説明

酸化物陰極及びその製造方法並びにそれに用いる酸化物陰極用炭酸塩の製造方法

【課題】 従来より長い針状の炭酸塩結晶の製造方法、その炭酸塩結晶を用いた酸化物陰極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 アルカリ土類金属の硝酸塩の水溶液に炭酸ガスを流し込みながら、アンモニア水を混合する。炭酸ガスの供給量、アンモニア水の添加量、液温を適宜設定することにより、20〜30μmを越える長さのアルカリ土類金属の炭酸塩結晶を得る。この非常に長い炭酸塩結晶を用いて、酸化物陰極を形成することにより、簡便に、特性の優れた酸化物陰極が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物陰極及びその製造方法並びにそれに用いる酸化物陰極用炭酸塩の製造方法に関する。特に、低抵抗で自己加熱の少ない酸化物陰極及びその製造方法並びにそれに用いる酸化物陰極用炭酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスマグネトロン等の電子管に用いられる陰極にとって、長寿命化は極めて重要な課題の一つである。それは、陰極の寿命が電子管自体の寿命を決める主要素となっているからである。特にマグネトロン用陰極では、電子放射物質が動作時の熱によって蒸発する量より、電子あるいはイオンが電子放射物質に衝突し、その衝撃によって飛散、消耗する量が多い。従って、この電子あるいはイオンの衝撃に対する耐性を高くすることが、マグネトロン用陰極の寿命を長くすることにつながる。そのため、マグネトロン用陰極では、強固な構造体(金属基体)に電子放射物質を含浸あるいは塗布する構造の含浸型陰極や酸化物陰極が用いられている。
【0003】
しかし一般的に含浸型陰極は、多孔質タングステン等の高融点金属を金属基体として使用し、更に含浸等の特殊工程も必要なことから、高価となり、気象観測システムの大型レーダー用マグネトロンのような特殊な用途に限られている。一方酸化物陰極は、安価で、大型レーダー用も含めて、中、近距離用レーダー用として幅広く用いられている。
【0004】
一般的な酸化物陰極は、ニッケル焼結体(マトリックス陰極)やニッケルメッシュ(メッシュ陰極)に球状や扇状のアルカリ土類金属の三元系(バリウム、ストロンチウム、カリウム)あるいは二元系(バリウム、ストロンチウム)の炭酸塩を塗布、あるいは付着させた後、熱分解することで、アルカリ土類金属の酸化物(電子放射物質)とするものである。
【0005】
特にマトリックス陰極は、含浸型陰極に比べて耐イオン衝撃性は多少劣るものの、比較的安価で含浸型陰極に近い特性を得ることができる。また、比較的低い温度でエミッションを得ることができる(具体的には、マトリックス陰極は800〜850℃、含浸型陰極は1050℃)ので、暗電流の抑制にも有効であり、マグネトロンのパルス動作における立ち上がり特性向上にも有利となる。このような特性向上は、レーダーの精度を高めることになる。(マトリックス陰極は、例えば特許文献1に記載されている。)
【0006】
ところで、従来の球状、扇状の酸化物からなる電子放射物質を用いた陰極をパルス動作させる場合、高電流密度で、ロングパルス(例えば、パルス幅3μsec.程度)動作させると、電子放射物質の塗布層に生じる抵抗により、陰極表面でアーキングや自己加熱と呼ばれる現象が生じる場合がある。このアーキングや自己加熱を抑制するために、金属基体をニッケルからなる焼結体構造やメッシュ構造とすることは有効に機能する。しかし、電子放射物質の熱的特性が同じではその抑制効果に限界があり、より有効な電子放射物質の構造が望まれている。
【0007】
なお、電子放射物質として、針状のアルカリ土類金属の炭酸塩結晶を用いることはCRT(陰極線管)の分野で、表面の平滑性や長寿命化の方法として公知である。また電子管の分野においても同様である。しかしながら、従来用いられているアルカリ土類金属の炭酸塩の長さ(長軸)は、10〜15μm程度であった。(針状結晶のアルカリ土類金属の炭酸塩の製造方法は、例えば、特許文献2に記載されている。)
【0008】
しかし、長さが10〜15μm程度の針状結晶では、これをバインダーと混合し、金属基体表面に塗布しても、針状結晶が塗布方向に揃い、球状、扇状の炭酸塩を用いた場合と同様、電子放射物質層の抵抗を小さくする効果はほとんど期待できなかった。
【特許文献1】特開平7−122182号公報
