説明

酸化物磁性材料の製造方法

【課題】 組成比や製造方法の改良によらず、原料費及び工程費の高騰を招くことなく、高いB及びH/HcJを維持したままHcJを向上させることができる、SrLaCoフェライトやCaLaCoフェライトなどのLaとCoを含有する酸化物磁性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 LaとCoを含有する六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とする酸化物磁性材料の製造方法において、Laの原料としてLaFeOを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物磁性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は、各種モータ、発電機、スピーカ等、種々の用途に使用されている。代表的なフェライト焼結磁石として、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するSrフェライト(SrFe1219)やBaフェライト(BaFe1219)が知られている。これらのフェライト焼結磁石は、酸化鉄とストロンチウム(Sr)又はバリウム(Ba)等の炭酸塩とを原料とし、粉末冶金法によって比較的安価に製造される。
【0003】
近年、自動車用電装部品、電気機器用部品等において、部品の小型・軽量化や高効率化を目的として、フェライト焼結磁石の高性能化が要望されている。特に、自動車用電装部品に用いられるモータには、高い残留磁束密度B(以下、単に「B」という)を保持しながら、薄型化した際に発生する反磁界により減磁しない、高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)を有するフェライト焼結磁石が要望されている。
【0004】
フェライト焼結磁石の磁石特性の向上を図るため、上記のSrフェライトにおけるSrの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCoで置換することにより、HcJやBを向上させることが、特許文献1(特開平10−149910号)、特許文献2(特開平11−154604号)などによって提案されている。
【0005】
特許文献1及び2に記載の、Srの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換したSrフェライト(以下「SrLaCoフェライト」という)は、磁石特性に優れ、高価なLaやCoの含有量が比較的少なく、安価にして提供できるため、従来のSrフェライトやBaフェライトに代わり、各種用途に多用されつつあるものの、さらなる磁石特性の向上も望まれている。
【0006】
上記SrLaCoフェライトの磁石特性を改良すべく、特許文献3(国際公開第2004/027153号)は、Srの一部をCaにて置換することにより、高いBを保持しながらHcJを向上させることを提案している。しかしながら、市場の要望を満足するほどの高いHcJを有するフェライト焼結磁石は得られていない。
【0007】
また、特許文献4(特開2007−123511号)は、粉砕工程を第1の微粉砕工程、粉末熱処理工程及び第2の微粉砕工程から構成し、粒子径が1.1μm以下の結晶粒子の数の比率を95%以上とすることにより、Bを維持したままHcJを向上させる方法を提案している。
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載の方法よれば、HcJは向上するものの、製造工程の増加に伴うコストアップが避けられない。特に、CoやLa等高価な元素を必須成分として含有するSrLaCoフェライトは、従来のSrフェライトに比べ若干なりとも原材費が高くなっているため、工程費がさらに上昇することで、経済性に優れるといったフェライト焼結磁石の一番の特徴がなくなり、市場における価格面の要求を満足することができない。
【0009】
一方、フェライト焼結磁石として、上記SrフェライトやBaフェライトとともに、Caフェライトも知られている。Caフェライトは、CaO−Fe又はCaO−2Feという構造が安定であり、Laを添加することによって六方晶フェライトを形成することが知られている。しかし、得られる磁石特性は、従来のBaフェライトの磁石特性と同程度であり、充分に高くはなかった。
【0010】
特許文献5(特開2000−223307号)は、CaフェライトのB、HcJの向上、及びHcJの温度特性の改善を図るため、Caの一部をLa等の希土類元素で置換し、Feの一部をCo等で置換したCaフェライト(以下「CaLaCoフェライト」という)を開示しており、CaLaCoフェライトの異方性磁界Hは、Srフェライトに比べて最高で10%以上高い20kOe以上の値が得られると記載している。
【0011】
しかしながら、特許文献5に記載のCaLaCoフェライトは、異方性磁界HではSrLaCoフェライトを上回る特性を有するものの、B及びHcJはSrLaCoフェライトと同程度であり、一方で角型比H/HcJ(以下、単に「H/HcJ」という)が非常に悪く、高いHcJと高いH/HcJとの両方を満足することができず、モータ等の各種用途に応用されるまでには至っていない。
【0012】
上記CaLaCoフェライトの磁石特性を改良すべく、例えば、特許文献6(特開2006−104050号)は、各構成元素のモル比及びnの値を最適化し、かつLaとCoを特定の比率で含有させたCaLaCoフェライトを提案しており、特許文献7(国際公開第2007/060757号)は、Caの一部をLaとBaで置換したCaLaCoフェライトを提案しており、特許文献8(国際公開第2007/077811号)は、Caの一部をLaとSrで置換したCaLaCoフェライトを提案している。しかしながら、特許文献5〜7に記載のCaLaCoフェライトによっても、市場の要望を満足するほどの高いHcJを有するフェライト焼結磁石は得られていない。
【0013】
さらに、上記のように改良されたCaLaCoフェライトは、SrLaCoフェライトに比べて磁石特性は優れているものの、高価なLaやCoをSrLaCoフェライトよりも多く含有するため原料費が高く、そのため、価格に見合った磁石特性、特に高いHcJが強く要求される。
【0014】
特許文献9(特開2008−137879号)及び特許文献10(国際公開第2008/105449号)は、特許文献4に記載の粉砕工程をCaLaCoフェライトの製造工程に採用することにより、HcJの向上を図った技術を開示している。特許文献9及び10に記載のCaLaCoフェライトは、HcJの向上は図られているものの、特許文献5と同様に、原料費と工程費との二重のコストアップとなり、市場における価格面の要求を満足することができない。
【0015】
