説明

酸性廃棄物処理剤

【課題】廃棄物中に含まれる重金属類を処理するために用いられている廃棄物処理剤は、酸性物質を多く含む廃棄物を処理したり、高温下で処理すると、分解して有毒なガスを発生したり、処理剤が不安定となったりして十分な処理効果が得られにくい等の問題があった。本発明は、酸性物質を多量に含む廃棄物に添加しても安定で、重金属に対する高い処理能力を発揮するとともに、塩化水素等の有害な酸性物質も効果的に処理することができる酸性廃棄物処理剤を提供する。
【解決手段】本発明の酸性廃棄物処理剤は、含窒素複素環化合物の窒素にジチオ酸基が結合した金属捕集剤の水溶液によって、酸化カルシウムを消化して得られることを特徴とする。本発明処理剤は、酸化カルシウム100重量部当たり、金属捕集剤を0.1〜150重量部の割合で反応させたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性廃棄物処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
工場廃水、ゴミ焼却場で廃棄物を焼却した際や、火力発電所で石炭を燃焼した際に生じる焼却灰や溶融スラグ、ゴミ焼却場や火力発電所等の集塵装置で回収された飛灰、溶融飛灰や石炭灰、鉱山から排出される鉱滓、廃水処理の際に用いられる活性汚泥、汚染された土壌等の固体状廃棄物、或いはゴミ焼却場の排煙等には有害な重金属類が多量に含有されている場合があり、重金属類の廃棄物埋立て処理場からの溶出による環境汚染の虞も指摘されている。このため従来より、廃棄物を放出したり投棄する前に、金属捕集性の官能基を有する金属捕集剤で廃棄物を処理することが提案されている。このような金属捕集剤として鉛、クロム(III)、カドミウム、銅等の重金属に対して特に優れた捕集能を有するジチオカルバミン酸型の金属捕集剤が広く用いられている。近年、廃棄物の種類が多様化し、廃棄物中には塩化水素等の酸性物質が多く含まれている場合があり、このような酸性物質を多く含む廃棄物にジチオカルバミン酸型の金属捕集剤を添加すると、金属捕集剤が分解して有毒な硫化水素ガス、二硫化炭素ガス、硫黄酸化物ガス、アンモニアガスなどを発生する虞がある。このため、酸性物質を多く含む廃棄物の場合、重金属と酸性物質の両方を処理することが必要である。廃ガス中の重金属と酸性物質とを同時に分離するために、反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末と、チオ硫酸塩等の硫黄含有物質の水溶性塩とからなる浄化剤が提案されている(特許文献1)。また高温になる煙道排ガス中においても、分解による有害ガスの発生がなく耐熱性に優れる重金属固定化剤として、ピペラジン化合物のジチオカルバミン酸塩、消石灰および必要によりセメントからなる処理剤が提案されている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開平4−16235号公報
【特許文献2】特開2006−124465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の浄化剤は、浄化温度0〜400℃において酸又は熱により硫黄含有物質が分解して生成した硫黄と廃ガス中の重金属とを反応させて硫化物を形成し、これを分離することにより廃ガスを浄化するものである。しかし、硫黄含有物質を分解させるため、有毒な硫化水素ガスを発生する虞があるとともに、廃ガス中に銅が存在していれば硫黄とは硫化銅を形成し、この硫化銅はダイオキシン合成触媒としての作用を有するので好ましくない。また、高温で処理すると、硫黄がSO、SOなどの硫黄酸化物となって重金属と反応して硫化物を生成する硫黄の量が不足するので、多量の浄化剤の添加が必要となり、処理コストが高くつくとともに、浄化剤を過剰に添加して硫黄過多になると、水溶性の重金属多硫化物が形成されるため、これらの溶出による環境汚染の虞が生じる等の問題があった。