃度で均一に分散したポリマー系ナノコンポジットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸からなる分散剤を用いると、酸化チタン微粒子を非水性溶媒中に高濃度で均一に分散させることができること、並びにかかる分散液に有機ポリマーを混合し、非水性溶媒を除去すると、酸化チタンが高濃度で均一に分散したポリマー系ナノコンポジットが得られることを発見した。本発明はかかる発見に基づき完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法は、酸化チタン微粒子を、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸からなる分散剤とともに、非水性溶媒に混合することを特徴とする。
【0016】
本発明のポリマー系ナノコンポジットの製造方法は、酸化チタン微粒子を、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸からなる分散剤とともに、非水性溶媒に混合し、得られたスラリーに有機ポリマー及び/又はその前駆体を分散又は溶解させた後、前記非水性溶媒を除去することを特徴とする。
【0017】
前記分散剤としてオレイン酸及び/又はリノール酸を用いるのが好ましい。前記分散剤の使用量は、前記酸化チタン微粒子の単位表面積当たり0.2〜30 mg/m2であるのが好ましい。前記酸化チタン微粒子の一次粒子径が20 nm以下であるのが好ましい。前記酸化チタン微粒子はアナターゼ型であるのが好ましい。前記酸化チタン微粒子を前記分散剤とともに前記非水性溶媒中に混合した後、湿式粉砕するのが好ましい。前記湿式粉砕をビーズミル法により行うのが好ましい。前記湿式粉砕の前及び/又は後に遠心分離し、沈降した凝集体を除去するのが好ましい。前記非水性溶媒は無極性又は低極性の溶媒であるのが好ましい。前記非水性溶媒はトルエンであるのがより好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化チタン微粒子が高濃度で非水性溶媒中に均一に分散した液体が得られる。かかる分散液に有機ポリマーを混合し、非水性溶媒を除去すると、酸化チタンが均一に分散したポリマー系ナノコンポジットが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[1] 酸化チタン微粒子
酸化チタン(TiO2)微粒子の構造は特に限定されず、アナターゼ型結晶構造、ルチル型結晶構造、ブルッカイト型結晶構造、非結晶構造又はこれらの混合物のいずれでもよいが、一次粒子径の比較的小さいものを調製し易い点からアナターゼ型結晶構造が好ましい。
【0020】
酸化チタン微粒子の一次粒子径は20 nm以下が好ましい。一次粒子径が20 nm超だと、分散が困難である。一次粒子径は15 nm以下がより好ましく、10 nm以下が特に好ましい。ただし酸化チタン微粒子の一次粒子径が20 nm超であっても、酸化チタン微粒子、分散剤及び非水性溶媒を混合した後、遠心分離し、上澄み液を取り出せば、沈降物のないスラリーが得られる。一次粒子径の下限は、技術的に可能な限り限定されないが、5nm以上が好ましい。
【0021】
酸化チタン微粒子の合成方法は特に限定されず、公知の乾式法、気相法等を用いることができる。例えば(i) 四塩化チタンを気相中で酸素と接触させて酸化させる気相反応法、(ii) 燃焼して水を生成する水素ガス等の可燃性ガスと酸素とを燃焼バーナーに供給して火炎を形成し、この中に四塩化チタンを導入する火炎加水分解法、(iii) 硫酸チタニル、硫酸チタン等のチタン塩を加水分解する方法、(iv) チタンアルコキシド等の有機チタン化合物を加水分解する方法、(v) 三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタンを加水分解する方法、(vi) 金属チタン等のチタン原料を消費アノード電極とし、カソード電極からアルゴンガスのプラズマフレームを発生させ、チタン原料を加熱し、蒸発させ、その金属チタンを酸化、冷却する方法(直流プラズマアーク法)等が挙げられる。
【0022】
酸化チタン微粒子としては市販品を用いてもよく、例えばテイカ株式会社のAMT-100、AMT-600、MT-150W、MT-600B等が挙げられる。
【0023】
[2] 分散剤
分散剤としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸が好ましく、不飽和脂肪酸がより好ましい。飽和及び不飽和の脂肪酸の炭化水素基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。飽和及び不飽和の脂肪酸はヒドロキシ基を含むものであってもよい。限定的ではないが、飽和及び不飽和の脂肪酸の炭素数は3〜30が好ましく、8〜24がより好ましい。不飽和脂肪酸としては炭素鎖に二重結合を有する化合物のみならず、三重結合を有する化合物であってもよい。不飽和脂肪酸は、二重結合の数が1つであるモノエン脂肪酸(一価不飽和脂肪酸)であってもよいし、二重結合の数が2つ以上であるポリエン脂肪酸(多価不飽和脂肪酸)であってもよい。
