説明

酸化物超電導体の原料の製造方法、酸化物超電導線材の製造方法、および超電導機器

【課題】酸化物超電導体の密度および純度を向上することのできる酸化物超電導体の原料の製造方法、酸化物超電導線材の製造方法、および超電導機器を提供する。
【解決手段】酸化物超電導体の原料粉末1の製造方法は、酸化物超電導体を構成する原子を含む材料を溶液中でイオン化する工程と、雰囲気14に溶液11を噴射して溶媒を除去することにより、酸化物超電導体を構成する原子を含む原料粉末1aを製造する工程と、冷却用気体を導入した雰囲気16で、原料粉末1aを冷却する工程とを備えている。雰囲気16の二酸化炭素濃度は、除去された溶媒の成分を含む雰囲気15の二酸化炭素濃度よりも低く、かつ雰囲気16の窒素酸化物濃度は、除去された溶媒の成分を含む雰囲気15の窒素酸化物濃度よりも低く、かつ雰囲気16の水蒸気の濃度は、除去された溶媒の成分を含む雰囲気15の水蒸気の濃度よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導体の原料の製造方法、酸化物超電導線材の製造方法、および超電導機器に関し、より特定的には、酸化物超電導体の密度および純度を向上することのできる酸化物超電導体の原料の製造方法、酸化物超電導線材の製造方法、および超電導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導線材は、酸化物超電導体の原料(原料粉末)を金属管に充填し、伸線加工や圧延加工を金属管に施すことによって所望の形状に線材を加工し、得られた線材を熱処理して酸化物超電導体の原料を焼結し、酸化物超電導体を生成することによって製造されている。
【0003】
従来より、酸化物超電導体の原料は、たとえば以下の方法で製造されていた。始めに、酸化物超電導体を構成する元素の酸化物あるいは炭酸化物の原料粉が所定の割合で混合される。次に、この混合粉に700〜860℃程度の熱処理および粉砕が複数回施され、超電導相と非超電導相とから構成される酸化物超電導体の原料が得られる。なお、このような酸化物超電導体の原料の製造方法は、たとえば特開2004−119248号公報(特許文献1)に開示されている。
【0004】
しかしながら、上記製造方法には、原料粉を均一にするのに熱処理および粉砕を複数回繰り返す必要があるという問題があった。また、熱処理および粉砕を複数回繰り返しても、原料粉の均一度にも限界があった。
【0005】
そこで、酸化物超電導体を構成する元素が均一に存在する酸化物超電導体の原料を容易に製造することのできる製造方法が、たとえば非特許文献1および2に開示されている。非特許文献1および2に開示された製造方法では、酸化物超電導体を構成する元素を硝酸水溶液に溶解し、これらの元素をイオン化する。次に、この硝酸塩水溶液を高温雰囲気に噴霧することにより、溶媒を除去して粉末を得る。次に、雰囲気の温度を下げて粉末を冷却し、酸化物超電導体を構成する元素を含む原料粉末を製造している。
【特許文献1】特開2004−119248号公報
【非特許文献1】M.Awano, et al., "Enhancement for Synthesis of Bi-Pb-Sr-Ca-Cu-O Superconductor by the Spray Drying and Subsequent Calcination with Rapid Heating", Japanese Journal of Applied Physics, Vol.30, No.5A, (1991), pp.L806-L808.
【非特許文献2】N.Tohge, et al., "Preparation Conditions and Morphology of Superconducting Fine Particles in the Bi-Ca-Sr-Cu-O System Prepared by Spray Pyrolysis", J. Am. Ceram. Soc., 74(9), (1991), pp.2117-2122.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の酸化物超電導線材には、酸化物超電導体の密度および純度が低いという問題があった。酸化物超電導体の密度および純度が低いと、臨界電流値などの超電導特性が低下するなどの問題が生じる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、酸化物超電導体の密度および純度を向上することのできる酸化物超電導体の原料の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、酸化物超電導線材における酸化物超電導体の密度および純度が低いという問題は、酸化物超電導体の原料に炭素、窒素、および水などの残留物が多く含まれていることに起因することを見出した。酸化物超電導体の原料にこれらの残留物が多く含まれていると、酸化物超電導体の純度が低くなる。そして、酸化物超電導線材の製造工程における酸化物超電導体を生成するための熱処理の際に、炭素は二酸化炭素として放出され、窒素および水は気体となって放出される。その結果、酸化物超電導体に空隙が形成され、酸化物超電導体の密度を低下させる。
【0009】
また、本願発明者は、酸化物超電導体の原料に含まれる残留物は、酸化物超電導体の原料の製造時に残留したものであって、特に、溶媒を除去した後で粉末を冷却する際に、冷却雰囲気に存在する二酸化炭素、窒素酸化物、および水蒸気が粉末に吸着することによって残留したものであることを見出した。従来の酸化物超電導体の原料の製造方法では、除去された溶媒の成分を含む雰囲気をそのまま冷却雰囲気として粉末を冷却していた。除去された溶媒の成分は二酸化炭素、窒素酸化物、および水蒸気などとして雰囲気中に存在し、これらの気体が冷却時に粉末に付着し、残留物となる。
【0010】
そこで、本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法は、酸化物超電導体を構成する原子を含む材料を溶液中でイオン化する工程と、第1雰囲気に溶液を噴射して溶媒を除去することにより、酸化物超電導体を構成する原子を含む粉末を製造する工程と、冷却用気体を導入した第2雰囲気で、粉末を冷却する工程とを備えている。第2雰囲気の二酸化炭素濃度は、除去された溶媒の成分を含む第1雰囲気の二酸化炭素濃度よりも低く、かつ第2雰囲気の窒素酸化物濃度は、除去された溶媒の成分を含む第1雰囲気の窒素酸化物濃度よりも低く、かつ第2雰囲気の水蒸気の濃度は、除去された溶媒の成分を含む第1雰囲気の水蒸気の濃度よりも低い。
