説明

酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材

【課題】全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材を提供する。
【解決手段】酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導材料の前駆体粉末が金属で被覆された形態の線材が伸線される1次伸線加工工程と、1次伸線加工工程において伸線された当該線材が複数本束ねられることにより多芯化される多芯化工程とを備えている。多芯化工程は、複数の上記線材が金属管内に挿入される挿入工程と、線材が挿入された金属管が密封される密封工程とを含んでいる。そして、密封工程では、圧力10Pa以下、温度80℃以上250℃以下の条件下で、線材が挿入された金属管が封止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材に関し、より特定的には、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、たとえばBi2223相などを含む酸化物超電導体を金属被覆した多芯線からなる超電導線材は、液体窒素温度での使用が可能であるとともに、比較的高い臨界電流密度が得られること、長尺化が比較的容易であること等の利点を有していることから、超電導ケーブルやマグネットへの応用が期待されている。
【0003】
このような超電導線材は、たとえば次のように製造される。まず、超電導体の原料粉末を金属管に充填する。次に、当該金属管を伸線加工することにより、クラッド線材を作製する。さらに、複数のクラッド線材を束ねて金属管内に挿入し、伸線加工して多芯線材とする。そして、当該多芯線材に対して圧延と熱処理とを繰り返して実施することにより、超電導相が線材の超電導フィラメント部分に配向して生成し、テープ状の超電導線材が得られる。
【0004】
上記超電導線材の製造方法においては、原料粉末が充填された金属管内にガスや水分などが残留し、当該ガス等に起因して、最終的に得られる超電導線材の超電導相を構成する結晶間に空隙が生じる等の問題があった。
【0005】
これに対し、金属管に原料粉末が充填された後、芯線加工が行なわれる前に、当該金属管を加熱、あるいは金属管内を減圧して、金属管内のガス等を除去する対策が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−87488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の対策を行なった場合でも、酸化物超電導線材の端部において、臨界電流が低下する場合があった。その結果、酸化物超電導線材の製造において、歩留まりが低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従った酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導材料の前駆体粉末が金属で被覆された形態の線材が伸線される伸線工程と、伸線工程において伸線された当該線材が複数本束ねられることにより多芯化される多芯化工程とを備えている。多芯化工程は、複数の線材が金属管内に挿入される挿入工程と、線材が挿入された金属管が密封される密封工程とを含んでいる。そして、密封工程では、圧力10Pa以下、温度80℃以上250℃以下の条件下で、線材が挿入された金属管が封止される。
【0009】
本発明者は、酸化物超電導線材の製造工程において、上述のように、原料粉末が充填された金属管を加熱、あるいは金属管内を減圧して金属管内のガス等を除去する対策を実施した場合でも、酸化物超電導線材の端部において、臨界電流が低下する原因について詳細な調査を行なった。その結果、以下のような知見を得た。すなわち、クラッド線材が作製される際、原料粉末が充填された金属管が加熱、あるいは金属管内が減圧された場合でも、その後、複数のクラッド線材が束ねられて金属管内に挿入され、伸線加工されて多芯線材が作製される際、クラッド線材の端部からガス(たとえば二酸化炭素)や水分などが侵入する。そして、当該ガスや水分は、その後の熱処理工程において、多芯線材の内部で膨張する。その結果、製造される酸化物超電導線材の端部において、超電導相を構成する結晶間の結合が不十分となり、臨界電流が低下する。
【0010】
