説明

酸化還元反応用合金触媒の製造方法

【課題】優れた触媒活性が得られる酸化還元反応用合金触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水素−酸素燃料電池の電極触媒として用いられる酸化還元反応用合金触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極触媒層に挟持された電解質層を備える水素−酸素燃料電池が知られている。水素−酸素燃料電池において、アノード電極に還元性ガスである水素ガスを導入すると、式(1)に示すように、水素ガスは、電極触媒層で触媒の作用によりプロトンを生成する。生成したプロトンは、電解質層を介して、カソード電極側の電極触媒層に移動する。
【0003】
一方、アノード電極に水素ガスを導入するとともに、カソード電極に酸化性ガスである酸素ガスを導入すると、式(2)に示すように、前記プロトンが、カソード電極側の電極触媒層で触媒の作用により酸素ガスと反応して水を生成する。そこで、カソード電極とアノード電極とを導線で接続することにより、電流を取り出すことができる。このとき、各電極触媒層は、式(1),(2)の反応を生じさせるための酸化還元反応用触媒として作用する。
【0004】
アノード電極:2H → 4H + 4e ……(1)
カソード電極:O + 4H + 4e → 2HO ……(2)
この種の酸化還元反応用触媒として、白金触媒が知られているが、高価であるので白金使用量の低減が望まれている。そこで、白金使用量を低減した酸化還元反応用触媒として、白金−ニッケル合金触媒が開示されている(特許文献1参照)。この白金−ニッケル合金触媒は、X線回折によれば、合金中に約50原子%のニッケルを含有し、粒子径が4.8nmであるとされている。また、この白金−ニッケル合金触媒は、同重量の白金触媒と比較して1.4倍の触媒活性を備えるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−45061号公報(第2頁下左欄第2行〜下右欄18行参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸化還元反応用合金触媒としては、さらに優れた触媒活性を備えることが望まれる。
【0007】
そこで、前記事情に鑑み、本発明は、さらに優れた触媒活性を得ることができる酸化還元反応用合金触媒の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、前記酸化還元反応用合金触媒がカーボン粉末に担持されている酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、白金とニッケルとの合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒の触媒活性について種々検討を行った。この結果、本発明者らは、白金とニッケルとの合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒において、該合金粒子が外表面に特定のミラー指数の結晶格子面を備えるとともに、特定の平均粒子径を備えるときに優れた触媒活性を示すことを知見した。そして、さらに検討を加えた結果、前記白金とニッケルとの合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒の有利な製造方法を見い出し、本発明に到達した。
【0009】
そこで、前記目的を達成するために、本発明は、白金とニッケルとの合金粒子からなり、該合金粒子の外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える酸化還元反応用合金触媒の製造方法であって、白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流することを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法により得られる酸化還元反応用合金触媒は、前記合金粒子が前記範囲の平均粒子径を備えていることにより、優れた触媒活性を得るために十分な比率のミラー指数{111}の結晶格子面を外表面に備えることができる。ここで、前記ミラー指数{111}の結晶格子面とは、ミラー指数(111)の結晶格子面と等価な面群を指し、ミラー指数(−111),(1−11),(11−1)の結晶格子面等を挙げることができる。
【0011】
前記ミラー指数{111}の結晶格子面は、他の結晶格子面に比較して単位面積当たりの原子数が多く、原子が密に存在しているので、粒子表面から内部への酸素種の侵入を抑制することができる。前記酸素種は、白金の溶出の原因となる化学種であり、酸素原子、水酸イオン等を挙げることができる。
【0012】
また、前記合金粒子は前記範囲の平均粒子径を備えているので、平均粒子径が6nm未満の合金粒子に比較して単位重量当たりの触媒活性表面積が少ない。この結果、本発明の酸化還元反応用合金触媒は、前記合金粒子表面からの白金の溶出と再析出とによって生じる粒子のオストワルド成長が起こりにくく、電気化学的酸化反応の繰り返しに対する安定性に優れ、触媒活性の低下を抑制することができる。
【0013】
また、前記酸化還元反応用合金触媒は、前記合金粒子の平均粒子径が6nm未満の場合は、優れた触媒活性を得るのに十分な比率のミラー指数{111}の結晶格子面を外表面に備えることができない。また、前記合金粒子の平均粒子径が6nm未満の場合は、電気化学的酸化反応の繰り返しに伴い、該合金粒子の粒成長が大きくなるため、触媒活性が著しく低下する。一方、前記酸化還元反応用合金触媒は、前記合金粒子の平均粒子径が20nmを超えても、それ以上の効果を得ることはできない。
【0014】
前記酸化還元反応用合金触媒は、白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流することにより製造することができる。
【0015】
前記のようにすると、白金の塩又は錯体由来の白金カチオンと、ニッケルの塩又は錯体由来のニッケルカチオンとが、前記アルコール中で緩やかに還元され、まず、白金ニッケルのクラスターが形成される。そして次に、前記クラスターから白金ニッケル合金粒子が形成される。前記白金ニッケル合金粒子の形成過程では、該白金ニッケル合金粒子の形状は十四面体であり、その外表面には、ミラー指数{111}の結晶格子面と、ミラー指数{100}の結晶格子面との2種類の結晶格子面が備えられている。