【0011】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法によれば、第2雰囲気は、溶媒の成分を含む第1雰囲気の二酸化炭素濃度、窒素酸化物濃度、および水蒸気の濃度が冷却用気体によって希釈された雰囲気であり、この第2雰囲気で粉末の冷却を行なう。このため、従来に比べて、二酸化炭素、窒素酸化物、および水蒸気が冷却時に粉末に付着しにくくなる。したがって、酸化物超電導体に含まれる炭素、窒素、および水の残留物を減らすことができ、酸化物超電導体の密度および純度を向上することができる。
【0012】
なお、上記「第1雰囲気」とは、溶液を噴射して除去された溶媒を含む雰囲気を意味する。上記「第2雰囲気」とは、冷却用気体が第1雰囲気と混合されて構成される雰囲気を意味する。
【0013】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液を噴射する工程と、第1雰囲気から第2雰囲気へ搬送用気体によって溶液を搬送する工程とを含んでいる。噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体を合わせた全気体の体積流量がこの溶液の流量の10000倍以上である。
【0014】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液を噴射する工程と、第1雰囲気から第2雰囲気へ搬送用気体によって溶液を搬送する工程とを含み、粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液を噴射する工程と、第1雰囲気から第2雰囲気へ搬送用気体によって溶液を搬送する工程とを含んでいる。第2雰囲気の水蒸気の濃度が10%体積以下である。
【0015】
噴霧用気体を用いることによって溶液を容易に噴射することができ、搬送用気体を用いることによって粉末を容易に第2雰囲気へ搬送することができる。全気体の体積流量あるいは第2雰囲気の水蒸気の濃度を上記のように規定することにより、臨界電流値を向上することができる。
【0016】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液を噴射する工程と、第1雰囲気から第2雰囲気へ搬送用気体によって溶液を搬送する工程とを含み、噴霧用気体と搬送用気体とを合わせた第1雰囲気の気体の体積流量をq1(リットル/秒)、溶液から発生するガスの体積流量をq2(リットル/秒)、第1雰囲気の体積をV(リットル)とした場合に、0.1(秒)≦V/(q1+q2)≦20(秒)の関係を満たす。
【0017】
V/(q1+q2)とは、溶液の第1雰囲気中に滞留する時間を指す。この滞留する時間を0.1(秒)より長くすることによって、噴霧用気体と搬送用気体とを合わせた体積流量(q1+q2)を増加させて、第1雰囲気の水蒸気の濃度を十分に低下することができる。一方、滞留する時間を20(秒)より短くすることによって、噴霧用気体と搬送用気体とを合わせた体積流量を増加させすぎないので、原料(溶液)が加熱領域に滞留する時間が短くならず、熱分解反応が十分となる。したがって、上記の範囲内とすることにより、臨界電流値をさらに向上することができる。
【0018】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液を噴射する工程と、第1雰囲気から第2雰囲気へ搬送用気体によって溶液を搬送する工程とを含んでいる。噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下である。
【0019】
噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の全てにおいて水蒸気の濃度が1体積%以下であることにより、臨界電流値を向上することができる。なお、水蒸気の濃度は、粉末に含まれる水分を低減する観点から低ければ低いほどよい。
【0020】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液を噴射する工程と、第1雰囲気から第2雰囲気へ搬送用気体によって溶液を搬送する工程とを含んでいる。噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体は、いずれも二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である。
【0021】
噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の全てにおいて二酸化炭素濃度が30体積ppm以下であることにより、臨界電流値を向上することができる。なお、溶媒を除去する際には通常溶媒から二酸化炭素が発生し、また雰囲気中にも二酸化炭素が通常含まれているので、二酸化炭素濃度を0にすることは難しい。このため、上記二酸化炭素濃度は0より大きい。
【0022】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を冷却する工程の後で、粉末を熱処理する工程をさらに備えている。
【0023】
これにより、酸化物超電導体の原料に含まれる炭素、窒素、および水などの残留物が気体となって除去されるので、酸化物超電導体の原料に含まれる残留物をさらに減らすことができる。
【0024】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を熱処理する工程および粉末を熱処理した直後の冷却はいずれも熱処理装置内において行なわれ、熱処理装置内へ粉末を導入する際における熱処理装置内の雰囲気、粉末を熱処理する際における熱処理装置内の雰囲気、粉末を冷却する際における熱処理装置内の雰囲気、および熱処理装置内から粉末を取り出す際における熱処理装置内の雰囲気は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下である。
【0025】
