説明

酸化チタン粉末、分散液及び酸化チタン粉末の製造方法

【解決手段】ニオブ又はタンタルを0.2〜25質量%の割合で含有し、粉末の拡散反射スペクトルにおいて、可視光領域で最大の反射率を示す波長における反射率が50%以上であり、1000〜2500nmの赤外線領域における反射率が可視域の最大反射率の半分以下である酸化チタンからなることを特徴とする酸化チタン粉末。
【効果】本発明により、赤外線遮断被膜、透明遮熱被膜に使用できる、赤外線遮断特性を有する酸化チタン微粒子粉末、その分散液を安価で無害な酸化チタンを主成分として製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線遮断特性を有する酸化チタン粉末、分散液及び該酸化チタン粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光を透過し、赤外線を遮断する材料でガラス等の表面を薄く被覆するという方法は、遮熱によって省エネルギー効果が期待されることから注目されている。この方法に沿って、ITO(インジウム・すず酸化物)の微粒子粉末を分散させた塗料が特開平7−70482号公報(特許文献1)、特開平8−176475号公報(特許文献2)等に提案されている。
しかし、インジウムは希少な金属であり、従って上記のような材料は資源的な問題から将来に亘って安定供給が可能であるかは疑問が残る。
【0003】
一方、酸化チタンは、安価で無害な物質であり、顔料等に広く使用されている。更に近年では光触媒としての用途も注目されていて、微粒子粉末やその分散液の製造方法も特開平9−175821号公報(特許文献3)、特開2001−262007号公報(特許文献4)、特開2007−176753号公報(特許文献5)等に開示されている。
しかしながら、通常の酸化チタンには紫外線を吸収して遮断する性質はあるものの、赤外線、特に可視光に近い波長2500nm以下の領域に関しては可視光と同じように透過させてしまう。
【0004】
【特許文献1】特開平7−70482号公報
【特許文献2】特開平8−176475号公報
【特許文献3】特開平9−175821号公報
【特許文献4】特開2001−262007号公報
【特許文献5】特開2007−176753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような技術的背景の中でなされたもので、安価な酸化チタンを主成分とし、赤外線を遮断する特性を有する酸化チタン微粒子粉末、その分散液、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、4価のチタン化合物の溶液又は分散液と5価のニオブ又はタンタル化合物の溶液又は分散液とを3価のチタンの水溶性化合物等の水溶性還元剤の存在下に混合し、100〜250℃に加熱することによりニオブ又はタンタルを0.2質量%以上25質量%以下含有し、粉末の拡散反射スペクトルにおいて可視光領域で最大の反射率を示す波長における反射率が50%以上であり、1000〜2500nmの赤外線領域における反射率が、可視域の最大反射率の半分以下であり、赤外線を遮断する特性を有する粉末が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は、下記酸化チタン粉末、分散液及び酸化チタン粉末の製造方法を提供する。
請求項1:
ニオブ又はタンタルを0.2〜25質量%の割合で含有し、粉末の拡散反射スペクトルにおいて、可視光領域で最大の反射率を示す波長における反射率が50%以上であり、1000〜2500nmの赤外線領域における反射率が可視域の最大反射率の半分以下である酸化チタンからなることを特徴とする酸化チタン粉末。
請求項2:
遠心法によって測定した平均粒径が150nm以下である請求項1記載の酸化チタン粉末。
請求項3:
請求項1又は2記載の酸化チタン粉末が水又は有機溶剤に分散されてなる分散液。
請求項4:
4価のチタン化合物の溶液又は分散液と5価のニオブ又はタンタル化合物の溶液又は分散液と水溶性還元剤とを混合し、100〜250℃の温度に加熱することを特徴とする請求項1記載の酸化チタン粉末の製造方法。
請求項5:
