説明

酸素インジケーター

【課題】酸素の有無を長期的に安定して、且つ高感度に検知できる酸素インジケーターを提供すること。
【解決手段】少なくとも酸化還元酵素と発色性基質を含む酸素感応性溶液が、酸素透過性フィルムにより覆われている構造の酸素インジケーターであって、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)が0.02以上30以下であることを特徴とする酸素インジケーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いた酸素インジケーターに関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットなどで食材を購入し、各家庭でその購入した食材を調理して食べるという従来の形態に加え、最近では共働きのため調理の時間がない、自分の趣味の時間を多く取りたい等の理由により、家事を簡便に行いたいという意向から、調理に関してはスーパーマーケット等のバックヤードやセントラルキッチンなどで調理された調理済み食品等を購入し、家庭で食すという形態が増えてきている。
一方、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの調理済食品においては、調理済食品の利便性を売りに個々の食品の味、量等、好みに合わせた商品開発が活発になされ、多種類の食品が市場に投入されている。また、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の惣菜販売者は、消費者の強いニーズである素材そのもののおいしさの提供および安心・安全・健康志向に応えるため、食品保存料等を削減した惣菜等の提供を模索している。しかし、食品保存料を削減すると食品の腐敗開始が早くなるため、食品の安全対策が必須となっている。また、食品の腐敗に関する研究から、空気中の酸素の影響が重要であることが広く知られている。そのため、包装体内を無酸素状態で包装する種々の方法が検討されている。食品の腐敗を防止する目的で、包装体内を無酸素状態に保つ方法として、包装体内を真空状態で包装する真空包装、包装体内に酸素吸収剤を用いる無酸素包装、包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装等が挙げられる。
【0003】
例えば、真空包装の場合、包装体内を真空状態にするため、酸素による食品の酸化等の腐敗を防止でき、また、包装体内が真空に保たれているかどうかは、包装体内に空気の流入があるかどうかを目視確認することで比較的容易に判別することができる。また、真空包装は、保管、陳列スペースの点において有利であり、比較的長期の保存が必要な場合に多用されている。しかしながら、包装体内を真空にするため、大気圧によって食品がフィルム等に密着した包装形態になり、ボリューム感を与えることができない、食品の形態がいびつになってしまう等、美粧性の観点で問題が残る。
一方、包装体内に酸素吸収剤を用いたり、酸素吸収層を有する包装材で包装する方法、または包装体内を不活性ガスである窒素や微生物等の繁殖抑制に使用される炭酸ガス等で密封するガス置換包装の方法は、食品を大気圧によって押しつぶすこと無く、食品を作ったままの形状でディスプレイすることができる。そのため、これらの方法は、商品をおいしく見せられるという、いわゆるディスプレイ効果による、商品の差別化が図れる点で優れている。そのため、賞味期限が数日から1ヶ月以内の比較的短期間の商品については酸素吸収による無酸素包装やガス置換包装の検討が主として行われている。
【0004】
しかしながら、酸素吸収によって無酸素包装したり、包装体内を所望のガスで密封する方法(ガス置換包装)では、包装体内のガス環境を目視して包装体内が適したガス雰囲気下で保存されているかどうかの判断をすることは難しい。そのため、包装体内のガス雰囲気が適性であるかどうかを判別する方法が模索されている。特に食品腐敗に大きな影響を与える酸素の有無を検知する酸素インジケーターの開発が望まれている。
このような酸素インジケーターとしては、例えば特表2001−503358号公報(特許文献1)には、酸化還元着色指標部材が酵素など適切に選択された触媒を媒介して酸素に反応し変色する酸素インジケーターが開示されている。該公報の酸素インジケーターは、包装容器内に同封したり、一部分が酸素ガス透過性部位からなる包装容器の該部分に容器外側から貼り付けた構造として、包装容器内部の酸素の有無を、酸化還元着色指標部材の変色により目視で確認できる点で優れている。しかしながら、酵素反応を利用した特許文献1に記載の酸素インジケーターは、酸素検知の感度が鈍かったり、酵素自体の安定性が乏しいことから、時間が経過するに従って色彩変化が明確でなくなって酸素検知能が低下したり、場合によっては酸素が侵入してきていても無酸素状態であると誤判断する問題があった。
【特許文献1】特表2001−503358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、酸素の有無を長期的に安定して、且つ高感度に検知できる酸素インジケーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)少なくとも酸化還元酵素と発色性基質を含む酸素感応性溶液が、酸素透過性フィルムにより覆われている構造の酸素インジケーターであって、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)が0.02以上30以下であることを特徴とする酸素インジケーター。
(2)前記酸素透過性フィルムの酸素透過度(m/(m・day・MPa))が0.0005以上0.1以下であることを特徴とする上記(1)に記載の酸素インジケーター。
(3)前記酸素感応性溶液が、還元剤、酸素と反応する化合物、酸素を吸着する化合物のうちから選ばれる少なくとも一種、或いは二種以上を更に含有することを特徴とする上記(1)又は(2)の何れかに記載の酸素インジケーター。
(4)前記酸素透過性フィルムの水蒸気透過度が0.1kg/(m・day)以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の酸素インジケーター。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸素インジケーターは、酸素の有無を長期的に安定して、且つ高感度に検知できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。
本発明の酸素インジケーターは、酸化還元酵素と発色性基質を少なくとも含む酸素感応性溶液が酸素透過性フィルムにより覆われている構造であり、所望の酸素濃度を閾値として酸素の有無を色彩変化などにより検知するものである。尚、本発明でいう酸素感応性溶液とは、溶解している発色性基質が酸化還元酵素の触媒作用を介して雰囲気中に存在する酸素により酸化されて光吸収スペクトル変化することで色彩などの変化が起こる溶液をいう。
【0009】
本発明が特許文献1の従来技術と最も相違するところは、時間の経過と共に反応活性が低下し易い酵素を使用しても、長期的に安定して、且つ高感度に酸素の有無を検知できることにある。即ち、該従来技術は、酵素自体の安定性に関しては全く考慮されておらず、時間の経過と共に酵素活性が低下して酸素検知性能が低下し易いものである。これに対し、本発明は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)を特定することによって酸素検知性能が設定できるものである。更に、該従来技術は、酸素検知の閾値(時間−温度作動)を指標部フォイルの酸素透過性により調整しており、該フォイルの酸素透過度を低く設定すると発色感度(色変化率)も低くなり、発色が薄い期間が長時間に渡り酸素の有無を判別し難いものである。これに対し、本発明は、酸素感応性溶液を覆う酸素透過性フィルムの酸素透過度を特定することによって、発色感度が低下することなく、酸素濃度閾値を超えてから短時間で判別ができるものである。従って、本発明の酸素インジケーターでは、例え時間の経過と共に酵素活性が低下したとしても、酸素検知性能は影響されず長期的に安定して、且つ発色感度は発色変化が早く高感度に酸素の有無を検知することができる。
【0010】
本発明で用いられる酸化還元酵素とは、EC1群の中から選ばれ、酸素分子の存在下に酸素とは別の基質を化学的変化させる反応に対して触媒作用を示すものであり、酵素的または非酵素的な反応による生成物と発色性基質との反応において触媒作用を示すもの等である。
前者の酸化還元酵素としては、酸素とは別の基質として用いられる発色性基質が酸化される反応系や、そのような発色性基質は用いずに酸素を過酸化水素などの生成物に化学的に変化させる反応系において、触媒作用を示す酵素が使用される。前者の酸化還元酵素を例示すると、オキシダーゼ系、フラビンモノオキシゲナーゼ系、銅ヒドロモノオキシゲナーゼ系、鉄モノオキシゲナーゼ系、リブロース2リン酸オキシゲナーゼ系、ジオキシゲナーゼ系等が挙げられ、カテコールオキシダーゼ(EC1.10.3.1)、ラッカーゼ(EC1.10.3.2)、ビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)、アスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3)、3−ヒドロキシアントラニル酸オキシダーゼ(EC1.10.3.5)、アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)、コレステロールオキシダーゼ(EC1.1.3.6)、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)などが好ましい具体例として挙げられる。