このように、SrLaCoフェライト及びCaLaCoフェライトにおいては、特許文献3や特許文献6〜8のような組成比の改良、あるいは特許文献4や特許文献9〜10のような製造方法の改良などによって磁石特性の向上が試みられていたが、組成比の改良では市場の要望を満足するほどの高いHcJを有するフェライト焼結磁石は得られず、製造方法の改良では市場における価格面の要求を満足することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平10−149910号公報
【特許文献2】特開平11−154604号公報
【特許文献3】国際公開第2004/027153号
【特許文献4】特開2007−123511号公報
【特許文献5】特開2000−223307号公報
【特許文献6】特開2006−104050号公報
【特許文献7】国際公開第2007/060757号
【特許文献8】国際公開第2007/077811号
【特許文献9】特開2008−137879号公報
【特許文献10】国際公開第2008/105449号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、原料費及び工程費の高騰を招くことなく、高いB及びH/HcJを維持したままHcJを向上させることができる、SrLaCoフェライトやCaLaCoフェライトなどのLaとCoを含有する酸化物磁性材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的に鑑み種々検討の結果、発明者らは、酸化物磁性材料を製造するための原料に着目した。従来、SrLaCoフェライトの原料粉末としては、SrCO、La、Fe、Coなど、CaLaCoフェライトの原料粉末としては、CaCO、La、SrCO、BaCO、Fe、Coなど、いずれも必須元素となる金属元素単独の酸化物や炭酸塩あるいは水酸化物や塩化物などが使用されている。
【0019】
上述したSrLaCoフェライトやCaLaCoフェライトは、原料を混合後、加熱して、固相反応によって六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト化合物を形成することによって得られる。このプロセスは「仮焼」と呼ばれ、得られた化合物は「仮焼体」と呼ばれている。仮焼体においてフェライト化合物が十分形成されないと、その仮焼体を用いた焼結磁石やボンド磁石において組成ずれが生じたり、異相が生成するなどして、磁石特性の劣化を招くこととなる。
【0020】
従って、仮焼においては、原料の粒度、混合状態、加熱温度などを適切に調整して、フェライト化合物を十分に形成させ、好ましくはフェライト化合物単相にすることが重要である。言い換えれば、どのような原料を使用するかでフェライト化合物の形成状態が変化し、ひいては、焼結磁石やボンド磁石の磁石特性が変化することとなる。
【0021】
発明者らは、従来から使用されている、必須元素となる金属元素単独の酸化物や炭酸塩以外の形態、例えば、必須元素同士の化合物などの適用可能性について検討し、LaとFeの複合酸化物であるLaFeOに着目した。
【0022】
LaFeOはペロブスカイト型構造を有するオルソフェライトであり、各種センサや固体酸化物燃料電池用の材料として使用されている。しかし、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とする酸化物磁性材料、すなわち、フェライト焼結磁石やフェライトボンド磁石などに用いられるフェライト仮焼体やフェライト焼結体の製造方法に使用された例はない。
【0023】
また、上述したSrLaCoフェライト磁石やCaLaCoフェライト磁石においては、Laを含むオルソフェライトが生成すると飽和磁化が低下するため、極力、オルソフェライトが生成しないような条件で磁石が製造されている。すなわち、フェライト磁石の分野においては、LaFeOは含有されない方がよいと考えられていた。
【0024】
しかし、発明者らが鋭意研究した結果、従来は含有されない方がよいと考えられていたLaFeOをLaの原料として用いても、仮焼体でほぼ六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相単相となり、さらに、その仮焼体を用いて焼結磁石を製造すると、従来のLaやLa(OH)を原料として用いた場合に比べて、B及びH/HcJを維持したままHcJが向上することを見出し、本発明に想到した。
【0025】
すなわち、本発明の酸化物磁性材料の製造方法は、LaとCoを含有する六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とする酸化物磁性材料の製造方法において、Laの原料としてLaFeOを用いることを特徴とする。
【0026】
前記酸化物磁性材料は、金属元素の組成比が下記一般式(1)又は(2)で表わされることを特徴とする。
一般式(1):A1−x−aLaCaFe2n−yCo
(但し、A元素はSr及び/又はBaであって、原子比率を表わすx、a及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.05≦x≦0.4、
0.05≦y≦0.4、
0≦a≦0.3
0.5≦1−x−a
3≦n≦6
を満足する数値である。)
一般式(2):Ca1−x’−bLax’Fe2n’−y’Coy’
(但し、A元素はSr及び/又はBaであって、原子比率を表わすx’、b及びy’、並びにモル比を表わすn’が、
0.3≦x’≦0.7、
0≦b<0.5、
0.1≦y’≦0.6、
0.2≦1−x’−b
3≦n’≦6
を満足する数値である。)
【発明の効果】
【0027】
本発明の製造方法により、原料費及び工程費の高騰を招くことなく、高いB及びH/HcJを維持したままHcJを向上させた酸化物磁性材料を提供することができる。本発明の酸化物磁性材料を使用することにより、小型・軽量化、高能率化された自動車用電装部品、電気機器用部品を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】700℃〜1000℃で熱処理した原料1のX線回折図である。
【図2】1100℃〜1300℃で熱処理した原料1のX線回折図である。
【図3】700℃〜1000℃で熱処理した原料2のX線回折図である。
【図4】1100℃〜1300℃で熱処理した原料2のX線回折図である。
【図5】1200℃で熱処理した原料1のSEM写真を示す図である。
【図6】1200℃で熱処理した原料2のSEM写真を示す図である。
【図7】仮焼体A〜DのX線回折図である。
【図8】仮焼体AのSEM写真を示す図である。
【図9】仮焼体BのSEM写真を示す図である。
【図10】仮焼体CのSEM写真を示す図である。
【図11】仮焼体DのSEM写真を示す図である。
【図12】焼結磁石A〜DのX線回折図である。
【図13】焼結磁石EのX線回折図である。
【図14】焼結磁石FのX線回折図である。
【図15】焼結磁石GのX線回折図である。
【図16】焼結磁石HのX線回折図である。
【図17】焼結磁石I〜KのX線回折図である。
【図18】焼結磁石L〜NのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1]酸化物磁性材料
