説明

酸化物超電導線材の製造方法

【課題】交流損失を低減するとともに、超電導特性の低下を防止することのできる酸化物超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物超電導線材100の製造方法は、酸化物超電導体110となるべき前駆体粉末を銀からなる第1パイプ状部材に充填する。そして、銀と異なる第1の金属からなる第1金属被覆層を第1パイプ状部材の外表面に形成する。そして、銀および第1の金属と異なる第2の金属からなる第2金属被覆層を第1金属被覆層の外表面に形成する。そして、複数本の単芯線を第2パイプ状部材120に挿入して、多芯線をテープ状に加工して、テープ状の多芯線を熱処理して、前駆体粉末を酸化物超電導体110にするとともに、第1および第2金属被覆層を絶縁体にする。第1の金属の銀への固溶度は第2の金属の銀への固溶度よりも低い。第1金属被覆層30の厚みは第2金属被覆層40の厚みよりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の製造方法に関し、たとえば交流損失を低減できる酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。イットリウム系の酸化物は温度90Kで、ビスマス系の酸化物は温度110Kで超電導現象を示すことが報告されている。これらの酸化物超電導体は、比較的安価で入手できる液体窒素中で超電導特性を示すため、実用化が期待されている。
【0003】
このような酸化物超電導体に、たとえば電力供給用の交流電流を流すためには、酸化物超電導体を銀シースで被覆し、その銀シースを高抵抗体で被覆し、その高抵抗体をさらに金属で被覆するような酸化物超電導線材が用いられている。酸化物超電導線材に交流電流を流すと、交流電流から生じる変動磁界による電気抵抗である交流損失が伴う。
【0004】
交流損失の低減を目的とした酸化物超電導線材の製造方法は、たとえば特開2006−24576号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1に開示の酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体を銀シースで被覆し、その銀シースをセラミックス粉末を含むセラミックス被覆層で被覆し、セラミックス被覆層をさらに金属で被覆する方法が開示されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1では銀シースで被覆された酸化物超電導体の周囲にセラミックス被覆層を配置する構造にしているが、セラミックスは加工性が良くないため、銀シースに挟まれた狭い領域に密度および厚さが均一にセラミックス被覆層を形成することは難しい。その結果、フィラメント間の垂直抵抗が十分に高くならないため、交流損失の低減に未だ改善の余地がある。
【0006】
また、加工性を良好にするために、セラミックス被覆層の代わりに金属を被覆して金属被覆層を形成することも考えられる。しかし、超電導フィラメントを被覆している銀シースに金属被覆層を形成すると、金属被覆層を構成する元素が、酸化物超電導体を被覆している銀シースに拡散してしまう。その結果、酸化物超電導体と金属被覆層を構成する元素とが反応してしまい、酸化物超電導体の超電導特性が低下してしまうという問題がある。
【特許文献1】特開2006−24576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、交流損失を低減するとともに、超電導特性の低下を防止することのできる酸化物超電導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にしたがった酸化物超電導線材の製造方法は、以下の工程を実施し、第1の金属の銀への固溶度は、第2の金属の銀への固溶度よりも低く、第1金属被覆層の厚みは、第2金属被覆層の厚みよりも小さいことを特徴としている。まず、酸化物超電導体となるべき前駆体粉末を銀からなる第1パイプ状部材に充填する工程を実施する。そして、銀と異なる第1の金属からなる第1金属被覆層を第1パイプ状部材の外表面上に形成する工程を実施する。そして、銀および第1の金属と異なる第2の金属からなる第2金属被覆層を第1金属被覆層の外表面上に形成して、単芯線を得る工程を実施する。そして、単芯線を複数本形成して、複数本の単芯線を第2パイプ状部材の内部に挿入して、多芯線を得る工程を実施する。そして、多芯線をテープ状に加工する工程を実施する。そして、テープ状の多芯線を熱処理して、前駆体粉末を酸化物超電導体にするとともに、第1金属被覆層および第2金属被覆層を絶縁体にする熱処理工程を実施する。