【特許文献2】特開平6−329413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、炭酸塩結晶が針状結晶である方が、球状、扇状結晶の場合よりも電流密度が大きく寿命も長いことが知られている。しかしながら、従来提案されていた炭酸塩の針状結晶の製造方法では、結晶の長軸の長さが10〜15μm程度のものしか得られなかった。この程度の長さの炭酸塩結晶では、球状、扇状の炭酸塩結晶を用いた場合と比較して、特性を大きく改善することができない。本発明は、従来より長い針状の炭酸塩結晶を用い、優れた特性の酸化物陰極およびその製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
さらにまた従来の炭酸塩の製造方法では、針状結晶の長さが、せいぜい15μm程度であった。本発明は、従来より長い針状の炭酸塩結晶の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願第1の発明の酸化物陰極は、金属基体上に、少なくともバリウム酸化物を主成分とするアルカリ土類金属の酸化物を含む電子放射物質層を具備する酸化物陰極において、前記電子放射物質層は、不規則に重なり合った針状の前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を熱分解して形成した針状の前記アルカリ土類金属の酸化物からなることを特徴とする。
【0012】
本願第2の発明の酸化物陰極の製造方法は、金属基体上に、少なくともバリウム酸化物を主成分とするアルカリ土類金属の酸化物を含む電子放射物質層を形成する酸化物陰極の製造方法において、少なくともバリウムを含むアルカリ土類金属の硝酸塩を秤量し、該硝酸塩の水溶液を用意する工程と、該硝酸塩の水溶液に炭酸ガスを流し込みながら、前記硝酸塩の水溶液に水酸化物を加え、針状の前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成する工程と、該針状のアルカリ土類金属の炭酸塩結晶とバインダーとを混合し、該アルカリ土類金属の炭酸塩結晶が不規則に重なり合うように、前記金属基体上に塗布する工程と、前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を熱分解し、不規則に重なり合った針状の前記アルカリ土類金属の酸化物からなる前記電子放射物質層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本願第3の発明の酸化物陰極用炭酸塩の製造方法は、少なくともバリウムを含むアルカリ土類金属の炭酸塩からなる酸化物陰極用炭酸塩の製造方法において、少なくともバリウムを含むアルカリ土類金属の硝酸塩を秤量し、該硝酸塩の水溶液を用意する工程と、該硝酸塩の水溶液に炭酸ガスを流し込みながら、前記硝酸塩の水溶液に水酸化物を加え、針状の前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の酸化物陰極は、長い針状のアルカリ土類金属の酸化物が不規則に重なり合い、その重なり合う部分で結合して連続した構造となっている。本発明のアルカリ土類金属の酸化物は、非常に長いので、重なり合う部分の結合が多くなり、従来より連続性が増した構造となる。そのため、電子放射物質層の抵抗を比較的小さくすることができる。例えば、本発明の酸化物陰極をロングパルスが印加されるマグネトロン用陰極として用いる場合、高電流密度でも、アーキングや自己加熱が少ない、動作特性の優れたマグネトロンを形成することができる。
【0015】
また本発明の酸化物陰極の製造方法は、炭酸アンモニウム溶液により炭酸イオンを供給する代わりに、アルカリ土類金属の硝酸塩を溶解した水溶液に炭酸ガスを含むガスを流し込みながら水酸化物を加えることで、炭酸イオンを供給し、従来に比べて長い針状のアルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成することができる。そして、生成した炭酸塩結晶をバインダーと共に金属基体上に塗布することで、長い針状の炭酸塩結晶が不規則に重なり合い、その状態で熱分解することで、不規則に重なり合い、連続性の増したアルカリ土類金属の酸化物からなる電子放射物質層を形成することができる。本発明の製造方法は、従来の製造方法と比較して、炭酸ガスを流し込む装置を追加するのみで、簡便に酸化物陰極を形成することができる。
【0016】
