説明

酸化マグネシウム微粒子分散液及びその製造方法

【課題】均一な厚さの酸化マグネシウム薄膜を塗布法により形成させるのに有用な酸化マグネシウム微粒子の分散液を提供する。
【解決手段】極性有機溶媒中に、酸化マグネシウム微粒子が分散液全体量に対して0.05〜20質量%の範囲となる量にて分散されてなり、動的光散乱法によって測定された酸化マグネシウム微粒子のD50が5〜50nmの範囲にある酸化マグネシウム微粒子分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム微粒子分散液及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)の誘電体層の保護膜として、酸化マグネシウム薄膜が用いられている。PDPの誘電体層保護用の酸化マグネシウム薄膜の製造方法としては、電子ビーム蒸着法やスパッタ法などの物理的な方法が主流である。しかしながら、これらの製造方法では大規模な製造装置を用いて厳しい製造条件の管理が必要となるなどの問題がある。このため、酸化マグネシウム微粒子の分散液を誘電体層の上に塗布、乾燥(さらに必要に応じて、焼成)することによって酸化マグネシウム薄膜を形成する方法(塗布法)の研究が進められている。
【0003】
特許文献1には、PDPの誘電体層保護膜形成用の酸化マグネシウム微粒子分散液として、酸化マグネシウム粉末分散液と、マグネシウムアルコキシド又はマグネシウムアセチルアセトネートを含むバインダ溶液とを混合して調製した分散液が開示されている。この特許文献1には、酸化マグネシウム粉末分散液は、平均粒子径が5nm〜5μm、好ましくは10〜200nmの酸化マグネシウム微粒子と、アルコールを主成分とする溶媒又はアルコールとエチレングリコール誘導体との混合溶媒と、エチレングリコール誘導体を主成分とする分散剤とを混合して粉末分散液を調製し、マグネシウムアルコキシド又はマグネシウムアセチルアセトネートを主成分とするバインダと、アルコールを主成分とする溶媒又はアルコールとエチレングリコール誘導体との混合溶媒と、エチレングリコール誘導体を主成分とする添加剤とを混合してバインダ溶液を調製し、粉末分散液とバインダ溶液をペイントシェーカーやロールミルなどを用いて混合することによって調製することができるとされている。但し、酸化マグネシウム微粒子分散液中の酸化マグネシウム微粒子の粒子径に関する記載はない。
【0004】
特許文献2には、マグネシウムアセチルアセトナート、エタノールアミン、脂肪酸、有機溶剤からなる混合液に、酸化マグネシウム微粒子を分散させて調製した酸化マグネシウム微粒子分散液が開示されている。この特許文献2には、酸化マグネシウム微粒子は平均粒子径が10nm以下であることが好ましいとされており、さらに酸化マグネシウム微粒子は、例えば、ロールミル、ホモミキサー、ボールミル等の分散機器を用いて分散させることができる旨の記載がある。但し、この特許文献2にも、酸化マグネシウム微粒子分散液中の酸化マグネシウム微粒子の粒子径に関する記載はない。
【特許文献1】特開2000−129161号公報
【特許文献2】特開平11−157832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
均一な厚さの酸化マグネシウム薄膜を塗布法により形成させるためには、分散液中の酸化マグネシウム微粒子の凝集が少ないこと、すなわち酸化マグネシウム微粒子が一次粒子もしくはそれに近い小径の凝集粒子として分散されていることが望ましい。しかしながら、本発明者の検討によると、前記の特許文献1、2に記載されているような分散装置では、酸化マグネシウム微粒子が一次粒子もしくはそれに近い小径の凝集粒子として分散されている酸化マグネシウム微粒子分散液を製造することは難しいことが判明した。従って、前記の特許文献1、2に記載されている酸化マグネシウム微粒子分散液では、微細な各粒子の相当部分が凝集体として分散されていると理解される。
本発明の目的は、均一な厚さの酸化マグネシウム薄膜を塗布法により形成させるのに有利な、酸化マグネシウム微粒子が一次粒子もしくはそれに近い小径の凝集粒子として分散されている酸化マグネシウム微粒子の分散液及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、極性有機溶媒中に、酸化マグネシウム微粒子が分散液全体量に対して0.05〜20質量%の範囲となる量にて分散されてなり、動的光散乱法によって測定された酸化マグネシウム微粒子のD50が5〜20nmの範囲にあり、D10/D90が0.3以上である酸化マグネシウム微粒子分散液にある。
【0007】
本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液は、ジルコニウム、鉄、ニッケル、クロム及びアルミニウムをそれぞれ、分散液全体量に対して20質量ppm以上含むことがないことが好ましい。
【0008】
本発明はまた、平均一次粒子径が5〜20nmの範囲にある酸化マグネシウム微粒子からなる酸化マグネシウム粉末を、極性有機溶媒に分散させて分散液を調製する工程、そして該分散液に圧力を付与して分散液噴流を生成させ、次いで該分散液噴流を二以上に分岐させ、各分散液噴流を対向下に衝突させることにより分散液中の酸化マグネシウム粉末を崩壊させて微粒子の分散液とする工程を含む上記本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液の製造方法にもある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液は、均一な厚さの酸化マグネシウム薄膜を塗布法により形成させるのに有利である。