これに対し、本発明の酸化物超電導線材の製造方法では、酸化物超電導材料の原料(前駆体粉末)を含む線材が複数本束ねられることにより多芯化される多芯化工程において、複数の線材が金属管内に挿入されたうえで、当該金属管が減圧下で加熱されつつ封止される。これにより、複数の線材が金属管内に挿入された金属管は、多芯化工程において、酸化物超電導材料の原料を含む線材の端部に侵入するガスや水分などが低減されたうえで封止(密封)される。そのため、ガスや水分などの侵入に起因した、酸化物超電導線材の端部における臨界電流の低下を抑制することができる。その結果、本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材を製造することができる。
【0011】
ここで、多芯化工程の密封工程において、圧力が10Paを超える状態で封止を行なった場合、酸化物超電導材料の原料を含む線材の内部にガスや水分などが残存し、製造される酸化物超電導線材の臨界電流が低下するおそれがある。そのため、密封工程における圧力は、10Pa以下であることが好ましい。また、密封工程において、温度が80℃未満の状態で封止を行なった場合も、酸化物超電導材料の原料を含む線材の内部にガスや水分などが残存し、製造される酸化物超電導線材の臨界電流が低下するおそれがある。そのため、密封工程における温度は、80℃以上であることが好ましい。なお、線材内部のガスや水分の残存を一層抑制するためには、密封工程における圧力は1Pa以下、温度は100℃以上とすることが好ましい。
【0012】
一方、多芯化工程の密封工程において、温度が250℃を超える状態で封止を行なった場合、線材内部の酸化物超電導材料の原料からの酸素の放出および当該原料に吸着している酸素の放出が顕著に起こるおそれがある。そして、放出された酸素は、酸化物超電導材料の原料から超電導相を生成するための熱処理工程において、超電導相を構成する結晶の成長を阻害する。その結果、製造される酸化物超電導線材の臨界電流が低下するおそれがある。また、温度が250℃を超える状態で封止を行なった場合、金属管、特に金属管の添加元素の酸化が進行し、これに起因して、多芯化された線材が伸線加工される際に、割れや破断が発生するおそれがある。そのため、密封工程における温度は、250℃以下であることが好ましい。なお、上記酸素の放出を一層抑制するためには、密封工程における温度は200℃以下であることが好ましい。
【0013】
また、密封工程では、線材が挿入された金属管が、圧力10Pa以下、温度80℃以上250℃以下の条件下で、60分間以上300分間以下の時間保持された後、封止されることが好ましい。保持時間が60分間未満の場合、金属管内部からのガスや水分の離脱が不十分となる可能性があるため、保持時間は、60分間以上とすることが好ましい。一方、保持時間を300分間以上としても、ガスや水分の離脱の効果は飽和し、生産効率の低下を招来するため、保持時間は300分間以下とすることが好ましい。
【0014】
上記本発明の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、密封工程では、金属管の端部を閉じるための蓋部材が金属管に対してロウ材により固定される。
【0015】
密封工程においては、たとえば蓋部材を金属管の端部に対して電子ビーム溶接、圧着、ロウ付けなどの方法により固定することで、金属管を封止することができる。これらの固定方法の中で、電子ビーム溶接は温度制御が難しく、局所的な温度上昇が生じる結果、酸化物超電導材料の原料から発生する酸素の影響により金属管が酸化するおそれがある。この場合、多芯化された線材が伸線加工される際に、割れや破断が発生する可能性がある。また、圧着は、密封性を十分に確保することが比較的難しいという欠点を有している。これに対し、蓋部材の固定方法として、ロウ付けを採用することにより、金属管の酸化を抑制しつつ、十分な密封性を容易に確保することができる。
【0016】
上記本発明の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、上記ロウ材は、銀ロウである。上記金属管の素材としては、延性に富む銀、あるいは銀合金などが採用される場合が多い。したがって、これらの素材に伸び、強度などの特性が近い銀ロウがロウ材として採用されることにより、多芯化された線材が伸線加工される際の割れや破断の発生を抑制することができる。
【0017】
上記本発明の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、密封工程では、高周波誘導加熱によりロウ材が融解されて、蓋部材が金属管に対して固定される。
【0018】
高周波誘導加熱は、温度制御および局所的な加熱が比較的容易である。したがって、ロウ材の融解に高周波誘導加熱を採用することにより、密封工程における金属管の加熱温度および加熱領域を必要最小限に抑制することができる。その結果、多芯化された線材が伸線加工される際、金属管の酸化等に起因した割れや破断の発生を抑制することができる。
【0019】