【0011】
後者の酸化還元酵素としては、例えばペルオキシダーゼ系などが挙げられる。この場合の反応を具体的に例示すると、酵素的または非酵素的な反応により生成した過酸化水素をペルオキシダーゼ(EC1.11.1.7)の触媒作用によって、発色性基質を呈色反応させたり、発色性基質として水素供与体と色原体を組合せて用いカップリングして呈色反応させる等が挙げられる。なお、これら呈色反応は、特に限定されるものではなく、例えば「高阪著、酵素的測定法、p.49〜55、医学書院(1982)」などに記載のペルオキシダーゼ共役呈色反応が用いられる。
本発明では、使用する発色性基質などとの組み合わせによって、これら酸化還元酵素のなかから適宜選択したものを単独で使用しても良いし、複数組み合わせて使用しても良い。上記酸化還元酵素のうち、汎用性やコスト的な観点からビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)やアスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3)がより好ましく、酵素安定性の観点からアクレモニウム属(Acremonium species)由来のアスコルビン酸オキシダーゼが最も好ましい。
【0012】
酸素感応性溶液中の酸化還元酵素の濃度は、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、0.01μg/mL〜100mg/mLの範囲が望ましい。一般に酸化還元酵素は水溶させると希薄溶液ほど酵素活性が低下し易く、また他原料と比較して高価である。従って、本発明では該濃度がこの範囲にあれば、使用する酸化還元酵素にもよるが、比較的安定した保存安定性を確保することができるとともに、コスト的な負担が問題にならない。該濃度は、使用する酸化還元酵素の種類や性質、使用する発色性基質など他の原料の濃度との組み合わせ、原料として使用する酸化還元酵素の活性、又は酸素インジケーターとしたときの検知する酸素濃度閾値や検知に要する時間などを調整する目的で上記範囲から適宜選定される。酵素自体の保存安定性やコスト的な観点から、該濃度は1〜1000μg/mLの範囲がより望ましい。
【0013】
本発明でいう光吸収スペクトル変化反応とは、発色性基質が酸素の存在下に酸化還元酵素の触媒作用を介して、光吸収スペクトルが変化する反応をいう。また、本発明でいう発色性基質とは、酵素の触媒作用を受ける基質のうち、光吸収スペクトル変化反応して酸素の検知に用いられる化合物をいう。なお、ここでいう発色とは、物質の化学構造や性質が変化することに起因して、光学的な波長吸収スペクトルが変化することを指す。光吸収スペクトルの利用できる波長域としては、吸光度の変化を測定あるいは検出できればどの領域の波長でも利用でき、例えばUV領域に変化域があればUV吸光度測定装置などを用いて検出すればよい。また、可視光域(400nm〜600nm)であれば、可視光吸光度測定装置などを用いて検出してもよいし、吸光度を測定する機械を用いることなく色彩の変化を目視等で識別してもよい。
【0014】
光吸収スペクトルが変化する発色性基質の化学構造や性質の変化としては、具体的に例示すると水酸基やアミノ基等からの水素引き抜き、二重結合の形成、基質同士の会合やカップリング、電子移動に伴う電荷の非局在化など様々な変化が挙げられる。本発明では使用する発色性基質を種々選択することによって所望の色で酸素の有無を検知することができる。このような発色性基質としては、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基等の活性の比較的高い官能基を有する化合物、酸化還元指示薬、酸化還元試薬であるフェノ−ル誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体、安息香酸誘導体等がよい。具体的に例示すると、ヒドロキノン、ポリフェノール、p−フェニレンジアミン、シアニン色素、アミノフェノール、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2,4−ジクロロフェノ−ル、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(DAPS)、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(HDAPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−アニシジン(ADOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−スルホプロピル−アニリン(HALPS)、o−ジアニシジン、o−トリジン、3,3−ジアミノベンジジン、3,3,5,5−テトラメチルベンジジン、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)、3,5−ジニトロ安息香酸、5−アミノサリチル酸、3−ヒドロキシアントラニル酸、3,5−ジアミノ安息香酸等、4−アミノアンチピリン、o−フェニレンジアミン、1−アミノ−2−ナフト−ル−4−スルホン酸、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン、2−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン、2−アミノ−フェノ−ル−4−スルホン酸、2,6−ジブロモ−4−アミノフェノ−ル、2,2’−アジノ−ル(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩、2,2’−アジノビス (3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム塩(ABTS)、2,6−ジクロロインドフェノール、カテコ−ル、タンニン、エピカテキン、エピガロカテキン等が挙げられる。なお、更に蛍光的に観察したい場合には、酸化によって蛍光を発する化合物、例えばホモバニリン酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、チラミン、パラクレゾ−ル、ジアセチルフルオレスシン誘導体等、化学発光的に観察したい場合には、ピロガロ−ル等も挙げられる。ここに示した物質は一例に過ぎず、酵素の触媒作用により蛍光を発する反応が顕著に促進される物質は全てこれに含まれる。また、複数の化合物をカップリングして光吸収スペクトルが変化するもの等でもよい。例えば、4−アミノアンチピリン、2,6−ジブロモ−4−アミノフェノール、ABTSなどと、フェノール誘導体、アニリン誘導体、4−ヒドロキシ安息香酸誘導体などとの組合せが挙げられる。
【0015】
本発明では、使用する酸化還元酵素などとの組み合わせによって、これら発色性基質のなかから適宜選択したものを単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。上記発色性基質のうち、汎用性、発色性基質自体の安定性、コスト的な観点などから、安息香酸誘導体、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム塩(ABTS)、1,2−ジオキシベンゼン誘導体、ヒドロキノン誘導体、1,4−ジアミノベンゼン誘導体、3−ヒドロキシアントラニル酸誘導体等が好ましく、水への溶解性など取り扱いの観点から、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム塩(ABTS)等が最も好ましい。
【0016】
酸素感応性溶液中の発色性基質の濃度は、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、0.01〜1000mg/mLの範囲が望ましい。本発明では、該濃度がこの範囲にあれば使用する発色性基質にもよるが明確に光吸収スペクトルの変化を認識できるとともに、コスト的な負担が問題にならない。該濃度は、使用する発色性基質の種類や性質、使用する酸化還元酵素など他の原料の濃度との組み合わせ、原料として使用する酸化還元酵素の吸光度係数、又は酸素インジケーターとしたときの検知する酸素濃度閾値や検知に要する時間、検知する際の色彩など色差変化などを調整する目的で、上記範囲から適宜選定される。酸素インジケーターとした場合の酸素検知の認識し易さやコスト的な観点から、該濃度は0.1〜50mg/mLの範囲がより望ましい。
【0017】
