説明

酸性透明ゲル状食品

【課題】多糖からなるゲル化剤とヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品を提供する。
【解決手段】多糖からなるゲル化剤及び0.01〜0.5%のヒアルロン酸及び/又はその塩を配合し、ボストウィック粘度計による粘度測定値が品温20℃において10cm以下の酸性透明ゲル状食品に、6〜30%の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し60部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合した酸性透明ゲル状食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸及び/又はその塩は、生体、特に皮下組織に存在するムコ多糖類であり、その高い保水機能により化粧料の原料として広く利用されている。また、ヒアルロン酸及び/又はその塩は、経口摂取により生体本来の持つヒアルロン酸含量の低下を補い、肌の保湿、弾力性、及び柔軟性を改善する効果が認められており、健康や美容に関する効果の発現を期待して、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した様々な形態の食品が市販されている。
【0003】
様々な形態のヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した食品のうち、ゲル状食品は、保水性と弾力に富むゲル状の外観がヒアルロン酸及び/又はその塩による健康や美容に関する効果の発現を連想させ、視覚的効果によりヒアルロン酸及び/又はその塩の価値を高めることができる。特に得られたゲル状食品が透明であれば、ヒアルロン酸及び/又はその塩による健康や美容に関する効果の発現をより一層連想させ、さらに視覚的効果を高めることができる。
【0004】
ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したゲル状食品は、従来より知られており、例えば、特開2007−43960号公報(特許文献1)には、寒天、ゼラチン又は蒟蒻を母剤とし、ヒアルロン酸、N−アセチルグルコサミン及びアスコルビン酸が主成分として前記基剤中に混合されゼリー状となった老化防止食品が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の寒天、ゼラチン又は蒟蒻等の多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合したゲル状食品を酸性にして製した場合、ゲルが白濁してしまい、外観から健康や美容に関する効果の発現を連想させず製品の価値を著しく損ねるという問題が生じていた。また、白濁することによりざらつきが生じ、食感も損ねてしまい、一般的に食品用途において好ましくない。
【0006】
白濁のメカニズムは定かではないが、以下のように推測される。中性水系下においては、多糖からなるゲル化剤とヒアルロン酸及び/又はその塩は、共に分子中に多くの水酸基を有する中性糖であるため、水酸基同士のファンデルワールス力が働くことで白濁のない透明なゲルが得られている。一方、酸性水系下においては、ファンデルワールス力による弱い結合力より、ヒアルロン酸及び/又はその塩が正に帯電することによる影響が大きく、ヒアルロン酸及び/又はその塩と寒天が重合しやすくなると推測される。
【0007】
特許文献1には、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合し酸性透明ゲル状食品を製する際に特有の上記問題点を解決する手段について何ら開示されておらず、また、従来、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品の白濁の生成を抑制する方法は知られていない。そこで、白濁を生成することなく、健康や美容に関する効果の発現が期待される、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品の提供が要望されている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−43960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品の配合原料について鋭意研究を重ねた結果、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性ゲル状食品に、特定量の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩に対し特定割合の糖アルコール(固形分換算)を配合させるならば、意外にも、白濁を生成することなく安定な物性を保つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
多糖からなるゲル化剤及び0.01〜0.5%のヒアルロン酸及び/又はその塩を配合し、ボストウィック粘度計による粘度測定値が品温20℃において10cm以下の酸性透明ゲル状食品であって、6〜30%の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し60部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合することを特徴とする酸性透明ゲル状食品、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白濁を生成することなく、健康や美容に関する効果の発現が期待される、多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品を提供することができる。これにより、健康及び美容食品市場における酸性透明ゲル状食品の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特に規定しない限り、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0014】
本発明の多糖からなるゲル化剤及びヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した酸性透明ゲル状食品は、特定量の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩に対し特定割合の糖アルコール(固形分換算)を配合することにより、白濁を生成することなく安定な物性を保つことができる。
