説明

酸化還元反応装置

【課題】 外部から高電圧を印加しなくても、高効率に酸化還元反応を行うことができる酸化還元反応装置を提供する。
【解決手段】 高濃度ホウ素ドープダイヤモンドにより陽極となる半導体層2を形成する。次に、この半導体層2の一方の面上に、半導体層2と電気的に接続するように半導体層2よりも仕事関数が大きい低濃度ホウ素ドープダイヤモンドにより陰極となる半導体層3を形成して電極対1とする。このとき、半導体層2と半導体層3との仕事係数の差を0.03乃至9eVとする。そして、この電極対1を陽イオン及び陰イオンを含む溶液4中に浸漬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金、めっき、廃液処理及び電気分解等に使用される酸化還元反応装置に関し、特にアルミニウム精錬装置として好適な酸化還元反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化還元反応は、金属等の酸化還元電位、半導体のフェルミレベル、溶液のpH、電極電位及び温度等をパラメータとして、イオンが発生したり、イオンから金属及び気体等が生成したり、有機物等の化合物が分解されたりする反応である。従来、このような酸化還元反応を利用した装置が実用化されており、冶金、めっき、廃液処理及び電気分解等に利用されている(例えば、特許文献1参照。)。従来の酸化還元反応装置においては、一般に陽極及び陰極となる1対の電極間に隔膜が設けられており、陽極と隔膜との間隙及び陰極と隔膜との間隙に夫々電解液が供給され、陽極及び陰極で酸化還元されて排水される。
【0003】
また、特許文献1に記載の酸化還元装置は、小型で低電力消費でありながら高効率な酸化還元反応を起こすことを目的として、電極が陽イオン濃縮体と陰イオン濃縮体とを交互に挟持し、且つ電極自身に電解液が通水するような構造にしている。図9は特許文献1に記載の酸化還元装置の構成を示す断面図である。図9に示すように、特許文献1に記載の酸化還元装置100は、電極103の一方の面側に陽イオン交換膜102を配置されており、この陽イオン交換膜102を電極103及び電極101aにより挟持している。また、電極103の他方の面側には、陰イオン交換膜104が配置されており、この陰イオン交換膜104を電極103及び電極101bにより挟持している。この酸化還元装置100は、電極101a、101b及び103に電解液が通水する通水経路が形成されているため、陽イオン交換膜102及び陰イオン交換膜104で濃縮された電解液を、圧力損失を発生させずに効率よく電気分解することができる。
【0004】
このような従来の酸化還元装置においては、基材及び電極材料として、金属材料又はグラファイト等の導電性材料が使用されている。また、電極をTiO及びダイヤモンド等の半導体材料により形成することもある。各種半導体材料の中でも特に、ダイヤモンドは、優れた電極材料として知られている。ダイヤモンドは電位窓が5V以上と広く、ダイヤモンドにより形成された電極(以下、ダイヤモンド電極という)で水溶液を電気分解すると、水が分解される電圧よりも低い電圧でフェノール等の有害物質を分解することができる。また、この電位窓の広さにより、ダイヤモンドを溶液中の成分を検出するセンサへ応用する検討もなされている。更に、ダイヤモンド電極は強酸、強アルカリ等の薬液にも侵されないため、前述の特許文献1で使用されている白金電極よりもメンテナンス性に優れており、メンテナンスフリーの化学電極として期待されている。
【0005】
ダイヤモンドは、バンドギャップエネルギーが5.47eVの半導体であり、通常、室温における電気抵抗率は高く、絶縁体と同等であるが、三属元素であるホウ素をドーピングすることによりp型の導電体となり、ホウ素濃度が高くなる程その抵抗率は低くなる。また、表面に水素又はフッ素を吸着させたり、ドーピングしたりすることによっても、部分的にp型の導電体となることが知られている。一方、ダイヤモンドは、五属元素であるリン、六属元素である硫黄、一族元素であるリチウム等をドーピングしたり、イオン注入等の方法で格子欠陥を導入したりすることにより、n型の導電体となる。なお、窒素をドーピングしたダイヤモンドもn型の導電体となるが、ドナー準位が1.7eV又は4eVと深いため、室温付近では実質上絶縁性を示す。
【0006】
また、ホウ素をドーピングしたダイヤモンド層とドーパントをドーピングしていないノンドープ(アンドープ)ダイヤモンド層とを積層することにより、ホウ素ドープダイヤモンド単層よりも優れた整流ダイオード及び発光ダイオードを作製できる。なお、アンドープダイヤモンドの代わりに、リン等のn型ドーパントをドーピングしたダイヤモンド層を積層しても、同様に整流ダイオード及び発光ダイオードを作製することができる。
【0007】
従来、ドープダイヤモンド層とアンドープダイヤモンド層とを積層した構造の電極が提案されている(特許文献2参照。)。図10は特許文献2に記載の電気化学的処理用電極の構造を示す断面図である。特許文献2に記載の電気化学的処理用電極110は、導電性基体111の表面上に、ドーパントがドーピングされたドープダイヤモンド層112と、このドープダイヤモンド層112の少なくとも一部を覆うアンドープダイヤモンド層113とを設けている。アンドープダイヤモンド層113中は電荷拡散要因が少ないため、電荷を効率的に加速することができる。このため、電極110においては、ドープダイヤモンド層112の表面からアンドープダイヤモンド層113に注入された電荷が、アンドープダイヤモンド層113中で加速された上でアンドープダイヤモンド層113の表面まで輸送され、電極表面における被処理物の化学反応を促進する。その結果、電極110は、ダイオキシン等のように、水の酸化還元反応よりも高い電位でないと分解反応が促進されない物質も分解することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−164390号公報
【特許文献2】特開2003−73876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。特許文献1に記載されているような従来の酸化還元反応装置は、金属材料により電極を形成しており、電極表面は白金で被覆されていると思われる。特許文献1には電極材料の仕事関数についての記載はないが、陽極及び陰極を同種の金属材料により形成している場合、それらの仕事関数は同一である。このため、酸化還元反応を開始するためには、各電極間に対象とする反応に応じた反応開始電圧を印加しなければならないという問題点がある。
【0010】
また、電気分解等の酸化還元反応にダイヤモンド電極を適用する場合、ダイヤモンド層がホウ素をドーピングしたp型のダイヤモンドにより形成されていたり、又はダイヤモンド層が単層であったりすると、電極両端が同電位になるため、外部から電圧をかけないと反応が進まないという問題点がある。例えば、特許文献2に記載の電極は、電荷を加速させるために高電圧を印加しなければならない。また、特許文献2に記載の電極は、電荷を加速させることができる低欠陥で、ドーパント濃度が低いアンドープダイヤモンド以外の材料を使用すると、反応効率が低下するという問題点もある。なお、特許文献2に記載の電極は、ドープダイヤモンド層に存在する電荷を、アンドープダイヤモンド層に注入して電極表面まで輸送しているため、電圧印加の向きは、電荷の移動方向、即ち、ダイヤモンド層の積層方向によって決まってしまう。