本発明において対象となる酸化物磁性材料は、LaとCoを含有する六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とする酸化物磁性材料である。酸化物磁性材料は、酸化物の磁性材料であれば、状態、形状等は問わない。例えば、状態としては、仮焼体であっても焼結体(焼結磁石)であってもよく、形状としては、仮焼後のクリンカー、仮焼体の粉末、仮焼体の成形体、焼結体の粉末等であってもよい。
【0030】
酸化物磁性材料が仮焼体の場合、仮焼体は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相から構成される。
【0031】
酸化物磁性材料が焼結体の場合、焼結体は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相から構成されているか、又は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相とそれ以外の組成物から構成される。それ以外の組成物とは、フェライト相の粒界に存在している組成物や粒界相、又は粒界三重点部に存在する粒界相等である。
【0032】
酸化物磁性材料が仮焼体の場合でも焼結体の場合でも、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相が主相となる。主相とは仮焼体あるいは焼結体を構成する構成相の50質量%以上を占める相のことをいう。なお、本発明における酸化物磁性材料においては、仮焼体においても焼結体においても、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相が90質量%以上を占めている。主相以外の構成相は、前記の組成物や粒界相、あるいは下記の異相や不純物相である。
【0033】
「六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有する」とは、フェライト仮焼体又はフェライト焼結体(フェライト焼結磁石)のX線回折を一般的な条件で測定した場合に、六方晶のM型マグネトプランバイト構造のX線回折パターンが主として観察されることをいう。X線回折等により極少量(5質量%以下程度)観察される異相(オルソフェライト相、スピネル相等)や不純物相の存在は許容される。X線回折からの異相の定量にはリートベルト解析のような手法を用いることができる。
【0034】
本発明において、LaとCoを含有する六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とする酸化物磁性材料としては、金属元素の組成比が下記一般式(1)で表わされる所謂SrLaCoフェライト、又は金属元素の組成比が一般式(2)で表わされる所謂CaLaCoフェライトが好ましい。
一般式(1):A1−x−aLaCaFe2n−yCo
一般式(2):Ca1−x’−bLax’Fe2n’−y’Coy’
以下にそれぞれについて詳述する。
【0035】
なお、本発明における酸化物磁性材料が焼結体(焼結磁石)の場合、焼成時に液相を生成させて焼結を促進させるために、CaCO、SiO等の焼結助剤を添加する。添加されたCaCO、SiO等は、そのほとんどがフェライト化合物相の粒界で粒界相を形成する。従って、本発明における酸化物磁性材料には、これらの焼結助剤が添加されたフェライト焼結磁石も含まれる。CaCO、SiO等の焼結助剤を添加すると、Ca含有量が相対的に増加するとともに、Siの含有により他の元素の含有量が相対的に減少する。以下に詳述するSrLaCoフェライト、CaLaCoフェライトは、このような焼結助剤の添加による組成変化を考慮した範囲に設定されている。
【0036】
(a)SrLaCoフェライト
本発明における酸化物磁性材料としては、金属元素の組成比が下記一般式(1)で表わされる所謂SrLaCoフェライトが好ましい。
一般式(1):A1−x−aLaCaFe2n−yCo
(但し、A元素はSr及び/又はBaであって、原子比率を表わすx、a及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.05≦x≦0.4、
0.05≦y≦0.4、
0≦a≦0.3
0.5≦1−x−a
3≦n≦6
を満足する数値である。)
【0037】
A元素はSr及び/又はBaである。A元素の含有量(1−x−a)は0.5以上であることが好ましい。すなわちA元素+La+Caの50%以上をA元素が占めることが好ましい。A元素が0.5未満ではLa及びCaの含有量が相対的に増加し、CaLaCoフェライトに近づくこととなり、Co含有量によっては磁石特性は向上するが、比較的安価にして提供することができるというSrLaCoフェライトの特徴を損なってしまうこととなる。
【0038】
Laの含有量(x)は、0.05〜0.4の範囲であるのが好ましい。Laの含有量が0.05未満ではB及びH/HcJが低下するため好ましくない。また、La含有量が0.4を超えると比較的安価にして提供することができるというSrLaCoフェライトの特徴を損なってしまうため好ましくない。なお、La以外の希土類元素でLaの一部を置換してもかまわない。また、La以外の不可避的不純物として混入する希土類元素は許容することができる。
【0039】
Caの含有量(a)は、0.3以下であることが好ましい。Caが0.3を超えてもLaが同様に増加する場合は、CaLaCoフェライトに近づくこととなり、Co含有量によっては磁石特性は向上するが、比較的安価にして提供することができるというSrLaCoフェライトの特徴を損なってしまうこととなる。一方、Laの増加を伴わずにCaが0.3を超えるとBが低下するため好ましくない。
【0040】
Coの含有量(y)は、0.05〜0.4の範囲であるのが好ましい。Coの含有量が0.05未満ではCo添加による磁石特性の向上効果が得られない。Coの含有量が0.4を超えるとCoを多く含む異相(Coスピネル相)が生成してHcJ、B及びH/HcJが低下するとともに、比較的安価にして提供することができるというSrLaCoフェライトの特徴を損なってしまうため好ましくない。なお、Coの一部(最大で50%未満)をZn、Ni及びMnの1種以上で置換することができる。
【0041】
nは、(A+La+Ca)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n=(Fe+Co)/(A+La+Ca)で表わされる。nは3〜6が好ましい。3未満では非磁性部分の比率が多くなりHcJが大きく低下してしまう。6を超えると仮焼体に未反応のα−Feが残存し、HcJ、B及びH/HcJが低下するため好ましくない。
【0042】
(b)CaLaCoフェライト
本発明における酸化物磁性材料としては、金属元素の組成比が下記一般式(2)で表わされる所謂CaLaCoフェライトが好ましい。
一般式(2):Ca1−x’−bLax’Fe2n’−y’Coy’
