説明

酸化物固溶体粉末

【課題】 セリウム酸化物を主成分とする酸化物固溶体粉末であって研摩材として用いることができるものであり、研摩材として用いたときに高い研摩面精度の被研摩面を得ることができるものを提供すること。【解決手段】 酸化セリウムを主成分とする希土類酸化物にカルシウム酸化物が固溶している酸化物固溶体粉末は、これを用いてガラス基板等のガラス材を研摩したときに高い研摩面精度の被研摩面を得ることができるものであり、研摩材として好適である。酸化セリウムを主成分とする希土類酸化物にカルシウム元素を固溶させると、化学研摩力が高くなり、より高い研摩面精度が得られると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物固溶体に関し、特に酸化セリウムなどの希土類酸化物を主成分とする酸化物固溶体の粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウムなどの希土類酸化物は、研摩材、触媒担体、紫外線吸収剤など種々の用途で用いられている。例えば酸化セリウムを主成分とする希土類酸化物は、研摩材として好適であることで知られており、光ディスク用、磁気ディスク用、LCD用、HD用のガラス基板などをはじめとするガラス材料等の研摩材として用いられている。そして、上記のようなガラス基板を用いる電子機器製造の分野をはじめ、研摩材を用いる各分野では、研摩面精度の高い研摩材(希土類酸化物)が求められている。
【0003】
このような分野で用いられる研摩材としては、例えば、研摩材スラリー調製時に、酸化セリウムを含むバストネサイト系研摩材にフッ化セリウムと硫酸カルシウムを混合し、さらに水を混合して得られるスラリー研摩材がある(特許文献1参照)。スラリー中にカルシウムイオンを存在させることで、スラリー中の粒子の沈殿や研摩パッドにおける目詰まりを防止して研摩傷の発生を防止しようとするものである。
【0004】
この他にも、例えば、研摩材の主原料である希土類炭酸塩と希土類酸化物に、研摩材製造時の焙焼工程前に塩化カルシウムを混合し、その後焙焼することにより製造される研摩材がある(特許文献2参照)。焙焼前に塩化カルシウムを混合しておくと、焙焼時の異常粒成長が抑えられ、焙焼時の粒子平均粒径や粒径分布の制御が容易になり、平均粒径が小さい研摩材をより容易に製造できる。この結果、フッ素成分を含んでいなくても研摩面精度の低下が防止された研摩材を製造できる。
[特許文献1]特開平6−330025号公報
[特許文献2]特開2002−155269号公報
【0005】
これらのような研摩材を用いることで、ある程度高い研摩面精度を有する被研摩面を得ることができるが、要求される研摩面精度は次第に高くなっている。例えば、上述したような分野における精密な研摩では、近年、平均表面粗さ(Ra)で3Å以下、さらには2Å以下という面精度の研摩面が求められる場合がある。ところが、上記のようなスラリー研摩材や研摩材では、このように高い研摩面精度を確保できない。
【0006】
このようなことから、より高い研摩面精度を有する研摩材を得るために、平均粒径がより小さくかつ粗大粒子の含有率がより低い研摩材の開発が検討されてきた。例えば、より微粒の研摩材としては、粒径が0.2μm以下のいわゆる超微粒のシリカ研摩材が知られている。また、酸化セリウムなどの希土類酸化物を含む研摩材としても、ジルコニウムとセリウムとの複合酸化物(Ce−Zr複合酸化物)からなる超微粒(例えば0.01μm程度)のジルコニウム系研摩材がある(特許文献3参照)。ところが、これらのような超微粒の研摩材を用いても十分な研摩面精度を確保できない。
[特許文献3]特開平10−237425号公報
【0007】
なお、高い研摩面精度を得るための技術としては、研摩面精度の高い研摩材の使用以外にも、例えば、被研摩体である結晶化ガラス基板の結晶部の結晶粒子の平均粒径を微細化する方法(特許文献4参照)や、ガラス基板の結晶部の結晶粒子径よりも小粒径の砥粒からなる研摩材で研摩する方法(特許文献5参照)、あるいは、被研摩面をケイフッ酸で表面処理(洗浄)する方法や、微粒の砥粒が用いられており且つスラリー濃度が通常よりも希釈されたスラリー研摩材を用いて研摩する方法(特許文献6参照)などを挙げることができる。しかしながら、これらの技術は、いずれも研摩材自体の特性を改善して高い研摩面精度を確保するという方法ではない。また、これらの技術を用いるには、より多くの作業が必要になるので、研摩コストがアップし、研摩作業時間がより長時間になってしまう。
[特許文献4]特開2001−126236号公報
[特許文献5]特許第2736869号明細書
[特許文献6]特開2001−30732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、セリウム酸化物などの希土類酸化物を主成分とする酸化物固溶体粉末であって研摩材として用いることができるものであり、研摩材として用いたときに高い研摩面精度の被研摩面を得ることができるものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明の発明者は、まず上記従来技術について検討した。その結果、研摩粒子すなわち希土類酸化物粒子をより微粒化することによってより高い研摩面精度を有するものを得ることは容易でないと判断した。そこで、別の観点に着目して研摩面精度に優れる研摩材(希土類酸化物)を開発することとした。そして、検討を重ねた結果、希土類酸化物の一種である酸化セリウムに備わる化学研摩特性、すなわち研摩中に酸化セリウムとガラスとが化学反応してガラスの結合が破壊されるという特性(一種の研摩作用)に着目することとした。
【0010】
このような特性に着目して検討を重ねた結果、酸化セリウム粒子中に酸素欠損を生じさせ、その欠損量を高めることで、酸化セリウムを用いた研摩材の研摩面精度をより高めることができることを見出した。そして、さらなる検討の結果、酸素欠損量を高めるように作用する元素を酸化セリウムの構造に取り込ませることで酸化セリウムが有する化学研摩力を高めることができ、延いては研摩面精度を高めることができることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0011】