本発明の光吸収スペクトル変化反応は、通常溶媒中で進行する溶液反応であり、酸素感応性溶液中に溶解した酸素と発色性基質が酵素の存在下において酸化還元反応を起こすものである。ここで使用される溶媒としては、上記反応を阻害せず、且つ、酸素が溶存する溶媒であればどのような溶媒を使用してもよい。食品包装の酸素インジケーターとして用いる場合には、水、又は水を主体(50wt%超過)とした水とエタノールの混合液が取り扱いや食品衛生上の観点から望ましい。
本発明の酸素インジケーターは、酸化還元酵素と発色性基質を少なくとも含む酸素感応性溶液が、酸素透過性フィルムにより覆われている構造のものであり、該酸素透過性フィルムは、上記光吸収スペクトル変化反応を制御することを最大の目的として、更に包装内容物が酸素感応性溶液と直接接触しないように保護する目的で、または酸素感応性溶液を封止する目的等で使用されるものである。
【0018】
本発明の酸素インジケーターの構造について具体的に例示すると、該酸素感応性溶液が、少なくとも一部が酸素透過性フィルム、残りの部分は酸素ガスバリア性物質で覆われ封止されている構造、あるいは全部が酸素透過性フィルムにより覆われ封止されている構造であり、該酸素感応性溶液が封止された内部空間は、少なくとも一部の酸素透過性フィルムを介してのみ酸素の有無を検知しようとする雰囲気と接するように配されたものである。具体的にその形態を例示すると、酸素感応性溶液を液体状のまま酸素透過性フィルムよりなる個袋中に封止した個袋形態、酸素感応性溶液を支持体に含浸又は含有させて酸素透過性フィルムよりなる個袋中に封止した個袋形態などが挙げられる。または、酸素感応性溶液を液体状のまま、あるいは支持体に含浸させたものを内部空間に封止することができ、該内部空間が酸素の存在を検知しようとする雰囲気と少なくとも一部が酸素透過性フィルムを介して接するように配されたラベル状、テープ状、キャップ状などの形態が挙げられる。
本発明者らは、該酸素感応性溶液の発色速度(A)と該酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)を特定の範囲に限定した場合に限って、所望の酸素濃度閾値を超えてから短時間で判別できる優れた発色感度、及び時間の経過と共に反応活性が低下し易い酵素を使用しても酸素検知性能を長期的に保持できる優れた安定性を発現できることを新規に見出した。
【0019】
本発明で使用される酸素透過性フィルムの材質としては、具体的に例示すると、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの変性ポリオレフィン類、ジェネラルパーパスポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン−メチルメタクリレート共重合体などのポリスチレン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテンフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、その他ポリアミド類、ポリ塩化ビニル類、ポリ塩化ビニリデン類などが挙げられる。更には、焼却時の燃焼カロリーの低さや土中分解を考慮して生分解性プラスチックを用いることが望ましく、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ酪酸、ポリ吉草酸、これらの共重合体などのヒドロキシカルボン酸よりなる脂肪族ポリエステル類、エチレングリコールとアジピン酸などの多価アルコール類と多価カルボン酸類の重縮合体よりなる脂肪族ポリエステル類、及びこれらにテレフタル酸などの芳香族多価化合物を共重合させた脂肪族芳香族共重合ポリエステル類、デンプン系やセルロース系などの天然高分子類などが挙げられ、生分解性プラスチックの規格、例えば日本における生分解性プラスチック研究会が定める規格、米国におけるASTM D−6400、ドイツにおけるDIN V−54900などに適合するものが挙げられる。
【0020】
本発明では、これら材質からなり、押出成形法、キャスト法、流延法、延伸法などにより得られるフィルムであって、該フィルムの酸素透過度(m/(m・day・MPa))が0.0005以上0.1以下である酸素透過性フィルムが好ましい。該フィルムの厚みは、該フィルム材質の酸素透過係数により適宜選定され特に限定されるものではないが、加工時や破断に対する強さなど取り扱い易さの観点から10〜200μmが望ましい。また、該酸素透過性フィルムは、単一の材質で得られるものや、複数の材質を溶融溶解して得られた複合材で得られるものであってもよく、単一材質あるいは複合材を積層したものであってもよい。さらに、酸素透過度を調整する目的で、無機粒子や可塑剤などの添加物を含有させたり、コーティングや蒸着などをさせたものでもよい。
【0021】
本発明の酸素インジケーターは、酸素感応性溶液を封止する内部空間が、上記酸素透過性フィルムを介して酸素の存在を検知しようとする雰囲気と接しており、該雰囲気中の酸素が該酸素透過性フィルムを透過して該内部空間に供給され、該内部空間に供給された酸素が、更に該酸素感応性溶液に溶解することによって、上記光吸収スペクトル変化反応が起こる。従って、酸素透過度が上記特定の範囲にある酸素透過性フィルムは、適度な酸素透過性を有し、上記光吸収スペクトル変化反応が適切に制御された発色感度を発現できる。該酸素透過度(m/(m・day・MPa))は、より優れた発色感度を発現させる為に0.001以上0.09以下であることがより好ましく、更に優れた発色感度と該フィルムを取り扱い易い厚みに留める為に0.005以上0.08以下であることがさらに好ましい。なお、フィルムの酸素透過度は、JIS K7126(B法、等圧法)に準拠して、23℃、65%RHで測定した値である。
【0022】
本発明で使用される上記酸素透過性フィルムは、上記酸素透過度に加えて、更に水蒸気透過度が特定の範囲にある場合には、酸素インジケーターに使用される酸素感応性溶液の蒸発による酸素検知性能の変化を防止することが可能になり更に望ましい。該酸素透過性フィルムの水蒸気透過度は、上記の観点から0.1kg/(m・day)以下であることが好ましく、上記酸素検知性能の変化をより高度に抑制するために該値は0.05kg/(m・day)以下であることがより好ましく、最も好ましくは0.02kg/(m・day)以下である。該値の下限は、このような目的から水蒸気透過度が低いほど好ましく、特に限定されるものではない。なお、フィルムの水蒸気透過度は、JIS K7129(B法、赤外センサー法)に準拠して、温度40℃、相対湿度90%RHの試験条件で測定した値である。
【0023】
次に、本発明の最大の特徴である、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)について述べる。
本発明でいう酸素感応性溶液の発色速度(A)とは、本発明の酸素インジケーターに使用される上記酸素感応性溶液が上記光吸収スペクトル変化反応を起こす速度、具体的には、該酸素感応性溶液をサンプルとして、23℃の大気中(酸素濃度20.9vol%)における所定波長の吸光度変化速度から求められる酸化型発色性基質の増加速度(mol/sec)を指す。また、ここでいう所定波長とは、サンプルとして使用した酸素反応性溶液に含まれる発色性基質の極大吸収波長の一つが用いられ、例えば酸化型2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸アンモニウム)(ABTS)では、390、420、660、740nmに極大吸収波長を示し、420nmなどが用いられる。また、例えば、酸化型o−トリジンでは510nm、酸化型メチレンブルーでは666nm、酸化型NAD+では340nm、4−アミノアンチピリンとフェノールとのカップリング化合物では500nmなどが挙げられる。酸素感応性溶液の発色速度(A)は、紫外可視分光光度計により測定された該酸化型発色性基質の吸光度変化速度をV(Abs/sec)、該酸化型発色性基質の所定波長におけるモル吸光係数をε(L/mol/cm)、紫外可視分光光度計測定時のサンプル光路長をD(cm)、酸素インジケーター中の酸素感応性溶液の液量をQ(L)、光吸収スペクトル変化反応における発色性基質1分子当りの消費酸素分子数をkとし、下式(1)により求められる。
A(mol/sec)=V×[Q/(ε×D)]×k 式(1)
従って本発明では、使用する酸化還元酵素や発色性基質の組合せ、またはそれらの使用濃度を適宜変更することによって、或いは酸素感応性溶液の液量を適宜変更することによって、酸素感応性溶液の発色速度(A)を調整することができる。
【0024】
なお、該酸化型発色性基質の吸光度変化速度Vを紫外可視分光光度計により測定する際に、サンプルとして用いる酸素感応性溶液が大量にある場合には、該酸素感応性溶液をそのまま用いて吸光度変化速度Vを測定すればよい。ところが、サンプルとして用いる酸素感応性溶液が少量しかない場合や、酸素インジケーターしかサンプルがない場合には、蒸留水からなる希釈液で希釈して吸光度変化速度を測定し、元の酸素感応性溶液における吸光度変化速度Vに換算すればよい。