【0016】
このとき、前記クラスターの周辺には前記構成を備える高分子が存在し、該高分子は前記2種類の結晶格子面のうち、ミラー指数{111}の結晶格子面に吸着する。前記高分子は、高分子鎖の一部が有機カチオンとなっており、該有機カチオンとハロゲンアニオンとからなる複数の塩構造を含んでいる。そこで、前記高分子は、ミラー指数{111}の結晶格子面に吸着するに当たり、ハロゲンアニオンがミラー指数{111}の結晶格子面に強固に吸着する一方、該ハロゲンアニオンと前記有機カチオンとの間の静電相互作用が生じる。この結果、前記高分子は、ミラー指数{111}の結晶格子面に対し電気二重層的構成を備えることとなり、該結晶格子面に強固に吸着することができる。
【0017】
前記高分子が前記白金ニッケル合金粒子の外表面においてミラー指数{111}の結晶格子面に強固に吸着するために、ミラー指数{100}の結晶格子面はミラー指数{111}の結晶格子面に挟まれて、中心から外方向へ外表面積を減少させながら成長する。一方、ミラー指数{111}の結晶格子面は、ミラー指数{100}の結晶格子面の成長方向に沿って、その側面に成長する。この結果、前記白金ニッケル合金粒子はその外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることができる。
【0018】
前記のようにして得られた白金ニッケル合金粒子は、正八面体、切頭正八面体、正四面体、切頭正四面体のいずれかの形状となる。尚、前記切頭正八面体とは、正八面体の各頂点を切り落とした形状であり、前記切頭正四面体とは、正四面体の各頂点を切り落とした形状である。
【0019】
また、前記白金ニッケル合金粒子は、前記白金カチオン及びニッケルカチオンが前記アルコール中で緩やかに還元されることに加えて、前記高分子がミラー指数{111}の結晶格子面に強固に吸着するために、急激な成長が抑制される。従って、本発明の製造方法によれば、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える前記白金ニッケル合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒を得ることができる。
【0020】
前記白金の塩又は錯体としては、例えば、白金アセチルアセトナト、酢酸白金、白金エチレンジアミン錯体等を挙げることができるが、白金アセチルアセトナトを用いることが好ましい。
【0021】
前記ニッケルの塩又は錯体としては、例えば、酢酸ニッケル四水和物、硝酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナト錯体等を挙げることができるが、酢酸ニッケル四水和物を用いることが好ましい。
【0022】
前記高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子としては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の酸化還元反応用合金触媒の製造方法では、前記高分子が高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる塩構造を含むことが必要である。高分子鎖中に塩構造を含む高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレン酸ナトリウム等を挙げることができるが、これらの高分子は本発明の酸化還元反応用合金触媒の製造方法に用いても所望の白金ニッケル合金粒子を得ることはできない。これは、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレン酸ナトリウム等における塩構造がハロゲンアニオンと有機カチオンとからなるものではなく、ハロゲンアニオンによるミラー指数{111}の結晶格子面への吸着が起きないためと考えられる。
【0024】
また、前記白金の塩又は錯体と、前記ニッケルの塩又は錯体と、前記高分子とを溶解するアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等を挙げることができるが、エチレングリコールを用いることが好ましい。
【0025】
前記白金の塩又は錯体と、前記ニッケルの塩又は錯体とは、例えば、1:1〜1:3の範囲のモル比で用いることが好ましい。また、前記高分子として前記ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドを用いる場合には、例えば、前記白金の塩又は錯体1モルに対して100〜500mgの範囲の質量で用いることが好ましい。
【0026】
また、前記アルコールに対する前記白金の塩又は錯体の濃度は例えば0.5〜30ミリモル/リットルとすることが好ましく、前記ニッケルの塩又は錯体の濃度は例えば0.5〜90ミリモル/リットルとすることが好ましい。
【0027】
また、前記加熱還流は、例えば不活性雰囲気としてのアルゴン雰囲気下、130〜190℃の範囲の温度、1〜3時間の範囲の時間で行うことが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法では、例えば、白金アセチルアセトナトと、酢酸ニッケル四水和物と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドとをエチレングリコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流することにより、前記白金ニッケル合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒を好適に製造することができる。
【0029】
次に、本発明の酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法の第1の態様は、前述の方法で得られた白金ニッケル合金粒子をカーボン粉末に付着させる工程と、該白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を非酸化雰囲気下で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0030】