本発明は、セリウム酸化物を主成分とする希土類酸化物にカルシウム酸化物が固溶している酸化物固溶体粉末である。当該酸化物固溶体粉末を研摩材として用いてガラス基板等のガラス材を研摩すると、高い研摩面精度の被研摩面を得ることができる。つまり、本発明に係る酸化物固溶体粉末を研摩材として用いる研摩方法は、ガラス基板の研摩方法として好適である。酸化セリウムなどのセリウム酸化物にカルシウム元素を固溶させることで得られる上記酸化物固溶体は、固溶体中に生ずる酸素欠損の欠損量が高いものであるところ、酸素欠損量が高いと酸化セリウムが有する化学研摩力が高く、より高い研摩面精度が得られると考えられる。このように、本発明は、酸化物固溶体粉末すなわち研摩材そのものについての発明であり、研摩材と溶媒(例えば水)を混合して研摩材スラリーを調製する際に何らかの添加剤を添加することで研摩面精度を向上させる技術とは技術内容が根本的に異なる。
【0012】
また、近年、研摩材を構成する研摩粒子の微粒化により研摩面精度の向上が図られてきたことは、背景技術のところで既に説明したが、上記のように本発明は、セリウム酸化物にカルシウム元素を固溶させることで研摩面精度を向上させるものであり、粒子を微粒化することで研摩面精度を向上させるという技術とも技術内容が根本的に異なる。つまり、本発明に係る研摩材は、従来の研摩材と比較して、例え粒径が同じであっても、より高い研摩面精度を有する。このように、本発明によれば、研摩粒子を微粒化する必要がないので、粉砕や分級の強化が解決課題になることがなく、このような技術について検討せずに研摩面精度を向上させることができる。例えば、本発明に係る酸化物固溶体粉末を研摩材として用いれば、平均粒径が2μm〜3μm程度のものを用いることで、平均表面粗さ(Ra)が3Åまたはそれ以下、さらには2Å以下という高い研摩面精度の被研摩面を得ることができる。なお、研摩面精度との関係で平均粒径が限定されることはないが、例えば、研摩速度は一般に粒径の大きいものの方が高い。したがって、比較的高い研摩速度を有するものが好ましい用途では、酸化物固溶体粉末としては、平均粒径が1μm以上のものが好ましく、2μm以上のものがより好ましいということができる。そして、研摩傷の発生を極力防止したい用途では、酸化物固溶体粉末としては、平均粒径が3μm以下のものがより好ましいということができる。
【0013】
また、本発明に係る酸化物固溶体粉末としては、当該酸化物固溶体の総酸化物換算質量に占めるカルシウム元素の質量の割合が10.7質量%以下であるものが好ましく、7.15質量%以下であるものがより好ましい。上記割合が上限値を超えると、酸化セリウムなどの希土類酸化物中にカルシウム元素が完全に固溶されず、カルシウム元素が酸化カルシウムの状態で希土類酸化物粒子の外に出現する可能性が高くなるところ、このような酸化カルシウムが研摩材中に存在していると、研摩傷や研摩材付着(ヒルの発生)の原因になるからである。研摩面精度が向上するという効果は、カルシウム酸化物の固溶量に応じて得られるものであるので、その観点ではカルシウム元素は最低限の量固溶されていればよい(例えば、上記割合が0.01質量%以上になる固溶量でよい)が、確実な効果を得る目的では2.0質量%以上がより好ましい。なお、酸化物固溶体の総酸化物換算質量であるが、当該酸化物固溶体の組成が解っている場合、酸化物固溶体中の各元素について酸化物換算質量を算出することで求められる。そして、本発明における各希土類元素の酸化物換算質量の算出では、カルシウム成分等他の物質が固溶してない希土類酸化物の換算質量を算出した。また、後述の説明で用いられている全希土類酸化物換算量(TREO)とは、対象物質に含まれる全ての希土類元素を希土類酸化物として存在させた場合の希土類酸化物の総質量のことである。
【0014】
本発明に係る酸化物固溶体粉末の製造においてセリウム酸化物にカルシウム元素を固溶させるために用いる物質(溶質)としては、硝酸カルシウム、塩化カルシウムまたは炭酸カルシウムなどが好ましく、これらの中でも溶液反応性に優れるという点において硝酸カルシウムが特に好ましい。また、希土類酸化物とは、例えばセリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジムなどの希土類元素の酸化物のことである。
【0015】
そして、研摩材として用いる酸化物固溶体粉末としては、セリウム酸化物を主成分とする希土類酸化物であって、ランタン酸化物および/またはプラセオジム酸化物が固溶している酸化物固溶体粉末が好ましい。研摩試験を行ったところ、ランタン元素および/またはプラセオジム元素が固溶されている酸化物固溶体粉末の方が、これらが固溶されていない酸化物固溶体粉末よりも、研摩傷の発生が少なく研摩面精度に優れていたからである。希土類炭酸塩(例えば炭酸セリウム)を用意してこれを焙焼して希土類酸化物を製造する際に、ランタン元素および/またはプラセオジム元素が固溶されている希土類炭酸塩を用いると、焙焼時の過度の粒成長が抑制され、傷発生の原因になる粗大粒子の生成が抑制されるからであると考えられる。このような効果を得るためには、酸化物固溶体粉末としては、当該酸化物固溶体の総酸化物換算質量に占める酸化ランタン質量と酸化プラセオジム質量の合計質量の割合が1質量%以上であるものが好ましい。ただし、当該割合が40質量%を超えると、酸化物固溶体としての安定性が低くなり、酸化物固溶体中のランタン元素やプラセオジム元素が酸化ランタンや酸化プラセオジムとして酸化物固溶体の外に析出するという不具合が生じやすくなる。したがって、このような観点に着目すれば、上記割合は40質量%以下が好ましい。
【0016】
さらに、研摩材として用いる酸化物固溶体粉末としては、当該酸化物固溶体の総酸化物換算質量に占める酸化セリウム質量の割合が50質量%以上である酸化物固溶体粉末が好ましい。換言すれば、酸化セリウムが主成分である酸化物固溶体粉末が好ましい。本発明に係る酸化物固溶体粉末からなる研摩材において、酸化セリウムは最重要の研摩成分であるところ、当該酸化セリウムの割合が50質量%未満では安定した研摩速度を確保できないからである。
