説明

酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置

【課題】金属管に原材料粉末を充填する際および封止する際に不純物ガスの侵入を減少して、臨界電流値を向上することができる酸化物超電導線体の原材料粉末の充填装置を提供する。
【解決手段】酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100は、粉末供給部110と、粉末充填部120と、封止部140と、気密容器160と、排気部150とを備えている。粉末供給部110は、酸化物超電導体の原材料粉末11を供給する。粉末充填部120は、原材料粉末11を、一方が開口された金属管12に充填する。封止部130は、原材料粉末11が充填された金属管12を封止する。気密容器160は、粉末供給部1120と、粉末充填部120と、封止部140とを内部に配置する。排気部150は、気密容器160の内部から雰囲気ガスを排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置に関し、たとえばBi2223超電導線材の原材料粉末を充填する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導線材は、パウダーインチューブ法により酸化物超電導体の原材料粉末から長尺なテープ状線材に形成される。この方法は、原材料粉末を金属管に充填し、単芯材を製造する。その後に、単芯材を複数本束ねて、シース部に挿入することにより多芯構造を得られる。その多芯構造の母線に伸線、圧延などの加工を施し、線材形状にした後、熱処理を施して焼結することにより、超電導性を有する酸化物超電導線材を製造できる。
【0003】
このような製造方法において、大気中で金属管に原材料粉末を充填すると、極性分子などの不純物ガスが1000ppm以上吸着される。その後、伸線や圧延などの成形プロセスでは、原材料粉末が高密度化されるので、吸着した不純物ガスにより、酸化物超電導体の結晶間に空隙を生じたり、不純物ガスと原材料粉末とが結合して酸化物超電導フィラメントの乱れを引き起こし、臨界電流値が低下するという問題があった。
【0004】
また、大気中で金属管に原材料粉末を充填すると、空気抵抗のため、充填密度を30%以上にすることができない。充填密度の低い粉末領域では空隙が多いため、伸線や圧延などの成形プロセスで粗密化が進み、酸化物超電導結晶の配向乱れを引き起こして、臨界電流値が低下するという問題があった。
【0005】
また、吸着された不純物ガスを除去するために、加熱を施すことがある。しかし、加熱時の金属管の内部と外部との差圧が大きいため、原材料粉末の充填密度が低下してしまう。原材料粉末の充填密度が低下すると、同様に臨界電流値が低下するという問題があった。
【0006】
そのため、金属管内の不純物ガスを除去することを目的として、特開2004−87488号公報(特許文献1)および特開2001−184956号公報(特許文献2)に、原材料粉末を充填した金属管の開口部を減圧した状態で封止することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−87488号公報
【特許文献2】特開2001−184956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示の方法においても、金属管に原材料粉末を充填する際に不純物ガスが吸着するので、不純物ガスの除去に改善の余地は未だある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、金属管に原材料粉末を充填する際および封止する際に不純物ガスの侵入を減少して、臨界電流値を向上することができる酸化物超電導線体の原材料粉末の充填装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置は、粉末供給部と、粉末充填部と、封止部と、気密容器と、排気部とを備えている。粉末供給部は、酸化物超電導体の原材料粉末を供給する。粉末充填部は、原材料粉末を、一方が開口された金属管に充填する。封止部は、原材料粉末が充填された金属管を封止する。気密容器は、粉末供給部と、粉末充填部と、封止部とを内部に配置する。排気部は、気密容器の内部から雰囲気ガスを排出する。
【0010】
本発明の酸化物超電導体の原材料の充填装置によれば、排気部で気密容器の内部の圧力を大気圧よりも低い圧力に調整できるので、粉末充填部で原材料粉末を金属管に充填する際に不純物ガスを減少できるとともに、封止部で不純物ガスを減少した状態で金属管を封止できる。そのため、本発明の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置により、原材料粉末が金属管に充填および封止された素線を酸化物超電導体に成形すると、不純物ガスによる酸化物超電導体の配向乱れの発生を防止できる。よって、臨界電流値を向上することができる酸化物超電導体が得られる。
【0011】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、気密容器の内部に配置され、原材料粉末が充填された金属管を加熱する加熱部をさらに備えている。
【0012】
これにより、金属管の内部に充填された原材料粉末に吸着している不純物ガスをより多く除去することができる。
【0013】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、気密容器は、主室と、主室と開閉部材を介して接続された副室とを含み、粉末供給部は、副室の内部に配置され、粉末充填部と、加熱部と、封止部とは、主室の内部に配置されている。
【0014】
これにより、原材料粉末を気密容器の外部から粉末供給部へ投入する際に気密容器全体を大気開放せずに、開閉部材を閉めることにより副室のみを大気開放することができる。また、封止部で封止された金属管(素線)を気密容器の外部に搬出する際に気密容器全体を大気開放せずに、開閉部材を閉めることにより主室のみを大気開放することができる。すなわち、必要に応じて主室および副室のいずれか一方のみを大気開放することができるため、金属管に原材料粉末を充填するスループットを向上できる。
【0015】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、気密容器の内部に配置され、粉末充填部により金属管に充填された原材料粉末の量を測定する光学式非接触測定部をさらに備えている。
【0016】