またピペラジン化合物のジチオカルバミン酸塩と消石灰とを混合しただけの特許文献2記載の処理剤は、酸性物質を多く含む廃棄物や高温下など、処理対象物、酸性廃棄物の性状及び処理条件によっては処理剤の安定性、効果及び作業性が必ずしも十分とは言い難かった。本発明は上記問題点に鑑みなされたもので、酸性物質を含む廃棄物中の酸性物質及び重金属を効率良く無害化することのできる酸性廃棄物処理剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)含窒素複素環化合物の窒素にジチオ酸基が結合した金属捕集剤の水溶液によって、酸化カルシウムを消化して得られることを特徴とする酸性廃棄物処理剤、
(2)酸化カルシウム100重量部当たり、金属捕集剤を無水物換算で0.1〜150重量部の割合で反応させてなる上記(1)の酸性廃棄物処理剤、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の処理剤は、酸性物質を多量に含む廃棄物に添加した場合でも安定で、重金属に対する高い処理能力を発揮するとともに、塩化水素等の有害な酸性物質も効果的に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の酸性廃棄物処理剤は、含窒素複素環化合物の窒素にジチオ酸基が結合した金属捕集剤水溶液を用いて酸化カルシウムを消化することにより得られる。含窒素複素環化合物としては、アジリジン;アゼチジン;ピロリジン;2−メチルピロリジン、2−エチルピロリジン、2−プロピルピロリジン、2−イソプロピルピロリジン、2−ブチルピロリジン、2−イソブチルピロリジン、3−メチルピロリジン、3−エチルピロリジン、3−プロピルピロリジン、3−イソプロピルピロリジン、3−ブチルピロリジン、3−イソブチルピロリジン等のモノアルキルピロリジン;2,3−ジメチルピロリジン、2,5−ジメチルピロリジン、2,4−ジエチルピロリジン、2−エチル−3−メチルピロリジン等のジアルキルピロリジン;2,3,4−トリメチルピロリジン、2,3−ジメチル−5−エチルピロリジン等のトリアルキルピロリジン;2,3,4,5−テトラメチルピロリジン、2−エチル−3,4,5−トリメチルピロリジン等のテトラアルキルピロリジン;ピラゾリジン;1−メチルピラゾリジン、1−エチルピラゾリジン、1−プロピルピラゾリジン、1−イソプロピルピラゾリジン、1−ブチルピラゾリジン、1−イソブチルピラゾリジン、3−メチルピラゾリジン、3−エチルピラゾリジン、3−プロピルピラゾリジン、3−イソプロピルピラゾリジン、3−ブチルピラゾリジン、3−イソブチルピラゾリジン、4−メチルピラゾリジン、4−エチルピラゾリジン、4−プロピルピラゾリジン、4−イソプロピルピラゾリジン、4−ブチルピラゾリジン、4−イソブチルピラゾリジン等のモノアルキルピラゾリジン;3,4−ジメチルピラゾリジン、3,5−ジエチルピラゾリジン、2,5−ジプロピルピラゾリジン、3−メチル−5−プロピルピラゾリジン等のジアルキルピラゾリジン;3,4,5−トリメチルピラゾリジン、2,4−ジエチル−5−プロピルピラゾリジン等のトリアルキルピラゾリジン;2,3,4,5−テトラメチルピラゾリジン等のテトラアルキルピラゾリジン;イミダゾリジン;1−メチルイミダゾリジン、1−エチルイミダゾリジン、1−プロピルイミダゾリジン、1−イソプロピルイミダゾリジン、1−ブチルイミダゾリジン、1−イソブチルイミダゾリジン、2−メチルイミダゾリジン、2−エチルイミダゾリジン、2−プロピルイミダゾリジン、2−イソプロピルイミダゾリジン、2−ブチルイミダゾリジン、2−イソブチルイミダゾリジン、4−メチルイミダゾリジン、4−エチルイミダゾリジン、4−プロピルイミダゾリジン、4−イソプロピルイミダゾリジン、4−ブチルイミダゾリジン、4−イソブチルイミダゾリジン等のモノアルキルイミダゾリジン;2,3−ジメチルイミダゾリジン、2,5−ジエチルイミダゾリジン、4,5−ジプロピルイミダゾリジン、1−メチル−4−プロピルイミダゾリジン等のジアルキルイミダゾリジン;2,4,5−トリメチルイミダゾリジン、3,4−ジエチル−5−プロピルイミダゾリジン等のトリアルキルイミダゾリジン;1,2,4,5−テトラメチルイミダゾリジン等のテトラアルキルイミダゾリジン;ピペリジン;2−メチルピペリジン、2−エチルピペリジン、2−プロピルピペリジン、2−イソプロピルピペリジン、2−ブチルピペリジン、2−イソブチルピペリジン、3−メチルピペリジン、3−エチルピペリジン、3−プロピルピペリジン、3−イソプロピルピペリジン、3−ブチルピペリジン、3−イソブチルピペリジン、4−メチルピペリジン、4−エチルピペリジン、4−プロピルピペリジン、4−イソプロピルピペリジン、4−ブチルピペリジン、4−イソブチルピペリジン等のモノアルキルピペリジン;2,3−ジメチルピペリジン、2,5−ジエチルピペリジン、2,4−ジプロピルピペリジン、2−メチル−4−プロピルピペリジン等のジアルキルピペリジン;2,4,6−トリメチルピペリジン、2,4−エチル−6−プロピルピペリジン等のトリアルキルピペリジン;2,3,5,6−テトラメチルピペリジン、2,3,4,6−テトラエチルピペリジン等のテトラアルキルピペリジン;2,3,4,5,6−ペンタメチルピペリジン、2,3,4,5,6−ペンタエチルピペリジン等のペンタアルキルピペリジン;1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン;モルホリン;2−メチルモルホリン、2−エチルモルホリン、2−プロピルモルホリン、2−イソプロピルモルホリン、2−ブチルモルホリン、2−イソブチルモルホリン、3−メチルモルホリン、3−エチルモルホリン、3−プロピルモルホリン、3−イソプロピルモルホリン、3−ブチルモルホリン、3−イソブチルモルホリン等のモノアルキルモルホリン;2,3−ジメチルモルホリン、2,6−ジメチルモルホリン、2,5−ジエチルモルホリン、2−エチル−5−メチルモルホリン等のジアルキルモルホリン;2,3,5−トリメチルモルホリン、6−エチル−2,3−ジメチルモルホリン等のトリアルキルモルホリン;2,3,5,6−テトラエチルモルホリン、2−エチル−3,5,6−トリメチルモルホリン等のテトラアルキルモルホリン;3,4−ジヒドロ−2H−1,4−ベンゾオキサジン;チオモルホリン;2−メチルチオモルホリン、2−エチルチオモルホリン、2−プロピルチオモルホリン、2−イソプロピルチオモルホリン、2−ブチルチオモルホリン、2−イソブチルチオモルホリン、3−メチルチオモルホリン、3−エチルチオモルホリン、3−プロピルチオモルホリン、3−イソプロピルチオモルホリン、3−ブチルチオモルホリン、3−イソブチルチオモルホリン等のモノアルキルチオモルホリン;2,3−ジメチルチオモルホリン、2,6−ジメチルチオモルホリン、2,5−ジエチルチオモルホリン、2,6−ジプロピルチオモルホリン、2−エチル−3−メチルチオモルホリン、2−メチル−6−プロピルチオモルホリン等のジアルキルチオモルホリン;2,3,5−トリメチルチオモルホリン、2,3,6−トリエチルチオモルホリン等のトリアルキルチオモルホリン;2,3,5,6−テトラメチルチオモルホリン、2−エチル−3,5,6−トリメチルチオモルホリン等のテトラアルキルチオモルホリン;ピペラジン;1−メチルピペラジン、1−エチルピペラジン、1−プロピルピペラジン、1−イソプロピルピペラジン、1−ブチルピペラジン、2−メチルピペラジン、2−エチルピペラジン、2−プロピルピペラジン、2−イソプロピルピペラジン、2−ブチルピペラジン、2−イソブチルピペラジン等のモノアルキルピペラジン;2,3−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,5−ジエチルピペラジン、1,3−ジエチルピペラジン等のジアルキルピペラジン;2,3,5−トリメチルピペラジン、1,2,5−トリメチルピペラジン、3−ブチル−2,5−ジメチルピペラジン、5−エチル−2,3−ジメチルピペラジン等のトリアルキルピペラジン;2,3,5,6−テトラメチルピペラジン、1,3,5,6−テトラプロピルピペラジン、3−エチル−2,5,6−トリメチルピペラジン等のテトラアルキルピペラジン;ヘキサヒドロピリミジン;ヘキサヒドロピリダジン;ホモピペラジン;1,2−ジアザシクロヘプタン;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン;1,4,7−トリアザシクロノナンなどが挙げられる。
【0008】
またピロール;2−メチルピロール、2−エチルピロール、2−プロピルピロール、2−イソプロピルピロール、2−ブチルピロール、2−イソブチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロール、3−イソプロピルピロール、3−ブチルピロール、3−イソブチルピロール等のモノアルキルピロール;2,3−ジメチルピロール、2,5−ジエチルピロール、2,4−ジプロピルピロール、2−エチル−4−メチルピロール、2−メチル−3−プロピルピロール等のジアルキルピロール;2,3,4−トリメチルピロール、2,3,5−トリエチルピロール等のトリアルキルピロール;2,3,4,5−テトラメチルピロール、2−エチル−3,4,5−トリメチルピロール等のテトラアルキルピロール;インドール;イミダゾール;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−イソブチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、4−プロピルイミダゾール、4−イソプロピルイミダゾール、4−ブチルイミダゾール、4−イソブチルイミダゾール、5−メチルイミダゾール、5−エチルイミダゾール、5−プロピルイミダゾール、5−イソプロピルイミダゾール、5−ブチルイミダゾール、5−イソブチルイミダゾール等のモノアルキルイミダゾール;2,4−ジメチルイミダゾール、2,5−ジエチルイミダゾール、2,4−ジプロピルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチル−5−プロピルイミダゾール等のジアルキルイミダゾール;2,4,5−トリメチルイミダゾール、2,4,5−トリエチルイミダゾール等のトリアルキルイミダゾール;ベンゾイミダゾール;プリン;ピラゾール;3−メチルピラゾール、3−エチルピラゾール、3−プロピルピラゾール、3−イソプロピルピラゾール、3−ブチルピラゾール、3−イソブチルピラゾール、4−メチルピラゾール、4−エチルピラゾール、4−プロピルピラゾール、4−イソプロピルピラゾール、4−ブチルピラゾール、4−イソブチルピラゾール、5−メチルピラゾール、5−エチルピラゾール、5−プロピルピラゾール、5−イソプロピルピラゾール、5−ブチルピラゾール、5−イソブチルピラゾール等のモノアルキルピラゾール、3,4−ジメチルピラゾール、3,5−ジエチルピラゾール、3,4−ジプロピルピラゾール、3−エチル−5−メチルピラゾール等のジアルキルピラゾール;3,4,5−トリメチルピラゾール、3,4,5−トリエチルピラゾール等のトリアルキルピラゾール;1H−インダゾール;1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール;テトラゾール;などが挙げられるが、特に安定性、反応性や揮発性、臭気、毒性による環境問題などの物性面及び原料調達、コストの面からピペラジン、2−アルキルピペラジン、ジアルキルピペラジン、ホモピペラジンが好ましい。