水溶性還元剤が3価のチタンの水溶性化合物である請求項4記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、赤外線遮断被膜、透明遮熱被膜に使用できる、赤外線遮断特性を有する酸化チタン微粒子粉末、その分散液を安価で無害な酸化チタンを主成分として製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の酸化チタン粉末について説明する。
本発明の酸化チタン微粒子粉末中には、ニオブ又はタンタルが0.2質量%以上25質量%以下含有される。主成分である酸化チタンは99.8〜75質量%の含有量である。より好ましくはニオブの場合0.5質量%以上12質量%以下、タンタルの場合1質量%以上15質量%以下である。この範囲よりニオブ又はタンタルが少なくては赤外線遮断特性が得られない。この範囲を超えてニオブ又はタンタルを含有した場合、可視光の透過性が下がり、透明な赤外線遮断被膜という目的に対して不都合である。
【0010】
チタン、ニオブ、タンタル、酸素以外の元素については、1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは実質的に含まないことである。
【0011】
本発明の酸化チタン微粒子粉末の可視光(360nm〜830nm)を透過し、赤外線を遮断する特性とは、粉末の拡散反射スペクトルにおいて、可視光領域の反射率の最大値が50%以上あることと、1000〜2500nmの赤外領域の全体に亘って反射率が可視光の最大反射率の半分以下であることである。可視光領域の反射率の最大は60%以上であることがより好ましく、赤外領域の反射率は30%以下であることがより好ましい。後に実施例でそのスペクトルの例を示す。
【0012】
本発明の酸化チタン微粒子粉末の分散液中における平均粒径は遠心法による測定によると150nm以下である。より好ましくは100nm以下である。後に実施例でその粒度分布の例を示す。なお、その下限は通常5nm以上、特に10nm以上である。
【0013】
また、本発明の酸化チタン微粒子粉末を得るための原料酸化チタンの結晶相としては、既知のルチル、アナターゼ、ブルッカイトのいずれか、及びそれらのうち2種以上の混合物をいずれも用いることができる。
【0014】
本発明の酸化チタン粉末の製造方法は、
(1)4価のチタン化合物の原料として、TiCl4、Ti(SO42等の水溶性化合物の水溶液、又は、非晶質酸化チタン(IV)又は水酸化チタン(IV)を無機もしくは有機の酸(塩酸、シュウ酸、酢酸等)又はアルカリ(NaOH、N(CH34OH等)で溶解又は透明なコロイド状にした液、
(2)5価のニオブ又はタンタル化合物の原料として、NbCl5、TaCl5、NbF5、TaF5等の水溶性化合物の水溶液、非晶質酸化ニオブ(V)、酸化タンタル(V)、水酸化ニオブ(V)又は水酸化タンタル(V)を無機もしくは有機の酸(塩酸、シュウ酸、酢酸等)又はアルカリ(NaOH、N(CH34OH等)で溶解又は透明なコロイド状にした液、
(3)3価のチタンの水溶性化合物TiCl3等の水溶性の還元剤(SnCl2、ホルムアルデヒド、ショ糖、ヒドラジン等)
を原料とし、更に必要に応じて酸又はアルカリ、少量のエタノール等の水溶性有機溶剤、及び水を混合して反応原液を得る。
【0015】
各成分の配合量は、TiとNb、Taの合計が0.01mol/cm3以上2mol/cm3以下であることが好ましい。これより低濃度では生産性が悪く、大きな圧力容器が必要になるので好ましくない。これより高濃度では次の加熱反応中に副生物によって系の圧力が上がりすぎて危険になるおそれがあり、好ましくない。より好ましくは0.05mol/cm3以上1mol/cm3以下である。チタンと、ニオブ又はタンタルの比率は、目標とする製品中の比率に応じて配合すればよい。
【0016】
上記の反応原液それぞれを密閉容器又は圧力容器中で100℃以上250℃以下の温度に加熱する。加熱温度が100℃未満では、得られる酸化チタン組成物の赤外線遮断特性が十分でなく、250℃を超えて温度を高くすることは容器の選択、設計を困難にする。より好ましくは120℃以上200℃以下である。容器としては密閉容器又は圧力容器を用い、水溶液を100℃を超えて加熱した際に発生する水蒸気による圧力に耐えて、蒸気を閉じ込め、液の揮発を防ぐことができる構造のものであれば、任意のものを用いることができるが、この場合、0.5MPa以上の圧力に耐えるものであることが好ましい。