上記本発明の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、密封工程では、高周波誘導加熱により酸化される金属管の領域は、金属管の端から10mm以内の領域である。
【0020】
上述のように、ロウ材の融解に、温度制御および局所的な加熱が比較的容易な高周波誘導加熱を採用した場合でも、加熱される領域においては、金属管の酸化による伸線加工の際の割れや破断が発生するおそれがある。高周波誘導加熱により酸化される金属管の領域を、金属管の端から10mm以内の領域に限定することにより、酸化物超電導線材の製造における歩留まりの低下を抑制することができる。
【0021】
なお、高周波誘導加熱により酸化される金属管の領域を、金属管の端から10mm以内の領域に限定するためには、たとえば金属管の加熱温度を700℃以上800℃以下、加熱時間を5秒以上10秒以下、加熱領域を金属管の端から5mm以内の条件で、ロウ付けを実施することができる。
【0022】
上記本発明の酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、密封工程では、線材が挿入された金属管に、ロウ材が金属管の内部において移動可能な範囲を制限するロウ材移動制限部材が挿入された後、蓋部材が金属管に対して固定される。
【0023】
密封工程において、蓋部材が金属管に対してロウ材により固定される際、融解したロウ材は、金属管内部において飛散あるいは流動し、金属管の内壁に付着するおそれがある。この場合、多芯化された線材が挿入された金属管が伸線加工される際に、ロウ材が付着した部分において、割れや破断が発生する可能性がある。これに対し、線材が挿入された金属管に、ロウ材移動制限部材が挿入された後、ロウ付けが実施されることにより、ロウ材が移動する範囲が限定され、ロウ材の付着による割れや破断を抑制することができる。
【0024】
ここで、ロウ材移動制限部材は、金属管の内部において、線材が挿入された領域と、蓋部材が固定されるべき領域とを分離する部材である。したがって、ロウ材移動制限部材の形状および素材は任意のものを採用することができるが、たとえばロウ材移動制限部材の形状は、金属管の長手方向に垂直な断面形状と相似な断面形状を有する板状の部材とすることができる。また、ロウ材移動制限部材の素材は、伸線加工される際の、伸びや強度の違いに起因した割れや破断の発生を抑制する観点から、金属管と同じ素材、あるいは金属管と伸びや強度の違いが小さい素材を採用することが好ましい。より具体的には、たとえば、金属管に銀あるいは銀合金が採用された場合、ロウ材移動制限部材にも銀あるいは銀合金が採用されることが好ましい。
【0025】
本発明に従った酸化物超電導線材は、上記本発明の酸化物超電導線材の製造方法により製造されている。全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材を製造することができる本発明の酸化物超電導線材の製造方法により製造されているため、本発明の酸化物超電導線材によれば、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明の酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材によれば、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0028】
図1は、本発明の一実施の形態における酸化物超電導線材の構成の概略を示す概略図である。図1を参照して、本発明の一実施の形態における酸化物超電導線材の構成を説明する。
【0029】
図1を参照して、本実施の形態における酸化物超電導線材10は、扁平な断面形状を有する線材であり、扁平な断面形状を有し、長手方向に延びる複数本の超電導体フィラメント20と、超電導体フィラメント20を被覆するシース部30とを備えている。超電導体フィラメント20は、たとえばBi2223相を含むBi−Sr−Ca−Cu−O系またはBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の化合物を主成分として含有し、残部不純物からなる組成を有している。シース部30は、銀(Ag)あるいは銀合金からなっている。そして、酸化物超電導線材10は、後述する本発明の一実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法により製造されていることにより、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を有している。
【0030】