【0017】
また、希土類酸化物にカルシウム酸化物が固溶されてなる酸化物固溶体粉末の研摩速度を向上させることについて検討した。その結果、希土類酸化物に、カルシウム元素と共にジルコニウム元素を固溶させると、研摩面精度を維持しつつ研摩速度を向上できる可能性があることを見出した。そこで、さらに検討を重ねた結果、カルシウムとジルコニウムの複合酸化物(例えばCaZrO)が研摩材中に出現している研摩材は研摩面精度に劣るが、カルシウム元素およびジルコニウム元素の全てが希土類酸化物中に固溶してなる酸化物固溶体粉末は研摩面精度に優れていることを見出した。つまり、研摩材用の酸化物固溶体粉末としては、セリウム酸化物を主成分とする希土類酸化物にカルシウム酸化物およびジルコニウム酸化物が固溶している酸化物固溶体粉末が好ましい。そして、固溶しているジルコニウム元素の好適な含有率について検討した。その結果、酸化物固溶体粉末の総酸化物換算質量に占める酸化ジルコニウムの質量の割合は0.01質量%〜15質量%が好ましい。当該割合が上記上限値を超えると、研摩粒子の結晶性が低下して機械的研摩力が低下するからであり、当該割合が下限値未満では研摩速度の向上が得られないからである。そして、十分な研摩速度の向上を得るには上記割合は2.2質量%以上がより好ましい。
【0018】
このように、本発明の酸化物固溶体粉末は、研摩面精度に優れることから研摩材として好適であるが、その他にも優れた特性を有しており、研摩材以外の用途にも好適である。例えば、本発明の酸化物固溶体粉末は、主成分が酸化セリウムなどの希土類酸化物であり、これにカルシウム酸化物および/またはジルコニウム酸化物が固溶されたものであるので、耐熱性、対候性、耐蝕性、安全性に優れ、その上、高い酸素貯蔵脱離能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有し、また有機成分を分解させ得る光触媒活性を有していないという特性を有する。したがって、本発明の酸化物固溶体粉末は、まず自動車用の触媒あるいは助触媒としても好適なものである。尚、本願の請求項に記載した「触媒」には、いわゆる促進剤としての助触媒も含む用語として用いている。また、本発明の酸化物固溶体粉末は、有機成分を分解させ得る光触媒活性を有していないという点で、化粧料や塗料等に含有させるなどして使用される紫外線吸収剤としても好適である。なお、粉末の希土類酸化物固溶体を触媒担体、助触媒、触媒または紫外線吸収剤といった用途で使用することは、周知の使用方法であるので、使用方法等についての説明は省略する。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から解るように、本発明に係る酸化物固溶体粉末を、例えば研摩材として用いればガラス基板のガラス材を高い研摩面精度で研摩でき、自動車用触媒担体等として用いればA/F(空燃比)の雰囲気制御特性や窒素酸化物の除去性能に優れる触媒担体を提供でき、化粧料や塗料等に含有させる紫外線吸収剤など各種紫外線吸収剤として用いれば高い紫外線吸収能を有する紫外線吸収剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
[図1]製造工程を示すフローチャート。
[図2]第1実施形態の各例で得られた研摩材についてのXRDチャート。
[図3]研磨材スラリー中のカルシウム元素の割合と研磨面精度との関係を示すグラフ。
[図4]第3実施形態の各例で得られた研摩材についてのXRDチャート。
[図5]第4実施形態の酸素貯蔵脱離能を測定した結果を示すグラフ。
[図6]第4実施形態のNOx吸着種・吸着能を調査したDSR。
[図7]第4実施形態のNOx吸着種・吸着能を調査したDSR。
[図8]第4実施形態のNOx吸着種・吸着能を調査したDSR。
[図9]第4実施形態のNOx吸着種・吸着能を調査したDSR。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る酸化物固溶体粉末の好適な実施形態について、図および表を参照しつつ説明する。
【0022】
第1実施形態:本実施形態では、炭酸セリウム、炭酸ランタン、炭酸プラセオジムおよび炭酸カルシウムを用意し、これらをそれぞれ個別に硝酸水溶液に溶解し、異物をろ過により取り除いた後純水を加え、酸化物質量換算で200g/L(グラム/リットル)の硝酸セリウム水溶液、硝酸ランタン水溶液、硝酸プラセオジム水溶液および硝酸カルシウム水溶液を調製した。
【実施例1】
【0023】
まず、硝酸セリウム水溶液300ml(ミリリットル)、硝酸ランタン水溶液150ml、硝酸プラセオジム水溶液35ml、硝酸カルシウム水溶液15mlを混合し、さらに純水を加えて3L(リットル)の混合液を得た(工程1、図1参照)。この混合液に含有されている各希土類元素およびカルシウムの酸化物換算質量の比率は、60:30:7:3(=CeO:La:Pr11:CaO)であった。また、1.2倍当量の炭酸水素アンモニウム水溶液2L(84g/L)を用意した。そして、先に得た混合液の全量を撹拌しながら、350rpmの強撹拌状態にある炭酸水素アンモニウム水溶液中に滴下して含炭酸塩の共沈粒子を得た(工程2)。滴下時のフィード速度は50ml/分であった。次に、共沈粒子を含む懸濁液を2時間室温にて熟成させ(工程3)、熟成後の懸濁液を純水を用いて20Lに希釈した。希釈した懸濁液を3時間静置して共沈粒子を沈殿させた(工程4)。静置後、沈殿した共沈粒子の体積が4L未満に達するまでデカンテーションを行い(工程5)、その後、セラミック洗浄装置を用いて洗浄を行った(工程6)。当該洗浄では、懸濁液中の硝酸イオン濃度が20ppm以下になるまで洗浄を行い、共沈粒子を含む懸濁液を得た。洗浄後、共沈粒子を含む懸濁液をろ過して共沈粒子のケークを得た(工程7)。
【0024】
