説明

酸性タイプ液状経腸栄養剤

【課題】液状経腸栄養剤を酸性にしても、乳化安定性が良好に確保され、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤を提供すること。
【解決手段】蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、不溶物の重量が2610×gで60分間の遠心分離をしたときに前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経管投与または経口摂取で栄養補給を必要とする高齢者や患者などに対して、効率的に蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維の補給ができる酸性タイプ液状経腸栄養剤およびその製造方法に関する。
更に詳しくは、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくい酸性タイプ液状経腸栄養剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経腸栄養法は、経静脈栄養法に比べて生理的で、消化管が機能している場合には栄養補給の第1選択とされている。また、バクテリアルトランスロケーションを予防することが可能な方法で、合併症の予防、在院日数の短縮が可能になるなど有用性が高い。
経腸栄養法に用いられる液状の経腸栄養剤は、体に必要な蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維が十分量、バランスよく配合されており、通常の食事などを摂取できない手術前後の患者、高齢者などに栄養補給を行い、その体力などの回復や治癒を促進させるものとして欠かせないものである。
経腸栄養法で使用される経腸栄養剤の関与する合併症として、投与中におけるチューブ閉塞がある(非特許文献1)。その主な原因は、(1)酸による蛋白質の凝集、(2)不溶物、(3)粘度が考えられる。現在市場に流通している経腸栄養剤の多くはpH6.0〜7.5程度の中性であり、胃、十二指腸、空腸にチューブ先端を留置して投与すると、蛋白質成分が胃液または腸内細菌の産生する酸と接触した際、チューブ先端に蛋白質の凝集物が発生して、チューブ閉塞が起こるとされている(非特許文献2および3)。経腸栄養剤の不溶物は、蛋白質濃度が高くなると、蛋白質の分散安定性が著しく低下し、加熱殺菌時の加熱などによって、蛋白質が凝集・沈殿したり、ゲル化したりして不溶物となって、流量を調整しているクレンメでチューブ径が更に細くなった部分でチューブ閉塞が起こりやすいとされている。また、一般的に、経腸栄養剤の蛋白質濃度が高いほど、粘度が高くなる傾向にあり、投与中に流速が低下してチューブ閉塞が起こりやすいとされている(非特許文献4)。一方、蛋白加水分解物を使用した経腸栄養剤の場合、チューブ閉塞は解決されるが、乳化状態は不安定になるため、粉末タイプ、または二液に分けて使用時に混合する必要がある。
【0003】
このため、経腸栄養剤のpHをあらかじめ酸性域で調製し、蛋白質を加水分解して安定的に分散させることができれば、蛋白質が凝集・沈殿したり、ゲル化したりして経腸栄養剤中で不溶物とならず、蛋白質成分が胃液または腸内細菌の産生する酸と接触しても、蛋白質成分が凝集し難くなり、さらに、粘度が低くなり、チューブ閉塞を抑制することが可能となる。
このように、これまでの経腸栄養剤は、上述のような課題点を有しており、市場では、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維が十分量、バランスよく配合され、さらに、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくい液状経腸栄養剤が望まれていた。
上記のような課題に対して、例えば、蛋白質を含有する酸性タイプの飲料組成物については、既に文献に記載されており、すなわち、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、および0.1〜5.0w/w%の蛋白質を含有する、pH3.0〜4.2の酸性飲料(特許文献1参照)やホエー蛋白質濃縮物、糖アルコールおよび高甘味度甘味料を含有し、ホエー蛋白質の含有量が0.8〜5w/v%、pHが3.2〜3.8の低カロリー酸性たんぱく飲料(特許文献2参照)がある。しかし、蛋白質濃度を3.5w/v%以上に調製した場合、蛋白質の分散安定性が著しく低下し、加熱殺菌時の加熱などによって、蛋白質が凝集・沈殿したり、ゲル化したりする傾向にあり、貯蔵安定性や流動性が劣るものであった。また、発酵乳より乳清を除去した成分および蜂蜜を含有してなることを特徴とする組成物がある(特許文献3参照)。しかし、発酵乳を使用した場合、乳成分中のカゼインが凝集、沈澱を起こし、粘度が高くなり、チューブ流動性に劣ることが知られている。このように、蛋白質濃度が高く、貯蔵安定性や流動性に優れた酸性タイプの飲料組成物などの酸性液状経腸栄養剤は、これまで知られていなかった。
【0004】
また、安定化剤を使用した方法として、例えば、発酵乳などの蛋白食品に果汁、有機酸などが添加された酸性下において、蛋白質粒子の凝集、沈殿、相分離などが生じるのを防止することができる酸性蛋白安定化剤として、紅藻から抽出される硫酸多糖類を含有することを特徴とする酸性蛋白安定化剤(特許文献4参照)がある。しかし、この酸性たんぱく食品は、紅藻から抽出される硫酸多糖類を蛋白質安定化剤として用いるので、汎用性に乏しく、また、粘度が高くなるという課題があった。
さらに、蛋白質の安定性に優れ、低pHにおいても調製可能な酸乳ゲル組成物として、ジェランガム、寒天または大豆多糖類を含有することを特徴とする酸乳ゲル組成物(特許文献5参照)がある。しかし、この技術は、蛋白質安定化剤として汎用されている大豆食物繊維やペクチンを用いて乳蛋白成分を安定化する技術であるが、蛋白質や蛋白加水分解物の含有量が多い酸性飲食品には必ずしも適さない場合り、また、粘度が高くなる課題を有していた。
従って、栄養価の高い良質の蛋白質として乳蛋白を使用し、栄養素が十分量、バランスよく配合され、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくい酸性タイプ液状経腸栄養剤が待望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】医療安全情報、(独)医薬品医療機器総合機構、No.1、2007年11月
【非特許文献2】丸山道生、他、酸性経腸栄養剤を用いた経腸栄養カテーテル閉塞機序の検討、静脈経腸栄養、23、315−320(2008)
【非特許文献3】小山 諭、畠山勝義、経腸栄養剤の合併症とその対策、栄養評価と治療、24、241−245(2007)