(但し、A元素はSr及び/又はBaであって、原子比率を表わすx’、b及びy’、並びにモル比を表わすn’が、
0.3≦x’≦0.7、
0≦b<0.5、
0.1≦y’≦0.6、
0.2≦1−x’−b
3≦n’≦6
を満足する数値である。)
【0043】
Caの含有量(1−x’−a)は、0.2以上であることが好ましい。Caの含有量が0.2未満では、La及びA元素の含有量が相対的に増加し、特にLaが増加するとB及びHcJが低下するため好ましくない。
【0044】
Laの含有量(x’)は、0.3〜0.7であるのが好ましい。Laの含有量が0.3未満ではCa及びA元素の含有量が相対的に増加し、特にA元素が増加するとSrLaCoフェライトに近づくこととなり、SrLaCoフェライトに比べて磁石特性に優れるというCaLaCoフェライトの特徴を損なってしまうこととなり、Caが増加するとB及びHcJが低下するため好ましくない。Laの含有量が0.7を超えるとB及びH/HcJが低下するため好ましくない。なお、La以外の希土類元素でLaの一部を置換してもかまわない。また、La以外の不可避的不純物として混入する希土類元素は許容することができる。
【0045】
A元素はSr及び/又はBaである。A元素の含有量(b)は、0.5未満であるのが好ましい。A元素を含有しなくてもCaLaCoフェライト特有の効果は損なわれることはないが、A元素を添加することにより、仮焼体における結晶の微細化及びアスペクト比を小さくすることができ、HcJをさらに向上させることができる。A元素の含有量が0.5以上になると、SrLaCoフェライトに近づくこととなり、SrLaCoフェライトに比べて磁石特性に優れるというCaLaCoフェライトの特徴を損なってしまうこととなり好ましくない。
【0046】
Coの含有量(y’)は、0.1〜0.6であるのが好ましい。Coの含有量が0.1以下ではCo添加による磁石特性の向上効果が得られない。Coの含有量が0.6を超えるとCoを多く含む異相(Coスピネル相)が生成してHcJ、B及びH/HcJが低下するため好ましくない。なお、Coの一部(最大で50%未満)をZn、Ni及びMnの1種以上で置換することができる。
【0047】
n’は、(Ca+La+A)と(Fe+Co)のモル比を反映する値で、2n’=(Fe+Co)/(Ca+La+A)で表わされる。n’は3〜6が好ましい。3未満では非磁性部分の比率が多くなるとともに、仮焼体粒子の形態が過度に扁平になりHcJが大きく低下してしまう。6を超えると仮焼体に未反応のα−Feが残存し、HcJ、B及びH/HcJが低下するため好ましくない。
【0048】
[2]酸化物磁性材料の製造方法
本発明の特徴は、前記の酸化物磁性材料の製造方法において、Laの原料としてLaFeOを用いることにある。
【0049】
(a)LaFeOの準備
LaFeOは市販品をそのまま使用したり、公知の方法によって製造されたものを使用することができる。例えば、後述する実施例に示すように、La(OH)とFeを900℃以上の温度で熱処理することにより、簡単かつ安価にしてLaFeOを準備することができる。また、熱処理によってLaFeOを準備する場合、熱処理後の熱処理体がLaFeOのみ(LaFeO単相)になっている必要はなく、LaやFeが少量残存していたり、積極的にFeを多く配合してLaFeO・zFe(z=1〜5)のようなLaFeOとFeの2相からなる熱処理体を用いても、本発明の効果が損なわれることはない。
【0050】
(b)仮焼体の製造方法
LaFeOとその他必須元素の原料粉末を準備する。例えば、SrLaCoフェライトを製造する場合は、SrCO、LaFeO、Fe、Co、CaCOなどを準備する。CaLaCoフェライトを製造する場合は、CaCO、LaFeO、SrCO、BaCO、Fe、Coなどを準備する。このとき、La以外の元素については、上記のような酸化物、炭酸塩のみならず、水酸化物、硝酸塩、塩化物などでもよく、液状状態であってもよい。
【0051】
例えば、A元素の化合物としては、Sr及び/又はBaの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用することができる。Ca化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等を使用することができる。鉄化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等を使用することができる。Co化合物としては、CoO、Co等の酸化物、CoOOH、Co(OH)、Co・mO(mは正の数である)等の水酸化物、CoCO等の炭酸塩、及びmCoCO・mCo(OH)・mO等の塩基性炭酸塩(m、m、mは正の数である)を使用することができる。
【0052】
Laの化合物として、LaFeOだけではなく他のLa原料を併用することもできる。但し、他のLa原料を使用する場合はLaFeOの使用によるHcJ向上効果が損なわれない程度の使用量にすることが望ましい。他のLa原料としては、La等の酸化物、La(OH)等の水酸化物、La(CO・8HO等の炭酸塩等を使用することができる。また、コスト低減のために、混合希土類(La、Nd、Pr、Ce等)の酸化物、水酸化物、炭酸塩等を使用することもできる。
【0053】
それぞれの原料粉末を目的組成になるように秤量する。このとき、LaFeOに含まれるFeとFeによるFeを合算して目的のFe量となるように、LaFeO及びFeを調整する。
【0054】
LaFeO及びその他必須元素の原料粉末は、原料混合時から全部添加して仮焼してもよいし、一部又は全部を仮焼後に添加してもよい。例えば、SrLaCoフェライト焼結磁石を製造する場合、SrCO、LaFeO及びFeを配合し、混合及び仮焼した後、仮焼体にCoを添加し、粉砕、成形及び焼結してSrLaCoフェライト焼結磁石を製造することもできる。
【0055】
秤量後の混合原料粉末を混合する。混合は湿式、乾式のいずれでもよい。スチールボール等の媒体とともに原料粉末を攪拌するとより均一に混合することができる。湿式混合の場合は、溶媒として水を用いることが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウムやグルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いてもよい。混合した原料スラリーは脱水して混合原料粉末とする。
【0056】
混合原料粉末の混合の際、仮焼時の反応性促進のため、必要に応じて、B、HBO等を含む化合物を添加しても良い。特にHBOの添加は、HcJ及びBの向上に有効である。HBOの添加量は、配合粉末又は仮焼体100質量%に対して0.3質量%以下であるのが好ましい。添加量の最も好ましい値は0.2質量%近傍である。HBOの添加量を0.1質量%よりも少なくするとBの向上効果が得られず、0.3質量%よりも多くするとBが低下する。焼結体を製造する場合、HBOは、焼結時の結晶粒の形状やサイズを制御する機能を有するので、その効果を発揮させるため、仮焼後(微粉砕前又は焼結前)に添加しても良く、さらに仮焼前及び仮焼後の両方で添加してもよい。