含窒素複素環化合物の窒素の活性水素と置換してジチオ酸基が結合した金属捕集剤は、含窒素複素環化合物と二硫化炭素とを反応させることにより得られる。少なくとも一部が塩型となっているジチオカルバミン酸基を有する金属捕集剤は、含窒素複素環化合物と二硫化炭素との反応をアルカリの存在下で行うか、反応後アルカリと反応させることにより得られる。アルカリとしてはアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物などが挙げられるが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。金属捕集剤は、活性水素を有する窒素が2以上の含窒素複素環化合物の場合には、ジチオ酸基が1個導入されたものでも、2個以上導入されたものでも良い。具体的な金属捕集剤としては、単位あたりの金属捕集能が高く、より高濃度の水溶液を調製することができると共に、乾燥固体化しても二水塩を形成し水分に対して安定であること、並びに耐酸性、耐熱性がより優れ、酸性廃棄物を処理した際の酸による分解や酸中和の際の発熱によって分解して二硫化炭素などの有害ガス発生の虞が一層なく安定した効果が得られ、また仮に酸や熱により一部のジチオ酸基が分解し、含窒素複素環化合物又は含窒素複素環化合物と酸との塩が残留した場合でも、上記した含窒素複素環化合物の物性面、特に揮発性、臭気、毒性等による環境への影響などを考慮するとピペラジン−1,4−ジカルボジチオ酸ジカリウムもしくはジナトリウム、ホモピペラジン−1,5−ジカルボジチオ酸ジカリウムもしくはジナトリウム、2,5−ジメチルピペラジン−1,4−ジチオカルボジチオ酸ジカリウムもしくはジナトリウムが好ましい。
【0009】
上記金属捕集剤水溶液による酸化カルシウムの消化は、処理対象物、酸性廃棄物の性状にもよるが、通常酸化カルシウム100重量部当たり、金属捕集剤が無水物換算で0.1〜150重量部となるように行うことが好ましく、5〜90重量部で行うことが更に好ましい。金属捕集剤水溶液の濃度は、0.1〜50重量%濃度で行うことが好ましく、特に20〜50重量%濃度で行うことが好ましい。消化反応は一般的な攪拌機付き反応装置や例えば、ニーダー、パウミキサー(以上不二パウダル株式会社製)、パドルミキサー(大塚鉄工株式会社製)、KRCニーダー(栗本鉄工所株式会社製)、万能混合攪拌機(株式会社ダルトン)、PM型混練機(本田鉄工株式会社製)等のスクリュー羽や特殊羽根を用いる攪拌装置や混合装置、一軸式、又は二軸式等の混練機のいずれの方式でも行うことができ、消化温度は金属捕集剤の分解温度未満であることが好ましく、通常20〜150℃であることが好ましい。尚、消化反応中に生成した水酸化カルシウムは水に微溶ではあるが、一部のカルシウムがイオン化し、金属捕集剤のジチオカルバミン酸塩の一部とカルシウムが置換する反応も同時に進行するものと考えられる。
【0010】
本発明の酸性廃棄物処理剤は、スラリー状、粒状、粉末状でも使用可能であるが、粉末状であることがより好ましい。乾燥粉末化あるいは造粒するには、消化反応後、熱風乾燥法、ドラム乾燥法、減圧乾燥法、噴射乾燥法などの乾燥粉末化方法や、送風流動造粒装置、回転刃又は羽根を有するミル型破砕造粒装置を用いる方法などが挙げられ、工程温度は20〜200℃であることが好ましい。尚、消化工程及び乾燥粉末化工程について、上記いずれかの攪拌装置や混合装置及び乾燥粉末化法や造粒装置が複合具備された一体型製造装置を用いることもできる。