これにより、金属管の内部に原材料粉末が充填された高さを測定することができる。そのため、金属管の内部に充填された原材料粉末の充填密度を測定できる。また、測定に利用される光は、原材料粉末に接触せずに充填密度を測定できるので、充填密度を測定する際の不純物の混入を防止できる。
【0017】
なお、上記「光学式非接触測定部」とは、照射装置と、粉末充填部において金属管の開口部の上方に配置される反射鏡と、受光装置とを含み、照射装置は反射鏡に向けて光を照射し、反射鏡は照射装置により照射された光を金属管の内部に充填された原材料粉末に向けて反射させるとともに、原材料粉末から反射した光を受光装置に向けて反射させ、受光装置は反射鏡から反射される光を受光する。
【0018】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、粉末供給部は、原材料粉末を粉末充填部へ供給する量を制御する制御部を含んでいる。
【0019】
これにより、所望の原材料粉末を供給できる。また、一定量を粉末充填部へ供給することによって、金属管に充填される原材料粉末の充填密度を一定にできるので、原材料が金属管に充填された素線を酸化物超電導体に成形すると、酸化物超電導体の配向乱れの発生をより防止できる。
【0020】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、粉末供給部は、内部に収容される原材料を攪拌する攪拌部を含んでいる。
【0021】
これにより、粉末供給部に供給された原材料粉末を攪拌できる。そのため、原材料粉末を流動させることによって、原材料粉末が凝集してしまうことを防止できる。
【0022】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、粉末充填部は、原材料粉末が充填された金属管に振動を印加する振動部を含んでいる。
【0023】
これにより、金属管の内部に充填された原材料粉末において、ファンデルワールス力や液架橋付着力等による粒子同士の結合を壊すことができる。そのため、原材料粉末が凝集してしまうことを防止できる。
【0024】
上記酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置において好ましくは、封止部は、原材料粉末が充填された金属管を封止する封止部材を、局所的に加熱する溶接部を含んでいる。これにより、金属管を封止する際に、原材料粉末の変質を抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置によれば、粉末充填部および封止部が気密容器内に配置されているので、金属管に原材料粉末を充填する際および封止する際に不純物ガスの侵入を減少できる。そのため、原材料粉末を酸化物超電導体に成形すると、酸化物超電導体の臨界電流値を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態および実施例を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付してその説明は繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置を説明するための概略図である。図2は、本発明の実施の形態1における金属管に充填された原材料粉末の高さを測定する装置を示す概略図である。図1および図2を参照して、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100について説明する。
【0028】
図1に示すように、実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100は、粉末供給部110と、粉末充填部120と、加熱部130と、封止部140と、排気部150と、気密容器160と、反射鏡171と、照射および受光装置172とを備えている。
【0029】
具体的には、粉末供給部110は、たとえば供給部材111と、粉末容器112と、制御部113と、攪拌部114とを含んでいる。
【0030】
供給部材111は、酸化物超電導体の原材料粉末11を粉末充填部120に供給する。供給部材111は、原材料粉末11を粉末充填部120に供給しやすい形状であることが好ましく、たとえば原材料粉末11を投入する側である相対的に上方、および原材料粉末11を粉末充填部120へ供給する側である相対的に下方が開口しており、粉末充填部120に近づくにつれて先細りの形状(テーパ状)であって、内部に空間を有する筒状とすることができる。
【0031】
粉末容器112は、原材料粉末を内部に充填しておき、必要に応じて供給部材111に原材料粉末11を投入する。粉末容器112は、たとえば外部から振動が印加されることにより、供給部材111に原材料粉末11を供給する。
【0032】
制御部113は、原材料粉末11を粉末充填部120へ供給する量を制御する。たとえば、制御部113は、供給部材111内に収容される原材料粉末11の重量の減少量をモニタリングして、減少量に応じて粉末容器112から供給部材111への供給量を変化させる。粉末容器112が振動により供給部材111に原材料粉末11を供給する場合には、制御部113は、モニタリングしている減少量に応じて粉末容器112へ印加する振動数を変化させる。
【0033】
攪拌部114は、供給部材111の内部に収容される原材料粉末11を攪拌する。攪拌部114は、図1に示すように、供給部材111の内部に配置される羽状のものに特に限定されず、たとえば供給部材111の外部に棒状の部材を配置し、該棒状の部材により原材料粉末11を攪拌してもよい。
【0034】
粉末充填部120は、たとえばロボットアーム121と、充填部材122と、振動部123,124とを含んでいる。
【0035】
ロボットアーム121は、金属管12を保持する部材である。ロボットアーム121は、金属管12の延びる方向(図1において上下方向)に金属管12を移動できることが好ましく、金属管12を任意の方向に移動できることがより好ましい。ロボットアーム121が移動可能な場合には、金属管12を移動させる距離は可変であることが好ましい。ロボットアーム121が金属管12を移動可能な場合には、金属管12を振動部123,124へ移動することができるとともに、ロボットアーム121によっても金属管12内部の原材料粉末を振動させて、ファンデルワールス力や液架橋付着力などよる原材料粉末11の粒子の結合を破壊できる。
【0036】
充填部材122は、原材料粉末11を金属管12に充填しやすい形状であることが好ましく、たとえば粉末供給部110から原材料粉末を受け取る側である相対的に上方、および原材料粉末11を金属管12へ充填する側である相対的に下方が開口しており、金属管12に近づくにつれて先細りの形状(テーパ状)であって、内部に空間を有する筒状とすることができる。