本願発明者は、粉末を熱処理する工程において、熱処理装置内へ粉末を導入する際、粉末を熱処理する際、粉末を冷却する際、および熱処理装置内から粉末を取り出す際においても、冷却雰囲気に存在する二酸化炭素、窒素、および水蒸気が粉末に吸着することによって、粉末に残留物が残留することを見出した。そこで、水蒸気の濃度が1体積%以下の雰囲気でこれらの作業を行なうことにより、冷却時に粉末に水蒸気が吸着することを抑止でき、酸化物超電導体の原料に含まれる残留物をさらに減らすことができる。なお、水蒸気の濃度は低ければ低いほどよい。
【0026】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、粉末を熱処理する工程および粉末を熱処理した直後の冷却はいずれも熱処理装置内において行なわれ、熱処理装置内へ粉末を導入する際における熱処理装置内の雰囲気、粉末を熱処理する際における熱処理装置内の雰囲気、粉末を冷却する際における熱処理装置内の雰囲気、および熱処理装置内から粉末を取り出す際における熱処理装置内の雰囲気は、いずれも二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である。
【0027】
本願発明者は、粉末を熱処理する工程において、熱処理装置内へ粉末を導入する際、粉末を熱処理する際、粉末を冷却する際、および熱処理装置内から粉末を取り出す際においても、冷却雰囲気に存在する二酸化炭素、窒素、および水蒸気が粉末に吸着することによって、粉末に残留物が残留することを見出した。そこで、二酸化炭素濃度が30体積ppm以下の雰囲気でこれらの作業を行なうことにより、冷却時に粉末に二酸化炭素が吸着することを抑止でき、酸化物超電導体の原料に含まれる残留物をさらに減らすことができる。なお、粉末を熱処理する際には、通常粉末から二酸化炭素が発生し、また雰囲気中にも二酸化炭素が通常含まれているので、二酸化炭素濃度を0にすることは難しい。
【0028】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法において好ましくは、酸化物超電導体を構成する原子を含む材料をイオン化するための溶液は、硝酸水溶液である。硝酸を用いることによって、十分に溶解できる。
【0029】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、上記酸化物超電導体の原料の製造方法を用いて酸化物超電導体の原料を製造する工程と、この酸化物超電導体の原料を用いて酸化物超電導線材を作製する工程とを備えている。これにより、酸化物超電導体の密度および純度を向上することができる。
【0030】
本発明の超電導機器は、上記酸化物超電導線材の製造方法を用いて製造された酸化物超電導線材を用いている。
【0031】
これにより、密度および純度を向上することのできる酸化物超電導機器を製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法によれば、酸化物超電導体の密度および純度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
本実施の形態では、ビスマス系の酸化物超電導体の原料の製造方法について説明する。
【0034】
図1は、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原料の製造方法の工程図である。図2は、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原料の製造方法を説明するための図である。
【0035】
図1および図2を参照して、始めに、酸化物超電導体を構成する原子を含む材料を溶液中でイオン化する。具体的には、たとえば硝酸水溶液に、Bi23,PbO,SrCO3,CaCO3,およびCuOの各材料粉末を溶解させる(ステップS1)。これにより、Bi(ビスマス),Pb(鉛),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム),およびCu(銅)の各々が硝酸水溶液中でイオン化する。また、これらの材料粉末の溶解時に二酸化炭素が発生するので、材料粉末から炭素成分を除去することが可能となる。各材料粉末に含まれる炭素成分はより少なければ少ないほどなお好ましい。各材料粉末が溶解された硝酸塩水溶液が溶液11(図2)である。
【0036】
なお、ビスマスなどの成分を溶解する溶液としては、硝酸に限られず、硫酸、塩酸などの他の無機酸を用いてもよい。さらに、シュウ酸、酢酸などの有機酸を用いてもよい。また、酸だけでなく、原料を溶解させることが可能な成分であれば、アルカリ溶液を用いてもよい。
【0037】
また、溶液の温度は特に制限されるものではなく、ビスマスなどを十分に溶解させることができる温度であればよい。さらに、十分な溶解度を得るために、攪拌翼などで攪拌をしてもよい。
【0038】
次に、雰囲気14に溶液11を噴射して溶媒を除去することにより、酸化物超電導体を構成する原子を含む原料粉末1aを製造する(ステップS2)。具体的には以下に示す方法によって行なう。
【0039】
溶液11を噴霧用気体とともに噴射口21から噴射する。溶液11および噴霧用気体の噴射を矢印Aで示す。これによって噴霧12が形成される。一方、噴射口21から矢印Bで示す方向に搬送用気体を導入する。この搬送用気体によって噴霧12は電気炉13へ搬送される。そして、電気炉13内において、噴霧12に含まれる溶液11の溶媒は加熱されて蒸発する。このようにして、噴霧用気体と搬送用気体とによって構成される高温の雰囲気14(第1雰囲気)に溶液を噴射し、溶媒を除去する。その結果、酸化物超電導体を構成する原子を含む原料粉末1aが得られる。電気炉13の出口における雰囲気15は、除去された溶媒の成分を含んでいる。
【0040】
なお、噴射の方法として、ストレートに電気炉13へ溶液11を噴射する方法だけでなく、電気炉13内で渦流を生じさせるように溶液11を噴射してもよい。すなわち、電気炉13内で横渦または縦渦が生じるように噴霧12を形成してもよい。さらに、電気炉13の内壁に螺旋状の溝を設け、この溝に沿って噴霧12を流すことにより渦を形成してもよい。
【0041】
電気炉13の温度は特に限定されるものではないが、電気炉13内で硝酸塩の熱分解を起こさせる場合には、電気炉13の温度をたとえば700℃以上850℃以下とすることができる。また、電気炉13のうち、温度が700℃以上850℃以下の領域の長さを、たとえば300mmとすることができる。
【0042】
