説明

酸化鉄の還元方法及び水素発生システム

【課題】高い水素発生能と、発生した水を液体として除去することが可能な水素発生システムを提供する。
【解決手段】酸化鉄6bを含む金属酸化物6を貯蔵した第1の容器(高圧水素タンク)2と、第1の容器2内に高圧水素を充填する水素充填手段(水素ステーション)3と、第1の容器2と配管4によって接続され、第1の容器2内で酸化鉄6と水素とを化学反応させて得られた水を貯留する第2の容器(生成水貯留容器)5と、を備える水素発生システム1であって、第1の容器2内において、酸化鉄6と高圧水素とを化学反応させて酸化鉄を還元すると同時に、化学反応の副生成物の一部を液体の状態で得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉄の還元方法及びこの酸化鉄の還元方法を用いた水素発生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境に対する配慮から、クリーンなエネルギー源として水素を利用することが注目されている。水素を製造する方法として、金属の水分解反応を利用した方法が知られている。
【0003】
そこで、鉄又は酸化鉄に水、水蒸気を含むガスを接触させて、水を分解して水素を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、式(1)に示す反応により水素を発生させている。この反応において、水素圧力を上昇させることにより、酸化鉄の還元速度の変化を調査した例がある(非特許文献1参照)。
【0004】
Fe+4H(g)⇔ 3Fe+4HO(g)0.01〜1MPa・・・式(1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2002/081368号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐藤享司、鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、1994年10月発行、第70巻、第10号、p.1362−1369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの例では、高い水素発生能が得られるが、高温・低圧下で上記反応を行うと、発生した水蒸気を材料と分離する装置を必要とするため、システムの大型化を招く。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る酸化鉄の還元方法は、酸化鉄を貯蔵した容器に高圧水素を充填し、容器内において酸化鉄と高圧水素とを化学反応させて酸化鉄を還元すると同時に、化学反応の副生成物の一部を液体の状態で得ることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る水素発生システムは、酸化鉄を貯蔵した第1の容器と、第1の容器内に水素を充填する水素充填手段と、第1の容器と配管によって接続され、第1の容器内で酸化鉄と高圧水素とを化学反応させて得られた水を貯留する第2の容器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化鉄と高圧水素とを接触させることにより、高い水素発生能が得られ、更に発生した水を液体として除去することが可能となり、システムを小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る水素発生システムの模式的系統図である。
【図2】温度−圧力に対する鉄還元可能領域を示す概念図である。
【図3】第2実施形態に係る水素発生システムの模式的系統図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る酸化鉄の還元方法及び水素発生システムを説明する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1の模式的系統図である。図2は温度−圧力に対する鉄還元可能領域を示す概念図である。
【0014】
本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1は、酸化鉄6bを含む金属酸化物6を貯蔵した高圧水素タンク(第1の容器)2と、高圧水素タンク2内に水素を充填する水素ステーション(水素充填手段)3と、高圧水素タンク2と配管4によって接続され、高圧水素タンク2内で酸化鉄6bと高圧水素とを化学反応させて得られた水を貯留する生成水貯留容器(第2の容器)5と、を備える。
【0015】
高圧水素タンク2内では、式(2)、(3)で示すように、酸化鉄6bと高圧水素とが化学反応して酸化鉄6bが還元されて、金属状態の鉄(Fe)等の還元状態の酸化鉄6aとなる。この還元反応と同時に、化学反応の副生成物として水が液体の状態で得られる。
【0016】
Fe+4H(g)⇔ 3Fe+4HO(l)5〜35MPa・・・式(2)