【0037】
振動部123,124は、原材料粉末11が充填された金属管12に振動を印加する。振動部123は、たとえば図1に示すように、金属管支持台125下に配置されたユーラスモータである。振動部123は、発生させる振動周波数を任意に可変できる。また、振動部124は、たとえばパイプタッピング機構を有している。すなわち、振動部123は、金属管12に微振動を与え、振動部124は、金属管12に大きな振動を与えることができる。そのため、金属管12内部の原材料粉末11の凝集の程度に応じて種々の要因で結合している原材料粉末11の結合を切断するために、振動部123,124の少なくともいずれか一方を作動させることができる。
【0038】
加熱部130は、原材料粉末11が充填された金属管12を加熱する。加熱部130は、たとえばそれぞれ独立して金属管12を加熱することのできる複数のヒータであることが好ましい。
【0039】
また、加熱部130は、金属管12を100℃以上900℃以下に加熱できる能力を有していることが好ましく、100℃以上800℃以下に加熱できる能力を有していることがより好ましく、500℃以上800℃以下に加熱できる能力を有していることがより一層好ましい。100℃以上の場合には、金属管12に充填された原材料粉末11に吸着した不純物ガスを除去しやすい。500℃以上の場合には、原材料粉末11に吸着した不純物ガスをより除去しやすい。一方、900℃以下の場合には、原材料粉末11が溶解しない。800℃以下の場合には、原材料粉末11が溶解しにくい。
【0040】
封止部140は、たとえば溶接部141と、載置台142と、封止部材押え部143とを含んでいる。
【0041】
溶接部141は、原材料粉末11が充填された金属管12を封止する封止部材13を、局所的に加熱する。溶接部141により、封止部材13で、金属管12の端部の開口部を封止できる。また、局所的に加熱することによって、原材料粉末11の変質を抑制できる。
【0042】
また、溶接部141は、たとえば電子ビーム溶接や誘導加熱方式が挙げられる。なお、誘導加熱方式とは、交流電源(図示せず)に接続されたコイルから誘導される金属管12表面近傍の高密度の渦電流で金属管12を自己発熱させる方式をいう。誘導加熱方式とすることによって、金属管12の単位面積に供給される単位時間当たりの熱エネルギーが大きい上に、金属管12自身を加熱するので熱損失が小さい(加熱効率が良好である)。
【0043】
載置台142は、1以上の封止部材13を載置させるための部材である。載置台142に封止部材13を複数載置できれば、金属管12を封止する毎に封止部材13を気密容器160内に搬入する必要がない。また、気密容器160内に金属管12を複数配置できれば、金属管12の封止を連続して行なうことができる。
【0044】
封止部材押え部143は、金属管12の開口部上に配置された封止部材13に圧力を印加するための部材である。これにより、封止部材13を金属管12の開口部にしっかりと嵌合させることができる。
【0045】
図1および図2に示すように、反射鏡171は、粉末充填部120において金属管12の開口部の上方に配置され、照射装置172aから照射された光を内部に充填された原材料粉末11に向けて反射させるとともに、反射された光を受光装置172bに向けて反射させる。
【0046】
照射および受光装置172は、粉末充填部120により金属管12に充填された原材料粉末11の量を測定する光学式非接触測定部である。照射および受光装置172は、照射装置172aと受光装置172bとを含んでいる。照射装置172aは、反射鏡171に光を照射する。受光装置172bは、反射鏡171から反射される光を受光する。照射装置172aと受光装置172bとは、1の装置であってもよいし、異なる装置であってもよい。照射および受光装置172は、たとえばレーザ距離計などを適用することができる。
【0047】
図2に示すように、反射鏡171、照射装置172a、および受光装置172bを用いて、たとえば照射された光が反射光となって戻ってくるまでの時間を測定することによって金属管12内部に充填された原材料粉末11の最上部までの高さHを測定できる。
【0048】
なお、非接触式測定方法である光を用いて測定することが好ましいが、特にこれに限定されず、たとえば分銅を吊り下げてその張力変化を利用する接触式の方法を適用してもよい。
【0049】
排気部150は、気密容器160の内部から雰囲気ガスを排出する。排気部150は、気密容器160の内部を1000Pa以下、より好ましくは0.001Pa以上900Pa以下、より一層好ましくは1Pa以上300Pa以下の圧力に調整できる能力を有していることが好ましい。1000Pa以下の圧力にすることによって、粉末充填部120および封止部140により金属管12に充填する際、および原材料粉末11が充填された金属管12を封止部材13で封止する際に、不純物の混入を防止できる。900Pa以下とすることによって、不純物の混入をより防止できる。300Pa以下の圧力とすることによって、不純物の混入をより一層防止できる。一方、0.001Pa以上とすることによって、気密容器160内部の圧力を調整しやすい。1Pa以上とすることによって、気密容器160内部の圧力をより調整しやすい。
【0050】
気密容器160は、内部を所定の圧力に保持できる容器である。気密容器160は、主室161と、主室161と開閉部材163を介して接続された副室162とを含んでいる。この場合には、主室161に排気部150が接続されていることが好ましく、主室161および副室162に排気部150が配置されていることがより好ましい。なお、気密容器160は、特にこれに限定されず、たとえば主室161と副室162とに分離していなくてもよい。
【0051】
主室161は、粉末充填部120と、加熱部130と、封止部140と、反射鏡171と、照射および受光装置172とを内部に配置している。副室162は、粉末供給部110を内部に配置している。
【0052】
主室161は、複数の金属管12を内部に収容できる容積であることが好ましく、たとえば3本以上10本以下の金属管12をバッチ処理できる容積であることが好ましい。主室161を2本以上の金属管12を収容できる容積とすることによって、1本毎に金属管12を主室161から取り出す必要がないため、量産性に優れる。主室161を3本以上の金属管12を収容できる容積とすることによって、量産性により優れる。主室161を10本以下の金属管12を収容できる容積とすることによって、気密容器160が大きくなりすぎない。
【0053】
主室161は、副室162の容積よりも大きく、好ましくは副室162の2倍以上3倍以下の容積である。副室162の容積を小さくすることによって、副室162の内部の圧力を下げる場合および大気開放する場合に、時間およびコストの面で有利である。
