説明

酸素吸収材を含むプレフィルドシリンジ

本発明は、薬物を収容する硬質のシリンジ本体と、酸素吸収材と、薬物および酸素吸収材の間に位置し、薬物が酸素吸収材に接触することを防ぐとともに酸素が薬物から酸素吸収材へ通ることができるようにする分離要素と、薬物および酸素吸収材を取り囲む酸素不浸透性容器とを備え、この酸素不浸透性容器は上記硬質のシリンジ本体の一部もしくは全部をなす、または上記硬質のシリンジ本体内に保持される、薬物投薬用のシリンジまたは自己注射器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物保管および患者への薬物投与のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野において知られている薬物投与装置の一例として、患者に投与する前に医療用、治療用、診断用、医薬品用、または化粧品用の化合物(薬物)を収容しており、患者の皮膚から中空針を経由してこの化合物を投与するために用いられる注射装置がある。この種の注射装置に、プレフィルドシリンジや自己注射器がある。
【0003】
プレフィルドシリンジは、患者に薬物を投与するエンドユーザに流通する前に薬物が充填されたシリンジである。プレフィルドシリンジは、通常、シリンジ本体の一部をなす薬物格納容器と、薬物を放出するプランジャーと、薬物が供給されたシリンジから針を経由して患者に直接薬物が投与されるようにするための、付属の皮下注射針または薬物の投与前にユーザが針を取り付けることができるそのほかの機構とを含む。シリンジのユーザは、通常、注射技術の訓練を受ける必要があり、患者自身、医師、看護師、または、家族などその他の介護者であってよい。
【0004】
自己注射器は、通常の非自動のプレフィルドシリンジと比べて注射を行うために必要な技術が低くなるようにするために用いられるシリンジである。従って、自己注射器は、注射を行うための技術の訓練を受けてきていない人による使用に、通常のシリンジよりも適しており、訓練を受けた医療関係者が応対することができないような状況において、アナフィラキシーショックや神経ガス中毒などの予測できない「危機」状態を手当てするための薬物投与に用いられることがある。また、自己注射器は、訓練を受けた医療関係者のいない住宅で薬物の投与を行うことが好適である場合、例えば、癌や自己免疫疾患の治療用薬物を投与する際に用いられる。この場合、薬物を投与する人物は、患者自身でも家族であってもよく、限られた体力、器用さ、または視力などの障害を有していてもよい。
【0005】
自己注射器は、通常、薬物格納容器と、患者に皮下注射針を自動的に挿入しプランジャーを操作して薬物を投与するメカニズムを含む二次構造物とを含む。一般に、この薬物格納容器は、無菌環境下で薬物が充填された後、この無菌環境を離れて二次構造物に組みつけられる。こうして、二次構造物への曝露による薬物の微粒子汚染および生物学的汚染のリスクが低減される。この種の装置としては、例えばキング社(King Pharmaceuticals)のEpiPen、およびスカンジナビア・ヘルス・リミテッド社(Scandinavian Health Limited)のDAIがある。
【0006】
同様に、プレフィルドシリンジは、充填後、殺菌された充填環境外で、使用後の針刺し損傷による血液感染性の病気の二次感染を防ぐ針安全メカニズムなどの追加構造物に組みつけられてもよい。
【0007】
この種のシリンジは、ガラスがさまざまな効果を有することから、普通はガラスからなる。ガラスは、優れた耐湿性と気体浸透耐性を有する。透明性に優れるため、充填後に薬物の検査が可能である。また、多くの薬物に対して比較的不活性である。しかしながら、ガラスは、壊れやすくある種の薬物を汚染することがあるなど、不都合な点がいくつかある。
【0008】
代替的な材料のグループとして、環状オレフィン重合体がガラスの代わりに用いられてきたが、これは、通常、これらが薬物に対する汚染効果が低いにも関わらず優れた透明性を備えるためである。この材料には、TAP社(Topas Advanced Polymers GmbH)のTopasなどの環状オレフィン共重合体、および大京のクリスタルゼニスなどの環状オレフィン単独重合体などがある。しかしながら、これらの材料はガラスほどの気体透過耐性を有していないため、酸素などの大気気体が容器を通して薬物に大幅に浸透可能となり、浸透した気体によって薬物が劣化するおそれがある。
【0009】
酸素吸収材は、食品および飲料包装などにおいて、包装内の酸素レベルを低減するために用いられることが知られている。代表的な酸素吸収材としては、鉄、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムなどの低分子量有機化合物、樹脂や触媒を加えた高分子材料などがある。
