説明

酸化白液、その製造法及びクラフト法漂白パルプの製造法

【課題】 パルプ漂白シーケンスの初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)やアルカリ抽出段等におけるアルカリ源として幅広く使用することができ、かつ該漂白段からの洗浄濾液をクラフト法蒸解工程のパルプ洗浄機における洗浄液として循環利用し、該パルプ洗浄機からの黒液として再生処理して白液(白水)として回収することが可能である、高漂白性の酸化白液とその製造方法を提供する。
【解決手段】 クラフト蒸解に用いられる白液又は酸化白液を過酸化物を用いて酸化処理することにより、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%以下(モル比)である酸化白液を調製すること特徴とする、パルプ漂白段におけるアルカリ源用の酸化白液の製造方法。前記過酸化物のうちの少なくとも一つは過酸化水素であり、前記白液又は酸化白液は、クラフト法蒸解工程における黒液から再生された白液又は該白液を酸素酸化して得られる酸化白液よりなることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ漂白シーケンスの漂白段にアルカリ源として使用する酸化白液に関する。さらに詳しくは、パルプ漂白シーケンスの初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)や酸素又は過酸化水素を添加するアルカリ抽出段等におけるアルカリ源として幅広く使用することができ、かつ該漂白段からの洗浄濾液としてクラフト法蒸解工程のパルプ洗浄機における洗浄液中に添加し、該パルプ洗浄機からの黒液として取り出され、再生処理して白液として回収循環することが可能である、高漂白性の酸化白液とその製造方法、及び該酸化白液を漂白段のアルカリ源として利用したクラフト漂白パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クラフトパルプ製造工程の漂白シーケンスにおける酸素漂白段(酸素脱リグニン段)には、アルカリ源として、蒸解工程で使用される白液を空気酸化して製造した酸化白液が用いられてきた。この酸素漂白段で使用された酸化白液は、洗浄濾液としてクラフト法蒸解工程のパルプ洗浄機における洗浄水として再利用され、最終的には該洗浄機からの蒸解黒液から再生される白液中のナトリウムと硫黄のバランスを一定に保つ役割を果たしているが、再生された白液をそのまま酸素漂白段のアルカリ源として添加すると、再生白液中に含まれる硫化ソーダが酸素漂白に悪影響を及ぼすことがある(特許文献3,非特許文献1,2)。
【0003】
上記のような再生白液中の硫化ソーダは、空気酸化するとチオ硫酸ソーダとなり、このチオ硫酸ソーダは酸素漂白段で安定であり、酸素漂白に悪影響を及ぼさないとされてきたが、近年の研究では、酸素漂白にチオ硫酸イオンが共存すると酸素漂白性が悪くなる、酸素漂白時にチオ硫酸イオンの減少に伴って硫酸イオンの増加が認められるという報告がされている。(非特許文献3,4)
【0004】
一方、酸素漂白時の排水と同様に、漂白工程のアルカリ抽出段からの排水についても蒸解黒液系に循環することを想定した場合、アルカリ抽出段のアルカリ源としては同様の理由で酸化白液が好ましいことになる。しかしながら、漂白工程のアルカリ抽出段では過酸化水素が添加されるケースが多く、アルカリ源として酸化白液を使用すると、酸化白液中に含まれるチオ硫酸イオンと過酸化水素が反応し、漂白効果を低下させてしまうという問題がある(非特許文献5)。
【0005】
これらの問題を解決する方法の一つとして、白液を高温高圧下で酸素酸化し、水硫化イオンを硫酸イオンまで完全酸化し、完全酸化白液として使用する方法がある(非特許文献6,特許文献1)。しかし、この完全酸化方法は170℃程度の高温と、高圧下での処理であることからエネルギー面や製造装置のメンテナンス面で多大なコストがかかるといった問題がある。
【0006】
他の方法として、酸化白液を樹脂に通すことで選択的にチオ硫酸イオンを取り除く方法が提案されている(非特許文献5)。しかし、この方法では、樹脂によるイオン交換を行うため、設備規模が大きくなること、イオン交換時のアルカリロスが生起するという問題がある。
【0007】
他に、オゾン漂白工程で使用された後の未反応オゾン含有ガスを還元性溶液と気液接触させてオゾンを除く方法があり、還元性溶液として硫化ナトリウムを含有する白液、酸化白液、黒液、チオ硫酸ナトリウム溶液が挙げられており、チオ硫酸ナトリウム溶液がオゾン吸収性に優れているとされている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−195468号公報