前記白金ニッケル合金粒子をカーボン粉末に付着させる工程は、前記還流溶液から該白金ニッケル合金粒子を分離した後、該白金ニッケル合金粒子と該カーボン粉末とを溶媒に分散し、攪拌することにより行うことができる。
【0031】
前記カーボン粉末としては、例えば、カーボンブラック粉末又はカーボンナノチューブ等を挙げることができ、前記白金ニッケル合金粒子に対し、例えば1:9〜1:1の範囲の質量比で用いることができる。また、前記溶媒としては、メタノール、エタノール等を挙げることができ、例えば、前記白金ニッケル合金粒子の濃度が0.3〜12g/リットルの範囲となるようにして用いることができる。
【0032】
次に、前記白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を前記溶媒から分離した後、該白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を非酸化雰囲気下で加熱処理することにより、酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末を得ることができる。
【0033】
前記加熱処理は、例えば非酸化性雰囲気としての水素とアルゴンとの混合雰囲気下、200〜400℃の範囲の温度、1〜3時間の範囲の時間で行うことが好ましい。前記水素とアルゴンとの混合雰囲気は、例えばアルゴン中に4〜10体積%の水素を含む雰囲気を用いることができる。
【0034】
次に、本発明の酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法の第2の態様は、前述の方法で白金ニッケル合金粒子を製造する際に、白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解して得られた溶液にカーボン粉末を分散し、得られた分散液を不活性雰囲気下で加熱還流する工程と、該加熱還流の反応生成物を非酸化雰囲気下で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0035】
ここで、前記白金の塩又は錯体、前記ニッケルの塩又は錯体、前記高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子、これらを溶解するアルコールは、前述の本発明の酸化還元反応用合金触媒の製造方法の場合と全く同一の物を全く同一の範囲の量で用いることができる。前記カーボン粉末は、本発明の酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法の第1の態様の場合と全く同一の物を全く同一の範囲の量で用いることができる。
【0036】
また、前記加熱還流は、前述の本発明の酸化還元反応用合金触媒の製造方法の場合と全く同一にして行うことができる。本態様の製造方法によれば、前記加熱還流の反応生成物として、前記白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を得ることができる。
【0037】
本態様の製造方法では、前記加熱還流の反応生成物としての前記白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を前記還流溶液から分離した後、該白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を非酸化雰囲気下で加熱処理することにより、酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末を得ることができる。前記加熱処理は、本発明の酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法の第1の態様の場合と全く同一にして行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】切頭正八面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子を示す模式図。
【図2】本発明の製造方法で得られた白金ニッケル合金粒子の透過型電子顕微鏡画像。
【図3】本発明の製造方法で得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末に担持されている白金ニッケル合金粒子及び参考例の白金触媒のX線回折パターンを示す図。
【図4】本発明の製造方法で得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末に担持されている白金ニッケル合金粒子の倍率12.5万倍のTEM画像。
【図5】本発明の製造方法で得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末に担持されている白金ニッケル合金粒子の倍率200万倍のSEM画像。
【図6】本発明の製造方法で得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末に担持されている白金ニッケル合金粒子の倍率400万倍の高分解能TEM画像であり、図6(a)は白金ニッケル合金粒子Aの高分解能TEM画像、図6(b)は白金ニッケル合金粒子Bの高分解能TEM画像、図6(c)は白金ニッケル合金粒子Cの高分解能TEM画像。
【図7】本発明の製造方法で得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末に担持されている白金ニッケル合金粒子の擬似電子回折像であり、図7(a)は白金ニッケル合金粒子Aの擬似電子回折像、図7(b)は白金ニッケル合金粒子Bの擬似電子回折像、図7(c)は白金ニッケル合金粒子Cの擬似電子回折像。
【図8】切頭正八面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子を示す模式図であり、図8(a)は所定の角度αから見た図であり、図8(b)は所定の角度βから見た図。
【図9】切頭正四面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子を示す模式図であり、図9(a)は斜視図、図9(b)は所定の角度γから見た図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0040】