【0024】
飽和脂肪酸としては、例えばn-ブタン酸[ブチル酸(酪酸)]、n-ペンタン酸[バレリアン酸(吉草酸)]、n-ヘキサン酸(カプロン酸)、n-ヘプタン酸[エナント酸(ヘプチル酸)]、n-オクタン酸(カプリル酸)、n-ノナン酸(ペラルゴン酸)、n-デカン酸(カプリン酸)、ウンデシル酸、n-ドデカン酸(ラウリン酸)、n-テトラデカン酸(ミリスチン酸)、n-ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、n-ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、n-ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、n-オクタデカン酸(ステアリン酸)、n-ノナデカン酸(ツベルクロステアリン酸)、n-イコサン酸(アラキジン酸)、n-ドコサン酸(ベヘン酸)、n-テトラコサン酸(リグノセリン酸)、n-ヘキサコサン酸(セロチン酸)、n-オクタコサン酸(モンタン酸)、n-トリアコンタン酸(メリシン酸)等が挙げられる。
【0025】
不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、デセン酸、ウンデシレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、セトレイン酸、ブラシジル酸、ネルボン酸等のモノ不飽和脂肪酸:ソルビン酸、リノール酸等のジ不飽和脂肪酸:α-リノレン酸、エレオステアリン酸等のトリ不飽和脂肪酸:ステアリドン酸、アラキドン酸等のテトラ不飽和脂肪酸:エイコサペンタエン酸、イワシ酸等のペンタ不飽和脂肪酸:ドコサヘキサエン酸等のヘキサ不飽和脂肪酸等が挙げられる。中でもオレイン酸及びリノール酸が好ましい。
【0026】
必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸以外の公知の分散剤を併用してもよい。
【0027】
[3] 非水性溶媒
非水性溶媒としては、無極性又は低極性の溶媒が好ましい。無極性又は低極性の溶媒として、例えば脂肪族飽和炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、これらのハロゲン化物(ハロゲン化炭化水素)等が挙げられる。脂肪族飽和炭化水素としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等が挙げられる。脂肪族不飽和炭化水素としては、例えばドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素として、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等の塩素化炭化水素:三フッ化エタン,C6F14,C7F16等の鎖状フルオロカーボン:C5H2F10等の鎖状ハイドロフルオロカーボン:C5H3F7等の環状ハイドロフルオロカーボン等が挙げられる。
【0028】
非水性溶媒は単独物に限定されず、必要に応じて混合物としてもよい。非水性溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲で、極性溶媒を含んでもよい。極性溶媒として、アルコール、ケトン、エーテル、エステル等が挙げられる。
【0029】
[4] 有機ポリマー及びその前駆体
ポリマー系ナノコンポジットを形成する有機ポリマー及びその前駆体(モノマー又はオリゴマー)は特に制限されない。ポリマー系ナノコンポジットを光学材料として用いる場合、有機ポリマーとしては、限定的ではないが、ポリオレフィン樹脂(例えば非晶質ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂等)、アクリレート樹脂(例えばポリメタクリル酸エステル樹脂等)、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエステル樹脂[例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等]、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、ポリスルフォン(PSF)、ニトロセルロース樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルローストリブチレート樹脂、テトラアセチルセルロース(TAC)、スチレン−アクリルエステルコポリマー、環状脂肪族鎖を有するポリエーテル樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリアミド樹脂、環状脂肪族鎖を有するポリイミド樹脂等が好ましい。有機ポリマーが紫外線硬化性又は熱硬化性の場合、有機ポリマーの前駆体(モノマー又はオリゴマー)を用いてもよい。