【非特許文献4】畠山勝義 編、静脈経腸栄養ハンドブック、P.124(2003)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−184341号公報
【特許文献2】特開平11−123069号公報
【特許文献3】特開平6−98717号公報
【特許文献4】特開2002−125587号公報
【特許文献5】特開2002−153219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の状況を鑑みてなされたもので、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、不溶物の重量が2610×gで60分間の遠心分離をしたときに前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤として、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくく、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、不溶物の重量が2610×gで60分間の遠心分離をしたときに前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤であるため、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維などが十分量、バランスよく配合され、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくい酸性タイプ液状経腸栄養剤を得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に示したものである。
(1)蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、かつ2610×gで60分間の遠心分離をしたときの不溶物の重量が前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、少なくとも前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(2)前記蛋白質が、乳蛋白である(1)に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(3)前記プロテアーゼが、微生物由来のエンドプロテアーゼである(1)または(2)に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(4)前記有機酸モノグリセライドが、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種の乳化剤である(1)〜(3)のいずれかに記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(5)前記ペクチンが、エステル化度が50%以上の高メトキシルペクチンである請求項(1)〜(4)のいずれかに記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(6)蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤を製造するにあたり、少なくとも前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤は、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、不溶物の重量が2610×gで60分間の遠心分離をしたときに前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤であって、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維が十分量、バランスよく配合され、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくく、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を詳細に説明する。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤のpHとしては、3〜4、好ましくは3.4〜3.8の範囲である。酸性タイプ液状経腸栄養剤のpHが、3より低いと、酸性タイプ液状経腸栄養剤が強酸性となり、風味が悪くなる。一方、4より高いと、製造時に菌が混入した場合、加熱殺菌が不十分になる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の粘度としては、5〜40mPa・s、好ましくは10〜30mPa・s、より好ましくは10〜20mPa・sである。酸性タイプ液状経腸栄養剤の粘度が、40mPa・sより高いと、経管栄養を実施する際、チューブ流動性に劣り、酸性タイプ液状経腸栄養剤の投与が困難となる。一方、5mPa・s以上であれば、水の粘度に近く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくい。
粘度の測定は、第7版食品添加物公定書 B.一般試験法 28.粘度測定法 第2法 回転粘度計法で行う。例えば、RB80L形粘度計(東機産業株式会社)を用いて測定した値をいう。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の不溶物の重量としては、酸性タイプ液状経腸栄養剤50gを2610×gで60分の遠心分離を行い、上清を除去した後に得られる沈澱物の湿重量である。遠心分離の操作は特に指定しないが、遠心条件は、汎用される卓上の遠心機の性能を考慮して、2610×gで60分と設定する。遠心機については、テーブルトップ遠心機2410(株式会社久保田製作所)などが挙げられる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の不溶物の重量は、栄養剤あたり50g当たり0.5g以下、好ましくは0.4g以下である。酸性タイプ液状経腸栄養剤の不溶物の重量が、0.5gより多いと、経管栄養を実施する際、チューブ流動性に劣り、酸性タイプ液状経腸栄養剤の投与が困難となる。