電気炉13内の温度により、電気炉13内での反応は噴霧熱分解と噴霧乾燥に分かれる。噴霧熱分解の場合には、電気炉13の温度は約700℃以上850℃以下である。噴霧熱分解では、溶液を構成するBi、Pb、Sr、Ca、Cuの複合金属硝酸塩水溶液の粒子(噴霧12)では、水分が蒸発し、蒸発後硝酸塩の熱分解反応、熱分解後の金属酸化物同士の反応を瞬時に起こす。噴霧熱分解の場合には、反応が瞬時に起こるため、化学反応の正確な制御が難しくなる。
【0043】
また、電気炉13の温度を200℃以上300℃以下とすれば、噴霧乾燥となる。噴霧乾燥では溶媒成分である水分は蒸発するが、硝酸成分がすべて残る。この硝酸成分はその後に熱処理を施すことで除去できる。
【0044】
続いて、冷却用気体を導入した雰囲気16で、粉末を冷却する(ステップS3)。具体的には、冷却用気体導入口22から矢印Cで示す方向に冷却用気体を導入する。この冷却用気体が雰囲気15と混合されて雰囲気16(第2雰囲気)を構成する。雰囲気16で原料粉末1aは冷却されながら、搬送用気体によって粉末回収器17へ搬送される。
【0045】
本実施の形態では、雰囲気16の二酸化炭素濃度は雰囲気15の二酸化炭素濃度よりも低く、かつ雰囲気16の窒素酸化物濃度は雰囲気15の窒素酸化物濃度よりも低く、かつ雰囲気16の水蒸気の濃度は雰囲気15の水蒸気の濃度よりも低い。このため、雰囲気16において原料粉末1aが冷却される際、二酸化炭素,窒素、および水は付着しにくくなる。
【0046】
最終的に、原料粉末1aは冷却されて、粉末回収器17の底部に配置された容器17aに収納される。これによって、原料粉末1が得られる。なお、粉末回収器17の排出口23は図示しない真空ポンプに接続されており、原料粉末1が容器17aに収納された後で、噴霧用気体、搬送用気体、冷却用気体、および除去された溶媒の成分は、フィルタ18を通過して排出口23から排出される。
【0047】
本実施の形態における噴霧用気体としては、乾燥した空気や、窒素などを用いることができる。また、搬送用気体としては、乾燥した空気などを用いることができる。噴霧用気体および搬送用気体は異なる気体であってもよく、同種の気体であってもよい。また、噴霧用気体および搬送用気体の流量比は適宜変更することが可能である。さらに、冷却用気体としては、二酸化炭素、窒素、および水蒸気の濃度を雰囲気15よりも低減できる気体であって、雰囲気15よりも低温の気体が用いられる。
【0048】
また、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体を合わせた全気体の体積流量が溶液11の流量の10000倍以上であることが好ましい。また、雰囲気16の水蒸気の濃度が10体積%以下であることが好ましい。また、噴霧用気体と搬送用気体とを合わせた雰囲気14の気体の体積流量をq1(リットル/秒)、溶液11から発生するガスの体積流量をq2(リットル/秒)、雰囲気14の体積をV(リットル)とした場合に、溶液11の雰囲気14中に滞留する時間(秒)が、0.1(秒)≦V/(q1+q2)≦20(秒)の関係を満たすことが好ましい。また、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下であることが好ましい。また、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体は、いずれも二酸化炭素濃度が30体積ppm以下であることが好ましい。これらの好ましい条件は複数組み合わせると、臨界電流値を向上するなどの効果をさらに高めるので、さらに好ましい。
【0049】
続いて、原料粉末1を冷却した後で、熱処理装置内で原料粉末1を熱処理する(ステップS4)。この熱処理によって、原料粉末1に含まれる残留物をさらに減少させることができる。熱処理は、具体的には以下の方法で行なわれる。
【0050】
図3は、本発明の実施の形態1における熱処理装置の構成を模式的に示す図である。図3を参照して、熱処理装置30は、熱処理室31と冷却室32とを有している。熱処理室31は導入用通路34aに接続しており、熱処理室31と冷却室32とは連絡通路34bによって接続されており、冷却室32は取出し用通路34cに接続している。熱処理室31にはヒータ33が配置されている。原料粉末1の熱処理と、熱処理した直後の冷却とは、いずれも熱処理装置30内において行なわれる。
【0051】
図3において、熱処理装置30内へ原料粉末1を導入する際における熱処理装置30内の雰囲気は、導入用通路34aの雰囲気である。また、原料粉末1を熱処理する際における熱処理装置30内の雰囲気は、熱処理室31の雰囲気である。また、原料粉末1を冷却する際における熱処理装置30内の雰囲気は、冷却室32の雰囲気である。さらに、熱処理装置30内から原料粉末1を取り出す際における熱処理装置30内の雰囲気は、取出し用通路34cである。
【0052】
本実施の形態では、導入用通路34a、熱処理室31、連絡通路34b、冷却室32、および取出し用通路34cは、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下であることが好ましい。また、二酸化炭素濃度が30体積ppm以下であることが好ましい。これらの好ましい条件を併せ持つと、酸化物超電導体の原料粉末1に含まれる残留物をさらに減らすことができるなどの効果をさらに高めるので、さらに好ましい。
【0053】
導入用通路34aを通じて原料粉末1を熱処理室31へ搬送する。続いて、熱処理室31において、ヒータ33を用いて原料粉末1を熱処理する。熱処理は、たとえば温度750℃〜850℃、酸素分圧0.05〜0.1MPaの雰囲気で、5〜10時間行なう。続いて、連絡通路34bを通じて冷却室32へ原料粉末1を搬送し、冷却室32において原料粉末1を室温にまで冷却する。その後、取出し用通路34cを通じて原料粉末1を外部へ取り出す。
【0054】
以上の工程によって酸化物超電導体の原料としての原料粉末1が得られる。なお、本実施の形態においては、原料粉末1を熱処理する(ステップS4)場合について示したが、容器17aに収納された原料粉末1が所望の組成を有していれば、この熱処理を省略してもよい。
【0055】
本実施の形態の酸化物超電導体の原料粉末1の製造方法によれば、雰囲気16は、雰囲気15の二酸化炭素濃度、窒素酸化物濃度、および水蒸気の濃度が冷却用気体によって希釈された雰囲気であり、この雰囲気16で原料粉末1aの冷却を行なう。このため、従来に比べて、二酸化炭素、窒素酸化物、および水蒸気が冷却時に原料粉末1aに付着しにくくなる。したがって、酸化物超電導体に含まれる炭素、窒素、および水の残留物を減らすことができ、酸化物超電導体の密度および純度を向上することができる。