【0030】
[5] 酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法
非水性分散液は、上記非水性溶媒に、酸化チタン微粒子及び分散剤を添加し、混合することにより調製する。混合には、羽根型攪拌機、ホモミキサー等を用いればよい。酸化チタン微粒子の配合割合は、分散液全体を100質量%として1〜50質量%が好ましい。この割合が1質量%未満だと、ポリマー系ナノコンポジットを製造する場合の効率が悪い。一方50質量%を超すと、分散性が悪化する。この割合は1〜20質量%がより好ましく、3〜10質量%が更に好ましい。分散剤の配合割合は、酸化チタン微粒子の単位表面積当たり0.2〜30 mg/m2が好ましい。この配合割合が0.2 mg/m2未満又は30 mg/m2超だと分散性が低い。この配合割合は0.5〜20 mg/m2がより好ましく、0.5〜10 mg/m2が特に好ましい。限定的ではないが、分散剤の配合割合は、酸化チタン微粒子の単位質量当たり0.05〜15 g/gであるのが好ましく、0.1〜10 g/gがより好ましい。
【0031】
上記混合液(スラリー)を湿式粉砕処理するのが好ましい。湿式粉砕処理により酸化チタン微粒子の凝集体を粉砕することができる。湿式粉砕処理法としては、ビーズミル法、ジェットミル法、ロールミル法、ハンマーミル法、振動ミル法、流星型ボールミル法、サンドミル法、三本ロールミル法等が挙げられるが、ビーズミル法が好ましい。ビーズミル法は、ビーズを充填した容器中で、回転羽根によりビーズに運動を与え、ここにスラリーを送給することにより、微粒子とビーズとの衝突時の衝撃力及び微粒子がビーズ間をすり抜ける時の剪断力で微粒化する方法である。ビーズとしては、ジルコニア粒子、ガラス粒子、アルミナ粒子等が挙げられる。限定的ではないが、ビーズとしては、酸化チタンより重量を大きくしやすく、耐磨耗性が高いジルコニア粒子が好ましい。
【0032】
ビーズの粒子径は1μm〜2mmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、20〜50μmが特に好ましい。ビーズの粒子径が1μm未満であると、粉砕されて得られる酸化チタンの粒子径に近いため、スクリーンに形成されている微細孔に目詰まりが生じる恐れがある。一方2mm超であると、粉砕効果が低い。
【0033】
限定的ではないが、回転羽根の周速を5m/分以上とするのが好ましく、10 m/分以上とするのがより好ましい。ビーズミルによる粉砕処理時間は、15分以上が好ましく、60分以上がより好ましい。限定的ではないが、粉砕処理時間の上限は180分が好ましい。180分を超えて処理しても、粉砕効果が飽和する。
【0034】
混合時(スラリー調製時)の液温及びビーズミルによる粉砕時の液温は、35℃以下に保持するのが好ましい。液温が35℃を超えると、酸化チタン粒子が凝集しやすくなり、分散性の低下を起こす可能性がある。
【0035】
必要に応じて、ビーズミル法以外の湿式粉砕法を併用してもよい。他の湿式粉砕法として、上記のものが挙げられる。他の湿式粉砕法による処理は、ビーズミルによる処理の前に行うのが好ましい。
【0036】
湿式粉砕後、遠心分離し、沈降した凝集体を除去するのが好ましい。得られる上澄み液は、粉砕が不十分な比較的大きな凝集体が除かれ、透明度が高く、酸化チタン微粒子が非常に均一に分散している。遠心分離は20,000〜100,000rpmで、5〜120分間行うのが好ましい。
【0037】
必要に応じて、ビーズミルによる粉砕前に遠心分離し、得られた上澄み液をビーズミルで粉砕してもよい。ビーズミルによる粉砕前の遠心分離は、酸化チタンの粒度分布が比較的幅広く、沈降物を含む等、スラリーの分散状態が悪い場合に行うのが好ましい。スラリーが沈降物を含むと、ビーズミルのスクリーンに形成されている微細孔に目詰まりが生じる恐れがある。
【0038】
[6] ポリマー系ナノコンポジットの製造方法
ポリマー系ナノコンポジットは、上記のようにして得られた酸化チタン微粒子の非水性分散液に、有機ポリマー及び/又はその前駆体を混合し、非水性溶媒を除去することにより得られる。酸化チタン微粒子の非水性分散液に、有機ポリマー及び/又はその前駆体を添加した後、羽根型攪拌機、ホモミキサー等により攪拌し、均一な分散物とした後、加熱や減圧を行い、非水性溶媒を除去する。必要に応じて、有機ポリマー及び/又はその前駆体の混合時に加熱してもよい。加熱温度は80〜150℃とするのが好ましい。有機ポリマー及び/又はその前駆体の添加量は、有機ポリマー及び/又はその前駆体と非水性溶媒の合計を100質量%として、3〜15質量%とするのが好ましく、5〜8質量%とするのがより好ましい。
【0039】