【0009】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、第1および第2金属被覆層を第1パイプ状部材に被覆しているため、加工性が良好である。そのため、熱処理工程で、前駆体粉末から形成される酸化物超電導体に挟まれた狭い領域に、第1および第2の金属の酸化物からなる絶縁体を密度および厚さが均一に形成することができる。よって、酸化物超電導体の間に形成された絶縁体により、酸化物超電導体間の垂直抵抗が十分に高くなり、交流損失を低減できる。
【0010】
また、熱処理工程で、第2の金属よりも銀への固溶度が小さい第1の金属により、第2金属被覆層を構成する第2の金属が第1パイプ状部材へ拡散することを抑制できる。すなわち、第1金属被覆層から形成される第1の金属の酸化物である絶縁体は、第2の金属の第1パイプ状部材への拡散を防止する層の役割りを担う。また、熱処理工程で、第1金属被覆層の厚みよりも大きい第2金属被覆層により、酸化物超電導体間の絶縁体になることに適した第2の金属の酸化物が、酸化物超電導間の絶縁を確実にする。すなわち、第2金属被覆層から形成される第2の金属の酸化物である絶縁体は、酸化物超電導体間を絶縁する層の役割りを担う。その結果、第2の金属が拡散することにより第2の金属と酸化物超電導体とが反応して生成される不純物相を抑制できるので、形成される酸化物超電導体の比率が低下することを抑制できる。また、酸化物超電導体が占める超電導相を、不純物相が汚染することも抑制できる。そのため、形成される酸化物超電導体の臨界電流Icなどの超電導特性の低下を防止できる。
【0011】
なお、上記「絶縁体」は、酸化する工程後の絶縁体のうち、95%以上が第1および第2の金属の酸化物になるまで第1および第2の金属被覆層が酸化されてなる状態を意味する。すなわち、絶縁体は、第1および第2金属被覆層を構成する第1および第2の金属が全て酸化物になり、金属が全く含有されていない場合と、第1および第2金属被覆層を構成する5%未満の第1および第2金属が酸化されずに含有されている場合とを含んでいる。第1および第2金属被覆層を構成する第1および第2の金属が酸化物になっている状態は、酸化物超電導線材の延びる方向と垂直の方向に切断した断面をSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)を用いて観察することによって確認できる。
【0012】
また、上記「固溶度」とは、熱処理工程を実施する条件において、銀元素へ溶け込む度合いを意味する。
【0013】
上記酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、第1金属被覆層は、第1パイプ状部材の外表面上に第1の金属からなる金属膜を巻くことにより形成されることを特徴としている。これにより、第1パイプ状部材の外表面上に厚みの薄い第1金属被覆層を形成できる。
【0014】
上記酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、第1の金属は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびチタン(Ti)からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることを特徴としている。
【0015】
これらの物質は、銀への固溶度が低いため、熱処理工程で第2金属被覆層を絶縁体にしても、これらの物質からなる第1の金属からなる第1金属被覆層により第2の金属の第1パイプ状部材への拡散をより防止できる。
【0016】
上記酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、第2の金属からなるパイプ状部材の内部に第1金属被覆層を挿入することにより形成されることを特徴としている。これにより、第2金属被覆層を第1金属被覆層の外表面上に容易に形成できる。
【0017】
上記酸化物超電導線材の製造方法において好ましくは、第2の金属は、銅(Cu)およびアルミニウム(Al)の少なくとも一方からなる。
【0018】
これらの物質は加工性が非常に良好であるので、より均一な厚みの第2金属被覆層を形成できる。その結果、酸化物超電導線材の交流損失をより低下することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、交流損失を低減するとともに、超電導特性の低下を防止することのできる酸化物超電導線材の製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を示す概略斜視図である。図1を参照して、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材について説明する。