一方、本発明でいう酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)とは、本発明の酸素インジケーターにおいて、上述した酸素感応性溶液が封止される内部空間に、酸素透過性フィルムを介して接する酸素の存在を検知しようとする雰囲気から、該酸素透過性フィルムを透過してくる酸素の増加速度(mol/sec)を指す。酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)は、使用する酸素透過性フィルムの酸素透過度をP(m/(m・day・MPa))、酸素インジケーターにおける内部空間の酸素透過性フィルム被覆面積をS(m)とし、下式(2)により求められる。
B(mol/sec)=0.0001079×P×S 式(2)
従って本発明では、使用する酸素透過性フィルムの酸素透過度Pや内部空間の酸素透過性フィルム被覆面積をSを適宜変更することによって、酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を調整することができる。
【0025】
なお、該内部空間の酸素透過性フィルム被覆面積Sは、酸素インジケーターの該内部空間部分を上面から見た画像から、画像解析装置(日本アビオニクス社製、商品名:高速カラー画像・解析装置SPICCA)により円相当径を計測し、得られた円相当径から算出した面積を該値Sの計測値として採用する。
本発明の酸素インジケーターは、上記酸素感応性溶液の発色速度(A)と上記酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)が0.02以上30以下のものである。該A/Bが0.02以上の場合には、酸素インジケーターは、時間の経過と共に反応活性が低下し易い酵素を使用しても酸素検知性能を長期的に保持できる優れた安定性を発現でき、該A/Bが30以下の場合には、所望の酸素濃度閾値を超えてから短時間で判別できる優れた発色感度を発現できる。該A/Bの下限は、より優れた安定性と発色感度を発現する為に0.05以上であることがより好ましく、更に優れた安定性と発色感度を発現する為に0.1以上であることがより好ましい。該A/Bの上限は、酵素使用量というコスト的な観点から10以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明では、上記酸化還元酵素と上記発色性基質を少なくとも含む前述の酸素感応性溶液が、酸素インジケーターに酸素吸収剤としての性能を兼備させる目的で、酸素インジケーターの酸素検知を遅延させるなど検知時間の調整をする目的で、酵素による光吸収スペクトル変化反応を酸素濃度のある閾値よりドラスチックに変化させる目的で、又は酸素インジケーターとして酸素検知感度を調整する目的で、酸化された発色性基質を還元する還元剤、上記光吸収スペクトル変化反応と競合して酸素と反応する化合物、酸素を吸着する化合物のうちから選ばれる少なくとも一種、或いは二種以上を更に含有することが好ましい。
【0027】
上記酸化された発色性基質を還元する還元剤としては、例えば、酸化を受けジスルフィド基を生成するメルカプト基含有化合物、アルカリ性物質と還元糖類、フェロシアン化カリウム、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、有機酸やその金属塩、その他特許文献1やその引用文献に記載の還元剤などが挙げられる。該還元剤は、これらに限定されるものではなく、本発明では、使用する酸化還元酵素や発色性基質などとの組み合わせによって、これら還元剤のなかから適宜選択し、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。これらのうち、安全衛生性、汎用性などの観点から、メルカプト基含有化合物、有機酸やその金属塩がより好ましい。メルカプト基含有化合物としては、例えば、グルタチオン、システイン、N−アセチルシステインなどのシステイン誘導体、メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、チオグリセロールなどが挙げられ、有機酸やその金属塩としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
上記光吸収スペクトル変化反応と競合して酸素と反応する化合物としては、酵素的反応であれば用いる酸化還元酵素が低いK値(ミカエリス定数)を示す化合物、例えばアスコルビン酸オキシダーゼにおけるアスコルビン酸、ビリルビンオキシダーゼにおけるビリルビンなど、非酵素的反応であれば一酸化窒素などが挙げられる。該化合物は、これらに限定されるものではなく、本発明では、使用する酸化還元酵素や発色性基質などとの組み合わせによって、これら化合物のなかから適宜選択し、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。
上記酸素を吸着する化合物としては、ヘモグロビン、コバルト2価錯体、サレン錯体、フルオロカーボン化合物などが挙げられる。該化合物は、これらに限定されるものではなく、本発明では、使用する酸化還元酵素や発色性基質などとの組み合わせによって、これら化合物のなかから適宜選択し、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明では、酸化された発色性基質を還元する還元剤、上記光吸収スペクトル変化反応と競合して酸素と反応する化合物、酸素を吸着する化合物の、酸素感応性溶液中における濃度は、上記目的の為に必要に応じて使用すればよく、特に限定されるものではない。例えば、所望の酸素濃度を閾値として酸素の有無を判別するために、使用する酸化還元酵素や発色性基質の濃度により調整した濃度とすればよいが、溶解性やコスト的な観点からこれら合計の濃度は500mM以下が望ましましく、酸素感応性溶液の取り扱いやpH調整等溶液調製の容易さの観点から200mM以下がより望ましい。
【0030】
本発明では、更に酸素感応性溶液がpH緩衝剤を含むことによって、該溶液の著しいpH変化を抑制して酵素活性の変動を防ぐことができるようになる。使用されるpH緩衝剤としては、例えば、酢酸緩衝液、くえん酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、リン酸緩衝液など一般にpH緩衝剤として使用されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく使用する酸化還元酵素などに適したものを適宜選択すればよい。該剤は適宜選択したものを単独で使用しても良いし、複数組み合わせて使用しても良く、酸素感応性溶液中の該剤の濃度は、酸素感応性溶液中の他物質の濃度にもより適宜設定すればよいが、具体的には、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、酸素感応性溶液の緩衝作用を効果的に発揮するためには少なくとも10mM以上であることが望ましい。該剤の濃度の上限は、溶解性やコスト的な観点から1M以下が望ましい。
【0031】
本発明では、更に酸素感応性溶液が酵素安定化剤を含むことによって、酵素活性の変動を防ぐことができるようになる。使用される酵素安定化剤としては、用いる酵素によって適切なものを選択することが望ましく、具体的に例示するとアスコルビン酸オキシダーゼの場合にはマンニトール等の糖類、ゼラチンや牛血清アルブミン等のタンパク類などが挙げられ、ビリルビンオキシダーゼの場合にはEDTAやアスパラギン酸などが挙げられる。該剤は適宜選択したものを単独で使用しても良いし、複数組み合わせて使用しても良く、酸素感応性溶液中の該剤の濃度は、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、酵素安定化作用を効果的に発揮するためには0.1mM以上であることが望ましい。該剤の濃度の上限は、特に限定されるものではないが、酵素によっては用いる該剤を大量に使用しても酵素安定化作用がほとんど変わらない場合もあり、コスト的な観点から該剤の濃度は50mM以下が望ましい。
【0032】
本発明では、更に酸素感応性溶液が水溶性非イオン性化合物を含むことによって、酸素検知能力を高めることができるようになる。ここでいう水溶性非イオン性化合物とは、水溶性であり、且つ水溶液中においてイオン解離しない化合物を指す。使用される該化合物としては、例えば、ビニルアルコールコポリマーや部分ケン化ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、ポリグリセリン誘導体、メチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースやカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体などの水溶性非イオン性ポリマー、または例えば、グリセリン誘導体、ショ糖、ソルビトールなどの脂肪酸エステル類やアルコール付加物などの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。使用しうる水溶性非イオン性化合物は、これらに限定されるものではなく、使用する酸化還元酵素などに適したものを適宜選択し、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。水溶性非イオン性化合物は、0.2wt%水溶液の表面張力が特に0.06N/m以下である場合には、その理由は定かではないが、該化合物を含む酸素感応性溶液の酸素感応性がより高められる。なお、表面張力は、測定サンプルとして水溶性非イオン性化合物の0.2wt%水溶液を用いDuNouy表面張力計(吊環法)にて23℃で測定した値である。これら水溶性非イオン性化合物を添加することによる本発明の酸素インジケーター機能の向上は、酸化還元酵素としてアスコルビン酸オキシダーゼ、発色性基質としてABTS、水溶性非イオン性化合物として部分ケン化ポリビニルアルコールを用いた組み合わせの場合に、特に顕著であった。該化合物の酸素感応性溶液中における濃度は、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず0.01wt%以上であることが望ましい。該化合物の濃度が0.01wt%以上であれば酸素感応性溶液の酸素感応性を効果的に高められることができ、より望ましくは0.03wt%以上である。該濃度の上限は、特に限定されるものではないが、該化合物を大量に使用しても酸素感応性向上作用がほとんど変わらないので、コスト的な観点から2wt%以下が望ましい。