次に、得られたケークを熱風乾燥機(熱風温度120℃、乾燥時間8時間)で乾燥させ(工程8)、得られた乾燥品を解砕し(工程9)、解砕品を電気炉(仮焼温度300℃、仮焼時間3時間)で仮焼し(工程10)、仮焼品(いわゆる脱炭酸粒子)を解砕し(工程11)、解砕された仮焼品を電気炉(焙焼温度900℃、焙焼時間3時間)で焙焼して(工程12)、酸化セリウム(CeO)を主成分とする希土類酸化物に酸化カルシウム(CaO)が固溶された酸化物固溶体(希土類元素−Ca複合酸化物)を得た。そして、この酸化物固溶体を解砕(工程13)して研摩材(酸化物固溶体粉末)を得た。得られた研摩材の平均粒径は2.0μmであった。なお、ここでは、希土類酸化物を主成分とする酸化物固溶体を希土類酸化物の一形態に含めて、当該「希土類酸化物」という用語を用いた。従って、各実施例や比較例で得られた研摩材の研摩粒子について「希土類酸化物」という用語を用いた場合、当該「希土類酸化物」には、希土類酸化物に希土類酸化物以外の酸化物が固溶している酸化物固溶体が含まれる。
【0025】
実施例2〜5および比較例1,2:これらの実施例および比較例は、実施例1とは、混合状態における各希土類元素の酸化物換算重量の比率が異なる。各実施例および比較例における混合比率は、表1に示されるとおりである。これ以外の点は実施例1と同様であったので、それらの説明は省略する。
【0026】
比較例3:本比較例では、従来の製造方法で研摩材を製造した。まず、炭酸セリウム、炭酸ランタン、炭酸プラセオジムを用意してこれらの混合物(200g)を得た。当該混合物に含まれる希土類元素の酸化物換算重量の比率は62:31:7(=CeO:La:Pr11)であった。そして、2つのプラスチック容器(容量はいずれも500ml)を用意して、各プラスチック容器に、先に得られた混合物から分取した100gの混合物と、粒径0.8mmのジルコニアビーズ1800gと、純水200mlとを入れてペイントシェーカーを用いて3時間の湿式混合粉砕を行った。その後、得られた混合物から30メッシュ(目開き500μm)の篩を用いてジルコニアビーズを取り除いた後、ろ過して、希土類炭酸塩のケークを得た。そして、得られたケークを熱風乾燥機で乾燥させ(熱風温度120℃、乾燥時間8時間)、乾燥品を解砕し、解砕された乾燥品を電気炉で焙焼し(焙焼温度900℃、焙焼時間3時間)、焙焼品を解砕して研摩材を得た。得られた研摩材の平均粒径は、3.8μmであった。
【0027】
比較例4〜7:これらの比較例は、比較例3とは、混合物の状態における各希土類元素の酸化物換算重量の比率が異なる。各比較例における当該比率は、表1に示されるとおりである。
【0028】
比較例8:本比較例では、ガラス基板の精密研摩用として知られている高純度コロイダルシリカを用意した。コロイダルシリカの平均粒径は0.06μmであった。
【0029】
研摩材の材料評価(XRD測定):実施例1〜5の研摩材および比較例1,2の研摩材について、X線回折装置(MXP18:マックサイエンス(株)製)を用いてXRD測定を行った。本測定では、銅(Cu)ターゲットを使用し、Cu−Kα線を照射して得られたCu−Kα線による回折X線強度を測定した。そして、その他の測定条件は、管電圧40kV、管電流150mA、測定範囲20=5°〜90°、サンプリング幅0.02°、走査速度4.0°/分であった。測定結果(XRDチャート)は、図2に示される通りである。なお、図2では、チャートの読み取りを容易にするために、実施例2の研摩材以外の研摩材に関するチャートについては、ベースレベルを上方にずらしてグラフ上に現した。
【0030】
図2に示されるように、全ての研摩材のXRDチャートには、28.3°(=2θ)付近と、32.5°付近にピークが現れた。これらのピークは立方晶酸化セリウムの存在を示すものであった。そして、各実施例の研摩材のXRDチャート(2θ=20°〜40°の測定範囲)には、上記ピーク以外のピークは現れなかった。他方、比較例1のXRDチャートには37.5°付近に実施例には存在しないピークが現れ、比較例2にXRDチャートには32.3°付近および37.5°付近に実施例には存在しないピークが現れた。これらのピークは酸化カルシウム(CaO)の存在を示すピークである。
【0031】
このようなXRD測定の結果、各実施例1〜5の研摩材では、原料中のカルシウム元素の全てが希土類酸化物中に固溶(完全固溶)していたが、酸化カルシウムの存在を示すピークが現れた比較例1,2の研摩材では、カルシウム元素が完全には固溶しておらず(不完全固溶であり)、酸化カルシウムが研摩粒子である希土類酸化物粒子の外側に現れた状態で存在していることが解った(表1のCaOの有無の欄参照)。
【0032】
研摩試験:各実施例および比較例で得られた研摩材について、オスカー型研摩機を用いて研摩試験を行った。研摩試験方法は、ポリウレタン製の研摩パッドを貼り付けた直径180mmの常盤を用いて直径30mmの円板形状のガラス材(BK−7製、被研摩材)を3枚同時に研摩するというものであった。まず、各実施例および比較例で得られた研摩材を用いて研摩材スラリーを0.1L調製し、調製した研摩材スラリーを3L/分の割合で循環供給して研摩試験を行った。研摩時の研摩パッドの回転数は33rpm、揺動回転数は30rpm、揺動幅は60mmであった。また、研摩圧力は19.6kPa(200g/cm)であり、研摩時間は30分であった。
【0033】
なお、研摩試験における研摩材スラリーの調製は次のようなものであった。各実施例および比較例1,2では、粉末状の研摩材と純水とを室温下で混合・撹拌して、研摩材スラリー全体に占める研摩材の割合が10質量%の研摩材スラリーを0.1L調製した。そして、比較例3〜7では、粉末状の研摩材と塩化カルシウム粉末と水とを室温下で混合・撹拌して、スラリー全体に占める研摩材の割合が10質量%の研摩材スラリーを0.1L調製した。比較例3〜7における塩化カルシウム粉末の混合量は、研摩材スラリー中のカルシウム元素の質量割合が表1に示される値になる量であった。当該混合量は、実施例1〜5の研摩材スラリー中のカルシウム元素の質量割合と比較例3〜7の研摩材スラリーの懸濁液中のカルシウムイオン(Ca2+)の質量割合とを同程度にするという基準で定められた量である。また、比較例8では、40質量%のコロイダルシリカスラリーを25g用意し、これと純水75mlとを室温下で混合・撹拌して、研摩材スラリー全体に占める研摩材の割合が10質量%の研摩材スラリーを0.1L調製した。