【0022】
図1に示すように、実施の形態における酸化物超電導線材100は、長手方向に延びる複数本の酸化物超電導体(フィラメント)110と、第1パイプ状部材20と、第2パイプ状部材120と、第1絶縁体130と、第2絶縁体140とを備えている。第1パイプ状部材20は、複数本の酸化物超電導体110と接触して、複数本の酸化物超電導体110の外表面を被覆している。第1絶縁体130は、第1パイプ状部材20と接触して、第1パイプ状部材20の外表面を被覆している。第2絶縁体140は、第1絶縁体130と接触して、第1絶縁体130の外表面を被覆している。第1および第2絶縁体130,140は、酸化物超電導体110の運転温度において非超電導体となる。第2パイプ状部材120は、第2絶縁体140に接触して、第2絶縁体140を被覆している。
【0023】
なお、上記「被覆している」とは、それぞれの外表面の50%以上を覆っていることを意味する。また、「外表面」とは、酸化物超電導線材100の延びる方向におけるそれぞれの表面を意味する。
【0024】
具体的には、酸化物超電導線材100は、テープ状に延びる線材である。酸化物超電導体110と、第1パイプ状部材20と、第2パイプ状部材120と、第1および第2絶縁体130,140とは横方向に延びるように偏平形状に形成されている。
【0025】
複数本の酸化物超電導体110の各々の材質は、たとえばBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。
【0026】
第1パイプ状部材20の材質は、銀からなっている。第2パイプ状部材120の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっており、銀よりなっていることが好ましい。
【0027】
第1および第2絶縁体130,140は、銀と異なり、かつ互いに違う金属元素である第1および第2の金属の酸化物である。なお、第1の金属の銀への固溶度は、第2の金属の銀への固溶度よりも低い。また、第1絶縁体130の厚みは、第2絶縁体140の厚みよりも小さい。
【0028】
第1絶縁体130は、ニッケル、コバルトおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質の酸化物であることが好ましい。第2絶縁体140は、銅およびアルミニウムの少なくとも一方の物質の酸化物であることが好ましい。特に第1絶縁体130がニッケルの酸化物であり、第2絶縁体140が銅であることが、コストを低減できる観点から特に好ましい。
【0029】
なお、第1および第2絶縁体130,140中、第1および第2の金属の酸化物は95%含有されている。すなわち、第1および第2絶縁体130、140は、第1および第2の金属が全く含有されていない場合と、5%未満の第1および第2の金属が酸化されずに含有されている場合とを含んでいる。
【0030】
次に、図2〜図5を参照して、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法について説明する。なお、図2は、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。図3は、本発明の実施の形態における充填する工程を示す概略斜視図である。図4は、本発明の実施の形態における第1金属被覆層を形成する工程を示す概略斜視図である。図5は、本発明の実施の形態における単芯線を得る工程を示す概略斜視図である。図6は、本発明の実施の形態における別の酸化物超電導線材を示す概略断面図である。
【0031】
まず、図2および図3を参照して、酸化物超電導体となるべき前駆体粉末10を銀からなる第1パイプ状部材20に充填する工程(S10)を実施する。
【0032】
具体的には、前駆体粉末10を準備する。酸化物超電導体としてBi2223超電導線材を製造する場合には、Bi−2212相((BiPb)2Sr2Ca1Cu2ZまたはBi2Sr2Ca1Cu2Z)を主相とし、残部がBi−2223相((BiPb)2Sr2Ca2Cu3Z相)および非超電導相である粉末状の前駆体粉末10を準備する。なお、主相とは、前駆体粉末10においてBi−2212相が60%以上含まれていることを意味する。
【0033】