【0033】
本発明の酸素感応性溶液は、酸素検知性能を調整する目的で、上記化合物の他に酵素阻害剤、基質アナローグ、包接化合物などを共存させることで光吸収波長変化反応を遅くするか、あるいは感度を低下させることができる。阻害剤としては使用する酵素により適宜選定される、例えばアザイド、ジエチルジチオカルバミン酸、チオ硫酸塩、フッ化物、シアン化物、PCMB、EDTA、2価や3価の金属類など、基質アナローグとしては使用する酵素により適宜選定される化合物、包接化合物としてはシクロデキストリンなどが挙げられる。ここに挙げたものは一例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、使用する酸化還元酵素や発色性基質等を勘案し必要に応じて種類や濃度等を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0034】
本発明の酸素インジケーターは、上記酸素感応性溶液を支持体に含浸又は含有させる方が、酸素感応性溶液を液体状のまま使用するよりもハンドリングの観点から望ましい。本発明で使用される支持体としては、具体的に例示するとプラスチック、金属、セラミック、セルロース、無機粒子、ゲル、紙などからなるものが挙げられ、前記の光吸収スペクトル変化反応を阻害せず、そのまま、或いは加工して固形状態となるものであれば何れも使用できる。支持体への含浸或いは含有の方法は、プラスチックからなるフィルム、プラスチック、金属、セラミックからなる多孔性成形品、商品名アビセル(旭化成ケミカル社)などのセルロース粉末や珪藻土などの無機粒子に含有させて打錠成型したもの、ゼラチンや寒天等のゲルに包括させたもの、不織布、紙、織布などに、塗布する、表面コーティングする、浸漬するなどの方法が挙げられる。
【0035】
本発明の酸素インジケーターは、上述のとおり、酸素透過性フィルムを透過して上記内部空間に供給された酸素が、酸素感応性溶液に溶解することによって上記光吸収スペクトル変化反応が起こるものである。従って、該酸素感応性溶液を上記支持体に含浸又は含有させる場合には、内部空間に供給された酸素と酸素感応性溶液との接触面積が大きくなって、上記光吸収スペクトル変化反応がより起こり易い状況になりうる。即ち、本発明でいう酸素感応性溶液の発色速度(A)は、使用する上記支持体によって、更に詳しくは上記支持体の、例えば比表面積や表面粗さや開孔面積率などの表面特性によっても調整することが可能である。本発明では、この様に上記支持体を使用した場合でも、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)を上記特定範囲に留めることが肝要である。
【0036】
本発明の酸素インジケーターは、その製造時や、酸素モニタリングをする前の保管時において、酸素感応性溶液を酸素と接触させない構造、即ち酸化還元酵素と発色性基質が酸素と隔離された構造とすることが好ましい。好ましくは、酸素濃度0.05%未満の低酸素状態、より好ましくは無酸素状態において、酸素感応性溶液中に酸素が溶存していない状態で酸素インジケーターを作製し、該酸素インジケーターを酸素ガスバリア性フィルム等にて包装して保存し、使用時に該酸素ガスバリア性フィルム等を除去又は破袋することによって酸素の存在を検知しようとする雰囲気にさらす方法等が挙げられる。或いは、酸化還元酵素溶液と発色性基質溶液の各々を酸素と隔離された状態で、各々酸素ガスバリア性フィルム等にて包装して保存し、使用時に該酸素ガスバリア性フィルム等を除去又は破袋することによって、酵素溶液と発色性基質溶液が混合されるようにする方法等が挙げられる。その場合も、該両液が混合された酸素感応性溶液は、上記特定範囲の酸素透過度を有する酸素透過性フィルムにより覆われている構造とするものである。なお、ここでいう酸素ガスバリア性フィルム等とは、酸素透過度(m/(m・day・MPa))が0.0002以下である、厚み10〜500μmのものを用いることが望ましい。該酸素ガスバリア性フィルム等の材質としては、プラスチックフィルム様、プラスチックシート様、金属薄膜ラミネート様、金属蒸着様などの一般に酸素透過度を抑制した包装材が使用される。
【0037】
これら構造の酸素インジケーター、例えば個袋状の酸素インジケーターは、バターなど酸化劣化し易い油脂を含有する菓子などを無酸素包装する場合やハムなどの加工肉食品等を真空包装する場合に、包装体内に入れることにより包装体内の酸素の有無を検知することができる。例えばテープ状の酸素インジケーターは、子供や老人が間違って個袋状の酸素インジケーターを食べてしまう恐れがある場合に、粘着剤を介して包装容器の内側に貼り付けて使用することができる。また、例えばラベル状の酸素インジケーターは、ガス置換包装の場合に、包装容器内のガス置換を行う目的で形成された該容器の開孔部を塞ぐように貼り付けて使用することができる。
【0038】
なお、本発明でいうガス置換包装とは、Modified Atmosphere包装、ガス充填包装、Controlled Atmosphere包装ともいわれる包装技術である。一般に、包装内容物に応じて適宜容器または袋内のガス組成が調整され、通常は容器または袋内のガス成分としては不活性ガスである窒素やアルゴンによりガス置換される。菌類の繁殖を抑制する目的では、容器または袋内の酸素のガス組成が無酸素であることが望ましく、更に静菌作用がある二酸化炭素のガス組成が3%以上であることがより望ましく、更に殺菌作用があるエタノールのガス組成が0.5%以上であることが最も望ましい。一方、容器または袋内の二酸化炭素のガス組成は、より効果的に静菌作用を発現させるためには、包装内容物が二酸化炭素により変性しないものであれば100%以下が好ましい。容器又は袋内のエタノールのガス組成は、エタノールの凝集が過度に起こらないようにするためには6%以下が好ましい。また、例えば飲料ボトルにおいては、天面の透明なキャップの内側に本発明の酸素インジケーターを設ける形状とすることによって、炭酸飲料など二酸化炭素の存在する場合に従来のメチレンブルーを用いた酸素インジケーターでは使用できなかった用途においても、酸素の有無を検知して色彩などの変化により確認することができる。
【0039】
本発明の酸素インジケーターは、上記の食品包装分野以外にも、密封空間内の酸素の有無を確認する必要のあるところであれば、いずれの用途に使用しても良い。例えば、精密機械部品包装やネジ等の金属部品包装や電子基板等の電機部品包装、医薬品、化粧品等の包装への使用が挙げられる。本発明の包装体としては、例えば袋状、容器状のものなど一般に包装材として使用されている形態であれば如何なる形態のものでもよい。用いられる材質は、包装体内を真空に保つために、或いは包装体内のガス組成の変動を極力抑えるために、ガスバリア性を有しているものが望ましい。包装体の材質としては、プラスチック、金属、木材、紙、ガラスなどの単体あるいはこれらの積層材等が挙げられる。そのガスバリア性は、包装体内のガス組成の変動を、用いるガス各々に対し標準状態(23℃、50%RH)で10%未満の変動に抑えられることが望ましい。なお、ここでいう容器とは、受け容器および蓋からなる形態を持ち、内容物を入れるための器をさし、例えば、容器と蓋の一辺がヒンジ部を介して接合されたいわゆるフードパック等でもよい。
【0040】
いずれの場合も、本発明の酸素インジケーターは、酸素の有無を判別するものであり、モニタリングする前(特に保管時)は、光吸収スペクトル変化反応が起こらないように、又は極僅かしか起こらないように、酸素と隔離しておく為にガスバリア性の材質による包装でガス置換包装されていること等が好ましい。例えば、金属、ガラス等の酸素ガスバリア性の高い容器を用いたり、酸素ガスバリア性フィルムによる袋包装しての保存等が挙げられる。また、より好ましくは保存環境内の極少量の酸素および酸素ガスバリア性保存袋を透過して侵入した酸素を捕捉するため、これら保存袋内などに脱酸素剤等の酸素捕捉剤を入れてもよい。
【0041】
本発明の酸素インジケーターについて、その具体例を図を用いて説明する。
図1は、酸素感応性溶液1を、酸素透過性フィルムで作製した袋2に低酸素状態を保ったまま包装し、さらにその外側を酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋3にて包装した斜視図と、そのA−A’面で切断した断面図である。