【0034】
研摩材の研摩特性評価:研摩終了後、ガラス材の被研摩面を純水で洗浄して無塵状態で乾燥させた後、研摩対象物の減少厚み(μm)を測定し、当該厚みと研摩時間とから算出される「単位時間当たりの減少厚み(μm/分)」を用いて研摩速度を評価した。また、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて平均表面粗さ(Ra)を測定し、これを用いて被研摩面の研摩面精度を評価した。各実施例および比較例の研摩材の研摩速度および研摩面精度は、表1に示されるとおりである。
【0035】


【0036】
表1に示されるように、実施例1〜5の研摩材は、希土類酸化物へのカルシウム元素の固溶が完全なものであり、XRD測定の結果、酸化カルシウムの検出は無かった。そして、実施例1〜5の研摩材では、原料中のカルシウム元素の割合が多いものほど、研摩面精度が優れていた。また、各実施例の研摩材は、比較例8の研摩材(コロイダルシリカ)と比較して、研摩粒子径は著しく大径であるが、研摩面精度は同等またはそれより優れており、研摩速度も同等またはそれより高かった。
【0037】
他方、比較例1,2の研摩材は、カルシウム元素の固溶が不完全なものであり、XRD測定の結果、酸化カルシウムの検出が有った。そして、比較例1,2の研摩材は、研摩速度こそ実施例4,5や比較例8(コロイダルシリカ)の研摩材と同等であったが、原料中のカルシウム元素の割合が実施例のものより高いにも拘わらず、研摩傷が多く発生しており研摩面精度が劣っていた。
【0038】
この結果、希土類酸化物にカルシウム元素を固溶させたセリウム系研摩材を製造する場合、研摩材としては、カルシウム元素が完全に固溶されており、研摩粒子(酸化物固溶体粒子)の外に酸化カルシウムが出現していないものが好ましく、研摩材の総酸化物換算質量に占めるカルシウム元素の質量の割合が2.0質量%〜10.7質量%(より好ましくは7.15質量%以下)が好ましいことが解った。
【0039】
また、研摩材中に酸化カルシウムが検出された比較例1,2の研摩材では、原料中のカルシウム元素の割合が高いものほど研摩傷が多く、研摩面精度に劣るという傾向があった。この傾向は、特許文献2の表2に示されている製品研摩試験結果(特許文献2の表2の実施例3〜5,比較例3のキズ値参照)と同じ傾向である。この結果、特許文献2の実施例3〜5や比較例3の研摩材の製造方法、すなわち炭酸希土等(炭酸希土および/または酸化希土)とアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを単に混合して焙焼するという研摩材製造方法を用いたのでは、希土類酸化物中にアルカリ土類元素が完全に固溶された研摩粒子を製造することはできず、本発明の実施例との比較に用いた比較例1,2の研摩材同様、研摩材中にアルカリ土類酸化物が現れることが解った。
【0040】
また、表1に示されるように、研摩材スラリーの懸濁液中にカルシウムイオン(Ca2+)を存在させた比較例3〜7の研摩材は、実施例1〜5の研摩材に比べて研摩面精度が著しく劣っていた。この結果、研摩面精度を向上させる目的でカルシウム成分を用いる場合、研摩材スラリーの懸濁液中にカルシウムイオンの状態で含ませるのではなく、実施例1〜5のように、酸化セリウムを主成分とする希土類酸化物に酸化カルシウムが固溶(完全固溶)された酸化物固溶体粉末を研摩材として用いる方が好ましいことが解った。また、研摩材製造に用いられるバストネサイト精鉱などの研摩材原料や工業用水の中にはアルカリ土類金属塩等の状態でカルシウム成分が含まれており、これらに由来するカルシウムイオンが研摩材スラリーの懸濁液中に不可避的に残留する場合があるが、カルシウムイオンの残留は研摩面精度を低下させるおそれがあり極力避ける方が好ましいことが解った。
【0041】
研摩特性とカルシウム元素の質量割合との関係:研摩面精度と、研摩材の総酸化物換算質量に占めるカルシウム元素の質量の割合との関係を検討した。
【0042】
図3に示されるように、実施例1〜5の研摩材(希土類酸化物中にカルシウム元素が固溶している研摩材)の場合、カルシウム元素の割合が0質量%を超えており2質量%未満の範囲(特に0.5質量%以上の範囲)では、カルシウム元素の割合が高いほど、研摩面精度が向上した。また、カルシウム元素の割合が2重量%以上の範囲では、安定して優れた研摩面精度が得られた。この結果、優れた研摩面精度を有する研摩材を提供するという観点ではカルシウム元素を含有させることが好ましいことが解った。そして、高い研摩面精度を安定して確保するには、カルシウム元素の割合は0.5質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましいことが解った。ただし、先に説明した研摩傷等を考慮すると、その割合は10.7質量%以下が好ましく、7.15質量%以下がより好ましい。
【0043】
他方、比較例3〜7の研摩材(懸濁液中にカルシウムイオンが存在する研摩材スラリー)では、その研摩面精度は、含有されているカルシウムイオンの質量割合に拘わらず同じであった。つまり、研摩材スラリー調製時に溶液中にカルシウムイオン等の状態でカルシウム成分を添加するだけでは、研摩面精度や研摩速度などの研摩特性は向上しなかった。
【0044】
第2実施形態:次に別の実施形態について説明する。本実施形態は、酸化セリウムの含有率が高いいわゆる高品位のセリウム系研摩材についてのものである。
【0045】
実施例6〜9:研摩材製造時、混合液を調製する際に混合する硝酸セリウム水溶液、硝酸ランタン水溶液、硝酸プラセオジム水溶液、硝酸カルシウム水溶液の混合比率が第1実施形態とは異なる。各実施例の混合液における各希土類元素およびカルシウム元素の酸化物換算質量の比率は表2に示されるとおりである。これ以外の条件は第1実施形態の実施例1と同じであった。
【0046】
比較例9〜12:本比較例は、上記実施例6〜9と異なり、原料中にカルシウム成分を添加しなかった。また、比較例9〜12では、研摩材における希土類元素の酸化物換算質量の比率を、上記実施例6〜9における当該質量比率に対応するように定めた。これら以外の条件は実施例6〜9と同じであった。