また、第1パイプ状部材20を準備する。第1パイプ状部材20は、銀からなる。銀は、酸化物超電導体と反応性が低いので、第1パイプ状部材20と酸化物超電導体との反応を抑制できる。そのため、酸化物超電導体の超電導特性の低下をより防止できる。
【0034】
そして、たとえば充填密度を0.5g/cm3以上2.0g/cm3以下として、第1パイプ状部材20に前駆体粉末10を充填する。
【0035】
次に、図2および図4に示すように、銀と異なる第1の金属からなる第1金属被覆層30を第1パイプ状部材20の外表面上に形成する工程(S20)を実施する。
【0036】
第1金属被覆層30を構成する第1の金属は、銀と異なっており、第1の金属の銀への固溶度が、後述する単芯線50を得る工程(S30)で形成される第2金属被覆層40を構成する第2の金属の銀への固溶度よりも低い。具体的には、第1の金属は、後述する熱処理工程(S80)で第2の金属の第1パイプ状部材20への拡散を効果的に防止できる観点から、ニッケル、コバルトおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることが好ましく、ニッケルであることがより好ましい。
【0037】
第1金属被覆層30の厚みは、後述する単芯線50を得る工程(S30)で形成される第2金属被覆層40の厚みよりも小さい。第1金属被覆層30の厚みは、たとえば0.5μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0038】
工程(S20)では、第1金属被覆層30を薄く形成できる観点から、第1の金属からなる金属膜を第1パイプ状部材20の外表面上に巻くことにより第1金属被覆層30を形成することが好ましい。
【0039】
次に、図2および図5に示すように、銀および第1の金属と異なる第2の金属からなる第2金属被覆層40を第1金属被覆層30の外表面上に形成して、単芯線50を得る工程(S30)を実施する。
【0040】
単芯線50を得る工程(S30)では、第2金属被覆層40を構成する第2金属は、銀および第1の金属と異なっており、第2の金属の銀への固溶度が、工程(S20)で形成された第1金属被覆層30を構成する第1の金属の銀への固溶度よりも高い。具体的には、第2の金属は、後述する熱処理工程(S80)で超電導体間の絶縁性を高めることが効果的にできる観点から、銅およびアルミニウムの少なくとも一方からなることが好ましく、銅からなることがより好ましい。
【0041】
なお、後述する熱処理工程(S80)において前駆体粉末を酸化物超電導体にするために熱処理する温度以下では、合金の状態図から、ニッケル、コバルト、およびチタンの銀への固溶度は1%以下であり、銅およびアルミニウムの銀への固溶度は10%以上である。そのため、上述したように、たとえば、工程(S20)では、ニッケル、コバルト、およびチタンなどを第1の金属とし、工程(S30)では、銅およびアルミニウムなどを第2の金属として用いることができる。
【0042】
単芯線50を得る工程(S30)では、第1金属被覆層30の厚みよりも大きな厚みを有する第2金属被覆層40を形成する。第2金属被覆層40の厚みは、たとえば、3μm以上5μm以下であることが好ましい。この範囲の厚みとすることによって、後述する熱処理工程(S80)で第2の金属を酸化して得られる第2絶縁体140(図1参照)の厚みを確保して酸化物超電導体110間の絶縁を確実にすることができる。特に第2の金属の拡散抑制および確実な絶縁性の観点から、第1金属被覆層30の厚みを0.5μ程度で、第2金属被覆層40の厚みを5μm程度とすることが好ましい。
【0043】
単芯線50を得る工程(S30)は、第1の金属被覆層30を第2の金属からなるパイプ状部材に挿入する(または嵌合させる)こと(Rod In Tude)により形成されることが好ましい。第2金属被覆層40としてのパイプ状部材は、嵌合の容易さの観点から、第1金属被覆層30を内部に配置できる形状とすることが好ましい。
【0044】
次に、図2に示すように、単芯線50を伸線加工する工程(S40)を実施する。これにより、前駆体粉末10と、前駆体粉末10を被覆した第1パイプ状部材20と、第1パイプ状部材120を被覆した第1金属被覆層30と、第1金属被覆層30を被覆した第2金属被覆層40とを備えた長尺の単芯線が得られる。
【0045】
次に、図2に示すように、単芯線50を複数本形成して、複数本の単芯線50を第2パイプ状部材120に挿入して、多芯線を得る工程(S50)を実施する。これにより、前駆体粉末10を芯材として多数有する多芯構造の線材(多芯線)が得られる。
【0046】