得られた粉末化酸性廃棄物処理剤は、金属捕集剤と不定形微結晶の水酸化カルシウム凝集体とが相互に付着あるいは複合的に相互分散担持し、粒径、形状が揃っており、加えて金属捕集剤のジチオカルバミン酸塩の一部がカルシウム塩に置換したり、金属捕集剤と水酸化カルシウムの単純混合物では発現しない結晶構造や形態変化が起こり、耐湿性、耐熱性、耐酸性などの環境に対する安定性が向上している。そのため金属捕集剤と水酸化カルシウムの単純混合物に比べ、金属捕集剤由来の臭気が軽減でき、サイロ設備内での処理剤の吸湿、凝集によるブロッキングの虞がなく、加えて処理剤供給使用中に粒径、形状及び密度の不均一から生じるサイロ内での処理剤成分の分布あるいは層形成や、これによる部分的混合比率の変動の虞がなく、結果として処理剤の量及び比率共に安定的に供給ができる。更に金属捕集剤が単独で酸性物質や酸化剤に晒されないため分解及び分解ガスの発生を低減化できるので、多量の処理剤を添加する必要がなく、結果として処理条件の設定制御が容易となり、重金属固定化性能を一定に保つことができると共に、分解ガスの除害や処理廃棄物の最終処分に掛かる費用を含むトータル処理コスト及び処理用の土地、設備、薬剤等の物資、人材労力、動力エネルギーなどを含むトータル使用資源を抑えることができるので、経済性に優れ、資源及び環境の保全に繋がる。
【0011】
本発明の酸性廃棄物処理剤は、水銀、カドミウム、鉛、亜鉛、銅などの重金属類、クロム、セレン、砒素、ホウ素、フッ素などのアニオンの形態を有する有害物質および塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、グルタミン酸、乳酸、イタコン酸、タンニン酸などの酸性物質のいずれかを含むガス状、液状、スラリー状、スラッジ状、固体状のいずれの被汚染物や廃棄物に使用でき、例えば有害物質および酸性物質を含有する、下水;河川;湖沼;温泉水;鉱山排水;岩石排水;土壌、農地等からの浸出水;石炭採掘時に発生する廃棄物に由来する浸出水;産業廃棄物や一般廃棄物を酸で処理した後の排水;メッキ工場、プリント基板工場、写真プリント工場、染色工場、鋼ワイヤ並びにステンレス鋼製造工場、亜鉛ダイキャスト製造工場、病院などの各施設で行われる酸性処理や酸洗工程および設備洗浄により発生する廃液、排水、スラッジ;産業廃棄物や一般廃棄物を酸で処理した後の汚泥;下水汚泥;河川に堆積した底質;乳酸発酵させた生ゴミ堆肥;工場跡地等の土壌;車や家電ゴミの処理時に排出されるダスト;炉中堆積物;炉解体物;医薬品廃棄物;木、紙、繊維、ゴム、プラスチック、ガラス、金属等の一般ゴミやRDF、廃油、重油、石炭、動植物性残渣、動物性固形不要物、糞尿、死骸等の焼却を行う焼却プラントあるいは燃焼を行う燃焼プラントより発生する煤煙、煤塵、燃え殻、排ガスなどの処理に使用することができる。
【0012】
実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。実施例で用いた酸性廃棄物処理剤は以下の通りである。
【0013】
(1)処理剤A(本発明品):酸化カルシウムの消化反応にピペラジン−1,4−ジカルボジチオ酸ジカリウム(PDTK)水溶液を用いて得られた薬剤。
(2)処理剤B(本発明品):酸化カルシウムの消化反応にホモピペラジン−1,5−ジカルボジチオ酸ジカリウム(HPDTK)水溶液を用いて得られた薬剤。
(3)処理剤C(本発明品):酸化カルシウムの消化反応に2,5−ジメチルピペラジン−1,4−ジチオカルボジチオ酸ジカリウム(DMPDTK)水溶液を用いて得られた薬剤。
(4)処理剤D(比較品):水酸化カルシウムと粉末化したピペラジン−1,4−ジカルボジチオ酸ジカリウム(PDTK)を単純混合して得られた薬剤。
(5)処理剤E(比較品):酸化カルシウムの消化反応にチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いて得られた薬剤。
