説明

酸素分離膜エレメント、その製造方法、酸素製造方法、および反応器

【課題】 酸素透過速度が一層高い酸素分離膜エレメント、その製造方法、およびこれを利用した効率の良い酸素製造方法や反応器を提供する。
【解決手段】 触媒層18,20が転写によって均一膜厚で形成されるため、膜厚を厚くしてもクラックや剥離等が生じ難いため、担持厚を増大させることにより、酸素透過速度の一層高い酸素分離膜エレメント10が得られる。しかも、転写により形成された触媒層18,20は、触媒粒子21が均一に配列され且つ密に並ぶことから、スラリー等の直接塗布により形成された触媒層50,52に比較して、同じ膜厚でも担持量が多くなるので高い酸素透過速度が得られる利点がある。また、CVD法等のように担持工程が多くなる不都合がなく、直接印刷のように、触媒層18,20を形成しようとする酸素分離膜の形状や大きさに応じて印刷機、印刷版やペースト調合等の印刷条件を変更する必要もない利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を選択的に透過させるための酸素分離膜エレメント、その製造方法、およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導性を有する緻密な酸素分離膜を備え、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から分離するための酸素分離膜エレメントが知られている。このような酸素分離膜エレメントによれば、酸素を含む気体から容易に酸素を分離することができるため、これを利用することにより、例えば、深冷分離法やPSA(圧力変動吸着)法等に代わる安価な酸素製造法を提供し得る。特に、電子−酸素イオン混合伝導体で酸素分離膜を構成したものでは、その酸素分離膜自体が電子伝導性を有することから、一面および他面を短絡させるための外部電極や外部回路が無用となると共に、両面の電位差によって酸素イオンの移動速度が高められて高い酸素透過速度が得られる利点がある(例えば特許文献1,2等参照)。
【0003】
上記酸素分離膜エレメントにおいて、酸素分離膜の酸素解離側の一面および酸素再結合側の他面の少なくとも一方、望ましくは両方には触媒層が形成されることにより、酸素分離速度を高めることが行われている。酸素解離側には酸素の解離およびイオン化を促進するための解離触媒層が設けられ、酸素再結合側には再結合を促進するための再結合触媒層が設けられる。これにより、酸素の解離速度およびイオン化速度(以下、まとめてイオン化速度という)或いは再結合速度が高められ、延いては酸素分離速度が高められるのである。
【0004】
また、上記のような酸素分離膜エレメントは、炭化水素の部分酸化反応等の酸化用反応装置の反応器として利用し得る。例えば、酸素分離膜の他面側にメタン(CH4)等の炭化水素を含む気体を供給すれば、透過した酸素イオンによってその炭化水素を酸化させることができる。そのため、GTL(Gas to Liquid:天然ガスから化学反応により液体燃料を合成する技術)や、燃料電池用水素ガスの製造等に利用できるのである。なお、このような利用形態においても、触媒層を設けたり、電子−酸素イオン混合伝導体を用いて酸素透過速度を高めれば、反応が促進される。
【特許文献1】特開2003−190792号公報
【特許文献2】特開2003−225567号公報
【特許文献3】特開2003−092113号公報
【特許文献4】特開2003−151878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような触媒層は、従来、触媒粉末を溶剤等と混合したスラリーやペーストを調製し、酸素分離膜上にディップコート或いは印刷することによって形成されていた。しかしながら、気体や酸素イオンとの接触機会を多くして酸素透過速度を高めるためには、触媒層を可及的に厚くすることが望まれるにも拘わらず、これらの形成方法では十分に厚くすることが困難であった。
【0006】
例えば、ディップコートによる場合では、厚くなるほど厚みがばらつき易くなるため、乾燥および焼成過程で溶剤やバインダーが揮発し或いは除去される際の収縮ばらつきが生じ得る。また、一般に、酸素分離膜の触媒粒子は、平均粒径が数(μm)すなわち1〜10(好適には2〜5)(μm)程度の範囲内の微粒子が用いられることから粒子の比表面積が大きくなるため、触媒層密度が低くなり延いては層内に粒界部が多くなる。そのため、例えば30(μm)以上の膜厚になると乾燥・焼成時にクラックや剥離が生じ易くなるのである。そこで、一回に形成する膜厚を薄くして多層化することも行われているが、触媒層は焼成しても完全な緻密体とはならないため、層間に不均一な界面が生じ易く、界面における剥離が生じ易い不都合がある。すなわち、ディップコートによって前記特許文献1,2に記載されているような0.1(mm)以上の厚い触媒層を得ることは困難である。また、酸素分離膜が長尺円筒状等に構成される場合には、塗布後の乾燥状態が不均一になり易く、部位による膜厚差が生じてクラックや剥離が一層生じ易くなる問題もある。
【0007】
一方、印刷による場合には、平坦面への印刷であれば、ディップコートに比較すると膜厚の均一性を得やすい。しかしながら、適切な印刷を行うためには、触媒層を形成しようとする酸素分離膜の形状や大きさに応じて印刷機、印刷版やペースト調合等の印刷条件を変更する必要があって、膜厚が厚くなるほど印刷条件の適切な範囲も狭くなる。そのため、製造工程の管理が著しく煩雑になり、延いては多品種に亘る最適化すなわち膜厚の均一性を確保することが困難である。また、例えば、酸素分離膜が円筒状等に構成される場合のように触媒層の形成面が曲面である場合には、印刷法を用いて均一膜厚でペーストを塗布することは困難である。したがって、何れにしても、ディップコートの場合と同様にクラックや剥離が生じ易い問題があった。なお、触媒層の形成方法としては、CVD(化学蒸着)法、電気泳動法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等も提案されているが、組成制御が困難であると共に酸素分離膜形状が限定され、しかも、工程が多くなる等の問題があるため実用化は成されていない。
【0008】
そこで、本発明者等は、一層高い酸素透過速度を得ることを目的として、上記従来方法に代わる触媒層形成方法を開発すべく鋭意研究を重ねたところ、意外にも転写によって形成した触媒層が著しく高い特性を有することを見出した。因みに、前記特許文献3,4には、固体電解質型燃料電池において燃料極膜やその中の電子導電層を転写によって設けることが記載されている。これらは固体電解質と燃料極膜との密着性を高めることを目的とするものに過ぎず、酸素分離膜への適用可能性を示唆するものでは無く、まして、適用した場合にどのような酸素透過特性が得られるかについての知見を与えるものではない。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づいて為されたものであって、その目的は、酸素透過速度が一層高い酸素分離膜エレメント、その製造方法、およびこれを利用した効率の良い酸素製造方法や反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するための第1発明の酸素分離膜エレメントの製造方法の要旨とするところは、酸素イオン伝導性を有する緻密な酸素分離膜を備えると共に、その酸素解離側の一面および酸素再結合側の他面の少なくとも一方に触媒層を備え、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から分離するための酸素分離膜エレメントを製造する方法であって、(a)所定の台紙上に設けられた触媒粒子層を前記酸素分離膜に転写することにより前記触媒層を形成することにある。
【0011】
また、前記目的を達成するための第2発明の酸素分離膜エレメントの要旨とするところは、酸素イオン伝導性を有する緻密な酸素分離膜を備えると共に、その酸素解離側の一面および酸素再結合側の他面の少なくとも一方に触媒層を備え、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から分離するための酸素分離膜エレメントであって、(a)前記触媒層が転写により形成されたことにある。
【0012】
また、第3発明の酸素製造方法の要旨とするところは、前記第2発明の酸素分離膜エレメントを用い、酸素を含む原料気体をその一面側に供給すると共に、その原料気体から分離された酸素をその他面側から回収することにある。
【0013】