【0056】
ここで、単に搬送用気体の流量を増やしても、二酸化炭素、窒素酸化物、および水蒸気の濃度を減らすことはできるが、搬送用気体の流量が多いと溶液11が電気炉13を通過する時間が短くなり、溶媒の除去が不十分になるという問題が生じる。この意味でも本発明は有利な効果を有している。
【0057】
上記製造方法において好ましくは、原料粉末1aを製造する工程は、噴霧用気体とともに溶液11を噴射する工程と、雰囲気15から雰囲気16へ搬送用気体によって溶液11を搬送する工程とを含んでいる。噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体を合わせた全気体の体積流量がこの溶液の流量の10000倍以上である。また好ましくは、雰囲気16の水蒸気の濃度が10%体積以下である。
【0058】
噴霧用気体を用いることによって溶液11を容易に噴射することができ、搬送用気体を用いることによって原料粉末1aを容易に雰囲気16へ搬送することができる。全気体の体積流量あるいは雰囲気16の水蒸気の濃度を上記のように規定することにより、臨界電流値を向上することができる。
【0059】
また好ましくは、噴霧用気体と搬送用気体とを合わせた雰囲気14の気体の体積流量をq1(リットル/秒)、溶液11から発生するガスの体積流量をq2(リットル/秒)、雰囲気14の体積をV(リットル)とした場合に、0.1(秒)≦V/(q1+q2)≦20(秒)の関係を満たす。
【0060】
溶液11の雰囲気14中に滞留する時間を0.1秒より長くすることによって、雰囲気14の水蒸気の濃度を十分に低下することができる。溶液11の雰囲気14中に滞留する時間を20秒より短くすることによって、溶液11が加熱領域に滞留する時間が短くならず、熱分解反応が十分となる。したがって、上記の範囲内とすることにより、臨界電流値を向上することができる。
【0061】
また好ましくは、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下である。また好ましくは、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体は、いずれも二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である。
【0062】
噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の全てにおいて水蒸気の濃度が1体積%以下である、または二酸化炭素濃度が30体積ppm以下であることにより、臨界電流値を向上することができる。
【0063】
上記製造方法においては、原料粉末1を冷却する工程の後で、原料粉末1を熱処理する工程をさらに備えている。
【0064】
これにより、酸化物超電導体の原料粉末1に含まれる炭素、窒素、および水などの残留物が気体となって除去されるので、酸化物超電導体の原料粉末1に含まれる残留物をさらに減らすことができる。
【0065】
上記製造方法において好ましくは、原料粉末1を熱処理する工程および原料粉末1を熱処理した直後の冷却はいずれも熱処理装置30内において行なわれ、原料粉末1を熱処理する際において、導入用通路34aの雰囲気、熱処理室31の雰囲気、連絡通路34bの雰囲気、冷却室32の雰囲気、および取出し用通路34cの雰囲気は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下である。また好ましくは、二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である。
【0066】
これにより、冷却時に原料粉末1に水蒸気および二酸化炭素が吸着することを抑止でき、酸化物超電導体の原料粉末1に含まれる残留物をさらに減らすことができる。
【0067】
上記製造方法において好ましくは、材料粉末を溶解する溶液は硝酸水溶液である。硝酸を用いることによって、不導体を形成せず完全溶解できる。また、理論上炭素を0にすることができる。
【0068】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で製造した酸化物超電導体の原料を用いた酸化物超電導線材の製造方法について説明する。
【0069】
図4は、酸化物超電導線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。図4を参照して、たとえば、多芯線の酸化物超電導線材について説明する。酸化物超電導線材4は、長手方向に伸びる複数本の酸化物超電導体2(フィラメント)と、それらを被覆するシース部3とを有している。複数本の酸化物超電導体2の各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。シース部3の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっている。
【0070】
なお、上記においては多芯線について説明したが、1本の酸化物超電導体2がシース部3により被覆される単芯線構造の酸化物超電導線材が用いられてもよい。
【0071】
次に、上記の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。図5は、本発明の実施の形態2における酸化物超電導線材の製造工程を示す図である。
【0072】
図5を参照して、始めに、実施の形態1の方法を用いて酸化物超電導体の原料粉末1を製造する(ステップS10)。続いて、この原料粉末1(前駆体)を金属管に充填する(ステップS11)。なお、金属管としては熱伝導率の高い銀や銀合金などを用いるのが好ましい。これにより、超電導体がクエンチ現象を部分的に生じた場合に発生した熱を金属管から速やかに取り去ることができる。
【0073】
次に、所望の直径にまで上記線材を伸線加工し、前駆体を芯材として銀などの金属で被覆された単芯線を作製する(ステップS12)。次に、この単芯線を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる金属管内に嵌合する(多芯嵌合:ステップS13)。これにより、原材料粉末を芯材として多数有する多芯構造材が得られる。
