説明

酸化珪素製造用原料及びその製造方法、ならびに酸化珪素及びその製造方法

【解決手段】珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結させてなり、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gであることを特徴とする酸化珪素製造用原料。
【効果】本発明の酸化珪素製造用原料及びその製造方法によれば、酸化珪素製造時の反応性を低下させることなく、反応器単位容積あたりの原料充填率を高め、さらに吸湿を抑制し、安定した物性の酸化珪素を効率よく製造でき、装置部材の劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装用フィルム蒸着用、リチウムイオン二次電池負極活物質等として好適に使用される酸化珪素の製造に用いられる酸化珪素製造用原料及びその製造方法、ならびに酸化珪素及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化珪素粒子の製造方法として、二酸化珪素系酸化物粒子からなる混合原料を減圧非酸化性雰囲気中で熱処理し、SiO蒸気を発生させ、このSiO蒸気を気相中で凝縮させて、0.1μm以下の微細アモルファス状のSiO粒子を連続的に製造する方法(特許文献1:特開昭63−103815号公報参照)、及び原料珪素を加熱蒸発させて、表面組織を粗とした基体の表面に蒸着させる方法(特許文献2:特開平9−110412号公報参照)が知られており、いずれの方法においても、酸化珪素製造用原料は、二酸化珪素系酸化物粒子とそれを還元する物質、例えば金属珪素、炭素との混合物が用いられていた。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−103815号公報
【特許文献2】特開平9−110412号公報
【特許文献3】特許第3824047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化珪素の製造は、いずれにしても下記式に示すような固・固反応により、酸化珪素を製造するものであり、反応には固体同士の接触面積を含む接触効率が重要である。
SiO2(s)+Si(s)→2SiO(g)
SiO2(s)+C(s)→SiO(g)+CO(g)
しかしながら、上記方法に示された代表的な酸化珪素製造方法において、原料の水分による装置部材の劣化及び配管閉塞、一方で原料の嵩密度が低いため反応器への充填量が少なく、生産性が低くなる等の問題があった。本発明は、安定した物性の酸化珪素を効率よく製造でき、装置部材の劣化も抑制可能な酸化珪素製造用原料及びその製造方法、ならびに酸化珪素製造用原料を用いた酸化珪素及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、原料を用いて混合を十分に行い、得られた混合物を焼結させることで、ゆるめ嵩密度を0.7〜2.0g/cm3と大きくし、さらにBET比表面積を0.01〜30m2/gとした酸化珪素製造用原料を用いることにより、酸化珪素製造時の反応性を低下させることなく、反応器単位容積あたりの原料充填率を高め、さらに吸湿も抑制することで、安定した物性の酸化珪素を効率よく製造し、装置部材の劣化も抑制可能であることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記酸化珪素製造用原料及びその製造方法、ならびに酸化珪素及びその製造方法を提供する。
[1].珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結させてなり、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gであることを特徴とする酸化珪素製造用原料。
[2].珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結することを特徴とする[1]記載の酸化珪素製造用原料の製造方法。
[3].[1]記載の酸化珪素製造用原料を、減圧下で加熱して生成するSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させてなる酸化珪素。
[4].珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結させてなり、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gである酸化珪素製造用原料を得る工程と、
上記酸化珪素製造用原料を、減圧下で加熱して生成したSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させる工程とを含む酸化珪素の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸化珪素製造用原料及びその製造方法によれば、酸化珪素製造時の反応性を低下させることなく、反応器単位容積あたりの原料充填率を高め、さらに吸湿を抑制し、安定した物性の酸化珪素を効率よく製造でき、装置部材の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の酸化珪素製造用原料は、珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結させてなり、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gであるものである。本発明の酸化珪素製造用原料を、減圧下で加熱して生成するSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させることにより酸化珪素を得ることができる。
【0009】
[珪素]
珪素については特に制限されることはなく、金属不純物濃度が各々1ppm以下の高純度シリコン粒子、塩酸で洗浄したのちフッ化水素酸及びフッ化水素酸と硝酸の混合物で処理することで金属不純物を取り除いたケミカルグレードのシリコン粒子、冶金的に精製された金属珪素を粒子状に加工したもの、さらにそれらの合金等を用いることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0010】