同様に本発明の酸化物陰極用炭酸塩の製造方法は、炭酸アンモニウム溶液により炭酸イオンを供給する代わりに、アルカリ土類金属の硝酸塩を溶解した水溶液に炭酸ガスを含むガスを流し込みながら水酸化物を加えることで、炭酸イオンを供給することで、従来に比べて長い針状のアルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成することができる。特に、30〜50μm程度の長さの炭酸塩結晶は、従来から提案されている方法では生成することができず、本発明によって生成することができるようになったものである。本発明の製造方法は、従来の製造方法と比較して、炭酸ガスを流し込む装置を追加するのみで、簡便に酸化物陰極用炭酸塩結晶を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の酸化物陰極は、従来より非常に長いアルカリ土類金属の酸化物が不規則に重なり合い、連続性の高い構造を特徴としている。また不規則に重なり合うアルカリ土類金属の酸化物を形成するため、本発明の酸化物陰極の製造方法及び酸化物陰極用炭酸塩の製造方法は、従来と比べて非常に長いアルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成する工程を含むことを特徴としている。以下、酸化物陰極用炭酸塩として用いられるアルカリ土類金属の炭酸塩の製造方法、その製造方法により生成した炭酸塩を用いた酸化物陰極の製造方法および酸化物陰極について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、本発明の酸化物陰極用炭酸塩の製造方法について、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウムからなる三元系炭酸塩の製造方法を例にとり、説明する。図1に製造工程のフローチャートを示す。まず、生成する炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウムの重量比が50:45:5となるように、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム、硝酸カルシウムを秤量し、温純水に溶解させる(S1)。具体的には、10gの炭酸塩を得る場合、硝酸バリウム(Ba(NO32)(純度99.0%)を6.6226g、硝酸ストロンチウム(Sr(NO32)(純度98.5%)を6.4514g、硝酸カルシウム(Ca(NO32・4H2O)(純度98.0%)を11.7974g秤量し、90℃の純水(76ml)に溶解させ、0.8mol/Lの硝酸塩の水溶液を用意する。生成する炭酸バリウム等の重量比は、形成する陰極の所望の特性に応じて設定すればよい。
【0019】
次に図2に示すように、硝酸塩の水溶液10が入った容器11の中に、炭酸ガス(CO2)ボンベ12からホース13を介して多孔質体(100μm程度の気孔のあるガラスフィルター)14を通し、炭酸ガスを送り込む。多孔質体14を通すことにより、送り込まれた炭酸ガスは、いくつもの気泡となり硝酸塩の水溶液10中に放出される(S2)。
【0020】
次に、硝酸塩の水溶液10とほぼ同じ温度(90℃)のアンモニア水(水酸化アンモニウム、NH4OH)を用意し、硝酸塩の水溶液10に加える(S3)。硝酸塩の水溶液10中に放出された炭酸ガスは、硝酸塩の水溶液10中に溶解し、炭酸イオンが生成する。このとき、炭酸ガスの供給は続けた状態としておく。このようにバブリングを続けることで、撹拌、混合を行うとともに、硝酸塩の水溶液10中で消費された炭酸イオンを速やかに補充、供給することができるからである。また、水溶液中のpHの不均一も少なくなり、バラツキの少ない針状結晶を得ることができるからである。なお送り込む炭酸ガスは、必ずしも100%炭酸ガスである必要はなく、炭酸イオンを十分に生成することができれば良い。
【0021】
ここで加えるアンモニアのモル数を硝酸塩のモル数の4倍以上にすることで、特に長い針状の炭酸塩結晶が共沈してくる(S4)。具体的には、アンモニアのモル数を硝酸塩のモル数の4倍、6倍、8倍、10倍としたとき、ほぼ15μm以上の針状結晶を、20倍としたとき、ほぼ20μm以上の針状結晶を、40倍としてときほぼ30μm以上の針状結晶をそれぞれ得ることができた。
【0022】
なお、硝酸塩の水溶液10の温度は、針状結晶の析出の状態に応じて適宜設定すればよい。上記実施例で90℃とした理由は、3元系の炭酸塩の場合、75〜80℃から針状結晶が生成し始め、温度が上昇するに従い、針状結晶の長さが長くなるためである。比較のため、公知であるアルカリ土類金属の硝酸塩の水溶液に炭酸アンモニウム液を加える方法では、80℃でも針状結晶は生じない。また、90℃で針状結晶が生じるが、その長さはほぼ10μm程度である。
【0023】
針状結晶が十分に大きくなった後、炭酸ガスの供給を止める。針状結晶を洗浄するため、温純水でデカンテーションを約50回繰り返す(S5)。
【0024】