【0074】
次に、所望の直径にまで多芯構造材を伸線加工し、原料粉末1がたとえば銀などのシース部3に埋め込まれた多芯線を作製する(ステップS14)。これにより、酸化物超電導線材の原料粉末を金属で被覆した形態を有する多芯線の線材が得られる。
【0075】
次に、この線材を圧延し、テープ線材にする(ステップS15)。この圧延によって原材粉末1の密度が高められる。次に、このテープ線材を熱処理する(ステップS16)。この熱処理は、たとえば約830℃の温度で行なわれる。熱処理によって原料粉末1から酸化物超電導相が生成され、酸化物超電導体2(図1)となる。なお、熱処理および圧延をテープ線材に複数回施してもよい。
【0076】
ここで、実施の形態1に示す製造方法で得られた原料粉末1は、炭素などの残留物が少ないので、線材の熱処理の際に、残留物が気体となって大気中に放出される量が少ない。その結果、酸化物超電導体2の結晶中に空隙が形成されにくくなり、酸化物超電導体2の密度および純度を向上することができる。
【0077】
以上の製造工程により、図4に示す酸化物超電導線材が得られる。
本実施の形態の酸化物超電導線材4の製造方法は、実施の形態1に示す原料粉末の製造方法を用いて酸化物超電導体2の原料粉末1を製造する工程(ステップS10)と、原料粉末1を用いて酸化物超電導線材4を作製する工程(ステップS11〜ステップS16)とを備えている。
【0078】
これにより、酸化物超電導体2の密度を向上することができる。本発明の酸化物超電導線材は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、および電力貯蔵装置などの超電導機器に用いることができる。
【0079】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0080】
本実施例では、冷却用気体を導入する効果について調べた。具体的には、Bi,Pb,Sr,Ca,およびCuの材料粉末を硝酸水溶液に溶解し、この硝酸塩水溶液をろ過して不純物を除去した。これらの材料粉末は、Bi:Pb:Sr:Ca:Cuが1.7:0.4:1.9:2.0:3.0となるように溶解された。次に、この硝酸塩水溶液と噴霧用気体とを混合し、溶液噴霧器を用いて数10μmの微細な液滴よりなる噴霧を形成した。硝酸塩水溶液流量qは20mL/minとした。そして、搬送用気体を用いてこの噴霧を最高温度800℃に加熱した電気炉内へ導入した。噴射用気体と搬送用気体との合計流量Q1は50NL/min(NL=0℃、1atmでの体積)であった。これによって、噴霧用気体と搬送用気体とによって構成される雰囲気(第1雰囲気)で噴霧の乾燥および熱分解を行ない、高温の原料粉末を得た。
【0081】
次に、搬送用気体を用いて高温の原料粉末を電気炉外へ搬送し、冷却用気体を導入した雰囲気(第2雰囲気)で原料粉末の冷却を行なった。冷却用気体としては、二酸化炭素濃度、窒素酸化物濃度、および水蒸気の濃度を制御した空気を使用した。噴射用気体、搬送用気体、および冷却用気体としては、水蒸気の濃度が0.01体積%である気体を用い、冷却用気体に含まれる二酸化炭素濃度を10ppmとした。本実施例では、冷却用気体の流量(導入量)Q2を0〜300NL/minの間で変化させて、原料粉末の冷却を行なった。比較例1では、冷却用気体を導入せずに、除去された溶媒の成分を含む雰囲気のまま原料粉末の冷却を行なった。
【0082】
その後、搬送用気体によって原料粉末を粉末回収器へ搬送し、粉末回収器によって気体と粉末を分離して、金属複合酸化物よりなる原料粉末を回収した。さらに、この原料粉末を熱処理装置に搬送し、温度800℃、酸素分圧0.02MPaの雰囲気で10時間の熱処理を行ない、酸化物超電導体の原料を製造した。熱処理装置への導入、加熱、冷却、および熱処理装置からの取り出しは、いずれも水分1体積%以下、二酸化炭素の含有量30体積ppm以下の雰囲気で行なった。
【0083】
次に、原料粉末を銀パイプに充填し、真空中において600℃の温度で10時間の熱処理を行なってガスを抜いた。そして、銀パイプの端末をロウ付けすることで原料粉末を真空封入して単芯線を作製した。次に、この単心線の両端を封入したまま線引き加工して、55本に切断したものを束ねて銀パイプに挿入し、再度真空中において600℃の温度で10時間の熱処理を行なってガスを抜いた。そして、銀パイプの端末をロウ付けすることで原料粉末を真空封入して多芯線を作製した。続いて、この多芯線の両端をロウ付けしたまま伸線加工および圧延加工を行ない、幅4mm、厚さ0.2mmのテープ線を作製した。次に、このテープ線に温度820〜830℃、酸素分圧0.008MPaの雰囲気で30時間の熱処理を行ない、Bi2223相を生成した。次に、中間圧延を行なった後で、さらに温度810〜820℃、酸素分圧0.008MPaの雰囲気で50時間の熱処理を行ない、酸化物超電導線材を製造した。得られた酸化物超電導線材の臨界電流値を、77Kの自己磁場中において測定した。冷却用気体流量Q2などの原料粉末の製造条件と、得られた酸化物超電導線材の臨界電流値Jcとを表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1を参照して、全気体(Q1+Q2)とは、冷却用気体を導入後の雰囲気(図2における雰囲気16(第2雰囲気))を意味している。冷却用気体を導入していない比較例1では、全気体に含まれるNO2濃度が3.7体積%、H2O濃度が32体積%、露点が71と、いずれも高い値となった。また、比較例1の酸化物超電導線材の臨界電流値は18kA/cm2となった。一方、冷却用気体を50NL/minの流量で導入した本発明例1では、全気体に含まれるNO2濃度が2.3体積%、H2O濃度が20体積%、露点が60と、比較例1よりも低い値となった。また、冷却用気体に含まれる二酸化炭素濃度を10ppmと低くしているので、全気体に含まれる二酸化炭素濃度も比較例1の場合よりも低くなっていたと推測される。また、本発明例1の酸化物超電導線材の臨界電流値は20kA/cm2であった。以上の結果より、冷却用気体の流量を増やして全気体に含まれる二酸化炭素濃度、窒素酸化物、および水蒸気の濃度を低くすることによって、酸化物超電導線材の臨界電流値を向上できることが分かる。
【0086】