【0047】
上記実施例6〜9の研摩材について上記XRD測定を行ってCaOの有無の評価を行い、また実施例6〜9および比較例9〜12の研摩材について上記研摩試験を行って研摩面精度および研摩速度を評価した。結果は表2に示されるとおりである。なお、研摩試験における研摩材スラリーの調製方法は、いずれの実施例および比較例で得られた研摩材の場合とも、第1実施形態の各実施例と同じであった。
【0048】

【0049】
表2に示される結果から解るように、いわゆる高品位の研摩材においても、酸化セリウムを主成分とする希土類酸化物に酸化カルシウムが固溶(完全固溶)している酸化物固溶体粉末からなるセリウム系研摩材は、第1実施形態の研摩材同様、酸化カルシウムが固溶されていない研摩材と比較して、優れた研摩面精度を有することが解った。
【0050】
第3実施形態:次に、さらに別の実施形態について説明する。本実施形態は、希土類酸化物に酸化カルシウムだけでなく、酸化ジルコニウムをも固溶させた酸化物固溶体からなるセリウム系研摩材についてのものである。
【0051】
本実施形態では、まず、第1実施形態や第2実施形態と同様に、200g/Lの硝酸セリウム水溶液、硝酸ランタン水溶液、硝酸プラセオジム水溶液および硝酸カルシウム水溶液を用意した。そして、これらに加えて、硝酸ジルコニル(硝酸酸化ジルコニウム)二水和物を純水に溶解して異物をろ過により取り除いた後、更に純水を加えて酸化物重量換算で200g/Lの硝酸ジルコニル水溶液を調製した。
【実施例10】
【0052】
本実施例では、用意した硝酸セリウム水溶液300ml、硝酸ランタン水溶液105ml、硝酸プラセオジム水溶液35ml、硝酸カルシウム水溶液15ml、硝酸ジルコニル水溶液45mlを混合し、さらに純水を加えて3Lの混合液を得た(工程1、図1参照)。この混合液に含有されている各希土類元素、カルシウムおよびジルコニウムの酸化物換算質量の比率は、60:21:7:3:9(=CeO:La:Pr11:CaO:ZrO)であった。工程1の後の工程は、第1実施形態と同じであった。そして、平均粒径が3.9μmの研摩材が得られた。
【0053】
実施例11〜14:これらの実施例は、実施例10とは、硝酸セリウム水溶液等の各水溶液の混合比率が異なる。各実施例における混合比率は、表3に示されるとおりである。これ以外の条件は実施例10と同様であった。
【実施例15】
【0054】
本実施例では、2つのプラスチック容器(容量はいずれも100ml)を用意して、各プラスチック容器に、実施例10で得られた研摩材から分取した20gの研摩材と、粒径0.8mmのジルコニアビーズ360gと、1質量%の結晶セルロース(製品名:アビセル、旭化成社製)水溶液10mlと、1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液10mlと、純水20mlとをそれぞれ添加し、ペイントシェーカーを用いて3時間、研摩材を湿式混合粉砕した。その後、得られた混合物から30メッシュ(目開き500μm)の篩を用いてジルコニアビーズを取り除き、研摩材スラリーを得た。そして、得られた研摩材スラリーに純水を加えて、スラリー全体に占める研摩材の割合が10質量%の研摩材スラリーを調製した。なお、研摩試験における研摩材スラリーの使用量は、他の実施例等と同じく0.1Lであった。そして、平均粒径2.0μmの研摩材が得られた。
【0055】
実施例16〜19:これらの実施例は、実施例15とは、用意した2つのプラスチック容器に入れる研摩材が異なる。実施例16では実施例11で得られた研摩材を用い、実施例17では実施例12で得られた研摩材を用い、実施例18では実施例13で得られた研摩材を用い、実施例19では実施例14で得られた研摩材を用いた。そして、用いた研摩材の種類以外の条件は実施例15と同じであった。得られた研摩材の平均粒径は、表3に示されるとおりである。
【0056】
比較例13および14:これらの比較例は、実施例15とは、混合状態における各希土類元素の酸化物換算重量の比率が異なる。各比較例における混合比率は表3に示されるとおりである。これ以外の条件は実施例15と同じであった。また、得られた研摩材の平均粒径は表3に示されるとおりである。
【0057】
比較例15:本比較例は、実施例15とは、合成時の撹拌スピード(実施例1の工程2参照)が異なる。その撹拌スピードは150rpmであった。これ以外の条件は実施例15と同じであった。そして、平均粒径1.67μmの研摩材が得られた。
【0058】
比較例16:本比較例では、第3実施形態の最初に用意した各水溶液のうち、まず、硝酸セリウム水溶液300ml、硝酸ランタン水溶液105ml、硝酸プラセオジム水溶液35ml、硝酸カルシウム水溶液15mlを混合し、さらに純水を加えて、2.7Lの混合液Aを得た。この混合液Aに含有されている各希土類元素およびカルシウムの酸化物換算質量の比率は、60:21:7:3(=CeO:La:Pr11:CaO)であった。また、混合液Aとは別に、硝酸ジルコニル水溶液45mlを用意し、これに純水を加えて、0.3Lの水溶液Bを得た(工程1)。なお、混合液Bに含有されているジルコニウムの酸化物換算質量は9gであった。さらに、混合液Aと水溶液Bの総液量に対して1.2倍当量の炭酸水素アンモニウム水溶液2L(濃度:84g/L)を用意した。そして、撹拌状態にある炭酸水素アンモニウム水溶液中に、先に得た混合液Aの全量を撹拌しながら滴下して含炭酸塩の共沈粒子を得た(工程2)。その後、水溶液Bを、混合液Aと同様の方法で、含炭酸塩の共沈粒子が存在する炭酸水素アンモニウム水溶液中に滴下してジルコニウム成分の沈殿を含む懸濁液を得た(工程3)。滴下時のフィード速度は50ml/分であった。次に、共沈粒子およびジルコニウム成分の沈殿物を含む懸濁液を2時間室温にて熟成させ(工程4)、熟成後の懸濁液を純水を用いて20Lに希釈した。希釈した懸濁液を3時間静置して共沈粒子を沈殿させた(工程5)。静置後、沈殿した共沈粒子の体積が4L未満に達するまでデカンテーションを行い(工程6)、その後、セラミック洗浄装置を用いて洗浄を行った(工程7)。当該洗浄では、懸濁液中の硝酸イオン濃度が20ppm以下になるまで洗浄を行った。洗浄後、共沈粒子を含む水溶液をろ過して共沈粒子のケークを得た(工程8)。