【0012】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用する蛋白質としては、食品として利用できる蛋白質であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは乳蛋白、さらに好ましくはカゼインまたはカゼイネートである。カゼインまたはカゼイネートは、市販品、常法により分離した乳酸カゼインや塩酸カゼインなどの酸カゼイン、ナトリウムカゼイネイトやカリウムカゼイネイトなどのカゼイネート、これらの混合物のいずれであってもよい。原料として用いるカゼインは出来るだけ純度が高いものが好ましく、具体的には、脂肪および乳糖の含有量がそれぞれ2重量%以下であって、カゼイン純度が80重量%以上であるものが好ましい。原料の純度が低く、夾雑物を多く含んでいる場合には加熱殺菌後の乳化安定性が得られなかったり、加熱殺菌などで風味の劣化が認められたりする。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用する脂質としては、食品として利用できる脂質であれば、特に限定されるものではないが、例えば、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、シソ油、大豆油、とうもろこし油、ナタネ油、胚芽油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油等の植物性油脂、魚油、乳脂等の動物性油脂、中鎖脂肪酸、高度不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、その他にDHA、EPA、ジアシルグリセロールなどの加工製剤も添加することができる。
【0013】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するプロテアーゼとしては、食品として利用できるプロテアーゼであれば、特に限定されるものではなく、微生物、動物、または植物由来の種々のプロテアーゼを用いることができるが、特にエンドプロテアーゼを用いることが好ましい。例えば、微生物由来のエンドプロテアーゼとしては、Bacillus属、Aspergillus属、Lactococcus属、Lactobacillus属、Streptococcus属、Bifidobacterium属に属する微生物由来のエンドプロテアーゼが挙げられ、動物由来のエンドプロテアーゼとしては、例えば、パンクレアチン、トリプシン、キモトリプシンなどが挙げられ、植物由来のエンドプロテアーゼとしては、例えば、パパイン、ブロメラインなどが挙げられるが、微生物由来のエンドプロテアーゼが好ましい。動物由来または植物由来のエンドプロテアーゼでは、酵素蛋白質当たりの酵素単位が低いため、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤が得られない。
本発明において、エンドプロテアーゼは、エンドプロテアーゼ活性を有する限りいかなるプロテアーゼも含まれるが、エンドプロテアーゼ活性と比較してエキソプロテアーゼ活性が低いか、あるいはほとんどエキソプロテアーゼ活性を有していないプロテアーゼが好ましい。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するエンドプロテアーゼは、1種類のプロテアーゼのみを単独で用いてもよいし、2種類以上のプロテアーゼを組み合わせて用いてもよい。また、単離・精製したプロテアーゼの他、プロテアーゼ活性を有する植物細胞、動物細胞、菌体またはこれらの破砕物を用いることもでき、本明細書においてプロテアーゼという用語は、プロテアーゼ活性を有する菌体、動物細胞、植物細胞、またはこれらの破砕物をも含む意味で用いられる。
【0014】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するプロテアーゼの配合量は、蛋白質を酵素処理し得る限り特に限定されるものではない。例えば、プロテアーゼの配合量は、処理時間や処理温度と共に所定の範囲で適宜調整することができる。エンドプロテアーゼを用いる場合には、蛋白質1gあたりのエンドプロテアーゼの配合量が、総量として200〜5000単位、好ましくは500〜4000単位の範囲である。200単位より少ないと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の粘度が高くなり、チューブ流動性が劣る。5000単位より多いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の風味が加熱殺菌で低下する場合がある。また、プロテアーゼ活性を有する菌体、動物細胞、または植物細胞はこれらの破砕物を用いる場合には、固形分としての添加量が全体の重量に対して1重量%以下であることが好ましい。プロテアーゼの配合量をこのような範囲で設定することによって、経腸栄養剤の乳化安定化効果の低減、経腸栄養剤の熱安定性の低下や沈澱の発生、経腸栄養剤の蛋白質分解物臭の発生などを防止することができる。
本明細書において、プロテアーゼの単位は、当該技術分野における慣用技術ならびに知識がそのまま、もしくは適宜変更を加えた形で適用され、例えば、乳製カゼイン(Merck社製のHemmarsten Casein)に酵素を37℃、60分反応を行うとき、100μgのチロシンに相当するアミノ酸を生成するときを「1単位」とする。
【0015】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するプロテアーゼの反応条件は、蛋白質をプロテアーゼ処理し得る限り特に限定されるものではなく、プロテアーゼの反応時間、反応温度は、所定の範囲で適宜調整することができる。例えば、所定の配合量のエンドプロテアーゼを添加し、反応時間10〜60分、好ましくは15〜45分、反応温度50〜70℃、好ましくは55〜65℃の範囲で保持して、プロテアーゼを反応させる。反応時間が10分より短いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造における効率が低下する。反応時間が60分より長いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の風味が加熱殺菌で低下する場合がある。反応温度が50℃より低いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造における効率が低下する。反応温度が70℃より高いと、プロテアーゼの失活を生じ、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造が困難となる。プロテアーゼ処理した後、酵素の失活のために酸添加を行うが、加熱を行っても良い。加熱する場合の温度は、80〜140℃の温度の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、従来から食品に慣用される蛋白または蛋白加水分解物を配合してもよい。