具体的には、単芯線50を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる第2パイプ状部材120内に挿入または嵌合する。第1パイプ状部材120は、加工性が良いこと、酸化物超電導体相との反応性が低いこと、およびクエンチ現象による発熱を速やかに取り去ることができる観点から、銀や銀合金を用いることが好ましく、銀合金を用いることがより好ましい。
【0047】
次に、図2に示すように、多芯線を伸線加工する工程(S60)を実施する。これにより、所望の直径にまで多芯線を伸線加工し、単芯線50を複数本備えた長尺の多芯線が得られる。
【0048】
次に、図2に示すように、多芯線をテープ状に加工する工程(S70)を実施する。具体的には、多芯線を圧延することによって、テープ状の線材にする。この圧延によって、前駆体粉末10の密度がさらに高められる。
【0049】
次に、図1および図2に示すように、テープ状の多芯線を熱処理して、前駆体粉末10を酸化物超電導体110にするとともに、第1金属被覆層30および第2金属被覆層40を熱処理工程(S80)を実施する。これにより、第1および第2金属被覆層30,40の95%以上を、第1および第2の金属の酸化物に反応させてなる第1および第2絶縁体130,140にする。
【0050】
具体的には、加工する工程(S70)により得られるテープ状の線材を、第1および第2パイプ状部材20,120が酸化されずに、第1および第2金属被覆層30,40が選択的に酸化され、かつ前駆体粉末10が超電導相に変化する温度範囲の雰囲気で熱処理を行なう。たとえば、前駆体粉末10がBi−2212相を主相であり、第1金属被覆層30を構成する第1の金属がニッケルであり、第2金属被覆層40を構成する第2の金属が銅である場合には、大気圧で400℃〜900℃の温度で熱処理する。また、5%以上の酸素を含む雰囲気で、400℃以上900℃以下の温度で熱処理を行なうことが好ましい。
【0051】
絶縁体を得る工程(S80)により、第1および第2金属被覆層30,40を構成する第1および第2の金属が全て酸化物になり、金属が全く含有されていない第1および第2絶縁体130,140、または、第1および第2金属被覆層30,40を構成する5%未満の第1および第2の金属が酸化されずに含有されている第1および第2絶縁体130,140が得られる。また、第1および第2金属被覆層30,40を構成する金属が酸化物になっている状態は、酸化物超電導線材100の延びる方向と垂直の方向に切断した断面をSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)を用いて観察することによって確認できる。
【0052】
熱処理工程(S80)を実施することによって、前駆体粉末10を酸化物超電導体110にする。たとえば、充填する工程(S10)でBi−2212相の前駆体粉末10を第1パイプ状部材20に充填した場合には、熱処理工程(S80)でBi−2212相が結晶成長し、Bi−2223相よりなる超電導結晶を主相とする酸化物超電導体110になる。なお、熱処理工程(S80)によって前駆体粉末10のBi−2212相がBi−2223相に変わりきらないため、酸化物超電導体110は、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の元素比がほぼ2:2:1:2よりなるBi−2212相よりなる超電導結晶を含む場合もある。
【0053】
なお、熱処理工程(S80)実施後に、さらに圧延(2次圧延)および熱処理(2次熱処理)を施してもよい。
【0054】
以上の工程(S10〜S80)を実施することにより、図1に示す酸化物超電導線材100が得られる。
【0055】
なお、上記酸化物超電導線材の製造方法によって製造される酸化物超電導線材は、図6に示すように、第2絶縁体140が連続した相となってもよい。また、第2絶縁体140の一部が連続した相(図示せず)となっていてもよい。
【0056】
以上説明したように、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材100の製造方法によれば、酸化物超電導体110となるべき前駆体粉末10を銀からなる第1パイプ状部材20に充填する工程(S10)と、銀と異なる第1の金属からなる第1金属被覆層30を第1パイプ状部材20の外表面上に形成する工程(S20)と、銀および第1の金属と異なる第2の金属からなる第2金属被覆層40を第1金属被覆層30の外表面上に形成して、単芯線50を得る工程(S30)と、単芯線50を複数本形成して、複数本の単芯線50を第2パイプ状部材120に挿入して、多芯線を得る工程(S50)と、多芯線をテープ状に加工する工程(S70)と、テープ状の多芯線を熱処理して、前駆体粉末10を酸化物超電導体110にするとともに、第1金属被覆層30および第2金属被覆層40を絶縁体にする熱処理工程(S80)とを備え、第1の金属の銀への固溶度は、第2の金属の銀への固溶度よりも低く、第1金属被覆層30の厚みは、第2金属被覆層40の厚みよりも小さいことを特徴としている。