【0017】
加熱の時間は10分以上40時間以下が好ましい。これより短くては反応が十分進まず、赤外線遮断特性も得られない。長すぎると、粒子が粗大化してしまうおそれがある。より好ましくは1時間以上20時間以下である。
【0018】
加熱反応を終えた反応液は冷却後、そのまま分散液として用いることもできる。しかし、通常は反応液中にある溶解成分を除くために、遠心沈降やブフナー漏斗などでろ別して、ケーキ状にし、必要に応じて洗浄をするか、セロファン膜中に入れて、純水を外液として透析する、等の操作をする。乾燥粉末を得たい場合は、ケーキ状のものを得た後、乾燥(大気オーブン、真空乾燥機など)をし、乾燥したものを乳鉢等で解砕するかほぐす。
【0019】
分散液を得るのが目的の場合は、乾燥した粉末を再分散してもよいが、乾燥前のケーキをそのまま水、エタノール等の各種有機溶剤等に分散すればよい。また更に細かい粒子まで分散するために、ボールミル、ビーズミル、超音波分散機などを用いて解砕することも有効である。
【0020】
分散濃度は固形分が0.5質量%以上50質量%以下が好ましい。0.5質量%より少ないと、十分な赤外線遮断特性を得るために何度も塗布を重ねなければならない。50質量%より多いと分散が困難であり、また粘度が高くなりすぎて塗布に不都合となるおそれがある。より好ましくは1質量%以上25質量%以下である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更して差し支えない。
【0022】
[実施例1]
塩化チタン(IV)溶液(和光純薬工業製、Ti含有量16質量%)19.74gと、塩化チタン(III)溶液(和光純薬工業製、TiCl3含有量19質量%)3.20gを、純水80cm3と混合し溶解した。塩化ニオブ(V)(三津和化学薬品製、純度99.9%)0.54gを、氷水浴で冷却しながら、純水2cm3と濃塩酸0.2cm3とを加えて溶解した。これを先に作製したチタンの溶液と混合した。液全体を半量ずつに分け、テフロン(登録商標)製の内筒(約55cm3)をもつステンレス製ねじ込み式圧力容器2個の内筒にそれぞれ入れ、外容器をねじ込みによって密閉した。これを160℃に設定した大気オーブン中に12時間置いた後、オーブンのヒーターを切って自然冷却した。
冷却後、沈殿の生じている反応物を回収し、遠心沈降によって上澄みを除去した。ここに、純水約100cm3を加え、再び分散した。pHメータで値を見ながら、pH値が4を超えるまで、アンモニア水を滴下した。このスラリーをブフナーろうとでろ別し、ケーキ上に純水を注いで洗浄した。この約半量を100℃に設定した大気乾燥機中で8時間乾燥し、得られたものを乳鉢で解砕して粉末を得た。収量は2.85g、ICP発光分光分析法によって分析したところ、Tiの含量は57.2質量%、Nbの含量は3.3質量%であった。吸着水分などからなる強熱減量は0.5質量%未満であった。
この粉末の拡散反射スペクトルを、積分球をとりつけた島津自記分光光度計UV−3100S(島津製作所製)を用いて測定した結果を図1に示す。可視光領域でもっとも反射率の高いところは450nm付近で反射率77%程度、1000〜2500nmの赤外線領域での反射率は20%以下である。
上記のケーキの残り半分に、純水25cm3を加え、超音波と撹拌を用いて分散したところ、数日おいても沈降の見られない分散液を得た。この分散液を用いて、CPSインスツルメンツ製ディスク遠心式粒度分布測定装置を用いてこの分散液中の酸化チタン組成物の粒度分布を測定したところ、平均粒径は84nmであった。
【0023】
[実施例2]
塩化チタン(IV)溶液(実施例1と同じ)5.08g、硫酸チタン(IV)溶液(和光純薬工業製、Ti(SO42含有量30質量%)13.60g、塩化チタン(III)溶液(実施例1と同じ)3.20gを、純水80cm3と混合し溶解した。塩化ニオブ(V)(実施例1と同じ)0.54gを、実施例1と同様に溶解し、先に作製したチタンの溶液と混合した。液全体を半量ずつに分け、以下実施例1と同様に密閉容器中160℃で12時間加熱し、自然冷却した。