【0010】
米国特許出願公開第2008/0072992号に記載の薬物容器は、環状オレフィン共重合体からなってもよく、容器とエンベロープ壁との間の空気が酸素吸収材にさらされるホイルポーチ(小袋)に包まれている。また、米国特許出願公開第2003/0106824号には、薬剤容器と気体吸収要素を収容する封止された包装が記載されている。
【0011】
上記の特許出願はいずれも、薬物を使用するために、ユーザがまず封止されたエンベロープを取り除く必要がある。プレフィルドシリンジや自己注射器と合わせて使用する場合、この構成にはさまざまな問題がある。
・ユーザが薬物を投与する際に必要な手順が増える。
・シリンジまたは自己注射器の保管中、薬物がエンベロープで見えにくくなることがあるため、使用前の薬物の品質検査がより困難または不可能になる。
・エンベロープにより、薬物の包装が全体として大きくなる。
・ユーザがエンベロープから薬物容器を取り出すのが早すぎて薬物を酸素に汚染させてしまう危険性がある。これは特に、薬物を酸素から保護するにあたってのエンベロープの機能と重要性をユーザが理解していない場合に起こりやすい。
・ユーザ、特に身体障害または認識障害を有するユーザにとって、エンベロープを開けることが難しい場合がある。
【0012】
また、シリンジまたは自己注射器とともに酸素吸収材を用いる場合、他にも考慮すべき問題がある。酸素吸収材が有効性を失わないように、シリンジまたは自己注射器に組みつける前に酸素吸収材が過度の酸素を吸収することを防止する必要がある。また、酸素吸収材は、微粒子汚染、化学汚染、または生物学的汚染の源となる可能性もあり、そのため薬物および薬物投与経路から隔離する必要があることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0072992号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0106824号明細書
【発明の概要】
【0014】
本発明は、添付の特許請求の範囲に規定されており、これについて以下に述べる。
【0015】
本発明は、薬物を、酸素への曝露による被害から保護することができ、また容易、効果的、かつ安全に薬物を患者に投与するために使用することができるように、酸素吸収材とともに酸素不浸透性エンクロージャーに包まれた薬物格納容器を含むシリンジまたは自己注射器を提供することによって、上記問題の一部あるいはすべてを解決することを目的とする。また、本発明は、薬物が酸素吸収材とともに包装された後でその品質を検査する際の容易さや効果を向上させ、ユーザの酸素不浸透性エンクロージャーへの穿孔が早すぎることを回避し、また包装を全体として小さくするために、用いることができる。
【0016】
本明細書において「酸素不浸透性」という語は、あらゆる物質がある程度の酸素浸透性を有することから、実質的に酸素不浸透性であることを意味する。本明細書に記載の酸素不浸透性のエンクロージャー、材料、およびシールは、外部環境から薬物への酸素の拡散を防止する。プレフィルドシリンジまたは自己注射器の品質保持期限は、多くの薬物にとっては酸素である汚染物質が薬物に拡散する速度に依存する。そのため、酸素不浸透性エンクロージャーがどの程度の不浸透性を有するべきかについては、シリンジに求められる品質保持期限(通常は1年を超える)、そのシリンジに収容される薬物、ならびにそのエンクロージャーの容積および表面積に依存する。酸素不浸透性エンクロージャーは、さまざまな温度、気圧、および湿度レベルで十分な不浸透性を有しなければならない。酸素不浸透性エンクロージャー内部に酸素吸収材を設けることにより、品質保持期限を延ばしたり、および/または気体不浸透性エンクロージャーが有するべき不浸透性の程度を低くしたりすることができる。ただし、酸素吸収材は、酸素浸透性が非常に高いエンクロージャー内に設置されると、早く消耗して効果を失う。
【0017】
本明細書において「酸素浸透性」という語は、酸素障壁として不適切であり、少なくとも酸素不浸透性エンクロージャーよりも酸素浸透性が高いことを意味する。
【0018】