Fe+3H(g)⇔ 2Fe+3HO(l)5〜35MPa・・・式(3)
図2に温度−圧力に対する鉄還元可能領域を示す。図2において、領域2Aは低温・低圧の領域であり、領域2Bは高温・低圧の領域であり、領域2Cは水の臨界点2P(22.1MPa、374℃)より高温・高圧の領域であり、領域2Dは低温・高圧の領域である。なお、2Xは水の沸点を表し、2Yは本発明の実施の形態で行う還元反応の条件の一例を示し、2Zは従来の条件の一例を示す。領域2Aの条件では、熱力学的に酸化鉄を還元するのは不可能であり、金属状態に鉄は生成しない。領域2Bでは、酸化鉄を金属状態の鉄まで還元可能であるが、生成する水が水蒸気であるため、得られた金属状態の鉄との分離が困難な領域である。領域2Cでは、水は超臨界状態である。領域2Dでは、酸化鉄を金属状態の鉄まで還元可能であり、生成する水が液体の状態で得られる。このように、酸化鉄の還元を領域2Dで示す低温・高圧の条件で行うと、反応で発生した生成水が液体の状態で得られるため、生成水と酸化鉄との分離が容易となる。
【0017】
大気圧下では、式(1)の酸化鉄が還元される反応は400℃以上では進行するが、発生した水蒸気がある濃度に達すると反応平衡に達する。このため、水素発生システムに適用した場合、発生した水蒸気を高圧水素タンクの系外に排出するために、高圧水素タンク内に水素又は不活性ガスを流通させなければならない。このため、水素を発生させるためには多量のガスを必要としたり、ガスを循環するための巨大な凝縮器を必要としたりする等、効率面に課題がある。これに対し、本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1では、式(2)に示す低温・高圧下で酸化鉄を還元すると、生成した水の少なくとも一部が液体として存在するため、酸化鉄6b及び酸化鉄の還元により得られた還元状態の鉄6aと、反応により得られた水との分離が容易になり、システムを小型化することが可能となる。また、式(2)の反応が反応平衡に達することを抑制することが可能となるため、還元反応が容易に進行する。
【0018】
なお、第1実施形態において、還元状態の酸化鉄6aとは、金属鉄、FeO、又はFeが部分的に還元されたものを指す。Feの例で説明すると、Feが部分的に還元された場合、Fe4‐X(0<x<3)の組成で表される。酸化鉄6bは、Fe、Feが含まれる。
【0019】
酸化鉄の還元は、3.0MPa以上の圧力で行うことが好ましい。図2に示すように、3.0MPa以上では、液体水を生成しながらの酸化鉄の還元が可能となる。また、3.0MPa以上の圧力が使用可能であれば、現在の水素ステーションの供給圧(35MPa、70MPa)をそのまま使用することが可能となる。また、酸化鉄の還元は、374℃以下の温度で行うことが好ましい。図2に示すように、水の臨界点2Pは22.1MPa、374℃であるため、臨界温度・圧力以上では、生成する水が液体として存在しないため好ましくない。図2の領域2Dの条件は、熱力学的に酸化鉄が水素により金属鉄に還元可能であり、かつ還元後に生成する水が液相を有する。この条件を設定することは比較的容易であり、結果として領域2Dの条件では酸化鉄を還元することが容易となる。なお、温度は高圧水素タンク2内に充填した金属酸化物6の温度である。一般的な耐圧容器の耐熱温度は100℃以下であることが多く、高圧水素タンク2の内面の最高温度は100℃以下であることが望ましい。また、水は凝固せずに液体として存在している状態が望ましい。純水を使用した場合には−20〜−30℃以上であることが必要である。
【0020】
本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1で用いる金属酸化物6は、上記したように酸化鉄6bと還元状態の酸化鉄6aを含み、還元状態の酸化鉄6aは純金属の状態に限られず、例えばFeO等の低原子価金属酸化物が含まれていても良い。また、金属酸化物6は添加物を含んでいても良く、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、Mg(マグネシウム)、Sc(スカンジウム)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)及びNd(ネオジム)からなる第1の金属群から選択される少なくともいずれか一種の金属を含むことが好ましい。この第1の金属群から選択される金属を含む場合、酸化還元反応の繰り返しにより発生する鉄のシンタリングが抑えられ、酸化鉄の還元効率及び水素発生効率の低下が抑えられる。また、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)及びPd(パラジウム)からなる第2の金属群の中から選択される少なくともいずれか一種の金属を含むことが好ましい。この第2の金属群から選択される金属を含む場合、還元効率及び水素発生効率が向上する。