また、第4発明の反応器の要旨とするところは、(a)前記第2発明の酸素分離膜エレメントと、(b)その酸素分離膜エレメントの一面側に酸素を含む気体を供給するための第1気体供給路と、(c)その他面側に所定の化合物を含む気体を供給するための第2気体供給路と、(d)その他面側において酸素と前記所定の化合物との反応により生成された気体を回収するための気体回収路とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0014】
前記第1発明および第2発明によれば、触媒層が転写によって均一膜厚で形成されるため、膜厚を厚くしてもクラックや剥離等が生じ難い。そのため、所望とする特性に応じて触媒層の膜厚を増大させることにより、酸素透過速度の一層高い酸素分離膜エレメントが得られる。しかも、転写により形成された触媒層は、スラリー等の直接塗布により形成されたものに比較して、同じ膜厚でも高い酸素透過速度が得られると共に、大面積化が容易、被担持面の形状すなわち酸素分離膜の形状が自由、触媒層のパターニングが容易等の種々の利点があり、また、CVD(化学蒸着)法等のように担持工程が多くなる不都合もない。また、直接印刷の場合のように、触媒層を形成しようとする酸素分離膜の形状や大きさに応じて印刷機、印刷版やペースト調合等の印刷条件を変更する必要もなく、例えば、十分に大きい一定の面積の転写紙を製造して、これから適宜の大きさに切って使用することもできる。上記のように直接塗布に比較して酸素透過速度が高められるのは、転写による場合の方が触媒粒子が均一に配列されることに基づく。配列の均一性が高いほど、粒子相互間の空隙が少なくなることから、同一の膜厚であっても担持量が多くなるので、延いては酸素分離膜表面との接触面積が大きくなって酸素透過速度が高められるのである。なお、前記「所定の台紙」は、離型層や触媒粒子層等の転写紙の構成材料を塗着して一時的に固定できるものであれば足り、本願においては、紙の他、PETフィルム等の樹脂材料等も含まれる。
【0015】
因みに、酸素分離膜エレメントでは、緻密な酸素分離膜上に触媒層が形成されることから、ディップコートによる膜形成では、スラリー中の溶剤成分がその酸素分離膜に殆ど吸い込まれない。そのため、コートされたスラリーは、流動性を保ったままその粘性によって酸素分離膜表面に付着した状態になることから、スラリー自体が重力に従って流動すると共に、触媒粒子もスラリー中で重力に従って流動する。したがって、ディップコートでは膜厚が不均一になるだけでなく、触媒粒子の配列も不均一になるのである。これに対して、転写による触媒担持では、触媒層や触媒粒子の流動が生じ得ないため、膜厚や触媒粒子の配列が均一になる。
【0016】
また、前記第2発明によれば、上記のような酸素分離膜エレメントの一面側に酸素を含む原料気体を供給すると、その中の酸素が選択的にイオン化されて酸素分離膜を透過させられ、他面側で再結合して回収されることから、原料気体中の酸素が効率よく分離されるので、安価で高効率に酸素を製造することができる。
【0017】
また、前記第3発明によれば、上記のような酸素分離膜エレメントが備えられると共に、第1気体供給路からその一面側に酸素を含む気体が、第2気体供給路からその他面側に所定の化合物を含む気体がそれぞれ供給され、酸素とその所定の化合物との反応により生成された気体が気体回収路から回収される。そのため、酸素のイオン化速度或いは再結合速度が高められることにより、酸素透過速度が高められることから、他面側に供給される気体中の所定の化合物との反応効率が高められるので、高効率の反応器が得られる。
【0018】
なお、本発明において「緻密な酸素分離膜」とは、酸素透過膜エレメントの使用時において、酸素分離膜が曝される雰囲気中の気体分子をそのまま厚み方向に透過させない組織を酸素分離膜が有していることを意味するものである。すなわち、ここにいう緻密性は一義的に定められるものではなく、予定されている使用態様において上述した特性を有していれば足りる。
【0019】
ここで、好適には、前記触媒層は、一方向に沿って一定の中心間隔で並ぶ多数の突起を表面に有するものである。このようにすれば、その突起により規則的な凹凸が触媒層の表面に備えられることから、その表面積すなわちその触媒層が設けられている一面或いは他面における気体と触媒層との接触面積が増大させられるが、特に、規則的な凹凸であることから、その表面積は、大きさや配列方向の不規則な突起が設けられる場合に比較して著しく大きくなる。したがって、触媒層の膜厚が増大させられていることに加えて、その表面積の増大量に応じてイオン化速度または再結合速度が高められるので、両者のうち少なくとも律速因子となるものの速度が高められるように突起形成面を一方或いは両方に定めると共に、その大きさや相互間隔等を上記各速度および酸素分離膜内におけるイオン輸送速度等相互のバランスを考慮して定めることにより、酸素透過速度を高めることができる。なお、上記のような突起が設けられている場合には、酸素分離膜上における触媒層の厚さ寸法が不均一になる。しかしながら、転写により形成される膜は、転写紙上で既に溶剤が揮発させられていることから乾燥時および焼成時における収縮が抑制されるため、クラック等を生じさせること無く凹凸を設けることが容易である。
【0020】
例えば、多数の突起が前記一面側に設けられた場合においては、従来に比較して解離触媒層表面と酸素を含む気体との接触面積が著しく増大するので、酸素のイオン化速度が著しく高められる。また、多数の突起が前記他面側に設けられた場合においては、再結合触媒層の面積すなわち酸素の再結合が行われる面積が著しく増大するので、酸素イオンの再結合速度が著しく高められる。すなわち、一面および他面の何れにおいても、一様な大きさの多数の突起が規則的に配列形成されることによって反応が促進される。また、酸素透過速度等の向上効果は、規則的な突起が設けられることによりその触媒層表面に向かって供給される気体はその全面において一様な流通抵抗を受け、且つ、規則的な凹凸により形成された真っ直ぐな溝に沿って一方向に流れることによって、酸素分離膜の表面近傍において一様な流通速度が得られると共に整流効果が得られるためでもあると考えられる。すなわち、酸素分離膜エレメントの一面或いは他面に向かって供給された気体がその全体に一様に接触させられることからその表面全体が有効に利用されることにより、効率が高められるものと推定される。
【0021】
また、好適には、前記多数の突起は、前記第1方向および前記第2方向の少なくとも一方に沿った断面が矩形を成すものである。すなわち、多数の突起間には断面形状が矩形の溝が備えられる。突起の形状は全面で略一様な大きさおよび形状で設けられている限りにおいて任意に定めることができ、例えば、平面視において菱形、三角形、六角形、円形等、種々の形状としてもよく、また、突起間に断面が長半円或いは半円形状の溝が形成されるものであってもよいが、このようにすれば、断面形状が波打ち形状すなわち突起の側面がなだらかに傾斜する形状に構成されている場合に比較して、酸素分離膜エレメントの表面積を一層大きくすることができる。上記多数の突起は、一層好適には平面視において矩形を成すものであり、更に好適には正方形を成すものである。
【0022】
また、好適には、前記触媒層は、100(μm)以上の厚さ寸法を備えたものである。このようにすれば、触媒層が十分に厚くされているので、一層高い酸素透過速度が得られる。因みに、本発明者等が転写により形成した触媒層の厚さ寸法と酸素透過速度との関係を評価したところ、比較的薄い触媒層厚みでは、厚さ寸法が増加するに従って透過速度が著しく高められる傾向が認められたが、この傾向は100(μm)程度で略飽和し、少なくとも300(μm)程度までの範囲では、100(μm)の場合と同程度の透過速度が維持されることが確かめられた。
【0023】
また、好適には、前記酸素分離膜は、酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する混合伝導体である。このようにすれば、その一面と他面とを短絡させるための外部電極や外部回路等を用いること無くそれらの間で連続的に酸素イオンを透過させ得ると共に、酸素イオンの移動速度が高められるので酸素透過速度が一層高められる利点がある。
【0024】
また、好適には、前記酸素分離膜は、一般式Ln1-xAexMO3(但し、Lnはランタノイド、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、MはFe、Mn、Ga、Ti、Co、Zr、Ce、Mg、Ge、Zn、Cu、Sc、V、Cr、Ni、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Sb、Pb、Bi、Po、Al、In、Snのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、0≦x≦1)で表される複合化合物、ZrO2系酸化物、CeO2系酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せから成るものである。これらの化合物は何れも緻密であると共に、高い酸素の透過速度を有するため、本発明の酸素分離膜材料として好適である。