本発明は、薬物と、酸素が薬物から酸素吸収材に移動できるように配置された酸素吸収材とを収容する酸素不浸透性エンクロージャーを設けることによって上述の効果をもたらすものであり、これらは全てシリンジ自体の内部に設けられている。この酸素吸収材は、独立した要素であってもよいし、シリンジまたは自己注射器のほかの機能的な要素の一つに組み込まれてもよい。また、本発明は、患者へ薬物を投与する通常の手順で、ユーザが容易に酸素不浸透性エンクロージャーに穿孔し皮下注射針を経由して薬物を投与できるメカニズムを提供する。この酸素不浸透性エンクロージャーおよびユーザが容易に酸素不浸透性エンクロージャーに穿孔できるようにする手段を提供するメカニズムは、ユーザが薬物を投与する際に取り扱うシリンジまたは自己注射器の実質的に硬質の構造内に収容されてもよいし、その一部であってもよく、これにより投与プロセスを大幅に簡略化することができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、シリンジまたは自己注射器は、薬物に接触し環状オレフィン重合体などの薬物との接触に適切な酸素浸透性の硬質材料からなる内部容器を含む。この内部容器は、エチレンビニルアルコール(EVOH)やポリアミドなどの酸素不浸透性の硬質材料からなる独立した二次外部容器に包まれている。この内部容器には薬物を放出するためにプランジャーが含まれており、薬物を容器から、通常は中空の皮下注射針を通して患者へ送り出すためにプランジャーを内部容器に対して相対的に移動させるプランジャーメカニズムが含まれる。上述のプランジャーが薬物と酸素吸収材との間の障壁を形成する場合には、このプランジャーは、酸素吸収要素が薬物が収容されている空間から酸素を吸収できるように、酸素浸透性の材料からなってもよい。内部容器は、保管された薬物に接触し、環状オレフィン重合体など、この薬物に適合的な材料からなる第1のシールによってふさがれた少なくとも一つの開口部を有する。外部エンクロージャーは、酸素などの大気気体に対して実質的に不浸透性の第2のシールによってふさがれた少なくとも一つの開口部を有する。この第2のシールは、アルミニウム、フッ化炭素、またはポリアミドなどの酸素不浸透性の材料を含む多層材料からなってよい。酸素吸収材は、酸素不浸透性の外部エンクロージャーの内部に薬物とは接触しない状態で配されている。プランジャーメカニズムの動作により、第1のシールおよび第2のシールの両方が破れて薬物を患者に投薬することができる。
【0020】
上述のシールは、突き刺し、手動での封止要素の除去、機械弁の操作、またはその他の何らかの手段によって破れてもよい。
【0021】
本発明の別の一実施形態において、酸素不浸透性の容器の内部には、実質的に内部容器の外表面全体を囲み、酸素吸収材が配される空間があり、酸素不浸透性エンクロージャーに侵入する酸素が薬物ではなく酸素吸収材に吸収される可能性が高まるようになっている。
【0022】
本発明の別の一実施形態において、このシリンジまたは自己注射器の構成は、薬物と酸素吸収材との間に生物学的汚染および微粒子汚染に対する酸素浸透性の障壁を備えており、無菌充填環境を離れてから薬物が生物学的汚染または微粒子汚染の危険にさらされることなく酸素吸収材をシリンジまたは自己注射器に追加できるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下、本発明の実施例について、添付の図面を参照して説明する。
【0024】
【図1】図1は、シリンジの一例の長手方向断面図である。
【図2】図2は、患者に薬物を投与した後における図1に示すシリンジの長手方向断面図である。
【図3】図3は、自己注射器の一例の長手方向断面図である。
【図4】図4は、患者に薬物を投与した後における図3に示す自己注射器の長手方向断面図である。
【図5】図5は、図3および図4に示す自己注射器の代替的な例の長手方向断面図であり、酸素吸収材が実質的に内部容器の外表面全体と気体連結状態にある。
【図6】図6a、図6b、図6cは、図1および図2に示すシリンジの独立したそれぞれ第1の部分および第2の部分の長手方向断面図であり、第1の部分に薬物を充填し、第2の部分により第1の部分を封止し、酸素吸収材を追加するプロセスを示す。
【図7】図7は、図1、図2、および図5に示すシリンジに適用可能な充填プロセスの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明を実施するシリンジの断面図である。薬物1は、薬物1に接して環状オレフィン重合体または薬物に適合的なその他の材料を含んでいることが好ましい薬物適合の内部容器2に収容されている。また、この内部容器は、酸素浸透性であることが好ましい。この内部容器は、EVOHまたはポリアミドなどの透明で酸素不浸透性の硬質材料からなる酸素不浸透性の外部容器3に包まれている。
【0026】
内部容器2は、第1の酸素浸透性シール4および第2の酸素浸透性シール5により封止されており、これらのシールはいずれも、薬物1と接触して環状オレフィン重合体または薬物に適合的なその他の材料を含んでいることが好ましい。
【0027】