【0011】
更に、イオン化傾向が高い金属は析出しにくいため、従来の酸化還元反応装置でイオン化傾向が高い金属を電気精錬する場合、大電力が必要であるという問題点もある。金属のイオン化傾向は、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、亜鉛、クロム、鉄の順で高くなる。例えば、アルミニウムを電気精錬する方法としては、酸化アルミニウムに氷晶石を加えて、溶解塩電解によりアルミニウムを得るホール・エール法及びバイヤー法があるが、これらの方法は、反応開始のために高電圧が必要であり、消費電力が多いという問題点がある。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、外部から高電圧を印加しなくても、高効率に酸化還元反応を行うことができる酸化還元反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願第1発明に係る酸化還元反応装置は、第1の半導体層と、前記第1の半導体層よりも仕事関数が大きい第2の半導体層とが電気的に相互に接続された電極対を有し、前記電極対を溶液中に配置したときに、前記第1の半導体層が陰極となってその表面で前記溶液中の陽イオンが還元反応を受け、前記第2の半導体層が陽極となってその表面で前記溶液中の陰イオンが酸化反応を受けることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、電極対を構成する第1の半導体層及び第2の半導体層の仕事関数が相互に異なっているため、陰極となる第1の半導体層及び陽極となる第2の半導体層の表面において電荷又は電位が不均衡になり、この電極対を陽イオン及び陰イオンを含む溶液中に浸漬すると、第1の半導体層、溶液、第2の半導体層の順に電流が流れ、陰極では還元反応が、陽極では酸化反応が夫々進行する。また、本発明の酸化還元反応装置における電極対は自己電池になるため、外部から高電圧を印加しなくても、溶液中の陽イオンが陰極表面で還元されると共に、溶液中の陰イオンが陽極表面で酸化されるため、高効率に酸化還元反応を行うことができる。なお、本発明における仕事関数とは、物質中のフェルミ準位と真空準位とのエネルギー差である。
【0015】
本願第2発明に係る酸化還元反応装置は、第1の半導体層とこの第1の半導体層よりも仕事関数が大きい第2の半導体層とが電気的に相互に接続された第1の電極と、前記第2の半導体層よりも仕事関数が小さい材料により形成された第2の電極と、前記第2の電極と前記第1の半導体層とを電気的に接続する配線と、を有し、前記第2の半導体層及び前記第2の電極が前記溶液に接触するように配置され、前記第1の電極が陽極となって前記第2の半導体層の表面で前記溶液中の陰イオンが酸化反応を受け、前記第2の電極が陰極となってその表面で前記溶液中の陽イオンが還元反応を受ける。
【0016】
本願第3発明に係る酸化還元反応装置は、第1の半導体層とこの第1の半導体層よりも仕事関数が大きい第2の半導体層とが電気的に相互に接続された第1の電極と、前記第1の半導体層よりも仕事関数が大きい材料により形成された第2の電極と、前記第2の半導体層と前記第2の電極とを電気的に接続する配線と、を有し、前記第1の半導体層及び前記第2の電極が前記溶液に接触するように配置され、前記第1の電極が陰極となって前記第1の半導体層の表面で前記溶液中の陽イオンが還元反応を受け、前記第2の電極が陽極となってその表面で前記溶液中の陰イオンが酸化反応を受けることを特徴とする。
【0017】
本願第2及び第3発明においては、仕事関数が相互に異なる第1及び第2の半導体層からなる第1の電極と、第2の電極とが電気的に接続されているため、これらの間で電荷の移動が可能になる。その結果、接続直後は相互に電荷の移動が起こり、各電極表面におけるポテンシャルの不均衡が生じるため、外部高電圧を印加しなくても各電極の表面で酸化還元反応が進行する。また、酸化還元反応が進行している間は、電荷が移動することにより、各電極においてチャージアップ等の電荷蓄積による飽和が起こらずに反応が進行するため、高効率に酸化還元反応を行うことができる。
【0018】
前記第2の電極と前記第1の半導体層とが電気的に接続されている場合、前記第2の電極は、前記第1の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である半導体材料により形成されていることが好ましく、また、前記第2の電極と前記第2の半導体層とが電気的に接続されている場合、前記第2の電極は、前記第2の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である半導体材料により形成されていることが好ましい。これにより、酸化還元反応の反応効率を向上させることができる。ここで、仕事関数が等しいとは実質的に等しいことであり、仕事関数の多少の変動は許容されるものである。
【0019】
また、前記第2の電極と前記第1の半導体層とが電気的に接続されている場合、前記第2の電極と前記配線との間に、前記第2の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である第3の半導体層を設けてもよく、また、前記第2の電極と前記第2の半導体層とが電気的に接続されている場合、前記第2の電極と前記配線との間に、前記第1の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である第4の半導体層を設けてもよい。これにより、反応効率を低下させずに、第2の電極の機械的強度を向上させることができる。なお、第2の電極及び第3の半導体層において、仕事関数が等しいとは実質的に等しいことであり、仕事関数の多少の変動は許容されるものである。更に、前記第2の電極はダイヤモンドにより形成されていてもよい。これにより、酸溶液及びアルカリ溶液にも適用することができる。更にまた、前記第1の半導体層の導電型がn型であり、前記第2の半導体層の導電型がp型であってもよい。
【0020】
更にまた。前記第1及び第2の半導体層はダイヤモンドにより形成することができる。これにより、酸溶液及びアルカリ溶液にも適用することができる。このとき、前記第1の半導体層をn型ドーパントがドーピングされたn型ドープダイヤモンド層とし、前記第2の半導体層をp型ドーパントがドーピングされたp型ドープダイヤモンド層としてもよい。又は、前記第1及び第2の半導体層はp型ドーパントがドーピングされたp型ドープダイヤモンド層でもよく、その場合、前記第1の半導体層は前記第2の半導体層よりもドーパント濃度が低いことが好ましい。又は、前記第1及び第2の半導体層はn型ドーパントがドーピングされたn型ドープダイヤモンド層でもよく、その場合、前記第1の半導体層は前記第2の半導体層よりもドーパント濃度が高いことが好ましい。又は、前記第1の半導体層をn型ドーパントがドーピングされたn型ドープダイヤモンド層とし、前記第2の半導体層をドーパントがドーピングされていないアンドープダイヤモンド層としてもよい。又は、前記第2の半導体層をp型ドーパントがドーピングされたp型ドープダイヤモンド層とし、前記第1の半導体層をドーパントがドーピングされていないアンドープダイヤモンド層とすることもできる。これにより、第2の半導体層の仕事関数が第1の半導体層の仕事関数よりも大きくなる。