【0059】
次に、得られたケークを熱風乾燥機(熱風温度120℃、乾燥時間8時間)で乾燥させ(工程9)、得られた乾燥品を解砕し(工程10)、解砕品を電気炉(仮焼温度300℃、焙焼時間3時間)で仮焼し(工程11)、仮焼品を解砕し(工程12)、解砕された仮焼品を電気炉(焙焼温度900℃、焙焼時間3時間)で焙焼し(工程13)、焙焼品を解砕し(工程14)して、酸化物固溶体(希土類元素−Ca−Zr複合酸化物)の粉末を得た。そして、用意した2つの各プラスチック容器(容量はいずれも100ml)に、得られた酸化物固溶体から分取したもの20gと、粒径0.8mmのジルコニアビーズ360gと、1質量%のアビセル水溶液10mlと、1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液10mlと、純水20mlとをそれぞれ添加し、ペイントシェーカーを用いて3時間、酸化物固溶体を湿式混合粉砕した(工程15)。その後、得られた混合物から30メッシュ(目開き500μm)の篩を用いてジルコニアビーズを取り除き、研摩材スラリー(酸化物固溶体スラリー)を得た(工程16)。そして、得られた研摩材スラリーに純水を加えて、スラリー全体に占める研摩材の割合が10質量%の研摩材スラリーを調製した(工程17)。なお、研摩試験における研摩材スラリーの使用量は、他の実施例等と同じく0.1Lであった。また、得られた研摩材の平均粒径は1.8μmであった。
【0060】
上記実施例10〜19および比較例13〜16の研摩材について上記XRD測定を行ってCaOの有無の評価を行った(表3参照)。そして、これらのうち実施例15、比較例15および比較例16の研摩材についてのXRDチャートを図4に示した。また、実施例10〜19および比較例13〜16の研摩材について上記研摩試験を行って研摩面精度および研摩速度を評価した。結果は表3に示されるとおりである。なお、研摩試験における研摩材スラリーの調製方法であるが、実施例10〜14で得られた研摩材では、第1実施形態の各実施例と同じであった。また、実施例15〜19および比較例比較例13〜16では、最終的に調製された研摩材スラリーをそのまま研摩試験に用いた。
【0061】
図4に示されるように、全ての研摩材のXRDチャートには、28.3°(=2θ)付近と、32.5°付近にピークが現れた。これらのピークは立方晶酸化セリウムの存在を示すものであった。そして、比較例15の研摩材のXRDチャートには、31.4°付近および45.0°付近に、実施例の研摩材では現れなかったピークが現れた。これらのピークはジルコニウム酸化物(CaZrOと同定)の存在を示すピークである。また、比較例16の研摩材のXRDチャートには、29.7°付近、34.5°付近および49.4°付近に、実施例の研摩材では現れなかったピークが現れた。これらのピークもジルコニウム酸化物(Ce−Zr複合酸化物と同定)の存在を示すピークである。
【0062】
このようなXRD測定の結果から、実施例15の研摩材をはじめとする各実施例の研摩材では、原料中のカルシウム元素およびジルコニウム元素の全てが希土類酸化物中に完全に固溶しているが、ジルコニウム酸化物の存在を示すピークが現れた比較例15,16の研摩材では、ジルコニウム元素の固溶が不完全であり、ジルコニウム酸化物が研摩粒子の外側に現れた状態で存在していることが解った(表3のZrOの有無の欄参照)。
【0063】

【0064】
表3に示されるように、実施例10〜19の研摩材は、希土類酸化物へのカルシウム元素およびジルコニウム元素の固溶が完全なものであり、XRD測定の結果、酸化カルシウムおよび酸化ジルコニウムの検出は無かった。そして、実施例10〜19の研摩材は、第1実施形態の各実施例の研摩材と比較して、同等の研摩面精度を有し、且つより高い研摩速度を有していた。この結果、酸化セリウムを主成分とする希土類酸化物にカルシウム元素だけでなく、ジルコニウム元素もが固溶された酸化物固溶体粉末からなるセリウム系研摩材は、高い研摩面精度を有すると共に高い研摩速度を有する、優れたものであることが解った。また、実施例15〜19の研摩材は、実施例10〜14の研摩材よりも平均粒径が小さいものであり、研摩面精度に優れていた。この結果、カルシウム元素およびジルコニウム元素の固溶が完全な場合、平均粒径の小さい酸化物固溶体粒子の方が研摩面精度に優れており研摩材として好適であることが解った。
【0065】
そして、比較例13,14の研摩材は上記実施例の研摩材よりもジルコニア元素の割合が高い研摩材でるが、XRD測定の結果、いずれにおいても酸化カルシウムおよび酸化ジルコニウムの検出は無かった。したがって、希土類酸化物へのカルシウム元素およびジルコニウム元素の固溶は完全であると推定される。ところが、研摩面精度は実施例の研摩材より劣っていた。この理由は必ずしも明確ではないが、希土類酸化物中にジルコニウム元素を過剰に固溶させると、希土類酸化物の結晶の結晶性が大幅に低下してしまい、研摩面精度等の研摩特性が低下すると考えられる。また、ジルコニウム元素を過剰に固溶させると、カルシウム元素だけを固溶させた場合よりも得られる酸素欠損量が低下し、それにより、研摩面精度等の研摩特性が低下すると考えられる。
【0066】
さらに、比較例15,16の研摩材は、ジルコニウム元素の固溶が不完全なものであり、XRD測定の結果、比較例15ではジルコニウム酸化物(CaZrOと同定)が、また比較例16では、別のジルコニウム酸化物(Ce−Zr複合酸化物と同定)が検出された。そしてこれらの比較例の研摩材は、研摩面精度および研摩速度のいずれもが実施例の研摩材より劣っていた。
【0067】
このような結果から、希土類酸化物にカルシウム元素の他に、さらにジルコニウム元素を固溶させたセリウム系研摩材を製造する場合、研摩材としては、カルシウム元素およびジルコニウム元素が完全に固溶されており、研摩粒子(酸化物固溶体粒子)の外に酸化カルシウムや酸化ジルコニウムが出現していないものが好ましく、且つ、研摩材の総酸化物換算質量に占めるジルコニウム元素の質量の割合が0.01質量%〜15質量%が好ましいことが解った。