【0057】
上記特許文献1の酸化物超電導線材では、第1パイプ状部材20にセラミックス粉末を含むセラミックス被覆層を被覆している。この場合、図7に示すように、セラミックス被覆層230の加工性の悪さから、多芯線をテープ状に加工する工程(S60)を実施すると、圧延時にセラミックス被覆層230は不均一に形成されやすい。すなわち、熱処理工程(S80)後の扁平な酸化物超電導体110を内部に充填している第1パイプ状部材20に、セラミックス被覆層230は均一に被覆しにくい。セラミックス被覆層230が第1パイプ状部材20を均一に被覆できないと、複数の酸化物超電導体110間を絶縁する効果が減少して、交流損失が増大してしまう。なお、図7は、従来の酸化物超電導線材の製造方法における圧延後の酸化物超電導体の状態を示す断面模式図である。
【0058】
しかし、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材100の製造方法では、単芯線を得る工程(S30)で、第1および第2金属被覆層30,40を第1パイプ状部材20に被覆しているため、上記特許文献1よりも加工性が良好である。そのため、熱処理工程(S80)で、第1および第2金属被覆層30,40を第1および第2絶縁体130,140にしているため、熱処理工程(S80)で形成された酸化物超電導体110に挟まれた狭い領域に密度および厚さが均一な絶縁体130を形成することができる。よって、酸化物超電導体110の間に形成された第1および第2絶縁体130,140により、酸化物超電導体110同士がつながることを防止でき、酸化物超電導体110間の垂直抵抗が十分に高くなり、交流損失を低減できる。
【0059】
また、熱処理工程(S80)で、第2の金属よりも銀への固溶度が小さい第1の金属により、第2金属被覆層40を構成する第2の金属が第1パイプ状部材20へ拡散することを抑制できる。すなわち、第1金属被覆層30から形成される第1の金属の酸化物である第1絶縁体130は、第2の金属の第1パイプ状部材20への拡散を防止する層の役割りを担う。また、熱処理工程(S80)で、第1金属被覆層30の厚みよりも大きい第2金属被覆層40により、酸化物超電導体110間の絶縁体になることに適した第2の金属の酸化物が、酸化物超電導体110間の絶縁を確実にする。そのため、第2の金属を、前駆体粉末10への拡散を考慮せずに、第2絶縁体140にすることが好ましい所望の材料を優先して選択することができる。すなわち、第2金属被覆層から形成される第2の金属の酸化物である絶縁体は、酸化物超電導体間を絶縁する層の役割りを担う。その結果、第2の金属が拡散することにより第2の金属と酸化物超電導体110とが反応して生成される不純物相を抑制できるので、酸化物超電導体110の比率が低下することを抑制できる。また、酸化物超電導体110が占める超電導相を、不純物相が汚染することも抑制できる。そのため、形成される酸化物超電導体110の臨界電流Icなどの超電導特性の低下を防止できる。
【0060】
上記酸化物超電導線材100の製造方法において好ましくは、第1金属被覆層30は、第1パイプ状部材20の外表面上に第1の金属からなる金属膜を巻くことにより形成されることを特徴としている。これにより、第1パイプ状部材20の外表面上に厚みの薄い第1金属被覆層30を容易に形成できる。
【0061】
上記酸化物超電導線材100の製造方法において好ましくは、第1の金属は、ニッケル、コバルト、およびチタンからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることを特徴としている。これらの物質は、銀への固溶度が低いため、熱処理工程(S80)で第2金属被覆層40を第2絶縁体140にしても、これらの物質からなる第1の金属の酸化物からなる第1絶縁体130により第2の金属の第1パイプ状部材20への拡散をより防止できる。
【0062】
上記酸化物超電導線材100の製造方法において好ましくは、第2金属被覆層40は、第2の金属からなるパイプ状部材の内部に第1金属被覆層30を挿入することにより形成されることを特徴とする。これにより、第2金属被覆層40を第1金属被覆層30の外表面上に容易に形成できる。