【0021】
前記p型ドーパントは、例えばホウ素である。また、前記n型ドーパントは、例えば、窒素、リン、酸素及び硫黄からなる群から選択された少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。
【0022】
また、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とは、積層又は貼り合わせにより電気的に接続されていてもよい。更に、前記第1の半導体層又は前記第2の半導体層の表面の少なくとも一部にイオン析出促進層を設けてもよい。これにより、反応速度を向上させることができる。
【0023】
この酸化還元反応装置は、例えば、フッ酸が含まれている溶液及び金属イオンが含まれている溶液に適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、陰極となる第1の半導体層及び陽極となる第2の半導体層の仕事関数が相互に異なっているため、これらの表面の電荷又は電位が不均衡になり、外部から高電圧を印加しなくても、前記溶液中の陽イオンが陰極表面で還元されると共に、前記溶液中の陰イオンが陽極表面で酸化され、高効率に酸化還元反応を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る酸化還元反応装置について、添付の図面を参照して具体的に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態に係る酸化還元装置について説明する。図1は本実施形態の酸化還元反応装置の構造を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の酸化還元反応装置は、半導体層2の一方の面上に、この半導体層2よりも仕事関数が小さい半導体層3が形成され、半導体層2と半導体層3とが電気的に接続されている電極対1を備えている。この電極対1を正イオン(陽イオン)及び負イオン(陰イオン)を含む溶液中に浸漬すると、半導体層2が陽極となり、半導体層3が陰極となって、半導体層3、溶液、半導体層2の順に電流が流れる。
【0026】
本実施形態の酸化還元反応装置においては、仕事関数が相互に異なる2つの半導体層を電気的に接続しているため、陽極となる半導体層2の表面及び陰極となる半導体層3の表面の電荷又は電位が不均衡になる。これにより、陽極表面では溶液中の負イオンが酸化されると共に、陰極表面では溶液中の正イオンが還元される。また、この酸化還元反応装置の電極対1は、自己電池になるため、外部電源から電圧を印加しなくても、半導体層2及び半導体層3の表面で酸化還元反応が進行する。
【0027】
本実施形態の酸化還元反応装置の電極対1における半導体層2と半導体層3との仕事関数の差は、0.03乃至9eVであることが好ましく、より好ましくは0.06乃至5eVである。例えば、室温が300K(27℃)の場合、室温の熱エネルギーは約26meVである。半導体層2と半導体層3との仕事関数の差が室温の熱エネルギーよりも小さいと、これらの間の仕事関数の差が室温の熱エネルギーにより埋められてしまうため、半導体層2及び半導体層3の表面で酸化還元反応は起こらない。半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を有効にし、これらの表面で酸化還元反応を進行するためには、仕事関数差を室温の熱エネルギーよりも充分に高く、即ち、30meV以上とすることが好ましい。なお、室温が変化しても安定して酸化還元反応を進行するためには、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を60meV以上にすることが好ましい。半導体層2と半導体層3との仕事関数の差は、30meV以上であれば用途に応じて適宜設定することができるが、その値が大きすぎると半導体層2と半導体層3との接合部分の電気抵抗が増大し、電力損失を招く。このため、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差は9eV以下にすることが好ましい。なお、溶液が水を含む場合は、5eV以下にすることが好ましい。これにより、水の電気分解を抑制することができる。
【0028】
半導体材料には、p型及びn型の2種類の導電型があるが、一般に、主原料が同じであっても導電型が異なる場合は、仕事関数は異なる。従って、半導体層2及び半導体層3を夫々導電型が異なる半導体材料により形成することにより、陰陽両極表面の電荷又は電位を不均衡にすることができる。
【0029】
また、抵抗率が相互に異なる半導体材料は、フェルミ準位が異なっているため、仕事関数も相互に異なる。これは、ドープされているドーパントの種類が同じ場合でも、異なる場合でも同様である。このため、半導体層2を低抵抗率半導体材料により形成し、この高抵抗率半導体材料よりも抵抗が高い高抵抗率半導体材料により半導体層3を形成することもできる。このとき、半導体層の抵抗は電力損失の原因になるため、低抵抗率半導体材料により形成された半導体層2の抵抗率は、50mΩ・cm以下であることが好ましく、より好ましくは5mΩ・cm以下である。また、半導体層2の抵抗率が5mΩ・cm以下である場合、高抵抗率半導体材料により形成されている半導体層3の抵抗率を1Ω・cm以上とすることが好ましい。これにより、半導体層2及び半導体層3の仕事関数の差を30meVにすることができる。更に、半導体層3の抵抗率を1000Ω・cm以上にすることにより、半導体層2及び半導体層3の仕事関数の差を90meV以上にすることができる。
【0030】
但し、半導体層2及び半導体層3の導電型が相互に等しい場合は、半導体層2と半導体層3との抵抗率の差を100倍以上にすることが好ましい。これにより、半導体層2及び半導体層3の導電型が相互に等しくても、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を30meV以上にすることができる。また、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を1000倍以上にすることがより好ましく、これにより、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を90meV以上にすることができる。なお、半導体層2及び半導体層3の導電型が相互に異なっている場合は、半導体層2と半導体層3との抵抗率の差が100倍未満であっても、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を30meV以上にすることができる。また、半導体層3を高抵抗率半導体材料により形成する場合は、半導体層3における電力損失を最小限に抑制するため、その膜厚を薄くし、表面積を広くして実質的な抵抗値を下げることが好ましい。具体的には、半導体層3の膜厚は0.05乃至5μmとすることが好ましい。
【0031】