【0057】
混合原料粉末を電気炉、ガス炉等を用いて加熱することで、固相反応が進行し六方晶のM型マグネトプランバイト構造のフェライト化合物が形成される。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。
【0058】
仮焼工程は、酸素濃度が5%以上の雰囲気中で行なうのが好ましい。酸素濃度が5%未満であると、固相反応が進行し難い。より好ましい酸素濃度は20%以上である。
【0059】
仮焼工程では、温度の上昇とともに固相反応によりフェライト相が形成され、約1100℃で完了する。この温度以下では、未反応のヘマタイト(酸化鉄)などが残存し磁石特性が低下する。本発明の効果を十分に発揮させるためには1100℃以上の温度仮焼することが好ましい。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎ、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要する等の不都合を生じる恐れがある。従って、仮焼温度は1100〜1450℃であるのが好ましい。より好ましくは1200〜1350℃である。仮焼時間は、0.5〜5時間であるのが好ましい。
【0060】
(c)ボンド磁石の製造方法
上記(b)によって得られた仮焼体を所要粒度に粉砕し、結晶歪を緩和するために、700〜1100℃の温度で0.1〜3時間程度熱処理を施す。熱処理後の粉末をフレキシビリティのあるゴムや硬質プラスチックなどと混合した後、成形加工を行なう。成形加工は、射出成形、押出成形、ロール成形等の公知の方法によって実行すればよい。
【0061】
(d)焼結体(焼結磁石)の製造方法
上記(b)によって得られた仮焼体を、振動ミル、ボールミル及び/又はアトライターによって粉砕し粉砕粉とする。粉砕粉は平均粒径0.4〜0.8μm程度(空気透過法)とするのが好ましい。粉砕工程は、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよいが、両者を組み合わせて行なうのが好ましい。
【0062】
粉砕工程において、仮焼体100質量%に対して、CaO換算で2質量%以下のCaCO、及び2質量%以下のSiOを焼結助剤として添加する。この焼結助剤によって、焼成時に液相が生成し焼結を促進させることができ、フェライト焼結磁石のHcJを向上させることができる。CaCO、SiOともに添加量が2質量%を超えると、B及びH/HcJが低下するため好ましくない。好ましい添加量は、CaCOはCaO換算で0.7〜2.0質量%、SiOは0.6〜1.2質量%である。
【0063】
なお、SiOは仮焼体に対して添加するのが最も好ましいが、全添加量のうちの一部を仮焼前(原料粉末の混合時)に添加することもできる。仮焼前に添加することにより、仮焼時の結晶粒のサイズ制御を行なうことができる。
【0064】
湿式粉砕に際しては、水等の水系分散媒又は種々の非水系分散媒(例えば、アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いることができる。湿式粉砕により、溶媒と仮焼体とが混合されたスラリーが生成される。スラリーには公知の各種分散剤及び界面活性剤を固形分比率で0.2〜2質量%を添加するのが好ましい。湿式粉砕後のスラリーは濃縮及び混練するのが好ましい。
【0065】
粉砕工程において、前記のCaCO及びSiOのほか、磁石特性向上のために、Cr、Al、NHHCO等の添加物を仮焼体に対して添加することもできる。これら添加物を添加する場合は5質量%以下が好ましい。
【0066】
粉砕後のスラリーは、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させることができ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、分散剤、潤滑剤を0.01〜1質量%添加しても良い。また成形前にスラリーを必要に応じて濃縮してもよい。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行なうのが好ましい。
【0067】
プレス成形により得られた成形体は、必要に応じて脱脂した後、焼成する。焼成は、電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は、酸素濃度が10%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。酸素濃度が10%未満であると、異常粒成長や異相の生成を招き、磁石特性が劣化する。酸素濃度は、より好ましくは20%以上であり、最も好ましくは100%である。
【0068】
焼成温度は、1150℃〜1250℃が好ましい。焼成時間は、0.5〜2時間が好ましい。焼成工程によって得られる焼結磁石の平均結晶粒径は約0.5〜2μmである。
【0069】
焼成工程の後は、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て、最終的にフェライト焼結磁石の製品が完成される。
【実施例】
【0070】
実施例1
[LaFeOの準備]
La(OH)とFeを70.4質量%:29.6質量%で秤量したLa原料1と、La(OH)とFeを44.22質量%:55.78質量%で秤量したLa原料2を準備した。原料1は狙い組成がLaFeO(LaFeO・zFe、z=0)、原料2は狙い組成がLaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)である。
【0071】
秤量した原料1と原料2をそれぞれボールミルに挿入し、溶媒として水を加え、1時間回転させて混合した。得られた原料1と原料2を成形し、複数の成形体を作製した。該成形体を700℃〜1300℃(100℃ピッチ)、大気中で熱処理した。
【0072】
得られた熱処理体を粉砕した粉末の熱処理温度毎のX線回折結果を図1〜図4に示す。図1は原料1の700℃〜1000℃の熱処理体、図2は原料1の1100℃〜1300℃の熱処理体、図3は原料2の700℃〜1000℃の熱処理体、図4は原料2の1100℃〜1300℃の熱処理体のX線回折図である。なお、図中◆印はLaFeOの回折線を示す。また、2θの26°近傍、29°近傍及び30°近傍に存在する回折線がLaの回折線を示し、2θの24°近傍、33°近傍、36°近傍及び49°近傍に存在する回折線がFeの回折線を示す。
【0073】
図1〜図4から明らかなように、原料1、原料2ともに900℃以上でLaFeOの回折線が顕著になっている。原料1は1200℃以上でほぼLaFeO単相となり、原料2は1000℃以上でLaFeOとFeの2相となっていることが分かる。このように900℃以上の温度で熱処理するという比較的簡単な方法で、上記原料1や原料2のようなLaFeOを含有するLa原料を準備することができる。
【0074】