図2は、酸素感応性溶液1を多孔性成形品、不織布のような枚様体、結晶性セルロースや無機粒子等を用いた打錠成型品、ゼラチンや寒天等のゲル、吸水性濾紙4に低酸素状態を保ったまま含浸し、酸素透過性フィルムで作製した袋2に低酸素状態を保ったまま包装、さらにその外側を酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋3にて包装した斜視図と、そのB−B’面で切断した断面図である。
図3は、片面に粘着層を有する酸素ガスバリア性粘着ラベル5の粘着面上に、低酸素状態で濾紙4を貼付け酸素感応性溶液1を含浸して、その上から酸素透過性フィルム6により、酸素感応性溶液1を含浸した濾紙4を覆い酸素ガスバリア性粘着ラベル5の粘着力により貼合し、酸素透過性フィルム6の上から酸素ガスバリア性テープ7により覆い酸素ガスバリア粘着ラベル5の粘着力により貼合した構造の斜視図と、そのC−C’面で切断した断面図である。
【0042】
図4は、図3に示した粘着ラベル状酸素インジケーターを、ガス置換用の開孔部をフタに有する容器の該開孔部を塞ぐように貼付け使用した場合を示す斜視図と、そのD−D’面で切断した断面図である。この場合、酸素ガスバリア性粘着ラベル5により容器フタ8の該開孔部を塞いでいるので、該容器内は外界とガスバリア性素材により隔離された密閉状態であり、該容器内のガス組成の変動は抑制されたものとなっている。一方、該酸素インジケーターは、濾紙4に含浸させた酸素感応性溶液1が酸素透過性フィルム6により覆われている構造であり、酸素ガスバリア性粘着ラベル5と該酸素透過性フィルム6により形成される内部空間内に配されている。従って、該酸素感応性溶液1は、該酸素透過性フィルム6を介して該容器内雰囲気と接しており、該酸素インジケーターによって該容器内の酸素濃度をモニターできるものとなっている。
【実施例】
【0043】
[物性などの測定方法]
(1)酸素透過性フィルムの酸素透過度
酸素透過度は、JIS K7126(B法、等圧法)に準拠して、23℃、65%RHで測定した。即ち、測定サンプルとして酸素透過性フィルムを10cm×10cmの正方形に切り出した。MOCON社製ガスバリア測定装置、商品名:OX−TRAN2/20MHを使用し、測定サンプルをセットして測定を行った。測定は、サンプルを交換して3回行い、その平均値を酸素透過度(m/(m・day・MPa))として採用した。なお、酸素透過性フィルムの酸素透過度が高く、装置の測定可能範囲の上限を超過して多量の酸素がセンサーに流れることが予想される場合には、アルミ製シートによるマスキングなどの手段を講じて測定した。
【0044】
(2)酸素感応性溶液の発色速度(A)
酸素感応性溶液の発色速度(A)は、所定波長の吸光度変化速度の測定値から、酸素インジケーターにおける酸化型発色性基質の増加速度(mol/sec)として求めた。即ち、測定サンプルとして酸素感応性溶液を用いて、セル恒温装置を具備した島津製作所社製紫外可視分光光度計、商品名:UV−2200を使用し、セミマイクロセル(容量1.4mL、光路長D=1cm)にて、23℃大気中における所定波長の吸光度経時変化を測定した。ここで、所定波長は、サンプルとして使用した酸素反応性溶液に含まれる発色性基質の極大吸収波長の一つを用いた。また、所定波長の吸光度経時変化は、吸光度の測定を行って経時変化データを得た。測定は4回行い、得られた吸光度経時変化データから、時間−吸光度のグラフにプロットして、吸光度変化の初速度の平均値を発色性基質の吸光度変化速度V(Abs/sec)として算出した。ここで、吸光度変化の初速度は、「高阪著、酵素的測定法、p.34、医学書院(1982)」に記載の初速度測定を参考にして求めた。酸素感応性溶液の発色速度(A)は、得られた発色性基質の吸光度変化速度をV(Abs/sec)、発色性基質の所定波長におけるモル吸光係数をε(L/mol/cm)、紫外可視分光光度計測定時のサンプル光路長をD(cm)、酸素インジケーターに使用する酸素感応性溶液の1個当りの液量をQ(L)、光吸収スペクトル変化反応における発色性基質1分子当りの消費酸素分子数をkとして、下式(1)により求めた。
A(mol/sec)=V×[Q/(ε×D)]×k 式(1)
【0045】
(3)酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)
酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)は、酸素透過性フィルムの酸素透過度から、酸素インジケーターにおいて酸素透過性フィルムを透過してくる酸素の増加速度(mol/sec)として求めた。即ち、酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)は、上記(1)酸素透過性フィルムの酸素透過度の測定により得られた値をP(m/(m・day・MPa))、酸素インジケーターにおける内部空間の酸素透過性フィルム被覆面積をS(m)とし、下式(2)により求められる。
B=P×[1/(24×60×60)]×[1000/22.4]×0.209×Sより
B(mol/sec)=0.0001079×P×S 式(2)
【0046】
(4)酸素透過性フィルムの水蒸気透過度
水蒸気透過度は、JIS K7129(B法、赤外線センサー法)に準拠して、温度40℃、湿度90%RHの試験条件で測定した。即ち、測定サンプルとして酸素透過性フィルムを12cm×12cmの正方形に切り出した。MOCON社製透湿度測定装置、商品名:PERMATRAN W−200を使用し、測定サンプルをセットして測定を行った。測定は、サンプルを交換して3回行い、その平均値を水蒸気透過度(kg/(m・day))として採用した。
【0047】
[実施例1]
酸化還元酵素としてアスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3、旭化成ファーマ社製、商品名:ASOM)を用いて、蒸留水に溶解して5mg/mLのアスコルビン酸オキシダーゼ母液を調製した。感度向上剤としてケン化度80mol%のポリビニルアルコール(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、蒸留水に溶解して1wt%のポリビニルアルコール母液を調製した。これらアスコルビン酸オキシダーゼ母液とポリビニルアルコール母液を用いて、事前に調製しておいた400mM酢酸緩衝液(pH=4.5、和光純薬工業社製試薬特級の酢酸と酢酸ナトリウムから調製)と共に蒸留水に溶解して、アスコルビン酸オキシダーゼが200μg/mL、ポリビニルアルコールが0.05wt%、酢酸緩衝液が100mMの酵素溶液(X1)を100mL調製した。発色性基質としてABTS(東京化成工業社製高品質分析試薬、極大吸収波長420nm、モル吸光係数51300L/mol/cm)を用いて、蒸留水に溶解して25mg/mLのABTS母液を調製した。上記と同様に、感度向上剤として上記ポリビニルアルコールを用いて、蒸留水に溶解して1重量%のポリビニルアルコール母液を調製した。これらABTS母液、ポリビニルアルコール母液、及び還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、事前に調製しておいた400mM酢酸緩衝液(pH=4.5)と共に蒸留水に溶解して、ABTSが8.0mg/mL、L−アスコルビン酸が200mM、ポリビニルアルコールが0.05wt%、酢酸緩衝液が100mMの基質溶液(Y1)を100mL調製した。これらの酵素溶液(X1)と基質溶液(Y1)を、各々逆止弁付き容器内にて大気に触れない状況下で窒素バブリングして溶存酸素濃度を0.00mg/L(メトラートレード社製溶存酸素計、商品名:MO128で測定)とした後、各々マイクロポンプにより等量づつをミキサーに送液して、連続的に該酵素溶液(X1)と該基質溶液(Y1)を混合した酸素感応性溶液(Z1)を調製した。該酸素感応性溶液(Z1)5.0μLを、酸素濃度30ppmの低酸素環境下で、図3に示すように片面に粘着層を有する酸素ガスバリア性粘着ラベル(サトウシール社製PET75μm厚)の粘着面上に貼り付けた濾紙(ワットマン社製、商品名:クロマトグラフィーペーパー3MMChr)に含浸させ、その上から酸素透過性フィルム(旭化成ライフ&リビング社製ニ軸延伸ポリスチレンフィルム、商品名:「OPSフィルム」GM、厚み40μm、酸素透過度0.030m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.095kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I1)を作製した。