【0054】
開閉部材163は、主室161と副室162とを分離する部材である。開閉部材163は、たとえばゲート弁などを用いることができる。
【0055】
なお、酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100では、さらに他の部材を備えていてもよい。たとえば、気密容器160内部に酸素ガスを供給するためのガス供給部180や、粉末充填部120、加熱部130、および封止部140間を移動させるためのローダー(図示せず)や、原材料粉末11、金属管12、封止された金属管(素線10)などを外部から搬入または外部に搬出するための部材(図示せず)などが挙げられる。
【0056】
酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100がガス供給部180を備えている場合には、ガス供給部180は、たとえば酸素ガスを1ml/分以上100ml/分の範囲の流量で気密容器160の内部に供給することができる。この場合、気密容器160内部の酸素分圧が1Pa以上100Pa以下、より好ましくは8Pa以上100Pa以下の雰囲気となるように供給することが好ましい。酸素分圧を1Pa以上とすることによって、金属管12の内部に酸素が含まれるので、後述する(実施の形態2)熱処理を実施することによって、原材料粉末11から酸化物超電導体への反応を促進できる。8Pa以上とすることによって、原材料粉末11から酸化物超電導体への反応をより促進できる。一方、100Pa以下とすることによって、金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度を低下させないため好ましい。
【0057】
また、酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100がローダーを備えている場合には、ローダーは、たとえばつかみチャック付ローダーなどを用いることができる。ローダーは、金属管12を粉末充填部120、加熱部130、および封止部140の各位置に搬送する。ローターに粉末充填部120、加熱部130、および封止部140の横位置および縦位置の2次元座標をエンコーダーのパルス数で記憶させて、自動的に金属管12を搬送できることが好ましい。
【0058】
次に、図1〜3を参照して、実施の形態における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100の動作について説明する。実施の形態1では、酸化物超電導体としてたとえばBi2223を例に挙げて説明する。なお、図3は、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100の動作を示すフローチャートである。
【0059】
まず、酸化物超電導体の原材料粉末を準備する粉末準備工程(S1)を実施する。粉末準備工程(S1)で準備される原材料粉末11は、粉末供給部110に配置される。
【0060】
準備される原材料粉末11は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成の酸化物超電導体の原材料粉末が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi−2223相を含む酸化物超電導体の原材料粉末が最適である。
【0061】
粉末準備工程(S1)で、酸化物超電導体として、たとえばBi2223超電導体の原材料粉末11を準備する場合には、Bi−2212相((BiPb)2Sr2Ca1Cu2ZまたはBi2Sr2Ca1Cu2Z)を主相とし、残部がBi−2223相((BiPb)2Sr2Ca2Cu3Z相)および非超電導相である原材料粉末11を準備する。なお、主相とは、原材料粉末11においてBi−2212相が60%以上含まれていることを意味する。
【0062】
Bi2223超電導体の原材料粉末11を準備する場合には、原材料粉末11としてBi、Pb、Sr、CaおよびCuを用い、たとえばBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.4:1.9:2.0:3.0の組成比になるように原料粉末を混合する。これに700℃〜860℃程度の熱処理を複数回施し、多量のBi−2212相、少量のBi−2223相、および非超電導相から構成される原材料粉末11を準備する。
【0063】
また、粉末準備工程(S1)では、必要に応じて原材料粉末11を、400℃以上800℃以下で熱処理して、原材料粉末11に含有されるガスや水分などを除去することが好ましい。たとえば、噴霧した液滴を加熱炉内に導入し、溶媒の蒸発および、化学反応により微粒子を核生成・成長させた後、焼結して組織と形状を整える噴霧熱分解法(Spray Pyrolysis法)を用いることが好ましい。
【0064】
粉末準備工程(S1)で準備される原材料粉末11は、最大粒径が10μm以下であることが好ましく、平均粒径が2μm以下であることがより好ましい。これにより、後述する充填工程(S20)で、原材料粉末11を金属管12により高密度に充填できる。
【0065】
まず、酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100を準備する装置準備工程(S10)を実施する。具体的には、排気部150により、気密容器160の内部から雰囲気ガスを排出して、気密容器160の内部の圧力を1000Pa以下以下にする。気密容器160の内部の圧力は、1Pa以上100Pa以下が好ましく、8Pa以上100Pa以下がより好ましい。なお、気密容器160が主室161と副室162と開閉部材163とを含んでいる場合には、開閉部材163を開けておく。そして、主室161と副室162との内部の圧力を上記範囲の初力とする。
【0066】
そして、粉末準備工程(S1)で準備される原材料粉末11を、たとえば粉末容器112に投入する。そして、制御部113により所定量の原材料粉末11が供給部材111に投入される。そして、必要に応じて、供給部材111の内部の原材料粉末11を、攪拌部114で攪拌する。
【0067】
次に、図1および図4に示すように、1000Pa以下の圧力で金属管12に原材料粉末11を充填する充填工程(S20)を実施する。充填工程(S20)では、図1に示すように、粉末充填部120で、原材料粉末11の自重を利用して、原材料粉末11を金属管12に充填する。
【0068】