また、本発明の製造方法を利用することにより、酸化マグネシウム微粒子が一次粒子もしくはそれに近い小径の凝集粒子として分散されている酸化マグネシウム微粒子の分散液を工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液は、極性有機溶媒中に酸化マグネシウム微粒子を、分散液の全組成物の質量を基準として0.05〜20質量%の範囲、好ましくは1〜15質量%の範囲にて含む。
【0011】
本発明の分散液に含まれる酸化マグネシウム微粒子は、動的光散乱法によって測定されたD50(累積通過分布の50%に相当する粒子径)が5〜20nmの範囲にあり、D10(累積通過分布の10%に相当する粒子径)とD90(累積通過分布の90%に相当する粒子径)との比(D10/D90)が0.3以上である。D10/D90は、粒子径の分布の拡がりを評価する指標の一つであり、1に近い方が分布の拡がりが狭いこと、すなわち粒子径の均一性が高いことを表す。D10/D90は、0.35以上であることがより好ましい。
【0012】
本発明の分散液において用いられる極性有機溶媒の例としては、アルコール類及びケトン類を挙げることができる。アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコールなどの一価アルコールを挙げることができる。ケトン類の例としては、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトンを挙げることができる。これらのアルコール類及びケトン類は、二種以上を併用してもよい。
極性有機溶媒は、炭素原子数が3〜5の一価アルコールであることが好ましく、特に好ましいのはイソプロピルアルコール及びブチルアルコール、そしてこれらの混合物であり、さらに好ましいのはブチルアルコールである。
【0013】
本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液は、平均一次粒子径が5〜20nmの範囲にある酸化マグネシウム微粒子からなる酸化マグネシウム粉末を、極性有機溶媒に分散させて分散液を調製する工程、そして該分散液に圧力を付与して分散液噴流を生成させ、次いで該分散液噴流を二以上に分岐させ、各分散液噴流を対向下に衝突させることにより分散液中の酸化マグネシウム粉末を崩壊させて微粒子の分散液とする衝突分散処理工程を含む方法により製造することができる。
【0014】
酸化マグネシウム微粒子としては、金属マグネシウム蒸気と酸素とを反応させる方法(気相酸化合成法)により製造された平均一次粒子が20nm以下の酸化マグネシウム粉末を好適に用いることができる。気相酸化合成法により製造された平均一次粒子径が20nm以下の酸化マグネシウム粉末としては、宇部マテリアルズ(株)製の100A(平均一次粒子径:10nm)が知られている。酸化マグネシウム粉末の平均一次粒子径は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて測定することができる。
【0015】
衝突分散処理工程においては、酸化マグネシウム粉末の分散液に圧力を付与して分散液噴流を生成させ、次いで該分散液噴流を二以上、好ましくは二つに分岐させ、各分散液を対向下に衝突させる。分散液噴流の圧力は、100〜250MPaの範囲にあることが好ましく、130〜230MPaの範囲にあることが特に好ましい。
【0016】
衝突分散処理工程は、複数回行なってもよい。衝突分散処理工程の回数は、1〜1000回の範囲にあることが好ましい。
衝突分散処理工程において用いる衝突装置の例としては、吉田機械工業(株)から販売されているナノマイザーシステムを挙げることができる。
【0017】
上記の衝突分散処理により得られた酸化マグネシウム微粒子分散液は、微粒子分散のための衝突分散が、分散液の金属壁への衝突によるものではなく、分散液同士の衝突により行われるため、重金属の混入が少ない。ジルコニウム、鉄、ニッケル、クロム及びアルミニウムについては、それぞれ全体量に対して20質量ppm以上含むことがない高純度の酸化マグネシウム微粒子分散液を製造することができる。
【0018】
本発明の分散液は、酸化マグネシウム薄膜形成用の塗布液として有利に用いることができる。本発明の分散液を用いて形成した酸化マグネシウム薄膜は、膜厚の均一性が高い。特に、本発明の分散液を用いて形成した膜厚が500nm〜2μmの酸化マグネシウム薄膜は高い透明性を示すため、PDPの誘電体層の保護膜として有用である。本発明の分散液を用いて酸化マグネシウム薄膜を形成する方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ディップ法、ドクタブレード法等の公知の方法を挙げることができる。
【0019】
本発明の分散液はまた、粉体や液体に容易に混合分散させることができるため、食品、医薬あるいは化粧品のpH調製剤、高分子安定剤、各種セラミックス材料の原料及び焼結助剤としても利用することができる。また、ジルコニウム、鉄、ニッケル、クロム及びアルミニウムの混入量の少ない高純度の本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液は、電子材料、医薬品原料、飲食料品の添加剤としても利用することができる。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