(6)処理剤F(比較品):酸化カルシウムの消化反応に四チオン酸カリウム(PTT)スラリーを用いて得られた薬剤。
【0014】
処理剤A(A−1、A−2、A−3)の調製
万能混合攪拌機ミキサーに酸化カルシウム100gを入れ回転数120rpmで撹拌しながら、処理剤A−1はPDTK30%水溶液77.7g、処理剤A−2はPDTK30%水溶液188.6g、処理剤A−3はPDTK50%水溶液264.3gを、発熱反応を80℃に制御しながら徐々に加えた後、30分間混練熟成することにより消化反応を行った。次いで減圧乾燥機を用い60℃で減圧乾燥を行うことにより、酸性廃棄物処理剤を得、各種試験に供した。
【0015】
処理剤Bの調製
HPDTK30%水溶液188.6gを用い、それ以外は処理剤Aの調製と同様な操作で酸性廃棄物処理剤を得、各種試験に供した。
【0016】
処理剤Cの調製
DMPDTK50%水溶液264.3gを用い、それ以外は処理剤Aの調製と同様な操作で酸性廃棄物処理剤を得、各種試験に供した。
【0017】
処理剤Dの調製
噴霧乾燥法により粉末化したPDTK(水分1.2%、粒子径30〜100μm)17.9重量部と工業品特号消石灰100重量部との割合で、万能混合攪拌機を用い、回転数120rpm、室温で30分間単純混合し酸性廃棄物処理剤を得、各種試験に供した。
【0018】
処理剤Eの調製
処理剤Eはチオ硫酸ナトリウム30%水溶液77.7gを用い、それ以外は処理剤Aの調製と同様な操作で酸性廃棄物処理剤を得、各種試験に供した。
【0019】
処理剤Fの調製
処理剤FはPTT30%スラリー77.7gを用い、それ以外は処理剤Aの調製と同様な操作で酸性廃棄物処理剤を得、各種試験に供した。
【0020】
(構造解析)
処理剤A−1、A−2、A−3、Dおよび工業品特号消石灰、粉末PDTKを減圧乾燥法により60℃で3時間乾燥した後、粉末X線回折装置(株式会社リガク、自動X線回折装置RINT−TTR II、使用X線CuKα(1.5406Å)、50kV、300mA、平行ビーム光学系、サンプリング幅0.020°、走査速度3.0°/min、測定回折角範囲2シータ5〜50°)により測定した。解析方法はHanawalt法(強度が強い回折線3点を用いて物質の構造を同定する手法)を用い、工業品特号消石灰、粉末PDTKの測定結果を判断基準とした。結果を表1に示す。尚、表1においてX線の各々の回折線におけるピークの相対強度I(%)(最大ピークの強度を100としたときの相対強度)は、90%以上100%以下のものには強、50%以上90%未満のものは中、50%未満のものには弱、全くピークが観察されなかったものには無として示した。工業品特号消石灰は面間隔4.91Å、3.11Å、2.62Åに、粉末PDTKは、3.11Å、3.09Å、2.69Åにそれぞれ特徴的な回折線のパターンが認められた。単純混合物である比較品の処理剤Dは面間隔4.91Å、3.09Å、2.62Åの主要な回折線パターンで、工業品特号消石灰および粉末PDTKと類似な回折線パターンを示したのに対し、発明品の処理剤A−1、A−2、A−3は3.09Åの回折線が消失し、3.11Å、2.62Å、1.92Åの特徴的な回折線パターンが認められたことから、発明品は処理剤Dのような単純混合では得られない新たな構造をも有することが確認された。
【0021】
(表1)

【0022】
実施例1
(酸性模擬廃水の処理試験)
鉛6mg/L、銅10mg/L、ニッケル2mg/Lを含む模擬廃水を調製し、硫酸を添加してpH=1.0に調整しこの廃水1リットル当たりに対し、各処理剤を0.05重量%添加した後、静置して生成したフロックを沈降させ、No.5Cのろ紙(保持孔径:1μm)を用い濾過してフロックを分離除去した。フロック除去後の濾液についてpH測定、残存金属濃度をICP発光分析法により測定した。未処理廃水と共に結果を表2に示す。
【0023】
(表2)

【0024】
実施例2