酸素不浸透性エンクロージャーが気体浸透性の内部容器2を取り囲んでおり、このエンクロージャーは、酸素不浸透性の外部容器3と、酸素不浸透性の針カバー6と、酸素不浸透性の上部シール7と、酸素不浸透性のエラストマー性圧縮ワッシャ8と、酸素不浸透性の圧縮ワッシャ固定具9と、中空の皮下注射針11を含む酸素不浸透性の針保持ハブ10と、針保持ハブ10を圧縮ワッシャ固定具9で封止する酸素不浸透性封止機構12と、針保持ハブ10を針カバー6で封止する第2の酸素不浸透性封止機構13とからなる。
【0028】
外部容器3は、第2の酸素浸透性シール5と酸素不浸透性の上部シール7との間の空間に酸素吸収材14を含んでいる。酸素浸透性のプランジャー15は、内部容器2の内部に配されている。硬質の外部筐体16が、外部容器3の大部分を取り囲んでいる。
【0029】
本実施形態において、酸素吸収材14は中空の円筒形状に形成されて、その内部をボタン18の一部が通過してプランジャー15に接触できるようにしている。しかしながら、この酸素吸収材は、その他の形状に形成されてもよく、また複数の部分に形成されてそれぞれ別の位置に配置されてもよい。薬物の汚染を防止するための重要な要件は、この酸素吸収材が、製造、保管、投薬のいずれにおいても薬物と接触できないようにすることである。ただし、酸素吸収材は薬物と気体連結状態にあり、酸素不浸透性エンクロージャー内に保持さる。
【0030】
薬物を患者に投与するために、ユーザは、図1について上述したような酸素障壁の一部をなす手動で取り外し可能な針シールド6を取り外して、シリンジの前部17を患者の適切な部位にあてる。その後、ユーザがボタン18を押すことにより、酸素浸透性の内部容器2および酸素不浸透性の外部容器3を硬質の外部筐体16内で軸方向に患者に向けて移動させ、針11の前部を患者の方へ移動させ、針後部19で酸素浸透性のシール4を突き刺す。また、このボタン18の動作により、貫通ディテール20で酸素不浸透性の上部シール7および第2の酸素浸透性シール5を突き刺し、プランジャー15を内部容器2内で軸方向に付勢して薬物が針11を通して患者に流れこむようにする。
【0031】
図2は、患者に薬物を投与した後における図1に示すシリンジの図である。
【0032】
酸素吸収材14の好適な材料としては、鉄、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムなどの低分子量有機化合物、樹脂や触媒を加えた高分子材料などがある。
【0033】
図3は、本発明にかかる自己注射器の一例の断面図である。図1および図2に図示した要素に機能的に対応する要素には同一の参照番号を用いている。薬物1は、薬物1に接して環状オレフィン重合体または薬物に適合的なその他の材料を含んでいることが好ましい酸素浸透性の内部容器2に収容されている。この内部容器は、EVOHまたはポリアミドなどの酸素不浸透性の硬質材料を含んでいることが好ましい酸素不浸透性の外部容器3に包まれている。内部容器2は、薬物1に接して環状オレフィン重合体または薬物に適合的なその他の材料を含んでいることが好ましい第1の酸素浸透性シール4により封止されている。外部容器3は、酸素不浸透性の保持要素22と合わせて酸素不浸透性の第2のシール21により封止されている。
【0034】
酸素吸収材14は、外部容器3の内部に配されている。酸素不浸透性の上部シール7は、外部容器3の開口部を封止する。酸素吸収材14は、シール7が所定の位置に取り付けられる前にこの開口部を通して、組みつけることができる。
【0035】
内部容器および外部容器はいずれも硬質の本体の内部に保持され、この本体は、硬質の外部筐体16と、針シールド23と、ロックアーム24と、針保持ハブ10とを含んでいる。
【0036】
自己注射器を動作させるために、自己注射器の前部17が患者の皮膚に押し付けられ、これにより針シールド23が動いて外部容器3の外表面の係合ディテール25と係合しているロックアーム24を解除する。これにより、ロックアーム24が係合ディテール25からはずれて、主駆動バネ26を解除することができる。この主駆動バネ26は、内部容器2と外部容器3とを自己注射器内で軸方向に駆動して中空の皮下注射針11が患者に向かって駆動されるよう構成されている。また、バネ26により、第1のシール4および第2のシール21は中空の皮下注射針11の後部の貫通ディテール19で突き刺される。針11は針保持ハブ10に取り付けられており、針保持ハブ10は、シール4および21を突き刺した後、バネ26の力により内部容器2に対して相対的に動き続ける。これにより、プランジャー15が内部容器2内で軸方向に駆動されて、針11を通して患者に薬物1を放出する。
【0037】
図4は、患者に薬物を投与した後における図3に示す自己注射器の断面図である。プランジャー15は、内部容器2に対して相対的に移動し、針11を通して薬物1を放出している。第1のシール4および第2のシール21は、針11および針保持ハブ10で破られている。
【0038】