また、本発明例1〜4を比較して、全気体流量(Q1+Q2)が硝酸塩水溶液流量(q)の10000倍以上である本発明例3と、全気体流量(Q1+Q2)が硝酸塩水溶液流量(q)の10000倍以上で、かつ全気体(Q1+Q2)に含まれるH2O濃度が10体積%以下である本発明例4とは、40kA/cm2以上の高い臨界電流値となっている。このことから、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体を合わせた全気体の体積流量を硝酸塩水溶液の流量の10000倍以上である、あるいは第2雰囲気の水蒸気の濃度が10%以下であることによって、臨界電流値を向上できることが分かる。
【実施例2】
【0087】
本実施例では、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々に含まれる二酸化炭素濃度と臨界電流値との関係について調べた。具体的には、実施例1とほぼ同様の方法で酸化物超電導体の原料を製造し、これを用いて酸化物超電導線材を製造した。但し、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々の二酸化炭素濃度を1〜300ppmの範囲で変化させて導入した。得られた酸化物超電導線材の臨界電流値を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2を参照して、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々に含まれる二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である本発明例6〜8の場合に、40kA/cm2以上の高い臨界電流値となっている。このことから、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々に含まれる二酸化炭素濃度が30体積ppm以下であることによって、臨界電流値を向上できることが分かる。
【実施例3】
【0090】
本実施例では、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々に含まれる水蒸気の濃度および熱処理装置内の雰囲気と臨界電流値との関係について調べた。具体的には、実施例1とほぼ同様の方法で酸化物超電導体の原料を製造し、これを用いて酸化物超電導線材を製造した。但し、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々の水蒸気の濃度を0.0004〜2体積%の範囲で変化させて導入した。また、熱処理装置内の水蒸気濃度を1〜4体積%の範囲で、二酸化炭素濃度を30〜300ppmの範囲内で変化させて、原料粉末を熱処理した。得られた酸化物超電導線材の臨界電流値を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
表3を参照して、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々に含まれる水蒸気の濃度が1体積%以下であり、熱処理装置内の水蒸気の濃度が1体積%以下であり、熱処理装置内の二酸化炭素濃度が30体積%以下である本発明例10〜13の場合に、39kA/cm2以上の高い臨界電流値となっている。このことから、噴霧用気体、搬送用気体、および冷却用気体の各々に含まれる水蒸気の濃度が1体積%以下であることによって、臨界電流値を向上できることが分かる。
【実施例4】
【0093】
本実施例では、第1雰囲気の体積と臨界電流値との関係について調べた。具体的には、実施例1とほぼ同様の方法で酸化物超電導体の原料を製造し、これを用いて酸化物超電導線材を製造した。但し、第1雰囲気の体積を100(リットル)とし、第1雰囲気の気体の体積流量と溶液から発生するガスの体積流量との合計の体積流量を3.3〜1199(リットル/秒)の範囲内で変化させた。得られた酸化物超電導線材の臨界電流値を表4および図6に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
表4および図6を参照して、V/(q1+q2)が0.1(秒)以上20(秒)以下を満たす本発明例17〜21の場合に、35kA/cm2以上の高い臨界電流値となっている。このことから、第1雰囲気の体積が0.1(秒)≦V/(q1+q2)≦20(秒)の関係を満たすことによって、臨界電流値を向上できることが分かる。
【0096】
以上に開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態および実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の酸化物超電導体の原料の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法は、ビスマス系の酸化物超電導体の原料の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法に適用されることが好ましく、特に、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅とを含み、その原子比として(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表されるBi2223相を含むBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の酸化物超電導体の原料の製造方法および酸化物超電導線材の製造方法に適用されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原料の製造方法の工程図である。
【図2】本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原料の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1における熱処理装置の構成を模式的に示す図である。
【図4】酸化物超電導線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2における酸化物超電導線材の製造工程を示す図である。
【図6】実施例4における酸化物超電導線材の臨界電流値を表わす図である。
【符号の説明】
【0099】