その後、針状結晶をろ過乾燥し、針状の炭酸塩結晶を取り出す(S6)。このようにして生成した炭酸塩結晶のSEM写真を図3に示す。図3に示すように、従来の針状結晶の限界であって15μmを越えた、非常に長い針状結晶が得られることがわかる。図3に示すものは、40倍のアンモニアを加えた場合であり、長軸の長さが、ほぼ30μm以上(最大50μm以上)であることがわかる。
【0025】
このように本発明の炭酸塩の製造方法では、非常に簡便な方法で、従来の2倍以上の長さの針状結晶を得ることができた。アンモニアの添加量、炭酸ガスの供給量、液温を調整することにより、水溶液のpH、炭酸イオン濃度が変化し、炭酸塩の溶解度が変化し、生成する針状結晶の長さは変化する。従って、所望の長さとなるように、アンモニアの添加量、炭酸ガスの供給量、液温等を適宜調整すればよい。なお、上記説明は三元系炭酸塩の製造方法について説明したが、バリウム、ストロンチウムからなる二元系炭酸塩の場合は、更に針状結晶が生成しやすく65〜70℃から同様の針状の炭酸塩結晶を得ることができる。二元系炭酸塩の製造方法においても、アンモニアの添加量、炭酸ガスの供給量、液温等を適宜調整すればよい。
【実施例2】
【0026】
次に上記実施例1で説明した炭酸塩結晶を用いて酸化物陰極を形成する製造方法について説明する。まず、例えば実施例1で説明した方法により生成した長さ20μm以上の炭酸塩結晶を用意する。この炭酸塩を、酢酸ブチルとニトロセルロース等からなる周知のバインダーに混合する(図1、S7)。その後、ニッケル焼結体(マトリックス)あるいはニッケルメッシュ構造の金属基体表面に塗布する。ここで、本発明に使用される炭酸塩は、非常に長いため、結晶それぞれが同じ方向に揃うことがなく、繊維が絡み合うように、不規則に重なり合った状態で、塗布される。
【0027】
金属基体上に塗布された炭酸塩とバインダーの混合物は、高真空雰囲気中で加熱することで、アルカリ土類金属の炭酸塩が熱分解し、酸化物となる(S9)。この熱分解により、不規則に重なり合った炭酸塩結晶は、不規則に重なり合った状態で、針状の形状を保ったまま酸化物になる。図4は金属基体上に塗布し、熱分解後の電子放射物質層表面のSEM写真(倍率1000倍)である。酸化物が不規則に重なり合い、その重なり合う部分で結合し、連続した構造となっていることがわかる。
【0028】
ここで、長軸の長さが20μm以上の炭酸塩では、約600℃から炭酸塩同士の焼結による結合が生じ始める。従って、600℃までできるだけ速やかに昇温し、その後600℃で20分程度保持するのが好ましい。この焼結開始温度600℃までゆっくり昇温すると、針状結晶の一部が消失し、結晶サイズが分布してしまい均質の酸化物からなる電子放射層が得られ難くなるからである。
【0029】
その後、さらに昇温すると、650℃程度から炭酸ガス分圧が上昇し始めて、熱分解が始まったことが確認される。さらに約750〜850℃の間で再び温度を保持する。そして、分解によって発生する炭酸ガス分圧の変化をみながら、熱分解が完全に終了した(炭酸ガス分圧が分解前のレベルになった)ことを確認した後、必要に応じて更に、フラッシング温度(1050℃・、エージング温度(800℃)等の条件で加熱を行い、熱分解工程を終了する。
【0030】
以上のような製造方法によれば、針状の酸化物が不規則に重なり合い、その重なりあう部分で結合した電子放射層を容易に形成することができる。
【0031】
なお、焼結のための熱処理条件は、炭酸塩の寸法等によって、あるいは使用する酸化物陰極の用途により、温度、時間は異なり、熱分解後の電子放射物質層が、所望の構造を保つように適宜設定すればよい。
【0032】
このように本発明の酸化物陰極の製造方法は、実施例1で説明した酸化物陰極用炭酸塩結晶を用いることのみで、従来の酸化物陰極の製造方法と何ら変わるところがない。なお、実施例1同様、二元系炭酸塩結晶を用いて酸化物陰極を形成することができることは言うまでもない。
【実施例3】
【0033】
次に上記実施例2で説明した製造方法により形成した酸化物陰極について説明する。図5に、本発明の酸化物陰極を用いたマグネトロンの模式図を示す。図5において、1は酸化物陰極、2は酸化物陰極を取り囲むように配置された陽極、3は所望の空孔率のニッケル焼結体あるいはニッケルメッシュ構造の金属基体、4は金属基体3表面に形成された電子放射物質層、5はエンドハットである。
【0034】
本発明の酸化物陰極は、中空の金属基体3中に配置されたヒーター(図示せず)によって加熱されると、電子放射物質層4表面から熱電子が放出する。ここで、本発明の酸化物陰極では、電子放射物質層4表面は、実施例2で説明した図4に示すように、長い針状結晶が重なり合い、連続した形状となっている。その結果、電子伝導性、熱伝導性に優れ、電気抵抗及び熱抵抗が低くなる。また、マグネトロン用陰極として動作させる場合、エッジ効果により、二次電子の放出も多くなり、熱電子と合わせて高電流密度の酸化物陰極が形成できる。