【0025】
また、好適には、前記酸素分離膜は、Ce2-xZrxO4-σ(但し、0<x<2、0≦σ≦4)、CeGd酸化物、CeSm酸化物、Ba(CaNb)2酸化物、BiVCu酸化物、ZrO2系酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せから成るものである。これらの化合物も、緻密であり且つ高い酸素の透過速度を有するため好適である。特に、Ce系材料によれば、還元雰囲気における酸素イオンの動きが大きくなることが予測される。一層好適には、上記酸素分離膜は、MgO、Al2O3、Y2O3のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せを含む材料から成るものである。これらの材料から成る膜は、比較的高い強度を有する利点がある。
【0026】
また、好適には、前記酸素分離膜は、電子伝導性を有する金属または金属酸化物を含む材料から成るものである。このようにすれば、それら金属または金属酸化物によって酸素分離膜に電子伝導性が付与され、或いはその電子伝導性が一層高められるので、酸素イオンの透過速度が一層高められ、延いては透過速度が高められる利点がある。
【0027】
また、好適には、前記酸素分離膜は、多孔質支持体上にその一面全体を覆って備えられたものである。この多孔質支持体は、酸素分離膜の一面側および他面側の何れに位置させられても良い。このようにすれば、多孔質支持体は、その内部を気体が容易に通過させられるので、適当な厚さ寸法に構成することにより、酸素透過速度に影響を与えることなく酸素分離膜エレメントの機械的強度を高め得る。しかも、酸素分離膜エレメントの機械的強度が多孔質支持体で確保されることから、酸素分離膜の厚さ寸法を酸素透過速度が膜厚で律速されない程度まで薄くすることが可能となるため、その表面積を増大させることによる透過速度向上効果が一層顕著に得られる。なお、このような多孔質支持体が備えられる場合において、更に解離触媒層または再結合触媒層が設けられる場合には、一方が酸素分離膜の表面に、他方が酸素分離膜と多孔質支持体との間にそれぞれ設けられてもよいが、その他方は、多孔質支持体の表面に、好適にはこれに浸透させられた状態で設けられても良い。
【0028】
なお、上記態様において「一面全体を覆って」とは、酸素分離膜エレメントの使用時において、多孔質支持体の一面が酸素分離膜のその多孔質支持体とは反対側に位置する面と同一空間内に曝されないことを意味するものである。例えば、非使用状態において酸素分離膜が設けられた多孔質支持体の一面が部分的に露出させられていても、その部分が使用時に装置等によって覆われるものであれば、そのような態様も上記「一面全体を覆って」に含まれる。
【0029】
また、好適には、前記多孔質支持体は、一般式Ln1-xAexMO3(但し、Lnはランタノイド、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、MはFe、Mn、Ga、Ti、Co、Zr、Ce、Mg、Ge、Zn、Cu、Sc、V、Cr、Ni、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Sb、Pb、Bi、Po、Al、In、Snのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、0≦x≦1)で表される複合化合物、ZrO2系酸化物、CeO2系酸化物、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せから成るものである。多孔質支持体の材質は特に限定されないが、このようにすれば、膜材料との熱膨張差が少なくなり、膜剥離等が一層抑制される。
【0030】
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、同材料から成るものである。このようにすれば、両者の熱膨張係数が一致することから、製造工程や使用時に加熱或いは冷却された場合にも、熱膨張量の相違に起因して破損することが好適に抑制される。
【0031】
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、相互に異なる組成の材料から成るものである。酸素分離膜エレメント全体の強度は支持体によって確保する必要があることから、支持体と酸素分離膜とは求められる特性が相違するため、例えば要求される強度が比較的高い場合には、酸素分離膜と支持体とを相互に異なる材料で構成することが望ましい。また、膜側のみが還元雰囲気となる場合(例えばCH4を流す場合等)では酸素分離膜が還元膨張することがあるので、このような場合には相互に異なる材料で構成して支持体の熱膨張を相対的に大きくすることが好ましい。
【0032】
また、好適には、前記多孔質支持体は、平均細孔径rが0.1<r<20(μm)の範囲内、気孔率pが5<p<60(%)の範囲内である。酸素透過速度の低下を抑制し且つ酸素分離膜エレメントの強度を可及的に高めるためには、この範囲内が好ましい。細孔径および気孔径が小さくなり過ぎると、多孔質支持体のガス透過抵抗が大きくなることから、酸素分離膜を薄くしてもこの多孔質支持体が律速因子になるため、酸素透過速度が著しく低下する。一方、細孔径および気孔径が大きくなり過ぎると、機械的強度が低下して支持体としての機能が失われる。
【0033】
また、好適には、前記多数の突起は、高さ寸法が5乃至1000(μm)の範囲内、中心間隔が5乃至1000(μm)の範囲内の微細突起である。突起の強度を保ち且つ気体の整流性を妨げないためには、このような大きさとすることが好ましい。一層好適には、高さ寸法は10乃至500(μm)の範囲内、中心間隔は10乃至500(μm)の範囲内である。例えば、高さ寸法は100(μm)程度、中心間隔(ピッチ)は150(μm)程度が好ましい。
【0034】
また、好適には、前記解離触媒層は、La-Sr-Co系酸化物、La-Sr-Mn系酸化物、白金系元素である。一層好適には、LaxSr1-xCoO3(0<x<1、好適にはx=0.6)から成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の一面側に供給された気体中の酸素が好適にイオン化され、これを透過して他面側に導かれる。なお、触媒層は、上記材料の他、SmxSrCoO3(0<x<1、好適にはx=0.5)、La1-xSrxMnO3(0<x<1、好適にはx=0.15)、La1-xSrxCo1-yFeyO3(0<x<1、0<y<1、好適にはx=0.9、y=0.1)等も好適に用いられる。なお、解離触媒層は、酸素分離膜と同じ材料で構成することもでき、その場合には、その酸素分離膜の一部で解離触媒層を構成し得る。
【0035】
また、好適には、前記再結合触媒層は、Ni、Co、Ru、Rh、Pt、Pd、Ir等を含むものである。好適には、NiOが還元されることにより形成されたNiから成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の他面側に導かれた酸素イオンが好適に再結合させられ、その他面側から酸素が回収される。また、解離触媒層および再結合触媒層が上述したような何れの材料で構成される場合にも、酸素は粒界または粒内を透過し得るため、多孔質はもちろん緻密質の触媒層を形成し得る。
【0036】
また、好適には、前記酸素分離膜は、前記多孔質支持体が備えられていない態様においては、50乃至5000(μm)の範囲内の厚さ寸法を備えたものであり、前記多孔質支持体が備えられた態様においては1000(μm)以下の厚さ寸法を備えたものである。このようにすれば、酸素分離膜エレメントの機械的強度を確保できる範囲で酸素分離膜の膜厚が十分に薄くされていることから、これが酸素透過速度を律速することが好適に抑制され、高い酸素透過速度を得ることが容易になる。多孔質支持体を備えていない場合には、酸素分離膜自体が十分な機械的強度を有することが必要であるので上記厚さ寸法以上であることが必要であるが、多孔質支持体を備えている場合には、酸素分離膜自体の機械的強度は要求されないため、可及的に薄くすることが望ましいのである。なお、酸素分離膜はその緻密性が保たれる範囲であれば厚さ寸法の下限は特にない。