また、第1の金属から選択される少なくともいずれか一種の金属及び第2の金属群から選択される少なくともいずれか一種の金属を含んだ、二種以上の金属を含む場合には、より還元効率及び水素発生効率が向上する。中でも、第1の金属としてCr、Mo、Al、第2の金属としてRh、Ir、Pdを用いることが好ましい。添加する金属の配合割合は、全金属を100mol%とした場合に0.1〜30mol%であることが好ましく、0.5〜15mol%であることがより好ましい。0.1mol%未満の配合割合では水素の発生効率が向上する効果が認められない。また、30mol%を越えると鉄の酸化還元反応の効率が低下するため好ましくない。鉄と添加する金属との調製方法は、物理混合、含浸法、共沈法等により行い、特に共沈法が好ましい。
【0021】
上記した添加物を含んだ金属酸化物6は、1nm〜100μm、好ましくは1nm〜10μmの粉末の状態であり、高圧水素タンク2に充填する際に粉末状で使用することができる。必要に応じて、ペレット状、円筒状、ハニカム構造、不織布形状などの反応に適した形状を選択する。
【0022】
本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1では、酸化鉄6bを還元する際に、高圧水素タンク2の開口部2aと接続された水素流路7を通過して水素ステーション3から高圧水素タンク2内に水素が充填される。高圧水素タンク2内では、水素が図1の矢印1Xの方向に通過し、上記した式(2)の反応により酸化鉄6bが還元され、還元状態の酸化鉄6aが得られる。式(2)の反応によって得られた水は、重力によって矢印1Xの方向に落下する。そして、高圧水素タンク2と配管4によって接続され、高圧水素タンク2の下方に位置した生成水貯留容器5に貯留される。生成水貯留容器5では、矢印1Yの方向に水が重力によって落下し、液体の状態5aで貯留される。得られた水を重力によって落下及び生成水貯留容器5に貯留可能なことにより、装置を簡便化することが可能となる。また、高圧水素タンク2を例えば燃料電池自動車や水素エンジン自動車に搭載する場合に縦置き又は横置きに関係なく搭載可能となり有用である。
【0023】
このように、本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1では、発生した水を液体として容易に除去することができるため、大型な分離装置を必要とせず、システムを小型化することが可能となり、車載が可能である。また、酸化鉄と高圧水素とを接触させることに酸化鉄の還元を容易に行うことができると共に、得られた還元状態の酸化鉄に水を加えることで新たに水素を発生させることも容易にできるため、高い水素発生能を有する水素発生システムが可能となる。ここでは、高圧水素タンク2で発生した水素を、水素ステーション3と接続している水素流路7を通して外部に水素が排出し、他の要素へ水素を供給することができる。また、高圧水素タンク2を取り外し可能に設計し、一度高圧水素タンク2に発生した水素を貯蔵して、その後他の要素へ水素を供給することができる。
【0024】
なお、本発明の第1実施形態に係る水素発生システム1では、高圧水素タンク2は、内面2cが撥水加工されていることが好ましい。この場合には、生成した水が落下しやすくなり、効率が上がる。撥水加工として、金属面の研磨でも効果が得られる。撥水加工は、高圧水素タンク2に貯蔵した金属酸化物6の上部6xに行ってもよい。この場合には、生成した水を下部に落下させることが容易になる。撥水加工は、金属酸化物6をペレット状に加工する際に、加圧により表面を鏡面仕上げすることが挙げられる。
【0025】
酸化鉄の還元反応の際に、高圧水素タンク2に振動を与えても良い。この場合、高圧水素タンク2内で発生した水の落下が促進される。例えば、水素エンジン自動車では、アイドリング時のエンジンの振動を利用することができる。振動の他、遠心分離のメカニズムを用いた分離法を用いることも可能である。
【0026】
高圧水素タンク2の水素圧が低下した際に、水素供給を行うことがより好ましい。再度水素供給を行うことにより、金属粒子に圧力衝撃が与えられ、水滴下が進行しやすくなる。材料に圧力衝撃を与える手法として、ガスが循環するバイパスを形成する方法が挙げられる。また、水素圧が高いほど再生速度が向上するため、水素の消費により内圧が低下した場合に追い充填(再生中の圧力供給)を行ったほうが、還元速度の観点からも効果が高い。
【0027】
配管4は、更にポンプ付バルブ4aと、高圧水素タンク2内に発生した水の液面を検知する液面センサ4bとを備えても良い。この場合、高圧水素タンク2内で液体が発生したことを検知した際に、ポンプ付バルブ4aを開き、生成水貯留容器5に水を供給する。高圧水素により低圧側の生成水貯留容器5に液体水が押し出されるため、ポンプ付バルブ4aは高い吐出圧を有さない液送ポンプでも使用可能である。また、高圧水素タンク2内に水素を充填する際に、高圧水素タンク2内には高圧水素を導入する必要は無い。もし高い吐出圧のポンプを使用する場合は生成水貯留容器5にも高圧水素を導入しても構わない。