具体的には、充填工程(S20)では、ロボットアーム121に金属管12を保持させる。そして、充填部材122を介して、金属管12に原材料粉末11を充填する。その際、必要に応じて、振動部123,124により金属管12に振動を印加して、金属管12内部の原材料粉末11の凝集を抑制する。
【0069】
また、金属管12は、一方が開口されていれば特に限定されないが、Ag(銀)、Cu(銅)、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、およびOs(オスミウム)より選択される金属またはこれらの金属をベースとする合金からなることが好ましい。加工性が良いこと、酸化物超電導体との反応性が低いこと、およびクエンチ現象による発熱を速やかに取り去ることができる観点から、金属管12としては熱伝導率の高い銀や銀合金などを用いることが好ましい。
【0070】
充填工程(S20)で金属管12に原材料粉末11を充填する時の圧力は、1000Pa以下であり、0.001Pa以上900Pa以下が好ましく、1Pa以上300Pa以下がより好ましい。気密容器160(または主室161と副室162)の内部がこの範囲内の圧力になるように、排気部150を作動させる。1000Paを超える圧力で原材料粉末11を充填すると、原材料粉末11にたとえば水蒸気、炭素、炭化水素などの不純物ガスが吸着しやすくなる。900Pa以下の圧力とすることによって、原材料粉末11への不純物ガスの吸着をより防止できる。300Pa以下の圧力とすることによって、原材料粉末11への不純物ガスの吸着をより一層防止できる。一方、設備性能の観点から、0.001Pa以上とすることが好ましい。1Pa以上とすることによって、気密容器160の内部の圧力をより調整しやすい。
【0071】
充填工程(S20)では、酸素を含む雰囲気下で行なうことが好ましく、具体的には、酸素分圧を1Pa以上100Pa以下、好ましくは8Pa以上100Pa以下で行なう。この範囲内の圧力になるように、ガス供給部180から気密容器160(または主室161)の内部に酸素を供給する。酸素分圧を1Pa以上とすることによって、金属管12の内部に酸素が含まれるので、後述する(実施の形態2)熱処理を実施することにより原材料粉末11を酸化物超電導体へ反応させることを促進する。たとえば粉末準備工程(S1)でBi−2212相を含む原材料粉末11を準備する場合には、原材料粉末11のBi−2212相をBi−2223相へ反応させることを促進できる。8Pa以上とすることによって、原材料粉末11を酸化物超電導体への反応をより促進できる。一方、100Pa以下とすることによって、金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度を低下させない。
【0072】
充填工程(S20)後の金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度は、30%以上50%以下であることが好ましく、33%以上40%以下であることがより好ましい。粉末充填部120で1000Pa以下の圧力雰囲気下で金属管12に原材料粉末11を充填することによって、空気抵抗を減少できるので、原材料粉末11の自重のみを利用して、上記範囲内の充填密度で原材料粉末11を金属管12に充填できる。充填密度を30%以上とすることによって、後述する(実施の形態2)伸線や圧延などの成形プロセスにおいて、酸化物超電導体の密度を向上できるので、成形プロセスで得られる酸化物超電導体の臨界電流値をより向上できる。たとえば粉末準備工程(S1)でBi−2212相を含む原材料粉末を準備する場合には、Bi−2223相を主相とする酸化物超電導体の密度を向上できる。充填密度を33%以上とすることによって、酸化物超電導体の密度をより向上できる。一方、充填密度を50%以下とすることによって、金属管12の内部の通気性が良好であり、後述する加熱工程(S30)で均一に加熱できるので、内部の不純物ガスを均一に除去できる。充填密度を40%以下とすることによって、加熱工程(S30)で不純物ガスをより均一に除去できる。
【0073】
なお、上記「充填密度」とは、{(充填される原材料粉末11の重量÷原材料粉末11が充填されている部分の体積)÷理論密度}×100の式で示される値(%)を意味する。理論密度とは、原材料粉末11が単結晶のように隙間なく詰まった状態の密度を意味する。
【0074】
充填密度の測定は、まず、図2に示すように、反射鏡171、照射装置172a、および受光装置172bを用いて、金属管12内部に充填された原材料粉末11の高さHを測定する。そして、金属管12の底面積より原材料粉末11が充填されている部分の体積を算出できる。
【0075】
充填工程(S20)によって、1000Pa以下の圧力で金属管12に原材料粉末11を充填すると、原材料粉末11が充填された金属管12の内部の不純物濃度は1000ppm以下となる。
【0076】
次に、図1および図4に示すように、原材料粉末11が充填された金属管12を1000Pa以下の圧力で、100℃以上800℃以下の温度で加熱を行なう加熱工程(S30)を実施する。加熱工程(S30)は、図4に示すように、加熱部130により、原材料粉末11が充填された金属管12を加熱する。周囲を加熱部130に囲まれるように配置するために、原材料粉末11が充填された金属管12をたとえばローダー(図示せず)などにより移動する。なお、加熱工程(S30)は、省略されてもよい。
【0077】
加熱工程(S30)で原材料粉末11が充填された金属管12を充填する時の圧力は、1000Pa以下であり、0.001Pa以上900Pa以下が好ましく、1Pa以上300Pa以下がより好ましい。気密容器160(または主室161と副室162)の内部がこの範囲内の圧力になるように、排気部150を作動させる。なお、粉末充填部120および加熱部130は、気密容器160内部に配置されているので、充填工程(S20)と加熱工程(S30)とは、基本的には同一の圧力下で実施される。
【0078】
加熱工程(S30)を1000Pa以下の圧力で実施すると、原材料粉末11に吸着した不純物ガスを除去しやすい。900Pa以下とすることによって、原材料粉末11へ吸着した不純物ガスをより除去しやすい。300Pa以下とすることによって、原材料粉末11へ吸着した不純物ガスをより一層除去できる。一方、設備性能の観点から、0.001Pa以上とすることが好ましい。1Pa以上とすることによって、気密容器160の内部の圧力をより調整しやすい。
【0079】
加熱工程(S30)で原材料粉末11が充填された金属管12を充填する時の温度は、100℃以上900℃以下であり、100℃以上800℃以下が好ましく、500℃以上800℃以下がより好ましい。100℃以上とすることによって、充填工程(S20)で金属管12に充填された原材料粉末11に吸着した不純物ガスを除去しやすい。500℃以上とすることによって、原材料粉末11に吸着した不純物ガスをより除去しやすい。900℃以下とすることによって、原材料粉末11が溶解しない。800℃以下とすることによって、原材料粉末11がより溶解し難くなる。
【0080】
また、加熱工程(S30)後の金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度は、充填工程(S20)後の金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度と同様であり、30%以上50%以下であることが好ましい。
【0081】
加熱工程(S30)によって、原材料粉末11が充填された金属管12を1000Pa以下の圧力で、100℃以上800℃以下の温度で加熱を行なうと、原材料粉末11が充填された金属管12の内部の不純物濃度は10ppm以下となる。
【0082】
次に、図1および図3に示すように、1000Pa以下の圧力で原材料粉末11が充填された金属管12を封止する封止工程(S40)を実施する。封止工程(S40)では、図1に示すように、金属管12の端部の開口部を封止部材13で封止する。
【0083】
封止工程(S40)で金属管12に原材料粉末11を充填する時の圧力は、1000Pa以下であり、0.001Pa以上900Pa以下が好ましく、1Pa以上300Pa以下がより好ましい。気密容器160(または主室161と副室162)の内部がこの範囲内の圧力になるように、排気部150を作動させる。なお、粉末充填部120、加熱部130、および封止部140は、気密容器160内部に配置されているので、充填工程(S20)、加熱工程(S30)、および封止部(S40)は、基本的には同一の圧力下で実施される。
【0084】
封止工程(S40)を1000Paを超える圧力で実施すると、封止する際に金属管12内部に不純物ガスが混入しやすくなる。900Pa以下とすることによって、金属管12内部への不純物ガスの混入をより防止できる。30Pa以下とすることによって、金属管12内部への不純物ガスの混入をより一層防止できる。一方、設備性能の観点から、0.001Pa以上とすることが好ましい。1Pa以上とすることによって、気密容器160の内部の圧力をより調整しやすい。
【0085】
封止工程(S40)では、充填工程(S20)と同様に、酸素を含む雰囲気下で行なうことが好ましく、具体的には、酸素分圧を1Pa以上100Pa以下で行なうことが好ましい。
【0086】
封止工程(S40)で金属管12に原材料粉末11を充填する時の温度は、100℃以上800℃以下が好ましい。100℃以上とすることによって、封止部材13で封止する際に原材料粉末11への不純物ガスの吸着をより防止できる。800℃以下とすることによって、原材料粉末11が溶解しない。
【0087】
また、封止工程(S40)後の金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度は、充填工程(S20)後の金属管12に充填された原材料粉末11の充填密度と同様であり、30%以上50%以下であることが好ましい。
【0088】
封止工程(S40)では、原材料粉末11が充填された金属管12を封止する方法は特に限定されない。封止する方法は、金属管12を封止した状態で伸線加工を行なう観点から、伸線加工に耐えることができるとともに、真空封入に適用可能な接合方法が好ましい。封止する方法は、図1に示す溶接部141による誘導加熱方式や電子ビーム溶接の他、ロウ付け、金属管12に溶接した排気ノズルの圧着のなどの方法を用いることができる。
【0089】
具体的には、載置台142上に配置される封止部材13を金属管12の開口部上に配置する。そして、封止部材押え部143で封止部材13に圧力を印加する。そして、溶接部141で金属管12の開口部を封止部材13で封止する。
【0090】
なお、封止部材13は特に限定されないが、金属管12と同じ材料からなり、金属管12の開口部に嵌合できる形状のものを用いることが好ましい。
【0091】
以上の工程(S10〜S40)を実施することによって、原材料粉末11と、原材料粉末11を内部に充填した金属管12と、金属管12内に空気などが侵入しないための封止部材13とを備える素線10を製造できる。
【0092】
以上説明したように、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原料粉末の充填装置100によれば、排気部150で雰囲気ガスを排出して大気圧よりも低い圧力にできる気密容器160内に、粉末供給部110と、粉末充填部120と、封止部140とが配置されている。これにより、粉末充填部120で原材料粉末11を金属管12に充填する際に不純物ガスを減少できるとともに、封止部140で不純物ガスを減少した状態で金属管12を封止できる。そのため、酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100により原材料粉末11が金属管12に充填された素線10を酸化物超電導体に成形すると、不純物ガスによる酸化物超電導体の配向乱れの発生を防止できる。よって、臨界電流値を向上することができる酸化物超電導体が得られる。
【0093】
なお、排気部150により気密容器160内部から雰囲気ガスを排出して圧力を1000Pa以下にできることが、金属管12内への不純物混入を効果的に防止できる観点から、特に好ましい。
【0094】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100により、原材料粉末11と、原材料粉末11が充填された金属管12と、金属管12を封止した封止部材13とを備える素線を用いて、酸化物超電導線材の製造方法について説明する。
【0095】
図4は、本発明の実施の形態2における酸化物超電導線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。図4を参照して、たとえば、多芯線の酸化物超電導線材について説明する。酸化物超電導線材20は、長手方向に伸びる複数本の酸化物超電導体21(フィラメント)と、それらを被覆するシース部22とを有している。複数本の酸化物超電導体21の各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に、Bi2223相を含む材質が最適である。シース部22の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっている。
【0096】
なお、上記においては多芯線について説明したが、1本の酸化物超電導体21がシース部22により被覆される単芯線構造の酸化物超電導線材が用いられてもよい。