【0037】
また、前記酸素分離膜エレメントは、前述した酸素製造や炭化水素の部分酸化反応等の他、一面側にNOxを供給することにより、その還元にも用いることができる。
【0038】
また、好適には、前記酸素分離膜は全体が平坦な板状を成すものである。また、触媒層が備えられた態様においては、その一面に前記解離触媒層が、他面に前記再結合触媒層がそれぞれ備えられたものである。このような形状であれば、その一面および他面に前記微細突起を形成することが容易である。このような板状の酸素分離膜が多孔質支持体上に備えられ且つ触媒層が備えられた態様では、別途形成された酸素分離膜の両面に触媒層が設けられた後、多孔質支持体に固着され、或いは、多孔質支持体上に一方の触媒層、酸素分離膜、および他方の触媒層が順次に形成されることによって酸素分離膜エレメントが製造される。上記平坦な板状としては、円板状、矩形板状等が挙げられる。
【0039】
また、好適には、前記酸素分離膜は一端が閉じた筒状を成すものであり、触媒層が備えられる態様においては、その内周面および外周面の一方が前記解離触媒層が備えられた前記一面に相当し、他方が前記再結合触媒層が備えられた前記他面に相当するものである。酸素分離膜は、平坦なものに限られず、このような立体的なものであっても良い。なお、内周面側に気体の供給される態様では、例えば、筒状の酸素分離膜の内側に気体導入管を挿入し、その先端から気体を供給すればよい。
【0040】
また、好適には、前記多孔質支持体は一端が閉じた筒状を成し、前記酸素分離膜、または前記二種の触媒層および酸素分離膜はその内周面または外周面に順次に積層されることによって設けられたものである。このようにすれば、酸素分離膜エレメントが筒状を成す態様においても多孔質支持体によってその機械的強度を確保することができる。
【0041】
また、好適には、前記酸素分離膜エレメントは、(a)前記酸素分離膜の構成材料を含むスラリー中に別途製造した前記多孔質支持体を浸漬(ディップ)してその表面に分離膜泥漿層を形成する浸漬工程と、(b)その分離膜泥漿層を所定温度で焼成して前記多孔質支持体上で焼結させることにより前記酸素分離膜を形成する焼成工程と、(c)その酸素分離膜の表面に触媒層の構成材料が塗着された転写紙を貼り付けて焼成処理を施すことにより触媒層をその酸素分離膜の表面に形成する転写工程とを、含む工程により製造される。このようにすれば、転写紙を酸素分離膜に貼り付けて焼成することによって触媒層が形成されることから、一様な所望の厚さ寸法の触媒層を容易に形成することができる。上記酸素分離膜を形成するためのスラリーは、上記構成材料の他に、水等の溶媒、バインダー、分散剤等を含むものである。
【0042】
なお、上記浸漬工程は、所定の厚さの泥漿層が形成されるまで適当な回数だけ繰り返し実施することができる。また、上記酸素分離膜を形成するに際しては、焼成処理を施す前に必要に応じて乾燥処理が施される。この乾燥処理は、例えば浸漬工程と交互に或いは随時に繰り返し実施されても良い。
【0043】
また、好適には、前記転写紙は、(a)所定の台紙上に離型層を形成する工程と、(b)乾燥後、その離型層上に触媒粒子層を形成する工程と、(c)乾燥後、その触媒粒子層上に被覆層を形成する工程とを、含む工程により製造され、その転写紙から台紙を剥離して前記酸素分離膜に貼り付けられる。各層の形成には、好適には、スクリーン印刷法が用いられるが、ドクターブレード法やオフセット印刷法等で形成することもできる。
【0044】
上記離型層は、水等に容易に溶解し得る適宜の有機化合物で構成し得るが、例えば、デキストリンを水に溶解した溶液を前記台紙上に引き伸ばし乾燥させて形成される。この場合、溶液の濃度は例えば5〜40(wt%)である。
【0045】
上記触媒粒子層は、好適には、前記触媒層を構成する触媒粒子、バインダー、可塑剤、分散剤、および溶剤を混合したペーストを前記離型層上に塗布し、乾燥することにより形成される。ペーストは、好適には、触媒粒子を100重量部に対し、バインダーを1〜30重量部、可塑剤を1〜10重量部、分散剤を0.01〜5重量部、溶剤を10〜60重量部の割合で混合することにより調製される。また、混合には、好適には、ローラー式混練機が用いられる。
【0046】
また、上記溶剤は、一般的な転写紙に用いられる種々のものから適宜のものを用いることができるが、例えば、トルエン、アルコール、キシレン等の有機溶剤や、水系の溶剤が好適に用いられる。
【0047】
また、上記バインダーは、溶剤の種類等に応じ、一般的な転写紙に用いられる種々のものから適宜のものを用いることができるが、溶剤が上記のような有機溶剤である場合には、例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、メタクリル酸エステル重合体、ポリアクリル酸エステル、レジン系バインダー、セルロース系バインダー等が好適に用いられる。また、水系溶剤の場合には、アクリル系ポリマー、水性ウレタン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ワックスエマルジョン等が好適に用いられる。
【0048】
また、上記可塑剤は、溶剤の種類等に応じ、一般的な転写紙に用いられる種々のものから適宜のものを用いることができるが、溶剤が上記のような有機溶剤である場合には、例えば、ジブチルフタレート、ジメチルフタレート、ブチルステアレート、フタル酸エステル、ポリエチレングリコール等が好適に用いられる。また、水系溶剤の場合には、グリセリン、ジブチルフタレート、ポリアルキルグリコール、トリエチレングリコール、ポリオール等が好適に用いられる。
【0049】
また、上記分散剤は、溶剤の種類等に応じ、一般的な転写紙に用いられる種々のものから適宜のものを用いることができるが、溶剤が上記のような有機溶剤である場合には、例えば、脂肪酸、合成界面活性剤等が好適に用いられる。また、水系溶剤の場合には、リン酸塩、アリルスルホン酸等が好適に用いられる。
【0050】
また、前記被覆層は、好適には、アクリル樹脂やメタクリル酸等の樹脂を適当な有機溶剤に溶解した溶液若しくはペーストを前記触媒粒子層上に塗布し、乾燥することにより形成される。樹脂の濃度は、好適には、5〜40(wt%)程度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0052】
図1は、本発明の一実施例の酸素分離膜エレメント10を示す斜視図であり、図2は、その断面構造の要部を拡大して示す図である。これら図1、図2において、酸素分離膜エレメント10は、20(mm)程度の直径を備えて全体が薄板円板状を成すものであり、その厚み方向の中間部分を構成する酸素分離膜12と、その表面14および裏面16にそれぞれ備えられた酸素解離触媒層18および酸素再結合触媒層20とから構成されている。
【0053】
上記の酸素分離膜12は、例えばLa0.7Sr0.3Ga0.6Fe0.4O3或いはLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3等のランタン系ペロブスカイトから成り、厚さ寸法が0.5(mm)程度の円板状を成すものである。このランタン系ペロブスカイトは、酸素イオン伝導性および電子伝導性を共に有する混合伝導性セラミックスである。そのため、緻密質でありながら、その表面14または裏面16に接した酸素をイオン化して例えば表面14から裏面16に向かって透過させることができる。
【0054】
また、前記酸素解離触媒層18は、例えばLa0.6Sr0.4CoO3から成る多孔質層であって、例えば100(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て表面14の略全面に形成されている。この解離触媒層18は、表面14における酸素の解離およびイオン化を促進するために設けられたものである。
【0055】
また、前記酸素再結合触媒層20は、例えばNiOから成る多孔質層であって、例えば100(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て裏面16の略全面に形成されている。この再結合触媒層24は、裏面16における酸素イオンの再結合を促進するために設けられたものである。これら解離触媒層18および再結合触媒層20は、例えば、表面14および裏面16の何れにおいても、酸素分離膜12の外周縁部の例えば1(mm)程度の幅寸法の円環状領域よりも内周側に設けられており、その円環状領域では酸素分離膜12が露出させられている。また、触媒層18,20は、前者について図3に拡大して模式的に示すように、触媒粒子21が高い均一性を以て配列されたものである。そのため、触媒層18,20内では触媒粒子21相互間の空隙が極めて少なく且つ比較的密に存在しており、厚さ寸法の割に多い担持量となっていると共に、触媒粒子21と酸素分離膜12表面との接触面積が大きくなっている。