半導体材料の抵抗率は、例えば、ドナー及びアクセプターとなるドーパントの濃度を変えたり、活性化率を変化させたりすることにより調節することができる。例えば、ダイヤモンドにより半導体層を形成する場合、p型ドーパントであるホウ素を1000ppmドーピングすると抵抗率は約50mΩ・cmとなり、ホウ素を3000ppmドーピングすると抵抗率は約5mΩ・cmになる。また、ドーパント濃度を低くすると、半導体層の抵抗値は上昇する。
【0032】
本実施形態の酸化還元反応装置における半導体層2及び半導体層3は、例えば、シリコン、ガリウムに砒素、インジウム又はアルミニウム等を添加したもの、窒化ガリウム、炭化シリコン、ガリウムリン、酸化チタン、酸化スズ、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び炭窒化ホウ素等を使用することができる。半導体の仕事関数は、フェルミ準位のエネルギーと真空準位との差で定義される。フェルミ準位は、ドナー及びアクセプタの準位及び濃度により変化するが、その変化範囲はバンドギャップエネルギーの近傍に限られる。即ち、材料が同じであれば、バンドギャップが大きい程フェルミ準位の変化範囲が大きくなり、これに伴い仕事関数の差も大きくなる。半導体層2及び半導体層3は、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び炭窒化ホウ素等のワイドギャップ半導体材料により形成することが望ましい。具体的には、バンドギャップエネルギーは、5eV以上であることが好ましい。これにより、原子間の結合力が強くなるため、薬品等に侵されにくくなる。
【0033】
これらワイドギャップ半導体材料の中でも、特に、ダイヤモンドにより半導体層2及び半導体層3を形成することがより望ましい。前述のシリコン、ガリウムに砒素、インジウム又はアルミニウムを添加したもの、窒化ガリウム、炭化シリコン及びガリウムリン等の半導体、酸化チタン及び酸化スズ等の酸化物半導体、並びにこれらの接合物により形成された電極は、酸及びアルカリに溶解するため用途が制約されてしまう。金属電極も同様であり、イオン化傾向が高い金属は陽イオンになりやすく、電解液に溶解しやすい。また、酸及びアルカリに最も侵されにくい白金であっても、熱王水又は塩酸と過酸化水素水との混合液等の極めて酸化力が高い酸には溶解してしまう。一方、ダイヤモンドは、酸及びアルカリにほぼ不溶であり、この特性は、電流を流しても変わらず、化学的にも安定であるため、電極、即ち、酸化還元反応装置の寿命を著しく延ばすことができる。また、少なくとも、半導体層2及び半導体層3における溶液に接触する部分をダイヤモンドにより形成することにより、種々の溶液に対応可能な酸化還元反応装置を実現することができる。
【0034】
更に、例えば、溶媒に水を含み、酸化還元反応の目的が水と共存する他の物質を分解することである場合、従来の酸化還元反応装置においては、水等の目的とする物質以外の物質の分解にエネルギーが消費され、目的の物質の分解効率が低下することがあった。しかしながら、ダイヤモンドは電位窓が広く、酸化還元反応の過程における酸素及び水素の発生、即ち水の分解を抑制することができるため、溶媒に水を含んでいる場合でも、効率的に目的の物質を分解することができる。同様に、この酸化還元反応装置を電池に適用した場合においても、充放電の過程で水の電気分解を抑制することができるため、反応効率が向上する。
【0035】
半導体層2及び半導体層3をダイヤモンドにより形成する場合、例えば、半導体層2をドーパントが高濃度にドープされている高ドープダイヤモンド層とし、半導体層3を半導体層2よりもドーパント濃度が低い低ドープダイヤモンド層又はドーパントがドープされていないアンドープダイヤモンド層としてもよい。ここで、高ドープダイヤモンド層とは、例えば、ドーパント濃度が1×10乃至1×10ppmであるダイヤモンド層であり、この高ドープダイヤモンド層におけるドーパント濃度は3×10乃至6×10ppmであることがより好ましい。ドーパント濃度を1×10ppm以上にすることにより、ドーパントの活性化率を著しく向上させることができるため、電力損失の原因となる半導体層の抵抗を下げることができる。また、ドーパントを高濃度にドーピングすることにより、例えばドーパントがp型ドーパント、即ち、アクセプタである場合は仕事関数を最大にし、ドーパントがn型ドーパント、即ち、ドナーである場合は仕事関数を最小にすることができる。但し、ドーパント濃度が1×10ppmを超えると、半導体材料の結晶構造が乱れたり、ドーパント原子が対又は塊になったりするため、ドーパントとしての性質が変化してしまう。
【0036】
一方、低ドープダイヤモンド層とは、例えば、ドーパント濃度が10ppm以下であるダイヤモンド層であり、低ドープダイヤモンド層におけるドーパント濃度は、1ppm以下であることがより好ましい。また、低ドープダイヤモンド層(半導体層3)は可能な範囲でドーパント濃度を低くして、高ドープダイヤモンド層(半導体層2)との仕事関数の差が大きくなるようにする。具体的には、低ドープダイヤモンド層(半導体層3)と高ドープダイヤモンド層(半導体層2)との導電型が同じであり、高ドープダイヤモンド層(半導体層2)のドーパント濃度が1×10ppm以上である場合は、低ドープダイヤモンド層(半導体層3)のドーパント濃度を10ppm以下にすることが好ましい。これにより、30meV以上の仕事関数差が得られる。なお、より好ましくは、高ドープダイヤモンド層(半導体層2)のドーパント濃度が3×10乃至1×10ppmであり、低ドープダイヤモンド層(半導体層3)のドーパント濃度が1ppm以下である。これにより、高ドープダイヤモンド層(半導体層2)を低抵抗化すると共に、半導体層2と半導体層3との仕事関数の差を最大にすることができる。
【0037】
また、半導体層2及び半導体層3を形成するダイヤモンドにドーピングされるドーパントとしては、抵抗率を下げる効果が優れ、ダイヤモンド中で安定なホウ素を使用することが好ましい。なお、ダイヤモンド層の表面又はその近傍に水素をドーピングすることによっても、ダイヤモンド層の抵抗率を下げることができるが、現在の技術では、水素をドーピングする方法で、ダイヤモンド層全体を低抵抗にすることができない。更に、水素をドーピングしたダイヤモンド層は、表面にイオンが吸着することにより、容易に抵抗率が変化してしまうため、酸化還元反応用電極としては使用することができない。更に、ホウ素以外の元素では、十分に低い抵抗率を安定して得ることはできない。
【0038】
本実施形態の酸化還元反応装置においては、半導体層2及び半導体層3に、相互に異なるドーパントをドーピングしてもよい。ダイヤモンド中に比較的固溶しやすい元素としては、前述のホウ素以外に、窒素、リン、酸素、硫黄、ニッケル、リチウム及び水素等が挙げられる。これらの元素のうち、現時点では、ホウ素がアクセプタとなり、窒素、リン、酸素、硫黄又はこれらの元素を含む複合欠陥がドナーとなることが知られている。このため、例えば、半導体層2及び半導体層3のいずれか一方にホウ素を、他方に窒素、リン、酸素及び硫黄からなる群から選択された少なくとも1種の元素をドーピングする。但し、現在の技術では、ホウ素以外の元素をドーピングしてもダイヤモンド層の抵抗率を十分に低くすることはできないため、半導体層2及び半導体層3に、相互に異なるドーパントをドーピングする場合は、半導体層2としてホウ素を高濃度にドーピングした低抵抗ダイヤモンド層を形成し、この半導体層2上に半導体層3として、窒素、リン、酸素及び硫黄からなる群から選択された少なくとも1種の元素をドーピングした高抵抗ダイヤモンド層を形成することが好ましい。