【0097】
次に、上記の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。まず、実施の形態1の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置100を用いて原材料粉末11が充填された金属管12(素線10)を伸線加工して、原材料粉末11を芯材として銀などの金属で被覆された単芯線を作製する。次に、この単芯線を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる金属管内に嵌合する。これにより、原材料粉末11を芯材として多数有する多芯構造の線材が得られる。
【0098】
次に、所望の直径にまで多芯構造の線材を伸線加工し、原材料粉末11がたとえば銀などのシース部22に埋め込まれた多芯線を作製する。これにより、酸化物超電導線材20の原材料粉末11を金属で被覆した形態を有する長尺の多芯線の線材が得られる。
【0099】
次に、この多芯線の線材を圧延することによって、テープ状の線材にする。この圧延によって、原材料粉末11の密度がさらに高められる。
【0100】
上記テープ状の線材は、充填密度が高く、かつ不純物ガスの濃度が低減された素線10を用いているので、上記の伸線や圧延などの成形プロセスにおいて粗密が起こらず、酸化物超電導結晶の配向乱れを引き起こさない
次に、このテープ状の線材をたとえば大気圧で、400℃以上900℃以下の温度で、熱処理する。原材料粉末11がBi2223超電導線材の原材料粉末である場合には、熱処理することによって、原材料粉末11のBi−2212相が結晶成長し、Bi−2223相よりなる超電導結晶を主相とする酸化物超電導体21となる。熱処理によって原材料粉末11のBi−2212相がBi−2223相に変わりきらないため、酸化物超電導体21は、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の元素比がほぼ2:2:1:2よりなるBi−2212相よりなる超電導結晶を含む場合もある。なお、熱処理および圧延をテープ状の線材に複数回施してもよい。
【0101】
以上の製造工程を実施することにより、図4に示すように、Bi2223超電導線材などの酸化物超電導線材20が得られる。酸化物超電導線材20は、金属管12に侵入する不純物ガス濃度を低減できる素線10により製造されているので、酸化物超電導線材20の結晶配向性は向上し、臨界電流値を向上することができる。
【0102】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
(実施例1〜15)
本発明の実施例1〜15では、本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置を用いて金属管に原材料粉末を充填して素線を製造し、実施の形態2における酸化物超電導線材の製造方法に従って得られた素線から酸化物超電導線材として、Bi2223超電導線材を製造した。
【0104】
具体的には、実施例4、5、11〜15では図1に示す加熱部を備えている酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置を用い、実施例1〜3、6〜10では加熱部を備えていない(図1において加熱部を備えていない)酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置を用いた。すなわち、実施例4、5、11〜15では充填工程(S20)、加熱工程(S30)、および封止工程(S40)を実施し、実施例1〜3、6〜10では充填工程(S20)および封止工程(S40)を実施し加熱工程(S30)は実施しなかった。
【0105】
詳細には、まず、Bi−2212、Ca2PbO4、Ca2CuO3、(Ca,Sr)14Cu2441からなる原材料粉末を準備した(粉末準備工程(S1))。そして、粉末供給部に準備した原材料粉末を供給した。
【0106】
次に、開閉部材を開にして、気密容器内(主室および副室)の圧力を下記の表1に記載の圧力になるように、排気部で気密容器の内部から雰囲気ガスを排出した(装置準備工程(S10))。なお、下記の表1中、全体圧力は、気密容器内の圧力(全圧:Pa)を意味する。また、表1中、酸素圧力は、気密容器内の酸素分圧を意味する。なお、酸素圧力(Pa)は、気密容器内の酸素濃度を濃度計で測定し、全圧×濃度により算出した。
【0107】
次に、表1に記載の圧力でAgからなる金属管にBi−2212、Ca2PbO4、Ca2CuO3、(Ca,Sr)14Cu2441からなる原材料粉末を充填した(充填工程(S20))。
【0108】
次に、実施例4、5、11〜15は、加熱部で、原材料粉末が充填された金属管を、その外部から表1に記載の温度で加熱した(加熱工程(S30))。
【0109】
次に、原材料粉末が充填された金属管をAgからなる封止部材により誘導加熱方式の溶接部を用いて封止した(封止工程(S40))。
【0110】
次に、原材料粉末を内部に充填した金属管(素線)を伸線加工して、単芯線を作製した。次に、この単芯線を多数束ねて、Agからなる金属管内に嵌合して多芯構造の線材を得た。次に、多芯構造の線材を伸線加工し、圧延して、テープ状の線材にした。次に、840℃、50時間、酸素濃度8%の条件で熱処理を行なった。
【0111】
以上の工程を実施することによって、実施例1〜15におけるBi2223超電導線材を得た。
【0112】
【表1】

【0113】
(評価方法)
実施例1〜15の製造されたBi2223超電導線材について、以下の方法で充填密度、配向ずれ角、および臨界電流値を測定した。なお、これらの結果を表1に示す。
【0114】
充填密度は、充填工程後に、金属管の開口部の上方から照射装置によりレーザを照射して、反射鏡によりレーザを反射させて、反射光を受光装置で受光することによって、金属管において原材料粉末が充填された高さを測定した。そして、測定された高さと金属管の底面積より原材料粉末が充填されている部分の体積を算出した。また、金属管に充填した原材料粉末の重量を測定した。そして、原材料粉末の材料の理論密度が6.3g/cm3であること、測定した高さおよび原材料粉末の重量から、{(充填される原材料粉末の重量÷原材料粉末が充填されている部分の体積)÷理論密度}×100の式により算出した。
【0115】
配向ずれ角は、製造された実施例1〜15におけるBi2223超電導線材の酸化物超電導体において、Bi−2223相よりなる超電導結晶のXRDロッキングカーブで測定された(0.0.24)ピークのFWHMを測定した。なお、FWHMは、Bi−2223相からなる超電導結晶のa−b面方向が、Bi2223超電導線材の延びる方向(Bi2223超電導線材に電流が流れる方向)に対する傾角を反映する値であり、超電導結晶の配向性を示す指標となる。FWHMの値が小さいほど各超電導結晶のa−b面が良好に配向していることを示す。