また、得られた熱処理体の破断面のSEM写真を図5及び図6に示す。図5は原料1の1200℃の熱処理体、図6は原料2の1200℃の熱処理体である。
【0075】
[SrLaCoフェライト仮焼体の製造(1)]
前記原料1の900℃の熱処理体を粉砕し、La原料となるLaFeO粉末を準備した。一般式(1):A1−x−aLaCaFe2n−yCoにおいて、A元素としSrを用い、x=0.206、a=0、y=0.145及びn=5.52となるように、前記LaFeO粉末、SrCO粉末、Fe粉末及びCo粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のHBO及び0.175質量%のSiOを添加し混合原料粉末を作製した。この混合原料粉末に水を添加してボールミルにて4時間混合し、乾燥した後、大気中において1300℃で3時間仮焼し、仮焼体Aを得た。
【0076】
比較のため、La原料としてLaFeO粉末の代わりにLa(OH)粉末を用いる以外は同様の方法で仮焼体Bを得た。
【0077】
得られた仮焼体A及びBのX線回折結果を図7に示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。仮焼体A及びBともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、仮焼体A及びBともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相単相となっており、該フェライト相が主相であることが分かる。
【0078】
また、得られた仮焼体のSEM写真を図8及び図9に示す。図8は仮焼体A、図9は仮焼体Bを示す。
【0079】
[SrLaCoフェライト焼結体の製造(1)]
前記仮焼体A及びBをハンマーミルで粗粉砕して粗粉砕粉となした後、それぞれの仮焼体粗粉砕粉100質量%に対してCaCOをCaO換算で0.34質量%、SiOを0.25質量%、Coを0.4質量%、NHHCOを0.3質量%を混合し、水を添加してボールミルにて30時間微粉砕し、スラリー状の微粉砕粉を得た。微粉砕粉の平均粒度は0.6μm(空気透過法)であった。
【0080】
得られたスラリー状の微粉砕粉にNHHCOを0.3質量%混合し、攪拌した後、加圧方向と磁界方向とが平行になるように約1Tの磁場をかけながら、約50MPaの圧力をかけ水を除去しながら成形した。得られた成形体を大気中において1200℃で1時間焼成し焼結体(焼結磁石)を得た。
【0081】
得られた焼結磁石の室温のB、HcJ及びH/HcJ(Hは、J[磁化の強さ]−H[磁界の強さ]曲線の第2象限においてJの値がB×0.95となるときのHの値)を測定した。その結果を表1に示す。仮焼体Aを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石A(本発明)、仮焼体Bを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石B(比較例)である。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示す通り、LaFeOからなる原料1を用いた仮焼体Aに基づく焼結磁石A(本発明)は、従来から知られるLa(OH)を原料として用いた仮焼体Bに基づく焼結磁石B(比較例)に比べ、B及びH/HcJをほとんど低下させずにHcJが向上していることが分かる。
【0084】
また、得られた焼結磁石A及びBのX線回折結果を図12に示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。焼結磁石A及びBともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、焼結磁石A及びBともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とすることが分かる。
【0085】
実施例2
[CaLaCoフェライト仮焼体の製造]
実施例1の原料1の900℃の熱処理体を粉砕してLa原料となるLaFeO粉末を準備した。一般式(2):Ca1−x’−bLax’Fe2n’−y’Coy’において、x’=0.5、b=0.075(A元素=Ba)、y’=0.3及びn’=5.3となるように、前記LaFeO粉末、CaCO粉末、BaCO粉末、Fe粉末及びCo粉末を配合し、この配合粉末100質量%に対して0.1質量%のHBOを添加し混合原料粉末を作製した。この混合原料粉末に水を添加してボールミルにて4時間混合し、乾燥した後、大気中において1300℃で3時間仮焼し、仮焼体Cを得た。
【0086】
比較のため、La原料としてLaFeO粉末の代わりにLa(OH)粉末を用いる以外は同様の方法で仮焼体Dを得た。
【0087】
得られた仮焼体C及びDのX線回折結果を図7に示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。仮焼体C及びDともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、仮焼体C及びDともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相単相となっており、該フェライト相が主相であることが分かる。
【0088】
また、得られた仮焼体のSEM写真を図10及び図11に示す。図10は仮焼体C、図11は仮焼体Dを示す。
【0089】
[CaLaCoフェライト焼結体の製造]
前記仮焼体C及びDをハンマーミルで粗粉砕して粗粉砕粉となした後、それぞれの仮焼体粗粉砕粉100質量%に対してCaCOをCaO換算で0.48質量%、SiOを0.5質量%、NHHCOを0.4質量%混合し、水を添加してボールミルにて30時間微粉砕し、スラリー状の微粉砕粉を得た。微粉砕粉の平均粒度は0.6μm(空気透過法)であった。
【0090】
得られたスラリー状の微粉砕粉にNHHCOを0.3質量%混合し、攪拌した後、加圧方向と磁界方向とが平行になるように約1Tの磁場をかけながら、約50MPaの圧力をかけ水を除去しながら成形した。得られた成形体を大気中において1200℃で1時間焼成し焼結体(焼結磁石)を得た。
【0091】
得られた焼結磁石の室温のB、HcJ及びH/HcJ(Hは、J[磁化の強さ]−H[磁界の強さ]曲線の第2象限においてJの値がB×0.95となるときのHの値)を測定した。その結果を表2に示す。仮焼体Cを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石C(本発明)、仮焼体Dを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石D(比較例)である。
【0092】
【表2】

【0093】
表2に示す通り、LaFeOからなる原料1を用いた仮焼体Cに基づく焼結磁石C(本発明)は、従来から知られるLa(OH)を原料として用いた仮焼体Dに基づく焼結磁石D(比較例)に比べ、B及びH/HcJをほとんど低下させずにHcJが向上していることが分かる。