珪素粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布における累積90%体積径(D90)が0.01〜100μmが好ましく、0.5〜50μmがより好ましく、0.5〜30μmがさらに好ましい。D90が0.01μm未満だと、製造コストが高くつき不利になるおそれがあり、100μmを超えると酸化珪素製造時の反応性が低下するおそれがある。なお、レーザー回折散乱式粒度分布における累積90%体積径(D90)とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布において、累積90体積%に相当する粒子径をいう。
【0011】
また、BET1点法で測定した比表面積が0.5〜20m2/gが好ましく、1〜10m2/gがより好ましい。比表面積が0.5m2/g未満であると、酸化珪素製造時の反応性が低下するおそれがあり、20m2/gを超えると製造コストが高くつき不利になるおそれがある。
【0012】
[二酸化珪素]
二酸化珪素粒子は、BET1点法による比表面積が50〜400m2/gが好ましく、100〜400m2/gがより好ましく、130〜400m2/gがさらに好ましい。比表面積が50m2/g未満では、酸化珪素製造時の反応性が低下するおそれがあり、400m2/gを超える二酸化珪素は容易に入手しづらい。二酸化珪素としてはヒュームドシリカが好ましい。
【0013】
[酸化珪素製造用原料の製造方法]
本発明の酸化珪素製造用原料は、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gである。上記のような比表面積が大きい二酸化珪素粒子を用いるのにも拘らず、上記性質を有する酸化珪素製造用原料を得る製造方法としては、上記珪素粒子と、二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結する方法が挙げられる。珪素と二酸化珪素との混合物中の配合量は、珪素:二酸化珪素(モル比)が、1.0〜1.3:1の範囲が好ましい。焼結温度は1100〜1350℃が好ましく、1200〜1350℃がより好ましい。温度が1000℃未満では二酸化珪素の溶融が不十分でゆるめ嵩密度の増加が殆どなく、一方、1400℃を超えると珪素の溶融が始まり、酸化珪素製造時の反応性が低下する。非酸化雰囲気下は、珪素の酸化を防止し、酸化珪素製造用原料の珪素と二酸化珪素の比率を崩さないために必要であり、アルゴンやヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。焼結の時間は特に限定されず、1〜3時間程度である。さらに、焼結に使用する装置に特に制限はなく、常圧、非酸化性雰囲気で所定の温度まで昇温可能であればよい。
【0014】
さらに、焼結前に、上記珪素粒子と、二酸化珪素粒子との混合物を圧密化することで、ゆるめ嵩密度の増加が可能になる。さらに、圧密化された混合物を焼結前に乾燥するとよい。混合物の圧密化としては、機械圧、ガス圧又は水圧等で圧密化したり、混合物に水を添加し、その吸着力により圧密化した後、造粒する方法等が挙げられる。圧密化された混合物の乾燥方法は特に限定されないが、120〜500℃で10〜30時間が好ましい。圧密化及び乾燥後のゆるめ嵩密度は0.2〜0.6g/cm3、0.4〜0.6g/cm3がより好ましい。
【0015】
[酸化珪素製造用原料]
酸化珪素製造用原料はゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3であり、1.0〜2.0g/cm3が好ましい。嵩密度を0.7g/cm3以上とすることで、酸化珪素製造時に単位炉内容積に対する酸化珪素製造用原料の仕込み量が増加し、生産性が向上する。また、安定した物性の酸化珪素を効率よく製造することができる。一方、2.0g/cm3を超えると、珪素及び二酸化珪素の真比重に近く、空隙が少なくなり反応性が低下する。また、酸化珪素製造における反応率は100に近ければ近いほどよく、本発明においては93%以上の反応率が可能である。なお、反応率(質量%)は(原料質量−反応残質量)/原料質量×100で求める。
【0016】
本発明における「ゆるめ嵩密度」の測定方法は下記方法による。
試料を、ロートを用いて200mLビーカー(直径67mm×高さ90mmのガラス製)に自由落下させる。ロート排出口からビーカーが設置された面までの高さは270mmとする。
試料を200mL(cm3)まで自由落下させたときの試料質量を1mgの桁まで測定する。この値から、下記式によりゆるめ嵩密度を算出する。試験は3回行い、平均値を小数点以下1位で示す。なお、自由落下後の試料表面が斜めである場合は、表面を平にするが、測定の際にタッピングは行わない。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)=試料の質量(g)/体積(cm3
【0017】
酸化珪素製造用原料のBET1点法で測定した比表面積は0.01〜30m2/gであり、0.01〜10m2/gが好ましく、0.01〜5m2/gがより好ましく、0.1〜1.0m2/gがさらに好ましい。比表面積が大きすぎると、保管時に吸湿し、酸化珪素製造反応時に炉材であるカーボンと水が反応して一酸化炭素が生成するおそれがある。また、SiOガスと反応して二酸化珪素となり配管の閉塞をもたらす。さらに、前述のようにカーボンと水が反応することで炉材の劣化も早くなってしまう。0.01m2/g未満だと空隙が少なく、反応性が低下する。
【0018】
酸化珪素製造用原料の形状は特に限定されないが、酸化珪素製造時の反応性、ハンドリング及び連続供給時の配管閉塞防止の点から、造粒等により、円柱状、板状、角状、アーモンド状、タブレット状、フレーク等の形にするとよい。特に、連続生産を行なう際の原料供給の点から、円柱状又はアーモンド状が好ましい。大きさは、長径10〜30mm、好ましくは12〜25mm、短径2〜15mm、好ましくは6〜12mm、アスペクト比(長径/短径)は、1.5〜10、好ましくは2〜5のペレットが好適である。反応器への充填時及び連続供給時にマッフルの外側や析出室側に流出する問題があるため、球状は好ましくない。なお、これらの形状は3次元であるが、長さ、幅、高さの中で、一番長いものを長径、一番短いものを短径とする。
