説明

酸性アルミニウム塩水溶液の製造方法

【課題】 凝集剤としての用途に有用なアルミニウム塩水溶液を簡便で効率的にかつ連続的に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】 nNaO・Al(n=0.5〜3)で表される組成を有するアルミン酸ソーダ水溶液と、硝酸等のm価の無機酸(mは1以上の整数)とをY字管型反応装置等を用いて5m/s以上で衝突混合反応させて酸性アルミニウム塩水溶液を製造する。この際、Al1モル当りの無機酸の使用量α(モル)が、下記式:
0.95×(6+2n)/m≦α≦1.5×(6+2n)/m
式中、n及びmは、前記の数である、
で表される条件を満足するように、アルミン酸ソーダ水溶液と無機酸とを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸アルミニウムに代表される酸性アルミニウム塩の水溶液の製造方法に関するものであり、より詳細には、凝集剤として使用される酸性アルミニウム塩水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩は凝集剤として古くから知られており、上下水道の浄化処理や工場廃水の浄化処理などに使用されている。これらの内、塩化アルミニウムは、塩化物イオンによる配管等の腐食の問題などがあるため、あまり使用されていない。また、硫酸アルミニウムは、取り扱いが容易であり、配管等の腐食の問題もなく、現在、最も広く使用されているが、硫酸イオンが系内に蓄積されると、硫酸カルシウムが配管内に沈着するなどの問題を引き起こすこともある。このような観点から、上記のような問題のない硝酸アルミニウムが着目されており、例えば製紙用の添加剤としての用途などが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−299460
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、凝集剤などの用途に使用される硝酸アルミニウム水溶液は、金属アルミニウムくず或いは水酸化アルミニウムを硝酸に溶解することにより製造される。このような方法は硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムについても同様であり、それぞれ、金属アルミニウムくずや水酸化アルミニウムを対応する酸に溶解させることにより製造されている。
【0005】
しかしながら、上記のような方法は金属アルミニウムや水酸化アルミニウムが酸に溶解するのに著しく長時間要し、さらに加熱を要するという問題があり、短時間で簡便な製造方法が求められている。
【0006】
従って、本発明の目的は、極めて短時間でアルミニウム塩水溶液を製造する方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、凝集剤としての用途に有用なアルミニウム塩水溶液を短時間で製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、アルミニウム塩水溶液の製造方法について鋭意研究した結果、原料としてアルミン酸ソーダを使用し、これに一定量の酸を反応させることにより、短時間での反応により酸性アルミニウム塩水溶液が得られること、及びこの方法で得られる酸性アルミニウム塩水溶液はソーダ分を含むものであるが、かかるソーダ分はフロック形成能等の凝集剤として求められる特性に悪影響を及ぼさず、かかる水溶液をそのまま凝集剤としての用途に使用し得ることを見出し、さらに検討を進め、上記混合を、アルミン酸ソーダと無機酸とを互いに5m/秒以上の速度で衝突させて行うことにより、通常の攪拌混合方式で混合するよりも無機酸の割合が少ない場合でも析出物のない均一な酸性アルミニウム塩水溶液を得られること、及び極めて短時間で反応が完了することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、nNaO・Al(n=0.5〜3)で表される組成を有するアルミン酸ソーダ水溶液とm価の無機酸(mは1以上の整数)とを反応させて酸性アルミニウム塩水溶液を製造する方法であって、Al1モル当りの無機酸の使用量α(モル)が、下記式:
0.95×(6+2n)/m≦α≦1.5×(6+2n)/m
式中、n及びmは、前記の数である、