【0015】
本発明の酸性透明ゲル状食品に用いるヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量は、0.01〜0.5%であり、0.02〜0.5%が好ましく、0.03〜0.5%がより好ましい。ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が、前記範囲より少ない場合は健康や美容に関する効果の発現が期待できない場合があり、前記範囲より多くしたとしても配合量に応じて前記効果が増し難く、ヒアルロン酸自体が高価なものであることから経済的でない。
【0016】
本発明の多糖からなるゲル化剤及び0.01〜0.5%のヒアルロン酸及び/又はその塩を配合し、ボストウィック粘度計による粘度測定値が品温20℃において10cm以下の酸性透明ゲル状食品は、白濁防止効果が期待できる点から、6〜30%の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し60部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合する。7〜30%の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し70部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合するのが好ましく、10〜30%の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し100部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合するのがより好ましい。
糖アルコール(固形分換算)の配合量が、前記範囲より少ない場合は白濁を生じる場合があり、前記範囲より多い場合は糖アルコールを溶解しきれずゲル状食品を製することができない場合がある。また、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対する糖アルコール(固形分換算)の配合割合が、前記範囲より少ない場合は白濁を生じる場合がある。
【0017】
本発明の酸性透明ゲル状食品に用いる多糖からなるゲル化剤は、ヒアルロン酸及び/又はその塩以外の多糖類で、ゲル化剤として食品に供される多糖類であれば特に限定されないが、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉、寒天、蒟蒻、ペクチン、プルラン、マンナン、ガラクトマンナン、キチン、キトサン、デキストリン等を挙げることができる。
【0018】
ヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。本発明で使用する原料ヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではないが、例えば鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生体組織、あるいはストレプトコッカス属等のヒアルロン酸産生微生物を培養して得られる培養液等を原料として、抽出(更に必要に応じて精製)して得られるものである。
【0019】
本発明の酸性透明ゲル状食品に用いるヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではなく、当該粗抽出物あるいは精製物の何れを用いても良いが、精製物、具体的にはヒアルロン酸及び/又はその塩の純度が90%以上のものが好ましい。純度が90%未満の場合は、保管中にヒアルロン酸及び/又はその塩が着色して、酸性透明ゲル状食品の外観を損なう恐れがあり好ましくない。
【0020】
また、本発明の酸性透明ゲル状食品に用いるヒアルロン酸及び/又はその塩の平均分子量は、特に限定されないが、白濁防止効果が期待できる点から、800〜250万が好ましく、5万〜150万であるのがより好ましい。また、平均分子量の調整方法としては、酸剤あるいはアルカリ剤の濃度、添加量及び処理時間等を適宜組合せて、所望の平均分子量となるようにすればよい。
【0021】
本発明の酸性透明ゲル状食品のボストウィック粘度計による粘度測定値は、品温20℃において10cm以下であり、8cm以下が好ましく、7cm以下がより好ましい。ボストウィック粘度計による粘度測定値が、品温20℃において測定値が前記範囲より高い場合は、ゲルとしての保型性が低く垂れ易いため、例えば食器に盛りつけた時や料理やデザートにトッピングした時等に、ゲルの外観からヒアルロン酸及び/又はその塩による健康や美容に関する効果の発現を連想させない場合がある。
【0022】
ボストウィック粘度計の測定方法は、以下のように行う。まず、ボストウィック粘度計(深谷精機(株)製)を水準器を用いて水平に置く。そして、各試料100gを品温20℃に保持して、チャンバーに満たした後、レバーを押して仕切り板をはね上げ、30秒間後に流れ広がる試料の最先の距離をmm単位まで測定した。
【0023】
本発明の透明ゲル状食品でいう透明とは、特に限定されないが、分光光度計(波長660nm)の測定値(透過率)が品温20℃において90%以上であれば好ましく、95%以上であればより好ましい。分光光度計(波長660nm)の測定値(透過率)が前記範囲より低い場合は、白濁の程度が大きく、外観から健康や美容に関する効果の発現を連想させない場合がある。
【0024】
本発明の酸性透明ゲル状食品に用いる糖アルコールとは、糖のアルデヒド基及びケトン基を還元してアルコール基とした多価アルコールであり、例えばソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、オリゴ糖アルコール、分岐オリゴ糖アルコール、デキストリンアルコール等の一種又は二種以上の混合物をいう。
【0025】
本発明の酸性食品とは、pHを3〜4.6に調整することにより、微生物の増殖を抑制し保存性を高めた食品をいう。酸性にすることによりレトルト処理等の高温高圧加熱処理を施さなくとも常温での流通、保存が可能となり、食品の風味、食感の変化を最小限に留めることができる。
【0026】
本発明の酸性透明ゲル状食品に用いる酸剤は、特に限定されないが、リンゴ、グレープフルーツ等の透明果汁、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸等を挙げることができる。