次に、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法について、酸化物超電導材料の原料としてBi2212が採用され、超電導相がBi2223相を主相とする場合を例として説明する。図2は、本発明の一実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法の概略を示す流れ図である。また、図3は、図2の粉末充填工程を説明するための模式図である。また、図4は、図2の1次伸線加工工程を説明するための模式図である。また、図5は、図2の挿入工程を説明するための模式図である。また、図6〜図8は、図2の密封工程を説明するための模式図である。また、図9は、図2の2次伸線加工工程を説明するための模式図である。また、図10は、図2の圧延工程を説明するための模式図である。
【0031】
ここで、Bi2212とは、ビスマス(Bi)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)および酸素(O)を含み、さらに必要に応じて鉛(Pb)を含むBi−Sr−Ca−Cu−O系またはBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の化合物(酸化物)であって、原子比でBi(およびPb):Sr:Ca:Cuが2:2:1:2の比率で近似的に表されるものをいう。また、Bi2223とは、Bi−Sr−Ca−Cu−O系またはBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の化合物(酸化物)であって、原子比でBi(およびPb):Sr:Ca:Cuが2:2:2:3の比率で近似的に表されるものをいう。
【0032】
図2を参照して、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導材料の原料を含む線材が準備される線材準備工程と、当該線材が複数本束ねられることにより多芯化される多芯化工程と、多芯化工程において作製された多芯線材が圧延されてテープ状多芯線材が作製される圧延工程と、テープ状多芯線材が加熱される熱処理工程としての焼結工程とを備えている。以下、酸化物超電導材料の原料としてBi2212が採用され、超電導体フィラメント20がBi2223相を主相とする場合を例に、各工程の詳細について説明する。
【0033】
図2を参照して、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法においては、まず、線材準備工程に含まれる粉末充填工程が実施される。具体的には、図3を参照して、金属管であるAg(銀)管31の内部に、酸化物超電導材料であるBi2223の原料であるBi2212を含む原料粉末21が充填される。このとき、原料粉末21が充填されたAg管31は、加熱処理および減圧処理の少なくともいずれか一方が実施され、その後、ガス、水分等の侵入を抑制する目的で、封止(密封)されることが好ましい。
【0034】
次に、図2を参照して、線材準備工程に含まれる伸線工程としての1次伸線加工工程が実施される。具体的には、図4を参照して、Ag管31の内部に原料粉末21が充填された原料線材11が、ダイス91を通して引き抜かれることにより伸線加工されて、クラッド線材12が作製される。すなわち、1次伸線加工工程では、酸化物超電導材料の前駆体粉末である原料粉末21が銀で被覆された形態の線材が伸線される。
【0035】
次に、図2を参照して、多芯化工程に含まれる挿入工程が実施される。具体的には、図5を参照して、1次伸線加工工程において作製されたクラッド線材12が、長手方向に交差する断面で切断され、複数本のクラッド線材12が作製される。その後、当該複数本のクラッド線材12が束ねられて、金属管であるAg管32の内部に挿入されて、複合線材13が作製される。
【0036】
次に、多芯化工程に含まれる密封工程が実施される。密封工程では、複数本のクラッド線材12が挿入されたAg管32が密封される。具体的には、図6を参照して、まず、Agから構成される蓋部材33が準備される。蓋部材33は、長手方向に垂直な断面が円形であるAg管32の内径よりも僅かに小さい外径を有する円盤状の挿入部33Aと、挿入部33Aよりも大きい外径を有する蓋部33Bとを含んでいる。そして、挿入部33Aの外周部には、銀ロウ34が配置される。
【0037】
一方、図6を参照して、Ag管32の内部には、Agから構成され、Ag管32の内径よりも僅かに小さい外径の円盤形状を有するロウ材移動制限部材としてのAg板部材35が配置される。Ag板部材35は、Ag板部材35の一方の主面が、Ag管32内部に挿入されたクラッド線材12の端面と接触するように配置される。その結果、Ag板部材35により、Ag管32の内部において、クラッド線材12が挿入された領域と、蓋部材33が固定されるべき領域である挿入部33Aが挿入されるべき領域とが分離(隔離)される。