で表される条件を満足するように、アルミン酸ソーダ水溶液と無機酸とを用い、かつこれらアルミン酸ソーダ水溶液と無機酸とを、各々5m/秒以上の流速を持たせて衝突させることにより反応させることを特徴とする酸性アルミニウム塩水溶液の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の製造方法においては、前記無機酸として硝酸を使用することが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、後述する実施例に示されているように、通常の攪拌混合方式で混合するよりもさらに短時間でアルミニウム塩の酸性水溶液が得られるばかりか、Al1モル当りの無機酸の使用量が、後記する反応式から導かれる理論値よりも少ない量であっても、得られる酸性水溶液は、アルミニウム塩や水酸化アルミニウムの析出が有効に抑制されており、沈殿物のない透明な液であり、これをそのまま凝集剤としての用途に適用することができる。
【0012】
また、本発明で得られる酸性アルミニウム塩水溶液は、ナトリウム分を含有しているが、このナトリウム分が凝集性能に悪影響を及ぼすことがなく、例えば従来公知の硫酸バンド等の凝集剤と同等の凝集性能を示す。
【0013】
本発明は、特に無機酸として硝酸を使用して硝酸アルミニウムの酸性水溶液の製造に好適に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、アルミニウム源としてアルミン酸ソーダを使用するが、このアルミン酸ソーダは下記のモル組成:
nNaO・Al
式中、nは0.5〜3の数である、
を有しているものであり、水溶液の形で使用される。水溶液濃度は特に制限されないが、一般的には、Al濃度が3乃至30質量%程度のものを使用するのが好適である。例えば、市販のAl濃度20質量%(n=1.65〜1.75)のアルミン酸ソーダ水溶液を所定の濃度になるように水で希釈したものを用いて原料とすることができる。また、市販のAl濃度54質量%(n=1.2〜1.23)の水に可溶なアルミン酸ソーダ粉末を所定の濃度になるように水に溶解して原料としてもよい。
【0015】
本発明では、上記のアルミン酸ソーダに無機酸を反応させてアルミニウム塩を生成せしめる。この反応式は、下記式で表される。
【0016】
m・[nNaO・Al]+[6+2n]・H
→ 2Al + 2nNaX + m・(3+n)H
式中、nは、前記の通りであり、
mは、無機酸の価数であり、
Xは、無機酸中の酸根である。
【0017】
用いる無機酸は、特に制限されず、例えば硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等を例示することができ、用いた無機酸に対応するアルミニウム塩(Al)が形成されることとなる。本発明においては、一般に他の方法で効率よく製造することが困難である点で、硝酸を使用し、アルミニウム塩として硝酸アルミニウムを形成することが工業的に有利である。
【0018】
前記の反応式から理解されるように、反応に用いる無機酸(HX)の理論モル数Zは、[6+2n]/mで表されるが、本発明では、アルミン酸ソーダ中に含まれるAl1モル当りの無機酸の使用量α(モル)が、下記条件:
0.95Z≦α≦1.5Z
Zは、理論モル数[6+2n]/mである、
を満足するように、アルミン酸ソーダと無機酸とを反応させる。この使用量が上記範囲よりも少ないと、反応液中に水に不溶の水酸化アルミニウムが析出してしまい、凝集剤としての使用が困難となり、また、無機酸の使用量が上記範囲よりも多い場合には、反応液に溶解している硝酸アルミニウムが析出してしまい、やはり凝集剤としての使用が困難となってしまう。
【0019】
本発明における最大の特徴は、上記アルミン酸ソーダと無機酸との混合を、各々5m/秒以上の流速を持たせて衝突させて反応させる点にある。このような混合を行うことにより、一般的な攪拌混合方式に比べて、(1)反応の完結までに要する時間がさらに短縮でき、また(2)アルミン酸ソーダに対する無機酸の使用範囲を広くできるという利点が得られる。
【0020】
より詳しくは、(1)アルミン酸ソーダと無機酸とを混合しても即座に反応は完結せず、攪拌混合方式では均一透明な酸性アルミニウム塩水溶液が得られるまでに数十分の攪拌が必要であるが、本発明の方法によれば数分〜15分程度で均一水溶液を得ることができる。
【0021】
(2)攪拌混合方式ではAl1モル当りの無機酸の使用量αが1.10Z以上、即ち、アルミン酸ソーダに対して無機酸が過剰でなければ、反応液中に水に不溶の水酸化アルミニウムが析出してしまい、凝集剤としての使用が困難となるため、有効成分に換算した時に無機酸がコスト高となるという問題を生じるが、アルミン酸ソーダと無機酸とを衝突混合させる本発明によれば0.95Z<α<Z1.1の場合でも水酸化アルミニウムの析出がなく、均一な酸性アルミニウム塩水溶液を得ることが可能となる。
【0022】
上記衝突に際しては、アルミン酸ソーダと無機酸との双方が、いずれも5m/秒以上の速度を持つようにする必要がある。いずれか一方でもこの速度未満では、上述した利点が得られなくなる。好ましくは7m/秒以上、更に好ましくは10m/秒以上である。上限は特に限定されるものではないが、アルミン酸ソーダ/無機酸に高い速度を与えるためのエネルギーや装置コストを考慮すると20m/秒程度である。
【0023】
上述の衝突を行わせる方法は特に限定されるものではないが、例えば特開2007−105731号公報に記載される如きY字管型反応装置(衝突混合装置)を用いることが好適である。図1に当該Y字管型反応装置の例を示す。
【0024】
図1に示すY字管型反応装置では、各々の原料供給管の中間に絞り部が設けられている。この絞り部の径と、ポンプから供給される原料(アルミン酸ソーダ水溶液及び無機酸)の量を適宜調節することにより、衝突混合の際の衝突速度を設定することが可能である。このY字管型反応装置においては、2つの原料供給管のなす角度は30〜180度、好ましくは45〜150度、さらに好ましくは60〜120度である。
【0025】
反応温度は、一般に室温でよいが、適宜加温してもよい。
【0026】
上記のようにして前述した量割合でアルミン酸ソーダと無機酸とを衝突させて反応させることにより、極めて短時間でナトリウム分(NaX)を含む透明な酸性アルミニウム塩水溶液が得られる。尚、アルミン酸ソーダ水溶液と無機酸水溶液とを混合すると、初期段階で反応液が懸濁することがあるが、反応が完結すると液が透明になるため、これにより反応の完結を確認することができる。
【0027】
上記のようにして得られる酸性アルミニウム塩水溶液は、特に凝集剤として有用であり、そのまま或いは希釈、濃縮等により適宜濃度調整して凝集剤としての用途に適用される。
【0028】
上述した本発明は、アルミニウムと各種無機酸との塩の製造に適用することができるが、特に硝酸アルミニウムの製造に適用した場合、反応時間を著しく短縮することができ、工業的に極めて有利である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例、比較例における各実験方法は以下の通りである。
【0030】
酸性アルミニウム塩水溶液の製造方法
A.衝突混合法;図1に模式図を示すY字管型反応装置で、アルミン酸ソーダを原料供給管1’から、無機酸水溶液を供給管1から各々供給し、絞り部4‘及び4で加速し、反応部3にて衝突混合させ、排出管2から衝突混合液を取り出して衝突混合させた。
【0031】
Y字管型反応装置は、サイズの異なる2種のものを用いた(下記表1にサイズを示す)。
【0032】
【表1】

【0033】
B.バッチ法;2L容器に所定量の無機酸水溶液を仕込み、撹拌機で無機酸水溶液を撹拌しながら、所定量のアルミン酸ソーダを一定の供給量で添加しながら、無機酸水溶液中でアルミン酸ソーダを反応させて、目的の酸性アルミニウム塩水溶液を製造した。
【0034】
<実施例1〜5、比較例1〜3>
原料のアルミン酸ソーダは、市販品(Al濃度19質量%、NaO/Alモル比n=1.67)を水で希釈し、表2に示すAl濃度の水溶液として用い、原料の無機酸水溶液は、m=1である市販品の硝酸(14.8N、67質量%)を水で希釈し、表2に示す濃度の硝酸水溶液として用いた。各原料を表2に示す流量でY字管型反応装置1(実施例1〜4、比較例1〜3)、あるいはY字管反応装置2(実施例5)に供給して反応を行い、反応開始後、15分後、30分後及び3時間後における液の状態を目視で観察し、その結果を表2に示した。
【0035】
尚、表2には、用いた無機酸(硝酸)の理論要求モル数[6+2n]/mを示し、さらに、Al1モル当りの無機酸(硝酸)の使用モル数(α)/無機酸の要求理論モル数の値(Z)を、モル比率α/Zとして併せて示した。
【0036】
<比較例4〜6>
原料のアルミン酸ソーダは、市販品(Al濃度19質量%、NaO/Alモル比n=1.67)を水で希釈し、表3に示すAl濃度の水溶液として用い、原料の無機酸水溶液は、m=1である市販品の硝酸(14.8N、67質量%)を水で希釈し、表3に示す硝酸水溶液として用いた。まず、2Lの容器に、表3に示す濃度の硝酸水溶液を表3に示す量で仕込み、この硝酸水溶液中に上記アルミン酸ソーダの水溶液を添加し、撹拌羽の回転数を400rpmでの撹拌条件下で反応を行い、反応開始後、15分後、30分後及び3時間後における液の状態を目視で観察し、その結果を表3に示した。