【0028】
高圧水素タンク2内で還元反応を行う前に、生成水貯留容器5を減圧状態にしても構わない。生成水貯留容器5を減圧することにより、生成した水の移動が容易になる。減圧する方法として、上記したポンプ付バルブ4aを用いることも可能である。
【0029】
高圧水素タンク2の空隙部2x、2yに高圧水素を貯蔵しても良い。金属鉄は高密度(7.78g/cm)であるが、空隙部2x、2yだけでなく、高圧水素タンク2に充填した金属酸化物6の空隙部分にも水素を充填することにより、更に高密度の水素貯蔵が可能となる。また、水素還元時に高圧水素タンク2内に充填された高圧水素を、そのまま高圧水素ガスとして貯蔵するとことにより、システムの小型化が可能となる。上記した式(1)において、金属鉄あたりの水素発生量は4.81wt%であるが、高圧水素タンク2に金属鉄を15%程度の充填率で充填した場合には、水素貯蔵量は7.54%と向上する。
【0030】
<第2実施形態>
次に、図3を参照して本発明の第2実施形態に係る水素発生システム11について説明する。第2実施形態では、第1実施形態に係る水素発生システム1と燃料電池12を組み合わせているため、第1実施形態と同じ要素については説明を省略する。
【0031】
本発明の第2実施形態に係る水素発生システム11では、高圧水素タンク2で発生した水素を利用して電力を発生する燃料電池12を備える。燃料電池12は、そこで発生した生成水をトラップするための生成水トラップ13と管路14aによって、また高圧水素タンク2と管路14bによって接続されている。また、燃料電池反応に用いる水素は、高圧水素タンク2で発生した水素が用いられ、水素の供給は管路14bによって行われる。燃料電池12の冷却には生成水貯留容器5に貯留された水5aが用いられ、燃料電池冷却水路15によって冷却される。燃料電池反応で発生した水は、管路14aを通過して生成水トラップ13でトラップされるか、又は管路16を通過して生成水貯留容器5に貯留される。また、生成水トラップ13はバルブ付きの管路17によって生成水貯留容器5に接続され、生成水貯留容器5に水が貯留される。
【0032】
本発明の第2実施形態に係る水素発生システム11では、第1実施形態に係る水素発生システム1と燃料電池12を組み合わせることにより、燃料電池12から排出される熱を酸化鉄6bと水素との化学反応に利用することができる。このように、廃熱を利用することで、新たな熱源を搭載する必要がなく、システムを小型化することが可能となる。
【0033】
高圧水素タンク2の空隙部2x、2yに充填した水素を放出した後に、水との反応により水素を発生させる。この場合、簡便な制御により、システムの小型化が可能となる。また、本発明の第2実施形態に係る水素発生システム11では、燃料電池12から発生した水を回収して生成水貯留容器5に貯留し、還元状態の酸化鉄6aと水との反応により水素発生させる際に必要な水として再利用する。このように、排水を利用することにより、システムに予め搭載する水の水量を少なくすることができる。
【0034】
この例では、横置きに高圧水素タンク2を設置している。この場合において、水素が図3の矢印3Xの方向に通過し、上記した式(2)の反応により酸化鉄6bが還元され、還元状態の酸化鉄6aが得られる。式(2)の反応によって得られた水は、重力によって矢印3Xの方向に落下し、矢印3Yの方向に移動する。そして、矢印3Zの方向に水が重量によって落下し、高圧水素タンク2の下方に位置した生成水貯留容器5に、液体の状態5aで貯留される。
【0035】
以上説明したように、本発明の第2実施形態に係る水素発生システム11では、システムの小型化が可能となる。また、発電機関から発生する熱を水素発生反応により吸収することができるため、熱マネージメントが良好なシステムとなる。このように、本発明の第2実施形態に係る水素発生システム11は、燃料電池自動車の燃料電池システム等に利用可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例1〜27により本発明の実施の形態に係る酸化鉄の還元方法及び水素発生システムについて更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0037】
1.試料の調製
<実施例1>
ビーカーに脱気したイオン交換水を100ml導入し、そこに酸化鉄(Fe)粒子(平均粒子径約0.08μm)を179mmol(金属鉄として358mmol)導入し、液温を約80℃に加熱し、約3時間保持して蒸発乾固させた。その後、100℃で16時間、300℃で3時間、500℃で5時間にわたり空気中で焼成を行った。次に、高圧条件下で酸化鉄の還元を行った。図1に示すように構成した耐圧が15MPaである容器に得られた酸化鉄を充填し、純度4Nの水素を充填し、容器内圧を13MPaまで昇圧した。断熱圧縮熱により、容器内圧は60℃程度まで上昇した。この状態で、酸化鉄が水素により還元され、発生した液体の水は容器下部に設置した容器に落下貯蔵される。