蛋白または蛋白質加水分解物の由来としては、カゼイン以外に、乳清、トータル・ミルク・プロテイン(TMP)、ミルク・プロテイン・コンセントレート(MPC)などの乳蛋白、卵白、コラーゲン、プロタミンなどの動物性蛋白、大豆、小麦、とうもろこしなどの植物性蛋白などから製造されるものが挙げられる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用する有機酸モノグリセライドとしては、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライド、酢酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライドなどが挙げられる。その中でも、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライドが好ましい。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用することのできる具体的な有機酸モノグリセライドは、ポエムK−30、ポエムB−10、ポエムW−60(理研ビタミン株式会社)、サンソフトNo.621B、サンソフトNo.681NU、サンソフトNo.641D(太陽化学株式会社)が挙げられる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用する有機酸モノグリセライドの配合量は、0.2〜1重量%、好ましくは0.3〜0.5重量%の範囲である。有機酸モノグリセライドの配合量が、0.2重量%より少ないと、有機酸モノグリセライドの効果が十分発揮できず、保存中に乳化状態を保持できなくなるため、好ましくない。また、1重量%を越えると、乳化剤の風味が強くなり、経口摂取に適さないため、好ましくない。
なお、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、有機酸モノグリセライド以外の汎用される乳化剤、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどを追加して使用することができる。
【0017】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するペクチンとしては、原材料は広く植物組織中に存在するが、主にライム、レモン、オレンジなどの柑橘類の皮、リンゴの絞りかす、ビートのパルプから抽出したものが使用できる。また、通常市販されているものを用いることもできる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するペクチンのエステル化度は、50%以上の高メトキシルペクチンである。エステル化度が50%より低い低メトキシルペクチンでは、経腸栄養剤がゲル化する。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用することのできる具体的なペクチンは、GENU pectin type YM−150−LJ、GENU pectin type YM−115−LJ、GENU pectin type JM−115−H−J、GENU pectin type JM−150−J、GENU pectin type JMJ−J(太陽化学株式会社)、UNIPECTINE AYD 30T、UNIPECTINE AYD 358、UNIPECTINE AYD 380B(ユニテックフーズ株式会社)が挙げられる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用するペクチンの配合量は、0.1〜0.7重量%、好ましくは0.3〜0.5重量%の範囲である。ペクチンの配合量が、0.1重量%より少ないと、食物繊維としての排便促進作用などの生理機能が十分発揮できなくなるため、好ましくない。また、0.7重量%を越えると、経腸栄養剤の粘度が高くなり、チューブ流動性が劣る。
なお、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、ペクチン以外の汎用される食物繊維、例えば、グアーガム酵素分解物、グルコマンナン、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、ポリデキストロース、難消化性の多糖類が挙げられるが、これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0018】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤において、蛋白質、脂質、蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態は、10〜60分、好ましくは15〜45分の範囲で保持する.保持が10分より短いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造における効率が低下する。保持が60分より長いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の風味が加熱殺菌で低下する場合がある。保持する温度は、特に規定されないが、例えば、50〜70℃、好ましくは55〜65℃の範囲で保持する。温度が50℃より低いと、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造における効率が低下する。温度が70℃より高いと、プロテアーゼの失活を生じ、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造が困難となる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤において、酸添加によりプロテアーゼの反応を停止するときに使用する酸は、特に限定されるものではなく、例えばクエン酸、リンゴ酸、乳酸、塩酸などがあるが、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸が好ましい。また、酸添加以外によりプロテアーゼの反応を停止する方法として、加熱を用いてもよい。この場合、加熱する温度は、80〜140℃の温度の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤において、均質化は、水と油とを含む混合液をエマルションとし、さらにエマルションの液滴を微粒化することである。均質化の一つの方法としては、例えば、回転羽を有する攪拌機、高速回転するディスクやローターと固定ディスクを有するコロイドミル、超音波式乳化機、一種の高圧ポンプである均質機(ホモジナイザー)等が挙げられ、50MPa以上の圧力で均質化できる高圧均質機が好ましい。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤において、高圧均質機による圧力は、50MPa以上である。圧力が50MPaより低いと、調製直後あるいは保存中に油層分離が発生するなど乳化安定性に問題を生じる。