図5は、以下の点を除いて図3および図4に示す自己注射器と実質的に同一である自己注射器の代替的な構成の部分断面図である(図3および図4に図示した要素に機能的に対応する要素には同一の参照番号を用いている)。
・酸素不浸透性の第2のシール21は、酸素不浸透性の外部容器3の開口部を完全に封止している。
・第1の酸素浸透性シール4は、プランジャー15を封止している。
・プランジャー15は、1以上の通路または表面溝部29を含んでおり、酸素がプランジャー15と酸素不浸透性の第2のシール21との間の空間内を自在に移動できるようになっている。
・酸素が、プランジャー15と酸素不浸透性の第2のシール21との間の空間から酸素吸収材14まで、自由に酸素浸透性の内部容器2の外側を通ることができるように、1以上の開口部28が酸素浸透性の内部容器2に形成されている。
【0039】
上述の特徴により、薬物1は、実質的に酸素のない気体が充満した、酸素吸収材14と気体連結状態にある空間に囲まれることになり、上記酸素不浸透性エンクロージャーに侵入する酸素が薬物1を汚染するのではなく酸素吸収材14に吸収される可能性が高まる。
【0040】
図1〜図5に示す上記の構成がさまざまな方法で実施可能であることは、当業者には自明となろう。例えば、シール4は、針保持ハブ10など、針以外の要素で突き刺してもよい。
【0041】
図6a〜図6cは、本発明にかかる図1および図2に示すシリンジに薬物を充填し酸素吸収材を組みつける方法の一例を示す断面図である。ここでも、先に説明した図面で用いられた番号に対応する参照番号を用いている。
【0042】
図6aは、充填または酸素吸収材の追加前における、シリンジの独立した第1の部分の断面図である。この部分は、無菌環境または低微粒子環境などの充填環境において、薬物を充填し、シリンジの第2の部分で封止することができる。
【0043】
本実施形態において、独立した第1の部分は、酸素浸透性で薬物適合な内部容器2と、酸素不浸透性の外部容器3と、第2の酸素浸透性シール5と、酸素浸透性のプランジャー15とを備える。しかしながら、当業者には、代替的に、製造プロセスのこの段階でのサブアセンブリには外部容器3が含まれなくてもよく、また、図3および図4に示す自己注射器のような本発明のその他の実施形態には第2の酸素浸透性のシール15が含まれる必要がないことは自明であろう。矢印27は、内部容器2に薬物を充填するための開口部を示す。
【0044】
図6bは、第1の部分に薬物が充填されて第2の部分で封止された後における、上述のシリンジの第1および第2の部分のアセンブリの断面図である。この状態において、針と薬物とはいずれも生物学的汚染および微粒子汚染から保護されており、アセンブリは、薬物または針がこの種の汚染の危険にさらされることなく、安全に充填環境を離れてより汚染された環境へ入ることができる。
【0045】
薬物1は、第2の部分を追加することにより第1の部分に封入されており、この第2の部分は、第1の酸素浸透性シール4と、酸素不浸透性の針カバー6と、酸素不浸透性のエラストマー性圧縮ワッシャ8と、酸素不浸透性の圧縮ワッシャ固定具9と、針11を含む酸素不浸透性の針保持ハブ10と、圧縮ワッシャ固定具9とあわせて針保持ハブ10を封止する酸素不浸透性封止機構12と、針カバー6とあわせて針保持ハブ10を封止する第2の酸素不浸透性封止機構13とからなるサブアセンブリである。
【0046】
図6cは、図1および図2に示すシリンジについて上述したような酸素不浸透性エンクロージャーが完成するように、酸素吸収材14が追加され、酸素吸収材14を入れた酸素不浸透性の外部容器3の開口部に酸素不浸透性のシール7が取り付けられた後における、部分の断面図である。上述のように第2の酸素浸透性シール5が薬物1を生物学的汚染および微粒子汚染から保護する障壁となるため、上記の酸素吸収材14およびシール7の追加という後の段階は、薬物1が内部容器2に充填されたときの無菌環境、低微粒子環境、またはその他の充填環境において完了させる必要がない。
【0047】
また、図6cのサブアセンブリは、薬物が生物学的汚染および微粒子汚染から保護されているという同じ理由により、充填環境外でシリンジまたは自己注射器の残りの部分に組みつけられてもよい。また、薬物は酸素吸収材および酸素不浸透性エンクロージャーにより酸素から保護されているため、薬物の充填と実質的に同時にシリンジまたは自己注射器に組みつける必要がなく、別に保管して必要な時が近づいたらシリンジまたは自己注射器に組みつけてもよい。
【0048】