平均一次粒子径が10nmの酸化マグネシウム粉末(100A、宇部マテリアルズ(株)製)5質量部を、ブチルアルコール95質量部に投入して濃度5質量%の酸化マグネシウム粉末分散液を得た。この酸化マグネシウム粉末分散液を、ナノマイザーシステム(NM2、吉田機械工業(株)製、ノズル径:150μm×170μm)を用いて、分散液噴流の圧力200Mpa、衝突分散処理回数100回の条件にて、酸化マグネシウム粉末を崩壊させて酸化マグネシウム微粒子分散液を製造した。
【0021】
得られた酸化マグネシウム微粒子分散液中のジルコニウム、鉄、ニッケル、クロム及びアルミニウムを定量したところ、ジルコニウム6質量ppm、鉄1.8質量ppm、ニッケル1.0質量ppm、クロム4.0質量ppm及びアルミニウム2.0質量ppmであった。
【0022】
得られた酸化マグネシウム微粒子分散液中の酸化マグネシウム微粒子の粒度分布を動的光散乱法によって下記の条件にて測定した。その結果、D10は11.3nm、D50は14.2nm、D90は29.1nmであり、D10/D90は0.39であった。
【0023】
[粒度分布の測定条件]
酸化マグネシウム微粒子分散液を、酸化マグネシウム微粒子の濃度が3〜4質量%となるように分散媒体にて希釈し、超音波ホモジナイザー(S−150D、ブランソン製)にて、パワー強度8の条件で1分間分散処理を行なう。得られた希釈分散液中の酸化マグネシウム微粒子の粒度分布を、動的光散乱式粒度分析計(マイクロトラックUPA150、日機装製)を用いて、半導体レーザ(+3B)波長:780nm、3mWの条件にて測定する。測定は5回行い、その平均値を算出する。
【0024】
実施例2にて調製した酸化マグネシウム微粒子分散液を用いて、ガラス基板(サイズ:縦40mm×横40mm×厚さ0.5mm)上にスピンコート法により酸化マグネシウム膜を形成した。酸化マグネシウム膜は、酸化マグネシウム微粒子分散液1gをガラス基板の中心に滴下した後、ガラス基板をその中心を軸として1000rpmの回転速度で60秒、2000rpmの回転速度で20秒、3000rpmの回転速度で20秒の順で回転させる操作を5回行なって形成した。形成した酸化マグネシウム膜の膜厚と波長600nmの光の透光率をガラス基板の中心、中心から右端に15mm、中心から左端に15mmの位置にて測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
表1
────────────────────────────────────────
中心から右端 中心 中心から左端
に15mm に15mm
────────────────────────────────────────
膜厚(μm) 1.93 2.08 2.05
透光率(%) 95.1 96.4 98.4
────────────────────────────────────────
【0026】
表1に示すように、本発明の酸化マグネシウム微粒子分散液を用いることにより、均一な厚さの酸化マグネシウム膜を形成することができることが分かる。
【0027】
[実施例2]
ナノマイザーシステムによる酸化マグネシウム粉末分散液の衝突分散処理の回数を10回とする以外は実施例1と同様にして微粒子分散液を製造した。
得られた酸化マグネシウム微粒子分散液中の酸化マグネシウム微粒子の粒度分布を動的光散乱法によって下記の条件にて測定した。その結果、D10は11.7nm、D50は15.1nm、D90は28.2nmであり、D10/D90は0.41であった。
【0028】
[実施例3]
ナノマイザーシステムによる酸化マグネシウム粉末分散液の衝突分散処理の回数を500回とする以外は実施例1と同様にして微粒子分散液を製造した。
得られた酸化マグネシウム微粒子分散液中の酸化マグネシウム微粒子の粒度分布を動的光散乱法によって下記の条件にて測定した。その結果、D10は11.5nm、D50は15.1nm、D90は27.1nmであり、D10/D90は0.42であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機溶媒中に、酸化マグネシウム微粒子が分散液全体量に対して0.05〜20質量%の範囲となる量にて分散されてなり、動的光散乱法によって測定された酸化マグネシウム微粒子のD50が5〜20nmの範囲にあり、D10/D90が0.3以上である酸化マグネシウム微粒子分散液。
【請求項2】
ジルコニウム、鉄、ニッケル、クロム及びアルミニウムをそれぞれ、分散液全体量に対して20質量ppm以上含むことがない請求項1に記載の酸化マグネシウム微粒子分散液。
【請求項3】
平均一次粒子径が5〜20nmの範囲にある酸化マグネシウム微粒子からなる酸化マグネシウム粉末を、極性有機溶媒に分散させて分散液を調製する工程、そして該分散液に圧力を付与して分散液噴流を生成させ、次いで該分散液噴流を二以上に分岐させ、各分散液噴流を対向下に衝突させることにより分散液中の酸化マグネシウム粉末を崩壊させて微粒子の分散液とする工程を含む請求項1に記載の酸化マグネシウム微粒子分散液の製造方法。

【公開番号】特開2007−137695(P2007−137695A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330696(P2005−330696)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】