本実施形態の製造方法により得られる酸化還元反応用合金触媒は、白金ニッケル合金粒子からなり、該合金粒子が外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備えている。
【0041】
一例として、図1に、切頭正八面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子を示す模式図を示す。図1において、斜線が施されていない白い玉は、切頭正八面体を構成する原子のうち、外表面に露出し且つミラー指数{111}の結晶格子面を形成する原子を示す。また、図1において、右上から左下に延びる斜線が施された玉は、外表面に露出し且つミラー指数{100}の結晶格子面を形成する原子を示す。さらに、図1において、左上から右下に延びる斜線が施された玉は、外表面に露出していない原子を示す。
【0042】
次に、本実施形態における前記白金ニッケル合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒の製造方法について説明する。
【0043】
まず、白金アセチルアセトナト24mgと、酢酸ニッケル四水和物15mgと、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドの35質量%水溶液26μl(白金アセチルアセトナト1モルに対し360mgに相当)と、エチレングリコール50mlとを三ツ口フラスコに加え、混合する。この結果、白金アセチルアセトナトと、酢酸ニッケル四水和物と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドとが、エチレングリコールに溶解された溶液が得られる。
【0044】
次に、前記溶液をアルゴン流通下に140℃の温度で2時間加熱還流した後、大気中で室温まで冷却する。この結果、白金ニッケル合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒を含む黒色溶液を得ることができる。
【0045】
次に、前記黒色溶液50mlに貧溶媒としてのテトラヒドロフランを加えてよく混合し、遠心分離器に掛けて上澄み液を除去して、得られた白金ニッケル合金粒子をメタノール50mlに分散したものの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を図2に示す。図2から、前記白金ニッケル合金粒子は、粒子径が約12nm程度であり、平面視正方形、ひし形、平行四辺形に見え、立体形状が正八面体、切頭正八面体、正四面体、切頭正四面体のものが大部分であり、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面が形成されていることが確認できる。
【0046】
次に、本実施形態における酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法の第1の態様について説明する。
【0047】
まず、本実施形態の酸化還元反応用合金触媒の製造方法により得られた外表面にミラー指数{111}の結晶格子面が形成されている白金ニッケル合金粒子15mgをメタノール50mlに分散させて分散液を得る。次に、前記分散液にカーボンブラック粉末144mgを添加し、マグネチックスターラを用いて室温(20℃)下で12時間撹拌して混合する。前記カーボンブラック粉末としては、ライオン社製カーボンECP(商品名)、Cabot Corporation製Vulcan XC-72(商品名)等を用いることができる。
【0048】
次に、カーボンブラック粉末が分散された前記分散液を、濾紙(有限会社桐山製作所製、商品名:桐山ロート用濾紙No.6)を用いて吸引濾過する。前記濾紙は、3μm以下の孔径を備えている。次に、前記濾紙上に残留した残渣を取り出し、水素とアルゴンとを4:96の体積比で混合してなる混合ガス雰囲気下、300℃の温度で2時間加熱処理する。この結果、酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末を得ることができる。
【0049】
次に、本実施形態で得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末に担持されている白金ニッケル合金粒子について、X線回折装置でX線回折を行った。線源としてはCuを用いた。図3に、得られたX線回折パターンを示す。
【0050】
次に、参考例として、カーボンブラック粉末に担持された白金触媒(田中貴金属工業株式会社製、商品名:TEC10V30E、白金担持量30質量%)について、前記白金ニッケル合金粒子と全く同一にしてX線回折を行った。図3に、得られたX線回折パターンを示す。
【0051】
図3から、本参考例の白金触媒では、メインピークが2θ=40°付近に存在するのに対し、前記白金ニッケル合金粒子では、メインピークが2θ=41.5°付近に存在している。従って、前記白金ニッケル合金粒子は、本参考例の白金触媒と比較してメインピークが高角度側にシフトしていることが明らかであり、白金とニッケルとが合金化していることが明らかである。
【0052】
次に、前記白金ニッケル合金粒子について、エネルギー分散型X線分光装置により組成分析を行った。この結果、前記白金ニッケル合金粒子は、白金:ニッケルの原子数比が66:34であった。
【0053】
また、前記白金ニッケル合金粒子について、図3のメインピークから、次式(3)に示すシェラーの式を用いて平均粒子径を算出したところ、8.5nmであった。
【0054】
L = Kλ / (βcosθ) ……(3)
L:平均粒子径、K:定数(0.9)、λ:波長(1.54Å)、β:半値幅
次に、前記白金ニッケル合金粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。図4に、得られたTEM画像を示す。図4から、前記白金ニッケル合金粒子は、平面視で正方形、菱形、三角形のいずれかをなす合金粒子の集合体であることが明らかである。
【0055】