図1〜図5に示す構成がさまざまな方法で実施可能であることは、当業者には言うまでもない。例えば、内部容器2および外部容器3は、一体に同時成形されてもよく、別々の要素として製造されてもよい。プランジャーおよび上述の各種シールの位置は異なっていてもよい。プランジャー15だけで薬物1と酸素吸収材14との間の酸素浸透性の障壁を構成するように、シール5は省略してもよい。薬物は、充填後にプランジャーを追加することによって薬物が上記第1の部分に封入されるように、プランジャーが配される前に内部容器2の他端から充填されてもよい。
【0049】
ここでは具体的に説明していないが、上記シールはいずれも、当業者には周知である多数の考えうる各種手段のいずれかによって適切な要素に封止することができることが想定される。こうした手段としては、熱溶接、誘導溶接、レーザー溶接、超音波溶接、スピン溶接、熱板溶接、紫外線硬化接着剤を含む接着剤の使用、および、追加のエラストマー性圧縮要素の有無にかかわらずそれ自体が上述の適切な容器にねじ留め、スナップ留め、または溶接されている独立した保持要素の使用などがある。
【0050】
図7は、本発明に適用可能なシリンジまたは自己注射器に充填するプロセスの概念図であり、無菌充填環境において行われるステップおよび無菌充填環境外において行ってもよいステップを示している。図に示すように、ステップ700において、シリンジの第1の部分が用意されて1回分の薬物が充填される。その後、この充填された第1の部分は、ステップ710において、シリンジの第2の部分によって封止されて生物学的汚染および微粒子汚染から保護される。ステップ700およびステップ710は無菌環境または低微粒子環境70において行われ、この環境は当技術分野で周知のように清浄な層流によって設けられてもよい。
【0051】
ステップ720において、一体化した第1および第2の部分に酸素吸収材を追加する。ステップ730において、酸素吸収材および薬物の周囲に酸素不浸透性エンクロージャーを形成する。最後に、ステップ740において、この酸素不浸透性エンクロージャーはシリンジまたは自己注射器アセンブリの残りの部分に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物投薬用シリンジであって、
薬物を収容する硬質のシリンジ本体と、
酸素吸収材と、
前記薬物および前記酸素吸収材の間に位置し、前記薬物が酸素吸収材に接触することを防ぐとともに酸素が前記薬物から前記酸素吸収材へ通ることができるようにする分離要素と、
前記薬物および前記酸素吸収材の両方を取り囲む酸素不浸透性エンクロージャーとを備え、
前記酸素不浸透性エンクロージャーは、前記硬質のシリンジ本体の一部もしくは全部をなす、または前記硬質のシリンジ本体内に保持される、薬物投薬用シリンジ。
【請求項2】
前記酸素不浸透性エンクロージャーは、完全に前記硬質のシリンジ本体の外表面の内部にある、請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記薬物に接触しこれを包む内部容器をさらに備え、
前記内部容器は前記酸素不浸透性エンクロージャーよりも酸素浸透性が高い、請求項1または2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記内部容器は前記分離要素である、請求項3に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記酸素吸収材は、実質的に前記内部容器の外表面全体と気体連結状態にある、請求項4に記載のシリンジ。
【請求項6】
前記内部容器に取り囲まれたプランジャーをさらに備える、請求項3から5のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項7】
前記酸素吸収材は、前記薬物の前記プランジャーとは反対側に位置している、請求項6に記載のシリンジ。
【請求項8】
前記内部容器は環状オレフィン重合体材料からなる、請求項3から7のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項9】
前記シリンジは自己注射器である、先行する請求項のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項10】
前記薬物を前記シリンジから投薬する針をさらに備え、
前記薬物の投薬の前には、前記針が前記酸素不浸透性エンクロージャーの外部に格納されている、先行する請求項のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項11】
前記薬物を前記シリンジから投薬する針をさらに備え、
前記薬物の投薬の前には、前記針が前記酸素不浸透性エンクロージャーの内部に格納されている、先行する請求項のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項12】