得られた酸素インジケーター(I1)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が0.078であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I1)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製、商品名:飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、測定環境内を炭酸ガス、窒素ガス及び窒素と酸素の混合ガスを用いて、炭酸ガスのガス成分50vol%とし、酸素のガス成分を所定濃度(0.5vol%、1.0vol%、2vol%、ダンセンサー社製、商品名:チェックポイントで測定)に調整し、得られた酸素インジケーター(I1)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示した。酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋にて包装した状態で、該酸素インジケーター(I1)を5℃で作製後10日間、20日間、30日間、40日間、50日間と各々保管したものを用いて、上記と同様に酸素有無の検知試験を行った。5℃50日間保管したものは、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、作製直後と比較して酸素検知能力に差は認められず、長期的な保存安定性が著しく優れていることが判る。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で酵素溶液(X1)および基質溶液(Y1)を混合した酸素官能性溶液(Z1)を調整し、それを含浸させた濾紙を用意した。その上から酸素透過性フィルム(東洋紡績社製ニ軸延伸ポリプロピレンフィルム、商品名:「パイレンフィルム−OT」P2108、厚み30μm、酸素透過度0.025m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.005kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I2)を作製した。得られた酸素インジケーター(I2)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が0.095であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I2)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、実施例1と同様にして、得られた酸素インジケーター(I2)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示した。実施例1と同様にして、該酸素インジケーター(I2)を5℃で保管し酸素有無の検知試験を行ったところ、5℃50日間保管したものは、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、作製直後と比較して酸素検知能力に差は認められず、長期的な保存安定性が著しく優れていることが判る。
【0049】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で酵素溶液(X1)および基質溶液(Y1)を混合した酸素官能性溶液(Z1)を調整し、それを含浸させた濾紙を用意した。その上から酸素透過性フィルム(ユニチカ社製ニ軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、商品名:「エンブレットPET」、厚み25μm、酸素透過度0.0007m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.025kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I3)を作製した。得られた酸素インジケーター(I3)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が3.4であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I3)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、実施例1と同様にして、得られた酸素インジケーター(I3)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示した。実施例1と同様にして、該酸素インジケーター(I3)を5℃で保管し酸素有無の検知試験を行ったところ、5℃50日間保管したものは、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、作製直後と比較して酸素検知能力に差は認められず、長期的な保存安定性が著しく優れていることが判る。
【0050】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で酵素溶液(X1)および基質溶液(Y1)を混合した酸素官能性溶液(Z1)を調整し、それを含浸させた濾紙を用意した。その上から酸素透過性フィルム(三井化学社製ポリメチルペンテンフィルム、商品名:「オピュラン」X−44B、厚み25μm、酸素透過度0.47m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.010kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I4)を作製した。得られた酸素インジケーター(I4)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が0.005であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I4)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、実施例1と同様にして、得られた酸素インジケーター(I4)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%では薄く青緑色の着色が認められ、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素の存在を示した。実施例1と同様にして、該酸素インジケーター(I4)を5℃で保管し酸素有無の検知試験を行ったところ、5℃保管期間が10日間のものでも、測定環境が酸素濃度0.5%ではわずかに青緑色の着色が認められ、酸素濃度1%及び2%での青緑色の発色は薄く、酸素検知能力は作製直後と比較して明らかに劣っていた。
【0051】
[実施例4]
実施例1と同様の方法により、酵素溶液(X1)、ABTS母液、ポリビニルアルコール母液を調整した。これらABTS母液、ポリビニルアルコール母液、及び還元剤としてL−アスコルビン酸(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、事前に調製しておいた400mM酢酸緩衝液(pH=4.5)と共に蒸留水に溶解して、ABTSが8.0mg/mL、L−アスコルビン酸が8mM、ポリビニルアルコールが0.05wt%、酢酸緩衝液が100mMの基質溶液(Y2)を100mL調製した。これらの酵素溶液(X1)と基質溶液(Y2)を、各々逆止弁付き容器内にて大気に触れない状況下で窒素バブリングして溶存酸素濃度を0.00mg/L(メトラートレード社製溶存酸素計MO128で測定)とした後、各々マイクロポンプにより等量づつをミキサーに送液して、連続的に該酵素溶液(X1)と該基質溶液(Y2)を混合した酸素感応性溶液(Z2)を調製した。該酸素感応性溶液(Z2)を実施例1と同様に濾紙に含浸させ、その上から酸素透過性フィルム(旭化成ライフ&リビング社製ニ軸延伸ポリスチレンフィルム、商品名:「OPSフィルム」GM、厚み25μm、酸素透過度0.053m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.15kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I5)を作製した。得られた酸素インジケーター(I5)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が0.044であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I5)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、実施例1と同様にして、得られた酸素インジケーター(I5)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示した。実施例1と同様にして、該酸素インジケーター(I5)を5℃で保管し酸素有無の検知試験を行ったところ、5℃保管期間が40日間であれば、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、作製直後と比較して酸素検知能力に差は認められず、長期的な保存安定性が優れていることが判る。
【0052】
[実施例5]