【0068】
第4実施形態:本実施形態では、本発明に係る酸化物固溶体についての触媒特性を調べた結果について説明する。触媒特性としては、酸素貯蔵脱離能(OSC)とNOx吸着種・吸着能とを調査した。また、測定サンプルは、表4に示す酸化物固溶体粉末を使用した。表4中の実施例9及び比較例12は、第二実施形態で用いた研摩材と同じ粉末である。また、表4中の実施例20は、上記した第一実施形態で説明した方法により製造したものである。
【0069】

【0070】
酸素貯蔵脱離能:この酸素貯蔵脱離能は、測定サンプル量0.025±0.001gとして、熱伝導度検出器により測定した。測定温度は400〜800℃(100℃毎)で、キャリアガスにHeを用い、パルスサイズは1.79mLで行った。具体的な測定手順は、まず、測定サンプルを800℃、200ccmのHe中に10分間保持後、最低測定温度(400℃)まで降温した。そして、各測定温度にした後、Oパルスを4本以上、Hパルス及びOパルスを交互に4本以上導入した。800℃熱処理は最初だけ行い、低温側の400℃から順次高温側への測定温度にして測定を行った。酸素貯蔵脱離能(OSC)の評価方法は、最初のOパルスを標準として、Hパルス及びOルスの交互パルスのサイズとの比から酸素貯蔵脱離能を算出して行った(3本の平均値)。その結果を図5に示す。
【0071】
図5には、各測定温度における酸素の貯蔵脱離能をプロットしたグラフを示しているが、この図5により、比較例12、実施例9、実施例20の順序で、酸素貯蔵脱離能が向上していることが認められた。従って、セリウム酸化物にCa或いはZrが固溶していると、酸素貯蔵脱離能を向上することが判明した。
【0072】
NOx吸着種・吸着能:このNOx吸着種・吸着能は、測定サンプル量0.025±0.001gとして、拡散反射スペクトル検出器(DSR)により測定した(キャリアガスHe)。測定温度は200℃〜500℃(100℃毎)で、拡散反射スペクトルを検出した。まず、初めに、測定サンプルを600℃、390ccmのHe(O5%)中に10分間保持後、各測定温度まで降温した。そして、各測定温度でHe中のBG(バックグランド)測定をした。その後、NO/O(5%)/Heガスを導入後、1min、2min、5min、10minでのDSRを測定した。各測定温度において、上記操作を行った。得られた結果を図6〜図9に示す。
【0073】
図6〜9には、各測定温度における吸収波長とその強度の測定結果を示している。この図6〜図9より、比較例12、実施例9、実施例20のすべてにおいてNOの吸着種が観察された。また、周知の吸着モデルに基づき、図6〜図9の結果を検討した結果、NOの吸着形態はキレーティング(Chelating)状態であることが判明した。さらに、吸着量の順位は、比較例12<実施例9<実施例20であることが判明した。
【0074】
NOx除去能力:このNOx除去能力は、測定サンプル量0.025±0.001gとして、熱伝導検出器と質量分析計により測定した(キャリアガスHe)。測定は、He流通の中、測定サンプル600℃、10分間保持後、吸着温度300℃まで降温した。そして、NO/O(5%)/Heを導入後、30min保持し、その後、Heの流通に切り換え後、10℃/minで600℃まで昇温し、脱離ガスを測定した。
【0075】
その結果、比較例12ではNOxの脱離は確認できなかった。一方、実施例9では、質量数30のガス検知が認められ、NOガスの脱離が確認された。また、実施例20では、質量数30と32のガス検知が認められ、NOガスの脱離が確認された。
【0076】
以上の結果により、従って、セリウム酸化物にCa或いはZrが固溶していると、NOxの吸着特性が向上することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る酸化物固溶体粉末は、研摩材、触媒担体または紫外線吸収材などとして用いることができるものである。例えば、研摩材として用いればガラス基板のガラス材を高い研摩面精度で研摩でき、自動車用触媒担体等として用いればA/Fの雰囲気制御特性や窒素酸化物の除去性能に優れる触媒担体を提供でき、化粧料や塗料等に含有させる紫外線吸収剤など各種紫外線吸収剤として用いれば高い紫外線吸収能を有する紫外線吸収剤を提供できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム酸化物を主成分とする希土類酸化物にカルシウム酸化物が固溶している酸化物固溶体粉末。
【請求項2】
セリウム酸化物を主成分とする希土類酸化物にジルコニウム酸化物が固溶している請求項1に記載の酸化物固溶体粉末。
【請求項3】
セリウム酸化物を主成分とする希土類酸化物であって、ランタン酸化物および/またはプラセオジム酸化物が固溶している請求項1または請求項2に記載の酸化物固溶体粉末。
【請求項4】
酸化物固溶体の総酸化物換算質量に占める酸化セリウム質量の割合が50質量%以上である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酸化物固溶体粉末。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の固溶体粉末を含むセリウム系研摩材。
【請求項6】
請求項5に記載のセリウム系研摩材を用いることを特徴とするガラス基板の研摩方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の固溶体粉末を含む触媒。

【国際公開番号】WO2005/070832
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517215(P2005−517215)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000053
【国際出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】