【0020】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に使用する糖質としては、従来から、食品に慣用されるものでよく、例えば、澱粉、デキストリンやブドウ糖および果糖などの単糖類、マルトースおよび乳糖などの二糖類、砂糖、グラニュー糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖など)、粉飴、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトールなど)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
また、従来公知もしくは将来知られうる甘味成分も糖質の代わりに用いることができる。具体的には、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末などの甘味成分を用いても良い。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を製造する際には、製品の種類に応じて通常用いられる適当なビタミンやミネラルなどの成分を配合することが出来る。
【0021】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に用いるビタミンとしては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。ビタミンとして、ビタミン誘導体を使用してもよい。
ビタミンの配合量は、酸性タイプ液状経腸栄養剤100mLあたり、下記の範囲が適当である。
ビタミンB1 0.1〜40mg、好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg、好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg、好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg、好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg、好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg、好ましくは1.65〜30mg
葉酸 10〜1000μg、好ましくは60〜200μg
ビオチン 1〜1000μg、好ましくは14〜500μg
ビタミンC 10〜2000mg、好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg、好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg、好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg、好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg、好ましくは2〜700μg
【0022】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に用いるミネラルとして、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、ヨウ素、クロムおよびモリブデンなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。これらは、無機電解質成分として配合されていても良いし、有機電解質成分、として配合されていてもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、有機酸、例えばクエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、無機塩基、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。例えば、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、未焼成カルシウム、塩化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、塩化第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、グルコン酸銅、硫酸銅などが挙げられる。また、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、マンガンなどは、高濃度の微量元素化合物を含有する培地内で培養して得られる微量元素蓄積性を有する微生物由来の微量元素含有微生物菌体を用いても良い。
【0023】
ミネラルの配合量は、酸性タイプ液状経腸栄養剤100mLあたり、下記の範囲が適当である。
ナトリウム 5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg、好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg、好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg、好ましくは25〜1500mg
鉄 0.1〜55mg、好ましくは1〜10mg
銅 0.01〜10mg、好ましくは0.1〜6mg
亜鉛 0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg
マンガン 0.01〜11mg、好ましくは0.1〜4mg
セレン 0.1〜450μg、好ましくは1〜35μg
クロム 0.1〜40μg、好ましくは1〜35μg
ヨウ素 0.1〜3000μg、好ましくは1〜150μg
モリブデン 0.1〜320μg、好ましくは1〜25μg
【0024】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の1mLあたりの熱量は、特に限定されるものではないが、0.5〜2.0kcal、好ましくは0.75〜1.5kcalである。酸性タイプ液状経腸栄養剤の1mLあたりの熱量が0.5kcalより低いと、栄養学的に十分な熱量が得られない。酸性タイプ液状経腸栄養剤の1mLあたりの熱量が、2.0kcalより高いと、酸性タイプ液状経腸栄養剤の加熱殺菌後の粘度が高くなる。