【0039】
なお、電極対1を構成する半導体層2及び半導体層3に、夫々複数種の元素をドーピングしてこれらを相互に補償させることにより、半導体層2及び半導体層3の仕事関数を調節してもよい。これにより、用途に応じて所望の仕事関数差を制御性よく得ることができる。この場合、補償率が大きい程、半導体層の抵抗率は高くなる。
【0040】
更に、半導体層2及び半導体層3は、例えば、積層又は貼り合わせにより相互に電気的に接続することができる。これにより、外部配線及び保持部材が不要になるため、半導体層2及び半導体層3の表面が溶液に接触するように、酸化還元反応装置を溶液中に浸漬することにより、この酸化還元反応装置の自己電池機能により酸化還元反応を開始することができる。
【0041】
更にまた、本実施形態の酸化還元反応装置における電極対1の表面、即ち、半導体層2及び半導体層3の表面に、イオン析出促進層を設けてもよい。このイオン析出促進層に含まれるイオン析出促進材としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化スズ等を使用することができる。これらのイオン析出促進材は、酸化還元反応装置により、溶液中に含まれるイオンを析出させる際に核となるため、イオン析出反応を促進することができる。なお、これらのイオン析出促進材は、一般的に、フッ酸又はバッファードフッ酸に溶解しやすいが、本発明者等は、電極対のうち、仕事関数が小さい半導体層3の表面にイオン析出促進層を形成することにより、イオン析出促進材が溶解しにくくなることを見出した。そこで、本実施形態の酸化還元反応装置においては、イオン析出促進材が溶解しやすい溶媒を含む溶液に適用する場合には、半導体層3の表面にイオン析出促進層を形成する。これにより、従来、イオン析出促進材が溶解するために、適用できないとされていた溶液も処理することができる。また、前述のイオン析出促進材の代わりに、析出させようとするものを、半導体層2及び半導体層3の表面に予め薄くコーティングすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0042】
次に、本実施形態の酸化還元反応装置の動作について説明する。図2は本実施形態の酸化還元反応装置の動作を示す断面図である。図2に示すように、本実施形態の酸化還元反応装置の電極対1を、正イオン及び負イオンを含む酸溶液又はアルカリ溶液からなる溶液4中に浸漬すると、半導体層3が陰極、半導体層2が陽極として夫々作用し、半導体層3の表面に正イオンが、半導体層2の表面に負イオンが、夫々引き寄せられ、半導体層3、溶液4、半導体層2の順に電流が流れる。そして、この溶液4中に金属イオンが含まれていると、溶液4中の金属イオンが陰極表面、即ち、半導体層3の表面に析出する。このとき、溶液4の主溶媒はフッ酸であることが好ましい。フッ素は電気陰性度が大きいため、フッ酸中のフッ素原子(F)又はフッ化水素分子(HF)が半導体層の表面に接触すると、半導体層の表面近傍のエネルギーバンドが大きく曲がり、電子密度が高くなる。このため、溶液4の主溶媒をフッ酸にすると電子を溶存正イオン等に受け渡しやすくなり、反応促進効果を増大することができる。
【0043】
図3(a)及び(b)はこの酸化還元反応装置によりアルミニウムが析出する反応をその工程順に示す断面図である。図3(a)に示すように、例えば、アルミニウムイオン(Al3+)を含み、溶媒の主成分がフッ酸である溶液4中に、電極対1を浸漬すると、図2(b)に示すように、陰極である半導体層3の表面に、アルミニウムが析出してアルミニウム析出層5が形成されると共に、陽極である半導体層2表面において、フッ素(F)が発生する。
【0044】
アルミニウムは、イオン化傾向が大きく、酸及びアルカリに溶解しやすいが、本実施形態の酸化還元反応装置を使用することにより、アルミニウムイオン(Al3+)を含む溶液4から効率よくアルミニウムを析出させることができる。本実施形態の酸化還元反応装置は、外部電源を使用しなくても酸化還元反応が開始するため、イオンを析出させるためのエネルギーは不要である。なお、外部電源から電圧を印加することにより、反応速度を早くすることができるが、その場合でも反応を開始するために電圧を印加する必要がないため、この酸化還元反応装置を電気精錬に適用することにより、安価で高効率に精錬することができる。
【0045】
なお、特許文献2に記載の電極は、ドープダイヤモンド層の表面をアンドープダイヤモンド層で覆っているが、この電極は、ドープダイヤモンド層とアンドープダイヤモンド層における材料中の電子1個が外に飛び出すために必要なエネルギー、即ち、仕事関数の差及びフェルミ準位の差を利用したものではないため、対向する電極材料に関しても特段選定されていない。また、特許文献2に記載の電極は、対向する1対の電極間に電圧を印加することを基本にしているため、電極材料の仕事関数の差及び電極材料の導電型は考慮されていない。
【0046】
また、本実施形態の酸化還元装置は、処理対象物質に電極対1を曝すだけで、酸化還元反応が進行する。例えば、一般的な廃液等を含んだ流水中に電極対1を浸漬したり、又は排気等を含んだ雰囲気中に電極対1を挿入したりするだけで、上述した効果が得られる。更に、処理対象物質が電極対1の有効面を回避して素通りしてしまわないようにする容器又は囲いを設けてもよい。これにより、電極対1の間にのみ処理対象物質が存在又は流動するようになり、反応効率が向上する。更にまた、電極対1に導線及び電源等の外部回路を接続する場合には、これらと反応対象物質とが接触しないように、相互に隔離する部材を設けることが好ましい。これにより、導線及び電源等が腐食及び劣化することを防止できる。
【0047】
次に、本発明の第2の実施形態に係る酸化還元反応装置について説明する。図4は本実施形態の酸化還元反応装置の構造を示す断面図である。図4に示すように、本実施形態の酸化還元反応装置11は、半導体層12の一方の面上にこの半導体層12よりも仕事関数が小さい半導体層13が形成された電極14と、半導体層13よりも仕事関数が大きい半導体材料により形成された電極15とを備えている。電極14における半導体層12の他方の面、即ち、半導体層13が形成されていない面上には、半導体層13との間にオーミックコンタクトを形成する金属層17が設けられており、電極15の一方の面には、電極15との間にオーミックコンタクトを形成する金属層18が形成されている。そして、金属層17及び金属層18には配線16が接続されており、これにより、電極14及び電極15が電気的に相互に接続されている。また、電極14における半導体層13の表面以外の部分、及び電極15における金属層18が形成されている面と反対側の面以外の部分には、夫々エポキシ樹脂又はフッ素樹脂からなる被覆層19a及び19bが設けられている。
【0048】