【0027】
本発明の酸性透明ゲル状食品の水分含有量は、特に限定されないが、多糖からなるゲル化剤、ヒアルロン酸及び/又はその塩及び糖アルコールがそれぞれ含水することから50%以上が好ましい。
【0028】
本発明の酸性透明ゲル状食品には、本発明の酸性透明ゲル状食品の必須原料である多糖からなるゲル化剤、ヒアルロン酸及び/又はその塩、糖アルコール及び酸剤以外に、本発明の効果を損わない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、グルコース、ショ糖、乳糖、麦芽糖、オリゴ糖、ぶどう糖果糖液糖等の糖類、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、キシリトール、トレハロース、パラチノース等の甘味料、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、リゾリン脂質等の乳化剤、食塩、核酸、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、各種ペプチド、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸塩、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ナイアシン等のビタミン類、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等のミネラル類又はその塩、香辛料、香料等が挙げられる。
【0029】
本発明の酸性透明ゲル状食品の製造方法は、本発明で用いる多糖からなるゲル化剤、ヒアルロン酸及び/又はその塩、糖アルコール及び酸剤を配合し、常法に則り製造すれば良いが、例えば、以下のように製造することができる。寒天、キサンタンガム等のゲル化剤、平均分子量800〜250万のヒアルロン酸及び/又はその塩、糖アルコール、クエン酸等の酸剤、乳酸カルシウム、グラニュ糖、スクラロース及び清水をミキサーに入れ品温80℃で加熱混合攪拌後、150g容のスパウトパウチに150gずつ充填した。充填後、品温10℃まで冷却することによりゲル化剤を増粘させ酸性透明ゲル状食品を得た。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の酸性透明ゲル状食品を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0031】
〔実施例1〕
清水89.69%、還元水飴7%、乳酸カルシウム0.1%、グラニュ糖2%、スクラロース0.01%、寒天0.5%、キサンタンガム0.5%、ヒアルロン酸及び/又はその塩(平均分子量10万〜50万)0.1%、クエン酸(結晶)0.1%をミキサーに入れて品温80℃で加熱混合撹拌後、150g容のスパウトパウチに150gずつ充填した。充填後、品温10℃まで冷却することによりゲル化剤を増粘させ酸性透明ゲル状食品を得た。この製した酸性透明ゲル状食品は、全く白濁が見られず、健康や美容に関する効果の発現を連想させるほぼ透明なゲル状を呈していた。なお、製した酸性透明ゲル状食品は、ボストウィック粘度計による粘度測定値が品温20℃において6.9cm、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し糖アルコール(固形分換算)が70部、分光光度計(波長660nm)の測定値(透過率)が品温20℃において91.5%であった。
【0032】
〔試験例1〕
糖アルコール(固形分換算)の配合量による白濁に対する影響を調べるため、実施例1の方法に準じ、ヒアルロン酸及び/又はその塩と糖アルコール(固形分換算)の配合量を表1のように変えて、実施例1〜5及び比較例1〜4の酸性透明ゲル状食品を製した。白濁は、外観検査により確認し、透明な場合をA、ほぼ透明な場合をB、白濁しており酸性透明ゲル状食品としての外観を損ねている場合をCとした。なお、製した酸性透明ゲル状食品は全て、多糖からなるゲル化剤及び0.01〜0.5%のヒアルロン酸及び/又はその塩を配合し、かつ、ボストウィック粘度計による粘度測定値が品温20℃において10cm以下であった。
【0033】
【表1】

【0034】
その結果、糖アルコール(固形分換算)を6〜30%配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し60部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合した場合、外観はほぼ透明であり、本発明の酸性透明ゲル状食品として適正な性状を保つことができた(実施例1〜5)。特に、糖アルコール(固形分換算)を10〜30%配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し100部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合した場合、外観は透明であり、本発明の酸性透明ゲル状食品としてより適正な性状を保つことができた(実施例2、3)。
一方、糖アルコールを6%未満しか配合しない場合、又は、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し糖アルコールを60部未満しか配合しない場合は、外観に白濁が生じ、本発明の酸性透明ゲル状食品としての適性を損ねていた(比較例1〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖からなるゲル化剤及び0.01〜0.5%のヒアルロン酸及び/又はその塩を配合し、かつ、ボストウィック粘度計による粘度測定値が品温20℃において10cm以下の酸性透明ゲル状食品であって、6〜30%の糖アルコール(固形分換算)を配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩1部に対し60部以上の糖アルコール(固形分換算)を配合することを特徴とする酸性透明ゲル状食品。

【公開番号】特開2010−11757(P2010−11757A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172856(P2008−172856)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】