酸化還元酵素としてアスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3、旭化成ファーマ社製、商品名:ASOM)を用いて、蒸留水に溶解して5mg/mLのアスコルビン酸オキシダーゼ母液を調製した。感度向上剤としてケン化度80mol%のポリビニルアルコール(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、蒸留水に溶解して1wt%のポリビニルアルコール母液を調製した。これらアスコルビン酸オキシダーゼ母液とポリビニルアルコール母液を用いて、事前に調製しておいた400mM酢酸緩衝液(pH=4.5、和光純薬工業社製試薬特級の酢酸と酢酸ナトリウムから調製)と共に蒸留水に溶解して、アスコルビン酸オキシダーゼが100μg/mL、ポリビニルアルコールが0.05wt%、酢酸緩衝液が100mMの酵素溶液(X2)を100mL調製した。次に、実施例4と同様の方法により基質溶液(Y2)を調整した。これらの酵素溶液(X2)と基質溶液(Y2)を、各々逆止弁付き容器内にて大気に触れない状況下で窒素バブリングして溶存酸素濃度を0.00mg/L(メトラートレード社製溶存酸素計MO128で測定)とした後、各々マイクロポンプにより等量づつをミキサーに送液して、連続的に該酵素溶液(X2)と該基質溶液(Y2)を混合した酸素感応性溶液(Z3)を調製した。該酸素感応性溶液(Z3)を実施例1と同様に濾紙に含浸させ、その上から酸素透過性フィルム(旭化成ライフ&リビング社製ニ軸延伸ポリスチレンフィルム、商品名:「OPSフィルム」GM、厚み25μm、酸素透過度0.053m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.15kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I6)を作製した。得られた酸素インジケーター(I6)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が0.020であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I6)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、実施例1と同様にして、得られた酸素インジケーター(I6)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示した。実施例1と同様にして、該酸素インジケーター(I6)を5℃で保管し酸素有無の検知試験を行ったところ、5℃保管期間が30日間であれば、測定環境が酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、作製直後と比較して酸素検知能力に差は認められず、長期的な保存安定性が優れていることが判る。
【0053】
[比較例2]
酸化還元酵素としてアスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3、旭化成ファーマ社製、商品名:ASOM)を用いて、蒸留水に溶解して5mg/mLのアスコルビン酸オキシダーゼ母液を調製した。感度向上剤としてケン化度80mol%のポリビニルアルコール(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、蒸留水に溶解して1wt%のポリビニルアルコール母液を調製した。これらアスコルビン酸オキシダーゼ母液とポリビニルアルコール母液を用いて、事前に調製しておいた400mM酢酸緩衝液(pH=4.5、和光純薬工業社製試薬特級の酢酸と酢酸ナトリウムから調製)と共に蒸留水に溶解して、アスコルビン酸オキシダーゼが40μg/mL、ポリビニルアルコールが0.05wt%、酢酸緩衝液が100mMの酵素溶液(X3)を100mL調製した。次に、実施例1と同様の方法により基質溶液(Y1)を調整した。これらの酵素溶液(X3)と基質溶液(Y1)を、各々逆止弁付き容器内にて大気に触れない状況下で窒素バブリングして溶存酸素濃度を0.00mg/L(メトラートレード社製溶存酸素計MO128で測定)とした後、各々マイクロポンプにより等量づつをミキサーに送液して、連続的に該酵素溶液(X2)と該基質溶液(Y1)を混合した酸素感応性溶液(Z4)を調製した。該酸素感応性溶液(Z4)を実施例1と同様に濾紙に含浸させ、その上から酸素透過性フィルム(旭化成ライフ&リビング社製ニ軸延伸ポリスチレンフィルム、商品名:「OPSフィルム」GM、厚み25μm、酸素透過度0.053m/(m・day・MPa)、水蒸気透過度0.15kg/(m・day))により該濾紙を覆い、酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープ(旭化成パックス社製アルミラミフィルム)により覆い、酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーター(I7)を作製した。得られた酸素インジケーター(I7)は、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)を上記測定方法に従って測定したところ、その比(A/B)が0.009であった。更に低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーター(I7)を、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋(旭化成パックス社製飛竜シリーズ規格袋)にて包装した。次いで、実施例1と同様にして、得られた酸素インジケーター(I7)を測定環境内で外側の酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋のみ破袋することによって酸素の有無を検知したところ、測定環境が酸素濃度0.5%でわずかに青緑色の着色が認められ、酸素濃度1%で青緑色に着色し、酸素の存在を示した。実施例1と同様にして、該酸素インジケーター(I7)を5℃で保管し酸素有無の検知試験を行ったところ、5℃保管期間が10日間のものであれば、測定環境が酸素濃度0.5%でわずかに青緑色の着色が認められ、酸素濃度1%で若干薄いものの青緑色に着色し、作製直後と比較して酸素検知能力に差は認めらなかった。しかし、5℃保管期間が20日間のものでは、酸素検知能力は作製直後と比較して明らかに劣っていた。
実施例、比較例の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の酸素インジケーターは、酸素の存在を忌避する包装の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の酸素インジケーターの製造例を示す概念斜視図とそのA−A’断面図。
【図2】本発明の酸素インジケーターの製造例を示す概念斜視図とそのB−B’断面図。
【図3】本発明の酸素インジケーターの製造例を示す概念斜視図とそのC−C’断面図。
【図4】図3に例示した本発明の酸素インジケーターの使用例を示す概念斜視図とそのD−D’断面図。
【符号の説明】
【0057】
1 酸素感応性溶液
2 酸素透過性フィルムで作製した袋
3 酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋
4 多孔性成形品、不織布のような枚様体、結晶性セルロースや無機粒子等を用いた打錠成型品、ゼラチンや寒天等のゲル、吸水性濾紙などの小片
5 片面に粘着層を有する酸素ガスバリア性粘着ラベル
6 酸素透過性フィルム
7 酸素ガスバリア性テープ
8 容器フタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化還元酵素と発色性基質を含む酸素感応性溶液が、酸素透過性フィルムにより覆われている構造の酸素インジケーターであって、酸素感応性溶液の発色速度(A)と酸素透過性フィルムの酸素透過速度(B)との比(A/B)が0.02以上30以下であることを特徴とする酸素インジケーター。
【請求項2】
前記酸素透過性フィルムの酸素透過度(m/(m・day・MPa))が0.0005以上0.1以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸素インジケーター。
【請求項3】
前記酸素感応性溶液が、還元剤、酸素と反応する化合物、酸素を吸着する化合物のうちから選ばれる少なくとも一種、或いは二種以上を更に含有することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載の酸素インジケーター。
【請求項4】
前記酸素透過性フィルムの水蒸気透過度が0.1kg/(m・day)以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸素インジケーター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−61067(P2006−61067A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247112(P2004−247112)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(303046266)旭化成ライフ&リビング株式会社 (64)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】