【0116】
臨界電流値は、製造された実施例1〜15のBi2223超電導線材について、温度が77Kで、自己磁場中において、臨界電流値を測定した。臨界電流値は、10-6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。
【0117】
(測定結果)
表1に示すように、実施例1〜15のBi2223超電導線材は、排気部により気密容器内を1000Pa以下の圧力にして、粉末充填部で金属管に原材料粉末を充填したので、充填密度を30%以上50%以下にできた。そのため、実施例1〜15のBi2223超電導線材のBi2223結晶配向ずれ角は、9.0°以下の小さな値であった。また、実施例1〜15のBi2223超電導線材の臨界電流値は、142.0A以上の大きな値であった。
【0118】
特に、ガス供給部により気密容器内に酸素分圧を1Pa以上100Pa以下になるように酸素を供給して充填工程、加熱工程、および封止工程を実施した実施例12のBi2223超電導線材は、配向ずれ角および臨界電流値を大きく向上できた。
【0119】
以上に開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態および実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置により原材料粉末が充填された金属管を用いて製造される酸化物超電導体は、金属管に原材料を充填する際および封止する際に不純物ガスを減少できるので、臨界電流値を向上できる。そのため、このようなBi2223超電導線材などの酸化物超電導体は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、および電力貯蔵装置などの超電導機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置を説明するための概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1における金属管に充填された原材料粉末の高さを測定する装置を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1における酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2における酸化物超電導線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。
【符号の説明】
【0122】
10 素線、11 原材料粉末、12 金属管、12a 開口部、13 封止部材、20 酸化物超電導線材、21 酸化物超電導体、22 シース部、100 酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置、110 粉末供給部、111 供給部材、112 粉末容器、113 制御部、114 攪拌部、120 粉末充填部、121 ロボットアーム、122 充填部材、123,124 振動部、125 金属管支持台、130 加熱部、140 封止部、141 溶接部、142 載置台、143 封止部材押え部、150 排気部、160 気密容器、161 主室、162 副室、163 開閉部材、171 反射鏡、172 照射および受光装置、172a 照射装置、172b 受光装置、180 ガス供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体の原材料粉末を供給する粉末供給部と、
前記原材料粉末を、一方が開口された金属管に充填する粉末充填部と、
前記原材料粉末が充填された前記金属管を封止する封止部と、
前記粉末供給部と、前記粉末充填部と、前記封止部とを内部に配置する気密容器と、
前記気密容器の内部から雰囲気ガスを排出する排気部とを備える、酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置。
【請求項2】
前記気密容器の内部に配置され、前記原材料粉末が充填された前記金属管を加熱する加熱部をさらに備える、請求項1に記載の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置。
【請求項3】
前記気密容器は、主室と、前記主室と開閉部材を介して接続された副室とを含み、
前記粉末供給部は、前記副室の内部に配置され、
前記粉末充填部と、前記加熱部と、前記封止部とは、前記主室の内部に配置される、請求項2に記載の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置。
【請求項4】
前記気密容器の内部に配置され、前記粉末充填部により前記金属管に充填された前記原材料粉末の量を測定する光学式非接触測定部をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導体の原料粉末の充填装置。
【請求項5】
前記粉末供給部は、前記原材料粉末を前記粉末充填部へ供給する量を制御する制御部を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置。
【請求項6】
前記粉末供給部は、内部に収容される前記原材料を攪拌する攪拌部を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物超電導体の原材料粉末の充填装置。
【請求項7】
前記粉末充填部は、前記原材料粉末が充填された前記金属管に振動を印加する振動部を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の酸化物超電導体の原料粉末の充填装置。
【請求項8】
前記封止部は、前記原材料粉末が充填された前記金属管を封止する封止部材を、局所的に加熱する溶接部を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の酸化物超電導体の原料粉末の充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−192499(P2008−192499A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26785(P2007−26785)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】