前記酸素吸収材は、前記薬物の前記針とは反対側に位置している、請求項10から11のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項13】
前記酸素不浸透性エンクロージャーは、少なくとも部分的に透明である、先行する請求項のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項14】
前記硬質のシリンジ本体の一部をなす穿孔メカニズムをさらに備え、
前記穿孔メカニズムはユーザ作動要素を含み、前記ユーザ作動要素が作動すると前記酸素不浸透性エンクロージャーに穿孔して前記薬物が前記シリンジから投薬されるよう構成されている、先行する請求項のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項15】
前記穿孔メカニズムは、前記穿孔メカニズムの動作により前記薬物が前記シリンジから投薬されるよう構成されている、請求項14に記載のシリンジ。
【請求項16】
前記薬物を前記シリンジから投薬する針をさらに備え、
前記穿孔メカニズムは、前記穿孔メカニズムの動作により前記針を前記硬質のシリンジ本体から押し出すよう構成されている、請求項14または15に記載のシリンジ。
【請求項17】
前記薬物を前記シリンジから投薬する針をさらに備え、
前記穿孔メカニズムは、前記穿孔メカニズムの動作により前記針を前記薬物と流体連結した状態にするよう構成されている、請求項14、15、または16に記載のシリンジ。
【請求項18】
前記穿孔メカニズムは、前記ユーザ作動要素が作動すると前記内部容器に穿孔するよう構成されている、請求項3に従属する場合における、請求項14から17のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項19】
前記酸素吸収材は、前記穿孔メカニズムの一部がその内部を通過できるような形状をしている、請求項14から18のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項20】
前記酸素不浸透性エンクロージャーは酸素不浸透性のシールを含み、
前記穿孔メカニズムは、前記ユーザ作動要素が作動すると前記シールに穿孔するよう構成される、請求項14から19のいずれか一つに記載のシリンジ。
【請求項21】
前記酸素不浸透性のシールは、アルミニウム、ポリアミド、フッ化炭素、またはエチレンビニルアルコールからなる、請求項20に記載のシリンジ。
【請求項22】
硬質のシリンジ本体と、酸素吸収材と、薬物を包み前記酸素吸収材が前記薬物と接触することを防ぐとともに酸素が前記薬物から前記酸素吸収材へ通ることができるようにする内部容器と、前記内部容器および前記酸素吸収材の両方を取り囲む酸素不浸透性エンクロージャーとを備え、前記酸素不浸透性エンクロージャーは前記硬質のシリンジ本体の一部もしくは全部をなすまたは前記硬質のシリンジ本体内に保持される、シリンジの製造方法であって、
無菌環境または低微粒子環境において、前記内部容器に前記薬物を充填し、前記内部容器を封止するステップと、
前記第1の環境から隔離された異なる環境において、前記酸素吸収材および前記内部容器を前記酸素不浸透性エンクロージャー内に設置するステップと、
前記酸素不浸透性エンクロージャーを封止するステップとを備える、シリンジの製造方法。
【請求項23】
前記酸素吸収材は、前記内部容器が前記充填および封止された後に前記酸素不浸透性エンクロージャー内に設置される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記内部容器を充填し封止するステップの前に、前記内部容器内にプランジャーを設置するステップを備える、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
実質的に添付の図面を参照して本明細書に記載されるシリンジ。
【請求項26】
実質的に添付の図面を参照して本明細書に記載されるシリンジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−532638(P2012−532638A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519044(P2012−519044)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001244
【国際公開番号】WO2011/004137
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(511185690)オーバル メディカル テクノロジーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】