【0038】
次に、図7を参照して、蓋部材33の挿入部33AがAg管32の内部に挿入されるように、蓋部材33がAg管32の端部に載置される。このとき、蓋部材33は、銀ロウ34によりAg管32に対して支持されるため、Ag管32の端面と蓋部材33の蓋部33Bとは離れた状態となっている。そして、このAg管32が、真空ポンプなどの減圧装置と、高周波コイルと、高周波コイルに交流電流を供給する高周波電源とを備えた密閉型の炉に挿入され、圧力10Pa以下に減圧されたうえで、温度80℃以上250℃以下の温度域に加熱される。この圧力および温度の条件下で60分間以上300分間以下の時間保持された後、ロウ付けが実施される。そして、当該圧力の条件は、Ag管32の封止が完了するまで保持される。また、温度は、Ag管32の封止が完了するまで、250℃以下に保持される。
【0039】
ロウ付けは以下のように実施される。すなわち、Ag管32の端部および蓋部材33の挿入部33Aが高周波誘導加熱により加熱され、銀ロウ34が融解される。その結果、図8に示すように、Ag管32に対して蓋部材33を支持していた銀ロウ34が、Ag管32の内周面と蓋部材33の挿入部33Aとの間に流入するとともに、銀ロウ34による支持を失った蓋部材33は、挿入部33AがAg管32の内部にさらに進入し、蓋部33BがAg管32の端面に接触する。その後、高周波誘導加熱が停止され、加熱された部位が冷却されることにより、銀ロウ34が凝固する。その結果、蓋部材33がAg管32に対して固定され、Ag管32が封止される。これにより、Ag管32の内部に複数のクラッド線材12が密封された複合線材13が完成する。
【0040】
次に、図2を参照して、多芯化工程に含まれる2次伸線加工工程が実施される。具体的には、図9を参照して、挿入工程および密封工程において作製された複合線材13がダイス91を通して引き抜かれることにより伸線加工されて、多芯構造を有する多芯線材14が作製される。
【0041】
次に、図2を参照して、多芯線材14が圧延される圧延工程が実施される。具体的には、図10を参照して、多芯化工程において作製された多芯線材14が、一対の圧延ロール92を備えた圧延装置により圧延されて、扁平な断面形状のテープ状多芯線材15が作製される。
【0042】
次に、図2を参照して、圧延工程において圧延された線材が加熱されることにより、当該線材が熱処理される熱処理工程としての焼結工程が実施される。具体的には、圧延工程において作製されたテープ状多芯線材15が、たとえば700℃以上900℃以下の温度に加熱され、2時間以上100時間以下の時間保持されることにより、テープ状多芯線材15の内部の原料粉末が焼結するとともに、原料粉末を構成するBi2212から目的の超電導相であるBi2223相が生成する。
【0043】
以上の工程により、本実施の形態における酸化物超電導線材10が完成する。なお、残存するBi2212をBi2223相に変化させる目的や焼結を一層進行させる目的、あるいはテープ状多芯線材15の内部の空隙を減少させて酸化物超電導線材10の密度を向上させる目的で、焼結工程の後、さらに圧延工程と熱処理工程としての焼結工程とが繰返して実施されてもよい。
【0044】
上述のように、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法では、密封工程において、圧力10Pa以下、温度80℃以上250℃以下の条件下で、クラッド線材12が挿入されたAg管32が封止される。より具体的には、クラッド線材12が挿入されたAg管32は、圧力10Pa以下に減圧された雰囲気中で、かつ温度80℃以上250℃以下に加熱された状態で、上記ロウ付けが実施されて密封される。そのため、ガスや水分などの侵入に起因した、酸化物超電導線材10の端部における臨界電流の低下を抑制することができる。その結果、上記本実施の形態の酸化物超電導線材の製造方法によれば、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが可能な酸化物超電導線材10を製造することができる。
【0045】
また、上述のように、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法では、密封工程において、クラッド線材12が挿入されたAg管32に、銀ロウ34がAg管32の内部において移動可能な範囲を制限するロウ材移動制限部材としてのAg板部材35が挿入された後、蓋部材33がAg管32に対して固定される。その結果、ロウ付けの際に、銀ロウ34が移動する範囲が限定され、2次伸線加工工程における、銀ロウ34の付着に起因したAg管32の割れや破断が抑制されている。
【0046】