実施例1と同様に、反応物を回収し、遠心沈降、再分散、中和、ろ別、洗浄の操作を行い、約半量を100℃で乾燥し、乳鉢でほぐして粉状とした。収量は1.63gで、Tiの含量は55.1質量%、Nbの含量は5.9質量%であった。強熱減量は0.6質量%であった。この粉末の拡散反射スペクトルを、実施例1と同様に測定した。結果を図1に示す。可視光領域でもっとも反射率の高いところは430nm付近で反射率70%、1000〜2500nmの赤外線領域での反射率は35%以下であり、長波長ほど小さくなっている。
上記のケーキの残り半分に、純水15cm3を加え、0.4mmφのジルコニアビーズとともにポリプロピレン製ビーカー中でモーターにとりつけた撹拌翼で90分撹拌して分散液を得た。この分散液を用いて、実施例1と同様に粒度分布を測定した結果を図2に示す。平均粒径は49nmであった。
【0024】
[実施例3]
塩化チタン(IV)溶液(実施例1と同じ)10.17g、塩化チタン(III)溶液(実施例1と同じ)3.20gを、純水86cm3と混合し溶解した。塩化タンタル(V)(三津和化学薬品製、純度99.9%)0.72gを、実施例1と同様に溶解し、先に作製したチタンの溶液と混合した。液全体を半量ずつに分け、以下実施例1と同様に密閉容器中160℃で12時間加熱し、自然冷却した。
実施例1と同様に、反応物を回収し、遠心沈降、再分散、中和、ろ別、洗浄の操作を行い、100℃で乾燥し、乳鉢でほぐして粉状とした。収量は3.46gで、Tiの含量は52.2質量%、Taの含量は10.9質量%であった。強熱減量は0.5質量%未満であった。この粉末の拡散反射スペクトルを、実施例1と同様に測定した。結果を図1に示す。可視光領域でもっとも反射率の高いところは50430nm付近で50%、1000〜2500nmの赤外線領域では15%以下の反射率である。この粉末の一部をとり、高速撹拌機(ホモジナイザー)、次いで超音波分散機で水に分散し、実施例1と同様に粒度分布を測定したところ、平均粒径は75nmであった。
【0025】
[比較例1]
塩化チタン(IV)溶液(実施例1と同じ)10.77gを、純水42cm3と混合し溶解した。この溶液を実施例1と同じ密閉容器1個に入れ、160℃で12時間加熱し、自然冷却した。
実施例1と同様に、反応物を回収し、遠心沈降、再分散、中和、ろ別、洗浄の操作を行い、100℃で乾燥し、乳鉢でほぐして粉状とした。収量は3.11gであった。ほぼ純粋なTiO2が得られた。この粉末の拡散反射スペクトルを、実施例1と同様に測定した。結果を図1に示す。可視光領域でもっとも反射率の高いところは500〜700nmでほぼ100%、1000〜2500nmの赤外線領域でも70%以上の反射率を示す。
実施例3と同様に粒度分布を測定したところ、平均粒径は68nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例、比較例による酸化チタン粉末の拡散反射スペクトルである。
【図2】実施例2による酸化チタン粉末分散液の粒度分布測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ又はタンタルを0.2〜25質量%の割合で含有し、粉末の拡散反射スペクトルにおいて、可視光領域で最大の反射率を示す波長における反射率が50%以上であり、1000〜2500nmの赤外線領域における反射率が可視域の最大反射率の半分以下である酸化チタンからなることを特徴とする酸化チタン粉末。
【請求項2】
遠心法によって測定した平均粒径が150nm以下である請求項1記載の酸化チタン粉末。
【請求項3】
請求項1又は2記載の酸化チタン粉末が水又は有機溶剤に分散されてなる分散液。
【請求項4】
4価のチタン化合物の溶液又は分散液と5価のニオブ又はタンタル化合物の溶液又は分散液と水溶性還元剤とを混合し、100〜250℃の温度に加熱することを特徴とする請求項1記載の酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項5】
水溶性還元剤が3価のチタンの水溶性化合物である請求項4記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−90011(P2010−90011A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263512(P2008−263512)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】