説明

酸化鉄の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体

【課題】従来よりも安価な酸化鉄の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体を提供する。
【解決手段】微細還元鉄粒子は、ヘマタイトから作成されるマグネタイトを300℃から800℃の所定反応温度にて所定濃度の硫黄成分ガスを含有する水素ガス、石油産業や製鉄所で製造される合成ガス、又はコークス炉ガス或はコークス炉ガスの改質ガス等にて還元し、硫黄原子を前もって所定量化学吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化鉄の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、酸化鉄媒体の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体のサイクル反応に伴う焼結防止対策技術としてある種の物質を微細酸化鉄粒子表面に被覆することによっていた(非特許文献1)。
【非特許文献1】K.Otsuka etal., Journal of Powder Sources, 122(2003) p.111-
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記ある種の物質としては希土類元素などが有効であったが、これらは高価なものであり、安価な焼結防止対策技術が望まれていた。
【0004】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、従来よりも安価な酸化鉄の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明の水素供給体は、酸化鉄媒体の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体において、該サイクル反応に伴う微細還元鉄粒子表面に、反応温度に対応して硫黄原子を前もって所定量化学吸着させることを特徴とする。
【0006】
第2発明の水素供給体は、第1発明記載の微細還元鉄粒子が、ヘマタイトから作成されるマグネタイトを300℃から800℃の所定反応温度にて所定濃度の硫黄成分ガスを含有する水素ガス、石油産業や製鉄所で製造される合成ガス(H2-CO混合ガス)又はコークス炉ガス(H2-CH4-CO混合ガス)或はコークス炉ガスの改質ガス等にて還元し、硫黄原子を前もって所定量化学吸着させた還元鉄媒体とすることを特徴とする。
【0007】
これら発明によれば、反応温度に対応して硫黄原子を前もって微細還元鉄粒子表面に所定量化学吸着させ不活性化させておくことによって還元鉄粒子表面に水蒸気を供給した際に微細酸化鉄粒子間に焼結が進行せずに容易に水素ガスが高効率にて製造され、更に、繰り返し還元酸化サイクル反応性も良好であり、水素供給体における安価な焼結防止対策技術を提供できるものである。
【0008】
還元鉄粒子の水蒸気による酸化反応の際にクリーンな水素ガスが容易に高効率で生成され、これは酸化鉄微細粒子間の焼結を硫黄原子が抑制したため、還元酸化サイクル反応は複数回繰り返して進行させることが可能であった。これにより、水素供給媒体としての優れた利用特性が繰り返し再利用特性と共に維持されるため、経済性がさらに格段に改善され、この技術による水素供給体の実用化が期待できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による水素供給体の効果を次に記す。
・安全で安価な焼結防止対策技術である。
・還元酸化サイクル反応を繰り返し行うことが可能である。
・酸化鉄媒体の原料は、製鉄圧延工程から排出される鉄含有廃棄物、または鉄鉱石を酸に溶解後PH調整沈殿法にて製造できる。或は所定粒度の鉄鉱石も使用することができる。これらはいずれも廉価な酸化鉄媒体の原料として期待できる。
・還元工程におけるガスとしては、反応温度に対応して所定濃度の硫黄成分ガスを含有する水素ガス或はバイオマス起源、石油産業や製鉄所で製造される安価な合成ガス(H2-CO混合ガス)やコークス炉ガス(H2-CH4-CO混合ガス)或はコークス炉ガスの改質ガスが利用でき、好都合。
・酸化工程は250℃辺りの温度以上から水素生成が可能であり、水素燃料電池自動車などにこの水素供給体カプセルを搭載し、各地の水素ステーションで再生カプセルに交換でき、好都合。
・本酸化鉄媒体では1サイクルで水素吸蔵合金よりも高効率の4.8 mass% の水素を貯蔵供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0011】
先ず、還元プロセスについて説明する。
【0012】
ヘマタイトから作成されるマグネタイトを300℃から800℃の所定反応温度にて所定濃度の硫黄成分ガスを含有する水素ガス或は石油産業や製鉄所で製造される合成ガス(H2-CO混合ガス)やコークス炉ガス(H2-CH4-CO混合ガス)或はコークス炉ガスの改質ガスにて還元し、還元鉄媒体とする。水素ガス或は合成ガスやコークス炉ガスへの反応温度に対応する所定濃度の硫黄成分ガスを含有させる方法としては、下記の反応式(1)における平衡定数K= (PH2S/PH2)e の温度依存式(2)、及び反応式(3)における平衡定数K= (PCOS/PCO)e の温度依存式(4)を基準として各反応温度にて定義されるガス中の硫黄の活量as (式(5),(6)で定義)を0.01から5の範囲になるように各H2S, COSを含有させる。
【0013】
FeS(s) + H2(g) = Fe(s) + H2S(g) (1)
Log (K=(PH2S/PH2)e) = -3588/T + 0.6619 (2)
FeS(s) + CO(g) = Fe(s) + COS(g) (3)
Log (K= (PCOS/PCO)e) = -3308/T - 0.845 (4)
( 非特許文献2)
【非特許文献2】H.Rausch etal.: Arch. Eisenhuttenwesen, 46(1975) p.623- as= (PH2S/PH2) / (PH2S/PH2)e (5) as= (PCOS/PCO) / (PCOS/PCO)e (6) ここで、T:反応温度、PH2S/PH2 、PCOS/PCOは還元性ガス中のH2SとH2、COSとCOの各ガス成分の分圧比である。
【0014】
次に酸化プロセスについて説明する。
還元鉄媒体を250℃から600℃の所定反応温度にて水蒸気含有ガスによって酸化する。この際、クリーンな水素ガスが高効率で生成される。この還元と酸化反応プロセスを1サイクルとして、繰り返しサイクルを行ったが、ある所定反応温度では5回程度は水素生成効率に変化無く、繰り返し使用性は極めて良好であった。
【0015】
還元工程における還元性ガスとして、反応温度に依存する所定濃度の硫黄成分ガスを含有する合成ガス(H2-CO混合ガス)やコークス炉ガス(H2-CH4-CO混合ガス)或はコークス炉ガスの改質ガスを使用する場合には、これらのガスに少量の所定量のH2OやCO2を追加して炭素析出を抑制しうる条件に各還元性ガスの組成を調整して使用することができる。
【0016】
熱天秤に50mg酸化鉄試料(表1に酸化鉄試料(Nd被覆及びNd無被覆)の比表面積と化学組成を示す)をセットし反応による試料重量変化から反応速度を測定した。 酸化鉄試料は製鉄圧延工程からの鉄含有廃棄物を酸に溶解後PH調整沈殿法にて作成した。
【0017】
【表1】