【特許文献2】特開平9−29064号公報
【特許文献3】米国特許第4053352号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Leader,J.P.,et al,Appita J.,39(6):451(1986)
【非特許文献2】Jamieson,A.,et a1,Tappi J.,70(11):5(1987)
【非特許文献3】Tigerstrom,A.,et al,International Pulp Bleaching Conference 2005,112−118
【非特許文献4】Sankari,M.,et a1,Nordic Pulp and Paper Res.J.,19(2):264(2004)
【非特許文献5】Jemaa,N.,et a1,Pulp and PaperCanada,104(12):36(2003)
【非特許文献6】Hurst,M.M.,et al,Pulp and Paper Canada,101(9):75(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、パルプ漂白シーケンスの初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)やアルカリ抽出段等におけるアルカリ源として幅広く使用することができ、かつ該漂白段からの洗浄濾液をクラフト法蒸解工程のパルプ洗浄機における洗浄液として循環利用することが可能である、高漂白性の酸化白液とその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該酸化白液を循環利用して、クラフト法蒸解工程と、酸素漂白段(酸素脱リグニン段)を初段とし、さらにアルカリ性過酸化水素漂白段を有する漂白工程を一体的に結合したクラフト漂白パルプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、クラフトパルプ蒸解工程に用いられる白液を酸化して得られる酸化白液について種々検討した結果、過酸化物を用いて白液の酸化を行い、白液中の硫黄分を硫酸イオンにまで酸化することで、酸素漂白段(酸素脱リグニン段)やアルカリ性過酸化水素漂白段などのアルカリと酸化剤が共存する処理段の利用に適した酸化白液が得られることを見出し、さらに、該白液中の硫黄分の酸化処理による効果は、生成酸化白液中のチオ硫酸イオン含有量を指標として、その生成白液中の含有量が一定値以下となった場合に達成されることを見い出し、以下の発明を完成させるに至った。
【0012】
(1)クラフト蒸解に用いられる白液又は酸化白液を過酸化物を用いて酸化処理することにより、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%(モル比)以下である酸化白液を調製すること特徴とする、パルプ漂白段におけるアルカリ源用の酸化白液の製造方法。
(2)前記過酸化物のうちの少なくとも一つが過酸化水素であることを特徴とする(1)項記載の酸化白液の製造方法。
(3)前記クラフト蒸解に用いられる白液又は酸化白液は、クラフト法蒸解工程における黒液から再生された白液又は該白液を酸素酸化して得られる酸化白液よりなることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載の酸化白液の製造方法。
【0013】
(4)前記(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の方法により製造された、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%(モル比)以下であるパルプ漂白段におけるアルカリ源用の酸化白液。
【0014】
(5)前記(4)項記載の酸化白液を、パルプの漂白シーケンスの初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)及び/又はアルカリ性過酸化水素漂白段のアルカリ源として用いることを特徴とするパルプの漂白方法。
(6)前記パルプがクラフト法蒸解工程から得られるパルプであることを特徴とする(5)項記載のパルプの漂白方法。
【0015】
(7)黒液を再生白液として循環する黒液再生循環工程を有するクラフト法蒸解工程と、漂白シーケンスの初段に酸素漂白段(酸素脱リグニン段)を有し、さらにアルカリ性過酸化水素漂白段を有する前記蒸解工程からのパルプの多段漂白工程とを接続してなり、
前記クラフト法蒸解工程で使用する白液又は酸化白液と同じ白液を過酸化物で酸化処理して、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%以下(モル比)である酸化白液を調製する白液酸化処理工程と、