さらに、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法では、密封工程において、高周波誘導加熱により酸化されるAg管32の領域は、当該Ag管32の端から10mm以内の領域であることが好ましい。これにより、酸化物超電導線材10の製造における歩留まりの低下を抑制することができる。なお、本実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法では、Ag管32に代えて、Agにマグネシウム(Mg)およびマンガン(Mn)の少なくともいずれか一方が添加された金属管を採用することができる。これにより、比較的安価に、かつ強度の高い酸化物超電導線材10を製造することができる。
【0047】
なお、上記本実施の形態においては、酸化物超電導材料の原料としてBi2212が採用され、超電導相がBi2223相を主相とする場合について説明したが、本発明の酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材はこれに限られない。たとえば酸化物超電導材料の原料としてBi2212が採用され、超電導相がBi2212相であってもよい。
【実施例1】
【0048】
以下、本発明の実施例1について説明する。多芯化工程における金属管の減圧密封の有無および密封条件と、製造される酸化物超電導線材の臨界電流値および端部における臨界電流値の劣化との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
【0049】
まず、本発明の実施例の酸化物超電導線材を製造した。製造方法は、上記実施の形態において説明した方法を採用した。密封工程における圧力は0.01Pa〜10Pa、温度は80℃〜250℃とした。一方、比較のため、本発明の範囲外である酸化物超電導線材の比較例を製造した。製造方法は、基本的には上記実施の形態において説明した方法と同様の方法を採用し、密封工程において圧力を常圧(大気圧)、温度を常温(室温)とする条件(減圧下での加熱密封を行なわない条件)、および圧力を10Pa〜20Pa、温度を50℃〜260℃とする条件を採用した。そして、製造された実施例および比較例の酸化物超電導線材の臨界電流を測定した。測定は、4端子法を採用し、電圧端子間4mの条件で行なった。そして、電流−電圧特性から、4×10−4Vの電圧が発生したときに通電した電流値の、測定した区間全体における平均値を「臨界電流値」として評価した。また、4m区間で測定した臨界電流が平均値の95%以下となった区間の長さの超電導線材全長に対する割合を、電導線材の端部における「臨界電流劣化割合」として臨界電流の均一性を評価した。
【0050】
次に、本実施例における実験結果について説明する。表1に、本実施例における実験の実験条件および実験結果を示す。表1において、下線が付された条件は、本発明の酸化物超電導線材の製造方法の範囲外である製造条件である。また、図11は、表1の比較例Aの超電導線材全長における臨界電流の分布を示す図である。図11において、横軸は超電導線材の一方の端部からの距離を「位置」として示している。また、図11において、縦軸は臨界電流の平均値IC0に対する各位置での臨界電流Iの割合であるI/IC0を示している。
【0051】
【表1】

【0052】
表1を参照して、本発明の実施例A〜Cは、超電導線材の端部での臨界電流劣化割合が0%となっている。また、臨界電流値も200A級となっている。このことから、本発明の実施例A〜Cは、全長にわたり均一かつ高い臨界電流有する酸化物超電導線材であるといえる。
【0053】
これに対し、表1および図11を参照して、比較例Aでは、臨界電流劣化割合が12%となっており、臨界電流の全長での均一性が確保されていない。また、臨界電流値も165Aにまで低下している。これは、上述のように、実施例Aでは、密封工程において、減圧下での加熱密封を実施しなかったため、多芯化工程において侵入したガス等の影響により超電導線材の端部において臨界電流が低下するとともに、酸化物超電導材料の原料を含むクラッド線材の内部にガスや水分などが残存し、製造された酸化物超電導線材の全長にわたって臨界電流が低下したものと考えられる。
【0054】
また、表1を参照して、密封工程における圧力が20Paである比較例B、および密封工程における温度が50℃である比較例Cでは、臨界電流劣化割合は0%であり、臨界電流の全長での均一性は確保されているものの、臨界電流値は、それぞれ170Aおよび180Aにまで低下している。これは、上述のように、密封工程における減圧あるいは加熱が不十分であったため、酸化物超電導材料の原料を含むクラッド線材の内部にガスや水分などが残存し、製造された酸化物超電導線材の臨界電流値が低下したものと考えられる。
【0055】