得られたポリマー系ナノコンポジットは、酸化チタン微粒子が均一に分散している。有機ポリマーの前駆体を用いた場合、非水性溶媒を除去する前又は後に重合すればよい。ポリマー系ナノコンポジットは、例えばペレット状等に成形すると、各種用途に使用することができる。ポリマー系ナノコンポジットを溶媒に分散し、コーティング材として用いてもよい。本発明のポリマー系ナノコンポジットは、酸化チタン微粒子が高分散しているので、高屈折性、高アッベ数を有し、無色性(低黄色度)、耐熱性、透明性及び軽量性に優れている。そのため光学材料として好適である。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1〜21、比較例1〜9
酸化チタンの結晶構造及び一次粒子径、分散剤として用いた化合物、並びに酸化チタン、分散剤及びトルエン溶媒の配合割合を表1に示す。酸化チタン粉体及び分散剤をトルエンに加え、室温で1時間攪拌した。得られたスラリーを室温で1時間静置した後、目視により分散状態を評価した。結果を表1に示す。判定基準を示す記号は、◎:「白濁しているが、沈降物はない」、○:「少量の沈降物はあるが、全体的に白濁している」、△:「上層は白濁しているが、沈降物が多い」、×:「上澄みと沈降物に分離しており、全く分散していない」をそれぞれ示す。
【0042】
【表1】

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

表1(続き)

【0043】
注:(1) 酸化チタン1m2当たりの分散剤の配合量。
(2) 和光純薬工業株式会社製特級試薬。
(3) ◎「白濁しているが、沈降物はない」、○「少量の沈降物はあるが、全体的に白濁している」、△「上層は白濁しているが、沈降物が多い」、×「上澄みと沈降物に分離しており、全く分散していない」。
(4) テイカ株式会社製AMT-100(比表面積256 m2/g)
(5) テイカ株式会社製AMT-600(比表面積51 m2/g)
(6) テイカ株式会社製MT-150W(比表面積94 m2/g)
(7) テイカ株式会社製MT-600B(比表面積28 m2/g)
(8) 和光純薬工業株式会社製。
(9) 第一工業製薬株式会社製。
(10) 和光純薬工業株式会社製。
(11) 第一工業製薬株式会社製。
【0044】
表1に示すように、分散剤として飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸を使用した実施例1〜21では、沈降物が無いか、あっても少量であり、良好な分散状態のスラリーが得られた。特に実施例3〜6及び18では、一次粒子径が10 nm以下の酸化チタンを用い、不飽和脂肪酸を酸化チタン微粒子の単位表面積当たり0.5〜10 mg/m2の範囲内で用いているので、全く沈降物の無いスラリーが得られた。これに対して、比較例1では分散剤を使用せず、比較例2〜9では飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸以外の分散剤を使用しているので、全く分散しないか、沈降物が多く、実施例1〜21に比較して、いずれも酸化チタンの分散性に劣っていた。
【0045】
実施例22
アナターゼ型酸化チタン粉体[テイカ株式会社製AMT100、一次粒子径6nm、比表面積256 m2/g]とオレイン酸をトルエンに加え[粒子濃度10質量%、オレイン酸濃度15質量%(混合液全体を100質量%とする)]、攪拌し、得られたスラリーを、直径30μmの微小ビーズを具備するビーズミル(使用機器:UAM-015、寿工業株式会社製)により、時間を各々15、30、60、90及び120分と変えながら粉砕し、複数の分散液を調製した。ビーズミルによる粉砕条件は、ビーズ(g)/酸化チタン(g)=7.3、回転羽根の周速:12 m/分、液温:20℃とした。
【0046】
得られた各分散液及びビーズミルによる粉砕処理をしていないスラリーをトルエンで4倍に希釈し、凝集粒子の粒度分布を動的光散乱法により測定した。結果を図1に示す。15分及び120分粉砕処理した分散液の粒子の凝集状態を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。結果を図2((a) 15分処理、(b) 120分処理)に示す。ビーズミルによる粉砕処理をしていないスラリー並びに15分及び120分粉砕処理した分散液の透過度を測定した。結果を図3に示す。
【0047】
図1から、ビーズミルによる粉砕処理をしていないスラリー(処理時間0分)では、80%以上の粒子が粒径1μm以上の凝集体であった。15分の粉砕処理で80%以上の粒子が100 nm以下の粒径となり、120分の粉砕処理でほぼ70%が20 nm以下の粒径となった。図2から、TEM観察からも、動的光散乱法による粒度分布測定と同様の結果が得られ、120分の粉砕処理では、20 nm以下の粒径の粒子が大半を占めていた。図3に示すように、透過度は120分の粉砕処理で向上した。
【0048】