該白液酸化処理工程から得られる酸化白液をパルプの漂白シーケンスの初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)及び/又はアルカリ性過酸化水素漂白段のアルカリ源として供給する供給ラインと、
前記酸素漂白段(酸素脱リグニン段)及び/又はアルカリ性過酸化水素漂白段からの洗浄濾液を前記クラフト法蒸解工程の黒液再生循環工程に供給する供給ラインと、
前記黒液再生循環工程からの再生白液の一部を前記白液酸化処理工程に供給する再生白液循環ライン、を有することを特徴とする、クラフト法漂白パルプの製造方法。
(8)前記酸素漂白段(酸素脱リグニン段)及び/又はアルカリ性過酸化水素漂白段からの洗浄濾液を前記クラフト法蒸解工程の黒液再生循環工程に供給する供給ラインは、該酸素漂白段(酸素脱リグニン段)及び/又は過酸化水素添加アルカリ抽出段からの洗浄濾液を、前記クラフト法蒸解工程における蒸解パルプを洗浄するパルプ洗浄機に接続するラインであることを特徴とする、(7)項記載のクラフト法漂白パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クラフト法蒸解工程に用いられる白液又は酸化白液を過酸化物によって酸化して得られた酸化白液を漂白シーケンスのアルカリ性酸化漂白段のアルカリ源として用いることで、酸素漂白段(酸素脱リグニン段)やアルカリ性過酸化水素漂白段のようにアルカリと酸化剤が共存する漂白段の漂白効率を向上させることができる。
また、本発明の酸化白液をアルカリ源として使用した上記酸素漂白段とアルカリ性過酸化水素漂白段を有する多段漂白工程とクラフト法蒸解工程とを、上記両漂白段からの洗浄濾液をクラフト法蒸解工程のパルプ洗浄機における洗浄液として循環利用するためのラインと、該パルプ洗浄機からの黒液を再生処理して得られる白液(白水)の一部を過酸化物による白液酸化処理工程に供給するラインとによって有機的に結合一体化することにより、チップからクラフト法漂白パルプの一貫生産を可能とする連続製造ラインを構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で用いられる酸化白液は、クラフトパルプ蒸解工程及び酸素脱リグニン工程に用いられる白液又は酸化白液を過酸化物を用いて酸化して、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%以下(モル比)となるように調整されている酸化白液である。
チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量の全硫黄原子量に対するモル比は25%(モル比)以下であれば酸素漂白段(酸素脱リグニン段)における漂白性に悪影響を与えることは少ないが、好ましくは10%(モル比)以下、より好ましくは5%(モル比)以下である。
【0018】
上記過酸化物で酸化する白液の種類は、クラフト蒸解に用いることが可能な白液であれば特に限定されるものではなく、通常のクラフト蒸解工程における黒液の再生処理工程から得られる白液、その白液に対してナトリウム分や硫黄分を添加して組成を調整した白液、苛性ソーダと硫化ソーダを混合して調製されている白液、ポリサルファイドを含む白液などが挙げられる。また、通常の白液に対し空気酸化を行った酸化白液、純酸素で酸化を行った酸化白液なども過酸化物による処理対象白液とすることができる。
【0019】
本発明で、白液の酸化に用いられる過酸化物としては、有機過酸化物、無機過酸化物のどちらでも可能であり、特に限定されるものではないが、好適には、過酸化水素が用いられる。また、酸化剤は過酸化物単独には限定されず、酸素など他の酸化剤との併用も許容される。
【0020】
過酸化物の使用割合は、白液・酸化白液中の無機硫黄分の等モルから10倍モル、好ましくは3倍モルから7倍モルで使用される。過酸化物の使用割合が無機硫黄分に対して等モル量未満では酸化が不十分となるし、10倍モルを超えて多く使用すると未反応の過酸化物が残留して効率が悪くなる。
また、過酸化物処理は、通常0℃から100℃の範囲の温度で、白液が凍結したり沸騰したりすることのない条件下に行われる。
【0021】
本発明の酸化白液はチオ硫酸イオン含有量が少ないことから、その使用箇所は、パルプ漂白シーケンスにおける初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)のみならず、アルカリ性漂白段であれば特に限定されるものではないが、好適には、上記酸素漂白段、アルカリ性過酸化水素漂白段、アルカリ性酸素過酸化水素漂白段に用いられる。