【0056】
図4は、上記の酸素分離膜エレメント10の製造方法を説明するための工程図である。図4において、造粒工程P1では、例えば平均粒径が1(μm)程度の市販のLa0.7Sr0.3Ga0.6Fe0.4O3或いはLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3粉末、水、バインダー、および分散剤と混合してスラリーを作成し、例えばスプレー・ドライヤーを用いて60(μm)程度の平均粒径の原料粉末を噴霧造粒する。次いで、加圧成形工程P2では、造粒した原料粉末を例えば100(MPa)程度の圧力でプレス成形して、例えば直径が25(mm)程度で、厚さ寸法が3(mm)程度の円板状の成形体を得る。なお、上記成形体寸法は前記寸法の酸素分離膜12が得られるように焼成収縮や研磨代を考慮して定めた値である。次いで、焼成工程P3では、その成形体を例えば大気中において200〜500(℃)程度の温度で10時間程度保持して有機物を分解除去した後、更に大気中において1500(℃)程度の温度で3時間程度保持することにより、この成形体を焼成する。厚み研磨工程P4においては、このようにして得られた緻密な焼結体に平面研削盤等を用いて機械研磨加工を施し、例えば0.5(mm)程度の厚さ寸法の平板状の膜すなわち前記酸素分離膜12が得られる。
【0057】
一方、ペースト調製工程PP1では、後述する離型層28、触媒粒子層26、および被覆層24を形成するための溶液或いはペーストをそれぞれ調製する。離型層用溶液は、例えば市販のデキストリンを水に溶解させて、例えば5〜40(wt%)程度の濃度の溶液とすることにより調製される。
【0058】
また、触媒粒子層用ペーストは、100重量部の触媒粒子、1〜30重量部のバインダー、1〜10重量部の可塑剤、0.01〜5重量部の分散剤、および10〜60重量部の溶剤を、例えばローラー式混練機等を用いて混合してペースト状とすることにより調製される。触媒粒子層用ペーストは、前記酸素解離触媒層18を形成するためのものおよび前記酸素再結合触媒層20を形成するためのものをそれぞれ用意する。酸素解離触媒層18を構成するための触媒粒子は、例えば平均粒径が2(μm)程度のLa0.6Sr0.4CoO3粉末が用いられ、また、酸素再結合触媒層20を構成するための触媒粒子は、例えば平均粒径が7(μm)程度のNiO粉末が用いられる。これらは何れも市販の適宜のものを用い得る。
【0059】
また、上記溶剤は、例えばトルエン、アルコール、キシレン等の有機溶剤や水等を用い得る。有機溶剤が用いられる場合には、バインダーとして、例えばポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、メタクリル酸エステル重合体、ポリアクリル酸エステル、レジン系バインダー、セルロース系バインダー等が用いられ、可塑剤として、例えばジブチルフタレート、ジメチルフタレート、ブチルステアレート、フタル酸エステル、ポリエチレングリコール等が用いられ、分散剤として、例えば脂肪酸、合成界面活性剤等が用いられる。
【0060】
また、溶剤として水が用いられる場合には、バインダーとして、例えばアクリル系ポリマー、水性ウレタン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ワックスエマルジョン等が用いられ、可塑剤として、例えばグリセリン、ジブチルフタレート、ポリアルキルグリコール、トリエチレングリコール、ポリオール等が用いられ、分散剤としては、例えばリン酸塩、アリルスルホン酸等が用いられる。
【0061】
また、被覆層用ペースト(或いは溶液)は、例えばアクリル樹脂やメタクリル酸等を有機溶剤に例えば5〜40(wt%)の濃度で溶解してペースト或いは溶液とすることにより調製される。
【0062】
次いで、塗布工程PP2では、紙やPETフィルム等から成る台紙上に、上記離型層用溶液、触媒粒子層用ペースト、および被覆層用ペーストを順次に塗布する。これにより、台紙上に離型層28、触媒粒子層26、および被覆層24が積層された酸素解離触媒層18用および酸素再結合触媒層20用の転写紙22(後述する図5参照)がそれぞれ得られる。離型層28は、例えば台紙上に離型層用溶液を塗布して引き伸ばし、乾燥することにより形成される。また、触媒粒子層26は、その離型層28上に触媒粒子層用ペーストを例えばスクリーン印刷機で塗布し、乾燥することにより形成される。また、被覆層24は、その触媒粒子層26上に被覆層用ペーストを例えばスクリーン印刷で塗布し、乾燥することにより形成される。なお、触媒粒子層26の厚さ寸法は、前述した触媒層18,20の厚さ寸法が得られるように、それぞれの焼成収縮を考慮して定められる。また、塗布方法は上記のものに限られず、例えば、ドクターブレード法やオフセット印刷法等を用いてもよい。本実施例においては、これらペースト調製工程PP1および塗布工程PP2が転写紙製造工程に対応する。
【0063】
次いで、剥離工程PP3では、上記のようにして製造した転写紙22に例えば水を滴下して台紙を剥離し、次いで、触媒層転写工程P5において、図5に示されるように、その台紙が剥離された転写紙22すなわち層状体を前記の酸素分離膜12の表面14および裏面16に貼り付ける。図5(a)は酸素分離膜12を、(b)は表面14に転写紙22を貼付け途中の状態を、(c)は両面14,16に転写紙22を貼付け完了した状態をそれぞれ表したものである。この貼付け完了状態において、一点鎖線で円形に囲んだ範囲をその右上に拡大して示すように、転写紙22は、酸素分離膜12側から順に被覆層24,触媒粒子層26,離型層28となる向きで貼り付けられている。図示しない裏面16側においても同様である。すなわち、触媒粒子層26は、被覆層24を介して貼り付けられる。
【0064】
次いで、乾燥工程P6において、例えば100(℃)程度の温度で乾燥した後、焼成工程P7において、例えば1000(℃)程度の温度で1時間程度の時間保持して焼成処理を施す。これにより、表面14および裏面16に触媒層18,20をそれぞれ焼き付けることにより、前記の酸素分離膜エレメント10が得られる。焼成工程における昇温速度は、例えば1(℃/分)程度である。このように転写によって触媒層18,20が設けられることから、前述したように触媒粒子21が均一且つ密に配列された構造が得られるのである。
【0065】
このようにして製造され、前記のように構成された酸素分離膜エレメント10の酸素透過速度を評価した結果を以下に説明する。なお、酸素透過速度の評価は、図6に示される反応器30を用いて行った。図6において、反応器30は、例えばアルミナ等のセラミックスから成り両端を開放された円筒管32、34が、酸素分離膜エレメント10を挟んで上下に配置され、且つ、それらの内周側に例えばアルミナ等のセラミックスから成る気体導入管36,38が挿入されたものである。酸素分離膜エレメント10は、酸素解離触媒層18が設けられている表面14が図6における上側すなわち円筒管32側に位置し、酸素再結合触媒層20が設けられている裏面16が円筒管34側に位置する向きで配置される。また、円筒管32,34の外周側にはヒータ40,40が配置されている。また、円筒管32,34と酸素分離膜エレメント10とは、例えばガラス系等の封着材42,42によって気密に封着されている。なお、気体導入管36,38は、それぞれ酸素分離膜エレメント10の表面から気体供給に必要な距離だけ離隔して配置されている。
【0066】
このような反応器30において、ヒータ40,40で装置内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、気体導入管36から空気すなわち酸素を含む気体を円筒管32内に導入すると共に、燃料側すなわち気体導入管38から純メタンガス等の炭化水素を導入する。空気導入量およびメタンガス導入量は例えば何れも10〜200(cc/min)程度である。なお、測定に先立ち、例えばヒータ40,40によって円筒管34内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、例えば水素10(%)とアルゴン90(%)との混合ガスを気体導入管38から円筒管34内に供給し、還元雰囲気下で加熱する。これにより、下面16に備えられている再結合触媒層24すなわちニッケル酸化物が部分的に或いは完全に還元され、酸素再結合触媒としての機能が発揮されるようになる。
【0067】
上記のように気体導入管36から導入された空気は、酸素分離膜エレメント10の表面すなわち解離触媒層18および酸素分離膜12の表面14に接触しつつ、気体導入管36と円筒管32との間に形成された排気路44を通って図6に矢印で示されるように排気される。このとき、酸素分離膜12およびその表面14に設けられた解離触媒層18の酸素解離作用およびイオン化作用により、空気中の酸素が解離されてイオン化させられるので、その酸素イオンは、酸素イオン伝導性を有する酸素分離膜12を通って表面14側から裏面16側に向かって図6に矢印で示されるように輸送される。
【0068】
そして、裏面16に到達した酸素イオンは、その酸素分離膜12およびその裏面16に設けられた再結合触媒層20の再結合作用により酸素分子となり、その裏面16から取り出される。これにより、酸素が表面14側から裏面16側に透過することになる。しかしながら、酸素分離膜12は前述したように緻密質であると共に他の気体はイオン化させられないので、酸素以外の気体は全く透過しない。すなわち、空気から純度の極めて高い酸素が製造される。
【0069】
また、このようにして透過した酸素は、イオンのまま或いは再結合させられた後、気体導入管38から導入されたメタンガス等とその裏面16上、再結合触媒層20内、或いはそれらの近傍において反応させられ、下記(1)式に示されるようなメタンの部分酸化反応が生じる。生成された一酸化炭素と水素との合成ガスは、気体導入管38と円筒管34との間に形成された回収路46から回収される。回収された合成ガスは、例えば、液体燃料合成等に用いられる。なお、以上の説明から明らかなように、本実施例においては、表面14が一面に、裏面16が他面にそれぞれ対応する。また、上記の説明から明らかなように、気体導入管38からメタンガスを導入しない場合には、回収路46から酸素を回収することができ、反応器30を酸素製造装置として用いることができる。
CH4+1/2O2 → CO+2H2 ・・・(1)
【0070】
上記の試験を例えば3時間程度の時間で行い、合成ガスおよび排気ガスをガスクロマトグラフィで測定した評価結果を、触媒層18,20と同一組成の触媒層50,52をディップコートによって設けた従来(すなわち比較例)の酸素分離膜エレメント54(図7参照)の評価結果と併せて下記の表1に示す。比較例の酸素分離膜エレメント54は、前記触媒材料に有機溶剤を混合してスラリーを調製し、酸素分離膜12を浸漬することによりそのスラリーをコートした後、例えば100(℃)で3時間程度乾燥し、更に、1000(℃)で1時間の焼付け処理を施すことにより製造した。なお、酸素透過速度は、合成ガス中の酸素濃度と流量、および酸素分離膜エレメント10の酸素透過部面積から算出した。また、この評価は、製造方法の相違による効果を確かめる目的で触媒層18,20,50,52の膜厚を20(μm)に統一して行った。すなわち、触媒層の形成方法が相違する他は、実施例および比較例の構造および製造方法は同一である。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1に示されるように、触媒層18,20を転写で設けた実施例の酸素分離膜10によれば、触媒層50,52をディップコートで設けた従来の酸素分離膜54に比較して、触媒層18等が同一厚みであるにも拘わらず、1.7倍以上の酸素透過速度が得られる。すなわち、転写により触媒層18,20を形成することにより、ディップコートによって形成した場合よりも高い特性を得ることができる。転写により形成した触媒層18,20は、前記図3に示されるように触媒粒子21が均一且つ密に配列されているのに対し、ディップコートにより形成した触媒層50,52は、図7に示されるように触媒粒子21が不均一に配列され且つ疎であることから、同じ厚さ寸法であっても後者の方の触媒担持量が少なくなり且つ触媒粒子21と酸素分離膜12表面との接触面積が小さくなっている。そのため、同じ触媒厚みであっても実施例の酸素分離膜エレメント10の促進作用が大きくなるので、高い酸素透過速度が得られるのである。
【0073】
図8は、酸素分離膜12をLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3で構成した場合における触媒層18,20の厚さ寸法と酸素透過速度との関係を評価した結果を、ディップコートで触媒層50,52を設けた比較例と共に示したものである。何れの膜厚においても、触媒層18,20の厚さ寸法は相互に同じ値とした。実施例によれば、触媒層の担持厚を増加させるに従って酸素透過速度が高められる傾向が明らかである。すなわち、酸素透過速度は、10(μm)程度の担持厚では5.3(cc/min/cm2)程度に過ぎないが、20(μm)程度までは担持厚が増大するに従って酸素透過速度が急激に高くなり、6.6(cc/min/cm2)程度になる。これを超えると変化は緩くなるものの、50(μm)程度の担持厚では7.1(cc/min/cm2)程度、100(μm)程度の担持厚では7.9(cc/min/cm2)程度、200(μm)程度の担持厚では8.3(cc/min/cm2)程度と、膜厚が厚くなるほど酸素透過速度が高くなる。図8から明らかな通り、100(μm)程度で酸素透過速度は略飽和している。すなわち、100(μm)程度の担持厚とすることが最も好ましいことが判る。なお、上記評価では、形成しようとする厚さの触媒粒子層26を設けた転写紙22を用意し、それぞれ一回の転写で所望の担持厚を得るようにしたが、適当な厚さ寸法の触媒粒子層26を設けた転写紙を用意して積層することにより担持厚を厚くすることもできる。
【0074】
これに対して、ディップコートで触媒層50,52を設けた比較例では、10(μm)程度の担持厚では3.4(cc/min/cm2)程度に過ぎず、20(μm)程度の担持厚でも3.8(cc/min/cm2)程度に留まる。すなわち、担持厚の増大に伴って酸素透過速度が高められる傾向は認められるものの、実施例に比較して著しく低い値に留まった。しかも、担持厚を30(μm)以上にしたところ、焼成時に酸素分離膜12から剥離して使用不能であった。また、ディップコートによる限界を確かめる目的で一回の担持厚を20(μm)程度とし、積層して担持厚を厚くする評価も実施したが、60(μm)(すなわち3層)まで厚くしても、5(cc/min/cm2)程度の酸素透過速度に留まった。しかも、担持厚はこれが限界で、それ以上厚くすると単層の場合と同様に剥離が生じた。
【0075】
要するに、本実施例によれば、触媒層18,20が転写によって均一膜厚で形成されるため、膜厚を厚くしてもクラックや剥離等が生じ難いため、担持厚を増大させることにより、酸素透過速度の一層高い酸素分離膜エレメント10が得られる。しかも、転写により形成された触媒層18,20は、触媒粒子21が均一に配列され且つ密に並ぶことから、スラリー等の直接塗布により形成された触媒層50,52に比較して、同じ膜厚でも担持量が多くなるので高い酸素透過速度が得られる利点がある。また、CVD(化学蒸着)法等のように担持工程が多くなる不都合がなく、直接印刷のように、触媒層18,20を形成しようとする酸素分離膜の形状や大きさに応じて印刷機、印刷版やペースト調合等の印刷条件を変更する必要もない利点がある。
【0076】
また、本実施例によれば、前記図6に示されるように、酸素分離膜エレメント10の一面側に気体導入管36からO2含有ガスを供給すると、その中の酸素が選択的にイオン化されて酸素分離膜12を透過させられ、他面側すなわち円筒管34側で再結合して回収されることから、O2含有ガス中の酸素が効率よく分離されるので、安価で高効率に酸素を製造することができる。また、その他面側に気体導入管38からCH4含有ガスが供給されることにより、酸素とそのCH4が化合させられ、生成された合成ガス(CO+2H2)が回収される。そのため、酸素透過速度が高く効率よく酸素が他面側に透過させられることから、高効率の反応器30が得られる利点がある。
【0077】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において、前述した実施例と共通する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
図9に示される酸素分離膜エレメント56は、全体が一端を封止されたチューブ状を成すものである。酸素分離膜エレメント56は、チューブ状の酸素分離膜58の例えば外周面60に再結合触媒層62が、内周面64に解離触媒層66がそれぞれ設けられることにより構成されている。これら各部の構成材料は、例えば前述の実施例と同様なものを用い得る。また、酸素分離膜58の内周側には、気体導入管68が挿入されている。この気体導入管68は、例えば、前記の気体導入管36,38と同様に構成されたものである。