本実施形態の酸化還元反応装置11においては、電極15を半導体層12と仕事関数が同等又は導電型が同じである半導体材料により形成することがより好ましい。これにより、溶液に接触する半導体層と電極15との仕事関数の差を確保することができる。また、電極15を、例えば導電性ダイヤモンド等のように、溶液に溶解しにくい半導体材料で形成することにより、金属材料等のように酸及びアルカリに溶解しやすい材料により形成した場合に比べて、種々の溶液に対応することができるようになり、装置の適用範囲を広くすることができる。
【0049】
次に、本実施形態の酸化還元反応装置11の動作について説明する。図5は本実施形態の酸化還元反応装置11の動作を示す断面図である。図5に示すように、本実施形態の酸化還元反応装置11における電極14及び電極15を溶液4中に浸漬すると、電極14が陰極、電極15が陽極として夫々作用し、半導体層13の表面で正イオンが還元され、電極15の表面で負イオンが酸化される。
【0050】
本実施形態の酸化還元反応装置11においては、電極14を仕事関数が相互に異なる1対の半導体層からなる電極14と、電極14における溶液と接触していない半導体層と同じ仕事関数の大小側になる材料により形成された電極15とを、配線16を介して相互に電気的に接続しているため、電極面同士を対向させることができ、陽極と陰極とが貼り合わされた構造の電極対に比べて、イオンが両極間をスムーズに流れるようになる。その結果、イオンの移動効率が向上すると共に、容器の空間効率も向上するため、装置を小型化することができる。また、本実施形態の酸化還元反応装置11は、前述の第1の実施形態の酸化還元反応装置と同様に、外部電源を使用しなくても酸化還元反応が開始するため、イオンを析出させるためのエネルギーは不要である。
【0051】
なお、本実施形態の酸化還元反応装置11においては、半導体層12の一方の面上にこの半導体層12よりも仕事関数が小さい半導体層13を形成し、この仕事関数が小さい半導体層13を溶液4に接触させる場合について述べたが、本発明はこれに限定するものではなく、仕事関数が大きい半導体層12を溶液4に接触させてもよい。その場合、電極15は、半導体層12よりも仕事関数が小さい材料により形成することが好ましい。このとき、例えば、電極15を高抵抗率の材料により形成する場合、反応効率を向上させるために、その厚さをできるだけ薄くして電極15における電力消費量を低減すること好ましい。しかしながら、電極15の厚さが薄くなると機械的強度が低下するため、半導体層12を溶液に接触させる場合は、電極15と配線16との間に、半導体層13と実質的に仕事関数が等しいか又は導電型が同じである他の半導体層を設けてもよい。これにより、消費電力量を増加させずに、電極15の機械的強度を向上させることができる。
【0052】
次に、本発明の第2の実施形態の酸化還元反応装置の変形例について説明する。図6は本実施形態の変形例の酸化還元反応装置の構造及び動作を示す断面図である。図6に示すように、本変形例の酸化還元反応装置21は、配線16の途中に外部電源20が設けられている。この酸化還元反応装置21は、前述の第2の実施形態の酸化還元反応装置11と同様に、外部から電圧を印加しなくても酸化還元反応は進行するが、外部電源20により電圧を印加することにより、電極14と電極15との間の電位又は電荷の不均衡を増大させて、酸化還元反応を加速することができる。
【0053】
本変形例の酸化還元反応装置21においては、電極14は仕事関数が相互に異なる半導体層12及び半導体層13により構成されている。電極間の電位差は、外部電源電圧とオフセット電位との和から、内部抵抗による電圧降下分を引いた値であり、この半導体層12及び半導体層13間の電位又は電荷の不均衡がオフセットされているため、オフセット電位分だけ電源電圧を下げることができる。このため、従来の酸化還元装置のように、1種類の半導体材料により形成されている電極、仕事関数が同一の電極対及び金属電極等を使用した場合に比べて、反応効率が向上する。なお、本実施形態の酸化還元反応装置21におけるオフセット電位は、半導体層12及び半導体層13の仕事関数の差に相当する。また、本変形例の酸化還元反応装置21における上記以外の構成及び動作は、図4及び図5に示す酸化還元反応装置11と同様である。
【実施例1】
【0054】
以下、本発明の実施例の効果について詳細に説明する。先ず、本発明の実施例1として、高温高圧合成法により形成した厚さが約200μmで、ホウ素濃度が約2000ppmである低抵抗ダイヤモンド層の(100)面上に、マイクロ波プラズマ気相合成(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により、厚さが約1μmで、ホウ素濃度が約2ppmの高抵抗ダイヤモンド層を形成し、図1に示す酸化還元反応装置と同様の構造の電極対を作製した。この電極対は、低抵抗ダイヤモンド層の仕事関数の方が高抵抗ダイヤモンド層の仕事関数よりも約0.2eV小さかった。なお、ダイヤモンドのバンドギャップエネルギーは5.47eVである。次に、溶液として、50質量%のフッ酸水溶液にアルミニウムを溶解させて、アルミニウム溶解フッ酸溶液を作製した。そして、このアルミニウム溶解フッ酸溶液中に電極対を浸漬したところ、酸化還元反応が開始し、高抵抗ダイヤモンド層の表面にアルミニウムが析出すると共に、低抵抗ダイヤモンド層側からはフッ素が発生した。この反応はアルミニウムイオンが存在する間続き、反応速度は、アルミニウムイオンの量が減少するに従い低下した。
【実施例2】
【0055】
次に、本発明の実施例2として、高温高圧合成法により形成した厚さが約200μmで、ホウ素濃度が約2000ppmのホウ素ドープダイヤモンド層上に、マイクロ波プラズマCVD法により、厚さが0.1μmで、窒素濃度が約10ppmの窒素ドープダイヤモンド層を形成し、図1に示す酸化還元反応装置と同様の構造の電極対を作製した。この電極対におけるホウ素ドープダイヤモンド層と窒素ドープダイヤモンド層との仕事関数の差は、4.6eVであった。次に、この電極対を酸溶液及びアルカリ溶液中に浸漬したところ、酸化還元反応が開始した。このとき、ホウ素ドープダイヤモンド層が陽極に、窒素ドープダイヤモンド層が陰極として作用した。
【実施例3】
【0056】
次に、本発明の実施例3として、図4に示す酸化還元反応装置を作製した。先ず、第1の電極として、高温高圧合成法により形成した厚さが約200μmで、ホウ素濃度が約2000ppmの高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層上に、マイクロ波プラズマCVD法により、厚さが1乃至3μmで、ホウ素濃度が約2ppmの低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層を形成した。その後、高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層上の一部に、白金を0.1μm蒸着して高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層と白金層とをオーミックコンタクトを形成した。