【0063】
上記酸化物超電導線材100の製造方法において好ましくは、第2の金属は、銅およびアルミニウムの少なくとも一方からなる。これらの物質は加工性が非常に良好であるので、より均一な厚みの第2金属被覆層40を形成できる。その結果、酸化物超電導体110の交流損失をより低下することができる。
【0064】
上記酸化物超電導線材100の製造方法において好ましくは、第1の金属はニッケルであり、第2の金属は銅である。これにより、コストを低減して、第2の金属の拡散を第1金属被覆層30によりより効果的に抑制できる。
【0065】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態および実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法により製造される酸化物超電導線材は、交流損失を低減できるとともに、超電導特性の低下を防止することができる。そのため、本発明の酸化物超電導線材の製造方法により製造される酸化物超電導線材は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、および電力貯蔵装置などの超電導機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における充填する工程を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態における第1金属被覆層を形成する工程を示す概略斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態における単芯線を得る工程を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態における別の酸化物超電導線材を示す概略断面図である。
【図7】従来の酸化物超電導線材の製造方法における圧延後の酸化物超電導体の状態を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0068】
10 前駆体粉末、20 第1パイプ状部材、30 第1金属被覆層、40 第2金属被覆層、50 単芯線、100 酸化物超電導線材、110 酸化物超電導体、120 第2パイプ状部材、130 第1絶縁体、140 第2絶縁体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体となるべき前駆体粉末を銀からなる第1パイプ状部材に充填する工程と、
銀と異なる第1の金属からなる第1金属被覆層を前記第1パイプ状部材の外表面上に形成する工程と、
銀および前記第1の金属と異なる第2の金属からなる第2金属被覆層を前記第1金属被覆層の外表面上に形成して、単芯線を得る工程と、
前記単芯線を複数本形成して、複数本の前記単芯線を第2パイプ状部材の内部に挿入して、多芯線を得る工程と、
前記多芯線をテープ状に加工する工程と、
テープ状の前記多芯線を熱処理して、前記前駆体粉末を酸化物超電導体にするとともに、前記第1金属被覆層および前記第2金属被覆層を絶縁体にする熱処理工程とを備え、
前記第1の金属の銀への固溶度は、前記第2の金属の銀への固溶度よりも低く、
前記第1金属被覆層の厚みは、前記第2金属被覆層の厚みよりも小さいことを特徴とする、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記第1金属被覆層は、前記第1パイプ状部材の外表面上に前記第1の金属からなる金属膜を巻くことにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記第1の金属は、ニッケル、コバルトおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記第2金属被覆層は、前記第2の金属からなるパイプ状部材の内部に前記第1金属被覆層を挿入することにより形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記第2の金属は、銅およびアルミニウムの少なくとも一方からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−218220(P2008−218220A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54458(P2007−54458)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】