【0094】
また、得られた焼結磁石C及びDのX線回折結果を図12に示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。焼結磁石C及びDともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、焼結磁石C及びDともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とすることが分かる。
【0095】
実施例3
実施例1の狙い組成LaFeO(LaFeO・zFe、z=0)の原料1における1100℃及び1300℃の熱処理体を粉砕してLa原料となるLaFeO粉末を準備した以外は、実施例1と同様の方法によってSrLaCoフェライト仮焼体E及びFを得た。得られた仮焼体E及びFを用いて実施例1と同様の方法によってSrLaCoフェライト焼結体(焼結磁石)を得た。
【0096】
得られた焼結磁石の室温のB、HcJ及びH/HcJ(Hは、J[磁化の強さ]−H[磁界の強さ]曲線の第2象限においてJの値がB×0.95となるときのHの値)を測定した。その結果を表3に示す。仮焼体Eを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石E(本発明)、仮焼体Fを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石F(本発明)である。なお、比較のため、前記実施例1のLa原料としてLa(OH)粉末を用いた仮焼体Bに基づく焼結磁石B(比較例)の磁石特性を併せて示す。
【0097】
【表3】

【0098】
表3に示す通り、実施例1の狙い組成LaFeO(LaFeO・zFe、z=0)の原料1における1100℃及び1300℃の熱処理体を用いた仮焼体E及びFに基づく焼結磁石E及びF(本発明)は、従来から知られるLa(OH)を原料として用いた仮焼体Bに基づく焼結磁石B(比較例)に比べ、Bをほとんど低下させずに、HcJ及びH/HcJが向上していることが分かる。
【0099】
また、焼結磁石EのX線回折結果を図13に、焼結磁石FのX線回折結果を図14にそれぞれ示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。焼結磁石E及びFともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、焼結磁石E及びFともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とすることが分かる。
【0100】
実施例1及び実施例3の結果から明らかなように、狙い組成がLaFeO(LaFeO・zFe、z=0)の原料1を900℃以上で熱処理した熱処理体をLa原料として用いたSrLaCoフェライト仮焼体(仮焼体A、E及びF)に基づくSrLaCoフェライト焼結磁石(焼結磁石A、E及びF)は、いずれも従来から知られるLa(OH)を原料として用いたSrLaCoフェライト仮焼体Bに基づくSrLaCoフェライト焼結磁石B(比較例)に比べ、高いB及びH/HcJを維持したままHcJが向上していることが分かる。
【0101】
実施例4
実施例1の狙い組成LaFeO(LaFeO・zFe、z=0)の原料1における1100℃及び1300℃の熱処理体を粉砕してLa原料となるLaFeO粉末を準備した以外は、実施例2と同様の方法によってCaLaCoフェライト仮焼体G及びHを得た。得られた仮焼体G及びHを用いて実施例2と同様の方法によってCaLaCoフェライト焼結体(焼結磁石)を得た。
【0102】
得られた焼結磁石の室温のB、HcJ及びH/HcJ(Hは、J[磁化の強さ]−H[磁界の強さ]曲線の第2象限においてJの値がB×0.95となるときのHの値)を測定した。その結果を表4に示す。仮焼体Gを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石G(本発明)、仮焼体Hを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石H(本発明)である。なお、比較のため、前記実施例2のLa原料としてLa(OH)粉末を用いた仮焼体Dに基づく焼結磁石D(比較例)の磁石特性を併せて示す。
【0103】
【表4】

【0104】
表4に示す通り、実施例1の狙い組成LaFeO(LaFeO・zFe、z=0)の原料1における1100℃及び1300℃の熱処理体を用いた仮焼体G及びHに基づく焼結磁石G及びH(本発明)は、従来から知られるLa(OH)を原料として用いた仮焼体Dに基づく焼結磁石D(比較例)に比べ、Bを低下させずにHcJ及びH/HcJが向上していることが分かる。
【0105】
また、焼結磁石GのX線回折結果を図15に、焼結磁石HのX線回折結果を図16にそれぞれ示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。焼結磁石G及びHともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、焼結磁石G及びHともに、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とすることが分かる。
【0106】
実施例2及び実施例3の結果から明らかなように、狙い組成がLaFeO(LaFeO・zFe、z=0)の原料1を900℃以上で熱処理した熱処理体をLa原料として用いたCaLaCoフェライト仮焼体(仮焼体C、G及びH)に基づくCaLaCoフェライト焼結磁石(焼結磁石C、G及びH)は、いずれも従来から知られるLa(OH)を原料として用いたCaLaCoフェライト仮焼体Bに基づくCaLaCoフェライト焼結磁石B(比較例)に比べ、高いB及びH/HcJを維持したままHcJが向上していることが分かる。
【0107】
実施例5
実施例1の狙い組成LaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)の原料2における900℃、1100℃及び1300℃の熱処理体を粉砕してLa原料となるLaFeO・Fe粉末を準備した以外は、実施例1と同様の方法によってSrLaCoフェライト仮焼体I、J及びKを得た。得られた仮焼体I、J及びKを用いて実施例1と同様の方法によってSrLaCoフェライト焼結体(焼結磁石)を得た。
【0108】
得られた焼結磁石の室温のB、HcJ及びH/HcJ(Hは、J[磁化の強さ]−H[磁界の強さ]曲線の第2象限においてJの値がB×0.95となるときのHの値)を測定した。その結果を表5に示す。仮焼体Iを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石I(本発明)、仮焼体Jを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石J(本発明)、仮焼体Kを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石K(本発明)である。なお、比較のため、前記実施例1のLa原料としてLa(OH)粉末を用いた仮焼体Bに基づく焼結磁石B(比較例)の磁石特性を併せて示す。