120分間ビーズミルにより粉砕処理した分散液を遠心分離し(回転数50,000rpm、回転時間10分)、上澄み液を取り出し、その透過度及び粒度分布(測定法:動的光散乱法)を測定した。各々の結果を図3及び図4に示す。図3から、上澄み液は透過度が格段に高く、透明なコロイド分散液であった。図4から、上澄み液のTiO2ナノ粒子は、完全に一次粒子までは分散していないが、ほぼ全ての粒子が20 nm以下の粒径であった。
【0049】
以上のことから、酸化チタン微粒子をオレイン酸とともにトルエンに混合し、ビーズミルにより粉砕し、遠心分離することにより、TiO2粒子が均一に分散した無極性サスペンジョンが得られることが分かった。
【0050】
実施例23
実施例22と同じ組成のスラリー(酸化チタン、オレイン酸及びトルエンからなる)を調製し、120分間ビーズミルにより粉砕処理した。得られた分散液を遠心分離し(回転数35,000rpm、回転時間30分)、上澄み液を取り出した。上澄み液の組成は、トルエン95質量%、酸化チタン1.5質量%及びオレイン酸3.5質量%であった。この上澄み液に、非晶質ポリオレフィン(商品名ZEONEX、日本ゼオン株式会社製)をトルエンに溶解した有機ポリマー液を添加し、マグネチックスターラーで攪拌し、有機ポリマーの配合割合が、有機ポリマー及びトルエンの合計を100質量%として各々6.0、8.0、9.3及び10.6質量%の各分散液を調製した。各分散液の組成を表2に示す。
【0051】
【表2】

注:(1) 有機ポリマー(g)/(有機ポリマー(g)+トルエン(g))×100
【0052】
No.1〜5のサンプルの透過度を測定した。結果を図5に示す。有機ポリマーの配合割合が8.0質量%及び6.0質量%のサンプルNo.3及び4は、有機ポリマーを添加していないサンプルNo.5とほぼ同等の透光性であった。有機ポリマーの配合割合が8質量%超のサンプルNo.1及び2は、分散液が若干白濁し、透光性が低下したが、沈降物は生じなかった。サンプルNo.3及び4を加熱減圧し、トルエンを除去すると、透明性の高いポリマー系ナノコンポジットが得られた。
【0053】
実施例24
実施例22と同じ組成のスラリー(酸化チタン、オレイン酸及びトルエンからなる)を調製し、120分間ビーズミルにより粉砕処理した。得られた分散液を遠心分離し(回転数10,000rpm、回転時間60分)、上澄み液を取り出した。上澄み液の組成は、トルエン87.4質量%、酸化チタン1.9質量%及びオレイン酸10.7質量%であった。この上澄み液に、非晶質ポリオレフィン(商品名ZEONEX、日本ゼオン株式会社製)をトルエンに溶解した有機ポリマー液を添加し、マグネチックスターラーで攪拌し、有機ポリマーの配合割合が、有機ポリマー及びトルエンの合計を100質量%として各々5.9、7.9、及び10.7質量%の各分散液を調製した。各分散液の組成を表3に示す。
【0054】
【表3】

注:(1) 有機ポリマー(g)/(有機ポリマー(g)+トルエン(g))×100
【0055】
No.6〜9のサンプルの透過度を測定した。結果を図6に示す。有機ポリマーの配合割合が5.9質量%及び7.9質量%のサンプルNo.7及び8は、有機ポリマーを添加していないサンプルNo.9とほぼ同等の透光性であった。有機ポリマーの配合割合が8質量%超のサンプルNo.6は、分散液が若干白濁し、透光性が低下したが、沈降物は生じなかった。サンプルNo.7及び8を加熱減圧し、トルエンを除去すると、透明性の高いポリマー系ナノコンポジットが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例22の各分散液の粒度分布を示すグラフである。
【図2】(a)は実施例22の15分粉砕処理した分散液の凝集状態を示す透過型電子顕微鏡写真(20,000倍)であり、(b)は実施例22の120分粉砕処理した分散液の凝集状態を示す透過型電子顕微鏡写真(40,000倍)である。
【図3】実施例22のスラリーの透過度を示すグラフである。
【図4】実施例22のスラリー(120分粉砕処理)及び上澄み液の粒度分布を示すグラフである。
【図5】実施例23の有機ポリマー含有分散液の透過度を示すグラフである。
【図6】実施例24の有機ポリマー含有分散液の透過度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン微粒子を、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸からなる分散剤とともに、非水性溶媒に混合することを特徴とする酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記分散剤としてオレイン酸及び/又はリノール酸を用いることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記分散剤の使用量は、前記酸化チタン微粒子の単位表面積当たり0.2〜30 mg/m2であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記酸化チタン微粒子の一次粒子径は20 