【0038】
<実施例2>
ビーカーに脱気したイオン交換水を100ml導入し、和光純薬工業株式会社製:硝酸クロム(Cr・(NO・9HO)11.1mmolを室温で攪拌しながら溶解させた。そこに酸化鉄(Fe)粒子(平均粒子径約0.08μm)を179mmol(金属鉄として358mmol)導入し、液温を約80℃に加熱し、約3時間保持して蒸発乾固させた。その後、100℃で16時間、300℃で3時間、500℃で5時間にわたり空気中で焼成を行い、酸化鉄29.4gを得た。酸化鉄(Fe)粒子には、全金属あたり3mol%のCrが添加された。次に、実施例1と同様に高圧条件下で酸化鉄の還元を行った。
【0039】
<実施例3〜13>
実施例2のCrの代わりにTi、Zr、V、Nb、Mo、Al、Ga、Sc、Ni、Cu、Ndをそれぞれ用い、その他は実施例1と同様にして試料を調製し、実施例3〜12とした。
【0040】
<実施例14〜18>
実施例2のCrの添加に加えて、Rh、Ir、Pt、Ru、Pdを1mol%の濃度で添加し、その他は実施例1と同様にして試料を調製し、実施例14〜18とした。
【0041】
<実施例19〜23>
実施例2のCrの代わりにMoを添加し、更に、Rh、Ir、Pt、Ru、Pdを1mol%の濃度で添加し、その他は実施例1と同様にして試料を調製し、実施例19〜23とした。
【0042】
<実施例24〜25>
実施例2のCrの添加に加えて、Ni、Cuを3mol%の濃度で添加し、その他は実施例1と同様にして試料を調製し、実施例24〜25とした。
【0043】
<実施例26>
ビーカーに脱気したイオン交換水を1L導入し、和光純薬工業株式会社製:硝酸クロム(Cr・(NO・9HO)11.1mmolを室温で攪拌しながら溶解させた。そこに酸化鉄(Fe)粒子(平均粒子径約0.08μm)を179mmol(金属鉄として358mmol)導入し、室温で攪拌しながらアンモニア水をpH10になるまでゆっくりと滴下することによって、クロムの水酸化物を酸化鉄表面に析出させた。次に、液温を約80℃に加熱し、約3時間保持して蒸発乾固させた。その後、100℃で16時間、300℃で3時間、500℃で5時間にわたり空気中で焼成を行い、酸化鉄(Fe)粒子に全金属あたり3mol%のCrを添加した。次に、実施例1と同様に高圧条件下で酸化鉄の還元を行った。
【0044】
<実施例27>
ビーカーに脱気したイオン交換水を1L導入し、和光純薬工業株式会社製:硝酸クロム(Cr・(NO・9HO)11.1mmolと尿素555mmolを室温で攪拌しながら溶解させた。そこに酸化鉄(Fe)粒子(平均粒子径約0.08μm)を179mmol(金属鉄として358mmol)導入した。この混合溶液を攪拌しながら90度の加熱し、同温度で約3時間保持した。その後、室温で48時間放置し、クロムの水酸化物を酸化鉄表面に析出させた。そして、吸引ろ過により得た固形物について、100℃で16時間、300℃で3時間、500℃で5時間にわたり空気中で焼成を行い、酸化鉄(Fe)粒子に全金属あたり3mol%のCrを添加した。次に、実施例1と同様に高圧条件下で酸化鉄の還元を行った。
【0045】
なお、以上の実施例では、出発物質としてFeを使用した場合を説明したが、金属イオン添加後に空気酸化を行う等により得られる酸化鉄はFeが主成分となる。一方、水と接触を行い水素を発生させる等により得られる酸化鉄はFeが主成分となる。このようにして得られるFeを使用した場合も、化学反応が式(2)に従う以外はFeを使用した場合と同様に還元反応が進行することを確認した。
【0046】
2.評価
実施例1〜27の各試料について、還元反応を行った結果を表1に示す。酸化鉄の還元度合いを示す還元率は、初期状態のFeがFeまで還元された場合を還元率100%とし、還元前後の酸化鉄の重量変化の測定、及び還元後の試料のXRD測定により行った。
【表1】

【0047】
酸化鉄のみで他に金属を添加していない実施例1では還元率は15%だった。Crを添加した実施例2では、還元反応を始めて3時間後に還元率が50%となり、Cr添加による効果が見られた。他の金属種を添加した他の実施例においても、実施例1よりも高い還元率が得られた。この実施例により、高圧水素下における酸化鉄の還元が有効であり、この酸化鉄の還元を利用した水素発生システムが有効であることが示された。
【0048】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 水素発生システム
2 高圧水素タンク(第1の容器)
3 水素ステーション(水素充填手段)
4 配管
5 生成水貯留容器(第2の容器)
6 金属酸化物
6a 還元状態の酸化鉄