1,1a 原料粉末、2 酸化物超電導体、3 シース部、4 酸化物超電導線材、11 溶液、12 噴霧、13 電気炉、14〜16 雰囲気、17 粉末回収器、17a 容器、18 フィルタ、21 噴射口、22 冷却用気体導入口、23 排出口、30 熱処理装置、31 熱処理室、32 冷却室、33 ヒータ、34a 導入用通路、34b 連絡通路、34c 取出し用通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体を構成する原子を含む材料を溶液中でイオン化する工程と、
第1雰囲気に前記溶液を噴射して溶媒を除去することにより、前記酸化物超電導体を構成する原子を含む粉末を製造する工程と、
冷却用気体を導入した第2雰囲気で、前記粉末を冷却する工程とを備え、
前記第2雰囲気の二酸化炭素濃度は、除去された前記溶媒の成分を含む前記第1雰囲気の二酸化炭素濃度よりも低く、かつ前記第2雰囲気の窒素酸化物濃度は、除去された前記溶媒の成分を含む前記第1雰囲気の窒素酸化物濃度よりも低く、かつ前記第2雰囲気の水蒸気の濃度は、除去された前記溶媒の成分を含む前記第1雰囲気の水蒸気の濃度よりも低い、酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項2】
前記粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに前記溶液を噴射する工程と、前記第1雰囲気から前記第2雰囲気へ搬送用気体によって前記溶液を搬送する工程とを含み、
前記噴霧用気体、前記搬送用気体、および前記冷却用気体を合わせた全気体の体積流量が前記溶液の流量の10000倍以上である、請求項1に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項3】
前記粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに前記溶液を噴射する工程と、前記第1雰囲気から前記第2雰囲気へ搬送用気体によって前記溶液を搬送する工程とを含み、
前記第2雰囲気の水蒸気の濃度が10体積%以下である、請求項1に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項4】
前記粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに前記溶液を噴射する工程と、前記第1雰囲気から前記第2雰囲気へ搬送用気体によって前記溶液を搬送する工程とを含み、
前記噴霧用気体と前記搬送用気体とを合わせた前記第1雰囲気の気体の体積流量をq1(リットル/秒)、溶液から発生するガスの体積流量をq2(リットル/秒)、前記第1雰囲気の体積をV(リットル)とした場合に、
0.1(秒)≦V/(q1+q2)≦20(秒)の関係を満たす、請求項1に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項5】
前記粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに前記溶液を噴射する工程と、前記第1雰囲気から前記第2雰囲気へ搬送用気体によって前記溶液を搬送する工程とを含み、
前記噴霧用気体、前記搬送用気体、および前記冷却用気体は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下である、請求項1に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項6】
前記粉末を製造する工程は、噴霧用気体とともに前記溶液を噴射する工程と、前記第1雰囲気から前記第2雰囲気へ搬送用気体によって前記溶液を搬送する工程とを含み、
前記噴霧用気体、前記搬送用気体、および前記冷却用気体は、いずれも二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である、請求項1に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項7】
前記粉末を冷却する工程の後で、前記粉末を熱処理する工程をさらに備える、請求項1〜6のいずれかに記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項8】
前記粉末を熱処理する工程および前記粉末を熱処理した直後の冷却はいずれも熱処理装置内において行なわれ、
前記熱処理装置内へ前記粉末を導入する際における前記熱処理装置内の雰囲気、前記粉末を熱処理する際における前記熱処理装置内の雰囲気、前記粉末を冷却する際における前記熱処理装置内の雰囲気、および前記熱処理装置内から前記粉末を取り出す際における前記熱処理装置内の雰囲気は、いずれも水蒸気の濃度が1体積%以下である、請求項7に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項9】
前記粉末を熱処理する工程および前記粉末を熱処理した直後の冷却はいずれも熱処理装置内において行なわれ、
前記熱処理装置内へ前記粉末を導入する際における前記熱処理装置内の雰囲気、前記粉末を熱処理する際における前記熱処理装置内の雰囲気、前記粉末を冷却する際における前記熱処理装置内の雰囲気、および前記熱処理装置内から前記粉末を取り出す際における前記熱処理装置内の雰囲気は、いずれも二酸化炭素濃度が30体積ppm以下である、請求項7に記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項10】
前記溶液は、硝酸水溶液である、請求項1〜9のいずれかに記載の酸化物超電導体の原料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の酸化物超電導体の原料の製造方法を用いて酸化物超電導体の原料を製造する工程と、
前記酸化物超電導体の原料を用いて酸化物超電導線材を作製する工程とを備える、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材を用いた超電導機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−240980(P2006−240980A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372553(P2005−372553)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】