以上、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、必要に応じて、他の成分類や添加剤などを添加してもよい。例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、グリセリン、プロピレングリコール、アラビアゴム、色素、香料、保存剤など、通常の食品原料として使用されている添加剤などを適宜添加してもよい。
【0025】
本発明において製造に際しては上記に説明した組成範囲に基づいて更に、後述の実施例や栄養組成物の製造法として従来から知られている方法、もしくは今後新しく提供される方法を利用すれば、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を製造することができる。
本発明における酸性タイプ液状経腸栄養剤は、容器等に充填された状態にあるものも含まれ、その場合、製剤を予め加熱滅菌した後に無菌的に容器に充填する方法(例えばUHT殺菌法とアセプティック充填法を併用する方法)、あるいは容器に充填した後に容器と一緒に加熱滅菌する方法(レトルト殺菌法、ボイル殺菌法)を採用することができる。なお、UHT殺菌法では飲料に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式等の直接加熱方式、プレートやチューブ等、表面熱交換機器を用いる間接加熱方式等の公知の方法で行うことができる。いずれの殺菌方式においても130〜150℃、2〜120秒程度の加熱処理が好ましい。レトルト殺菌の場合、110〜125℃、4〜30分程度の加熱処理が好ましい。また、ボイル(高温常圧)殺菌の場合、液状経腸栄養剤のpHが4.6以下で70〜95℃、5〜20分程度の加熱処理が好ましい。
【0026】
本発明で得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤を収容する容器としては、特に限定されないが、患者が摂取しやすい形態であることが好ましい。例えば、プラスチックボトル、ペットボトルやカート缶、テトラパックなどの紙製容器、または、アルミパウチ、もしくは、金属缶などが挙げられる。
使用する容器としては、軟質合成樹脂(例えば可塑化塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−α−オレフィン共重合体等の各種ポリオレフィン系樹脂、ポリフルオロカーボン、ポリイミド等)により形成された密閉型であり、加熱殺菌可能な軟質容器が好適である。また、紙にアルミ箔、更に容器の内表面側に合成樹脂(例えばポリエチレン)をラミネートした素材により形成された容器等も使用することができ、このラミネート容器は、アセプティック包装法に好適である。
その他にも、医療用容器等に使用されている樹脂を適宜使用することができる。ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等のガスバリア性樹脂層や、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、酸化珪素皮膜、酸化アルミ被膜等のガスバリア性を有する層を、なお、容器に透明性を要求されるときはこれらのうち透明なものを選んで、上記した軟質合成樹脂に必要により適宜組み合わせて、フィルムの層成分として用いることが好ましい。
【0027】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の製造方法としては、蛋白質、脂質、該蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌されることを特徴とする。前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンのいずれかを含有しない状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌されて製造した場合、不溶物の重量が2610×gで60分間の遠心分離をしたときに前記栄養剤50g当たり0.5gより多くなるため、好ましくはない。
なお、糖質、ビタミン、ミネラル、および上記プロテアーゼの反応で必要な量のペクチン以外の食物繊維は、適時配合することができる。
このようにして得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維などが十分量、バランスよく配合され、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくく、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにすることができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
表1に示す配合に基づき、後述する調製法1の方法により調製し、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。なお、表1中、ミネラルミックス、脂溶性ビタミンミックス、水溶性ビタミンミックスの組成は、それぞれ表2、表3、表4にあらわした。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、不溶物量は0.434g、粘度は28mPa・sであり、40℃に30日間保存した後でも、乳化安定性は良好であった。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
(調製法1)
65℃の温水6kgを攪拌しながら、ペクチン(高メトキシルペクチン、GENU pectin type YM−150−LJ、太陽化学株式会社)、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸三カリウム、カゼインナトリウム(カゼインナトリウムS、日本新薬株式会社)を少しずつ加え、十分に攪拌し水相とした。加温した大豆油に乳化剤としてコハク酸モノグリセライド(サンソフトNo.681NU、太陽化学株式会社)を投入し、溶解させて油相とした。水相に油相を混合し、プロペラ攪拌機により5分間の予備乳化を行った後、エンドプロテアーゼ(プロテアーゼN「アマノ」G、192000単位/g、天野エンザイム株式会社)を加え、30分間反応させた。その後pH3.8となるようにクエン酸を加え、さらに、デキストリン(サンデック#150、三和澱粉工業株式会社)、グアーガム加水分解物(サンファーバーR、太陽化学株式会社)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム、クエン酸鉄第一ナトリウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅、ミネラルミックス、脂溶性ビタミンミックス、水溶性ビタミンミックス、アスコルビン酸を加えて十分に攪拌した。その後、水を加えて全量を10kgとし、原料溶液を得た。該原料溶液を高圧均質機により、50MPaの圧力で均質化処理し、これを200mL容チアーパックST(登録商標、株式会社細川洋行)に200mLずつ充填し、密封し、90℃で10分間のボイル殺菌処理を実施し、酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。