【0109】
【表5】

【0110】
表5に示す通り、実施例1の狙い組成LaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)の原料2における900℃、1100℃及び1300℃の熱処理体を用いた仮焼体I、J及びKに基づく焼結磁石I、J及びK(本発明)は、従来から知られるLa(OH)を原料として用いた仮焼体Bに基づく焼結磁石B(比較例)に比べ、Bをほとんど低下させずにHcJ及びH/HcJが向上していることが分かる。
【0111】
また、焼結磁石I、J及びKのX線回折結果を図17に示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。焼結磁石I、J及びKのいずれも、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、焼結磁石I、J及びKのいずれも、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とすることが分かる。
【0112】
このように、狙い組成がLaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)の原料2を900℃以上で熱処理した熱処理体をLa原料として用いたSrLaCoフェライト仮焼体(仮焼体I、J及びK)に基づくSrLaCoフェライト焼結磁石(焼結磁石I、J及びK)は、いずれも従来から知られるLa(OH)を原料として用いたSrLaCoフェライト仮焼体Bに基づくSrLaCoフェライト焼結磁石B(比較例)に比べ、高いB及びH/HcJを維持したままHcJが向上していることが分かる。
【0113】
実施例6
実施例1の狙い組成LaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)の原料2における900℃、1100℃及び1300℃の熱処理体を粉砕してLa原料となるLaFeO・Fe粉末を準備した以外は、実施例2と同様の方法によってCaLaCoフェライト仮焼体L、M及びNを得た。得られた仮焼体L、M及びNを用いて実施例2と同様の方法によってCaLaCoフェライト焼結体(焼結磁石)を得た。
【0114】
得られた焼結磁石の室温のB、HcJ及びH/HcJ(Hは、J[磁化の強さ]−H[磁界の強さ]曲線の第2象限においてJの値がB×0.95となるときのHの値)を測定した。その結果を表6に示す。仮焼体Lを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石L(本発明)、仮焼体Mを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石M(本発明)、仮焼体Nを粉砕、成形及び焼成したものが焼結磁石N(本発明)である。なお、比較のため、前記実施例2のLa原料としてLa(OH)粉末を用いた仮焼体Dに基づく焼結磁石D(比較例)の磁石特性を併せて示す。
【0115】
【表6】

【0116】
表6に示す通り、実施例1の狙い組成LaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)の原料2における900℃、1100℃及び1300℃の熱処理体を用いた仮焼体L、M及びNに基づく焼結磁石L、M及びN(本発明)は、従来から知られるLa(OH)を原料として用いた仮焼体Dに基づく焼結磁石D(比較例)に比べ、Bをほとんど低下させずにHcJ及びH/HcJが向上していることが分かる。特にHcJの向上が顕著である。
【0117】
また、焼結磁石L、M及びNのX線回折結果を図18に示す。図中○印は六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線を示す。焼結磁石L、M及びNのいずれも、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相の回折線が顕著であり、それ以外の回折線はほとんど見られない。この結果より、焼結磁石L、M及びNのいずれも、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とすることが分かる。
【0118】
このように、狙い組成がLaFeO・Fe(LaFeO・zFe、z=1)の原料2を900℃以上で熱処理した熱処理体をLa原料として用いたCaLaCoフェライト仮焼体(仮焼体L、M及びN)に基づくCaLaCoフェライト焼結磁石(焼結磁石L、M及びN)は、いずれも従来から知られるLa(OH)を原料として用いたCaLaCoフェライト仮焼体Dに基づくCaLaCoフェライト焼結磁石D(比較例)に比べ、高いB及びH/HcJを維持したままHcJが向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の酸化物磁性材料の製造方法によって得られた酸化物磁性材料は、原料費及び工程費の高騰を招くことなく、高いB及びH/HcJを維持したままHcJが向上しているため、小型・軽量化、高能率化された自動車用電装部品、電気機器用部品等の用途に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaとCoを含有する六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライト相を主相とする酸化物磁性材料の製造方法において、
Laの原料としてLaFeOを用いることを特徴とする酸化物磁性材料の製造方法。
【請求項2】
酸化物磁性材料は、金属元素の組成比が下記一般式(1)又は(2)で表わされることを特徴とする請求項1に記載の酸化物磁性材料の製造方法。
一般式(1):A1−x−aLaCaFe2n−yCo
(但し、A元素はSr及び/又はBaであって、原子比率を表わすx、a及びy、並びにモル比を表わすnが、
0.05≦x≦0.4、
0.05≦y≦0.4、
0≦a≦0.3
0.5≦1−x−a
3≦n≦6
を満足する数値である。)
一般式(2):Ca1−x’−bLax’Fe2n’−y’Coy’
(但し、A元素はSr及び/又はBaであって、原子比率を表わすx’、b及びy’、並びにモル比を表わすn’が、
0.3≦x’≦0.7、
0≦b<0.5、
0.1≦y’≦0.6、
0.2≦1−x’−b
3≦n’≦6
を満足する数値である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−84869(P2012−84869A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199131(P2011−199131)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】