また、前記TEM画像を画像処理し、前記白金ニッケル合金粒子について平均粒子径を算出したところ、16.7nmであった。前記算出結果から、前記白金ニッケル合金粒子の平均粒子径は、8.5〜16.7nmの範囲にあるものと見積もることができる。
【0056】
次に、前記白金ニッケル合金粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。この結果、前記白金ニッケル合金粒子は、正八面体、切頭正八面体、正四面体、切頭正四面体のいずれかの形状をなす合金粒子の集合体であることが判明した。図5に、前記白金ニッケル合金粒子のうち切頭正八面体の形状をなすもののSEM画像を示す。
【0057】
次に、前記白金ニッケル合金粒子について、高分解能透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:H−9000UHR、高分解能TEM)にて観察した。図6(a),(b),(c)に、前記白金ニッケル合金粒子A,B,Cの高分解能TEM画像を示す。
【0058】
図6(a)から、白金ニッケル合金粒子Aは、平面視が長方形の4つの角が欠けてなる八角形をなすことが明らかである。また、図6(b)から、白金ニッケル合金粒子Bは、平面視が菱形の2つの角が欠けてなる六角形をなすことが明らかである。また、図6(c)から、白金ニッケル合金粒子Cは、平面視が三角形の3つの角が欠けてなる六角形をなすことが明らかである。
【0059】
次に、図6(a),(b),(c)のそれぞれ破線で囲まれた矩形の領域を、高速フーリエ変換処理することにより擬似電子回折像を得た。図7(a),(b),(c)に結果を示す。
【0060】
図7(a)から、白金ニッケル合金粒子Aは、[1−11]及び[−11−1]の位置に電子回折点が存在することが明らかである。従って、図6(a)において、面Sのミラー指数は(1−11)であることが明らかである。ミラー指数(1−11)の結晶格子面はミラー指数(111)の結晶格子面と等価であることから、白金ニッケル合金粒子Aは、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることが明らかである。
【0061】
また、図7(b)から、白金ニッケル合金粒子Bは、[1−11],[−11−1],[−111],[1−1−1],[002],[00−2]の位置に電子回折点が存在することが明らかである。従って、図6(b)において、面SB1のミラー指数は(1−11)であり、面SB2のミラー指数は(−111)であり、面SB3のミラー指数は(002)であることが明らかである。ミラー指数(1−11)の結晶格子面及びミラー指数(−111)の結晶格子面はミラー指数(111)の結晶格子面と等価であることから、白金ニッケル合金粒子Bは、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることが明らかである。
【0062】
また、図7(c)から、白金ニッケル合金粒子Cは、[1−11],[−11−1],[−111],[1−1−1],[002],[00−2]の位置に電子回折点が存在することが明らかである。従って、図6(c)において、面SC1のミラー指数は(1−11)であり、面SC2のミラー指数は(−111)であり、面SC3のミラー指数は(002)であることが明らかである。ミラー指数(1−11)の結晶格子面及びミラー指数(−111)の結晶格子面はミラー指数(111)の結晶格子面と等価であることから、白金ニッケル合金粒子Bは、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることが明らかである。
【0063】
次に、図8(a)に、図1(a)に示す切頭正八面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子を回転し、所定の角度αから見た図を示す。図8(a)は、長方形の4つの角が欠けてなる八角形をなすとともに、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えており、図6(a)に示す白金ニッケル合金粒子Aの高分解能TEM画像の結果と一致している。従って、白金ニッケル合金粒子Aは、切頭正八面体の形状をなし、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることが明らかである。
【0064】
図8(b)に、図1(a)に示す切頭正八面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子を回転し、所定の角度βから見た図を示す。図8(b)は、菱形の2つの角が欠けてなる六角形をなすとともに、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えており、図6(b)に示す合金粒子Bの高分解能TEM画像の結果と一致している。従って、白金ニッケル合金粒子Bは、切頭正八面体の形状をなし、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることが明らかである。
【0065】
次に、図9(a)に、切頭正四面体の形状をなす白金ニッケル合金粒子の模式図を示す。図9(a)において、斜線が施されていない白い玉は、切頭正四面体を構成する原子のうち、外表面に露出し且つミラー指数{111}の結晶格子面を形成する原子を示し、斜線が施された玉は、外表面に露出していない原子を示している。
【0066】
図9(b)に、図9(a)に示す切頭四面体の形状をなす合金粒子を回転し、所定の角度γから見た図を示す。図9(b)は、三角形の3つの角が欠けてなる六角形をなすとともに、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えており、図6(c)に示す白金ニッケル合金粒子Cの高分解能TEM画像の結果と一致している。従って、白金ニッケル合金粒子Cは、切頭正四面体の形状をなし、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えることが明らかである。
【0067】
従って、本実施形態の製造方法の第1の態様により得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末は、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える白金ニッケル合金粒子を担持していることが明らかである。