【0035】
(評価法1)
前述の実施例1、後述する実施例2から6と比較例1から11の液状経腸栄養剤20mLと塩化ナトリウム2.0gを塩酸7.0mLおよび水に溶かして1000mLとした第十五改正日本薬局方溶出試験第1液25mLを混合した後、100号ふるいを通した際のふるい上に残った凝集物の有無を目視により観察した。結果を表5に示す。
なお、凝集物無は○、凝集物有は×で示す。
【0036】
【表5】

【0037】
(評価法2)
前述の実施例1、後述する実施例2から6と比較例1から11の液状経腸栄養剤の粘度はRB80L形粘度計(東機産業株式会社)を用いて測定した。結果を表5に示す。
【0038】
(評価法3)
前述の実施例1、後述する実施例2から6と比較例1から11の液状経腸栄養剤50gを2610×g、60分で遠心分離した後、上清を取り除き、得られた不溶物の重量を測定した。結果を表5に示す。
【0039】
(評価法4)
前述の実施例1、後述する実施例2から6と比較例1から11の液状経腸栄養剤の調製直後および40℃に30日間保存した後の状態を目視により観察した。結果を表5に示す。
○:調製直後および40℃に30日間保存後ともに乳化安定性は良好であった。
△:調製直後の乳化状態は良好であったが、40℃に30日間保存した後に油相分離が発生した。
×:調製直後に油相分離が発生した。
【0040】
(比較例1)
実施例1において、エンドプロテアーゼ(プロテアーゼN「アマノ」G、192000単位/g、天野エンザイム株式会社)を5gから0.2gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められなかったが、不溶物量は2.477g、粘度は48mPa・sとなった。
【0041】
(比較例2)
実施例1において、高メトキシルペクチン(GENU pectin type YM−150−LJ)を低メトキシルペクチン(GENU pectin type LM−101AS−J、太陽化学株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、ゲル化した。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、エンドプロテアーゼ(プロテアーゼN「アマノ」G、192000単位/g、天野エンザイム株式会社)5gをサモアーゼC160(1830000単位/g、大和化成株式会社)0.5gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、不溶物量は0.345g、粘度は28mPa・sであり、40℃に30日間保存した後でも、乳化安定性は良好であった。
【0043】
(比較例3)
実施例2において、ペクチンをカルボキシメチルセルロースナトリウム(セロゲンF−610BC、第一工業薬品株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、不溶物量が0.492gであったが、溶出試験第1液と混合して凝集物が認められ、粘度は44mPa・sであった。
【0044】
(比較例4)
実施例2において、ペクチンをカラギーナン(GENULACTA type P−100−J、太陽化学株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、調製直後に油相分離が発生した。
【0045】
(比較例5)
実施例2において、ペクチンをアルギン酸エステル(キミロイドNLS−K、キミカ株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、調製直後に油相分離が発生した。
【0046】
(比較例6)
実施例2において、ペクチンを微結晶セルロース製剤(セオラスRC−N81、旭化成株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、調製直後に油相分離が発生した。
【0047】
(実施例3)
実施例2において、ペクチンの配合量を50gから30gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、不溶物量は0.289g、粘度は20mPa・sであり、40℃に30日間保存した後でも、乳化安定性は良好であった。
【0048】
(実施例4)
実施例2において、ペクチンを高メトキシルペクチンであるGENU pectin type JM−150−J(太陽化学株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、不溶物量は0.419g、粘度は20mPa・sであり、40℃に30日間保存した後でも、乳化安定性は良好であった。
【0049】
(実施例5)
実施例2において、コハク酸モノグリセライドをクエン酸モノグリセライド(サンソフトNo.621G、太陽化学株式会社)に変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められなかったが、不溶物量は0.444g、粘度は30mPa・sであり、40℃に30日間保存した後でも、乳化安定性は良好であった。
【0050】
(実施例6)
実施例2において、コハク酸モノグリセライドをジアセチル酒石酸モノグリセライド(ポエムW−60、理研ビタミン株式会社)に変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められなかったが、不溶物量は0.462g、粘度は34mPa・sであり、40℃に30日間保存した後でも、乳化安定性は良好であった。
【0051】
(比較例7)
実施例2において、ペクチンの配合量を5gに変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、調製直後に油相分離が発生した。
【0052】
(比較例8)
実施例2において、ペクチンの配合量を100gに変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、不溶物量は0.498gであったが、粘度は80mPa・sとなった。
【0053】
(比較例9)