蒸解工程からの再生白液を起源とする本発明の酸化白液をアルカリ源として使用した酸素漂白段、アルカリ性過酸化水素漂白段、アルカリ性酸素過酸化水素漂白段の洗浄液は、そのままクラフト蒸解工程の蒸解後の洗浄液として使用してもパルプ製造工程のアルカリバランスを崩すことがないので、上記多段漂白工程の洗浄液を蒸解工程における蒸解後の洗浄液として循環使用することにより、蒸解工程−漂白工程全体のNa/Sバランスを崩さない排水のクローズド化システムを構築することが可能である。
【0022】
本発明の過酸化物で酸化された白液をアルカリ源とする酸素漂白段やアルカリ性過酸化水素漂白段を有する漂白シーケンスで漂白されるパルプは、化学パルプ、古紙パルプ、機械パルプいずれも可能であり、特に限定されるものではないが、好適にはクラフトパルプである。
【実施例】
【0023】
以下の実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
実施例、比較例において、パルプのカッパー価の測定、パルプ白色度の測定、白液及び酸化白液の組成の測定、溶液中の亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、硫酸イオン各量の測定は以下の方法で行った。
なお、薬品添加率は絶乾パルプに対する割合である。
【0024】
(1)パルプのカッパー価の測定
カッパー価の測定は、JIS P 8211に準じて行った。
【0025】
(2)パルプの白色度の測定
白色度の測定は、JIS P 8212に準じて行った。
【0026】
(3)白液及び酸化白液の組成の測定
白液及び酸化白液中のNaOH、NaS、NaCOの組成の測定は、SCAN N−30:85に準じて行った。なお、以下に示した測定値についてはNaO換算を行っている。
【0027】
(4)溶液中の亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、硫酸イオンの測定
亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、硫酸イオンの測定は、SCAN N−36:98に準じて行った。
【0028】
実施例1
NaOH 86.1g/L、NaS 36.2g/L、NaCO 19.Og/Lを含有する白液1Lに対して、60%過酸化水素水170mlを添加して酸化処理を行い、酸化白液を得た。得られた酸化白液中の全硫黄原子中、チオ硫酸イオンの形で存在するものの割合は5%(モル比)であり、NaOH 82.1g/L、NaS 0g/L、NaCO 20.0g/Lを含有した。白色度37.6%、カッパー価14.4の広葉樹未クラフトパルプに対し、1.5質量%の苛性ソーダ量となるように該酸化白液を添加し、酸素圧0.75MPa、温度100℃、時間60分で酸素漂白に供した。該酸素漂白後の白色度は47.7%、カッパー価は9.6であった。
【0029】
比較例1
実施例1で用いた広葉樹未クラフトパルプに対し、実施例1と同様の白液に対して触媒として蒸解黒液を7質量%となる割合で添加し、空気をバブリングさせて製造されたNaOH 110.0g/L、NaS 2.7g/L、NaCO 25.5g/Lを含有し、酸化白液中の全硫黄原子中、チオ硫酸イオンの形で存在するものの割合が78%(モル比)である酸化白液を用いて、実施例1の条件で酸素漂白を行った。該酸素漂白後の白色度は46.0、カッパー価は10.4であった。
【0030】
実施例2
実施例1で得られた酸化白液を用い、白色度68.5%、カッパー価3.2の広葉樹半
クラフトパルプに対し、1.5質量%の苛性ソーダ量となるように該酸化白液を添加し、さらに0.2質量%となる量の過酸化水素を添加し、温度70℃、時間60分でアルカリ性過酸化水素漂白に供した。
アルカリ性過酸化水素漂白後の白色度は77.3%、カッパー価は2.2であった。
【0031】
比較例2
比較例1で用いた酸化白液を用い、白色度68.5%、カッパー価3.2の広葉樹半クラフトパルプに対し、1.5質量%の苛性ソーダ量となるように該酸化白液を添加し、さらに、0.2質量%となる量の過酸化水素を添加し、温度70℃、時間60分でアルカリ性過酸化水素漂白に供した。アルカリ性過酸化水素漂白後の白色度は73.4%、カッパー価は2.6であった。
【0032】
比較例3
試薬品の苛性ソーダを用い、白色度68.5%、カッパー価3.2の広葉樹半クラフトパルプに対し、1.5質量%の苛性ソーダ量となるように該苛性ソーダ水溶液を添加し、さらに、0.2質量%となる量の過酸化水素を添加し、温度70℃、時間60分でアルカリ性過酸化水素漂白に供した。アルカリ性過酸化水素漂白後の白色度は77.4%、カッパー価は2.2であった。