また、第2の電極として、高温高圧合成法により形成した、厚さが約200μmで、ホウ素濃度が約2000ppmの高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層上の一部に、白金を0.1μm蒸着して高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層と白金層とをオーミックコンタクトを形成した。そして、導線の一方の端部を第1の電極の白金層に、他方の端部を第2の電極の白金層に接続することにより、第1の電極と第2の電極とを接続した。なお、第1の電極の低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層及び第2の電極の高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層の仕事関数の差は、約0.2eVであった。次に、第1の電極の低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層表面、及び第2の電極の高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層における白金層が形成されている面と反対側の表面以外の部分をエポキシ樹脂又はフッ素樹脂で被覆して、酸化還元反応装置にした。そして、この酸化還元反応装置を溶液中に浸漬したところ、酸化還元反応が開始した。このとき、第1の電極における低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層表面が陰極として作用し、第2の電極における高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層の表面が陽極として作用した。
【実施例4】
【0057】
次に、本発明の実施例4として、前述の実施例3の酸化還元反応装置の導線の途中に外部電源を挿入し、図6に示す酸化還元反応装置を作製した。そして、この酸化還元反応装置の電極部分を溶液に浸漬し、第1の電極側が負、第2の電極側が正になるように、1乃至2Vの直流電圧を印加したところ、反応速度が1.5倍以上になった。
【実施例5】
【0058】
次に、本発明の実施例5として、前述の実施例3の酸化還元反応装置における第1の電極の表面に、イオン析出促進層を形成した酸化還元反応装置を作製した。図7は本実施例の酸化還元反応装置を示す断面図である。図7に示すように、本実施例の酸化還元反応装置31は、高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層32の一方の面上に低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層33を形成し、他方の面の一部の領域上に白金層34aを形成して電極35とした。また、高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層36の一方の面の一部の領域上に、白金層34bを形成して電極37とした。そして、導線38の一方の端部を白金層34aに、他方の端部を白金層34bに接続して、電極35と電極37とを電気的に接続した。
【0059】
次に、電極35の低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層33の表面、及び電極37の高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層36の白金層34bが形成されていない側表面以外の部分に、夫々エポキシ樹脂又はフッ素樹脂からなる被覆層39a及び被覆層39bを設け、更に、マグネトロンスパッタ法により、低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層33の表面上に、イオン析出促進層として、厚さが10乃至100nmの酸化珪素膜40を局所的に形成した。なお、この酸化還元反応装置31においては、イオン析出促進層40以外の構成及び動作は、前述の実施例3の酸化還元反応装置と同様である。そして、50質量%のフッ酸水溶液にアルミニウムを溶解させたアルミニウム溶解フッ酸溶液44中に、この酸化還元反応装置31の電極部分を浸漬したところ、酸化還元反応が開始し、低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層33の表面にアルミニウムが析出すると共に、電極37の高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層36の表面からはフッ素が発生した。このとき、アルミニウムの析出速度は、前述の実施例1の酸化還元反応装置よりも1.5倍以上速くなった。
【実施例6】
【0060】
次に、本発明の実施例6として、前述の実施例3の酸化還元反応装置における第1の電極の表面に、イオン析出促進層を形成した酸化還元反応装置を作製した。図8は本実施例の酸化還元反応装置を示す断面図である。図8に示すように、本実施例の酸化還元反応装置41は、電極42における低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層33の表面上に、蒸着法により、イオン析出促進層として、厚さが10乃至100nmのアルミニウム膜43を局所的に形成した以外は、図6に示す酸化還元反応装置31と同様である。この酸化還元反応装置41の電極部分を、50質量%のフッ酸水溶液にアルミニウムを溶解させたアルミニウム溶解フッ酸溶液44中に浸漬したところ、酸化還元反応が開始し、低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層33の表面にアルミニウムが析出すると共に、電極37の高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層36の表面からはフッ素が発生した。このとき、アルミニウムの析出速度は、前述の実施例1の酸化還元反応装置よりも1.5倍以上速くなった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態の酸化還元反応装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の酸化還元反応装置の動作を示す断面図である。
【図3】(a)及び(b)は本発明の第1の実施形態の酸化還元反応装置によりアルミニウムが析出する反応をその工程順に示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の酸化還元反応装置の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の酸化還元反応装置の動作を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の変形例の酸化還元反応装置を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例5の酸化還元反応装置を示す断面図である。
【図8】本発明の実施例6の酸化還元反応装置を示す断面図である。
【図9】従来の酸化還元反応装置を模式的に示す断面図である。
【図10】特許文献2に記載の電極の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1;電極対
2、3、12、13;半導体層
4;溶液