(酸性焼却灰の処理試験)
鉛13000mg/kg、ヒ素121mg/kg、カドミウム98mg/kgを含有する焼却灰(ボトムアッシュ)(溶出水のpH=4.8)に対し、各処理剤を10重量%添加し、30℃で10分間混練した。処理後の焼却灰からの金属溶出試験を環境庁告示13号試験法に準じて行った。濾液についてpH測定、溶出金属濃度は原子吸光分析法により測定した。未処理焼却灰と共に結果を表3に示す。
【0025】
(表3)

【0026】
実施例3
(酸性土壌の処理試験)
鉛180mg/kg、フッ素5.7mg/kg(フッ素換算値)、クロム(VI)24mg/kg、セレン83mg/kgを含有する汚染された土壌に対し、各処理剤を1.5重量%添加し、20℃で10分間混練した。処理後の土壌からの金属溶出試験を環境庁告示46号試験に準じて行った。濾液についてpH測定、溶出金属濃度は原子吸光分析法により測定、フッ素イオンはイオンクロマトグラフ法により測定した。未処理土壌と共に結果を表4に示す。
【0027】
(表4)



【0028】
実施例4
(焼却プラントより発生する煤煙の処理試験)
ゴミ焼却装置でゴミを焼却して発生したダスト0.1g/Nmを含む排煙(排ガス量35000Nm/時間、塩化水素濃度450ml/Nm)を排出する煙道内バグフィルター前(排ガス温度180℃)で、各処理剤をエアーブローによって、15mg/Nmの割合で噴霧して、排煙と処理剤とを接触させた後、バグフィルターを通過させ、バグフィルターを通過した排煙中に含まれる塩化水素濃度をJIS K0107に準じて測定した。また、バグフィルターを通過させ排煙中の煤塵を集塵し、この煤塵(飛灰)中からの鉛、銅、水銀の溶出試験を、環境庁告示13号試験法に準じて行い、溶出金属濃度は原子吸光分析法により測定した。未処理時と共に結果を表5に示す。
尚、処理剤Dは処理剤成分の分布あるいは層形成の為か、処理剤を安定的に供給することができなかった。
【0029】
(表5)

【0030】
実施例5
(分級確認試験)
実施例4で処理剤A−1、B、C、Dをそれぞれエアーブローによって5時間噴霧した後、処理剤サイロの上部と下部から処理剤の一部を採取し平均粒子径を沈降質量法(JIS Z8822)によって測定した。また、採取した処理剤を実施例4で得られた未処理の煤塵に対して30重量%添加し金属固定化性能を調べた。サイロ上部から採取した処理剤を用いた試験結果は表6に示し、サイロ下部から採取した処理剤を用いた試験結果は表7に示した。
【0031】
(表6)

【0032】
(表7)

【0033】
実施例6
(処理剤分解性の確認試験)
実施例4で得られた酸性の煤塵を密栓した500ml四つ口フラスコに50g仕込み、煤塵に対して各処理剤1.0gを添加した。添加後マントルヒーターで180℃に加熱し15分間十分に攪拌した。撹拌後四つ口フラスコ内の気相部のガス発生の有無をガス検知管(株式会社ガステック製 二硫化炭素はNo.13、二酸化硫黄はNo.5La)にて確認した。結果を表8に示す。
【0034】
(表8)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素複素環化合物の窒素にジチオ酸基が結合した金属捕集剤の水溶液によって、酸化カルシウムを消化して得られることを特徴とする酸性廃棄物処理剤。
【請求項2】
酸化カルシウム100重量部当たり、金属捕集剤を無水物換算で0.1〜150重量部の割合で反応させてなる請求項1記載の酸性廃棄物処理剤。

【公開番号】特開2008−119620(P2008−119620A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307486(P2006−307486)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】