6b 酸化鉄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を貯蔵した容器に高圧水素を充填し、前記容器内において前記酸化鉄と前記高圧水素とを化学反応させて前記酸化鉄を還元すると同時に、前記化学反応の副生成物の一部を液体の状態で得ることを特徴とする酸化鉄の還元方法。
【請求項2】
前記還元を、3.0MPa以上の圧力で行うことを特徴する請求項1に記載の酸化鉄の還元方法。
【請求項3】
前記還元を、374℃以下の温度で行うことを特徴する請求項1又は請求項2に記載の酸化鉄の還元方法。
【請求項4】
前記酸化鉄は、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Al、Ga、Mg、Sc、Ni、Cu及びNdからなる第1の金属群と、Rh、Ir、Pt、Ru及びPdからなる第2の金属群の中から選択される少なくともいずれか一種の金属、又は前記第1及び第2の金属群の各群からそれぞれ選択される二種以上の金属を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の酸化鉄の還元方法。
【請求項5】
酸化鉄を貯蔵した第1の容器と、
前記第1の容器内に水素を充填する水素充填手段と、
前記第1の容器と配管によって接続され、前記第1の容器内で前記酸化鉄と前記高圧水素とを化学反応させて得られた水を貯留する第2の容器と、を備えることを特徴とする水素発生システム。
【請求項6】
前記酸化鉄は、還元状態の酸化鉄を含み、
前記水素充填手段は、前記第1の容器内に高圧水素を供給又は前記第1の容器内の高圧水素を排出可能な水素流路を有することを特徴とする請求項5に記載の水素発生システム。
【請求項7】
前記第2の容器は前記第1の容器の下方に位置し、前記第1の容器で発生した水の重力によって前記第2の容器に貯蔵されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の水素発生システム。
【請求項8】
前記第1の容器は、内面が撥水加工されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項9】
貯蔵した酸化鉄の上部が撥水加工されていることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項10】
振動を与えることにより、前記第1の容器内で発生した水を落下させることを特徴とする請求項5乃至請求項9のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項11】
前記第1の容器の水素圧が低下した際に、水素供給を行うことを特徴とする請求項5乃至請求項10のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項12】
前記配管は、ポンプ付バルブと、前記第1の容器内に発生した水の液面を検知する液面センサとを備え、
前記第1の容器内で液体が発生したことを検知した際に、前記ポンプ付バルブを開き、前記第2の容器に水を供給することを特徴とする請求項5乃至請求項11のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項13】
前記第1の容器内で前記酸化鉄と前記高圧水素とを化学反応させる前に、前記第2の容器を減圧状態にすることを特徴とする請求項5乃至請求項12のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項14】
前記第1の容器の空隙部に高圧水素を貯蔵することを請求項5乃至請求項13のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項15】
更に、前記第1の容器内で前記酸化鉄と前記高圧水素とを化学反応させて得られた水素を利用して電力を発生する燃料電池を備え、
前記燃料電池から排出される熱を、前記化学反応に利用することを請求項5乃至請求項14のいずれか一項に記載の水素発生システム。
【請求項16】
前記空隙部に充填した水素を放出した後に、水との反応により水素を発生させることを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の水素発生システム。
【請求項17】
前記燃料電池から発生した水を回収し、水素発生に必要な水として再利用することを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の水素発生システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−235385(P2010−235385A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84998(P2009−84998)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000102223)ウチヤ・サーモスタット株式会社 (24)
【Fターム(参考)】