さらに、表1を参照して、密封工程における温度が260℃である比較例Dでは、臨界電流劣化割合は0%であり、臨界電流の全長での均一性は確保されているものの、臨界電流値は、165Aにまで低下している。これは、上述のように、クラッド線材内部の酸化物超電導材料の原料からの酸素の放出および当該原料に吸着している酸素の放出により、Bi2212から生成するBi2223の結晶の成長が阻害されたためであると考えられる。
【0056】
以上の結果から、酸化物超電導線材の製造方法においては、多芯化工程において、圧力10Pa以下、温度80℃以上250℃以下の条件下で、クラッド線材が挿入された金属管が封止される密封工程が実施されることで、全長にわたり均一かつ高い臨界電流有する酸化物超電導線材が製造可能であることが確認された。
【0057】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材は、全長にわたり均一かつ高い臨界電流を得ることが求められる酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施の形態における酸化物超電導線材の構成の概略を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法の概略を示す流れ図である。
【図3】図2の粉末充填工程を説明するための模式図である。
【図4】図2の1次伸線加工工程を説明するための模式図である。
【図5】図2の挿入工程を説明するための模式図である。
【図6】図2の密封工程を説明するための模式図である。
【図7】図2の密封工程を説明するための模式図である。
【図8】図2の密封工程を説明するための模式図である。
【図9】図2の2次伸線加工工程を説明するための模式図である。
【図10】図2の圧延工程を説明するための模式図である。
【図11】表1の比較例Aの超電導線材全長における臨界電流の分布を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10 酸化物超電導線材、11 原料線材、12 クラッド線材、13 複合線材、14 多芯線材、15 テープ状多芯線材、20 超電導体フィラメント、21 原料粉末、30 シース部、31,32 Ag管、33 蓋部材、33A 挿入部、33B 蓋部、34 銀ロウ、35 板部材、91 ダイス、92 圧延ロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導材料の前駆体粉末が金属で被覆された形態の線材が伸線される伸線工程と、
前記伸線工程において伸線された前記線材が複数本束ねられることにより多芯化される多芯化工程とを備え、
前記多芯化工程は、
複数の前記線材が金属管内に挿入される挿入工程と、
前記線材が挿入された前記金属管が密封される密封工程とを含み、
前記密封工程では、圧力10Pa以下、温度80℃以上250℃以下の条件下で、前記線材が挿入された前記金属管が封止される、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記密封工程では、前記金属管の端部を閉じるための蓋部材が前記金属管に対してロウ材により固定される、請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記ロウ材は、銀ロウである、請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記密封工程では、高周波誘導加熱により前記ロウ材が融解されて、前記蓋部材が前記金属管に対して固定される、請求項2または3に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記密封工程では、前記高周波誘導加熱により酸化される前記金属管の領域は、前記金属管の端から10mm以内の領域である、請求項4に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記密封工程では、前記線材が挿入された前記金属管に、前記ロウ材が前記金属管の内部において移動可能な範囲を制限するロウ材移動制限部材が挿入された後、前記蓋部材が前記金属管に対して固定される、請求項2〜5のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された、酸化物超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−276973(P2008−276973A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115918(P2007−115918)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】