nm以下であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記酸化チタン微粒子はアナターゼ型であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記酸化チタン微粒子を前記分散剤とともに前記非水性溶媒中に混合した後、湿式粉砕することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記湿式粉砕をビーズミル法により行うことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記湿式粉砕の前及び/又は後に遠心分離し、沈降した凝集体を除去することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記非水性溶媒は無極性又は低極性であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の酸化チタン微粒子含有非水性分散液の製造方法において、前記非水性溶媒はトルエンであることを特徴とする方法。
【請求項11】
酸化チタン微粒子を、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸からなる分散剤とともに、非水性溶媒に混合し、得られたスラリーに有機ポリマー及び/又はその前駆体を分散又は溶解させた後、前記非水性溶媒を除去することを特徴とするポリマー系ナノコンポジットの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記分散剤としてオレイン酸及び/又はリノール酸を用いることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記分散剤の使用量は、前記酸化チタン微粒子の単位表面積当たり0.2〜30 mg/m2であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記酸化チタン微粒子の一次粒子径は20 nm以下であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれかに記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記酸化チタン微粒子はアナターゼ型であることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれかに記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記酸化チタン微粒子を前記分散剤とともに前記非水性溶媒に混合した後、湿式粉砕することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記湿式粉砕をビーズミル法により行うことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記湿式粉砕の前及び/又は後に遠心分離し、沈降した凝集体を除去することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項11〜18のいずれかに記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記有機ポリマー及び/又はその前駆体の添加量は、前記有機ポリマー及び/又はその前駆体と前記非水性溶媒との合計を100質量%として、3〜15質量%であることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項11〜19のいずれかに記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記非水性溶媒は無極性又は低極性であることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記非水性溶媒はトルエンであることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項11〜21のいずれかに記載のポリマー系ナノコンポジットの製造方法において、前記有機ポリマーは非晶質ポリオレフィンであることを特徴とする方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−69046(P2008−69046A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249941(P2006−249941)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 化学工学会 刊行物名:化学工学会 第38回秋季大会 研究発表講演要旨集 発行日:2006年8月16日
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】