【0037】
尚、表3には、用いた無機酸(硝酸)の理論要求モル数[6+2n]/mを示し、さらに、Al1モル当りの無機酸(硝酸)の使用モル数(α)/無機酸の要求理論モル数の値(Z)を、モル比率α/Zとして併せて示した。
【0038】
上記の結果から理解されるように、モル比率α/Zが0.95未満の比較例1では、反応溶液中に水に不溶の水酸化アルミニウムの凝集物が発生してしまい、反応液は懸濁状態のままであった。また、モル比率α/Zが1.5より高い比較例2では、3時間後に、一旦溶解していた硝酸アルミニウムが析出してしまい、このため、反応液は底部に析出物が堆積した。
【0039】
また、バッチ式による結果では比較例4のようにモル比率αが1.10Zでも15分以下の時間では反応液が透明にならず、比較例5のようにモル比率αが1.00では反応溶液中に水に不溶の水酸化アルミニウムの凝集物が発生してしまい、反応液は懸濁状態のままであった。
【0040】
これに対して、本発明例であるモル比率α/Zが0.95以上、1.5以下である実施例1〜5では、何れも15分以内に反応液が透明となって反応が完結し、さらに3時間経過後にも析出物の発生が無く、透明状態がそのまま維持されていた。
【0041】
<実施例6、比較例7>
原料のアルミン酸ソーダは、市販品(Al濃度19質量%、NaO/Alモル比n=1.67)を水で希釈し、表4に示すAl濃度の水溶液として用い、原料の無機酸水溶液は、m=2である市販品の硫酸(22.9N、70質量%)を水で希釈し、表4に示す濃度の硫酸水溶液として用いた。各原料を表4に示す流量でY字管反応装置1に供給して反応を行い、反応開始後、15分後、30分後及び3時間後における液の状態を目視で観察し、その結果を表4に示した。
【0042】
尚、表4には、用いた無機酸(硝酸)の理論要求モル数[6+2n]/mを示し、さらに、Al1モル当りの無機酸(硝酸)の使用モル数(α)/無機酸の要求理論モル数の値(Z)を、モル比率α/Zとして併せて示した。
【0043】
上記の実験結果に示されているように、無機酸として硫酸を用いた場合にも、モル比率α/Zが0.95未満の比較例7では、反応溶液中に水に不溶の水酸化アルミニウムの凝集物が発生してしまい、反応液は懸濁状態のままであった。これに対して、本発明例であるモル比率α/Zが0.95以上、1.5以下である実施例6では、30分後には反応液が透明となって反応が完結し、析出物の発生が無く、透明状態がそのまま維持されていた。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1はアルミン酸ソーダ水溶液と無機酸とを衝突させる際に、好適に用い得るY字管型反応装置の模式図である。
【符号の説明】
【0048】
1,1’:原料供給管
2 :酸性アルミニウム塩溶液排出管
3 :反応部
4,4’:絞り部
5,5’:無機酸水溶液貯蔵槽、アルミン酸ソーダ水溶液貯蔵槽
6,6’:ポンプ
7 :酸性アルミニウム塩溶液貯蔵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
nNaO・Al(n=0.5〜3)で表される組成を有するアルミン酸ソーダ水溶液とm価の無機酸(mは1以上の整数)とを反応させて酸性アルミニウム塩水溶液を製造する方法であって、Al1モル当りの無機酸の使用量αが、下記式:
0.95×(6+2n)/m≦α≦1.5×(6+2n)/m
式中、n及びmは、前記の数である、
で表される条件を満足するように、アルミン酸ソーダ水溶液と無機酸とを用い、かつこれらアルミン酸ソーダ水溶液と無機酸とを、各々5m/秒以上の流速を持たせて衝突させることにより反応させることを特徴とする酸性アルミニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記無機酸として硝酸を使用する請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126369(P2010−126369A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299346(P2008−299346)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】