実施例2において、コハク酸モノグリセライドを高級脂肪酸モノグリセライド(サンソフトNo.8000V、太陽化学株式会社)に変え、調製法2の方法により液状経腸栄養剤を調製し、液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、調製直後に油相分離が発生した。
【0054】
(比較例10)
実施例2において、コハク酸モノグリセライドをポリグリセリン脂肪酸エステル(サンソフトQ−17S、太陽化学株式会社)に変え、調製法2の方法により液状経腸栄養剤を調製し、液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、調製直後に油相分離が発生した。
【0055】
(比較例11)
実施例2において、コハク酸モノグリセライドの配合量40gを10gに変え、調製法2の方法により液状経腸栄養剤を調製し、液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、粘度は28mPa・sであったが、不溶物量は1.172gであり、40℃に30日間保存した後に油相分離が発生した。
【0056】
(調製法2)
80℃の温水6kgを攪拌しながら、ペクチン、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸三カリウムを少しずつ加え、十分に攪拌した。65℃に冷却後、カゼインナトリウムを少しずつ加え、十分に攪拌し水相とした。加温した大豆油にコハク酸モノグリセライドを投入し、溶解させて油相とした。水相に油相を混合し、プロペラ攪拌機により5分間の予備乳化を行った後、エンドプロテアーゼを加え、30分間反応させた。その後pH3.8となるようにクエン酸を加え、さらに、デキストリン、グアーガム加水分解物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム、クエン酸鉄第一ナトリウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅、ミネラルミックス、脂溶性ビタミンミックス、水溶性ビタミンミックス、アスコルビン酸を加えて十分に攪拌した。その後、水を加えて全量を10kgとし、原料溶液を得た。該原料溶液を高圧均質機により、50MPaの圧力で均質化処理し、これを200mL容チアーパックST(株式会社細川洋行)に200mLずつ充填し、密封し、90℃で10分間のボイル殺菌処理を実施し、酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。
【0057】
(調製法3)
80℃の温水6kgを攪拌しながら、ペクチン、デキストリン、グアーガム加水分解物、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸三カリウムを少しずつ加え、十分に攪拌した。65℃に冷却後、カゼインナトリウムを少しずつ加え、十分に攪拌し水相とした。加温した大豆油にコハク酸モノグリセライドを投入し、溶解させて油相とした。水相に油相を混合し、プロペラ攪拌機により5分間の予備乳化を行った後、エンドプロテアーゼを加え、30分間反応させた。その後pH3.8となるようにクエン酸を加え、さらに、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウム、クエン酸鉄第一ナトリウム、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅、ミネラルミックス、脂溶性ビタミンミックス、水溶性ビタミンミックス、アスコルビン酸を加えて十分に攪拌した。その後、水を加えて全量を10kgとし、原料溶液を得た。該原料溶液を高圧均質機により、50MPaの圧力で均質化処理し、これを200mL容チアーパックST(株式会社細川洋行)に200mLずつ充填し、密封し、90℃で10分間のボイル殺菌処理を実施し、酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、不溶物の重量が2610×gで60分間の遠心分離をしたときに前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤であって、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、不溶物が少なく、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブ閉塞が起こりにくく、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤に関するものであって、産業上十分に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、および食物繊維を配合し、pHが3〜4の範囲である酸性タイプの液状経腸栄養剤において、粘度が5〜40mPa・s、かつ2610×gで60分間の遠心分離をしたときの不溶物の重量が前記栄養剤50g当たり0.5g以下となるように、少なくとも前記蛋白質、前記脂質、前記蛋白質1gあたり200〜5000単位のプロテアーゼ、0.2〜1重量%の有機酸モノグリセライドおよび0.1〜0.7重量%のペクチンを含有した状態を10〜60分の範囲で保持し、酸添加によりpH3〜4の範囲でプロテアーゼの反応を停止し、高圧均質機により50MPa以上の圧力で均質化した後、加熱殺菌された酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【請求項2】
前記蛋白質が、乳蛋白である請求項1に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【請求項3】
前記プロテアーゼが、微生物由来のエンドプロテアーゼである請求項1または2に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【請求項4】
前記有機酸モノグリセライドが、コハク酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種の乳化剤である請求項1〜3のいずれかに記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【請求項5】
前記ペクチンが、エステル化度が50%以上の高メトキシルペクチンである請求項1〜4のいずれかに記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。

【公開番号】特開2010−235531(P2010−235531A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86534(P2009−86534)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】