【0079】
上記の酸素分離膜エレメント56は、図9に示されるように、気体導入管68から酸素含有ガスを導入する一方、その外周側に例えばメタンガスを供給して用いられる。これにより、酸素分離膜58を透過した酸素によるメタンの部分酸化反応が生じ、前述した反応器30の場合と同様に、合成ガスを回収することができる。なお、図9においては、メタンガスの供給路と合成ガスの回収路とを省略して概念的に示している。このように、酸素分離膜エレメントは、円板状等の平板状に限られず、チューブ状等の適宜の形状を取り得るのである。
【0080】
図10は、上記の酸素分離膜エレメント56の製造過程の再結合触媒層62の形成工程を説明する図である。酸素分離膜エレメント56の酸素分離膜58は、その外周面60が円筒面形状を成すことから、その外周面60にペーストを直接印刷し或いはディップコートにより均一な担持厚を得ることが困難である。しかしながら、本実施例によれば、平坦な状態で台紙に溶液やペーストを塗布して触媒粒子層等を形成して転写紙70を製造した後、図10に示すようにその転写紙70を酸素分離膜58に巻き付けることにより、容易に再結合触媒層62を設けることができる。すなわち、転写紙70が高い可撓性を有することから、平坦面に限られず、このような曲面にも容易に触媒層を形成できるのである。なお、酸素分離膜封止端は、貼付け時に半球面が得られるように適宜の形状、例えば3/4円形状等に切り取った転写紙70を貼り付けることにより再結合触媒層62を設けた。また、内周面64上の解離触媒層66は、例えば従来と同様なディップコートによって設ければよい。
【0081】
図11は、更に他の実施例の酸素分離膜エレメント72の全体を示す平面図であり、図12は、その酸素分離膜12の表面14に設けられた解離触媒層74の一部を拡大して示す図、図13は、酸素分離膜エレメント72の断面の要部を拡大して示す図である。なお、酸素分離膜エレメント72の裏面16すなわち再結合触媒層76も図11、図12に示されるものと同様な形状を備えている。これら図11〜図13において、酸素分離膜12の表面14および裏面16にそれぞれ設けられた解離触媒層74および再結合触媒層76には、互いに直交する二方向に沿って伸びる多数本の溝78が設けられている。溝78は、図12および図13に示されるように矩形断面を備えたものであって、何れの方向に沿って伸びるものも各々が例えば50(μm)程度の幅寸法Wと100(μm)程度の深さ寸法Dとを有し、例えば100(μm)程度の一様な相互間隔Pを以て設けられている。このため、触媒層74,76には、溝78の相互間に、平面視において例えば一辺が100(μm)程度の正方形を成し且つ高さ寸法がD=100(μm)程度の多数の突起80が、互いに直交する二方向に沿って例えばW=50(μm)程度の相互間隔を以て、すなわち150(μm)程度の中心間隔を以て設けられ、それらの表面は、これら溝78および突起80により形成された凹凸面になっている。
【0082】
上記の溝78および突起80は、触媒層74,76を前述したように転写によって設けるに際して、このような溝78および突起80を有する平面形状で台紙に触媒粒子層用ペーストを塗布することにより設けられたものである。本実施例によれば、触媒層74,76が転写により設けられることから、このようなパターニングもスクリーン印刷製版の開口パターンを適宜設定することによって容易に形成できる。
【0083】
本実施例によれば、酸素分離膜エレメント72の表面および裏面に格子状すなわち互いに直交するように配列された規則的な凹凸が形成されていることから、
表面近傍に到達した気体は、上記の図12に矢印で示されるように溝78に沿って流れつつ(すなわち整流されつつ)、その溝78の底面、突起80の側面、およびその頂面から成る広い面積を以て酸素分離膜12に接触させられる。そのため、解離触媒層74側においては、表面積が増大すると共に乱流が防止されることにより、酸素と酸素分離膜12との接触機会が飛躍的に高められるので、空気中の酸素と酸素分離膜12との反応性が著しく高められ、酸素のイオン化速度が著しく高められる。また、再結合触媒層76側においては、表面積が増大されることによって酸素の再結合が行われる面積が著しく増大するので、酸素イオンの再結合速度が著しく高められる。したがって、何れにおいても反応速度が高められるので、酸素透過速度が一層高められることになる。
【0084】
図14に示される酸素分離膜エレメント82は、多孔質支持体84上に酸素分離膜86等が設けられたものである。この図14において、多孔質支持体84は例えばLa0.7Sr0.3Ga0.6Fe0.4O3或いはLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3等のペロブスカイトから成るものであって、例えば3(mm)程度の厚さ寸法を備えた直径が20(mm)程度の円板である。また、酸素分離膜86は、多孔質支持体84と同様な、例えば同組成のペロブスカイト材料から成るものであるが、緻密質に構成されたものである。
【0085】
上記の多孔質支持体84の裏面88には例えば再結合触媒層90が100(μm)程度の一様な厚さ寸法で形成されている。また、酸素分離膜86は、多孔質支持体84の表面92に、例えば300(μm)程度の厚さ寸法を以て設けられている。この酸素分離膜86は、例えば多孔質支持体84に一部が浸透させられた状態で設けられたものである。また、酸素分離膜86の表面94には、解離触媒層96が備えられている。上記再結合触媒層90および解離触媒層96は、前記触媒層18,20と同様に構成され、例えば、何れも転写法によって設けられたものである。
【0086】
このような酸素分離膜エレメント82によれば、全体の機械的強度が多孔質支持体84によって確保されることから、酸素分離膜86を一層薄くして酸素透過速度を一層高めることが容易である。
【0087】
なお、上記の多孔質支持体84は、例えば以下の製造工程によって製造される。先ず、多孔質材料粉末をバインダーおよび分散剤等と混合して混練した後、例えば100(℃)程度の温度で24時間程度乾燥し、凝集体を製造する。この多孔質材料粉末としては、例えば市販の前記組成のペロブスカイト原料を用い得る。次いで、これをボールミル等で解砕し、例えば100(MPa)程度の圧力で加圧成形することにより、例えば直径20(mm)程度、厚さ3(mm)程度の円板を成形する。次いで、成形体を所定の焼成温度、例えば1500(℃)程度の温度で3時間程度加熱する。これにより、多孔質支持体84が得られる。
【0088】
このようにして多孔質支持体84を製造した後、酸素分離膜86の構成材料粉末を溶媒、バインダー、および分散剤と共にボールミル等を用いて混合してスラリーを調製し、浸漬工程において、このスラリー中に多孔質支持体84の表面92側を浸漬(ディップ)する。これにより、多孔質支持体84の表面92側の表層部に略均等にスラリーを含浸させる。次いで、乾燥工程において、例えば60(℃)程度の温度で4時間程度乾燥し、更に、焼成工程において、例えば大気中にて1500(℃)程度の温度で3時間程度加熱することにより、酸素分離膜86が多孔質支持体84上に形成される。上記の浸漬工程および乾燥工程は、所望の例えば0.3(mm)程度の膜厚が得られるように適宜の回数繰り返される。また、酸素分離膜86の膜厚の調節は、スラリー粘度や浸漬時間等を調節することでも行われる。酸素分離膜86は、このようにして設けられることから、多孔質支持体84の表面92に一部が浸透した状態で設けられているのである。なお、再結合触媒層90も酸素分離膜86と同様なディップコートによって裏面88に設けることができる。
【0089】
下記の表2、図15、および図16は、多孔質支持体84の構成を種々変更して、上記の酸素分離膜エレメント82の酸素透過速度等を測定した結果を示したものである。この評価においては、酸素分離膜86の厚さ寸法を0.2(mm)とした。また、下記の表2において、実施例Aは、多孔質支持体84および酸素分離膜62をLa0.7Sr0.3Ga0.6Fe0.4O3(LSGF)で構成したものであり、実施例Bは、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3(LSTF)で構成したものである。また、細孔径、気孔率、曲げ強度は何れも多孔質支持体84の特性値である。なお、細孔径および気孔率は、水銀圧入法或いはBET法(例えば窒素吸着法)によって測定した。また、酸素透過速度は、前記の酸素分離膜エレメント10と同様に、図6に示される反応器を用いて行った。また、曲げ強度は三点曲げ強度であって、JIS R1601に従ってによって測定した値である。
【0090】
【表2】

【0091】