5;アルミニウム析出層
11、21、31、41、100;酸化還元反応装置
14、15、35、37、42、101a、101b、103、110;電極
16;配線
17、18;金属層
19a、19b、39a、39b;被覆層
20;外部電源
32、36;高濃度ホウ素ドープダイヤモンド層
33;低濃度ホウ素ドープダイヤモンド層
34a、34b;白金層
38;導線
40;酸化珪素膜
43;アルミニウム膜
102;陽イオン交換膜
104;陰イオン交換膜
111;導電性基体
112;ドープダイヤモンド層
113;アンドープダイヤモンド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体層と、前記第1の半導体層よりも仕事関数が大きい第2の半導体層とが電気的に相互に接続された電極対を有し、前記電極対を溶液中に配置したときに、前記第1の半導体層が陰極となってその表面で前記溶液中の陽イオンが還元反応を受け、前記第2の半導体層が陽極となってその表面で前記溶液中の陰イオンが酸化反応を受けることを特徴とする酸化還元反応装置。
【請求項2】
第1の半導体層とこの第1の半導体層よりも仕事関数が大きい第2の半導体層とが電気的に相互に接続された第1の電極と、前記第2の半導体層よりも仕事関数が小さい材料により形成された第2の電極と、前記第2の電極と前記第1の半導体層とを電気的に接続する配線と、を有し、前記第2の半導体層及び前記第2の電極が前記溶液に接触するように配置され、前記第1の電極が陽極となって前記第2の半導体層の表面で前記溶液中の陰イオンが酸化反応を受け、前記第2の電極が陰極となってその表面で前記溶液中の陽イオンが還元反応を受けることを特徴とする酸化還元反応装置。
【請求項3】
前記第2の電極は、前記第1の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である半導体材料により形成されていることを特徴とする請求項2に記載の酸化還元反応装置。
【請求項4】
前記第2の電極と前記配線との間に、前記第2の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である第3の半導体層が設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の酸化還元反応装置。
【請求項5】
第1の半導体層とこの第1の半導体層よりも仕事関数が大きい第2の半導体層とが電気的に相互に接続された第1の電極と、前記第1の半導体層よりも仕事関数が大きい材料により形成された第2の電極と、前記第2の半導体層と前記第2の電極とを電気的に接続する配線と、を有し、前記第1の半導体層及び前記第2の電極が前記溶液に接触するように配置され、前記第1の電極が陰極となって前記第1の半導体層の表面で前記溶液中の陽イオンが還元反応を受け、前記第2の電極が陽極となってその表面で前記溶液中の陰イオンが酸化反応を受けることを特徴とする酸化還元反応装置。
【請求項6】
前記第2の電極は、前記第1の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である半導体材料により形成されていることを特徴とする請求項5に記載の酸化還元反応装置。
【請求項7】
前記第2の電極と前記配線との間に、前記第1の半導体層と仕事関数が等しいか又は導電型が同一である第4の半導体層が設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載の酸化還元反応装置。
【請求項8】
前記第2の電極はダイヤモンドにより形成されていることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項9】
前記第1の半導体層の導電型がn型であり、前記第2の半導体層の導電型がp型であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の半導体層はダイヤモンドにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項11】
前記第1の半導体層はn型ドーパントがドーピングされたn型ドープダイヤモンド層であり、前記第2の半導体層はp型ドーパントがドーピングされたp型ドープダイヤモンド層であることを特徴とする請求項10に記載の酸化還元反応装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の半導体層はp型ドーパントがドーピングされたp型ドープダイヤモンド層であり、前記第1の半導体層は前記第2の半導体層よりもドーパント濃度が低いことを特徴とする請求項10に記載の酸化還元反応装置。
【請求項13】
前記第1及び第2の半導体層はn型ドーパントがドーピングされたn型ドープダイヤモンド層であり、前記第1の半導体層は前記第2の半導体層よりもドーパント濃度が高いことを特徴とする請求項10に記載の酸化還元反応装置。
【請求項14】
前記第1の半導体層はn型ドーパントがドーピングされたn型ドープダイヤモンド層であり、前記第2の半導体層はドーパントがドーピングされていないアンドープダイヤモンド層であることを特徴とする請求項10に記載の酸化還元反応装置。
【請求項15】
前記第2の半導体層はp型ドーパントがドーピングされたp型ドープダイヤモンド層であり、前記第1の半導体層はドーパントがドーピングされていないアンドープダイヤモンド層であることを特徴とする請求項10に記載の酸化還元反応装置。
【請求項16】
前記p型ドーパントがホウ素であることを特徴とする請求項11、12及び15のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項17】
前記n型ドーパントが窒素、リン、酸素及び硫黄からなる群から選択された少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項11、13及び14のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項18】
前記第1の半導体層と前記第2の半導体層とは、積層又は貼り合わせにより電気的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項19】
前記第1の半導体層又は前記第2の半導体層の表面の少なくとも一部にイオン析出促進層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項20】
前記溶液にはフッ酸が含まれていることを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。
【請求項21】
前記溶液には金属イオンが含まれていることを特徴とする請求項1乃至20のいずれか1項に記載の酸化還元反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−9101(P2006−9101A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188862(P2004−188862)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】