【0018】
還元工程ではH2 水素ガスを、酸化工程では水蒸気含有のH2-40%H2O混合ガスを共に500ml/min 流通させて測定した。
【0019】
得られた還元と酸化の各反応速度の反応温度依存性を図1に示す。Nd被覆酸化鉄試料の還元工程でのガス状硫黄H2S添加は無しのas=0とした。 Nd無被覆試料の還元工程でのガス状硫黄H2S添加はas=1 の量とした。 全体的に酸化速度は還元速度よりも大きく、350℃に最大値を示した。
【0020】
還元速度は反応温度増加に伴い増加した。また、還元速度はNd被覆試料のほうが硫黄被覆試料よりも数倍大きかった。しかし、酸化速度に対するNd被覆試料と硫黄被覆試料における差異は殆どなく、吸着硫黄はNdと同様の焼結防止効果を有することが知られた。
【0021】
次に、図2に400℃でのNd無被覆試料の還元と酸化の各反応速度のガス中硫黄活量依存性を示す。還元速度への硫黄活量依存性は小さいが、酸化速度への影響は大きく、硫黄活量asが0.3以上2以下の条件で酸化速度が相当増加し、吸着硫黄は強い焼結防止効果を有することが知られた。
【0022】
還元工程における還元性ガスとして、反応温度に依存する所定濃度の硫黄成分ガスを含有する合成ガス(H2-CO混合ガス)やコークス炉ガス(H2-CH4-CO混合ガス)或はコークス炉ガスの改質ガスを使用する場合には、これらのガスに少量の所定量のH2OやCO2を追加して炭素析出を抑制しうる条件にガス組成を調整して使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の酸化鉄の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体は、水素燃料電池自動車や民生用コジェネ設備の分野等に利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】得られた還元と酸化の各反応速度の反応温度依存性を示す説明図である。
【図2】400℃でのNd無被覆試料の還元と酸化の各反応速度のガス中硫黄活量依存性を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄媒体の還元酸化サイクル反応を利用する水素供給体において、該サイクル反応に伴う微細還元鉄粒子表面に、硫黄原子を前もって所定量化学吸着させることを特徴とする水素供給体。
【請求項2】
前記微細還元鉄粒子は、ヘマタイトから作成されるマグネタイトを300℃から800℃の所定反応温度にて所定濃度の硫黄成分ガスを含有する水素ガス、石油産業や製鉄所で製造される合成ガス(H2-CO混合ガス)又はコークス炉ガス(H2-CH4-CO混合ガス)或はコークス炉ガスの改質ガス等にて還元し、硫黄原子を前もって所定量化学吸着させた還元鉄媒体とすることを特徴とする請求項1記載の水素供給体。
【請求項3】
酸化鉄媒体の原料として製鉄圧延工程から排出される鉄含有廃棄物、鉄鉱石を酸に溶解後PH調整沈殿法にて製造した物、または、所定粒度の鉄鉱石を使用することを特徴とする請求項1または2記載の水素供給体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−40669(P2009−40669A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223683(P2007−223683)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】