【0033】
実施例3
NaOH 86.1g/L、NaS 36.2g/L、NaCO 19.0g/Lを含有する白液1Lに対して、60%過酸化水素水120mlを添加して酸化処理を行い、酸化白液を得た。得られた酸化白液中の全硫黄原子中、チオ硫酸イオンの形で存在するものの割合は25%(モル比)であり、NaOH 85.3g/L、NaS 0.2g/L、NaCO 20.1g/Lを含有した。
使用した酸化白液を上記酸化白液に変更した以外は実施例1と同様の条件で酸素漂白を行った。該酸素漂白後の白色度は47.4%、カッパー価は9.8であった。
【0034】
比較例3
NaOH 86.1g/L、NaS 36.2g/L、NaCO 19.0g/Lを含有する白液1Lに対して、60%過酸化水素水100mlを添加して酸化処理を行い、酸化白液を得た。得られた酸化白液中の全硫黄原子中、チオ硫酸イオンの形で存在するものの割合は29%(モル比)であり、NaOH 90.1g/L、NaS 0.4g/L、NaCO 19.9g/Lを含有した。
使用した酸化白液を上記酸化白液に変更した以外は実施例1と同様の条件で酸素漂白を行った。該酸素漂白後の白色度は46.2%、カッパー価10.3はであった。
【0035】
実施例4
NaOH 92.2g/L、NaS 2.5g/L、NaCO 12.0g/Lを含有する白液1Lに対して、60%過酸化水素水100mlを添加して酸化処理を行い、酸化白液を得た。得られた酸化白液中の全硫黄原子中、チオ硫酸イオンの形で存在するものの割合は7%(モル比)であり、NaOH 84.4g/L、NaS 0.2g/L、NaCO 10.2g/Lを含有した。使用した酸化白液を上記酸化白液に変更した以外は実施例1と同様の条件で酸素漂白を行った。該酸素漂白後の白色度は47.6%、カッパー価は9.8であった。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の実施例1と比較例1の比較から明らかなように、過酸化物を用いて酸化した酸化白液を用いると酸素漂白性が向上することがわかる。また、表1の実施例2と比較例2、3を比較すること、過酸化物を用いて酸化した酸化白液は、アルカリ性過酸化水素段のアルカリ源として用いた場合、苛性ソーダと同等の漂白性を有することがわかる。表1の実施例1、3と比較例4を比較すると、白液を過酸化物を用いて酸化して得られた酸化白液中のチオ硫酸イオン割合が25%以下でないと酸素漂白性に悪影響を与えることがわかる。また、実施例1と実施例4より、従来の酸化白液について過酸化物で酸化処理を行った酸化白液を用いた漂白は、白液に対して過酸化物酸化を行って製造した酸化白液と同等の効果を奏することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、クラフトパルプ蒸解工程に用いられる白液又は酸化白液を過酸化物によって酸化して得られた酸化白液を用いることで、酸素漂白性を向上させ、及び/又は、アルカリ性過酸化水素段のようにアルカリと酸化剤が共存する漂白段にも白液を使用可能となる。また、チップからクラフト法漂白パルプの一貫生産を効率よく行える連続製造ラインを構成することが可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフト蒸解に用いられる白液又は酸化白液を過酸化物を用いて酸化処理することにより、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%(モル比)以下である酸化白液を調製すること特徴とする、パルプ漂白段におけるアルカリ源用の酸化白液の製造方法。
【請求項2】
前記過酸化物のうちの少なくとも一つが過酸化水素であることを特徴とする請求項1記載の酸化白液の製造方法。
【請求項3】
前記クラフト蒸解に用いられる白液又は酸化白液は、クラフト法蒸解工程における黒液から再生された白液又は該白液を酸素酸化して得られる酸化白液よりなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸化白液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法により製造された、チオ硫酸イオンに由来する硫黄原子量が全硫黄原子量に対して25%(モル比)以下であるパルプ漂白段におけるアルカリ源用の酸化白液。
【請求項5】
請求項4記載の酸化白液を、パルプの漂白シーケンスの初段の酸素漂白段(酸素脱リグニン段)及び/又はアルカリ性過酸化水素漂白段のアルカリ源として用いることを特徴とするパルプの漂白方法。
【請求項6】
前記パルプがクラフト法蒸解工程から得られるパルプであることを特徴とする請求項5記載のパルプの漂白方法。