【0035】
図6(a)は本発明の酸化物陰極を電子管に搭載した時の2極間特性(陽極電流(Ib)−陽極電圧(Epy)特性)のグラフを示す。比較のため、球状のアルカリ土類金属の炭酸塩を用いて形成した従来の酸化物陰極を電子管に搭載した時の2極間特性(陽極電流(Ib)−陽極電圧(Epy)特性)のグラフを図6(b)に示す。図6では、フィラメント電流(If)を変化させて陽極電流−陽極電圧特性の変化をみている。フィラメント電流が大きいほど、陰極の温度が高いことを意味している。図6より、本発明の酸化物陰極は、フィラメント電流が低い状態、即ち陰極の温度が比較的低い状態で、高い電流値が得られていることがわかる。また、例えば図中If=0.8A、2.0Aの温度制限領域での傾きを比較すると、従来の酸化物陰極に比べて本発明の酸化物陰極の方が、傾き(ΔI/ΔV)が小さくなっており、理論値に予想されるショットキー効果に近い特性を示している。この結果は、本発明の酸化物陰極の方が自己加熱が小さいことを示しているおり、低抵抗となっている傍証となる。
【0036】
以上のように、本発明の酸化物陰極は、実施例1で説明した酸化物陰極用炭酸塩結晶を用い、実施例2で説明した製造方法より形成することで、特性の改善を実現することができた。なお、実施例1、実施例2同様、二元系炭酸塩結晶を用いて酸化物陰極を形成することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の酸化物陰極用炭酸塩の製造方法及び酸化物陰極の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の酸化物陰極用炭酸塩の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の酸化物陰極用炭酸塩の製造方法より生成した炭酸塩結晶のSEM写真である。
【図4】本発明の酸化物陰極の製造方法により生成した酸化物陰極の電子放射物質層表面のSEM写真である。
【図5】本発明の酸化物陰極を用いたマグネトロンの模式図である。
【図6】本発明の酸化物陰極及び従来の酸化物陰極を用いた電子管の陽極電流−陽極電圧特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1:酸化物陰極、2:陽極、3:金属基体、4:電子放射物質、5:陰極スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体上に、少なくともバリウム酸化物を主成分とするアルカリ土類金属の酸化物を含む電子放射物質層を具備する酸化物陰極において、
前記電子放射物質層は、不規則に重なり合った針状の前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を熱分解して形成した針状の前記アルカリ土類金属の酸化物からなることを特徴とする酸化物陰極。
【請求項2】
金属基体上に、少なくともバリウム酸化物を主成分とするアルカリ土類金属の酸化物を含む電子放射物質層を形成する酸化物陰極の製造方法において、
少なくともバリウムを含むアルカリ土類金属の硝酸塩を秤量し、該硝酸塩の水溶液を用意する工程と、
該硝酸塩の水溶液に炭酸ガスを流し込みながら、前記硝酸塩の水溶液に水酸化物を加え、針状の前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成する工程と、
該針状のアルカリ土類金属の炭酸塩結晶とバインダーとを混合し、該アルカリ土類金属の炭酸塩結晶が不規則に重なり合うように、前記金属基体上に塗布する工程と、
前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を熱分解し、不規則に重なり合った針状の前記アルカリ土類金属の酸化物からなる前記電子放射物質層を形成する工程と、を含むことを特徴とする酸化物陰極の製造方法。
【請求項3】
少なくともバリウムを含むアルカリ土類金属の炭酸塩からなる酸化物陰極用炭酸塩の製造方法において、
少なくともバリウムを含むアルカリ土類金属の硝酸塩を秤量し、該硝酸塩の水溶液を用意する工程と、
該硝酸塩の水溶液に炭酸ガスを流し込みながら、前記硝酸塩の水溶液に水酸化物を加え、針状の前記アルカリ土類金属の炭酸塩結晶を生成する工程と、を含むことを特徴とする酸化物陰極用炭酸塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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