【0068】
次に、本実施形態における酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法の第2の態様について説明する。
【0069】
まず、白金アセチルアセトナト24mgと、酢酸ニッケル四水和物15mgと、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドの35質量%水溶液26μl(白金アセチルアセトナト1モルに対し360mgに相当)と、エチレングリコール50mlと、カーボンブラック粉末144mgを三ツ口フラスコに加え、混合する。この結果、白金アセチルアセトナトと、酢酸ニッケル四水和物と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドとが、エチレングリコールに溶解されると共に、カーボンブラック粉末がエチレングリコールに分散された分散液が得られる。
【0070】
次に、前記分散液をアルゴン流通下に140℃の温度で2時間加熱還流した後、大気中で室温まで冷却する。この結果、カーボンブラック粉末に付着した白金ニッケル合金粒子からなる酸化還元反応用合金触媒を含む黒色分散液を得ることができる。
【0071】
次に、前記黒色分散液を、濾紙(有限会社桐山製作所製、商品名:桐山ロート用濾紙No.6)を用いて吸引濾過する。前記濾紙は、3μm以下の孔径を備えている。次に、前記濾紙上に残留した残渣を、沸騰したエタノール200mlと、アセトン200mlにより洗浄し、未反応物を除去する。
【0072】
次に、前記濾紙上に残留した残渣を取り出し、水素とアルゴンとを4:96の体積比で混合してなる混合ガス雰囲気下、300℃の温度で2時間加熱処理する。この結果、酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末を得ることができる。
【0073】
次に、本実施形態における製造方法の第2の態様により得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末について、第1の態様により得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末と全く同一の分析を行った。この結果、本実施形態における製造方法の第2の態様により得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末についても、第1の態様により得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末と同様の結果を得ることができた。
【0074】
従って、本実施形態の製造方法の第2の態様により得られた酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末は、外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える白金ニッケル合金粒子を担持していることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金とニッケルとの合金粒子からなり、該合金粒子の外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える酸化還元反応用合金触媒の製造方法であって、
白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流することを特徴とする酸化還元反応用合金触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の酸化還元反応用合金触媒の製造方法において、白金アセチルアセトナトと、酢酸ニッケル四水和物と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドとをエチレングリコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流することを特徴とする酸化還元反応用合金触媒の製造方法。
【請求項3】
白金とニッケルとの合金粒子からなり、該合金粒子の外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える酸化還元反応用合金触媒がカーボン粉末に担持されている酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法であって、
白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解し、得られた溶液を不活性雰囲気下で加熱還流する工程と、
該加熱還流の反応生成物である白金ニッケル合金粒子をカーボン粉末に付着させる工程と、
該白金ニッケル合金粒子が付着したカーボン粉末を非酸化雰囲気下で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法。
【請求項4】
白金とニッケルとの合金粒子からなり、該合金粒子の外表面にミラー指数{111}の結晶格子面を備えると共に、6〜20nmの範囲の平均粒子径を備える酸化還元反応用合金触媒がカーボン粉末に担持されている酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法であって、
白金の塩又は錯体と、ニッケルの塩又は錯体と、高分子鎖中にハロゲンアニオンと有機カチオンとからなる複数の塩構造を含む高分子とをアルコールに溶解して得られた溶液にカーボン粉末を分散し、得られた分散液を不活性雰囲気下で加熱還流する工程と、
該加熱還流の反応生成物を非酸化雰囲気下で加熱処理する工程とを含むことを特徴とする酸化還元反応用合金触媒担持カーボン粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−120981(P2012−120981A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273920(P2010−273920)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】