【0019】
[酸化珪素]
酸化珪素とは、珪素と二酸化珪素との混合物を加熱して生成するSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させて得られる非晶質珪素酸化物であり、一般式SiOxで表され、xの範囲は1.0≦x<1.2が好ましく、1.0≦x≦1.05がより好ましい。本発明の酸化珪素の製造方法としては、上記酸化珪素製造用原料を、減圧下で加熱して生成するSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させる方法が好ましい。
【0020】
具体的には、上記酸化珪素製造用原料を、3000Pa以下、好適には0.1〜100Paの減圧下、1200〜1500℃、好ましくは1300〜1500℃で反応させて発生するSiOガスを冷却して酸化珪素固体として析出させる。この時の減圧度が3000Paを超えると、SiOガスが発生しないおそれがある。また、反応温度が1200℃未満ではSiOガスが発生しないおそれがあり、1500℃を超えると、原料中の珪素が溶融して反応性が悪化するだけでなく、炉を損傷することになる可能性がある。反応時間は特に限定されず、原料の仕込み量に合わせ適宜選定される。
【0021】
酸化珪素は包装用フィルム蒸着用、リチウムイオン二次電池負極活物質等に用いることができ、特にリチウムイオン二次電池負極活物質として好適である。リチウムイオン二次電池負極活物質として用いる場合は、粉砕して酸化珪素粒子とするとよく、レーザー回折散乱式粒度分布における累積50%体積径(D50)が0.1〜50μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記例において、D90、BET比表面積及びゆるめ嵩密度の測定は下記装置及び測定方法で行った。
レ−ザー回折散乱法粒度分布の測定:マイクロトラックMT330(日機装(株)製)を使用して累積90%体積径D90を測定した。
BET比表面積の測定:モデル1201((株)マウンテック製)を使用して窒素吸着1点法で測定した。
ゆるめ嵩密度の測定:マルチテスターMT1000(セイシン企業製)を使用して測定した。測定方法の詳細は上述の方法による。
【0023】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
金属珪素粒子(D90:8.9μm,BET比表面積4.0)29kgとヒュームドシリカ粒子(BET比表面積300m2/g)60kgとを、高速剪断型混合機を用いて粒子充填率30体積%,回転数500rpmの条件で30分混合した後、水89kgを混合した。これをロータリーファイングラニュレーター(ターボ工業製)を用いて造粒し、アーモンド状のペレットを得た。このペレットを150℃で5時間乾燥した。乾燥後のゆるめ嵩密度は0.4g/cm3、BET比表面積は203m2/gであった。
乾燥後のペレットを電気炉で常圧・アルゴン通気下、表中に記載の温度で3時間保持し、焼結した。焼結原料のゆるめ嵩密度、BET比表面積を表1に示す。また、得られた焼結原料を25℃、湿度60%の保管庫で1ヶ月保存した。保存後の水分量(質量%)を表中に示す。焼結原料は全てアスペクト比2のアーモンド状であった。長径及び短径を表1に示す。但し、1500℃焼結のものは溶融したため寸法測定不可であった。
【0024】
上記で得られた原料を使用して、下記方法で酸化珪素を製造した。
マッフル炉(カーボン成型+SiCコートで内寸φ500mm×H500mmの円筒形の縦型、内容積は約0.1m3)に、原料を充填し、真空ポンプを用いて炉内を10Pa以下に減圧した後、ヒーターに通電し、1400℃の温度に昇温して5時間保持した。発生したSiOガスを冷却して酸化珪素固体として析出させた。比較例1の原料では水分の蒸発のため、減圧度が100Paまでしか到達しなかった。
【0025】
珪素、二酸化珪素及び原料の物性、ならびに1ヶ月保存後の水分量、原料充填量及び反応率を表1に示す。
比較例1ではゆるめ嵩密度が低いため充填量が少なくなり、水分による減圧度の悪化が見られた。水蒸気とカーボン部材の反応による部材の劣化も早いと思われる。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結させてなり、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gであることを特徴とする酸化珪素製造用原料。
【請求項2】
珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結することを特徴とする請求項1記載の酸化珪素製造用原料の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の酸化珪素製造用原料を、減圧下で加熱して生成するSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させてなる酸化珪素。
【請求項4】
珪素粒子と二酸化珪素粒子との混合物を、非酸化雰囲気下1000〜1400℃で焼結させてなり、ゆるめ嵩密度が0.7〜2.0g/cm3、かつBET1点法で測定した比表面積が0.01〜30m2/gである酸化珪素製造用原料を得る工程と、
上記酸化珪素製造用原料を、減圧下で加熱して生成したSiOガスを冷却し、酸化珪素固体として析出させる工程とを含む酸化珪素の製造方法。

【公開番号】特開2010−150049(P2010−150049A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327008(P2008−327008)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】