上記の表2および図15、図16に示されるように、酸素透過速度は、多孔質支持体84の細孔径および気孔率が大きくなるほど高くなる傾向にある。しかしながら、それに伴って多孔質支持体84の曲げ強度が低下する傾向にあるので、多孔質支持体84は、これらのバランスを考慮してその細孔径および気孔率を決定する必要がある。すなわち、十分に大きい酸素透過速度を得るためには、細孔径を0.1(μm)より大きく、気孔率を5(%)より大きくすることが好ましい。また、多孔質支持体84の曲げ強度を十分に高く保って酸素分離膜エレメント82全体の強度を確保し、延いては酸素分離膜86の膜厚を十分に薄くするためには、細孔径を20(μm)よりも小さくすると共に、気孔率を60(%)よりも小さくすることが望ましい。したがって、この両者の兼ね合いにより、多孔質支持体84を備える態様では、その平均細孔径が0.1〜20(μm)の範囲内(上下限を含まず)、気孔率が5〜60(%)の範囲内(上下限を含まず)であることが望ましいことになる。
【0092】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施例の円板状の酸素分離膜エレメントの全体を示す斜視図である。
【図2】図1の酸素分離膜エレメントの断面構造を示す図である。
【図3】図2を更に拡大して模式的に示す図である。
【図4】図1の酸素分離膜エレメントの製造方法を説明するための工程図である。
【図5】(a)〜(c)は図4の転写工程の実施状態を説明する図である。
【図6】図1の酸素分離膜エレメントが用いられた反応器の構成を説明する図である。
【図7】触媒層をディップコートで設けた従来の酸素分離膜エレメントの断面構造を模式的に示す図である。
【図8】図1の酸素分離膜エレメントの触媒層厚みと酸素透過速度との関係を説明する図である。
【図9】本発明の他の実施例の酸素分離膜エレメントの断面構造を模式的に示す図である。
【図10】図9の酸素分離膜エレメントを製造する際の触媒層の形成工程を説明する図である。
【図11】本発明の更に他の実施例の酸素分離膜エレメントの全体を示す平面図である。
【図12】図11の酸素分離膜エレメントの表面の一部を拡大して示す図である。
【図13】図11の酸素分離膜エレメントの断面構造の要部を説明する図である。
【図14】本発明の更に他の実施例の酸素分離膜エレメントの全体を示す側面図である。
【図15】図14の酸素分離膜エレメントを構成する多孔質支持体の平均細孔径と酸素透過速度および三点曲げ強度との関係を示す図である。
【図16】図14の酸素分離膜エレメントを構成する多孔質支持体の気孔率と酸素透過速度および三点曲げ強度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
10:酸素分離膜エレメント、12:酸素分離膜、14:表面、16:裏面、18:酸素解離触媒層、20:酸素再結合触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有する緻密な酸素分離膜を備えると共に、その酸素解離側の一面および酸素再結合側の他面の少なくとも一方に触媒層を備え、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から分離するための酸素分離膜エレメントを製造する方法であって、
所定の台紙上に設けられた触媒粒子層を前記酸素分離膜に転写することにより前記触媒層を形成することを特徴とする酸素分離膜エレメントの製造方法。
【請求項2】
酸素イオン伝導性を有する緻密な酸素分離膜を備えると共に、その酸素解離側の一面および酸素再結合側の他面の少なくとも一方に触媒層を備え、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から分離するための酸素分離膜エレメントであって、
前記触媒層が転写により形成されたことを特徴とする酸素分離膜エレメント。
【請求項3】
前記触媒層は、一方向に沿って一定の中心間隔で並ぶ多数の突起を表面に有するものである請求項2の酸素分離膜エレメント。
【請求項4】
前記酸素分離膜は、酸素イオン伝導性および電子伝導性を有する混合伝導体である請求項2の酸素分離膜エレメント。
【請求項5】
前記酸素分離膜は、一般式Ln1-xAexMO3(但し、Lnはランタノイド、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、MはFe、Mn、Ga、Ti、Co、Zr、Ce、Mg、Ge、Zn、Cu、Sc、V、Cr、Ni、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Sb、Pb、Bi、Po、Al、In、Snのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、0≦x≦1)で表される複合化合物、ZrO2系酸化物、CeO2系酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せから成るものである請求項2の酸素分離膜エレメント。
【請求項6】
前記酸素分離膜は、Ce2-xZrxO4-σ(但し、0<x<2、0≦σ≦4)、CeGd酸化物、CeSm酸化物、Ba(CaNb)2酸化物、BiVCu酸化物、ZrO2系酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せから成るものである請求項2の酸素分離膜エレメント。
【請求項7】
前記酸素分離膜は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せを含む材料から成るものである請求項5または請求項6の酸素分離膜エレメント。
【請求項8】
前記酸素分離膜は、電子伝導性を有する金属または金属酸化物を含む材料から成るものである請求項5乃至請求項7の何れかの酸素分離膜エレメント。
【請求項9】
前記酸素分離膜は、多孔質支持体上にその一面全体を覆って備えられたものである請求項2の酸素分離膜エレメント。
【請求項10】
前記多孔質支持体は、一般式Ln1-xAexMO3(但し、Lnはランタノイド、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、MはFe、Mn、Ga、Ti、Co、Zr、Ce、Mg、Ge、Zn、Cu、Sc、V、Cr、Ni、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Sb、Pb、Bi、Po、Al、In、Snのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、0≦x≦1)で表される複合化合物、ZrO2系酸化物、CeO2系酸化物、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)のうちから選ばれる1種または2種以上の組合せから成るものである請求項9の酸素分離膜エレメント。
【請求項11】
前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、同材料から成るものである請求項9の酸素分離膜エレメント。
【請求項12】
前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、相互に異なる組成の材料から成るものである請求項9の酸素分離膜エレメント。
【請求項13】
前記多孔質支持体は、平均細孔径rが0.1<r<20(μm)の範囲内、気孔率pが5<p<60(%)の範囲内である請求項9の酸素分離膜エレメント。
【請求項14】
前記請求項2乃至請求項13の何れかに記載の酸素分離膜エレメントを用い、酸素を含む原料気体をその一面側に供給すると共に、その原料気体から分離された酸素をその他面側から回収することを特徴とする酸素製造方法。
【請求項15】
前記請求項2乃至請求項13の何れかに記載の酸素分離膜エレメントと、
その酸素分離膜エレメントの一面側に酸素を含む気体を供給するための第1気体供給路と、
その他面側に所定の化合物を含む気体を供給するための第2気体供給路と、
その他面側において酸素と前記所定の化合物との反応により生成された気体を回収するための気体回収路と
を、含むことを特徴とする反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−82039(P2006−82039A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271180(P2004−271180)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】